説明

変異体プリンヌクレオシドホスホリラーゼタンパク質及びその細胞送達

【課題】酵素切断時に細胞毒性プリンを生じるヌクレオシド化合物を提供する。
【解決手段】下記式:
【化1】


(式中、Aは細胞毒性プリンであり;R1とR2は各々独立して置換基を有するヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり;R3とR4は各々独立してヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C2-C6アルケニル基、C2-C6アルキニル基、ヘテロ原子置換C1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である)を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
助成金の説明
本発明に関して行なわれた研究は、国立がん研究所から助成金 #U 19-CA67763により一部援助されたものである。
発明の背景
発明の分野
本発明は、非変異体プリンヌクレオシドホスホリラーゼ酵素と異なる活性を有する変異体プリンヌクレオシドホスホリラーゼ酵素、及びこれらの変異体酵素のヌクレオシド基質に関する。特に、本発明は、特定の基質を切断する際に野生型酵素より活性が大きい変異体M65Vに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
腫瘍細胞を選択的に障害させるプロドラッグ活性化戦略には、腫瘍細胞内で外因性酵素をコード化している遺伝子の発現とその酵素の基質の投与が必要である。酵素は基質に作用して標的腫瘍細胞に対して毒性の物質を生成させる。この手法は、リシン、ジフテリア毒素、又はシュードモナス外毒素のような直接の毒性遺伝子の発現に有利である。これらの利点には、(1)細胞障害を力価測定する可能性、(2)プロドラッグレベルか又は組換え酵素発現レベルを調節することにより治療指数を最適化する可能性、及び(3)プロドラッグの投与を省略することにより毒性を中断する可能性が含まれる。更に、この手法は、異なる細胞型に対して異なる効果があることがわかったプロドラッグを用い、特定の病態に応じて治療を調節することができる。
プロドラッグ活性化方法に有効な酵素は記載されており、米国特許第5,338,678号、同第5,552,311号、同第6,017,896号、同第6,207,150号に記載されるように、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ又はプリンヌクレオシドホスホリラーゼのような酵素が含まれる。しかしながら、基質投与の副作用が存在する場合には、プロドラッグ活性化法を用いた腫瘍治療の有効性が制限されてしまう。例えば、チミジンキナーゼと組合わせてしばしば用いられるプロドラッグガンシクロビルは望まれていない免疫抑制作用を引き起こすことがある。プリンヌクレオシドホスホリラーゼ治療の場合には、ヒト細胞内と正常な腸内菌相内にそれぞれ存在するプリンヌクレオシドホスホリラーゼの活性のために望ましくない副作用が生じてしまう。
従って、副作用の問題を克服する腫瘍を治療するためのプロドラッグ活性化法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の概要
野生型プリン切断酵素と異なる生物活性を有する変異体プリン切断酵素をコード化しているヌクレオチド配列が提供される。特に、変異体E. coli由来プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)とヌクレオシドヒドロラーゼが提供される。更に詳細には、65位(fmetから数えて)のメチオニンがバリン置換された変異体E. coli由来PNPタンパク質(M65V:配列番号2)をコード化しているヌクレオチド配列が記載される(M65V:配列番号1)。更に、157位、fmetから数えた場合には157位のアラニンがバリン置換された変異体E. coli由来PNPタンパク質(A157V:配列番号4)をコード化しているヌクレオチド配列が提供される(A157V:配列番号3)。更に、プリンヌクレオシド類似体基質を切断する際に野生型E. coli由来PNPと比べて異なる活性を有する変異体E. coli由来プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)タンパク質が提供される。
変異体PNPヌクレオチド配列を含む組換えベクターが記載される。変異体E. coli由来プリンヌクレオシドホスホリラーゼタンパク質をコード化しているヌクレオチド配列を含むベクターが更に記載される。そのようなベクターで形質転換されたホスト細胞も記載される。
変異体E. coli由来PNPタンパク質、M65Vのヌクレオチド配列を含む組換え発現ベクターが提供される。更に、変異体E. coli由来PNPタンパク質: A157V、M65V、M65A、M65I、M65Q、H5N、A157F、A157L、E180D、E180N、E180S、E180T、M181A、M181L、M181N、M181V、M181E、E182A、E182Q、E182V、D205A及びD205Nの1種のヌクレオチド配列を含有する組換えベクターが提供される。
遺伝子を標的細胞に運ぶことができ且つ変異体プリン切断酵素のヌクレオチド配列を含む組換えウイルスも提供される。M65Vのような変異体E. coli由来プリン切断酵素をコード化しているヌクレオチドを含有する組換えウイルスが更に記載される。遺伝子を標的細胞に運ぶことができ且つ変異体E. coli由来PNPタンパク質: A157V、M65V、M65A、M65I、M65Q、H5N、A157F、A157L、E180D、E180N、E180S、E180T、M181A、M181L、M181N、M181V、M181E、E182A、E182Q、E182V、D205A及びD205Nの1種のヌクレオチド配列を含む組換えウイルスが提供される。
【0004】
野生型プリン切断酵素と異なる生物活性を有する組換え変異体プリン切断酵素が提供される。特に、野生型E. coliPNPと異なる生物活性を有する組換え変異体E. coliPNPが詳述される。
本発明の変異体プリン切断酵素をコード化しているヌクレオチド配列を標的細胞に投与するステップ、及びプロドラッグの有効量を送達させるステップを含む細胞を障害させる方法も記載される。更に詳細には、変異体E. coli PNPを細胞に投与するとともに適切なPNP基質を送達させて毒素を生成し、よって細胞を障害させることにより、異常な細胞増殖と病原性ウイルス感染症を治療する方法が提供される。特に、細胞を障害させる方法であって、変異体E. coli PNP M65Vを標的に投与し、プロドラッグとして作用するそのヌクレオシド基質の有効量を送達させる、前記方法が記載される。細胞を障害させる方法であって、変異体E. coli PNP M65Vを標的に投与し、9-(6,7-ジデオキシ-α-L-ヘプタ-6-イノフラノシル)-6-メチルプリンの有効量を送達させる、前記方法が記載される。細胞を障害させる方法であって、変異体E. coli PNP M65Vを標的に投与し、9-(α-L-リキソフラノシル)-2-フルオロアデニンの有効量を送達させる、前記方法が記載される。細胞を障害させる方法であって、変異体E. coli PNP M65Vを標的に投与し、9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-6-メチルプリンの有効量を送達させる、前記方法が記載される。細胞を障害させる方法であって、変異体E. coli PNP M65Vを標的に投与し、9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-2-フルオロアデニンの有効量を送達させる、前記方法が記載される。
配列番号2として示されるアミノ酸配列をコード化しているヌクレオチド配列を含有するベクター、配列番号2によって示される精製変異体PNP又は配列番号2によって示される変異体PNPをコード化しているヌクレオチド配列を含有する組換えウイルスを含む、細胞を障害させるための市販キットが記載される。
変異体PNPによる酵素切断時に細胞毒性プリンを生じるヌクレオシド化合物が更に提供される。
下記式:
【0005】
【化1】

【0006】
[式中、Aは
【0007】
【化2】

【0008】
からなる群より選ばれた細胞毒性プリンであり;
Xは存在ごとに独立してヒドリル基、C1-C8アルキル基、又はC0-C4アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
Yはヒドリル基、メチル基、エチル基、アミノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基であり;
Zはヒドリル基、C1-C8アルキル基、C2-C6アルケニル基、C0-C4アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R1はヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、OR5基(ここで、R5はC1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である。)、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドロリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R2はヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、OR6基(ここで、R6はC1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である。)、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドロリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R3とR4は各々独立してヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C2-C6アルケニル基、C2-C6アルキニル基、ヘテロ原子置換C1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基(ここで、ヘテロ原子はヒドロキシ-酸素又はC1-C6アルコキシ-酸素、アミン-窒素C1-C8置換アミン-窒素、スルフヒドリルイオウ、スルファニルイオウ、C1-C6アルキルチオエーテルイオウ、C6-C10アリールチオエーテルイオウ、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。)である。但し、式IのXがメチルであり、Yがヒドリルであり、R1、R2又はR3の少なくとも1つがヒドリルである化合物の場合には、R4はCH2OHではなく、式IのXがアミンであり、Yがヒドリル、フルオロ又はクロロであり、R1、R2の少なくとも1つがヒドリル又はヒドロキシである化合物の場合には、R3はCH3、CH2OH、又はC6-C10アリールチオエーテルイオウで置換されたC1アルキルではなく、Aが
【0009】
【化3】

【0010】
であり、Xがメチルであり、Yがヒドリルであり、R1、R2、又はR3の少なくとも1つがヒドロリルである場合には、R4はCH2OHではなく、Aが
【0011】
【化4】

