説明

変性物、組成物及び燃料電池用電極触媒

【課題】金属錯体を用いた、酸素還元触媒活性が高い変性物の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物を配位子とする金属錯体と、カーボン担体と、を含む混合物を、500℃以上で変性処理して得られた変性物(式中、Q1は、一般式(i)又は(ii)で表される2価の基であり;R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;R及びRはヒドロカルビル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性物、該変性物を含む組成物、該変性物又は組成物を含む触媒、該触媒からなる燃料電池用電極触媒、並びに該変性物への利用に好適な化合物及び金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、燃料電池用電極触媒等に有用であることが知られており、これまでに、例えば、金属ポルフィリン錯体を熱処理して電極触媒を合成する手法が開示されている(特許文献1参照)。また、1個の大環状化合物又は1個の大環状化合物の残基を有する配位子と、金属原子と、からなる金属錯体が知られており、該錯体は加熱の有無によらず触媒活性を示すことが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−314871号公報
【特許文献2】特開2009−173627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これら金属錯体は、変性処理してカーボン担体に固定化させることで変性物とし、これを燃料電池用電極触媒に用いた場合に、酸素還元触媒活性が低くなるという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属錯体を用いた、酸素還元触媒活性が高い変性物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を配位子とする金属錯体と、カーボン担体と、を含む混合物を、500℃以上で変性処理して得られたことを特徴とする変性物を提供する。
【0006】
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。Q1は、下記一般式(i)又は(ii)で表される2価の基である。)
【0007】
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0008】
本発明の変性物においては、前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0009】
【化3】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0010】
本発明の変性物においては、前記金属錯体中の金属原子又は金属イオンの金属種が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は白金であることが好ましい。
本発明の変性物においては、前記変性処理が600〜1200℃での加熱処理であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記本発明の変性物と、カーボン担体及び/又は高分子化合物と、を含むことを特徴とする組成物を提供する。
また、本発明は、上記本発明の変性物又は組成物を含むことを特徴とする触媒を提供する。
また、本発明は、上記本発明の触媒からなることを特徴とする燃料電池用電極触媒を提供する。
また、本発明は、下記一般式(2)で表される化合物を提供する。
【0012】
【化4】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0013】
また、本発明は、上記本発明の化合物と、金属原子又は金属イオンと、からなる金属錯体を提供する。
本発明の金属錯体においては、前記金属原子又は金属イオンの金属種が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は白金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、金属錯体を用いた、酸素還元触媒活性が高い変性物を提供できる。本発明の変性物は、例えば、燃料電池用電極触媒として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<変性物>
本発明の変性物は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略記することがある)を配位子とする金属錯体と、カーボン担体と、を含む混合物を、500℃以上で変性処理して得られたことを特徴とする。
【0016】
【化5】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。Q1は、下記一般式(i)又は(ii)で表される2価の基である。)
【0017】
【化6】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0018】
(化合物(1))
化合物(1)は、前記一般式(1)で表される。
式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基である。
及びRにおけるヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでもよいし、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれでもよい。前記炭化水素基が環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。また、前記炭化水素基が不飽和炭化水素基である場合、不飽和結合(二重結合、三重結合)の数及び位置は特に限定されない。
前記ヒドロカルビル基の好ましいものとしては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基が例示でき、アルキル基が特に好ましい。
【0019】
