説明

塗装方法

【課題】ウェット・オン・ウェット塗装によって、意匠性が高くかつ均一な塗膜の形成と、塗膜の一括焼き付けとを実現するための塗装方法を提供すること。
【解決手段】自動車ボディを構成する部材を水性塗料で中塗りする中塗工程1と、予備加熱する第1予備加熱工程4と、水性塗料でベース塗装するベース塗装工程8と、予備加熱する第2予備加熱工程12と、クリア塗装するクリア塗装工程16と、焼き付ける焼付工程19とを備え、ベース塗装工程8として、第1予備加熱された部材を着色水性塗料でカラーベース塗装するカラーベース工程10と、カラーベース塗装された部材をパール調水性塗料でパールベース塗装するパールベース工程11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法、詳しくは、自動車ボディを構成する部材の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディを構成する金属や樹脂からなるパネルなどの部材の塗装方法として、まず、下塗りとして電着塗装し、次いで、中塗りし、さらに、仕上げのための上塗りとして、着色塗料でベース塗装し、その後、クリア塗料でクリア塗装することが、広く知られている。
このような塗装方法において、近年、環境負荷を低減する観点から、中塗りおよび上塗りのための塗料を、従来の有機溶剤系の塗料から、水系の塗料(水性塗料)へ移行することが進められている。また、このような水性塗料による中塗りおよび上塗りでは、まず、中塗水性塗料で中塗りし、次いで、ウェット状態のままで、ベース水性塗料でベース塗装した後、ウェット状態のままでクリア塗装し、その後、焼き付ける、3コート1ベーク方式の塗装方法が、生産効率の向上を図れる観点より、検討されている。
【0003】
さらに、この3コート1ベーク方式では、各塗装工程において、塗料をウェット状態で重ねて塗工(ウェット・オン・ウェット塗装)することから、中塗層とベース層との間での混層や、ベース層とクリア層との間での混層を防止し、さらには、焼付工程での残留水分の突沸を防止すべく、中塗工程とベース塗装工程との間、およびベース塗装工程とクリア塗装工程との間で、それぞれ予備加熱(プレヒート)することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方、近年、自動車ボディの意匠性を高めるべく、例えば、パールマイカ、フレーク状マイカなどを含有したパール調ベース塗料によるパールベース塗装が普及している。
【特許文献1】特開2006−61799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、ウェット・オン・ウェット塗装による3コート1ベーク方式において、ベース塗装工程でパール調ベース水性塗料を塗装したときは、中塗層とベース層との境界がぼやけて、塗膜にパール調の彩色を十分に施すことができなくなる不具合や、ベース層に塗装のムラが生じて塗膜の均一性が低下する不具合が生じる。
本発明の目的は、ウェット・オン・ウェット塗装によって、意匠性が高くかつ均一な、パールベース層を含む塗膜の形成と、塗膜の一括焼き付けとを実現するための塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、自動車ボディを構成する部材の塗装方法であって、前記部材を水性塗料で中塗りする中塗工程と、中塗りされた前記部材を予備加熱する第1予備加熱工程と、第1予備加熱された前記部材を水性塗料でベース塗装するベース塗装工程と、ベース塗装された前記部材を予備加熱する第2予備加熱工程と、第2予備加熱された前記部材をクリア塗装するクリア塗装工程と、クリア塗装された前記部材を焼き付ける焼付工程とを備え、前記ベース塗装工程が、第1予備加熱された前記部材を着色水性塗料でカラーベース塗装するカラーベース工程と、カラーベース塗装された前記部材をパール調水性塗料でパールベース塗装するパールベース工程とを備えていることを特徴としている。
【0007】
この塗装方法によれば、中塗工程とカラーベース工程とによって、自動車ボディの下地を完全に隠蔽することができ、さらに、中塗工程後、中塗層を予備加熱するための第1予備加熱工程と、カラーベース工程とを経て、パールベース塗装されることから、中塗層と、ベース層(特に、カラーベース層)との境界がぼやけて、パール調の彩色が不鮮明になることを防止できる。しかも、ベース塗装工程において、ベース層が、カラーベース層とパールベース層との2層に分けて塗装されることから、意匠性が高くかつ均一なパールベース層を形成することができる。
【0008】
さらに、上記の塗装方法によれば、中塗層とパールベース層との間に、カラーベース層が形成されることで、下地の隠蔽性が高くなるため、中塗層の厚みを減少させることができる。
また、上記塗装方法は、中塗工程と、カラーベース工程と、パールベース工程と、クリア塗装工程とでウェット・オン・ウェット塗装し、その後、焼き付ける、4コート1ベーク塗装方式であって、中塗工程とカラーベース工程との間、およびパールベース工程とクリア塗装工程との間に、それぞれ予備加熱工程を備えている。その一方で、上記塗装方法は、カラーベース工程とパールベース工程との間に予備加熱工程を備えていない。
【0009】
このため、上記塗装方法によれば、中塗工程とベース塗装工程との間、およびベース塗装工程とクリア塗装工程との間にそれぞれ予備加熱工程を備える3コート1ベーク方式の塗装ラインを使用することができる。そして、3コート1ベーク方式の塗装ラインを使用しつつ、パールベース層を含む塗膜について、優れた塗装品質を確保することができる。
上記塗装方法は、前記中塗工程において、略鉛直方向に伸びる垂直面を中塗りした後、略水平方向に伸びる水平面を中塗りすることが好適である。
【0010】
