説明

塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法

【課題】 塩化ビニル系モノマーとマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂の残存塩化ビニルモノマー回収時間を短縮し、重合機外へのスラリー流出を低減する製造方法を提供する。
【解決手段】 構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であり、該マクロモノマーと塩化ビニル系モノマーとの総重量(M)と初期水重量(H)が、次式(1)の範囲であり、
0< H/M ≦3.0 (1)
初期水中の分散剤の添加量が、仕込モノマー総量100重量部に対して、0重量部より多く0.1重量部以下となるように調整後、水溶性重合禁止剤を0.0001部以上0.001部以下となる量を投入した後、マクロモノマーを初期水中に分散させ、塩化ビニル系モノマーを投入することを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとの混合溶解時に水溶性禁止剤を投入することで、水系懸濁液中の微粒子が少なく、重合終了後に塩化ビニルモノマーを回収する際に液面上昇を抑制し、残存モノマー回収時間を短縮することができる塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
片末端に重合性官能基を有するオリゴマーやポリマーであるいわゆるマクロモノマーの合成技術の進歩により、これを用いたクシ状共重合樹脂の開発と応用に関心が寄せられている。このような共重合樹脂を製造する場合、両者を重合開始剤とともに適当な溶剤に溶解して共重合する溶液重合が一般的である。
【0003】
しかし、溶液重合法は、溶剤への連鎖移動が生じやすいため、高分子のクシ状共重合樹脂を製造し難く、得られた共重合樹脂の物性も目的とする成形材料には採用し難いという問題があり、本発明者らは水系懸濁重合法について検討を重ねてきた(特許文献1)。
【0004】
通常、塩化ビニル系樹脂は、懸濁重合法で重合中に生成する微粒子を低減するために、重合初期での攪拌数の変更を行うことや、ケン化度の高いPVAを分散剤として使用する方法、重合途中において水溶性禁止剤を添加する方法が知られている(特許文献2)。微粒子生成と水溶性重合禁止剤の添加効果の発現機構は明確ではないが、このような微粒子が自圧回収時に液界面に浮いてくることで、ドライフォームと呼ばれる泡が形成され、スラリーの飛散や液面の上昇を生じさせることが知られている。それらを防止するため、水溶性禁止剤を重合途中に微量添加し、微粒子形成を抑制する方法が挙げられている。
【0005】
一方、本発明者らは、本発明の塩化ビニル系共重合樹脂を製造する際に、自圧回収時の液面上昇を防止するために、重合途中に生成される微粒子とドライフォームの防止について鋭意検討を進めてきた。しかし、本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の場合は、従来の塩化ビニル系樹脂とは異なり、自圧回収時のスラリー飛散や液面の上昇の原因が、水相の界面張力が著しく低下することが主要因であることをつきとめ、初期水に投入されるマクロモノマーの微分散体を、水相中で重合禁止することにより、水相中の表面張力低下を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【特許文献1】特開2005−179599号公報
【特許文献2】特開平08−217806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂の残存塩化ビニルモノマー回収時間を短縮し、重合機外へのスラリー流出を低減する製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、水に予め水相重合禁止剤を投入しておくことで、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーの混合、溶解を行い、然る後に共重合反応を開始することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1) 塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を懸濁重合にて製造するに際し、
初期水中の分散剤の添加量が、構成するモノマー成分の総量(以下、「仕込モノマー総量」)100重量部に対して、0重量部より多く0.1重量部以下となるように調整後、水溶性重合禁止剤が仕込モノマー総量100重量部に対して0.0001部以上0.001部以下となる量を投入した後、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入し、初期水中に分散させた後、塩化ビニル系モノマーを投入することを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項1)、
(2)仕込みモノマー総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であり、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーとの総重量(M)と初期水重量(H)が、次式(1)の範囲
0< H/M ≦3.0 (1)
であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項2)、
