説明

変速クラッチ制御装置

【課題】逆転防止を目的としたデコンプ機構等の逆転防止装置を削減することができ、サイズの小型化、コストの低減を図る。
【解決手段】エンジン始動時に、クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチを切断状態にする。始動発電機66によってスイングバック制御を行う場合において、エンジンが停止中であって、且つ、少なくともクランク軸50が逆回転している間に、クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチを切断状態にする。また、エンジンが停止中であって、且つ、アイドルストップ中に、クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチを切断状態にする。シフトドラム54の駆動が始まる前に、シフトスピンドル58を停止して、変速用クラッチの切断を行い、シフトドラム54の駆動が終わった後に、シフトスピンドル58を初期位置に復帰させて変速用クラッチの接続を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速クラッチ制御装置に関し、例えばエンジンの小型化が必要な車両(自動二輪車等)に用いて好適なエンジンの変速クラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの始動性を高める方法として、クランク軸に始動電動機を備えるエンジンにおいて、クランク軸をいわゆるスイングバックさせて始動性を高める方法(特許文献1参照)や、クランク軸の正回転時及び逆回転時に機関弁を開弁するデコンプ装置を備える方法(特許文献2参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3969641号公報
【特許文献2】特開2008−274855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1記載の方法は、始動発電機の駆動によってクランク軸を回転させるのに、一度クランク軸を逆回転させてから慣性力を使ってクランク軸を回転(スイングバック)させるため、発進クラッチに一方向クラッチがある自動二輪車に適用すると、車両が後退するという問題がある。
【0005】
クランク軸を逆転させなくてもエンジンを始動できるように、特許文献2に示すようなデコンプ機構を設けると、部品点数が増加してしまい、構造が複雑になるという問題がある。また、ギヤが入った状態でエンジンが停止したときに、車両を押し歩きしようとすると、一方向クラッチを介してクランク軸が回転してしまうため、車両を押し歩きすることができない。
【0006】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、エンジン始動時やエンジン停止時に変速用クラッチを切断状態にすることができ、逆転防止を目的としたデコンプ機構等の逆転防止装置を削減することができ、サイズの小型化、コストの低減を図ることができる変速クラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 本発明の請求項1に記載の変速クラッチ制御装置は、クランク軸(50)の回転を遠心式の発進クラッチ(40)を介して前記クランク軸(50)に対して相対回転可能に支持される一次駆動ギヤ(118)に伝達すると共に、前記一次駆動ギヤ(118)の回転が前記クランク軸(50)の回転よりも速いとき、前記一次駆動ギヤ(118)と前記クランク軸(50)とを連結する一方向クラッチ(154)が設けられ、入力軸(128)に変速用クラッチ(44)を備え、該変速用クラッチ(44)の出力側の回転を、選択されたギア列を介して駆動輪(18)に伝達する変速機(42)を有し、前記発進クラッチ(40)又は前記一方向クラッチ(154)の出力を、前記一次駆動ギヤ(118)を介して前記入力軸(128)に伝達する内燃機関(20)に使用される変速クラッチ制御装置において、前記クランク軸(50)に設けられ、前記クランク軸(50)を回転することで前記内燃機関を始動させる始動発電機(66)と、エンジン始動信号(Sa)に基づき、前記始動発電機(66)による前記クランク軸(50)を逆転してから正転させるスイングバック制御を行う始動発電機制御装置(238)と、アクチュエータ(168)により駆動され、前記変速用クラッチ(44)を接続/切断状態に切り換えるクラッチ作動手段(174)と、前記内燃機関(20)の始動時に、前記クラッチ作動手段(174)を駆動して前記変速用クラッチ(44)を切断状態にするクラッチ制御装置(240)とを有することを特徴とする。
【0008】
[2] 請求項2に記載の本発明は、請求項1記載の変速クラッチ制御装置において、前記クラッチ制御装置(240)は、前記内燃機関(20)が停止中であって、且つ、少なくとも前記クランク軸(50)が逆転している間に、前記クラッチ作動手段(174)を駆動して前記変速用クラッチ(44)を切断状態にすることを特徴とする。
【0009】
[3] 本発明の請求項3に記載の変速クラッチ制御装置は、クランク軸(50)の回転を遠心式の発進クラッチ(40)を介して前記クランク軸(50)に対して相対回転可能に支持される一次駆動ギヤ(118)に伝達すると共に、前記一次駆動ギヤ(118)の回転が前記クランク軸(50)の回転よりも速いとき、前記一次駆動ギヤ(118)と前記クランク軸(50)とを連結する一方向クラッチ(154)が設けられ、入力軸(128)に変速用クラッチ(44)を備え、該変速用クラッチ(44)の出力側の回転を、選択されたギア列を介して駆動輪(18)に伝達する変速機(42)を有し、前記発進クラッチ(40)又は前記一方向クラッチ(154)の出力を、前記一次駆動ギヤ(118)を介して前記入力軸(128)に伝達する内燃機関(20)に使用される変速クラッチ制御装置において、アクチュエータ(168)により駆動され、前記変速用クラッチ(44)を接続/切断状態に切り換えるクラッチ作動手段(174)と、前記内燃機関(20)が停止中であって、且つ、アイドルストップ中に、前記クラッチ作動手段(174)を駆動して前記変速用クラッチ(44)を切断状態にするクラッチ制御装置(240)とを有することを特徴とする。
【0010】
[4] 請求項4に記載の本発明は、請求項3記載の変速クラッチ制御装置において、前記クラッチ作動手段(174)とシフトドラム(54)を駆動する変速作動手段(52)とが同一のシフトスピンドル(58)により駆動され、前記クラッチ制御装置(240)は、前記クラッチ作動手段(174)のみが作動するスピンドル位置に、前記シフトスピンドル(58)を停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1) 請求項1に係る本発明によれば、内燃機関の始動時に、変速用クラッチを切断状態としているため、例えばクランク軸が逆回転しても、クランク軸の回転力は駆動輪に伝達されない。従って、スイングバック制御を行って内燃機関の始動性を向上させる場合に、車両が後進してしまうことがない。そのため、逆転防止を目的としたデコンプ機構等の逆転防止装置を設置する必要がない。このように、内燃機関の始動時や内燃機関の停止時に変速用クラッチを切断状態にすることができ、逆転防止を目的としたデコンプ機構等の逆転防止装置を削減することができ、サイズの小型化、コストの低減を図ることができる。