【0012】
であり、Xがアミノであり、Yがヒドリル又はフルオロ又はクロロであり、R1又はR2の少なくとも1つがヒドリルである場合には、R3はCH3、CH2OH、又はC6-C10アリールチオエーテルイオウで置換されたメチルではない。)
を有する化合物。
ヌクレオシド化合物を合成する方法には、処理の際にヒドロキシル基をヨード基に変換するヨウ素化を受け入れられるヒドロキシル化ヌクレオシドを生じる1つのヒドロキシル基を除く全部の保護が必要である。ヨード基は還元しやすく、対応するアルキルヌクレオシドを得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明の課題である酵素は、プリンヌクレオシドホスホリラーゼやヌクレオシドヒドロラーゼのようなプリン切断酵素である。メチルチオアデノシンホスホリラーゼは、本発明の課題のプリンヌクレオシドホスホリラーゼのサブクラスの例示である。プリンヌクレオシドホスホリラーゼやヌクレオシドヒドロラーゼには、ヒトのような哺乳動物、又はリーシュマニア・ドノバニ(Leishmania donovani); トリコモナス・バギナリス(Trichomomas vaginalis); トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi); シストオソ−マ・マンソニ(Schistosoma mansoni); リーシュマニア・トロピカ(Leishmania tropica); クリチジア・ファシクラタ(Crithidia fasciculata); アスペルギルス(Aspergillus)又はペニシリウム(Penicillium); エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora); ヘリックス・ポマチア(Helix pomatia); オフィオドン・エロンガツス(Ophヨードn elongatus); サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium); バシラス・サチリス(Bacillus subtilis); クロストリジウム(Clostridium); マイコプラズマ; トリパノソーマ・ガンビエンス(Trypanosoma gambiense); トリパノソーマ・ブルーセイ(Trypanosoma brucei); スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus); 又はE. coliのような微生物が具体的に挙げられる異種生物中に存在する。
【0014】
ヌクレオシドホスホリラーゼは反応: プリン類似体ヌクレオシド + P04 → リボース-l-PO4 (又はデオキシリボース-l-ホスフェート) + 細胞毒性プリン類似体を触媒する。本
発明は、特定の基質を切断する際に野生型酵素と比べて生物活性が異なる変異体プリン切断酵素をコード化しているヌクレオチド配列やアミノ酸配列を提供する。好適実施態様においては、本発明のプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)変異体は、未変性PNPが認識しないか又は認識が不十分である特定の基質又は複数の基質と反応できる遺伝的に修飾した細菌PNPである。しかしながら、毒性プリン類似体を生成するために基質を選択的に変換し得るいずれの変異体プリン切断酵素も用いることができる。例えば、後述されるように、変異体E. coli PNP酵素が本発明に従って設計され、野生型酵素には不十分な基質である5'-炭素に置換基を有する化合物に作用する。
本明細書に用いられる“生物活性”という用語は、実施例16に示される適切な方法によって測定した時間において基質の存在下に変異体又は野生型プリン切断酵素の指定した量の反応によって生じた量の最終産物の測定を意味するものである。
酵素が細胞の代謝、機能、又は複製を障害させる細胞毒性物質を生成する基質である化合物は、本明細書に同じ意味で“プロドラッグ”又は“基質”と呼ばれる。
本明細書に用いられる“変異体”という用語は、野生型タンパク質と異なる修飾タンパク質を意味するものである。
本明細書に用いられる“病原性ウイルス感染症”という用語は、疾患又は病理作用を引き起こすウイルスによる感染を意味するものである。
本明細書に用いられる“薬学的に許容しうる”という用語は、望ましくない生物作用をほとんど生じないか又は医薬組成物が含むその他の成分と有害な方法で相互作用せずに個体に投与し得る生物学的に又は別な方法で望ましい材料を意味するものである。
【0015】
プリン切断酵素変異体
選択基質を切断する際に野生型PNPと異なる生物活性を有するプリン切断酵素変異体は、除去、付加、及び/又はPNP配列の同じ位置で少なくとも単一のアミノ酸に他のアミノ酸を交換することにより作成される。好適実施態様においては、PNP変異体は野生型PNPより活性が大きい。
変異導入は、当業者に既知の数種の手法のいずれかを用いて行なうことができる。例えば、Stratagene (ラ・ホーヤ、カリフォルニア州)製のクイックチェンジ部位特異的変異導入キット(Quickchange Site-Directed Mutagenesis Kit)を用いて具体的な変異導入プロトコールが行なわれる。この手順には、2つの相補的合成オリゴヌクレオチドプライマーが必要であり、それぞれ企図したヌクレオチド転換をコード化し、長さも配列もキットマニュアルに記載されたパラメータに従って転換部位の側面にあるヌクレオチドによって決定されている。変異導入/転換すべきDNA配列を含む二本鎖プラスミドDNAは、変異導入鋳型として働く。混合プライマーは、熱変性鋳型DNAにアニールされ、遊離デオキシヌクレオチドと耐熱性高忠実度Pfu DNAポリメラーゼを用いて伸長する。熱変性、アニーリング、エクステンションの複数のラウンドがサーモサイクラーで行なわれてプラスミド鋳型のそれぞれの相補鎖である十分量の線状一本鎖プラスミドを作製する。それぞれの新規鎖が伸長した変異導入プライマーから生じるので、企図したヌクレオチド転換を含んでいる。
相補鎖がアニールするので、主要な産物は相補的プライマーでできる重なりによってアニールすることにより環化された二本鎖プラスミドである。残りの鋳型DNAを除去するために、認識部位での生体内メチル化によって修飾されたDNAを選択的に切断する制限エンドヌクレアーゼDpn Iで産物が消化される。試験管内合成変異導入産物はメチル化されないことから、Dpn Iによる処理が切り抜けられる。新たに合成され、アニールされ、環化され、Dpn I消化したヌクレオチド転換を含むプラスミドDNAは、コンピテントE. coli細胞を形質転換するために用いられる。変異体配列を含むことを証明するためにこの形質転換から生じる細胞コロニーがDNA配列分析でスクリーニングされる。
キットマニュアルに記載されているクイックチェンジ法の変更では次の変更が任意により行なわれる。用いられるヌクレオチド、緩衝液、酵素は市販のキットの成分であってもなくてもよい。反応混合物は各プライマーにおいては300 nMで作成される。サーモサイクラーにおいて奨められた数のサイクル後、新規プラスミドDNAの存在を確認するために反応混合物を0.8〜1.0%アガロースゲルによって小アリコートの電気泳動で反応混合物が調べられる。Dpn 1で消化した後、過剰のプライマーをQiagen (バレンシア、カリフォルニア州)製のQlAquick PCR精製キットを用いてプラスミドDNAを精製することにより過剰のプラスミドを除去する。次に、精製したDNAを加熱して残留プライマーを線状プラスミド端から除去した後、E. coli細胞の形質転換前に相補端のアニーリングを可能にするために冷却される。
【0016】
変異導入は、Maniatis, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed. Cold Spring Harbor, NY: CSHL Pressに記載されるように行なうことができる。その手順の一例においては、野生型PNPヌクレオチド配列をバクテリオファージMl 3ベクターの中へサブクローン化し、一本鎖DNAをManiatisに記載されたように調製する。オリゴヌクレオチドプライマーを各変異のために設計する。オリゴヌクレオチドプライマーは、野生型ヌクレオチドを1つ又は2つのヌクレオチドに置き換える所望の変異の位置を除いて野生型配列の一部と同じ配列を有する。オリゴヌクレオチドプライマーの長さは所望の変異の面積における正確な配列に左右され、Maniatisに記載されるように求められる。変異導入性オリゴヌクレオチドプライマーは、100-200ピコモルの変異導入性オリゴヌクレオチドと2μlの1O×バクテリオファージT4ポリヌクレオチドキナーゼ緩衝液、1μlの10 mM ATP溶液、4単位のバクテリオファージT4ポリヌクレオチドキナーゼ、全反応容量の16.5μlまでの水とを混合することによりT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化される。10×バクテリオファージT4ポリヌクレオチドキナーゼ緩衝液は、0.5 MトリスC1 (pH 7.6)、0.1 M MgC12、 50 mMジチオトレイトール、1 mMスペルミジンHCl、1 mM EDTAから構成される。反応液を37℃で1時間インキュベートしてから68℃で10分間加熱する。変異導入性オリゴヌクレオチドプライマーは、0.5ピコモルの一本鎖DNA、10ピコモルのリン酸化変異導入性オリゴヌクレオチド、10ピコモルのベクターの領域に対して相補的な非リン酸化ユニバーサルシークエンシングプライマー、1μlの1O×PE1緩衝液、10μlの全反応容量までの水の混合物中で一本鎖DNAにアニールされる。1O×PE1バッファーは、200μlのトリス塩基、pH 7.5、500 mM NaCl、100 mM MgCl2、10 mMジチオトレイトールから構成される。その混合液を変異導入性オリゴヌクレオチド間に形成される完全なハイブリッドの理論値Tmより高い20℃の温度まで5分間加熱する。理論値Tmは、式Tm=4(G+C)+2(A+T)から計算される。その混合液は約20分間の間室温まで冷却される。プライマーエクステンションとライゲーションは、1μlの10×エクステンション緩衝液(200 mMトリス塩基、pH 7.5、100 mMMgC12、100 mMジチオトレイトールから構成される)、1μlの10 mM ATP、8.5μlまでの水、1μlの4種のdNTP溶液(dGTP、dATP、dTTP、dCTP)、それぞれ2 mMの濃度で、5ワイス単位のT4 DNAリガーゼ、2.5単位のE. coli DNAポリメラーゼのクレノウフラグメントを混合することにより行なわれる。10μlのプライマーエクステンション/ライゲーション混合液を一本鎖DNA/オリゴヌクレオチド混合物に添加する。次に、その反応液を16℃で6〜15時間インキュベートする。
【0017】
次に、その反応混合液を適切な株のE. coliを形質転換するために用い、適切な標識プローブ、例えば、変異導入性オリゴヌクレオチドプライマーとハイブリダイズすることによりプラークをスクリーニングする。
作成した個々の変異体としては、Al57V、M65V、M65A、M65I、M65Q、H5N、Al57F、Al 57L、El80D、El8ON、El80S、El80T、Ml81A、Ml81L、Ml81N、M181V、M181E、E182A、E182Q、E182V、D205A、D205Nが含まれる。変異体M65V (M65V:配列番号1)のDNA配列が示される。
変異ATG→gttはbp 193で見える。M65V (M65V:配列番号2)の対応するアミノ酸配列は65位にメチオニン→バリン変異を有する。アミノ酸コードの縮重のために複数の核酸配列が同じアミノ酸配列をコードすることができることは当業者には理解される。例えば、バリンはヌクレオチドgttとヌクレオチドgtc、gta、gtgによってコードされる。いずれのアミノ酸をコードしている核酸コドンも当業者には周知である。
表Iは基質MeP-dRとF-araAとの22種の変異体の活性を纏めたものである。結果は野生型活性の%として示されている。表Iの22種の変異体のうちM65V、Al57L、Al57V、E180Dがこれらの基質に対して顕著なレベルの活性を保持した。用いられる略号としてはMePdR: 9-(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン; F-araA: 9-(β-D-アラビノフラノシル)-2-フルオロアデニン; 5'-メチル(アロ)-MeP-R: 9-(6-デオキシ-β-D-アロフラノシル)メチルプリン; 5'-メチル(タロ)-MeP-R: 9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-6-メチルプリン; F-Ade: 2-フルオロアデニン; 5'-メチル(タロ)-2-F-アデノシン: 9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-2-フルオロアデニンを含むことができる。
【0018】
【表1】

