説明

塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法、およびそれからなる塩酸タムスロシン徐放性錠剤

【課題】本発明は塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法、およびこれにより製造される塩酸タムスロシン徐放性錠剤である。この方法は、有効成分として塩酸タムスロシンを有機溶媒に溶解させ、次いで塩酸タムスロシン溶液にフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶解させてバインダー溶液を調製し、バインダー溶液を、賦形剤としてフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース/グリセリルジベヘネートと一緒にして混練する段階を含んで構成され、生体内の異なるpH環境で薬剤溶出をコントロールする。これにより、塩酸タムスロシンを生体内で徐放性で均一なコントロールされた量で溶出し、生体への有効性を高め、副作用を最小にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法、及びそれにより製造される塩酸タムスロシン徐放性錠剤に関するものである。より詳細には、本発明は、有効成分である塩酸タムスロシンを有機溶媒に溶解させる段階、塩酸タムスロシン溶液にフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを加えてバインダー溶液とする段階、バインダー溶液を賦形剤であるフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース/グリセリルジベヘネート(glyceryl dibehenate)の混合物と混練する段階よりなる塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法に関するものである。本発明によって製造される塩酸タムスロシン徐放性錠剤は、生体内の異なるpH環境によって薬物の溶出速度を調節することによって、有効成分を生体内で徐放性で均一に溶出できるようにして、塩酸タムスロシン服用量を少なくすることができ、これにより生体への有効性を高め、副作用を最小にすることができる。
【背景技術】
【0002】
塩酸タムスロシン{(−)−(R)−5−[2−((2−(o−エトキシフェノキシ)エチル)アミノ)プロピル]−2−メトキシ−ベンゼンスルホンアミド塩酸塩}は、下記の式(I)に示される化合物の左旋性光学異性体であり、膀胱頚部閉塞による解剖学的又は機械的な尿道閉塞に原因する尿道の機能障害、膀胱頚部、前立腺基質および尿道内平滑筋の過度な狭窄による機能的な尿道閉塞を改善ないし緩和させる有効薬物である。その作用機構は、自律交感神経で支配され、a
1−アドレナリン受容体を選択的にブロックして膀胱頚部、前立腺平滑筋および尿道内平滑筋の収縮を抑え、膀胱頚部、前立腺及び尿道を緩ませて、尿道の機能障害を改善ないし緩和させる。現在、1日1回服用するカプセル型製剤が市販されている。
【0003】
【化1】

【0004】
通常、服用された薬物が最大限に効果を発揮するためには、生体内薬物濃度が長期間に亘って一定に維持される必要性がある。このため、薬剤を含む製剤からの薬物溶出速度をコントロールすることが必要であり、様々の徐放性製剤を開発する広範囲な研究がこの分野で行われてきた。
【0005】
徐放性製剤の中で、主として胃腸管で溶出される経口徐放性製剤が、患者の薬物治療に対する順応度(compliance)を高め、服用回数を減らし、過度に高い血中薬剤濃度を回避することができる。従って、経口製剤は、副作用を減らすばかりでなく、長期に亘り最適治療濃度を維持させて治療効果の増すことができる。
【0006】
このような経口徐放性製剤の典型的な例として、拡散型徐放性製剤、特に不溶性の被膜で覆った徐放性カプセル製剤がある。このようなカプセル製剤では、薬物を含むコア(錠剤または顆粒)の外面を不溶性被膜で覆っている。カプセル中の薬剤が外部から浸透された消化液に溶解されると、溶解された薬剤が、不溶性被膜の微細な孔を通って拡散、溶出する。このカプセル製剤は、製造が比較的容易であることから、商業的に広く用いられている。
【0007】
米国特許第4,772,475号(対応韓国特開第1993−7245号公報:山之内製薬株式会社)は、有効成分として塩酸タムスロシンを配合した経口徐放性製剤の製造方法を開示している。塩酸タムスロシンが経口で服用されたとき保持効果を持たせるために、この方法では塩酸タムスロシンを胃腸管の内で簡単に崩解されない構造形成物、(つまり、賦形剤である結晶性セルロース)と混合し、この塩酸タムスロシン/結晶性セルロース混合物に、溶出制御剤/水混合物を加え、この混合物を造粒し、最後にこの粒状物を個々の形態(マイクロカプセル、微小粒)にする。ここで、溶出制御剤は、アクリル酸ポリマー、アクリル酸コポリマー、及びこれらとセルロース誘導体との混合物から選ばれる。
【0008】
