説明

増幅装置

【課題】信号のC/Nを劣化させずにレベル調整が可能な増幅装置を提供する。
【解決手段】双方向CATVシステムの伝送線に設けられる棟内ブースター1において、上り信号を増幅する上り信号増幅回路3は、第1の増幅器30と、第1の増幅器30に並列に配置された通過線路31と、上り信号を第1の増幅器30か通過線路31かのいずれかの経路を通過させる選択手段32と、選択手段32の出力に接続されたレベル調整手段33と、レベル調整手段33の出力に接続された第2の増幅器34とを備え、電源切換手段36を介して、第1の増幅器30及び選択手段32に直流電圧を印加するか否かを切り換えることで、上り信号の通過経路を第1の増幅器30と通過線路31とのいずれかに設定できるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段接続された複数の増幅器を備え、この複数の増幅器にて所定周波数帯の信号を増幅して出力する増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
双方向CATVシステムでは、上り回線品質を維持するために、上り流合雑音によるシステム妨害を軽減する対策が必要となる。また、上り回線のC/Nについても特に考慮が必要となる。これは、双方向CATVシステムにおいては、下り方向の場合は増幅装置の継続台数がC/Nに影響するのに比べて、上り方向は、上り方向の増幅装置の総台数がC/Nに大きく影響するためである。
【0003】
これらの問題のために、双方向CATVシステムでは、端末側に接続される装置(例えば、ケーブルモデム)等の出力信号である上り信号を高レベルで運用して、増幅装置への入力レベルをできるだけ下げないようにする必要がある。
【0004】
ところが、このように高レベルで運用する場合、CATV加入者の棟内に設置される分配補償用の増幅装置である棟内ブースターの上り信号増幅回路は、定格出力レベルを超えてしまうことがある。
【0005】
そのため、従来、この種の増幅装置(棟内ブースター)においては、増幅回路への信号入力側に利得調整用のレベル調整手段を設けたり、増幅回路を構成する多段に接続された増幅器の段間に、利得調整用のレベル調整手段を設けたりすることで、増幅回路を最適な出力レベルで運用できるようにしている(例えば、特許文献1等、参照)。
【特許文献1】特開2000−151477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように、上り信号増幅回路に高レベルの上り信号が入力されたときに当該増幅回路を定格出力レベル以下で運用するために、上り信号増幅回路の入力にレベル調整手段を挿入した場合には、上り信号増幅回路に入力される上り信号のレベルが低くなり、システムの上り信号のC/Nを劣化させる要因となっていた。
【0007】
また、上り信号増幅回路が多段に接続された増幅器から構成されていて、レベル調整手段の減衰量が上り信号増幅回路を構成する一つの増幅器(第1増幅器)の利得より大きくなるようなシステムで使用するような場合は、第1増幅器は無くてもよい状態であるばかりか、第1増幅器には、必要のない電源も供給され続けることになり、第1増幅器の消費電力が余分にかかることになる。
【0008】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、信号のC/Nを劣化させずにレベル調整が可能な増幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、多段接続された複数の増幅器を備え、該複数の増幅器にて所定周波数帯の信号を増幅して出力する増幅装置であって、前記複数の増幅器の一つである第1の増幅器に対して並列に、前記信号を通過させる通過線路を配置し、前記第1の増幅器と前記通過線路とのいずれかを前記信号の通過経路として選択するための切換手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の増幅装置において、前記切換手段は、前記信号の通過経路として前記第1の増幅器を選択しているときに前記第1の増幅手段に電源供給を行い、前記通過線路を選択しているときに前記第1の増幅手段への電源供給を遮断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の増幅装置によれば、信号の通過経路として、第1の増幅器と通過線路とのいずれかを選択するための切換手段が設けられているため、信号が適正レベルであれば、切換手段を介して信号の通過経路を第1の増幅器側に切り換え、信号が適正レベルを超える場合には、切換手段を介して信号の通過経路を通過線路側に切り換える、といったことができる。よって、本発明によれば、信号のC/Nを劣化させることなく、増幅装置を定格出力範囲内で運用できる。
【0012】
