説明

増粘ゲル化剤

【課題】ショ糖飽和脂肪酸エステルのモノエステル成分の含有量に関わらず粘度の高い水中油型乳化組成物を調製することができる増粘ゲル化剤を提供する。
【解決手段】炭素数14〜20の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖飽和脂肪酸エステル(例えば、ショ糖ステアリン酸エステル)100重量部に対し、炭素数14〜20の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖不飽和脂肪酸エステル(例えば、ショ糖オレイン酸エステル)を2〜10重量部加えてなるショ糖脂肪酸エステルを含有する増粘ゲル化剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘ゲル化剤に関し、特にショ糖脂肪酸エステルを用いた増粘ゲル化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ショ糖脂肪酸エステルは、水中でラメラ構造を形成することから、その特徴を利用して、医薬品、化粧品、食品分野等で増粘ゲル化剤に応用されており、高い安全性、良好な使用感、高いゲル化性能が可能となっている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、全ショ糖脂肪酸エステルに対して純度が50%以上であるショ糖脂肪酸ジエステルと、イオン性界面活性剤とを含む水性増粘ゲル化剤が開示されている。また、下記特許文献2には、全ショ糖脂肪酸エステルに対して純度が50%以上であるショ糖脂肪酸ジエステルと、イオン性界面活性物質と、高級脂肪酸アルコール及び/又は高級脂肪酸とを含有する水性増粘ゲル化剤が開示されている。
【特許文献1】特開平05−279651号公報
【特許文献2】特開平07−026245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載の技術では、全ショ糖脂肪酸エステルに対するショ糖脂肪酸ジエステルの含有量が50%以上であることを必須としているが、必ずしも最良の条件ではないことが判明した。例えば、ジエステル成分が50%以上であるにも関わらず、モノエステル成分の含有量が15%よりも高い場合、充分なゲル硬度の水中油型乳化組成物が得られず、増粘ゲル化剤として効果的に機能しない。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ショ糖飽和脂肪酸エステル中のモノエステル成分の含有量に関わらず、粘度の高い水中油型乳化組成物を調製することができる増粘ゲル化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討していく中で、従来増粘ゲル化剤として用いられているショ糖飽和脂肪酸エステルに対し、ショ糖不飽和脂肪酸エステルを所定量添加することで、ショ糖飽和脂肪酸エステルのモノエステル成分の含有量に関わらず、粘度の高い水中油型乳化組成物を調製することができ、優れたゲル化性能を発揮できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る増粘ゲル化剤は、炭素数14〜20の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖飽和脂肪酸エステル100重量部に対し、炭素数14〜20の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖不飽和脂肪酸エステルを2〜10重量部加えてなるショ糖脂肪酸エステルを含有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記ショ糖飽和脂肪酸エステルに対し、所定量のショ糖不飽和脂肪酸エステルを加えることで、ショ糖飽和脂肪酸エステルのモノエステル成分の含有量に関わらず、高い粘度の水中油型乳化組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0010】
本発明に係る増粘ゲル化剤はショ糖脂肪酸エステルを含むものである。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖(スクロース)の水酸基に脂肪酸がエステル結合してなる非イオン界面活性剤であり、安全性が高く、医薬品、化粧品、食品分野等で好適に用いることができる。
【0011】
かかるショ糖脂肪酸エステルのうち、本発明に係る増粘ゲル化剤では、ショ糖飽和脂肪酸エステルを主成分として用いる。ショ糖飽和脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数14〜20の飽和脂肪酸が用いられる。具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸が挙げられ、これらはそれぞれ1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、更に好ましくは、ステアリン酸、又はステアリン酸とパルミチン酸の混合物である。混合物の場合、特に限定するものではないが、ステアリン酸/パルミチン酸=60/40〜90/10(重量比)であることが好ましい。
