説明

変速機

【課題】低コスト化・軽量化・コンパクト化を達成しながら、増速比を含む高い変速比の設定自由度を持つ変速機能と、トルク伝達/遮断を切り替えるクラッチ機能を併せて発揮することができると共に、変速比に応じた最適な挟持押圧力の付与により耐久性の向上を図ることができる変速機を提供すること。
【解決手段】入力軸3に設けられた円板状の入力ディスク15と、出力軸4に設けられた円板状の出力ディスク16と、入出力ディスク15,16の重合領域のうち、入力軸3の軸心O3と出力軸4の軸心O4を結ぶ軸心連結線CL上に沿って移動可能に設けられ、要求変速比に応じた位置にて両ディスク15,16を挟持押圧する一対の押圧ローラー17,17と、を備え、一対の押圧ローラー17,17は、両ディスク15,16の挟持押圧力として付与する皿バネ22による付勢力を、変速条件に応じた最適な挟持押圧力を得るように調整するテンプレート28,28とカムフォロワ29,29と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機等に適用され、薄い円板状ディスクの弾性変形を利用して駆動伝達部分を接触させる方式の摩擦伝導機構を備えた変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスクを用いた変速機としては、複数のコーンディスクと複数のフランジディスクによる摩擦伝導機構を備えたバイエル変速機と呼ばれるものが知られている(例えば、特許文献1の第3図及び第4図参照)。
【0003】
このバイエル変速機は、入力軸に入力された動力を、歯車を介して多数のスプライン軸に伝達し、さらに複数のコーンディスク群に均等に配分する。コーンディスク群は、中央に配置された複数のフランジディスク群の間に交互に挟まれた配置とされ、バネとフェーカムによる圧接力で押し付けられる。また、コーンディスク群は、フランジディスク群の外周上の3箇所に配置され、変速操作リンク機構が設けられ、コーンディスク群をフランジディスク群に出入りさせることにより変速操作を行う。
【0004】
入力軸からの動力は、コーンディスク群から油膜を介してフランジディスク群に伝達され、フェースカムを経て出力軸に伝達される。このとき、フランジディスク群の接触点がコーンディスク群の中心に近いほど出力軸が低速となり、フランジディスク群の接触点がコーンディスク群の外周に近いほど出力軸が高速となる。
【特許文献1】実開平3−2954号公報の第3図及び第4図
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のバイエル変速機にあっては、中央に配置されたフランジディスク群の外周部に形成されたフランジ部分にてコーンディスク群を挟み込む構造であり、出力側のフランジ駆動半径が固定径として決められている。このため、入力側のコーンディスク群の可変駆動半径に比べ出力側のフランジディスク群のフランジ駆動半径が大きくなり、変速比として、1以下の減速側変速比が得られるのみとなる。つまり、設定可能な変速比の範囲が狭くなり、例えば、増速側変速比の要求がある場合、この要求に応えることができない、という問題があった。
【0006】
また、スティックさせずに安定動作させるため、中央に配置されたフランジディスク群の外周上の3箇所にコーンディスク群を配置し、かつ、3箇所のコーンディスク群を可動軸で保持し、隣接するコーンディスク群の空間位置に変速操作リンク機構を配置する構成が採用されている。このため、軸側ほど厚くなるテーパー形状のコーンディスク群が重量増になると共に、構造が複雑で、部品点数も多く、可動スペースが必要であるため、高コストになると共に、軽量化やコンパクト化を達成できない、という問題があった。
【0007】
さらに、フランジディスク群とコーンディスク群の押付力を、出力側に設けられたフェースカム(ローディングカム)とバネにより得るものである。このため、バイエル変速機のように、出力側の駆動半径が固定で、入力側の駆動半径のみ変動する場合は、「必要な押付力≒出力トルク」となり適用可能である。しかし、入出力の駆動半径が変速比により各々変化する場合は、「必要な押付力≠出力トルク(変速比で異なる)」となり、出力側に設けられたフェースカムでは対応できない。つまり、入出力の駆動半径が変速比により各々変化する変速機にフェースカムを適用すると、増速比側では押付力が不足し、減速比側では押付力が過剰気味になり、耐久性の劣化が促される、という問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、低コスト化・軽量化・コンパクト化を達成しながら、増速比を含む高い変速比の設定自由度を持つ変速機能と、トルク伝達/遮断を切り替えるクラッチ機能を併せて発揮することができると共に、変速比に応じた最適な挟持押圧力の付与により耐久性の向上を図ることができる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の変速機では、
原動機に接続され、変速機ケース部材に支持される入力軸と、
前記入力軸に平行配置され、変速機ケース部材に支持される出力軸と、
前記入力軸に設けられ、外周端を前記出力軸に近接配置した円板状の入力ディスクと、
前記出力軸に設けられ、外周端を前記入力軸に近接配置した円板状の出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクが互いに重なり合うディスク重合領域のうち、前記入力軸の軸心と前記出力軸の軸心を結ぶ軸心連結線上に沿って移動可能に設けられ、要求変速比に応じた位置にて両ディスクを挟持押圧し、両ディスクの弾性変形によりトルク伝達接触部を形成する一対の押圧手段と、を備え、
前記一対の押圧手段は、両ディスクの挟持押圧力として付勢力を付与する付勢手段と、変速条件に応じた最適な挟持押圧力を得るように、前記付勢手段による付勢力を調整する付勢力調整手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明の変速機にあっては、一対の押圧手段により両ディスクを挟持押圧すると、弾性変形によりトルク伝達接触部が形成される。このトルク伝達接触部を、軸心連結線上の中間位置に形成すると、入力側接触円の軸心からの入力側駆動半径と、出力側接触円の軸心からの出力側駆動半径が同じとなり、入力軸と出力軸の間で等速比が得られる。この等速比の位置から入力軸側に移動させた位置にトルク伝達接触部を形成すると、入力側駆動半径が短くなり、出力側駆動半径が長くなり、入力軸と出力軸との間で減速比(ロー側変速比)が得られる。一方、等速比の位置から出力軸側に移動させた位置にトルク伝達接触部を形成すると、入力側駆動半径が長くなり、出力側駆動半径が短くなり、入力軸と出力軸との間で増速比(ハイ側変速比)が得られる。
そして、押圧手段により両ディスクを挟持押圧する押圧力を解除すると、入力軸から出力軸へのトルク伝達が遮断される。
さらに、一対の押圧手段には、両ディスクの挟持押圧力として付勢力を付与する付勢手段が設けられ、付勢力調整手段において、変速条件に応じた最適な挟持押圧力を得るように付勢手段による付勢力が調整される。このため、増速比側で押圧力が不足したり、減速比側で押圧力が過剰気味になったりすることが防止される。
この結果、従来のバイエル変速機に比べて構造が簡単で部品点数も少なく、低コスト化・軽量化・コンパクト化を達成しながら、増速比を含む高い変速比の設定自由度を持つ変速機能と、トルク伝達/遮断を切り替えるクラッチ機能を併せて発揮することができると共に、変速比に応じた最適な挟持押圧力の付与により耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の変速機を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/U(変速機の一例)が適用された車両用自動変速システムを示す全体概略図である。
【0013】
