説明

塗装機、及び建築現場での塗装方法

【課題】建築外壁に現場で人が薄膜塗装する際、均一で膜厚ムラの少ない塗装が可能である塗装機及び塗装方法を提供することを目的とする。
【解決手段】建築外壁Wを塗装するために使用する塗装機1であって、塗料Pを噴射する塗料吐出口3aを有するスプレーガン3と、スプレーガン3に搭載され、且つ塗料Pの噴射方向Dに向けてレーザービームBを照射する少なくとも二つのレーザーポインター7と、を備える。塗装機1は、建築外壁Wとスプレーガン3との塗装距離Lを一定に保つために、建築外壁表面WaでレーザービームBが交差して塗装距離Lを目視で確認可能となるように、レーザーポインター7からレーザービームBを照射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビルなどの建築外壁の表面に現場で人の手によって塗膜を形成させる塗装技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅やビルなどの建築外壁の表面を被覆する塗膜には、基材を熱や光などから遮断し保護する目的や意匠、美観を付与するなどさまざまな性能を付与することが提案、実用化されている。
【0003】
近年、機能性塗料として塗料の無機成分を高めた高耐候性塗料や光触媒塗料に代表されるような防汚性塗料が多く提案、実用化されている。無機成分を高めた塗料や光触媒塗料は、塗装後、クラックを発生させないため塗膜の膜厚を薄くする必要があり、薄膜塗装技術が必要となってくる。ここで言う薄膜とは、膜厚が0.1〜数μm程度のことを言う。様々な機能性塗膜を薄膜で塗装する際、塗装機械を用い、塗装条件を精密に制御することによって、均一かつ薄膜に塗装することは可能であるが、建築現場などで人によって均一な膜厚で塗布することは容易ではない。
【0004】
建築現場での人の手作業による塗装によって数百μm程度の膜厚の塗装を行う場合、膜厚ムラが数μm程度起きても外観にはほとんど問題ないが、薄膜塗装する場合、所定膜厚の倍以上となり、外観上、問題となる。そこで、均一にかつ薄膜で塗装する方法が提案されている(特許文献1または2参照)。また、各種基材に塗装する方法としては、スプレー塗装、刷毛塗り、ロールコートなどの塗布方法が用いられているが、高意匠性外壁へ塗装するには、スプレー塗装が適していると考えられる。
【特許文献1】特開2003−164793公報
【特許文献2】特開2006−122757公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では高意匠性外壁など複雑な形状の外壁で膜厚ムラが生じ、外観不良を起こす可能性がある。一方で、特許文献2に記載の方法では、有機溶剤を使用する塗料に限定され、特に環境への配慮も必要になるために、広く適用できるものではない。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、建築外壁に現場で人が薄膜塗装する際、均一で膜厚ムラの少ない塗装が可能である塗装機及び塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明に係る塗装機は、建築外壁を塗装するために使用する塗装機であって、塗料を噴射する塗料吐出口を有するスプレーガンと、スプレーガンに装着され、且つ塗料の噴射方向に向けてレーザービームを照射する少なくとも二つのレーザービーム照射部と、を備え、レーザービーム照射部は、建築外壁とスプレーガンとの塗装距離を一定に保つために、建築外壁表面でレーザービームが交差して塗装距離を目視で確認可能となるようにレーザービームを照射することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、建築現場で建築外壁に人が薄膜塗装する際、建築外壁とスプレーガンとの距離を一定に保ちながら塗装を行うことが容易となり、均一で膜厚ムラの少ない塗装が可能となる。
【0009】
また、本発明は、上記の塗装機を使用することを特徴とした建築現場での塗装方法である。
【0010】
本発明によれば、建築現場で建築外壁に人が薄膜塗装する際、建築外壁とスプレーガンとの距離を一定に保ちながら塗装を行うことができ、均一で膜厚ムラの少ない塗装が可能となる。
【0011】
さらに、上記の塗装方法では、スプレーガンの運行速度を一定に保つため、定間隔で音を発信する装置を使用すると好適である。本発明によれば、スプレーガンの運行速度も一定に保ち易くなり、均一で膜厚ムラの少ない塗装が可能となる。
