説明

塗装金属板およびこれを用いてなる電子機器筐体

【課題】従来の2層塗膜と同等の平面部塗膜耐食性、プレス加工性を有し、しかも製造する際の高速操業が可能である塗装金属板およびそれを用いた加工品を提供する。
【解決手段】塗装金属板は、金属板と、当該金属板の少なくとも一方の面上に形成された1層の無機被覆層または無機有機複合被覆層からなる化成処理皮膜と、当該化成処理皮膜上に形成された1層の着色塗膜とを備え、当該着色塗膜は、吸油量が50〜1000ml/100gであって平均粒径が10μm以下であるシリカを塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含み、かつ、前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂またはウレタン樹脂である。着色塗膜はさらに硬化剤および硬化触媒を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板上に1層の化成処理皮膜および1層の着色塗膜を順次形成した、プレス加工性および平面部耐食性に優れた塗装金属板に関するものである。本発明の塗装金属板は、例えば薄型テレビ用パネル、冷蔵庫、ファンヒータ、エアコン室外機などの家電製品、建材、自動車部品などの筐体または素材として好適に使用することができる。本発明において、「筐体」とは、製品またはその内部部品を収容する箱状体を意味する。
【背景技術】
【0002】
通常、塗装金属板(以下の説明では、亜鉛を含むめっき層を有する鋼板である亜鉛系めっき鋼板上に塗膜が形成されてなる塗装鋼板である亜鉛系めっき塗装鋼板を具体例とする。)では、意匠面となる外面塗膜に関しては、下塗り塗膜、上塗り塗膜、または下塗り塗膜、中塗り塗膜、上塗り塗膜といった複数層の塗膜より形成されている。かかる構成の塗膜では、各層毎に役割が存在し、下塗り塗膜は、下地となる鋼板との密着性の確保および耐食性の確保としての役割を担い、上塗り塗膜は、意匠性、耐汚染性、耐候性、耐傷つき性、耐薬品性といった性能を担っている。中塗り塗膜に関しては、下塗り、上塗り塗膜の各塗膜の役割を補充するために用いられることが多い。
【0003】
また、下塗り塗膜の下層には、通常亜鉛系めっき鋼板と下塗り塗膜との密着性を確保するために薄膜の化成処理皮膜が形成されており、通常、この化成処理皮膜を含めると、少なくとも片面3コート3ベークの工程を経て塗装鋼板が形成されている。
【0004】
このような塗装鋼板は、塗装や焼付の際の工程数が多く、製造に要する時間も長くなるため、塗装作業の合理化や省資源化の観点から工程数を減らす改善手段が望まれている。また、塗装設備上、化成処理皮膜を含め2コート2ベークの工程しか塗装できないライン、例えば、溶融亜鉛または電気亜鉛めっきラインのめっき後インラインのコーター設備や、スペースの都合上2コート2ベークのみ塗装可能な塗装ラインなどでは、このような塗装鋼板を製造することができない。
【0005】
そこで、従来の化成処理皮膜を含め3コート3ベークの塗装鋼板と同等性能を有しつつ、化成処理皮膜の上層に1層の着色塗膜が形成された構成を備え、2コート2ベークの工程で製造可能な塗装鋼板が望まれている。
【0006】
一方、塗装鋼板を製造するために用いられる塗料組成物については水系塗料を用いることが望まれている。水系塗料は、溶剤系塗料と比較して塗装焼き付け時に発生する有機溶剤を燃焼させるために使用しているインシネーターの負担を低減することが可能であり、さらに、そこから排出されるCO量を低減することが可能である。その上、完全水系の塗料を用いれば、インシネーター自体を用いる必要がなくなる。
【0007】
すなわち、化成処理1層を含むトータル2層の構成に対応した水系の塗料組成物を用いることで、塗装工程が与える環境負荷を緩和するとともに塗装作業を合理化することが可能となる。
【0008】
しかしながら、従来の塗装鋼板用塗料をそのまま単一塗膜として用いた場合には、下塗り塗料のみでは加工性、耐薬品性などが不十分であり、また、上塗り塗料のみでは下地鋼板との密着性、耐食性などが不十分となる。液状体の塗料に代えて粉体塗料を用いることも考えられるが、粉体塗料は膜厚が厚く、硬化に時間がかかる難点がある。したがって、塗装作業の合理化、省資源化などを考慮した場合、塗装鋼板の下塗り層と上塗り層との両方の機能を併せ持ち、且つ短時間で硬化可能な1層の着色塗膜の設計が必要となる。
【0009】
ところで、プレコート鋼板(一次加工の段階で塗装工程が行われている塗装鋼板をいい、本発明では、「塗装鋼板」とはプレコート鋼板を意味する。)には、高硬度、優れた耐汚染性、優れた耐薬品性、優れた耐水性、優れた耐食性など多くの性能が要求される。なかでも塗装・焼付を行った後にプレス等の作業が実施されることから、塗装鋼板においてはプレス加工性が良好であることが特に重要である。
【0010】
ここで「プレス加工性が良好であること」とは、連続プレスが行われて金型温度が上昇した場合であっても、プレス工程において高面圧が鋼板上の塗膜に加えられたときに塗装鋼板のカジリなどプレス工程における致命的な障害の発生が抑制され、安定したプレス工程が実施可能なことを意味する。
【0011】
なお、このカジリ現象の原因として次のことが挙げられる。
(i)塗膜が過度に軟質であることにより、比較的低い面圧で塗膜が過剰に変形して金型に強く凝着し、このため金型と塗膜との間の摺動抵抗が過剰に上昇してしまう。
(ii)塗膜が過度に硬質であることにより、プレス加工時の基材の変形に塗膜が追従できず塗膜に割れが発生し、このため塗膜から脱離した摩耗粉が局所的な摺動抵抗の上昇をもたらすこと。
【0012】
このような塗装鋼板の要求特性に対して、例えば、特許文献1では、硬度、耐汚染性および耐侯性に優れた塗膜を得ることを目的として、特定のポリエステル樹脂、メラミン樹脂(硬化剤)などを配合した塗料組成物及びこれを用いた塗装鋼板が提案されている。
【0013】
また、特許文献2では、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂(硬化剤)、防錆顔料、有機高分子微粒子などを配合した塗料組成物を塗装することにより、1コートで加工性、耐食性、密着性、耐衝撃性、耐スクラッチ性、意匠性を満足させる塗装鋼板が提案されている。
【0014】
さらに、特許文献3では、鋼板の両面に、亜鉛系めっき層およびクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、架橋剤により硬化させたポリエステル系樹脂と、平均粒子径が3〜40μm、ガラス転移温度が70〜200℃でかつ前記ポリエステル系樹脂よりも高硬度である樹脂粒子とを含有する単一塗膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭63−7878号公報
【特許文献2】特開昭63−114635号公報
【特許文献3】特開2007−269010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1および2に記載された塗装鋼板はいずれも、化成皮膜としてクロムを含有するクロメート系皮膜を用いることを想定しており、これは環境上好ましくない。また、使用されているポリエステル樹脂が、薄い塗膜で絞り加工のような厳しいプレス加工時の応力に耐え得る強度の塗膜が得られるようには設計されていないため、十分なプレス加工性が得られない。
【0017】
また、特許文献3に記載された塗装鋼板については、クロムを含有せず、かつ塗膜が1層ではあるものの、その場合に懸念される塗膜平面部の耐食性の確保についてなんら記載されていない。
【0018】
