説明

塗装方法

【課題】 生産性よく低コストでありながら、チッピングなどによる見栄え品質の低下を抑制することのできる塗膜を形成することのできる塗装方法を提供すること。
【解決手段】 電着塗装により自動車ボディを構成する部材21の表面に電着塗膜41を形成する電着工程と、部材21の電着塗膜41上に中塗塗料を直接塗布して中塗りする中塗工程と、中塗りされた部材21に上塗塗料を塗布して上塗りする上塗工程とを実行することにより、部材21を塗装する。また、中塗工程では、少なくともフードパネル22を含む、チッピングが生じやすい第1部位に上塗塗料と同系色の第1中塗塗料を塗布する。これに対し、チッピングが生じにくい第2部位には、黒を除く無彩色の第2中塗塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法、詳しくは、自動車ボディを構成する部材の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの塗膜は、通常、外部に晒される上塗塗膜と、この上塗塗膜の下地となる下地塗膜とを備えている。そのため、上塗塗膜と下地塗膜との色合いが異なる場合において、上塗塗膜がチッピングにより剥がれると、上塗塗膜から色合いの異なる下地塗膜が露出し、自動車ボディのチッピングによる見栄え品質が低下するという不具合がある。なお、チッピングとは、自動車ボディの塗膜が、走行時に跳ね上げられた石などの衝突により損傷を受けることである。
【0003】
チッピングに対する方策として、例えば、被塗物(例えば金属製自動車車体などの導電性物質)にカチオン電着塗料(A−1)を塗装し、加熱硬化後、ツーコン硬度3のグレー色塗料からなる軟質中塗塗料(B−1)を塗装し、次いで、ツーコン硬度12の有機溶剤系赤色塗料から硬質中塗塗料(C−1)を塗装した後、この有機溶剤系赤色塗料上に、同色の有機溶剤系赤色塗料からなる上塗塗料(D−1)を塗装する塗装方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載の塗装方法では、軟質中塗塗膜で石などから受ける衝突エネルギーを吸収することができるので、チッピングによる塗膜の剥がれを、硬質中塗塗膜の途中で止めることができる。さらに、硬質中塗塗膜が上塗塗膜と同色であるため、硬質中塗塗膜が上塗塗膜から露出しても、見栄え品質の低下を抑制することができる。
【特許文献1】特開平8−309272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、チッピングは、自動車ボディにおいて、全体的に生じるのではなく、走行時に跳ね上げられる石などの衝突を受けやすい特定部位など、部分的に生じやすい。
一方、特許文献1に記載の塗装方法では、上塗塗膜と同色の硬質中塗塗料が、被塗物全体的に塗装されている。そのため、硬質中塗塗料として使用される有機溶剤系赤色塗料のような高価な有彩色塗料が過度に消費されている。
【0006】
さらに、軟質中塗工程が実行されることにより、被塗物全体に中塗塗料が塗装される中塗工程が実質的に2工程実行されるので、それにともなう塗装設備が必要となる。そのため、塗装コストが増加し、生産性が低いという不具合がある。
本発明の目的は、生産性よく低コストでありながら、チッピングなどによる見栄え品質の低下を抑制することのできる塗膜を形成することのできる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の塗装方法は、自動車ボディを構成する部材の塗装方法であって、電着塗装により前記部材の表面に電着塗膜を形成する電着工程と、前記部材の前記電着塗膜上に中塗塗料を直接塗布して中塗りする中塗工程と、中塗りされた前記部材に上塗塗料を塗布して上塗りする上塗工程とを備え、前記中塗工程は、前記上塗塗料と同系色の第1中塗塗料を、前記部材の少なくともフードを含む第1部分に塗布する第1中塗工程と、黒を除く無彩色の第2中塗塗料を、前記第1部分以外の第2部分に塗布する第2中塗工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
この方法によれば、自動車ボディを構成する部材において、少なくともフードを含む第1部分には、上塗塗料と同系色の第1中塗塗料を塗布する一方、第1部分以外の第2部分には、中塗塗料を塗布するものの、安価な無彩色(黒を除く。)の第2中塗塗料を塗布する。そのため、中塗塗料に要するコストを低減することができる。また、中塗工程において、第1中塗工程および第2中塗工程の2工程が実行されるものの、各工程が部材全体を塗装する工程ではないので、塗装コストの増加を抑制することができ、生産性がよい。
【0009】