【0012】
該ショ糖飽和脂肪酸エステルとしては、エステル化度が2のジエステル成分(ショ糖飽和脂肪酸ジエステル)を50重量%以上含有するものが、好ましく用いられる。このようなジエステル成分の高いショ糖飽和脂肪酸エステルであると、水相中でラメラ構造からなる会合体を形成することから、ゲル化効果を高めることができる。ジエステル成分の含有量の上限は特に限定されず、100重量%でもよい。好ましくは80重量%以下であり、更に好ましくは70重量%以下である。
【0013】
該ショ糖飽和脂肪酸エステルのモノエステル成分(エステル化度が1であるエステル成分)や、トリエステル成分(エステル化度が3であるエステル成分)の含有量は特に限定されない。むしろ、本発明では、下記実施例に示されるように、モノエステル成分が15重量%以上の場合であっても、十分な硬度のゲルを得ることができ、この点にメリットがある。一般的に、ストークスの式により乳化物の安定性は粘度の増加に比例して高まることが知られているため、該乳化剤を使用し乳化液の粘度を高めることで、経時安定性を向上することができる。本発明により、モノエステル含有量に関わらず、粘度の高い水中油型乳化組成物を得ることができる。
【0014】
このようなエステル組成を持つショ糖飽和脂肪酸エステルは、既知の合成方法を利用して調製することができる。一般に、ショ糖脂肪酸エステルの合成方法としては、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の反応溶媒中で、アルカリ触媒の存在下、ショ糖と脂肪酸アルキルエステル(例えば脂肪酸メチル)とを反応させる方法(溶媒法:特公昭35−13102号公報)や、溶媒を用いずに水を使ってショ糖を脂肪酸石鹸と共に溶融混合物とした後、触媒の存在下に脂肪酸アルキルエステルと反応させる方法(水媒法:特公昭51−14485号公報)などが挙げられる。これらの合成方法で得られた反応生成物から、未反応の糖や脂肪酸アルキルエステル、溶媒などの夾雑物を除去した後、カラム等を用いて分画し、分画物を適宜組み合わせて配合することにより、上記エステル組成を持つショ糖飽和脂肪酸エステルを調製することができる。
【0015】
また、ショ糖飽和脂肪酸エステルは、一般に、エステル化度の異なるエステルの混合物として市販されているので、かかる市販のショ糖飽和脂肪酸エステルを複数組み合わせて混合したり、あるいはまた、市販のショ糖飽和脂肪酸エステルを、カラム等を用いて分画し、分画物を適宜に組み合わせて配合したり、また、これらの分画物を上記で合成したショ糖飽和脂肪酸エステルまたはその分画物と適宜に組み合わせて配合することにより、上記エステル組成を持つショ糖飽和脂肪酸エステルを調製することもできる。
【0016】
本発明に係る増粘ゲル化剤では、上記ショ糖飽和脂肪酸エステルに対し、炭素数14〜20の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖不飽和脂肪酸エステルを少量添加する。上記のように従来、ジエステル成分が50重量%以上かつモノエステル成分が15%以上というエステル組成のショ糖飽和脂肪酸エステルを用いて水中油型乳化組成物を調製した場合、十分な硬度のゲルが得られなかったが、ショ糖不飽和脂肪酸エステルを少量添加することで、モノエステル成分の含有量に関わらず、粘度の高い水中油型乳化組成物を調製することができる。
【0017】
ショ糖不飽和脂肪酸エステルの配合量は、ショ糖飽和脂肪酸エステル100重量部に対して2〜10重量部とする。該配合量が2重量部未満では、ショ糖不飽和脂肪酸エステルを添加した効果がほとんど認められず、粘度の高い安定な水中油型乳化組成物は得られない。また、該配合量が10重量部を超えると、ショ糖飽和脂肪酸エステル本来の増粘ゲル化性能が損なわれてしまい、粘度の高い安定な水中油型乳化組成物は得られない。
【0018】
該ショ糖不飽和脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸などのモノ不飽和脂肪酸、リノール酸などのジ不飽和脂肪酸、α−リノレン酸などのトリ不飽和脂肪酸が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、炭素数16〜18のモノ不飽和脂肪酸であり、更に好ましくはオレイン酸である。
【0019】
該ショ糖不飽和脂肪酸エステルのエステル組成としては、エステル化度が1のモノエステル成分を主成分として含有することが好ましい。すなわち、モノエステル成分の含有量が50重量%以上、より好ましくは70重量%以上であるショ糖不飽和脂肪酸モノエステルが好ましく用いられる。以上より、ショ糖不飽和脂肪酸エステルとしては、ショ糖オレイン酸モノエステルが特に好適に用いられる。なお、エステル組成の調整は、上記のショ糖飽和脂肪酸エステルと同様に行うことができる。
【0020】
該ショ糖不飽和脂肪酸エステルとしては、HLBが10以上であるものが好ましく用いられる。HLBはより好ましくは10〜16である。