実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムは、図1に示すように、エンジン1(原動機)と、変速機ケース2と、入力軸3と、マルチディスク多段変速ユニットT/Uと、出力軸4と、リバースギア5と、リバースアイドラーギア6と、出力ギア7と、シンクロ機構8と、ファイナルギア9と、デファレンシャルギアユニット10と、左右の駆動軸11,12と、左右の駆動輪13,14と、を備えている。
【0014】
前記マルチディスク多段変速ユニットT/Uは、複数枚の入力ディスク15により構成されたプライマリディスク群150と、複数枚の出力ディスク16により構成されたセカンダリディスク群160と、押圧手段としての一対の押圧ローラー17,17と、入力軸3を支持する入力軸支持枠18,18と、出力軸4を支持する出力軸支持枠19,19と、を備えている。
【0015】
すなわち、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムは、入力軸3と出力軸4と左右の駆動軸11,12による三軸構成とされる。また、Dレンジ(ドライブレンジ)の選択時、前記マルチディスク多段変速ユニットT/Uにより7速自動変速での前進走行を達成し、Rレンジ(リバースレンジ)の選択時、前記シンクロ機構8の同期噛み合いにより1速の後退走行を達成する。
【0016】
図2は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uを示す全体斜視図である。図3は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uを示す図2のA−A線断面図である。以下、マルチディスク多段変速ユニットT/Uの全体構成について説明する。
【0017】
実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uは、図2に示すように、入力軸3と、出力軸4と、複数枚の入力ディスク15により構成されたプライマリディスク群150と、複数枚の出力ディスク16により構成されたセカンダリディスク群160と、一対の押圧ローラー17,17(押圧手段)と、入力軸支持枠18,18(変速機ケース部材)と、出力軸支持枠19,19(変速機ケース部材)と、ローラー回転軸20と、を備えている。
【0018】
前記入力軸3は、エンジン1に接続され、入力軸支持枠18,18に回転可能に両端支持される。この入力軸3には、図2及び図3に示すように、外周端を出力軸4に近接配置した円板状の入力ディスク15を軸方向に等間隔にて複数枚配列することにより構成されたプライマリディスク群150を有する。
【0019】
前記出力軸4は、入力軸3に平行配置され、出力軸支持枠19,19に回転可能に両端支持される。この出力軸4には、図2及び図3に示すように、外周端を入力軸3に近接配置した円板状の出力ディスク16を軸方向に等間隔にて複数枚配列することにより構成されたセカンダリディスク群160を有する。
【0020】
前記一対の押圧ローラー17,17は、複数枚の入力ディスク15の隣接する軸方向隙間のそれぞれに出力ディスク16を挿入配置することで、プライマリディスク群150とセカンダリディスク群160が互いに重なり合うディスク重合領域を形成する。そして、このディスク重合領域のうち、入力軸3の軸心O3と出力軸4の軸心O4を結ぶ軸心連結線CL上に沿って移動可能に設けられ、要求変速比に応じた位置にて両ディスク群150,160を両側位置から挟持押圧し、両ディスク群150,160の弾性変形によりトルク伝達接触部を形成する。
【0021】
前記一対の押圧ローラー17,17は、プライマリディスク群150とセカンダリディスク群160を挟持押圧しながら、両ディスク群150,160の回転にしたがって転動する。そして、一対の押圧ローラー17,17は、要求変速比(変速段)の変化がなく位置固定であるとき、軸心連結線CLと平行なローラー回転軸線を保ち、要求変速比(変速段)の変化により位置移動するとき、軸心連結線CL上に沿った移動方向に応じてローラー回転軸線の微小傾動を許容する取り付けとしている。つまり、押圧ローラー17は、図3に示すように、一対の押圧ローラー17,17を回転可能に支持するローラー回転軸20を、意図的に微小隙間(ガタ)を残したままの支持としている。
【0022】
前記入力ディスク15は、図3に示すように、そのディスク面に入力軸3の軸心O3から同心状に形成された異なる半径による複数の入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gを有している。前記出力ディスク16は、図3に示すように、そのディスク面には出力軸4の軸心O4から同心状に形成された異なる半径による複数の出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gを有している。前記入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gの各半径と、前記出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gの各半径は、複数の要求変速比に応じて、軸心連結線CLの長さを入力側半径と出力側半径に振り分けた設定としている。
【0023】
前記一対の押圧ローラー17,17は、図3に示すように、挟持押圧力の解除時に微小隙間が保たれた前記入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gと前記出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gの頂部同士を、要求される1速段(低速段)から7速段(高速段)までの有段階の変速比に応じて挟持押圧する。なお、入出力側突条15a,16gの組み合わせで1速段を達成する。入出力側突条15b,16fの組み合わせで2速段を達成する。入出力側突条15c,16eの組み合わせで3速段を達成する。入出力側突条15d,16dの組み合わせで4速段を達成する。入出力側突条15e,16cの組み合わせで5速段を達成する。入出力側突条15f,16bの組み合わせで6速段(OD段)を達成する。入出力側突条15g,16aの組み合わせで7速段(スーパーOD段)を達成する。
【0024】
前記一対の押圧ローラー17,17は、前記軸心連結線CLと一致する方向に移動可能な移動枠21に回転可能に支持され、移動枠21に設定された皿バネ22(付勢手段)による付勢力をトルク伝達接触部への挟持押圧力とする。
すなわち、移動枠21は、図2に示すように、プライマリディスク群150とセカンダリディスク群160が互いに重なり合うディスク群重合領域の外周部を囲み、軸心連結線CLと一致する方向に移動可能に配置している。そして、移動枠21のうち、ディスク面に対向する一対のローラー保持枠部21a,21aに、軸心連結線CLと平行な一対のローラー回転軸20,20を支持している。また、移動枠20のうち、一対のローラー保持枠部21a,21aを両端部位置にて連結する一対の連結枠部21b,21bに、一対のローラー保持枠部21a,21aの間隔を狭める方向に付勢力を付与する皿バネ22を設けている。
【0025】
前記移動枠21は、ステッピングモータ23(モータアクチュエータ)により回転するスクリューネジ24を使って、軸心連結線CLの方向に移動可能に設けている。
すなわち、入力軸3を支持する入力軸支持枠18に第1スクリューネジ支持構造25を設け、出力軸4を支持する出力軸支持枠19に第2スクリューネジ支持構造26を設け、ローラー保持枠部21aにボールスクリュー構造27を設けている。そして、第1スクリューネジ支持構造25と第2スクリューネジ支持構造26とボールスクリュー構造27に跨ってスクリューネジ24を支持すると共に、スクリューネジ24の端部にステッピングモータ23を設けている。
【0026】
前記一対の押圧ローラー17,17による付勢力調整手段は、皿バネ22による付勢力Fsを調整するカム面28a,28aを形成したテンプレート28,28と、カム面28a,28aの面形状に沿って移動するカムフォロア29,29と、を有して構成している。
