増幅器
【課題】 携帯電話をはじめとする移動体通信用高周波電力増幅器などの増幅器において、受信帯雑音特性が良好で小型な増幅器を提供する。
【解決手段】 第一の周波数を中心周波数とする信号を増幅する増幅素子と、前記増幅素子の前段または後段に接続される整合回路と、前記増幅素子と前記整合回路の間に接続され、前記第一の周波数とは異なる第二の周波数を中心周波数とする信号を減衰させるフィルタ回路と、を備えたことを特徴とする。
【解決手段】 第一の周波数を中心周波数とする信号を増幅する増幅素子と、前記増幅素子の前段または後段に接続される整合回路と、前記増幅素子と前記整合回路の間に接続され、前記第一の周波数とは異なる第二の周波数を中心周波数とする信号を減衰させるフィルタ回路と、を備えたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯電話をはじめとする移動体通信用高周波電力増幅器などの増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信用の送受信機等に用いられる送信増幅器では、受信帯域へと漏れ出す電力が増大すると受信帯雑音を劣化させる要因となるため、受信帯域へと漏れ出す電力量が規定されている。受信帯雑音を劣化させる要因は2つ考えられる。一つ目は、送信周波数と受信周波数の差に相当するΔfの周波数信号と送信周波数信号とのミキシングにより、受信周波数における雑音電力が増加されることである。2つ目は、増幅器が受信周波数において高い利得を持つことにより、受信周波数における雑音電力が増幅されることである。
【0003】
受信帯雑音電力を解決するために、送信周波数と受信周波数の差周波Δf成分を短絡させる方法などが提案されている(例えば特許文献1)。この提案は、前述した受信帯雑音を劣化させる要因の一つ目を解決する手法である。特許文献1に示された従来の受信帯雑音の電力改善回路では、インダクタと容量の共振周波数を送信周波数と受信周波数の差周波Δfとし、この周波数成分を短絡させるように設定している。このため、Δfの周波数信号はトランジスタに入力する前に減衰し、トランジスタにおいてΔf成分と送信周波数とのミキシングによる受信周波数成分は生じない。したがって受信帯雑音特性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−143079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来回路で受信帯雑音改善のために設けた容量とインダクタからなる共振回路は、低い周波数において共振する必要がある。このため、大きな容量成分と大きなインダクタンスが必要であり、増幅器を含むモジュールを小型化できないという課題があった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、受信帯雑音特性が良好で小型な増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る増幅器は、
第一の周波数を中心周波数とする信号を増幅する増幅素子と、
前記増幅素子の前段または後段に接続される整合回路と、
前記増幅素子と前記整合回路の間に接続され、前記第一の周波数とは異なる第二の周波数を中心周波数とする信号を減衰させるフィルタ回路と、
を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、受信帯雑音特性が良好な小型増幅器を得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による増幅器を示す構成図
【図2】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図3】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図4】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図5】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図6】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図7】この発明の実施の形態2による増幅器を示す構成図
【図8】この発明の実施の形態3による増幅器を示す構成図
【図9】この発明の実施の形態4による増幅器を示す構成図
【図10】この発明の実施の形態5による増幅器を示す構成図
【図11】この発明の実施の形態5によるフィルタ回路を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わる増幅器を示す構成図である。図中、10は増幅素子であるトランジスタ、30、32はインダクタ、50は入力整合回路、70は容量、51は段間整合回路、52は前段バイアス回路、90はフィルタ回路である。
【0011】
次に動作について説明する。
この増幅器は送受信機に用いられる増幅器であり、第一の周波数を中心周波数とする送受信機の送信帯域周波数の信号を増幅する。増幅器は2段以上多段接続されて用いられることもあるが、本実施の形態では、2段接続された増幅器の前段の増幅器を示している。
【0012】
フィルタ回路90はインダクタ32と容量70の直列共振回路であり、トランジスタ10と段間整合回路51の間にグランドと並列になるように接続されている。フィルタ回路90の直列共振回路は、その共振周波数が第二の周波数である受信の帯周波数に設定されている。これにより受信帯周波数において短絡点が形成されるため、トランジスタ10で増幅された信号のうち受信帯周波数における信号が大きく減衰する。したがって、増幅器において受信帯周波数の信号がほとんど出力されない。このため、受信帯での雑音が改善される。
【0013】
また、フィルタ回路90の共振回路の共振周波数を受信帯周波数に設定しているため、容量70とインダクタ32の値を小さくすることができ、これらの素子の大きさも小さいもので済む。したがって、増幅路を小型にすることができる。
【0014】
このとき、送信帯周波数が受信帯周波数よりも高い場合には、フィルタ回路90は送信帯周波数において誘導性を示す。また送信帯周波数が受信帯周波数よりも低い場合には、フィルタ回路90は送信帯周波数において容量性を示す。そのため、フィルタ回路が無い状態で整合が取れていた回路に本フィルタ回路90を単純に追加した場合、送信周波数における整合が最適値からずれてしまう。さらに、フィルタ回路90の追加により回路規模が大きくなってしまう。そこで、フィルタ回路90の送信周波数における所定のインピーダンス(リアクタンス)成分を基本波整合として積極的に用いることにより、回路規模を抑えることができる。
【0015】
まず、送信帯周波数が受信帯周波数よりも低い場合について説明する。この場合、フィルタ回路90の送信周波数におけるインピーダンスは容量性を示す。受信帯周波数における等価的な容量であり、基本波整合として用いる容量をC1とした場合、フィルタ回路の容量CとインダクタLの値は以下の連立方程式を解くことで一意に決まる。
jω2L+1/(jω2C)=0
jω1L+1/(jω1C)=1/(jω1C1) ・・・(1)
ここで、ω1は送信角周波数、ω2は受信角周波数、jは虚数単位である。上式をLとCについて解くと、以下の値が得られる。
C=(ω22−ω12)C1/ω22
L=1/{(ω22−ω12)C1} ・・・(2)
【0016】
