説明

外力検出インタフェースの故障検知方法

【課題】エンドエフェクタを力覚センサで可動体に固定した外力検出インタフェースの力覚センサの故障を検出する方法を提供する。
【解決手段】剛性を有するエンドエフェクタ10が力覚センサ25、26によって可動体30に拘束され、エンドエフェクタ10に作用する外力が力覚センサ25、26の応答値から算出される外力検出インタフェースの力覚センサの故障検出方法であって、応答チャンネルの数が冗長性を有する力覚センサ25、26でエンドエフェクタ10を可動体30に拘束し、正常な力覚センサの応答値ベクトルが取り得る超平面に外力検出時の力覚センサ25、26の応答値ベクトルを拘束したときの超平面上の理論値と、当該応答値ベクトルとの偏差を求め、この偏差の大きさに基づいて、誤った応答値を応答する力覚センサのチャンネルを特定する。また、誤差を含むセンサ応答値から正しい外力を推定することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットやマニピュレータ等に作用する外力を検出する外力検出インタフェースの故障検知方法に関し、外力検出インタフェースのセンサの故障を検知し、正しい外力を推定できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
人間支援ロボットは、医療・福祉の現場や家庭内作業など、多くの分野で応用が期待されている。こうした人間と接触する環境では、ロボットの動きにより人間に危険が及ぶことがないように十分な安全対策が必要であり、そのためには、人間などへの接触を的確に感知する手段が欠かせない。
【0003】
本発明者等は、図14に示すように、剛性を有する甲殻型カバー21を、力覚センサ22、23、24を介してロボットやマニピュレータ等の可動体20に固定し、甲殻型カバー21に作用する外力の大きさ及び作用点を力覚センサ22、23、24で検出する外力検出インタフェースを開発し、下記特許文献1に示している。
このインタフェースでは、例えば、甲殻型カバー21を1個の6軸力覚センサ(x、y、z方向の力成分、及び、x、y、z方向のモーメント成分が測定可能)で支持する場合、甲殻型カバー21の幾何形状や力覚センサの位置情報が既知であれば、6種類の測定データ中の5種類の測定データを用いて、甲殻型カバー21に作用する外力の大きさ及び作用点を検出することができる。
【0004】
また、図14(d)に示すように、甲殻型カバー21を3個の力覚センサ22、23、24で支持する場合は、甲殻型カバー21の幾何形状や力覚センサ22、23、24の位置情報が既知であるとき、力覚センサ22、23、24によって測定可能な軸数の合計が5軸以上であれば、甲殻型カバー21のあらゆる位置に作用する外力の大きさ及び作用点を求めることができる。例えば、力覚センサ22及び力覚センサ23が2軸方向の測定機能を有し、力覚センサ23が1軸方向の測定機能を有していれば、合計5種類の測定データが得られるため、外力の大きさ及び作用点が検出できる。
このように、力覚センサを用いて甲殻型カバーを可動体に固定した外力検出インタフェースは、簡単な構成で外力の検出が可能であり、ロボットやマニピュレータの全身を甲殻型カバーで覆うことにより、ロボットやマニピュレータの全身触覚化が容易に実現できる。
【0005】
しかし、センサは衝撃などで故障する場合がある。