(3)水溶性重合禁止剤が、チオシアン酸塩、亜硝酸塩、水溶性イオウ含有有機化合物から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項3)、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重合終了後の塩化ビニルモノマー回収に要する時間を短縮することができる。また、本発明によれば、重合終了後の塩化ビニルモノマー回収時にスラリーの起泡を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法については、予め重合機または分散混合槽等に初期水を投入しておき、その中に水溶性重合禁止剤を投入した後、初期水中に二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入しながら、或いは投入後に分散した後、塩化ビニル系モノマーを投入し、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーを分散混合して共重合反応を開始することが好ましい。
【0011】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の製造に使用される水溶性重合禁止剤は、重合反応中に水相中でのラジカル反応を停止させ、水相中での塩化ビニル系共重合樹脂の微小粒子の発生を抑制する効果が発現すればよく、好ましくはチオシアン酸塩、亜硝酸塩、水溶性イオウ含有有機化合物から選ばれる少なくとも一つであり、特に好ましくは亜硝酸塩であり、最も好ましくは亜硝酸ナトリウムである。
【0012】
本発明に使用される水溶性重合禁止剤は、塩化ビニル系モノマーおよび二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーのモノマー成分の総量100重量部に対し、0.0001部以上0.001部以下であるとマクロモノマーの含量の高い微粒子の生成が抑制されるため好ましい。また、0.0001部以上0.0005部以下であれば、重合速度を大きく低下させることなく、モノマー回収時の時間を短縮することができるため更に好ましい。
【0013】
本発明で使用する分散混合槽とは、分散混合をすることができる装置であれば特に制約はない。例えば、重合反応機を使用しても良いし、ジャケットおよび攪拌機を備えた、重合反応機以外の容器を使用しても良い。また、「分散」とは、分散混合槽等に投入した初期水へ、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入しながら、或いは投入後に攪拌機等の機械的剪断を加えて、水中に滴を形成させることを言う。「分散混合」とは、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの両者が、境目なく一様に混ざり合い、見かけ上両者の区別ができなくなることを言う。
【0014】
ここで、本発明を構成するモノマー成分は、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーであり、これらのモノマー成分が分散混合されたものを「仕込モノマー」と、構成するモノマー成分の総量を「仕込モノマー総量」と称する。
【0015】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法に使用される「初期水」とは、重合機または分散混合槽等へ、塩化ビニル系モノマーまたは二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入する前に投入しておく、重合仕込み水の一部または全量である。初期水量は特に制約はなく、初期水中で塩化ビニル系モノマーまたは二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーが分散混合する量であればよいが、仕込み水の総重量の1重量%から100重量%を初期水とすることが好ましく、より好ましくは仕込水の総重量の1重量%から50重量%、更に好ましくは仕込水の総重量の1重量%から30重量%の範囲の量とすれば、分散混合する時間が短時間となり特に好ましい。
【0016】
また、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーとの総重量(M)と初期水重量(H)が、0<H/M≦3.0の範囲であれば二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーが分散混合しやすいため好ましく、0<H/M≦1.0の範囲であれば初期水に予め分散しておいた二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーが、塩化ビニル系モノマーを投入したときに、分散液中で相転換が生じ、塩化ビニル系モノマーが連続相となり、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーとの分散混合時間が短縮されるため更に好ましい。
【0017】
また、初期水中に予め調整する分散剤は、仕込モノマー総量100重量部に対して、0重量部より多く0.1%以下となるように調整することが好ましく、その後、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入し、初期水中に分散させると、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの粘度が高い場合においても、初期水中で液滴を形成し、安定に重合を進行させることができ、また缶内および攪拌翼、攪拌軸への付着を少なくすることができ、反応機内の凹部への浸入を減らすことができるため好ましい。また、初期水中に予め分散剤が0重量部より多く0.08重量部以下となるように調整後、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入し、初期水中に分散させると、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの液滴が、塩化ビニル系モノマーを投入したときに、分散液中で容易に相転換を生じさせ、マクロモノマーの液滴が残りにくいため更に好ましい。
【0018】
