説明

塗装金属板

【課題】 耐傷つき性と耐雨だれ汚染性の双方に優れる塗装金属板を提供する。
【解決手段】 本発明の塗装金属板は,植物系繊維を1〜40質量%含有する皮膜を最上層とする塗膜を,下地金属板の少なくとも片面に有し,植物系繊維の径が皮膜の厚みの80%以下で,かつ,植物系繊維の長さが皮膜の厚みの100倍以下であることを特徴とする。上記植物系繊維としては,靭皮繊維,葉脈繊維,果実繊維及び種子毛繊維からなる群から選択される少なくとも1種が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,屋根や壁等の屋外建材分野に好適な耐傷つき性と耐雨だれ汚染性の双方に優れた塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板に塗装を施し,意匠性や耐食性等の機能を付与した塗装金属板は,例えば屋根や壁等の建材等の分野で幅広く使用されている。
【0003】
これら塗装金属板は,様々な加工成形を経て屋根材や壁材となるため,加工成形時に塗膜表面に傷が付かない,いわゆる耐傷つき性が必要とされていた。一方,実際に屋根や壁として使用される際には,塗膜表面に雨筋がつかない,いわゆる耐雨だれ汚染性が必要とされていた。
【0004】
耐傷つき性を改善する技術としては,主として,塗膜を構成する樹脂自体の硬度を上げることにより塗膜の硬度を上げる方法と,塗膜に硬度の高い物質を添加することにより塗膜の硬度を上げる方法とが使用されてきた。例えば,特許文献1に,薄片状のガラスを添加したプレコート鋼板用塗料が開示されている。この技術は,塗膜に硬度の高い薄片状のガラスを添加することにより,塗膜の硬度を上げて,耐傷つき性を改善したものである。確かに,この技術によれば塗膜の耐傷つき性は改善されるものの,耐汚染性は改善されなかった。
【0005】
一方,耐汚染性を改善する技術としては,例えば,特許文献2に,塗料中にメチルシリケートやエチルシリケート等の有機シリケート化合物を添加する技術が開示されている。この技術は,塗装時に有機シリケート化合物が表面で濃化し,その後,加水分解を起こすことにより,表面に親水性のシラノール基が形成されることを利用したものである。雨だれ汚染の原因となる油性の汚れは,このような親水性の塗膜表面と強固に結合することができず,雨水が親水性の塗膜表面に均一に広がって流れる際に雨水と一緒に洗い流される,いわゆるソイルリリース効果により,耐雨だれ汚染性が改善されるものである。確かに,この技術によれば塗膜の耐雨だれ汚染性は改善されるものの,耐傷つき性が不十分であり,厳しいロールフォーミング時に塗膜表面に傷がつくという問題は解消されていなかった。また,耐雨だれ汚染性も,塗膜表面のシラノール基が存在する間は保持されるものの,長期間にわたり屋外で使用した結果,塗膜が劣化して表面のシラノール基層が失われると,もはや耐雨だれ汚染性は示さないという問題もあった。
【0006】
以上述べたように,耐傷つき性と耐雨だれ汚染性の双方を同時に満足する塗装金属板は存在しない,という問題があった。
【0007】
【特許文献1】特公昭51−8128号公報
【特許文献2】特開平10−324845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたものであり,その目的は,耐傷つき性と耐雨だれ汚染性に優れた,新規かつ改良された塗装金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に,塗膜の耐傷つき性改善には,塗膜中に剛性の高い物質を添加すれば良いことが従来から知られており,一方,耐雨だれ汚染性改善には,表面を親水性にし,屋外環境で長期間にわたって親水性表面を保持すれば良いことが従来から知られていた。
【0010】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,耐傷つき性改善と耐雨だれ汚染性改善の両方を満たす物質として,植物系繊維が最適であることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には,本発明者らは,植物系繊維は適度な剛性を有しているため,塗膜の耐傷つき性を改善することができ,さらに,従来から使用されてきた薄片状ガラスより比重が軽く,塗膜の表面に浮いた状態で存在するため,効率的に耐傷つき性を付与できることを見出した。
【0012】
