説明

塗装物の冷却方法、及びブレーキ用部品の製造方法

【課題】焼付け塗装した塗装物に水を吹き付けて該塗装物を冷却する場合の冷却時間を短縮可能な塗装物の冷却方法、及び焼付け塗装したブレーキ用部品の冷却時間を短縮可能なブレーキ用部品の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】熱硬化性の塗料が焼付け塗装された塗装物1を冷却する冷却方法であって、塗料が焼付け塗装された塗装物1の表面に、塗装物1の表面と水との親和性を高める所定の表面処理を施す表面処理工程と、所定の表面処理が施された塗装物1の表面に水を吹き付けて塗装物1を冷却する冷却工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装物の冷却方法、及びブレーキ用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品には各種の塗装が施される。特に、高温の環境下で使用される製品に対しては、耐熱性に優れる焼付け塗装等が施される。焼付け塗装を行った後は、塗装物を冷やす必要がある。例えば、特許文献1には、塗料を焼付けたブレーキパッドを冷却炉で冷やす技術が開示されている。また、特許文献2には、樹脂を焼付塗装した鋼板を水で冷やす技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−17891号公報
【特許文献2】特開2000−46079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
熱硬化性の塗料を焼付け塗装する場合、塗装物が加熱される。このため、焼付け塗装を行った塗装物を取り扱う場合には該塗装物を冷やす必要がある。ここで、水に浸すことが好ましくない塗装物を冷やす場合には、該塗装物の表面に水を吹き付けて気化させる事により冷却する方法が採られることがある。しかし、塗装物を水で浸さないように冷やすには長い時間を要する。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、焼付け塗装した塗装物に水を吹き付けて該塗装物を冷却する場合の冷却時間を短縮可能な塗装物の冷却方法、及び焼付け塗装したブレーキ用部品の冷却時間を短縮可能なブレーキ用部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、焼付け塗装を行った塗装物に水を吹き付けて冷却する際、塗装物にプラズマ処理を予め施す。
【0006】
詳細には、熱硬化性の塗料が焼付け塗装された塗装物を冷却する冷却方法であって、前記塗料が焼付け塗装された前記塗装物の表面に、該塗装物の表面と水との親和性を高める所定の表面処理を施す表面処理工程と、前記所定の表面処理が施された前記塗装物の表面に水を吹き付けて該塗装物を冷却する冷却工程と、を有する。
【0007】
焼付け塗装を経た塗装物に水を吹き付けて冷却する場合に、冷却を短時間で行うには、吹き付けた水と塗装物との間で熱交換が速やかに行われることが肝要である。ここで、熱交換の速度は、接触面の面積に比例する。このため、水を霧状に吹き付けて塗装物を冷却する場合、塗装物の表面が吹き付けた水で全面的に濡れていることが好ましい。そこで、上記冷却方法では、焼付け塗装がなされた塗装物の表面に所定の表面処理を施す。所定の表面処理とは、焼付け塗装後、水の吹き付けによる冷却の前に行う処理であり、塗装物の表面と水との親和性を高める処理である。このような表面処理を施すことにより、塗装物の表面が濡れやすくなるので、塗装物の表面に水を吹き付けた際、吹き付けた水と塗装物との間で熱交換が速やかに行われ、塗装物の冷却が短時間で行われるようになる。
【0008】
なお、前記塗装物の表面に施す前記所定の表面処理は、プラズマ処理であることがより好ましい。塗装物にプラズマ処理を施すことにより、塗装物の表面と水との親和性が高くなるので、塗装物の表面に水を吹き付けた際に熱交換が速やかに行われ、塗装物の冷却が
短時間で行われるようになる。
【0009】
また、前記塗装物は、前記冷却工程では、前記塗装物の表面に吹き付けた水が前記焼付け塗装により該塗装物に残留する熱で気化するように該塗装物を冷却するものであることが好ましい。
【0010】
塗装物を塗装した後に出荷する場合において、塗装物が濡れていることは好ましくない。このため、塗装物を水で冷却した場合において、この水が塗装物に付着しているときには、出荷前に水分を除去する必要がある。しかし、上記冷却方法によれば、塗装物の表面が濡れやすいため、塗装物に残留する熱で水が全て気化してしまう程度の量の水で塗装物を十分に冷却することが可能であり、水分を除去する工程を省くことができる。このような効果は、例えば、吸水性の材料、或いは水により変性し得る材料を有する塗装物を塗装する場合に顕著である。
【0011】
また、前記塗装物は、摩擦材を有するブレーキ用部品を挙げることができる。ブレーキ用の摩擦材は、水に浸すとこれを吸収してしまうため、製品としてこのまま出荷することは好ましくない。しかし、上記冷却方法によれば、このような水に浸すことができないブレーキ用部品を短時間で冷却することが可能であり、本発明の効果を有意に発揮することが可能である。