【0019】
変異体PNPヌクレオチド配列の重要な要求は、野生型酵素より細胞毒性化合物を生産する際に生物活性の異なる個々の基質を認識且つそれに作用することができる機能的変異体酵素をコード化しなければならないことである。2つのE. coli変異体、M65AとM65Vは、表IIに示されるように、種々のプリン類似体基質と試験され、野生型酵素の活性はMeP-dRより活性が低い。
【0020】
【表2】

【0021】
表IIは、種々の基質の存在下に野生型PNPと比較したこれらの変異体E. coli PNP酵素の活性を示すものである。M65V変異体の活性は、基質として5'-メチル(タロ)MeP-Rを用いた野生型の38倍であり、基質として9-(α-L-リキソフラノシル)アデニンを用いた野生型PNPの6倍(593%)である。変異体の大きな生物活性が、これらの変異体が病状の治療に用いられる場合に異常な細胞増殖を損なうのに大きな活性を可能にすることが理解される。更に、M65V E. coli PNPを発現する腫瘍は5'-メチル(タロ)MeP-R又は5'-メチル(タロ)MeP-R又は5'-メチル(タロ)-2-F-アデノシンに対する感受性が野生型PNPを発現する腫瘍のF-araAに対するより少なくとも80倍であることが理解される。更に、M65V変異体は野生型酵素がF-araAを切断する80倍5'-メチル(タロ)MeP-Rを切断したので、また、F-araAが野生型酵素を発現する腫瘍の完全な応答を引き起こしたので、M65V変異体と5'-メチル(タロ)-2-F-アデノシンの組合わせを用いてF-Adeの生成の少なくとも80倍の増加により更に良好な抗腫瘍活性になることは理解される。
変異体活性を更に調べるために、M65V変異体を種々のヌクレオチド類似体化合物にさらした。野生型PNPに比較した活性を表IIIに纏める。括弧内のデータは実験測定の数を示す。
【0022】
【表3−1】

【0023】
【表3−2】

【0024】
【表4】

【0025】
表IVは種々の基質の存在下に野生型と比較した5種のE. coli PNP変異体酵素の活性を示すものである。
表IVの基質のうちの3種におけるE. coli PNP変異体M65Vの速度定数をここに示す。この動態学的データは基質化合物と本発明の変異体との正確な活性の例である。表Vは野生型PNPと比較したM65Vの速度定数を示すものである。
【0026】
【表5】

【0027】
他の好適実施態様においては、本方法に用いられるPNPとしては基質MeP-dRとF-araAを切断するのに野生型PNPと異なる生物活性を有する修飾PNPが含まれる。変異体A157Vは、fmtを1位として数える157位のアラニンをバリンで置き換えられている。変異体A157V PNPは基質としてMeP-dRを用いた野生型PNPの活性が約120%であり、基質としてF-araAを用いた野生型PNPの活性が約150%である。
あらゆる変異体PNP又は他のプリン類似体ヌクレオシド切断酵素について細胞内で或る基質を比較的非毒性の形態から細胞毒性生成物へ変換する能力を試験することができる方法を次に示す。
【0028】
基質の合成
本発明は、抗腫瘍治療としてプロドラッグのPNP切断の安全が天然に存在するヌクレオシドをほとんど切断しない変異体酵素の使用によって増加することを認識するものである。むしろ、変異体PNPは天然に存在するヌクレオシドやその類似体の切断に不十分であるが、合成ヌクレオシドを切断するのに活性である。この治療スキームは、制御が大きくなり、内在性ヒト又は植物相についての安全性の関係が少なくなる。変異体PNP活性部位の確認、と、従来法による合成プロドラッグ基質の動態学的実験によって、所望の性質を有するプロドラッグを合成する。本発明の方法によれば、ヌクレオシド基質の活性細胞毒性プリンも結合フラノースも所望の基質切断速度と、プリン毒性双方を得るように選ばれる。
本発明の化合物は、α/β命名法で示される糖環に相対してそれぞれ上向き又は下向きの基の慣例と一致したハワード投影法で示される。R1とR2の波線結合は、本明細書では基をα位かβ位で示されている。慣例と一致して不変の炭素-水素結合は明瞭にするために構造に示されていない。
変異体PNPによる酵素切断時に細胞毒性プリンを生じるヌクレオシド化合物を更に示す。プロドラッグとして作用する本発明の化合物は下記式を有する。
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、Aは下記細胞毒性プリン基であり、
【0031】
【化6】

【0032】
ここで、Xは存在ごとに独立してヒドリル基、C1-C8アルキル基、又はC0-C4アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
Yはヒドリル基、メチル基、エチル基、アミノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基であり;
Zはヒドリル基、C1-C8アルキル基、C2-C6アルケニル基、C0-C4アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R1はヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、OR5基(ここで、R5はC1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である。)、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドロリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R2はヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、OR6基(ここで、R6はC1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である。)、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドロリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R3とR4は各々独立してヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C2-C6アルケニル基、C2-C6アルキニル基、ヘテロ原子置換C1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基(ここで、ヘテロ原子はヒドロキシ-酸素又はC1-C6アルコキシ-酸素、アミン-窒素C1-C8置換アミン-窒素、スルフヒドリルイオウ、スルファニルイオウ、C1-C6アルキルチオエーテルイオウ、C6-C10アリールチオエーテルイオウ、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。)である。但し、式IのXがメチルであり、Yがヒドリルであり、R1、R2又はR3の少なくとも1つがヒドリルである化合物の場合には、R4はCH2OHではなく、式IのXがアミンであり、Yがヒドリル、フルオロ又はクロロであり、R1、R2の少なくとも1つがヒドリル又はヒドロキシである式Iの化合物の場合には、R3はCH3、CH2OH、又はC6-C10アリールチオエーテルイオウで置換されたC1アルキルではない。)Aが
【0033】
【化7】

【0034】
であり、Xがメチルであり、Yがヒドリルであり、R1、R2、又はR3の少なくとも1つがヒドロリルである場合には、R4はCH2OHではなく、Aが
【0035】
【化8】

