説明

変性ポリオルガノシロキサンおよびその製造方法

【課題】ポリマーの物性を損なうことなく、耐候性、表面撥水性、表面平滑性及び潤滑性等の特性を付与することが可能なポリオルガノシロキサンおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされる平均分子量が500〜120,000の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化1】


(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリオルガノシロキサンおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシロキサンは、優れた耐候性、表面撥水性、表面平滑性及び潤滑性を有することからポリマーの改質剤として多種多様の用途に使用されている。
ポリマーからなる繊維の改質方法としては、例えば、(1)エマルジョンとしたポリオルガノシロキサンを繊維表面へ塗布し、表面平滑性を改善する方法や、(2)ポリオルガノシロキサンをポリエステルなどのポリマーへ練り混み、繊維化することにより表面特性を改質する方法等が挙げられる。
しかしながら、塗布された場合には、加工時の摩擦により繊維からポリオルガノシロキサンが脱落し、表面平滑性能が低下することが知られている。また練り混みを行った場合には、ポリエステルとポリオルガノシロキサンとの相溶性が悪いために、加工時に均一に混じり合いにくく、繊維に加工後は、その表面にブリードを生じ易いなどの問題があり、両者ともに表面平滑性は一時的なものであった。
【0003】
このような問題を解決する方法として、ポリエステル等のポリマーにシリコーンを組み込む方法が検討されていた。例えば、特許文献1には、主として両末端カルボン酸変性オルガノポリシロキサンをジカルボン酸成分としてポリエステル主鎖にポリシロキサン結合を導入してポリエステルにシリコーンを組み込んだ、両末端カルボン酸変性ポリシロキサンによるポリエステルの改質が開示されている。しかしながら、得られたポリエステルは、極性溶媒に難溶で、同時に耐水性に劣ることから、加工時に水処理を施した場合には、該ポリエステルが軟化する傾向があり、得られた成形物の寸法が安定しないなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−1537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポリマーの物性を損なうことなく、耐候性、表面撥水性、表面平滑性及び潤滑性等の特性を付与することが可能なポリオルガノシロキサンおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の従来技術の課題を解決するべく鋭意研究した結果、下記一般式(1)で表わされる末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンを用いることで、上記課題を解決できるという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0007】
1.下記一般式(1)で表わされる平均分子量が500〜120,000の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化1】

(1)
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6〜10のアリール含有基または炭素数4〜10のシクロアルキル基であり;R6は水素または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくは炭素数6〜10のアリール基であり;nおよびmは0もしくは1以上の整数であり、n+mはポリシロキサンセグメントの平均分子量500〜100,000を満足する数であり;Xは炭素数が2〜20の直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基であり;Yは炭素数1〜3のオキシアルキレン基であり;Zは1〜3のカルボキシル基をもつ置換基であり;pはポリオキシアルキレンセグメントYPの平均分子量30〜20,000を満足する数である。)
【0008】
2. Zが下記一般式(2)である前記1項記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化2】

(2)
(式中、R7はテトラカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基であり;R8、R9は水素原子またはカルボキシル基である。)
【0009】
3. Zが下記一般式(3)である前記1項記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化3】

(3)
(式中、R7はジカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基である。)
【0010】
4. Yが−OCH2−、−OCH(CH3)−、−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり;Xは炭素数が2〜5のアルキレン基である前記1項記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【0011】
5. 下記一般式(4)で表わされる片末端2価水酸基シリコーンと、下記一般式(5)、下記一般式(6)および下記一般式(7)からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸無水物とを触媒の存在下で反応させることを特徴とする前記1項記載の一般式(1)で表される末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【化4】

(4)
(式中R1、R2、R3、R4およびR5は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6〜10のアリール含有基または炭素数4〜10のシクロアルキル基であり;R6は水素または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくは炭素数6〜10のアリール基であり;nおよびmは0もしくは1以上の整数であり、n+mはポリシロキサンセグメントの平均分子量500〜100,000を満足する数であり;Xは炭素数が2〜20の直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基であり;Yは炭素数1〜3のオキシアルキレン基であり;pはポリオキシアルキレンセグメントYPの平均分子量30〜20,000を満足する数である。)
【化5】

(5)
【化6】

(6)
【化7】

(7)
(式中R7はジカルボン酸またはテトラカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基である。)
【0012】
6. Zが下記一般式(2)である前記5項記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【化8】

(2)
(式中、R7はテトラカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基であり;R8、R9は水素原子またはカルボキシル基である。)
【0013】
7. Zが下記一般式(3)である前記5項記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【化9】