【0021】
粘度の高い乳化液が得られるメカニズムは定かではないが、液晶(あるいは液晶ゲル、水和ゲル)中でショ糖飽和脂肪酸エステルの飽和脂肪酸部位が規則正しく並んだ配列の中に、脂肪酸部位が折れ曲がった構造を持つショ糖不飽和脂肪酸エステルが上記割合で入り込むことで、親水基−疎水基(脂肪酸部位)が構造的により良いバランスで液晶が形成されることが考えられる。
【0022】
本発明に係る増粘ゲル化剤は、ショ糖脂肪酸エステルのみで構成してもよく、また、該ショ糖脂肪酸エステルとともに、イオン性界面活性剤や、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシドなどに代表される非イオン界面活性剤などの他の界面活性剤を併用してもよい。前記イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アシルグルタミン酸塩やステアロイル乳酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルカルボン酸塩などのアニオン活性剤や、アルキルアンモニウム塩、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルの有機酸塩などのカチオン活性剤、アルキル(アミド)ベタインやアルキルジメチルアミンオキシドなどの両性活性剤が挙げられ、炭素数12〜22の脂肪酸石鹸を用いることが好ましい。
【0023】
また、該増粘ゲル化剤には、ステアリルアルコールやセチルアルコールなどの高級アルコール、ステアリン酸やオレイン酸などの高級脂肪酸、フィトステロールなどのステロール誘導体、キサンタンガムやカルボマーなどに挙げられるような天然系多糖類・合成系の増粘剤・水溶性高分子、粘土鉱物や無水ケイ酸などの無機増粘剤、タルク・カオリン・雲母などの無機粉末、ポリアミド樹脂粉末・ポリスチレン粉末などの有機粉末・有機顔料・色素などの粉末、その他、保湿剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、アミノ酸類、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、香料などの食品、化粧品、医薬分野等において一般的に使用される素材を適宜添加することができる。
【0024】
本発明に係る増粘ゲル化剤は、医薬品、化粧品、食品分野等における水中油型(O/W)乳化組成物(以下、単に「乳化液」ということがある。)を調製する際に好適に用いられる。水中油型乳化組成物は、水相中に油相を分散させた形態を有し、分散媒が水性であるため、ベタツキが少なく使用性に優れるという利点がある。かかる乳化組成物の乳化剤として上記増粘ゲル化剤を用いることで、粘度の高い、安定したゲル状の水中油型乳化組成物を調製することができる。また、該増粘ゲル化剤は、医薬品、化粧品、食品分野等で使用される有効成分のマイクロカプセルとしてのベシクル形成剤としても用いることができる。具体的な用途としては、例えば、ローション、保湿クリーム、表皮からの水分蒸発を抑制できる水分閉塞性クリームなどの各種の皮膚外用剤への利用が挙げられる。
【0025】
該水中油型乳化組成物の製造方法については特に限定されないが、次の工程1及び2を経て調製することが、粘度が高く、安定なものを得る上で好ましい。
【0026】
・工程1:20重量%以上の増粘ゲル化剤水溶液を水和固体−液晶相転移温度以上で調製した後、水和固体−液晶相転移温度よりも低温まで冷却してゲル化させる工程、
・工程2:工程1で得られたゲル、油分および水を、水和固体−液晶相転移温度よりも低温で混合し乳化する工程。
【0027】
上記工程1において、増粘ゲル化剤、詳細にはショ糖脂肪酸エステルの含有量を20重量%以上とすることにより、構造的な水和ゲル(液晶ゲル)が効果的に形成すると考えられる。乳化剤の含有量の上限は特に限定するものではないが、70重量%以下であることが好ましく、より好ましくは60重量%以下である。
【0028】
また、増粘ゲル化剤水溶液の調製に際しては、増粘ゲル化剤に水を加え、水和固体−液晶相転移温度以上に加熱し攪拌する。水和固体−液晶相転移温度以上に加熱することにより、増粘ゲル化剤を水中に溶解し液晶を形成させることができる。加熱温度は、水和固体−液晶相転移温度よりも高く、好ましくは水和固体−液晶相転移温度に対して10〜20℃高い温度とすることである。
【0029】
ここで、水和固体−液晶相転移温度とは、乳化剤(界面活性剤)と水を含む混合物が、ゲル化した水和固体と呼ばれる状態(水和ゲル、液晶ゲルとも称される)から液状の液晶と呼ばれる状態に相転移する温度のことである。この現象は、界面活性剤のアルキル鎖部分は温度が低いと結晶化しているが、ある温度以上では結晶状態が緩慢になり、同一分子内にある親水部のために構造的に秩序を保った配列をしているものの、アルキル鎖部分が比較的自由度のある状態(あたかも液状)となるため、液晶と呼ばれる状態になることによるものである。ショ糖脂肪酸エステルの場合、その乳化液はラメラ液晶構造を形成しており、ある温度を境に急激に粘度が変化することから、この粘度が急激に変化する温度が、水和固体−液晶相転移温度に相当する。