【0012】
さらに、定間隔で音を発信する装置はメトロノームであると好適である。メトロノームから発せられる音を頼りにして、簡単にスプレーガンの運行速度を一定に保つことができる。
【0013】
さらに、メトロノームは、耳装着型メトロノームであると好適である。作業者である人の耳に装着できるために、持ち運びに便利であり、様々な雑音があっても、メトロノームの刻む音が明確に聞こえるようになる。
【0014】
さらに、本発明に係る塗装方法は、建築外壁へ光触媒塗料を塗装することを特徴とすると好適である。光触媒塗料は、塗装後にクラックを発生させないために、塗膜の膜厚を薄くする必要があるが、本発明によれば、光触媒塗料であっても、容易に薄膜塗装を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、建築現場で建築外壁に人が薄膜塗装する際、建築外壁とスプレーガンとの距離を一定に保ちながら塗装を行うことができ、均一で膜厚ムラの少ない塗装が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。塗装機1は、スプレーガン3と、2点式レーザービームユニット5と、を備えている。
【0017】
スプレーガン3としては、例えば、アネスト岩田スプレーガン、明治スプレーガン、デビルビススプレーガンなどを適用することができ、スプレーガン3の先端部には、塗料Pを噴射する塗料吐出口3aが形成されている。
【0018】
2点式レーザービームユニット5とは、小型のレーザーポインター(レーザービーム照射部)7を2個装着したユニットである。レーザーポインター7のそれぞれは、独立して上下左右、または向きを変更可能で、且つ所定位置や向きで固定可能な構造になっている。
【0019】
2点式レーザービームユニット5は、小型のレーザーポインター7を塗料Pの噴射方向Dに向けてスプレーガン3に装着されている。スプレーガン3と外壁表面Wfとの距離を塗装距離Lに位置合わせした後に、2点式レーザービームユニット5の各レーザーポインター7を上下左右に動かし、各レーザーポインター7から照射されるレーザービームBが外壁表面Wfで2点交差するように調整する。その結果、2点交差した点とスプレーガン3との距離が塗装距離Lとなる。
【0020】
上述の設定を行うことで、スプレーガン3を近づけても、遠ざけてもレーザービームBは外壁表面Wf上で交差しなくなり、塗装距離Lがずれたことが目視で確認できる。すなわち、2本のレーザービームBが交差する点を外壁表面Wf上とすることで、塗装距離Lを目視で容易に確認でき、一定に保つことが容易になる。
【0021】
レーザービームBの色は特に限定されるものではなく、一般的に使用される赤色(波長630〜670nm程度)や最近使用の多い緑色(波長532nm)でもかまわない。
【0022】
スプレーガン3に2点式レーザービームユニット5を装着する態様は、特に限定されるものではなく、スプレーガン3に直接溶接することで装着したり、取り外し可能な状態で装着したりしてもかまわない。
【0023】
次に、上記の塗装機1を使用した塗装方法について説明する。建築現場で建築外壁Wに作業者が薄膜塗装する際には、塗装距離Lに合わせてレーザーポインター7で照射するレーザービームBの向きや位置を調整し、2点交差する位置を建築外壁Wの表面に合わせる。その後、塗料吐出口3aから塗料Pを噴射させて建築外壁Wへの薄膜塗装を開始する。ここで作業者は、スプレーガン3の運行速度を一定に保つため、定間隔で音を発信する装置を使用する。定間隔で音を発信する装置としては、例えば、メトロノームを使用する。
【0024】
メトロノームは一定の間隔で音を刻みテンポを合わせるために使う用具である。テンポは1分間に刻む回数でテンポの数値が決められており、例えば、テンポ=100であれば、1分間に音を100回刻むことになる。この一定のテンポで刻まれる音を頼りにして作業者(人)は、スプレーガン3の運行速度を一定に保つことが可能となる。
【0025】
一定のテンポとしては、テンポ=100に限定されるものではない。上記に説明したように1分間に刻み回数がテンポなので、例えば、テンポ=60であれば、1秒間に1回音が刻まれることになる。
【0026】