一方,本発明者らは,耐雨だれ汚染性の面では,植物系繊維を構成する分子がセルロースを主体としているため,ソイルリリース効果を発揮する親水性の水酸基を多数有しており,なおかつ,比重が軽いために塗膜表面に効率的に存在する特徴を有し,優れた耐雨だれ汚染性を付与できることを見出した。さらに,本発明者らは,従来から使用されてきた最表層に親水性のシラノール基を形成させる方法よりも,内部まで植物系繊維が分布するため,塗膜が劣化して最表層が消失しても内部に存在する植物系繊維により,耐雨だれ汚染性が維持されることを見出した。
【0013】
すなわち,本発明は,植物系繊維が適度な剛性を持つこと,その基本構造がセルロースで親水性の水酸基を多く持つこと,その比重が軽く塗膜表面に浮いた状態で存在し易いこと,という特徴を利用したものである。
【0014】
かかる特徴を有する本発明の趣旨とするところは,以下のとおりである。
(1) 植物系繊維を1〜40質量%含有する皮膜を最上層とする塗膜を,下地金属板の少なくとも片面に有し,上記最上層の皮膜の厚みをA,植物系繊維の径をS,植物系繊維の長さをLとしたとき,下記数式1及び2の条件を満足することを特徴とする,塗装金属板。
S≦0.8A ・・・(数式1)
L≦100A ・・・(数式2)
(2) 上記最上層の皮膜の厚みAは,5μm以上5mm以下であることを特徴とする,(1)に記載の塗装金属板。
(3) 植物系繊維は,靭皮繊維,葉脈繊維,果実繊維及び種子毛繊維からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする,(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(4) 靭皮繊維は,ジュート系繊維及びケナフ系繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする,(3)記載の塗装金属板。
(5) 上記最上層の皮膜の表面に,水酸基を有することを特徴とする,(1)〜(4)のいずれかに記載の塗装金属板。
(6) 上記最上層の皮膜は,生分解性有機物を含むことを特徴とする,(1)〜(5)のいずれかに記載の塗装金属板。
(7) 下地金属板は,めっき鋼板であることを特徴とする,(1)〜(6)のいずれかに記載の塗装金属板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,耐傷つき性と耐雨だれ汚染性の双方に優れる塗装金属板を提供することができる。したがって,本発明に係る塗装金属板は,屋根や壁等の建材用の塗装金属板として特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る塗装金属板は,植物系繊維を1〜40質量%含有する皮膜を最上層とする塗膜を下地金属板の少なくとも片面に有し,上記最上層の皮膜の厚みをA,植物系繊維の径をS,植物系繊維の長さをLとしたとき,下記数式1及び2の条件を満足することを特徴とするものである。
【0018】
S≦0.8A ・・・(数式1)
L≦100A ・・・(数式2)
【0019】
皮膜中の植物系繊維の含有量を1〜40質量%に限定したのは,1質量%未満では,植物系繊維を添加した効果が見られず,耐傷つき性と耐雨だれ汚染性の双方が不十分である。一方,40質量%超では,皮膜中の植物系繊維の占める割合が多くなり過ぎて,相対的に樹脂成分が少なくなるため,厳しい加工成形時に塗膜が剥離するおそれがある。皮膜中の植物系繊維のより好ましい添加量の範囲は,5〜30質量%である。
【0020】
植物系繊維の径(S)を皮膜の厚み(A)の80%以下としたのは,80%超となると,厳しい加工成形時に塗膜割れを生じるからである。同様に,植物系繊維の長さ(L)を皮膜の厚み(A)の100倍以下としたのは,100倍超となると,厳しい加工成形時に塗膜割れを生じるからである。より好ましい植物系繊維の径は,皮膜の厚みの40%以下,より好ましい植物系繊維の長さは,皮膜の厚みの10倍以下である。
【0021】
植物系繊維の径及び長さの下限は特に定めていないが,植物系繊維が天然物由来であるため,あまりに小さいものは得られ難く,径は5μm程度,長さは20μm程度が,実用上の下限となる。
【0022】
植物系繊維を含有する最上層の皮膜の厚み(A)は,特に限定されるものではないが,好ましくは5μm以上5mm以下である。5μm未満では,植物系繊維の形状によって塗膜の外観が若干劣るようになり,5mm超では,耐傷つき性と耐汚染性の効果が飽和するため,経済的ではない。
【0023】