中塗水性塗料による中塗り工程で、略水平方向に伸びる水平面(以下、単に「水平面」という。)を中塗りした後、略鉛直方向に伸びる垂直面(以下、単に「垂直面」という。)を中塗りした場合には、水平面に対して塗装された中塗塗料がダスト(塗料の液滴)となって飛散して、垂直面に付着し、その付着したダストの上から、垂直面に対して中塗水性塗料が塗装される。中塗り水性塗料は、粘性が高いことから、ダストとなってパネル上に付着した塗料と、新たにパネル上に塗装された塗料とがなじみにくくなり、そのため、垂直面上でダストに起因する凹凸が生じやすく、垂直面の意匠性を低下させるおそれがある。
【0011】
一方、垂直面を中塗りした後、水平面を中塗りした場合には、垂直面上でダストに起因する凹凸の発生を抑制でき、垂直面における意匠性を向上させることができる。
自動車ボディの垂直面は、一般に、目に付きやすいため、見映えの観点より、塗装の品質が特に重視される。それゆえ、上記塗装方法は、自動車ボディの塗装の意匠性を優れたものにするという点で好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗装方法によれば、ウェット・オン・ウェット塗装によって、意匠性が高くかつ均一な、パールベース層を含む塗膜の形成と、塗膜の一括焼き付けとを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の塗装方法による塗装工程の一実施形態を示す工程図である。また、図2は、図1に示す塗装方法により塗装された塗膜の一実施形態を示す断面図である。
この塗装方法は、自動車ボディを構成する部材を塗装するために用いられる。
この塗装方法では、まず、電着塗装により下塗りされた部材を、中塗ブース1において中塗りする(中塗工程)。
【0014】
中塗ブース1は、部材の内側面(例えば、ドアパネルインナ)を塗装するための内側中塗塗装ブース2と、その内側中塗塗装ブース2の下流側(部材の搬送方向の下流側、以下同様。)に配置され、部材の外側面(例えば、ドアパネルアウタ)を塗装するための外側中塗塗装ブース3と、を備えている。また、外側中塗塗装ブース3は、垂直面を塗装するための垂直面塗装ブース3aと、垂直面塗装ブース3aの下流側に配置され、水平面を塗装するための水平面塗装ブース3bと、を備えている。
【0015】
中塗りに用いられる水性塗料は、特に制限されないが、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤と、顔料とを含有する中塗水性塗料が用いられる。
樹脂成分としては、親水性基(例えば、カルボキシル基、水酸基、メチロール基、アミノ基、スルホン酸基、ポリオキシエチレン結合など)と、硬化剤と反応する官能基(例えば、水酸基)を有する水性樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの公知の水性樹脂が挙げられる。なかでも、好ましくは、カルボキシル基を有するアクリル樹脂またはポリエステル樹脂が用いられる。
【0016】
このような樹脂成分は、親水性基の種類により、例えば、塩基または酸で中和して、水溶化または水分散化するか、あるいは、ポリオキシエチレン結合を有するものでは、そのまま水溶化または水分散化させる。
硬化剤としては、特に制限されず、例えば、メラミン樹脂、ブロックポリイソシアネートなどが挙げられる。メラミン樹脂としては、より具体的には、親水性メラミンが挙げられ、また、ブロックポリイソシアネートとしては、より具体的には、ポリイソシアネートのイソシアネート基を、例えば、オキシム、フェノール、アルコール、ラクタム、メルカプタンなどのブロック剤でブロックしたものが挙げられる。
【0017】
硬化剤の配合割合は、通常、樹脂成分100重量部に対して、60重量部以下、好ましくは、20〜50重量部である。
顔料としては、特に制限されず、通常の着色顔料が挙げられる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性硫酸鉛、鉛酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、紺青、群青、コバルトブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスロンブルー、黄鉛、合成黄色酸化鉄、透明べんがら(黄)、ビスマスバナデート、チタンイエロー、亜鉛黄(ジンクエロー)、クロム酸ストロンチウム、シアナミド鉛、モノアゾイエロー、モノアゾイエロー、ジスアゾ、モノアゾイエロー、イソインドリノンイエロー、金属錯塩アゾイエロー、キノフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、べんがら、透明べんがら(赤)、鉛丹、モノアゾレッド、モノアゾレッド、無置換キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、キナクリドンマゼンダ、アンサンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドンマゼンダ、ペリレンレッド、ジケトピロロピロールクロムバーミリオン、塩基性クロム酸鉛、酸化クロム、塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーン、ピラゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット、ペリレンバイオレットなどが挙げられる。
【0018】
顔料の配合割合は、通常、樹脂成分100重量部に対して、120重量部以下、好ましくは、20〜100重量部である。
また、中塗水性塗料には、架橋反応を促進させるために、好ましくは、ブロック剤の解離触媒や酸触媒を含有させる。ブロック剤の解離触媒としては、特に制限されず、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、モノブチル錫トリオクテート、2−エチルヘキン酸鉛、オクチル酸亜鉛などの有機金属化合物が挙げられる。酸触媒としては、例えば、リン酸系、スルホン酸系の酸触媒が挙げられる。
