説明

壁体

【課題】壁高が徐々に変化する部分を有することにより、場所によって必要とされる剛性が異なる場合に、鋼矢板壁に鋼管を組み合わせ、場所によって鋼矢板の剛性や鋼管のピッチなどを変更することにより、それぞれの場所で必要な剛性に見合った合理的な壁体を、施工効率を悪化させずに提供する。
【解決手段】壁体11は、擁壁や土留め壁あるいは止水壁として用いられ、かつ、場所によって高さが異なるものになっている。この壁体11は、ハット形鋼矢板12からなる鋼矢板壁13と、この鋼矢板壁13に沿って並べて設けられる鋼管14とを備える。鋼矢板の型式や鋼管14どうしの間隔が、高さによって変化する必要な剛性に基づいて設定されている。これにより、壁体11は高さによって剛性を変化させ、壁体剛性や地中部への根入れ長の合理化、材料コストの低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁や土留め壁あるいは止水壁として用いられ、鋼矢板および鋼管を用い、壁高が徐々に変化する壁体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路擁壁や半地下道路擁壁および河川護岸に鋼矢板や鋼管矢板を連続して打ち込み土留め壁や止水壁を構築する場合がある。
例えば、図2に示すように地山ラインMに沿って徐々に壁高Kが変化する場合、基本的には、壁高Kが最も高い箇所を基準として部材寸法(鋼矢板や鋼管矢板の種類と型式)を決定することが多い。すなわち、壁高Kに関わらず、同じ種類でかつ同じ型式の鋼矢板または同じ径で同じ板厚の鋼管矢板が壁体1全体で用いられる。その場合、壁体1の壁高Kが低い部分では、例えば土圧が低くなるのに壁高Kが高い部分と同じ剛性の鋼矢板または鋼管矢板が用いられることになり、壁体1の土留め壁としての剛性が過大になる。また、通常、鋼矢板または鋼管矢板の根入れ長は剛性に応じて設定されるのが一般的であるため、壁高Kが低くても根入れ長を同じにすると、根入れ長も大きくなることになり、無駄な材料費を支出することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−235671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
壁高Kが変化する場合に、壁高Kに応じて必要な剛性の鋼矢板を適用して、壁体を構成する材料費の合理化を図る考え方もある。すなわち、壁高Kに応じて用いる鋼矢板や鋼管矢板の形状や型式・サイズを順次変更していく方法が考えられる。
例えば、図3に示すように、まず壁高の低い区間についてはハット形鋼矢板2を用いる。同一方向に打設して嵌合する左右非対称の継手を有するハット形鋼矢板2は施工性や鋼材重量当たりの断面性能に優れ経済的である。しかし,現状では10Hと25Hの2つの型式しか製造されていないため、壁高が大きくなって剛性や耐力が不足する条件になると、より剛性の高いU形鋼矢板3のIVw型、VL型、VIL型に材料を変更する。さらに壁高が大きくなると鋼矢板から鋼管矢板4へと材料を変更する。
【0005】
このような構造では、ハット形鋼矢板2とU形鋼矢板3を,さらにはU形鋼矢板3と鋼管矢板4とを嵌合させて連続な壁体を構成する必要があるが、基本的にハット形鋼矢板2の継手とU形鋼矢板3の継手とは継手の形状が異なるため直接嵌合出来ない。また、鋼管矢板4と鋼矢板3の継手部の嵌合にも課題が生じる。
そこで、ハット形鋼矢板2のフランジに他の種類の鋼矢板の継手を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハット形鋼矢板2を用いれば、ハット形鋼矢板2とU形鋼矢板3とを嵌合して連続の壁体1を構築することが可能になるが、事前にハット形鋼矢板2に他の種類の鋼矢板の継手部を溶接などで取り付けておくことが必要で製作・加工の手間がかかる。また、ハット形鋼矢板2が特殊形状を有することで杭を打設する装置に、特殊形状のハット型鋼矢板2を把持可能な新たな把持装置が必要になるなど施工面でも課題が生じる可能性がある。
【0006】
さらに、鋼管矢板4や鋼矢板2,3を地盤に連続して打ち込んで鋼管矢板壁や鋼矢板壁を構築する場合に、先に圧入した鋼矢板2,3や鋼管矢板4から反力をとって、次の鋼矢板2,3や鋼管矢板4を圧入する杭圧入装置(パイラー)を用いた油圧圧入方法が知られているが、鋼管矢板と鋼矢板では別の杭圧入装置を用いる必要があり、鋼矢板の種類や鋼管矢板の径によっても杭圧入装置が異なる場合がある。また、例えば、図3に示す壁体1の場合には、壁高の低い方からハット形鋼矢板用の杭圧入装置(ハットパイラー)を用い、次いで、U形鋼矢板用の杭圧入装置(Uパイラー)を用い、最後に鋼管矢板用の杭圧入装置(鋼管パイラー)を用いることになり、施工の効率が著しく悪化し、結果的に工期がかかる上にコスト高になる。