すなわち、前記テンプレート28,28は、コイルスプリング30,30による付勢力Fsが、互いに引き離す方向に作用する設定により、移動枠21の両端位置にそれぞれ一対配置される。前記カムフォロア29,29は、一対のローラー保持枠部21a,21aの端部位置に設けられ、皿バネ22による付勢力Fdが、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aとの接触面に作用する設定としている。そして、一対の押圧ローラー17,17に加わる付勢力F(皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30による付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs))を、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状の設定により調整している。
【0027】
図4は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットの入出力ディスクの端部間隔保持構造を示す図3のB部拡大断面図である。図5は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットの入出力ディスクの詳細構造を示す図3のC部拡大断面図である。以下、マルチディスク多段変速ユニットT/Uの入出力ディスク15,16の構成について説明する。
【0028】
前記プライマリディスク群150と前記セカンダリディスク群160は、入力軸3の外周部位置と出力軸4の外周部位置に、軸方向に隣接する入力ディスク15と出力ディスク16の端部隙間を一定間隔に保つ端部間隔保持構造を有する。
すなわち、入力軸3の外周部位置に有する端部間隔保持構造は、図4に示すように、入力軸3と隣接する入力ディスク15,15とで形成されるディスク基部空間に、それぞれカラー31を配置することで、複数枚の入力ディスク15,15を等間隔に配列している。そして、入力軸3に螺合する締め付けナット32と、入力軸3に形成されたストッパ突起3aを用い、締め付けナット32を一端側から締め付けることで、複数枚の入力ディスク15,15を、等間隔に保ちながら入力軸3に挟持固定している。
また、前記カラー31の外周位置には、保持器により保持された一対のボール33,33が配置され、この一対のボール33,33により、複数枚の出力ディスク16,16の外周端部を等間隔に保つようにしている。なお、出力軸4の外周部位置に有する端部間隔保持構造についても同様である(図3を参照)。
【0029】
前記複数の入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gと前記出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gは、入力軸3側の入力側突条15aと、出力軸4側の出力側突条16aの高さを最も高くし、外周側へ向けて突条の高さが徐々に低くなるように設定している(図3を参照)。
すなわち、上記端部間隔保持構造と相俟って、前記一対の押圧ローラー17,17によるディスクへの挟持押圧力を解除したとき、対向する入出力側突条15a,16g、入出力側突条15b,16f、入出力側突条15c,16e、入出力側突条15d,16d、入出力側突条15e,16c、入出力側突条15f,16b、入出力側突条15g,16aの隙間を確保している。
【0030】
前記複数の入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gと前記出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gは、図5に示すように、三角断面形状の頂部15’,16’を軸方向に下り傾斜角を有する傾斜頂部形状とし、対向する傾斜頂部形状同士を、接触角θを有して押圧するようにしている。
【0031】
前記入力ディスク15は、図5に示すように、断面三角形状の入力側突条15eを形成した2枚のプレートを用意し、前記2枚のプレートの裏面同士を、入力側突条15eの位置を一致させて貼り合わせることにより構成している。前記出力ディスク16は、図5に示すように、断面三角形状の出力側突条16cを形成した2枚のプレートを用意し、前記2枚のプレートの裏面同士を、出力側突条16cの位置を一致させて貼り合わせることにより構成している。そして、前記入力ディスク15と前記出力ディスク16は、板材からのプレス加工により、断面三角形状の突条を形成したプレートを製造するようにしている。なお、入出力ディスク15,16の素材としては、例えば、耐摩耗性に富む疲労強度の高い特殊合金鋼等が使用される。また、接触面間に油膜を常に保持するため、遠心潤滑や掻き上げ潤滑等を用いて接触部に潤滑油が供給される。
【0032】
図6は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットの付勢力調整用のテンプレートとカムフォロアを示す平面図である。図7は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットのテンプレートとカムフォロアによる付勢力調整状態を示す図で、(a)は付勢力解除状態をあらわし、(b)は最大付勢力付与状態をあらわす。以下、マルチディスク多段変速ユニットT/Uでの押圧ローラー17,17への付勢力調整手段の構成について説明する。
【0033】
前記一対のテンプレート28,28は、図6に示すように、入力軸支持枠18,18と出力軸支持枠19,19に端部が固定された支持ピン34,34に対しピン軸方向に摺動可能に設けられている。そして、一対のテンプレート28,28の両端部にコイルスプリング30,30を介装し、コイルスプリング30,30による付勢力Fsが、一対のテンプレート28,28を互いに引き離す方向に作用する設定とされている。
【0034】
前記一対のカムフォロア29,29は、図6及び図7に示すように、皿バネ22による付勢力Fdが、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aとの接触面に作用する設定とされる。すなわち、一対の押圧ローラー17,17に加わる付勢力Fを、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30による付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)により得る構成とし、この付勢力Fを、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状の設定により、変速条件に応じた最適な挟持押圧力を得るように調整している。
【0035】
前記一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状は、下記のように設定される。
【0036】
まず、一対のカムフォロア29,29が、図6に示すリバースレンジ位置(REV)とニュートラルレンジ位置(N)にあるときは、図7(a)に示すように、コイルスプリング30の縮み量を最大とすることで、コイルスプリング30による付勢力Fsが最大になるように設定する。
【0037】
一方、一対のカムフォロア29,29が、図6に示すパーキングレンジ位置(P)にあるときは、図7(b)に示すように、コイルスプリング30の伸び量を最大とすることで、コイルスプリング30による付勢力Fsが最小になるように設定する。
【0038】
さらに、一対のカムフォロア29,29が、図6に示すドライブレンジ位置(D)にあるときは、コイルスプリング30を1速段から7速段に向かうにしたがって段階的に縮めることで、コイルスプリング30による付勢力Fsが、1速段から7速段に向かうにしたがって大きくなるように設定する。
【0039】
加えて、一対のカムフォロア29,29が、図6に示すドライブレンジ位置(D)にあるときは、隣接する変速段へ移行する変速中(アップシフト中やダウンシフト中)、コイルスプリング30を一時的に縮めることで、変速中のコイルスプリング30による付勢力Fsが、変速前後の変速段でのコイルスプリング30の付勢力Fsよりも大きくなるように設定する。