【0012】
(2) 請求項2に係る本発明によれば、スイングバック制御によって、少なくともクランク軸が逆転している間に、変速用クラッチを切断状態にしているため、例えばクランク軸が逆回転しても、クランク軸の回転力は駆動輪に伝達されない。従って、スイングバック制御を行って内燃機関の始動性を向上させる場合に、車両が後進してしまうことがない。
【0013】
(3) 請求項3に係る本発明によれば、内燃機関が停止中であって、且つ、アイドルストップ中に、変速用クラッチを切断状態としているため、ギヤが入った状態で内燃機関が停止した場合でも、一方向クラッチを介してクランク軸が回転するということがなく、車両を押し歩きすることができる。
【0014】
(4) 請求項4に係る本発明によれば、同一のシフトスピンドルにより、クラッチ作動手段と変速作動手段とを駆動させる場合において、変速作動手段によるシフトドラムの駆動が始まる前に、変速クラッチの切断を行うことができ、また、変速作動手段によるシフトドラムの駆動が終わった後に、変速クラッチの接続を行うことができる。しかも、アイドルストップ時に、クラッチ作動手段のみが作動するスピンドル位置に、シフトスピンドルを停止させるようにしているため、アイドルストップ中であって、シフトドラムが駆動される前に変速用クラッチを切断状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係る変速クラッチ制御装置を搭載した自動二輪車の一例を示す側面図である。
【図2】自動二輪車の内燃機関を一部破断して示す側面図である。
【図3】図2におけるIII−III線上の断面図である。
【図4】図2におけるIV−IV線上の断面図である。
【図5】一方向クラッチの一例を示す断面図である。
【図6】シフトスピンドルの伝達機構の一例を一部省略して示す斜視図である。
【図7】図7Aはクラッチレリーズ機構において、各カム状凹部の溝底部にレリーズボールが挟み込んで配設された初期位置を示す断面図であり、図7Bはレリーズボールが対向する傾斜面に移動している状態を示す断面図である。
【図8】ECU(エンジン・コントロール・ユニット)を含めた制御系の構成を示すブロック図である。
【図9】本実施の形態に係る変速クラッチ制御装置による第1制御の手順を示すフローチャートである。
【図10】シフトスピンドルの回転停止位置を説明するためのグラフである。
【図11】本実施の形態に係る変速クラッチ制御装置による第2制御の手順を示すフローチャートである。
【図12】図12Aはクラッチレリーズ機構において、各カム状凹部の溝底部にレリーズボールが挟み込んで配設された初期位置を示す断面図であり、図12Bはレリーズボールが可動カム板の平坦面に位置した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両の変速クラッチ制御装置を例えば自動二輪車に適用した実施の形態例を図1〜図12Aを参照しながら説明する。
【0017】
先ず、本実施の形態に係る変速クラッチ制御装置10を搭載した自動二輪車12について図1〜図7Bを参照しながら説明する。
【0018】
自動二輪車12は、図1に示すように、ハンドル14によって操舵される前輪16と、駆動輪としての後輪18と、動力発生源である内燃機関20と、内燃機関20が発生する動力を後輪18に伝達する動力伝達装置22を有する。内燃機関20は、自動二輪車12に搭載される空冷式単気筒4ストローク内燃機関である。
【0019】
自動二輪車12は、車体フレーム24と、該車体フレーム24を覆う車体カバー26とを備える。車体フレーム24は、その前端部であるヘッドパイプ28と、ヘッドパイプ28から後方に向かって斜め下方に延びる1つのメインフレーム30と、該メインフレーム30の後部から後方に向かって斜め上方に延びる左右1対のリヤフレーム32とを備える。ヘッドパイプ28には、下端部に前輪16が軸支されると共に上端部にハンドル14が取り付けられたフロントフォーク34が操向可能に支持される。メインフレーム30の後部に取り付けられたピボットプレート36に設けられるピボット軸36aには、後端部で後輪18を軸支すると共にリヤクッション(図示されず)を介して左のリヤフレームに支持されるスイングアーム38が揺動可能に支持される。
【0020】
自動二輪車12は、図2及び図3にも示すように、車体フレーム24に支持される上述した内燃機関20と、遠心式の発進クラッチ40と、変速機としての常時噛合い式の歯車式変速機42と、変速用クラッチ44と、伝動機構46とを備える。発進クラッチ40は、1次減速機構48へのクランク軸50の動力の伝達及び遮断を制御する。変速用クラッチ44は、変速機42に対して1次減速機構48を介して伝達されるクランク軸50の動力の伝達及び遮断を行う摩擦式クラッチにて構成される。伝動機構46は、変速機42からの動力が伝達される2次減速機構としてのチェーン式伝動機構である。発進クラッチ40、変速用クラッチ44、変速機42及び伝動機構46は、内燃機関20が発生する動力を駆動輪としての後輪18に伝達する動力伝達装置22(図1参照)を構成する。
【0021】
また、自動二輪車12は、図4に示すように、変速及びクラッチの制御を行う変速作動手段52と、該変速作動手段52の駆動に基づいてシフトドラム54を回動させるシフトドラム駆動手段56とを有する。シフトドラム駆動手段56は、後述するシフトスピンドル58の揺動に応じた回動方向にシフトドラム54を所定角度だけ回動送りする機構であり、例えば、ピンと鈎車を利用した回動送り機構や、遊星歯車を利用した回動送り機構によりシフトドラム54を回動させる。
【0022】
内燃機関20は、図3に示すように、シリンダ60と、該シリンダ60の一方の端部に結合されるシリンダヘッド62と、シリンダ60の他方の端部に結合されるクランクケース64とを有する。また、この内燃機関20は、始動発電機66としても機能する電動機兼用発電機とマニュアル式始動機構としてのキック式始動機構68とから構成される始動装置を備える。
【0023】
シリンダ60に摺動可能に嵌合されるピストン70は、コンロッド72を介して、クランクケース64に一対の主軸受74、75を介して回転可能に支持されるクランク軸50に連結される。シリンダヘッド62には、図2に示すように、シリンダ軸線方向でピストン70に対向する燃焼室76と、該燃焼室76に開口する吸気ポート78及び排気ポート80と、吸気ポート78及び排気ポート80をそれぞれ開閉するいずれも機関弁としての吸気弁82及び排気弁84と、燃焼室76の混合気を燃焼させる点火栓86(図3参照)とが設けられる。
【0024】