(3)
(式中、R7はジカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基である。)
【0014】
8. Yが、−OCH2−、−OCH(CH3)−、−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり;Xは炭素数が2〜5のアルキレン基である前記5項記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンは、グラフト重合によりポリエステルなどのポリマーに組み込んだ場合であっても、該ポリマーの物性を損なうことなく、耐候性、表面撥水性、表面平滑性及び潤滑性を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の片末端ジカルボン酸変性オルガノポリシロキサンのIRスペクトルである。
【図2】実施例1の片末端ジカルボン酸変性オルガノポリシロキサンの1H−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2の片末端ジカルボン酸変性オルガノポリシロキサンのIRスペクトルである。
【図4】実施例2の片末端ジカルボン酸変性オルガノポリシロキサンの1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(1)で表される。
上記一般式(1)において、R1、R2、R3、R4およびR5で示される炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及びドデシル基などの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を挙げることができる。また、炭素数4〜10のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。。炭素数6〜10のアリール含有基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、エチルフェニル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。なかでも、前述の基のうちR1、R3、R4およびR5はメチル基が、R2はメチル基もしくはブチル基が好ましい。
【0018】
上記一般式(1)において、R6で示される炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基などを挙げることができる。また炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、エチルフェニル基、カルボキシフェニル基などを挙げることができる。なかでも、水素、メチル基もしくはエチル基が好ましい。
【0019】
上記一般式(1)において、Xで示される炭素数が2〜20のアルキレン基としては、直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、テトラデカメチレン基、2−メチルエチレン基、2−メチルトリメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、2−メチルヘキサメチレン基、2−メチルヘプタメチレン基、2−メチルオクタメチレン基、2−メチルノナメチレン基、2−メチルデカメチレン基、2−メチルウンデカメチレン基などを挙げることができる。なかでも、炭素数2〜5のアルキレン基が好ましく、より好ましくはトリメチレン基もしくは2−メチルエチレン基である。
【0020】
上記一般式(1)において、Yは炭素数1〜3のオキシアルキレン基であり、YPはポリオキシアルキレンセグメントを示し、pはその平均重合度を示している。ここで、pは、ポリオキシアルキレンセグメント(YP)の平均分子量30〜20,000を満足する数であり、好ましくは1〜460である。また、Yとしては、例えば、−OCH2−、−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−または−OCH2CH(CH3)−を挙げることができる。なかでも、−OCH2−または−OCH2CH2−であることが好ましい。
【0021】
上記一般式(1)において、nおよびmは、0もしくは1以上の整数であり、n+mはポリシロキサンセグメントの平均重合度である。また、n+mは、ポリシロキサンセグメントの平均分子量500〜100,000を満足し、なおかつ、末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの平均分子量500〜120,000を満足する数である。n+mは、4〜1100であることが好ましい。
なお、本発明の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が、500〜120,000であることで、有機樹脂の改質剤として有効に機能する。
【0022】
Zは1〜3のカルボキシル基をもつ置換基であり、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表わされる。
【化10】

(2)
ここで、R8、R9は水素原子またはカルボキシル基である。
【化11】

(3)
【0023】
上記一般式(2)、一般式(3)をさらに具体的に説明する。
7は、ジカルボン酸またはテトラカルボン酸の2、4個のカルボキシル基を除いた残基である。以下に、ジカルボン酸無水物からカルボキシル基を除いた残基の構造式の一例を示す。
【化12】

【化13】

なかでも、本発明においては、以下に示す残基であることが好ましい。
【化14】

また、以下に、テトラカルボン酸無水物からカルボキシル基を除いた残基の構造式の一例をつぎに示す。
【化15】

【化16】

なかでも、本発明においては、以下に示す残基であることが好ましい。
【化17】

【0024】
本発明の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法について詳細に説明する。
上記一般式(4)で表わされる片末端2価水酸基シリコーンに上記一般式(5)、上記一般式(6)および上記一般式(7)からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸無水物とを触媒の存在下で反応させることにより上記一般式(1)で表される本発明の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンが製造できる。
なお、一般式(4)で表わされる片末端2価水酸基シリコーンは、市販品として入手でき、例えば、チッソ(株)製“FM−DA11”、“FM−DA21”、“FM−DA26”を挙げることができる。
【0025】
本発明の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法における、一般式(4)で表わされる片末端2価水酸基シリコーンと一般式(5)、一般式(6)もしくは一般式(7)で表わされる酸無水物との反応について、以下に詳述する。
この反応は下記の反応式(a)、反応式(b)または反応式(c)で示されるモノエステル化反応であり、該モノエステル化として2通りの方法を挙げることができる。
【化18】