そこで、本発明の目的は、上記のような従来技術の課題を解決し、従来の2層塗膜(化成処理皮膜が形成された金属材上に形成された下塗り層と上塗り層とを有する塗膜)と同等の平面部塗膜耐食性およびプレス加工性を有し、しかも製造する際の高速操業が可能である塗装金属板およびそれを用いた加工品(例えば筐体)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決して着色塗膜が単層の構成でありながら優れた性能を有する塗装金属板を得るために検討を重ねた結果、金属板の少なくとも一方の面に、特定の1層の化成処理皮膜層および特定の1層の着色塗膜を順次形成することにより、平面部耐食性、端面耐食性、さらにプレス加工性に優れた塗装金属板が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その要旨構成は以下のとおりである。
【0020】
(1)金属板と、当該金属板の少なくとも一方の面上に形成された1層の無機被覆層または無機有機複合被覆層からなる化成処理皮膜と、当該化成処理皮膜上に形成された1層の着色塗膜とを備え、当該着色塗膜は、吸油量が50ml/100g以上1000ml/100g以下であって平均粒径が10μm以下であるシリカを、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含み、かつ、前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂またはウレタン樹脂であることを特徴とする塗装金属板。
【0021】
(2)前記着色塗膜中の顔料の総量が塗料固形分に対して7質量%以上40質量%以下であることを特徴とする上記(1)に記載の塗装鋼板。
(3)前記着色塗膜の膜厚が2μm以上10μm以下であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の塗装鋼板。
【0022】
(4)前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂であって、その着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度が0℃以上30℃以下で、分子量が10000以上30000以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0023】
(5)前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂であって、当該着色塗膜を形成するための塗料が塗料100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下の硬化触媒を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0024】
(6)前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のウレタン樹脂であって、その着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度が0℃以下で、分子量が100000未満であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0025】
(7)前記着色塗膜中に硬化剤として水溶性メラミンを樹脂固形分に対して5質量%以上30質量%以下含み、かつ硬化触媒を前記着色塗料100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下含むことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0026】
(8)前記無機被覆または無機有機複合被覆により形成される皮膜の付着量が、20mg/m以上1000mg/m以下であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の塗装鋼板。
【0027】
(9)前記金属板が亜鉛を含むめっき鋼板であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の塗装鋼板。
(10)上記(1)から(9)のいずれかに記載の塗装金属板を着色塗膜が形成された面が外側になるように用いてなることを特徴とする筐体。
【発明の効果】
【0028】
金属板上の少なくとも一方の面に、本発明に係る1層の化成処理皮膜層および1層の着色塗膜を順次形成することにより、平面部耐食性、プレス加工性、塗膜硬度に優れた塗装金属板およびそれを用いた加工品、例えば筐体を提供することが可能になる。
【0029】
さらに、上記の塗膜が形成された面と反対側の面(うら面)に上記の塗膜と同一構成の塗膜を形成すれば、両面が良好な耐食性を有しているため、屋外、半屋外等苛酷な環境に置かれる製品の筐体に適した、特に優れた耐食性を有する塗装鋼板が得られる。一方、うら面に導電性を確保しうる薄膜の1層または2層の化成処理皮膜層を形成すれば、薄型TV用途等の屋内に設置される家電製品、電子・電気機器の筐体に適した塗装鋼板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、化成処理皮膜とその上に形成された1層の着色塗膜とを備える塗装鋼板におけるプレス加工性と平面部耐食性とを両立させる手段として、大きく二つの手段を開示する。
【0031】
一つは、着色塗膜に含有されるバインダー樹脂(および硬化剤、硬化触媒)を特定の樹脂とし、着色塗膜単体でプレス加工性を高める手段である(第一の実施形態)。
もう一つは、プレス加工時に潤滑油が着色塗膜の表面に塗布されることを前提として、その潤滑油によって着色塗膜の特性が低下しないようにして、潤滑油によるプレス加工性の向上を最大限利用する手段である(第二の実施形態)。
なお、いずれの形態についても、着色塗膜中に含有される防錆顔料が所定の吸油量および平均粒径を有するシリカを含むこととして、塗膜表面の耐食性を高めている。
【0032】
I.第一の実施形態
本実施形態の塗装金属板は、金属板と、この金属板の少なくとも一方の面上に形成された1層の無機被覆層または無機有機複合被覆層からなる化成処理皮膜と、この化成処理皮膜上に形成された1層の着色塗膜とを備え、この着色塗膜は、吸油量が50ml/100g以上1000ml/100g以下であって平均粒径が10μm以下であるシリカを、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含み、かつ、着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂である。
【0033】
ここで、「着色塗膜」とは、着色成分を備える液状の組成物である塗料(以下、「着色塗料」ともいう。)が焼き付けられることにより金属板上に形成された膜状体を意味する。
【0034】
「塗料固形分」とは着色塗料を焼き付けた際の固形分を意味し、この「塗料」には塗装下地処理のための処理液は含まれない。塗料固形分の質量は次のようにして計測される。すなわち、所定量の塗料または塗料原料(主樹脂等)をオーブンに入れ、その質量を計測しながらオーブン内を加熱して塗料または塗料原料を固化させる。オーブン内の質量変化がなくなるまで固化させたときの固化物の質量計測値を塗料固形分の質量と定義する。したがって、「塗料固形分に対する質量%」とは、この重量計測値を100%としたときの質量割合をいう。この塗料固形分を構成する成分として、バインダー成分、顔料、および樹脂粒子などの他の成分が挙げられる。
【0035】
