説明

塩化ビニル系プラスチゾル組成物および食料瓶詰用ツイストキャップ

【課題】開栓性が良く、潤滑剤の食品内容物への落ち込み等も十分に抑制され、塗布量や硬化温度のバラツキによる密封材の塗布厚への影響も少なく、さらに耐食性も有する塩化ビニル系プラスチゾル組成物とそれを用いた食料瓶詰用ツイストキャップを提供する。
【解決手段】(A)塩化ビニル樹脂、(B)ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを必須成分とする塩化ビニル樹脂100質量部に対して45〜65質量部の可塑剤、(C)発泡剤、および(D)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.5〜1.0質量部のレシチンを含む潤滑剤を含有し、50φの金属製皿に5gの塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布し、210℃で3分間焼き付けて得た密封材をJIS K−6301 TYPE A硬度計を用いて25℃で測定したA硬度が70〜85であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食料瓶詰用ツイストキャップに用いられる塩化ビニル系プラスチゾル組成物とそれを用いた食料瓶詰用ツイストキャップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食料瓶詰用ツイストキャップ等の密封用のライナー材として、その密封機能が優れていることから塩化ビニル系プラスチゾル組成物が広く用いられている。
【0003】
この塩化ビニル系プラスチゾル組成物の可塑剤としては、従来、フタル酸エステル系可塑剤が広く用いられてきた。しかし、飲食品内容物への移行による人体への悪影響の懸念や、土壌や河川の環境汚染等の問題が指摘され、近年ではライナー材へのフタル酸エステル系可塑剤の使用を控える傾向が強まっている。
【0004】
このような状況において、フタル酸エステル系可塑剤に代替する可塑剤として、エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤、アセチルクエン酸トリブチル等のヒドロキシ多価カルボン酸エステル系可塑剤、アセチル化モノグリセライドや中鎖脂肪酸トリグリセライド等のグリセリン脂肪酸エステル系可塑剤等が用いられている(特許文献1参照)。
【0005】
食料瓶詰用ツイストキャップの塩化ビニル系プラスチゾル組成物におけるこれらの可塑剤の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して70〜80質量部が一般的であり、硬度は65〜75(A硬度)が一般的である。
【0006】
そして食料瓶詰用ツイストキャップの塩化ビニル系プラスチゾル組成物には、塩化ビニル樹脂と可塑剤以外に、潤滑剤、安定剤、顔料、充填剤等が配合される。一般に、潤滑剤としては高級脂肪酸アミド、シリコーンオイル、パラフィンワックス等が用いられ、安定剤としては金属石鹸類、エポキシ化大豆油等が用いられ、顔料(白色)としては酸化チタン等が用いられ、充填剤としては硫酸バリウム等が主に用いられている。
【0007】
上記のような食料瓶詰用ツイストキャップの塩化ビニル系プラスチゾル組成物の配合組成は、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の製造適性、食料瓶詰用ツイストキャップへの塗布、焼き付けの作業性を確保するための粘度・硬化適性、瓶詰作業時のキャッピング適性、および保持すべきキャップ本来の機能である密封性、開栓性、耐内容物適性、食品衛生性等の各種の要求性能を満足するように調整される。
【0008】
特に食料瓶詰用ツイストキャップの場合、キャップの構造上ライナー材の塗布厚の管理が重要である。そのため、従来では、食料瓶詰用ツイストキャップのライナー材に用いられる塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、固形型(ソリッドタイプ)で、発泡型(パフタイプ)は次の理由により使用されていなかった。
【0009】
すなわち、食品瓶詰用スクリュウキャップ(ネジキャップ)には発泡型ゾルが多用されているが、これは、その焼き付け硬化後の密封材(ガスケット)比重が一般に0.6〜0.9程度であり、発泡倍率を大きくして硬度を30〜50と柔らかくし、瓶口リム部がガスケットに食い込み易くして密封性を確実に確保しようとしたものである。そしてネジキャップの場合、瓶ネジ山とキャップネジ山の嵌合部位にある程度のクリアランス(自由度)があり、ライナー材の塗布厚の影響を受けにくい。
【0010】
ところが、ラグキャップの場合は構造上、瓶ネジ山部とキャップラグ部の嵌合部位はほぼ固定されるため、ライナー材の塗布厚の変動は極力押さえる必要がある。すなわち、瓶口天部から瓶ネジ山切り始めまでの距離(高さ)が固定されており、これと係合するツイストキャップのラグハイト(キャップ内側天部からラグまでの距離)を狭い範囲内に固定しないと、瓶ネジ山との嵌合不良が発生する。
【0011】
以上の点から、食料瓶詰用ツイストキャップにはこれまで固形型のゾルが用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−217662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような固形型の塩化ビニル系プラスチゾル組成物をライナー材として用いた食料瓶詰用ツイストキャップは、概して開栓トルクが高いため開け難く、婦女子や老人等にとっては取り扱いに支障が生じる場合もある。
【0014】