メトロノームとしては耳装着型が好ましく、また、耳装着型メトロノームは、市販されているものであれば特に限定するものではない。例えば、コルグ社のマイクロメトロノーム KORG MetroGnome MM-1やMM-2などが挙げられる。
【0027】
なお、建築現場で塗装する際、メトロノームが、作業者(人)自身の体に装着されていないと持ち運びに不便であり、また、様々な雑音によってメトロノームの刻む音が聞こえなくなる可能性がある。しかしながら、耳装着型メトロノームであれば、作業者(人)自身の体に装着するので持ち運びに便利であり、且つ作業性にも問題はなく、さらに、テンポを刻む音が聞こえなくなる可能性は少なくなるため好適である。
【0028】
薄膜塗装とは、塗装後、乾燥した塗膜の膜厚を0.1〜数μm程度になるように塗装することをいう。塗装機1を用いて塗装条件を精密に制御することによって、均一かつ薄膜に塗装することは可能である。その塗装条件とは、まさに塗装距離Lを一定に保持し、また、スプレーガン3の運行速度を一定に保つことである。本実施形態に係る塗装機1を使用することにより、塗装距離Lを一定にすることは容易であり、さらに、耳装着型メトロノームを塗装機1と同時に使用することで、スプレーガン3の運行速度を一定にすることが可能になり、作業者(人)の手によって膜厚ムラの少ない薄膜塗装が可能となる。
【0029】
下地となる建築外壁Wは特に限定されるものではなく、様々な基材を用いることができる。例えば、金属基材、ガラス基材、ホーロー基材、セメントや石膏などの無機質建材、セラミックなどの無機基材、及びこれらのうちのいずれかの基材の表面に少なくとも1層の無機塗膜及び/又は少なくとも1層の有機塗膜を有する塗装基材等も挙げることができる。
【0030】
上記の塗装基材を構成する有機塗膜としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、アクリルシリコーン系、メラミン系、フッ素系等の有機樹脂を含有する塗料Pを挙げることができる。
【0031】
上記の塗装基材を構成する無機塗膜としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリコーン樹脂系、ポリシラザン系等の無機樹脂を含有する塗料Pを挙げることができる。
【0032】
上記の塗装基材の上に薄膜で塗装する塗料Pは特に限定されるものではなく、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、アクリルシリコーン系、メラミン系、フッ素系等の有機塗膜、シリコーン樹脂系、ポリシラザン系等の無機塗膜、更に光触媒塗膜などが挙げられる。特に、塗膜中に無機成分を含むアクリルシリコーン系有機塗膜や無機塗膜、光触媒塗膜など厚膜になるとクラックなどが発生しやすい塗膜には本発明の塗装方法が好適と考える。
【0033】
また、上記基材の形状は特に限定されるものではなく、ガラスや金属カーテンウォールなどの平滑板や住宅サイディング板のような高意匠性板でもかまわない。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでない。
【0035】
実施例、比較例に使用される下地基材は、アルミ板を選択した。これは、塗装後の膜厚を確認する方法としてSEM(日本電子データム(株)製走査電子顕微鏡 JSM−5600LV)を使用するため、塗膜断面加工のしやすさ、取り扱いやすさから使用を選択した。
【0036】
下地基材へ塗布する塗装材として、アクリル系塗料(アサヒペン製 「水性外かべ用 色ホワイト」)を使用した。
【0037】
下地塗膜の上に薄膜塗装する塗料として、水性アクリルシリコーン系塗料(旭化成ケミカルズ(株)製水性アクリルシリコーン「ポリデュレックスG633」)を水にて5%程度に希釈した塗料を使用した。
【0038】
塗装に使用したスプレーガンは、アネスト岩田(株)製低圧霧化スプレーガン「LPH-100-124LVS」を選択した。
【0039】
耳装着型メトロノームは、コルグ社製「マイクロメトロノーム MM−2」を使用した。
【0040】
アルミ板(300×300mm)に所定量のアクリル系塗料を塗布し、気温23℃、湿度50%の環境下、2時間程乾燥させた。乾燥後、アクリル系塗料塗布アルミ板を600×600mmの範囲に縦に合計6枚固定したものを塗装外壁(建築外壁)とした。
【0041】
[実施例1]