【0030】
水和固体−液晶相転移温度の測定は、乳化液を用いて、DSC(示差走査熱量測定)により行われ、次の条件でエネルギーの出入りを測定し、昇温工程で吸熱を開始した点が水和固体−液晶相転移温度である。なお、本発明者が下記実施例の各乳化液をサンプルとして測定したところによれば、降温工程で昇温工程と同程度の発熱が見られたことから、水和固体−液晶相転移が、ある温度(即ち、水和固体−液晶相転移温度)で可逆的に起こっていることが確認された。
[DSC]METTER TOLEDO製「DSC821E」(密封アルミパン使用)、
[温度履歴]昇温工程:20℃−80℃(10℃/分)、
降温工程:80℃−20℃(10℃/分)。
【0031】
上記のように水和固体−液晶相転移温度以上で攪拌溶解させた後、増粘ゲル化剤水溶液を水和固体−液晶相転移温度未満に冷却する。これにより、増粘ゲル化剤水溶液がゲル状の水和固体となる。この冷却温度は、水和固体−液晶相転移温度よりも低ければ特に限定されないが、好ましくは水和固体−液晶相転移温度よりも5〜10℃低い温度とすることである。
【0032】
なお、乳化液の水和固体−液晶相転移温度は、増粘ゲル化剤水溶液の水和固体−液晶相転移温度とは必ずしも完全に一致するものではないが、両者は略同一視できるものと考えられるので、上記のように乳化液の水和固体−液晶相転移温度を基準としている。但し、第1の工程において、増粘ゲル化剤水溶液をゲル化させるためには、厳密には、増粘ゲル化剤水溶液の水和固体−液晶相転移温度よりも低温まで冷却することが好ましい。
【0033】
上記工程2において、工程1で得られたゲル状の増粘ゲル化剤水溶液、即ち水和固体を用い、これを水和固体−液晶相転移温度よりも低温で油分および水と混合して乳化させることにより(コールドエマルシフィケーション)、高粘度の水中油型乳化組成物(乳化液)を調製することができる。すなわち、従来の通常の方法に従い、水和固体−液晶相転移温度以上に加熱して乳化させると、安定性はまずまずの結果が得られるものの、粘度が低くなってしまう。これに対し、このように低温で乳化させることにより、粘度が高く、高粘度液状又はペースト状にすることができ、安定な乳化液が得られる。これは、水和固体−液晶相転移温度以上では液晶状態にあるため、比較的僅かなエネルギーで分子が容易に水相や油相あるいは水−油界面に移動し、構造が容易に変化し得るが、水和固体−液晶相転移温度より低い温度ではショ糖脂肪酸エステルがより硬い構造の水和ゲルとして存在し、その結果、増粘効果を発揮すると考えられる。かかる乳化温度は、水和固体−液晶相転移温度よりも低温であれば、特に限定されないが、好ましくは水和固体−液晶相転移温度よりも5〜10℃低い温度とすることである。
【0034】
混合・乳化方法自体は特に限定されないが、例えば、上記ゲル状の増粘ゲル化剤水溶液に油分を添加し、攪拌した後、これを水中に添加し、ホモミキサーなどを用いて乳化することが好適である。
【0035】
増粘ゲル化剤水溶液と油分と水の各配合比率は、特に限定されないが、増粘ゲル化剤水溶液は、水中油型乳化組成物中におけるショ糖脂肪酸エステル濃度が0.5〜30重量%となるように配合されることが好ましく、より好ましくは1〜10重量%である。また、油分は、水中油型乳化組成物中における濃度で3〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%である。
【0036】
水中油型乳化組成物において分散相である油相を構成する上記油分としては、特に限定されず、例えば、メチルシリコーンやジメチルシリコーンなどのシリコン油に代表される合成系油剤、ステアリン酸やイソステアリン酸などの高級脂肪酸、パラフィンやミネラル油などの鉱物油や炭化水素、パルミチン酸イソプロピルやミリスチン酸イソプロピルなどのエステル油、動植物油などの油脂、ミツロウ・カルナバワックスなどのワックス類が挙げられる。
【0037】
また、連続相である水相を構成する水には、各種水溶性物質を溶解させることができ、すなわち、水だけでなく水溶液も用いられる。例えば、化粧品、医薬品等の各種皮膚外用剤に配合される水溶性成分としてのエタノールや、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコール、単糖やオリゴ糖などの糖類を水に配合してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0039】
(ショ糖飽和脂肪酸エステルの調製)
下記表1に示すエステル組成を持つショ糖飽和脂肪酸エステル(ステアリン酸/パルミチン酸=75/25(重量比))を調製した。調製は、「Determination of Sucrose Fatty Acid Esters by High-performance Liquid Chromatography」(J. Oleo Sci., Vol. 50, No. 4, 2001, p249-254)に記載の方法に従って、各エステル成分の純物質をHPLCにより分取し、必要に応じて各エステル成分を混合することにより行った。