さらに、少なくとも、石などの衝突を受けやすいフードを含む第1部分には、上塗塗料と同系色の第1中塗塗料が塗布されているので、チッピングにより第1部分の上塗塗膜が剥がれて中塗塗料が露出しても、露出する中塗塗料は上塗塗料と同系色なので、チッピングなどによる見栄え品質の低下を抑制することができる。また、フードのように、自動車ボディの目立つ部位の中塗塗料と上塗塗料とが同系色であり、当該部位の上塗塗料を良好に発色させることができるので、自動車全体としての外観品質を向上させることができる。
【0010】
これらの結果、生産性よく低コストでありながら、チッピングなどによる見栄え品質の低下を抑制することのできる塗膜を形成することができる。
また、本発明の塗装方法において、前記中塗工程では、前記第2中塗工程を実行した後に、前記第1中塗工程を実行することが好適である。
第1中塗工程を実行した後に第2中塗工程を実行すると、第2中塗塗料が、第1部分に塗布された第1中塗塗料上に付着するおそれがある。そのため、第1部分に付着した無彩色(黒を除く。)の第2中塗塗料上に上塗塗料が塗布され、この第2中塗塗料上の上塗塗膜が剥がれることにより、第1部分において、上塗塗料とは異系色の第2中塗塗料が露出するおそれがある。
【0011】
これに対し、第2中塗工程を実行した後に第1中塗工程を実行する方法では、第1部分に第2中塗塗料が付着しても、その第2中塗塗料を第1中塗塗料で被覆することができる。そのため、第1部分の上塗塗料が剥がれても、異系色の第2中塗塗料が露出することがない。その結果、自動車ボディのチッピングなどによる見栄え品質の低下を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗装方法によれば、生産性よく低コストでありながら、チッピングなどによる見栄え品質の低下を抑制することのできる塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の塗装方法の一実施形態を示す工程図である。図2は、図1に示す塗装工程で塗装される、自動車ボディを構成する部材の概略側面図である。図3は、図2に示すフードパネル上に形成される塗膜の層構成を示す概略断面図である。図4は、図2に示すリアハッチパネル上に形成される塗膜の層構成を示す概略断面図である。
図1に工程図が示される塗装方法は、図2に示す自動車ボディを構成する部材21を塗装するために用いられ、流れ作業により塗装を行なう塗装ライン上で行なわれる。
【0014】
塗装ラインは、塗装対象の部材21を移送するためのコンベア(図示せず)を備えており、コンベアには、部材21が1台ずつ間隔をおいて移送される。また、コンベア上には、その上流側から下流側に向かって、各種工程が実行されるブースとして、電着塗装ブース1、電着焼付炉2、中塗りブース3、中塗り焼付炉6、上塗りブース7および上塗り焼付炉10が順に設けられている。
【0015】
部材21は、図2に示されるように、塗装される部位として複数の部位に区画されており、その前側から後側へかけて、例えば、フードパネル22と、フロントフェンダーパネル23と、フロントピラー24と、フロントドアパネル25と、ロッカーパネル26と、ルーフパネル27と、リアピラー28と、リアサイドドアパネル29と、リアフェンダーパネル30と、リアハッチパネル31とに区画される。なお、図2においては、図解しやすいように、部材21に取り付けられるタイヤ、ヘッドライト、フロントバンパーなどを破線で表わしている。
【0016】
この塗装方法では、まず、例えば、鋼板などをプレスおよび溶接することにより自動車ボディを成形するボディ形成ライン(図示せず)から移送される部材21に対して前処理(例えば、錆除去処理、脱脂処理など)した後、電着塗装ブース1において、電着塗装する(電着工程)。
電着塗装に用いられる塗料(電着塗料)は、特に制限されず、例えば、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤とを含有する水性塗料が用いられる。
【0017】
樹脂成分としては、例えば、親水性基(例えば、カルボキシル基、水酸基、メチロール基、アミノ基、スルホン酸基、ポリオキシエチレン結合など)と、硬化剤と反応する官能基(例えば、水酸基)とを有する水性樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの公知の水性樹脂が挙げられる。これらは単独使用または2種以上併用することができる。
【0018】
このような樹脂成分は、親水性基の種類により、例えば、塩基または酸で中和して、水溶化または水分散化するか、あるいは、ポリオキシエチレン結合を有する成分では、そのまま水溶化または水分散化させる。
