説明

塩酸レボブノロール水性点眼剤

【課題】塩酸レボブノロールの水溶液中での安定性を改善し、眼刺激性の少ない塩酸レボブノロール水性点眼剤を提供すること。
【解決手段】塩酸レボブノロールを薬効成分として含有する水性点眼剤。塩酸レボブノロールの保存安定剤としてホウ酸イオンを含有し、さらに、点眼可能なpH域にアルカリ剤を用いて調節したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩酸レボブノロールを薬効成分として含有する水性点眼剤に係り、眼刺激性を改善し、かつ、長期間長期保存性や低温保存性に優れていることを特徴とする塩酸レボブノロール水性点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸レボブノロールは、ラセミ体であるブノロールの(−)光学異性体として分離され、β−アドレナリン性神経遮断効果は(+)異性体の約60倍、ラセミ体の約2倍の効果を有することが知られている。
【0003】
なお、「塩酸レボブノロール」の化学名は、「ジメチルエチルアミノヒドロキシプロポキシ・ジヒドロナフタレノン・モノヒドロクロライド:(-)-(S)-5-[3-[(1,1-dimethylethyl)amino]-2-hydroxypropoxy]-3,4-dihydro-1(2H)-naphthalenone monohydrochloride」である。
【0004】
現在、β−アドレナリン性神経遮断による眼圧降下作用により抗緑内障治療薬として水性点眼剤が市販されている。
【0005】
しかし、塩酸レボブノロールは酸化により分解されやすく、酸化防止剤やキレート剤を配合した製品が市販されているが、一般的な点眼容器と安定化剤では十分な酸化防止効果が得られず、加えてブリスター包装などの個別包装を用いる必要があった。
【0006】
他方、抗緑内障薬は、通常長期間に渡って患者に投与されるが、水性点眼剤に含まれる、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤等は長期連用によって角膜上皮障害の原因となることが知られており、患者の使用に際しては大きな問題となっていた。
【0007】
しかし、塩酸レボブノロールの安定性を改善し、更に使用する患者の眼に対する障害のリスクを低減するために、酸化防止剤やキレート剤等の添加剤を可及的に少なくするための方法や提案はなされていない。
【0008】
なお、本願出願人らは、本発明で使用する細菌類の混入を防止するフィルター付きの積層剥離型無菌水性点眼剤容器を先に提案している(特許文献1・2)。
【特許文献1】特開2002−80055号公報
【特許文献2】特開2004−262470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、塩酸レボブノロールの水溶液中での安定性を改善し、眼刺激性の少ない塩酸レボブノロール水性点眼剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、塩酸レボブノロールは、一般的に亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸:EDTA)等の安定化剤が配合されるが、ホウ酸/塩酸レボブノロール水性溶液では逆に、これらの安定化剤の添加によって、溶解量(含有量)並びにpHが低下し不安定であることを知見した。
【0011】
この知見(現象)に着目し鋭意研究したところ、塩酸レボブノロールとホウ酸を一定の濃度で含有しpH5.0〜8.0(水性点眼剤として使用可能な中性域)とすることによって、実質的に安定化剤を含まない方が安定性が改善されることを知見した。すなわち、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム等のような酸化防止剤や、エデト酸のようなキレート剤の安定化剤を含まない方が、安定性が高くなることを知見した。
【0012】
さらに驚くべきことに、点眼時の刺激感も大きく低下することも見出し本発明に想到した。
【0013】
また、防腐剤および界面活性剤を含有させないとともに、使用に際して開栓後も無菌状態を確保し得る無菌点眼容器に充填することによって、点眼時の刺激を低減できることを見出し、下記各構成の本発明を完成するに至った。
【0014】
基本的には、塩酸レボブノロールを薬効成分として含有する水性点眼剤であって、塩酸レボブノロールの保存安定剤として、ホウ酸イオンを含有し点眼可能なpH域に調節されていることを特徴とする。
【0015】
上記構成の塩酸レボブノロール水性点眼剤は、組成的には、
塩酸レボブノロールを薬効成分として含有する水性点眼剤であって、
前記塩酸レボブノロールを0.25〜1.5%(W/V)含有するとともに、
ホウ酸イオンを、全体含有量:0.10〜3.0%(W/V)、かつ、前記薬効成分1.0質量部に対する配合比:0.067〜12質量部の組成で含有し、さらに、pHが5.0〜8.0に調節されている構成となる。
【0016】
上記各構成の塩酸レボブノロール水性点眼剤は、ホウ酸イオンを、酸化防止剤及び/又はキレート剤と組み合わせない処方である。
【0017】
上記各構成の塩酸レボブノロール水性点眼剤は、開栓後も薬液を無菌状態に確保しうる無菌点眼容器に充填して、防腐剤及び界面活性剤を含有しない、又は、それらの含有量が角膜上皮障害を発生させない量以下とする構成とすることができる。
【0018】