反応式(a)
【化19】

反応式(b)
【化20】

反応式(c)
【0026】
これらモノエステル化反応の第一の方法は、溶媒を用い均一系にて行なう方法である。第一の方法において用いられる溶媒は、一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンと、一般式(5)、一般式(6)および一般式(7)からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸無水物とを溶解でき、なおかつモノエステル化反応を阻害しないものであれば何れの溶媒であっても使用することができる。このような溶媒としては、例えば、へキサン、ヘプタンなどの炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族系炭化水素溶媒;その他ピリジンなどを挙げることができる。また、これらの溶媒は単独で使用しても、その複数を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
これらの溶媒には、一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンまたは、一般式(5)、一般式(6)および一般式(7)からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸無水物と反応するような不純物、すなわち、水、アルコール類、一級・二級アミン類、カルボン酸類を含まないことが望ましい。なお、該溶媒の使用量は特に限定されるものでない。
一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンの粘度は一般に高いので、反応液の粘度自体も高くなる傾向にあり、反応系への溶媒の添加は、反応液の粘度を下げることにもなり好ましい。また、モノエステル化反応の温度は特に限定されないが、該溶媒の沸点以下であることが好ましい。
【0028】
さらに、第一の方法において、副生成物の生成を抑え、末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン{一般式(1−a)、一般式(1−b)、一般式(1−c)}の収率を上げるためには、反応系中に三級アミンを存在させることが好ましい。この三級アミンとしては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7(DBU)などを挙げることができる。なかでも、トリメチルアミンあるいはトリエチルアミンが特に好ましく第一の方法に用いられる。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドやピリジンなど三級アミン構造を持つ溶媒を使用した場合には、三級アミンを新たに追加する必要はない。
【0029】
三級アミンの使用量は、特に限定されるものではないが、反応性、経済性などを考慮した場合、三級アミンの使用量は、一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンに対し0.01〜5倍モル量の範囲であることが好ましく、0.1〜2倍モル量の範囲であることがより好ましい。
【0030】
また、三級アミンとしてトリエチルアミンを用いた場合には、生成した末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンのカルボキシル基と反応し、塩が生成されるが、これには酢酸などの有機酸、塩酸などの無機酸(鉱酸)を用いることにより変性シリコーンを遊離させることで解決できる。鉱酸を用いる場合には、シロキサン結合が切れる恐れがあるので、鉱酸を十分に希釈し、使用することが好ましい。
【0031】
また、第一の方法において、一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンをすべて消費させるために過剰量の酸無水物{一般式(5)、一般式(6)、一般式(7)}を用いることが一般に好ましい。このとき、反応後に未反応の酸無水物が残るが、水を加えて加水分解しカルボン酸に変換させた後、メタノールなどで洗浄することにより、未反応の酸無水物を除くことができる。また、上述の酸無水物もメタノールなどで洗浄することにより除くことができる。
【0032】
つぎに、モノエステル化反応の第二の方法は、無溶媒系にて行なう方法である。
この方法では、反応において高い温度が必要となるが、この反応では三級アミンを必要としない。このとき、モノエステル化を50〜300℃で反応させることが好ましく、反応性、経済性などを考慮すると150〜250℃で反応させることがより好ましい。
また、高温では、酸無水物は一般に液体となり、一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンと2層系の反応となるが、加熱撹拌により反応を進行させることができる。
【0033】
また、第一の方法と同様に第二の方法において、一般式(4)で表される片末端2価水酸基シリコーンをすべて消費させるために過剰量の酸無水物を用いることが好ましい。このとき反応後の処理は、第一の方法と同様の処理でよい。また、生成物の粘度が低い場合には濾過により未反応の酸無水物を除くことができる。
【0034】
一般式(5)で示されるジカルボン酸無水物の具体例として次の化合物を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
該ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物などの芳香族ジカルボン酸無水物、無水こはく酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの脂肪族ジカルボン酸無水物を挙げることができる。
【0035】
つぎに一般式(5)で示されるジカルボン酸無水物の構造式の一例を示す。
【化21】

【0036】
また、一般式(6)で示される酸無水物の具体例としては、つぎのものが例示できる。
【化22】

【0037】
一般式(7)で示されるテトラカルボン酸二無水物の具体例として次の化合物を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,30’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,30’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス−(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,2,5,6−ナフタリンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタリンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス−(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフロロプロパン二無水物などが例示でき、また脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物など、また脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物など、公知の化合物が例示することができる。
【0038】
つぎに一般式(7)で示されるテトラカルボン酸二無水物の構造式の一例を示す。
【化23】