下記特許文献2には、こうした故障を、センサを冗長化して検出する構成が示されている。同文献に記載された装置は、基台部材と、この基台部材に対して可動可能なエンドエフェクタと、エンドエフェクタを基台部材に連結する複数の調節可能リンクと、各調節可能リンクの状態を検知するために各調節可能リンクに付随したセンサとを備えるロボットであって、基台部材とエンドエフェクタとの間に1個の追加センサを接続し、それによってセンサの故障を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−162599号公報
【特許文献2】特開2007−520361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
甲殻型カバー(エンドエフェクタ)を力覚センサで可動体に固定した外力検出インタフェースの場合も、故障したセンサから誤った信号が出力されると、制御系が不安定化・暴走する危険性を十分に有している。
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、エンドエフェクタを力覚センサで可動体に固定した外力検出インタフェースの力覚センサの故障を検出し、外力を推定する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、剛性を有するエンドエフェクタが力覚センサによって可動体に拘束され、エンドエフェクタに作用する外力が力覚センサの応答値から算出される外力検出インタフェースの力覚センサの故障検出方法であって、応答チャンネルの数が冗長性を有する力覚センサでエンドエフェクタを可動体に拘束し、正常な力覚センサの応答値ベクトルが取り得る超平面に外力検出時の力覚センサの応答値ベクトルを拘束したときの超平面上の理論値と、当該応答値ベクトルとの偏差を求め、この偏差の大きさに基づいて、誤った応答値を応答する力覚センサのチャンネルを特定することを特徴とする。
【0009】
センサの応答値ベクトルは、本来、外力値に応じてそのベクトル空間上のあらゆる値を取り得るが、この外力検出インタフェースのように複数のセンサがセンサのチャンネル数よりも自由度の低い剛体のエンドエフェクタを支持する場合には、エンドエフェクタが力覚センサを機構的に拘束することになり、センサ応答値ベクトルの取り得る値は、より低次元に限定される。例えば、m個の3軸力覚センサでエンドエフェクタを支持する場合を考えると、エンドエフェクタに生じる6次元の外力パターンに対して一対一対応でセンサ応答値が決まる場合、センサ応答値ベクトルの集合は3×m次元空間内の6次元超平面上に存在することになる。センサ応答値ベクトルFdが大きな誤差を含む場合には、センサ応答値ベクトルFdが6次元の超平面から離れるため、センサ応答値ベクトルFdに対応する超平面上の理論値(Fdを超平面に拘束したときの超平面上の理論値)とFdとの偏差Ffが大きくなる。そのため、この偏差Ffの大きさに基づいて、誤った応答値を応答する力覚センサのチャンネルを特定することができる。
【0010】
また、本発明の故障検出方法は、力覚センサで可動体に拘束されたエンドエフェクタに既知の外力を加えて、力覚センサの応答値ベクトルを超平面に拘束するための逆変換行列Tinvを求める第1のステップと、この逆変換行列Tinvを用いて、外力検出時の力覚センサの応答値ベクトルFdを超平面に拘束し、超平面上の理論値Fiを求める第2のステップと、応答値ベクトルFdと理論値Fiとの偏差Ffを求める第3のステップと、各チャンネルjに対して、Ff=QFdで表されるQの要素qjと偏差Ffとの内積Ff・qjを計算する第4のステップと、この内積Ff・qjが閾値を超えるチャンネルjを故障と判定する第5のステップと、を備えることを特徴とする。
【0011】
センサ応答値ベクトルFdは、原理的には以下の(数1)により、6次元の外力Γのパターンに対して1対1対応で定められる。
【数1】