水性懸濁液中の小粒子重量は、重合で得られた塩化ビニル系共重合樹脂水性懸濁液中を200メッシュ篩(JIS Z8801−1 目開き350μm)で篩分けし、その通過液を100℃にて十分に乾燥して重量を測定し、重合で得られた塩化ビニル系共重合樹脂水性懸濁液を100℃にて十分に乾燥して得られた樹脂の重量で除した割合であり、2重量%未満であることが好ましい。2重量%未満であると、脱水時の排液中のCODが低下するため好ましい。更に、1.5重量%以下であると重合終了時の塩化ビニルモノマーの回収工程において、泡によるスラリー液面の上昇が少なくなり好ましい。1重量%以下であると、乾燥後の製品のブロッキング性が改善され最も好ましい。
【0019】
塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散混合する際の分散液温度(内温)は、10℃以上60℃以下であることが好ましく、20℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。10℃以上60℃以下であると、分散混合槽の圧力を分散混合に適した状態に保ちながら、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に分散混合させることができる。
【0020】
初期水中に、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入する速度は、投入後分散した状態となれば特に制約はなく、連続的に投入する方法、一括して投入する方法、分割して投入する方法のどの方法でもよい。例えば、高粘度の二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入する場合は、初期水中で分散させるために、連続的に少量ずつ投入することで、重合機または分散混合槽等の内壁等に未分散の付着物やスラリー中の未溶解の残渣が残りにくくなる。
【0021】
本発明の塩化ビニル系共重合体の製造方法において、初期水に二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散させる際の回転数、分散時間は、攪拌機の形状や攪拌機から重合機または分散混合槽等内壁までの間隙によって様々であるため特に制約はないが、例えば、パドル型攪拌機径(d)と重合機径(D)の比(d/D)が3.0のような場合、50rpm以上の回転数であることが好ましい。
【0022】
また、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを分散混合する際の時間は、充分に分散混合することができれば特に制約はないが、1分以上であることが好ましい。1分以上であると、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に分散混合させることができる。
【0023】
これらの方法により、塩化ビニル系モノマーに、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に分散混合することにより、
例えば、「共重合が異常重合となり正常な粒子が得られない」、「正常粒子が得られた場合でもスケールが多く発生する」といった問題の発生を抑制することができる。
【0024】
本発明で使用される塩化ビニル系モノマーとしては特に限定はなく、例えば塩化ビニルモノマー、塩化ビニリデンモノマー、酢酸ビニルモノマーまたはこれらの混合物、または、この他にこれらと共重合可能で、好ましくは重合後の重合体主鎖に反応性官能基を有しないモノマー、例えばエチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類から選ばれる1種または2種以上の混合物を使用しても良い。2種以上の混合物を使用する場合は、塩化ビニル系モノマー全体に占める塩化ビニルモノマーの含有率を50重量%以上、特に70重量%以上とすることが好ましい。中でも得られる共重合樹脂の物性等から、塩化ビニルモノマーあるいは塩化ビニリデンモノマーのいずれか1種のみを使用することが好ましく、塩化ビニルモノマーを使用することがさらに好ましい。
【0025】
一般にマクロモノマーとは、重合体の末端に反応性の官能基を有するオリゴマー分子である。本発明で使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーは、反応性官能基として、アリル基、ビニルシリル基、ビニルエーテル基、ジシクロペンタジエニル基、下記一般式(1)から選ばれる重合性の炭素−炭素二重結合を有する基を、少なくとも1分子あたり1個、分子末端に有する、ラジカル重合によって製造されたものである。
特に、塩化ビニル系モノマーとの反応性が良好なことから、重合性の炭素−炭素二重結合を有する基が、下記一般式:
−OC(O)C(R)=CH2
で表される基が好ましい。
【0026】
式中、Rの具体例としては特に限定されず、例えば、−H、−CH3、−CH2CH3、−(CH2nCH3(nは2〜19の整数を表す)、−C65、−CH2OH、−CNの中から選ばれる基が好ましく、さらに好ましくは−H、−CH3である。
【0027】
本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖である、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体は、ラジカル重合によって製造される。ラジカル重合法は、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物などを使用して、特定の官能基を有するモノマーとビニル系モノマーとを単に共重合させる「一般的なラジカル重合法」と、末端などの制御された位置に特定の官能基を導入することが可能な「制御ラジカル重合法」に分類できる。
【0028】
「一般的なラジカル重合法」は、特定の官能基を有するモノマーは確率的にしか重合体中に導入されないので、官能化率の高い重合体を得ようとした場合には、このモノマーをかなり大量に使用する必要がある。またフリーラジカル重合であるため、分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0029】