【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で得られた化合物の各物性は下記の方法で測定した。
【0040】
粘度:キャノンフェンスケ粘度計を用い、JIS Z 8803(粘度測定方法)の規定にしたがって測定した。
水分:JIS K 0068(化学製品の水分測定方法)にしたがって測定した。
酸価:JIS K 0070(化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価およびけん化物の試験方法)中の酸価にしたがって測定した。
赤外線吸収スペクトル法の測定:日本分光(株)製IRを用い、ニート法にて測定した。
1H−NMR(核磁気共鳴)の測定:日本電子(株)製NMRを用い、90MHz、CDCl3,積算400回の条件で測定した。
【0041】
本実施例において、無水こはく酸、トリエチルアミン、トルエン、アセトンおよびメタノールはキシダ化学(株)製の試薬を用いた。
【0042】
実施例1
磁気撹拌器上に設置したヒーター付きオイルバスに、温度計、20ミリリットル滴下ロートを取り付け、磁気撹拌子を入れた200ミリリットルの三ッ口フラスコを該フラスコの底から半ばまで該オイルバスの中に浸けた。
この三ッ口フラスコに、分子量1000の2価水酸基末端シリコーン(チッソ(株)製FM−DA11;水酸基当量674、一般式(4)において、R1、R3、R4およびR5がメチル基、R2が−C49、R6が−C25、n+m≒11、Xが−CH2CH2CH2−、Yが−OCH2−、p=1に該当するもの)50g、無水こはく酸11.1g、トルエン1.0gおよびアセトン50gを入れ、また、20ミリリットル滴下ロートに、トリエチルアミン3.8gを入れた。
内温を55℃へと昇温し、該フラスコ内容物を磁気撹拌子の回転により撹拌しながら、トリエチルアミンを滴下ロートから該フラスコ中に徐々に滴下し、滴下終了後も内温55℃で、そのまま撹拌を続けた。
GC(ガスクロマトグラフィー)分析にてフラスコ内容物中の無水こはく酸の減少を追跡した。6時間経過後、無水こはく酸の減少が止まったので加熱撹拌を停止した。
フラスコ内容物の温度を室温まで冷却後、水20g、酢酸4.5gの順でフラスコ中に投入した。フラスコ内容物を再び撹拌し、未反応の無水こはく酸をこはく酸へ、またトリエチルアミンを酢酸塩に変換させることにより、白濁した反応液を得た。
分液ロートに、トルエン100g、水50g、及び該反応液を入れ、反応液中の副生物および未反応の原料を抽出した。さらに、水を用いて抽出する操作を3回繰り返した。次いで、抽出残さのトルエン層からエバポレーターを用いて溶媒と揮発分を減圧溜去し、更に濾過を行うことにより、57gの淡黄色透明液体を得た。
この淡黄色透明液体の粘度は500m・m2/s以上(25℃)、水分は290ppm、酸価は62.6(KOHmg/g)、屈折率は1.4230(25℃)であった。
また、該液体のIRスペクトルを図1に、1H−NMRスペクトルを図2に示す。
ここで、IRスペクトルの、1710〜1760cm-1の吸収はCOOHおよび−COO−によるカルボニルC=O吸収を示すことから、これらのスペクトルから、得られた淡黄色透明の液体は、前記分子量1000の片末端2価水酸基シリコーンの水酸基が、片末端が2価のカルボキシル基で変性された末端カルボン酸変性ポリジメチルシロキサン(R7が−CH2CH2−)であることが確認された。
得られた末端カルボン酸変性ポリジメチルシロキサンは、グラフト重合によりポリエステルに組み込め、ポリマーの改質ができる。
【0043】
実施例2
磁気撹拌器上に設置したヒーター付きオイルバスに、温度計、20ミリリットル滴下ロートを取り付け、磁気撹拌子を入れた200ミリリットルの三ッ口フラスコを該フラスコの底から半ばまで該オイルバスに浸けた。
この三ッ口フラスコに、分子量5000の2価水酸基末端シリコーン(チッソ(株)製FM−DA21;水酸基当量2133、一般式(2)において、R1、R3、R4およびR5がメチル基、R2が−C49、R6が−C25、n+m≒65、Xが−CH2CH2CH2−、Yが−OCH2−、p=1に該当するもの)50g、無水こはく酸3.5g、トルエン1.0gおよびアセトン50gを入れ、また、20ミリリットル滴下ロートに、トリエチルアミン1.2gを入れた。内温を55℃へと昇温し、該フラスコ内容物を磁気撹拌子の回転により撹拌しながら、トリエチルアミンを滴下ロートから該フラスコ中に徐々に滴下し、滴下終了後も内温55℃で、そのまま撹拌を続けた。
GC分析にてフラスコ内容物中の無水こはく酸の減少を追跡した。7時間経過後、無水こはく酸の減少が止まったので加熱撹拌を停止した。
フラスコ内容物の温度を室温まで冷却後、水6.3g、酢酸1.4gの順でフラスコ中にこれらを投入した。フラスコ内容物を再び撹拌し、未反応の無水こはく酸をこはく酸へ、またトリエチルアミンを酢酸塩に変換させることにより、白濁した反応液を得た。
分液ロートに、トルエン100g、水50g、反応液を入れ、反応液中の副生物および未反応の原料を抽出した。さらに水50g、アセトン25gを用いて抽出する操作を2回繰り返した。次いで、抽出残さのトルエン層からエバポレーターを用いて溶媒と揮発分を減圧溜去し、更に濾過を行うことにより、51gの微黄色透明液体を得た。
この微黄色透明液体の粘度は500m・m2/s以上(25℃)、水分は140ppm、酸価は18.7(KOHmg/g)、屈折率は1.4096(25℃)であった。
また、該液体のIRスペクトルを図3に、1H−NMRスペクトルを図4に示す。これらのスペクトルは、実施例1と同様の吸収、シグナルを示していた。
以上のことから、得られた微黄色透明の液体は、前記分子量5000の片末端2価水酸基シリコーンの水酸基が2価のカルボキシル基で変性された末端カルボン酸変性ポリジメチルシロキサン(R7が−CH2CH2−)であることが確認された。
得られた末端カルボン酸変性ポリジメチルシロキサンはグラフト重合によりポリエステルに組み込め、ポリマーの改質ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる平均分子量が500〜120,000の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化1】