本実施形態の植物系繊維は,特に限定されるものではなく,天然物由来の植物繊維及びその加工品を使用することができる。例えば,ジュート系繊維,ケナフ系繊維,フジ系繊維,亜麻系繊維,ラミー系繊維,大麻系繊維等の靱皮繊維,マニラ麻系繊維,サイザル麻系繊維,ニュージーランド麻系繊維等の葉脈繊維,ヤシ果実系繊維等の果実系繊維,綿系繊維,カポック系繊維等の種子毛繊維等が挙げられる。中でも好適なのは,靱皮繊維であり,特に好適なのは,ケナフ系繊維とジュート系繊維である。特に,ケナフは,植物としては最高レベルの炭酸ガス吸収能力を有しており,近年,地球温暖化対策のために,世界各国で栽培が行われるようになっているものであるが,有効な利用方法が未だ無かった。したがって,本発明は,ケナフの有効利用方法としても意味がある。
【0024】
本実施形態の植物系繊維を含有する最上層の皮膜表面に水酸基を存在させることで,より効率的に耐雨だれ汚染性を付与することができる。これは,水酸基と植物系繊維の親水性との相乗効果によるものである。また,水酸基を表面に形成させた塗装金属板は従来から公知であり,この公知の塗装金属板の耐傷つき性を,添加した植物系繊維により改善することができる。
【0025】
水酸基を存在させる方法は,特に限定されるものではなく,公知の方法を適用することができる。例えば,エチルシリケートやメチルシリケート等の有機ケイ素化合物を含有する塗料を使用する方法を挙げることができる。これらの塗料を使用すると,表面にメトキシ基やエトキシ基等のアルコキシド基が配向し,さらに加水分解作用を受けて,ケイ素に水酸基が結合したシラノール基が形成される。
【0026】
最上層の皮膜表面における水酸基の存在量は,特に限定されるものではないが,シラノール基による場合は,塗料中の全固形分に対して1〜30質量%の有機ケイ素化合物を含有する条件が好適である。1質量%未満では,表面に水酸基(シラノール基)を形成させた効果が見られず,一方,30質量%超では,塗料の粘度が高くなるため,塗装し難くなったり,塗膜の光沢の低下が起きたりするため,好ましくない。有機ケイ素化合物と同様に,有機チタン化合物や有機ジルコニウム化合物を適用することもできる。
【0027】
また,本実施形態の植物系繊維を含有する最上層の皮膜を生分解性有機物を使用して形成することで,より効率的に耐雨だれ汚染性を付与することができる。これは,生分解性有機物の親水性と植物系繊維の親水性との相乗効果によるものである。また,植物系繊維の添加により,生分解性有機物単独の場合よりも優れた耐傷つき性となる。
【0028】
また,生分解性有機物は,自然環境で分解する特徴を有するので,皮膜が生分解生有機物を含む本塗装金属板は,不法投棄された場合においても,公知の塗装金属板のように皮膜を構成する有機樹脂が半永久的に残るのではなく,皮膜が分解し,さらに添加物も植物系繊維であるので,地球環境に優しい塗装金属板と言える。
【0029】
生分解性有機物としては,特に限定されるものではなく,公知のものを適用することができる。例えば,ポリヒドロキシブチレート系に代表される微生物生産系生分解性有機物,脂肪族ポリエステル系やポリ乳酸系に代表される化学合成系生分解性有機物,ポリブチレンサクシネートアジペートに代表されるサクシネート系,酢酸セルロースに代表される天然物系生分解性有機物を挙げることができる。最上層の皮膜中の生分解性有機物の存在量は,特に限定されるものではないが,生分解性有機物を含める場合には,生分解性を期待して,非生分解性有機物に対して,同等量以上の構成比とすることが好ましい。
【0030】
上記,生分解性有機物以外に,本実施形態の塗装金属板に使用する塗料の樹脂は,特に限定されるものではなく,通常,塗料用樹脂として使用されているものを適用することができる。例えば,高分子ポリエステル系樹脂,ポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,ウレタン系樹脂,フッ素系樹脂,またはこれらの変性樹脂等の樹脂成分を,ブチル化メラミン,メチル化メラミン,ブチルメチル混合メラミン,尿素樹脂,イソシアネートやこれらの混合系の架橋成分により架橋させたものを使用しても良い。また,電子線硬化型のものや紫外線硬化型のもの,熱硬化型のものや熱可塑型のもの等を使用しても良い。
【0031】
本実施形態の植物系繊維を含有するフィルムを作製し,フィルム状態で金属板にラミネート塗装することも可能である。ラミネートに適した樹脂としては,フッ素樹脂,アクリル樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられ,一般に使用されている接着剤やコロナ放電処理を併用しても良い。
【0032】