【0007】
これらのことから杭圧入装置の切替による施工コストや施工期間の増加を考えると、同じ壁体1では壁高が異なっていても、同一幅の鋼矢板2,3または同一径の鋼管矢板4を用いるのが一般的であった。しかし、壁高が低い区間では過剰な剛性となり、それにより根入れ長も大きくなり、合理的な構造ではなくなることが課題であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、壁高が徐々に変化することにより、場所によって必要とされる剛性が異なる場合に、鋼矢板壁に鋼管を組み合わせ、鋼矢板の剛性や鋼管のピッチなどを変更することにより、それぞれの場所で必要な剛性に見合った合理的な壁体を、施工効率を悪化させずに、かつ安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の壁体は、複数の鋼矢板が継手により連結され、施工延長上で壁高が変化する壁体であって、壁体の少なくとも一部の区間が鋼矢板に沿って鋼管を並設した組合せ壁から構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明においては、例えば、1つの連続する壁体において、壁高が低い区間では鋼矢板壁だけ設け、それよりも壁高が高く鋼矢板壁だけでは剛性が不足する区間を、鋼矢板の長手方向に沿って鋼管を並設施工した組合せ壁とする。
【0011】
この構造においては、鋼管との組合せにより当該区間の剛性が変化するので、同じ鋼矢板または継手どうしが互換性のある鋼矢板のみで鋼矢板壁を構築することができる。それにより、継手嵌合用の加工を行う必要がなくなるとともに、施工延長上での施工機械の変更による施工コストや施工期間の増加を防止することができる。つまり、鋼矢板と鋼管で施工機械(圧入機)の変更が必要な場合であっても、施工機械の変更は1回で済む。また、鋼管は鋼矢板と同じ施工機械で施工してもよいし、バイブロハンマで別に施工してもよい。
また、同じ型式の鋼矢板を使用すれば鋼矢板壁の壁厚を同じにできる。これにより、鋼管と組み合わせた時の壁厚を一定に保つなどの効果がある。壁厚を一定に保てれば、壁体前面の段差がなくなり、美観を損ねない上、コンクリートなどで化粧し易くするなどの効果がある。
【0012】
請求項2に記載の壁体は、請求項1に記載の発明において、鋼矢板の型式、鋼管の外径、鋼管板厚および鋼管間隔の少なくとも一つを壁体の所定の区間ごとに変化させたことを特徴とする
【0013】
鋼矢板の型式、前記鋼管の外径、鋼管板厚および鋼管間隔の少なくとも一つを壁体の所定の区間ごとに変化させることによって、組合せ壁の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合に壁高が低い部分で過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることができる。
鋼管間隔を変化させる場合、1つの鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置した組合せ壁とするだけでなく、例えば、3つの連続する鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したり、2つの鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置して組合せ壁としての剛性を変化させたりすることもできる。
【0014】
請求項3に記載の壁体は、請求項1に記載の発明において、鋼管の外形を同一とし、鋼矢板の型式、鋼管板厚および鋼管間隔の少なくとも一つを壁体の所定の区間ごとに変化させたことを特徴とする。
【0015】
鋼管の外径を同一にすることにより、鋼矢板と鋼管を組合せた壁の厚さを一定に保つことができる。また、鋼管を打設する際の、施工機械の把持部分のサイズ変更が不要となり、施工がしやすくなる。
一方、鋼矢板の型式、鋼管板厚および鋼管間隔の少なくとも一つを変化させることで、組合せ壁の剛性を場所により任意に設定することができる。
【0016】
請求項4に記載の壁体は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、鋼矢板にはハット形鋼矢板を用いることを特徴とする。
【0017】
ハット形鋼矢板は、U形鋼矢板やZ形鋼矢板に比べて施工性に優れ、工費縮減、工期短縮を図ることができる。