そのため、食料瓶詰用ツイストキャップの開栓性を改善するために、一般に潤滑剤が配合される。この潤滑剤としては、上記したようにオレイン酸アミドやエルカ酸アミド等の高級脂肪酸アミド、シリコーンオイル、パラフィンワックス等が主に用いられている。
【0015】
ところが、潤滑剤を配合した場合、潤滑剤がライナー材の表面にブリードして内容物に落ち込む危険性があり、そのため配合量には限界があり、開栓性を満足させるのに十分な量を配合できないという問題点があった。
【0016】
特に、従来の食料瓶詰用ツイストキャップは固形型の塩化ビニル系プラスチゾル組成物がライナー材として用いられており、潤滑剤は、ガスケット表面にブリードして始めて潤滑剤としての効果を発揮し開栓トルクを低減させるが、固形型と発泡型の潤滑剤のブリード状態を比較した場合、固形型はブリードし易く、且つ環境の影響(外気温の季節の影響)を受け易い。そのため、季節(温度)に関係なく常に開栓性が良好な状態に保つためには、ブリードし難い季節に標準を合わせた潤滑剤の配合が必要となるが、ブリードし易い季節には過剰にブリードして内容物への落ち込みの原因となる。
【0017】
さらに、フタル酸エステル系可塑剤が用いられていた時は、レシチンが潤滑剤として用いられる場合もあり、その潤滑効果の大きいことは実証されていたが、上記のようにフタル酸エステル系可塑剤に代替する可塑剤が用いられるようになってからは、レシチン可溶で経済的に実用可能な可塑剤が見つからず、レシチンは用いられなくなっていた。
【0018】
一方、フタル酸エステル系可塑剤を用いた塩化ビニル系プラスチゾル組成物のライナー材では、キャップの腐食、すなわち錆の問題はほとんど発生しなかったが、エポキシ化大豆油やアセチルクエン酸トリブチル等のような上記の代替可塑剤に変更したことにより、ピクルス等のpHの低い酸性食品や梅干し等の塩分濃度の高い食品で特に夏場の暑い時期にキャップ内面の腐食(錆)の問題が発生し易くなった。そのため、塩化ビニル系プラスチゾル組成物には耐食性の向上も求められていた。
【0019】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、開栓性が良く、潤滑剤の食品内容物への落ち込み等も十分に抑制され、塗布量や硬化温度のバラツキによる密封材の塗布厚への影響も少なく、さらに耐食性も有する塩化ビニル系プラスチゾル組成物とそれを用いた食料瓶詰用ツイストキャップを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0021】
第1:食料瓶詰用ツイストキャップにおける瓶口との密封面に塗布し硬化することにより密封材を形成するための塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、
(A)塩化ビニル樹脂、
(B)ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを必須成分とする塩化ビニル樹脂100質量部に対して45〜65質量部の可塑剤、
(C)発泡剤、および
(D)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.5〜1.0質量部のレシチンを含む潤滑剤
を含有し、50φの金属製皿に5gの塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布し、210℃で3分間焼き付けて得た密封材をJIS K−6301 TYPE A硬度計を用いて25℃で測定したA硬度が70〜85であることを特徴とする塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【0022】
第2:ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量が可塑剤100質量部に対して70質量部以上であり、フタル酸エステル系可塑剤を含有しないことを特徴とする上記第1の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【0023】
第3:上記第1または第2の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を食料瓶詰用ツイストキャップにおける瓶口との密封面に塗布し硬化することにより形成された密封材を備えることを特徴とする食料瓶詰用ツイストキャップ。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の可塑剤としてビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを用いている。ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートはレシチン可溶であるため、潤滑剤として、潤滑効果の大きいレシチンを用いることが可能となり、全体としての潤滑剤の配合量が低減され、潤滑剤の落ち込みが抑制される。
【0025】
さらに本発明では、発泡剤を配合して塩化ビニル系プラスチゾル組成物を低可塑剤型・微発泡型(低発泡型)とし、低可塑剤型・微発泡型の密封材としている。これにより、従来用いられていた固形型の塩化ビニル系プラスチゾル組成物による密封材に近い硬度を確保しつつ、塗布量や硬化温度のバラツキによる密封材の塗布厚への影響を少なくし、且つ、発泡型であるため潤滑剤の密封材表面へのブリードを安定化させることができる。従って、季節の変動による潤滑剤のブリード量の変動が少なくなり、潤滑剤の配合量をさらに低減することができ、これにより潤滑剤の内容物への落ち込みを抑制しつつ開栓トルクの安定化も図ることができる。
【0026】
さらに、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートは、加水分解による酸の発生が少なくキャップ内面の腐食を抑制でき、低pHの酸性食品や塩分の多い食品への使用時においても高い耐食性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
