説明

塗装鋼材及び防錆塗料

【課題】本発明は、防錆塗膜に6価クロムを含まない環境に優しい耐食性に優れる塗装鋼材及び耐食性に優れた防錆塗料を提供する。
【解決手段】本発明によれば、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼材表面の少なくとも一部に、酒石酸又は酒石酸塩の一方又は両方とアンモニウム塩と硫黄化合物を含有した防錆塗膜、または、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼材表面の少なくとも一部に、酒石酸又は酒石酸塩の一方又は両方とアンモニウム塩と硫黄化合物、さらにはイオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の少なくとも一種を含有した防錆塗膜が提供され、防錆塗膜に6価クロムを含まなくても高い耐食性を有する塗装鋼材と、当該塗装鋼材に用いる防錆塗料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装鋼材と防錆塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
家電や建材等の分野で切断・加工後に塗装をするポスト塗装鋼板に代わって、プレコート鋼板と呼ばれる切断・加工前に塗装を施した製品の使用量が増えてきている。これは、鉄鋼メーカーが塗装を行うプレコート鋼板を使用することにより、家電メーカー等では塗装ラインを持つ必要が無くなることや、ポストコート鋼板よりプレコート鋼板の方が平滑で美しい外観を持つからである。
【0003】
プレコート鋼板を切断すると裸の鋼板が露出するため、その部分で腐食が発生する懸念がある。つまり、プレコート鋼板は優れた端面耐食性を有する必要がある。このようなプレコート鋼板の耐食性を改善した例として、例えば、特許文献1には、特定のクロメート処理液を用いることで端面耐食性を改善したプレコート鋼板が開示されている。
【0004】
いずれにおいても、めっき鋼板の上にクロメート処理と呼ばれる耐食性と密着性に優れる下地処理を施し、その上に、耐食性に優れる6価クロム系防錆添加剤を含む防錆塗膜を有し、さらにその上に、着色された上塗り塗膜を有する構造を採っている。
【0005】
これらクロメート処理及び6価クロム系防錆添加剤に含まれる6価のクロムは水溶性であり、これが溶出することによって亜鉛系のめっき鋼板の腐食を抑制する性質がある。例えば、厳しい加工で塗膜が割れた場合や切断部で裸の鋼板が露出した場合でも、その部分に水に溶解した成分が回り込み、腐食を抑制する等、非常に優れた効果があり、クロメート処理と6価クロム含有防錆添加剤は幅広くプレコート鋼板に使用されてきた。
【0006】
【特許文献1】特開平3−100180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、クロメート処理及び6価クロム系防錆添加剤から溶出する可能性のある6価のクロムの環境負荷性から、最近では6価クロムフリーの防錆添加剤に対する要望が高まっている。
【0008】
本発明では、このような要望に答え、耐食性に優れる6価クロムフリーの環境に優しい防食塗料とその塗料で処理した塗装鋼材を提供することを目的とする。
【0009】
また、その中でも、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板を原板とした塗装鋼板は、通常の亜鉛めっき鋼板を原板とした塗装鋼板よりも長期の耐食性は優れるものの、めっき層中の亜鉛リッチ層をアノード、アルミニウムリッチ層をカソードとした電池反応が塗膜下で進行することで、初期の鋼板切断端部や塗膜の疵部からの塗膜膨れが通常の亜鉛めっき金属板を原板とした塗装鋼板よりも激しいことが知られており、初期の鋼板切断端部や塗膜の疵部からの塗膜膨れを6価クロムフリーの環境に優しい防錆塗膜で抑制することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、各種亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板を基材とした塗装鋼材の切断端面部及び塗膜の疵部の耐食性向上のため、各種6価クロムフリー防錆塗料について検討を重ねた。その結果、防錆塗料として、酒石酸類及びアンモニウム塩及び硫黄化合物を含有する塗料を使用して塗装することにより、切断端面部及び塗膜疵部の優れた耐食性を有する環境に優しいクロムフリープレコート金属板を製造し得ることを見出して、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明の趣旨とするところは、以下のとおりである。
(1)亜鉛−アルミ合金系めっき鋼板材表面の少なくとも一部に防錆塗膜を有し、前記防錆塗膜中に、酒石酸又は酒石酸塩を1種以上と、1種以上のアンモニウム塩と、1種以上の硫黄化合物と、を含有することを特徴とする塗装鋼材。