【0036】
であり、Xがアミノであり、Yがヒドリル又はフルオロ又はクロロであり、R1又はR2の少なくとも1つがヒドリルである場合には、R3はCH3、CH2OH、又はC6-C10アリールチオエーテルイオウで置換されたメチルではない化合物は式から除外される。
好適実施態様においては、細胞毒性プリンは6-メチルプリン、2-フルオロアデニン又は6-チオグアニンである。更に好ましくは、基R1とR2は各々独立してヒドリル基か又はヒドロキシル基である。R1基とR2基の相対するα/β位がフラノース型環構造を修飾してリボース、アラビノース、又はキシロース類似構造が具体的に挙げられることは理解される。
他の好適実施態様においては、R1、R2、R3、R4の少なくとも1つはヒドロ基であり、よって得られたヌクレオシドをデオキシフラノシドにする。なお更に好ましくは、X、Y、R1、R2は各々独立して基内に5未満の非水素原子を有するように選ばれる。最も好ましくは、X、Y、R1、R2は各々独立して基の中に3未満の非水素原子を有するように選ばれる。
可変基X、Y、R1〜R4の個々の選択は、本発明の化合物の切断プリン部分の細胞毒性、本発明の化合物の中の立体化学作用、或る切断酵素活性部位との相互作用、基質プロドラッグ溶解性を含む要因によって影響される。本発明の化合物の疎水基による、例えば、アルキル化による立体化学修飾は血漿中の溶解性を低下させること、また、これらの作用は疎水基か又は構造の他の部分へ親水基を組込むことにより少なくとも部分的に改善されることが理解される。本明細書で作用する親水基としては、具体的にスルホニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルフヒドリル基、若しくはカルボキシル基、又はその一般塩が挙げられる。
【0037】
細胞毒性化合物である置換したプリン、アザプリン、デアザプリン、グアニンは本発明において作用的であるが、ある種の置換が細胞毒性化合物を他の内在性酵素に対して不十分な基質にするように機能することは理解される。例えば、8位のプリン置換は、ポリメラーゼ基質として無効なその置換プリンを含有するヌクレオチドやヌクレオチドプロドラッグにする傾向がある。そのような置換は、場合によっては、本発明のプロドラッグの分解経路をPNP又はその変異体によって制御する際に付加保護として働く。
本発明のヌクレオシドを合成する具体的な方法には、プリン環構造の中の窒素原子を反応させて窒素原子に反応性非プロトン置換基を有する中間体を形成する工程が含まれる。
典型的には、7位と9位にあるプリン環構造の中の窒素原子を誘導体化する。次に、プリン中間体を糖塩基に対して単一の非保護ヒドロキシル基を有する炭水化物と合わせる。置換基と反応性の炭水化物ヒドロキシル基は中間体の窒素原子に結合する。炭水化物のその他のヒドロキシル基は、反応から保護される。これらの反応ステップは、好ましくは、溶媒中で、そのような縮合反応を行なうのに当該技術に慣用的な雰囲気と温度の条件下に起こる。水酸化カリウム又は炭酸水素ナトリウムのような塩基による続いての処理は、保護基を除去するのに十分なものであり、よってヒドロキシル末端ヌクレオシドを生成する。続いての反応としては、ヒドロキシル化ヌクレオシドとアゾール、ピロリドン、結晶性ヨウ素との反応によってヒドロキシル基をヨウ素で置き換える工程が含まれる。プロドラッグ候補物質の形成に関して、フラノシドの5' 炭素のヨウ素化が特に好ましい。得られたヨードアルキル基は、次に水素化物をもつ還元剤によってアルキル基に還元される。
次の限定しない実施例は、本発明の個々の反応スキーム及び個々の本発明の化合物と中間体を示すものである。
【0038】
実施例 1
2-フルオロ-9-(2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-α-L-リキソフラノシル)-9H-プリン-6-アミン(la)の調製
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(HMDS)(1O ml)中の2-フルオロアデニン(107.8 mg, 0.70ミリモル)と硫酸アンモニウム(5.3 mg)の懸濁液をアルゴン下で7時間還流する。更に硫酸アンモニウム(4.6 mg)を添加し、還流を24時間続ける。反応混合液を室温に冷却した後、HMDSを減圧下で除去し、残留物を無水トルエン(3×3 ml)で共蒸発させる。この材料に無水アセトニトリル(7 ml)に溶解した1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-L-リキソフラノース(212 mg、0.42ミリモル)を添加する。得られた懸濁液を-10℃に冷却した後、ジクロロメタン中2.1 mlの1.0 M塩化第二スズ(SnC14)で5分間滴下処理する。その現在透明な反応溶液を0℃で15分間加温し、室温で撹拌する。3時間後、その溶液を氷冷NaHCO3飽和溶液(100 ml)に滴下し、5℃で10分間撹拌する。酢酸エチル(75 ml)を添加し、分離した水層を更に酢酸エチル(2×50 ml)で抽出する。合わせた有機分を食塩水(50 ml)で洗浄し、乾燥(MgSO4)し、固形物に蒸発させる。20 gのシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(95:5のクロロホルム-メタノール)処理して1aを白色固形物として得た後、エタノール結晶化する。
【0039】
実施例 2
2-フルオロ-9-(α-L-リキソフラノシル)-9H-プリン-6-アミン(lb)の調製
室温でエタノール(10 ml)中の1a (108 mg、0.18ミリモル)の懸濁液をエタノール(180μl)中の0.50 M KOH (無水粉末)で一度に処理する。その混合液を5時間撹拌し、氷酢酸(6μl)で中和し、蒸発乾固する。得られた残留物を1:1のアセトニトリル/水から結晶化して純粋な(1b)を白色固形物として得る。
【0040】
実施例 3
9-(2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-α-L-リキソフラノシル)-6-メチルプリン(1c)の調製
アルゴン下無水ジクロロエタン(6 ml)中の6-メチルプリン(230 mg、1.71ミリモル)の懸濁液にHMDS (2.5 ml、11.8ミリモル)、次にクロロトリメチルシラン(215μl、1.69ミリモル)を添加する。2時間還流した後、得られた透明溶液を減圧下で蒸発させ、残留物を無水トルエン(4×2 ml)で共蒸発させる。上記シリル化プリンにアセトニトリル(10 ml)中のトリ-O-ベンゾイル-L-リキソフラノース(427 mg、0.85ミリモル)の溶液を添加する。この混合液を-10℃に冷却した後、ジクロロエタン(4.25 ml)中の1.0 M SnC14を滴下する。-10℃で更に10分後、その反応混合液を室温で4.5時間撹拌する。その反応溶液の処理を1aの調製に記載されたように行なってピンク色の泡状物を得る。
溶媒として1:1のヘキサン/酢酸エチルを用いたシリカゲル(10 g)によりカラムクロマトグラフィー処理して1cを白色泡状物として得る。
【0041】
実施例 4
6-メチル-9-α-L-リキソフラノシルプリン(1d)の調製
5℃においてMeOH (7 ml)中の1c (453 mg、0.78ミリモル)の溶液にMeOH (0.78 ml)中の0.5 N NaOCH3を滴下する。室温で2時間撹拌した後、反応溶液を5℃に冷却し、氷酢酸で中和する。この中性溶液から結晶化して純粋な1dを白色固形物として2収量で得る。
【0042】
実施例 5
6-メチル-9-(5-デオキシ-5-ヨード-α-L-リキソフラノシル)プリン(le)の調製
固形物1d (82 mg、0.31ミリモル)、トリフェニルホスフィン(274 mg、1.03ミリモル)、及びイミダゾール(140 mg、2.05ミリモル)をアルゴン下で磁気撹拌により混和した後、1-メチル-2-ピロリジノン(M-PYROL)(1.5 ml)に室温で溶解する。ヨウ素(261 mg、1.03ミリモル)のビーズ(1〜3 mm)を5分間添加し、発熱がわずかに認められた。トリフェニルホスフィン、イミダゾール、及びヨウ素(上記と同量)を5時間、24時間、56時間後の示された順序で更に添加する。最後の添加前にM-PYROL(O.5ml)を更に添加する。124時間後、その反応溶液を酢酸エチル(40 ml)と10%チオ硫酸ナトリウム(15ml)とに分配する。水層を酢酸エチル(3×15 ml)で抽出する。合わせた有機層を食塩水(15 ml)で1回洗浄し、乾燥(MgSO4)し、固形物に蒸発させる。この残留物の酢酸エチル冷却溶液からトリフェニルホスフィンオキシド(Ph3PO)の収量を得る。この工程をクロロホルムで繰り返すことにより更にPh3POを除去する。粗leを展開溶媒として9:1 CHC13/MeOHを用いた分取用TLC (Analtech GF、20×20 cm、2,000μ)で精製する。2-プロパノールから結晶化して純粋な1eを白色固形物として得る。
【0043】
実施例 6
6-メチル-9-(5-デオキシ-α-L-リキソフラノシル)プリン(If)の調製
アルゴン下無水テトラヒドロフラン(12.5 ml)中のle (80 mg、0.21ミリモル)の溶液に2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(38 mg、0.23ミリモル)、次に水素化トリブチルスズ(215μl、0.78ミリモル)を添加する。その反応溶液を80℃の浴に入れ、3.5時間還流し、固形物に蒸発させる。この物質を溶媒として9:1の CHC13/MeOHを用いた分取用TLC (Analtech GF、10×20 cm、1,000μ)で精製する。アセトニトリルから結晶化して純粋な1fを白色固形物として2収量で得る。
実施例1〜6に対応する構造を式IIと表VIについて纏める。ここで、R3はヒドリル基であり、Bzはベンゾイル基である。
【0044】
【化9】

【0045】
【表6】

【0046】
実施例 7
6-メチル-9-(5-デオキシ-5-ヨード-β-D-リボフラノシル)プリン(2h)の調製
M-PYROL (2 ml)中の6-メチル-9-(β-D-リボフラノシル)プリン(表VIIの2a)(108 mg、0.41ミリモル)、トリフェニルホスフィン(361 mg、1.36ミリモル)、及びイミダゾール(185 mg、2.70ミリモル)から始めて実施例5による反応を行なう。Hassan et al., Convenient Synthesis of 6-Methylpurine and Related Nucleosides, Nucleosides, Nucleotides, & Nucleic Acids, 19, 1123-1134 (2000). ヨウ素ビーズ(1〜3 mm)(339 mg、1.33ミリモ
ル)を10分間添加する。得られた赤色溶液を室温で4時間撹拌し、そのときにTLCが反応の完結を示した。試薬を更に添加することは必要ない。実施例5に記載される水性処理と分取用TLCによる精製後、1:1のH20/MeCNから結晶化して純粋な2b (93 mg、61 %)を白色固形物として得る。
【0047】
実施例 8
6-メチル-9-(5-デオキシ-β-D-リボフラノシル)プリン(2c)の調製
テトラヒドロフラン(THF)(10 ml)中2b (68 mg、0.18ミリモル)、AIBN (26 mg、0.16ミリモル)、及び水素化三ブチルスズ(176μl、0.63ミリモル)から始めて1fの調製の手順による反応を行なう。2時間還流し、次に実施例6に記載されたように分離精製した後、THFから結晶化して純粋な2cを白色固体として2収量で得る。
実施例7と実施例8に対応する構造を式IIIと表VIIについて纏める。ここで、R1はヒドロキシル基であり、R2はヒドロキシル基であり、R4はヒドリル基である。
【0048】
【化10】