経口の溶出制御型塩酸タムスロシン製剤としてのハルナール(Harnal)カプセル(山之内製薬(株)で市販)は、上記の従来技術に従って、塩酸タムスロシンと結晶性セルロースを混合し、メタクリル酸コポリマーの水性エマルションを加え、この混合物を造粒して乾燥し、粒状物にメタクリル酸コポリマーの水溶液を噴霧、被膜化し、被膜化物を乾燥、篩い分けして製造されている。
【0009】
この従来技術は塩酸タムスロシン徐放性製剤の製造に実際に適用されている。ここで、結晶性セルロースは、所定の大きさ(bulkness)を付与するための賦形剤として作用するばかりでなく、結晶性セルロースが水への溶解性が良くない点を利用して、メタアクリル酸コポリマーとの粒状物の形態および強度を維持しながら、塩酸タムスロシンの徐放性のある溶出調節剤として作用する。しかしながら、この従来技術においては、結晶性セルロース以外の他の賦形剤(乳糖や澱粉)を、最終製剤化ではないときの粒状物の製造に一緒に用いると、時間が経過して水の浸透が加速的に増え、粒状物の物理的強度が急激に低下する結果、塩酸タムスロシンの溶出が急に大きくなる。これは、塩酸タムスロシンの徐放性を難しくすることになる。
【0010】
加えて、この従来技術においては、非常に少量の塩酸タムスロシンと比較的多量の結晶性セルロースとの混合が先ず行なわれるため、それらを均一に混ぜ合わせるのが難しい。また、製剤の強度を上げるために超高速混合器、遠心分離用流動床顆粒器(granulator)のような高価の特別の機器を用いなければならない。また、薬剤の溶出を均一に、一貫性のあるように調節するために、所定の大きさの粒状物だけを選別してマイクロカプセル、又はマイクロ球体を製造しなければならず、粒状物を錠剤やカプセルの形態にするには、さらに追加の成分を添加することが必要となる。このように、従来技術は、複雑な製造工程が必要であり、必然的に製造コストの上昇や、製造収率の低下を伴うようになる。さらに、塩酸タムスロシンのように有効成分の一回当たりの服用量が少ない(0.1〜0.2mg/1錠或いは1カプセル)場合には、有効成分と賦形剤(「形成物質」と呼ばれる)を混合するときに薬剤の偏在現象が起き、薬剤の少ない不均一性となる可能性が高くなり、これにより生体内での血中薬剤濃度を均一に維持することが出来ない可能性も高くなる。
【0011】
一方、薬剤の配合物の製造に広く使用されている別の従来技術として、固体分散を用いる方法を挙げられる。この固体分散は、通常、溶融法又は溶媒法によって製造される。
溶融法は、溶解性の低い薬剤とキャリア(carrier)の混合物を熱で溶解させ、次いで冷却させる。しかしながら、この方法は、薬剤が熱によって変性されることがあり、薬剤の性状(例えば、溶解性)が冷却速度によって変わることがあるので、その適用に限界がある。
【0012】
一方、溶媒法は、溶解性の低い薬剤とキャリアを、両成分を溶解出来る溶媒中に溶解させ、次いで乾燥して溶媒を除去する。しかしながら、セルロースや他のポリマー、またはコポリマーをキャリアとして用いたとき、キャリアが高粘度であるために均質な撹拌が困難になる。また、有機溶媒が十分に取り除かれない場合、残留溶媒が固体分散体の物理的、化学的安定性に影響を与えることがある。これらの問題点があるので、溶媒法は、工業的な大量生産には向いてないと考えられてきた。
【0013】
従って、塩酸タムスロシンを、満足のいく徐放性を示す錠剤にするのはかなり難しいと考えられてきた。この理由のために、塩酸タムスロシンを保持した錠剤は提案されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、鋭意検討して、塩酸タムスロシンを含有する経口徐放性錠剤の製造方法を確立した。これにより、高価な特別の機器の使用、複雑な製造工程、低製造収率による大幅な製造コスト上昇、有効成分の偏りによる薬剤成分の不均一化、残留有機溶媒の可能性など、有効成分として塩酸タムスロシンを含む経口徐放性カプセル製造の従来技術にあった種々の問題点が解決できる。この結果、本発明者は、複雑な工程や特別の機器を使用せずに、通常の製造条件下で通常の装置を用いての改良固体分散法(溶媒法)を用いることにより塩酸タムスロシン徐放性錠剤が効果的、且つ容易に製造できることを見出した。この知見に基づき、本発明者は、多くの検討を行い本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の第一の目的は、複雑な工程や高価の特殊装置を使用せずに、簡単で且つ効率よく製造することができ、有効薬理成分である塩酸タムスロシンの少ない量を、胃腸管の異なるpH環境に応じて溶出速度を調節して、胃腸管内で徐放する形態の一定量にコントロールされた量で溶出することができる塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の第2の目的は、製造コストの低減及び生産収率の大幅向上を可能にする経済的な塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法を提供することにある。
【0017】