また、鋼矢板と鋼管とを組み合わせることによって、ハット形鋼矢板単体では剛性が不足する場合であっても、鋼矢板壁部の材料として経済性に優れるハット形鋼矢板を適用することができる。
さらに、ハット形鋼矢板は継手部分で長手方向のズレが発生せず断面性能が効率的かつ明確で、鋼矢板で構築した壁体の凹凸数に対する継手の箇所数もU形鋼矢板やZ形鋼矢板などの各種鋼矢板の中で最小となるため、鋼管と鋼矢板を組み合せた壁体をより安定的な構造とし、施工の管理や精度の確保を容易にする効果が期待できる。
【0018】
請求項5に記載の壁体は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、組合せ壁における鋼矢板の根入れ長さと鋼管の根入れ長さが異なることを特徴とする。
【0019】
鋼矢板に沿って鋼管が並設する組合せ壁の鋼矢板の根入れ長は、壁体として鋼矢板のみを用いるときよりも小さく設定することができる。通常、鋼矢板や鋼管矢板では、壁に作用する土圧や水圧に対して水平方向の抵抗を確保するために、その剛性に応じた根入れ長が設定されるが、組合せ壁内では水平方向の抵抗を鋼管によって確保することが可能になるので、鋼矢板は止水や土留めのために必要最低限の長さに留めることも可能になる。その場合、鋼矢板は前面側と背面側に作用する土圧が釣り合う点から1〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多い。また、地下水の止水やボイリング防止のように、剛性は必要なく、壁体の前背面の縁切りための根入れ長が必要な場合には、逆に鋼管より鋼矢板の方を深くしてもよい。
【0020】
請求項6に記載の壁体は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、鋼矢板と鋼管が頭部で連結されていることを特徴とする。
【0021】
頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、土圧や水圧の作用する向きに関わらず、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となり、合理的でより安定的な壁体とすることができる。特に、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合でも、鋼管と鋼矢板の力の伝達を確保し、両者が別々に挙動することを防止して、安定的な壁体を構築することができる。
また、施工の制約や容易さの観点などから、鋼管と鋼矢板とをある程度の間隔をとって設置する方が望ましい場合でも、頭部を連結して両者の力の伝達を確保しておけば、両者が別々に挙動せず分担して土圧に抗する合理的な壁体とすることができる。なお、鋼管と鋼矢板の間に間隔を設ける場合、その間隔が100〜200mm程度であれば、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みがそれほど増加することもなく、鋼管と鋼矢板を組合せた壁体としての安定性を損なうこともない。
【0022】
請求項7に記載の壁体は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、既設の鋼矢板壁あるいは先行して打設した鋼矢板を把持し、これを反力として鋼管を所定の位置に油圧圧入または回転圧入することにより組合せ壁部を構築することを特徴とする。
【0023】
既に打設した鋼管から反力を得て次の鋼管を圧入する従来の方法とは異なり、鋼矢板壁から反力をとって鋼管を油圧圧入または回転圧入することで、鋼管の配置に関する自由度を大きく向上させることができる。すなわち、既に打設した鋼管から反力を得る場合、鋼管の設置ピッチを大きくしようとすると施工機械も大型化する必要があるが、連続の鋼矢板壁から反力を得て鋼管を圧入することで任意のピッチで鋼管を設置できるようになり、設置ピッチを大きくしたり、必要な壁体の剛性に応じて途中でピッチを変更したりすることが容易に行えるようになる。
【0024】
また、鋼矢板、鋼管の両者とも既存の鋼矢板壁を反力用把持装置で把持することによって反力を得ながら次の鋼矢板や鋼管を圧入するため、次に圧入する鋼矢板や鋼管を把持するための装置のみをとりかえることにより、1台の施工機械で鋼矢板と鋼管の両者を施工することができるようになり、施工コストや工期を大幅に低減可能になる。
【0025】
また、鋼管を回転圧入した場合には、施工時に必要な既存の鋼矢板壁からの反力を小さくすることができるため、比較的剛性の小さな鋼矢板壁からの反力ででも鋼管を容易に設置できるようになったり、所要の反力を得るために必要な鋼矢板の根入れ長を小さくしたりする効果が得られる。