また、送信周波数が受信周波数よりも高い場合には、受信帯周波数における等価的なインダクタであり、基本波整合として用いるインダクタをL1として、フィルタ回路の容量CとインダクタLの値は以下の連立方程式を解くことで一意に決まる。
jω2L+1/(jω2C)=0
jω1L+1/(jω1C)=jω1L1 ・・・(3)
上式をLとCについて解くと、以下の値が得られる。
C=(ω12−ω22)/(ω12ω22L1)
L=ω12L1/(ω12−ω22) ・・・(4)
【0017】
なお、フィルタ回路90における容量とインダクタは抵抗成分を含んでいても受信帯雑音効果は得られる。この理由について、図2から図4を用いて説明する。図2の点線は、本実施の形態におけるフィルタ回路90を用いない場合の増幅器全体の通過特性S21を示している。送信用増幅器であるため、送信(Tx)帯で通過特性(利得)がほぼ最大となっているが、受信(Rx)帯においても通過が生じている。
【0018】
図3の実線は、本実施の形態におけるフィルタ回路90を適用した場合の増幅器全体のS21を示している。フィルタ回路90には抵抗成分が含まれないとし、共振周波数は受信帯に設定した。この場合では、受信帯でのS21の値が大きく低下する。これに対し、図4の実線は、フィルタ回路90に抵抗成分が含まれる場合の増幅器全体のS21を示している。この場合では、抵抗成分のために、共振がブロードになり受信帯の減衰効果が図3の実線と比較して減少するものの、受信帯の信号減衰効果は得られている。そのため、フィルタ回路90には抵抗成分が含まれても良い。
【0019】
また、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば同様の効果が得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域で±10%以内であればよい。携帯電話で使用する周波数では、送信周波数帯と受信周波数帯が非常に近い場合が多い。このような場合において、本発明におけるフィルタの共振周波数を受信帯周波数に設定し、尚且つフィルタ回路に抵抗成分が含まれると送信帯での利得も減少してしまうことが考えられる。そこで、フィルタの共振周波数を送信帯からより離れた周波数に設定することで、送信帯の利得の低下を抑えることが可能である。この理由について図5を用いて説明する。図5の実線は共振周波数を受信帯からわずかに高い周波数に設定した場合の増幅器全体のS21を示している。この場合では、受信帯における信号減衰効果は低いものの、効果は得られている。
【0020】
図6に共振周波数を受信帯周波数から非帯域でほぼ10%である200MHzほど高い周波数に設定した場合の通過特性S21の計算結果を示す。計算では、送信周波数を1.95GHz、受信周波数を2.15GHz、フィルタ回路90の共振周波数を2.35GHz、C1を3.5pFとして計算した。図中、細い線はフィルタ回路90が無い場合の通過特性であり、太い線はフィルタ回路90を設けた場合の通過特性である。フィルタ回路90を設けた場合に、受信周波数2.15GHzにおける利得が低下している。この計算結果から、共振周波数が受信周波数に対して比帯域で±10%以内であれば、受信帯における利得は低下し、本発明の効果が得られることが分かる。
【0021】
また、フィルタ回路90の共振周波数を送信帯域周波数の2倍波周波数に設定することもできる。この場合も、フィルタ回路90が無いときに比べて受信帯における利得を低下し、本発明の効果が得られる。加えて、増幅器から出力する信号に送信信号の2倍高調波が生じ、この信号が不要である場合、この2倍高調波信号の電力を低減することができる効果がある。
【0022】
さらに、実施の形態1では、2段接続された増幅器の前段の増幅器を示したが、これに限らず増幅器は1段でも良い。このとき増幅器は出力整合回路を有しており、フィルタ回路90をこの出力整合回路に接続しても良い。また2段接続された増幅器の後段の増幅器に適用しても良いし、3段以上接続された増幅器の最前段の増幅器、最後段の増幅器、中間段の増幅器の、いずれに適用しても本発明の効果が得られる。
【0023】
以上のように、本実施の形態における増幅器では、受信帯雑音特性が良好で小型な増幅器を得られる効果がある。
【0024】
実施の形態2.
図7に本発明に係わる実施の形態2を示す構成図を示す。図中、図1と同一のものには同一符号を付けて説明する。91はフィルタ回路であり、33はインダクタ、72は容量である。本回路と実施の形態1の違いは、フィルタ回路91の構成である。
【0025】
本実施の形態のフィルタ回路91の動作について説明する。フィルタ回路91はインダクタ33と容量72の並列共振回路であり、トランジスタ10と段間整合回路51の間に縦続接続されている。フィルタ回路91の共振周波数は受信帯周波数に設定されており、受信帯において開放点が形成される。このため、受信帯における信号が大きく減衰し、受信帯雑音が改善される。
【0026】
このとき、送信帯周波数が受信帯周波数よりも高い場合には、フィルタ回路91は送信帯周波数において容量性を示す。また送信帯周波数が受信帯周波数よりも低い場合には、フィルタ回路91は送信帯周波数において誘導性を示す。そのため、従来回路に本フィルタ回路91を追加した場合、送信周波数における整合が最適値からずれてしまう。さらに、本フィルタ回路の追加により回路規模が大きくなってしまう。そこで、本フィルタ回路の送信周波数におけるインピーダンス成分を基本波整合として積極的に用いることにより、回路規模を抑えることができる。
【0027】
まず、送信帯周波数が受信帯周波数よりも高い場合について説明する。この場合、フィルタ回路の送信周波数におけるインピーダンスは容量性を示す。基本波整合として用いる容量をC1とした場合、次の連立方程式が成り立つ。
jω2C+1/(jω2L)=0
jω1C+1/(jω1L)=jω1C1 ・・・(5)
フィルタ回路の容量CとインダクタLの値は実施の形態1と同様に式(5)の連立方程式をCとLに関して解けば求まり、以下の式で表せる。
C=ω12C1/(ω12−ω22)
L=(ω12−ω22)/(ω12ω22C1) ・・・(6)
【0028】
また、送信周波数が受信周波数よりも低い場合には、基本波整合として用いるインダクタをL1として以下の式が成り立つ。
jω2C+1/(jω2L)=0
jω1C+1/(jω1L)=1/(jω1L1) ・・・(7)
上式をLとCについて解くと、以下の値が得られる。
C=1/{(ω22−ω12)L1}
L=(ω22−ω12)L1/ω22 ・・・(8)
【0029】
なお、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば受信帯における雑音電力改善効果は得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域10%以内であればよい。この場合、式(1)から式(8)のω2を共振角周波数と考えれば、これらの式はそのまま成り立つ。
【0030】
また、本フィルタ回路91は段間整合回路51に接続するものでなくとも、入力整合回路50に接続してもよく、図示していないが出力整合回路に接続してもよく、トランジスタの整合に供するいずれかの整合回路に接続すればよい。
さらに、フィルタ回路91における容量72とインダクタ33は、チップ部品、半導体基板上に集積化されたMIM(Metal Insulation Metal)容量、誘電体多層基板における対地容量、ボンディングワイヤ、半導体基板上に集積化されたスパイラルインダクタ、金属配線、誘電体多層基板における配線等のいずれでもよく、その組み合わせは自由であり、容量72とインダクタ33は抵抗成分を含んでいてもよい。
【0031】
実施の形態3.
