説明

壁面緑化工法

【課題】 枠材やパネル材等を必要とせず、施工が容易であると共に、コストを低減することができ、さらに、曲面状や自由形状の壁面に対しても容易に施工することが可能な壁面緑化工法を提供する。
【解決手段】 緑化の対象となる壁体80の外表面(壁面)に、固定部材(アンカー40、ナット41、フラットバー20、ボルト30、ナット31等)を介して保水性緑化マット10を取り付け、保水性緑化マット10に植物体90を導入し、保水性緑化マット10の上部の適宜位置から、保水性緑化マット10内に水分を補給する。保水性緑化マット10は、可撓性を有する線材により保水部材を固定した自立性を有する板状の部材からなる。植物体90の導入は、播種、種子シートの貼り付け、貼着性を有する種子配合物の塗布、植物体90又はその一部の植え付けの少なくとも一方法により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面緑化工法に関するものであり、例えば、既存または新設された壁面に植物を植え付けることにより、ヒートアイランド現象を抑制したり、景観を向上させたりする際に利用可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存または新設された壁面に植物を植え付ける壁面緑化に関する技術が種々開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、法面を緑化する技術も種々開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、壁面緑化パネルを用いて、ビルの壁面等を緑化する技術である。この壁面緑化パネルは、矩形枠体の表面の収納凹部に植生パッドが収納されており、植生パッドの表面を覆うネットが枠体に取り付けられている。また、枠体の上下部には収納凹部に連通した灌水用通水口が設けられており、枠体の裏面には定着アンカーが突設されている。
【0004】
具体的には、壁面緑化パネルの枠体を上下左右に繋ぎ合わせて、外枠となる壁型枠を組み立てると共に、壁型枠内にコンクリートを打ち込む。そして、コンクリートが硬化した後に、枠体の収納凹部に植生パッドを収納して、植生パッドの表面を覆うネットを枠体に取り付けて使用するようになっている。
【0005】
また、特許文献2に記載された技術は、法面を保護するコンクリート擁壁の斜面に剣山を縦横に並べて設置する。剣山は、プラスチック製で矩形枠状のベースプレートを備えており、このベースプレートの四隅には突起部が形成されている。そして、コンクリート用接着剤により、ベースプレートをコンクリート擁壁に固定した後、繊維が絡みあって形成されたマットを突起部に取り付け固定する。さらに、吹付装置を用いて、ピートモス、バーク、炭粉、土壌及び芝の種子が適当な割合で混合された客土を吹き付けることによりコンクリート擁壁の斜面を緑化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−193741号公報
【特許文献2】特開2004−194608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1に記載された技術のように、枠材やパネル材に植生基盤と苗を導入する壁面緑化方法では、育苗に手間がかかると共に、枠材、パネル材、導入する植物に対するコストが増大するという問題があった。また、壁面緑化には大がかりな工事が必要であり、この点においても手間とコストがかかるという問題があった。
【0008】
また、上述した特許文献2に記載された技術のように、擁壁面や客土に対して、種子やコケ等を吹き付ける壁面緑化方法では、対象となる壁面の傾斜勾配が大きいと、吹き付け材料が跳ね返ってしまい歩留まりが悪いという問題があった。
【0009】
さらに、従来の技術では、曲面状や自由形状となった壁面を緑化する場合に、枠材やパネル材と植生基盤材を加工するための手間がかかると共に、コストが増大するという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、枠材やパネル材等を必要とせず、施工が容易であると共に、コストを低減することができ、さらに、曲面状や自由形状の壁面に対しても容易に施工することが可能な壁面緑化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の壁面緑化工法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の壁面緑化工法は、緑化の対象となる壁面に、固定部材を介して保水性緑化マットを取り付け、保水性緑化マットに植物体を導入し、保水性緑化マットの上部の適宜位置から、当該保水性緑化マット内に水分を補給する工法である。