【0012】
なお、本発明は、ブレーキ用部品の製造方法として捕らえることも可能である。すなわち、本発明は、摩擦材を有するブレーキ用部品を製造する製造方法であって、前記ブレーキ用部品の表面に熱硬化性の塗料を焼付け塗装する塗装工程と、前記塗料が焼付け塗装された前記ブレーキ用部品の表面に、該ブレーキ用部品の表面と水との親和性を高める所定の表面処理を施す表面処理工程と、前記所定の表面処理が施された前記ブレーキ用部品の表面に水を吹き付けて該ブレーキ用部品を冷却する冷却工程と、を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
焼付け塗装した塗装物に水を吹き付けて該塗装物を冷却する場合の冷却時間を短縮可能な塗装物の冷却方法、及び焼付け塗装したブレーキ用部品の冷却時間を短縮可能なブレーキ用部品の製造方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本願発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、本願発明に係るブレーキ用部品の製造方法の一実施形態である。しかし、係る製造方法には、本願発明に係る塗装物の冷却方法の一実施形態が含まれている。塗装物の冷却方法に対応する部分が何れの箇所であるかについては後述する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るブレーキ用部品の製造方法の処理フロー図である。また、図2は、本実施形態に係るブレーキ用部品の製造工程を示す図である。以下、図1のフロー図および図2の工程図に沿って本実施形態を説明する。なお、本実施形態では、ブレーキ用部品として、摩擦材を有するブレーキパッド1を例示している。しかし、本発明に係る塗装物の冷却方法は、ディスクブレーキのブレーキパッドに限られず、例えば、焼付け塗装を施した多種多様な工業製品全般に対して適用することも可能である。
【0016】
本実施形態に係るブレーキ用部品の製造方法は、プレッシャプレートに摩擦材が固定されたブレーキパッド1(本発明でいう塗装物に相当する)に熱硬化性の粉体塗料を静電塗布したのち(S101)、ブレーキパッド1を加熱して塗料を焼付け(S102)、プラズマ処理を施し(S103)、水をミスト状に吹き付けてブレーキパッド1を冷却する(
S104)。
【0017】
粉体塗料の静電塗布(S101)は、コロナ荷電方式により行う。すなわち、粉体塗料の静電塗布は、ブレーキパッド1を電気的に接地し、静電ガンで粉体塗料を帯電させながら、プレッシャプレート2の表面のうち特に摩擦材3が取り付けられている面と反対側の面を中心に塗料を吹き付ける(図2(A)参照)。なお、粉体塗料の静電塗布は、静電ガンが設置されたハウジング内をブレーキパッド1が連続的に通過することで行われる。また、塗布される粉体塗料は、エポキシ系あるいはポリエステル系の熱硬化性樹脂で構成される塗料である。ブレーキパッド1は、粉体塗料を静電塗布する前に予めリン酸鉄処理(0.05MPaでスプレー)を行い、水洗および乾燥を施したものである。
【0018】
塗料の焼付け(S102)は、粉体塗料を静電塗布されたブレーキパッド1が電気ヒータで加熱されることにより行われる。すなわち、塗料の焼付けは、粉体塗料が電気ヒータにより180℃で20分間加熱されることにより、粉体塗料が溶解してブレーキパッド1の表面に焼き付けられる。なお、粉体塗料の静電塗布(S101)および塗料の焼付け(S102)の一連の工程が、本発明でいう塗装工程に相当する。
【0019】
プラズマ処理(S103)は、反応器で生成されたプラズマをブレーキパッド1に当てる事で、該ブレーキパッド1の表面を処理する。プラズマ処理の条件は、10kVの交流電圧で70mAの電気を使い、照射距離25mmで10秒間行う(本発明でいう、表面処理工程に相当する)。プラズマを生成するためのガスとしては、例えば、アルゴンと酸素との混合ガス等が挙げられる。なお、塗料の劣化抑制や塗膜の表面改質の観点から、プラズマ処理は、大気圧による低温プラズマを用いることが好ましい。
【0020】
ブレーキパッド1の冷却(S104)は、プラズマ処理が施されたブレーキパッド1の表面に霧状の水(ミスト)を吹き付けて行う(本発明でいう、冷却工程に相当する)。ブレーキパッド1の摩擦材が濡れるのを防ぐため、水の吹き付けは、ブレーキパッド1に吹き付けた水が気化しなくならないように短時間で行う。すなわち、ブレーキパッド1への水の吹き付けは、塗料の焼付けによりブレーキパッド1に残留している熱で水が気化するよう、短時間で行う。
【0021】
なお、上記に示した各工程のうち、プラズマ処理(S103)およびブレーキパッド1の冷却(S104)の部分が、本発明に係る塗装物の冷却方法の一実施形態に相当する部分である。粉体塗料の静電塗布(S101)から冷却(S104)までの一連の工程は、搬送装置類により連続的に処理し、人による手作業を介在させないことが冷却時間の短縮等の観点から好ましい。
【0022】