図8に本発明に係わる実施の形態3を示す構成図を示す。図中、図1や図7と同一のものには同一符号を付けて説明する。92はフィルタ回路であり、34、35はインダクタ、73は容量である。実施の形態1、2との違いは、フィルタ回路の構成である。
【0032】
フィルタ回路の動作について説明する。本フィルタ回路は送信周波数に対しては開放であり、受信帯周波数に対しては短絡となるように回路定数を設定する。容量73とインダクタ34の並列共振器は、送信周波数で共振するように設定する。また、受信帯周波数では短絡するように、インダクタ35の値を設定する。受信帯において短絡点が形成されるため、受信帯における信号が大きく減衰し受信帯雑音が改善される。
なお、送信周波数が受信周波数よりも高い場合には、並列共振回路は受信帯において誘導性を示すため、インダクタ35の代わりに容量を接続する。
【0033】
本フィルタ回路は送信周波数のインピーダンスを変えることなく、受信帯ノイズを改善することができるため実施の形態1、2と比較して設計が容易であり、回路構成が明快である。
【0034】
なお、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば受信帯における雑音電力改善効果は得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域10%以内であればよい。
【0035】
また、本フィルタ回路は段間整合回路でなくともいずれかの整合回路に接続されればよい。
さらに、フィルタ回路における容量とインダクタは、チップ部品、半導体基板上に集積化されたMIM容量、誘電体多層基板における対地容量、ボンディングワイヤ、半導体基板上に集積化されたスパイラルインダクタ、金属配線、誘電体多層基板における配線のいずれでもよく、その組み合わせは自由であり、容量とインダクタは抵抗成分を含んでいてもよい。
【0036】
実施の形態4.
図9に本発明に係わる実施の形態4を示す構成図を示す。図中、図8までと同一のものには同一符号を付けて説明する。53は段間整合回路、93はフィルタ回路である。本回路と実施の形態1、2、3、との違いはフィルタ回路の接続位置である。
【0037】
本実施の形態ではフィルタ回路93は段間整合回路51と段間整合回路53に挟まれた位置にある。実施の形態1、2、3では、フィルタ回路と整合回路は分離された関係であったが、図9のように、整合回路の間に接続してもよい。このように、フィルタ回路の位置は整合回路に接続されていればよく、フィルタ回路の接続位置は整合回路の端部に制限されるものではない。
【0038】
実施の形態5.
図10、図11に本発明に係わる実施の形態5を示す構成図を示す。図10は本実施の形態に係る増幅器の構成図であり、図11は本実施の形態に係る増幅器のフィルタ回路を示す構成図である。図中、図9までと同一のものには同一符号を付けて説明する。94はフィルタ回路であり、36、37はインダクタ、74、75は容量、80は共振回路切替手段であるスイッチである。本回路と実施の形態1、2、3の違いは、フィルタ回路94の構成である。本実施の形態は、増幅器を受信帯域および送信帯域を複数有するマルチバンド通信機の送受信機に使用する場合の実施の形態である。
【0039】
フィルタ回路94の動作について説明する。ここでは3バンドの送信周波数帯を持つ増幅器について説明する。3バンド増幅器の場合、バンド1からバンド3までのそれぞれのバンドに応じて受信帯周波数が異なる。そのため、実施の形態1で用いたフィルタ回路90の共振周波数をバンドに応じて切り替える必要がある。そこで、図10に示すように、フィルタ回路94における直列共振回路をスイッチ80(SW1〜SW3)を介して並列に3つ接続し、使用するバンドに応じて切り替えることにより、3バンド増幅器であっても受信帯雑音を改善することが可能となる。
【0040】
図10において、フィルタ回路94中の3つの直列共振回路はそれぞれ、3つの受信帯周波数のそれぞれに共振周波数を設定している。容量74とインダクタ36のうち、C1とL1で表す共振回路の共振周波数はバンド1の受信帯周波数に設定している。また、C2とL2で表す共振回路の共振周波数はバンド2の受信帯周波数に、C3とL3で表す共振回路の共振周波数はバンド3の受信帯周波数に、それぞれ設定している。
【0041】
増幅器がバンド1を用いる場合、スイッチ80のうちSW1を短絡させ、残りのSW2とSW3を開放とする。このとき、フィルタ回路94はC1とL1で表す共振回路のみが動作し、バンド1の受信帯周波数において信号の減衰が生じる。したがって、増幅器においてバンド1の受信帯周波数の信号がほとんど出力されず、受信帯での雑音が改善される。
【0042】
増幅器がバンド2を用いる場合、スイッチ80のうちSW2を短絡させ、残りのSW1とSW3を開放とする。また、増幅器がバンド3を用いる場合、スイッチ80のうちSW3を短絡させ、残りのSW1とSW2を開放とする。このことにより、各バンドそれぞれの受信帯周波数に信号の減衰が生じ、バンド1の場合と同様に、使用する各バンドにおいて受信帯での雑音が改善される。
【0043】
図10に示したフィルタ回路94の構成では、3バンドに対応するために回路が大きくなるという問題がある。そこで、図11(a)に示すように、共振回路を構成するインダクタ36のインダクタンスの一部を共有化し、インダクタ37を設ける。3つのスイッチ80のうち、いずれか1つを短絡させ、残りを開放とすることで、短絡させたスイッチ80に接続されている回路と、共有化したインダクタ37とが合わせて共振回路を形成する。共有化したインダクタ37を含めた各共振回路の共振周波数は、マルチバンドの各バンドの受信帯周波数に設定されている。したがって、図10の場合と同様に、各バンドの受信帯周波数において信号の減衰が生じ、受信帯での雑音が改善される。
【0044】
このように共有化したインダクタ37を設けることにより、他のインダクタ36は比較的小さなインダクタンスの値で済む。また、図11(a)の回路の一番左側の枝に示すように、必ずしも全ての枝にインダクタを設けなくても良い。このため、フィルタ回路94の大きさを小さくすることができる。すなわち3バンドに対応しながら、回路の小型化が可能である。
【0045】
図11(b)は、フィルタ回路94の他の構成であり、インダクタ37ではなく容量75を共有化した構成である。この場合も、図11(a)と同様に、共有化した容量75を含めた各共振回路の共振周波数を、各バンドの受信帯周波数に設定することができ、図11(a)と同様の効果が得られる。このように、フィルタ回路94の複数の共振回路におけるリアクタンス素子(インダクタまたは容量)の一部を共通化し一つの共通リアクタンス素子(インダクタまたは容量)とし、共振回路切替手段であるスイッチ80が複数の共振回路のいずれを選択した場合でも、その選択した共振回路に共通リアクタンス素子が含まれるようにすることで、回路の小型化が可能となる。
