説明

変速駆動装置

【課題】シフトセレクト軸の取り外し性の向上を図ることができる変速駆動装置を提供すること。
【解決手段】変速駆動装置3は、シフトセレクト軸15と、シフトセレクト軸15を通過させるための丸い通過孔104が形成されたハウジング22と、スプライン121が形成された円筒体であるスプライン部120と、ラック歯123が形成された円筒体であるラック部122とを含んでいる。スプライン部120およびラック部122は、シフトセレクト軸15に対して同軸状で一体化されている。ラック部122は、スプライン部120に比べてハウジング22内側へ通過孔104から離れた位置にある。スプライン部120は、シフトセレクト軸15より大径かつ通過孔104より小径である。ラック部122は、シフトセレクト軸15より大径かつスプライン部120より小径である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変速機における変速ギヤの位置を切り換えるために、セレクト動作およびシフト動作といった変速駆動を行う変速駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マニュアルトランスミッションの変速が自動化された自動制御式マニュアルトランスミッション(Automated Manual Transmission)の変速装置が知られている。変速装置は、変速ギヤ等を収容する変速機と、変速機を変速駆動する変速駆動装置とを含んでいる。
下記特許文献1では、電動モータおよびシフトセレクト軸等を備え、電動モータの駆動力によって、シフトセレクト軸を軸方向にスライドさせてセレクト動作を行ったり、シフトセレクト軸を軸中心に回転させてシフト動作を行ったりするシフト/セレクト駆動装置が、変速駆動装置の一例として開示されている。
【0003】
このシフト/セレクト駆動装置のシフトセレクト軸には、シフトセレクト軸を軸回りに回転させるための駆動力を受けるスプライン部と、シフトセレクト軸を軸方向にスライドさせるための駆動力を受けるラック部とが一体的に設けられている。スプライン部の表面には、スプラインが形成されていて、ラック部の表面には、ラック歯が形成されている。このシフトセレクト軸は、シフト/セレクト駆動装置のハウジングに収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−75097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシフト/セレクト駆動装置において、完成後の状態から、メンテナンス等のためにシフトセレクト軸を取り外さなければならない状況が発生し得るのだが、シフトセレクト軸の取り外しに際して、なるべく手間をかけずに済むことが望ましい。
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、シフトセレクト軸の取り外し性の向上を図ることができる変速駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、シフトレバー(16)をセレクト動作およびシフト動作させるための変速駆動装置(3)であって、前記シフトレバーが連結された軸状体であり、軸方向(M4)にスライドすることで前記シフトレバーをセレクト動作させ、軸回りに回転することによって前記シフトレバーをシフト動作させるシフトセレクト軸(15)と、前記シフトレバーが外にはみ出た状態で前記シフトセレクト軸を着脱可能に収容するとともに、着脱される前記シフトセレクト軸を通過させるための丸い通過孔(104)が形成されたハウジング(22)と、前記シフトセレクト軸より大径かつ前記通過孔より小径であって外周面にスプライン(121)が形成された円筒体であり、前記ハウジング内側へ前記通過孔から離れた位置において、前記シフトセレクト軸に対して同軸状で一体化されており、前記スプラインとスプライン嵌合するリング(73)が外嵌されていて、前記シフトセレクト軸を軸回りに回転させるための駆動力を前記リングから受けるスプライン部(120)と、前記シフトセレクト軸より大径かつ前記スプライン部より小径の円筒体であり、前記スプライン部に比べて前記ハウジング内側へ前記通過孔から離れた位置において、前記シフトセレクト軸に対して同軸状で一体化されており、外周面にラック歯(123)が形成されていて、前記シフトセレクト軸を軸方向にスライドさせるための駆動力を受けるラック部(122)と、を含む、変速駆動装置である。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
この構成によれば、シフトセレクト軸には、ハウジング内側へ通過孔から遠い順番で、ラック部とスプライン部とが同軸状で一体化されている。スプライン部およびラック部は、シフトセレクト軸より大径であるものの、通過孔より小径であり、ラック部は、スプライン部(換言すれば、スプライン部に対して外嵌されるリングの内径)より小径である。
【0008】
そのため、シフトセレクト軸を通過孔からハウジングの外へ取り出す際、スプライン部がハウジングにおける通過孔の縁に引っ掛かることはなく、さらに、ラック部がリングの内周縁およびハウジングにおける通過孔の縁の両方に引っ掛かることはない。そのため、シフトセレクト軸を、円滑に、通過孔に通してハウジングから取り外すことができる。
その結果、シフトセレクト軸の取り外し性の向上を図ることができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記スプライン部より大径の円筒体であり、前記シフトセレクト軸に対して同軸状で一体化されており、前記通過孔を塞ぐ位置に配置される閉塞部(160)をさらに含み、前記シフトセレクト軸は、前記ハウジング外の所定の分割位置(P)において、第1軸(161)と、第2軸(162)とに分割可能である、請求項1記載の変速駆動装置である。
【0010】
この構成によれば、シフトセレクト軸において分割位置側の閉塞部が比較的大径で高い剛性を有しているので、第1軸と第2軸とを連結する際にこれらの軸の間に別の部品を介在させなくても、連結状態の第1軸および第2軸を高精度に芯出しすることができる。
そして、スプライン部およびラック部は、通過孔を塞ぐ位置に配置される閉塞部より小径なので、シフトセレクト軸を通過孔からハウジングの外へ取り出す際、スプライン部およびラック部がハウジングにおける通過孔の縁に引っ掛かることはない。そのため、シフトセレクト軸を、円滑に、通過孔に通してハウジングから取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の変速駆動装置が適用された変速装置の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、変速駆動装置の構成を示す斜視図である。