【0040】
次に、作用を説明する。
実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uにおける作用を、「ディスクの弾性変形を利用した変速原理」、「弾性変形ディスクにより駆動力を伝達する変速機の有利性」、「Rレンジ選択時のクラッチ作用」、「Pレンジ選択時のパーキング作用」、「N→D切り替え時の発進作用」、「Dレンジ選択時の自動変速作用」、「変速レスポンスの向上作用」に分けて説明する。
【0041】
[ディスクの弾性変形を利用した変速原理]
図8は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uにおけるディスクの弾性変形を利用した変速原理を示す原理説明平面図である。図9は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uにおけるディスクの弾性変形を利用した変速原理を示す原理説明正面図である。
【0042】
変速原理を説明する変速機として、図8及び図9に示すように、入力軸に設けられ、外周端を出力軸に近接配置した円板状の入力ディスクと、出力軸に設けられ、外周端を入力軸に近接配置した円板状の出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクが互いに重なり合うディスク重合領域のうち、入力軸の軸心と前記出力軸の軸心を結ぶ軸心連結線上に沿って移動可能に設けられ、要求変速比に応じた位置にて両ディスクを挟持押圧し、両ディスクの弾性変形によりトルク伝達接触部を形成する一対の押圧手段と、を有するものを想定する。
【0043】
この変速機にあっては、図8に示すように、一対の押圧手段により両ディスクを挟持押圧すると、入力ディスクと出力ディスクが部分的に弾性変形することにより、トルク伝達接触部が形成される。すなわち、両持ち梁(ディスク)に集中荷重を加えたとき、集中荷重を加えた部分の梁が大きく撓むという原理を使って、入出力ディスクにトルク伝達接触部を形成するようにしている。
【0044】
そして、トルク伝達接触部を、入力軸の軸心と出力軸の軸心を結ぶ線上の中間位置(図9のP1位置)に形成すると、入力側接触円の軸心からの入力側駆動半径R2と、出力側接触円の軸心からの出力側駆動半径R2が同じとなり、入力軸と出力軸の間で等速比が得られることになる。
【0045】
また、トルク伝達接触部を、等速比の位置(図9のP1位置)から入力軸側に移動させた位置(図9のP2位置)に形成すると、入力側接触円の軸心からの入力側駆動半径R1が短くなり、出力側接触円の軸心からの出力側駆動半径R3が長くなり、入力軸と出力軸との間で減速比(ロー側変速比)が得られる。
【0046】
さらに、トルク伝達接触部を、等速比の位置(図9のP1位置)から出力軸側に移動させた位置(図9のP3位置)に形成すると、入力側接触円の軸心からの入力側駆動半径R3が長くなり、出力側接触円の軸心からの出力側駆動半径R1が短くなり、入力軸と出力軸との間で増速比(ハイ側変速比)が得られる。
【0047】
[弾性変形ディスクにより駆動力を伝達する変速機の有利性]
上記のように、本発明の変速機は、弾性変形ディスクにより駆動力を伝達するトラクションドライブ方式の変速機ということができる。そして、この変速機は、広い範囲で変速比の設定自由度を持つ変速機能を発揮する、クラッチ機能を発揮する、低コスト化・軽量化・コンパクト化を狙うことができる、効率の良いトルク伝達接触部の冷却や潤滑を狙うことができる、という有利性を備えている。以下、各有利性について説明する。
【0048】
(変速機能)
本発明の変速機は、増速比を含む高い変速比の設定自由度を持つ変速機能を発揮する。
例えば、変速比の設定範囲(レシオカバー)が8〜11となり、多段変速機として用いた場合には、高速燃費向上を狙える多段化要求に応えることができるし、無段変速機として用いた場合も変速比幅の拡大を図ることができる。特に、終減速機等により等速比位置を増速比側にシフトとした場合には、減速比側の変速比設定自由度がさらに増す。また、ディスク枚数を自由に設定できることで、汎用化が狙えるし、ディスク枚数の追加で伝達トルクアップを狙うこともできる。
【0049】
(クラッチ機能)
本発明の変速機は、押圧手段により両ディスクを挟持押圧する押圧力を解除すると、入力ディスクと出力ディスクは弾性復元力により平板状のプレートディスクに戻り、部分的な弾性変形により形成されたトルク伝達接触部が無くなる。このため、入力軸から出力軸へのトルク伝達が遮断され、入力軸から出力軸へのトルク伝達と、入力軸から出力軸へのトルク遮断を切り替えるクラッチ機能を発揮する。
例えば、車両用無段変速機(ベルトCVTやトロイダルCVT等)の場合、常にトルク伝達接触部を有し、変速機能のみを持つため、ニュートラル状態を確保するべくクラッチ機構やトルクコンバータ等のクラッチ機能部品を併用する必要がある。これに対し、本発明の変速機では、クラッチ機能部品を省略することが可能である。
【0050】
(低コスト化・軽量化・コンパクト化)
本発明の変速機は、ディスクを挟持押圧する押圧力がトルク伝達接触部にて互いに相殺され、入力軸と出力軸には荷重が作用しないため、高い剛性を持つ構造とする必要が無く、小さな径の入出力軸とすることができるし(変速比幅の拡大にも有効)、ディスクを薄い鋼板によりプレス成形等にて製造することができる。
入出力軸と円板状の入出力ディスクと押圧手段を構成要素とするため、従来のバイエル変速機に比べ、構造が簡単で、部品点数も少ない。
入力軸と出力軸の間の領域にて押圧手段を移動させるだけの僅かな可動スペースが必要なだけであり、従来のバイエル変速機に比べ、可動スペースが大幅に減少する。
入力ディスクと出力ディスクを互いに重合させているため、ユニット長としてディス径の1.5倍強の長さを確保すれば良く、狭いスペース内に変速機が収まる。
これらの相乗作用により、車両に既に搭載されている周知の変速機と比べた場合、コスト面と重量面と必要スペース面の全てにおいて、低コスト化・軽量化・コンパクト化を達成することができる。
【0051】
(冷却・潤滑機能)
本発明の変速機は、固定された入力軸と出力軸の2軸構造であり、かつ、トルク伝達接触部が1箇所に集中するため、その部分を狙って油を吹き付けるだけで、冷却効果の高い潤滑を行うことができるし、遠心潤滑や掻き上げ潤滑等を活用することで、オイルポンプを不要とすることも可能である。
【0052】
[Rレンジ選択時のクラッチ作用]
図10は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるRレンジ選択時のテンプレートとカムフォロワの位置関係を示す平面図である。
【0053】
車両用自動変速システムでのRレンジ選択による後退走行時には、マルチディスク多段変速ユニットT/Uの押圧ローラー17,17による挟持押圧を解除してトルク伝達を遮断し、シンクロ機構8のカップリングスリーブ8aを図1の右方向にストロークし、リバースギア5を入力軸3に固定する。
【0054】
すなわち、Rレンジ選択時には、一対のカムフォロア29,29が、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図10に示すリバースレンジ位置(REV)にある。このときは、コイルスプリング30の縮み量が最大とされ、これに伴いコイルスプリング30の付勢力Fsが最大になる。したがって、コイルスプリング30の付勢力Fsが、皿バネ22による付勢力Fdと等しい、あるいは、皿バネ22による付勢力Fdより僅かに大きくなる(図15を参照)。その結果、付勢力差(Fd−Fs)がほぼゼロになることで、一対の押圧ローラー17,17によるディスクの挟持押圧が解除され、マルチディスク多段変速ユニットT/Uによるトルク伝達が遮断される、つまり、クラッチ解除機能が発揮されることになる。
【0055】
したがって、Rレンジ選択時には、図1に示すように、エンジン1からの駆動トルクが、入力軸3→シンクロ機構8→リバースギア5→リバースアイドラーギア6→出力ギア7→ファイナルギア9→デファレンシャルギアユニット10→左右の駆動軸11,12→左右の駆動輪13,14へと伝達され、後退1速が達成される。