硬化剤としては、特に制限されず、例えば、メラミン樹脂、ブロックポリイソシアネートなどが挙げられる。具体的には、メラミン樹脂として、例えば、親水性メラミンが挙げられ、ブロックポリイソシアネートとして、例えば、ポリイソシアネートのイソシアネート基を、例えば、オキシム、フェノール、アルコール、ラクタム、メルカプタンなどのブロック剤でブロックしたものが挙げられる。これらは単独使用または2種以上併用することができる。
【0019】
電着塗料には、必要に応じて、着色顔料、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、反応促進剤(例えば有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤など、公知の添加剤を適宜配合することができる。
そして、上記の各成分を水とともに公知の方法によって配合して、樹脂成分を水溶化または水分散化することにより、電着塗料を調製する。
【0020】
上記のように調製される電着塗料の塗装方法としては、例えば、カチオン電着塗装、アニオン電着塗装など公知の電着塗装法が挙げられ、好ましくは、カチオン電着塗装が挙げられる。
電着工程後は、電着塗装された部材21を、電着焼付炉2において焼き付ける(電着焼付工程)。
【0021】
電着焼付炉2においての焼付けは、例えば、部材21に熱風を吹き付ける方法(熱風焼付)により行なわれる。
次いで、電着塗膜41が形成された部材21を中塗りブース3に移送し、電着塗膜41上に直接中塗りする(中塗工程)。
中塗りブース3は、部材21の移送方向上流側から順に、第2中塗りゾーン4と、第2中塗りゾーン4よりも下流側の第1中塗りゾーン5とに区画され、これら2つのゾーンが1つの中塗りブース3内に配置されている。
【0022】
つまり、中塗工程では、まず、上流側の第2中塗りゾーン4において中塗りする(第2中塗工程)。以下では、第2中塗りゾーン4で行なう中塗りに限定して、第2中塗りと記述することがある。
第2中塗りゾーン4では、部材21を構成する部位のうち、例えば、フロントフェンダーパネル23、フロントピラー24、フロントドアパネル25、ルーフパネル27、リアピラー28、リアサイドドアパネル29、リアフェンダーパネル30およびリアハッチパネル31など、フードパネル22およびロッカーパネル26よりも相対的にチッピングが生じにくい第2部分としての部位(以下、これらの部位を総称して第2部位ということがある。)に中塗りする。なお、チッピングが生じにくい部位とは、部材21が塗装工程以降の工程(組立工程など)を経ることにより自動車として組立てられ、その自動車の走行時に、跳ね上げられる石などの衝突をフードパネル22およびロッカーパネル26よりも相対的に受けにくい部位である。
【0023】
第2中塗工程で用いられる塗料(第2中塗塗料)は、黒を除く無彩色塗料であり、例えば、JIS Z8102:2001において無彩色に属するもののうち、黒を除く塗料が挙げられる。そして、第2中塗塗料としては、後述するベース塗膜45に対して適切なL値(明度)を持つ塗料が選択され、具体的には、ベース塗膜45が鮮やかな赤色の場合には、例えば、70〜85のL値を持つ白系塗料が選択される。また、ベース塗膜45が青色の場合には、例えば、35〜60のL値を持つグレー系塗料が選択される。
【0024】
また、第2中塗塗料は、その成分として、例えば、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤と、顔料とを含有する。
樹脂成分としては、例えば、上記電着塗料に含有される水性樹脂と同様の水性樹脂が挙げられる。
硬化剤としては、特に制限されず、上記電着塗料に含有される硬化剤と同様の硬化剤が挙げられる。
【0025】
顔料としては、第2中塗塗料を、上記した無彩色塗料として調製することができる顔料であれば、特に制限されず、公知の着色顔料が挙げられる。具体的には、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性硫酸鉛、鉛酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独使用または2種以上併用することができる。
【0026】
また、第2中塗塗料には、硬化剤による架橋反応を促進させるために、好ましくは、ブロック剤の解離触媒や酸触媒などの触媒を含有させる。
ブロック剤の解離触媒としては、特に制限されず、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、モノブチル錫トリオクテート、2−エチルヘキン酸鉛、オクチル酸亜鉛などの有機金属化合物が挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0027】
酸触媒としては、例えば、リン酸系、スルホン酸系などの酸触媒が挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