【図3】図3は、変速駆動装置の構成を示す底面図である。
【図4】図4は、変速駆動装置の構成を示す断面図である。
【図5】図5は、図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】図6(a)は、図3のB−B線に沿う断面図であり、図6(b)は、図6(a)の要部の拡大図である。
【図7】図7は、図6に比較例を適用した図である。
【図8A】図8Aは、変速駆動装置の分解手順を説明するための図であって、変速駆動装置を分解する前の状態を示している。
【図8B】図8Bは、変速駆動装置の分解手順を説明するための図であって、図8Aの次の段階まで分解が進んだ状態を示している。
【図8C】図8Cは、変速駆動装置の分解手順を説明するための図であって、図8Bの次の段階まで分解が進んだ状態を示している。
【図8D】図8Dは、変速駆動装置の分解手順を説明するための図であって、図8Cの次の段階まで分解が進んだ状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態の変速駆動装置が適用された変速装置の概略構成を示す分解斜視図である。
変速装置1は、変速機2と、変速機2を変速駆動する変速駆動装置3とを備えている。
変速機2は、公知の常時かみ合い式の平行歯車式変速機であり、乗用車やトラックなどの車両に搭載される。変速機2は、ギヤハウジング7と、ギヤハウジング7内に収容される常時かみ合い式の平行歯車式変速機構(図示せず)とを備えている。
【0013】
変速駆動装置3は、変速機構にシフト動作またはセレクト動作を行わせるシフトセレクト軸15と、シフトセレクト軸15をシフト動作またはセレクト動作させるための共通の駆動源として用いられる電動アクチュエータ21とを含む。なお、図1は、各部材を簡略化して示した図なので、各部材の詳しい構成(特に電動アクチュエータ21について)は、後述する図2以降に図示されている。
【0014】
シフトセレクト軸15は、所定方向(図示されたM4の方向)に長手の軸状体である。
シフトセレクト軸15の途中部には、ギヤハウジング7内に収容されるシフトレバー16の一端16Aが連結されている。シフトレバー16は、シフトセレクト軸15の中心軸線17まわりに、シフトセレクト軸15と同伴回転する。シフトセレクト軸15の先端側(図1に示す右奥側)は、ギヤハウジング7外に突出している。ここで、シフトレバー16は、シフトセレクト軸15が軸回りに回転したり軸方向M4へスライドしたりするに応じて、実際のシフト動作やセレクト動作を行う。そして、電動アクチュエータ21は、シフトセレクト軸15を回転させることでシフトレバー16をシフト動作させ、シフトセレクト軸15をスライドさせることでシフトレバー16をセレクト動作させる(詳しくは後述する)。
【0015】
ギヤハウジング7内には、互いに平行に延びる複数のシフトロッド10A,10B,10Cが収容されている。各シフトロッド10A,10B,10Cには、シフトレバー16の他端16Bと係合可能なシフトブロック12A,12B,12Cが固定されている。また、各シフトロッド10A,10B,10Cには、クラッチスリーブ(図示せず)と係合するシフトフォーク11が設けられている。なお、図1では、シフトロッド10Aに設けられたシフトフォーク11のみを示している。
【0016】
電動アクチュエータ21により、シフトセレクト軸15が、その軸方向M4に移動(スライド)されると、シフトレバー16が軸方向M4に移動される。その結果、シフトレバー16の他端16Bがシフトブロック12A,12B,12Cのいずれかに対して選択的に係合し、これによりセレクト動作が達成される。
一方、電動アクチュエータ21によりシフトセレクト軸15がその中心軸線17まわりに回転されると、シフトレバー16が中心軸線17まわりに揺動する。その結果、シフトレバー16と係合しているいずれかのシフトブロック12A,12B,12Cが、シフトロッド10A,10B,10Cの軸方向M1,M2,M3に移動し、これにより、シフト動作が達成される。なお、このシフト動作のために必要なシフトセレクト軸15の回転角は360°(シフトセレクト軸15一周分)よりも著しく小さい(たとえば120°程度)。
【0017】
図2は、変速駆動装置の構成を示す斜視図である。図3は、変速駆動装置の構成を示す底面図である。図4は、変速駆動装置の構成を示す断面図である。図5は、図4のA−A線に沿う断面図である。
以下では、図2〜図5を参照して、電動アクチュエータ21の構成について説明する。
図4に示すように、電動アクチュエータ21は、その外郭をなしてシフトセレクト軸15等を収容するボックス状のハウジング22を備えている。電動アクチュエータ21は、ギヤハウジング7(図1参照)の外表面に固定されている。
【0018】
具体的には、電動アクチュエータ21は、ハウジング22の他に、図2に示す取付ステー18を備えている。取付ステー18は、本体部19と、延設部20とを一体的に備えている。
本体部19は、平面視(底面視)でホームベース形状(略五角形)の輪郭を有するブロック形状である(図3も参照)。本体部19の一側面には、凹状に窪む平面視矩形状の中空部分19Aが形成されている。
【0019】
延設部20は、円管状であり、本体部19からハウジング22側へ延びている。なお、この実施形態では、説明の便宜上、延設部20の周上1箇所を切断して、延設部20の内部構造を露出させているが(図2、図3および後述する図8A参照)、実際の延設部20は、周上に切断箇所のない円管状である。延設部20においてハウジング22側(図3における下側)の端部には、延設部20の径方向へ張り出すフランジ部20Aが一体的に設けられている。延設部20の延びる方向から見たときのフランジ部20Aの輪郭は、略矩形状をなしている。フランジ部20Aがハウジング22に接触した状態で、フランジ部20A(四隅の部分)およびハウジング22に対して共通の複数(ここでは4本)のボルト14が組み付けられている。これにより、取付ステー18がハウジング22に対して固定されている。
【0020】
そして、延設部20の延びる方向から見た場合において、本体部19で延設部20の中空部分の円中心と一致する部分には、本体部19を貫通して中空部分19Aに連通する丸い挿通孔19Bと、中空部分19Aに連通しつつ凹状に窪む止まり孔19Cとが形成されている。図2では、挿通孔19Bは、本体部19において延設部20側に形成されていて、止まり孔19Cは、本体部19において延設部20とは反対側に形成されている。
【0021】