【0056】
[Pレンジ選択時のパーキング作用]
図11は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるPレンジ選択時のテンプレートとカムフォロワの位置関係を示す平面図である。図12は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるPレンジ選択時にディスクに形成されるトルク伝達接触部を示す正面図である。
【0057】
車両用自動変速システムでのPレンジ選択による停車時には、入出力ディスク15,16を互いに強く締結することで、入出力ディスク15,16が、一体的に固定連結することによりロック状態とされ、出力軸4を固定するパーキング機能が発揮される。
【0058】
すなわち、Pレンジ選択時には、一対のカムフォロア29,29が、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図11に示すパーキングレンジ位置(P)にある。このときは、コイルスプリング30の伸び量が最大とされ、これに伴ってコイルスプリング30の付勢力Fsが最小になる。したがって、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30の付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)が最大になることで(図15を参照)、一対の押圧ローラー17,17により入出力ディスク15,16を強く挟持押圧する。
【0059】
この結果、図12に示すように、一対の押圧ローラー17,17の設定位置を中心としてその周囲にわたってトルク伝達接触部TCが複数形成され、入出力ディスク15,16が相対回転を許容しないロック状態とされる。
【0060】
[N→D切り替え時の発進作用]
図13は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるNレンジ選択からDレンジ選択へ切り替え時のテンプレートとカムフォロワの位置関係を示す平面図で、(a)はニュートラル選択時をあらわし、(b)はニュートラルから1速段への選択時をあらわし、(c)は1速段フル負荷選択時をあらわし、(d)は1速段軽負荷選択時をあらわし、(e)は1速段から2速段への選択時をあらわし、(f)は2速段選択時をあらわす。
【0061】
車両用自動変速システムでのNレンジ選択時には、マルチディスク多段変速ユニットT/Uの押圧ローラー17,17による挟持押圧を解除してトルク伝達を遮断し、シンクロ機構8のカップリングスリーブ8aを図1の左方向にストロークした位置とする。
【0062】
このNレンジ選択により、一対のカムフォロア29,29が、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図13(a)に示すニュートラルレンジ位置(N)にあるときは、コイルスプリング30の縮み量を最大とすることで、コイルスプリング30の付勢力Fsが最大になる。したがって、コイルスプリング30の付勢力Fsが、皿バネ22による付勢力Fdより僅かに大きくなり(図15を参照)、その結果、付勢力差(Fd−Fs)が負の値になることで、一対の押圧ローラー17,17によるディスクの挟持押圧が解除され、マルチディスク多段変速ユニットT/Uによるトルク伝達が遮断されたニュートラル状態とされる。
【0063】
そして、Nレンジ選択からDレンジ選択に切り替えると、一対のカムフォロア29,29が、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図13(b)に示すように1速側に向かって移動するときは、移動に伴いコイルスプリング30を徐々に伸ばしてゆくことで、コイルスプリング30の付勢力Fsが徐々に小さくなる。したがって、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30の付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)が増大し、一対の押圧ローラー17,17によるディスクの挟持押圧力が高まる。
【0064】
このN→D切り替え時、アクセル開度が高開度域であることによりフル負荷であると判断されると、一対のカムフォロア29,29が、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図13(c)に示す1速フル負荷位置とされ、コイルスプリング30の伸び量を最大とすることで、コイルスプリング30の付勢力Fsが最小になる。したがって、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30の付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)が全変速段中で最も大きくなることで(図15を参照)、一対の押圧ローラー17,17により1速段の入力側突条15aと出力側突条16gが交わる位置で入出力ディスク15,16を挟持押圧し、1速段の変速比により車両をフル負荷発進させることができる。
【0065】
このN→D切り替え時、アクセル開度が低開度域であることにより軽負荷であると判断されると、一対のカムフォロア29,29が、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図13(d)に示す1速軽負荷位置とされ、コイルスプリング30の伸び量を最大域とすることで、コイルスプリング30の付勢力Fsがフル負荷時より少し大きくなる。したがって、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30の付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)が、フル負荷1速に次いで大きくなることで(図15を参照)、一対の押圧ローラー17,17により1速段の入力側突条15aと出力側突条16gが交わる位置で入出力ディスク15,16を挟持押圧し、1速段の変速比により車両を軽負荷発進させることができる。
【0066】
なお、フル負荷や軽負荷に対応する挟持押圧力の調整に関しては、この機能を、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状の設定に代え、例えば、エンジン1からの入力トルクの大きさにより作動するローディングカムを設け、カム動作量を利用して負荷に対応する挟持押圧力の調整を行うようにしても良い。
【0067】
[Dレンジ選択時の自動変速作用]
図14は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ選択時のトルク伝達接触部を示す拡大断面図である。図15は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ選択時に各変速段にてトルク伝達接触部に作用する付勢力(=挟持押圧力)の関係を示す付勢力特性図である。
【0068】
車両用自動変速システムでのDレンジ選択による前進走行時には、図1に示すように、エンジン1からの駆動トルクが、入力軸3→マルチディスク多段変速ユニットT/U→出力軸4→出力ギア7→ファイナルギア9→デファレンシャルギアユニット10→左右の駆動軸11,12→左右の駆動輪13,14へと伝達される。このとき、マルチディスク多段変速ユニットT/Uの押圧ローラー17,17による挟持押圧位置を移動することにより前進7速を達成する。
【0069】
例えば、Dレンジでの走行時、1速から2速へのアップシフト指令が出力されると、一対のカムフォロア29,29が、図13(c)または図13(d)の1速位置から図13(e)に示すように2速側に向かって移動するときは、移動に伴いコイルスプリング30を徐々に縮めてゆくことで、コイルスプリング30の付勢力Fsが徐々に大きくなる。したがって、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30の付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)が減少し、一対の押圧ローラー17,17によるディスクの挟持押圧力が低下する。