「制御ラジカル重合法」は、さらに、特定の官能基を有する連鎖移動剤を使用して重合を行うことにより末端に官能基を有するビニル系重合体が得られる「連鎖移動剤法」と、重合生長末端が停止反応などを起こさずに生長することによりほぼ設計どおりの分子量の重合体が得られる「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。
【0030】
「連鎖移動剤法」は、官能化率の高い重合体を得ることが可能であるが、開始剤に対して特定の官能基を有する連鎖移動剤を必要とする。また上記の「一般的なラジカル重合法」と同様、フリーラジカル重合であるため分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0031】
これらの重合法とは異なり、「リビングラジカル重合法」は、本件出願人自身の発明に係る国際公開WO99/65963号公報に記載されるように、重合速度が大きく、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い、例えば、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1〜1.5程度の重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0032】
従って「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、本発明において、上記の如き特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはより好ましい重合法である。
【0033】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはさらに好ましい。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等が挙げられる。
【0034】
本発明におけるマクロモノマーの製法として、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、通常、制御ラジカル重合法が利用され、さらに制御の容易さなどからリビングラジカル重合法が好ましく用いられ、特に原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0035】
また本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖が有する、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体としては特に制約はなく、該重合体を構成する二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーとしては、各種のものを使用することができる。例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニルモノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を共重合させても構わない。中でも生成物の物性等から、スチレン系モノマーあるいは(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくはアクリル酸エステルモノマーあるいはメタクリル酸エステルモノマーであり、さらに好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、最も好ましくはアクリル酸ブチルである。本発明においてはこれらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合させても良く、その際はこれらの好ましいモノマーが重量比で40%以上含まれていることが好ましい。ここで、例えば「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸あるいはメタクリル酸を意味するものである。
【0036】
本発明で使用されるマクロモノマーは、これら二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有し、さらに反応性官能基を、少なくとも1分子あたり1個、分子末端に有することを特徴としている。
【0037】
さらに、本発明の塩化ビニル系モノマーと共重合可能なマクロモノマーは1種のみを用いてもよく、構成するエチレン性不飽和モノマーが異なるマクロモノマーを2種以上併用してもよい。
【0038】
また、本発明の塩化ビニル系モノマーと共重合可能なマクロモノマーの分子量は、GPCによるスチレン換算した数平均分子量で、1000〜100000であることが好ましい。更に、1000〜30000であれば粘度が低いため、重合初期でのマクロモノマー含量の高い微粒子が少なくなるため好ましい。また、1000〜15000であれば、塩化ビニル系モノマーとの分散混合時間が短縮でき、重合終了後の残塩化ビニルモノマー回収時間が短縮できるため最も好ましい。
【0039】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂を構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制約はないが、50重量%以上100重量%未満であることが好ましく、さらに好ましくは50重量%以上99.95重量%以下であり、特に好ましくは50重量以上97重量以下である。塩化ビニル系モノマーの比率が50重量%以上100重量%未満の範囲であれば、共重合反応が安定である上に、得られる塩化ビニル系共重合樹脂が粉粒体になり、加工方法の自由度を増すという効果が期待できる。
【0040】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の平均重合度または平均分子量は特に限定されず、通常製造および使用される塩化ビニル系樹脂と同様に、JIS K 7367−2に従って測定したK値が50〜95の範囲である。また、平均粒径としては、通常10〜500μmの範囲である。