また、請求項2に記載の増幅装置によれば、切換手段が通過線路を選択しているときには、第1の増幅手段への電源供給が遮断されることから、消費電力を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を具体化した実施形態の1例を、図面を基に詳細に説明する。
図1は本発明が適用された棟内ブースター1の構成を表す説明図である。
図1に示す棟内ブースター1は、センタ装置から端末側に、所定周波数(例えば、70〜770MHz)の下り信号を伝送し、端末側からセンタ装置側には、下り信号よりも周波数の低い所定周波数帯(例えば、10〜55MHz)の上り信号を伝送するように構成された双方向CATVシステムにおいて、これら各信号を伝送線上で双方向に増幅するときに使用されるものである。
【0014】
この棟内ブースター1は、センタ装置側伝送線に接続される入力端子5と、カットオフ周波数70MHzのハイパスフィルタ10(以下、HPFと記載する)とからなる下り信号入力経路を介して、センタ装置側から伝送されてきた下り信号を取り込み、その取り込んだ下り信号の信号レベルを、下り信号増幅回路14にて増幅し、その増幅後の下り信号を、カットオフ周波数70MHzのHPF18と、端末側伝送線に接続される出力端子7とからなる下り信号出力経路を介して、端末側伝送線上に出力するよう構成されている。
【0015】
下り信号増幅回路14は、本実施形態では、前後2段の増幅器14a、14bと、その間に設けられて、下り信号増幅回路14からの出力が所定の出力レベルとなるように、下り信号をレベル調整するレベル調整手段14cとで構成されている。
【0016】
次に、この棟内ブースター1には、上記上り信号を増幅するための所定の増幅特性を有する上り信号増幅回路3が備えられている。
上り信号増幅回路3には、端末側から伝送されてきた上り信号が、出力端子7とカットオフ周波数55MHzのローパスフィルタ24(以下、LPFと記載する)とからなる上り信号入力経路を介して入力される。
【0017】
そして、上り信号増幅回路3は、その入力された信号を増幅し、その増幅後の上り信号を、カットオフ周波数55MHzのLPF46と、入力端子5とからなる上り信号出力経路を介して、センタ装置側伝送線上に出力する。
【0018】
上り信号増幅回路3は、第1の増幅器30と、当該第1の増幅器30に対し並列に配置された通過線路31と、上り信号を、第1の増幅器30か通過線路31かのいずれかの経路を介して選択出力するための選択手段32(32a、32b)と、当該選択手段32の出力に接続されたレベル調整手段33と、当該レベル調整手段33の出力に接続された第2の増幅器34とから構成されている。
【0019】
図1において、36は電源切換手段であり、電源回路38から出力される直流電源と、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)との間に設けられて、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)に直流電圧を選択的に印加するように構成されている。
【0020】
そして、例えば、電源切換手段36をONにしたときは、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)に電源供給されることで、上り信号の通過経路として、第1の増幅器30が選択される。
【0021】
また、電源切換手段36をOFFにしたときは、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)への電源供給が停止されることで、上り信号の通過経路として、通過線路31が選択される。
【0022】
レベル調整手段33は、固定アッテネーター33bと、固定アッテネーター33bを信号線に入り切りするための切換手段33aと、可変減衰器33cと、から構成されている。39は商用電源からAC電源を得るためのACプラグである。
【0023】
このように構成された棟内ブースター1について更に詳しく説明する。
出力端子7に接続された端末側伝送線には、ケーブルモデム等の情報端末が接続される。ケーブルモデムから出力された上り信号は、出力端子7から入力される。
【0024】
この時、上り信号のレベルが上り信号増幅回路3の定格出力レベルを超えない範囲であれば、CATVシステムの設計に応じて、上り信号増幅回路3のレベル調整手段33でもって出力レベルを所定のレベルに調整する。
【0025】
また、上り信号のレベルが上り信号増幅回路3の定格出力レベルを超える場合は、第1の増幅器30に並列に配置された通過線路31側に選択手段(例えば、高周波リレー)32(32a、32b)を切り換える。
【0026】
この線路の選択は、電源切換手段36のON/OFFによって行われる。
つまり、電源回路38から出力される直流電源は、電源切換手段36を介して、選択手段32(32a、32b)及び第1の増幅器30に供給されることから、上り信号レベルが適正入力レベル範囲内であれば、電源切換手段36(例えば、スイッチ)をONの状態にする。