【0070】
そして、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状のうち、図13(f)に示す2速位置まで移動すると、コイルスプリング30が伸びることで、コイルスプリング30の付勢力Fsが、図13(e)の変速中より小さくなる。したがって、皿バネ22による付勢力Fdとコイルスプリング30の付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)は、1速から2速への変速中に一時的に小さく抑えられ、2速になる直前位置から再び大きくなるという変化を経過し、一対の押圧ローラー17,17により2速段の入力側突条15bと出力側突条16fが交わる位置で入出力ディスク15,16を挟持押圧し、2速段にアップシフトさせることができる。
【0071】
この2速段での走行時には、図14に示すように、2速段にて挟持押圧力を受ける入力側突条15bと出力側突条16fは、三角断面形状の頂部15’,16’同士の接触となるため、トルク伝達接触部の接触幅W(例えば、2mm程度)が小さくなる。したがって、接触面積が広いほど大きくなるトルク伝達接触部TCでのスピン損失を小さく抑えることができる。
【0072】
さらに、入力側突条15bと出力側突条16fの三角断面形状の頂部15’,16’を軸方向に下り傾斜角を有する傾斜頂部形状としているため、対向する傾斜頂部形状同士が、僅かに接触角θ(例えば、1.7°程度)を有して押圧されることになる。したがって、滑りを抑えた傾斜面嵌合によるトルク伝達となり、高いトルク伝達効率を達成することができる。
【0073】
上記自動変速作用は、Dレンジでの走行時、2速段から3速段へのアップシフト時、3速段から4速段へのアップシフト時、5速段から6速段(OD)へのアップシフト時、6速段から7速段(スーパーOD)へのアップシフト時にも同様な作用を示す。さらに、Dレンジでの走行時における各ダウンシフト時にも同様な作用を示す。
【0074】
上記のように、一対のカムフォロア29,29が、図13に示すドライブレンジ位置(D)にあるときは、コイルスプリング30を1速段から7速段に向かうにしたがって段階的に縮めることで、コイルスプリング30の付勢力Fsが1速段から7速段に向かうにしたがって大きくなるように、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状が設定されている。この設定により、一対の押圧ローラー17,17による挟持押圧力となる付勢力差(Fd−Fs)は、図15に示すように、1速段フル負荷の選択時に最も大きく、2速段から7速段に向かうにしたがって段階的に小さくなる。
したがって、1速段での伝達トルクが最も大きく、7速段での伝達トルクが最も小さくなるのに対応し、1速段から7速段までの各変速段にて、滑ることなく適正な接触面積を得る挟持押圧力を付与することができる。
【0075】
加えて、一対のカムフォロア29,29が、図13に示すドライブレンジ位置(D)にあるときは、隣接する変速段へ移行するアップシフトやダウンシフトの変速中、コイルスプリング30を一時的に縮めることで、変速中のコイルスプリング30の付勢力Fsが、変速前後の変速段でのコイルスプリング30の付勢力Fsよりも大きくなるように、一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状が設定されている。この設定により、一対の押圧ローラー17,17による挟持押圧力となる変速中の付勢力差(Fd−Fs)が、変速前後の変速段での付勢力差(Fd−Fs)より小さくなる。
したがって、1速段から2速段等へのアップシフト中や2速段から1速段等へのダウンシフト中、一対の押圧ローラー17,17を移動させるために必要なトルクが軽減され、変速動作のためのステッピングモータ23への負荷軽減により、小型のステッピングモータ23を用いながらも円滑な自動変速を行うことができる。
【0076】
[変速レスポンス向上作用]
図16は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ走行時のダウンシフト中に生じる微小ステア作用を示す作用説明図である。図17は、実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ走行時のアップシフト中に生じる微小ステア作用を示す作用説明図である。
【0077】
実施例1では、一対の押圧ローラー17,17は、変速段の変化がなく位置固定であるとき、軸心連結線CLと平行なローラー回転軸線を保ち、変速段の変化により位置移動するとき、軸心連結線CL上に沿った移動方向に応じてローラー回転軸線の微小傾動を許容する取り付けとしている。
【0078】
したがって、Dレンジ走行時のダウンシフト中においては、図16に示すように、一対の押圧ローラー17,17が、接触する入力ディスク15の回転により、図16の仮想線位置から実線位置まで右方向に傾動する微小ステア作用を示す。このため、押圧ローラー17,17のディスク接触点の位置に生じる力が傾き、図16の矢印に示すダウンシフト方向DSと一致する分力が軸心連結線CL上にあらわれ、この分力がダウンシフト変速速度を加速させ、変速レスポンスの向上を図ることができる。
【0079】
また、Dレンジ走行時のアップシフト中においては、図17に示すように、一対の押圧ローラー17,17が、接触する入力ディスク15の回転により、図17の仮想線位置から実線位置まで左方向に傾動する微小ステア作用を示す。このため、押圧ローラー17,17のディスク接触点の位置に生じる力が傾き、図17の矢印に示すアップシフト方向USと一致する分力が軸心連結線CL上にあらわれ、この分力がアップシフト変速速度を加速させ、変速レスポンスの向上を図ることができる。
【0080】
ちなみに、上記押圧ローラー17,17の微小ステア作用により、1速段から7速段までのフルストロークに要する時間、あるいは、7速段から1速段までのフルストロークに要する時間が、1秒未満の所要時間で完了することが確認された。
【0081】
次に、効果を説明する。
実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0082】
(1)原動機(エンジン1)に接続され、変速機ケース部材(入力軸支持枠18,18)に支持される入力軸3と、前記入力軸3に平行配置され、変速機ケース部材(出力軸支持枠19,19)に支持される出力軸4と、前記入力軸3に設けられ、外周端を前記出力軸4に近接配置した円板状の入力ディスク15と、前記出力軸4に設けられ、外周端を前記入力軸3に近接配置した円板状の出力ディスク16と、前記入力ディスク15と前記出力ディスク16が互いに重なり合うディスク重合領域のうち、前記入力軸3の軸心O3と前記出力軸4の軸心O4を結ぶ軸心連結線CL上に沿って移動可能に設けられ、要求変速比に応じた位置にて両ディスク15,16を挟持押圧し、両ディスク15,16の弾性変形によりトルク伝達接触部TCを形成する一対の押圧手段(押圧ローラー17,17)と、を備え、前記一対の押圧手段(押圧ローラー17,17)は、両ディスク15,16の挟持押圧力として付勢力を付与する付勢手段(皿バネ22)と、変速条件に応じた最適な挟持押圧力を得るように、前記付勢手段(皿バネ22)による付勢力を調整する付勢力調整手段(テンプレート28,28とカムフォロワ29,29)と、を有する。このため、低コスト化・軽量化・コンパクト化を達成しながら、増速比を含む高い変速比の設定自由度を持つ変速機能と、トルク伝達/遮断を切り替えるクラッチ機能を併せて発揮することができると共に、変速比に応じた最適な挟持押圧力の付与により耐久性の向上を図ることができる。
【0083】
