説明

変態塑性ひずみ測定装置および変態塑性ひずみ測定方法

【課題】冷却速度の速い変態の変態塑性係数を推定し、変形塑性ひずみを求めることができる変態塑性ひずみ測定装置および変態塑性ひずみ測定方法を提供する。
【解決手段】供試片3を収納するとともに加熱、急冷するための容器1と、供試片3の温度を測定する熱電対8と、急冷却中の供試片3の変形量を測定するレーザー変位計12と、熱電対8によって測定された供試片温度およびレーザー変位計12によって測定された変形量に基づいて変態塑性係数を定め、その変態塑性係数を用いて変態塑性ひずみを算出するデータ収集・解析装置9とを備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変態を伴う冷却過程の材料について変態塑性ひずみを測定する測定装置およびその測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼入処理のように冷却に供せされる材料について変形予測、応力予測することは、製品の品質を管理したり製造工程を管理する上で重要課題となっている。
【0003】
冷却を伴う材料の強度特性は、従来から引張試験、圧縮試験等によって測定されてきたが、変態温度域の強度特性に関しては、変態に伴って生じる膨張または圧縮のひずみと、変態進行時に応力を受けることによって生じる変態塑性ひずみとを分離することが困難であるという課題があった。
【0004】
変態時の膨張または圧縮のひずみを無視しうる簡便なひずみ推定方法として、「鋼材の変態塑性ひずみの推定方法」が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記推定方法は、冷却中または加熱中の鋼材供試片に曲げ荷重を与えたときのたわみ量を測定し、温度とたわみ量の関係を示すたわみ曲線に基づいて変態塑性ひずみを求めるものである。
【0006】
詳しくは、変態時の力学挙動を数値モデル化し、弾性ひずみε、塑性ひずみε、熱ひずみε、変態塑性ひずみεtrの総和を全ひずみ(実際に測定できるひずみ)εと定義し、
全ひずみεを
ε=ε+ε+ε+εtr
で表している。
【0007】
上記式の右辺において変態塑性ひずみεtrについては、曲げ試験を行なった際のたわみが荷重および変態の進行に依存するという実験結果に基づき、応力の関数として、
dεtr/dt=A・σn
で表している。ただし、dεtrは変態塑性ひずみ増分、dtは時間増分、Aは係数、σは相当応力、nは係数である。したがって、実験によりたわみ量が明らかになると、上記係数A,nを一意に求めることができる。
【0008】
また、大気放冷する場合のように冷却速度dT/dtが一定である場合は、
変態塑性ひずみεtrは、温度の関数として
dεtr=K・σ・dT
で表すことができ、異なる荷重条件の下で変態塑性ひずみを推定することができるようになる。なお、上記Kは材料によって決まる変態塑性係数である。
【特許文献1】特開2002−202233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、加熱後の材料(供試片)を油中や水中に浸漬して急冷する場合には、均一に冷却されず冷却速度も一定でないため、このような冷却速度の速い(50℃/秒以上)変態(マルテンサイト変態)については、変態塑性係数Kが明確にされておらず、変態塑性ひずみの測定精度を向上させる上で課題となっている。
【0010】
本発明は以上のような従来の変態塑性ひずみ測定方法における課題を考慮してなされたものであり、冷却速度の速い変態を伴う材料の変態塑性係数を明確にし、変態塑性ひずみの測定精度を向上させることができる変態塑性ひずみ測定装置および変態塑性ひずみ測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の形態としての変態塑性ひずみ測定装置は、供試片を収納するとともに加熱、急冷するための容器と、供試片の温度を測定する温度測定手段と、急冷却中の供試片の変形量を測定する変形量測定手段と、温度測定手段によって測定された供試片温度および変形量測定手段によって測定された変形量に基づいて変態塑性係数を定め、その変態塑性係数を用いて変態塑性ひずみを算出する変態塑性ひずみ算出手段と、を備えてなることを要旨とする。
【0012】
上記変態塑性ひずみ測定装置において、上記容器に、加熱手段を備えた加熱室と冷却剤を貯留した冷却室を備えることができる。
【0013】