本発明の第3の目的は、錠剤中に少量の塩酸タムスロシンが偏在することで薬剤濃度の不均一化が起こる可能性を効果的になくすことができる塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明の第4の目的は、本発明の第1から第3の目的で製造される塩酸タムスロシン徐放性錠剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成すべく、本発明は、溶解段階の後に混合段階を行う塩酸タムスロシン徐放性製剤の製造方法であり、塩酸タムスロシンを有機溶媒に溶解させ、次いで塩酸タムスロシン溶液に第1のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A)を溶解させてバインダー溶液とする段階と、このバインダー溶液を、第2のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B)とグリセリルジベヘネートを含む賦形剤混合物と一緒にして混練する段階とからなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明による製造方法では、有効成分である塩酸タムスロシンをバインダー溶液に溶解させる。このことで、非常に少量の有効成分と比較的に大量の賦形剤を混合する過程で発生する薬剤の偏りが原因で起きる薬剤濃度の不均一化の可能性をなくする。
【0021】
本発明の製造方法で用いられるフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、pHにより溶解度が変わり、消化管液による塩酸タムスロシンの溶出パターンを調節するように機能する。バインダー溶液中のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、塩酸タムスロシン1重量部に対して10〜150重量部、好ましくは25〜120重量部、より好ましくは35〜100重量部である。本発明の製造方法によると、水溶性である少量の塩酸タムスロシンをフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースに分散させることで、pHにより溶出速度をコントロールして胃液と膓液で異なる溶出パターンを示す固体分散体を製造することが可能となる。
【0022】
本発明の製造方法において使用可能な有機溶媒は、塩酸タムスロシンとフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースの両方を溶解させることができれば特に限定されない。好ましい有機溶媒の例は、エタノール、塩化メチレン、これらの混合物或いはこれらと水との混合物である。有機溶媒は、バインダー溶液として適正な量が使用され、例えば塩酸タムスロシン1重量部に対して100〜500重量部、好ましくは180〜300重量部である。
【0023】
又、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、混練および造粒段階で用いられ、その使用量は、塩酸タムスロシン1重量部に対して50〜500重量部、好ましくは100〜350重量部、より好ましくは200〜350重量部である。必要により、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを追加の賦形剤混合段階で使用することができ、この場合その使用量は、5〜80重量部、好ましくは5〜50重量部、より好ましくは15〜35重量部である。
【0024】
上記のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、胃液には実質的に溶解せず、主に膓液に溶解する。それ故に、グリセリルジベヘネートやヒドロキシプロピルメチルセルロースなど他の賦形剤との相互作用によって塩酸タムスロシンを緩やかに溶出させることができ、一方、pHによって胃液と膓液で異なる溶出パターンを示し、塩酸タムスロシンの溶出をコントロール又は調節するに寄与する。
【0025】
本発明の製造方法で使用可能なグリセリルジベヘネートとヒドロキシプロピルメチルセルロースは、徐放性錠剤の製造に加えられる。グリセリルジベヘネートは、性質が疎水性であるので、消化管液の種類に関係なくそれらの液と塩酸タムスロシンの間に中間層を形成して活性成分の溶出速度を緩やかにする。グリセリルジベヘネートは、例えば「コンプレトール(Compretol)888ATO」の商品名で商業的に入手可能であり、10〜200重量部、好ましくは25〜150重量部、より好ましくは50〜100重量部で使用される。
【0026】
さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、セルロースポリマーの性状を有している。すなわち、水溶液中で固有の粘性を示し、水溶液中で湿潤し、膨潤する。この性状の故に、固体分散された錠剤の急激な崩解を防止して、消化管液や溶出液中で充分な時間錠剤の形状を維持させて、錠剤の表面積を一定レベルに維持する。従って、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、長期間に亘って錠剤の徐放パターンを有するようにし、錠剤間の偏りを減らすことになる。ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、例えば「メトローズ(Metolose)60SH4000」の商品名で商業的に入手可能であり、塩酸タムスロシン1重量部に対して10〜300重量部、好ましくは25〜200重量部で使用される。
【0027】
本発明の製造方法において、徐放性錠剤に従来から使用されてきた添加剤を使用することができる。この添加剤の例は、乳糖、とうもろこし澱粉、セルロースポリマー(例えば、日本の信越化学(株)から市販されている「メトローズ(Metolose)60SH−4000」、「メトローズ(Metolose)60SH−50」などのヒドロキシプロピルメチルセルロース;日本の信越化学(株)から市販されている「HPC−L」などの親水性ポリマーとして改質されたセルロースであるヒドロキシプロピルセルロース;日本の信越化学(株)から市販されている「HPMCP」などのフタル酸ヒドロキシプロピルセルロースなど)、マン二トール、ラオリン(laolin)、澱粉、粉末白砂糖、リン酸カルシウムなどの賦形剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、フームド二酸化ケイ素などの潤滑剤がある。賦形剤の好ましい例は、限定するものではないが、乳糖、とうもろこし澱粉、セルロースポリマーがあり、潤滑剤好ましい例は、限定するものではないが、ステアリン酸マグネシウムである。
【0028】
本発明による塩酸タムスロシン徐放性錠剤は、次の段階を含んで構成されている。
(A) バインダー溶液の調製段階:
有効成分としての塩酸タムスロシン1重量部を、エタノール、塩化メチレン、水、又はこれらの混合溶媒150〜500重量部、好ましくは180〜300重量部に溶解させる。次いで、この塩酸タムスロシン溶液に、第1のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A)10〜150重量部、好ましくは25〜120重量部、より好ましくは35〜100重量部を溶解させてバインダー溶液とする。
【0029】
(B) 混練および造粒段階:
(A)段階のバインダー溶液を、第2のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B)50〜500重量部、好ましくは100〜350重量部、より好ましくは200〜350重量部と、グリセリルジベヘネート10〜200重量部、好ましくは25〜150重量部、より好ましくは50〜100重量部でなる賦形剤混合物と一緒にして混練する。この混練物を次に粒状物にする。賦形剤混合物は、さらに乳糖300〜700重量部、好ましくは400〜550重量部が配合されていてもよい。
【0030】
(C) 篩分け段階:
粒状となった混合物を乾燥させ、次いで篩分けする。
【0031】
(D) 追加の賦形剤添加段階:
次いで、賦形剤として第3のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(C)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及び/又はとうもろこし澱粉を、篩分けした粒状物に加える。この際、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤を加える。第3のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(C)を使用するとき、その添加量は5〜80重量部、好ましくは5〜50重量部であり、より好ましくは15〜35重量部である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用するとき、その添加量は10〜300重量部、好ましくは25〜200重量部である。ヒドロキシプロピルセルロースを使用するとき、その添加量は5〜120重量部、好ましくは15〜100重量部であり、とうもろこし澱粉を使用するとき、その添加量は10〜300重量部、好ましくは50〜150重量部である。
【0032】
さらに、潤滑剤の添加量は、任意に決められるが、通常3〜40重量部、好ましくは5〜20重量部である。
【0033】
(E) 錠剤化段階:
粒状物を錠剤に圧縮成型する。
【0034】
従って、本発明による錠剤では、フタル酸ヒドロキシプロピルセルロース、グリセリルジベヘネート及びこれらの固体分散系によって塩酸タムスロシンが徐放性となっている。このように、これらの物質の添加量は、本発明の目的に合うように変えることができるならば、乳糖や澱粉類を含めて種々の一般的な賦形剤と組合わせて使用できる。
【0035】
