説明

変異体フミコーラ・グリセアCBH1.1

【課題】バイオマスセルロースの効率的な加水分解方法の提供。
【解決手段】フミコーラ・グリセアCel7A(CBH1.1)変異体、H.jecorina変異体またはS.thermophilium CBHI、これらをエンコードする核酸及びこれらを生成する方法。当該変異体セルラーゼはファミリー7Aのグリコシル加水分解酵素のアミノ酸配列を有し、1以上のアミノ酸残基が置換されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2003年4月1日に出願された米国仮出願番号60/459,734号(代理人整理番号、GC794P)に基づく優先権を主張するものであり、これをここに引用する。
連邦政府後援による研究開発のもと行われた発明に対する権利に関する陳述
【0002】
この研究の一部は、米国エネルギー省の元契約番号DE−AC36−99GO10337の下、再生可能エネルギー研究所の下請け番号ZCO−0−30017−01により資金援助されたものである。従って、米国政府は本発明における特定の権利を有し得る。
発明の分野
【0003】
本発明はセロビオヒドロラーゼI(CBH1またはCBHIともいう)活性を有するポリペプチド及び当該ポリペプチドをエンコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドに関する。また、本発明は核酸構築体、ベクター、及び当該核酸構築体を含む宿主細胞、並びに当該ポリペプチドを生成及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
セルロースは重要な工業的原料であり、再生可能エネルギーの供給源である。天然セルロースの物理的構造及び形態は複雑であり、その構造の細部を実験的に測定することは難しい。しかしながら、セルロースの化学組成は単純であり、β−1,4−グリコシド結合により結合したD−グルコース残基からなり直鎖を形成する。
【0005】
効率をよくするため、セルロース消化は協調的に作用する数種の酵素を必要とする。少なくとも3つの酵素カテゴリーがセルロースをグルコースに変換するために必要である:ランダムにセルロース鎖を切断するエンド(1,4)−β−D−グルカナーゼ(EC3 1.4);セルロース鎖末端からセロビオシル単位を切断するセロビオヒドロラーゼ(EC3 1.91)及びセロビオース及び可溶性セロデキストリンをグルコースに変換するβ−グルコシダーゼ(EC3 1.21)。セルロース生分解に関する酵素のこれら3つのカテゴリーの中で、セロビオヒドロラーゼは天然結晶セルロース分解のために主要な酵素である。エキソ−セロビオヒドロラーゼ(セロビオヒドロラーゼ1またはCBH1)は、セルロースポリマー鎖の非還元末端からセロビオースを加水分解することによりセルロースを分解するセロビオヒドロラーゼをいう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セロビオヒドロラーゼI活性を有する改善されたポリペプチド及び当該ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドを提供することが本発明の目的である。改善されたポリペプチドは改善された特異活性及び/または改善された安定性、特に改善された熱安定性を有することができる。
【0007】
セルラーゼ組成物についての開示は従来からあるが、家庭用洗剤、ストーンウォッシュ組成物または洗濯用洗剤等に使用するための新規で改善されたセルラーゼ組成物の必要性が依然として残っている。改善された性能を示すセルラーゼは特に関心が高い。
[先行技術文献]



【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1はH.グリセアCBH1.1のゲノムDNA配列である(配列番号1)。推測上のイントロンは太字、下線で示す。
【図2】図2はH.グリセアCBH1.1のcDNA配列である(配列番号2)。推測上のイントロン配列(図1中のヌクレオチド413−472)は欠失させた。
【図3】図3はH.グリセアCBH1.1のシグナル配列及び成熟アミノ酸配列である(配列番号3)。シグナル配列は太字、下線で示す。
【図4】図4はH.グリセアCBH1.1の成熟アミノ酸配列である(配列番号4)。
【図5】図5は2つの公知及び変異体フミコーラ・グリセアCBH1.1成熟配列の配置を示す。2つの公知配列はX17258(配列番号5)及びD63515(配列番号6)である。
【図6】図6はpRAX1プラスミドである。このベクターは、アスペルギルス・ニデュランスゲノムDNA断片AMA1配列の5259bpHindIII断片(Molecular Microbiology 1996 19:565−574)を挿入した以外は、プラスミドpGAPT2に基づく。塩基1〜1134はアルペルギルス・ニガー・グルコアミラーゼ遺伝子プロモーターを含む。塩基3098〜3356及び4950〜4971はアルペルギルス・ニガー・グルコアミラーゼターミネーターを含む。アスペルギルス・ニデュランスpyrG遺伝子を真菌形質転換のためのマーカーとして3357〜4949に挿入した。遺伝子を挿入できるマルチクローニング部位(MCS)が存在する。
【図7】図7はpRAXdes2ベクター骨格である。このベクターはプラスミドpRAX1に基づく。ゲートウェイ(Gateway)カセットをpRAXベクター内に導入した(環状プラスミド内部の矢印によって示す)。このカセットは組換え配列attR1及びattR2及び選択マーカーcatH及びccdBを含む。当該ベクターはGateway(登録商標)クローニングテクノロジー:バージョン1、第34−38頁のマニュアルに従って作り、インビトロジェン(Invitrogen)の大腸菌DB3.1中でのみ複製でき、その他の大腸菌宿主中では、当該ccdB遺伝子は死滅する。まず、PCR断片をattB1/2組換え配列を含むプライマーを用いて作る。この断片はpDONR201(インビトロジェンから市販)で組換え、このベクターは組換え部位間にcatH及びccdBを有するattP1/2組換え配列を含む。インビトロジェンのBPクロナーゼ酵素はこのいわゆるENTRY(エントリー)ベクター内のPCR断片を組換えるために用い、挿入されたPCR断片を有するクローンはccdBを発現するクローンが生き残らないので50μg/mlカナマイシンで選択できる。ここでatt配列を変異し、attL1及びattL2と呼ぶ。第2の工程はpRAXdes2ベクターを用いたこのクローンの組換えである(組換え部位間にattR1及びattR2 catH及びccdBを含む)。インビトロジェンからのLRクロナーゼ酵素は目的ベクター内にENTRYベクターからの挿入を組込むために用いる。100μg/mlアンピシリンを用いると、ccdBは死滅し、ENTRYベクターはアンピシリンに感受性であるので、pRAXCBH1ベクターのみが選択される。この方法により発現ベクターが調製され、A.ニガーを形質転換するために用いることができる。H.グリセアCBH1.1発現はアスペルギルス・グルコアミラーゼプロモーター及びターミネーター制御下にある。形質転換マーカーpyrG遺伝子及びAMA1配列はアスペルギルス・ニデュランス由来である。
【図8】図8はアスペルギルス中、CBH1.1をエンコードする核酸を発現するために用いたpRAXdes2cbh1ベクターの説明である。CBH1.1酵素変異体をエンコードする核酸はatt配列の相同組換えによりベクター内にクローンした。
【図9】図9は、基質として前処理伐採残(コーンストーバー)(PCS)を用いた1日、38℃及び15mgの全酵素/gセルロースでの、セルロース変換分析における種々のCBH1セルラーゼ活性を示す。この分析は約50:50質量比で試験CBH1.1サンプルとCBH1が欠失されたT.リーゼイ株成長から得た上澄みを混合する。この分析において38℃でH.グリセアCBH1.1は特徴を示さない。 凡例:delCBHIはその内生CBH1が欠失された株である;CBH1欠失である。rCBH1はT.リーゼイCBH1遺伝子が挿入されたA.ニガー株由来の精製酵素である。A.ニガーはその内生セルラーゼCBHCを過剰発現するA.ニガー株由来の精製CBHBである。H.シュワイニッチィ/Anは、挿入されたヒポクレア・シュワイニッチィ由来の異種CBH1遺伝子を発現するA.ニガー株由来の精製CBH1である。T.プソイドコニンギ/Anは、挿入されたトリコデルマ・プソイドコニンギ由来の異種CBH1遺伝子を発現するA.ニガー株由来の精製CBH1である。H.グリセア/An−1は挿入されたH.グリセア由来の異種CBH1.1遺伝子を発現する第1のA.ニガークローン由来の精製CBH1.1である。H.グリセア/An−2は挿入されたH.グリセア由来の異種CBH1.1遺伝子を発現する第2のA.ニガークローン由来の精製CBH1.1である。H.グリセア/An−1及びH.グリセア/An−2はH.グリセア変異体CBH1.1遺伝子を含むA.ニガーの同じ形質転換由来の2つのクローンである。
【図10】図10は、基質として前処理伐採残(コーンストーバー)を用いた1日、65℃及び15mgの全酵素/gセルロースでの、セルロース変換分析におけるCBH1セルラーゼ活性を示す。この分析は約50:50質量比で試験CBH1サンプルとCBH1が欠失されたT.リーゼイ株成長から得た上澄みを混合する。この分析において38℃でH.グリセアCBH1.1は特徴を示さない。38℃の結果と異なり、H.グリセアCBH1.1サンプルの両方ともその他のサンプルよりも明らかに良い。凡例:図9と同じ。
【図11】図11は、基質として前処理伐採残(コーンストーバー)(PCS)を用いた1日、38℃及び15mgの全酵素/gセルロースでの、セルロース変換分析におけるH.グリセアCBH1.1及びT.リーゼイCBH1セルラーゼ活性を示す。この分析は約50:50質量比で試験CBH1.1サンプルとCBH1が欠失されたT.リーゼイ株成長から得た上澄みを混合する。この分析において38℃でH.グリセアCBH1.1は特徴を示さない。天然CBH1(nCBH1)を当業者に公知の方法を用いてT.リーゼイセルラーゼ全体から精製した(ここに記載のCBHの精製方法を参照)。
【図12】図12は、基質として前処理伐採残(コーンストーバー)を用いた1日、65℃及び15mgの全酵素/gセルロースでの、セルロース変換分析のみにおけるH.グリセア及びT.リーゼイrCBH1酵素の活性の結果を示す。この分析は約50:50質量比で試験CBH1サンプルとCBH1が欠失されたT.リーゼイ株成長から得た上澄みを混合する。38℃の結果と異なり、H.グリセアCBH1.1サンプルはT.リーゼイよりも良い。
【図13A】種々の時点で測定したリン酸膨潤セルロース(PASC)についてのセルロース変換分析におけるCBHIセルラーゼ活性を示す。パネルAにおいて、温度38℃、120分間にわたって測定する。
【図13B】種々の時点で測定したリン酸膨潤セルロース(PASC)についてのセルロース変換分析におけるCBHIセルラーゼ活性を示す。パネルBにおいて、温度65℃で測定した。
【図13C】種々の時点で測定したリン酸膨潤セルロース(PASC)についてのセルロース変換分析におけるCBHIセルラーゼ活性を示す。パネルCにおいて、温度70℃で測定した。変異体H.グリセアCBH1.1はどの測定時点においてもT.リーゼイCBH1よりもセロビオースを多く放出することがわかる。
【図14A】スキタリジウム(Scytalidium)thermophilium CBH1のゲノムDNA(配列番号7)配列を示す。
【図14B】スキタリジウム(Scytalidium)thermophilium CBH1のcDNA(配列番号8)配列を示す。
【図14C】スキタリジウム(Scytalidium)thermophilium CBH1のアミノ酸(配列番号9)配列を示す。当該アミノ酸配列はシグナル配列を含む。
【図15】図15は、H.グリセア CBH1.1、H.jecorina CBH1(配列番号10)及びスキタリジウム・thermophilium CBH1(配列番号11)の成熟型配置(すなわち、シグナル配列を含まない)を示す。また、コンセンサス配列も示す(配列番号12)。H.jecorina CBH1触媒ドメイン中の6つの残基を太字、下線で示し、当該部位が高められた安定性に重要である可能性を示す。
【図16】図16はH.グリセア CBH1.1及びS.thermophilium CBH1の熱安定性プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、参照目的のみにより以下の定義及び実施例を用いて詳細を説明する。ここに引用する全ての特許及び文献は、当該特許及び文献内に開示される全ての配列も含めて、明示的にここに引用するものとする。
特段に示す場合を除いて、ここで用いる全ての技術及び科学用語は、本発明の属する当業者にとって理解される意味と同じ意味を有する。Singleton、他、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(微生物学及び分子生物学の辞典)、第2版、John Wiley and Sons、New York(1994)、及びHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology,Harper
Perennial,NY(1991)は当業者に本発明で用いる多くの用語の一般的な辞書を提供するものである。ここに記載の方法及び物質に類似または同等のいかなる方法及び物質も本発明を実施及び試験する際に用いることができるが、好ましい方法及び物質を記載する。数値範囲は範囲を定める数字を含める。別に示す場合を除いて、それぞれ核酸は左から右に5’〜3’方向;アミノ酸配列は左から右にアミノからカルボキシ方向に記載する。実務者は特にSambrook et al.、1989、及びAusubel FM et al.、1993を当業界の定義及び用語のために参照できる。本発明は記載された特定の方法、手順及び試薬に限定されないことは、これらが種々多様であることから当然に理解される。
【0010】
ここに提供する表題は、明細書全体を参照することにより得られる本発明の種々の側面または実施態様を限定するものではない。従って、下記に定義する用語は明細書全体を参照することによりさらに十分に定義される。
ここに引用する全ての文献は、本発明に関連し得る組成物及び方法を記載及び開示する目的のため参照することによりここに明示的に引用する。
I.定義
【0011】
“セルラーゼ”、“セルロース分解酵素” “セルラーゼ酵素”は細菌性または真菌性エキソグルカナーゼまたはエキソセロビオヒドロラーゼ、及び/またはエンドグルカナーゼ、及び/またはβ−グルコシダーゼを意味する。
【0012】
“セルラーゼ”の語は、セルロースポリマーをより短いセロ−オリゴ糖オリゴマー、セロビオース及び/またはグルコースに加水分解できる酵素カテゴリーをいう。多数のセルラーゼの例、例えばエキソグルカナーゼ、エキソセロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ及びグルコシダーゼがセルロース分解性微生物、特に真菌及び細菌から得られる。これらの微生物から作られる酵素は、セルロースをグルコースに変換するのに有用な3種の作用を有するタンパク質の混合物:すなわち、エンドグルカナーゼ(EG)、セロビオヒドロラーゼ(CBH)、及びβ−グルコシダーゼである。これらの3つの異なる種類のセルラーゼ酵素はセルロース及びその誘導体をグルコースに変換するために相乗的に作用する。
多くの微生物はセルロースを加水分解する酵素を生成し、例えば真菌トリコデルマ、土壌細菌Thermomonospora、バチルス、及びセルロモナス;ストレプトマイセス;及び真菌フミコーラ、アルペルギルス及びフサリウムなどがある。
【0013】