(2)前記酒石酸塩及びアンモニウム塩が、酒石酸アンモニウムであることを特徴とする(1)に記載の塗装鋼材。
(3)前記防錆塗膜中の酒石酸又は酒石酸塩の1種類以上と前記1種類以上のアンモニウム塩と前記1種類以上の硫黄化合物の含有量は、前記防錆塗膜全体に対してそれぞれ0.1mass%以上であり、前記酒石酸又は酒石酸塩の1種類以上と前記1種類以上のアンモニウム塩と前記1種類以上の硫黄化合物との合計の含有量は、前記防錆塗膜全体に対して65mass%以下であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の塗装鋼材。
(4)前記防錆塗膜は、イオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種をさらに含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装鋼材。
(5)前記防錆塗膜中のイオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種類の含有量が、前記防錆塗膜全体に対してそれぞれ0.1mass%以上であり、前記酒石酸又は酒石酸塩の1種類以上と、アンモニウム塩と、硫黄化合物と、イオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか一種類の合計含有量が、前記防錆塗膜全体に対して65mass%以下であることを特徴とする、(4)に記載の塗装鋼材。
(6)前記防錆塗膜は、エポキシ樹脂を含有することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の塗装鋼材。
(7)前記防錆塗膜の膜厚は、1μm以上30μm以下であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の塗装鋼材。
(8)前記防錆塗膜の上層に、着色された塗膜をさらに有することを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の塗装鋼材。
(9)酒石酸又は酒石酸塩を1種類以上と、1種類以上のアンモニウム塩と、1種類以上の硫黄化合物を含有することを特徴とする、防錆塗料。
(10)前記防錆塗料は、イオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種類を含有することを特徴とする、(9)記載の防錆塗料。
(11)前記防錆塗料は、エポキシ樹脂を含有することを特徴とする、(9)または(10)に記載の防錆塗料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、6価のクロム化合物を防錆塗膜に含まない、環境に優しく耐食性に優れた塗装鋼材及び防錆塗料を提供することが可能となった。したがって、本発明は極めて産業上の価値の高い発明であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明では、防錆塗膜に酒石酸又は酒石酸塩のどちらか一方又は両方とアンモニウム塩と硫黄化合物とを含有することで、亜鉛−アルミニウム系合金めっき塗装鋼材のめっき層における亜鉛リッチ層とアルミニウムリッチ層の電池反応を抑制することができ、防錆塗膜に6価のクロム化合物を含まなくても高い耐食性を得ることに成功した。
【0014】
さらに、イオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の少なくとも1種類以上を含有することで、より高い耐食性を得ることに成功した。
【0015】
本発明に用いる酒石酸塩としては、いずれも特に限定されるものではないが、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸リチウム、酒石酸水素リチウム等を用いることができる。また、アンモニウム塩としても、いずれも特に限定されるものではないが、塩の水溶液が著しい酸性を示さないものが好ましく、例えば、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、安息香酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム等を用いることができる。また、酒石酸アンモニウムとして混合しても良い。硫黄化合物としては、いずれも特に限定されるものではないが、例えば、硫黄、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム、硫化鉄等の硫化物系化合物、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸系化合物、チオ尿素、チオアセトアミド等のチオカルボニル系化合物、チオール系化合物等が挙げられ、亜鉛イオンと反応することで、硫化物を形成できるものが好ましい。
【0016】