なお、本明細書において、「密封材」にはガスケットが含まれる。また、「塩化ビニル系プラスチゾル組成物」は、ライナー材、あるいはシーリングコンパウンド等とも呼ばれるものである。「ツイストキャップ」は「ラグキャップ」とも呼ばれるものである。
【0029】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物に用いられる塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルペースト樹脂単独または、塩化ビニルペースト樹脂と塩化ビニルブレンド樹脂とを併用したものである。
【0030】
塩化ビニルペースト樹脂は、平均重合度が好ましくは1100〜1700、平均粒子径が好ましくは0.1〜数μmであり、一般には乳化重合法またはマイクロサスペンジョン重合(微懸濁重合)法等の重合法によって製造される。
【0031】
塩化ビニルブレンド樹脂は、平均重合度が好ましくは1000〜1200、平均粒子径が好ましくは20〜40μmであり、一般には懸濁重合または塊状重合等により製造される。
【0032】
塩化ビニルペースト樹脂と塩化ビニルブレンド樹脂との配合割合は、好ましくは、質量比で塩化ビニルペースト樹脂:塩化ビニルブレンド樹脂=100:0〜60:40、より好ましくは90:10〜70:30である。
【0033】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物に用いられる可塑剤の配合量は、好ましくは、塩化ビニル樹脂100質量部に対して45〜65質量部である。本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、密封材が通常のスクリューキャップ用密封材に比べて硬くなるように設計されるが、それでも可塑剤の配合量が少な過ぎると、焼き付け硬化後の密封材が硬くなり過ぎて密封性が十分に確保できなくなる場合がある。また、必要以上に可塑剤を配合すると反発弾性強度が劣り、特にレトルト処理等の高温殺菌処理時にキャップが緩む可能性がある。
【0034】
本発明では、可塑剤としてビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートが配合される。ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートは、可塑剤100質量部に対して好ましくは70質量部以上の割合で配合され、最も好ましい態様の一つでは、可塑剤としてビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートが単独で用いられる。
【0035】
本発明では、可塑剤に起因する蒸発飛散、腐食、溶出の防止等を損なわない範囲内において、例えば塩化ビニルゾルの粘度等の性状・物性調整等を目的として、他の可塑剤を配合することができる。このような可塑剤としては、例えば、エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤やアセチルクエン酸トリブチル等のヒドロキシ多価カルボン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。ただし、これらの可塑剤は一般に焼付け硬化時の蒸発、飛散・瓶詰め内容物への耐溶出性、および耐食性の点でビス(イソノニル)シクロヘキサンー1,2−カルボキシレートに劣り、またこれらの可塑剤はレシチン不溶で内容物によってはレシチンが析出してくる可能性があるため、過剰の配合は避ける必要があり、好ましくは可塑剤100質量部に対して30質量部未満の量で配合され、使用量はできるだけ少なくすることが望ましい。
【0036】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物には、発泡剤が配合される。発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
発泡剤は、好ましくは、塩化ビニル系プラスチゾル組成物を焼き付け硬化して得られる密封材の硬度が、50φの金属製皿に5gの塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布し、熱風循環式乾燥炉において210℃で3分間焼き付けた密封材(ガスケット)を、JIS K−6301 TYPE A硬度計を用いて25℃で測定したA硬度で70〜85、好ましくは72〜82となる量で塩化ビニル系プラスチゾル組成物に配合される。この時の発泡比重は0.85〜1.05程度である。
【0038】
発泡剤の種類および配合量の好ましい一例では、発泡剤としてアゾジカルボンアミドを単独で用いて、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.2〜0.4質量部の範囲で塩化ビニル系プラスチゾル組成物に配合される。
【0039】
また、欧州ではアゾジカルボンアミドを食品衛生上の点から使用制限している国もあり、 これらの国に輸出されるもの等では、発泡剤として、例えば、炭酸水素ナトリウムまたは4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)が単独で、またはこれらを併用して用いられる。この場合、炭酸水素ナトリウムまたは4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)を単独で用いると、適性発泡温度領域が狭くなり、焼き付け硬化の作業性の点からは好ましくないが、炭酸水素ナトリウムと4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)を併用することで焼き付け硬化の作業性が改善されるため、本発明ではこれらを併用することが好ましい。