“セロビオヒドロラーゼ1活性”とは、セルロース1,4−β−セロビオシダーゼ(エキソ−グルカナーゼ、エキソ−セロビオヒドロラーゼ、CBH1または1,4−β−セロビオヒドロラーゼとも呼ぶ)活性を意味し、酵素分類EC3.2.1.91として定義され、セルロース及びセロテトラオース中の1,4−β−D−グルコシド結合の加水分解を触媒し、セルロース鎖の非還元末端からセロビオースを放出する。本発明では、CBH1活性は実施例4に記載の手順に従って測定できる。
【0014】
“宿主細胞”の語はベクターを含み、複製及び/または転写または発現構築体の転写及び翻訳(発現)を助ける細胞を意味する。本発明で用いる宿主細胞は大腸菌などの原核細胞または酵母などの真核細胞、植物、昆虫、両生類または哺乳類細胞などの細胞である。通常、宿主細胞は糸状菌である。
【0015】
細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターに関して用いる“組換え体”の語は、該細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸またはタンパク質の挿入により、または天然核酸またはタンパク質の変異により修飾されたこと、または該細胞がそのように修飾された細胞由来であることを示す。従って、例えば、組換え細胞は当該細胞の天然(非組換え)型内では見られない遺伝子を発現し、または発現、または全く発現しない条件下で、通常は異常発現される天然遺伝子を発現する。
【0016】
“分泌シグナル配列”の語は、大ポリペプチドの構成要素として、ポリペプチドが合成される細胞の分泌経路から当該大ポリペプチドに導かれるポリペプチド(“分泌ペプチド”)をエンコードするDNA配列を示す。当該大ペプチドは普通は分割されて、分泌経路を通過する際に分泌ペプチドが取り除かれる。
【0017】
ここで用いる、“セルラーゼ調製物全体”及び“セルラーゼ組成物全体”の語句は交換可能に用いられ、天然及び非天然組成物の両方をいう。“天然”組成物は天然源により生成した組成物であり、1以上のセロビオヒドロラーゼ型、1以上のエンドグルカナーゼ型、及び1以上のβ−グルコシダーゼ成分を含み、これらの各成分は供給源より生じた比率で見られる。天然組成物はセルロース分解酵素が非修飾の微生物から生成したものであり、従って当該成分酵素の比率は天然微生物により生成したものから変更されていない。
【0018】
“非天然”組成物は、(1)天然比率または非天然、すなわち変更された比率で成分をセルロース分解酵素と混合;または(2)1以上のセルロース分解酵素を過剰発現または過少発現するように微生物を修飾;または(3)少なくとも1のセルロース分解酵素が欠失するように微生物を修飾、または(4)異種成分セルロース分解性酵素を発現するように微生物を修飾することにより生成したこれらの組成物を包含する。
【0019】
ここで用いる、“プロモーター”の語は下流遺伝子の転写に導くように作用する核酸配列をいう。プロモーターは通常、標的遺伝子が発現する宿主細胞に適したものである。プロモーターはその他の転写及び翻訳調節核酸配列(“制御配列”とも呼ぶ)と一緒に所定の遺伝子を発現するために必要である。通常、転写及び翻訳調節配列は、限定されないが、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列、翻訳開始及び停止配列及びエンハンサーまたは活性化配列を含む。プロモーターは下流遺伝子に通常関係するプロモーターであってもよく、または遺伝子に直接機能する限り、異種、すなわち他の遺伝子または他の微生物由来のものであってもよい。1の側面において、プロモーターは誘導性プロモーターである。1の側面において、プロモーターはジェンバンク(GenBank)にアクセッション番号D86235で寄託されているT.リーゼイcbh1プロモーターである。他の側面において、プロモーターはT.リーゼイ由来のcbhIIまたはキシラナーゼプロモーターである。
【0020】
例としては、A.アワモリまたはA.ニガーグルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg,J.H.他(1984)Mol.Cell.Biol.4、2306−2315;Boel,E.他(1984)EMBO J.3,1581−1585)、Mucor miehei カルボキシル・プロテアーゼ遺伝子、トリコデルマ・リーゼイ・セロビオヒドロラーゼI遺伝子(Shoemaker,S.P.他(1984)欧州特許出願番号第EPO0137280A1)由来のプロモーター、A.ニデュランスtrpC遺伝子(Yelton,M.他(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81,1470−1474;Mullaney,E.J.他(1985)Mol.Gen.Genet.199,37−45)、A.ニデュランスalcA遺伝子(Lockington,R.A.他(1986)Gene33、137−149)、A.ニデュランスtpiA遺伝子(McKnight,G.L.他(1986)Cell46,143−147)、A.ニデュランスamdS遺伝子(Hynes,M.J.他(1983)Mol.Cell Biol.3,1430−1439)、T.リーゼイ xln1遺伝子、T.リーゼイ cbh2遺伝子、T.リーゼイ egl1遺伝子、T.リーゼイ egl2遺伝子、T.リーゼイ egl3遺伝子、及びSV40早期プロモーターなどの高等真核プロモーター(Barclay,S.L.とE.Meller(1983)Molecular and Cellular Biology 3,2117−2130)を含む。
【0021】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に位置する場合、“動作可能に連結”する。例えば、分泌リーダー(leader)をエンコードするDNA、すなわちシグナルペプチドは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドのDNAに動作可能に連結し;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響する場合、コード配列に動作可能に連結し;またはリボソーム結合部位は、翻訳を促進するために位置する場合、コード配列に動作可能に連結する。通常、“動作可能に連結する”とは、連結DNA配列が隣接しており、及び分泌リーダーの場合、隣接し、かつリーディングフレーム内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は都合のよい制限部位で連結反応により達成される。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチド・アダプタまたはリンカーを従来実務に従って用いる。
【0022】
ここで用いる“遺伝子”の語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNA断片を意味し、コード領域の先行及び後の領域、例えば5’非翻訳(5’UTR)または“リーダー”配列及び3’UTRまたは“トレーラー”配列、及び個々のコード断片(エキソン)間の介在配列(イントロン)などを含んでも含まなくてもよい。
【0023】
当該遺伝子は治療上重要なタンパク質またはペプチド、例えば成長因子、サイトカイン、配位子、受容体及び阻害因子、並びにワクチン及び抗体などをエンコードできる。当該遺伝子は商業的に重要な酵素などの工業タンパク質またはペプチド、例えばH.グリセア
CBH1.1変異体、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1などのセルラーゼをエンコードできる。目的遺伝子は天然遺伝子、変異遺伝子または合成遺伝子である。
【0024】
本発明の“糸状菌”は真核微生物であり、Eumycotina細目の全ての糸状形態を含む(Alexopoulos,C.J.(1962)、Introductory Mycology(入門菌類学),New York:Wileyを参照)。これらの真菌はキチン、セルロース及びその他の複合多糖からなる細胞壁を有する栄養菌糸を特徴とする。本発明の糸状菌は形態学的、生理学的、及び遺伝学的に酵母とはっきりと区別される。糸状菌による栄養増殖は菌糸伸長によるものであり、炭素異化は偏性好気性である。対照的に、S.セレビシェなどの酵母による栄養増殖は単細胞性葉状体の発芽によるものであり、炭素異化は発酵性である。S.セレビシェは突出した、非常に安定な複相を有し、一方、複相は、例えばアスペルギルス及びニューロスポーラ(Neurospora)など糸状菌における減数分裂前のごく短期間だけに存在する。S.セレビシェは17の染色体を有し、一方、A.ニデュランス及びアカパンカビ(N.crassa)はそれぞれ8及び7の染色体を有する。最近説明されているS.セレビシェと糸状菌間の違いとして、S.セレビシェはアスペルギルス及びトリコデルマ・イントロンを処理できず、糸状菌の多くの転写制御因子を認識できない(Innis,M.A.他.(1985)Science,228,21−26)。
【0025】
核酸の一部に言及して用いる“異種”の語は、当該核酸が、通常は天然で同じ関係では見られない2以上のサブ配列を含むことを示す。例えば、当該核酸は通常、遺伝子組換えにより生成し、例えば新しい機能的核酸を作るために配置した関連性のない遺伝子から2以上の配列を有し、例えば、1の供給源からプロモーターを有し、他の供給源からコード領域を有する。同様に、異種タンパク質は天然ではお互いに同じ関係で見られない2以上のサブ配列をいうことが多い(例えば、融合タンパク質)。
【0026】
ここで用いる“単離”または“精製”の語は、天然に結合する少なくとも1の成分から除去された核酸またはアミノ酸をいう。
【0027】
本文において、“実質的に純粋なポリペプチド”の語は、天然に関係するその他のポリペプチド物質を最大10重量%含むポリペプチド調製物をいう(その他のポリペプチド物質の割合はより低いほうが好ましく、例えば、最大8重量%、最大6重量%、最大5重量%、最大4重量%、最大3重量%、最大2重量%、最大1重量%、及び最大1/2重量%である)。従って、実質的に純粋なポリペプチドは少なくとも92%純粋であることが好ましく、すなわち、当該ポリペプチドは調製物中に存在する全ポリペプチド物質が少なくとも92重量%であり、より割合が高いほうが好ましく、例えば少なくとも94%純粋、少なくとも95%純粋、少なくとも96%純粋、少なくとも97%純粋、少なくとも98%純粋、少なくとも99%純粋及び最大99.5%純粋である。ここに開示するポリペプチドは好ましくは実質的に純粋な形態である。特に、ここに開示するポリペプチドは“本質的に純粋形態”であることが好ましく、すなわち、当該ポリペプチド調製物は天然に関係するその他のポリペプチド物質を本質的に含まない。このことは、例えば公知の組換え方法により当該ポリペプチドを調製することにより達成できる。従って、“実質的に純粋なポリペプチド”の語は“単離ポリペプチド”及び“単離形態のポリペプチド”の語と同義である。
【0028】
通常、H.グリセアCBH1.1をエンコードする核酸分子は中から高ストリンジェンシー条件下で、ここに配列番号1として提供する配列(変異体H.グリセアCBH1.1)にハイブリダイズする。しかしながら、場合によっては、実質的に異なるコドン使用を有する、CBH1−エンコードヌクレオチド配列を有するが、当該CBH1−エンコードヌクレオチド配列によりエンコードされるタンパク質は天然タンパク質と同じまたは実質的に同じアミノ酸配列を有する。例えば、コード配列は特定の原核または真核発現系中におけるCBH1発現を促進してより速くするために、宿主が利用する特定コドン頻度に従って修飾できる。例えば、Te’o、他(2000)は糸状菌中での発現のための遺伝子最適化について記載している。
【0029】
核酸配列は、2つの配列が特異的に中から高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション及び洗浄条件下でお互いにハイブリダイズする場合、対照核酸配列に“選択的にハイブリダイズ”すると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は核酸結合複合体またはプローブの融点(Tm)に基づく。例えば、“最大ストリンジェンシー”は通常、約Tm−5℃で起こり(プローブのTmより5℃低い);“高ストリンジェンシー”はTmより約5−10℃低く;“中程度”または“中ストリンジェンシー”はプローブのTmより約10−20℃低く;及び“低ストリンジェンシー”はTmより約20−25℃低い。機能的に、最大ストリンジェンシー条件はハイブリダイゼーションプローブと厳密に同一またはほぼ厳密に同一な配列を同定するために用いることができ、高ストリンジェンシー条件はプローブと約80%以上の配列同一性を有する配列を同定するために用いる。
【0030】
中から高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は当業界に公知である(例えば、明示的にここに引用するSambrook、他、1989、第9章及び11章、及びAusubel、他、1993を参照)。高ストリンジェンシー条件の例としては、50%ホルムアミド、5X SSC、5X Denhardt’s溶液、0.5% SDS及び100μg/ml変性キャリアDNA中、約42℃でのハイブリダイゼーション、及び続いて2X SSC及び0.5% SDS中、室温で2回洗浄及びさらに0.1X SSC及び0.5% SDS、42℃で2回洗浄を含む。
【0031】
“%相同性”の語は、ここで“%同一性”の語と交換可能に用いられ、配列配置プログラムを用いて配置した場合の、H.グリセア CBH1.1変異体、H.jecorina
CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1アミノ酸配列をエンコードする核酸配列間の核酸またはアミノ酸配列同一性レベルをいう。
【0032】
例えば、ここで用いる、80%相同性とは明確なアルゴリズムにより測定された80%配列同一性と同じ意味を有し、従って、所定の配列の相同体が所定の配列長さにわたって80%より大きい配列同一性を有する。配列同一性レベルの例としては、限定されないが、所定の配列、例えばここに記載のH.グリセアCBH1.1変異体、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1のコード配列に対して80、85、90、95、98%以上の配列同一性を含む。
【0033】
2つの配列間の同一性を測定するために使用できるコンピュータープログラムの例は、限定されないが、BLASTプログラム一式、例えばBLASTN、BLASTX及びTBLASTX、BLASTP及びTBLASTNが挙げられ、インターネット上で一般に利用可能である(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)。また、Altschul、他、1990及びAltschul、他、1997を参照されたい。
【0034】
配列サーチは所定の核酸配列をジェンバンク(GenBank)DNA配列及びその他の公のデータベース中の核酸配列と比較して評価する場合、通常、BLASTNプログラムを用いて行う。BLASTXプログラムはジェンバンクタンパク質配列及びその他の公のデータベース中のアミノ酸配列に対する全てのリーディングフレームにおいて翻訳された核酸配列のサーチに好ましい。BLASTN及びBLASTXは共に、オープンギャップペナルティが11.0及び伸長ギャップペナルティが1.0の初期設定パラメーターを用いて行い、BLOSUM−62マトリックスを利用する(例えば、Altschul、他、1997を参照)。
【0035】