上記冷却剤の具体例としては、油、水、ポリマー(冷却能を調整するための)を添加した水溶性焼き入れ液等を使用することができる。
【0014】
また、この構成において、加熱室と冷却室の間で供試片を移動させる供試片移動機構を備えれば、加熱した供試片を冷却室に移動させて冷却剤中に浸漬させ、供試片を急冷することができる。
【0015】
また、容器の一部に覗窓を有し、変形量測定手段としてレーザー変位計を備えれば、覗窓を通して供試片の温度を非接触で測定することができる。
【0016】
また、供試片として、一方が自由端であり他方が固定された軸体を有し、この軸体を異形断面にすれば、供試片の変形を誘発させて変形量を効率良く測定することができるようになる。
【0017】
本発明の第二の形態としての変態ひずみ測定方法は、供試片を加熱後、急冷し、急冷却中の上記供試片の温度と変形量を測定し、測定された温度および変形量に基づいて変態塑性係数を定め、その変態塑性係数を用いて変態塑性ひずみを算出することを要旨とする。
【0018】
上記変態塑性ひずみ測定方法において、供試片の変形量εを下記(1)式によって定義し、
ε=ε+ε+ε+ε+εtr ……(1)
ただし、ε:弾性ひずみ、ε:塑性ひずみ、ε:クリープひずみ、
ε:熱ひずみ、εtr:変態塑性ひずみ
各ひずみε,ε,ε,εを一般的な構造解析により求め、
変態塑性ひずみεtrを下記(2)式によって定義し、
εtr=(2/3)K(1−ξ)ξσ ……(2)
ただし、ξ:体積分率、σ:相当応力、n:定数、K:変態塑性係数
測定時に求められる変形量εからεtrを求め、ξ、σを既知数とし、変態塑性係数Kを未知数として求めることができる。
【0019】
また、上記変態塑性ひずみ測定方法では、加熱した供試片を冷却剤中に浸漬させて急冷する。
【0020】
また、上記変態塑性ひずみ測定方法では、一方が自由端であり他方が固定された異形断面からなる軸体を、上記供試体とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の変態塑性ひずみ測定装置および変態塑性ひずみ測定方法によれば、冷却速度の速い変態を伴う材料についても変態塑性係数を定めることが可能になり、その変態塑性係数を用いて変形塑性ひずみを正確に求めることができるという長所を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0023】
〈 変態塑性ひずみ測定装置 〉
図1は、本発明に係る変態塑性ひずみ測定装置の第一の構成を示す正面断面図であり、冷却槽を備えたものである。
【0024】
同図において、1は天板1aと底板1bを有する円筒状容器で構成された加熱チャンバーであり、内径が略300mmからなるその加熱チャンバー1の天板1aからクロスヘッド(供試体移動機構)2を介して供試片3が垂下されている。
【0025】
詳しくは、クロスヘッド2は、流体圧シリンダ2aからロッド2bが伸縮されることによって加熱室A内を矢印B方向に昇降するようになっており、クロスヘッド2の下端に供試片3の上端が片持ち状態で固定されている。なお、ロッド2bの昇降はスリーブ2cによってガイドされている。
【0026】
クロスヘッド2は、図示しないドライバを介して自動操作することができるように構成されているが、手動操作によってその昇降量、昇降速度を制御するものであってもよい。
【0027】
また、加熱チャンバー1には真空ポンプ4と不活性ガスを蓄えたタンク5が接続されている。
【0028】
真空ポンプ4を駆動して加熱チャンバー1内を減圧した後、バルブ6を開けば、タンク5内の不活性ガス、例えばアルゴンガスが加熱チャンバー1内に導入され、チャンバー内を不活性ガス雰囲気に置換することができるようになっている。それにより、加熱後の供試片3の酸化を防止するようになっている。
【0029】
また、供試片3の周囲を巻回するようにして誘導コイル(加熱手段)7が配置されており、供試片3を所定の温度に高周波加熱するようになっている。なお、誘導コイル7は上記スリーブ2cに固定されている。
【0030】
加熱された供試片3の温度は熱電対(温度測定手段)8によって測定され、測定された温度信号Sはデータ収録・解析装置(変態塑性ひずみ算出手段)9に与えられるようになっている。
【0031】
このデータ収集・解析装置9は、後述する熱伝導解析部9aと変形予測部9bとを有し、さらに数値や指令を入力するための入力部9cを備えている。
【0032】