【0049】
【表7】

【0050】
実施例 9
2-フルオロ-9-(6-デオキシ-β-D-アロフラノシル)-9H-プリン-6-アミン(3)の調製
2-F-アデニンと適切に保護された6-デオキシ-D-アロフラノース、例えば、1,O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-6-デオキシ-D-アロフラノースから始めて実施例1の調製の手順に従ってカップリング反応を行なう。Reist et al., Potential Anticancer Agents. IV. Synthesis of Nucleosides Derived from 6-Deoxy-D-Allofuranose, J Amer. Chem. Soc., 80, 3962-3966 (1958). メタノール中無水炭酸ナトリウムを用いて脱保護し、次にXAD-4樹脂により精製して塩を除去し、純粋な3をゼラチン状の白色固形物として得た。
【0051】
実施例 10
2-フルオロ-9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-9H-プリン-6-アミン(4a)の調製
1,0-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-6-デオキシ-L-タロフラナースのような適切に保護されたL-タロフラノースを用いて実施例9の方法により化合物4aを製造する。純粋な4aを白色固形物として得る。
【0052】
実施例 11
6-メチル-9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)プリン(4b)の調製
6-メチルプリンと1,0-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-6-デオキシ-L-タロフラナースのような適切に保護されたL-タロフラナースから出発して実施例 3の手順に従ってカップリング反応を行なう。Reist et al., Potential Anticancer Agents. VIII. Synthesis of Nucleosides Derived from L-Talofuranose, J Amer. Chem. Soc., 80, 5775-5779 (1958). 1dを調製するために記載されたように脱保護して純粋な4bを白色固形物として得た。
【0053】
実施例 12
9-(α-L-リキソフラノシル)-6-チオグアニンの調製
6-メチルプリンを等モル量の6-チオグアニンに置き換えて実施例 3の調製を繰り返す。
【0054】
実施例 13
9-(5-デオキシ-5-ヨード-α-L-リキソフラノシル)-6-チオグアニンの調製
実施例12の精製生成物を実施例 5のように処理して9-(5-デオキシ-5-ヨード-α-L-リキソフラノシル)-6-チオグアニンを得る。
【0055】
実施例 14
9-(5-デオキシ-α-L-リキソフラノシル)-6-チオグアニンの調製
実施例13の精製生成物を実施例6のように処理して9-(5-デオキシ-α-L-リキソフラノシル)-6-チオグアニンを得る。
【0056】
実施例 15
9-(β-D-リボフラノシル)-2クロロアデニン誘導体の調製
実施例3の6-メチルプリンを2-クロロアデニンに置き換え、1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-Dリボフラノースに対応するリキソフラノシル類似体を置き換えて実施例3〜5の手順を繰り返す。分離可能な化合物としては、9-(2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-2クロロアデニン、9-(β-D-リボフラノシル) 2クロロアデニン、9-(5-デオキシ-5-ヨード-β-D-リボフラノシル)-2-クロロアデニン、9-(5-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-2-クロロアデニンが含まれる。
【0057】
基質の選択
適切な基質は、細胞毒性切断プリン塩基類似体に比べて哺乳動物細胞に比較的非毒性であることを特徴とする。基質の具体例を一部次に挙げる。化合物の一部の後に一般略号が含まれる。
9-(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル]-6-メチルプリン; MeP-dR
9-(β-D-リボフラノシル)-2-アミノ-6-クロロ-1-デアザプリン; ACDP-R
7-(β-D-リボフラノシル)-3-デアザグアニン
9-(β-D-アラビノフラノシル)-2-フルオロアデニン; F-araA, Fludarabine
2-フルオロ-2'-デオキシアデノシン; F-dAdo
9-(5-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン
2-フルオロ-5'-デオキシアデノシン
2-クロロ-2'-デオキシアデノシン; Cl-dAdo, Cladribine
5'-アミノ-5'-デオキシ-2-フルオロアデノシン
9-(5-アミノ-5-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン
9-(α-D-リボフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(2,3-ジデオキシ-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン
2',3'-ジデオキシ-2-フルオロアデノシン
9-(3-デオキシ-β-D-リボフラノシル]-6-メチルプリン
2-フルオロ-3'-デオキシアデノシン
好適実施態様においては、M65に対する基質としては下記の化合物が具体的に挙げられる。
9-(α-L-リキソフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(α-L-リキソフラノシル)-6-メチルプリン
9-(6-デオキシ-β-D-アロフラノシル)-6-メチルプリン
9-(6-デオキシ-β-D-アロフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-6-メチルプリン
9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(2,6-ジデオキシ-β-D-アロフラノシル)-6-メチルプリン
9-(2,6-ジデオキシ-β-D-アロフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(2,6-ジデオキシ-α-L-タロフラノシル)-6-メチルプリン
9-(2,6-ジデオキシ-α-L-タロフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(6,7-ジデオキシ-α-L-ヘプタ-6-イノフラノシル)-6-メチルプリン
9-(6,7-ジデオキシ-α-L-ヘプタ-6-イノフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(6,7-ジデオキシ-β-D-ヘプタ-6-イノフラノシル)-6-メチルプリン
9-(6,7-ジデオキシ-β-D-ヘプタ-6-イノフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(2,6,7-トリデオキシ-α-L-ヘプタ-6-イノフラノシル)-6-メチルプリン
9-(2,6,7-トリデオキシ-α-L-ヘプタ-6-イノフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(2,6,7-トリデオキシ-β-D-ヘプタ-6-イノフラノシル)-6-メチルプリン
9-(2,6,7-トリデオキシ-β-D-ヘプタ-6-イノフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(2,3-ジデオキシ-3-ヒドロキシメチル-α-D-リボフラノシル)-6-チオグアニン
9-(5,5-ジ-C-メチル-β-D-リボフラノシル)-2-フルオロ-アデニン
9-(5,5-ジ-C-メチル-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン
9-(5-デオキシ-5-ヨード-β-D-リボフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(5-デオキシ-5-ヨード-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン
9-(5-デオキシ-5-メチルチオ-β-D-リボフラノシル)-2-フルオロアデニン
9-(5-デオキシ-5-メチルチオ-β-D-リボフラノシル)-6-メチルプリン
【0058】
Ichikawa E. & Kato K., Curr Med Chem 2001 Mar;8(4):385にも例が更に見られる。更に、リボース-又はデオキシリボース含有基質を用いて、E. coli PNPはグアニン環のN-7位を介してリボース又はデオキシリボースに結合している6-チオグアニン又は3-デアザグアニンのような種々の毒性グアニン類似体を選択的に生産することができる。
プリン類似体ヌクレオシドについて、実施例16に示されるプロトコールに従って個々の変異体との活性を試験することができる。更に好適な実施態様においては、変異体M65Vの基質は9-(α-L-リキソフラノシル)-2-フルオロアデニン、9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-2-フルオロアデニン、5'-メチル(タロ)-MeP-R又はその組合わせである。
一部の基質が他の基質より良好に許容されると予想されることは理解される。例えば、5'-メチル(タロ)MeP-Rは、F-araAより培養内でヒト細胞に対する毒性が1/40以下であるのでときにはF-araAより好ましい。5'-メチル(タロ)MeP-Rは、マウスにおいて連続3日間一日一回200 mg/kg体重で投与した場合に十分に許容される。
【0059】
変異体PNPコード化核酸を含有するベクター
本発明は、変異体E. coliプリンヌクレオシドホスホリラーゼタンパク質をコード化いているDNA配列を含有するベクターを提供する。ベクターは、ヌクレオチド配列がホスト内で転写翻訳されるようにヌクレオチド配列に作用可能に結合した調節要素を更に含有することができる。好ましくは、ベクターはウイルス又はプラスミドである。適切なウイルスベクターの具体例としては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス又はキメラウイルス構築物、例えば、アデノレトロウイルスベクターが挙げられる。特に、有効なアデノウイルスベクターには、ヒトアデノウイルス、例えば、2型又は5型やトリ、ウシ、マウス、ヒツジ、ブタ又はサル由来が具体的に挙げられる動物由来のアデノウイルスである。
試験管内や生体内で遺伝子の導入のためのアデノ随伴ウイルス由来のベクターの使用は、例えば、米国特許第4,797,368号や同第5,139,941号に徹底的に記載されている。一般に、rep及び/又はcap遺伝子は、欠失し、導入すべき遺伝子で置き換えられている。組換えウイルス粒子は、2つのプラスミドをヒトヘルパーウイルスを感染させた細胞系へコトランスフェクトすることにより調製される。トランスフェクトしたプラスミドには、ウイルスの2つの逆方向反復領域が側面にある本発明の変異体PNPをコード化する核酸配列を含有する第一プラスミドと、ウイルスの包膜遺伝子(repとcap)をもつ第二プラスミドが含まれる。次に、組換えウイルス粒子は標準法により精製される。
本発明のベクターで形質転換したホスト細胞も提供される。
【0060】
変異体PNP発現
本発明の変異体PNP酵素は生体内や試験管内で転写翻訳される。生体内でタンパク質を生産するために、特定の変異体PNPをコード化している核酸を含有するベクターが生体内又は生体外で細胞へ導入される。これには、本明細書に記載されるベクターを介して逆に細胞を動物へ再導入することが含まれてもよい。他の実施態様においては、対象のタンパク質は細胞内か又は無細胞系内で試験管内で生産される。この方法で生産されたタンパク質は、試験管内で用いられるか又は細胞又は動物へ導入されて所望の結果を与える。
哺乳動物細胞中の変異体PNPの発現には、変異体PNPコード化配列に結合した真核転写調節配列が必要となってもよい。変異体PNP遺伝子は、市販のプラスミド(例えば、SV40初期プロモーター/エンハンサー(pSVK30 Pharmacia、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、cat. no. 27-4511-01)、モロニーマウス肉腫ウイルスの長い末端反復(pBPV, Pharmacia, cat. no. 4724390-01)、マウス乳がんウイルスの長い末端反復(pMSG, Pharmacia, cat. no. 27-4506-01)、又はサイトメガロウイルス初期プロモーター/エンハンサー(pCMVP, Clontech、パロアルト、カリフォルニア州、cat. no. 6177-1))の中に含有する強い構成プロモーター/エンハンサー要素の制御下に発現し得る。
細胞の選択集団は、また、“転写ターゲティング”と呼ばれるストラテジーの変異体PNPコード配列の発現をある種の細胞型に制限する遺伝的転写調節配列を用いることにより分解の標的にすることができる。転写ターゲティングの候補調節配列は、実験によって確立された少なくとも2つの重要な基準を満たさなければならない: (i)調節配列は標的細胞において酵素の生産を治療的量で生じるのに十分な遺伝子発現をするものでなければならない、(ii)調節配列は非標的細胞内で治療法を損なうのに十分な量の酵素の生産をしてはならない。このターゲティングの形においては、調節配列が由来する遺伝子を発現する細胞においてのみ活性化する遺伝子を作製するために、調節遺伝子をPNP配列と機能的に結合する。遺伝子治療において転写ターゲティングの基準を満たすことがわかった調節配列としては、分泌ロイコプロテアーゼインヒビター、界面活性剤のプロテインA、αフェトプロテン遺伝子からの調節配列が具体的に挙げられる。このストラテジーに対する態様は、“誘導性”を与える調節配列を用いることであるので、誘導物質の局所投与によって局所遺伝子発現することになる。このストラテジーの一例として、放射線誘導配列が記載され、遺伝子治療用に提唱されてきた。変異体PNP遺伝子発現が他の誘導性調節要素によって特定の部位の標的にされ得ることは予想される。