上記無菌点眼容器が、外層の内面に該外層から剥離可能な内層を積層形成してなる積層剥離容器と、該積層剥離容器の口部に取り付けられた栓体とを備え、前記外層には、内層と外層との間に外気を導入する為の通気孔が設けられ、前記内層の内部の収容された点眼剤を吐出するための吐出路が設けられ、該吐出路にフィルターと逆止弁が設けられている構成のものを使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下の説明で濃度(含有量)を示す「%」は、特に断らない限り「%(W/V)」(質量(g)/体積(mL)百分率」を意味する。また、ホウ酸イオンの含有量は、特に断らない限り、ホウ酸換算量である。
【0020】
塩酸レボブノロール(薬効成分)の含有量は、薬効を奏する範囲なら特に限定されず、例えば、約0.25〜1.5%の範囲で適宜、通常、約0.50〜1.0%の範囲とする。塩酸レボブノロールが過少では、必要な眼圧低下作用を得難く、過多では点眼刺激性が許容範囲を越える。なお、塩酸レボブノロールは、眼圧低下剤としては、市場で安価に購入することができる汎用品である。
【0021】
薬効成分(塩酸レボブノロール)の含有量約0.25〜1.5%の場合、ホウ酸イオン(ホウ酸換算量:以下同じ。)は、含有量約0.15〜3.0%、かつ、薬効成分1.0質量部に対する配合比:約0.10〜12質量部の組成で含有させる。
【0022】
また、薬効成分の含有量約0.50〜1.8%の場合、ホウ酸イオンは、約0.20〜2.0%、該塩酸レボノロール1.0質量部に対する配合比:約0.11〜4.0質量部の組成で含有させる。
【0023】
ホウ酸が過少では、所要の安定化効果を得難く、過多では、水性点眼剤とした場合、浸透圧比が高くなりすぎて、点眼時の刺激性を許容範囲とすることが困難となる。
【0024】
さらに、上記組成において、水溶液のpHを約5.0〜8.0、望ましくは約6.0〜8.0とすることで、塩酸レボブノロールが安定化させやすい。上記pH約5.0〜8.0は、水性点眼剤として使用可能な範囲でもある。
【0025】
なお、ホウ酸イオン(ホウ酸)を必須成分とする本発明の塩酸レボブノロール水性点眼剤(点眼液水溶液)は酸性であり、一般的なアルカリ剤を加え調製できる。例えば、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、ホウ砂、トロメタモール、モノエタノールアミン等が挙げられ、pHの変動を抑えるために緩衝系溶液、例えばホウ酸/ホウ砂系緩衝液が好ましい。
【0026】
このようにして塩酸レボブノロールが安定化された液に、等張化剤を適宜配合することができる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、アミノエチルスルホン酸、ブドウ糖、ソルビトール、プロピレングリコール、グリセリン等が好適に使用できる。
【0027】
こうして、本発明における塩酸レボブノロールの着色、分解を抑制し、安定で澄明な水溶液製剤が得られる。
【0028】
また、本発明の塩酸レボブノロールを薬効成分とする水性点眼剤においては、ホウ酸を添加すると安定化される一方で、酸化防止剤(亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム等)、キレート剤(エデト酸等)は本水性点眼剤(水溶液製剤)において、安定性を悪くするため実質的に配合させない。
【0029】
すなわち、本発明では、ホウ酸(ホウ酸イオン)を、酸化防止剤及び/又はキレート剤と組み合わせない処方とすることより、十分な溶解性や安定性を示す。結果的に、眼刺激性を有し、従来の水性点眼剤に配合されていた酸化防止剤やキレート剤を配合しない製剤が可能となった。
【0030】
さらには、従来溶解補助剤の目的で添加されていた、塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウム等の第四級カチオン性の界面活性剤やポリソルベート等の非イオン性界面活性剤を本発明では全く必要としない。
【0031】
前述の通り、界面活性剤は角膜上皮障害の原因となるため、配合することは好ましくない。仮に界面活性剤を配合する場合の含有量は、角膜上皮障害を発生させない量以下とする。
【0032】
さらに本発明の塩酸レボブノロール水性点眼剤は、開栓後も無菌状態を確保しうる無菌点眼容器に充填した容器充填水性点眼剤として使用することが望ましい。
【0033】
当該構成とすることにより、通常、配合されている角膜上皮障害性の防腐剤レスの処方(製剤)が可能となる。角膜上皮障害性の防腐剤とは、患者の使用時に点眼容器のノズルが眼球や涙液に接触して、細菌や真菌が点眼容器内の薬液を汚染することを防止することを目的として配合されものである、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールやパラオキシ安息香酸エステル類を挙げることができる。
【0034】
上記無菌点眼容器としては、本願出願人らが先に提案した前記特許文献1・2に示されたような記載の構造を備えたものが望ましい。
【0035】
一例として、特許文献1に示され無菌点眼容器を図1に示す。
【0036】
当該無菌点眼容器は、外層11の内面に該外層11から剥離可能な内層13を積層形成してなる積層剥離容器(容器本体)15と、該容器本体15の口部に取り付けられた栓体17とを備え、前記外層11には、内層13と外層11との間に外気を導入する為の通気孔19が設けられ、前記内層13の内部の収容された点眼剤を吐出するための吐出路21が設けられ、該吐出路21にフィルター23と逆止弁25が設けられている。なお、27はねじ式保護キャップである。
【0037】
ここでフィルター23は、細菌(菌の幅:0.2〜10μm)が通過できない細孔(例えば、0.2μm以下)を有するものを使用することが好ましい。
【0038】