(1)
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6〜10のアリール含有基または炭素数4〜10のシクロアルキル基であり;R6は水素または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくは炭素数6〜10のアリール基であり;nおよびmは0もしくは1以上の整数であり、n+mはポリシロキサンセグメントの平均分子量500〜100,000を満足する数であり;Xは炭素数が2〜20の直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基であり;Yは炭素数1〜3のオキシアルキレン基であり;Zは1〜3のカルボキシル基をもつ置換基であり;pはポリオキシアルキレンセグメントYPの平均分子量30〜20,000を満足する数である。)
【請求項2】
Zが下記一般式(2)である請求項1記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化2】

(2)
(式中、R7はテトラカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基であり;R8、R9は水素原子またはカルボキシル基である。)
【請求項3】
Zが下記一般式(3)である請求項1記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【化3】

(3)
(式中、R7はジカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基である。)
【請求項4】
Yが−OCH2−、−OCH(CH3)−、−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり;Xは炭素数が2〜5のアルキレン基である請求項1記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサン。
【請求項5】
下記一般式(4)で表わされる片末端2価水酸基シリコーンと、下記一般式(5)、下記一般式(6)および下記一般式(7)からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸無水物とを触媒の存在下で反応させることを特徴とする請求項1記載の一般式(1)で表される末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【化4】

(4)
(式中R1、R2、R3、R4およびR5は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6〜10のアリール含有基または炭素数4〜10のシクロアルキル基であり;R6は水素または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくは炭素数6〜10のアリール基であり;nおよびmは0もしくは1以上の整数であり、n+mはポリシロキサンセグメントの平均分子量500〜100,000を満足する数であり;Xは炭素数が2〜20の直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基であり;Yは炭素数1〜3のオキシアルキレン基であり;pはポリオキシアルキレンセグメントYPの平均分子量30〜20,000を満足する数である。)

【化5】

(5)

【化6】

(6)

【化7】

(7)
(式中R7はジカルボン酸またはテトラカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基である。)
【請求項6】
Zが一般式(2)である請求項5記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【化8】

(2)
(式中、R7はテトラカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基であり;R8、R9は水素原子またはカルボキシル基である。)
【請求項7】
Zが下記一般式(3)である請求項5記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。
【化9】

(3)
(式中、R7はジカルボン酸のカルボキシル基を除いた残基である。)
【請求項8】
Yが、−OCH2−、−OCH(CH3)−、−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり;Xは炭素数が2〜5のアルキレン基である請求項5記載の末端カルボン酸変性ポリオルガノシロキサンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−180421(P2010−180421A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123033(P2010−123033)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【分割の表示】特願2000−250718(P2000−250718)の分割
【原出願日】平成12年8月22日(2000.8.22)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】