なかでも、R及びRにおけるヒドロカルビル基は、炭素数1〜50の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であることが好ましく、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、シクロへキシル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、n−オクチル基、イソオクチル基、シクロオクチル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロデシル基、アダマンチル基、イソボルニル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基が例示できる。
そして、これらの中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、シクロへキシル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、n−オクチル基、イソオクチル基、シクロオクチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基又はn−ヘキシル基が特に好ましい。
【0020】
式中、Rはヒドロカルビル基であり、R及びRにおけるヒドロカルビル基と同様である。
【0021】
複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。すなわち、6個のRは、すべて同一でも異なっていてもよく、一部が異なっていてもよい。同様に、4個のRは、すべて同一でも異なっていてもよく、一部が異なっていてもよいし、2個のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0022】
同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。ここで、「R同士が互いに結合する」とは、R同士が水素原子を除去されて、相互に結合することを指す。これは、以下で説明するR、R、R、R及びRについても同様である。環を形成する複数のRは、同一のベンゼン環に結合したものでもよいし、異なるベンゼン環に結合したものでもよい。すなわち、同一のベンゼン環に結合している複数のRが、このベンゼン環を構成し且つこれら複数のRが結合している炭素原子と共に、環を形成していてもよいし、異なるベンゼン環に結合している複数のRが、これらのベンゼン環を構成する炭素原子と、これらのベンゼン環を連結している基(Qなど)と共に環を形成していてもよい。環を形成するRの数は特に限定されず、形成している環は単環及び多環のいずれでもよい。また、形成している環は、脂肪族環及び芳香環のいずれでもよい。
同様に、R同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。環を形成する複数のRは、同一のピロール環に結合したものでもよいし、異なるピロール環に結合したものでもよい。すなわち、同一のピロール環に結合している2個のRが、このピロール環を構成し且つこれら2個のRが結合している炭素原子と共に、環を形成していてもよいし、異なるピロール環に結合している2個以上のRが、これらのピロール環を構成する炭素原子と、これらのピロール環を連結している基(一般式「−C(R−」で表される基など)と共に環を形成していてもよい。環を形成するRの数は特に限定されず、形成している環は単環及び多環のいずれでもよい。また、形成している環は、脂肪族環及び芳香環のいずれでもよい。
同様に、R同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。すなわち、2個のRは、これらが結合している同一の炭素原子と共に環を形成していてもよく、形成している環は単環及び多環のいずれでもよい。また、形成している環は、脂肪族環及び芳香環のいずれでもよい。
【0023】
は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0024】
式中、Q1は、前記一般式(i)又は(ii)で表される2価の基であり、Rが結合しているベンゼン環同士を連結している。
式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり、R及びRと同様である。
式中、Rはヒドロカルビル基であり、Rと同様である。
そして、R、R及びRと同様に、複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。環を形成する複数のRは、同一のピリジン環に結合したものでもよいし、異なるピリジン環に結合したものでもよい。すなわち、同一のピリジン環に結合している複数のRが、このピリジン環を構成し且つこれら複数のRが結合している炭素原子と共に、環を形成していてもよいし、異なるピリジン環に結合している複数のRが、これらのピリジン環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい。環を形成するRの数は特に限定されず、形成している環は単環及び多環のいずれでもよい。また、形成している環は、脂肪族環及び芳香環のいずれでもよい。
同様に、R同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。環を形成する複数のRは、同一のピロール環に結合したものでもよいし、異なるピロール環に結合したものでもよい。すなわち、同一のピロール環に結合している2個のRが、このピロール環を構成し且つこれら2個のRが結合している炭素原子と共に、環を形成していてもよいし、異なるピロール環に結合している2個以上のRが、これらのピロール環を構成する炭素原子と、これらのピロール環を連結している基(一般式「−C(R−」で表される基など)と共に環を形成していてもよい。環を形成するRの数は特に限定されず、形成している環は単環及び多環のいずれでもよい。また、形成している環は、脂肪族環及び芳香環のいずれでもよい。
同様に、R同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。すなわち、2個のRは、これらが結合している同一の炭素原子と共に環を形成していてもよく、形成している環は単環及び多環のいずれでもよい。また、形成している環は、脂肪族環及び芳香環のいずれでもよい。
【0026】
は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。
は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0027】
好ましい化合物(1)の具体例としては、下記一般式(2)、(1−b)、(1−c)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
【化7】