【0046】
図11(c)〜(e)は、直列共振回路ではなく並列共振回路を用いてフィルタ回路94を構成する例である。さらに図11(d)では容量75を共有化し、図11(e)ではインダクタ37を共有化して共振回路を構成している。これらの場合も、3つのスイッチ80のうち、いずれか1つを短絡させ、残りを開放とすることで、短絡させたスイッチ80に接続されている回路、および、共有化した容量75もしくはインダクタ37を共振回路とし用いることができ、各バンドの受信帯周波数に信号の減衰を生じさせることができる。したがって、受信帯での雑音が改善されるという効果が得られる。
【0047】
なお、本実施の形態では、3バンドの場合について図示して説明したが、Nバンド(Nは2以上の自然数)であっても同様に回路を構成することができ、本発明の効果が得られるのは明らかである。
【0048】
また、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば受信帯における雑音電力改善効果は得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域10%以内に設定すればよい。
【0049】
さらに、本フィルタ回路94は段間整合回路51でなくともいずれかの整合回路に接続されればよい。
【0050】
加えて、フィルタ回路における容量とインダクタは、チップ部品、半導体基板上に集積化されたMIM容量、誘電体多層基板における対地容量、ボンディングワイヤ、半導体基板上に集積化されたスパイラルインダクタ、金属配線、誘電体多層基板における配線のいずれでもよく、その組み合わせは自由であり、容量とインダクタは抵抗成分を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 トランジスタ、30、32、33、34、35、36、37 インダクタ、50 入力整合回路、51、53 段間整合回路、52 前段バイアス回路、70、72、73、74、75 容量、80 スイッチ、90、91、92、93、94 フィルタ回路
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯電話をはじめとする移動体通信用高周波電力増幅器などの増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信用の送受信機等に用いられる送信増幅器では、受信帯域へと漏れ出す電力が増大すると受信帯雑音を劣化させる要因となるため、受信帯域へと漏れ出す電力量が規定されている。受信帯雑音を劣化させる要因は2つ考えられる。一つ目は、送信周波数と受信周波数の差に相当するΔfの周波数信号と送信周波数信号とのミキシングにより、受信周波数における雑音電力が増加されることである。2つ目は、増幅器が受信周波数において高い利得を持つことにより、受信周波数における雑音電力が増幅されることである。
【0003】
受信帯雑音電力を解決するために、送信周波数と受信周波数の差周波Δf成分を短絡させる方法などが提案されている(例えば特許文献1)。この提案は、前述した受信帯雑音を劣化させる要因の一つ目を解決する手法である。特許文献1に示された従来の受信帯雑音の電力改善回路では、インダクタと容量の共振周波数を送信周波数と受信周波数の差周波Δfとし、この周波数成分を短絡させるように設定している。このため、Δfの周波数信号はトランジスタに入力する前に減衰し、トランジスタにおいてΔf成分と送信周波数とのミキシングによる受信周波数成分は生じない。したがって受信帯雑音特性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−143079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来回路で受信帯雑音改善のために設けた容量とインダクタからなる共振回路は、低い周波数において共振する必要がある。このため、大きな容量成分と大きなインダクタンスが必要であり、増幅器を含むモジュールを小型化できないという課題があった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、受信帯雑音特性が良好で小型な増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る増幅器は、
第一の周波数を中心周波数とする信号を増幅する増幅素子と、
前記増幅素子の前段または後段に接続される整合回路と、
前記増幅素子と前記整合回路の間に接続され、前記第一の周波数とは異なる第二の周波数を中心周波数とする信号を減衰させるフィルタ回路と、
を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、受信帯雑音特性が良好な小型増幅器を得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による増幅器を示す構成図
【図2】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図3】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図4】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図5】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図6】この発明の実施の形態1によるフィルタ回路の動作を説明する図
【図7】この発明の実施の形態2による増幅器を示す構成図
【図8】この発明の実施の形態3による増幅器を示す構成図
【図9】この発明の実施の形態4による増幅器を示す構成図
【図10】この発明の実施の形態5による増幅器を示す構成図
【図11】この発明の実施の形態5によるフィルタ回路を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わる増幅器を示す構成図である。図中、10は増幅素子であるトランジスタ、30、32はインダクタ、50は入力整合回路、70は容量、51は段間整合回路、52は前段バイアス回路、90はフィルタ回路である。
【0011】
次に動作について説明する。