【0027】
これによって、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)に直流電源が供給され、第1の増幅器30側の経路が選択され、上り信号は、第1の増幅器30で増幅された後、レベル調整手段33以降の回路に出力される。
【0028】
また、上り信号が高レベルであるときは、電源切換手段36をOFFの状態にすることで、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)への電源供給を止める。
これによって、通過線路31側の経路が選択され、上り信号は、通過線路31を通過した後、レベル調整手段33以降の回路に出力される。
【0029】
このように高レベルで上り信号増幅回路3を運用する場合において、従来のような、第1の増幅器30の入力側にアッテネーター等を設け、上り信号を適正レベルに調整する方法では、ケーブルモデムの出力レベルをアッテネーターで低く下げて、上り信号増幅回路3に入力されることになるので、上り信号増幅回路3で増幅された信号はC/Nが劣化して出力されていた。更に第1の増幅器30の利得以上に、上り信号を減衰させるようなアッテネーターが必要なときは、第1の増幅器30は必要がなく、加えて当該第1の増幅器30に給電されている電源も必要が無い状態があった。
【0030】
これに比べて、本実施形態では、高レベルで上り信号増幅回路3を運用する場合において、電源切換手段36によって、経路を通過線路31に選択するようにしたことで、第2の増幅器34に適正レベルの信号が入力されることとなり、ケーブルモデムの出力信号のC/Nを劣化させること無く定格出力範囲内で運用できる。
【0031】
更に加えて、第1の増幅器30の電源供給を止めるように構成したので、上り信号を高レベルで運用する場合において、消費電力の低減を図ることができる。
次に本発明の第2実施形態を、図2を参照して説明する。
【0032】
なお、以下の説明では、第1実施形態と同様の構成要素については同一符号を付与し、詳細な説明は省略する。
本実施形態は、上り信号帯域として、10〜55MHz帯(以下、上りL信号と記載する)と650〜770MHz(以下、上りH信号と記載する)を用いるよう構成したものである。
【0033】
本実施形態の棟内ブースター1は、センタ装置側伝送線に接続される入力端子5と、カットオフ周波数70MHzのHPF10と、カットオフ周波数600MHzのLPF12とからなる下り信号入力経路を介して、センタ装置側から伝送されてきた下り信号を取り込み、その取り込んだ下り信号の信号レベルを、下り信号増幅回路14にて増幅し、その増幅後の下り信号を、カットオフ周波数600MHzのLPF16と、カットオフ周波数70MHzのHPF18と、端末側伝送線に接続される出力端子7とからなる下り信号出力経路を介して、端末側伝送線上に出力するよう構成されている。
【0034】
上記下り信号入力経路を構成するHPF10及びLPF12、下り信号出力経路を構成するLPF16及びHPF18は、これらを通過する信号を、下り信号の周波数帯(70〜600MHz)の信号成分に規制するバンドパスフィルタを構成する。
【0035】
次に、この棟内ブースター1には、上りL信号及び上りH信号を増幅するための所定の増幅特性を有する上り信号増幅回路3が備えられている。
端末側から伝送されてきた上りH信号は、出力端子7と、カットオフ周波数70MHzのHPF18と、カットオフ周波数650MHzのHPF20と、同じくカットオフ周波数650MHzのHPF22とからなる上りH信号入力経路を介して、上り信号増幅回路3に入力される。
【0036】
また、端末側から伝送されてきた上りL信号は、出力端子7と、カットオフ周波数55MHzのLPF24と、同じくカットオフ周波数55MHzのLPF26とからなる上りL信号入力経路を介して、上記上り信号増幅回路3に入力される。
【0037】
これによって、上り信号増幅回路3には、HPF22及びLPF26を介して、上りH信号と上りL信号とを混合した上り信号が入力され、上り信号増幅回路3は、これらの入力された信号を所定レベルまで増幅する。
【0038】
そして、その増幅後の上り信号の内、上りH信号は、カットオフ周波数を650MHzとするHPF40と、同じくカットオフ周波数を650MHzとするHPF42と、カットオフ周波数を70MHzとするHPF10と、入力端子5とからなる上りH信号出力経路を介して、センタ装置側伝送線上に出力される。
【0039】
また、上りL信号は、カットオフ周波数を55MHzとするLPF44と、同じくカットオフ周波数を55MHzとするLPF46と、入力端子5とからなる上りL信号出力回路を介して、センタ装置側伝送線に出力される。
【0040】