(2)前記一対の押圧手段(押圧ローラー17,17)は、要求される低速段から高速段までの有段階の変速比に応じた複数の位置にて両ディスク15,16を挟持押圧する手段であり、前記付勢力調整手段(テンプレート28,28とカムフォロワ29,29)は、隣接する第1の変速段から第2の変速段への変速中の付勢力を、第1の変速段と第2の変速段の位置での付勢力よりも低減する。このため、一対の押圧手段(一対の押圧ローラー17,17)を移動させるために必要なトルクが軽減され、変速アクチュエータへの負荷軽減により、小型の変速アクチュエータを用いながらも円滑な自動変速を行うことができる。
【0084】
(3)前記付勢力調整手段(テンプレート28,28とカムフォロワ29,29)は、高速段が選択されているときの付勢力を、低速段が選択されているときの付勢力よりも低減する。このため、低速段から高速段までの全ての変速段において、各変速比に応じた最適な挟持押圧力が付与されることにより耐久性の向上を図ることができる。
【0085】
(4)前記付勢力調整手段は、付勢手段(皿バネ22)による付勢力を調整するカム面28a,28aを形成したテンプレート28,28と、前記カム面28a,28aの面形状に沿って移動するカムフォロア29,29と、を有して構成した。このため、低速段から高速段までの各変速比の挟持押圧力を最適化する際、カム面28a,28aの面形状の変更だけで容易に達成することができる。
【0086】
(5)前記テンプレート28,28は、コイルスプリング30,30による付勢力Fsが、互いに引き離す方向に作用する設定により一対配置され、前記カムフォロア29,29は、皿バネ22による付勢力Fdが、前記一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aとの接触面に作用する設定とし、前記一対の押圧手段(一対の押圧ローラー17,17)に加えられる付勢力を、前記皿バネ22による付勢力Fdと前記コイルスプリング30,30による付勢力Fsの付勢力差(Fd−Fs)により調整する。このため、皿バネ22の僅かな伸縮量に対しコイルスプリング30,30の伸縮量が拡大されるのに伴い、コイルスプリング30,30の拡大された伸縮量に対応して一対のテンプレート28,28のカム面28a,28aの面形状設定幅も拡大し、一対の押圧手段(一対の押圧ローラー17,17)に加えられる付勢力をきめ細かく調整することができる。
【0087】
(6)前記入力ディスク15は、そのディスク面に前記入力軸3の軸心から異なる半径にて同心状に形成された複数の入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gを有し、前記出力ディスク16は、そのディスク面に前記出力軸4の軸心から異なる半径にて同心状に形成された複数の出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gを有し、前記一対の押圧手段(押圧ローラー17,17)は、挟持押圧力の解除時に微小隙間が保たれた前記入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gと前記出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gの頂部同士を、要求される低速段から高速段までの有段階の変速比に応じて挟持押圧する。このため、各変速段にて限られた頂部領域をトルク伝達接触部TCとして形成することにより、トルク伝達効率が高いと共に、各変速段にて安定した設定変速比を保つ多段変速機を得ることができる。
【0088】
(7)前記入力軸3は、複数枚の入力ディスク15を軸方向に配列することにより構成されるプライマリディスク群150を有し、前記出力軸4は、複数枚の出力ディスク16を軸方向に配列することにより構成されるセカンダリディスク群160を有し、前記一対の押圧手段(押圧ローラー17,17)は、前記複数枚の入力ディスク15の隣接する軸方向隙間のそれぞれに出力ディスク16を挿入配置することで、前記プライマリディスク群150と前記セカンダリディスク群160が互いに重なり合うディスク重合領域を形成し、このディスク重合領域の両側位置から挟持押圧する。このため、入力ディスク15の枚数設定と出力ディスク16の枚数設定により、要求される伝達トルク容量に対応することができると共に、ディスク枚数を増すことで挟持押圧力の低減を図ることができる。
【0089】
以上、本発明の変速機を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0090】
実施例1では、複数枚の入力ディスク15により構成されるプライマリディスク群150と、複数枚の出力ディスク16により構成されるセカンダリディスク群160を有するマルチディスクの例を示した。しかし、1枚の入力ディスクと1枚の出力ディスクによるシングルディスクの例や、2枚の入力ディスクと1枚の出力ディスクや1枚の入力ディスクと2枚の出力ディスクによる片側ダブルディスクの例としても良い。
【0091】
実施例1では、入力ディスク15に入力側突条15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gを形成し、出力ディスク16に出力側突条16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gを形成し、一対の押圧ローラー17,17により段階的な押圧位置で挟持押圧力を付与することで、7速段を持つ多段変速機とする例を示した。しかし、突条の数の設定により7速段以外の多段変速機とする例としても良いし、また、押圧手段を無段階に移動させることで、無段変速機としても適用することができる。
【0092】
実施例1では、押圧手段として、押圧ローラー17を用いる例を示した。しかし、押圧手段としては、先端が球面の押圧ピンや押圧ボール等、他の手段を用いても良い。
【0093】
実施例1では、一対の押圧ローラー17,17に対し、挟持押圧力を皿バネ22により付与し、挟持押圧力の調整をテンプレート28,28とカムフォロワ29,29を用い、皿バネ22とコイルバネ30による付勢力差により行う例を示した。しかし、挟持押圧力を油圧により付与し、挟持押圧力の調整を油圧調整により行うような例としても良い。
【0094】
実施例1では、変速のために移動枠21を移動させる手段として、ステッピングモータ23とスクリューネジ24を用いる例を示した。しかし、変速のために移動枠21を油圧アクチュエータにより移動させるような例としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0095】
実施例1では、本発明の変速機として、エンジン車の車両用自動変速システムへ適用したマルチディスク多段変速ユニットT/Uの例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車や燃料電池車等の他の車両の変速機としても適用することができる。また、伝達されるトルク容量に応じてディスクの枚数(1枚〜複数枚)を加減することで、車両への用途に限らず、様々な機器類等に搭載されている多段変速機や無段変速機としても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/U(変速機の一例)が適用された車両用自動変速システムを示す全体概略図である。
【図2】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uを示す全体斜視図である。
【図3】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uを示す図2のA−A線断面図である。
【図4】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットの入出力ディスクの端部間隔保持構造を示す図3のB部拡大断面図である。
【図5】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットの入出力ディスクの詳細構造を示す図3のC部拡大断面図である。
【図6】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットの付勢力調整用のテンプレートとカムフォロアを示す平面図である。