【0061】
特定の組織に変異体PNP発現、よってPNP仲介毒性を向ける手段として組織特異的エンハンサー/プロモーターを用いることが必要であってもよい。例えば、ヒトチロシナーゼの遺伝的調節配列はPNP毒性を悪性メラノーマ細胞に向けるのに十分なものである。遺伝子の5'フランキング領域(転写開始位置から-769 bp)からのマウスチロシナーゼ配列は、リポーター遺伝子発現を悪性メラノーマ細胞に向けることができた。5'フランキング領域内のマウスチロシナーゼ配列やヒトチロシナーゼ配列は同じであるが、Shibata et al., Journal of Biological Chemistry, 267:20584-20588 (1992)には、VileやHartによって用いられる同じ領域内のヒト5'フランキング配列(転写開始位置から-616 bp)が組織特異的発現を与えなかったことが示された。Shibata et al.は5'フランキング領域がメラノーマ又はメラノサイトのようなチロシナーゼ発現細胞に遺伝子発現の標的にするのに有効でないことを示したが、Shibata et al.によって用いられたものからわずかに異なる上流の断片は、実際にリポーター又は細菌PNP遺伝子発現を特異的にメラノーマ細胞に向けることができる。
他の組織特異的の遺伝的調節配列や要素は適切なプリン類似体ヌクレオシド切断酵素をコード化している遺伝子の発現をメラノーマ以外の特定の細胞型に向けるために使用し得る。例えば、組織特異的プロモーターとしては、アルブミンプロモーター、腸脂肪酸結合タンパク質、乳ホエー、ニューロフィラメント、ピルビン酸キナーゼ、平滑筋αアクチンビリンが具体的に挙げられる。
【0062】
変異体PNP遺伝子の送達
本発明の変異体PNP遺伝子は、担体又は安定剤の存在しないときのDNA(“裸のDNA”)、薬理学的安定剤又は担体の存在するときのDNA(“配合DNA”)、細胞への侵入を促進するタンパク質の複合体を形成させるDNA(“分子複合体”)、又は脂質の複合体を形成させるDNAが具体的に挙げられる多くの形態のいずれでも送達される。
変異体PNP遺伝子の送達方法は、その形態に左右され、適切な方法は当業者に明らかである。そのような方法としては、注入、パーティクルガントランスホーメーション又はリポフェクションによる投与が具体的に挙げられる。変異体PNP遺伝子の哺乳動物細胞への脂質仲介送達の使用を次に例示する。特に、非PNP遺伝子を含有するプラスミドのカチオンリポソーム仲介導入が示される。しかしながら、PNP遺伝子を細胞に導入する具体的な方法が成功した腫瘍細胞損傷だけに限定しないことから、一般的には、他の遺伝子導入法も適用できる。従って、次に記載されるウイルス由来伝達ベクターを用いる遺伝子導入も使用し得る。そのような方法は周知であり、本明細書に記載された遺伝子仲介毒素治療に用いるのに容易に適応し得る。更に、これらの方法は、E. coli PNPのような適切なプリン類似体ヌクレオシド切断酵素をコード化している遺伝子の具体的な担体のターゲティング特性を用いることによりある種の疾患や細胞集団を標的にするために使用し得る。
異種遺伝子を腫瘍細胞へ選択的に送達するために病原性嫌気細菌が用いられてきた。例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)胞子は腫瘍をもつマウスへ静脈内注射され、酸素テンションの低い腫瘍の壊死領域にのみ発芽した。下記のPNP活性に対する分析を用いてクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)はMeP-dRをMePに変えることができる酵素活性を示すことがわかった。この知見は、嫌気中心が壊死した腫瘍塊における変異体PNP活性を選択的に発現する機序を示している。従って、腫瘍を変異体PNPを発現するクロストリジウムの菌株に感染させ、その後、9-(α-リキソフラノシル)-2-フルオロアデニン、5'-メチル(タロ)-MeP-R又はその組合わせのような適切な基質にさらすことができる。その後、腫瘍組織の嫌気中心で増殖するクロストリジウム菌の変異体PNP活性は基質を毒性ヌクレオシド類似体に変換しなければならず、その後、腫瘍細胞を障害させるために局所的に放出される。更に、E. coliやサルメネラ(Salmonella)を含む他の細菌も変異体PNP又はヒドロラーゼ遺伝子を腫瘍へ送達させるために使用し得る。
【0063】
治療的DNA送達やDNAターゲティングの急速に進展する分野としては、“ステルス”や他の抗体結合リポソーム(結腸がんに対する脂質仲介薬剤ターゲティング)、細胞特異的リガンドのためのDNAの受容体仲介ターゲティング、リンパ球特異的腫瘍ターゲティング、又は生体内マウスグリオーマ細胞の高度に特異的な治療的レトロウイルスターゲティングのような伝達体が含まれる(S.K. Huang et al., Cancer Research, 52:6774-6781 (1992); R.J. Debs et al., Am. Rev. Respir. Dis., 135:731-737 (1987); K. Maruyania et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA, 87:5744-5748 (1990); P. Pinnaduwage and L. Huang, Biochemistry, 31:2850-2855 (1992); A. Gabizon and Papahadjopoulas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:6949-6953 (1988); S. Rosenberg et al., New England J. Med., 323:570-578 (1990); K. Culver et al., Proc. NatI. Acad. Sci. USA, 88:3155-3159 (1991); G.Y. Wu and C.H. Wu, J. Biol. Chem., 263, No. 29:14621-14624 (1988); Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:3410-3414 (1990); Curiel et al., Human Gene Ther., 3:147-154 (1992); Litzinger, Biochimica et Biophysica Acta, 1104:179-187 (1992); Trubetskoy et al., Biochimica et Biophysica Acta, 1131:311-313 (1992))。分裂特異的腫瘍細胞か又は腫瘍血管新生の遺伝子ターゲティング機序に関連した本方法は、適切なシグナル後、即ち、腫瘍細胞内に存在する又はそれに吸着された変異体E. coli PNPのような適切なプリン類似体ヌクレオシド切断酵素の基質(プロドラッグ)を投与した後に急速な腫瘍衰退や壊死を仲介する、小さな下位集合が増殖している腫瘍塊内で確立され得る手段の改良を与える。
【0064】
変異体PNP酵素を用いた治療法
治療法は、基本的には、変異体PNP遺伝子を細胞に供給する段階と、その後、変異体PNP遺伝子又はタンパク質を発現する細胞を適切な基質にさらす段階とからなる。基質は、PNP遺伝子を発現する細胞を障害する毒性物質に変換する。更に、変異体PNP遺伝子を発現しない一部の細胞も毒素にさらされ、障害される。非トランスフェクト細胞も障害される所見は、“傍観者作用”又は“代謝共同作用”と呼ばれている。理論で制限されたくないが、変体体PNPと基質との相互作用によって生じる毒素はヌクレオベース輸送体によって一つの細胞からもう一つの細胞へ通過することができると考えられる。
変異体PNP遺伝子は、標的細胞に直接又は具体的なウイルスベクター、送達製剤又は上記のような他の方法のようなターゲティング手段と組合わせて全身系的に投与することができる。細胞は、生体外で、治療すべき患者の中で治療することができ、又は試験管内で治療し、その後患者へ注入することができる。患者においてPNP遺伝子を細胞へ導入した後、プロドラッグを変異体PNPによって標的細胞を障害するのに十分な量の毒性物質に変換される有効量で全身系的に又は局所的に投与される。
更に、可変の投薬用法が治療法において使用し得る。野生型に見られるように抗腫瘍作用を生じるのに一回の治療が有効である。長い過程の治療、例えば、数日から数週間は、HSV-tk又はCDによるプロドラッグ治療に用いられている(Ram et al., Cancer Res., 53:83-88 (1993); Dilber et al., Cancer Res., 57:1523-8 (1997); Sacco et al., Gene Ther., 3:1151-1156 (1996); Beck et al., Human Gene Ther., 6:1525-30 (1995); Elshami et al., Gene Ther., 3:85-92 (1996); Fick et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 92:11071-5 (1995); Imaizumi et al., Am. J. Resp. Cell & Mole. Biol, 18:205-12 (1998); Freeman et al., Cancer Res., 53 83 (1993); Huber et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:8302-8306 (1994))。そのような長期間の治療の欠点は、毒素へのプロドラッグ変換が可能な内在性酵素がある場合に明らかであり、治療によって標的にされなかった細胞が毒素によって影響される。従って、本発明の変異体酵素は、他のプロドラッグ/酵素治療と比べて副作用が少ないより効果的な方法を与える。
【0065】
病態の治療
本発明の変異体酵素は、標的細胞の阻害によって病態を治療するために用いられる。そのような治療が有効である病態としては、膀胱、乳房、骨、結腸、頭部又は頚部、腎臓、喉頭、肝臓、肺、鼻咽腔、食道、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚、胃、甲状腺、精巣又は子宮のがんに存在するような異常な細胞増殖、又は骨髄性白血病、B細胞系リンパ腫、又はグリア芽細胞腫のような異常な細胞増殖を特徴とする他の症状が具体的に挙げられる。
変異体E. coli PNP遺伝子は、メラノーマ、膵臓がん、肝臓がん又は結腸がんのような転移性固形腫瘍を治療するストラテジーの一部として用いられる。これらのタイプの転移性腫瘍に対して有効な治療は現在存在しない。この方法においては、腫瘍特異的プロモーターの制御下に変異体PNP遺伝子を含有するベクターが用いられる。例えば、チロシナーゼプロモーターはメラノーマ細胞中での発現を仲介するのに非常に特異的であり、ほとんどのタイプの組織内で導入遺伝子発現をもたらさない。それ故、このプロモーターの調節制御下での変異体PNP遺伝子は、メラノーマ腫瘍内で優先的に活性化されるに違いなく、患者のほかの所では活性化されない。他の腫瘍タイプに特異的なプロモーター、例えば、すべての固形腫瘍に存在する急速に分裂する内皮細胞内で活性なプロモーターは、原発性又は転移性腫瘍内で特異的に変異体PNPを特異的に活性化するために使用し得る。好適方法においては、腫瘍特異的プロモーターの制御下に変異体PNPを含有するベクターはカチオンリポソームを用いて細胞に送達される。例えば、動物実験に基づき、変異体PNP遺伝子を患者における腫瘍転移に送達するために1200〜3600μモルの脂質DOTMA (1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-トリメチルアンモニウムブロミド)とDOPE (ジオレイルホスファチジルエタノールアミン)の1:1混合物に複合体形成した100〜400 mgのプラスミドDNAを用いることができた。
【0066】
変異体PNP遺伝子は、中枢神経系におけるがんの治療においてプロドラッグを活性化するために使用し得る。この方法においては、ウイルス粒子が変異体E. coli PNP遺伝子を含有しているレトロウイルスを生産する細胞系を患者の中の中枢神経系へ注入する。レトロウイルスプロデューサー細胞系を腫瘍塊の中へ適切に注入するためにMRIスキャナが用いられる。また、分離したレトロウイルス粒子が注入される。レトロウイルスは分裂細胞内でのみ完全に活性であり且つがん患者の頭蓋の中のほとんどの分裂細胞が腫瘍内であることから、レトロウイルスは脳内の非悪性細胞内より腫瘍自体で主として活性である。腫瘍サイズや局在性を含む患者の臨床上の特徴は、注入すべきプロディーサー細胞の量を決定する。例えば、それぞれ100μlの30回の注入の範囲のプロデューサー細胞の容量(約1×108プロデューサー細胞/mlが注入される全量3 ml)は外科的に近づくことができない腫瘍に対して定位的指導によって投与される。術中に近づくことができる腫瘍の場合、100μlアリコートが変異体E. coli PNP遺伝子導入を用いて10 mlまでの全注入量で注入され(約1×108細胞/mlで)、その後、適切な基質が投与される。このストラテジーは、非分裂細胞に対する傍観者障害と毒性双方を可能にするように設計される。
細胞の選択集団の破壊は、変異体PNP遺伝子の送達を標的にすることにより達成し得る。ベクターは、ウイルス、細菌、哺乳動物細胞、非哺乳動物細胞、DNA分子、又は標的細胞への送達を援助する修飾DNA分子の少なくとも一部を含有することができる。ウイルスベクターの自然向性又は生理学もまた特定の細胞型のターゲティングの手段として利用し得る。例えば、レトロウイルスは、複製細胞内でのみ完全に活性であることが周知である。この事実は、正常細胞が非複製である部位内で増殖するヒトと動物双方の複製がん細胞に対する選択的レトロウイルス仲介遺伝子導入の基準として用いられている。また、大多数の遺伝子導入が周囲の組織に相対して生じる場合、固形腫瘍のような特定の部位にウイルスベクターを直接投与することができる。この選択送達の概念は、アデノウイルス又はヘルペスウイルスベクターによるマウスにおける遺伝子の腫瘍への送達で証明されている。分子複合体は、肺がんのレクチン仲介ターゲティングについて証明されたように、受容体結合リガンドが選択的細胞型にのみ結合するように開発することができる。