(式中、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;R及びRはそれぞれ独立にヒドロカルビル基であり;複数のR、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;R同士、R同士、R同士、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0029】
式中、R〜Rは、前記一般式(1)、(i)又は(ii)におけるR〜Rと同様である。
式中、Rは水素原子又はヒドロカルビル基であり、R、R、R及びRと同様である。
【0030】
これらの中でも、化合物(1)としては、前記一般式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)と略記する)が好ましい。
【0031】
(化合物(2))
化合物(2)は、前記一般式(2)で表される。
【0032】
【化8】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0033】
好ましい化合物(2)の具体例としては、下記式(2−a)〜(2−f)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化9】

【0035】
これらの中でも、化合物(2)としては、前記式(2−a)〜(2−e)で表される化合物が好ましく、前記式(2−a)〜(2−c)で表される化合物(以下、前記式(2−a)で表される化合物を「化合物(2−a)」と略記する)がより好ましい。
【0036】
(化合物(1)の製造方法)
化合物(1)は、例えば、「Tetrahedron.,1999,55,8377.」に記載の方法で製造できる。すなわち、有機金属反応剤の複素環式化合物への付加反応及び酸化反応を行い、次いでハロゲン化反応、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応によって前駆体を合成した後、かかる前駆体をケトンで閉環反応させることにより、化合物(1)を合成する工程を有する方法で製造できる。また、化合物(1)は、末端にピロリル基を有する化合物に、ケトンを加えて、ピロリル基をアルキレン基と結合させる工程を有する方法でも製造できる。
【0037】
なかでも汎用性の観点から、化合物(1)の製造方法は、下記一般式(1−1)で表される化合物(以下、前駆体(1−1)と略記する)と、下記一般式(1−2)で表される化合物(以下、ケトン(1−2)と略記する)とを反応させて、閉環反応を行い、化合物(1)を合成する工程を有する製造方法が好ましい。
【0038】
【化10】

(式中、R、R、R、Q1は、前記と同様である。)
【0039】
式中、R〜R、Q1は、前記一般式(1)におけるR〜R、Q1と同様である。
【0040】
前記閉環反応は、例えば、前駆体(1−1)及びケトン(1−2)を酸存在下で溶媒に溶解させて行うことができる。前記酸の使用量は触媒量でもよいし、それより多くてもよく、前記酸を溶媒として兼用し、別途溶媒を使用しなくてもよい。また、ケトン(1−2)が液状である場合には、これを溶媒として兼用し、別途溶媒を使用しなくてもよい。
【0041】
前記酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸;トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のハロゲン化有機酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素又はそのエーテラートが例示できる。
また、溶媒として兼用するのに好適な前記酸としては、前記有機酸が例示できる。
前記酸は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0042】
前記溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコールが例示できる。
また、溶媒として兼用するのに好適なケトン(1−2)としては、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロブタノン、シクロヘキサノンが例示できる。
【0043】
前記閉環反応の温度は、0〜250℃であることが好ましく、0〜200℃であることがより好ましく、0〜160℃であることが特に好ましい。
前記閉環反応の時間は、1分〜1週間であることが好ましく、5分〜100時間であることがより好ましく、1時間〜72時間であることが特に好ましい。
反応温度及び反応時間は、前記酸や溶媒の組み合わせに応じて、適宜調整すればよい。
【0044】
化合物(1)の製造時には、反応終了後、常法により必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて一回以上行うことで、精製してもよい。
【0045】
(金属錯体)
本発明の変性物は、化合物(1)を配位子とする金属錯体を使用して製造される。
前記金属錯体は、化合物(1)と、金属原子又は金属イオンと、からなる。
前記金属錯体において、前記金属原子又は金属イオンは、配位子である化合物(1)中のヘテロ原子に、配位結合等により結合している。ここで、「ヘテロ原子」とは、酸素原子又は窒素原子のことを指す。
前記金属原子又は金属イオンは、その金属種によっては2個が化合物(1)に結合する。すなわち、2個の金属原子、2個の金属イオン、又は1個の金属原子及び1個の金属イオンが結合する。この場合、これら2個の金属原子又は金属イオンは、互いに架橋配位していてもよい。
【0046】
前記金属原子又は金属イオンの金属種は、遷移金属及び典型金属に分類できる。すなわち、化合物(1)には、遷移金属原子、典型金属原子、遷移金属イオン及び典型金属イオンのいずれかが結合する。ここで、「遷移金属」とは、「化学大辞典」(大木道則他編、平成17年7月1日発行、東京化学同人)1283頁に「遷移元素」として記載されているものと同義であり、不完全なd殻又はf亜殻を有する元素のことを指す。
【0047】
前記遷移金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀が例示できる。
【0048】
前記典型金属としては、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン、タリウム、鉛、ビスマスが例示できる。
【0049】