【0041】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法については、特に制約はないが、重合反応熱の除熱や暴走反応の抑制といった重合制御の簡便性から、水性媒体中での共重合が好ましく、懸濁重合法を用いることが好ましい。
【0042】
本発明においては、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーに塩化ビニル系モノマーを分散混合したのち、要すれば懸濁重合法で使用される分散剤、重合開始剤、界面活性剤、分散助剤、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等を、必要に応じ一括あるいは分割または連続して仕込み、所定の重合温度で共重合反応を行う。
【0043】
懸濁重合法に使用される分散剤としては、本発明の目的を損なわない範囲のものであれば、特に限定されずに使用することができる。そのような分散剤としては、例えば、部分鹸化ポリ酢酸ビニル;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;ポリエチレンオキサイド;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸;酢酸ビニル−マレイン酸共重合体;スチレン−マレイン酸共重合体;ゼラチン;デンプン、等の有機高分子分散剤が使用可能であり、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
また重合開始剤としては、特に限定されずに本発明の目的を損なわない範囲の油溶性重合開始剤を添加すれば良いが、これらの開始剤のうち10時間半減期温度が30〜65℃のものを1種または2種以上使用するのが好ましい。このような重合開始剤としては、例えば、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、2,4,4トリメチルペンチル−2−パーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。これら油溶性重合開始剤は特に制約のない状態で添加することができるが、例えば有機溶剤に溶解して使用する場合には、その有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジオクチルフタレート等のエステル類が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
その他、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等は、一般に塩化ビニル系樹脂の製造に使用されるものを、必要に応じて任意に使用することができ、その仕込量も特に限定されない。
【0046】
一般に、塩化ビニル系樹脂の用途は多岐に渡り、その用途に適した製造方法で製造した樹脂が用いられる。例えば、パイプ、継手、板などの硬質用途や、シート、フィルム、電線被覆などの軟質用途には、主として懸濁重合法により製造された塩化ビニル系樹脂が用いられる。本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、これらいずれの製造方法にも好適に用いることができ、本発明により、種々の用途に応じた塩化ビニル系共重合樹脂を得ることができる。
【実施例】
【0047】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。ここで、特に断りのない限り、実施例中の「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0048】
<200メッシュ篩分け(小粒子量)の評価>
得られたスラリーを200メッシュ篩(JIS Z8801−1 目開き350μm)で篩分けし、その通過液を100℃にて十分に乾燥して重量を測定した(スラリー200メッシュ篩通過乾燥樹脂重量)。一方、得られたスラリーを100℃にて十分に乾燥して得られた固形分重量を測定し(全スラリー乾燥樹脂重量)、下記計算式により、200メッシュ篩通過樹脂比率を算出した。
【0049】
(200メッシュ篩通過樹脂比率)=(スラリー200メッシュ篩通過乾燥樹脂重量)/(全スラリー乾燥樹脂重量)
200メッシュ篩通過樹脂比率が2%未満であると脱水時の排液中のCODが低下するため好ましい。
【0050】
<樹脂中のマクロモノマー含量の定量>
全スラリー、又は200メッシュ篩通過液を100℃で乾固した乾固物1gを特級THF(テトラヒドロフラン)試薬30gに溶解し、溶解液をKBrプレートに塗布、乾燥させた後IR測定機(パーキンエルマー製フーリエ変換赤外分光光度計SPECRUM1000)にて4000cm-1から400cm-1の吸収を測定した。カルボニル基由来のシグナル(1730cm-1付近のピークトップ)と、炭素−塩素由来のシグナル(615cm-1付近のピークトップ)のベースラインに対するピーク高さの比をマクロモノマー含量に対し検量線を引き、試料のIRを測定することで、それぞれ、全樹脂中および小粒子樹脂中のマクロモノマー含量を算出した。
<スラリーの自圧回収時間>
重合機内に予め超音波式液面検出装置を挿入し、気−液界面(泡液面)のレベルを確認しながら回収をおこなった。重合機の空間部を超えないように(回収ラインに泡が流れないように)、回収バルブの開度を調整し、重合機内圧が0.05MPa以下となったところで真空ポンプに切替え、−0.05MPaとなったところで窒素により0MPaまで圧を戻す。回収開始から窒素による圧戻しまでの時間を回収時間と定義する。液面(レベル)は、回収前の液面をL0、重合機の空間容積を断面積で除した液面L100、回収時の泡の高さをLとして、L/(L100−L0)×100[%]として、回収期間中最も高い液面をLmaxと定義する。
<二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの製造>
二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの製造は、下記の製造例に示す手順に従って行った。
【0051】
(製造例)