この増幅器は送受信機に用いられる増幅器であり、第一の周波数を中心周波数とする送受信機の送信帯域周波数の信号を増幅する。増幅器は2段以上多段接続されて用いられることもあるが、本実施の形態では、2段接続された増幅器の前段の増幅器を示している。
【0012】
フィルタ回路90はインダクタ32と容量70の直列共振回路であり、トランジスタ10と段間整合回路51の間にグランドと並列になるように接続されている。フィルタ回路90の直列共振回路は、その共振周波数が第二の周波数である受信の帯周波数に設定されている。これにより受信帯周波数において短絡点が形成されるため、トランジスタ10で増幅された信号のうち受信帯周波数における信号が大きく減衰する。したがって、増幅器において受信帯周波数の信号がほとんど出力されない。このため、受信帯での雑音が改善される。
【0013】
また、フィルタ回路90の共振回路の共振周波数を受信帯周波数に設定しているため、容量70とインダクタ32の値を小さくすることができ、これらの素子の大きさも小さいもので済む。したがって、増幅路を小型にすることができる。
【0014】
このとき、送信帯周波数が受信帯周波数よりも高い場合には、フィルタ回路90は送信帯周波数において誘導性を示す。また送信帯周波数が受信帯周波数よりも低い場合には、フィルタ回路90は送信帯周波数において容量性を示す。そのため、フィルタ回路が無い状態で整合が取れていた回路に本フィルタ回路90を単純に追加した場合、送信周波数における整合が最適値からずれてしまう。さらに、フィルタ回路90の追加により回路規模が大きくなってしまう。そこで、フィルタ回路90の送信周波数における所定のインピーダンス(リアクタンス)成分を基本波整合として積極的に用いることにより、回路規模を抑えることができる。
【0015】
まず、送信帯周波数が受信帯周波数よりも低い場合について説明する。この場合、フィルタ回路90の送信周波数におけるインピーダンスは容量性を示す。受信帯周波数における等価的な容量であり、基本波整合として用いる容量をC1とした場合、フィルタ回路の容量CとインダクタLの値は以下の連立方程式を解くことで一意に決まる。
jω2L+1/(jω2C)=0
jω1L+1/(jω1C)=1/(jω1C1) ・・・(1)
ここで、ω1は送信角周波数、ω2は受信角周波数、jは虚数単位である。上式をLとCについて解くと、以下の値が得られる。
C=(ω22−ω12)C1/ω22
L=1/{(ω22−ω12)C1} ・・・(2)
【0016】
また、送信周波数が受信周波数よりも高い場合には、受信帯周波数における等価的なインダクタであり、基本波整合として用いるインダクタをL1として、フィルタ回路の容量CとインダクタLの値は以下の連立方程式を解くことで一意に決まる。
jω2L+1/(jω2C)=0
jω1L+1/(jω1C)=jω1L1 ・・・(3)
上式をLとCについて解くと、以下の値が得られる。
C=(ω12−ω22)/(ω12ω22L1)
L=ω12L1/(ω12−ω22) ・・・(4)
【0017】
なお、フィルタ回路90における容量とインダクタは抵抗成分を含んでいても受信帯雑音効果は得られる。この理由について、図2から図4を用いて説明する。図2の点線は、本実施の形態におけるフィルタ回路90を用いない場合の増幅器全体の通過特性S21を示している。送信用増幅器であるため、送信(Tx)帯で通過特性(利得)がほぼ最大となっているが、受信(Rx)帯においても通過が生じている。
【0018】
図3の実線は、本実施の形態におけるフィルタ回路90を適用した場合の増幅器全体のS21を示している。フィルタ回路90には抵抗成分が含まれないとし、共振周波数は受信帯に設定した。この場合では、受信帯でのS21の値が大きく低下する。これに対し、図4の実線は、フィルタ回路90に抵抗成分が含まれる場合の増幅器全体のS21を示している。この場合では、抵抗成分のために、共振がブロードになり受信帯の減衰効果が図3の実線と比較して減少するものの、受信帯の信号減衰効果は得られている。そのため、フィルタ回路90には抵抗成分が含まれても良い。
【0019】
また、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば同様の効果が得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域で±10%以内であればよい。携帯電話で使用する周波数では、送信周波数帯と受信周波数帯が非常に近い場合が多い。このような場合において、本発明におけるフィルタの共振周波数を受信帯周波数に設定し、尚且つフィルタ回路に抵抗成分が含まれると送信帯での利得も減少してしまうことが考えられる。そこで、フィルタの共振周波数を送信帯からより離れた周波数に設定することで、送信帯の利得の低下を抑えることが可能である。この理由について図5を用いて説明する。図5の実線は共振周波数を受信帯からわずかに高い周波数に設定した場合の増幅器全体のS21を示している。この場合では、受信帯における信号減衰効果は低いものの、効果は得られている。
【0020】
図6に共振周波数を受信帯周波数から非帯域でほぼ10%である200MHzほど高い周波数に設定した場合の通過特性S21の計算結果を示す。計算では、送信周波数を1.95GHz、受信周波数を2.15GHz、フィルタ回路90の共振周波数を2.35GHz、C1を3.5pFとして計算した。図中、細い線はフィルタ回路90が無い場合の通過特性であり、太い線はフィルタ回路90を設けた場合の通過特性である。フィルタ回路90を設けた場合に、受信周波数2.15GHzにおける利得が低下している。この計算結果から、共振周波数が受信周波数に対して比帯域で±10%以内であれば、受信帯における利得は低下し、本発明の効果が得られることが分かる。
【0021】
また、フィルタ回路90の共振周波数を送信帯域周波数の2倍波周波数に設定することもできる。この場合も、フィルタ回路90が無いときに比べて受信帯における利得を低下し、本発明の効果が得られる。加えて、増幅器から出力する信号に送信信号の2倍高調波が生じ、この信号が不要である場合、この2倍高調波信号の電力を低減することができる効果がある。
【0022】
さらに、実施の形態1では、2段接続された増幅器の前段の増幅器を示したが、これに限らず増幅器は1段でも良い。このとき増幅器は出力整合回路を有しており、フィルタ回路90をこの出力整合回路に接続しても良い。また2段接続された増幅器の後段の増幅器に適用しても良いし、3段以上接続された増幅器の最前段の増幅器、最後段の増幅器、中間段の増幅器の、いずれに適用しても本発明の効果が得られる。
【0023】
以上のように、本実施の形態における増幅器では、受信帯雑音特性が良好で小型な増幅器を得られる効果がある。
【0024】
実施の形態2.