本実施形態の塗装金属板は,通常の塗料に使用されている着色顔料や染料等の着色剤を使用して着色しても良い。着色剤は,特に限定されるものではない。着色剤としては,無機系,有機系,両者の複合系に関わらず公知のものを使用することができ,例えば,チタン白,亜鉛黄,アルミナ白,シアニンブルー等のシアニン系顔料,ピラゾロンオレンジ,アゾ系顔料,紺青,縮合多環系顔料,金属片・粉末,パール顔料,マイカ顔料等の光輝性顔料,インジゴイド染料,硫化染料,フタロシアニン染料,ジフェニルメタン染料,ニトロ染料,アクリジン染料等が挙げられる。着色剤の濃度は特に限定されず,必要な色や隠蔽力によって決定すれば良い。
【0033】
さらに,着色剤以外にも,塗料に通常添加されているものであれば,問題なく添加できる。例えば,炭酸カルシウム,タルク,石膏,クレー等の体質顔料,その他の有機架橋微粒子及び/又は無機微粒子等が添加されていても良い。また,必要に応じて,表面平滑剤,紫外線吸収剤,ヒンダードアミン系光安定剤,粘度調整剤,硬化触媒,顔料分散剤,顔料沈降防止剤,色別れ防止剤等を用いることができる。
【0034】
本実施形態の塗装金属板の耐食性を向上させる目的で,本実施形態の塗膜中に防錆顔料を添加しても良い。防錆顔料としては,公知のものを適用でき,例えば,リン酸亜鉛,リン酸鉄,リン酸アルミニウム,亜リン酸亜鉛等のリン酸系防錆顔料,モリブデン酸カルシウム,モリブデン酸アルミニウム,モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防錆顔料,酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料,カルシウムシリケート等のシリケート系顔料,ストロンチウムクロメート,ジンククロメート,カルシウムクロメート,カリウムクロメート,バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料,水分散シリカ,ヒュームドシリカ等の微粒シリカ,フェロシリコン等のフェロアロイ等を用いることができる。これらは,単独で用いても良いし,複数を混合して用いても良い。
【0035】
本実施形態の塗装金属板にニッケルフィラー等を添加して,導電性を付与しても良い。
【0036】
本実施形態の塗装金属板は,任意の方法で塗装することができる。塗装方法としては,例えば,バーコーター,スプレー塗装,刷毛塗り,ロールコーター,オーバーフローカーテンコーター,スリットカーテンコーター,ローラーカーテンコーター,Tダイ,複層カーテンコーター等が挙げられる。
【0037】
本実施形態の塗装金属板の乾燥(硬化)方式は任意であり,熱風加熱,高周波誘導加熱等の加熱乾燥や,自然乾燥,電子線,紫外線の照射による硬化等,使用する塗料に適した方式を選択すれば良い。
【0038】
本実施形態の下地金属板は,特に限定されるものではないが,ステンレス鋼板,めっき鋼板及びアルミニウム合金板が好適である。ステンレス鋼板としては,例えば,フェライト系ステンレス鋼板,マルテンサイト系ステンレス鋼板,オーステナイト系ステンレス鋼板等が挙げられる。アルミニウム合金板としては,例えば,JIS1000番系(純Al系),JIS2000番系(Al−Cu系),JIS3000番系(Al−Mn系),JIS4000番系(Al−Si系),JIS5000番系(Al−Mg系),JIS6000番系(Al−Mg−Si系),JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。
【0039】
特に好適な下地金属板は,コストと性能(耐食性,加工性,塗装性等)のバランスが取れためっき鋼板である。めっき鋼板としては,例えば,亜鉛めっき鋼板,亜鉛−鉄合金めっき鋼板,亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板,亜鉛−クロム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミ合金めっき鋼板,アルミめっき鋼板,亜鉛−アルミ−マグネシウム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミ−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板,アルミ−シリコン合金めっき鋼板,亜鉛めっきステンレス鋼板,アルミめっきステンレス鋼板等が挙げられる。
【0040】
下地金属板の塗装前処理としては,例えば,水洗,湯洗,酸洗,アルカリ脱脂,研削,研磨等があり,必要に応じて,これらを単独もしくは組み合わせて行うことができる。塗装前処理の条件は,適宜選択すれば良い。
【0041】