取付ステー18では、本体部19がギヤハウジング7(図1参照)に対してボルト(図示せず)によって組み付けられている。これによって、電動アクチュエータ21(換言すれば、変速駆動装置3全体)は、ギヤハウジング7の外表面に固定されている。この状態で、シフトセレクト軸15では、シフトレバー16側の部分が、ハウジング22の外にはみ出ている。シフトセレクト軸15においてハウジング22の外にはみ出た部分は、延設部20の内部および本体部19の中空部分19A内に配置されている。この状態で、当該部分は、本体部19の挿通孔19Bおよび止まり孔19Cに対して挿通されているとともに、本体部19の中空部分19Aから外部に露出されている。シフトレバー16は、本体部19の中空部分19Aに配置されており、ハウジング22の外にはみ出ている。そして、シフトレバー16の他端16Bは、中空部分19Aから本体部19の外側へはみ出ており、前述したシフトブロック12A,12B,12C(図1参照)のいずれかに係合している。
【0022】
図4を参照して、電動アクチュエータ21は、電動モータ23と、シフト変換機構24と、セレクト変換機構25と、切換ユニット26とを備えている。電動モータ23は、たとえばブラシレスモータからなり、回転駆動力を発生させるためのものである。シフト変換機構24は、電動モータ23の回転トルク(回転駆動力)を、シフトセレクト軸15を中心軸線17まわり(軸回り)に回転させる力に変換してシフトセレクト軸15に伝達するためのものである。セレクト変換機構25は、電動モータ23の回転トルクを、シフトセレクト軸15をその軸方向M4(図4における紙面に直交する方向)へ移動(スライド)させる力に変換してシフトセレクト軸15に伝達するためのものである。切換ユニット26は、電動モータ23の回転駆動力の伝達先を、シフト変換機構24とセレクト変換機構25との間で切り換えるためのものである。電動モータ23は、ハウジング22に対して外から取り付けられていて、シフト変換機構24、セレクト変換機構25および切換ユニット26は、ハウジング22内に収容されている。
【0023】
ハウジング22では、電動モータ23側(図4における左側)に、モータ用開口部13が形成されている。モータ用開口部13は、略板状の蓋27によって閉塞されている。蓋27は、ハウジング22の一部である。これらのハウジング22および蓋27は、それぞれたとえば鋳鉄やアルミニウムなどの金属材料を用いて形成されており、蓋27の外周がハウジング22のモータ用開口部13に嵌め合わされている。蓋27には、その内面(図4に示す右面)と外面(図4に示す左面)とを貫通する円形の貫通孔29が形成されている。また、蓋27の外面には、電動モータ23の本体ケーシングが固定されている。電動モータ23は正逆回転可能に設けられており、この電動モータ23としてたとえばブラシレスモータが採用されている。電動モータ23は、その本体ケーシングがハウジング22外に露出するように取り付けられている。電動モータ23の出力軸40は、シフトセレクト軸15と、平面視(図4において上方から見た場合)における食い違い角が90°の食い違い角の関係をなして配置されている。そのため、出力軸40は、軸方向M4と直交する所定の方向(図4に示す左右方向)に沿って延びている。出力軸40は蓋27の貫通孔29を介してハウジング22の内部に臨んでおり、切換ユニット26に対向している。
【0024】
ハウジング22は、前述したようにボックス状であり、シフトセレクト軸15における先端側(図1に示す右奥側)の領域や、シフト変換機構24、セレクト変換機構25および切換ユニット26の各構成部品を主に収容する。詳しくは、図5に示すように、ハウジング22は、側方(図5における右側)に底を有する箱状をなしている。ハウジング22は、底壁111と、底壁111の一端部(図5に示す上端部)と、他端部(図5に示す下端部)とからそれぞれ、互いに平行に立ち上がる一対の側壁112,113とを主に備えている。ハウジング22には、側壁112,113の先端部(図5に示す左端部)などによって区画された開口部115が形成されている。開口部115は平板状の蓋114によって閉塞されている。蓋114は、ハウジング22の一部をなしている。蓋114においてハウジング22内に露出される部分は、内側面114Aである。
【0025】
図5に示すように、底壁111の内側の底面111Aは、平坦面によって形成されている。底壁111には、シフトセレクト軸15の途中部(後述するスプライン部120やラック部122よりも基端(図5における右端)寄り)を支持するため軸ホルダ116が形成されている。軸ホルダ116は、底壁111と一体的に形成されており、底壁111の外壁面(底面111Aとは反対側の面)よりも外方に膨出してたとえば直方体状をなしている(図2も参照)。前述した取付ステー18のフランジ部20Aは、軸ホルダ116に対して、ボルト14で固定される(図2参照)。底壁111および軸ホルダ116には、断面円形の(丸い)通過孔104が形成されている。通過孔104は、軸ホルダ116および底壁111を、それらの厚み方向(図5に示す左右方向。底面111Aと直交する方向)に貫通している。通過孔104には、シフトセレクト軸15が挿通されている。通過孔104は、シフトセレクト軸15(通過孔104を塞いでいる部分)よりも若干大径である。そのため、底壁111および軸ホルダ116において通過孔104を区画する内周面とシフトセレクト軸15の外周面との間には、ハウジング22の内外を連通させる隙間Sが形成されている。
【0026】
通過孔104の内周面には、すべり軸受101が内嵌固定されている。すべり軸受101は、通過孔104に挿通されているシフトセレクト軸15の途中部(後述する閉塞部160)の外周を取り囲み、当該シフトセレクト軸15の閉塞部160の外周を摺接支持している。
通過孔104内におけるすべり軸受101の外側(ハウジング22の外側)寄りの部分には、ごみや埃がハウジング22内に進入しないように、通過孔104の内周面とシフトセレクト軸15の外周面との間をシールするためのシール103が介装されている。シール103によって、前述した隙間Sが塞がれているので、外部からの異物(特に、ギヤハウジング7からの潤滑剤)が隙間Sからハウジング22内に侵入することが防止されている。
【0027】
軸ホルダ116において、厚み方向(図5に示す左右方向)における途中には、ロックボール106が配設されている。具体的には、通過孔104の内周面と、軸ホルダ116の外周面とを貫通する貫通孔105内にロックボール106が収容されている。ロックボール106は、通過孔104の中心軸線(すなわちシフトセレクト軸15の中心軸線17)と直交する方向に延びる略円筒状をなすとともに、当該方向に沿って移動可能に設けられている。ロックボール106の先端部は半球状をなしており、次に述べる係合溝107に係合する。
【0028】