上記熱電対8は供試片3の中心部にその感温部を埋設することが好ましい。また、供試片3の温度分布を正確に把握するには、供試片3の外面にも熱電対8を取り付けることが好ましい。なお、熱電対8の取付け箇所が制限される場合には、予め、供試片3の熱伝導、例えば温度勾配を実験にて求めておき、供試片3の一カ所に取り付けた熱電対8で内部温度を推定することもできる。
【0033】
また、供試片3の放射率を特定することができれば、例えば赤外線サーモグラフィーや放射温度計等の非接触式温度計を使用することもできる。
【0034】
赤外線サーモグラフィーは、知られているように、物体から出る赤外線エネルギをセンサで検知し、赤外線エネルギを温度に変換し、物体の温度分布をモニタ上に色パターンで画像出力するものであり、加熱チャンバー1内で昇降する供試片3の表面温度を測定することができる。なお、このような温度解析に使用される赤外線サーモグラフィーは、0.1℃の分解能を備えたものであれば足りる。
【0035】
また、供試片3の昇降動作に追尾できる機構を備えれば、上記放射温度計を使用することもできる。
【0036】
また、加熱チャンバー1の下部1cは、冷却用油(または水)Cを貯留するための冷却槽(冷却室)10として構成されており、この冷却槽10の上部には冷却槽10内の空気が加熱室A内に流れることを阻止するための遮蔽蓋11aが設けられ、さらにその遮蔽蓋11aの中央にはスライド式の開閉扉11bが設けられている。
【0037】
上記開閉扉11bは供試片3の冷却時、すなわち、供試片3を降下させて冷却用油C内に浸漬する場合にのみ開くようになっている。
【0038】
冷却用油C中に浸漬された供試片3における自由端側の曲げは、レーザー変位計(変形量測定手段)12によって測定され、変位信号Sは上記データ収集・解析装置9に与えられるようになっている。
【0039】
なお、上記冷却用油Cは、レーザー変位計12からのレーザー光を屈折することなく供試片3に照射できるように、透明に調整されたものを使用している。
【0040】
また、供試片3の変位測定は上記したレーザー変位計12に限らず、カメラで撮影した画像を画像処理することによっても測定することもできる。
【0041】
なお、図1中、1dは透明窓部を示している。
【0042】
図2は本発明に係る変態塑性ひずみ測定装置の第二の構成を示す正面断面図であり、冷却槽を備えていないものである。なお、図1と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。また、説明を簡単にするため、クロスヘッド2、誘導コイル7は図示を省略している。
【0043】
図2(a)は冷却前の状態を示している。
【0044】
冷却槽10を備えていない代わりに冷却用油C(または水)を貯留したタンク13を備えており、このタンク13はバルブ14を備えた管路15によって加熱チャンバー1と接続されている。したがって、バルブ14を開くと、タンク13内の冷却用油Cが加熱室A内に供給される。
【0045】
図2(b)は冷却開始時の状態を示している。
【0046】
バルブ14が開かれることによって加熱室A内に油が充填される。
【0047】
加熱された供試片3の温度は図1に示した方法と同様に、熱電対8によって測定され、測定された温度信号Sはデータ収録・解析装置9に与えられるようになっている。
【0048】
冷却用油C中に浸漬された供試片3自由端側の曲げは、レーザー変位計12によって測定され、変位信号Sは上記データ収録・解析装置9に与えられるようになっている。
【0049】
このようにして図3に示すような変位曲線が求められ、この結果を用いてデータ収録・解析装置9が予め記憶されているプログラムを実行することにより、変態塑性ひずみを計算するようになっている。
【0050】
また、データ収録・解析装置9は、熱電対8によって連続的に測定された温度と、レーザー変位計12によって連続的に測定された変位量とをそれぞれ対応させて内部メモリに記憶する。なお、熱電対8の計時とレーザー変位計12の計時は同期させる。
【0051】
次に、時間の経過に対応する曲げ変形量Xから図4に示すような変位曲線を計算する。この変位曲線は、モニタ(図示しない)の画面上に表示したり、プリンタに印刷出力してもよい。
【0052】
〈 供試片 〉
図4は上記供試片3の形状を示したものであり、(a)は正面図、(b)はその端面図を示している。
【0053】
本発明で使用される供試片3は、冷却の不均一による一方向への曲がりを誘発するように異形断面に形成されており、SCR420(表1の成分参照)の鋼軸(φ10mm×長さ100mm)の軸全長にキー溝3aを形成している。
【0054】
【表1】