【0019】
触媒の配合割合は、通常、樹脂成分100重量部に対して、0.005〜5重量部、好ましくは、0.01〜3重量部である。
また、中塗水性塗料には、必要に応じて、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、反応促進剤(例えば有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤など、公知の添加剤を適宜配合することもできる。
【0020】
そして、中塗水性塗料は、上記の各成分を水とともに公知の方法によって配合して、樹脂成分を水溶化または水分散化することにより、例えば、その固形分濃度が20〜60重量%、好ましくは、35〜60重量%となるように調製される。
また、中塗水性塗料の塗装膜厚は、焼付け後の中塗層21(図2参照)の膜厚として、例えば、10〜100μm、好ましくは、13〜35μm、さらに好ましくは、20〜30μmである。
【0021】
なお、この塗装方法では、ベース層が、カラーベース層22とパールベース層23との2層に分けて塗装される(図2参照)。また、このことにより、焼付け後の中塗層21の膜厚は、従来の3コート1ベーク方式における中塗層21の膜厚に比べて、低減される。
そして、この塗装方法では、中塗ブース1において、まず、内側中塗塗装ブース2で、部材の内側面(例えば、ドアパネルインナ)を塗装した後(内側塗装工程)、次いで、外側中塗塗装ブース3で、部材の外側面(例えば、ドアパネルアウタ)を塗装する(外側塗装工程)。また、外側中塗塗装ブース3では、まず、部材の垂直面を塗装するための塗装機を備える垂直面塗装ブース3aで垂直面を塗装し、次いで、部材の水平面を塗装するための塗装機を備える水平面塗装ブース3bで水平面を塗装する。
【0022】
このように、垂直面を中塗りした後、水平面を中塗りすれば、塗装時に生じたダスト(塗料の液滴)の垂直面への付着により、垂直面上で凹凸が生じて意匠性が低下する、という不具合の発生を抑制できる。
具体的に、部材が、例えば、ボンネットタイプの自動車ボディであるときは、まず、フロントフェンダ、サイドパネル(サイドドアなど)、リアフェンダ、リアエンドパネルなどの垂直面を中塗りし、次いで、ボンネットフード、ルーフパネル、トランクフードなどの水平面を中塗りする。また、部材が、例えば、キャブタイプの自動車ボディである場合には、まず、フロントパネル、サイドパネル(サイドドアなど)、バックドアパネルなどの垂直面を中塗りし、次いで、ルーフパネルなどの水平面を中塗りする。
【0023】
上述の塗装方法において、外側中塗塗装ブース3は、部材の垂直面を塗装するための塗装機と、部材の水平面を塗装するための塗装機との2種類の塗装機を用いている。
これに対し、塗料の吐出方向を略鉛直方向と略水平方向とに切換え可能な塗装機(例えば、ロボットアームの先端に塗料の吐出口を備えるものなど)を用いて部材の外側面を塗装する場合には、外側中塗塗装ブース3全体で、部材の垂直面と水平面とを中塗り塗装する。すなわち、外側中塗塗装ブース3内で部材を搬送する流れに合わせて、部材の垂直面、および水平面の順序で、塗装機の塗料吐出方向を切り換えつつ、順次中塗りする。
【0024】
具体的に、例えば、部材がボンネットタイプの自動車ボディであって、この部材を、フロントフェンダ側を先頭にして、外側中塗塗装ブース3の上流側から下流側へと搬送する場合には、フロントフェンダ(垂直面)、ボンネットフード(水平面)、サイドパネル(垂直面)、ルーフパネル(水平面)、リアフェンダ、リアエンドパネル(以上、垂直面)、およびトランクフード(水平面)の順序で中塗りする。
【0025】
上述の塗装方法では、このようにして部材の垂直面を中塗りした後、部材の水平面を中塗りすることもできる。
内側中塗塗装ブース2での中塗水性塗料の塗装方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられ、なかでも好ましくは、ガン塗装機を用いた静電塗装法(ガン塗装)が挙げられる。
【0026】
ガン塗装で部材の内側面を中塗りする場合に、その塗装条件は、例えば、エア圧力3〜6kg/cm、ガン距離20〜40cm、吐出量150〜350mL/minである。
外側中塗塗装ブース3aでの中塗水性塗料の塗装方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられ、なかでも好ましくは、ベル塗装機を用いた静電塗装法(ベル塗装)があげられる。
【0027】
ベル塗装で部材の外側面を中塗りする場合に、その塗装条件は、例えば、ベル回転速度20000〜40000min−1、シェービングエア圧力0.5〜1.5kg/cm、ガン距離20〜30cm、吐出量150〜350mL/minである。
なお、この塗装方法では、内側中塗塗装ブース2での部材の内側面の塗装終了後から、外側中塗塗装ブース3での部材の外側面の塗装開始までの間が、10分以内、好ましくは、5分以内、より好ましくは、3分以内となるように、工程管理する。
【0028】
このように工程管理すれば、内側面の塗装終了後から外側面の塗装開始までの間が短いので、外側面に付着したダスト中の水分が、下塗りされた塗膜に吸収されたり、あるいは、大気中に蒸発することが少ない間に、外側面に中塗水性塗料が塗装される。つまり、外側面に付着したダストの粘度(ダストの固形分濃度)が上昇しないうちに、外側面に中塗水性塗料が塗装される。そうすると、外側面に付着したダストが、外側面に対して塗装される中塗水性塗料と相溶し、吸収されるので、外側面に塗装される中塗水性塗料になじますことができる。
【0029】
その結果、中塗工程において、内側面の塗装終了後から外側面の塗装開始までの時間を工程管理するのみの簡易な方法により、効率的に部材の内側面および外側面を塗装することができながら、しかも、外側面に凹凸が生じることを効果的に防止でき、外側面の外観不良を低減することができる。