「樹脂固形分」とは、着色塗料を焼き付けた際の固形分(塗膜)のうち、バインダー成分に由来する固形分をいう。したがって「樹脂固形分に対する質量%」とは、実質的に、バインダー成分のみを硬化させたときの重量計測値を100%としたときの質量割合をいう。なお、後述するように、バインダー成分は、その主成分となる樹脂であるバインダー樹脂、硬化剤、およびその他の成分(硬化触媒など)から構成される。
【0036】
「主樹脂」とは、含有量が全バインダー樹脂に対して60質量%以上をなし、バインダー樹脂の主成分となる樹脂をいう。
顔料の「平均粒径」とは、塗膜中に存在する顔料が単独で存在する場合は平均1次粒径を指し、顔料同士が凝集して存在する場合は凝集時の顔料の粒径を表す平均2次粒径を意味し、次の計測方法で求めることが好ましい。まず、塗膜が形成された塗装鋼板を切断してその断面を露出させ、その断面をさらに研摩する。こうして得られた断面を電子顕微鏡で観察して、塗膜中の断面の観察像を得る。その観察像の視野に存在する顔料から数個を選び出し、それぞれの顔料の長辺長さと短辺長さを測定し、これら長辺の平均値と短辺の平均値を算出し、さらにこれらを平均して平均1次粒径を算出する。
【0037】
なお、平均1次粒径の数値は計測方法によって若干変動する。例えば、粒度分布計を用いる場合には測定原理によって、画像解析の場合には画像処理方法によって変動しうる。しかしながら、本発明において規定される顔料の粒径の範囲はこうした変動を考慮したものであり、いずれの方法によって得られた粒径であっても、本発明に規定される範囲であれば、所期の効果を得ることが安定的に実現される。
【0038】
本発明に係る塗装金属板は、上記の着色塗膜が形成された面が、使用状態において、使用者の目に直接触れる外側をなす面となる。以下、この着色塗膜が形成された面を「おもて面」、このおもて面の反対側の面を「うら面」という。
【0039】
1.基材金属板
本実施形態の塗装金属板に用いられる板状の基材は特に制限されず、いかなる金属からなる板状部材を用いてもよい。一般的に塗装金属板に使用される素材として、鋼(鉄系合金)、アルミニウムおよびその合金、マグネシウムおよびその合金などが例示される。このうち、基材が鋼である塗装鋼板については、その表面に亜鉛を含有するめっき層を有する亜鉛系めっき鋼板、すなわち、亜鉛めっき鋼板もしくは亜鉛合金めっき鋼板またはこれらのめっきを基板と合金化させた合金化めっき鋼板が用いられる場合が多い。
【0040】
そのような亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板、鉄−亜鉛合金めっき鋼板、ニッケル−亜鉛合金めっき鋼板、黒色化処理後のニッケル−亜鉛合金めっき鋼板が例示される。
【0041】
亜鉛系めっき鋼板のめっき付着量(片面あたり)は特に制限されない。付着量が過度に少ない場合には十分な耐食性(特に端面耐食性)が得られず、付着量が過度に多い場合には製造コストが高くなる、加工性が低下する等の問題があることを考慮して、用途に応じて適宜設定すればよい。一般に、電気めっき鋼板の場合は3g/m2以上50g/m2以下、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含む溶融亜鉛めっき鋼板の場合は15g/m2以上100g/m2以下の付着量が好ましい。
【0042】
特に、屋外用途に関しては、付着量の多い溶融亜鉛めっき鋼板が適しており、屋内用途等比較的マイルドな環境については、電気亜鉛めっき鋼板でも十分である。
また、放熱性等が要求される場合では、めっき鋼板自体の熱放射率の高い合金化溶融亜鉛めっき鋼板または黒色化処理後のニッケル−亜鉛合金めっき鋼板を用いるのが好ましい。
基材をなす板状部材の厚さは用途によって適宜決定されるものではあるが、過度に厚い場合にはプレス加工性が低下することが懸念される。
【0043】
2.化成処理皮膜
基材をなす金属板、例えば亜鉛系めっき鋼板の両面に、本発明に従って1層以上の化成処理皮膜を形成する。化成処理皮膜は、環境の観点より、クロムを全く含有しない化成処理皮膜とする。この化成処理皮膜は、基材の表面、基材が亜鉛系めっき鋼板の場合にはめっき層と着色塗膜との密着性を確保するものであればどのような組成でもかまわないが、密着性に加え、耐食性を向上させるものがより好ましい。
【0044】
このような密着性、耐食性の観点から、化成処理皮膜として無機化成処理皮膜または無機有機複合化成処理皮膜を適宜設定すればよい。具体的には、無機化成処理皮膜としては、シランカップリング剤、シリカ微粒子、バナジウム化合物やチタン化合物、ジルコニウム化合物、リン酸化合物などから選ばれる1種以上を含有したものが例示される。一方、無機有機複合化成処理皮膜としては、上記の無機化成処理皮膜に含有される化合物に加え、水溶性または水分散のウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などから選ばれる1種以上を含有したものが例示される。
【0045】
シランカップリング剤は、アルコキシ基が加水分解して水酸基となり、水酸基同士が縮合することで、架橋シロキサン結合を骨格とする皮膜を形成する。アルコキシ基が少ないと、架橋反応が遅延し、基体との密着性が低下することがある。一方、有機官能基が少ないと、上層の着色塗膜との密着性が低下することがある。これらの点から、シランカップリング剤はトリアルコキシル型であることが好ましい。本発明で使用するのに適したシランカップリング剤の具体例としては、下記の化合物(慣用名も含む。)を例示することができるが、これらに限定されるものではない:
ビニルエトキシシラン、ビニルメトキシシラン、N-(2-アミノメチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノメチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、およびテトラメトキシシラン。
【0046】
シリカ微粒子としては、液相シリカ、気相シリカの2種類が存在するが、これらのいずれかを用いてもかまわない。
バナジウム化合物としては、バナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0047】
チタン化合物としては、Tiアルコキシド、あるいは塩基性Ti炭酸塩、Tiフッ化物、Ti含有有機キレート、Ti含有カップリング剤(Tiアルコキシドにエポキシ基、ビニル基、アミノ基、メタクリロキシ基などの有機官能基が結合した化合物)等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0048】
ジルコニウム化合物としては、Zrアルコキシド、あるいは塩基性Zr炭酸塩、Zrフッ化物、Zr含有有機キレート等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
リン酸化合物としては、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
また、化成処理による付着量は、着色塗膜の下層の化成処理皮膜、すなわちおもて面に用いられる化成処理皮膜については、20mg/m以上1000mg/m以下であれば良好な密着性、耐食性を確保できる。付着量が過度に少ない場合にはめっき表面上の化成処理が十分に存在しておらず、優れた密着性を発現するのが困難になる。一方、付着量が過度に多い場合には化成処理皮膜自体が凝集破壊してしまう可能性がある上、コストが高くなってしまう。
【0050】
一方、うら面についても、金属板の表面には化成処理皮膜が形成されていることが好ましい。うら面の化成処理皮膜の付着量は、次に示すように、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