これら金属の中でも、酸素還元触媒活性が特に優れる点から、第4周期から第6周期に属する遷移金属が好ましく、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金がより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、白金がさらに好ましく、鉄、コバルト、銅が特に好ましい。
【0050】
化合物(1)に結合する前記金属原子又は金属イオンが2個である場合、その組み合わせは、化合物(1)に応じて決定することができる。
【0051】
前記金属錯体は、中性分子や、前記金属錯体を電気的に中性にする対イオンを有していてもよい。そして、前記金属錯体1分子が有する前記中性分子又は対イオンは、1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0052】
前記中性分子としては、溶媒和して溶媒和塩を形成する分子で、化合物(1)に該当しないものが例示でき、具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、2−メトキシエタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンが例示できる。
これらの中でも、前記中性分子としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノ−ル、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンが好ましい。
【0053】
前記対イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、チオシアン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオンが例示できる。
これらの中でも、前記対イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフェニルホウ酸イオンが好ましい。
【0054】
前記金属錯体1分子が2個以上の前記中性分子又は対イオンを有する場合、前記中性分子のみを有していてもよいし、前記対イオンのみを有していてもよく、前記中性分子及び対イオンを共に有していてもよい。
前記金属錯体1分子が2個以上の前記中性分子を有する場合、これら中性分子は一種でもよいし、二種以上でもよい。同様に、前記金属錯体1分子が2個以上の前記対イオンを有する場合、これら対イオンは一種でもよいし、二種以上でもよい。
【0055】
好ましい前記金属錯体としては、化合物(2)を配位子とするもの(以下、金属錯体(3)と略記する)が例示できる。
【0056】
(金属錯体(3))
金属錯体(3)は、前記金属錯体の中でも、化合物(2)を配位子とするものである。
好ましい金属錯体(3)の具体例としては、下記式(3−a)〜(3−d)で表される金属錯体(以下、下記式(3−a)で表される金属錯体を「金属錯体(3−a)」と略記する)が挙げられる。また、さらに前記中性分子又は対イオンを有するこれら金属錯体(3)も好ましいものとして挙げられる。
【0057】
【化11】

【0058】
(金属錯体の製造方法)
前記金属錯体は、例えば、化合物(1)と、前記金属原子又は金属イオンを付与する金属付与剤と、を混合し、反応(金属付与反応)させる工程を有する方法で製造できる。
【0059】
前記金属付与反応では、反応溶媒を用いることが好ましい。
前記反応溶媒としては、水、酢酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジンが例示できる。
前記反応溶媒としては、化合物(1)及び前記金属付与剤を溶解させることが可能なものが好ましい。
前記反応溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0060】
前記金属付与反応の温度は、−10〜200℃であることが好ましく、0〜150℃であることがより好ましく、0〜100℃であることが特に好ましい。
前記金属付与反応の時間は、1分〜1週間であることが好ましく、5分〜24時間であることがより好ましく、1時間〜12時間であることが特に好ましい。
反応温度及び反応時間は、化合物(1)及び前記金属付与剤の組み合わせに応じて、適宜調整すればよい。
【0061】
前記金属錯体は、反応終了後、常法により必要に応じて後処理を行い、取り出せばよい。すなわち、必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、前記金属錯体を取り出せばよい。また、取り出した前記金属錯体は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて一回以上行うことで、精製してもよい。
なお、前記反応溶媒の種類によっては、生成した金属錯体が析出することがあり、この場合には、析出した金属錯体を濾別等で分離し、必要に応じて洗浄操作や乾燥操作を行うことにより、金属錯体を単離精製することができる。
【0062】
(カーボン担体)
本発明の変性物は、前記金属錯体とカーボン担体を使用して製造される。
前記カーボン担体としては、ノーリット(商標登録)、ケッチェンブラック(商標登録)、バルカン(商標登録)、ブラックパール(商標登録)、アセチレンブラック(商標登録)等のカーボン粒子;C60やC70等のフラーレン;カーボンナノチューブ;カーボンナノホーン;カーボン繊維が例示できる。これらのなかでも、ケッチェンブラック(商標登録)、バルカン(商標登録)、アセチレンブラック(商標登録)、フラーレン、カーボンナノチューブが好ましく、ケッチェンブラック(商標登録)、バルカン(商標登録)、カーボンナノチューブがより好ましく、ケッチェンブラック(商標登録)、バルカン(商標登録)が特に好ましい。
【0063】
(変性処理)
次に、変性処理について説明する。
本発明の変性物は、前記金属錯体と、カーボン担体とを含む混合物(通常、固形分からなる。)を、500℃以上で変性処理して得られたものである。このように、前記金属錯体は、カーボン担体と共に変性物とすることにより、水への溶解性をより低くすることができる。
変性処理において、前記金属錯体及びカーボン担体は、いずれも一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0064】
前記混合物の調製方法としては、各配合成分をそれぞれ適切な分散媒に分散させてから、これらを混合することで調製してもよいし、同じ分散媒に各配合成分を加えて混合することで調製してもよく、乾式で混練することで調製してもよい。ただし、分散媒を使用した場合には、混合して得られた分散物からこの分散媒を除去することで、前記混合物とする。分散媒は、例えば、常圧下又は減圧下において、室温で又は加熱して分散物を乾燥させることで除去できる。すなわち、本明細書において変性処理に供する「金属錯体とカーボン担体とを含む混合物」には、分散媒は含まれないものとする。