また、この塗装方法では、中塗ブース1(内側中塗塗装ブース2および外側中塗塗装ブース3を含む。)内の水蒸発可能量(飽和水蒸気量に対する絶対湿度の差)は、2〜11g/kg、好ましくは、3〜6g/kgに管理する。中塗ブース1内の水蒸発可能量が、2g/kgより低いと、塗装時にタレを生じる場合があり、11g/kgより高いと、仕上がりでの外観が低下する場合がある。
【0030】
中塗ブース1(内側中塗塗装ブース2および外側中塗塗装ブース3を含む。)内の温度は、例えば、20〜30℃に管理する。
そして、この塗装方法では、中塗りされた部材を、第1熱風乾燥炉4で予備加熱する(第1予備加熱工程)。
第1熱風乾燥炉4は、第1ホットエアゾーン5と、第1ホットエアゾーン5の下流側に配置される第2ホットエアゾーン6と、第2ホットエアゾーン6の下流側に配置される第1クーリングゾーン7とを備えている。
【0031】
第1熱風乾燥炉4において、中塗りされた部材は、まず、第1ホットエアゾーン5で、予備加熱される(上流側予備加熱工程)。第1ホットエアゾーン5において、部材は、熱風により予備加熱される。予備加熱の条件は、例えば、熱風の吹き出し温度が、45〜100℃、好ましくは、65℃〜90℃であり、熱風の吹き出し速度が、0.3〜10.0m/sであり、熱風の被塗面(部材の表面)での風速が、1〜3m/sであり、熱風の吹き出し口から被塗面までの距離が、20〜50cmであり、予備加熱時間が、0.5〜1.5分である。また、第1ホットエアゾーン5における熱風の吹き出し温度は、次に述べる第2ホットエアゾーン6における熱風の吹き出し温度よりも、低く設定する。
【0032】
熱風の吹き出し温度が、45℃より低いと、中塗水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、100℃より高いと、中塗水性塗料の固形分濃度が急激に上昇して、塗膜の流動性が低下する場合がある。また、熱風の吹き出し速度が、0.3m/sより低いと、中塗水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、10.0m/sより高いと、表面のみが乾燥することにより、塗膜の流動性が低下したり、ワキを生ずる場合がある。
【0033】
第1ホットエアゾーン5内の温湿度は、例えば、温度20〜30℃、水蒸発可能量10〜25g/kgに管理する。
そして、第1ホットエアゾーン5で予備加熱された部材は、次いで、第2ホットエアゾーン6で、予備加熱される(下流側予備加熱工程)。第2ホットエアゾーン6において、部材は、熱風により予備加熱される。予備加熱の条件は、例えば、熱風の吹き出し温度が、45〜100℃、好ましくは、70〜100℃であり、熱風の吹き出し速度が、0.3〜10.0m/sであり、熱風の被塗面(部材の表面)での風速が、1〜3m/sであり、熱風の吹き出し口から被塗面までの距離が、20〜50cmであり、予備加熱時間が、0.5〜1.5分である。また、第2ホットエアゾーン6における熱風の吹き出し温度は、第1ホットエアゾーン5における熱風の吹き出し温度よりも、高く設定する。
【0034】
熱風の吹き出し温度が、45℃より低いと、中塗水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、100℃より高いと、熱風の吹き出しのためのエネルギー消費が増大する。また、熱風の吹き出し速度が、0.3m/sより低いと、中塗水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、10.0m/sより高いと、表面のみが乾燥することにより、塗膜の流動性が低下する場合や、ワキを生ずる場合がある。
【0035】
第2ホットエアゾーン6内の温湿度は、例えば、温度20〜30℃、水蒸発可能量10〜25g/kgに管理する。
そして、第2ホットエアゾーン6で予備加熱された部材は、次いで、第1クーリングゾーン7で、冷却される(冷却工程)。第1クーリングゾーン7において、部材は、冷風により冷却される。冷却の条件は、例えば、冷風の吹き出し温度が、15〜23℃であり、冷風の吹き出し速度が、10m/s以下であり、冷風の吹き出し口から被塗面までの距離が、20〜50cmであり、冷却時間が、0.5〜1.3分である。また、このような冷却では、部材の温度を、好ましくは、45℃以下、さらに好ましくは、40℃以下に冷却する。
【0036】
そして、このような第1熱風乾燥炉4での予備加熱により、部材の内側面および外側面に塗装された中塗水性塗料は、ウェット状態の塗膜、すなわち、中塗層21を形成する。
また、このようにして中塗層21を形成する中塗水性塗料の塗膜の水に対する溶出率(水溶出率)は、55重量%以下となるように調製する。中塗水性塗料の塗膜の水溶出率が55重量%以下であれば、中塗層21と、カラーベース層22およびパールベース層23との間の混層を防止することができる。なお、水溶出率が55重量%以下となるように調製するには、例えば、中塗水性塗料中にウレタンエマルションなどを添加することが好適である。また、第1ホットエアゾーン5にて、部材の表面の風速が0.5〜2.0m/sとなるように、75℃の熱風にて1.3分加温後、第2ホットエアゾーン6にて、80℃の熱風にて1.3分加温することも好適である。
【0037】
中塗水性塗料の塗膜の水溶出率は、特開2006−61799号公報に記載の計算方法により求めることができる。
そして、このような第1熱風乾燥炉4での予備加熱では、まず、第1ホットエアゾーン5において、部材がより低い温度で予備加熱された後に、第2ホットエアゾーン6において、部材がより高い温度で予備加熱される。そのため、第1ホットエアゾーン5において、塗装された中塗水性塗料の流動性が確保され、均一な厚みの塗膜が形成された後に、第2ホットエアゾーン6において、次に形成されるカラーベース層22との混層やワキの発生を防止することができる塗膜を形成することができる。その結果、中塗水性塗料を効率よく予備加熱することができ、しかも、予備加熱された塗膜に、良好な性状を付与することができる。