イオン交換系防錆顔料としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルシウムイオン交換シリカ、マグネシウムイオン交換シリカ等が挙げられる。
【0017】
リン酸系防錆顔料としては特に限定するものではないが、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、トリポリリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0018】
本発明における酒石酸又は酒石酸塩及びアンモニウム塩、硫黄化合物、イオン交換系防錆顔料、リン酸系防錆顔料を防錆添加剤として用いることにより塗装鋼板の耐食性が向上するメカニズムは、明確になっていないが、以下のように推定される。
【0019】
亜鉛−アルミニウム系合金めっきでは、亜鉛リッチ層がアノード、アルミニウムリッチ層がカソードとして反応し、亜鉛リッチ層が選択的に溶解することで、初期の端部からの塗膜の膨れが大きくなることが知られている。また、アンモニア性の酒石酸溶液中では、亜鉛イオンは硫化物の沈殿を形成するが、アルミニウムイオンは沈殿を形成しないでイオンのまま溶液中に残ることが知られており、同様の現象が塗膜下で起きることにより、亜鉛の選択的な溶解を抑制するものと推定される。
【0020】
イオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の役割は明確ではないが、亜鉛リッチ相とアルミニウムリッチ相の両方を安定化することにより、耐食性を高めいているものと推定される。
【0021】
本発明の防食塗膜に含まれる酒石酸又は酒石酸塩の含有量は、単独で含まれる場合でも、2種以上が含まれる場合でも例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は、1mass%以上であると更に好ましい。
【0022】
アンモニウム塩の含有量は、単独で含まれる場合でも、2種以上が含まれる場合でも例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では、含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は、1mass%以上であると更に好ましい。
【0023】
硫黄化合物の含有量は、単独で含まれる場合でも、2種以上が含まれる場合でも例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では、含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は、1mass%以上であると更に好ましい。
【0024】
イオン交換系防錆顔料の含有量は、例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は1mass%以上であると更に好ましい。
【0025】
リン酸系防錆顔料の含有量は、例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は1mass%以上であると更に好ましい。
【0026】
酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩と硫黄化合物との含有量の上限は、特に限定するものではないが、酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩と硫黄化合物の含有量の合計が65mass%を超えると、成膜が困難になることがあるので、合計含有量が65mass%以下であることが好ましい。また、塗料時の安定性からは50mass%以下であると更に良い。
【0027】
酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩の比率は特に限定されるものではないが、酒石酸イオンが2価で、アンモニウムイオンが1価なので、当量となる物質量で1:2程度が好ましい。ただし、アンモニウムイオンは、条件によりアンモニアとして塗膜内から揮発してしまうこともあるので、塗料の状態では、若干アンモニウムイオンが多くても良く、酒石酸イオン/アンモニウムイオン物質量比が0.25以上であると良い。ただし、焼き付け時、又は使用時に、アンモニウムイオン量が減少しても、酒石酸イオン/アンモニウムイオン物質量比が2.5程度であれば、十分、効果を発揮できる。
【0028】
そのため、酒石酸イオン/アンモニウムイオン物質量比は、0.25以上2.5以下であると好ましい。
【0029】
イオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の含有量の上限は、特に限定するものではないが、酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩と硫黄化合物とイオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の含有量の合計が65mass%を超えると、成膜が困難になることがあるので、合計含有量が65mass%以下であることが好ましい。また、塗料の安定性からは50mass%以下であると更に良い。