還流管および攪拌機付きの2Lのセパラブルフラスコに、CuBr(5.54g)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(73.8ml)を加え、オイルバス中70℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸−n−ブチル(132g)、2−ブロモプロピオン酸メチル(7.2ml)、ペンタメチルジエチレントリアミン(4.69ml)を加え、反応を開始した。70℃で加熱攪拌しながら、アクリル酸−n−ブチル(528g)を90分かけて連続的に滴下し、さらに80分間加熱攪拌した。
【0052】
反応混合物をトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)を得た。
【0053】
フラスコに、メタノール(800ml)を仕込み、0℃に冷却した。そこへ、t−ブトキシカリウム(130g)を数回に分けて加えた。この反応溶液を0℃に保持して、アクリル酸(100g)のメタノール溶液を滴下した。滴下終了後、反応液の温度を0℃から室温に戻したのち、反応液の揮発分を減圧留去することにより、アクリル酸カリウム(CH2=CHCO2K)を得た。
【0054】
還流管付き500mLフラスコに、得られた片末端Br基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)(150g)、アクリル酸カリウム(7.45g)、ジメチルアセトアミド(150ml)を仕込み、70℃で3時間加熱攪拌した。反応混合物よりジメチルアセトアミドを留去し、トルエンに溶解させ、活性アルミナカラムを通したのち、トルエンを留去することにより片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーを得た。
25℃での片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの粘度は、約40Pa・sであった。
【0055】
(実施例1)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に初期水として、全モノマーに対し40部相当の水を予め仕込み、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.02部を添加し、重合反応機内温を20℃に制御して、1分間あたり900回転の回転速度で攪拌しながら溶解した。亜硝酸ナトリウム0.00015部添加した後、攪拌しながら、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー40部を仕込んで、脱気したのち、塩化ビニルモノマー60部を仕込み、投入後から10分間攪拌することにより、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させた。t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水110部とともに仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。ジャケット温度を57℃のままで制御して、自圧回収を開始した。回収時間は0.5時間、Lmaxは90%であった。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に初期水として、全モノマーに対し100部相当の水を予め仕込み、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.01部を、重合反応機内温を40℃に制御して、1分間あたり450回転の回転速度で攪拌しながら溶解した。攪拌しながら、亜硝酸ナトリウム0.00015部添加した後、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー6部を仕込んで、脱気したのち、塩化ビニルモノマー94部を仕込み、投入後から15分間攪拌することにより、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させた。t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.04部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水50部とともに仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。ジャケット温度を65℃に制御して自圧回収を開始した。回収時間は0.4時間、Lmaxは70%であった。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量1500リットルのステンレス鋼製重合反応機に初期水として、全モノマーに対し300部相当の水を予め仕込み、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.01部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を、重合反応機内温を25℃に制御して、1分間あたり560回転の回転速度で攪拌しながら溶解した。攪拌しながら、亜硝酸ナトリウム0.00015部添加した後、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー3部を仕込んで、脱気したのち、塩化ビニルモノマー97部を仕込み、投入後から20分間攪拌することにより、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させた。t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.0075部、t−ヘキシルパーオキシピバレイト0.02部を仕込んだ後、次いで鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水50部とともに仕込み、重合温度66.5℃で約5.5時間重合した。