説明

塩辛様食品及びその製造方法

【課題】有害金属がほとんど含まれず、しかも従来の製造法による塩辛に比べて著しく高い品質の塩辛様食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する塩辛様食品。細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する熟成前食品を熟成してなる塩辛様食品。海藻ペーストとヨーグルトの混合物が5〜25重量%含有される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種を含む塩辛様食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的なイカの塩辛は、イカの細切り胴肉に、イカの内臓と食塩を加えて熟成させたものである。イカの塩辛には、赤作り、白作り、黒作りの3種があり、いずれも地域独特の製法で造られている。
【0003】
いずれにしても、イカの内臓、特に肝臓の使用は、トロミ、味、発酵微生物の供給源等として必須成分となっている。例えば、特開平8−112080号公報(特許文献1)および特開平9−220076号公報(特許文献2)参照。
【0004】
しかしながら、イカの肝臓には比較的多くの有害金属が含まれており、イカの塩辛の愛好者にとってはFAO/WHO合同食品添加物専門家会合(JECFA)が定めた暫定耐容摂取量を超えてしまうという懸念がでてきている。
【特許文献1】特開平8−112080号公報
【特許文献2】特開平9−220076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決しようとするものであり、有害金属がほとんど含まれず、しかも従来の製造法による塩辛に比べて著しく高い品質を有する塩辛様食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明らは新しいイカの塩辛の製造法を開発すべく、鋭意検討した。その結果、イカの肝臓の代わりに、海藻のペーストとヨーグルトを一定量、しかもある比率で使用することによって、有害金属がほとんど含まれない、しかも従来の製造法による塩辛に比べて著しく高い品質のものができることを見出し、本発明に至ったものである。
【0007】
しかも、イカのみならず、タコ、貝でも高品質な塩辛様食品が得られることがわかった。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
項目1.細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する塩辛様食品。
【0009】
項目2.細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する熟成前食品を熟成してなる塩辛様食品。
【0010】
項目3.前記海藻ペーストとヨーグルトの混合物が5〜25重量%含有される項目1又は2に記載の塩辛様食品。
【0011】
項目4.前記海藻ペーストとヨーグルトの混合比率が、重量比で、1対0.5〜3.0である項目1〜3のいずれかに記載の塩辛様食品。
【0012】
項目5.細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する熟成前食品を熟成する工程、を包含する塩辛様食品の製造方法。
【0013】
項目6.前記海藻ペーストとヨーグルトの混合物が5〜25重量%含有される項目5に記載の塩辛様食品の製造方法。
【0014】
項目7.前記海藻ペーストとヨーグルトの混合比率が、重量比で、1対0.5〜3.0である項目5又は6に記載の塩辛様食品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塩辛様食品は、細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有するので、従来のようにイカの肝臓を含有することがなく、有害な重金属を含むことがない。
【0016】
また、本発明の塩辛は、食感、香り、味においても、従来の塩辛と同等以上である。
【0017】
海藻ペーストとヨーグルトの混合物が10〜20重量%含有され、前記海藻ペーストとヨーグルトの混合比率が、重量比で1対1.0〜2.0であると、食感、香り、味において特に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明では、細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種を使用する。例えば、イカ肉の場合ではイカの胴肉を幅0.3〜0.8cm、好ましくは0.4〜0.5cm程度に細断したものを使用することができる。また、タコ肉、貝肉の場合も同様の寸法で細断したものを使用することができる。上記貝としては、アワビ、サザエ、トコブシ、バイガイ等があげられる。
【0020】
本発明で使用される海藻ペーストとは、水洗した生の海藻をペースト状になるまで細断したものであり、その粒径としては10〜300μmが好ましい。特に好ましくは10〜100μmであり、最も好ましくは10〜60μmである。海藻としては、ワカメ、モズク、コンブ等が好ましく使用され、また海藻ペーストの粒度は細いほど良い。
【0021】
本発明で使用されるヨーグルトは、市販されている通常のものでよいが、生菌体が含まれるものがより好ましい。
【0022】
細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種(以下、イカ肉等という)と、海藻ペーストと、ヨーグルトとの混合順序は、適宜選択することができ、例えば、3者を同時に混合してもよく、イカ肉等に、海藻ペーストとヨーグルトとを混合したものを添加、混合しても良く、イカ肉等に、海藻ペーストを添加、混合し、その後ヨーグルトを添加、混合してもよく、イカ肉等にヨーグルトを添加、混合した後、海藻ペーストを添加、混合して混合してもよい。
【0023】
典型的には、細断したイカ肉等に対して、海藻ペーストとヨーグルトとを混合したもの(混合物)を添加、混合する。
【0024】
海藻ペーストとヨーグルトの混合物は、塩辛に対して5〜25重量%含有されるのが好ましい。特に好ましくは10〜20重量%である。
【0025】
海藻ペーストとヨーグルトの混合物の含有量が塩辛に対して5重量%より少ないと味が劣る場合があり、25重量%を超えると塩辛とは異なる味がする場合がある。
【0026】
また、混合物における、海藻ペーストとヨーグルトの混合比率は、重量比で、1対0.5〜3.0であるのが好ましい。特に、海藻ペースト1に対してヨーグルト1.0〜2.0が好ましい。海藻ペーストとヨーグルトの混合比率が、重量比で、1対0.5未満の場合、およびには3.0を超える場合には、味が劣る場合がある。
【0027】
イカ肉等と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを混合した後、所定期間(例えば、1週間から3週間)、低温で(例えば、15℃以下で)熟成させる。通常は、食塩が全体に対して3〜10重量%添加される。
【0028】
次に、本発明の塩辛様食品の製造方法を説明する。
【0029】
上記したように細切りしたイカ肉等、海藻ペースト、ヨーグルトおよび食塩を混合し、この熟成前食品を所定時間(3日〜3週間、特に1週間〜2週間)、低温(15℃以下、特に10℃以下)で熟成する。
【0030】
得られた塩辛様食品は、内臓、特に肝臓を含んでいないので、カドミウムなどの重金属を含むことがなく安全であり、また塩辛に類似した食感、香り、味を有する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例では、「%」は全て「重量%」を意味する。
(実施例1)
海藻ペーストとヨーグルトの混合比率および添加量の評価
スルメイカの内臓を除去し、水洗後、水切りし、胴肉を幅0.5cmに細断したものを、37kg用意した。
【0032】
これを1kgずつ37等分した。
【0033】
対照区として、細断イカ1kgに、水洗後水切りしたイカの肝臓0.1kg、食塩0.1kgを添加混合した後、7日間、15℃以下で熟成させた。
【0034】
一方、平均粒度12ミクロンのワカメペーストとヨーグルトを、重量比で、1対0.2、1対0.5、1対1.0、1対2.0、1対3.0、1対3.5に混合し、イカの肝臓代替物を調製した。
【0035】
なお、ワカメペーストは、水洗した生のワカメ1.0kgに水7.3kgを加えてワカメの平均粒径が12μmとなるまでフードカッターにて細断し、ペースト状になったものを用いた。粒径は堀場製作所製粒度計LA−920を用いて測定した。
【0036】
また、ヨーグルトは、ビヒダスプレーンヨーグルト(森永乳業社製)を用いた。
【0037】
表1の試験区分1〜36に準じ、細断イカ1kgと食塩0.1kgに、これら肝臓代替物を3〜30%添加、混合した後、7日間15℃以下で熟成させた。
熟成後、対象区のイカ塩辛と比べ、各試験区の官能評価を行った。
【0038】
官能評価は対象区と比較して、食感、香り、味を総合したものについて、0:変わらない、−1:劣る、−2:非常に劣る、−1:良い、−2:優れている、で10名のパネルによって評点し、その平均点で示した。
【0039】
その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