これらの中でも、より均質な混合物が得られることから、各配合成分をそれぞれ適切な分散媒に分散させてから混合するか、又は同じ分散媒に各配合成分を加えて混合することで調製する方法が好ましい。
【0065】
前記混合物における固形分中の前記金属錯体の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、前記混合物における固形分中の前記金属錯体の含有量は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0066】
また、前記混合物における固形分中のカーボン担体の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、前記混合物における固形分中のカーボン担体の含有量は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0067】
変性処理は、500℃以上で、少なくとも加熱することで行うが、該加熱処理に加えて、放射線照射処理及び放電処理のいずれか一方又は両方を組み合わせて行ってもよい。ただし、加熱処理のみでも十分な効果が得られる。
変性処理は、前記混合物を予め15〜200℃で、6時間以上乾燥させた後に行うことが好ましい。
【0068】
変性処理は、処理前後の混合物の質量減少率(すなわち、処理前の混合物の質量に対する、処理で得られた変性物の質量の減少率)が、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、特に好ましくは5%以上となるまで行えばよい。また、質量減少率の上限は、80%が好ましく、70%がより好ましく、60%が特に好ましい。
【0069】
処理後の変性物は、炭素含有率が高いと安定性により優れる。このような観点から、処理後の変性物は、炭素含有率が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、40質量%以上であることがとりわけ好ましい。
変性物の炭素含有率は、例えば、前記混合物中のカーボン担体の含有量を高くすることで、又は変性処理の温度を高くすることで、高くできる。
【0070】
変性処理の温度は、600℃〜1200℃であることが好ましい。このようにすることで、前記混合物をより十分に変性させることができる。さらに、変性処理の下限温度は、700℃であることがより好ましく、800℃であることが特に好ましい。そして、変性処理の上限温度は、1100℃であることがより好ましく、1000℃であることが特に好ましい。
【0071】
変性処理は、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アンモニアガス、空気、酸素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、アセトニトリルガス、又はこれらから選択される二種以上の混合ガス雰囲気下で行うのが好ましく、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アンモニアガス、空気、酸素ガス、ネオンガス、アルゴガスン、又はこれらから選択される二種以上の混合ガス雰囲気下で行うのがより好ましく、水素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、アルゴンガス、又はこれらから選択される二種以上の混合ガス雰囲気下で行うのが特に好ましい。
【0072】
変性処理の時間は、処理時の雰囲気、温度等に応じて適宜調整すればよい。例えば、変性処理時には、前記雰囲気とするためのガスで満たした状態又は該ガスを通気させた状態において、室温から徐々に温度を上昇させ、目的とする温度に到達した後、直ちに温度を低下させてもよいが、目的とする温度に到達した後、この温度を所定時間保持することが好ましい。このように加熱することで、より十分に変性処理できる。前記温度の保持時間は、10分〜100時間であることが好ましく、30分〜40時間であることがより好ましく、1〜10時間であることがさらに好ましく、1〜3時間であることが特に好ましい。
【0073】
前記加熱処理は、例えば、オーブン、ファーネス、IHホットプレート等の装置を使用して、常法により行えばよい。
【0074】
前記放射線照射処理は、α線、β線、中性子線、電子線、γ線、X線、電波、マイクロ波、レーザー等の電磁波、あるいは粒子線等の放射線を照射して行えばよく、X線、電子線、マイクロ波、レーザーを照射するのが好ましく、マイクロ波、レーザーを照射するのがより好ましい。
【0075】
前記放電処理は、コロナ放電、グロー放電、プラズマ(低温プラズマを含む)等による処理が例示でき、低温プラズマによる処理が好ましい。
【0076】
前記放射線照射処理及び放電処理は、いずれも一種のみを行ってもよいし、二種以上を行ってもよい。二種以上を行う場合、これら処理を同時に行ってもよいし、一種ずつ順次行ってもよい。
【0077】
なお、前記放射線照射処理及び放電処理は、通常、高分子フィルムの表面を改質処理する際に用いる機器及び方法を適用して行うことが可能であり、例えば、「日本接着学会編、「表面解析・改質の化学」、日刊工業新聞社、2003年12月19日発行」等に記載された方法で行うことができる。
【0078】
<組成物>
本発明の組成物は、上記本発明の変性物と、カーボン担体及び/又は高分子化合物と、を含むことを特徴とする。
すなわち、前記変性物は、単独での使用、及びその他の成分との併用のいずれにも好適なものであり、好ましい前記その他の成分としては、カーボン担体、高分子化合物が例示できる。
前記その他の成分は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0079】
変性物と併用する前記カーボン担体は、変性物の製造に使用する前記カーボン担体と同様である。そして、変性物と併用する前記担体は、変性物の製造に使用した前記担体と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0080】
前記組成物において、前記変性物100質量部に対する、カーボン担体の配合量は、10〜300質量部であることが好ましく、30〜200質量部であることがより好ましい。
【0081】