【0030】
本発明の防錆塗膜は、酒石酸又は酒石酸塩及びアンモニウム塩と硫黄化合物と成膜可能な樹脂と、必要に応じてイオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料と、を含むことを特徴とする。本発明の防錆塗膜に用いられる樹脂としては、用途に応じて一般に公知の樹脂を適用することができ、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂等を用いることができ、さらに、これらの混合物や共重合物も使用できる。また、これらにイソシアネート樹脂、アミノ樹脂、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等を補助成分として併用することができる。
【0031】
この中でも、特にエポキシ樹脂を含む塗膜は、金属基材との密着性が高いため、塗膜下での電池形成を抑制し易く、より好ましい。エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、大日本インキ化学工業社製「エピクロン(登録商標)」、ジャパンエポキシレジン社製「jER(登録商標)」シリーズ、ADEKA社製「アデカレジンEP(登録商標)」シリーズ、東都化成社製「エポトート(登録商標)」シリーズ、三井化学社製の「エポキー(登録商標)」シリーズ、「エポミック(登録商標)」シリーズ、味の素ファインテクノ社製の「プレーンテック(登録商標)」シリーズ、スリーボンド社製の「2000」シリーズ、新日本理科社製の「リカレジン」シリーズ等から、塗料用途に適したものを用いることができる。硬化剤としては、用途に応じて一般に公知の樹脂を適用することができ、例えば、アミン系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、紫外線硬化剤等を使用できる。
【0032】
ただし、本発明による鋼材は、加工後に補修をされずにそのまま使用されるケースが多いので、厳しい加工が施される用途では、例えば、ポリエステル樹脂をメラミンで架橋したもの、ポリエステル樹脂をウレタン樹脂(イソシアネート、イソシアネート樹脂)で架橋したもの、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂(溶剤可溶型、アクリル樹脂との分散混合型)を主としたものを用いた方が良い場合もある。
【0033】
本発明の防錆塗膜は、必要に応じて他の防錆添加剤を含んでもよい。防錆添加剤としては、例えば、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、リンモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン系防錆添加剤、酸化バナジウム、硫酸バナジル等のバナジウム系防錆添加剤、水分散シリカ、ヒュームドシリカ等の微粒シリカ等を用いることができる。また、ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメート等のクロメート系防錆添加剤を併用することによっても高い腐食抑制効果が得られるが、6価クロムを含むクロメート系防錆添加剤は、環境上問題があるため、6価クロムを含む防錆添加剤は、使用しない方が良い。
【0034】
本発明の防錆塗膜は、必要に応じて着色をしてもよい。着色は一般的な顔料や染料等による。顔料としては、無機系、有機系、両者の複合系に関わらず公知のものを使用することができ、例えば、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルー等のシアニン系顔料、カーボンブラック、鉄黒、べんがら、黄色酸化鉄、モリブデートオレンジ、ハンサイエロー、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料、等が例示できる。この他に、金属片・粉末・パール顔料、マイカ顔料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等が挙げられる。防錆塗膜の顔料濃度は特に限定されず、必要な色や隠蔽力によって決定すればよい。
【0035】
本発明の防錆塗料としての形態は特に限定するものではなく、例えば、有機溶剤系塗料、水系塗料、コロイド分散系塗料、粉体塗料、電着塗料等が挙げられ、製膜後に本発明の防錆塗膜を形成できるものであれば良い。本発明の防錆塗料は、酒石酸又は酒石酸塩を1種類以上と、1種類以上のアンモニウム塩と1種類以上の硫黄化合物を含有することを特徴とする。本発明の塗料中の酒石酸又は酒石酸塩の含有量は、塗料固形分に対して各々0.1mass%以上50mass%以下であることが望ましく、塗料安定性を考慮するとより望ましくは5mass%以上40mass%以下である。また、アンモニウム塩の含有量は、塗料固形分に対して0.1mass%以上50mass%以下であることが望ましく、塗料安定性を考慮するとより望ましくは5mass%以上40mass%以下である。また、塗料固形分に対して硫黄化合物の含有量は、0.1mass%以上50mass%以下が望ましく、塗料安定性を考慮するとより望ましくは5mass%以上40mass%以下である。