【0055】
なお、断面形状を異形とする場合、図4に示した断面形状に限らず、図5に示すような三日月状断面を有する鋼軸であってもよく、また、半円状断面を有する鋼軸(図示しない)であってもよい。
【0056】
供試片3の表面熱伝達率は予め測定されており、図6に示すような特性を描く。
【0057】
(実施例)
供試片3を図1に示した変態塑性ひずみ測定装置のクロスヘッド2に取り付けた。
【0058】
真空ポンプ4を駆動させることにより加熱チャンバー1内を脱気した後、バルブ6を開いて加熱チャンバー1内をアルゴン置換した。
【0059】
次に、誘導コイル7に高周波電流を流し、供試片3を850℃まで加熱した。
【0060】
供試片3の温度は、その供試片3にスポット溶接したK熱電対(構成材料:クロメル−アルメル)によって連続的に計測した。
【0061】
加熱開始から30分経過した時点で開閉扉11bを開き、クロスヘッド2を介して供試片3を冷却槽10内の冷却用油C中に浸漬させた。
【0062】
なお、冷却用油Cは透明に調整されたものであって温度範囲としては60〜120℃が好ましい。
【0063】
レーザー変位計12によって、供試片3において自由端側の曲げ変形量Xを連続的に測定した。
【0064】
図7は、こうして経時的に測定された曲げ変形量を示したものである。
【0065】
この値を有限要素法によって変位解析することにより、後述するように、変態塑性ひずみを定めることが可能になる。なお、変位予測の計算手法としては、有限要素法の他に差分法などを採用することができる。
【0066】
なお、図7に示した変位曲線について説明すると、一般的に、冷却に伴って材料が縮小する。ところが、変態が進行する(冷却に伴って変態が進む)場合には、キー溝の切っている側の方が速く冷えるため、始めにキー溝側がマイナス側(図中D参照)に変形し、変態時に逆方向に曲がり始める(図中E参照)。したがって、約2〜4秒の区間(極小〜極大区間)で変態していると考えられる。
【0067】
〈 変態塑性ひずみの測定方法 〉
次に、データ収録・解析装置9によって変態塑性ひずみを求める手順について説明する。
【0068】
鋼を冷却すると鋼中に温度分布が生じ、その温度分布による熱応力が発生する。
【0069】
変態によって変態応力が発生することは文献等によって報告されている通りであり、組織、温度、応力/ひずみを関連させて解析することが従来から行なわれている。
【0070】
しかしながら、鋼を急冷した場合に生じる変態によって変態応力がどのような影響を受けるかは、変態塑性係数が明確でないため十分に解析されていない。
【0071】
そこで、本発明では下記の手順によってまず、変態塑性係数Kを求めている。
【0072】
a.熱伝導解析部9aによる熱伝導解析
応力仕事や潜熱による発熱がある場合の熱伝導解析では、温度Tの場を下記式(3)の熱伝導方程式によって求めている。
【0073】
【数1】