【0040】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物には、潤滑剤が配合される。本発明の塩化ビニルプラスチゾル組成物は潤滑剤としてレシチンを含み、レシチンの配合量は塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.5〜1.0質量部である。レシチンは他の潤滑剤に比べて潤滑効果が大きいので潤滑剤の合計量を低減でき、潤滑剤の落ち込みを抑制できるが、配合量が多くなると塩化ビニル系プラスチゾル組成物の加熱硬化時の熱により発色(変色)する場合があり、発色が顕著に現れると外観上好ましくない。また、可塑剤としてビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート以外のものを相当量配合した場合には、開栓性を得るために過剰にレシチンを配合すると潤滑剤の落ち込みや白色沈殿物が発生する場合がある。しかし、レシチンの配合量が塩化ビニル樹脂100質量部に対して1.0質量部以下であると開栓トルクを十分に低減することができないので、高級脂肪酸アミドやシリコーンオイル等の潤滑剤を併用することが好ましい。好ましい態様の一つでは、レシチン以外の潤滑剤として、複数の潤滑剤が併用される。この場合、本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物におけるレシチン以外の潤滑剤の配合量は、潤滑剤の種類・組み合わせにもよるが、例えば、塩化ビニル樹脂100質量部に対して1.5〜3.0質量部である。
【0041】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物には、上記の各成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、脂肪酸金属石鹸等の安定剤、酸化チタンや酸化亜鉛等の顔料、充填剤等が挙げられるが、充填剤は開栓トルクを増大させるので配合しない方が好ましい。
【0042】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、常法に従って食料瓶詰用ツイストキャップ本体における瓶口との密封面となるキャップの頂部内面側周辺部に塗布し加熱硬化することにより密封材とすることができる。例えば、回転するキャップに加圧した塩化ビニル系プラスチゾル組成物をノズルより吐出させて1〜数回の重ね塗りを行うことで、塩化ビニル系プラスチゾル組成物をキャップに吐工(ライニング)し、次いで、焼き付け乾燥加熱炉等を用いて加熱硬化することで密封材を形成することができる。このようにして、瓶口との密封面に密封材が形成された本発明の食料瓶詰用ツイストキャップを得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
塩化ビニルペースト樹脂((株)カネカ製、重合度1300)80質量部、塩化ビニルブレンド樹脂((株)カネカ製、重合度1100)20質量部、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(BASF社製)55質量部、アゾジカルボンアミド(大塚化学工業(株)製)0.3質量部、大豆レシチン((株)JオイルミルズS製)0.8質量部、シリコーンオイル(信越化学工業(株)製)1.0質量部、高級脂肪酸アミド(ライオン・アクソ(株)製)1.6質量部、脂肪酸金属石鹸(日産化学工業(株)製)3質量部、酸化チタン(堺化学工業(株)製)2質量部を配合して石川式ライカイ機で混練し、次いで真空脱泡することにより塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0044】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物とそれを用いた密封材について、次の評価を行った。
[塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度適性、粘度安定性、作業適性の評価]
塩化ビニル系プラスチゾル組成物の製造1日後、および38℃、7日間貯蔵後に粘度を測定した。粘度測定は、市販のB型回転粘度計を用いて、ローター No.3、40℃、20rpmまたは2rpmの条件で行った(以下において2rpmでの粘度を20rpmでの粘度で除した値をV2/20と示す。)。
【0045】
製造1日後、および38℃、7日間貯蔵後の粘度より、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度適性、粘度安定性、および作業適性を考慮し、次の基準により評価した。
○:粘度1200〜2200mPa・s(at 20rpm)、且つV2/20≧1
×:上記の範囲外
[密封材の物性評価(発泡状態、硬度、発泡比重)]
直径50φ(50mm)、深さ3mmの金属製皿に塩化ビニル系プラスチゾル組成物5gを塗布し、熱風循環式乾燥炉において210℃で3分間焼き付けることによりガスケットを得た。
【0046】
このガスケットについて、発泡状態の観察、硬度の測定、および発泡比重の測定を行い次の基準により評価した。なお、硬度の測定はJIS K−6301に準拠して20℃で行い、発泡比重の測定はアルファーミラジュ(株)電子比重計を用いて行った。
○:ガスケット表面や発泡気泡に異常が無く、A硬度が70〜85、且つ、発泡比重が0.85〜1.05
×:上記以外
[実瓶試験による性能評価(密封性、開栓性、潤滑剤の落ち込みと白色沈殿物)]
塩化ビニル系プラスチゾル組成物を63φツイストキャップに1.1±0.1g塗布し、205℃で2分焼き付けて試験キャップとした。
【0047】