最近、DNAをもつリポソームの静脈内注入がある種の細胞型における遺伝子の標的発現を仲介し得ることがわかった。プリン類似体ヌクレオシド切断酵素をコード化している遺伝子のターゲティング又は腫瘍塊における細胞の小さな部分に対する遺伝子の発現に続いての基質投与は衰退を仲介するのに適切であり得た。変異体酵素による毒素の生産増加によって、本方法は腫瘍を破壊するために使用し得る。
【0067】
ウイルス感染細胞の治療
腫瘍細胞の障害に加えて、本明細書に記載される方法はウイルス感染細胞にも使用し得る。この実施態様においては、選択遺伝子導入法は、ウイルス感染細胞中の切断酵素の発現を標的にする能力に対して選択される。例えば、ウイルス感染細胞は遺伝子発現、即ち、ウイルス特異的プロモーターを調節し可能にするために特別のウイルス遺伝子配列を用いることができる。そのような配列は、感染していない細胞には存在しない。変異体PNP遺伝子がそのようなウイルスプロモーターに関して適切に適応する場合には、切断酵素はウイルス感染細胞中でのみ発現し、他の感染していない細胞中では発現しない。他の実施態様においては、ウイルス感染細胞にのみ存在するトランス作用因子によって活性化したベクターにおける細胞に変異体PNP遺伝子が送達される。これらの場合、ウイルス感染細胞は、変異体プリンヌクレオシド切断酵素によって毒性形に変換されるように設計された基質の投与に非常に感受性がある。
従って、本発明に従って細胞を障害させる方法の標的としては、細胞、組織、器官、腫瘍、ウイルス、細菌、原生動物又はその組合わせが含まれる。
【0068】
遺伝子操作した細胞の投与
ある適用の場合、変異体PNP遺伝子を受け取る細胞が選択され、患者に投与される。この方法は、最も一般的には、変異体PNPのような切断酵素をコード化している遺伝子と、治療タンパク質遺伝子をコード化している第二遺伝子双方の生体外共導入を必要とする。
両遺伝子を受け取る細胞は、9-(α-L-リキソフラノシル)-2-フルオロアデニン、5'-メチル(タロ)-MeP-Rのようなプロドラッグが投与されて操作した細胞が排除されるまで治療的タンパク質を生産し得るホスト患者へ再注入される。本方法は、脳内にチロシンヒドロキシラーゼを生産するように操作した非複製筋芽細胞について用いられるような“細胞治療”において用いるべきである(Jiao et al., Nature, 362:450 (1993))。
【0069】
PNP酵素の細胞への直接送達
変異体PNPタンパク質とプロドラッグの組合わせによって与えられた傍観者障害は、変異体PNP遺伝子よりむしろ変異体PNPタンパク質を標的細胞に送達することにより達成し得る。例えば、上記のようにプリン類似体ヌクレオシドを切断できる変異体PNP酵素は、市販の試薬を用いた利用できる組換えタンパク質技術により生体外で生産される。変異体PNPタンパク質を生産する方法の一例として、変異体E. coli PNPコード配列が標準法を用いてグルタチオン-s-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質と“インフレーム”であるようにpGEX-4T-1 (Pharmacia、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)の複数のクローニング部位へライゲートされる。得られたプラスミドは、IPTG誘導原核tacプロモーターの転写制御によってGST-PNP融合コード配列を含有する。E. coli細胞は組換えプラスミドで形質転換され、tacプロモーターはIPTGで誘導される。IPTG誘導細胞を溶解し、GST-PNP融合タンパク質をグルタチオンセファロース4Bカラムによるアフィニティクロマトグラフィーで精製する。GST-PNP融合タンパク質を溶離し、トロンビン切断により分子のGST部分を除去する。これらの技術や試薬のすべてが市販のキット、例えば、Pharmacia、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、catalog no. 27から市販されているもので供給される。組換えタンパク質生産の他の方法は、発表された実験マニュアルに詳述されている。
【0070】
変異体PNPがプロドラッグを拡散性毒素へ活性化させるので、プロドラッグ投与の前に変異体PNPタンパク質を標的細胞の外部へ送達させることだけが必要である。変異体PNPタンパク質を種々の手法で標的に送達させることができる。一例は、近づくことができる部位の中の腫瘍塊に直接注入することにより行なうことができるように、担体を含む又は含まない変異体タンパク質を標的組織に直接適用するものである。他の例は、腫瘍部位上の抗原を認識するモノクローナル抗体に変異体PNPタンパク質を結合するものである。機能タンパク質をモノクローナル抗体に結合する方法は、以前に記載されている。変異体PNP結合モノクローナル抗体は、全身系的に、例えば、静脈内(IV)投与され、標的組織に特異的に結合する。プロドラッグの続いての全身系投与により、腫瘍部位の付近に拡散性毒素が局所生産される。多くの実験によって、腫瘍組織に特異的なタンパク質を標的にするためのこの技術の使用が証明された。他のリガンドは、モノクローナル抗体に加えて、標的細胞の特異性についても選択することができ、本明細書に教示された方法に従って試験することができる。
特異的標的に対するタンパク質送達の他の例は、リポソームにより達成したものである。リポソームを製造する方法は、例えば、Liposomes: A Practical Approach)に記載されている。リポソームは、外面に特定のリガンド又は抗体を封入することにより特定部位に対して標的にすることができ、特定の肝細胞集団はリポソーム表面にアシアロフェツインを封入することにより標的にした(Van Berkel et al., Targeted Diagnosis and Therapy, 5:225-249 (1991))。特定のリポソーム製剤は、また、植込まれた腫瘍に薬剤を優先的に送達するいわゆるステルス(登録商標)リポソームによって最もよく例示されるように、標的送達を達成することもできる(Allen, Liposomes in the Therapy of Infectious Diseases and Cancer, 405-415 (1989))。リポソームが注入されるか又は植込まれた後、結合していないリポソームは血液から取り除くことができ、患者は変異体E. coli PNP又は他の適切な切断酵素によって標的部位で切断される、9-(α-L-リキソフラノシル)-2-フルオロアデニン又は5'-メチル(タロ)-MeP-Rのようなプリン類似体ヌクレオシドプロドラッグで処理される。また、この手順には適切なターゲティング伝達体の利用可能性だけが必要とされる。より広い意味で、ターゲティングのストラテジーは変異体PNPタンパク質、或いは遺伝子送達後のプロドラッグの特定の送達まで拡大させることができる。
【0071】
基質の投与
Freireich et al., Cancer Chemother. Rep., 50:219-244, (1966)の式はヒト患者に対する最大許容量を求めるために使用し得る。例えば、200 mg/kg/日の5'-メチル(タロ)MeP-Rの3日間(全3回)の用量が十分に許容されたことを示すマウスにおける全身系的に投与さ
れた用量応答データに基づいて、600 mg 5'-メチル(タロ)MeP-R/m2のヒト投薬量が式: 200 mg/kg×3 = 600 mg/m2に従って求められた。この量又はそれよりわずかに少量がヒトにおいて副作用が最少で許容されるに違いない。更に、基質が腫瘍の部位に又は近傍に局在したままであることを可能にする投与方式が全身的に投与される基質より少量で有効であることが理解される。
基質は、当業者により具体的な患者に適切であることが決定された経路によって投与される。例えば、基質は経口、非経口(例えば、静脈内)、筋肉内注射、腹腔内注射、腫瘍内、又は経皮により投与される。必要とされる基質の正確な量は、患者毎に異なり、患者の年齢、体重及び全身状態、治療される疾患の重篤度、腫瘍の位置とサイズ、用いられる具体的な化合物、投与方法等に左右される。適切な量は、本明細書に教示された通常の実験を用いるだけで当業者が求めることができる。一般に、例えば、5'-メチル(タロ)MeP-R、又は機能的同等物を考えた場合、投薬量が約0.5〜500 mg/m2の範囲にあることが好ましい。
企図された投与方式によっては、基質は医薬組成物中に、例えば、錠剤、坐薬、丸剤、カプセル剤、散剤、液剤、又は懸濁液剤の固体、半固体又は液体剤形、好ましくは正確な用量の1回の投与に適した単位剤形であり得る。徐放性製剤は、有効な投薬製剤として特に企図される。組成物は、選択した基質の有効量を医薬的に許容し得る担体と組合わせて含み、更に、他の医薬品、製剤、担体、又は希釈剤を含んでもよい。
【0072】
固体組成物の場合、慣用の非毒性固体担体としては、例えば、医薬クレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース又は炭酸マグネシウムが挙げられる。液体の医薬的に投与可能な組成物は、例えば、活性化合物と任意の医薬補助剤を賦形剤、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、又はエタノールに溶解又は分散して溶液又は懸濁液を形成することにより調製することができる。所望される場合には、投与される医薬組成物は湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、例えば、酢酸ナトリウム又はオレイン酸トリエタノールアミンを含むことができる。そのような剤形を調製する実際の方法は、既知であり、当業者に明らかでもある。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciencesを参照のこと。
経口投与の場合、微細粉末又は顆粒は、希釈剤、分散剤、及び/又は界面活性剤を含有することができ、水中又はシロップ中、乾燥状態のカプセル又はサシェー中、沈殿防止剤が含まれてもよい非水溶液又は懸濁液中、結合剤や滑沢剤が含まれてもよい錠剤中、又は水又はシロップ中の懸濁液中に存在することができる。所望の又は必要な香味剤、保存剤、沈殿防止剤、増粘剤、又は乳化剤が含まれてもよい。錠剤や顆粒剤は、好ましい経口投与形態であり、被覆されてもよい。
非経口投与は、一般的には注射による。注射用剤は、慣用の形態、液体の溶液か又は懸濁液、注射前の溶液に適した固体形態、又は注射前の液体の懸濁液として又はエマルジョンとして調製し得る。
本発明は、配列番号2として示されたアミノ酸配列又は配列番号2によって示された精製した変異体PNPをコード化しているヌクレオチド配列を含有するベクター又は配列番号2によって示された変異体PNPをコード化しているヌクレオチド配列を含有する組換えウイルス又はそれらのあらゆる組合わせをキットの使用説明書と共に含む細胞を障害させるキットを提供する。キットには、更に、化合物の投与に必要なあらゆる試薬又は成分が含まれる。
【0073】
実施例 16
変異体PNP酵素の候補プロドラッグを同定する方法
次の方法は、野生型PNPより変異体PNPによって効率よく切断される基質を同定するために有効である。次に、この方法で同定されたプロドラッグは、毒性、種々の医薬担体と投与する適合性、他の薬理学的性質を定量するために動物実験によって更に評価し得る。
前記方法は、試験管内基質の切断を定量的に測定する。プリン類似体ヌクレオシド(0.1 mM)を500μlの100 mM HEPES、pH 7.4、50 mMリン酸カリウム中で、100μg/mlの変異体M65V E. coli PNP又は野生型PNPとインキュベートする。反応混合液を25℃で1時間インキュベートし、各試料を2分間煮沸することにより反応を停止する。酵素と具体的な基質との活性によってはタンパク質濃度と分析時間が異なる。各試料を逆相HPLCにより分析して基質から生成物への変換を測定する。ヌクレオシドとプリン類似体を溶媒が50 mMリン酸二水素アンモニウム(95%)とアセトニトリル(5%)を含有するSpherisorb ODSI (5μm)カラム(Keystone Scientific, Inc., State College, PA)から溶離し、生成物を254 nmの吸光度で測定し、保持時間と吸収スペクトルを基準試料と比較することにより同定する。
この分析により、変異体M65V PNPは野生型PNPより5'-メチル(タロ)MeP-R、9-(α-L-リキソフラノシル)-6-メチルプリン、9-(6-デオキシ-α-L-タロフラノシル)-2-フルオロアデニンや9-(α-L-リキソフラノシル)アデニンに対する活性が大きい。従って、これらの基質は、病態を治療するために本明細書に記載された方法と組成物に更に用いられる評価に望ましい好適候補プロドラッグである。更に、変異体M65Aは、野生型酵素より9-(6,7-ジデオキシ-α-L-ヘプタ-6-イノフラノシル)-6-メチルプリンに対する活性が大きく、この変異体と用いるのに好ましいようにこの基質が示される。
本明細書に言及されたいずれの特許又は文献も本発明が関係している当業者のレベルを示している。これらの特許や文献は、各々の個々の文献が特に且つ個々に含まれることを示したのと同じ程度まで本願明細書に含まれるものとする。
本発明が目的を行なうために且つ言及された目的と利点、及びその中の固有のものを得るために十分に適応することを当業者は容易に理解するであろう。本明細書に記載された本方法、手順、処理、分子及び個々の化合物は、現在好適実施態様の代表例であり、例示であり、本発明の範囲について限定するものではない。特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の真意に包含される、その中の変更や他の使用は当業者に見出されるであろう。
【0074】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】