ジャケット温度を66.5℃のままで制御して、自圧回収を開始した。回収時間は2時間、Lmaxは85%であった。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量1500リットルのステンレス鋼製重合反応機に初期水として、全モノマーに対し20部相当の水を予め仕込み、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.016部を、重合反応機内温を25℃に制御して、1分間あたり560回転の回転速度で攪拌しながら溶解した。攪拌しながら、亜硝酸ナトリウム0.00030部添加した後、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー10部を仕込んで、脱気したのち、塩化ビニルモノマー90部を仕込み、投入後から30分間攪拌することにより、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させた。t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.0075部、t−ヘキシルパーオキシピバレイト0.02部を仕込んだ後、次いで鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.084部60℃の温水130部を仕込み、重合温度66.5℃で約5.5時間重合した。ジャケット温度を75℃で制御して、自圧回収を開始した。回収時間は1.5時間、Lmaxは80%であった。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
実施例1の亜硝酸ナトリウムを0.00015部から0部に変更した以外は、実施例1と同様に仕込・重合を実施した。重合6時間後、ジャケット温度を57℃のままで制御して、自圧回収を開始した。急激な圧力開放により、泡(スラリー)が重合機から飛散しないようにゆっくりと圧を開放したことから回収時間は1時間かかり、Lmaxは100%(泡の一部が重合機から回収ラインに流れ出た)。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
実施例1の亜硝酸ナトリウムを0.00015部から0.002部に変更した以外は、実施例1と同様に仕込・重合を実施した。重合6時間後、未だ缶内圧力は実施例1よりも高かったが(塩化ビニルモノマーがより多く残っており、同重合時間で塩化ビニルモノマーが消費されなかったと判断した)、ジャケット温度を57℃のままで制御して、自圧回収を開始した。実施例1と同重合時間において十分な圧低下がみられず(重合遅延)、急激な圧力開放により、泡(スラリー)が重合機から飛散しないようにゆっくりと圧を開放したことから回収時間は2.5時間かかり、Lmaxは100%(泡の一部が重合機から回収ラインに流れ出た)。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
実施例4の亜硝酸ナトリウムを0.00030部から0部に変更した以外は、実施例4と同様に仕込・重合を実施した。重合5.5時間後、ジャケット温度を66.5℃のままで制御して、自圧回収を開始した。急激な圧力開放により、泡(スラリー)が重合機から飛散しないようにゆっくりと圧を開放したことから回収時間は5時間かかり、Lmaxは100%(泡の一部が重合機から回収ラインに流れ出た)。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
実施例4の亜硝酸ナトリウムを0.00030部から0.0015部に変更した以外は、実施例4と同様に仕込・重合を実施した。重合5.5時間後、未だ缶内圧力は実施例1よりも高かったが(塩化ビニルモノマーがより多く残っており、同重合時間で塩化ビニルモノマーが消費されなかったと判断した)。ジャケット温度を66.5℃のままで制御して、自圧回収を開始した。実施例4と同重合時間において十分な圧低下がみられず(重合遅延)、急激な圧力開放により、泡(スラリー)が重合機から飛散しないようにゆっくりと圧を開放したことから回収時間は4時間かかり、Lmaxは100%(泡の一部が重合機から回収ラインに流れ出た)。自圧回収・重合樹脂評価の結果を表1に示す。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を懸濁重合にて製造するに際し、
初期水中の分散剤の添加量が、構成するモノマー成分の総量(以下、「仕込モノマー総量」)100重量部に対して、0重量部より多く0.1重量部以下となるように調整後、水溶性重合禁止剤が仕込モノマー総量100重量部に対して0.0001部以上0.001部以下となる量を投入した後、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを投入し、初期水中に分散させた後、塩化ビニル系モノマーを投入することを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項2】
仕込みモノマー総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であり、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーと塩化ビニル系モノマーとの総重量(M)と初期水重量(H)が、次式(1)の範囲
0< H/M ≦3.0 (1)
であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項3】
水溶性重合禁止剤が、チオシアン酸塩、亜硝酸塩、水溶性イオウ含有有機化合物から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−262352(P2007−262352A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92862(P2006−92862)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】