本発明による塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法は、これまでの通常の錠剤製造設備を使用して、簡単なプロセスで実施でき、収率が高くて、工業的に見て経済性が高い。しかも、塩酸タムスロシンが均一に分布していて、pH変化により塩酸タムスロシンの溶出コントロール(塩酸タムスロシンが胃液にある程度溶解し、次いで膓液に主として溶解するpHとの溶解パターンを変化させて、塩酸タムスロシンの溶出速度を一定にするようにする)ができる。
【0036】
塩酸タムスロシン徐放性錠剤中に含む有効成分としての塩酸タムスロシンの量は、患者の年齢、性別、健康状態、治療対象の病気の種類及び症状の程度、体内での吸収速度、不活性化速度及び排泄速度のような様々のパラメーターを考慮して適切に選択される。しかしながら、本発明の錠剤は徐放性および安定性に優れるので、錠剤中の塩酸タムスロシンは、0.1mg/日(1日に1錠)、又は0.2mg/日(1日に1錠)で服用するようにするのが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例により限定されるものではないことは、この業界の通常の知識を持つ人には明らかなことである。
[実施例1]
次の方法で、下記の組成を有する徐放性錠剤を製造した。
塩酸タムスロシン:0.2g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A):10g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B):65g
乳糖:99.8g
グリセリルジベヘネート:20g
メトローズ(Metolose)60SH−4000(A):15g
メトローズ(Metolose)60SH−4000(B):20g
ステアリン酸マグネシウム:2g
塩酸タムスロシンを混合有機溶媒(エタノール:水=8:2)60mLに完全に溶解させ、ここにフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A)を溶解させてバインダー溶液を製造した。一方、乳糖、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B)、メトース60SH−4000(A)、グリセリルジベヘネートをそれぞれ混合し、バインダー溶液を加え、混練した。混練物を造粒し、乾燥させた粒状物を篩分けし、賦形剤としてメトローズ60SH−4000(B)と、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムを加えて混合した後、錠剤成型機で圧縮成型して錠剤にした。各錠剤は、塩酸タムスロシン0.2mgを含んでいる。
【0038】
[実施例2]
次の方法で、下記の組成を有する徐放性錠剤を製造した。
塩酸タムスロシン:0.2g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A):10g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B):60g
乳糖:94.8g
グリセリルジベヘネート:15g
とうもろこし澱粉:20g
ステアリン酸マグネシウム:2g
塩酸タムスロシンを混合有機溶媒(エタノール:水=8:2)50mLに完全に溶解させ、ここにフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A)を溶解させてバインダー溶液を製造した。一方、乳糖、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B)、グリセリルジベヘネートをそれぞれ混合し、バインダー溶液を加え、混練した。混練物を造粒し、乾燥した、乾燥した粒状物を篩分けし、さらに賦形剤としてとうもろこし澱粉と、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムを加えて混合した後、錠剤成型機で圧縮成型して錠剤にした。各錠剤は、塩酸タムスロシン0.2mgを含んでいる。
【0039】
[実施例3]
低置換度のヒドロキシプロピルセルロース11を加えた以外は実施例1と同様な方法で、下記の組成を有する徐放性錠剤を製造した。
塩酸タムスロシン:0.2g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A):20g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B):70g
乳糖:104.8g
グリセリルジベヘネート:15g
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース11:15g
メトローズ(Metolose)60SH−4000(B):30g
ステアリン酸マグネシウム:2g
【0040】
[実施例4]
混合有機溶媒の量を40mLとし、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、追加で加える賦形剤添加段階で乾燥した粒状物に加える以外は実施例2と同様な方法で、下記の組成を有する徐放性錠剤を製造した。