また、第2中塗塗料には、必要に応じて、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、反応促進剤(例えば有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤など、公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0028】
そして、上記の各成分を水とともに公知の方法によって配合して、樹脂成分を水溶化または水分散化することにより、第2中塗塗料を調製する。
上記のように調製される第2中塗塗料の塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられる。これらのうち好ましくは、静電塗装法が挙げられ、具体的には、ベル塗装機を用いた静電塗装法(ベル塗装法)が挙げられる。
【0029】
第2中塗塗料が、部材21の第2部位に塗布されることにより、第2部位の電着塗膜41の表面には、ウェット状態の塗膜(第2中塗塗膜42)が形成される(図4参照。)。
中塗工程では、次いで、ウェット状態の第2中塗塗膜42の焼付けを行なわずに、部材21を下流側の第1中塗りゾーン5に移送し、第2中塗塗膜42から露出する電着塗膜41上に直接中塗りする。
【0030】
つまり、第1中塗りゾーン5では、部材21の第2部位以外の部分、具体的には、フードパネル22およびロッカーパネル20など、第2部位よりも相対的にチッピングの生じやすい部位(以下、これらの部位を総称して第1部位ということがある。)に中塗りする(第1中塗工程)。以下では、第1中塗りゾーン5で行なう中塗りに限定して、第1中塗りと記述することがある。
【0031】
第1中塗工程で用いられる塗料(第1中塗塗料)は、後述するベース塗料と同系色の塗料であり、例えば、ベース塗料と、JIS Z8102:2001に示される系統色名が同一のものが挙げられる。
また、第1中塗塗料は、その成分として、第2中塗塗料と同様に、例えば、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤と、顔料とを含有する。
【0032】
樹脂成分としては、例えば、上記電着塗料に含有される水性樹脂と同様の水性樹脂が挙げられる。
硬化剤としては、特に制限されず、上記電着塗料に含有される硬化剤と同様の硬化剤が挙げられる。
顔料としては、第1中塗塗料を、ベース塗料と同系色の塗料として調製することができる顔料であれば、特に制限されず、公知の着色顔料が挙げられる。具体的には、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性硫酸鉛、鉛酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、紺青、群青、コバルトブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスロンブルー、黄鉛、合成黄色酸化鉄、透明べんがら(黄)、ビスマスバナデート、チタンイエロー、亜鉛黄(ジンクエロー)、クロム酸ストロンチウム、シアナミド鉛、モノアゾイエロー、モノアゾイエロー、ジスアゾ、モノアゾイエロー、イソインドリノンイエロー、金属錯塩アゾイエロー、キノフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、べんがら、透明べんがら(赤)、鉛丹、モノアゾレッド、モノアゾレッド、無置換キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、キナクリドンマゼンダ、アンサンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドンマゼンダ、ペリレンレッド、ジケトピロロピロールクロムバーミリオン、塩基性クロム酸鉛、酸化クロム、塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーン、ピラゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット、ペリレンバイオレットなどが挙げられる。これらは単独使用または2種以上併用することができる。
【0033】
また、第1中塗塗料には、硬化剤による架橋反応を促進させるために、好ましくは、ブロック剤の解離触媒や酸触媒などの触媒を含有させる。
ブロック剤の解離触媒としては、特に制限されず、例えば、上記した解離触媒が挙げられる。
酸触媒としては、例えば、上記した酸触媒が挙げられる。
【0034】
また、第1中塗塗料には、必要に応じて、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、反応促進剤(例えば有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤など、公知の添加剤を適宜配合することができる。