前記高分子化合物としては、各種樹脂が例示でき、バインダー樹脂が好ましい。好ましい前記高分子化合物として、具体的には、ナフィオン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾール、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリピリジン、及びこれら重合体にスルホン酸基が導入されたものが例示でき、イオン交換樹脂として機能するものがより好ましく、ナフィオン(登録商標)、及び前記各重合体にスルホン酸基が導入されたものがより好ましい。
【0082】
前記組成物において、高分子化合物の含有量は、前記変性物100質量部に対して、1〜300質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0083】
前記組成物は、例えば、高分子化合物を含むものが後述する触媒、特に燃料電池用電極触媒として好適であり、酸素還元触媒活性に優れる。
【0084】
本発明の変性物、組成物、及び前記変性物の製造に使用する前記金属錯体は、いずれも常法で加工することにより、形状を変化させることができる。
【0085】
<触媒>
本発明の触媒は、上記本発明の変性物又は組成物を含むことを特徴とし、燃料電池用電極触媒として使用できる。
前記触媒中の変性物及び組成物は、いずれも一種でもよいし二種以上でもよい。
前記触媒は、前記変性物及び組成物以外に、その他の成分を含んでいてもよい。
前記触媒中の変性物及び組成物の総含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0086】
<変性物、組成物及び触媒の用途>
本発明の変性物、組成物及び触媒(以下、変性物等と略記する)は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応等の、電子移動を伴うレドックス反応における触媒(レドックス触媒)として作用する。したがって、有機合成反応の触媒として有用であり、その他にも、添加剤、改質剤、電池、センサー材料、エレクトロルミネッセンス(EL)材料等の用途にも好適である。
また、前記化合物(1)及び金属錯体は、その構造中において電子の共役が広がっていることを利用して、有機ELの発光材料、有機トランジスタ及び色素増感太陽電池等の有機半導体材料として有用である。
【0087】
なかでも本発明の変性物等は、レドックス触媒として用いることが好ましく、具体的には、燃料電池用電極触媒(例えば、固体高分子電解質型燃料電池用の電極触媒)、膜劣化防止剤(例えば、水電気分解用のイオン伝導膜の劣化防止剤)、過酸化水素等の過酸化物の分解触媒、芳香族化合物の酸化カップリング触媒、排ガス及び排水の浄化用触媒(例えば、脱硫・脱硝触媒)、色素増感太陽電池の酸化還元触媒、二酸化炭素の還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサー、医農薬や食品の抗酸化剤等として特に有用である。
【0088】
例えば、本発明の燃料電池用電極触媒を、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、又はこれらから選択される二種以上の混合液に分散させたのち、ナフィオン(登録商標)等の電解質膜上にダイコーターやスプレーを用いて塗布するか、あるいは、本発明の燃料電池用電極触媒を適当な大きさ及び形状に成型したのち、前記電解質膜上に熱転写して圧着させることにより、膜電極接合体を作製できる。このような燃料電池用電極触媒から得られる触媒層を備えた膜電極接合体は、セパレータ、ガスケット、集電板と組み合わせて、エンドプレート等で固定することで、燃料電池セルとして用いることができる。
【0089】
また、本発明の触媒を芳香族化合物の酸化カップリング触媒として用いる場合、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネート等のポリマー製造に関わる触媒として好適である。前記触媒は、例えば、反応液に直接添加したり、ゼオライトやシリカ等に担持させて使用できる。
【0090】
また、本発明の触媒を脱硫・脱硝触媒として用いる場合には、前記触媒を、例えば、工場の排ガスの通気塔に充填したり、自動車のマフラーに充填すればよい。
【0091】
また、本発明の変性物等は、改質水素中のCO(一酸化炭素)を変成させる触媒としても好適である。改質水素中には、通常COなどが含まれており、改質水素を燃料電池で使用する場合、燃料極がCOの被毒を受けることが問題となるので、COの濃度を極力低減することが望まれる。本発明の変性物等をこのような用途で使用する場合、具体的には、例えば、「Chemical Communication,3385(2005)」に記載の方法等が適用できる。
【実施例】
【0092】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
<化合物(2−a)の製造>
(化合物(2−a−0)の製造)
【0094】
【化12】

(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す。)
【0095】
アルゴン雰囲気下、3.945gの2,9−(3’−ブロモ−5’−tert−ブチル−2’−メトキシフェニル)−1,10−フェナントロリン、3.165gの1−N−Boc−ピロール−2−ボロン酸、0.138gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)、0.247gの2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル、及び5.527gのリン酸カリウムを、200mLのジオキサンと20mLの水との混合溶媒に溶解させ、60℃にて6時間攪拌した。反応終了後、放冷してから、蒸留水及びクロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮したところ、黒い残留物を得た。この残留物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物(2−a−0)を得た。
化合物(2−a−0)の1H−NMRのデータを以下に示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3)δ1.34(s,18H),1.37(s
,18H),3.30(s,6H),6.21(m,2H),6.27(m,2H),7.37(m,2H),7.41(s,2H),7.82(s,2H),8.00(s,2H),8.19(d,J=8.6Hz,2H),8.27(d,J=8.6Hz,2H).