【0026】
さらに、硬質地盤に鋼管を打設する場合、アースオーガー等の掘削装置やウォータージェットを併用しなくても、鋼管15を圧入可能になる。オーガ等の装置を併用すると、機械が大きくなり、それに伴いクレーン等も大きくなり建設コストが上がる。また、ウォータージェットを用いると、周辺地盤を緩めたりする可能性がある上に、泥水を一時的に貯留するためのスペースや循環使用するための装置などが必要になったり,最終的に処分したりすることが必要になり、コストアップにつながる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、壁高が変化する部分を有する擁壁や土留め壁あるいは止水壁として、鋼矢板からなる鋼矢板壁と鋼矢板の長手方向に沿って鋼管が設けられた組合せ壁とから構成された壁体を用い、さらにその組み合せる鋼矢板の型式、鋼管の板厚、径、鋼管どうしの間隔を調整することで、壁高に見合った剛性とすることができる。これにより、壁体の構築コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る壁体を示す図であって、(a)は側面図であり、(b)は平面図である。
【図2】壁高が最も高い区間において鋼矢板または鋼管矢板の断面が決定された壁体を示す側面図である。
【図3】壁高が異なる部分のある壁体で、複数の異なる鋼矢板および鋼管矢板を一列に施工して形成された壁体を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、この実施形態の擁壁や土留め壁あるいは止水壁としての壁体11は、例えば、ハット形鋼矢板12が複数連接された状態に地盤に圧入されている鋼矢板壁13と、鋼矢板壁13の鋼矢板12に略当接した状態に近接して圧入された複数の鋼管14とを備えている。また、複数の鋼管14は、例えば、一列に配置されて鋼管列15を形成している。なお、鋼矢板12と鋼管14は間隔をあけて設置させた上で、頭部で連結し互いに力を伝達する構造としても良い。その場合には、鋼矢板壁13に対して設置する鋼管14の向きはどちらでも良く、鋼矢板と鋼管との組合せ、景観への配慮などに応じて自由に選択することができる。
【0030】
壁体11は、壁高Kが例えば地山ラインMに沿って徐々に高くなる部分と、壁高Kが最も高くなった状態で壁高Kが一定になっている部分とを有する。壁高Kが一定になっている部分では、壁高Kが高いので、高い剛性が必要とされる。一方の壁高Kが徐々に高くなる部分の壁高Kが低い範囲では、例えば、土留め壁とした場合に、壁体11に作用する土圧が小さく、壁体11は、設計の観点からはそれほど高い剛性を必要としない。
【0031】
この例では、壁体11の壁高Kの低い部分から、剛性の低いハット形鋼矢板の10H(12a)が単独で用いられ、少し壁高Kが高くなった部分にハット形鋼矢板の25H(12a)が用いられている。
【0032】
さらに壁高Kが高くなった区間で、鋼矢板の10Hと、鋼管14を組み合わせた部分が形成されている。この部分では、型式が10Hの鋼矢板2つに対して1つの鋼管14の割合で鋼矢板壁13に沿って鋼管14が並設され、組合せ壁を構成している。すなわち、1つおきの鋼矢板に、鋼管14が近接して配置されている。
【0033】
最も壁高Kが高い部分には、型式が10Hの鋼矢板と、鋼管14とが組み合わせて配置されるとともに、1つの鋼矢板12に1つの鋼管の割合で鋼管14が並設され、組合せ壁を構成している。このように、鋼矢板壁13に対して鋼管14が無い部分、鋼管14のピッチが異なる部分を設けることで、壁体11の場所によって剛性が変化し、壁高に応じて必要な剛性や耐力を確保している。
【0034】
また、鋼矢板の型式は同一として、鋼管との組合せによってのみ剛性を変化させてもよい。その場合、鋼矢板壁部分の壁厚を一定にすることができ、鋼矢板と鋼管との離隔を一定に保つあるいは壁体の前面の段差をなくす等の効果がある。
なお、鋼管14については、径を変更すると、施工機械の把持装置のサイズを変更しないと、鋼管14が掴めなくなる可能性があり、径よりも鋼管ピッチまたは板厚を変更することが好ましい。
【0035】
また、壁体に作用する土圧及び水圧については、鋼矢板壁の区間は鋼矢板を、組合せ壁区間では鋼管を根入れすることにより水平方向の抵抗を確保しており、それぞれ剛性から求まる必要長を根入れしている。組合せ壁内では水平方向の抵抗を鋼管によって取っているので、鋼矢板の根入れ長は止水や土留めのために必要最低限の長さに留めることができる。その場合、鋼矢板は前面と背面に作用する土圧が釣り合う点から1m〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多いと考えられ、壁体として鋼矢板のみを用いる時よりも小さくなっている。