シリンダヘッド62にカム軸88を貫通するボルト90で結合されるヘッドカバー92(図3参照)とシリンダヘッド62とにより形成される動弁室内には、吸気弁82及び排気弁84を開閉駆動する動弁装置94が配置される。動弁装置94は、一対の軸受96、97を介してシリンダヘッド62に回転可能に支持される1つのカム軸88と、該カム軸88に設けられるいずれも動弁カムとしての1つの吸気カム98及び1つの排気カム100にそれぞれ駆動されるいずれもカムフォロアとしての吸気ロッカアーム102及び排気ロッカアーム104と、吸気弁82及び排気弁84を閉弁方向に常時付勢する弁バネ106とを備える。
【0025】
カム軸88は、軸本体108と、該軸本体108に一体成形される吸気カム98と、軸本体108に圧入される排気カム100とから構成される。
【0026】
カム軸88は、動弁用伝動機構110を介して伝達されるクランク軸50の動力により、その回転に同期して1/2の回転速度で回転駆動される。動弁用伝動機構110は、クランク軸50に設けられる駆動回転体としての駆動スプロケット110aと、カム軸88の軸端部に設けられる被動回転体としての被動スプロケット110bと、両スプロケット110a、110bに掛け渡された無端伝動帯としてのチェーン110cとから構成される。
【0027】
この動弁装置94により、吸気カム98は吸気ロッカアーム102を介して吸気弁82を、また、排気カム100は排気ロッカアーム104を介して排気弁84を、それぞれ所定の開閉時期及びリフト量で開閉する。
【0028】
そして、吸気装置(図示されず)から吸入された空気は、燃料噴射弁112から供給された燃料と混合して混合気を形成し、吸気行程において開弁した吸気弁82を経て吸気ポート78を通って燃焼室76に吸入される。該混合気は、ピストン70が上昇する圧縮行程において圧縮され、圧縮行程の終期に点火栓86により点火されて燃焼し、ピストン70が下降する膨張行程において燃焼ガスの圧力により駆動されるピストン70がクランク軸50を回転駆動する。燃焼ガスは、ピストン70が上昇する排気行程において開弁した排気弁84を経て、排気ガスとして燃焼室76から排気ポート80を通った後、排気ポート80の出口が開口するシリンダヘッド62の側壁に接続される排気装置(図示されず)を通って内燃機関20の外部に排出される。
【0029】
クランク軸50において左側の主軸受74の左方に延びる軸端部50aには、駆動スプロケット110aと、始動発電機66が順次設けられる。始動発電機66は、カバー114に固定されたステータ66aと、該ステータ66aを囲んでクランク軸50に一体に結合されるロータ66bとを備える。
【0030】
クランク軸50において右側の主軸受75の右方に延びる軸端部50bには、連結部材116がクランク軸50に回転可能に設けられる。連結部材116の左端部には一次駆動ギヤ118が設けられ、連結部材116の右端部は、発進クラッチ40のクラッチアウタ120の一部を構成する。発進クラッチ40は、クラッチアウタ120と、軸端部50bに一体に結合されたクラッチインナ122と、クラッチインナ122に揺動可能に支持されると共に機関回転速度に応じて発生する遠心力によりクラッチアウタ120に接離可能で発進クラッチ40を接続状態及び非接続状態に切り換える複数の遠心ウエイト124とを備える。各遠心ウエイト124は、機関回転速度がアイドリング回転速度を越えたときにクラッチアウタ120に当接し、発進クラッチ40が接続状態になって、クランク軸50の動力が一次駆動ギヤ118に伝達される。
【0031】
一次駆動ギヤ118と共に1次減速機構48を構成する一次被動ギヤ126は、変速機42のメイン軸128(入力軸)に回転可能に支持される。一次被動ギヤ126は、メイン軸128の右軸端部に設けられた変速用クラッチ44のクラッチアウタ130に結合される。
【0032】
詳細には、変速用クラッチ44は、多板式のクラッチであり、メイン軸128に回転自在に支承された有底円筒状の前記クラッチアウタ130と、メイン軸128にスプライン嵌合してナットで結合されたクラッチインナ132と、クラッチアウタ130とクラッチインナ132との間に配設された複数の摩擦板134と、摩擦板134を押圧する加圧板136とを備えて構成される。
【0033】
摩擦板134は、クラッチインナ132の周壁部に摺動可能にスプライン係合した駆動摩擦板と、クラッチアウタ130の周壁部に摺動可能にスプライン係合した被動摩擦板とが交互に重ねられて配置され、これらの摩擦板134を左右から挟み込むようにしてクラッチインナ132と加圧板136とが対向配置される。加圧板136はクラッチインナ132のボス部132aの外周面に沿ってメイン軸128の軸方向に摺動可能に支承される。加圧板136には、クラッチインナ132の円盤部を左右に挿通する円筒状の支持ボス138が複数突設され、これら支持ボス138の先端にレリーズフランジ140がボルト締結されている。クラッチインナ132のボス部132aの後端部(一次被動ギヤ寄り126の位置)と加圧板136の支持ボスの後端面(一次被動ギヤ寄り126と対向する面)との間に、例えばサラバネ状のクラッチバネ142(圧縮バネ)が設けられており、このクラッチバネ142のバネ力によって付勢される加圧板136とクラッチインナ132との間に摩擦板134が挟み込まれて変速用クラッチ44が接続状態に保持される。
【0034】
クラッチアウタ130の底部には円筒状の取付ボスが左方に向けて複数突設されており、このボス部に一次駆動ギヤ118と噛合する一次被動ギヤ126が取り付けられる。そして、比較的小径の一次駆動ギヤ118と、該一次駆動ギヤ118よりも大径の一次被動ギヤ126とから1次減速機構48が構成される。
【0035】
そして、摩擦板134がスプリング力により摩擦接合したとき、変速用クラッチ44が接続状態になって、クランク軸50の動力が、クラッチアウタ130を介してメイン軸128と一体に結合されたクラッチインナ132に伝達され、さらに変速機42に伝達される。また、多数の摩擦板134の摩擦接合が解除されたとき、変速用クラッチ44が非接続状態になり、クラッチアウタ130からクラッチインナ132への動力の伝達が断たれて、クランク軸50の動力が変速機42に伝達されない。
【0036】
変速機42は、メインギヤ群144が設けられた前記メイン軸128と、カウンタギヤ群146が設けられたカウンタ軸148を備え、シフトドラム54を備える変速操作機構(図示されず)により選択された変速比で、メイン軸128からカウンタ軸148に動力が伝達される。それゆえ、クランク軸50の動力は、発進クラッチ40から、1次減速機構48及び変速用クラッチ44を介して変速機42に伝達され、変速後の動力が、カウンタ軸148から伝動機構46を介して後輪18(図1参照)に伝達されて、後輪18が回転駆動される。
【0037】