【0074】
ここで、ρ、c、kはそれぞれ密度、比熱、熱伝導率であり、入力部9cを介して熱伝導解析部9aに入力される。なお、潜熱を考慮した右辺、第二項においてLIJおよびξIJは、組織IからJへの変態における潜熱および組織Jの体積分率である。
【0075】
ξIJは、下記式(4)に示されるように、温度Tと時間tで決まるものであり、冷却速度一定の条件で温度と時間との関係を求めた連続冷却変態図(CCT線図)や、温度一定の条件で温度と時間との関係を求めた等温変態図(TTT線図)を用いて定式化しておく。
【0076】
【数2】

【0077】
例えば、マルテンサイト拡散型変態の場合、mageeの式(下記式(5))が用いられることが多い。
【0078】
【数3】

【0079】
なお、上記式(4)、(5)では応力の項を影響が小さいとみなして省略している。
【0080】
式(5)において、Msは変態開始温度、Aは係数である。これらMsおよびAは上記CCT線図またはTTT線図を用いて決定する。
【0081】
ただし、変態が進行する場合、変態潜熱によって温度が変化するため、式(3)、(5)を連成して解く必要がある。
【0082】
熱伝導解析部9aは、与えられた条件、および供試片3の冷却過程において熱電対8によって測定された供試片3の温度に基づき、有限要素法に基づいて温度T、体積分率ξを求め、これらの値をさらに変形予測部9bに与える。
【0083】
b.変形予測部9bによる応力解析
運動方程式を解いて下記式(6)の右辺の各ひずみを求める。
【0084】
【数4】

【0085】
ここで、εは全ひずみ、ε、ε、ε、ε、εtrは、それぞれ、弾性ひずみ、塑性ひずみ、クリープひずみ、熱ひずみ、変態塑性ひずみである。ただし、式(6)中のドット記号は時間微分を示している。
【0086】
上記ε、ε、ε、εについては、一般的な構造解析で用いられているため、詳細な説明を省略するが、例えば下記式(7)に示す、
【0087】
【数5】

σは応力、Eやヤング率。
【0088】
引張試験結果で得られる応力ひずみ関係式や、
例えば下記式(8)式に示す、
【0089】
【数6】

αTは温度Tにおける線膨張係数、ΔTは温度増分(変態膨張、変態収縮を含む)。
【0090】
本発明では、これらのひずみに対し変態塑性ひずみεtrを加味するものである。
【0091】
上記変態塑性ひずみεtrは、変態の進行(体積分率の変化率(1−ξ)、組織の体積分率ξドット)、応力σの関数であり、下記式(9)などが用いられる。
【0092】
【数7】

【0093】
このとき、変態塑性ひずみεtrを決めるための係数Kが変態塑性係数であり、材料によって一意に決まるとされている。なお、係数nも実験的に求める必要があるが、低応力ではn=1とみなすことができる。
【0094】
本発明の変態塑性ひずみ測定方法は、上記変態塑性係数Kを定め、その変態塑性係数Kに基づいて変態塑性ひずみεtrを計算するものである。
【0095】
なお、本発明は従来、明確にされていなかった変態塑性係数Kの値を定めることを特徴とするものであるから、その変態塑性係数Kを利用して変態塑性ひずみεtrを求める計算式としては、式(9)に限らず、下記に示す定義式(10)を使うこともできる。
【0096】
【数8】