【0038】
次いで、この塗装方法では、ベース塗装ブース8において、ベース塗装する(ベース塗装工程)。
ベース塗装ブース8は、部材の内側面(例えば、ドアパネルインナ)を塗装するための内側ベース塗装ブース9と、その内側ベース塗装ブース9の下流側に配置され、部材の外側面(例えば、ドアパネルアウタ)をカラーベース塗装するための外側カラーベース塗装ブース10と、部材の外側面をパールベース塗装するための外側パールベース塗装ブース11と、を備えている。
【0039】
カラーベース塗装に用いられる水性塗料は、特に制限されず、中塗水性塗料と同様の成分を含むものが挙げられる。具体的には、例えば、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤と、顔料と、を含有する水性塗料が用いられる。このような水性塗料(以下、「カラーベース水性塗料」という。)は、例えば、カルボキシル基や水酸基などを有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂成分と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂、尿素樹脂などの架橋剤と、顔料と、その他の添加剤とを、水に溶解または分散させることにより、調製することができる。
【0040】
顔料としては、特に制限されず、中塗水性塗料用の顔料として例示のものと同じものが挙げられる。
カラーベース水性塗料は、その固形分濃度が、例えば、20〜50重量%、好ましくは、25〜45重量%となるように調製される。
また、カラーベース水性塗料は、中塗層21に対する接触角が、40°以上、好ましくは、55°以上となるように調製する。カラーベース水性塗料の中塗層21に対する接触角が40°以上であれば、中塗層21とカラーベース層22との間の混層を防止することができる。なお、接触角が40°以上となるように調製するには、例えば、表面調整剤などを添加することが好適である。また、第1ホットエアゾーン5にて、部材の表面の風速が0.5〜2.0m/sとなるように、70〜90℃の熱風にて1.3分加温後、第2ホットエアゾーン6にて、75〜95℃の熱風にて1.3分加温することも好適である。
【0041】
なお、接触角は、中塗層21の表面にカラーベース水性塗料を滴下し、その液滴の傾斜角度を市販の接触角測定計で測定することにより、求めることができる。
また、カラーベース水性塗料の塗装膜厚は、焼付け後のカラーベース層22の膜厚として、例えば、5〜10μm、好ましくは、6〜9μmである。
なお、この塗装方法では、前述したように、ベース層が、カラーベース層22とパールベース層23との2層に分けて塗装される。焼付け後のベース層の膜厚は、カラーベース層22とパールベース層23との2層の厚みの合計である。
【0042】
パールベース塗装に用いられる水性塗料は、顔料としてパール調顔料を含有すること以外は特に制限されず、中塗水性塗料と同様の成分を含み、水溶性または水分散性の樹脂成分と、硬化剤と、パール調顔料を含む顔料と、を含有する水性塗料が用いられる。このような水性塗料(以下、「パールベース水性塗料」という。)は、例えば、カルボキシル基や水酸基などを有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂成分と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂、尿素樹脂などの架橋剤と、顔料と、その他の添加剤とを、水に溶解または分散させることにより、調製することができる。
【0043】
顔料としては、少なくとも、パールマイカ、フレーク状マイカなどのパール調顔料を含み、さらに、必要に応じて、通常の着色顔料を含む。このように、パール調顔料を含むことで、パール調の塗膜を形成することができる。また、パールベース水性塗料における顔料の配合量は、パールベース塗装により形成される塗膜が透明性を有し、その塗膜を介してカラーベース層22の色彩を目視で認識できる程度の配合量とされる。
【0044】
パールベース水性塗料は、その固形分濃度が、例えば、20〜50重量%、好ましくは、25〜45重量%となるように調製される。
パールベース水性塗料の塗装膜厚は、焼付け後のパールベース層23の膜厚として、例えば、5〜12μm、好ましくは、7〜10μmである。
そして、この塗装方法では、ベース塗装ブース8において、まず、内側ベース塗装ブース9で、部材の内側面(例えば、ドアパネルインナ)を塗装する(内側塗装工程)。次いで、外側カラーベース塗装ブース10で、部材の外側面(例えば、ドアパネルアウタ)をカラーベース塗装し、引き続いて、外側パールベース塗装ブース11で、同じく上記した方法により、部材の外側面をパールベース塗装する(外側塗装工程)。
【0045】
このように、ベース塗装工程8において、ベース層を、カラーベース層22とパールベース層23との2層に分けて塗装することで、中塗層21と、ベース層(とりわけ、カラーベース層22)との境界がぼやけることを防止でき、塗膜にパール調の彩色を十分に施すことができる。また、パールベース塗装をするための下地の隠蔽が、中塗層21と、カラーベース層22とによって達成されるため、中塗層21の膜厚を低減させることができる。
【0046】
さらに、カラーベース層22とパールベース層23との2層に分けて塗装することで、ベース層、ひいては塗膜全体を均一に形成することができる。
また、この塗装方法では、上記のように、まず、内側ベース塗装ブース9で部材の内側面を塗装し、次いで、外側カラーベース塗装ブース10で部材の外側面を塗装することから、内側面の塗装時に、内側面に対して塗装されるベース水性塗料が、ダスト(塗料の液滴)となって外側面に飛散して、外側面に付着し、その付着したダストの上から、外側面に対してカラーベース水性塗料が塗装される。
【0047】