本実施形態によれば、次のような理由により、ブレーキパッド1を冷却する場合の冷却時間を短縮可能である。図3は、ブレーキパッド1の表面に付着した水の付着状態について、プラズマ処理を施していないものとプラズマ処理を施したものとを並べて示した図である。ブレーキパッド1の表面にプラズマ処理を施すと、水との親和性が高まる。よって、図3に示すように、プラズマ処理を施していない場合、ブレーキパッド1に吹き付けた水は接触角が約90度と垂直に近い水玉状態になる一方、プラズマ処理を施した場合、ブレーキパッド1に吹き付けた水は接触角が小さくなって表面に大きく広がる。従って、冷却(S104)の際に吹き付ける水が少なくてもブレーキパッド1の表面が非常に濡れやすく、ブレーキパッド1に残留する熱が水に奪われやすくなるので、プラズマ処理を施さない場合に比べて短い時間でブレーキパッド1を冷却することが可能になる。
【0023】
以下、上記実施形態に係る製造方法の評価結果について説明する。以下に示す評価結果において、「実施例」として示すものが上記実施形態に係る製造方法に関するものであり
、「比較例」として示すものがプラズマ処理のみを省いたものである。なお、冷却処理(S104)で水を噴霧した時間(ミストスプレー時間:T1)については、下記に示す表1の通り、60秒と180秒の2種類の条件で実験を行った。また、プラズマ処理(S103)を施してから冷却処理(S104)を開始するまでの時間(T2)については、下記に示す表1の通り、20秒、30秒、60秒、120秒の4種類の条件で実験を行った。なお、比較例については、プラズマ処理を施していないため、下記に示す表1の通り、プラズマ処理(S103)を施してから冷却処理(S104)を開始するまでの時間(T2)についてはその記載を省いている。
【表1】

【0024】
上記表1に示すように、プラズマ処理を施してから冷却を行った実施例1〜8は、プラズマ処理を施さないで冷却を行った比較例1,2に比べ、表面温度が著しく低下していることが判る。特に、水の吹き付けを180秒間も行った比較例2よりも、水の吹き付けを60秒間しか行っていない実施例1〜4の方が、表面温度が低い。よって、プラズマ処理を経てから水を吹き付けると、極めて効率的に冷却されることが判る。従って、焼付け塗装した塗装物を冷却する場合に、上記実施形態に係る方法を適用すれば、冷却時間を極めて短縮できることが判る。なお、プラズマ処理による効果は、時間の経過と共に低下する。上記表1に示すように、プラズマ処理を行った後、冷却処理を開始するまでの時間(T2)が長くなればなるほど、冷却処理を施した後の表面温度が下がりにくくなっている。よって、ブレーキパッド1を例えば70〜80℃程度にしたいような場合、プラズマ処理を施した後、冷却処理を開始するまでの時間(T2)を60秒以内にすることが好ましく、特に、30秒以内とすることがより好ましい。プラズマ処理を施した後、冷却処理を開始するまでの時間(T2)を短くすることで、プラズマ処理を施すことによる冷却時間の短縮化をより効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ブレーキ用部品の製造方法の処理フロー図。
【図2】ブレーキ用部品の製造工程を示す図。
【図3】水の付着状態を、プラズマ処理を施していないものと施したものとを並べて示した図。
【符号の説明】
【0026】
1 ブレーキパッド
2 プレッシャプレート
3 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性の塗料が焼付け塗装された塗装物を冷却する冷却方法であって、
前記塗料が焼付け塗装された前記塗装物の表面に、該塗装物の表面と水との親和性を高める所定の表面処理を施す表面処理工程と、
前記所定の表面処理が施された前記塗装物の表面に水を吹き付けて該塗装物を冷却する冷却工程と、を有する、
塗装物の冷却方法。
【請求項2】
前記塗装物の表面に施す前記所定の表面処理は、プラズマ処理である、
請求項1に記載の塗装物の冷却方法。
【請求項3】
前記冷却工程では、前記塗装物の表面に吹き付けた水が前記焼付け塗装により該塗装物に残留する熱で気化するように該塗装物を冷却する、
請求項1または2に記載の塗装物の冷却方法。
【請求項4】
前記塗装物は、摩擦材を有するブレーキ用部品である、
請求項1から3の何れか一項に記載の塗装物の冷却方法。
【請求項5】
摩擦材を有するブレーキ用部品を製造する製造方法であって、
前記ブレーキ用部品の表面に熱硬化性の塗料を焼付け塗装する塗装工程と、
前記塗料が焼付け塗装された前記ブレーキ用部品の表面に、該ブレーキ用部品の表面と水との親和性を高める所定の表面処理を施す表面処理工程と、
前記所定の表面処理が施された前記ブレーキ用部品の表面に水を吹き付けて該ブレーキ用部品を冷却する冷却工程と、を有する、
ブレーキ用部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−125407(P2010−125407A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303936(P2008−303936)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】