【0036】
酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩と硫黄化合物との含有量の上限は、特に限定するものではないが、酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩と硫黄化合物の含有量の合計が塗料固形分に対して65mass%を超えると、成膜が困難になることがあるので、合計含有量が65mass%以下であることが好ましい。また、塗料時の安定性からは50mass%以下であると更に良い。
【0037】
本発明の防錆塗料は、酒石酸又は酒石酸塩を1種類以上と、1種類以上のアンモニウム塩と1種類以上の硫黄化合物に加え、さらにイオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種類を含有することができる。イオン交換系防錆顔料の含有量は、塗料固形分に対して、例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は1mass%以上であると更に好ましい。リン酸系防錆顔料の含有量は、塗料固形分に対して、例えば0.1mass%以上であることが好ましい。0.1mass%未満では含有することによる耐食性の向上効果が認められない。また、高い効果を得たい場合は1mass%以上であると更に好ましい。
【0038】
イオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の含有量の上限は、特に限定するものではないが、酒石酸又は酒石酸塩とアンモニウム塩と硫黄化合物とイオン交換系防錆顔料とリン酸系防錆顔料の含有量の合計が塗料固形分に対して65mass%を超えると、成膜が困難になることがあるので、塗料固形分に対して合計含有量は65mass%以下であることが好ましい。また、塗料の安定性からは塗料固形分に対して50mass%以下であると更に良い。
【0039】
塗装方法としては、例えば、ロールコーター、カーテンコーター、静電塗装、スプレー塗装、浸漬塗装等が挙げられる。その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外、等の加熱によって乾燥・硬化される。防錆塗膜の樹脂が、電子線や紫外線で硬化するものであれば、これらの照射によって硬化される。これらの併用であってもよい。
【0040】
本発明の耐食性に優れた塗装鋼板は、前述の防錆塗料を金属板上に塗布、硬化乾燥したものである。塗装鋼板の下地となる亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板は、特に限定するものではなく、一般に公知の亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板を用いることができる。鋼成分は、特に限定するものではなく、例えば、Ti、Nb、B等を添加したIF鋼、Al−k鋼、Cr含有鋼、ステンレス鋼、ハイテン鋼等が挙げられる。めっき種としては、亜鉛、アルミニウムを含有した合金系であれば、特に限定するものではなく、例えば、亜鉛−アルミニウム合金系、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金系等が挙げられる。
【0041】
防食塗膜の膜厚は、特に限定するものではないが、好ましくは0.2μm以上100μm以下である。0.2μm未満では耐食性の向上効果が不明確であり、100μmを越えると加工性が低下して厳しい加工で塗膜の割れが起こり、結果として耐食性が低下する。また、更に好ましい防錆塗膜の膜厚の範囲としては、下限は、連続塗装ラインでの製造を前提とした場合、防錆塗膜の膜厚を均一にし、安定した性能を確保するという点からは1μm以上であると好ましい。上限は、一度の塗装焼付けで形成するのが容易な膜厚、厚膜化によるコストアップと耐食性のバランス等から、防錆塗膜の膜厚が30μm以下であると好ましい。
【0042】