下地金属板の上には,必要に応じて,化成処理を施しても良い。化成処理は,塗装と下地金属板との密着性をより強固なものとすること,及び耐食性の向上を目的として行われる。化成処理としては,公知の技術を使用でき,例えば,リン酸亜鉛処理,クロメート処理,シランカップリング処理,複合酸化被膜処理,ノンクロメート処理,タンニン酸系処理,チタニア系処理,ジルコニア系処理,これらの混合処理等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の塗装金属板は,少なくとも片面の最上層に植物系繊維を含有する皮膜が塗装されている。また,本実施形態の皮膜と金属板との間に,防錆顔料を含有する下塗り層を施しても良い。下塗り塗装の塗料は,通常の下塗りに使用されているものをそのまま使用できる。樹脂としては,用途に応じて,一般に公知の樹脂を適用することができる。すなわち,例えば,高分子ポリエステル系樹脂,ポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,ウレタン系樹脂,フッ素系樹脂,シリコンポリエステル系樹脂,塩化ビニル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ブチラール系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,フェノール系樹脂,またはこれらの変成樹脂等の樹脂成分を,ブチル化メラミン,メチル化メラミン,ブチルメチル混合メラミン,尿素樹脂,イソシアネート,またはこれらの混合系の架橋剤成分により架橋させたものを適用できる。
【0043】
下塗り層の防錆顔料としては,公知の防錆顔料を適用でき,例えば,リン酸亜鉛,リン酸鉄,リン酸アルミニウム,亜リン酸亜鉛等のリン酸系防錆顔料,モリブデン酸カルシウム,モリブデン酸アルミニウム,モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防錆顔料,酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料,カルシウムシリケート等のシリケート系顔料,ストロンチウムクロメート,ジンククロメート,カルシウムクロメート,カリウムクロメート,バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料,水分散シリカ,ヒュームドシリカ等の微粒シリカ,フェロシリコン等のフェロアロイ,等を用いることができる。これらは単独で用いても良いし,複数を混合して用いても良い。
【実施例】
【0044】
以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0045】
下地金属板としては,板厚0.27mmの溶融亜鉛めっき鋼板(片面めっき付着量90g/m)を使用した。この溶融亜鉛めっき鋼板に対して,まず,アルカリ脱脂処理とクロメート処理を施した。そして,その上にポリエステル樹脂塗料(日本ファインコーティングス社製,NSC200HQ,クリヤー)を基本塗料組成物として,この基本塗料組成物に各種植物繊維を添加することにより,本発明の実施例による各種塗料組成物と比較例による塗料組成物とを作製した。
【0046】
植物系繊維としては,靭皮繊維としてジュート繊維とケナフ繊維,葉脈繊維としてマニラ麻繊維,果実繊維としてヤシ果実繊維,種子毛繊維として綿糸繊維を使用した。また,ジュート繊維とケナフ繊維を等量添加した塗装金属板も作製した。皮膜の厚みは,15μmと100μmの2水準とした。
【0047】
複層構成の実施例として,下地金属板の上に防錆顔料を含有する下塗り塗料(日本ファインコーティングス社製,P655)を5μm塗装し,その上に,上記基本塗料組成物にケナフ繊維を添加した塗料を皮膜の厚みが15μmと100μmの条件で塗装したものの性能も評価した。
【0048】
基本塗料組成物にエチルシリケート(コルコート社製,ES−40)を5質量%添加して,表面のシラノール基の影響を調査するための塗料も作製した。植物系繊維としてケナフ繊維を添加し,皮膜の厚みは15μmと100μmとした。なお,このエチルシリケートを含有する塗料を塗装すると,表面にエチルシリケートが濃化し,さらに加水分解することによりシラノール基が形成されることは公知である。
【0049】
基本塗料組成物の代わりに,生分解性塗料組成物としてポリ乳酸を使用する塗料も作製した。植物系繊維としてケナフ繊維を添加し,皮膜の厚みは15μmと100μmとした。
【0050】
なお,各種植物系繊維の径及び長さは,光学顕微鏡で30本の繊維の径と長さを測定し,その平均値とした。また,塗膜の厚みは,塗装金属板の断面を光学顕微鏡で観察して求めた。
【0051】
作製した各種塗装金属板の耐傷つき性,耐雨だれ汚染性,加工性を以下の基準で評価し,全ての項目が合格のものを,総合評価で合格とした。