さらに、この容器の特徴として、点眼時、内容液を吐出すると、容器内に残存する内容液の容積はその吐出容積だけ小さくなり、積層剥離容器の剥離可能な内層が外層より剥離し、容積変化に合わせて縮小するため、吐出路からの内容液に接する空気の吸い込みがない。この結果、本発明の水性点眼剤に対して積層剥離容器の使用が、大きく薬剤安定性を改善させ、ブリスター包装など個別包装を必要としない。
【実施例】
【0039】
本発明の効果を確認するために比較例とともに行った実施例について説明する。
【0040】
本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものでなく、各請求項の記載の範囲内で種々の態様に及ぶものである。
【0041】
まず、表1に示す処方で実施例1〜6の試料を調製し、また、表2に示す処方で比較例1〜8の試料を調製した。
【0042】
なお、各実施例・比較例の調製は、常法に従って表中の各成分を攪拌・混合し、それらを均一に溶解させ、水酸化ナトリウムでpH調節を行い、最終的に精製水で全量100mLとした。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

<熱安定性試験>
調製した各サンプルを50℃にて6週間保存し、含量についてHPLCを用い測定した。計算は次式に従い残存率から求めた。HPLCは、市販のODSカラム(固定相:シリカゲルにC18を結合させた化学結合充填剤)を使用した。
【0045】
残存率=100×
(経時サンプリング時のピーク面積)/(調製直後のピーク面積)
各実施例の試験結果を表3及び図2に、各比較例の試験結果を表4及び図3にそれぞれ示す。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

実施例1〜6は、6週間後において約95%以上の残存率であった。
【0048】
比較例1〜4は、6週間後において約50〜60%の残存率であった。
【0049】
比較例5〜6は、安定化剤が寄与し約80%の残存率であった。
【0050】
比較例7〜8は、ホウ酸と安定化剤の組み合わせが最も悪く約20%の残存率であった。
<刺激試験>
健常人(パネラー)20名を対象に各実施例・眼刺激性試験を実施した。方法は、被験者の片眼に各実施例試料及び対照例試料の試験液を1滴づつ点眼し、そのときの刺激性と結膜の充血による発赤を4段階で評価し、スコア化し、平均値で比較した。
【0051】
−:刺激なし :0点 −
±:弱い刺激あり:1点 ±
+:刺激あり :2点 +
++:強い刺激あり:3点 ++
試験結果を表5に示す。各実施例試料は、各実施例試料に比して、極めて刺激係数及び充血の度合いが低いことが分かる。これらの結果から、点眼時刺激を改善できることが明らかとなった。
【0052】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の塩酸レボブノロール水性点眼剤を充填するのに好適な無菌点眼容器の一例を示す概略断面図である。
【図2】熱安定性試験における各実施例の試験結果を示すグラフ図である。
【図3】熱安定性試験における各比較例の試験結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0054】
11 積層剥離容器の外層
13 積層剥離容器の内層
15 積層剥離容器(容器本体)
17 栓体
27 保護キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸レボブノロールを薬効成分として含有する水性点眼剤であって、
塩酸レボブノロールの保存安定剤としてホウ酸イオンを含有し点眼可能なpH域に調節されていることを特徴とする塩酸レボブノロール水性点眼剤。
【請求項2】
塩酸レボブノロールを薬効成分として含有する水性点眼剤であって、
前記塩酸レボブノールを、0.25〜1.5%(W/V)含有するとともに、
ホウ酸イオンを、(全体)含有量:0.10〜3.0%(W/V)、かつ、前記薬効成分1.0質量部に対する配合比:0.067〜12質量部の組成で含有し、さらに、pHが5.0〜8.0に調節されていることを特徴とする請求項1記載の塩酸レボブノロール水性点眼剤。
【請求項3】
前記ホウ酸イオンを、酸化防止剤及び/又はキレート剤と組み合わせない処方であることを特徴とする請求項1又は2記載の塩酸レボブノロール水性点眼剤。
【請求項4】
開栓後も薬液を無菌状態に確保しうる無菌点眼容器に充填され、防腐剤及び界面活性剤を含有しない、又は、それらの含有量が角膜上皮障害を発生させない量以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の塩酸レボブノロール水性点眼剤。
【請求項5】
前記無菌点眼容器が、外層の内面に該外層から剥離可能な内層を積層形成してなる積層剥離容器と、該積層剥離容器の口部に取り付けられた栓体とを備え、前記外層には、内層と外層との間に外気を導入する為の通気孔が設けられ、前記内層の内部の収容された点眼剤を吐出するための吐出路が設けられ、該吐出路にフィルターと逆止弁が設けられている構成であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩酸レボブノロール水性点眼剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−94780(P2008−94780A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280077(P2006−280077)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(391009523)株式会社日本点眼薬研究所 (13)
【Fターム(参考)】