その結果、ワカメペーストとヨーグルトの混合比率は、1対0.5〜3.0が好ましく、またその添加量は5〜25%が好ましいことが分かった。
【0041】
ちなみに、有害金属の一つであるカドミウムの含有量は対照区が100g当たり3.8μgであったのに対し、試験区1〜36は全て検出限界以下であった。
(実施例2)
タコ、アワビの塩辛様食品の製造
水洗後、水切りし、幅0.5cmに細断したタコ、アワビをそれぞれ4kg用意した。
【0042】
これを1kgずつ8等分した。
【0043】
タコ、アワビそれぞれ1kgに、イカの肝臓0.1kg、食塩0.1kg、みりん0.05kgを加え、7日間、15℃以下で熟成させた。
【0044】
一方、平均粒度50μmのコンブペーストとヨーグルトを1対1で混合したイカの肝臓代替物を10、15、20%、イカの肝臓の代わりに加え、同じく食塩0.1kgとみりん0.05kgを混合、7日間、15℃以下で熟成させた。
【0045】
なお、コンブペーストは、水洗した生のコンブ1.0kgに水4.5kgを加えてコンブの平均粒径が50μmとなるまでフードカッターにて細断し、ペースト状になったものを用いた。粒径は堀場製作所製粒度計LA−920を用いて測定した。
【0046】
また、ヨーグルトは、ビヒダスプレーンヨーグルト(森永乳業社製)を用いた。
【0047】
イカの肝臓を使用した対照区分と比較し、官能評価を実施例1と同様の方法で実施した。
【0048】
その結果は表2の通りとなり、本実施例の塩辛はいずれも高い評価を得た。
【0049】
【表2】

以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許出願は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する塩辛様食品。
【請求項2】
細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する熟成前食品を熟成してなる塩辛様食品。
【請求項3】
前記海藻ペーストとヨーグルトの混合物が5〜25重量%含有される請求項1又は2に記載の塩辛様食品。
【請求項4】
前記海藻ペーストとヨーグルトの混合比率が、重量比で、1対0.5〜3.0である請求項1〜3のいずれかに記載の塩辛様食品。
【請求項5】
細切りしたイカ肉、タコ肉および貝肉からなる群から選択される少なくとも一種と、海藻ペーストと、ヨーグルトとを含有する熟成前食品を熟成する工程、を包含する塩辛様食品の製造方法。
【請求項6】
前記海藻ペーストとヨーグルトの混合物が5〜25重量%含有される請求項5に記載の塩辛様食品の製造方法。
【請求項7】
前記海藻ペーストとヨーグルトの混合比率が、重量比で、1対0.5〜3.0である請求項5又は6に記載の塩辛様食品の製造方法。


【公開番号】特開2008−306994(P2008−306994A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158829(P2007−158829)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000132172)株式会社スギヨ (23)
【Fターム(参考)】