塩酸タムスロシン:0.2g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A):10g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B):55g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(C):5g
乳糖:89.8g
グルリセリルデ−ビヒニト:15g
とうもろこし澱粉:20g
ステアリン酸マグネシウム:2g
【0041】
[実施例5]
ヒドロキシプロピルセルロース〔メトローズ(Metolose)60SH4000〕を、追加で加える賦形剤添加段階で乾燥した粒状物に加える以外は実施例4と同様な方法で下記の組成を有する徐放性錠剤を製造した。
塩酸タムスロシン:0.2g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A):10g
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B):55g
メトローズ60SH4000:5g
乳糖:89.8g
グリセリルジベヘネート:15g
とうもろこし澱粉:20g
ステアリン酸マグネシウム:2g
【0042】
[実施例6]
とうもろこし澱粉28gを使用した以外は、実施例2と同様な方法で徐放性錠剤を製造した。
【0043】
[実施例7〜10]
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B)を20g、30g、40g、50gを使用した以外は、実施例1と同様な方法で徐放性錠剤を製造した。
【0044】
[実施例11〜13]
フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(A)を5g、10g、15g使用した以外は実施例3と同様な方法で徐放性錠剤を製造した。
【0045】
[実施例14〜16]
グリセリルジベヘネートを5g、10g、30g使用した以外は実施例4と同様な方法で徐放性錠剤を製造した。
【0046】
[実施例17]
メタノールと塩化メチレン(5:5)の混合有機溶媒40mLを使用した以外は実施例4と同様な方法で徐放性錠剤を製造した。
【0047】
[比較例1]
下記組成の従来からある錠剤を製造した。
塩酸タムスロシン:0.2g
乳糖:150g
澱粉グリコン酸ナトリウム:5g
ポリビニールピロリドン:10g
ステアリン酸マグネシウム:2g
【0048】
[試験例1]
実施例2、4、5、11、14、16によって製造された錠剤について、人の胃腸管状態を模擬的に作ったテスト条件で、次の方法で溶出試験を行った。
1)試験溶液の調製
試験は、大韓薬典一般試験法に記載された溶出試験第2法によって行った。試験溶液は、ポリソルベート80溶液(3?200)1mLを崩解試験法に記載された第1液500mLに加えた。溶出試験を始めて2時間後に、試験液をリン酸緩衝液(37±0.5℃;pH7.2)500mLに変えた。
【0049】
2)操作
試験は、下記の条件下、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。
・検出器: 紫外吸光光度計(測定波長;225nm)
・カラム: カプセルパック(Capcell Pak)3mm×150mm、5μmC18(ODS)
・カラム温度: 40℃
・移動相: 0.05N過塩素酸とアセトニトリル(7:3)の混合物
・注入量 : 50μL
【0050】
<実験結果>
試験結果を図1に示す。ここで、「−△−」は実施例2で製造された錠剤、「−◇−」は実施例4で製造された錠剤、「−□−」は実施例5で製造された錠剤、「−+−」は実施例11で製造された錠剤、「−×−」は実施例14で製造された錠剤、「−○−」は実施例16で製造された錠剤における塩酸タムスロシンの平均溶出率を示している。
【0051】
[試験例2]
実施例4で製造された錠剤を、本発明による試験薬として、そして比較例1で製造された従来の錠剤を対照薬として用いた。それぞれの錠剤を、3匹のビーグル犬(Beagle dog)にクロスオーバーさせて経口投与した。時間経過に伴う塩酸タムスロシンの血中濃度変化を測定して比べた。
【0052】
<試験結果>
試験結果を下記の表1と図2に示す。図2において、「−○−」と「−●−」は、それぞれ比較例1及び実施例4で製造された錠剤における時間経過に伴う塩酸タムスロシンの平均血中濃度である。
試験結果から分かるように、実施例4で製造された錠剤は、明らかに長期間に亘って作用性を示す徐放性錠剤のパターンを示している。
【0053】
【表1】

【0054】
[試験例3]
実施例4で製造された塩酸タムスロシン0.2mgを含む徐放性錠剤を本発明の試験薬とし、従来の塩酸タムスロシンカプセル(山之内製薬(株)から市販されているハルナール(Harnal)カプセル)を比較として用いた。錠剤およびカプセルは、上記試験例1と同じ方法で人の胃腸管状態を模擬的に作った試験条件で、溶出試験を実施した。
【0055】
<試験結果>