2つ以上の配列間の“%同一性”を測定するための選択配列の好ましい配置は例えば、MacVectorバージョン6.5のCLUSTAL−Wプログラムで動作し、オープンギャップペナルティ10.0、伸長ギャップペナルティ0.1及びBLOSUM30類似マトリックスなどの初期パラメーターを用いて操作する。
【0036】
ここで用いる細胞に関する“形質転換”、“安定に形質転換された”または“トランスジェニック”の語は、細胞が、ゲノム内に統合された、または複数の世代を通して維持されるエピソームプラスミドとして非天然(異種)核酸配列を有することを意味する。ここで用いる“発現”の語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生成されるプロセスをいう。当該プロセスは転写及び翻訳の両方を含む。
【0037】
細胞への核酸配列の挿入に関する“導入”の語は“トランスフェクション”または“形質転換”または“形質導入”を意味し、原核または真核細胞内への核酸配列の組込みに関する場合を含み、ここで核酸配列は細胞のゲノム内(例えば、染色体、プラスミド、色素体またはミトコンドリアDNA)に組み込まれることができ、自己レプリコンに変換され、または一時的に発現される(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。
【0038】
“CBH1.1発現”の語は変異体CBH1.1セルラーゼ遺伝子の転写及び翻訳、前駆体RNA、mRNA、ポリペプチド、翻訳後処理ポリペプチドの生成物ということになる。例として、CBH1.1発現の分析は、CBH1.1タンパク質のウエスタンブロット、CBH1 mRNAのノーザンブロット分析及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析、及びShoemaker S.P.及びBrown R.D.Jr.(Biochem.Biophys.Acta,1978,523:133−146)及びSchulein(1988)に記載のエンドグルカナーゼ活性分析を含む。同様に、ここで用いる“CBH1発現”はH.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ遺伝子の転写及び翻訳、前駆体RNA、mRNA、ポリペプチド、翻訳後処理ポリペプチドの生成物をいう。
【0039】
ここで用いる“界面活性剤”の語は、表面活性特性を有するものとして当業界で通常認識されている任意の化合物をいう。従って、例えば、界面活性剤は陰イオン性、陽イオン性及び非イオン性界面活性剤を含み、例えば洗剤において通常見られるものである。陰イオン性界面活性剤は、直鎖または分岐鎖アルキルベンゼンスルフォネート;直鎖または分岐鎖アルキル基またはアルケニル基を有するアルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩;アルキルまたはアルケニル硫酸塩;オレフィンスルフォネート;及びアルカンスルフォネートが挙げられる。両性界面活性剤は第4級アンモニウム塩スルフォネート及びベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。当該両性界面活性剤は同じ分子内に正及び負電荷の両方の基を有する。非イオン性界面活性剤はポリオキシアルキレンエーテル及び高脂肪酸アルカノールアミドまたはその酸化アルキレン付加、脂肪酸グリセリンモノエステル等を含むことができる。
【0040】
ここで用いる“セルロース含有繊維”の語は、セルロースを含有する綿または非綿、またはセルロースブレンド、例えば天然セルロース誘導体及び人工セルロース誘導体(例えば、ジュート(黄麻)、亜麻布、ラミー、レーヨン及びリヨセル)を含有する綿または非綿から作られた任意の織布または不織布、糸または繊維をいう。
【0041】
ここで用いる、“綿含有繊維”の語は、純粋な綿または綿ブレンドから作られた織布または不織布、糸または繊維をいい、綿織物、綿ニット、綿デニム、綿糸、原綿等を含む。
【0042】
ここで用いる、“ストーンウォッシュ組成物”の語は、セルロース含有繊維をストーンウォッシュする際に用いる製剤をいう。ストーンウォッシュ組成物は販売前、すなわち製造プロセス時にセルロース含有繊維を修正するために用いる。これに対し、洗剤組成物は汚れた衣類の洗浄を目的とするものであり、製造プロセス時には用いられない。
【0043】
ここで用いる“洗剤組成物”の語は汚れたセルロース含有繊維を洗濯するための洗浄手段で用いることを意図した混合物をいう。本発明において、当該組成物はセルラーゼ及び界面活性剤に加えて、さらに加水分解酵素、ビルダー、漂白剤、漂白活性化剤、青味剤及び蛍光色素、ケーキング防止剤、マスキング剤、セルラーゼ活性化剤、酸化防止剤及び可溶化剤を含むことができる。
【0044】
ここで用いる“cbh1.1遺伝子発現の減少または除去”とは、cbh1.1遺伝子がゲノムから欠失され、従って組換え宿主微生物により発現できないこと;またはcbh1.1遺伝子が修飾され、機能的CBH1.1酵素が宿主微生物により生成されないことを意味する。
【0045】
“変異cbh1.1遺伝子”または“変異CBH1.1”の語はそれぞれ、H.グリセア由来cbh1.1遺伝子の核酸配列がコード配列を除去、付加及び/または操作することにより変異されたこと、または発現タンパク質のアミノ酸配列がここに記載の発明に一致するように修飾されたことを意味する。
【0046】
“変異体cbh1遺伝子”または“変異体CBH1” の語はそれぞれ、H.jecorina由来cbh1遺伝子の核酸配列がコード配列を除去、付加及び/または操作することにより変異されたこと、または発現タンパク質のアミノ酸配列がここに記載の発明に一致するように修飾されたことを意味する。
【0047】
ここで用いる“活性”及び“生物活性”の語は、特定タンパク質に関する生物活性をいい、ここで交換可能に用いられる。例えばプロテアーゼに関する酵素活性はタンパク質分解性であり、従って、プロテアーゼはタンパク質分解活性を有する。従って、所定タンパク質の生物活性は通常、当業者とって当該タンパク質に起因する任意の生物活性をいうことになる。
【0048】
酵素溶液中で用いる場合、相同体または変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1成分は通常、バイオマスからの可溶性糖の放出速度を最高にするために十分な量で加える。加える相同体または変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1成分の量は、糖化されるバイオマスの種類に依存し、当業者により容易に測定できる。しかしながら、使用時の、セルラーゼ組成物中に存在するEG型成分と比較した、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1成分の重量%は、好ましくは約1、好ましくは約5、好ましくは約10、好ましくは約15、または好ましくは約20重量%〜好ましくは約25、好ましくは約30、好ましくは約35、好ましくは約40、好ましくは約45、または好ましくは約50重量%である。さらに、好ましい範囲は約0.5〜約15重量%、約0.5〜約20重量%、約1〜約10重量%、約1〜約15重量%、約1〜約20重量%、約1〜約25重量%、約5〜約20重量%、約5〜約25重量%、約5〜約30重量%、約5〜約35重量%、約5〜約40重量%、約5〜約45重量%、約5〜約50重量%、約10〜約20重量%、約10〜約25重量%、約10〜約30重量%、約10〜約35重量%、約10〜約40重量%、約10〜約45重量%、約10〜約50重量%、約15〜約20重量%、約15〜約25重量%、約15〜約30重量%、約15〜約35重量%、約15〜約40重量%、約15〜約45重量%、約15〜約50重量%である。
II.宿主微生物
【0049】
糸状菌は、細目の真菌門(Eumycota)及び卵菌(Oomycota)の全ての線状体を含む。糸状菌はキチン、グルカン、キトサン、マンナン及びその他の複合多糖類からなる細胞壁を有する栄養菌糸、及び菌糸伸長による栄養成長並びに偏性好気性の炭素異化を特徴とする。
【0050】
本発明において、糸状菌親細胞は限定されないが、トリコデルマ、例えばトリコデルマ・ロンギブラチアタム、トリコデルマ・ビリディ、トリコデルマ・コニンギ、トリコデルマ・ハルジアナム;ペニシリン種;フミコーラ・インソレンス及びフミコーラgriseaなどのフミコーラ種;C.lucknowenseなどのクリソスポリウム種;グリオクラディウム種;アスペルギルス種;フサリウム種、アカパンカビ(Neurospora)種、ヒポクレア種及びエメリセラ種の一連の細胞である。ここで用いる“トリコデルマ”または“トリコデルマ種”の語は、既にトリコデルマとして分類されている、または最近トリコデルマとして分類された任意の真菌株をいう。
【0051】
1の好ましい実施態様において、糸状菌親細胞はアスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・aculeatusまたはアスペルギルス・ニデュランス細胞である。
他の好ましい実施態様において、糸状菌親細胞はトリコデルマ・リーゼイ細胞である。
III.セルラーゼ
【0052】
セルラーゼはセルロース(β−1,4−グルカンまたはβ−D−グルコシド結合)を加水分解してグルコース、セロビオース、セロオリゴ糖などを生じる酵素として当業界に公知である。上述の通り、セルラーゼは従来から3つの主な分類に分けられる:エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)(“EG”)、エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)(“CBH”)及びβ−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)(“BG”)(Knowles、他、1987;Schulein、1988)。
【0053】
特定の真菌は、エキソセロビオヒドロラーゼまたはCBH型セルラーゼ、エンドグルカナーゼまたはEG型セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼまたはBG型セルラーゼを含む完全なセルラーゼ系を生じる(Schulein、1988)。しかしながら、これらの系はCBH型セルラーゼを欠く場合があり、また、細菌性セルラーゼは通常CBH型セルラーゼを含まないか、またはほとんど含まない。さらに、EG成分及びCBH成分は相乗的に相互作用してより効果的にセルロースを分解することが示されている。例えば、Wood、1985を参照されたい。異なる成分、すなわち、複数成分または完全なセルラーゼ系中の種々のエンドグルカナーゼ及びエキソセロビオヒドロラーゼは通常、等電点、分子量、糖化度、基質特異性及び酵素作用パターンなど異なる性質を有する。
【0054】
また、セルラーゼ組成物は綿含有織物を分解し、織物の強度を損なうことも示されており(米国特許第4,822,516号)、市販の洗剤用途にセルラーゼ組成物が用いにくい原因となっている。エンドグルカナーゼ成分を含むセルラーゼ組成物は完全なセルラーゼ系を含む組成物と比較して、綿含有織物の損失強度の減少を示すことが示唆されている。
【0055】
また、セルラーゼはセルロースバイオマスからエタノールへの分解(ここでセルラーゼはセルロースをグルコースに分解し、酵母またはその他の微生物がさらにグルコースを発酵してエタノールになる)、機械パルプの処理(Pere、他、1996)、飼料添加物としての使用(WO91/04673)及び穀物湿式粉砕に有用であることが示されている。
【0056】
ほとんどのCBH及びEGは、リンカーペプチドによりセルロース結合ドメイン(CBD)から分離したコアドメインからなるマルチドメイン構造を有する(Suurnakki、他、2000)。コアドメインは活性部位を含むのに対し、CBDは酵素をセルロースに結合させることによりセルロースと相互作用する(van Tilbeurgh、他、1986;Tomme、他、1988)。CBDは結晶セルロースの加水分解において特に重要である。結晶セルロースを分解するセロビオヒドロラーゼの能力はCBDが不存在の場合には明確に減少することが示されている(Linder and Teeri、1997)。しかしながら、CBDの正確な役割及び活性メカニズムは依然として推論のままである。CBDはセルロースの表面で効果的な酵素濃度を単に増加させることによって(Stahlberg、他、1991)、及び/またはセルロース表面からセルロース一本鎖を解くことにより(Tormo、他、1996)、酵素活性を高めることが示唆されている。異なる基質上のセルラーゼドメインの効果に関する研究の大部分はセロビオヒドロラーゼのコアタンパク質を用いて行われており、それらのコアタンパク質はパパインを用いた限定タンパク質分解により容易に生成できる(Tomme、他、1988)。多数のセルラーゼが科学文献に記載されており、例として:トリコデルマ・リーゼイ由来:Shoemaker,S、他、Bio/Technology,1:691−696、1983(CBHIについて記載);Teeri,T.他、Gene,51:43−52、1987(CBHIIについて記載)が挙げられる。トリコデルマ以外の種由来のセルラーゼも例えば以下の文献に記載されている:Ooi、他、1990(アスペルギルス・aculeatusにより生成されるエンドグルカナーゼF1−CMCをコードするcDNA配列を記載);Kawaguchi T,他、1996(アスペルギルス・aculeatus由来β−グルコシダーゼ1をエンコードするcDNAのクローニング及びシーケンシングを開示);Sakamoto、他、1995(アスペルギルス・カワチIFO4308由来エンドグルカナーゼCMCアーゼ1をエンコードするcDNA配列を開示);Saarilahti、他、1990(エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovara)由来エンドグルカナーゼを開示);Spilliaert R.et al.、1994(Rhodothermus marinus由来好熱性βグルカナーゼをコードする、bglAのクローニング及びシーケンシングを開示);及びHalldorsdottir S、他、1998(グリコシル加水分解酵素群12の熱安定性セルラーゼをエンコードするRhodothermus marinus遺伝子のクローニング、シーケンシング及び過剰発現を開示)。しかしながら、熱応力条件下、または界面活性剤の存在下での改善された特性、増加した特異活性、変異した基質開裂パターン、及び/またはin vitroでの高レベル発現など、改善された特性を有する新規なセルラーゼの同定及びキャラクタリゼーションの必要性が依然として存在する。
【0057】
様々な量のCBH型セルラーゼを含む新規で改善されたセルラーゼ組成物の開発は以下の用途に注目されている:(1)洗浄能力の向上、柔軟剤としての機能及び/または綿織物の手触りの改善を示す洗剤組成物(例えば、“ストーンウォッシング”または“バイオポリッシング”)での使用;(2)木材パルプまたはその他のバイオマスを糖に分解する組成物での使用(例えば、バイオ−エタノール生成);及び/または(3)飼料組成物での使用。
IV.分子生物学
【0058】
1の実施態様において、本発明は糸状菌において機能的なプロモーターの制御下、変異体H.グリセアCBH1.1セルラーゼ遺伝子の発現を提供する。従って、本発明は組換え遺伝学の分野における一般的な技術に依拠する。本発明で使用する一般的な方法を開示する基本テキストは、Sambrook、他、Molecular Cloning(分子クローニング)、A Laboratory Manual(第2版、1989);Kriegler、Gene Transfer and Expression(遺伝子導入及び発現):A Laboratory Manual(1990);及びAusubel、他、編集。Current Protocols in Molecular Biology(1994)が挙げられる。