i)おもて面と同様に化成処理皮膜上に一層の着色塗膜を有する場合
この場合、おもて面と同様の化成処理を施すことで、良好な密着性、耐食性を確保できる。すなわち、この場合における好ましい付着量は20mg/m以上1000mg/m以下である。
【0052】
ii)化成処理のみの場合
導電性等が要求される場合に使用されることが好ましく、この場合、好ましい化成処理皮膜の付着量としては、100mg/m以上1000mg/m以下であり、良好な導電性および耐食性を確保できる。付着量が過度に少ない場合にはめっき表面上の化成処理層が十分に存在しておらず、優れた密着性を発現するのが困難になる。一方、付着量が過度に多い場合には化成処理皮膜自体の凝集破壊してしまう可能性がある上、コストが高くなってしまう。また、化成処理液自身も、耐食性を考慮して上記防錆剤を含んだ系とすることが好ましく、プレス性を確保のためにワックス等を添加した系を用いることも可能である。
【0053】
3.着色塗膜
着色塗膜は、バインダー成分、顔料、および樹脂粒子などの他の成分から構成される。
(1)バインダー成分
バインダー成分は、バインダー成分の主成分となる樹脂であるバインダー樹脂、硬化剤、およびその他の成分から構成される。以下に各成分について詳しく説明する。
【0054】
A)バインダー樹脂
本実施形態に係るバインダー樹脂は、主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂であり、具体的には次の2つの態様を含む。
【0055】
i)ポリエステル樹脂単独
本実施形態に係るバインダー樹脂として水溶性または水分散のポリエステル樹脂を単独で用いてもよい。その分子量は10000以上30000以下であることが好ましい。分子量が10000以下であると十分な加工性を確保するのが困難になることが懸念される。一方、分子量が30000を超えると樹脂自体の結合サイトが低下するため化成処理皮膜と優れた密着性を確保するのが困難になるとともに、メラミン等の硬化剤との架橋反応が十分に行われず塗膜としての性能低下が懸念される。
【0056】
ii)ポリエステル樹脂を主樹脂とするブレンド樹脂系
本実施形態に係るバインダー樹脂として水溶性または水分散のポリエステル樹脂を主樹脂とするブレンド樹脂系を用いてもよい。主樹脂をなす、すなわち全バインダー樹脂に対して60質量%以上をなす樹脂である水溶性または水分散のポリエステル樹脂の分子量は、上記の単独で使用する場合と同様に、10000以上30000以下であることが好ましい。
【0057】
なお、このブレンド樹脂系において、主樹脂以外の樹脂(以下「ブレンド樹脂」という。)として用いる樹脂として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が例示される。ブレンド樹脂としてウレタン樹脂を用いる場合には、好ましいウレタン系樹脂の形態は、エマルジョン粒子径として、10nm以上100nm以下、より好ましい範囲としては、20nm以上60nm以下である。粒子径が過度に小さいものはコスト高になることが懸念される。一方、粒子径が過度に大きいものは、塗膜化した際にエマルジョン同士の隙間が大きくなり塗膜としてのバリア性が低下するが懸念される。ウレタン樹脂のタイプとしては、エーテル系、ポリカーボネイト系、エステル系、アクリルグラファイトタイプ等あるが、これらの単独または、混合系を用いてもよい。
【0058】
B)硬化剤
硬化剤は水溶性のものを用いることが好ましく、具体的には、メラミンを用いることが好ましい。硬化剤の添加量は、樹脂固形分100質量部に対して5質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。添加量が5質量部未満だと主樹脂をなすポリエステルと十分な架橋反応が期待できず、塗膜としての性能が不十分となることが懸念される。一方、添加量が30質量部より多くなると架橋反応が進みすぎて塗膜が過度に硬くなり、加工性の低下が懸念されるようになる。なお、好ましい硬化剤の種類としては、塗膜加工性と塗膜硬度の両立の観点から、塗膜表面に濃化しやすい表面自由エネルギーの比較的小さい硬化剤を用いることが好ましい。具体的には、メチル化メラミンやブチル化メラミン等が挙げられる。
【0059】
C)硬化触媒
本実施形態に係るバインダー成分は、硬化触媒を含むことが好ましい。硬化触媒の役割の一つとして、硬化剤同士の自己縮合反応の促進や硬化剤と樹脂との架橋反応の促進等が挙げられる。また上記の表面自由エネルギーの小さなメチル化メラミンやブチル化メラミンを用いることで、着色塗膜表面に硬化剤が表面に濃化し、架橋反応、自己縮合反応も促進される。このため、表面近傍の着色塗膜は耐溶剤性および耐薬品性が特に向上する。しかも、着色塗膜が後述する樹脂粒子を含有する場合には、表面に濃化した硬化剤によって塗膜表面の硬度が上昇し、プレス加工時に樹脂粒子が欠落しにくくなる。
【0060】
さらに、表面に硬化剤が濃化することで、着色塗膜の表面部は硬質であるが塗膜内部は相対的に軟質となる構成が実現される。このため、塗膜硬度および加工性の両立が可能となることに加え、着色塗膜の表面部の硬質な部分において水分など着色塗膜の平面部耐食性を低下させる物質が塗膜内に進入することが抑制される。また、プレス加工時に着色塗膜全体が基材の変形に追従しやすくなる。このため、局所的に着色塗膜に割れが発生することが抑制される。したがって、1層の着色塗膜でありながら平面部耐食性、プレス加工性および塗膜硬度をバランスよく向上させることが実現される。
【0061】
硬化触媒としては、ドデシルベンゼンスルフォン酸または、パラトルエンスルフォン酸が適しており、これらの触媒の中でも、アミンブロック化触媒を用いることが硬化剤をより表面濃化させる観点から特に好ましい。硬化触媒の添加量は、塗料100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下とすることが好ましい。添加量が過度に少ない場合には、硬化触媒としての効果、すなわち硬化の促進が十分に行われないことが懸念される。一方、添加量が過度に多い場合には、架橋等が進みすぎて外観の不具合が発生するなど新たな問題を生ずることが懸念される。
【0062】
(2)顔料
本実施形態に係る着色塗膜に含有される顔料は防錆顔料および着色顔料を含み、必要に応じ、熱放射性などの他の機能を有する顔料も含有する。
【0063】
A)防錆顔料
着色塗膜に添加する防錆顔料が、吸油量が50ml/100g以上1000ml/100g以下であって平均粒径が10μm以下であるシリカを、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含むことが好ましい。このシリカを含有せず、他のリン酸系防錆顔料を単独で用いた場合には、このシリカと同添加量入れた際に十分な耐食性向上効果が得られない。また、このシリカと同じような耐食性性能を発現するために大量に他の防錆顔料を添加すると、塗膜自体の加工性を損なうとともに、意匠性を損なうという問題もある。
【0064】
シリカの吸油量を50ml/100g以上1000ml/100g以下としたのは、50ml/100g未満の場合には十分な耐食性が得られず、1000ml/100gを越える場合には塗料粘度の上昇が著しくなってしまうためである。また、平均粒径が10μmを越えると、膜厚よりも大きすぎるため顔料の脱落の可能性が高まり、耐食性への悪影響を及ぼすことが懸念される。なお、平均粒径の下限は特に限定されない。
【0065】