一方、図1に示すように、キック式始動機構68は、運転者により操作されるキックペダル68aを有するキックレバー68bと、キックレバー68bに結合されるキック軸68cと、カウンタギヤ群146の1速被動ギヤ146aと噛合するピニオンギヤ150を含む始動用ギヤ列152とを備える。そして、始動操作時、キック軸68cの回転は、始動用ギヤ列152及びカウンタ軸148に回転可能に支持される1速被動ギヤ146aを介してメインギヤ群144のうちで該1速被動ギヤ146aと噛合すると共にメイン軸128に一体に設けられた1速駆動ギヤ144aに伝達されて、メイン軸128が回転する。そして、メイン軸128の回転は、接続状態にある変速用クラッチ44を介して1次減速機構48に伝達され、さらにクランク軸50に設けられた一方向クラッチ154を介してクランク軸50に伝達される。ここで、1速被動ギヤ146a、1速駆動ギヤ144a、メイン軸144、変速用クラッチ44、1次減速機構48及び一方向クラッチ154は、始動機構68の始動操作力をクランク軸50に伝達する始動操作力伝達機構を構成する。
【0038】
一方向クラッチ154は、図5にも示すように、連結部材116に一体成形されるアウタ部材156と、クラッチインナ122にスプライン結合されるインナ部材158と、アウタ部材156及びインナ部材158の間に形成されたポケット160内に配置されるローラ162及びバネ164からなるクラッチ素子166とを備える。
【0039】
ポケット160の外周側壁面160aは、一方向(例えば図5において反時計方向)へ行くにつれて内径が小さくなる傾斜面となっているので、外周側壁面160aとインナ部材158の外周との間の空間は、バネ164の付勢方向に先細のテーパー状空間となっている。一方向クラッチ154の停止状態において、ローラ162はバネ164に押されて、ポケット160の略中央で、インナ部材158の外周とポケット160の外周側壁面160aに接して停止している。一方向クラッチ154の停止時にポケット160の中でローラ162が自然に停止する位置(ローラ標準停止位置)は、各ポケット160の略中央に位置する。
【0040】
そして、始動操作時に始動機構68が操作されると、キック軸68cの回転が、ピニオンギヤ150、1速被動ギヤ146a、1速駆動ギヤ144a、メイン軸128、変速用クラッチ44及び1次減速機構48を介してアウタ部材156に伝達する。これにより、インナ部材158の外周とポケット160の外周側壁面160aとの間に形成されている先細のテーパー状空間にローラ162が噛み込み(接続状態)、インナ部材158がアウタ部材156と同一の方向へ回転し、その回転力がクランク軸50に伝達されてクランク軸50が回転することとなる。
【0041】
そして、内燃機関20が自力運転を開始して、クランク軸50がアウタ部材156より速く回転すると、ローラ162は各ポケット160の略中央に位置するようになり(フリーの状態)、一方向クラッチ154は非接続状態になって、クランク軸50の回転力は、アウタ部材156に伝達されない。その後、アウタ部材156が相対的にクランク軸50より速く回転すると、一方向クラッチ154が接続状態となって、変速機42の動力(一次減速機48の動力)がクランク軸50に伝達され、エンジンブレーキが作用することとなる。
【0042】
図4に示すように、変速作動手段52は、メイン軸128及びカウンタ軸148と平行に左右に延びるシフトスピンドル58と、シフトスピンドル58を回動する変速用アクチュエータ168と、変速用アクチュエータ168の駆動をシフトスピンドル58に伝える伝達機構170と、シフトスピンドル58が回動されたときにその作動をシフトドラム54に伝達するチェンジアーム機構172と、シフトスピンドル58の回動に応じて変速用クラッチ44の接続/非接続を作動するクラッチ作動手段174とを有する。
【0043】
クラッチ作動手段174は、シフトスピンドル58の一端側に固着されたクラッチアーム176と、該クラッチアーム176に取り付けられた後述するクラッチレリーズ機構178とを有する。
【0044】
伝達機構170は、図6に示すように、偏心位置にピン180が形成されたクランクギヤ182と、変速用アクチュエータ168の駆動力をクランクギヤ182に伝える減速ギヤ184(図4参照)と、クランクギヤ182のピン180に回転自在に設けられ、クランクギヤ182の回転中心Pの延長線上を回転中心とするクランクピン186と、シフトスピンドル58が挿入固定される揺動アーム188とを有する。揺動アーム188は、シフトスピンドル58の回転中心を同軸とし、シフトスピンドル58が挿入固定された貫通孔190と、ピン180(及びクランクピン186)が挿通される長孔192とを有する。クランクギヤ182の回転中心Pとシフトスピンドル58の回転中心Qとの間の最短距離は、クランクギヤ182の半径よりも長い。また、長孔192の長軸方向の長さは、クランクギヤ182を回転させた際のピン180のストロークよりも長く設定されている。従って、変速用アクチュエータ168による駆動によってクランクギヤ182が回転すると、揺動アーム188が、クランクギヤ182の回転中心Pとシフトスピンドル58の回転中心Qとの間の最短距離の方向に対して直交する両方向に、それぞれクランクギヤ182の中心からピン180の中心までの直線距離に相当する範囲に揺動し、それに応じてシフトスピンドル58が揺動する。
【0045】
チェンジアーム機構172は、シフトスピンドル58に固着されたアーム194と、アーム194に隣接してシフトスピンドル58の外周に相対回転自在に装着されたカラー196と、このカラー196に固着されたチェンジアーム198と、クランクケース64に固定された規制ピン200と、カラー196の外周部に支持されて捩られた状態で両端が規制ピン200を挟み込むようにたすき掛けされた戻しスプリング(捻りバネ)202等から構成されている。
【0046】
このようなチェンジアーム機構172において、シフトスピンドル58を回動する力が作用していない場合には、戻しスプリング202の両端部が規制ピン200を挟み込んだ状態となり、戻しスプリング202の両端部間に突設されたバネ係合片も、戻しスプリング202の付勢力により両端部の中間に位置して配設される。このため、アーム194及びチェンジアーム198は、ともに各バネ係合片がシフトスピンドル58の軸心と規制ピン200の軸心とを結んだ角度位置に配設され、これによりシフトスピンドル58及びチェンジアーム198が初期の揺動角度位置(中立位置)に配設される。
【0047】
このように初期の揺動角度位置に保持されるチェンジアーム198が上方に延びて、シフトスピンドル58の回動がシフトドラム駆動手段56に伝達される。シフトドラム駆動手段56は、チェンジアーム198の揺動に応じた回動方向にシフトドラム54を所定角度だけ回動送りする。
【0048】
クラッチレリーズ機構178は、変速用クラッチ44のレリーズフランジ140をメイン軸128の方向に押圧し、また、その押圧を解除する可動カム板204を有する。可動カム板204は、メイン軸128と対向する部分に該メイン軸128に向かって2段階に膨出する第1膨出部206a及び第2膨出部206bを一体に有し、先端の第1膨出部206aはレリーズフランジ140に設けられたレリーズベアリング208の中心孔に嵌合されている。すなわち、可動カム板204はレリーズフランジ140にレリーズベアリング208を介して回転自在に固着されている。
【0049】