【0097】
次いで、上記変態塑性係数Kを用いて計算された時刻tにおける曲げ変形量Xと実測した曲げ変形量X′とを比較し、
X−X′<許容誤差p
であるかどうかを判断する。
【0098】
判断の結果、noであれば、K+ΔKを、仮定した変態塑性係数Kとして再度、変形予測部9bに与え、曲げ変形量Xを計算する。
【0099】
その結果が許容誤差pを下回れば、次に時刻t=t+Δtとして、変形が進行する供試片3について変態塑性係数Kを経時的に計算していく。なお、変態塑性係数Kの値は基本的に材料によって一つに定まるものであるが、計算によって複数求められる場合にはそれらの平均をとってもよい。
【0100】
このように、変形予測部9bによって定められた変態塑性係数Kを用い、ひずみ算出部9cは時刻t毎の変態塑性ひずみεtrを計算する。
【0101】
したがって、上記変態塑性ひずみ測定方法によれば、変態塑性ひずみεtrを正確に計算することができるため、材料の強度評価や変形の予測を行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る変態塑性ひずみ測定装置の第一の構成を示す正面断面図である。
【図2】変態塑性ひずみ測定装置の第二の構成であり、(a)は冷却前の状態を示す図1相当図、(b)は冷却開始時の状態を示す図1相当図である。
【図3】本発明の変態塑性ひずみ測定装置によって測定された曲げ変形量のグラフである。
【図4】(a)は本発明の変態塑性ひずみ測定装置に使用される供試片形状を示す正面図、(b)はその端面図である。
【図5】(a)は別の供試片形状を示す正面図、(b)はその端面図である。
【図6】図4に示す供試片の表面熱伝達率を示したグラフである。
【図7】実施例の変態塑性ひずみ測定装置によって測定された曲げ変形量のグラフである。
【符号の説明】
【0103】
1 加熱チャンバー
2 クロスヘッド
2a 流体圧シリンダ
3 供試片
4 真空ポンプ
5 タンク
6 バルブ
7 誘導コイル
8 熱電対
9 データ収集・解析装置
9a 熱伝導解析部
9b 変形予測部
9c 入力部
10 冷却槽
11a 遮蔽蓋
11b 開閉扉
12 レーザー変位計
13 タンク
14 バルブ
15 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試片を収納するとともに加熱、急冷するための容器と、
上記供試片の温度を測定する温度測定手段と、
急冷却中の上記供試片の変形量を測定する変形量測定手段と、
上記温度測定手段によって測定された供試片温度および上記変形量測定手段によって測定された変形量に基づいて変態塑性係数を定め、その変態塑性係数を用いて変態塑性ひずみを算出する変態塑性ひずみ算出手段と、を備えてなることを特徴とする変態塑性ひずみ測定装置。
【請求項2】
上記容器に、加熱手段を備えた加熱室と冷却剤を貯留した冷却室が備えられている請求項1記載の変態塑性ひずみ測定装置。
【請求項3】
上記加熱室と上記冷却室の間で上記供試片を移動させる供試片移動機構が備えられている請求項2記載の変態塑性ひずみ測定装置。
【請求項4】
上記容器の一部に覗窓を有し、上記変形量測定手段としてレーザー変位計が備えられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の変態塑性ひずみ測定装置。
【請求項5】
上記供試片として、一方が自由端であり他方が固定された軸体を有し、この軸体が異形断面からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の変態塑性ひずみ測定装置。
【請求項6】
供試片を加熱後、急冷し、急冷却中の上記供試片の温度と変形量を測定し、測定された温度および変形量に基づいて変態塑性係数を定め、その変態塑性係数を用いて変態塑性ひずみを算出することを特徴とする変態塑性ひずみ測定方法。
【請求項7】
上記供試片の変形量εを下記(1)式によって定義し、
ε=ε+ε+ε+ε+εtr ……(1)
ただし、ε:弾性ひずみ、ε:塑性ひずみ、ε:クリープひずみ、
ε:熱ひずみ、εtr:変態塑性ひずみ
各ひずみε,ε,ε,εを一般的な構造解析により求め、
変態塑性ひずみεtrを下記(2)式によって定義し、
εtr=(2/3)K(1−ξ)ξσ ……(2)
ただし、ξ:体積分率、σ:相当応力、n:定数、K:変態塑性係数
測定時に求められる変形量εからεtrを求め、ξ、σを既知数とし、変態塑性係数Kを未知数として求めることを特徴とする請求項6記載の変態塑性ひずみ測定方法。
【請求項8】
加熱した上記供試片を冷却剤中に浸漬させて急冷する請求項6または7記載の変態塑性ひずみ測定方法。
【請求項9】
一方が自由端であり他方が固定された異形断面からなる軸体を、上記供試体とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の変態塑性ひずみ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−278842(P2007−278842A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105486(P2006−105486)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】