吸油量が上記の範囲のシリカの塗膜への適切な添加量は、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満であり、より好ましい範囲は、塗料固形分に対して5質量%以上10質量%未満である。5質量%未満であると十分な耐食性効果は得られず、15質量%以上であると、着色塗膜の加工性を損なうとともに塗膜中に添加可能な着色顔料の添加量が減少するため、意匠性、特に隠蔽性、色調安定性を損なう。
【0066】
なお、防錆顔料については、色調安定性、隠蔽性、プレス加工性等が確保できる範囲であれば、吸油量および平均粒径が上記の範囲のシリカ以外のシリカや、他の防錆顔料、例えばリン酸系防錆顔料を併用することも可能である。
【0067】
B)着色顔料
着色塗膜を特定の色調に調色するために添加する着色顔料として、安価、安全、耐水性、耐候性に優れる無機系の顔料を用いることが好ましい。また着色顔料に加え、カーボンブラックまたは、チタニアのいずれか一方または両方の顔料が含有されていると、着色塗膜自体の熱放射性が向上する。したがって、熱放射性が求められる電気・電子機器の筐体に適用する場合にはこれらの顔料を含有させることが好ましい。
【0068】
なお、メタリック調などの意匠性が求められる用途に適用する場合には、マイカやアルミフレーク等の光輝顔料を添加することで、メタリック調を発現させることができる。これら光輝顔料についての顔料の平均粒径は、塗膜厚の4倍以下程度が好ましい。また、添加量としては、塗料固形分に対して20質量%以下にすることが好ましい。
【0069】
なお、放熱性を損なわないためには、アルミフレークよりも熱放射性の比較的高いマイカが適している。なお、これら光輝顔料については、要求されるメタリック調の種類により、マイカ、アルミフレーク2種類をブレンドして使用してもかまわない。
【0070】
これらの着色顔料の含有量は、塗料固形分に対して2質量%以上25質量%以下とすることが好ましい。また、顔料全体についても、塗料固形分に対して7質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。顔料の含有量が過度に多い場合には、塗膜のプレス加工性が著しく低下することが懸念され、顔料の含有量が過度に少ない場合には、塗膜の隠蔽性が損なわれたり平面部耐食性が低下したりすることが懸念される。
【0071】
(3)その他の成分
上記のバインダー成分および顔料以外に着色塗膜中に含まれる成分として、レベリング剤、樹脂粒子、溶接性や電磁波シールド性を向上させるための導電粉、耐候性を改善するのに有効な紫外線吸収剤および光安定剤、プレス加工性の改善に有効なワックス等が挙げられ、これらを必要に応じて適宜含有させてもよい。
【0072】
これらの中でも、着色塗膜は樹脂粒子を含有することが好ましい。この樹脂粒子は、プレス加工時に着色塗膜と金型との接触面積を減らし、潤滑性を向上させる役割と、着色塗膜と金型とが直接接触して塗膜が傷つくことを抑制する役割を有する。樹脂粒子の種類としては、アクリル樹脂ビーズ、PTFE樹脂等が挙げられる。これら樹脂粒子は、主樹脂であるポリエステル、ウレタン樹脂よりも硬度が高く、かつTgも高いために、連続プレス時に金型が高温になった際も安定した潤滑性と塗膜保護が可能である。樹脂粒子の平均粒径としては、特に制限はないが、好ましくは、塗膜厚の2倍以内であることが好ましい。2倍以上であれば、プレス加工時に樹脂粒子が欠落しやすくなる。このため、着色塗膜に傷を付ける可能性、および塗装時にロールギャップを通過しない可能性が高まる。なお、アクリル樹脂、PTFE樹脂に関しては、プレス条件にもよるが、2種類共に塗料中に添加することが好ましい。樹脂粒子の添加量としては、塗料固形分に対して、0.5質量%以上15質量%未満、より好ましい範囲としては、1質量%以上10質量%未満である。また、金型との潤滑性を向上させる手法としては、上記樹脂に加え、ポリオレフィン系、マイクロクリスタリン等の低Tgのワックス樹脂を添加しても良い。
【0073】
(4)着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度
着色塗膜は、加工性を維持する観点から、着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度(Tg)を30℃以下とすることが好ましい。一方、Tgの下限に関し、Tgが過度に低い場合には耐疵付き性などが低下することが懸念される。このため、Tgを0℃以上とすることが好ましい。
【0074】
なお、Tgは次のような方法で測定される。TMA(熱機械測定装置)を用い、測定対象である着色塗膜の表面から塗膜厚み方向に針を刺し、一定の温度変化をさせて、測定対象物の熱膨張変化を測定し、ガラス転移点温度(Tg)を測定する。これにより着色塗膜の表面だけではなく、塗膜厚み方向のTgを測定することができる。なお、TMAの具体的な測定方式には多数あり、例えば示差膨張方式のTMAが例示されるが、測定方式によりTgの測定数値が大きく変動することはないため、いずれの方式のTMAを用いてもよい。
【0075】
(5)塗膜厚
着色塗膜の膜厚に関しては、2μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。2μm未満では、塗膜の隠蔽性が劣るほか、平面部の耐食性も低下することが懸念され、15μm以上あるとコスト面において不利となる。
【0076】
なお、着色塗膜の色調によって特に好ましい塗膜厚の範囲は変化する。例えば、白色系(L値が80以上)の塗膜では、色調安定性、隠蔽性などを考慮すると10μm以上が特に好ましく、さらに加工性と塗膜硬度のバランスを考慮すると10μm以上15μm以下の範囲であることがより好ましい。一方、黒色系(L値が80未満)の塗膜では、白色系塗膜と比較して薄膜でも色調が安定しているため、2μm以上10μm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0077】
4.溶媒・分散媒
化成処理皮膜を形成するための処理液、および着色塗膜を形成するための着色塗料における溶媒・分散媒は、水を主成分とする。溶質・分散質の溶解・分散を良好にするために、水に対する溶解度が高い有機溶媒、例えばアルコール、エーテル、ケトンなどを水とともに使用してもよいが、環境保護の観点からは、これらの有機溶媒の使用量は可能な限り少なくすることが好ましい。
【0078】
5.製造方法
本実施形態に係る着色塗膜の製造方法は特に限定されない。まず、常法にしたがって、基板に上記の化成処理液を接触させ、引き続いてこれを焼き付けて化成処理皮膜が表面に形成された金属板を得る。基板と化成処理液との具体的な接触方法として、浸漬、スプレー、ロールコートなどが例示される。次に、上記の構成成分を適切な媒体に溶解・分散させて得た着色塗料を、化成処理皮膜が形成された金属板の上に任意の方法で所定の厚さで塗布し、化成処理皮膜上に塗料が膜状に形成された金属板を得る。具体的な塗布方法として、浸漬、スプレー、ロールコート、ドクターブレードによるコーティングが例示される。続いて、この塗料層が形成された金属板の焼付けを行って、媒体を揮発させるとともにバインダー成分を硬化させて、固体の着色塗膜を備える金属板とすればよい。
【0079】
化成処理皮膜および着色塗膜の焼付け温度は、化成処理液、着色塗料の組成や求められる特性に応じて最適な温度を適宜選択すればよい。
化成処理皮膜の焼き付け温度に関しては、PMT(基板の最高到達温度)で80℃以上であり、皮膜が乾燥すれば、一般的には十分な耐食性、導電性、塗膜密着性等の要求性能を満足する。
【0080】
一方、着色塗膜の焼き付け温度に関しては、PMTで170℃以上であることが好ましい。170℃以下であると、塗膜の架橋開始温度に十分に達していないため着色塗膜が未硬化な状態になる可能性がある。
【0081】