本実施形態の棟内ブースター1は、双方向CATVシステムにおける、端末装置側の棟内における分配損失を補償するためのブースターであり、センタ装置からの下り信号を各端末に最適なレベルになるよう出力すると共に、上り信号として、ケーブルモデム等の情報端末からの信号を増幅して、センタ装置に出力するためのものである。
【0041】
この双方向CATVシステムにおいては、上り流合雑音の軽減及び上り回線のC/Nを良い状態に維持する必要がある。
このための方法として、ケーブルモデム等の出力を高レベルで運用して、上り信号増幅回路3の入力レベルをできるだけ下げない方法が考えられる。
【0042】
このように上り信号を高レベルで運用する場合では、棟内ブースター1の上り信号増幅回路3の定格出力を超えてしまうといった問題や、これに対応する手段として、第1の増幅器30の入力にアッテネーターを挿入すれば、上記上り信号増幅回路3の出力信号のC/Nが劣化してしまうといった問題、更には、入力側のアッテネーターを初段の利得以上に必要とする場合においては、初段の増幅器(第1の増幅器)30は無くても良い状態であり、加えて、第1の増幅器30に電源を供給する必要がないといった問題点があった。
【0043】
これに対して、上り信号増幅回路3は、第1実施形態のものと同様、第1の増幅器30と、当該第1の増幅器30と並列に接続される通過線路31と、上り信号を第1の増幅器30か上記通過線路31かのいずれかの経路を介して選択出力するための選択手段32(32a、32b)と、選択手段32の出力に接続されたレベル調整手段33と、レベル調整手段33の出力に接続された第2の増幅器34とを備え、電源切換手段36を介して、第1の増幅器30及び選択手段32(32a、32b)に直流電圧を選択的に印加することで、第1の増幅器30か通過線路31かを選択できるようにされている。
【0044】
このため、本実施形態においても、第1実施形態と同様、双方向CATVシステムにおいて上り信号を高レベルで運用する場合、C/Nの劣化無く定格出力レベルを得ることができ、更に、第1の増幅器30の経路であったものを通過線路に切り換えると共に、第1の増幅器30への電源供給を止めることで、省電力となるといった有効性の高い棟内ブースター1を提供できる。
【0045】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で夫々の増幅回路の構成、フィルタ回路及び所定周波数帯域等を適宜に変更して実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1実施形態の棟内ブースターの構成を表す説明図である。
【図2】第2実施形態の棟内ブースターの構成を表す説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1…棟内ブースター、3…上り信号増幅回路、5…入力端子、7…出力端子、10、18、20、22、40、42…HPF(ハイパスフィルタ)、12、16、24、26、44、46…LPF(ローパスフィルタ)、14…下り信号増幅回路、14a、14b…増幅器、14c…レベル調整手段、30…第1の増幅器、31…通過線路、32(32a、32b)…選択手段、33…レベル調整手段、33a…切換手段、33b…固定アッテネーター、33c…可変減衰器、34…第2の増幅器、36…電源切換手段、38…電源回路、39…ACプラグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段接続された複数の増幅器を備え、該複数の増幅器にて所定周波数帯の信号を増幅して出力する増幅装置であって、
前記複数の増幅器の一つである第1の増幅器に対して並列に、前記信号を通過させる通過線路を配置し、
前記第1の増幅器と前記通過線路とのいずれかを前記信号の通過経路として選択するための切換手段を設けたことを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
前記切換手段は、前記信号の通過経路として前記第1の増幅器を選択しているときに前記第1の増幅手段に電源供給を行い、前記通過線路を選択しているときに前記第1の増幅手段への電源供給を遮断することを特徴とする請求項1に記載の増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−178134(P2008−178134A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46177(P2008−46177)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【分割の表示】特願2003−96426(P2003−96426)の分割
【原出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【Fターム(参考)】