図7に本発明に係わる実施の形態2を示す構成図を示す。図中、図1と同一のものには同一符号を付けて説明する。91はフィルタ回路であり、33はインダクタ、72は容量である。本回路と実施の形態1の違いは、フィルタ回路91の構成である。
【0025】
本実施の形態のフィルタ回路91の動作について説明する。フィルタ回路91はインダクタ33と容量72の並列共振回路であり、トランジスタ10と段間整合回路51の間に縦続接続されている。フィルタ回路91の共振周波数は受信帯周波数に設定されており、受信帯において開放点が形成される。このため、受信帯における信号が大きく減衰し、受信帯雑音が改善される。
【0026】
このとき、送信帯周波数が受信帯周波数よりも高い場合には、フィルタ回路91は送信帯周波数において容量性を示す。また送信帯周波数が受信帯周波数よりも低い場合には、フィルタ回路91は送信帯周波数において誘導性を示す。そのため、従来回路に本フィルタ回路91を追加した場合、送信周波数における整合が最適値からずれてしまう。さらに、本フィルタ回路の追加により回路規模が大きくなってしまう。そこで、本フィルタ回路の送信周波数におけるインピーダンス成分を基本波整合として積極的に用いることにより、回路規模を抑えることができる。
【0027】
まず、送信帯周波数が受信帯周波数よりも高い場合について説明する。この場合、フィルタ回路の送信周波数におけるインピーダンスは容量性を示す。基本波整合として用いる容量をC1とした場合、次の連立方程式が成り立つ。
jω2C+1/(jω2L)=0
jω1C+1/(jω1L)=jω1C1 ・・・(5)
フィルタ回路の容量CとインダクタLの値は実施の形態1と同様に式(5)の連立方程式をCとLに関して解けば求まり、以下の式で表せる。
C=ω12C1/(ω12−ω22)
L=(ω12−ω22)/(ω12ω22C1) ・・・(6)
【0028】
また、送信周波数が受信周波数よりも低い場合には、基本波整合として用いるインダクタをL1として以下の式が成り立つ。
jω2C+1/(jω2L)=0
jω1C+1/(jω1L)=1/(jω1L1) ・・・(7)
上式をLとCについて解くと、以下の値が得られる。
C=1/{(ω22−ω12)L1}
L=(ω22−ω12)L1/ω22 ・・・(8)
【0029】
なお、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば受信帯における雑音電力改善効果は得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域10%以内であればよい。この場合、式(1)から式(8)のω2を共振角周波数と考えれば、これらの式はそのまま成り立つ。
【0030】
また、本フィルタ回路91は段間整合回路51に接続するものでなくとも、入力整合回路50に接続してもよく、図示していないが出力整合回路に接続してもよく、トランジスタの整合に供するいずれかの整合回路に接続すればよい。
さらに、フィルタ回路91における容量72とインダクタ33は、チップ部品、半導体基板上に集積化されたMIM(Metal Insulation Metal)容量、誘電体多層基板における対地容量、ボンディングワイヤ、半導体基板上に集積化されたスパイラルインダクタ、金属配線、誘電体多層基板における配線等のいずれでもよく、その組み合わせは自由であり、容量72とインダクタ33は抵抗成分を含んでいてもよい。
【0031】
実施の形態3.
図8に本発明に係わる実施の形態3を示す構成図を示す。図中、図1や図7と同一のものには同一符号を付けて説明する。92はフィルタ回路であり、34、35はインダクタ、73は容量である。実施の形態1、2との違いは、フィルタ回路の構成である。
【0032】
フィルタ回路の動作について説明する。本フィルタ回路は送信周波数に対しては開放であり、受信帯周波数に対しては短絡となるように回路定数を設定する。容量73とインダクタ34の並列共振器は、送信周波数で共振するように設定する。また、受信帯周波数では短絡するように、インダクタ35の値を設定する。受信帯において短絡点が形成されるため、受信帯における信号が大きく減衰し受信帯雑音が改善される。
なお、送信周波数が受信周波数よりも高い場合には、並列共振回路は受信帯において誘導性を示すため、インダクタ35の代わりに容量を接続する。
【0033】
本フィルタ回路は送信周波数のインピーダンスを変えることなく、受信帯ノイズを改善することができるため実施の形態1、2と比較して設計が容易であり、回路構成が明快である。
【0034】
なお、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば受信帯における雑音電力改善効果は得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域10%以内であればよい。
【0035】
また、本フィルタ回路は段間整合回路でなくともいずれかの整合回路に接続されればよい。
さらに、フィルタ回路における容量とインダクタは、チップ部品、半導体基板上に集積化されたMIM容量、誘電体多層基板における対地容量、ボンディングワイヤ、半導体基板上に集積化されたスパイラルインダクタ、金属配線、誘電体多層基板における配線のいずれでもよく、その組み合わせは自由であり、容量とインダクタは抵抗成分を含んでいてもよい。
【0036】
実施の形態4.
図9に本発明に係わる実施の形態4を示す構成図を示す。図中、図8までと同一のものには同一符号を付けて説明する。53は段間整合回路、93はフィルタ回路である。本回路と実施の形態1、2、3、との違いはフィルタ回路の接続位置である。
【0037】
本実施の形態ではフィルタ回路93は段間整合回路51と段間整合回路53に挟まれた位置にある。実施の形態1、2、3では、フィルタ回路と整合回路は分離された関係であったが、図9のように、整合回路の間に接続してもよい。このように、フィルタ回路の位置は整合回路に接続されていればよく、フィルタ回路の接続位置は整合回路の端部に制限されるものではない。
【0038】
実施の形態5.