この試験キャップを90℃の温水を充填した鮭フレーク用瓶に巻き締め、117℃で80分間殺菌処理(レトルト処理)した後、冷却し、5℃、室温、38℃に1ヶ月間放置後、瓶内の真空度、潤滑剤の落ち込み、および開栓性(開栓トルク)を次の基準により評価した(n=10、25℃で測定)。なお、真空度は、上記のように5℃、室温、38℃に1ヶ月間放置後、25℃の恒温室に1昼夜保存し、VACUUM CAN TESTER(日本缶詰協会、取扱検査器具、横山計器(株)製)で測定した。
〈密封性(真空度)〉
○:真空度が30kPa以上
×:真空度が上記の範囲外
〈開栓性〉
○:開栓トルクが21〜42Nmの範囲内
×:開栓トルクが上記の範囲外
〈潤滑剤の落ち込みと白色沈殿物〉
○:潤滑剤の落ちこみおよび白色沈殿物が肉眼では確認されなかったもの
×:潤滑剤の落ちこみまたは白色沈殿物が肉眼で確認されたもの
<実施例2>
実施例1において、塩化ビニル樹脂として塩化ビニルペースト樹脂を単独で用い、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を65質量部とし、アゾジカルボンアミドの配合量を0.2質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0048】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<実施例3>
実施例1において、塩化ビニルペースト樹脂の配合量を70質量部とし、塩化ビニルブレンド樹脂の配合量を30質量部とし、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を45質量部とし、アゾジカルボンアミドの配合量を0.4質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0049】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<実施例4>
実施例1において、塩化ビニルペースト樹脂の配合量を60質量部とし、塩化ビニルブレンド樹脂の配合量を40質量部とし、アゾジカルボンアミドの配合量を0.4質量部とし、レシチンの配合量を1.0質量部とし、高級脂肪酸アミドの配合量を1.2質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0050】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<実施例5>
実施例1において、レシチンの配合量を0.5質量部とし、高級脂肪酸アミドの配合量を2.0質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0051】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<実施例6>
実施例1において、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を50質量部とし、アセチルクエン酸トリブチル((株)新日本理化製)を15質量部配合し、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0052】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<比較例1>
実施例1において、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を70質量部とし、アゾジカルボンアミドを配合せず、新たに沈降性硫酸バリウム(堺化学工業(株)製)を20質量部配合し、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0053】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<比較例2>
実施例1において、塩化ビニルペースト樹脂の配合量を60質量部とし、塩化ビニルブレンド樹脂の配合量を40質量部とし、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を45質量部とし、アゾジカルボンアミドを配合せず、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0054】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<比較例3>
実施例1において、塩化ビニルペースト樹脂の配合量を70質量部とし、塩化ビニルブレンド樹脂の配合量を30質量部とし、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を45質量部とし、アゾジカルボンアミドの配合量を0.5質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0055】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<比較例4>
実施例1において、塩化ビニルペースト樹脂の配合量を70質量部とし、塩化ビニルブレンド樹脂の配合量を30質量部とし、可塑剤としてビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを配合せずにアセチルクエン酸トリブチルを50質量部配合し、アゾジカルボンアミドの配合量を0.4質量部とし、レシチンを配合せず、高級脂肪酸アミドの配合量を2.4質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0056】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<比較例5>