クラッチレリーズ機構178は、さらに、可動カム板204における第2膨出部206bの凹部に挿入固定された円筒状の調整ボス210と、該調整ボス210に螺合する調整ボルト212と、調整ボス210の基端側(右側)に固着された受け板214と、受け板214と可動カム板204との間に挟持されたレリーズボール216とを有する。
【0050】
可動カム板204及び受け板214には、図7Aに示すように、レリーズボール216を受け入れるカム状凹部204a及び214aが同一半径上に複数箇所(例えば120度間隔で3箇所)対向して設けられると共に、カム状凹部204a及び214aの形成位置に合わせて複数のボール保持部218が形成されたリテーナ220の各ボール保持部218に、レリーズボール216が回転自在に支持されて、対向する各カム状凹部204a及び214aの溝底部にレリーズボール216が挟み込んで配設される(初期位置)。対向するカム状凹部204a及び214aの間隔は、調整ボルト212を回動して調整ボス210の軸方向位置を調整することにより設定され、レリーズボール216が対向するカム状凹部204a及び214aの溝底部に僅かなクリアランスを有して挟持されるように設定される。
【0051】
可動カム板204には外周方向に延びるレリーズアーム222が一体に形成され、このレリーズアーム222の先端側に、クラッチアーム176の先端におけるピンローラ224の直径に合わせた溝幅の長孔状のピン係合孔226が形成されて、このピン係合孔226にピンローラ224が係合されている。一方、受け板214には外周方向に延びる廻り止めアーム部228が形成されてその先端部がクランクケース64に掛止され、軸方向への移動は許容されるが軸まわりの回動は規制されるようになっている。
【0052】
このように構成されるクラッチレリーズ機構178において、シフトスピンドル58が時計廻り又は反時計廻りに回動されると、その回動方向にクラッチアーム176が揺動され、ピンローラ224と係合するレリーズアーム222を介して可動カム板204が反時計廻り又は時計廻りに回動される。可動カム板204がいずれかの方向に回動されると、その回動と共に、可動カム板204側のカム状凹部204aが受け板214側のカム状凹部214aに対して相対移動する。これにより、図7Bに示すように、両者の間に挟持されたレリーズボール216が転がりながら対向する傾斜面にスムーズに移動し、その結果、調整ボス210に回動及び摺動可能に支持された可動カム板204が変速用クラッチ44のメイン軸128側に移動し、レリーズベアリング208を介してレリーズフランジ140を押圧する。
【0053】
この押圧力により、レリーズフランジ140はクラッチバネ142を圧縮しながら加圧板136を左方に移動させ、これにより、摩擦板134(駆動摩擦板及び被動摩擦板)の摩擦係合が解除されて、変速用クラッチ44の係合状態が解除される(変速用クラッチ44がオフ状態になる)。
【0054】
このように、変速作動手段及びクラッチ作動手段174を作動させるシフトスピンドル58が、変速用アクチュエータ168により回動される。すなわち、変速用アクチュエータ168の回転駆動力が減速ギヤ184、クランクギヤ182及び揺動アーム188を介してシフトスピンドル58に伝達され、シフトスピンドル58を介してクラッチ作動手段174のクラッチレリーズ機構178に伝達されて変速用クラッチ44の接続が解除される。また、変速用アクチュエータ168の回転駆動力がシフトシャフト及びチェンジアーム機構172を介してシフトドラム駆動手段56に伝達されて変速機42の変速段が切り換えられる。
【0055】
ここで、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)を含めた制御系について図8を参照しながら説明する。
【0056】
制御系は、図8に示すように、ECUと、運転者が操作する変速スイッチ230と、現在のシフトドラム54の位置を検出するシフトポジション検出器232と、シフトスピンドル58を回転駆動する上述した変速用アクチュエータ168と、シフトスピンドル58の回転角度を検出するスピンドル角度検出器234と、変速用アクチュエータ168の作動を制御する変速制御装置236と、クランク軸50に設けられ、クランク軸50を回転することでエンジンを始動させる上述した始動発電機66と、ECUからのエンジン始動信号Saに基づき、始動発電機66によるクランク軸50を逆転してから正転させるスイングバック制御を行う始動発電機制御装置238と、本実施の形態に係る変速クラッチ制御装置10とを有する。
【0057】
変速クラッチ制御装置10は、上述したクラッチ作動手段174と、該クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチ44を切断状態にするクラッチ制御装置240とを有する。
【0058】
変速スイッチ230は、スイッチ内部に設けられた内蔵スプリングにより保持される中立位置を境として、変速機42の変速段を上昇させるアップシフトの操作ボタン部と下降させるダウンシフトの操作ボタン部とを有するスイッチ手段であり、例えばハンドル14の左グリップ部分に設けられ、その出力信号が変速制御装置236に入力される。
【0059】
スピンドル角度検出器234は、変速用アクチュエータ168の作動により、シフトスピンドル58が変速スイッチ230の操作方向に所定角度回動されたか否かを検出する検出器であり、例えば、シフトスピンドル58の角度位置に応じた信号を出力するポテンショメータやエンコーダ、シフトスピンドル58が中立位置から所定角度回動されたときにその位置状態を検出するドグとリミットスイッチ、フォトインタラプタ等により構成することができる。なお、上記所定角度は、クラッチレリーズ機構178において変速用クラッチ44が解放状態となり、シフトドラム駆動手段56においてシフトドラム54が回動送りされて変速後のギヤ列が確立されるのに必要な回動角度に一定の予備角を加えた角度が設定され、この予備角相当分は、チェンジアーム機構172の戻しスプリング202により吸収される。
【0060】
変速制御装置236は、シフトポジション検出器232から入力される変速機42の現行変速段及び変速スイッチ230から入力される変速信号Sbに基づいて、変速用アクチュエータ168に駆動信号Scを出力する。具体的には、例えばシフトポジション検出器232から入力される変速機42の現行変速段が3速の変速段の状態において、変速スイッチ230からダウンシフトの変速信号が入力されると、シフトスピンドル58を第3速→第2速にダウンシフトさせる作動方向が行われ、シフトスピンドル58を例えば反時計回りに回動させる方向の駆動信号Scが変速用アクチュエータ168に出力される。これにより、戻りスプリング202が弾性変形されながらシフトスピンドル58が反時計回りに回動する。
【0061】
シフトスピンドル58が反時計回りに回動すると、クラッチ作動手段174のクラッチアーム176、ピンローラ224及びレリーズアーム222を介して可動カム板204が回動され、クラッチレリーズ機構178における対向するカム状凹部204a及び214aとレリーズボール216との相互作用により、図7Bに示すように、変速用クラッチ44側に移動する可動カム板204によってレリーズベアリング208を介してレリーズフランジ140が左方に押圧され、この押圧力によりレリーズフランジ140がクラッチバネ142を圧縮しながら加圧板136を左方に移動させて変速用クラッチ44の係合状態が解除される。