A.変異体CBH1.1遺伝子の同定方法
【0059】
2つの公に入手可能なH.グリセアCBH1.1核酸配列を図5に示す。1の側面において、本発明はここに記載の変異体H.グリセアCBH1.1をエンコードする核酸分子を包含する。核酸はDNA分子であってもよい。
【0060】
変異体CBH1.1−エンコードDNA配列を単離するために用いることができる技術は当業者に公知であり、限定されないが、相同DNAプローブを用いるcDNA及び/またはゲノムライブラリースクリーニング及び活性分析またはCBH1に対する抗体を用いる発現スクリーニングを含む。これらのいずれの方法もSambrook、他、またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.Ausubel、他、編集、Greene Publishing and Wiley−Interscience、New York(1987)(“Ausubel”)で見ることができる。
B.核酸構築体/発現ベクター
【0061】
変異体H.グリセアCBH1.1セルラーゼをエンコードする天然または合成ポリヌクレオチド断片(“変異体H.グリセアCBH1.1セルラーゼ−エンコード核酸配列”)は異種核酸構築体またはベクター内に組込むことができ、糸状菌または酵母細菌内に導入でき、かつ複製できる。ここに開示するベクター及び方法は変異体CBH1.1セルラーゼを発現するための宿主細胞中で使用するのに適している。導入される細胞内で複製可能かつ生存可能である限り、任意のベクターが使用できる。多数の適当なベクター及びプロモーターが当業者に公知であり、市販されている。また、クローニング及び発現ベクターについてもここに明示的に引用するSambrook、他、1989、Ausubel FM、他、1989及びStrathern、他、1981に記載されている。真菌に適切な発現ベクターはvan den Hondel,C.A.M.J.J.et al.(1991):Bennett,J.W.及びLasure,L.L.(編集)More
Gene Manipulations in Fungi.Academic Press,第396〜428頁に記載されている。適当なDNA配列が種々の手順によりプラスミドまたはベクター(集合的にここで“ベクター”という)内に挿入できる。通常、DNA配列は標準手順により、適当な制限エンドヌクレアーゼ部位内に挿入される。このような手順及び関連サブクローニング手順は当業者の知識の範囲内であると考えられる。
【0062】
変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼのコード配列を含む組換え糸状菌は、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼ−コード配列を含む異種核酸構築体を糸状菌の選択株細胞内に導入することにより生成できる。
【0063】
所望の形態の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼ核酸配列が得られると、それを種々の方法で修飾することができる。当該配列が非コードフランキング領域を含む場合、当該フランキング領域は切除、突然変異等に供することができる。従って、転移、塩基転換、欠失及び挿入を天然配列上で行うことができる。
【0064】
選択した変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼ−コード配列は公知の組換え技術に従って適切なベクター内に挿入でき、セルラーゼ発現が可能な糸状菌を形質転換するために用いることができる。遺伝コードの固有縮退のため、実質的に同じまたは機能的に同等なアミノ酸配列をエンコードするその他の核酸配列が変異体CBH1.1、H.jecorina
CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼをクローン及び発現するために用いることができる。そのため、コード領域内の当該置換は、本発明によりカバーされる配列変異体の範囲内に当然含まれる。
【0065】
また、本発明は上述の1以上の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼ−エンコード核酸配列を含む組換え核酸構築体を含むこともできる。当該構築体はプラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターを含み、そこに本発明の配列がフォワードまたはリバース方向に挿入される。
【0066】
異種核酸構築体は変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼのコード配列を含むことができ、それらは(i)単離して(ii)融合タンパク質またはシグナルペプチドコード配列などの他のコード配列と組み合わせて(ここで所望のセルラーゼ−コード配列は優性コード配列);(iii)イントロンなどの非コード配列、及び適当な宿主中でコード配列の発現に効果的な、プロモーター及びターミネーター因子または5’及び/または3’非翻訳領域など制御因子と組み合わせて;及び/または(iv)変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼ−コード配列が異種遺伝子となるベクターまたは宿主環境において、含むことができる。
【0067】
本発明の1の側面において、異種核酸構築体はin vitroで変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼ−エンコード核酸配列を細胞内に移動させるために用いられ、確立された糸状菌及び酵母株が好ましい。変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1セルラーゼの長期間生成のために、安定な発現が好ましい。従って、安定な形質転換を生じるために効果的な任意の方法が本発明の実施に用いることができる。
【0068】
適当なベクターは通常、選択マーカー−エンコード核酸配列、挿入部位及び適当な制御因子、例えばプロモーター及びターミネーター配列などを備える。当該ベクターは調節配列を含んでもよく、例えば、イントロンなどの非コード配列、及び制御因子、すなわち宿主細胞(及び/または修飾可溶性タンパク質抗原コード配列が通常は発現されないベクターまたは宿主細胞環境)内でコード配列の発現に効果的で、コード配列に動作可能に連結したプロモーター及びターミネーター因子または5’及び/または3’非翻訳領域を含むことができる。多数の適切なベクター及びプロモーターが当業者に公知であり、その多くが市販されており、及び/またはSambrook、他、(上記)に記載されている。典型的なプロモーターは保存プロモーター及び誘導性プロモーターの両方を含み、例としては、CMVプロモーター、SV40早期プロモーター、RSVプロモーター、EF−1αプロモーター、tet−onまたはtet−offシステムにおいてtet応答性因子(TRE)を含むプロモーター(ClonTech and BASF)、β−アクチンプロモーター及び特定の金属塩の添加により非調節にできるメタロチオニンプロモーターが挙げられる。プロモーター配列は発現のために特定の糸状菌により認識されるDNA配列である。これは変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1ポリペプチドをエンコードするDNA配列に動作可能に連結する。当該連結は開示した発現ベクター中において変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1ポリペプチドをエンコードするDNA配列の開始コドンに関するプロモーターの位置決定を含む。プロモーター配列は、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.themophilium CBH1ポリペプチドの発現を媒介する転写及び翻訳制御配列を含む。例えば、アスペルギルス・ニガー、A.アワモリまたはA.オリゼー・グルコアミラーゼ、α−アミラーゼまたはα−グルコシダーゼエンコード遺伝子;A.ニデュランス(nidulans)gpdAまたはtrpC遺伝子;アカパンカビ(Neurospora crassa)cbh1またはtrp1遺伝子;A.ニガーまたはリゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)アスパラギン酸プロテイナーゼ−エンコード遺伝子;H.jecorina cbh1、cbh2、egl1、egl2またはその他のセルラーゼエンコード遺伝子由来のプロモーターが挙げられる。
適当な選択マーカーの選択は宿主細胞に依存し、種々の宿主の適当なマーカーは当業界に公知である。一般的な選択マーカー遺伝子はA.ニデュランスまたはH.jecorina由来のargB、A.ニデュランス由来のamdS、アカパンカビ(Neurospora crassa)またはH.jocorina由来のpyr4、アスペルギルス・ニガーまたはA.ニデュランス由来のpyrGを含む。他の典型的な選択マーカーは、限定されないが、trpc、trp1、oliC31、niaDまたはleu2が挙げられ、これらはtrp−、pyr−、leu−等などの変異株を形質転換するために用いる異種核酸構築体に含まれる。
【0069】
当該選択マーカーは形質転換体に、通常は糸状菌により代謝されない代謝産物を利用できる能力を与える。例えば、アセトアミダーゼ酵素をエンコードするH.jecorina由来のamdS遺伝子は、形質転換細胞が窒素源としてアセトアミド上で成長できるようにする。選択マーカー(例えば、pyrG)は栄養要求性変異株が選択最小培地上で成長する能力を回復させることができ、または選択マーカー(例えば、olic31)は形質転換体に阻害薬または抗生物質の存在下で成長できる能力を与えることができる。
【0070】
選択マーカーコード配列は当業界で用いられる一般的な方法を用いて適切なプラスミド内にクローンされる。典型的なプラスミドはpUC18、pBR322、pRAX及びpUC100が挙げられる。pRAXプラスミドはA.ニデュランス由来のAMA1配列を含み、A.ニガー中での複製を可能にする。
【0071】
本発明の実施には他に指示がない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来技術を用い、当業者の技術の範囲内である。当該技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Sambrook、他、1989;Freshney、1987;Ausubel、他、1993;及びColigan、他、1991を参照されたい。ここで言及する全ての特許、特許出願、雑誌及び文献はここに明示的に引用される。
C.宿主細胞の形質転換方法
【0072】
本発明において、糸状菌親細胞は、限定されないが、トリコデルマ、例えばトリコデルマ・ロンギブラチアタム(longibrachiatum)(reesei)、トリコデルマ・ビリディ、トリコデルマ・コニンギ、トリコデルマ・ハルジアナム;ペニシリン種;フミコーラ・インソレンスなどのフミコーラ種;C.lucknowenseなどのクリソスポリウム種;グリオクラディウム種;アスペルギルス種;フサリウム種、アカパンカビ(Neurospora)種、ヒポクレア種及びエメリセラ種の細胞である。ここで用いる“トリコデルマ”または“トリコデルマ種”の語は、既にトリコデルマとして分類されている、または最近トリコデルマとして分類された任意の真菌株をいう。
【0073】
変異体H.グリセアCBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1発現のために処理及び/または修飾できる親細胞株の例として、限定されないが、糸状菌細胞を含む。本発明の実施に用いる適当な主要な細胞種の例として、限定されないが、アスペルギルス及びトリコデルマが挙げられる。
【0074】
1の実施態様において、糸状菌親細胞はアスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・aculeatusまたはアスペルギルス・ニデュランス細胞である。
【0075】
第2の実施態様において、糸状菌親細胞はヒポクレア・jecorina細胞である。この細胞はT.リーゼイとして前述した。
【0076】
CBH1.1変異体、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1をエンコードするDNA配列をDNA構築体内にクローンした後、当該DNAは微生物を形質転換するために用いる。変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1を本発明に従って発現する目的で形質転換される微生物はトリコデルマ種由来の株を含むことが有利である。従って、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼを本発明に従って調製する好ましい方法は、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1の一部または全部をエンコードするDNA断片を少なくとも含むDNA構築体を用いてトリコデルマ種宿主細胞を形質転換することを含む。当該DNA構築体は通常、機能的に、すなわち動作可能にプロモーターに結合する。当該形質転換宿主細胞はそれから変異体H.グリセアCBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1を発現する条件下で成長させる。続いて、変異体H.グリセアCBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1を単離できる。実質的に純粋な形態で変異体H.グリセアCBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1を得ることが望ましい。同様に、本質的に純粋な形態で変異体H.グリセアCBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1を得ることが望ましい。
【0077】
しかしながら、実際に、変異CBH1.1をエンコードする所定DNAの最良の発現媒体がH.jecorina(すなわち、T.リーゼイ)ではない場合も考えられる。従って、変異体CBH1.1の微生物源と系統発生類似性を有する形質転換宿主で当該タンパク質を発現することが最も有利かもしれない。他の実施態様において、アスペルギルス・ニガーを発現媒体として用いることができる。A.ニガーを用いる形質転換技術の記載に関しては、ここに開示の内容を引用するWO98/31821を参照されたい。
【0078】
従って、トリコデルマ種発現系の本発明の記載は説明目的のみのため提供するものであり、本発明の変異体CBH1.1を発現する1の選択肢として提供するものである。しかしながら、当業者は適切な場合に種々の宿主細胞中で変異体CBH1.1をエンコードするDNAを発現させるものであると考えられ、最適な発現宿主を決定する際に変異体CBH1.1の供給源を考慮すべきであることは当然である。さらに、本発明の分野の当業者は、当業界で利用可能な手段を利用して一般的な技術により特定遺伝子のために最良な発現系を選択することができる。
D.変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1の発現方法
【0079】
本発明の方法は変異体CBH1.1セルラーゼを発現するために使用する細胞に依拠し、特定の発現方法を必要とするものではない。