【0096】
(化合物(2−a−1)の製造)
【0097】
【化13】

【0098】
窒素雰囲気下で0.904gの化合物(2−a−0)を10mLのジクロロメタンに溶解させた。ジクロロメタン溶液を−78℃に冷却しながら、三臭化ホウ素の1.0モル/Lジクロロメタン溶液8.8mLをゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌した後、室温まで攪拌しながら放置した。3時間後、反応溶液を0℃まで冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた後、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮したところ、褐色の残留物が得られた。この残留物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、前駆体である化合物(2−a−1)を得た。
化合物(2−a−1)の1H−NMRのデータを以下に示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3)δ1.40(s,18H),6.25(m
,2H),6.44(m,2H),6.74(m,2H),7.84(s,2H),7.89(s,2H),7.92(s,2H),8.35(d,J=8.4Hz,2H),8.46(d,J=8.4Hz,2H),10.61(s,2H),15.88(s,2H).
【0099】
(化合物(2−a)の製造)
【0100】
【化14】

【0101】
窒素雰囲気下で0.061gの化合物(2−a−1)を25mLの脱水アセトン(和光純薬社製)に溶解させた。アセトン溶液を氷浴で0℃に冷却しながら、0.041gのトリフルオロ酢酸(TCI社製)をゆっくり滴下した。滴下後、室温にて72時間攪拌した。濃縮したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和し、クロロホルムを加えて3回抽出した。得られた有機層を濃縮して、得られた残渣を、クロロホルムで再結晶し、0.035gの化合物(2−a)を得た
化合物(2−a)の1H−NMRのデータを以下に示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3)δ1.42(s,18H),1.80(s
,6H),6.14(s,2H),6.53(s,2H),7.79(s,4H),7.88(s,2H),8.35(d,J=8.6Hz,2H),8.44(d,J=8.3Hz,2H),10.52(s,2H),15.47(s,2H).
【0102】
[実施例2]
<金属錯体(3−a)の製造>
【0103】
【化15】

【0104】
窒素雰囲気下で、0.047gの化合物(2−a)と0.018gの酢酸コバルト4水和物とを含んだ、3mLのメタノールと3mLのクロロホルムとの混合溶液を、80℃に加熱しながら、5時間攪拌した。得られた溶液を濃縮乾固させることにより、緑色固体を得た。これを水で洗浄することにより、金属錯体(3−a)を得た。
金属錯体(3−a)のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)のデータを以下に示す。
ESI−MS[M+]:703.2
【0105】
[実施例3]
<変性物(a11)の製造>
(混合物(a1)の製造)
金属錯体(3−a)とカーボン担体(ケッチェンブラック(商標登録)EC600JD、ライオン社製)とを1:4の質量比で混合し、これをメタノール中、室温にて攪拌した後、室温にて200Paの減圧下で12時間乾燥させることにより、混合物(a1)を得た。
【0106】
(変性物(a11)の製造)
混合物(a1)を、管状炉を用いて、下記条件で窒素雰囲気下において800℃で2時間加熱し、変性物(a11)を得た。混合物(a1)の加熱処理前後の質量減少率(%)、及び変性物(a11)の炭素含有率(質量%)を表1に示す。
管状炉:プログラム制御開閉式管状炉EPKRO−14R(いすゞ製作所製)
熱処理雰囲気:窒素ガスフロー(200mL/分)
昇温速度及び降温速度:200℃/時間
【0107】
[実施例4]
<変性物(a12)の製造>
混合物(a1)の加熱処理条件を、「800℃、2時間」に代えて「900℃、1時間」としたこと以外は、実施例3と同様にして変性物(a12)を得た。変性物(a12)の炭素含有率(質量%)を表1に示す。
【0108】
[製造例1]
(化合物(r2−a)の製造)
【0109】
【化16】

【0110】
窒素雰囲気下で、0.061gの化合物(2−a−1)と0.012gのベンズアルデヒドを5mLのプロピオン酸に溶解させ、140℃で7時間加熱した。その後、プロピオン酸を留去して、得られた黒い残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、比較用の化合物(r2−a)を得た。
化合物(r2−a)の1H−NMRのデータを以下に示す。
1H-NMR(300MHz, CDCl3)δ1.49(s, 18H), 6.69(d, J=4.8Hz ,2H), 7.01(d, J=4.8Hz, 2H), 7.57(m, 5H), 7.90(s, 4H), 8.02(s, 2H), 8.31(d, J=8.1Hz, 2H), 8.47(d, J=8.1Hz, 2H).