これらの焼付け時間は、焼付け温度との兼ね合いで適宜選択すればよい。
なお、本実施形態の塗装鋼板上に、さらに付加機能を有するクリア塗料および/または着色塗料を塗布してもよい。そのような塗料を塗布することで、従来の2コート2ベークや3コート3ベークの塗装工程で、従来の塗装鋼板の性能を有し、かつ新たな性能を有する塗装鋼板を安価で製造することが可能となる。付加機能としては、光触媒機能等を有する耐汚染性、防臭、消臭性等が挙げられるが、これに限らない。
【0082】
6.プレス加工
上記の工程により得られた本実施形態の着色塗膜を備える塗装金属板は、着色塗膜が硬質であるためプレス加工において着色塗膜が金型に凝着しにくい。特に、バインダー成分が硬化触媒を有する場合には、表面部が硬質で内部が相対的に軟質な塗膜となるため、優れたプレス加工性が安定的に得られる。したがって、かかる着色塗膜を備える金属板をプレス加工して得られる筐体は、形状精度に優れ、しかも加工不良、例えばカジリ現象の発生による生産の中断が生じにくいため、生産性が高い。よって本実施形態に係る塗装金属板を用いてなる筐体は経済性にも優れる。
【0083】
また、上記の着色塗膜をおもて面とすれば、かかる筐体は平面部耐食性および端面耐食性に優れ、かつ塗膜が硬質であるため、多様な用途に好適に使用可能である。さらに、用途に応じてうら面の化成処理皮膜および/または着色塗膜の構成を選択すれば、それぞれの用途に特に適した筐体を得ることが実現される。具体的には、うら面に、おもて面の着色塗膜と同一構成の塗膜を形成すれば、両面が良好な耐食性を有しているため、屋外、半屋外等苛酷な環境に置かれる製品の筐体に適した、特に優れた耐食性を有する塗装金属板が得られる。一方、うら面に、導電性を有する1層または2層の化成処理皮膜層を形成すれば、薄型TV用途等の屋内に設置される家電製品、電子・電気機器の筐体に適した塗装金属板が得られる。
【0084】
しかも、一般的なおもて面に用いられる塗膜は、化成処理皮膜以外に複数の塗膜が基材上に積層された構成の場合が多いため、このような積層塗膜を備える塗装金属板に比べて、本実施形態に係る着色塗膜は単層構成であるから、塗装金属板の生産性が高い。この観点からも、かかる塗装金属板を用いてなる筐体は経済性に優れる。
【0085】
上述したところは、本発明の実施形態の一つについて一例を示したにすぎず、本発明の基本的な機能を発揮できる限り、種々の変更を加えることができる。
【0086】
II.第二の実施形態
続いて、本発明の第二の実施形態について説明する。
【0087】
前述のように、第二の実施形態に係る塗装金属板では、プレス加工時に潤滑油が着色塗膜の表面に塗布されることを前提として、その潤滑油によって着色塗膜の特性が低下しないようにして、潤滑油によるプレス加工性の向上を最大限利用する。
【0088】
第一の実施形態に係る塗装金属板のように、着色塗膜が単独で優れたプレス加工性を有する場合は別として、塗装金属板がプレス加工性を高度に達成できていない場合には、プレス金型および/または塗装金属板の表面に速乾油等の潤滑油を塗布し、金型と塗装金属板との間に潤滑層を形成しつつプレス金型を行うことが多い。また、塗装金属板の洗浄を目的として、有機溶剤がその表面に塗布されることもある。このような場合には、塗装金属板が有機溶剤に対して溶解しにくい性質(以下、「耐溶剤性」という。)を有していないと、塗装金属板の表面性状が変化し、外観や機械的、化学的な特性が劣化してしまうおそれがある。このため、塗装金属板においては、耐溶剤性を有することも重要な課題の一つであり、本実施形態に係る塗装金属板はこの耐溶剤性に優れている。
【0089】
本実施形態の塗装金属板は、金属板と、この金属板の少なくとも一方の面上に形成された1層の無機被覆層または無機有機複合被覆層からなる化成処理皮膜と、この化成処理皮膜上に形成された1層の着色塗膜とを備え、この着色塗膜は、吸油量が50ml/100g以上1000ml/100g以下であって平均粒径が10μm以下であるシリカを、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含み、かつ、着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のウレタン樹脂である。
【0090】
以下、本実施形態に係る着色塗膜を中心に説明し、基材金属板、化成処理被膜、溶媒・分散媒、製造方法、およびプレス加工については、第一の実施形態と同じであるから説明を簡略化する。
【0091】
1.基材金属板
本実施形態の塗装金属板に用いられる板状の基材は第一の実施形態と同様、特に制限されない。また、亜鉛系めっき鋼板を用いた場合の、付着量における好適条件や、用途に応じた好ましいめっき種類についても、第一の実施形態と同様である。
【0092】
2.化成処理皮膜
本実施形態においても、第一の実施形態と同様に、基材をなす金属板、例えば亜鉛系めっき鋼板の両面に、本発明に従って1層以上の化成処理皮膜層を形成する。化成処理皮膜は、環境の観点より、クロムを全く含有しない化成処理皮膜とする。この化成処理皮膜は、主として、基材の表面、基材が亜鉛系めっき鋼板の場合にはめっき層と着色塗膜層の密着性を確保するものであればどのような組成でもかまわないが、密着性に加え、耐食性を向上させるものがより好ましい。
【0093】
一方、うら面についても、金属板の表面には化成処理皮膜が形成されていることが好ましい。うら面の化成処理皮膜の付着量は、第一の実施形態と同様に、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0094】
3.着色塗膜
本実施形態に係る着色塗膜は、第一の実施形態に係る着色塗膜と同様に、バインダー成分、顔料、および樹脂粒子などの他の成分から構成され、第一の実施形態に係る着色塗膜とは、バインダー成分が異なる。そこで、主としてこのバインダー成分を説明し、顔料およびその他の成分については説明を簡略化する。
【0095】
(1)バインダー成分
本実施形態に係るバインダー成分は、第一の実施形態と同様に、バインダーの主成分であるバインダー樹脂、硬化剤、およびその他の成分から構成される。
【0096】
A)バインダー樹脂
本実施形態に係るバインダー樹脂は、主樹脂が水溶性または水分散のウレタン樹脂であり、これは2つの態様、すなわち、水溶性または水分散のウレタン樹脂単独、およびこの樹脂を主樹脂とし、水溶性または水分散のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等をブレンドした樹脂系、を含む。
【0097】
主樹脂をなす水溶性または水分散のウレタン樹脂の形態としては、分子量が100000未満であることが好ましい。分子量が100000以上であると樹脂自体の結合サイトが低下するため化成処理皮膜と優れた密着性を確保するのが困難になることが懸念される。
【0098】
ウレタン系樹脂の粒子径は特に限定されないが、粒子径が過度に小さいものはコスト高になることが懸念される。一方、粒子径が過度に大きいものは、塗膜化した際にエマルジョン同士の隙間が大きくなり塗膜としてのバリア性が低下するが懸念される。したがって、10nm以上100nm以下とすることが好ましく、より好ましい範囲としては、20nm以上60nm以下である。
【0099】
また、ウレタン系樹脂の樹脂タイプも特に限定されず、エーテル系、ポリカーボネイト系、エステル系、アクリルグラファイトタイプが例示される。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、ブレンド系を用いてもよい。なお、ウレタン樹脂単独でのガラス転移温度Tgとしては、0℃以下である。
【0100】