【0080】
本発明は、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードする核酸配列を含む発現ベクターを用いて変換、形質転換または核酸導入される宿主細胞を提供する。温度、pH等の培養条件は変換、形質転換または核酸導入前に親宿主細胞に既に用いた条件であり、当業者に明らかである。
【0081】
1の手段において、糸状菌細胞または酵母細胞に、宿主細胞株で機能し、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium
CBH1セルラーゼをエンコードするDNA断片に動作可能に連結する、プロモーターまたは生物学的に活性なプロモーター断片または1以上の(例えば、一連の)エンハンサーを有する発現ベクターを用いて核酸導入し、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼが細胞株内で発現する。
【0082】
従って、本発明は、対応する非形質転換親真菌と比較して変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ生成または発現を生じるために効果的な方法で修飾、選択及び培養された細胞を含む糸状菌を提供する。
【0083】
所望のセルラーゼ発現のために処理及び/または修飾できる親糸状菌の種の例としては、限定されないが、トリコデルマ、ペニシリン種、フミコーラ種、例えばフミコーラ・インソレンス;アスペルギルス種、例えばアスペルギルス・ニガー、クリソスポリウム種、フサリウム種、ヒポクレア種及びエメリセラ種が挙げられる。
【0084】
変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼを発現する細胞は通常、親真菌株を培養するために用いる条件下で培養する。一般的に、細胞はPourquie,J、他、Biochemistry and Genetics of Cellulose Degradation、編集、Aubert,J.P.他、Academic Press、第77〜86頁、1988及びIlmen,M.他、Appl.Environ.Microbiol.63:1298−1306、1997に記載されるような生理食塩及び栄養物を含む標準培地内で培養する。また、培養条件も標準であり、例えば培養物は28℃、振とう培養または発酵槽中で、所望レベルの変異体CBH1.1セルラーゼ発現が達成されるまで培養する。
【0085】
所定の糸状菌の好ましい培養条件は科学文献及び/またはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC;<www.atcc.org>)などの真菌源から見つけることができる。真菌成長の達成後、当該細胞は変異体CBH1.1セルラーゼの発現を生じるまたは可能にするために効果的な条件に曝す。
【0086】
変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ−コード配列が誘導プロモーターの制御下にある場合、例えば糖、金属塩または抗生物質などの誘発剤を変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ発現を誘導するために有効な濃度で培地に加える。
【0087】
1の実施態様において、株はアスペルギルス・ニガーを含み、当該株は過剰発現タンパク質を得るために有用な株である。例えば、A.ニガー var アワモリ dgr246は高められた量の分泌セルラーゼを分泌することが公知である(Goedegebuur、他、Curr.Genet(2002)41:89−98)。GCDAP3、GCDAP4及びGAP3−4などのアスペルギルス・ニガー var アワモリのその他の株は公知である(Ward,M,Wilson,L.J.及びKodama,K.H.,1993,Appl.Microbiol.Biotechnol.39:738−743)。
【0088】
他の実施態様において、株はトリコデルマ・リーゼイを含み、当該株は過剰発現タンパク質を得るために有用な株である。例えば、RL−P37はSheir−Neiss、他、Appl.Microbiol.Biotechnol.20:46−53(1984)に記載されており、高められた量のセルラーゼ酵素を分泌することが知られる。RL−P37の機能的同等物としては、トリコデルマ・リーゼイ株RUT−C30(ATCC番号56765)及び株QM9414(ATCC番号26921)を含む。これらの株は変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1を過剰発現するのにも有用である。
【0089】
潜在的に有害な天然セルロース分解活性がない所望のセルラーゼを得ることが望ましい場合、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードするDNA断片を含むDNA構築体またはプラスミドの導入前に、1以上の欠失したセルラーゼ遺伝子を持った宿主細胞株を得ることは有用である。このような株は、ここに開示の内容を引用する米国特許第5,246,853号及びWO92/06209に開示の方法により調製できる。1以上のセルラーゼ遺伝子が欠落した宿主微生物中で変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼを発現することにより、同定及び次の精製手順が簡略化される。クローンしたトリコデルマ種由来のいかなる遺伝子も欠失することができ、例えば、cbh1、cbh2、egl1及びegl2遺伝子並びに変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1タンパク質をエンコードする遺伝子である(例えば、それぞれ米国特許第5,475,101号及びWO94/28117を参照)。
【0090】
遺伝子欠失は欠失または分離される所望の遺伝子形態を当業界に公知の方法によりプラスミド内に挿入することにより達成できる。次に、欠失プラスミドは所望の遺伝子コード領域及び遺伝子コード配列または選択マーカーで置換された当該配列の一部の内部にある適当な制限酵素部位で切断される。欠失または分離される遺伝子座由来のフランキングDNA配列は、好ましくは約0.5〜2.0kbであり、両側の選択マーカー遺伝子を保持する。適当な欠失プラスミドは一般に、固有の制限酵素部位を有し、当該断片が欠失遺伝子を含み、フランキングDNA配列を含むことを可能にし、選択マーカー遺伝子が一本の線状片として除去される。
【0091】
選択マーカーは形質転換微生物の検出が可能となるように選択しなければならない。選択した微生物中で発現する選択マーカー遺伝子は適している。例えば、アスペルギルス種を用いて選択マーカーを選択すると、形質転換体中の選択マーカーの存在はその特性に大きな影響を与えない。このような選択マーカーは分析可能な生成物をエンコードする遺伝子であると考えられる。例えば、アスペルギルス種遺伝子の機能的コピーは、宿主株中の欠失により栄養要求性表現型を示す宿主株を生じる場合、使用できる。
【0092】
1の実施態様において、アスペルギルス種のpyrG誘導体株は機能的pyrG遺伝子を用いて形質転換し、従って、形質転換のための選択マーカーを提供する。pyrG誘導体株はフルオロオロト酸(FOA)に耐性のアスペルギルス種株を選択することにより得ることができる。pyrG遺伝子は、ウリジンの生合成に必要な酵素である、オロチジン−5’−モノリン酸デカルボキシラーゼをエンコードする。原型のpyrG遺伝子を含む株はウリジン不足の培地中で成長するが、フルオロオロト酸に感受性である。機能的オロチジンモノリン酸デカルボキシラーゼ酵素を欠いており、FOR耐性選択により成長のためにウリジンを必要とするpyrG誘導体株の選択が可能である。FOA選択技術を用いて、機能的オロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼが不足したウリジン要求性株を得ることも可能である。これらの細胞をこの酵素をエンコードする遺伝子の機能的コピーを用いて形質転換することが可能である(Berges&Barreau,Curr.Genet.19:359−365(1991)、及びvan Hartingsveldte、他(1986)Development of homologous transformation system for Aspergillus niger based on the pyrG gene(pyrG遺伝子に基づくアスペルギルス・ニガーの相同形質転換系の進展).Mol.Gen.Genet.206:71−75)。誘導体株の選択は、上述のFOA耐性技術を用いて容易に行われ、従って、pyrG遺伝子は選択マーカーとして用いるのが好ましい。他の実施態様において、トリコデルマ種のpyr4誘導体株を機能的pyr4遺伝子を用いて形質転換し、それにより形質転換に用いる選択マーカーが提供される。以下はアスペルギルス系について論じるが、トリコデルマ及びその他の真菌系のため類似の手順が当業者により適切に用いられることができる。
【0093】
1以上のセルラーゼ遺伝子の発現能力が欠落するようにpyrGアルペルギルス種を形質転換するために、分離または欠失したセルラーゼ遺伝子を含む一本鎖DNA断片をそれから欠失プラスミドから単離し、適当なpyrアスペルギルス宿主を形質転換するために用いる。次に、形質転換体はpyrG遺伝子生成物を発現するそれらの能力に基づいて同定及び選択され、従って宿主株のウリジン栄養要求性を補う。サザンブロット分析を次に得られた形質転換体について行い、欠失する遺伝子のゲノムコピーのコード領域の一部または全部をpyr4選択マーカーで置換するダブルクロスオーバー融合イベントを同定及び確認する。
【0094】
上述の特定プラスミドベクターはpyr形質転換体の調製に関連するが、本発明はこれらのベクターに限定されない。種々の遺伝子がアスペルギルス種株内で上述の技術を用いて欠失及び置換できる。さらに、上述の通り、任意の入手可能な選択マーカーが使用できる。実際、クローンされ、そして同定された任意のアスペルギルス種遺伝子が上述の方法を用いてゲノムから欠失できる。
【0095】
上述の通り、使用する宿主株は、選んだ選択マーカーに対応する非機能的遺伝子を欠く、または有するアスペルギルス種の誘導体である。例えば、pyrGの選択マーカーを選択した場合、それから形質転換手順において特定のpyrG誘導体株を受容体として用いる。同様に、アスペルギルス・ニデュランス遺伝子amdD、argB、trpC、niaDに同等なアスペルギルス種遺伝子を含む選択マーカーが用いることができる。対応する受容体株は従って、それぞれargB、trpC、niaDなどの誘導体株でなければならない。
【0096】
変異体CBH1.1セルラーゼをエンコードするDNAは次に、適当な微生物内に挿入するために調製する。本発明に従うと、変異体CBH1.1セルラーゼをエンコードするDNAは機能的セルロース分解活性を有するタンパク質をエンコードするために必要なDNAを含む。変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードするDNA断片は真菌プロモーター配列、例えばglaA遺伝子のプロモーターに機能的に接合できる。
【0097】
2以上の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードするDNAのコピーが過剰発現を促進するために株内に組換えできることも本発明の範囲内である。変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードするDNAは当該セルラーゼをエンコードするDNAを運ぶ発現ベクターを構築することにより調製できる。変異体CBH1.1セルラーゼをエンコードする挿入DNA断片を運ぶ発現ベクターは所定の宿主微生物中で独立して複製できる、または宿主、一般的にはプラスミドのDNA内に統合できるベクターである。好ましい実施態様において、遺伝子発現が得られる2種の発現ベクターが考えられる。1つは、プロモーター、遺伝子コード領域、及びターミネーター配列の全てが発現する遺伝子由来であるDNA配列を含む。遺伝子切断は、自身の転写及び翻訳調節配列の制御下で発現されるドメインを残すために、望ましくないDNA配列(例えば、望ましくないドメインをコードする)を欠失することが望ましい場合に行うことができる。選択マーカーはベクター上に含むこともでき、宿主内に新規な遺伝子配列の複数コピーを統合するための選択が可能になる。
【0098】
2つ目の発現ベクターはあらかじめ組立てられ、高レベル転写に必要な配列及び選択マーカーを含む。遺伝子またはその一部のコード領域はこの汎用性発現ベクター内に挿入できると考えられ、従って、発現カセットプロモーター及びターミネーター配列の転写制御下にある。例えば、pRAXはそのような汎用性発現ベクターである。遺伝子またはその一部は強力なglaAプロモーターの下流に挿入できる。
【0099】
ベクター中、本発明の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードするDNA配列は転写及び翻訳配列、すなわち、リーディングフレームから構造遺伝子中の適当なプロモーター配列及びシグナル配列に動作可能に連結するべきである。プロモーターは宿主細胞中で転写活性を示す任意のDNA配列であり、宿主細胞と同種または異種のタンパク質をエンコードする遺伝子由来である。任意のシグナルペプチドは変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼの細胞外生成を提供する。シグナル配列をエンコードするDNAは発現する遺伝子に天然で関連していることが好ましいが、任意の適当な供給源由来のシグナル配列が本発明で使用できる。
【0100】
本発明の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをコードするDNA配列とプロモーターを適当なベクター内に融合するために用いる手順は当業界に公知である。
【0101】
発現ベクター、DNAベクターまたは上述の構築体をin vitroで細胞内に運ぶために種々の方法を用いることができる。異種核酸配列を発現するために核酸を細胞内に導入する方法は当業者に公知であり、限定されないが、エレクトロポレーション;核マイクロインジェクションまたは1の細胞内への直接マイクロインジェクション;無傷細胞を用いる細菌原形質融合;ポリカチオンの使用、例えば、ポリブレンまたはポリオルニチン;リポソーム、リポフェクトアミンまたはリポフェクション媒介トランスフェクションを用いる膜融合;DNAコートマイクロプロジェクタイルを用いる高速照射;リン酸カルシウムDNA沈殿を用いる培養;DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション;変異ウイルス核酸を用いる感染;DNAのアグロバクテリウム媒介移動等が挙げられる。さらに、変異体CBH1.1−エンコード核酸配列を含む異種核酸構築体はin vitroで転写でき、得られたRNAを公知の方法、例えばインジェクションにより宿主細胞内に導入できる。
【0102】
形質転換のためにアスペルギルス種を調製する本発明の好ましい方法は、真菌の菌糸体由来の原形質体の調製を含む。Campbell、他、Improved transformation efficiency of A.neger using homologous niaD gene for nitrate reductase(硝酸還元酵素の相同体niaD遺伝子を用いたA.ニガーの改善された形質転換効率).Curr.Genet.16:53−56;1989を参照されたい。菌糸体は発芽植物性胞子から得ることができる。菌糸体は細胞壁を消化して原形質体を生じる酵素で処理する。原形質体は次に懸濁培地中、浸透圧安定化剤の存在により保護される。これらの安定化剤はソルビトール、マンニトール、塩化カリウム、硫酸マグネシウム等を含む。通常、これら安定化剤の濃度は0.8M〜1.2M間で様々である。懸濁培地中、約1.2Mのソルビトール溶液を用いることが好ましい。