【図7】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットのテンプレートとカムフォロアによる付勢力調整状態を示す図で、(a)は付勢力解除状態をあらわし、(b)は最大付勢力付与状態をあらわす。
【図8】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uにおけるディスクの弾性変形を利用した変速原理を示す原理説明平面図である。
【図9】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uにおけるディスクの弾性変形を利用した変速原理を示す原理説明正面図である。
【図10】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるRレンジ選択時のテンプレートとカムフォロワの位置関係を示す平面図である。
【図11】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるPレンジ選択時のテンプレートとカムフォロワの位置関係を示す平面図である。
【図12】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるPレンジ選択時にディスクに形成されるトルク伝達接触部を示す正面図である。
【図13】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるNレンジ選択からDレンジ選択へ切り替え時のテンプレートとカムフォロワの位置関係を示す平面図で、(a)はニュートラル選択時をあらわし、(b)はニュートラルから1速段への選択時をあらわし、(c)は1速段フル負荷選択時をあらわし、(d)は1速段軽負荷選択時をあらわし、(e)は1速段から2速段への選択時をあらわし、(f)は2速段選択時をあらわす。
【図14】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ選択時のトルク伝達接触部を示す拡大断面図である。
【図15】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ選択時に各変速段にてトルク伝達接触部に作用する付勢力(=挟持押圧力)の関係を示す付勢力特性図である。
【図16】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ走行時のダウンシフト中に生じる微小ステア作用を示す作用説明図である。
【図17】実施例1のマルチディスク多段変速ユニットT/Uが適用された車両用自動変速システムにおけるDレンジ走行時のアップシフト中に生じる微小ステア作用を示す作用説明図である。
【符号の説明】
【0097】
T/U マルチディスク多段変速ユニット(変速機)
1 エンジン(原動機)
3 入力軸
4 出力軸
15 入力ディスク
150 プライマリディスク群
15a,15b,15c,15d,15e,15f,15g 入力側突条
16 出力ディスク
160 セカンダリディスク群
16a,16b,16c,16d,16e,16f,16g 出力側突条
17,17 押圧ローラー(押圧手段)
18,18 入力軸支持枠(変速機ケース部材)
19,19 出力軸支持枠(変速機ケース部材)
21 移動枠
22 皿バネ(付勢手段)
23 ステッピングモータ(モータアクチュエータ)
24 スクリューネジ
28,28 テンプレート(付勢力調整手段)
28a,28a カム面(付勢力調整手段)
29,29 カムフォロワ(付勢力調整手段)
30,30 コイルスプリング
Fd 皿バネ22による付勢力
Fs コイルスプリング30による付勢力
O3 入力軸3の軸心
O4 出力軸4の軸心
CL 軸心連結線
TC トルク伝達接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機に接続され、変速機ケース部材に支持される入力軸と、
前記入力軸に平行配置され、変速機ケース部材に支持される出力軸と、
前記入力軸に設けられ、外周端を前記出力軸に近接配置した円板状の入力ディスクと、
前記出力軸に設けられ、外周端を前記入力軸に近接配置した円板状の出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクが互いに重なり合うディスク重合領域のうち、前記入力軸の軸心と前記出力軸の軸心を結ぶ軸心連結線上に沿って移動可能に設けられ、要求変速比に応じた位置にて両ディスクを挟持押圧し、両ディスクの弾性変形によりトルク伝達接触部を形成する一対の押圧手段と、を備え、
前記一対の押圧手段は、両ディスクの挟持押圧力として付勢力を付与する付勢手段と、変速条件に応じた最適な挟持押圧力を得るように、前記付勢手段による付勢力を調整する付勢力調整手段と、を有することを特徴とする変速機。
【請求項2】
請求項1に記載された変速機において、
前記一対の押圧手段は、要求される低速段から高速段までの有段階の変速比に応じた複数の位置にて両ディスクを挟持押圧する手段であり、
前記付勢力調整手段は、隣接する第1の変速段から第2の変速段への変速中の付勢力を、第1の変速段と第2の変速段の位置での付勢力よりも低減することを特徴とする変速機。
【請求項3】
請求項2に記載された変速機において、
前記付勢力調整手段は、高速段が選択されているときの付勢力を、低速段が選択されているときの付勢力よりも低減することを特徴とする変速機。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載された変速機において、
前記付勢力調整手段は、付勢手段による付勢力を調整するカム面を形成したテンプレートと、前記カム面の面形状に沿って移動するカムフォロアと、を有して構成したことを特徴とする変速機。
【請求項5】
請求項4に記載された変速機において、
前記テンプレートは、コイルスプリングによる付勢力が、互いに引き離す方向に作用する設定により一対配置され、
前記カムフォロアは、皿バネによる付勢力が、前記一対のテンプレートのカム面との接触面に作用する設定とし、
前記押圧手段に加えられる付勢力を、前記皿バネによる付勢力と前記コイルスプリングによる付勢力の付勢力差により調整することを特徴とする変速機。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載された変速機において、
前記入力ディスクは、そのディスク面に前記入力軸の軸心から異なる半径にて同心状に形成された複数の入力側突条を有し、
前記出力ディスクは、そのディスク面に前記出力軸の軸心から異なる半径にて同心状に形成された複数の出力側突条を有し、
前記一対の押圧手段は、挟持押圧力の解除時に微小隙間が保たれた前記入力側突条と前記出力側突条の頂部同士を、要求される低速段から高速段までの有段階の変速比に応じて挟持押圧することを特徴とする変速機。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載された変速機において、
前記入力軸は、複数枚の入力ディスクを軸方向に配列することによりプライマリディスク群を有し、
前記出力軸は、複数枚の出力ディスクを軸方向に配列することによりセカンダリディスク群を有し、
前記一対の押圧手段は、前記複数枚の入力ディスクの隣接する軸方向隙間のそれぞれに出力ディスクを挿入配置することで、前記プライマリディスク群と前記セカンダリディスク群が互いに重なり合うディスク重合領域を形成し、このディスク重合領域の両側位置から挟持押圧することを特徴とする変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−53995(P2010−53995A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221116(P2008−221116)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】