図10、図11に本発明に係わる実施の形態5を示す構成図を示す。図10は本実施の形態に係る増幅器の構成図であり、図11は本実施の形態に係る増幅器のフィルタ回路を示す構成図である。図中、図9までと同一のものには同一符号を付けて説明する。94はフィルタ回路であり、36、37はインダクタ、74、75は容量、80は共振回路切替手段であるスイッチである。本回路と実施の形態1、2、3の違いは、フィルタ回路94の構成である。本実施の形態は、増幅器を受信帯域および送信帯域を複数有するマルチバンド通信機の送受信機に使用する場合の実施の形態である。
【0039】
フィルタ回路94の動作について説明する。ここでは3バンドの送信周波数帯を持つ増幅器について説明する。3バンド増幅器の場合、バンド1からバンド3までのそれぞれのバンドに応じて受信帯周波数が異なる。そのため、実施の形態1で用いたフィルタ回路90の共振周波数をバンドに応じて切り替える必要がある。そこで、図10に示すように、フィルタ回路94における直列共振回路をスイッチ80(SW1〜SW3)を介して並列に3つ接続し、使用するバンドに応じて切り替えることにより、3バンド増幅器であっても受信帯雑音を改善することが可能となる。
【0040】
図10において、フィルタ回路94中の3つの直列共振回路はそれぞれ、3つの受信帯周波数のそれぞれに共振周波数を設定している。容量74とインダクタ36のうち、C1とL1で表す共振回路の共振周波数はバンド1の受信帯周波数に設定している。また、C2とL2で表す共振回路の共振周波数はバンド2の受信帯周波数に、C3とL3で表す共振回路の共振周波数はバンド3の受信帯周波数に、それぞれ設定している。
【0041】
増幅器がバンド1を用いる場合、スイッチ80のうちSW1を短絡させ、残りのSW2とSW3を開放とする。このとき、フィルタ回路94はC1とL1で表す共振回路のみが動作し、バンド1の受信帯周波数において信号の減衰が生じる。したがって、増幅器においてバンド1の受信帯周波数の信号がほとんど出力されず、受信帯での雑音が改善される。
【0042】
増幅器がバンド2を用いる場合、スイッチ80のうちSW2を短絡させ、残りのSW1とSW3を開放とする。また、増幅器がバンド3を用いる場合、スイッチ80のうちSW3を短絡させ、残りのSW1とSW2を開放とする。このことにより、各バンドそれぞれの受信帯周波数に信号の減衰が生じ、バンド1の場合と同様に、使用する各バンドにおいて受信帯での雑音が改善される。
【0043】
図10に示したフィルタ回路94の構成では、3バンドに対応するために回路が大きくなるという問題がある。そこで、図11(a)に示すように、共振回路を構成するインダクタ36のインダクタンスの一部を共有化し、インダクタ37を設ける。3つのスイッチ80のうち、いずれか1つを短絡させ、残りを開放とすることで、短絡させたスイッチ80に接続されている回路と、共有化したインダクタ37とが合わせて共振回路を形成する。共有化したインダクタ37を含めた各共振回路の共振周波数は、マルチバンドの各バンドの受信帯周波数に設定されている。したがって、図10の場合と同様に、各バンドの受信帯周波数において信号の減衰が生じ、受信帯での雑音が改善される。
【0044】
このように共有化したインダクタ37を設けることにより、他のインダクタ36は比較的小さなインダクタンスの値で済む。また、図11(a)の回路の一番左側の枝に示すように、必ずしも全ての枝にインダクタを設けなくても良い。このため、フィルタ回路94の大きさを小さくすることができる。すなわち3バンドに対応しながら、回路の小型化が可能である。
【0045】
図11(b)は、フィルタ回路94の他の構成であり、インダクタ37ではなく容量75を共有化した構成である。この場合も、図11(a)と同様に、共有化した容量75を含めた各共振回路の共振周波数を、各バンドの受信帯周波数に設定することができ、図11(a)と同様の効果が得られる。このように、フィルタ回路94の複数の共振回路におけるリアクタンス素子(インダクタまたは容量)の一部を共通化し一つの共通リアクタンス素子(インダクタまたは容量)とし、共振回路切替手段であるスイッチ80が複数の共振回路のいずれを選択した場合でも、その選択した共振回路に共通リアクタンス素子が含まれるようにすることで、回路の小型化が可能となる。
【0046】
図11(c)〜(e)は、直列共振回路ではなく並列共振回路を用いてフィルタ回路94を構成する例である。さらに図11(d)では容量75を共有化し、図11(e)ではインダクタ37を共有化して共振回路を構成している。これらの場合も、3つのスイッチ80のうち、いずれか1つを短絡させ、残りを開放とすることで、短絡させたスイッチ80に接続されている回路、および、共有化した容量75もしくはインダクタ37を共振回路とし用いることができ、各バンドの受信帯周波数に信号の減衰を生じさせることができる。したがって、受信帯での雑音が改善されるという効果が得られる。
【0047】
なお、本実施の形態では、3バンドの場合について図示して説明したが、Nバンド(Nは2以上の自然数)であっても同様に回路を構成することができ、本発明の効果が得られるのは明らかである。
【0048】
また、ここでは共振周波数を受信帯周波数に設定したが、受信帯における利得が低下すれば受信帯における雑音電力改善効果は得られるため、共振周波数は受信帯周波数に対して比帯域10%以内に設定すればよい。
【0049】
さらに、本フィルタ回路94は段間整合回路51でなくともいずれかの整合回路に接続されればよい。
【0050】
加えて、フィルタ回路における容量とインダクタは、チップ部品、半導体基板上に集積化されたMIM容量、誘電体多層基板における対地容量、ボンディングワイヤ、半導体基板上に集積化されたスパイラルインダクタ、金属配線、誘電体多層基板における配線のいずれでもよく、その組み合わせは自由であり、容量とインダクタは抵抗成分を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 トランジスタ、30、32、33、34、35、36、37 インダクタ、50 入力整合回路、51、53 段間整合回路、52 前段バイアス回路、70、72、73、74、75 容量、80 スイッチ、90、91、92、93、94 フィルタ回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の周波数を中心周波数とする信号を増幅する増幅素子と、
前記増幅素子の前段または後段に接続される整合回路と、
前記増幅素子と前記整合回路の間に接続され、前記第一の周波数とは異なる第二の周波数を中心周波数とする信号を減衰させるフィルタ回路と、
を備えたことを特徴とする増幅器。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、前記第一の周波数において所定のリアクタンス成分をもち、前記第二の周波数において短絡となる、インダクタと容量を直列接続した直列共振回路を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記フィルタ回路は、前記第一の周波数において所定のリアクタンス成分をもち、前記第二の周波数において開放となる、インダクタと容量を並列接続した並列共振回路を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項4】
前記所定のリアクタンスは容量性であり、このリアクタンスに相当する容量値をC1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項2に記載の増幅器。
C=(ω22−ω12)C1/ω22
L=1/{(ω22−ω12)C1}
【請求項5】
前記所定のリアクタンスは誘導性であり、このリアクタンスに相当するインダクタンスをL1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項2に記載の増幅器。
C=(ω12−ω22)/(ω12ω22L1)
L=ω12L1/(ω12−ω22)
【請求項6】
前記所定のリアクタンスは容量性であり、このリアクタンスに相当する容量値をC1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項3に記載の増幅器。
C=ω12C1/(ω12−ω22)
L=(ω12−ω22)/(ω12ω22C1)
【請求項7】