【0103】
DNAの宿主アスペルギルス種株内への摂取はカルシウムイオン濃度に依存する。通常、約10mMのCaCl及び50mMのCaClが摂取溶液内で用いられる。摂取溶液中でカルシウムイオンが必要であることに加え、通常含まれるその他の品目は緩衝系、例えばTEバッファ(10Mm Tris,pH7.4;1mM EDTA)または10mM MOPS、pH6.0バッファ(モルホリンプロパンスルホン酸)及びポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは細胞膜の融合に作用すると考えられており、従って培地の内容物がアスペルギルス種株の細胞質内に運ばれ、プラスミドDNAが核に移動する。この融合により、宿主染色体内に穏やかに統合されるプラスミドDNAの複数コピーが残ることが多い。
【0104】
通常、アスペルギルス種原形質体または細胞を含む、密度10〜10/mL、好ましくは2×10/mLで浸透圧処理に供した懸濁液を形質転換に使用する。適当な溶液中(例えば、1.2Mソルビトール;50mM CaCl)の100μLの量のこれら原形質体または細胞は所望のDNAと混合する。通常、高濃度のPEGを摂取溶液に加える。0.1〜1の量(volume)の25% PEG 4000は原形質体の懸濁液に加えることができる。しかしながら、約0.25の量(volume)を原形質体の懸濁液に加えることが好ましい。ジメチルスルホキシド、ヘパリン、スペルミジン、塩化カリウム等の添加剤も摂取溶液に加えてもよく、形質転換を助ける。類似の手順がその他の真菌宿主細胞に用いることができる。例えば、その内容をここに引用する米国特許第6,268,328号を参照されたい。
【0105】
通常、混合物はそれから約0℃で10〜30分間培養する。追加のPEGをそれから混合物に加え、所望の遺伝子またはDNA配列の摂取をさらに高める。25% PEG 4000は通常、形質転換混合物の体積の5〜15倍の体積で加えるが、それより大きい体積または小さい体積も適している。25% PEG 4000は好ましくは形質転換混合物の体積の約10倍である。PEGを加えた後、形質転換混合物をそれから室温または氷上で、ソルビトール及びCaCl溶液を添加する前に培養する。原形質体懸濁液をそれからさらに成長培地の融解アリコートに加える。この成長培地により形質転換だけの成長が可能になる。所望の形質転換の成長に適した任意の成長培地が本発明で使用できる。しかしながら、Pyr形質転換を選択した場合、ウリジンを含まない成長培地を使用することが好ましい。その結果生じたコロニーをウリジンを使い尽くした成長培地上で移動及び精製する。
【0106】
この段階で、速い成長速度及びウリジンが欠落した固体培養基上の不規則な外形よりもむしろ、順調な環状コロニーの形成により安定な形質転換が不安定な形質転換と区別できる。さらに、場合によっては安定性のさらなる試験を、固体非選択性培地(すなわち、ウリジンを含む)上の形質転換体を成長させる、この培養基から胞子を収集し、及び次にウリジンが欠落した選択培地上で発芽及び成長するこれらの胞子のパーセンテージを測定することにより、行うことができる。もしくは、形質転換体を選択するために当業界に公知のその他の方法を用いることができる。
【0107】
上記方法の特定の実施態様において、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼは液体培地中で成長後、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼの適当な翻訳後処理の結果として、宿主細胞から活性体で回収される。
E.CBH1核酸コード配列及び/またはタンパク質発現の分析方法
【0108】
変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ−エンコード核酸構築体を用いて形質転換した細胞株により変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ発現を評価するために、タンパク質レベル、RNAレベルで分析を行うことができ、または特にグルコシダーゼ活性及び/または生成に対する機能的バイオアッセイを使用することにより分析を行うことができる。
【0109】
ここに記載の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ核酸及びタンパク質配列の1の典型的な用途において、糸状菌、例えばトリコデルマ・リーゼイの遺伝子組換え株は増加した量の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼを生成するように設計できる。このような遺伝子組換え糸状菌はセルロース分解能が大きく増加したセルラーゼ生成物を生成するのに有用である。1の手段においてこれは、適当な宿主、例えばアスペルギルス・ニガーなどの糸状菌内に変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをコードする配列を導入することにより達成される。
【0110】
従って、本発明は糸状菌またはその他の適当な宿主の細胞内に変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼをエンコードするDNA配列を含む発現ベクターを導入することにより糸状菌またはその他の適当な宿主内で変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼを発現するための方法を含む。
【0111】
他の側面において、本発明は糸状菌またはその他の適当な宿主内での変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ発現を修飾するための方法を含む。当該修飾は内生CBHの発現の減少または除去を含む。
【0112】
通常、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ発現を分析するために用いる分析は、ノーザンブロッティング、ドットブロッティング(DNAまたはRNA分析)、RT−PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)、または適当な標識プローブ(核酸コード配列に基づく)を用いるin situハイブリダイゼーション、及び従来のサザンブロッティング及びオートラジオグラフィーが挙げられる。
【0113】
さらに、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼの生成及び/または発現はサンプル内で直接測定でき、例えばセロビオヒドロラーゼ活性、発現及び/または生成の分析により測定できる。当該分析は例えば、それぞれここに明示的に引用するBecker,他、Biochem J.(2001)356:19−30及びMitsuishi、他、FEBS(1990)275:135−138に記載されている。CBH1の単離可溶性及び不溶性基質を加水分解する能力はSrisodsuk、他、J.Biotech.(1997)57:49−57及びNidetzky及びClaeyssens Biotech.Bioeng.(1994)44:961−966に記載の分析を用いて測定できる。セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼまたはβ−グルコシダーゼ活性を分析するために有用な基質は結晶性セルロース、ろ紙、リン酸膨潤セルロース、セロオリゴ糖、メチルウンベリフェリル・ラクトシド、メチルウンベリフェリル・セロビオシド、オルトニトロフェニル・ラクトシド、パラニトロフェニル・ラクトシド、オルトニトロフェニル・セロビオシド、パラニトロフェニル・セロビオシドが挙げられる。
【0114】
さらに、タンパク質発現は、細胞、組織切片の免疫組織化学的染色または組織培養基の免疫学的分析など免疫学的方法、例えばウエスタンブロットまたはELISAにより評価できる。当該免疫分析は変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ発現を定性的及び定量的に評価するために用いることができる。当該方法の詳細は当業者に公知であり、当該方法を実施するための多くの試薬が市販されている。
【0115】
変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼの精製体は種々の免疫分析に用いるために発現タンパク質に特異なモノクローナルまたはポリクローナル抗体を生成するために用いることができる(例えば、Hu、他、1991を参照)。典型的な分析はELISA、競合イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロット、間接免疫蛍光試験などが挙げられる。通常、市販の抗体及び/またはキットはセロビオヒドロラーゼタンパク質発現レベルの定量免疫分析に用いることができる。
F.CBH1の精製方法
【0116】
通常、細胞培養基内で生成した変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質は培養基内に分泌され、例えば細胞培養基から不要な成分を除去することにより精製または単離できる。しかしながら、場合によっては、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質は細胞溶解物から回収が必要な細胞型で生成できる。その場合、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質を細胞から精製し、当業者により通常用いられる技術を用いて生成した。例としては限定されないが、アフィニティクロマトグラフィー(Tilbeurgh、他、1984)、イオン交換クロマトグラフィー法(Goyal、他、1991;Fliess、他、1983;Bhikhabhai、他、1984;Ellouz、他、1987)、例えば高い分解力を有する物質を用いたイオン交換(Medve、他、1998)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(Tomaz and Queiroz、1999)及び2相分離(Brumbauer、他、1999)が挙げられる。
【0117】
通常、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質は、特定の結合剤(例えば抗体または受容体)への結合親和性、または選択分子量範囲または等電点範囲を有するなどの選択特性を有するタンパク質を分離するために分画する。
【0118】
所定の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質発現が達成されると、生成した変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質を細胞または細胞培養基から精製する。このような精製に適した典型的な手順は以下を含む:抗体親和性カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカまたはDEAEなどカチオン交換樹脂によるクロマトグラフィー;クロマト分画;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;及び例えばSephadex G−75を用いるゲルろ過。種々のタンパク質精製方法が用いることができ、当該方法は当業者に公知であり、例えばDeutscher,1990;Scopes,1982に記載されている。選択する精製工程は例えば、用いる生成工程の性質及び生成される特定タンパク質に依存する。
V.cbh1及びCBH1の活用
【0119】
当然のことながら、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ核酸、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質及び変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼタンパク質活性を含む組成物は多種多様な用途で用いることができ、そのいくつかを下記に説明する。
【0120】
様々な量で変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼを含む新規で改善されたセルラーゼ組成物は高い洗浄能を示し、柔軟剤として作用し、及び/または綿織物の手触りを改善させる(例えば、“ストーンウォッシング”または“バイオポリッシング”)洗剤組成物、木材パルプを糖に分解する組成物(例えば、バイオ−エタノール生成)及び/または飼料組成物に用いることができる。各タイプのセルラーゼの単離及びキャラクタリゼーションにより当該組成物の特徴を制御する能力が提供される。
【0121】
減少した熱安定性を有する変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼは、例えば、存在すると考えられるその他の酵素に影響しないように酵素活性を低温で中和する必要がある場合に有用である。さらに、当該酵素はセルロース誘導体の限られた変換に有用であり、例えば結晶度またはセルロース誘導体の鎖長を制御するのに有用である。所望の変換範囲に達した後、糖化温度は不安定化されたCBH1.1、H.jecorina CBH1またはS.thermophilium CBH1の生存温度以上に挙げることができる。CBH1活性は結晶セルロースの加水分解に不可欠であるので、結晶セルロースの変換は高温で停止する。
【0122】
1の手段において、本発明の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼは洗剤組成物または手触り及び外観を改善するための織物処理に使用できる。
【0123】
セルロース誘導体生成物の加水分解速度は、複製可能プラスミドとして、またはゲノム内への挿入として少なくとも1の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼ遺伝子のさらなるコピーを有する形質転換体を用いて増加させることができるので、セルロースまたはヘテログリカンを含む生成物がより速い速度でより大量に分解できる。紙、綿、セルロース系オムツ等のセルロースから作られる生成物は埋立て処理地においてより効果的に分解できる。従って、当該形質転換から得られる発酵生成物または形質転換自体は組成物中に使用でき、満杯の埋立て処理地にある多種多様のセルロース生成物を液化することにより分解を助けることができる。
【0124】
分離した糖化及び発酵は、バイオマス、例えば伐採残(コーンストーバー)中に存在するセルロースをグルコースに変換し、続いて酵母株がグルコースをエタノールに変換する方法である。同時糖化及び発酵は、バイオマス、例えば伐採残(コーンストーバー)中に存在するセルロースをグルコースに変換し、同時に同じ反応器内で酵母株がグルコースをエタノールに変換する方法である。従って、他の手段において、本発明の所望のセルラーゼはバイオマスからエタノールへの分解に利用できる。容易に入手可能なセルロース源からのエタノール生成は安定で再生可能な燃料源を提供する。
【0125】
セルロースベース供給原料は農業廃棄物、草及び木材及びその他の低価値バイオマス、例えば都市ゴミ(例えば、再生紙、庭伐採ゴミ(yard clippings)等)からなる。エタノールは任意のこれらセルロース系供給原料の発酵から生成できる。しかしながら、セルロースは、エタノール変換の前にまず糖に変換されなければならない。従って、ここに記載のCBH1セルラーゼはバイオマスから糖への変換に有用である。