そのため、この塗装方法では、内側ベース塗装ブース9での部材の内側面の塗装終了後から、外側カラーベース塗装ブース10での部材の外側面の塗装開始までの間が、20分以内、好ましくは、15分以内、より好ましくは、10分以内となるように、工程管理する。
このように工程管理すれば、内側面のベース塗装の終了後から外側面のカラーベース塗装の開始までの間が短いので、外側面に付着したダスト中の水分が、ウェット状態の中塗層21に吸収されることや、大気中に蒸発することが少ない間に、外側面にカラーベース水性塗料が塗装される。つまり、外側面に付着したダストの粘度(ダストの固形分濃度)が上昇しないうちに、外側面にカラーベース水性塗料が塗装される。そうすると、外側面に付着したダストが、外側面に対して塗装されるカラーベース水性塗料と相溶し、吸収されるので、外側面に塗装されるカラーベース水性塗料になじますことができる。
【0048】
その結果、カラーベース塗装工程において、内側面のベース塗装の終了後から外側面のカラーベース塗装の開始までの時間を工程管理するのみの簡易な方法により、効率的に部材の内側面および外側面を塗装することができながら、しかも、外側面に凹凸が生じることを効果的に防止でき、外側面の外観不良を低減することができる。
上述の塗装方法において、外側カラーベース塗装ブース10と、外側パールベース塗装ブース11とは、いずれも、塗料の吐出方向を略鉛直方向と略水平方向とに切換え可能な塗装機を備えている。
【0049】
そこで、外側カラーベース塗装ブース10と、外側パールベース塗装ブース11とにおいては、それぞれ、各ブース10,11内で部材を搬送する流れに合わせて、部材の水平面、および垂直面の順序で、塗装機の塗料吐出方向を切り換えつつ、順次、カラーベース塗装と、パールベース塗装とをする。
具体的に、例えば、部材がボンネットタイプの自動車ボディであって、この部材を、フロントフェンダ側を先頭にして、外側カラーベース塗装ブース10の上流側から外側パールベース塗装ブース11の下流側へと搬送する場合には、外側カラーベース塗装ブース10と、外側パールベース塗装ブース11とのそれぞれにおいて、ボンネットフード(水平面)、フロントフェンダ(垂直面)、ルーフパネル(水平面)、サイドパネル(垂直面)、トランクフード(水平面)、リアフェンダ、およびリアエンドパネル(以上、垂直面)の順序でベース塗装(カラーベース塗装およびパールベース塗装)をする。
【0050】
上述の塗装方法では、このようにして部材の水平面のベース塗装をした後、部材の垂直面のベース塗装をすることができる。
一方、外側カラーベース塗装ブース10と、外側パールベース塗装ブース11とが、それぞれ、部材の水平面を塗装するための塗装機と、部材の垂直面を塗装するための塗装機との2種類の塗装機を備えている場合には、まず、外側カラーベース塗装ブース10で水平面のカラーベース塗装をし、次いで、垂直面のカラーベース塗装をする。引き続き、外側パールベース塗装ブース11で水平面のパールベース塗装をした後、垂直面のパールベース塗装をする。
【0051】
上述した順序でカラーベース塗装とパールベース塗装とをすることにより、部材の水平面の塗装時に生じたダストは、垂直面に付着し、その後、その付着したダストの上から、垂直面に対してベース塗装がなされる。
なお、カラーベース水性塗料やパールベース水性塗料は、上記した中塗水性塗料と異なり、粘性が低いため、ダストとなってパネル上に付着した塗料と、新たにパネル上に塗装された塗料とを十分になじませることができる。
【0052】
また、上述の塗装方法では、外側カラーベース塗装ブース10および外側パールベース塗装ブース11で、それぞれ水平面のベース塗装終了後から、垂直面へのベース塗装開始までの間が、10分以内、好ましくは、5分以内、より好ましくは、3分以内となるように、工程管理する。
このように工程管理すれば、外側カラーベース塗装ブース10および外側パールベース塗装ブース11のいずれにおいても、水平面へのベース塗装の終了後から垂直面へのベース塗装の開始までの間が短いので、垂直面に付着したダスト中の水分が、ウェット状態の中塗層21またはカラーベース層22に吸収されることや、大気中に蒸発することが少ない間に、垂直面に対し、カラーベース水性塗料やパールベース水性塗料が塗装される。そうすると、垂直面に付着したダストが、垂直面に対して塗装されるカラーベース水性塗料やパールベース水性塗料と相溶し、吸収されるので、垂直面に塗装されるカラーベース水性塗料やパールベース水性塗料になじますことができる。
【0053】
その結果、垂直面への塗装時において、水平面へのベース塗装の終了後から垂直面へのベース塗装の開始までの時間を工程管理するのみの簡易な方法により、効率的に部材をベース塗装することができながら、しかも、垂直面に凹凸が生じることを効果的に防止でき、垂直面の外観不良を低減することができる。
内側ベース塗装ブース9でのカラーベース水性塗料の塗装方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられ、なかでも好ましくは、ガン塗装機を用いた静電塗装法(ガン塗装)が挙げられる。
【0054】
ガン塗装で部材の内側面のカラーベース塗装をする場合に、その塗装条件は、例えば、エア圧力3〜6kg/cm、ガン距離20〜40cm、吐出量150〜350mL/minである。
外側カラーベース塗装ブース10でのカラーベース水性塗料の塗装方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられ、なかでも好ましくは、ベル塗装機を用いた静電塗装法(ベル塗装)があげられる。
【0055】
ベル塗装で部材の外側面のカラーベース塗装をする場合に、その塗装条件は、例えば、ベル回転速度25000〜40000min−1、シェービングエア圧力1.0〜3.0kg/cm、ガン距離20〜30cm、吐出量150〜350mL/minである。