【0052】
1. 耐傷つき性の評価方法
耐傷つき性の評価は,JIS K 5400の鉛筆硬度試験に準拠した。基本塗料組成物を塗装した条件と比較して,1ランク以上硬度が上がったものを合格とした。
【0053】
2. 耐雨だれ汚染性の評価方法
作製した各種塗装金属板に対して,サンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験(JIS K 5400)を48時間行って,屋外環境における塗膜の初期劣化を起こさせた後,耐雨だれ汚染性試験を行った。なお,シラノール基を表面に形成させたものは,促進耐候性試験を行わず,そのまま耐雨だれ汚染性試験を行う例も実施した。
耐雨だれ汚染性試験は,試験片を図1に示す形状に加工して実施した。図1の評価面(垂直面)の雨筋の程度を目視で観察し,下記基準で評価して3以上を合格とした。雨だれ暴露試験は,千葉県富津市で3ヶ月間行った。
【0054】
【表1】

【0055】
3. 加工性の評価方法
塗装金属板を20℃の条件で,膜厚が15μmの塗装金属板は3T曲げ(同じ板厚の板を3枚挟んで180°曲げ),膜厚が100μmの塗装金属板は5T曲げ(同じ板厚の板を5枚挟んで180°曲げ)を行い,曲げ加工部にセロテープ(登録商標)を貼り付け,その後,瞬時にセロテープを剥離した。セロテープに付着した皮膜の多少を目視で観察し,下記基準にしたがって加工性を5段階で評価し,3以上を合格とした。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
【表11】

【0066】
表3〜表11に,塗装金属板の性能評価試験の結果を示す。これらの表より,本発明の実施例による植物系繊維を含有する塗装金属板は,優れた耐傷つき性と耐雨だれ汚染性の双方を有し,屋外建材用途に好適であることがわかった。また,植物系繊維としてケナフ繊維やジュート繊維等の靭皮繊維を使用した場合には,他の植物系繊維を使用した場合よりも,塗装金属板は,優れた耐雨だれ汚染性と加工性を有することがわかった。さらに,表面にシラノール基などの水酸基を有する場合や生分解性塗装の場合には,塗装金属板は,特に優れた耐雨だれ汚染性を有することがわかった。
【0067】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】耐雨だれ汚染暴露試験体の形状を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物系繊維を1〜40質量%含有する皮膜を最上層とする塗膜を,下地金属板の少なくとも片面に有し,
前記最上層の皮膜の厚みをA,前記植物系繊維の径をS,前記植物系繊維の長さをLとしたとき,下記数式1及び2の条件を満足することを特徴とする,塗装金属板。
S≦0.8A ・・・(数式1)
L≦100A ・・・(数式2)
【請求項2】
前記最上層の皮膜の厚みAは,5μm以上5mm以下であることを特徴とする,請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記植物系繊維は,靭皮繊維,葉脈繊維,果実繊維及び種子毛繊維からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする,請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記靭皮繊維は,ジュート系繊維及びケナフ系繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする,請求項3に記載の塗装金属板。
【請求項5】
前記最上層の皮膜の表面に,水酸基を有することを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項6】
前記最上層の皮膜は,生分解性有機物を含むことを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項7】
前記下地金属板は,めっき鋼板であることを特徴とする,請求項1〜6のいずれかに記載の塗装金属板。


【図1】
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【公開番号】特開2006−218688(P2006−218688A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32919(P2005−32919)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】