ここで、シフトセレクト軸15において通過孔104をちょうど塞ぐ部分(軸方向M4において通過孔104と一致する位置にある部分)を閉塞部160ということにする。閉塞部160は、シフトセレクト軸15に対して同軸状で一体化された円筒体であって、通過孔104を塞ぐ位置に配置されている。閉塞部160の外周には、軸方向M4に間隔を空けて、周方向に延びる複数本(たとえば3本)の係合溝107が形成されている。各係合溝107は全周にわたって設定されている。ロックボール106がその長手方向に移動することにより、先端部が通過孔104の内周面よりも中心軸線17側(図5に示す下方)に突出して、その先端部が係合溝107と係合して、シフトセレクト軸15の軸方向M4における移動を阻止する。これにより、シフトセレクト軸15は、軸方向M4への移動が阻止された状態で、一定力で保持される。
【0029】
第1ハウジング22Aの側壁113の内面は、底面111Aと直交する第1内壁面113Aになっている。
図5に示すように、シフトセレクト軸15において、通過孔104よりも先端側(ハウジング22の内側)の部分(ハウジング22の内側へ通過孔104から離れた部分)には、スプライン部120と、後述するピニオンギヤ36が噛み合うラック部122とが、通過孔104に近い側からこの順で設けられている。つまり、シフトセレクト軸15において、スプライン部120およびラック部122は、ハウジング22内側へ通過孔104から離れた位置にあり、特に、ラック部122は、スプライン部120に比べてハウジング22内側へ通過孔104から離れた位置にある。スプライン部120およびラック部122は、いずれも、シフトセレクト軸15に対して同軸状で一体化される円筒体であり、軸方向に所定の長さを有している。スプライン部120およびラック部122は、シフトセレクト軸15の軸部15A(シフトセレクト軸15のうち、閉塞部160、スプライン部120およびラック部122を除く部分)よりも大径である。
【0030】
スプライン部120の外周面には、スプライン121(軸方向に延びる筋状の凸部)が周方向に間隔を隔てつつ、全域に亘って形成されている。
ラック部122の外周面には、その周方向における全域に、ラック歯形成領域130が設けられている。ラック歯形成領域130では、ラック部122の軸方向M4の一端(図5に示す左端)から他端(図5に示す右端)にわたって、複数のラック歯123がそれぞれ中心軸線17に沿って互いに平行に延びている。ラック歯形成領域130のラック歯123が、後述するピニオンギヤ36と噛み合っている。
【0031】
ここで、シフトセレクト軸15における、ハウジング22に収容される部分は、すべり軸受101によって摺接支持されている。なお、シフトセレクト軸15においてラック部122に対してスプライン部120の反対側における先端部(図5における左端部)は、ハウジング22の蓋114を貫通してハウジング22の外に突出している。当該先端部には、円筒状のキャップ100が外嵌されている。シフトセレクト軸15は、キャップ100によっても摺接支持されていてもよい。
【0032】
図4に示すように、切換ユニット26は、電動モータ23の出力軸40と同軸に連結された伝達軸41と、伝達軸41と同軸にかつ、同伴回転可能に設けられた回転体である第1ロータ42と、伝達軸41に同軸にかつ、同伴回転可能に設けられた回転体である第2ロータ44と、第1ロータ42と第2ロータ44との間で伝達軸41の連結先を切り換えるためのクラッチ機構39とを備えている。
【0033】
伝達軸41は、電動モータ23側に設けられた小径の主軸部46と、主軸部46の第1ロータ42側の軸方向端部(図4に示す右端部)に、主軸部46と一体的に設けられ、主軸部46よりも大径の大径部47とを備えている。
第1ロータ42は、伝達軸41に対し電動モータ23側と反対側(図4における右側)に配置されている。第1ロータ42は、電動モータ23側の軸方向端部(図4に示す左端部)の外周から径方向外方に向けて張り出す第1アーマチュアハブ54を備えている。第1アーマチュアハブ54は、大径部47の電動モータ23側と反対側の面(図4に示す右面)に対向して配置されている。
【0034】
第2ロータ44は、伝達軸41の大径部47に対し第1ロータ42と反対側、すなわち電動モータ23側(図4における左側)に配置されており、伝達軸41の主軸部46の周囲を非接触状態で取り囲んでいる。第2ロータ44は、電動モータ23側と反対側の軸方向端部(図4に示す右端部)の外周から径方向外方に向けて張り出す第2アーマチュアハブ55を備えている。第2アーマチュアハブ55は、大径部47の電動モータ23側の面(図4に示す左面)に対向して配置されている。言い換えれば、第1ロータ42(の第1アーマチュアハブ54)および第2ロータ44(の第2アーマチュアハブ55)が、伝達軸41の大径部47を挟むように配置されている。この状態で、第1ロータ42と、第2ロータ44と、伝達軸41とは、同軸状に配置されていて、それぞれが軸回りに回転可能である。
【0035】
クラッチ機構39は、第1ロータ42と断続して、伝達軸41と第1ロータ42とを連結/解放するシフト電磁クラッチ43と、第2ロータ44と断続して、伝達軸41と第2ロータ44とを連結/解放するセレクト電磁クラッチ45とを備えている。シフト電磁クラッチ43は、電動モータ23からの回転駆動力を第1ロータ42に伝達して第1ロータ42を回転させることができる。セレクト電磁クラッチ45は、電動モータ23からの回転駆動力を第2ロータ44に伝達して第2ロータ44を回転させることができる。
【0036】
シフト電磁クラッチ43は、第1フィールド48と第1アーマチュア49とを備えている。第1アーマチュア49は、伝達軸41の大径部47の軸方向他方側の面(図4に示す右面)に設けられ、第1アーマチュアハブ54の電動モータ23側の面(図4に示す左面)と微小間隔を隔てて配置されており、伝達軸41と同軸状をなす略円環板状をなしている。第1アーマチュア49は、伝達軸41(大径部47)とともに回転する回転体である。第1アーマチュア49は、鉄などの強磁性体を用いて形成されている。第1フィールド48は、周方向から見た断面がU字をなす環状のヨーク31と、ヨーク31内(U字の内側)に内蔵される第1電磁コイル50とを含む環状体であり、ハウジング22に固定されている。
【0037】
セレクト電磁クラッチ45は、第2フィールド51と、第2アーマチュア52とを備えている。第2アーマチュア52は、伝達軸41の大径部47の軸方向一方側の面(図4に示す左面)に設けられ、第2アーマチュアハブ55の電動モータ23と反対側の面(図4に示す右面)と微小間隔を隔てて配置されており、伝達軸41と同軸状をなす略円環板状をなしている。第2アーマチュア52は、伝達軸41(大径部47)とともに回転する回転体である。第2アーマチュア52は鉄などの強磁性体を用いて形成されている。第2フィールド51は、周方向から見た断面がU字をなす環状のヨーク32と、ヨーク32内(U字の内側)に内蔵される第2電磁コイル53とを含む環状体であり、ハウジング22に固定されている。