逆変換行列Tinvは、応答値ベクトルFdを外力Γに変換する変換行列Tの逆変換を行う行列であり、Fdを6次元の超平面に拘束する作用を持つ。ただ、ベクトルFdの次元数は6よりも大きく、外力Γの次元数は6であるから、Tは正則の行列にならないため、Tinvは一意には定められない。そのため、エンドエフェクタに既知の外力を付加し、そのときの力覚センサの応答値ベクトルを基に逆変換行列Tinvを導出する。また、センサの故障でj番目のチャンネルが誤った値を示す際には、偏差Ffがqjにほぼ比例した値を取ることになる。従って、各チャンネルに対して内積Ff・qjを計算し、その値が閾値を上回るか否かを判別することで故障箇所のチャンネルが特定できる。
【0012】
また、本発明の故障検出方法では、故障と判定したチャンネルjの応答値を含む力覚センサの応答値ベクトルから正しい応答値を推定するため、チャンネルjのセンサ応答値を理論値Fiの要素jの値で代替し、その他の要素は応答値ベクトルFdの要素のままに設定した推定値Fcを求める第6のステップと、推定値Fcと逆変換行列Tinvとを用いて理論値Fiを求める第7のステップと、推定値Fcの要素jの値を第7のステップで求めた理論値Fiの要素jの値で代替する第8のステップと、を備えるようにしても良い。
第6のステップでセンサ応答値の代替値を求める理論値Fiは、故障によって生じた誤差を含むFdに基づいて算出したものであるため、正確ではない。そこで、推定値Fcを基に理論値Fiを再度計算し、その値を推定値として故障箇所の応答値に代入し、より正確な推定値Fcを新たに得る。また、この過程を反復することで故障箇所のセンサ応答値がさらに正確に導出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、力覚センサを用いてエンドエフェクタを可動体に固定した外力検出インタフェースの力覚センサに発生する故障を検出することができ、また、故障によって生じた誤差を含むセンサ応答値から正しい外力を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ロボットアームに装着した外力検出インタフェースを示す図
【図2】図1の外力検出インタフェースの内部構造を示す図
【図3】本発明の故障検出方法を行う制御部の構成を示す図
【図4】超平面を示す図
【図5】本発明の故障検出方法での較正用データの取得手順を示すフロー図
【図6】本発明の故障検出方法での故障チャンネルを特定する手順を示すフロー図
【図7】本発明の外力推定方法の手順を示すフロー図
【図8】シミュレーション結果を示す図(その1)
【図9】シミュレーション結果を示す図(その2)
【図10】シミュレーション結果を示す図(その3)
【図11】シミュレーション結果を示す図(その4)
【図12】シミュレーション結果を示す図(その5)
【図13】シミュレーションに用いたモデルを示す図
【図14】従来の外力検出インタフェースを示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の外力検出インタフェースをロボットアームに装着した状態を示している。図2に示すように、この外力検出インタフェースは、剛性を有するエンドエフェクタ10と、エンドエフェクタ10をロボットアーム30に支持する3個の3軸力覚センサ25、26、27とを備えている(力覚センサ27は、ロボットアーム30の力覚センサ26を取り付けた面の反対側の面に取り付けられているため、図面上は見えない。)。エンドエフェクタ10は、アクリル板で構成された甲殻型カバーである。
エンドエフェクタ10に外力が作用すると、図3に示すように、力覚センサ25、26、27の9(=3軸×3個)チャンネルのセンサ応答値が制御部40に送られる。制御部40の故障検知部41は、このセンサ応答値ベクトルから、故障のために誤ったセンサ応答値を出力したチャンネルを検出する。また、制御部40の外力推定部42は、このセンサ応答値ベクトルを基に正しい外力を推定する。
エンドエフェクタ10に外力が作用した場合にエンドエフェクタ10に生じる3軸の外力と3軸の外力モーメントとを3個の3軸力覚センサ25、26、27で計測する。力覚センサ25、26、27の合計チャンネル数は9であるから、力覚センサ25、26、27は、冗長なチャンネルを有している。
【0016】
外力検出インタフェースのエンドエフェクタ10に発生する外力及びモーメントの総和をそれぞれFe、Meとおくと、エンドエフェクタ10に作用する力及びモーメントの平衡はそれぞれ次の(数2)(数3)で表される。
【数2】