【0111】
[製造例2]
<金属錯体(r3−a)の製造>
窒素雰囲気下で、0.045gの化合物(r2−a)と0.040gの酢酸コバルト4水和物とを含んだ、3mLのメタノールと3mLのクロロホルムとの混合溶液を、80℃に加熱しながら5時間攪拌した。得られた溶液を濃縮乾固させることにより、青色固体を得た。これを水で洗浄することにより、比較用の金属錯体(r3−a)を得た。
金属錯体(r3−a)のESI−MSのデータを以下に示す。
ESI−MS[M+・]:866.0
【0112】
[比較例1]
<変性物(ra11)の製造>
(混合物(ra1)の製造)
金属錯体(r3−a)とカーボン担体(ケッチェンブラック(商標登録)EC600JD、ライオン社製)とを1:4の質量比で混合し、これをメタノール中、室温にて攪拌した後、室温にて200Paの減圧下で12時間乾燥させることにより、比較用の混合物(ra1)を得た。
【0113】
(変性物(ra11)の製造)
混合物(a1)に代えて混合物(ra1)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして比較用の変性物(ra11)を得た。混合物(ra1)の加熱処理前後の質量減少率(%)、及び変性物(ra11)の炭素含有率(質量%)を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
<酸素還元能の評価>
(測定用電極の作製)
電極として、ディスク部がグラッシーカーボン(直径4.0mm)、リング部が白金(リング内径5.0mm、リング外径7.0mm)であるリングディスク電極を使用して、下記手順に従って測定用電極を作製した。
すなわち、変性物(a11)、変性物(a12)又は変性物(ra11)2mgを入れたサンプル瓶へ、水0.6mL、エタノール0.4mL、ナフィオン(登録商標)溶液(Aldrich社製、5質量%溶液)20μLを加えた後、超音波で分散させた。得られた懸濁液4.4μLを前記電極のディスク部に滴下した後、室温にて12時間乾燥させることにより、測定用電極を得た。
【0116】
(回転リングディスク電極による酸素還元能の評価)
前記測定用電極を回転させることにより、その時点での酸素還元反応の電流値の測定・評価を行った。電流値の測定は、室温において、酸素を飽和させた状態、窒素を飽和させた状態でそれぞれ行い、酸素を飽和させた状態での測定で得られた電流値から、窒素を飽和させた状態での測定で得られた電流値を引いた値を酸素還元の電流値とした。そして、得られた酸素還元の電流値から、可逆水素電極に対して0.6Vにおける電流密度を算出し、その値から酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。なお、測定装置及び測定条件は、それぞれ以下の通りである。
測定装置:
RRDE−2回転リングディスク電極装置、ALSモデル701Cデュアル電気化学アナライザー(いずれも、ビー・エー・エス株式会社製)
測定条件:
セル溶液:0.05モル/L硫酸水溶液(酸素飽和)
溶液温度:25℃
参照電極:銀/塩化銀電極(飽和塩化カリウム)
カウンター電極:白金ワイヤー
掃引速度:5mV/秒
電極回転速度:600rpm
【0117】
【表2】

【0118】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の変性物は、電流密度が高いことから、従来の変性物に比べ酸素還元能(すなわち、酸素還元触媒活性)に優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、レドックス触媒として利用可能であり、特に、燃料電池用電極触媒、膜劣化防止剤、過酸化物の分解触媒、芳香族化合物の酸化カップリング触媒、排ガス及び排水の浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒、二酸化炭素の還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサー、医農薬や食品の抗酸化剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を配位子とする金属錯体と、カーボン担体と、を含む混合物を、500℃以上で変性処理して得られたことを特徴とする変性物。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。Q1は、下記一般式(i)又は(ii)で表される2価の基である。)
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の変性物。
【化3】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記金属錯体中の金属原子又は金属イオンの金属種が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は白金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変性物。
【請求項4】
前記変性処理が600〜1200℃での加熱処理であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の変性物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変性物と、カーボン担体及び/又は高分子化合物と、を含むことを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変性物又は請求項5に記載の組成物を含むことを特徴とする触媒。
【請求項7】
請求項6に記載の触媒からなることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項8】
下記一般式(2)で表される化合物。
【化4】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基であり;Rはヒドロカルビル基であり;複数のR、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;R同士、R同士及びR同士は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項9】
前記一般式(2)で表される化合物と、金属原子又は金属イオンと、からなる金属錯体。
【請求項10】
前記金属原子又は金属イオンの金属種が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は白金である請求項9に記載の金属錯体。

【公開番号】特開2012−111703(P2012−111703A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260594(P2010−260594)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】