【0062】
また、シフトスピンドル58の回動によって戻りスプリング202を介してチェンジアーム機構172のチェンジアーム198が揺動され、シフトドラム54が第3速の角度位置から第2速の角度位置に回動される。この回動に伴って第2速ギヤ列が確立する。
【0063】
第2速ギヤ列が確立され、さらに予備角分だけシフトスピンドル58が回動すると、スピンドル角度検出器234から検出信号Sdが変速制御装置236に入力される。変速制御装置236は、このスピンドル角度検出器234からの検出信号Sdによりシフトスピンドル58が所要角度回動されたと判断し、変速用アクチュエータ168に出力していた駆動信号Scをオフにする。すると、変速用アクチュエータ168の駆動力がゼロとなり、戻りスプリング202に蓄えられていたバネ力によってシフトスピンドル58が駆動方向と反対方向に回動され、シフトスピンドル58、ギヤ、クランクギヤ、揺動アーム188及びチェンジアーム198がそれぞれ初期位置に復帰し、可動カム板204も、図7Aに示すように、初期位置に復帰する。
【0064】
可動カム板204が初期位置に戻ると、クラッチバネ142のバネ力により加圧板136が摩擦板134をクラッチインナ132の受圧面に押圧してクラッチインナ132とクラッチアウタ130とを摩擦係合させ、変速用クラッチ44が接続状態になる。これにより、メイン軸128とカウンタ軸148との間で動力伝達するギヤ列が、第3速ギヤ列から第2速ギヤ列に切り換えられ、変速機42の変速段が第3速から第2速に変速される。
【0065】
そして、本実施の形態に係る変速クラッチ制御装置10は、少なくとも2つの制御(第1制御及び第2制御)を行う。
【0066】
第1制御は、エンジン始動時に、クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチ44を切断状態にする。例えばエンジンの始動に先立って、始動発電機66によってスイングバック制御を行う場合において、エンジンが停止中であって、且つ、少なくともクランク軸50が始動発電機66によって逆回転している間に、クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチ44を切断状態にする。
【0067】
この第1制御の手順を図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0068】
先ず、図9のステップS1において、変速制御装置236は、変速段を1速にする指示を行う。すなわち、ECUからのエンジン始動信号Saの入力に基づいて、変速用アクチュエータ168に変速段を1速にするための駆動信号Scを出力する。
【0069】
ステップS2において、変速用アクチュエータ168は、変速制御装置236からの駆動信号Scの入力に基づいてシフトスピンドル58の回転駆動を開始する。
【0070】
ステップS3において、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の回転角度が変速用クラッチ44の切断位置に対応した角度であるか否かを判別する。すなわち、変速用クラッチ44が切断状態であるか否かを判別する。この判別は、スピンドル角度検出器234からの検出信号Sdが示す角度が、予め設定された角度範囲Daになったかどうかで行われる。
【0071】
ここで、角度範囲Daは以下のように設定される。すなわち、図10の実線Laに示すように、シフトスピンドル58が回転すると、先ず、回転角度Aaで、クラッチ作動手段174とクラッチレリーズ機構178による変速用クラッチ44の切断動作が開始され、回転角度Ab(>Aa)で、変速用クラッチ44が完全に切断状態となり、そして、回転角度Ac(>Ab)で、今度は、実線Lbに示すように、変速作動手段52とシフトドラム駆動手段56によってシフトドラム54が作動を開始し、さらなるシフトスピンドル58の回転量に応じて変速比が可変となる。その後、さらに変速用アクチュエータ168がシフトスピンドル58を回転すると、上述したようにシフトスピンドル58が初期位置に戻り、変速用クラッチ44が接続状態となる。従って、上述の角度範囲Daは、変速用クラッチ44が完全に切断状態となる回転角度Abからシフトドラム54が作動を開始する回転角度Acまでの範囲である。
【0072】
シフトスピンドル58の回転角度が上述の角度範囲Daになった段階で、ステップS4に進み、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の回転を一旦停止する。具体的には、変速用アクチュエータ168に駆動停止信号Seを出力する。変速用アクチュエータ168は、駆動停止信号Seの入力に基づいてシフトスピンドル58の回転駆動を停止する。但し、シフトスピンドル58を解放状態にはしない。
【0073】
ステップS5において、始動発電機制御装置238は、ECUからのエンジン始動信号Saの入力に基づいて、始動発電機66の逆回転駆動を行う。これにより、クランク軸50の逆回転が開始される。これにより、ピストン70がシリンダ60に沿って移動する。
【0074】
ステップS6において、ピストン70が圧縮上死点後の所定位置、すなわち、停止位置を検出したか否かが判定される。この停止位置は、例えば、圧縮上死点後30度の位置に設定することができる。
【0075】
ピストン70が停止位置に到達した段階で、ステップS7に進み、始動発電機制御装置238は、始動発電機66の逆回転駆動を停止する。
【0076】
その後、ステップS8において、始動発電機制御装置238は、始動発電機66の正回転駆動を開始する。
【0077】
ステップS9において、クラッチ制御装置240は、駆動停止信号Seの出力を停止して、変速用アクチュエータ168によるシフトスピンドル58の停止状態を解除する。
【0078】
ステップS10において、変速制御装置236は、変速段を1速に確立させる。すなわち、変速制御装置236による変速用アクチュエータ168の回転駆動が再開され、シフトスピンドル58は、1速に対応した角度だけ回転する。シフトスピンドル58の回動によって戻りスプリング202を介してチェンジアーム機構172のチェンジアーム198が揺動され、シフトドラム54が第1速の角度位置に回動される。この回動に伴って第1速ギヤ列が確立する。
【0079】
その後、ステップS11において、変速制御装置236は、スピンドル角度検出器234からの検出信号Sdに基づいて、シフトスピンドル58が1速に対応した角度だけ回動したのを検出した段階で、変速用アクチュエータ168に出力していた駆動信号Scをオフにする。これにより、シフトスピンドル58が駆動方向と反対方向に回動され、シフトスピンドル58、可動カム板204等がそれぞれ初期位置に復帰し、変速用クラッチ44が接続状態となる。
【0080】