【0038】
第1フィールド48および第2フィールド51は、大径部47、第1アーマチュアハブ54および第2アーマチュアハブ55を挟んで、軸方向(第1ロータ42、第2ロータ44および伝達軸41のそれぞれの中心軸の延びる方向であり、図4では左右方向)に沿って並置されている。
クラッチ機構39には、シフト電磁クラッチ43およびセレクト電磁クラッチ45を駆動するためのクラッチ駆動回路(図示せず)が接続されている。クラッチ駆動回路に関連して、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)88および操作レバー93が設けられている。ECU88は、操作者(ドライバー)による操作レバー93の操作等に応じて、モータドライバ(図示せず)を介して電動モータ23を駆動制御したり、クラッチ駆動回路を介してシフト電磁クラッチ43およびセレクト電磁クラッチ45を駆動制御したりする。なお、ECU88は、車体に固定されていてもよく、ギヤハウジング7(図1参照)内に収容されていてもよい。
【0039】
また、クラッチ駆動回路には、配線などを介して電源(たとえば24V。図示せず)から電圧供給(給電)されている。クラッチ駆動回路は、リレー回路などを含む構成であり、シフト電磁クラッチ43およびセレクト電磁クラッチ45に対し、それぞれ個別に給電および給電停止を切換え可能に設けられている。なお、クラッチ駆動回路は、シフト電磁クラッチ43およびセレクト電磁クラッチ45の双方を駆動する構成に限られず、シフト電磁クラッチ43を駆動するためのクラッチ駆動回路と、セレクト電磁クラッチ45を駆動するためのクラッチ駆動回路とを個別に設けることもできる。
【0040】
クラッチ駆動回路によるシフト電磁クラッチ43に対する給電により、第1電磁コイル50に通電されると、第1電磁コイル50が励磁状態になり、第1電磁コイル50を含む第1フィールド48に電磁吸引力が発生する。そして、第1アーマチュア49が、第1フィールド48に吸引されて第1フィールド48に向けて変形し、第1アーマチュアハブ54と摩擦接触する。したがって、第1電磁コイル50への通電により、第1アーマチュア49側の(伝達軸41の)大径部47が、第1アーマチュアハブ54(第1ロータ42)に接続され、伝達軸41が第1ロータ42に連結される。そして、第1電磁コイル50に対する電圧供給が停止され、第1電磁コイル50に電流が流れなくなることにより、第1アーマチュア49に対する吸引力もなくなり、第1アーマチュア49が元の形状に復帰する。これにより、シフト電磁クラッチ43が接続状態から切断状態になり、伝達軸41が第1ロータ42から解放(遮断)される。つまり、シフト電磁クラッチ43に対する給電/給電停止を切り換えることにより、シフト電磁クラッチ43の接続状態と切断状態とを切り換えることができる。接続状態のシフト電磁クラッチ43は、電動モータ23からの(回転)駆動力をシフト変換機構24に伝達することができ、切断状態のシフト電磁クラッチ43は、当該駆動力をシフト変換機構24に対して遮断することができる。
【0041】
一方、クラッチ駆動回路によるセレクト電磁クラッチ45に対する給電により、第2電磁コイル53に通電されると、その第2電磁コイル53が励磁状態になり、第2電磁コイル53を含む第2フィールド51に電磁吸引力が発生する。そして、第2アーマチュア52が第2フィールド51に吸引されて第2フィールド51に向けて変形し、第2アーマチュア52が第2アーマチュアハブ55と摩擦接触する。したがって、第2電磁コイル53への通電により、第2アーマチュア52側の(伝達軸41の)大径部47が、第2アーマチュアハブ55(第2ロータ44)に接続され、伝達軸41が第2ロータ44に連結される。そして、第2電磁コイル53に対する電圧供給が停止され、第2電磁コイル53に電流が流れなくなることにより、第2アーマチュア52に対する吸引力もなくなり、第2アーマチュア52が元の形状に復帰する。これにより、セレクト電磁クラッチ45が接続状態から切断状態になり、伝達軸41が第2ロータ44から解放(遮断)される。つまり、第2電磁コイル53への給電/給電停止を切り換えることにより、セレクト電磁クラッチ45の接続状態と、切断状態とを切り換えることができる。接続状態のセレクト電磁クラッチ45は、電動モータ23からの駆動力をセレクト変換機構25に伝達することができ、切断状態のセレクト電磁クラッチ45は、当該駆動力をセレクト変換機構25に対して遮断することができる。
【0042】
電動アクチュエータ21の制御では、通常、シフト電磁クラッチ43およびセレクト電磁クラッチ45の一方のみが選択的に接続されるようになっている。すなわち、シフト電磁クラッチ43が接続状態にあるときには、セレクト電磁クラッチ45が切断状態にあり、セレクト電磁クラッチ45が接続状態にあるときには、シフト電磁クラッチ43が切断状態にある。
【0043】
第2ロータ44の外周には、小径の円環状の第1歯車56が外嵌固定されている。第1歯車56は第2ロータ44と同軸に設けられている。第1歯車56は転がり軸受57によって支持されている。転がり軸受57の外輪は、第1歯車56に内嵌固定されている。転がり軸受57の内輪は、伝達軸41の主軸部46の外周に外嵌固定されている。
シフト変換機構24は、回転運動を直線運動に変換する減速機としてのボールねじ機構58と、このボールねじ機構58に備えられるナット59と、ナット59の軸方向移動に伴ってシフトセレクト軸15の中心軸線17まわりに回動するアーム60とを主に備えている。
【0044】
ボールねじ機構58は、第1ロータ42と同軸(すなわち伝達軸41と同軸)に延びるねじ軸61と、ねじ軸61にボール(図示せず)を介して螺合する前述したナット59とを備えている。ねじ軸61は、図4の上方から見た平面視において、シフトセレクト軸15と、食い違い角が90°の食い違い軸の関係をなしている。言い換えれば、ねじ軸61の軸方向およびシフトセレクト軸15の軸方向M4の双方に直交する方向(図4の上方)から見て、ねじ軸61およびシフトセレクト軸15は互いに直交している。
【0045】
ねじ軸61は、転がり軸受64,67によって軸方向への移動が規制されつつ支持されている。具体的には、ねじ軸61の一端部(図4に示す左端部)は転がり軸受64によって支持されており、また、ねじ軸61の他端部(図4に示す右端部)は転がり軸受67によって支持されている。これらの転がり軸受64,67により、ねじ軸61がその中心軸線80(図5参照)まわりに回転可能に支持されている。
【0046】