実施例1において、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を80質量部とし、アゾジカルボンアミドの配合量を0.2質量部とし、新たに沈降性硫酸バリウムを30質量部配合し、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0057】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
<比較例6>
実施例1において、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量を35質量部とし、新たにアセチルクエン酸トリブチルを25質量部配合し、レシチンの配合量を1.2質量部とし、それ以外は実施例1と同様の条件にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。
【0058】
得られた塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例1と同様に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度の評価、密封材の物性評価、および実瓶試験による性能評価を行った。
【0059】
実施例1〜6および比較例1〜6の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より、塩化ビニル樹脂、ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを含む可塑剤、発泡剤、およびレシチンを含む潤滑剤をそれぞれ適切な量で配合した塩化ビニル系プラスチゾル組成物を用いた実施例1〜6では、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度適性、粘度安定性、作業適性、および密封材の発泡状態、硬度、発泡比重が良好であり、実瓶試験による密封性、開栓性も良好で、潤滑剤の落ち込みや白色沈殿物も見られなかった。
【0062】
一方、可塑剤の配合量が多く、発泡剤を配合しなかった比較例1では、粘度調整のために沈降性硫酸バリウムを配合したが適切な粘度特性が得られず、密封材の開栓性も低下し、潤滑剤の落ち込みが見られた。可塑剤の配合量を低減したが発泡剤を配合しなかった比較例2では、密封性が低下し、潤滑剤の落ち込みが見られた。また、発泡剤を過剰に配合した比較例3では、潤滑剤の落ち込みや白色沈殿物は見られなかったものの、密封性と開栓性が低下した。
【0063】
可塑剤としてビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを配合せずにアセチルクエン酸トリブチルを配合した比較例4では、レシチン不溶のため潤滑剤としてレシチン以外のもののみ用いたが、開栓性が低下した。
【0064】
発泡剤を配合し、潤滑剤としてレシチンを用いたが可塑剤の配合量が多い比較例5では、粘度調整のために沈降性硫酸バリウムを配合したが適切な粘度特性が得られず、密封材の開栓性も低下した。
【0065】
また、可塑剤として相当量のアセチルクエン酸トリブチルを配合した比較例6では、レシチンの溶解性が低く開栓性を得るために過剰にレシチンを配合したが、潤滑剤の落ち込みや白色沈殿物が見られた。
【0066】
また、表1には示していないが、レシチンを塩化ビニル樹脂100質量部に対して1.0質量部を超えて配合すると塩化ビニル系プラスチゾル組成物の加熱硬化時の熱により発色する傾向が顕著になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食料瓶詰用ツイストキャップにおける瓶口との密封面に塗布し硬化することにより密封材を形成するための塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、
(A)塩化ビニル樹脂、
(B)ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートを必須成分とする塩化ビニル樹脂100質量部に対して45〜65質量部の可塑剤、
(C)発泡剤、および
(D)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.5〜1.0質量部のレシチンを含む潤滑剤
を含有し、50φの金属製皿に5gの塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布し、210℃で3分間焼き付けて得た密封材をJIS K−6301 TYPE A硬度計を用いて25℃で測定したA硬度が70〜85であることを特徴とする塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項2】
ビス(イソノニル)シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートの配合量が可塑剤100質量部に対して70質量部以上であり、フタル酸エステル系可塑剤を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を食料瓶詰用ツイストキャップにおける瓶口との密封面に塗布し硬化することにより形成された密封材を備えることを特徴とする食料瓶詰用ツイストキャップ。

【公開番号】特開2011−46848(P2011−46848A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197361(P2009−197361)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(595044661)株式会社日本化学研究所 (14)
【Fターム(参考)】