この第1制御においては、先ず、スイングバック制御により、エンジンの始動性を良好にすることができる。しかも、スイングバック制御の際に、変速用クラッチ44が切断されているため、後輪に動力(逆回転)が伝達されず、自動二輪車の後進を防止することができる。
【0081】
次に、第2制御は、エンジンが停止中であって、且つ、アイドルストップ中に、クラッチ作動手段174を駆動して変速用クラッチ44を切断状態にする。変速作動手段52及びシフトドラム駆動手段56によるシフトドラム54の駆動が始まる前に、シフトスピンドル58を停止して、変速用クラッチ44の切断を行い、変速作動手段52及びシフトドラム駆動手段56によるシフトドラム54の駆動が終わった後に、シフトスピンドル58を初期位置に復帰させて変速用クラッチ44の接続を行う。
【0082】
先ず、図11のステップS101において、クラッチ制御装置240は、車速が0であるか否かを判別する。車速が0であれば、次のステップS102に進み、ECUで計時している停止時間Taを読み出す。
【0083】
ステップS103において、クラッチ制御装置240は、停止時間Taが所定時間Tsを超えているか否かを判別する。所定時間Tsとしては、停止開始からアイドルストップするまでの時間の間で、任意に設定できる時間とする。
【0084】
停止時間Taが所定時間Ts以下であれば、ステップS101に戻り、ステップS101以降の処理を繰り返す。
【0085】
停止時間Taが所定時間Tsを超えていれば、ステップS104に進み、クラッチ制御装置240は、現在の変速段が1速以外であるか否かを判別する。この判別は、シフトポジション検出器232からの検出信号Sbに基づいて行われる。
【0086】
現在の変速段が1速以外であれば、次のステップS105において、変速制御装置236は、変速用アクチュエータ168に変速段を1速にするための駆動信号Scを出力する。
【0087】
ステップS106において、変速用アクチュエータ168は、変速制御装置236からの駆動信号Scの入力に基づいてシフトスピンドル58の回転駆動を開始する。
【0088】
ステップS107において、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の回転角度が変速用クラッチ44の切断位置に対応した角度であるか否かを判別する。すなわち、変速用クラッチ44が切断状態であるか否かを判別する。この処理は、上述した第1制御におけるステップS3の処理と同様であるため、重複説明を省略する。
【0089】
シフトスピンドル58の回転角度が上述した角度範囲Daになった段階で、ステップS108に進み、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の回転を一旦停止する。
【0090】
ステップS109において、クラッチ制御装置240は、現在、アイドルストップ中であるか否かを判別する。この判別は、例えばECUに対する状態フラグFaの送信要求に基づいてECUから送られてきた状態フラグFaに基づいて行う。もちろん、クラッチ制御装置240において、車速が0で、且つ、スロットル弁が開となっていないことを示す情報を受けて、アイドルストップ中であると判別するようにしてもよい。
【0091】
アイドルストップ中であれば、変速用クラッチ44の切断状態を維持し、アイドルストップでないと判別された段階で、ステップS110に進み、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の停止状態を解除する。
【0092】
ステップS111において、変速段を1速に確立させる。すなわち、変速制御装置236による変速用アクチュエータ168の回転駆動が再開され、シフトスピンドル58は、1速に対応した角度だけ回転する。シフトスピンドル58の回動によって戻りスプリング202を介してチェンジアーム機構172のチェンジアーム198が揺動され、シフトドラム54が第1速の角度位置に回動される。この回動に伴って第1速ギヤ列が確立する。
【0093】
その後、ステップS112において、変速制御装置236は、スピンドル角度検出器234からの検出信号に基づいて、シフトスピンドル58が1速に対応した角度だけ回動したのを検出した段階で、変速用アクチュエータ168に出力していた駆動信号をオフにする。これにより、シフトスピンドル58が駆動方向と反対方向に回動され、シフトスピンドル58、可動カム板204等がそれぞれ初期位置に復帰し、変速用クラッチ44が接続状態となる。すなわち、自動二輪車12の再発進となる。
【0094】
一方、ステップS104において、現在の変速段が1速であると判別された場合は、ステップS113に進み、変速制御装置236は、変速用アクチュエータ168にシフトスピンドル58を回転駆動するための駆動信号Scを出力する。変速用アクチュエータ168は、変速制御装置236からの駆動信号Scの入力に基づいてシフトスピンドル58の回転駆動を開始する。
【0095】
ステップS114において、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の回転角度が変速用クラッチ44の切断位置に対応した角度であるか否かを判別する。すなわち、変速用クラッチ44が切断状態であるか否かを判別する。
【0096】
シフトスピンドル58の回転角度が上述した角度範囲Daになった段階で、ステップS115に進み、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の回転を停止する。
【0097】
ステップS116において、クラッチ制御装置240は、現在、アイドルストップ中であるか否かを判別する。
【0098】
アイドルストップ中であれば、変速用クラッチ44の切断状態を維持し、アイドルストップでないと判別された段階で、ステップS117に進み、クラッチ制御装置240は、シフトスピンドル58の停止状態を解除する。
【0099】
ステップS118において、クラッチ制御装置240は、変速用クラッチ44を接続させる。具体的には、例えばクラッチ制御装置240は、変速制御装置236に、シフトスピンドル58の回転駆動をオフにするための指示信号Sfを出力する。変速制御装置236は、該指示信号Sfの入力に基づいて、変速用アクチュエータ168に出力していた駆動信号Scをオフにする。これにより、シフトスピンドル58が駆動方向と反対方向に回動され、シフトスピンドル58、可動カム板等がそれぞれ初期位置に復帰し、変速用クラッチ44が接続状態となる。すなわち、自動二輪車の再発進となる。
【0100】
この第2制御においては、エンジンが停止中であって、且つ、アイドルストップ中に、変速用クラッチ44を切断状態としているため、ギヤが入った状態でエンジンが停止した場合でも、一方向クラッチ154を介してクランク軸50が回転するということがなく、自動二輪車12を押し歩きすることができる。
【0101】