そして、上記の各成分を水とともに公知の方法によって配合して、樹脂成分を水溶化または水分散化することにより、第1中塗塗料を調製する。
【0035】
上記のように調製される第1中塗塗料の塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられる。これらのうち好ましくは、静電塗装法が挙げられ、具体的には、作業者の持つハンドガンによる静電塗装法が挙げられる。ハンドガンによる塗装であれば、すでに形成された第2中塗塗膜42への第1中塗塗料の付着を抑制しながら、互いに離れて配置される、フードパネル22とロッカーパネル26とを効率よく塗装することができる。
【0036】
第1中塗塗料が、部材21の第1部位に塗布されることにより、第1部位の電着塗膜41の表面には、ウェット状態の塗膜(第1中塗塗膜43)が形成される(図3参照。)。
こうして、部材21の電着塗膜41上には、第1部位に第1中塗塗膜43が形成され、第2部位に第2中塗塗膜42が形成されることにより、全体として1層の中塗塗膜が形成される。
【0037】
中塗塗装工程後は、中塗り(第1中塗りおよび第2中塗り)された部材21を、中塗り焼付炉6において焼き付ける(中塗焼付工程)。
中塗り焼付炉6においての焼付けは、例えば、部材21に熱風を吹き付ける方法(熱風焼付)により行なわれる。部材21を熱風焼付する場合の条件は、熱風の吹出温度が、例えば、120〜160℃である。
【0038】
そして、中塗焼付工程が実行されることによって、部材21に形成されたウェット状態の第1中塗塗膜43および第2中塗塗膜42が乾燥および硬化して、乾燥状態の第1中塗塗膜43および第2中塗塗膜42が形成される。
こうして形成された第1中塗塗膜43の膜厚は、例えば、20〜35μm、好ましくは、25〜30μmである。
【0039】
また、第2中塗塗膜42の膜厚は、例えば、第1中塗塗膜43の膜厚と同じで、20〜35μm、好ましくは、25〜30μmである。
中塗焼付工程終了後は、部材21を上塗りブースに移送し、上塗りブース7において上塗りする(上塗工程)。
上塗りブース7は、ベース塗装ゾーン8と、ベース塗装ゾーン8よりも下流側に配置されるクリア塗装ゾーン9とに区画されている。上塗工程では、まず、ベース塗装ゾーン8において、ベース塗装する(ベース塗装工程)。
【0040】
ベース塗装に用いられる塗料(ベース塗料)は、第1中塗塗料と同系色の塗料であり、例えば、第1中塗塗料と、JIS Z8102:2001に示される系統色名が同一のものが挙げられる。
また、ベース塗料は、その成分として、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤と、顔料とを含有する。
【0041】
樹脂成分としては、例えば、上記電着塗料に含有される水性樹脂と同様の水性樹脂が挙げられる。
硬化剤としては、特に制限されず、上記電着塗料に含有される硬化剤と同様の硬化剤が挙げられる。
顔料としては、ベース塗料を、第1中塗塗料と同系色の塗料として調製することができる顔料であれば、特に制限されず、例えば、上記第1中塗塗料と同様の着色顔料が挙げられる。さらに、アルミニウム粉、フレーク状酸化アルミウム、パールマイカ、フレーク状マイカなどのメタリック顔料を併用することができる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。メタリック顔料を用いることにより、メタリック調またはパール調の塗膜を形成することができる。
【0042】
また、ベース塗料には、必要に応じて、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、反応促進剤(例えば有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤など、公知の添加剤を適宜配合することができる。
そして、上記の各成分を水とともに公知の方法によって配合して、樹脂成分を水溶化または水分散化することにより、ベース塗料を調製する。
【0043】
上記のように調製されるベース塗料の塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられる。これらのうち好ましくは、静電塗装法が挙げられ、具体的には、ベル塗装機を用いた静電塗装法(ベル塗装法)が挙げられる。
次いで、クリア塗装ゾーン9において、クリア塗装する(クリア塗装工程)。
【0044】
クリア塗装に用いられる塗料(クリア塗料)は、特に制限されず、例えば、公知のクリア塗料が用いられ、樹脂製分と、架橋剤とを含有する塗料が挙げられる。
樹脂製分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