前記所定のリアクタンスは誘導性であり、このリアクタンスに相当するインダクタンスをL1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項3に記載の増幅器。
C=1/{(ω22−ω12)L1}
L=(ω22−ω12)L1/ω22
【請求項8】
前記フィルタ回路は、前記第一の周波数に対しては開放となり、前記第二の周波数に対しては短絡となる、インダクタと容量から成る回路を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項9】
前記フィルタ回路は、
それぞれ共振周波数の異なる複数の共振回路と、
前記複数の共振回路のうち一つを選択し、その選択した共振回路に対応する共振周波数を前記第二の周波数とする共振回路切替手段と、
を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の増幅器。
【請求項10】
前記共振回路切替手段は、前記複数の共振回路それぞれに直列接続された複数のスイッチにより構成されることを特徴とする請求項9に記載の増幅器。
【請求項11】
前記複数の共振回路におけるリアクタンス素子の一部を前記複数の共振回路すべてにおいて共通化し一つの共通リアクタンス素子とし、前記共振回路切替手段が前記複数の共振回路のいずれを選択した場合でも、その選択した共振回路に前記共通リアクタンス素子が含まれることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の増幅器。
【請求項12】
送受信機の送信信号を増幅する増幅器であって、
前記第一の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数であり、前記第二の周波数は前記送受信機における受信帯域周波数であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の増幅器。
【請求項13】
送受信機の送信信号を増幅する増幅器であって、
前記第一の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数であり、前記第二の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数の2倍波周波数であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の増幅器。
【請求項14】
送受信機の送信信号を増幅する増幅器であって、
前記第一の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数であり、前記第二の周波数は前記送受信機における受信帯域周波数に対して比帯域10%以内の周波数であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の増幅器。
【請求項1】
第一の周波数を中心周波数とする信号を増幅する増幅素子と、
前記増幅素子の前段または後段に接続される整合回路と、
前記増幅素子と前記整合回路の間に接続され、前記第一の周波数とは異なる第二の周波数を中心周波数とする信号を減衰させるフィルタ回路と、
を備えたことを特徴とする増幅器。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、前記第一の周波数において所定のリアクタンス成分をもち、前記第二の周波数において短絡となる、インダクタと容量を直列接続した直列共振回路を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記フィルタ回路は、前記第一の周波数において所定のリアクタンス成分をもち、前記第二の周波数において開放となる、インダクタと容量を並列接続した並列共振回路を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項4】
前記所定のリアクタンスは容量性であり、このリアクタンスに相当する容量値をC1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項2に記載の増幅器。
C=(ω22−ω12)C1/ω22
L=1/{(ω22−ω12)C1}
【請求項5】
前記所定のリアクタンスは誘導性であり、このリアクタンスに相当するインダクタンスをL1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項2に記載の増幅器。
C=(ω12−ω22)/(ω12ω22L1)
L=ω12L1/(ω12−ω22)
【請求項6】
前記所定のリアクタンスは容量性であり、このリアクタンスに相当する容量値をC1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項3に記載の増幅器。
C=ω12C1/(ω12−ω22)
L=(ω12−ω22)/(ω12ω22C1)
【請求項7】
前記所定のリアクタンスは誘導性であり、このリアクタンスに相当するインダクタンスをL1とし、前記第一の周波数の角周波数をω1、前記第二の周波数の角周波数をω2としたとき、前記容量のキャパシタンスCと前記インダクタのインダクタンスLは以下の式で与えられることを特徴とする請求項3に記載の増幅器。
C=1/{(ω22−ω12)L1}
L=(ω22−ω12)L1/ω22
【請求項8】
前記フィルタ回路は、前記第一の周波数に対しては開放となり、前記第二の周波数に対しては短絡となる、インダクタと容量から成る回路を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項9】
前記フィルタ回路は、
それぞれ共振周波数の異なる複数の共振回路と、
前記複数の共振回路のうち一つを選択し、その選択した共振回路に対応する共振周波数を前記第二の周波数とする共振回路切替手段と、
を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の増幅器。
【請求項10】
前記共振回路切替手段は、前記複数の共振回路それぞれに直列接続された複数のスイッチにより構成されることを特徴とする請求項9に記載の増幅器。
【請求項11】
前記複数の共振回路におけるリアクタンス素子の一部を前記複数の共振回路すべてにおいて共通化し一つの共通リアクタンス素子とし、前記共振回路切替手段が前記複数の共振回路のいずれを選択した場合でも、その選択した共振回路に前記共通リアクタンス素子が含まれることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の増幅器。
【請求項12】
送受信機の送信信号を増幅する増幅器であって、
前記第一の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数であり、前記第二の周波数は前記送受信機における受信帯域周波数であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の増幅器。
【請求項13】
送受信機の送信信号を増幅する増幅器であって、
前記第一の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数であり、前記第二の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数の2倍波周波数であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の増幅器。
【請求項14】
送受信機の送信信号を増幅する増幅器であって、
前記第一の周波数は前記送受信機における送信帯域周波数であり、前記第二の周波数は前記送受信機における受信帯域周波数に対して比帯域10%以内の周波数であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の増幅器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−110619(P2013−110619A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254635(P2011−254635)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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