転がり軸受64の内輪は、ねじ軸61の一端部に外嵌固定されている。ここで、第1フィールド48に対する電動モータ23の反対側(図4の右側)には、第1フィールド48よりやや大径の環状をなす固定板65が、ハウジング22の一部として設けられている。転がり軸受64の外輪は、固定板65において円中心における中空部分をなす貫通孔68に内嵌されている。また、転がり軸受64の外輪には、ロックナット66が係合されて、ねじ軸61の軸方向の他方(図4に示す右方)への転がり軸受64の移動が規制されている。ねじ軸61の一端部における転がり軸受64よりも電動モータ23側(図4に示す左側)の部分は、第1ロータ42の内周に挿通されて、この第1ロータ42に同伴回転可能に連結されている。転がり軸受67の外輪は、ハウジング22に固定されている。
【0047】
ナット59の一側面(図4に示す手前側側面。図5に示す左側側面)、および当該一側面とは反対側の他側面(図4に示す奥側側面。図5に示す右側側面)には、それぞれシフトセレクト軸15の軸方向M4に沿う方向(図4の紙面に直交する方向)に延びる円柱状の突出軸70(図4では一方のみ図示。図5を併せて参照)が突出形成されている。一対の突出軸70は、同軸状に配置されている(図5参照)。ナット59は、アーム60の第1係合部72(後述する)によって、ねじ軸61まわりの回転が規制されている。したがって、ねじ軸61が回転されると、ねじ軸61の回転に同伴して、ナット59がねじ軸61の軸方向に移動する。なお、図5では、ねじ軸61の軸方向に関し、図4に示すナット59の位置よりも、第1ロータ42に対し離反する方向(図4に示す右方)にナット59が位置するときの断面状態を示している。
【0048】
図4および図5に示すように、アーム60は、ナット59に係合するための第1係合部72と、シフトセレクト軸15のスプライン部120にスプライン嵌合するための第2係合部73(図5参照)と、第1係合部72と第2係合部73とを接続する直線状の接続ロッド74とを備えている。接続ロッド74は、たとえば、その全長にわたって断面矩形状をなしている。第2係合部73は、リング状(円環状)をなし、シフトセレクト軸15のスプライン部120に対して外嵌されている。第2係合部73の内周面には、スプライン75が形成されており、第2係合部73のスプライン75とスプライン部120のスプライン121とが噛み合うことで、第2係合部73とスプライン部120(スプライン121)とのスプライン嵌合が達成されている。なお、第2係合部73は、円環板状をなしているが、円筒状(軸方向に所定の厚みを有する形状)をなしていてもよい。
【0049】
第1係合部72は、互いに対向する一対の支持板部76(図4では、一方の支持板部76のみを図示)と、一対の支持板部76の基端辺同士を連結する連結板部77とを備え、側面視で略U字状をなしている。各支持板部76には、各突出軸70の外周と、当該突出軸70の回転を許容しつつ係合するU字係合溝78が形成されている。U字係合溝78は、前記の基端辺と反対側の先端辺(図4および図5における上端辺)から切り欠かれている。そのため、第1係合部72は、ナット59に、突出軸70まわりに相対回転可能にかつ、ねじ軸61の軸方向に同行移動可能に係合している。また、各U字係合溝78と各突出軸70との係合により、ナット59では、アーム60の第1係合部72によってねじ軸61まわりの回転が規制されている。したがって、ねじ軸61の回転に伴って、ナット59および第1係合部72がねじ軸61の軸方向に移動する。
【0050】
前述したように、シフトセレクト軸15のスプライン部120の外周と、第2係合部73の内周とはスプライン嵌合している。具体的には、第2係合部73の内周に設けられたスプライン75に、スプライン部120の外周に設けられたスプライン121が噛み合っている。このとき、スプライン121とスプライン75との間には噛合いのための隙間が確保されている。
【0051】
言い換えれば、シフトセレクト軸15のスプライン部120の外周に対して、第2係合部73が、当該シフトセレクト軸15に対して相対回転不能にかつ相対軸方向移動が許容された状態で連結されている。したがって、シフト電磁クラッチ43が接続状態にあって、ねじ軸61が回転し、これに伴ってナット59がねじ軸61の軸方向に移動すると、アーム60がシフトセレクト軸15の中心軸線17まわりに回動し、このアーム60の揺動に同伴してシフトセレクト軸15が、中心軸線17まわりに回転する。つまり、スプライン部120が電動モータ23の駆動力を第2係合部73から受けることで、シフトセレクト軸15が軸回りに回転する。これにより、前述したシフト動作が達成される。
【0052】
図4に示すように、セレクト変換機構25は、前述した第1歯車56と、伝達軸41と平行に延びた状態で回転可能に設けられたピニオン軸95と、ピニオン軸95の一端部(図4に示す左端部)寄りの所定位置に同軸に固定されて第1歯車56と噛み合う第2歯車81と、ピニオン軸95の他端部(図4に示す右端部)寄りの所定位置に同軸に固定された小径のピニオンギヤ36とを備え、全体として減速機を構成している。なお、第2歯車81は、第1歯車56およびピニオンギヤ36の双方よりも大径に形成されている。
【0053】
ピニオン軸95の一端部(図4に示す左端部)は、ハウジング22に固定された転がり軸受96によって支持されている。転がり軸受96の内輪は、ピニオン軸95の一端部(図4に示す左端部)に外嵌固定されている。また、転がり軸受96の外輪は、蓋27の内面に形成された円筒状の凹部97内に固定されている。また、ピニオン軸95の他端部(図4に示す右端部)は、転がり軸受84によって支持されている。ピニオンギヤ36とラック部122(図5参照)とがラック・アンド・ピニオン機構により噛み合っているので、セレクト電磁クラッチ45が接続状態にあって、伝達軸41の回転に伴ってピニオン軸95が回転すると、これに伴って、シフトセレクト軸15が軸方向M4(図1参照)に移動する。つまり、ラック部122が電動モータ23の駆動力をピニオンギヤ36から受けることで、シフトセレクト軸15が軸方向にスライドする。これにより、前述したセレクト動作が達成される。なお、シフトセレクト軸15がスライドしても、第2係合部73とスプライン部120とのスプライン嵌合は維持されている。
【0054】
ここで、図2を参照して、前述したハウジング22は、第1ハウジング22Aと、第2ハウジング22Bとを有している。なお、第1ハウジング22Aと第2ハウジング22Bとは一体化されていて、これらのハウジングの継ぎ目に隙間は存在しない。そのため、第1ハウジング22Aと第2ハウジング22Bとの継ぎ目からハウジング22の内外が連通することはない。
【0055】
第1ハウジング22Aは、図2におけるハウジング22の右側部分をなす略直方体のボックス形状であり、主にシフトセレクト軸15、ボールねじ機構58、アーム60およびピニオンギヤ36(図4参照)を収容している。第1ハウジング22Aは、前述した底壁111、側壁112、側壁113および蓋114(図5参照)等によって区画されている。