本発明の塗装鋼材は、本発明の防食塗料を塗装した上に、着色した塗膜を施すことができる。着色塗料としては一般に公知のものを適用できる。例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂等である。これらの混合物や共重合物も使用できる。また、これらにイソシアネート樹脂、アミノ樹脂、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等を補助成分として併用することができる。本発明によるプレコート金属板は、加工後に補修をされずにそのまま使用されるケースが多いので、厳しい加工が施される用途では、例えば、ポリエステル樹脂をメラミンで架橋したものや、ポリエステル樹脂をウレタン樹脂(イソシアネート、イソシアネート樹脂)で架橋したもの、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂(溶剤可溶型、アクリル樹脂との分散混合型)を主とした系が望ましい。着色は、一般的な顔料や染料等による。顔料としては、無機系、有機系、両者の複合系に関わらず公知のものを使用することができ、例えば、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルーなどのシアニン系顔料、カーボンブラック、鉄黒、べんがら、黄色酸化鉄、モリブデートオレンジ、ハンサイエロー、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料、等が例示できる。この他に、例えば、金属片・粉末・パール顔料、マイカ顔料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等が挙げられる。塗膜の顔料濃度は特に限定されず、必要な色や隠蔽力によって決定すればよい。塗料としての形態は特に限定するものではなく、有機溶剤系塗料、水系塗料、コロイド分散系塗料、粉体塗料、電着塗料等が挙げられる。
【0043】
着色された塗膜の膜厚は特に限定するものではないが、均一な外観を得るためには例えば5μm以上の乾燥膜厚があることが望ましい。膜厚の上限はないが、コイルで連続的に塗装する場合は、1回の塗装で乾燥膜厚が50μm程度であることが多い。切り板に断続的に塗装する場合は、焼き付けを緩やかな条件で行うことが可能であり、この上限膜厚は200μm程度まで上がる。また、スプレー塗装等で1枚毎に処理する場合は、さらに上限の膜厚は上がる。
【0044】
本発明の塗装鋼材は、下塗り層として本発明以外の一般的な塗膜を形成し、その上層に本発明の防錆塗膜を形成してもよい。
【実施例】
【0045】
実施例に基づき、本発明をさらに説明する。まず、評価サンプルについて説明する。
【0046】
塗装を施す鋼板としては、板厚0.6mm、めっき組成がZn−55mass%Al−1.6mass%Siで、両面付着量が150g/mの新日本製鐵社製の「ガルバリウム鋼板(登録商標)」と、板厚0.6mm、めっき組成がZn−11mass%Al−3mass%Mg−0.2mass%Siで、両面付着量が250g/mの新日本製鐵社製の「スーパーダイマ(登録商標)」を用いた。
【0047】
各鋼板は、60℃の脱脂液に10秒間浸漬し、水洗、乾燥した。脱脂液には市販の脱脂剤である日本パーカライジング社製の「ファインクリーナー(登録商標)4370」を2質量%で水に溶解したものを用いた。
【0048】
次いで、化成処理(下地処理)として、市販のノンクロメート前処理である日本パーカライジング社製の「CT−E300」(以下クロメートフリー処理)を使用した。
【0049】
クロメートフリー処理の付着量は、全塗膜量として200mg/mとした。
【0050】
以上の処理を行った鋼板に、防錆塗料、着色塗料を塗布した。塗料には、表1に示した塗料と、着色塗料としては、日本ファインコーティングス社製の白色ポリエステル系塗料「FL100HQ」を用いた。
【0051】
表1に組成を示した塗料では、クリア塗料に、エポキシ系クリア塗料として日本ファインコーティングス社製「P655」から防錆顔料を抜いたもの(以下、エポキシ)、ポリエステル系クリア塗料として日本ファインコーティングス社製「FLC690」から防錆顔料を抜いたもの(以下、ポリエステル)を使用し、これらクリア塗料に顔料、添加剤等を表1に示す質量比で混合して、攪拌機で十分に撹拌したものを用いた。ここでのクリア塗料の質量比は、溶剤分を除いた樹脂固形分の質量比のことである。酒石酸アンモニウム(以下、酒石酸NH)、酒石酸ナトリウム2水和物(以下、酒石酸Na)、酢酸アンモニウム(以下、酢酸NH)、硫化ナトリウム九水和物(以下、NaS)、L(+)−酒石酸(以下、酒石酸)、炭酸アンモニウム(以下、炭酸NH)は、関東化学社製の特級試薬を用いた。硫化鉄(以下、FeS)は、関東化学社製の硫化水素発生用を用いた。クロム酸ストロンチウム(以下、StCr)は、三津和化学薬品社製のものを用いた。リン酸系防錆顔料としては、テイカ社製のトリポリリン酸アルミニウム「K−White(登録商標)G105」(以下、G105)とリン酸亜鉛(以下、リン酸Zn)を用いた。イオン交換系防錆顔料としては、GRACE社製の「SHIELDEX(登録商標)C303」(以下:C303)とマグネシウムイオン交換シリカ(以下、MgSi)を用いた。着色顔料としては、テイカ社製の酸化チタン「TITANIX(登録商標)JR−605」(以下、JR−605)を用いた。また、必要に応じて、シクロヘキサノンとソルベッソ150を質量比1:1で混合した混合溶剤で希釈して、塗装できる粘度に調整した。
【0052】
【表1】