架橋剤としては、例えば、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。これらは単独使用または2種以上併用することができる。
【0045】
そして、上記の各成分を有機溶剤または水とともに公知の方法によって配合して、樹脂成分を溶解または分散させることにより、クリア塗料を調製する。
また、クリア塗料には、必要に応じて、その透明性を阻害しない範囲において、ベースカラー顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、反応促進剤(例えば有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤など、公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0046】
上記のように調製されるクリア塗料の塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられる。これらのうち好ましくは、静電塗装法が挙げられ、具体的には、ベル塗装機を用いた静電塗装法(ベル塗装法)が挙げられる。
そして、ベース塗料が中塗塗膜(第1中塗塗膜43および第2中塗塗膜42)上に塗布され、さらにベース塗料上にクリア塗料が塗布されることにより、中塗塗膜(第1中塗塗膜43および第2中塗塗膜42)の表面には、ベース塗膜45およびクリア塗膜46が積層されたウェット状態の積層塗膜(上塗塗膜44)が形成される。
【0047】
上塗工程後は、上塗りされた部材21を、上塗り焼付炉10において焼き付ける(上塗焼付工程)。
上塗り焼付炉10においての焼付けは、例えば、部材21に熱風を吹き付ける方法(熱風焼付)により行なわれる。部材21を熱風焼付する場合の条件は、熱風の吹出温度が、例えば、120〜160℃である。
【0048】
そして、上塗焼付工程が実行されることによって、中塗塗膜(第1中塗塗膜43および第2中塗塗膜42)の表面に形成されたウェット状態のベース塗膜45およびクリア塗膜46が乾燥および硬化して、乾燥状態のベース塗膜45およびクリア塗膜46が形成される。
こうして形成されたベース塗膜45の膜厚は、例えば、12〜20μmである。
【0049】
上塗焼付工程終了後は、部材21を最終検査ブース(図示せず)に移送し、最終検査ブースにおいて最終検査する(最終検査工程)。
最終検査工程では、部材21の塗装品質が所定の基準を満たしているか、例えば、上塗塗膜44にブツやタレなどの不具合が生じていないかを検査する。
そして、最終検査工程終了後、部材21を、エンジンやシートなどの部品を組み付ける組立工程に移送して塗装工程が終了する。
【0050】
以上のように、この塗装方法によれば、中塗工程において、フードパネル22およびロッカーパネル26のように、相対的にチッピングの生じやすい第1部位には、クリア塗膜46を介して外部に晒されるベース塗膜45と同系色の第1中塗塗料を塗布する一方、相対的にチッピングの生じにくい、ルーフパネル27、リアハッチパネル31などの第2部位には、中塗塗料を塗布するものの、安価な無彩色(黒を除く。)の第2中塗塗料を塗布する。チッピングの生じにくい第2部位に無彩色の第2中塗塗料を使用することにより、中塗工程に要する全体としての塗料コストを低減することができる。
【0051】
また、中塗工程では、第1中塗工程および第2中塗工程の2工程が実行されるものの、各工程が部材21全体を塗装する工程ではなく、部材21全体を第1部位と第2部位とに塗り分けて、全体として1層の中塗塗膜を形成する。そのため、中塗りに必要な塗料の量が塗膜1層分で済むので、塗装コストの増加を抑制することができ、生産性がよい。
さらに、相対的にチッピングの生じやすいフードパネル22およびロッカーパネル26には、ベース塗膜45と同系色の第1中塗塗料が塗布されている。そのため、チッピングによりフードパネル22および/またはロッカーパネル26のベース塗膜45が剥がれて第1中塗塗膜43が露出しても、ベース塗膜45の剥離した部分を目立たすことなく、チッピングなどによる見栄え品質(以下、単に見栄え品質ということがある。)の低下を抑制することができる。
【0052】
また、このような見栄え品質の低下を、石などから受ける衝突エネルギーを吸収するためのチッピングプライマーを設けることなく、電着塗膜41上に第1中塗塗膜43を直接形成することにより実現できるので、チッピングプライマーを形成する工程を省略することができる。そのため、塗装工程の増加を抑制できるので、塗装コストの増加を抑制することができる。
【0053】
また、フードパネル22のように、自動車ボディにおいて目立つ部位の第1中塗塗膜43とベース塗膜45とが同系色であるため、フードパネル22のベース塗膜45を良好に発色させることができる。そのため、自動車全体としての外観品質を向上させることができる。