【0056】
第2ハウジング22Bは、第1ハウジング22Aから、平面視においてシフトセレクト軸15に直交する方向(図2における左側)へ延び出る中空円筒状である。第2ハウジング22Bにおいて第1ハウジング22Aとは反対側の端面には、前述したモータ用開口部13が形成されていて、この端面に対して、蓋27を介して電動モータ23が取り付けられている(図4参照)。図4を参照して、第2ハウジング22B内には、前述した切換ユニット26や第1歯車81等が収容されている。
【0057】
ここで、図5に示すように、通過孔104(詳しくは、通過孔104において最も小さい部分)の外径(直径)をJとし、閉塞部160の外径(直径)をKとし、スプライン部120の外径(スプライン121における歯先円の直径)をL(図4も参照)とし、スプライン部120の外径(スプライン121における歯底円の直径)をM(図4参照)とし、ラック部122の外径(歯先円の直径)をNとする。前述したように、ラック部122の外周面のラック歯形成領域130には、ラック歯123が形成されているのだが、ここでの外径Nは、ラック歯123の歯先円の直径(換言すれば、軸方向から見たラック部122の輪郭の直径)を指している。また、スプライン部120の外径(歯先円の直径)Lは、第2係合部73の内径(スプライン75における歯底円半径)とほぼ同じに(または僅かに小さく)なっている(図5参照)。そして、スプライン部120の外径(歯底円の直径)Mは、第2係合部73の内径(スプライン75における歯先円半径)とほぼ同じに(または僅かに小さく)なっている(図5参照)。
【0058】
そして、先程定義したこれらの直径J、K、L、M、Nの大小関係は、J>K>L>M>Nとなっている。
図6(a)は、図3のB−B線に沿う断面図であり、図6(b)は、図6(a)の要部の拡大図である。
そして、図6に示すように、シフトセレクト軸15は、ハウジング22の外方であって通過孔104の近傍の分割位置Pにおいて、ハウジング22側の第1軸161と、シフトレバー16側の第1軸162とに分割可能である。第1軸161は、スプライン部120、ラック部122および閉塞部160を含んでいる。第2軸162は、シフトレバー16を含んでいる。
【0059】
第1軸161において分割位置Pを区画する部分には、径方向外側へ張り出した環状の第1フランジ部163が一体的に設けられている。第2軸162において分割位置Pを区画する部分には、径方向外側へ張り出した環状の第2フランジ部164が一体的に設けられている。第1フランジ部163および第2フランジ部164のそれぞれの外径は、ほぼ同じである。第1フランジ部163および第2フランジ部164のそれぞれの対向面が、分割位置Pとなる。
【0060】
第2フランジ部164において、周方向に等間隔を隔てた複数箇所(ここでは、4箇所であり、後述する図8B参照)の位置には、第2フランジ部164を厚さ方向(軸方向M4)に貫通する貫通孔165が1つずつ形成されている。第1フランジ部163において、周方向で貫通孔165と一致する位置には、第1フランジ部163を厚さ方向(軸方向M4)に貫通する貫通孔166が形成されている。第1フランジ部163において貫通孔166を区画する内周面には、ねじ部167が形成されている。また、第1フランジ部163における前記対向面(図6における左端面)において貫通孔166よりも径方向内側の円中心位置には、軸方向M4に沿って少し窪む凹部163Aが形成されている。第2フランジ部164における前記対向面(図6における右端面)において貫通孔165よりも径方向内側の円中心位置には、軸方向M4に沿って少し突出する凸部164Aが形成されている。
【0061】
第1軸161と第2軸162とを組み合せてシフトセレクト軸15を完成させる際、第1フランジ部163および第2フランジ部164のそれぞれの対向面を軸方向M4に沿って突き合わせ、第2フランジ部164の凸部164Aを第1フランジ部163の凹部163Aに対して嵌め込む。次いで、第2フランジ部164の各貫通孔165に対して、第1フランジ部163とは反対側からボルト168を挿通すると、ボルト168のねじ部が第1フランジ部163において対応する貫通孔166に挿通されてねじ部167に噛合する。これにより、第1軸161と第2軸162とが、芯出しされて同心状になり、第1フランジ部163および第2フランジ部164において連結(一体化)され、1本のシフトセレクト軸15が完成する。なお、第1フランジ部163および第2フランジ部164の一方の前記対向面に、周方向一箇所で軸方向M4に突出する棒状の突起を設け、他方の前記対向面における周方向一箇所に挿通穴(後述する図8Cにおいて符号125を付している)を形成し、当該突起を当該挿通穴125に挿通することで、第1フランジ部163と第2フランジ部164とを周方向において位置合わせしてもよい。
【0062】
図7は、図6に比較例を適用した図である。
図7を参照して、図6の場合と異なり、第1フランジ部163を、単品のリング状部材として、第1軸161から分離可能に構成することが考えられる。この場合、第1軸161における分割位置P側端部は、先端(図7における左端)に向かうに連れて階段状に縮径されていて、当該端部において直径が変化する部分には、段付き169が形成されている。また、この端部において、段付き169よりも先端側の外周面には、ねじ部170が形成されている。そして、第2軸162の第2フランジ部164の前記対向面には、階段状に縮径しながら窪む凹部126が形成されている。
【0063】
このような図7の場合、第1軸161に対してリング状の第1フランジ部163を外嵌する。第1フランジ部163が段付き169に当接した状態で、ナット171を第1軸161に対して外嵌してねじ部170に組み付けると、第1フランジ部163と第1軸161とが一体化される。この状態で、第2軸162の第2フランジ部164を第1フランジ部163に突き合わせる。この際、第2フランジ部164の前記対向面における凹部126において、対向面に近い(浅い)部分に、ナット171が収容され、対向面から遠い(深い)部分に、第1軸161の先端が収容される。次いで、第2フランジ部164の各貫通孔165に対して、第1フランジ部163とは反対側からボルト168を挿通すると、ボルト168のねじ部が第1フランジ部163において対応する貫通孔166に挿通されてねじ部167に噛合する。これにより、第1軸161と第2軸162とが、芯出しされて同心状になり、第1フランジ部163および第2フランジ部164において連結されてシフトセレクト軸15が完成する。
【0064】