[式中、Aは
【化2】

からなる群より選ばれた細胞毒性プリンであり;
Xは存在ごとに独立してヒドリル基、C1-C8アルキル基、又はC0-C4アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
Yはヒドリル基、メチル基、エチル基、アミノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基であり;
Zはヒドリル基、C1-C8アルキル基、C2-C6アルケニル基、C0-C4アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R1はヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、OR5基(ここで、R5はC1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である。)、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドロリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R2はヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C0-C6アルキル基又はアルケニル基であり、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、OR6基(ここで、R6はC1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基である。)、第四アミノ基、置換アミノ基、スルホニル基、スルフヒドロリル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基からなる群より選ばれた置換基を有し;
R3とR4は各々独立してヒドリル基、C1-C6アルキル基、C6-C10アリール基、C2-C6アルケニル基、C2-C6アルキニル基、ヘテロ原子置換C1-C6アルキル基又はC6-C10アリール基(ここで、ヘテロ原子はヒドロキシ-酸素又はC1-C6アルコキシ-酸素、アミン-窒素C1-C8置換アミン-窒素、スルフヒドリルイオウ、スルファニルイオウ、C1-C6アルキルチオエーテルイオウ、C6-C10アリールチオエーテルイオウ、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。)である。但し、式IのXがメチルであり、Yがヒドリルであり、R1、R2又はR3の少なくとも1つがヒドリルである化合物である場合には、R4はCH2OHではなく、式IのXがアミンであり、Yがヒドリル、フルオロ又はクロロであり、R1、R2の少なくとも1つがヒドリル又はヒドロキシである化合物の場合には、R3はCH3、CH2OH、又はC6-C10アリールチオエーテルイオウで置換されたC1アルキルではなく、Aが
【化3】

であり、Xがメチルであり、Yがヒドリルであり、R1、R2、又はR3の少なくとも1つがヒドロリルである場合には、R4はCH2OHではなく、Aが
【化4】

であり、Xがアミノであり、Yがヒドリル又はフルオロ又はクロロであり、R1又はR2の少なくとも1つがヒドリルである場合には、R3はCH3、CH2OH、又はC6-C10アリールチオエーテルイオウで置換されたメチルではない。)
を有する化合物。
【請求項2】
ヌクレオシドの製造方法であって、
環構造内の窒素原子を反応させて該窒素原子について非プロトン置換基を有する中間体を形成するステップ、
前記中間体と単一の保護されていないヒドロキシル基を有する炭水化物とを混合して保護ヌクレオシドを形成するステップ、
前記保護ヌクレオシドを脱保護して少なくとも1つのヒドロキシル基を有する保護されていないヌクレオシドを形成するステップ、
前記保護されていないヌクレオシドを少なくとも1つのヒドロキシル基においてヨウ素化してヨウ素-炭素結合を有するヌクレオシドを形成するステップ、及び
該ヨウ素-炭素結合を水素-炭素結合で置き換えて前記ヌクレオシドを形成するステップを含む、前記方法。
【請求項3】
プリンヌクレオシド切断酵素の基質としての請求項1記載の化合物の使用。

【公開番号】特開2009−102403(P2009−102403A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17198(P2009−17198)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【分割の表示】特願2003−537580(P2003−537580)の分割
【原出願日】平成14年10月28日(2002.10.28)
【出願人】(504168260)ザ ユーエービー リサーチ ファウンデーション (12)
【出願人】(504164240)
【出願人】(503404925)コーネル リサーチ ファンデイション インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】