【0126】
多種多様の供給原料が本発明の変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼと用いることができ、使用する種類の選択は変換が行われる地域に依存する。例えば、アメリカ中西部では麦かん、伐採残(コーンストーバー)及びバガスなどの農業廃棄物が主流であり、一方、カリフォルニアでは稲わらが主流である。しかしながら、当然のことながらいかなる入手可能なセルロース系バイオマスも任意の地域で使用できる。
【0127】
増加した量でセロビオヒドロラーゼを含むセルラーゼ組成物はエタノール生成に利用することができる。この方法から得たエタノールはさらにオクタンエンハンサーとして用いることができ、またはガソリンの代わりに直接燃料として用いることができ、燃料源としてのエタノールは石油由来生成物よりもより環境に優しいので有用である。エタノールの使用は大気環境を改善し、局所オゾンレベル及びスモッグを減少させる可能性があることが知られている。さらに、ガソリンの代わりにエタノールを利用することは非再生エネルギー及び石油化学供給の突然移行の影響を緩衝するために戦略的に重要である。
【0128】
エタノールは糖化及び発酵プロセスにより木、葉状植物、都市固体ゴミ及び農業及び林業残留物などのセルロース系バイオマスから生成できる。しかしながら、微生物により生成される天然セロビオヒドロラーゼ混合物内の個々のセルラーゼ酵素の比率は、バイオマスからグルコースへのセルロース変換を速く行うために最も効果的な比率ではない。エンドグルカナーゼは新しいセルロース鎖末端の生成に作用し、それ自身はセロビオヒドロラーゼ活性の基質であり、それによってセルラーゼ系全体の加水分解効率が改善することが知られている。従って、増加した、または最適化されたセロビオヒドロラーゼ活性を使用してエタノール生成を大きく高めることができる。
【0129】
従って、本発明のセロビオヒドロラーゼはセルロースをその糖成分に加水分解する際に使用できる。1の実施態様において、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼは発酵生物添加前にバイオマスに添加する。第2の実施態様において、変異体CBH1.1、H.jecorina CBH1変異体またはS.thermophilium CBH1セルラーゼは発酵生物と同時にバイオマスに添加する。任意で、いずれの実施態様もその他のセルラーゼ成分が存在できる。高められたセルロース変換はここに記載のCBH1ポリペプチドを用いて高温で達成できる。
【0130】
他の実施態様において、セルロース系供給原料を前処理することができる。前処理は高温及び希酸、濃酸または希アルカリ溶液を添加することによる。前処理溶液はヘミセルロース成分を少なくとも部分的に加水分解するのに十分な時間で加え、それから中和する。
【0131】
本発明の洗剤組成物はセルラーゼ組成物に加えて(セロビオヒドロラーゼ含量に関係なく、すなわち、セロビオヒドロラーゼを含まない、実質的に含まないまたは増加した量のセロビオヒドロラーゼ)、界面活性剤、例えば陰イオン性、非イオン性及び両性イオン性界面活性剤、ヒドロラーゼ、ビルディング剤、漂白剤、青味剤及び蛍光剤、ケーキング防止剤、可溶化剤、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これら全ての成分は洗剤業界に公知である。上述のセルラーゼ組成物は、希釈液、顆粒、エマルジョン、ゲル、ペースト等の洗剤組成物に加えることができる。当該形態は当業者に公知である。固形洗剤組成物を用いる場合、セルラーゼ組成物は顆粒として処方するのが好ましい。好ましくは、顆粒はセルラーゼ保護剤を含むように処方される。さらに詳細な議論については、ここに引用する米国特許第6,162,782号、表題“Detergent compositions containing cellulase compositions deficient in CBH I type components(CBH
I型成分が欠損したセルラーゼ組成物を含有する洗浄剤組成物)”を参照されたい。
【0132】
好ましくは、セルラーゼ組成物は洗剤組成物全体に関して約0.00005重量%〜約5重量%で用いる。より好ましくは、セルラーゼ組成物は洗剤組成物全体に関して約0.0002重量%〜約2重量%を用いる。
【0133】
さらに、所望のセルラーゼ核酸配列は関連核酸配列の同定及びキャラクタリゼーションに使用できる。関連遺伝子または遺伝子産物の機能の測定(予測または確認)に有用な多数の技術は、限定されないが、以下を含む、(A)DNA/RNA分析、例えば(1)過剰発現、異所性発現及びその他の種における発現;(2)遺伝子ノックアウト(逆遺伝学、標的ノックアウト、ウイルスによる遺伝子抑制(VIGS、Baulcombe、1999を参照);(3)遺伝子、特にフランキング調節領域のメチル化状態の分析;及び(4)in situハイブリダイゼーション;(B)遺伝子産物分析、例えば(1)組換えタンパク質発現;(2)抗血清生成、(3)免疫学的局在決定;(4)触媒的またはその他の活性の生化学分析;(5)リン酸化反応状態;及び(6)酵母2ハイブリッド分析によるその他のタンパク質との相互作用;(C)経路分析、例えば、過剰発現表現型に基づいた、または関連遺伝子との配列相同性による、特定生化学またはシグナリング経路内の遺伝子または遺伝子産物のプレイシング;及び(D)特定代謝またはシグナリング経路において単離遺伝子及びその産物の関与を測定または確認するために実施でき、遺伝子機能の測定に役立つ、その他の分析。
【実施例】
【0134】
実施例
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明し、これらは本発明の範囲をいかなる形においても制限するものではない。添付の図は本発明の明細書及び説明の不可欠な要素として考慮される。ここに引用する全ての文献はここに明示的に引用されるものとする。
【0135】
実施例1
CBH1.1変異体の同定
この実施例は変異体H.グリセアCBH1.1をエンコードする核酸の同定及びキャラクタリゼーションについて説明する。
ゲノムDNAの同定
【0136】
ゲノムDNAは当業界に公知の任意の方法を用いて単離できる。この一連の実験において、フミコーラ・グリセア var thermoidea(CBS225.63)のサンプルを得た。しかしながら、以下の手順も用いることができる:
細胞を20mlポテトデキストロース培養液(PDB)中、45℃で24時間成長させる。当該細胞を新しいPDB培地中で1:20に希釈し、一晩中成長させる。2mLの細胞を遠心し、ペレットを1mL KC(60g、KCl、2gクエン酸/L、KOHを用いてpHを6.2に調節)中で洗浄する。細胞ペレットを900μL KC中で再懸濁させる。100μL(20mg/mL)ノボザイム(Novozyme:登録商標)を加え、ゆっくりと混合し、次に95%以上の原形質体が形成されるまで、微視的に37℃、最大2時間でプロトプラステーション(protoplastation)を行う。当該細胞を1500rpmで(460g)10分間遠心する。200μL TES/SDS(10mM Tris、50mM EDTA、150mM NaCl、1%SDS)を加え、混合し、室温で5分間培養する。DNAをキアゲンミニプレップ(mini−prep)単離キット(Qiagen)を用いて単離する。カラムを100μLのmilli−Q水を用いて溶出させ、DNAを収集する。
【0137】
これは45℃で成長させたPDAプレートからH.グリセア var thermoideaのゲノムDNAを単離するために用いる方法である。もしくはFastPrep(登録商標)法を用いる方法も好ましい。当該システムは核酸単離のためのFastPrep(登録商標)機器及びFastPrep(登録商標)キットからなる。FastPrep(登録商標)はQbiogene社(Qbiogene,Inc.,2251 Rutherford Road,Carlsbad,カリフォルニア州、92008)から入手可能である。
【0138】
プライマーの構築
PCRはPCT−200 Peltier Thermal Cycler(MJ Research社)などの標準PCR機械上で、以下の条件下で行った:
1)1分、96℃で1サイクル
2)30秒、94℃
60秒、55℃
2分、72℃
3)工程2繰り返し、30サイクル
4)7分、72℃、1サイクル、及び
5)保管及びさらなる分析、低温〜15℃。
【0139】
以下のDNAプライマーを種々の微生物から単離したゲノムDNA由来の相同体CBH1遺伝子の増幅に使用するために構築した。タンパク質及びDNAに関してここで用いる全ての記号はIUPAC IUB生化学命名法割当てコードに対応する。
相同体5’(PVS203)及び3’(PVS204)プライマーをフミコーラ・グリセア var thermoidea(IFO9854)由来CBH1配列に基づいて開発した。この株はD63515として配置図中に示した配列を発現する(図5)。両プライマーはインビトロジェン(Invitrogen(登録商標))のGatewayクローニング配列をプライマーの5’に含む。プライマーPVS203はattB1配列を含み、プライマーPVS204はattB2配列を含む。
【式1】
【0140】

【0141】
PCR条件は以下の通り:20μLの5X反応緩衝液(50mM Tris HCl、pH8.5;87.5mM(NHSO;6.25mM MgCL;2.5% Teen20(v/v)7.5% DMSO(v/v)を含む5X反応緩衝液);各0.2mMの、dATP,dTTP、dGTP、dCTP(最終濃度)、1μLの100ng/μLゲノムDNA、1μLのTgoポリメラーゼ(Roche diagnostics GmbH,Cat#3186199)、μL当たり1ユニット、各0.2μMのプライマー、PVS203及びPVS204(最終濃度)、及び水100μLまで。
【0142】
変異体H.グリセアCBH1.1遺伝子配列の単離
完全長配列をN末端(PVS203)及びC末端(PVS204)プライマーを用いることにより直接得た。完全長DNA配列をベクターNTIソフトウェアを用いる3つのオープンリーディングフレーム内に翻訳した。DNA及びタンパク質配列とH.グリセア Cel7A(X17258及びD63515)の2つの公知配列との比較を行い、推定上のイントロン配列を同定した。イントロン配列を含まないゲノムDNA配列の翻訳により変異体H.グリセアCBH1.1のタンパク質配列が明らかになった。完全長遺伝子が得られ、図1に示した(ゲノムDNA)。推定cDNAを図2に表す。
【0143】
実施例2
CBH1.1変異体発現
以下の実施例はどのように変異体H.グリセアCBH1.1遺伝子の発現が行われたかについて詳述する。
【0144】
実施例1の完全長遺伝子を目的地ベクターを適合性のあるA.ニガー Gateway(ジェネンコーが開発)に移した。このベクターを骨格としてpRAX1を用いることにより、Gateway(登録商標)クローニング・テクノロジー:バージョン1、第34−38頁の所定のマニュアルに従って構築した(図6に示す)。
新しく開発した発現ベクターを図7に示す。これは新しい遺伝子を目的地ベクターpRAXdes2内に移すものである。これにより最終発現ベクターが得られ、pRAXdesCBH1を呼ぶ(図8を参照)。
【0145】
当該構築体をCao、他に記載の方法に従ってA.ニガー var.アワモリ内に形質転換した(Cao Q−N、Stubbs M、Ngo KQP,Ward M、Cunningham A,Pai EF,Tu G−C及びHofmann T(2000)Penicillopepsin−JT2 a recombinant enzyme
from Penicillium Janthinellum and contribution of a hydrogen bond in subsite S3
to kcat(ペニシロペプシン−JT2、ペニシリウム・janthinellum由来の組換え酵素、及びサブサイトS3からkcatにおける水素結合の寄与) Protein Science 9:991−1001)。
【0146】
形質転換を最小培地プレート(Ballance DJ,Buxton FP、及びTurner G(1983)Transformation of Aspergillus nidulans by the orotidine−5’−phosphate decarboxylase gene of Neurospora crassa(アカパンカビのオロチジン−5’− リン酸デカルボキシラーゼ遺伝子によるアスペルギルス・ニデュランスの形質転換) Biochem Biophys Res Commun 112:284−289)上に筋上に加え、4日間、30℃で成長させた。胞子を当業界に公知の方法を用いて回収した(<www.fgsc.net/fgn48/Kaminskyj.htm>を参照)。A.ニデュランス分生子を水中で(胞子を取除くために殺菌湾曲ガラス棒を用いて分生子(conidiating)培養物の表面を擦ることにより)収集し、生存に深刻な損失を生じることなく4℃で数週間から数ヶ月保存できる。しかしながら、新しく収集した胞子はより繁殖して発芽した。長期保存に関して、胞子は50%グリセロール中、−20℃で、または15−20%グリセロール中、−80℃で保存できる。グリセロールは80%水溶液としてより簡単にピペットで取られる。800μLの分生子懸濁水溶液(4℃保存用として作成)を200μL 80%グリセロールに加えたものを−80℃保存用に用いる。400μL懸濁液を600μL 80%グリセロールに加えたものを−20℃保存用に用いる。凍結前に遠心(vortex)する。変異体を回収するため、少量の分生子培養物を摘出し、20% グリセロール内に加え、遠心し、及び−80℃保存として凍結させる。この場合、これらを50% グリセロール内、−80℃で保存する。
【0147】
A.ニガー var アワモリ形質転換体をウリジンが欠落した最小培地(Ballance、他、1983)上で成長させた。形質転換体を、Cao、他(2000)に記載の通り、胞子形成成長寒天プレートからの1cmの胞子懸濁液を100mLの振とうフラスコ中に3日間、37℃で植菌することによりセルラーゼ活性をスクリーニングした。
CBH1活性分析は非蛍光4−メチルウンベリフェリル−β−ラクトシドから生成物ラクトース及び7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンへの加水分解に基づき、後者の生成物は蛍光シグナルに関与する。170μL 50mM NaAc緩衝液 pH4.5を96ウェル・マイクロタイタープレート(MTP)(Greiner,Fluotrac 200、art.nr.655076)中にピペットで取り、蛍光に適している。10μLの上澄みを加え、それから10μLのMUL(1mM 4−メチルウンベリフェリル−β−ラクトシド(MUL)のmilliQ水)を加え、MTPをFluostar Galaxy(BMG Labtechnologies;D−77656 Offenburg)中に置く。反応速度を16分間(それぞれ120秒、8サイクル)、λ320nm(励起)及びλ460nm(発光)を用いて50℃で測定する。CBH活性を有する上澄みをそれから下記の実施例3の説明の通り、疎水性相互作用クロマトグラフィーに供した。アミノ酸配列を上記実施例1の通り推定した。変異体CBH1.1のアミノ酸配列を図3にシグナル配列を含めて、図4にシグナル配列を含まないで示した。シグナル配列を太字、下線書体で図3に示す。
【0148】
実施例3
CBH1変異体の熱安定性