【0012】
本発明の壁面緑化工法に用いる保水性緑化マットは、可撓性を有する線材により保水部材を固定した自立性を有する板状の部材からなり、植物体の導入は、播種、種子シートの貼り付け、貼着性を有する種子配合物の塗布、植物体又はその一部の植え付けの少なくとも一方法により行うことを特徴とするものである。
【0013】
また、上述した壁面緑化工法において、保水性緑化マットの表層部に対して、縞状又は格子状の切れ込みを入れることにより、保水性緑化マットを撓ませて、曲面状又は自由形状の壁面に取り付けることが可能である。
【0014】
また、上述した壁面緑化工法において、壁面の適宜箇所にアンカーを固定し、当該アンカーにフラットバーを取り付け、当該フラットバーの外面側に保水性緑化マットを臨ませ、ボルト及びナットを用いて、フラットバーに保水性緑化マットを固定することにより、壁面に保水性緑化マットを取り付けることが可能である。
【0015】
また、上述した壁面緑化工法において、保水性緑化マット内への水分補給は、保水性緑化マット内の水分測定を行い、水分測定値が所定値以下となった場合に給水を行う自動給水装置を用いることが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の壁面緑化工法によれば、枠材やパネル材を用いることなく、緑化の対象となる壁面に、固定部材を介して保水性緑化マットを取り付け、保水性緑化マットに植物体を導入する。この壁面緑化工法に用いる保水性緑化マットは、可撓性を有する線材により保水部材を固定した自立性を有する板状の部材であるため、壁面への取り付けが容易であり、短期間に施工することができ、さらにコストを低減することができる。
【0017】
また、本発明の壁面緑化工法では、保水性緑化マットの表層部に、縞状又は格子状の切れ込みを入れるだけで、保水性緑化マットを撓ませることができ、曲面状又は自由形状の壁面に容易に適用することができる。
【0018】
また、本発明の壁面緑化工法では、壁面にフラットバーを取り付け、フラットバーに保水性緑化マットをボルト止めすることにより、施工対象となる壁面に対して、容易かつ低コストで保水性緑化マットを取り付けることができる。
【0019】
また、本発明の壁面緑化工法では、自動給水装置を用いて保水性緑化マットに給水を行って植物を育成するので、植物が枯れたり、生育が遅れたりすることがなく、容易かつ的確に植物の育成管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る壁面緑化工法の施工例を示す模式図。
【図2】保水性緑化マットの取り付け状態を示す正面模式図(a)及び断面模式図(b)。
【図3】保水性緑化マットの配置例を示す模式図。
【図4】保水性緑化マットの構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る壁面緑化工法の実施形態を説明する。図1〜4は、本発明の実施形態に係る壁面緑化工法を説明するための図面であり、図1は壁面緑化工法の施工例を示す模式図、図2は保水性緑化マットの取り付け状態を示す模式図、図3は保水性緑化マットの配置例を示す模式図、図4は保水性緑化マットの構造を示す模式図である。
【0022】
<壁面緑化工法の概要>
本発明の実施形態に係る壁面緑化工法は、図1に示すように、緑化の対象となる壁体80の外表面(壁面)に、固定部材を介して保水性緑化マット10を取り付け、保水性緑化マット10に植物体90(図2参照)を導入し、保水性緑化マット10の上部の適宜位置から、当該保水性緑化マット10内に水分を補給する工法である。緑化の対象となる壁面は、例えば、既存のビル壁面であってもよいし、所望の場所に新たに設置したパネルやフェンス等であってもよい。
【0023】
<保水性緑化マット>
本実施形態で使用する保水性緑化マット10は、例えば、特開2008−291202号公報に記載されたものを使用することができる。この保水性緑化マット10は、枠体やパネル材を用いることなく自立する自立型のマットであり、固定部材として、フラットバー20と、ボルト30及びナット31を用いて、施工対象となる壁面に取り付けることができる。
【0024】