人の胃腸管状態を模擬的に作ったテスト条件で行った溶出テストの結果を図3に示した。図3において、「−○−」及び「−●−」は、それぞれ実施例4で得られた錠剤と、従来のカプセル(ハルナール)に対する試験結果である。試験結果から分かるように、本発明による塩酸タムスロシン錠剤は、従来の塩酸タムスロシンカプセルとほとんど同じ溶出パターンを見せている。
【0056】
[試験例4]
実施例4で製造された塩酸タムスロシン0.2mgを含む錠剤を本発明の試験薬とし、塩酸タムスロシン0.2mgを含む従来の塩酸タムスロシンカプセル(山之内製薬(株)から市販されているハルナールカプセル)を比較として用いた。錠剤およびカプセルのそれぞれを、32人の大人の男性被験者に、2回づつクロスオーバー(2×2)試験で服用させ、各被験者の時間経過に伴う血中薬物濃度を測定した。
【0057】
<試験結果>
被験者32人に本発明の試験薬と比較の薬剤を投与した後の、時間経過に伴う平均血中薬物濃度を図4に示す。図4において、「−○−」及び「−●−」は、それぞれ実施例4で得られた錠剤と、従来のカプセル(ハルナールカプセル)に対する時間の経過に伴う塩酸タムスロシンの平均血中濃度である。
【0058】
[試験例5]
実施例4で製造された塩酸タムスロシン0.2mgを含む徐放性錠剤を、室温及び40℃、75%RH条件下で6ヶ月間保存した。次いで、これらの錠剤を、試験例1と同じく人の胃腸管状態を模擬的に作ったテスト条件で溶出試験を行い、時間経過に伴う安定性を評価した。
【0059】
<試験結果>
試験結果を下記の表2に示す。表2から明らかなように、この錠剤は、時間とともに溶解性の変化が非常に低く、経時安定性が非常に優れている。
【0060】
【表2】

【0061】
[試験例6]
実施例4で製造された錠剤で、それぞれ異なる製造バッチの3種の錠剤を用い、試験例1と同様にして人の胃腸管状態を模擬的に作ったテスト条件で溶出試験を行い、製造バッチ間の偏りを評価した。
【0062】
【表3】

【0063】
<試験結果>
試験結果を下記の表3に示す。表3から明らかなように、バッチ間の偏りは非常に小さく、許容範囲内であった。
【0064】
[試験例7]
実施例4及び実施例17で製造された錠剤で残留溶媒試験を行った。
<試験結果>
試験結果を下記の表4に示す。有機溶媒は効率的に除かれていた。
【0065】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0066】
上記したように、徐放性錠剤に関する本発明では、先ず塩酸タムスロシンを混合有機溶媒に溶解させ、次いでこの塩酸タムスロシン溶液中にフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶解させて得た混合物がバインダーとして、別途乾燥工程なく使用される。このことは、残留有機溶媒、活性成分とキャリヤを用いる固体分散の製造で起きる乾燥工程最後での高粘度による攪拌の難しさなどの問題点をなくすことができる。
【0067】
また、本発明によれば、塩酸タムスロシン−バインダー溶液は、賦形剤を均一にして混練することで、活性成分の濃度の均一性が容易に達成され、乾燥効率が上がるために有機溶媒は簡単に取り除かれ、有機溶媒残留の問題がなくなる。さらに、本発明によれば、
高価な設備や追加的な複雑な工程を使用せずに、従来の混合、混練、篩分け、さらに追加の混合、および錠剤化など従来の段階を踏んで、活性成分が均一に分布する固体分散がなされる。これは、製造工程の単純化、製造コストの大幅低減、生産収率の向上、及び薬剤の均一化を達成すことができる。
【0068】
加えて、本発明によって製造される塩酸タムスロシン徐放性錠剤は、生体内での異なるpH環境で薬剤溶出をコントロールすることで、塩酸タムスロシンを生体内で徐放性で均一なコントロールされた量で溶出するので、生体への有効性を高め、副作用を最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例によって製造された塩酸タムスロシン錠剤について、時間経過に伴う塩酸タムスロシンの平均溶出率を示すグラフである。ここで、溶出率は、人の胃腸管状態を模擬的に作ったテスト条件で測定した。
【図2】本発明の実施例4で製造された塩酸タムスロシン錠剤を経口投与したビーグル犬(Beagle dog)と、比較として比較例1によって製造された塩酸タムスロシン錠剤を経口投与したビーグル犬(Beagle dog)の、時間経過に伴う塩酸タムスロシンの血中濃度変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例4によって製造された塩酸タムスロシン錠剤、及び比較として粒子を被膜した従来技術の塩酸タムスロシン徐放性錠剤〔山之内製薬(株)製のハルナール(Harnal)カプセル〕について、時間経過に伴う塩酸タムスロシンの平均溶出率を示すグラフである。ここで、溶出率は、人の胃腸管状態を模擬的に作ったテスト条件で測定した。