スプレーガン「LPH-100-124LVS」に、距離視認用の2点交差レーザービームユニットを装着し、塗装距離が20cmになるように調整した。その後、スプレーパターン開きを20cm、塗料吐出量を40g/分、手元空気圧を0.1MPaとなるようにスプレーガンの調整を行い、膜厚が1μm程度になるように塗装を実施した。塗装後、気温23℃、湿度50%の環境下で1時間ほど乾燥させ、塗装板の任意の場所を10箇所選択し、SEMによる膜厚測定を実施した。その結果、膜厚は設定どおりであり、表1に示されるように標準偏差も0.31であり、膜厚ムラが少なかった。なお、表1は、実施例及び比較例の膜厚測定結果を示す表である。
【0042】
[実施例2]
距離視認用の2点交差レーザービームユニットを装着したスプレーガンと耳装着式メトロノーム「マイクロメトロノーム MM−2」とを使用し、塗装距離が20cmになるように調整し、スプレーガン運行速度を30cm/秒で操作(テンポは60に設定)し、膜厚が1μm程度になるように塗装を実施した。塗装後、気温23℃、湿度50%の環境下で1時間ほど乾燥させ、塗装板の任意の場所を10箇所選択し、SEMによる膜厚測定を実施した。その結果、膜厚は設定どおりであり、標準偏差も0.10であり、膜厚ムラが更に少なかった。
【0043】
[実施例3]
下地塗膜の上に薄膜塗装する塗料として、水性アクリルシリコーン系塗料(旭化成ケミカルズ(株)製水性アクリルシリコーン「ポリデュレックスG633」)を水にて5%程度に希釈した塗料100部に対し、光触媒酸化チタン(石原産業(株)製光触媒酸化チタン「ST−01」)を5部添加した塗料を使用し、実施例2と同じ方法で塗膜を作成、膜厚測定をした。その結果、膜厚は設定どおりであり、標準偏差も0.10であり、膜厚ムラが少なかった。
【0044】
[比較例1]
距離視認用の2点交差レーザービームユニットを装着していないスプレーガンを使用し、更に耳装着型メトロノームを使用しないで、塗装距離やスプレーガン運行速度を塗装者の感覚で任意に塗装した。塗装後、気温23℃、湿度50%の環境下で1時間ほど乾燥し、塗装板の任意の場所を10箇所選択し、SEMによる膜厚測定を実施した。その結果、膜厚のバラツキが大きく、標準偏差も1.04と大きかった。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る塗装機を模式的に示す側面である。
【図2】本発明の実施形態に係る塗装機を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0047】
1…塗装機、3…スプレーガン、3a…塗料吐出口、7…レーザーポインター(レーザービーム照射部)、B…レーザービーム、D…塗料の噴射方向、L…塗装距離、W…建築外壁、Wa…建築外壁表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築外壁を塗装するために使用する塗装機であって、
塗料を噴射する塗料吐出口を有するスプレーガンと、
前記スプレーガンに装着され、且つ前記塗料の噴射方向に向けてレーザービームを照射する少なくとも二つのレーザービーム照射部と、を備え、
前記レーザービーム照射部は、建築外壁とスプレーガンとの塗装距離を一定に保つために、建築外壁表面で前記レーザービームが交差して塗装距離を目視で確認可能となるように前記レーザービームを照射することを特徴とする塗装機。
【請求項2】
請求項1記載の塗装機を使用することを特徴とした建築現場での塗装方法。
【請求項3】
前記スプレーガンの運行速度を一定に保つため、定間隔で音を発信する装置を使用することを特徴とする請求項2記載の塗装方法。
【請求項4】
定間隔で音を発信する前記装置は、メトロノームであることを特徴とする請求項3記載の塗装方法。
【請求項5】
前記メトロノームは、耳装着型メトロノームであることを特徴とする請求項4記載の塗装方法。
【請求項6】
前記建築外壁へ光触媒塗料を塗装することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項記載の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104872(P2010−104872A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277229(P2008−277229)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】