【数3】

ここで、Fsiはi 番目の支持点に生じる力を表し、理想的にはFsiがセンサ出力と一致する。ただし、作用反作用の関係によりセンサ出力値のベクトルはFsiとは逆向きになる。また、Po は外力モーメントの基準座標を表し、Poiはi 番目の支持点の座標を表す。
(数2)と(数3)は、次式(数4)により統一的に表記される。
【数4】

Γ、T、Fdは(数5)(数6)(数7)で表される。
【数5】

【数6】

【数7】

ここで、tpiはベクトル(Psi−Po)との外積を計算するための歪対象行列であり、次の(数8)で表される。
【数8】

また、mはエンドエフェクタ10を支持する3軸力覚センサの数を表し、この外力検出インタフェースでは3である。
(数4)は、センサ応答値ベクトルFdが構成する3×m次元のベクトル空間を6次元の力/モーメント空間へと一次写像する式となる。
【0017】
センサの応答値ベクトルは本来、外力値に応じてそのベクトル空間上のあらゆる値を取りうるものである。しかし、この外力検出インタフェースのように複数のセンサ25、26、27がセンサのチャンネル数よりも自由度の低い剛体のエンドエフェクタ10を支持する場合には、エンドエフェクタ10が力覚センサ25、26、27を機構的に拘束することになり、センサ応答値ベクトルの取り得る値は、より低次元に限定される。エンドエフェクタ10に生じる6次元の外力パターンに対して一対一対応でセンサ応答値が決まる場合、センサ応答値ベクトルの集合は3×m次元空間内の6次元超平面上に存在することになる。
【0018】
超平面は、n次元の空間を二つの部分に分けるn−1次元の図形であり、一方向の大ききさが0である。
図4は、簡易化のため3×m次元空間内の3次元のみを表示し、そのうちの2次元超平面に拘束される応答値を表している。この超平面上にセンサ応答値ベクトルが存在しない場合は、エンドエフェクタ10の機構的拘束条件を満たさない値が出力されていることから、いずれかの力覚センサ25、26、27が誤った値を出力していると判断される。
【0019】
制御部40の故障検知部41は、この特性に着目し、故障検知及び故障箇所の特定を行う。
まず、センサ応答値ベクトルFdは、原理的には(数1)により6次元の外力パターンに対して1対1対応で定められる。
【数1】

invは、変換行列Tの逆変換を行うための行列であり、Fdを6次元の超平面に拘束する作用を持つ。ベクトルFdの次元数は6よりも大きく、Tは正則の行列にならないため、Tinvは一意には定められない。また、Tinvはエンドエフェクタ10を各力覚センサ25、26、27で固定した際の内力等によってその値が決まる。そのため、Tinvを導出するためには、エンドエフェクタ10が固定された後に較正用の実験データをとる必要がある。
【0020】
そこで、較正用のデータを確保するため、n種類の異なる既知の外力を加える実験を行う。その時のi 番目の外力ベクトルがΓiで表されるとすると、較正用の外力データは次式(数9)のように表される。
【数9】

すると、次式(数10)(数11)が成立つ。
【数10】

【数11】

ただし、Fdiはi番目の外力を付加したときの力覚センサ25、26、27の出力を表している。
6種類以上の外力を加えると、そのデータに基づいて次式(数12)(数13)により逆変換行列Tinvが導出される。
【数12】

【数13】

擬似逆行列の性質により、(数12)で得られた行列は計測値に対する最小二乗近似解となる。従って、外力のパターン数を増やし、較正用のデータを多く取得することによって、Tinvの計算精度を向上させることができる。
以上の理論に基づき較正実験を実施し、予め導出しておいた逆変換行列Tinvを用いて故障検知を行う。先に述べたようにFdは原理上は6次元の超平面に拘束され、その理想的な値(理論値)Fiは次式(数14)により導出される。
【数14】