すなわち、保水性緑化マット10は、図4に示すように、可撓性を有する線材11により形成した骨格内に保水部材12が固定されている。具体的には、ポリプロピレン製の線材11を3次元の網目構造として骨格を形成し、この線材11からなる骨格内に、給水と乾燥とを繰り返すことが可能な吸水性ポリマ(保水部材12)を内包させている。なお、吸水性ポリマ(保水部材12)はロックウールの表面に付着されており、これにより、線材11により形成される骨格内から吸水性ポリマ(保水部材12)が脱落するのを防止している。
【0025】
<壁面への保水性緑化マットの取り付け>
施工対象となる壁体80の外表面に、保水性緑化マット10を取り付けるには、図2に示すように、施工対象となる壁体80の外表面の適宜箇所にアンカー40を固定し、当該アンカー40にフラットバー20を取り付け、当該フラットバー20の外面側に保水性緑化マット10をボルト30及びナット31を用いて取り付ける。
【0026】
すなわち、施工対象となる壁面が既存のビル壁面等である場合には、例えば、ビル壁面にアンカー40を固定し、このアンカー40の先端部にメスネジ部を形成する。そして、フラットバー20に設けた孔にアンカー40の先端部を挿通して、メスネジ部にナット41を取り付けることにより、壁面にフラットバー20を固定することができる。
【0027】
また、施工対象となる壁面がパネルやフェンス等の板状部材である場合には、ボルト及びナットによりアンカー40を構成してもよい。すなわち、板状部材の所定箇所にドリル等を用いて穿孔を行い、板状部材に設けた孔とフラットバー20のボルト挿通孔(図示せず)とに一連にボルトを挿通し、ボルトの先端にナットを取り付けることにより、壁面にフラットバー20を固定することができる。
【0028】
フラットバー20は、細長い板状の部材で、適宜箇所にボルト挿通孔(図示せず)が設けられている。そして、フラットバー20の外面側に保水性緑化マット10を位置させ、フラットバー20のボルト挿通孔にボルト30を挿通すると共に、保水性緑化マット10にボルトを貫通させ、保水性緑化マット10の外面側に固定板50を位置させる。固定板50にはボルト挿通孔(図示せず)が設けられており、ボルト30の先端部を固定板50のボルト挿通孔に挿通して、ボルト30の先端にナット31を取り付けることにより、フラットバー20の外面側に保水性緑化マット10を固定することができる。
【0029】
なお、保水性緑化マット10の内面側(フラットバー20側)には、保水性を保つための養生シート60を取り付けることが好ましい。
【0030】
<保水性緑化マットの配置>
保水性緑化マット10は、例えば、300mm×600mm×30mm程度の大きさを有しており、図3に示すように、フラットバー20と、ボルト30及びナット31を用いて、保水性緑化マット10を縦横に複数配置することにより、所望の面積を有する緑化面を形成することができる。
【0031】
また、保水性緑化マット10の表層部に対して、縞状又は格子状の切れ込みを入れることにより、保水性緑化マット10を撓ませて、曲面または自由形状の壁面に取り付けることができる。これにより、平らな壁面だけではなく、曲面状や自由形状の壁面に対しても、容易に壁面緑化を行うことができるため、緑化対象の多様化を図ることができる。
【0032】
<植物体の導入>
保水性緑化マット10に植物体90を導入する方法は、播種、種子シートの貼り付け、貼着性を有する種子配合物の塗布、植物体90又はその一部の植え付け等、どのような方法であってもよい。また、これらの方法のうちの一方法を用いてもよいし、複数の方法を組み合わせて用いることにより、保水性緑化マット10に植物体90を導入してもよい。
【0033】
保水性緑化マット10の表面に種を播く方法では、壁面に対して保水性緑化マット10を固定する前に播種を行ってもよいし、壁面に対して保水性緑化マット10を固定した後に播種を行ってもよい。
【0034】
保水性緑化マット10の表面に種を播く方法を採用した場合には、苗から導入する場合と比較して手間を省くことができると共に、コストを低減することができる。また、播種から発芽、植物の成長という、壁面緑化における植物の生育過程を楽しんだり、観察したりすることができる。さらに、導入する植物の多様性を図ることができる。
【0035】
また、保水性緑化マット10の表面に種子シートを貼り付ける方法は、特に、垂直な壁面に対して有効であり、種子のこぼれ落ちを防止することができる。なお、種子シートは、市販されている一般的なものを使用することができる。