外側パールベース塗装ブース11でのパールベース水性塗料の塗装方法としては、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが挙げられ、なかでも好ましくは、ベル塗装機を用いた静電塗装法(ベル塗装)があげられる。
【0056】
ベル塗装で部材の外側面のパールベース塗装をする場合に、その塗装条件は、外側面のカラーベース塗装と同じである。
また、ベース塗装ブース8(内側ベース塗装ブース9、外側カラーベース塗装ブース10および外側パールベース塗装ブース11を含む。)内の水蒸発可能量(飽和水蒸気量に対する絶対湿度の差)は、2〜11g/kg、好ましくは、3〜6g/kgに管理する。ベース塗装ブース8内の水蒸気蒸発可能量が、2g/kgより低いと、塗装時にタレを生じる場合があり、11g/kgより高いと、仕上がりでの外観が低下する場合がある。
【0057】
ベース塗装ブース8(内側ベース塗装ブース9、外側カラーベース塗装ブース10、および外側パールベース塗装ブース11を含む。)内の温度は、例えば、20〜30℃に管理する。
そして、この塗装方法では、ベース塗装された部材を、第2熱風乾燥炉12で予備加熱する(第2予備加熱工程)。
【0058】
第2熱風乾燥炉12は、第3ホットエアゾーン13と、第3ホットエアゾーン13の下流側に配置される第4ホットエアゾーン14と、第4ホットエアゾーン14の下流側に配置される第2クーリングゾーン15とを備えている。
第2熱風乾燥炉12において、ベース塗装された部材は、まず、第3ホットエアゾーン13で、予備加熱される(上流側予備加熱工程)。第3ホットエアゾーン13において、部材は、熱風により予備加熱される。予備加熱の条件は、例えば、熱風の吹き出し温度が、45〜100℃、好ましくは、65〜90℃であり、熱風の吹き出し速度が、0.3〜10.0m/sであり、熱風の被塗面(部材の表面)での風速が、1〜3m/sであり、熱風の吹き出し口から被塗面までの距離が、20〜50cmであり、予備加熱時間が、0.5〜1.5分である。また、第3ホットエアゾーン13における熱風の吹き出し温度は、次に述べる第4ホットエアゾーン14における熱風の吹き出し温度よりも、低く設定する。
【0059】
熱風の吹き出し温度が、45℃より低いと、ベース水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、100℃より高いと、ベース水性塗料の固形分濃度が急激に上昇して、塗膜の流動性が低下する場合がある。また、熱風の吹き出し速度が、0.3m/sより低いと、ベース水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、10.0m/sより高いと、表面のみが乾燥することにより、塗膜の流動性が低下したり、ワキを生ずる場合がある。
【0060】
第3ホットエアゾーン13内の温湿度は、例えば、温度20〜30℃、水蒸発可能量10〜25g/kgに管理する。
そして、第3ホットエアゾーン13で予備加熱された部材は、次いで、第4ホットエアゾーン14で、予備加熱される(下流側予備加熱工程)。第4ホットエアゾーン14において、部材は、熱風により予備加熱される。予備加熱の条件は、例えば、熱風の吹き出し温度が、45〜100℃、好ましくは、70〜100℃であり、熱風の吹き出し速度が、0.3〜10.0m/sであり、熱風の被塗面(部材の表面)での風速が、1〜3m/sであり、熱風の吹き出し口から被塗面までの距離が、20〜50cmであり、予備加熱時間が、0.5〜1.5分である。また、第4ホットエアゾーン14における熱風の吹き出し温度は、第3ホットエアゾーン13における熱風の吹き出し温度よりも、高く設定する。
【0061】
熱風の吹き出し温度が、45℃より低いと、ベース水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、100℃より高いと、熱風の吹き出しのためのエネルギー消費が増大する。また、熱風の吹き出し速度が、0.3m/sより低いと、ベース水性塗料の固形分濃度が低く、混層やワキを生ずる場合がある。また、10.0m/sより高いと、表面のみが乾燥することにより、塗膜の流動性が低下したり、ワキを生ずる場合がある。
【0062】
第4ホットエアゾーン14内の温湿度は、例えば、温度20〜30℃、水蒸発可能量10〜25g/kgに管理する。
そして、第4ホットエアゾーン14で予備加熱された部材は、次いで、第2クーリングゾーン15で、冷却される(冷却工程)。第2クーリングゾーン15において、部材は、冷風により冷却される。冷却の条件は、例えば、冷風の吹き出し温度が、15〜23℃であり、冷風の吹き出し速度が、10m/s以下であり、冷風の吹き出し口から被塗面までの距離が、20〜50cmであり、冷却時間が、0.5〜1.3分である。また、このような冷却では、部材の温度を、好ましくは、45℃以下、さらに好ましくは、40℃以下に冷却する。
【0063】
そして、このような第2熱風乾燥炉12での予備加熱により、部材の内側面および外側面に塗装されたカラーベース水性塗料と、部材の外側面に塗装されたパールベース水性塗料とは、ウェット状態の塗膜、すなわち、カラーベース層22と、その表面に積層されたパールベース層23とを形成する。
このような第2熱風乾燥炉12での予備加熱では、まず、第3ホットエアゾーン13において、部材がより低い温度で予備加熱された後に、第4ホットエアゾーン14において、部材がより高い温度で予備加熱される。そのため、第3ホットエアゾーン13において、塗装されたベース水性塗料の流動性が確保され、均一な厚みの塗膜が形成された後に、第4ホットエアゾーン14において、次に形成されるクリア層24(図2参照)との混層やワキの発生を防止することができる塗膜を形成することができる。その結果、ベース水性塗料を効率よく予備加熱することができ、しかも、予備加熱された塗膜に、良好な性状を付与することができる。
【0064】
次いで、この塗装方法では、クリア塗装ブース16において、クリア塗装する(クリア塗装工程)。