【0021】
しかし,実際には様々な種類の誤差に起因して、次式(数15)に示すように、理想値(理論値)との偏差Ff が存在する。
【数15】

ここで、(数15)に(数14)を代入すると、次式(数16)が得られる。
【数16】

ただし、Qは次式(数17)で表される。
【数17】

dが大きな誤差を含む場合には6次元の超平面から離れるため、Ffが大きくなる。特にセンサの故障により、j 番目のチャンネルが誤った値を示す際には、Ffがqiにほぼ比例した値を取ることになる。
従って、Ff・qjを各チャンネルに対して計算し、その値が閾値を上回るか否かを判別することでセンサ故障の判別及び故障箇所の特定が可能となる。
【0022】
故障検知部41がセンサの故障を検知する手順を、図5及び図6のフロー図に示している。
図5は、事前準備として、較正用の逆変換行列Tinvを求める手順を示している。
1番目の既知外力Γjをエンドエフェクタ10に加え(ステップ1、ステップ2)、そのときのセンサ出力Fdjを取得する(ステップ3)。十分な精度の較正用データが得られるように各種の既知外力Γjをエンドエフェクタ10に加え(ステップ4、ステップ5、ステップ2)、各種の既知外力Γjに対応するセンサ出力Fdjを取得する(ステップ3)。既知外力Γjの入力が終了すると(ステップ4でYes)、(数12)(数13)から逆変換行列Tinvを導出する(ステップ6)。
【0023】
図6は、外力検出インタフェースで外力を検出する際に、各力覚センサ25、26、27の故障を検出する手順を示している。
各力覚センサ25、26、27の各チャンネルの応答値を取得し(ステップ11)、(数14)により超平面上の理論値Fiを算出する(ステップ12)。次に、(数15)により、理論値Fiと実際のセンサ応答値Fdとの偏差Ffを求め(ステップ13)、偏差Ffと、(数17)で表されるQの各チャンネルに対応する成分qjとの内積を計算し(ステップ15)、その値と閾値とを比較する(ステップ16)。Ff・qjの値が閾値を超える場合、そのチャンネルを故障チャンネルと判定する(ステップ17)。
こうした処理を全てのチャンネルに対して行い(ステップ18、ステップ19、ステップ15〜17)、全ての故障チャンネルの検出が終了すると(ステップ18でYes)、制御部40の外力推定部42が、正しい外力の推定を行う(ステップ20)。
【0024】
図7のフロー図は、外力推定部42の処理手順を示している。
故障チャンネルjのセンサ応答値を理論値Fiで代替し、その他の要素は実際のセンサ応答値とする推定値Fcを設定する。チャンネルjの理論値は、(数15)及びFf・qjの値から(数18)によって求める(ステップ21)。
【数18】