【0036】
また、保水性緑化マット10の表面に貼着性を有する種子配合物を塗布する方法は、予め、養生材、糊材、肥料、種子及び水を配合した種子配合物を作成しておき、コテやハケを用いて、保水性緑化マット10の表面に種子配合物を塗布する。この方法も、特に、垂直な壁面に対して有効であり、種子のこぼれ落ちを防止することができる。なお、コテやハケを用いて種子配合物を塗布するのではなく、吹き付け装置を用いて、種子配合物を保水性緑化マット10の表面に吹き付けてもよい。この方法では、播種の手間を省くことができる。
【0037】
また、保水性緑化マット10の表面に植物体90又はその一部を植え付ける方法では、保水性緑化マット10の表面側に、生育した植物やコケを植え込んだり、葉柄のような植物体90の一部を植え込んだりする。この方法によれば、既に生育している植物を導入するので、いち早く壁面緑化を行うことができる。さらに、導入する植物の多様性を図ることができる。
【0038】
<自動給水装置>
本実施形態の壁面緑化工法では、自動給水装置70を用いて、保水性緑化マット10内に水分補給を行っている。すなわち、図1に示すように、保水性緑化マット10の上部の適宜位置において、保水性緑化マット10の側面内部に水分センサ71を埋設すると共に、保水性緑化マット10の上部に沿って、複数の灌水口(図示せず)を有する灌水チューブ72を配設する。また、灌水チューブ72に自動給水装置70を接続すると共に、水分センサ71のケーブル73を自動給水装置70に接続する。さらに、自動給水装置70には、水道74から水を供給する。
【0039】
そして、水分センサ71により、保水性緑化マット10内の水分測定を行い、水分測定値が所定値以下となった場合に、自動給水装置70を用いて給水を行う。このように、保水性緑化マット10の水分量に応じて、自動給水装置70により給水を行うことにより、必要最低限の灌水を行うことができると共に、排水量を低減することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 保水性緑化マット
11 線材
12 保水部材
20 フラットバー
30 ボルト
31 ナット
40 アンカー
41 ナット
50 固定板
60 養生シート
70 自動給水装置
71 水分センサ
72 灌水チューブ
73 ケーブル
74 水道
80 壁体
90 植物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑化の対象となる壁面に、固定部材を介して保水性緑化マットを取り付け、前記保水性緑化マットに植物体を導入し、前記保水性緑化マットの上部の適宜位置から、当該保水性緑化マット内に水分を補給する壁面緑化工法において、
前記保水性緑化マットは、可撓性を有する線材により保水部材を固定した自立性を有する板状の部材からなり、
前記植物体の導入は、播種、種子シートの貼り付け、貼着性を有する種子配合物の塗布、植物体又はその一部の植え付けの少なくとも一方法により行うことを特徴とする壁面緑化工法。
【請求項2】
前記保水性緑化マットの表層部に対して、縞状又は格子状の切れ込みを入れることにより、前記保水性緑化マットを撓ませて、曲面状又は自由形状の壁面に取り付けることを特徴とする請求項1に記載の壁面緑化工法。
【請求項3】
前記保水性緑化マットを前記壁面に取り付けるには、前記壁面の適宜箇所にアンカーを固定し、当該アンカーにフラットバーを取り付け、当該フラットバーの外面側に前記保水性緑化マットを臨ませ、ボルト及びナットを用いて、前記フラットバーに前記保水性緑化マットを固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の壁面緑化工法。
【請求項4】
前記保水性緑化マット内への水分補給は、前記保水性緑化マット内の水分測定を行い、水分測定値が所定値以下となった場合に給水を行う自動給水装置を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の壁面緑化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51903(P2013−51903A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191248(P2011−191248)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】