【0036】
一方、壁体の施工については、例えば、このような壁体11においては、まず、壁高の小さな区間において、ハット形鋼矢板12用の杭圧入機(ハットパイラー)により、型式が10Hの鋼矢板12aを連接した状態になるように1枚ずつ圧入する。壁高が大きくなり、必要となる剛性が上がったところで続けて25Hの鋼矢板12bを圧入し、その次に組合せ壁体部の鋼矢板として10Hの鋼矢板12aを圧入する。なお、10Hと25Hの継手部は互いに嵌合が可能で、かつ、基本的には同じ機械で施工できるため、そのまま続けて連続的に鋼矢板壁の施工が可能になる。
【0037】
その次に、打設済の鋼矢板壁13から反力を取って鋼管14を回転圧入する。その場合、反力を取るために鋼矢板を把持するには、鋼矢板圧入機の反力用把持装置を適用できるため、鋼管を圧入する部分の把持装置部分を取り換えれば、鋼矢板打設時に使用したものと同じ施工機械で鋼管も施工することが可能になる。すなわち、1台の施工機械で鋼矢板も鋼管も圧入することが可能になる。工期短縮等のために、鋼矢板と鋼管は別の施工機械で打設してもよい。例えば、鋼矢板または鋼管をバイブロハンマで打設してもよいし、別々の圧入機で施工してもよい。
【0038】
このように比較的自由に壁体11の剛性を場所によって変更可能なことから、壁体の一部、例えば壁高Kが低い部分において、過剰な剛性になるのを防止するとともに、剛性から求まる根入れ長も小さくでき、壁体の構築に使用する鋼材量を合理化することができる。また、事前に鋼材に継手の溶接などの加工を施す必要もなく材料費を削減することが可能になる。さらに、施工機械の入れ替えや,アースオーガーやウォータージェットの併用を回避することで施工コストと工期の抑制が可能になる。
【0039】
また、既設の鋼矢板壁13からなる擁壁や護岸に対して、鋼矢板12から反力を得て新たに鋼管14を圧入する事により、例えば、河積(川の横断面の水の占める面積、または、計画高水位以下の河川流水断面積)増大のための掘削時の補強や、耐震性向上のための補強を行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
11 壁体
12 鋼矢板
13 鋼矢板壁
14 鋼管
15 鋼管列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼矢板が継手により連結され、施工延長上で壁高が変化する壁体であって、
壁体の少なくとも一部の区間が鋼矢板に沿って鋼管を並設した組合せ壁から構成されていることを特徴とする壁体。
【請求項2】
前記鋼矢板の型式、前記鋼管の外径、鋼管板厚および鋼管間隔の少なくとも一つを壁体の所定の区間ごとに変化させたことを特徴とする請求項1に記載の壁体。
【請求項3】
前記鋼管の外形を同一とし、前記鋼矢板の型式、鋼管板厚および鋼管間隔の少なくとも一つを壁体の所定の区間ごとに変化させたことを特徴とする請求項1に記載の壁体。
【請求項4】
前記鋼矢板にハット形鋼矢板を用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の壁体。
【請求項5】
前記組合せ壁における鋼矢板の根入れ長さと鋼管の根入れ長さが異なることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の壁体。
【請求項6】
前記組合せ壁における鋼矢板と鋼管が頭部で連結されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の壁体。
【請求項7】
既設の鋼矢板壁あるいは先行して打設した鋼矢板を把持し、これを反力として鋼管を所定の位置に油圧圧入または回転圧入することにより組合せ壁部を構築することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の壁体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113074(P2013−113074A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263330(P2011−263330)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000141521)株式会社技研製作所 (83)
【Fターム(参考)】