推定値Fcは(数19)のようになる。
【数19】

このとき用いる理論値Fiは、故障によって生じた誤差を含むFdに基づいて求められているため、必ずしも正確ではない。そこで、推定値Fcを用いて、(数14)により理論値Fiを再度計算し(ステップ22)、推定値Fcのチャンネルjに対応する要素を、再計算した理論値Fiの該当する要素で代替する(ステップ23)。
また、こうした過程を所要回数反復し(ステップ24)、推定値Fcの精度を高める。
【0025】
図8〜図12は、故障検知部41及び外力推定部42の処理をシミュレーションした結果について示している。このシミュレーションは、簡易化のために2次元平面上で実施した。
図13は、シミュレーションに用いた外力検出インタフェースのモデルを示しており、円形のエンドエフェクタ11を3つの2軸力覚センサ28で支持する構造を有している。3つの2軸力覚センサ28はx軸、y軸方向の力を計測するものであり、中央の土台31に固定されている。
エンドエフェクタ11はx軸、y軸及び回転方向にそれぞれ微小変動する。回転角度をμとする。一方、計測するチャンネルの数は2軸×3で合計6であり、3自由度分の冗長性を有する。エンドエフェクタ11は剛体であり、これを支持する2軸力覚センサ28は、それぞれ剛性の高いばねとみなす。ただし、ばねはx軸、y軸方向にそれぞれ剛性kを持ち、ばねとエンドエフェクタ11の接点周りにモーメントは生じないものとする。
【0026】
外力を、
ex=1.0×sin(t)
で与えたときの結果を図8に示し、
ey=1.0×cos(1.3t)
で与えたときの結果を図9に示し、
eθ=0.1×sin(0.1t)
で与えたときの結果を図10に示している。
図8〜図10の各図には、センサ28から求められる外力応答値(response value)、外力推定部42で推定した外力推定値(estimated value)及び実際の外力値(true value)を重ねて示している。ただし、故障を模擬するため、外力応答値には、5秒置きに2秒間、様々な誤ったセンサ応答値を出力させている。
故障の発生していないときには外力応答値、 外力推定値がともに実際の外力値と一致しているが、故障が発生すると外力応答値と実際の外力値との偏差が大きくなる。その時、外力推定値は、ほとんど誤差なく実際の外力値を追従していることから,故障発生時の外力推定が正しく機能していることが確認された。
例外として、20秒から23秒の間に外力推定値が0.1N程度の誤差を含んでいることが確認された。このとき与えた故障入力は、センサの実際の応答値とさほど偏差がなく、故障と認識されなかったため、センサの応答値がそのまま推定値に適用された。つまり、認識できないような小さな誤差の故障に対しては、それに比例した小さな誤差が残ることになる。
【0027】
また、図11は、外力として、エンドエフェクタ上の異なる位置に1kgの錘を3回載せ、それと共に、15−17秒、20−22秒、及び、25−27秒の間、故障を模擬する信号を一つのチャンネルに与えたときの、外力推定を行わない状態での外力応答値(a)及びモーメント応答値(b)を示している。
一方、図12は、図11の場合において、外力の推定を行った状態を示している。
図11及び図12の結果からも、故障発生時の外力推定が正しく機能していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、ロボット、マニピュレータ、工作機械、車椅子、乗物などに広く利用可能な外力検出インタフェースの故障検出や外力推定を行うことができ、この外力検出インタフェースの有用性をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0029】
10 エンドエフェクタ
11 エンドエフェクタ
20 可動体
21 甲殻型カバー
22 力覚センサ
23 力覚センサ
24 力覚センサ
25 3軸力覚センサ
26 3軸力覚センサ
27 3軸力覚センサ
28 2軸力覚センサ
30 ロボットアーム
31 土台
40 制御部
41 故障検知部
42 外力推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性を有するエンドエフェクタが力覚センサによって可動体に拘束され、前記エンドエフェクタに作用する外力が前記力覚センサの応答値から算出される外力検出インタフェースの力覚センサの故障検出方法であって、
応答チャンネルの数が冗長性を有する力覚センサで前記エンドエフェクタを前記可動体に拘束し、
正常な力覚センサの応答値ベクトルが取り得る超平面に外力検出時の力覚センサの応答値ベクトルを拘束したときの前記超平面上の理論値と、当該応答値ベクトルとの偏差を求め、
前記偏差の大きさに基づいて、誤った応答値を応答する力覚センサのチャンネルを特定することを特徴とする外力検出インタフェースの力覚センサの故障検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の故障検出方法であって、
前記エンドエフェクタに既知の外力を加えて、前記力覚センサの応答値ベクトルを前記超平面に拘束するための逆変換行列Tinvを求める第1のステップと、
前記逆変換行列Tinvを用いて、外力検出時の力覚センサの応答値ベクトルFdを前記超平面に拘束し、前記超平面上の理論値Fiを求める第2のステップと、
前記応答値ベクトルFdと前記理論値Fiとの偏差Ffを求める第3のステップと、
各チャンネルjに対して、Ff=QFdで表されるQの要素qjと偏差Ffとの内積Ff・qjを計算する第4のステップと、
前記内積Ff・qjが閾値を超えるチャンネルjを故障と判定する第5のステップと、
を備えることを特徴とする外力検出インタフェースの力覚センサの故障検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の故障検出方法であって、故障と判定したチャンネルjの応答値を含む前記力覚センサの応答値ベクトルから正しい応答値を推定するため、
前記チャンネルjのセンサ応答値を前記理論値Fiの要素jの値で代替し、その他の要素は応答値ベクトルFdの要素のままに設定した推定値Fcを求める第6のステップと、
前記推定値Fcと前記逆変換行列Tinvとを用いて理論値Fiを求める第7のステップと、
前記推定値Fcの要素jの値を前記第7のステップで求めた理論値Fiの要素jの値で代替する第8のステップと、
を備えることを特徴とする外力検出インタフェースの力覚センサの故障検出方法。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−255457(P2011−255457A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131795(P2010−131795)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】