【0040】
エステル組成の分析は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)による。具体的には、条件を、カラム:Megapak GEL 201(日本分光株式会社製)、20mmφ×500mm×2本、溶離液:テトラヒドロフラン、流速:3ml/分、検出器:RI、カラム温度:常温とし、試料500mg及びラウリン酸(内部標準物質)200mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、この溶液60μlを注入し分析した。そして、得られたクロマトグラムにおける各々のエステル部のピーク面積と内部標準物質との面積比を相対感度で補正することにより、各エステル成分の含有量を算出した。
【表1】

【0041】
(水中油型乳化組成物の調製)
工程1:下記表2に示すショ糖飽和脂肪酸エステルとショ糖不飽和脂肪酸エステルを増粘ゲル化剤として用いて、該増粘ゲル化剤に水を加え、水和固体−液晶相転移温度よりも高い80℃に加熱して、攪拌して増粘ゲル化剤を溶解させ、その後、水和固体−液晶相転移温度よりも低い40℃まで冷却して、ゲル状の増粘ゲル化剤水溶液を調製した(各増粘ゲル剤水溶液の濃度は表1に記載の通り)。
【0042】
工程2:水和固体−液晶相転移温度よりも低い40℃にて、上記で得られたゲル状の増粘ゲル化剤水溶液に、油脂として市販の大豆白絞油を加え、攪拌した(T.K.ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)/ディスパー翼/1500rpm/5分)。水相となる水を攪拌しながら、この水に、上記の大豆白絞油を混合した増粘ゲル化剤水溶液を添加し攪拌した(T.K.ホモミキサー/ディスパー翼/1500rpm/5分)。その後、水和固体−液晶相転移温度よりも低い40℃のままで、乳化処理(T.K.ホモミキサー/ホモミキサー翼/8000rpm/5分)を行い、水中油型乳化組成物を調製した。
【0043】
各乳化組成物中におけるショ糖脂肪酸エステル、大豆白絞油および水の含有率は表1に示す通りとした(水は工程1と工程2で分けて記載しており、その合計量が乳化組成物中での含有率である)。なお、各乳化組成物の水和固体−液晶相転移温度については、いずれも45±3℃の範囲内であった。
【0044】
表2中のショ糖不飽和脂肪酸エステルとしては、モノエステル成分の含有量=70重量%であるショ糖オレイン酸モノエステル(第一工業製薬株式会社製「コスメライクO−150」)を用いた。
【0045】
(水中油型乳化組成物の評価)
上記で得られた各乳化組成物について、粘度を測定するとともに、保存安定性試験を実施した。各測定方法は以下の通りである。
【0046】
・粘度:B型粘度計(60rpm、ローターNo.1〜4)を用いて常温(23℃)にて測定した。
【0047】
・保存安定性:各乳化組成物を100ml入りの瓶に入れて蓋をし、これを室温にて7日間静置して、その後、目視にて保存安定性を評価した。また、水相の分離を乳化液全体に対する百分率で表した。表2中、「クリーミング」とは、乳化層が層状になっており、分離を兆候を表した保存安定性に劣る状態を意味する。
【0048】
結果は、表2に示す通りであり、ショ糖飽和脂肪酸エステルに所定量のショ糖不飽和脂肪酸エステルを組み合わせた実施例であると、ショ糖飽和脂肪酸エステル中のモノエステル成分の含有率が低い実施例7だけでなく、該モノエステル成分の含有量が高い実施例1〜6でも、粘度の高い安定な乳化液を調製することができた。
【0049】
これに対し、ショ糖不飽和脂肪酸エステルを配合しなかったり、配合しても本発明所定の範囲から外れる比較例1〜5では、十分なゲル化効果が得られず、保存安定性に劣っていた。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る増粘ゲル化剤は、医薬品、化粧品、食品分野等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数14〜20の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖飽和脂肪酸エステル100重量部に対し、炭素数14〜20の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするショ糖不飽和脂肪酸エステルを2〜10重量部加えてなるショ糖脂肪酸エステルを含有する増粘ゲル化剤。
【請求項2】
前記ショ糖不飽和脂肪酸エステルがショ糖オレイン酸エステルである請求項1記載の増粘ゲル化剤。
【請求項3】
前記ショ糖飽和脂肪酸エステルは、エステル化度が2のジエステル成分を50重量%以上含有するものである、請求項1又は2記載の増粘ゲル化剤。

【公開番号】特開2010−70595(P2010−70595A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236772(P2008−236772)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】