【図4】本発明の実施例4によって製造された塩酸タムスロシン錠剤を経口服用した有志者と、比較として粒子を被膜した従来技術の塩酸タムスロシン徐放性錠剤〔山之内製薬(株)製のハルナール(Harnal)カプセル〕を経口服用した有志者との間の時間経過に伴う塩酸タムスロシンの血中濃度変化を比べたグラフである。尚、ここで、本発明の錠剤と比較のカプセルは、互いに変えてテストした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩酸タムスロシンを溶媒に溶解させ、次いで塩酸タムスロシン溶液に第1のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶解させてバインダー溶液とする段階、(B)前記バインダー溶液を、第2のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースとグリセリルジベヘネートを含む賦形剤混合物と一緒にして混練し、この混練物を造粒する段階、を含んで構成されることを特徴とする塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項2】
前記混練および造粒段階(B)の後に、さらに(C)粒状物を乾燥、篩分けする段階
を行うことを特徴とする請求項1に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項3】
前記混練および造粒段階(B)又は前記篩分け段階(C)の後に、さらに(D)第3のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びとうもろこし澱粉からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質を賦形剤として粒状物に混合する段階を行うことを特徴とする請求項1に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、エタノール、塩化メチレン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項5】
前記バインダー溶液の調整段階(A)における第1のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、塩酸タムスロシン1重量部に対して25〜120重量部であり、前記混練および造粒段階(B)における第2のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、塩酸タムスロシン1重量部に対して100〜350重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記混練および造粒段階(B)におけるグリセリルジベヘネートが、塩酸タムスロシン1重量部に対して25〜150重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が、塩酸タムスロシン1重量部に対して180〜300重量部であることを特徴とする請求項4に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項8】
前記賦形剤の混合段階(D)で、第3のフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースが加えられる場合には塩酸タムスロシン1重量部に対して5〜80重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが加えられる場合は塩酸タムスロシン1重量部に対して10〜300重量部、とうもろこし澱粉が加えられる場合は塩酸タムスロシン1重量部に対して10〜300重量部であることを特徴とする請求項3に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項9】
前記混練および造粒段階(B)において、乳糖が、塩酸タムスロシン1重量部に対して300〜700重量部加えられることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩酸タムスロシン徐放性錠剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1、2、7、8のいずれか1項によって製造されることを特徴とする塩酸タムスロシン徐放性錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−520420(P2007−520420A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515339(P2006−515339)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001421
【国際公開番号】WO2005/013960
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505013550)キョンドン ファーム カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】