同一のシフトスピンドル58により、クラッチ作動手段174と変速作動手段52とを駆動させる場合において、変速作動手段52によるシフトドラム54の駆動が始まる前に、変速用クラッチ44の切断を行うことができ、また、変速作動手段52によるシフトドラム54の駆動が終わった後に、変速用クラッチ44の接続を行うことができる。しかも、アイドルストップ時に、クラッチ作動手段174のみが作動するスピンドル位置に、シフトスピンドル58を停止させるようにしているため、アイドルストップ中であって、シフトドラム54が駆動される前に変速用クラッチ44を切断状態とすることができる。
【0102】
特に、車速が0である時間が所定時間を超えていると判別した段階で、現在の変速段を確認し、変速段が1速以外であれば、変速用アクチュエータ168に変速段を1速にするための駆動信号Scを出力するようにし、変速段が1速であれば、1速の状態を維持するようにしたので、アイドルストップが解除されて変速用クラッチ44が接続された段階において、変速段が自動的に1速になる。通常、自動でニュートラルにすることが考えられるが、再発進の際に、エンジンを始動する操作、変速段を1速にする操作が必要になり、挙動数が多くなる。これに対して、上述の第2制御では、変速用クラッチ44が接続された段階において、変速段が自動的に1速になるため、挙動数を減らすことができ、操作性を向上させることができる。
【0103】
上述した例では、クラッチレリーズ機構178の可動カム板204において、変速用クラッチ44の結合状態(図7A参照)からその結合状態を解除する場合、図7Bに示すように、可動カム板204側のカム状凹部204aを受け板214側のカム状凹部214aに対して相対移動させて、レリーズボール216を対向する傾斜面に移動させるようにしたが、さらに、図12A及び図12Bに示すように、可動カム板204の平坦面204bに位置させるようにしてもよい。この場合、変速用クラッチ44を解放状態にしている期間のモータ消費電力を低減させることができる。
【0104】
なお、本発明に係る変速クラッチ制御装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0105】
10…変速クラッチ制御装置 12…自動二輪車
16…前輪 18…後輪
20…内燃機関 22…動力伝達装置
40…発進クラッチ 42…変速機
44…変速用クラッチ 46…伝動機構
48…一次減速機構 50…クランク軸
52…変速作動手段 54…シフトドラム
56…シフトドラム駆動手段 58…シフトスピンドル
66…始動電動機 68…キック式始動機構
68c…キック軸 118…一次駆動ギヤ
126…一次被動ギヤ 128…メイン軸
140…レリーズフランジ 142…クラッチバネ
148…カウンタ軸 154…一方向クラッチ
166…クラッチ素子 168…変速用アクチュエータ
170…伝達機構 172…チェンジアーム機構
174…クラッチ作動手段 176…クラッチアーム
178…クラッチレリーズ機構 188…揺動アーム
198…チェンジアーム 204…可動カム板
214…受け板 230…変速スイッチ
232…シフトポジション検出器 234…スピンドル角度検出器
236…変速制御装置 238…始動発電機制御装置
240…クラッチ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸(50)の回転を遠心式の発進クラッチ(40)を介して前記クランク軸(50)に対して相対回転可能に支持される一次駆動ギヤ(118)に伝達すると共に、
前記一次駆動ギヤ(118)の回転が前記クランク軸(50)の回転よりも速いとき、前記一次駆動ギヤ(118)と前記クランク軸(50)とを連結する一方向クラッチ(154)が設けられ、
入力軸(128)に変速用クラッチ(44)を備え、該変速用クラッチ(44)の出力側の回転を、選択されたギア列を介して駆動輪(18)に伝達する変速機(42)を有し、
前記発進クラッチ(40)又は前記一方向クラッチ(154)の出力を、前記一次駆動ギヤ(118)を介して前記入力軸(128)に伝達する内燃機関(20)に使用される変速クラッチ制御装置において、
前記クランク軸(50)に設けられ、前記クランク軸(50)を回転することで前記内燃機関を始動させる始動発電機(66)と、
エンジン始動信号(Sa)に基づき、前記始動発電機(66)による前記クランク軸(50)を逆転してから正転させるスイングバック制御を行う始動発電機制御装置(238)と、
アクチュエータ(168)により駆動され、前記変速用クラッチ(44)を接続/切断状態に切り換えるクラッチ作動手段(174)と、
前記内燃機関(20)の始動時に、前記クラッチ作動手段(174)を駆動して前記変速用クラッチ(44)を切断状態にするクラッチ制御装置(240)とを有することを特徴とする変速クラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の変速クラッチ制御装置において、
前記クラッチ制御装置(240)は、
前記内燃機関(20)が停止中であって、且つ、少なくとも前記クランク軸(50)が逆転している間に、前記クラッチ作動手段(174)を駆動して前記変速用クラッチ(44)を切断状態にすることを特徴とする変速クラッチ制御装置。
【請求項3】
クランク軸(50)の回転を遠心式の発進クラッチ(40)を介して前記クランク軸(50)に対して相対回転可能に支持される一次駆動ギヤ(118)に伝達すると共に、
前記一次駆動ギヤ(118)の回転が前記クランク軸(50)の回転よりも速いとき、前記一次駆動ギヤ(118)と前記クランク軸(50)とを連結する一方向クラッチ(154)が設けられ、
入力軸(128)に変速用クラッチ(44)を備え、該変速用クラッチ(44)の出力側の回転を、選択されたギア列を介して駆動輪(18)に伝達する変速機(42)を有し、
前記発進クラッチ(40)又は前記一方向クラッチ(154)の出力を、前記一次駆動ギヤ(118)を介して前記入力軸(128)に伝達する内燃機関(20)に使用される変速クラッチ制御装置において、
アクチュエータ(168)により駆動され、前記変速用クラッチ(44)を接続/切断状態に切り換えるクラッチ作動手段(174)と、
前記内燃機関(20)が停止中であって、且つ、アイドルストップ中に、前記クラッチ作動手段(174)を駆動して前記変速用クラッチ(44)を切断状態にするクラッチ制御装置(240)とを有することを特徴とする変速クラッチ制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の変速クラッチ制御装置において、
前記クラッチ作動手段(174)とシフトドラム(54)を駆動する変速作動手段(52)とが同一のシフトスピンドル(58)により駆動され、
前記クラッチ制御装置(240)は、前記クラッチ作動手段(174)のみが作動するスピンドル位置に、前記シフトスピンドル(58)を停止させることを特徴とする変速クラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−215250(P2012−215250A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81243(P2011−81243)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】