ウレタン樹脂にブレンド可能な水系ポリエステル樹脂の好ましい形態としては、分子量として、5000以上30000以下、より好ましい範囲としては、8000以上25000以下である。
【0101】
B)硬化剤
硬化剤は水溶性のものを用いることが好ましく、具体的には、メラミンを用いることが好ましい。硬化剤の添加量は、樹脂固形分100質量部に対して5質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。
【0102】
C)硬化触媒
本実施形態に係るバインダー成分は、硬化触媒を含んでいてもよい。硬化触媒の役割は、硬化剤、好ましくはメラミンを着色塗膜の表面に濃化させることにある。表面に硬化剤が濃化されることで、表面近傍の着色塗膜は耐溶剤性および耐薬品性が向上する。しかも、着色塗膜が後述する樹脂粒子を含有する場合には、表面に濃化した硬化剤によって塗膜表面の硬度が上昇し、プレス加工時に樹脂粒子が欠落しにくくなる。
【0103】
さらに、表面に硬化剤が濃化することで、着色塗膜の表面部は硬質であるが塗膜内部は相対的に軟質となる構成が実現される。このため、塗膜硬度および加工性の両立が可能となることに加え、着色塗膜の表面部の硬質な部分において水分など着色塗膜の平面部耐食性を低下させる物質が塗膜内に進入することが抑制されるとともに、プレス加工時にプレス性を向上するために塗油した際、摺動抵抗が高まることを抑制すると共に、プレス油が塗膜表面に浸入し着色塗膜にダメージを与えることを抑制する。したがって、1層の着色塗膜でありながら平面部耐食性、プレス加工性および塗膜硬度をバランスよく向上させることが実現される。
【0104】
外観の不具合の発生を抑制しつつ上記の効果を得る観点から、硬化触媒の添加量を着色塗料100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下とすることが好ましい。
また、第二の実施形態に係る着色塗膜では、第一の実施形態に係る着色塗膜に比べて、一般的な傾向として、硬化触媒による表面部の硬質化が進行しやすい。この硬質化が過度に進行すると、プレス加工などの二次加工時に基材金属板の変形に表面部が追随できなくなり、着色塗膜の割れが発生する可能性がある。したがって、第一の実施形態の場合に比べると、硬化触媒の添加量は、その種類によらず、低めに設定することが特に好ましい。具体的には、塗料100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下とすることが特に好ましい。
【0105】
なお、第一の実施形態と同様、硬化触媒としては、ドデシルベンゼンスルフォン酸または、パラトルエンスルフォン酸が適している。これらの触媒についてはアミンブロック化された触媒を用いてもかまわない。
【0106】
(2)顔料
本実施形態に係る着色塗膜に含有される顔料も、第一の実施形態と同様に、防錆顔料および着色顔料を含み、必要に応じ、熱放射性などの他の機能を有する顔料も含有される。好適な防錆顔料および着色顔料の種類、含有量などについては第一の実施形態と同様である。すなわち、着色塗膜の表面の耐食性を高める観点から、吸油量が50ml/100g以上1000ml/100g以下であって平均粒径が10μm以下であるシリカを、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含有する。
【0107】
(3)その他の成分
着色塗膜中に含まれる成分としては、上記のバインダー成分および顔料以外に、レベリング剤、樹脂粒子、溶接性や電磁波シールド性を向上させるための導電粉、耐候性を改善するのに有効な紫外線吸収剤および光安定剤、プレス加工性の改善に有効なワックス等が挙げられ、これらを必要に応じて適宜含有させてもよい。これらの中でも着色塗膜が樹脂粒子を含有することが第一の実施形態と同様に好ましく、好適な樹脂粒子の種類や種類、含有量などについても、第一の実施形態と同様である。
【0108】
(4)着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度
着色塗膜は、加工性を維持する観点から、塗膜中主樹脂のガラス転移点温度(Tg)が0℃以下とすることが好ましく、−10℃以下であればさらに好ましい。一方、Tgの下限は特に限定されないが、一般的に市場で入手可能な材料のTgは−35℃以上である。
【0109】
(5)塗膜厚
着色塗膜の膜厚に関しては、2μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。2μm未満では、塗膜の隠蔽性が劣るほか、平面部の耐食性も低下することが懸念され、15μm以上あるとコスト面において不利となる。
【0110】
なお、着色塗膜の色調によって特に好ましい塗膜厚の範囲は変化する。例えば、白色系(L値が80以上)の塗膜では、色調安定性、隠蔽性などを考慮すると10μm以上が特に好ましく、さらに加工性と塗膜硬度のバランスを考慮すると10μm以上15μm以下の範囲であることがより好ましい。一方、黒色系(L値が80未満)の塗膜では、白色系塗膜と比較して薄膜でも色調が安定しているため、2μm以上10μm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0111】
4.溶媒・分散媒
化成処理皮膜を形成するための処理液、および着色塗膜を形成するための着色塗料における溶媒・分散媒は、第一の実施形態と同様に、水を主成分とする。溶質・分散質の溶解・分散を良好にするために水に対する溶解度が高い有機溶媒を使用してよい点も第一の実施形態と同様である。
【0112】
5.製造方法
第一の実施形態と同様、本実施形態に係る着色塗膜の製造方法は特に限定されない。また、化成処理皮膜および着色塗膜の焼付け温度の好適条件も第一の実施形態と同様であるから説明は省略する。
【0113】
6.プレス加工
本実施形態の着色塗膜を備える塗装金属板は優れた耐溶剤性を有しているため、プレス加工において潤滑油の使用量を制限する必要がない。このため、プレス加工において加工不良、例えばカジリ現象の発生による生産の中断が生じにくい。したがって、本発明に係る塗装金属板を用いてなる筐体などのプレス加工品は、生産性が高く、しかも形状精度が劣化しにくい。したがって、本実施形態に係る塗装鋼板を用いることで、品質および経済性に優れた筐体を提供することが実現される。
【0114】
また、上記の着色塗膜をおもて面とすれば、かかる筐体は平面部耐食性および端面耐食性に優れるため、多様な用途に好適に使用可能である。特に、第一の実施形態と同様に、うら面を適切に選択すれば、屋外用途に適した筐体、または家電製品、電子・電気機器用途に適した筐体を得ることが可能である。
【0115】
さらに、第一の実施形態と同様に、比較的簡素な塗膜構成であるため、この観点からも本実施形態に係る筐体は経済性に優れる。
上述したところは、本発明の実施形態の一つについて一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0116】
1.鋼板サンプルの作製
基材の亜鉛系めっき鋼板として、以下に示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)の3種類を使用した。鋼板はいずれも250×300mmのサイズであった。
【0117】
i)GA:めっき付着量(片面あたり):30g/m
ii)EG:めっき付着量(片面あたり):20g/m
iii)GI:めっき付着量(片面あたり):45g/m
各基材めっき鋼板の両面に、常法に従ってアルカリ脱脂及び水洗を行った後、下記に示す行程を行い、塗装鋼板を作製した。
【0118】
(1)化成処理液