以下の実施例は変異体H.グリセアCBH1.1とT.リーゼイCBH1セルラーゼ酵素の熱安定性の差を詳述する。
【0149】
CBH1セルラーゼ変異体を上述の通りクローン及び発現させた(実施例2を参照)。Cel7A野生型及び変異体をそれからカラムクロマトグラフィーによりこれらの培養物の細胞を含まない(cell−free)上澄みから精製した。タンパク質を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて精製した。カラムをBioCAD(登録商標)Sprint Perfusionクロマトグラフィーシステム上でPoros(登録商標)20HP2樹脂を用いて操作し、これらは両方ともApplied Biosystems製である。
【0150】
HICカラムを5カラム体積の0.020M リン酸ナトリウム、0.5M 硫酸アンモニウムを用いてpH6.8で平衡にした。硫酸アンモニウムを上澄みに加え、最終濃度が約0.5Mになるようにし、及びpHを6.8に調節した。ろ過後、上澄みをカラム上に充填する。充填後、カラムを10カラム量(volume)の平衡緩衝液で洗浄し、それから10カラム量で0.5M硫酸アンモニウムからゼロ硫酸アンモニウム勾配で、pH6.8、0.02Mリン酸ナトリウム中で溶出させた。Cel7Aをおおよそ中間勾配で溶出させた。断片を収集し、還元、SDS−PAGEゲル分析に基づいてプールした。
【0151】
融点をLuo、他、Biochemistry 34:10669及びGloss、他、Biochemistry 36:5612の方法に従って測定した。
【0152】
データをAviv 215円偏光二色性分光計により集めた。210〜260ナノメートルの変異体のスペクトルを25℃で取った。緩衝液条件は50mM ビス−トリス−プロパン/50mM 酢酸アンモニウム/氷酢酸、pH5.5である。タンパク質濃度は0.25〜0.5mgs/mLに維持した。非折り畳みを観測するための最適波長を測定した後、サンプルを同じ緩衝条件下、温度25℃〜75℃に傾斜させることにより熱変性させた。データを5秒間、2度毎に回収した。部分的に可逆的な非折り畳みを230ナノメートル、0.1cmパス・レングス細胞中で観測した。
【0153】
変異体H.グリセアCBH1.1セルラーゼは野生型T.リーゼイCBH1と比較して高められた熱安定性プロファイルを有する。変異体H.グリセアCBH1.1のTmは72.5℃であり、T.リーゼイのTmは62.3℃である。
実施例4
CBH1変異体の活性
【0154】
以下の実施例はH.グリセアCBH1.1変異体の活性の評価方法について詳述する。
【0155】
セルロース変換を当業界に公知の技術により評価した。例えば、Baker、他、Appl Biochem Biotechnol 1998 Spring;70−72():395−403を参照されたい。
【0156】
標準セルロース誘導体変換分析を実験に用いた。この分析において、酵素及び緩衝基質を容器内に入れ、ある温度でゆっくり時間をかけて培養した。当該反応を十分な100mM グリシン、pH11.0で冷却し、反応混合物のpHを少なくともpH10にした。反応を抑えた後、反応混合物のアリコートを0.2ミクロン膜によりろ過し、固体を除去した。続いてろ過溶液を、Baker、他、Appl.Biochem.Biotechnol.70−72:395−403(1998)に記載の方法に従って、HPLCにより可溶性糖について分析した。
【0157】
前処理伐採残(コーンストーバー)(PCS)−伐採残(コーンストーバー)をSchell,D.他、J.Appl.Biochem.Biotechnol.105:69−86(2003)に記載の通り2% w/w HSOで前処理し、次に脱イオン水で複数回洗浄し、pH4.5となった。酢酸ナトリウムを加えて最終濃度50mMにし、これを滴定してpH5.0とした。当該反応混合物中のセルロース濃度は約7%であった。
【0158】
リン酸膨潤セルロース(PASC)−PASCを、Walseth(1971)Tappi 35:228(1971)及びWood Biochem J.121:353(1971)に記載の方法に従って、アビセル(Avicel)から調製した。この物質を緩衝液及び水を用いて希釈して0.63% w/v混合物を得て、酢酸ナトリウムの最終濃度が50mM、pH5.0になるようにした。酵素はセルロース1グラム当たり全タンパク質1.6mgで投与した。
【0159】
最初の一連の実験は12.66%の前処理伐採残(コーンストーバー)(PCS)について38℃、1日間での変換率を調べ(Schell,D.他、J.Appl.Biochem.Biotechnol.(2003)105:69−86を参照)、15.5mg酵素/gmセルロースを用いた。サンプルを700rpmで掻き混ぜた。以下の間で比較を行った:1)CBH1欠失トリコデルマ株由来のセルラーゼ(delCBH1);2)T.リーゼイCBH1遺伝子を挿入したA.ニガー株(rCBH1);その天然CBHBを過剰発現するA.ニガー株(Aniger);4)H.シュワイニッチィCBH1遺伝子を挿入したA.ニガー株(Hシュワイニッチィ/An);5)T.プソイドコニンギCBH1遺伝子を挿入したA.ニガー株(Tプソイドコニンギ/An);6)H.グリセア変異体CBH1.1遺伝子を挿入したA.ニガー株(Hグリセア/An−1);7)H.グリセアCBH1.1遺伝子を挿入したA.ニガー株(Hグリセア/An−2)。Hグリセア/An−1及びHグリセア/An−2はA.ニガーとH.グリセア変異体CBH1.1遺伝子の同じ形質転換から得た2つのクローンである。最初の一連の実験から得た結果を図9に表す。見ての通り、H.グリセア変異体CBH1.1は試験したその他のCBHのいずれと比べても性能が高くない。図11は同じ実験条件から得られるT.リーゼイnCBH1に対するH.グリセア変異体CBH1.1との比較である。
【0160】
2番目の一連の実験は培養温度が38℃でなく65℃である以外は最初の実験と同様の条件下で変換率を調べた。この一連の実験の結果を図10に示す。見ての通り、H.グリセア変異体CBH1.1は試験したその他のCBHのより高い性能を有する。図12は同じ実験条件から得られるT.リーゼイrCBH1に対するH.グリセア変異体CBH1.1の比較である。
【0161】
3番目の一連の実験は前述の実験と同様の試験条件下、PASCからのセロビオース生成率を調べた。温度は38℃、65℃及び70℃を用いた。結果を図13に表す。見ての通り、H.グリセア変異体CBH1.1は全ての試験温度でT.リーゼイCBH1より性能が高かった。
【0162】
実施例5
スキタリジウム・thermophilium CBH1の単離
この実験はS.thermophilium CBH1をエンコードする核酸の単離及びキャラクタリゼーションを説明する。
【0163】
ゲノムDNAの単離及びプライマーの構築
スキタリジウム・thermophilium CBH1をクローニング、発現及び精製する方法はフミコーラ・グリセア var.thermoidea CBH1.1に関して記載した通りである(実施例1を参照)。スキタリジウム・thermophilium由来CBH1遺伝子を公知株コレクション・エントリーCBS671.88由来のゲノムDNAから同じPCRプライマー、フミコーラ・グリセア var.thermoide CBH1.1を増幅するために用いたPVS203及びPVS204を用いて増幅した。
【0164】
S.thermophilium CBH1遺伝子配列の単離
完全長配列をN末端(PVS203)及びC末端(PVS204)プライマーを用いて直接得た。完全長DNA配列をベクターNTIソフトウェアを用いて3つのリーディングフレーム内に翻訳した。イントロン配列を含まないゲノムDNA配列の翻訳によりS.thermophilium CBH1のタンパク質配列が明らかになった。完全長遺伝子が得られ、図14Aに示す(ゲノムDNA)。推測cDNAを図14Bに表す。シグナル配列を含むアミノ酸配列と含まないアミノ酸配列をそれぞれ図14C及び15に示す。
S.thermophioium CBH1、フミコーラ・グリセア var.thermoidea CBH1.1及びH.jecorina CBH1タンパク質配列を配置させた。図15を参照されたい。
【0165】
フミコーラ・グリセア var.thermoidea CBH1.1及び非常に安定なスキタリジウム・thermophilum CBH1間の部位の差を同定し、次に図15の配置を用いることによりヒポクレア・jecorina CBH1中の対応位置を同定する。そして、これはフミコーラ・グリセア var.thermoidea CBH1.1またはスキタリジウム・thermophilum CBH1のいずれよりもかなり不安定である。ヒポクレア・jecorina CBHI中の以下の部位(成熟タンパク質残基番号)を安定性に関して重要なものとして同定する:
Thr(T)55、好ましくはThr55Glu(T55E)及びThr55Lys(T55K)
Ser(S)58、好ましくはSer58Thr(S58T)
Gln(Q)101、好ましくはGln101Tyr(Q101Y)及びGln101His(Q101H)
Asn(N)250、好ましくはAsn250Asp(N250D)及びAsn250Glu(N250E)
Pro(P)265、好ましくはPro265Ala(P265A)及びPro265Ser(P265S)
Leu(L)288、好ましくはLeu288Ile(L288I)。
【0166】
実施例6
スキタリジウム・thermophilium CBH1の熱安定性
この実施例はS.thermophilum CBH1及びH.グリセア var.thermoidea CBH1.1の熱安定性測定について説明する。
S.thermophilum CBH1及びH.グリセア var.thermoidea CBH1.1を実施例2に記載の方法を用いて発現し、実施例3の通り精製し、Microcal VP−DSCを用いて示差走査熱量測定により分析した。サンプルを30〜95℃、90℃/時間でスキャンした。精製タンパク質を50mM 酢酸アンモニウム及び50mM ビストリス・プロパン内でpH5.5で脱塩した。全てのサンプルの最終タンパク質濃度は0.05〜0.25mg/mLだった。
【0167】
S.thermophilumに関して観測された温度遷移の中間点は78.3℃であった。H.グリセア CBH1.1の温度遷移の中間点は76.0℃だった。図16を参照。
【0168】
ここに記載される実施例及び実施態様は説明目的のためのみであり、これに照らして種々の修正または変形が当業者に示唆され、本発明の概念及び精神及び請求の範囲の範囲内であることが理解される。ここに記載の全ての文献、特許及び特許出願はその全体を全ての目的においてここに引用するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される、セロビオヒドロラーゼI活性を有するポリペプチド:
a)CBS225.63由来のH.グリセア(grisea)CBH1.1変異体;
b)図3(配列番号3)に示す配列を有するH.グリセアCBH1.1変異体;
c)成熟型配列のT55、S58、Q101、N250、P265及びL288からなる群より選択される少なくとも1の置換を含むヒポクレア(Hypocrea)・jecorina CBH1変異体;及び
d)CBS671.88由来のスキタリジウム(Scytalidium)・thermophilium CBH1(配列番号11)。
【請求項2】
ヒポクレア・jecorina CBH1変異体が、T55E、T55K、S58T、Q101Y、Q101H、N250D、N250E、P265A、P265S及びL288Iの1以上に対応する位置で置換を含む、請求項1のポリペプチド。
【請求項3】
さらにシグナル配列を含む請求項1のポリペプチド。
【請求項4】
図4(配列番号4)に示す配列を有するH.グリセアCBH1.1変異体を含む、請求項3のポリペプチド。
【請求項5】
スキタリジウム・thermophilium CBH1(配列番号9)を含む請求項3のポリペプチド。
【請求項6】
以下からなる群より選択されるセロビオヒドロラーゼをエンコードするポリヌクレオチド:
a)CBS225.63由来のH.グリセアCBH1.1変異体;
b)成熟型配列のT55、S58、Q101、N250、P265及びL288からなる群より選択される少なくとも1の置換を含むヒポクレア・jecorina CBH1変異体;及び
c)CBS671.88由来のスキタリジウム(Scytalidium)・thermophilium CBH1。
【請求項7】
セロビオヒドロラーゼがH.グリセアCBH1.1変異体であり、CBS225.63由来である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
H.グリセアCBH1.1変異体が配列番号3を含む、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
H.グリセアCBH1.1変異体が配列番号4を含む、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
セロビオヒドロラーゼが配列番号9を含むS.thermophilium CBH1である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
セロビオヒドロラーゼが配列番号11を含むS.thermophilium CBH1である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
セロビオヒドロラーゼが、配列番号10のT55E、T55K、S58T、Q101Y、Q101H、N250D、N250E、P265A、P265S及びL288Iの1以上に対応する位置で置換を含むH.jecorina CBH1変異体である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
1以上の制御配列に動作可能に連結した、請求項6に記載のヌクレオチド配列を含む核酸構築体。
【請求項14】
請求項13の核酸構築体を含む組換え発現ベクター。
【請求項15】
請求項14の核酸構築体を含む組換え宿主細胞。
【請求項16】
以下の工程を含むCBH1ポリペプチドを生成する方法:
a)宿主細胞と請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む核酸とを形質転換する工程;
b)当該ポリペプチドを生成する条件下で宿主細胞を培養する工程;及び
c)当該ポリペプチドを回収する工程。
【請求項17】
請求項1に記載のセロビオヒドロラーゼI活性を有するポリペプチドを含む組成物。
【請求項18】
バイオマスを糖に変換する方法であって、当該バイオマスとセロビオヒドロラーゼI活性を有するポリペプチドとを接触させる工程を含み、前記ポリペプチドがT.リーゼイ(reesei)と比べて、65℃のPCS変換分析または38℃のPASC分析いずれにおいても高い活性を有する、方法。
【請求項19】
バイオマスを糖に変換する方法であって、前記バイオマスと請求項1に記載のセロビオヒドロラーゼI活性を有するポリペプチドとを接触させる工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−125341(P2011−125341A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5648(P2011−5648)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【分割の表示】特願2006−532346(P2006−532346)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】