図7の場合には、第1軸161と、第1フランジ部163単体と、ナット171と、第2軸162とを組み付けることで、第1軸161と第2軸162とを芯出しすることができる。しかし、この場合、第1軸161の第1フランジ部163側、つまり、閉塞部160が、本実施形態(図6参照)と比べて相対的に細くなり、スプライン部120やラック部122が閉塞部160(つまり通過孔104)よりも大径になってしまう。そのため、メンテナンス等のためにシフトセレクト軸15単体をハウジング22から取り外したくても、スプライン部120が通過孔104を通過できないので、シフトセレクト軸15全体を通過孔104から引き出すことはできず、ハウジング22を分解しなければ、第1軸161全体を取り外せない。
【0065】
このような図7の場合とは異なり、図6の場合には、(第1フランジ部163が一体化された)第1軸161と(第2フランジ部164が一体化された)第2軸162との2部品だけでこれらの軸の芯出しをするため、シフトセレクト軸15において分割位置P側の閉塞部160が比較的大径で高い剛性(耐久性)を有している。そのため、第1軸161と第2軸162とを連結する際にこれらの軸の間に別の部品(前述した第1フランジ部163単体やナット171)を介在させなくても、連結状態の第1軸161および第2軸162を高精度に芯出しすることができる。これにより、部品点数削減による製造コストの低下を図ることができる。また、閉塞部160を大径にすれば、その分、閉塞部160を軸方向において短くすることができ、閉塞部160(換言すれば、シフトセレクト軸15全体)の軽量化を図ることもできる。
【0066】
具体的には、図8A〜図8Dを参照して、完成状態(図8A参照)にある変速駆動装置3において、シフトセレクト軸15単体を取り出す場合、まず、ボルト14を取り外して、図8Bに示すように、取付ステー18をハウジング22から取り外す。この際、必要に応じて、シフトレバー16を第2軸162から取り外す。
次いで、ボルト168を取り外して第1軸161と第2軸162とを分離し、図8Cに示すように第1軸161から第2軸162を取り外す。
【0067】
最後に、図8Dに示すように、第1軸161を通過孔104に通して、通過孔104からハウジング22の外に引き出す。この際、必要に応じて、キャップ100を第1軸161から取り外したり(図5参照)、ロックボール106を閉塞部160の係合溝107から外したりしてから(図5参照)、第1軸161を引き出す。これにより、ハウジング22に対するシフトセレクト軸15の離脱が完了する。なお、以上の説明では、取付ステー18、第1軸161および第2軸162を1つずつ分離する形でシフトセレクト軸15をハウジング22から取り出したが、取付ステー18、第1軸161および第2軸162をまとまった状態で、ハウジング22から取り出してもよいし、第1軸161および第2軸162をまとまった状態で、ハウジング22から取り出してもよい。
【0068】
以上のように、ハウジング22内側へ通過孔104から遠い順番で、ラック部122とスプライン部120とが同軸状で一体化されたシフトセレクト軸15において、前述したJ>K>L>M>Nの関係(図4および図5参照)により、スプライン部120およびラック部122は、シフトセレクト軸15(軸部15A)より大径であるものの、通過孔104および閉塞部160より小径である。そして、ラック部122は、スプライン部120(換言すれば、スプライン部120に対して外嵌される第2係合部73の内径)より小径である。
【0069】
そのため、シフトセレクト軸15を通過孔104からハウジング22の外へ取り出す際、シフトセレクト軸15では、閉塞部160およびスプライン部120がハウジング22(前述した軸ホルダ116)における通過孔104の縁に引っ掛かることはなく、さらに、ラック部122が第2係合部73の内周縁(スプライン75の歯先)およびハウジング22における通過孔104の縁の両方に引っ掛かることはない。よって、シフトセレクト軸15(第1軸161)を、円滑に、通過孔104に通してハウジング22から取り外す(離脱させる)ことができる。その結果、シフトセレクト軸15の取り外し性の向上を図ることができる。
【0070】
なお、以上に説明した取り外しの手順とは逆の手順(図8D→図8C→図8B→図8Aの手順)によって、シフトセレクト軸15を円滑にハウジング22に組み付ける(装着する)ことができる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0071】
3…変速駆動装置、15…シフトセレクト軸、16…シフトレバー、22…ハウジング、73…第2係合部、104…挿通孔、120…スプライン部、121…スプライン、122…ラック部、123…ラック歯、160…閉塞部、161…第1軸、162…第2軸、M4…軸方向、P…分割位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトレバーをセレクト動作およびシフト動作させるための変速駆動装置であって、
前記シフトレバーが連結された軸状体であり、軸方向にスライドすることで前記シフトレバーをセレクト動作させ、軸回りに回転することによって前記シフトレバーをシフト動作させるシフトセレクト軸と、
前記シフトレバーが外にはみ出た状態で前記シフトセレクト軸を着脱可能に収容するとともに、着脱される前記シフトセレクト軸を通過させるための丸い通過孔が形成されたハウジングと、
前記シフトセレクト軸より大径かつ前記通過孔より小径であって外周面にスプラインが形成された円筒体であり、前記ハウジング内側へ前記通過孔から離れた位置において、前記シフトセレクト軸に対して同軸状で一体化されており、前記スプラインとスプライン嵌合するリングが外嵌されていて、前記シフトセレクト軸を軸回りに回転させるための駆動力を前記リングから受けるスプライン部と、
前記シフトセレクト軸より大径かつ前記スプライン部より小径の円筒体であり、前記スプライン部に比べて前記ハウジング内側へ前記通過孔から離れた位置において、前記シフトセレクト軸に対して同軸状で一体化されており、外周面にラック歯が形成されていて、前記シフトセレクト軸を軸方向にスライドさせるための駆動力を受けるラック部と、を含む、変速駆動装置。
【請求項2】
前記スプライン部より大径の円筒体であり、前記シフトセレクト軸に対して同軸状で一体化されており、前記通過孔を塞ぐ位置に配置される閉塞部をさらに含み、
前記シフトセレクト軸は、前記ハウジング外の所定の分割位置において、第1軸と、第2軸とに分割可能である、請求項1記載の変速駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【公開番号】特開2013−100860(P2013−100860A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244568(P2011−244568)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】