【0053】
これら塗料を原板にバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉で到達板温220℃、到達時間45秒間で焼き付け、そして水冷した。作製したサンプルの塗料の種類、膜厚は、表2〜6に示した。
【0054】
なお、各サンプルの膜厚は、以下のようにして測定を行った。まず、塗料を原板にバーコーターで塗布して熱風乾燥炉で焼き付けた後、10cm×10cmの大きさに切断し、質量(A)を測定した。次に、塗膜剥離剤(ネオリバー、三彩化工株式会社製)を用いて10cm×10cmの試験片から塗膜を剥離した後、試験片の質量(B)を測定した。続いて、測定した質量(A)から質量(B)を差し引くことで塗膜の質量(C)を算出し、得られた質量(C)を塗膜の比重で割ることで、膜厚を求めた。
【0055】
表2に、原板にガルバリウム鋼板を用い、まず裏面に1層塗膜を形成し、次に、表面に下塗り塗膜を形成し、さらにその上に、上塗り塗膜を形成した水準の塗装構成を示した。
【0056】
【表2】

【0057】
表3に、原板にスーパーダイマを用い、まず裏面に1層塗膜を塗形成し、次に、表面に下塗り塗膜を形成し、さらにその上に、上塗り塗膜を形成した水準の塗装構成を示した。
【0058】
【表3】