これらの結果、この塗装方法によれば、生産性よく低コストでありながら、見栄え品質の低下を抑制することのできる塗膜を形成することができる。
【0054】
また、この塗装方法では、第2中塗工程が実行された後、第1中塗工程が実行される。
第1部位(フードパネル22およびロッカーパネル26)に第1中塗りした後に第2部位に第2中塗りすると、第2中塗りに使用される無彩色の第2中塗塗料が、フードパネル22やロッカーパネル26に塗布された第1中塗塗料上に付着するおそれがある。
そのため、この無彩色の付着塗料上にベース塗膜45が塗布され、そのベース塗膜45がチッピングなどにより剥がれることにより、ベース塗膜45とは異系色の第2中塗塗料が露出し、それによって自動車の見栄え品質が低下するおそれがある。
【0055】
これに対し、この塗装方法では、第2中塗工程を実行した後に第1中塗工程を実行するので、第2中塗工程時に第2中塗塗料が第1部位に付着しても、その後に実行される第1中塗工程において、第2中塗塗料を第1中塗塗料で被覆することができる。
そのため、フードパネル22やロッカーパネル26のベース塗膜45が剥がれても、異系色の第2中塗塗料が露出することがない。その結果、自動車ボディの見栄え品質の低下を一層抑制することができる。
【0056】
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
例えば、前述の実施形態では、ベース塗膜45と同系色の第1中塗塗料が塗布される第1部位として、フードパネル22およびロッカーパネル26を例示したが、フードパネル22が第1中塗塗料で中塗りされるのであれば、ロッカーパネル26は、無彩色の第2中塗塗料で中塗りされてもよい。また、ロッカーパネル26以外の部位、例えば、フロントピラー24やフロントフェンダーパネル23などが第1中塗塗料で中塗りされてもよい。
【0057】
また、前述の実施形態では、中塗工程後、中塗り焼付炉6において第1中塗塗膜43および第2中塗塗膜42を一旦乾燥させたが、例えば、中塗り焼付炉6を省略し、中塗塗料(第1中塗塗料および第2中塗塗料)および上塗塗料(ベース塗料およびクリア塗料)を連続的に塗布するウェット・オン・ウェット塗装を実行してもよい。
また、図1では省略したが、この塗装方法が行なわれる塗装ラインでは、適宜、塗膜の検査などをおこなう各種検査工程などが実行される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の塗装方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】図2は、図1に示す塗装工程で塗装される、自動車ボディを構成する部材の概略側面図である。
【図3】図2に示すフードパネル上に形成される塗膜の層構成を示す概略断面図である。
【図4】図2に示すリアハッチパネル上に形成される塗膜の層構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 電着塗装ブース
3 中塗りブース
4 第2中塗りゾーン
5 第1中塗りゾーン
7 上塗りゾーン
21 部材
22 フードパネル
23 フロントフェンダーパネル
24 フロントピラー
25 フロントドアパネル
26 ロッカーパネル
27 ルーフパネル
28 リアピラー
29 リアサイドドアパネル
30 リアフェンダーパネル
31 リアハッチパネル
41 電着塗膜
42 第2中塗塗膜
43 第1中塗塗膜
45 ベース塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディを構成する部材の塗装方法であって、
電着塗装により前記部材の表面に電着塗膜を形成する電着工程と、
前記部材の前記電着塗膜上に中塗塗料を直接塗布して中塗りする中塗工程と、
中塗りされた前記部材に上塗塗料を塗布して上塗りする上塗工程とを備え、
前記中塗工程は、前記上塗塗料と同系色の第1中塗塗料を、前記部材の少なくともフードを含む第1部分に塗布する第1中塗工程と、黒を除く無彩色の第2中塗塗料を、前記第1部分以外の第2部分に塗布する第2中塗工程とを備えることを特徴とする、塗装方法。
【請求項2】
前記中塗工程では、前記第2中塗工程を実行した後に、前記第1中塗工程を実行することを特徴とする、請求項1に記載の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233522(P2009−233522A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80645(P2008−80645)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】