クリア塗装ブース16は、部材の内側面(例えば、ドアパネルインナ)を塗装するための内側クリア塗装ブース17と、その内側クリア塗装ブース17の下流側に配置される部材の外側面(例えば、ドアパネルアウタ)を塗装するための外側クリア塗装ブース18とを備えている。
【0065】
クリア塗装に用いられる塗料は、特に制限されず、公知のクリア塗料が用いられる。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂成分と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂、尿素樹脂などの架橋剤と、その他の添加剤とを、有機溶剤または水に溶解または分散させることにより、調製することができる。
【0066】
また、クリア塗料には、必要に応じて、透明性を阻害しない範囲において、ベースカラー顔料やメタリック顔料を含有させることができ、さらに体質顔料、紫外線吸収剤などを適宜含有させることができる。
また、クリア塗料は、その固形分濃度が、例えば、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%となるように調製される。
【0067】
また、クリア塗料の塗装方法は、特に制限されないが、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法などが用いられる。好ましくは、ベル塗装法が用いられる。
また、クリア塗料の塗装膜厚は、焼付け後の膜厚として、例えば、10〜60μm、好ましくは、25〜50μmである。
そして、この塗装方法では、クリア塗装ブース16において、まず、内側クリア塗装ブース17で、上記した方法により、部材の内側面(例えば、ドアパネルインナ)を塗装した後、次いで、外側クリア塗装ブース18で、同じく上記した方法により、部材の外側面(例えば、ドアパネルアウタ)を塗装する。
【0068】
そして、この塗装方法では、クリア塗装された部材を、焼き付け炉19において、焼き付ける(焼付工程)。焼き付けは、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱などの公知の焼き付け方法が用いられる。焼き付け温度は、例えば、80〜170℃、好ましくは、120〜約160℃であり、焼き付け時間は、20〜40分程度である。
これによって、図2に示すように、下塗層20の上に、中塗層21、カラーベース層22、パールベース層23、およびクリア層24が積層された塗膜が形成される。
【0069】
このようにして形成された4層からなる塗膜は、上記したように、中塗層21、カラーベース層22、パールベース層23、およびクリア層24の各層において、外側面に凹凸が生じることが防止されているので、良好な外観を有している。
なお、上記の説明において、自動車ボディの部材の外側面とは、ドアやフードなどの蓋部材を閉鎖した状態で露出する面を意味する。また、自動車ボディの部材の内側面とは、蓋部材を閉鎖した状態では露出しないが、蓋部材を開放した状態で、露出する面を意味する。
【0070】
以上、詳述したように、上記塗装方法によれば、中塗層とベース層との境界がぼやけることを防止でき、塗膜にパール調の彩色を鮮明に表すことができる。ベース層を、カラーベース層とパールベース層との2層に分けて塗装することで、意匠性が高くかつ均一なパールベース層を形成することができる。
また、上記塗装方法における中塗工程、第1予備加熱工程、ベース塗装工程、第2予備加熱工程、およびクリア塗装工程の一連の工程は、例えば、中塗工程とベース塗装工程との間と、ベース塗装工程とクリア塗装工程との間と、にそれぞれ予備加熱工程を備える、従来の3コート1ベーク方式の塗装ラインを使用して実現することができる。しかも、従来の3コート1ベーク方式の塗装ラインを使用しつつ、パールベース層を含む塗膜について、優れた塗装品質を確保することができる。
【0071】
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の塗装方法による塗装工程の一実施形態を示す工程図である。
【図2】図1に示す塗装方法により塗装された塗膜の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 中塗りブース
3a 垂直面塗装ブース
3b 水平面塗装ブース
8 ベース塗装ブース
10 外側カラーベース塗装ブース
11 外側パールベース塗装ブース
16 クリア塗装ブース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディを構成する部材の塗装方法であって、
前記部材を水性塗料で中塗りする中塗工程と、中塗りされた前記部材を予備加熱する第1予備加熱工程と、第1予備加熱された前記部材を水性塗料でベース塗装するベース塗装工程と、ベース塗装された前記部材を予備加熱する第2予備加熱工程と、第2予備加熱された前記部材をクリア塗装するクリア塗装工程と、クリア塗装された前記部材を焼き付ける焼付工程とを備え、
前記ベース塗装工程が、第1予備加熱された前記部材を着色水性塗料でカラーベース塗装するカラーベース工程と、カラーベース塗装された前記部材をパール調水性塗料でパールベース塗装するパールベース工程とを備えていることを特徴とする、塗装方法。
【請求項2】
前記中塗工程において、略鉛直方向に伸びる垂直面を中塗りした後、略水平方向に伸びる水平面を中塗りすることを特徴とする、請求項1に記載の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−233574(P2009−233574A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83015(P2008−83015)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】