化成処理液については、市販の薬液(日本ペイント(株)製 EC2330)を用いた。この薬液は、シランカップリング剤、気相シリカ、V系化合物、Zr系化合物、ウレタン樹脂等を含む無機有機複合化成処理液である。
【0119】
(2)着色塗料
使用した水分散または水溶性樹脂に関しては、表1記載のとおりである。
【0120】
【表1】

【0121】
これらの樹脂を単独または複数ブレンドし、さらにメラミン系の硬化剤(住友化学(株)製 スミマールM−50W)を添加して、表2に示されるベース樹脂を作製した。
【0122】
【表2】

【0123】
表2記載のベース樹脂に、各種顔料等を加え、表3記載の塗料を作製した。
【0124】
【表3】

【0125】
上記いずれの塗料についても、塗料100gに対して、硬化触媒(三井サイテック社製キャタリスト4050)を0.2g添加した。
なお、表3の顔料等の欄における表示は次の成分を意味する。
【0126】
A)シリカ:富士シリシア化学(株)製 サイロマスク(Ca0%タイプ)、吸油量100ml/100g以上、平均粒径2.09μm、
B)トリポリ:テイカ(株)製 縮合リン酸アルミK−WHITE G105、吸油量100ml/100g未満、
C)リンマグ:東邦顔料工業(株)製 亜リン酸マグネ EXPERT NP−1020、吸油量100ml/100g未満、
D)ビーズ:平均粒径8μmのアクリル樹脂ビーズ、
E)CB:三菱化学(株)製カーボンブラック MA100、
F)チタニア:石原産業(株)製チタニア タイペークCR95、
G)マイカ:平均粒径8μmのマイカ、
H)アルミ:平均粒径10μmのアルミフレーク、
I)ワックス:PTFE、ポリエチレンワックスを1:1にブレンド(不揮発分40%)。
また、PWCの欄は、これらの顔料等の塗料固形分に対する含有量(単位:質量%)を示している。
【0127】
(3)おもて面(意匠面)のサンプル作製
上記の化成処理薬液を作製し、めっき鋼板上にバーコーターを用いて塗布し、10秒で、板の最高到達温度(PMT)が80℃になるように加熱し、おもて面の化成処理皮膜を形成した。
【0128】
次に表3に記載の着色塗料を用い、化成処理皮膜が形成された鋼板サンプルにバーコーターを用いて塗布し、板の到達温度が50秒で180℃となるように加熱し、おもて面の上塗り塗膜を形成した。溶剤の添加、バーコーター番手変更をすることで膜厚調整を行い、8μmの膜厚を得た。
【0129】
2.評価方法
(1)摺動性
プレス加工性の代用特性として、ピンオンディスク型摩耗試験器を用い塗膜の摺動性を評価した。試験条件は次のとおりであった:
ピン先端形状 : 半径3/16inchの球形状、
ディスクにおけるピン接触位置 : 中心から10mm、
温度 : 75℃、
加重 : 30N、
回転速度 : 1rpm、
回転数 : 15周。
【0130】
15周回転させた後のディスク表面を目視で観察し、下記の判定基準で評価した。○を合格とした:
○ : 塗膜カジリ無し、
× : 塗膜カジリ有り。
なお、「塗膜カジリ」とは、塗膜のピンへの凝着、塗膜の局所的な割れなどによって、摺動面の面性状が著しく低下した状態をいう。
【0131】
(2)耐食性
70mm×150mmサイズの試験辺の4辺をシールし、JIS2371に指定された条件で塩水噴霧試験を実施し、試験後サンプルの平面部の腐食面積率を求めて評価した。判定基準は下記の通りであり、◎および○を合格とした:
◎ : 240時間後白錆発生無し、
○ : 120時間後白錆発生無し、
× : 120時間後白錆発生有り。
【0132】
(3)曲げ加工性
試験片に対して0T折り曲げ試験(23℃)を行い、180°密着曲げ塗膜についてクラック発生有無について10倍ルーペを用いて調査した。評価基準は下記のとおりであり、○を合格とした:
○ : クラックなし、
× : クラックあり。
【0133】
(4)耐溶剤性
各種溶剤を染みこませたフェルトを荷重1kgで100回摺動させ、摺動後のフェルトおよび塗膜の状態を目視で観察した。判定基準は下記のとおりであり、○を合格とした:
○ : 塗膜の溶解が観察されない、
× : 塗膜の溶解が観察されない。
【0134】
3.評価結果
評価結果を表4および5に示す。
【0135】
【表4】

【0136】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、当該金属板の少なくとも一方の面上に形成された1層の無機被覆層または無機有機複合被覆層からなる化成処理皮膜と、当該化成処理皮膜上に形成された1層の着色塗膜とを備え、当該着色塗膜は、吸油量が50ml/100g以上1000ml/100g以下であって平均粒径が10μm以下であるシリカを、塗料固形分に対して5質量%以上15質量%未満含み、かつ、前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂またはウレタン樹脂であることを特徴とする塗装金属板。
【請求項2】
前記着色塗膜中の顔料の総量が塗料固形分に対して7質量%以上40質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記着色塗膜の膜厚が2μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂であって、その着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度が0℃以上30℃以下で、分子量が10000以上30000以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗装鋼板。
【請求項5】
前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のポリエステル樹脂であって、当該着色塗膜を形成するための塗料が塗料100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下の硬化触媒を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の塗装鋼板。
【請求項6】
前記着色塗膜の主樹脂が水溶性または水分散のウレタン樹脂であって、その着色塗膜中の主樹脂のガラス転移点温度が0℃以下で、分子量が100000未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗装鋼板。
【請求項7】
前記着色塗膜中に硬化剤として水溶性メラミンを樹脂固形分に対して5質量%以上30質量%以下含み、かつ硬化触媒を前記着色塗料100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の塗装鋼板。
【請求項8】
前記無機被覆または無機有機複合被覆により形成される皮膜の付着量が、20mg/m以上1000mg/m以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の塗装鋼板。
【請求項9】
前記金属板が亜鉛を含むめっき鋼板であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の塗装鋼板。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の塗装金属板を着色塗膜が形成された面が外側になるように用いてなることを特徴とする筐体。

【公開番号】特開2010−247396(P2010−247396A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97794(P2009−97794)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】