【0059】
表4に、原板にガルバリウム鋼板を用い、まず裏面に下塗り塗膜を形成、その上に、上塗り塗膜を形成し、次に、表面に下塗り塗膜を形成、さらにその上に、上塗り塗膜を形成した水準の塗膜構成を示した。なお、塗膜厚は表裏同じとした。
【0060】
【表4】

【0061】
表5に、原板にガルバリウム鋼板を用い、まず裏面に塗膜を形成し、次に表面に塗膜を形成した水準の塗膜構成を示した。
【0062】
【表5】

【0063】
表6に、原板にガルバリウム鋼板を用い、まず裏面に1層塗膜を形成し、次に、表面に膜厚を変えて下塗り塗膜を形成し、さらにその上に、上塗り塗膜を形成した水準の塗装構成を示した。
【0064】
【表6】

【0065】
次に、評価方法について説明する。なお、評価面は全て表面とした。
【0066】
1) カット部膨れ幅
塗装金属板に対して、カッターナイフを使用して評価面側(ポリエステル系上塗り塗装を施した面)の素地に到達するクロスカットを塗膜につけた後、JIS−K5600−7−1記載の方法で塩水噴霧試験を240時間実施した。塩水噴霧試験後にクロスカット片側の最大膨れ幅を測定して、以下の基準で評点を付与した。また、更に上記条件で処理作成し、同様にクロスカットを施したサンプルを、JIS−H8502記載の方法で中性塩水噴霧を使用するサイクル腐食試験を30サイクル実施した。サイクル腐食試験後のサンプルについてもクロスカット片側の最大膨れ幅を測定して、以下の基準で評点を付与した。いずれの評価も評点の○以上を合格とした。
【0067】
◎:片側膨れ幅1mm未満
○:片側膨れ幅1mm以上5mm未満
△:片側膨れ幅5mm以上10mm未満
×:片側膨れ幅10mm以上
【0068】
2) 端部膨れ幅
切断時の返り(バリ)が塗装鋼板の評価面側に来るように(上バリとなるように)作製した試験片についても、上記の塩水噴霧試験を実施し、端面からの塗膜の膨れ幅を測定した。以下の基準で評点を付与した。更に、上記条件で処理作成し、同様にバリ方向について調整したサンプルについて上記サイクル腐食試験を実施し、端面からの塗膜の膨れ幅を測定した。以下の基準で評点を付与した。いずれの評価も評点の○以上を合格とした。
【0069】
◎:端面からの膨れ幅3mm未満
○:端面からの膨れ幅3mm以上7mm未満
△:端面からの膨れ幅7mm以上15mm未満
×:端面からの膨れ幅15mm以上
【0070】
以下に評価結果の詳細を述べる。
【0071】
表7〜16に評価結果を示した。いずれの実施例も、比較例で高い防錆効果があることが公知のSrCrを含む塗膜を形成したもの以外の比較例と比較して、膨れ幅が小さくなり、高い耐食性を示した。また、SrCrを含む塗膜を形成した比較例と、各実施例とを比較すると明らかなように、本発明の防錆塗膜は、クロムを含まないにも係らず、クロムを含み高い防錆効果を有する塗膜と同様の優れた耐食性を有していることがわかった。
【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
【表10】

【0076】
【表11】

【0077】
【表12】

【0078】
【表13】

【0079】
【表14】

【0080】
【表15】

【0081】
【表16】

【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛−アルミ合金系めっき鋼板材表面の少なくとも一部に防錆塗膜を有し、
前記防錆塗膜中に、酒石酸又は酒石酸塩を1種以上と、1種以上のアンモニウム塩と、1種以上の硫黄化合物と、を含有することを特徴とする、塗装鋼材。
【請求項2】
前記酒石酸塩及びアンモニウム塩が、酒石酸アンモニウムであることを特徴とする、請求項1に記載の塗装鋼材。
【請求項3】
前記防錆塗膜中の酒石酸又は酒石酸塩の1種類以上と前記1種類以上のアンモニウム塩と前記1種類以上の硫黄化合物の含有量は、前記防錆塗膜全体に対してそれぞれ0.1mass%以上であり、
前記酒石酸又は酒石酸塩の1種類以上と前記1種類以上のアンモニウム塩と前記1種類以上の硫黄化合物との合計の含有量は、前記防錆塗膜全体に対して65mass%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の塗装鋼材。
【請求項4】
前記防錆塗膜は、イオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塗装鋼材。
【請求項5】
前記防錆塗膜中のイオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種の含有量が、前記防錆塗膜全体に対してそれぞれ0.1mass%以上であり、
前記酒石酸又は酒石酸塩の1種類以上と、前記アンモニウム塩と、前記硫黄化合物と、前記イオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種と、の合計含有量が、前記防錆塗膜全体に対して65mass%以下であることを特徴とする、請求項4に記載の塗装鋼材。
【請求項6】
前記防錆塗膜は、エポキシ樹脂を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の塗装鋼材
【請求項7】
前記防錆塗膜の膜厚は、1μm以上30μm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の塗装鋼材。
【請求項8】
前記防錆塗膜の上層に、着色された塗膜をさらに有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の塗装鋼材。
【請求項9】
酒石酸又は酒石酸塩を1種類以上と、1種類以上のアンモニウム塩と、1種類以上の硫黄化合物と、を含有することを特徴とする、防錆塗料。
【請求項10】
前記防錆塗料は、イオン交換系防錆顔料またはリン酸系防錆顔料の少なくとも何れか1種類を含有することを特徴とする、請求項9に記載の防錆塗料。
【請求項11】
前記防錆塗料は、エポキシ樹脂を含有することを特徴とする、請求項9または10に記載の防錆塗料。


【公開番号】特開2008−284539(P2008−284539A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27012(P2008−27012)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】