説明

外科用刃物類とその製造方法

【課題】 過剰エッチングを防止してさらに刺通抵抗等を下げることができる外科用刃物類とその製造方法を提供する。
【解決手段】 ファイバー状組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の丸棒材15から形成される外科用刃物類の製造方法であって、前記ファイバー状組織が中心軸a方向になるように、前記丸棒材15に、刃物類の生体組織を刺通又は切開する作用部16を形成する工程と、前記作用部に前記外科用刃物類に研磨痕24を形成する工程と、研磨後の前記作用部23にエッチング加工する工程と、を有し、該エッチング加工を、前記作用部に複数のクレータ26を表出させ、かつ、前記ファイバー状組織の方向に沿った筋目が形成されない程度とし、その上からシリコーンコーテイングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用縫合針や外科用ナイフなどの外科用刃物類とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に手術用の縫合針には、断面形状が円形で、鋭利な先端を有する丸針と、断面が三角形などの多角形で、先端が鋭利に尖った角針とがある。丸針も角針も、素材としては、オーステナイト系ステンレス鋼の丸材を使用する。オーステナイト系ステンレス鋼は、錆びないことから、手術用器具として適しているが、その反面、柔らかく、焼き入れができないという問題がある。
【0003】
そこで、オーステナイト系ステンレス鋼線材を、伸線加工して加工硬化させ、所定の硬度を得ることが行われている。このように伸線加工して加工硬化したステンレス鋼線は、その結晶構造が、鋼線の長さ方向に細長く伸びたものとなり、ファイバー状組織と称されている。
【0004】
このようなステンレス鋼線から縫合針を製造するには、以下のようにする。まず、ファイバー状組織になったステンレス鋼線を所定の長さにカットし、一方端からステンレス鋼線の軸方向に沿った止まり穴を明ける。あるいは、弾機孔を形成する。そして、他方端を研削加工により鋭利に尖らす。このとき丸針は断面が丸くなるように素材に回転を与えて研削し、角針の場合は辺ごとに分けて研削して角錐にする。その後湾曲を与えて縫合針の形状に形成する。
【0005】
丸針は、周辺の生体組織を損傷しないので、主として内臓などの縫合に使用し、角針は稜線を切刃としており、切開力が大きいことから外皮などの縫合に使用される。
【0006】
他方、外科用ナイフは、同じくファイバー状組織の鋼線を所定の長さに切断し、一端側をプレスで平らに潰し、潰した部分を別のプレス加工機でナイフの形状に成形し、研削加工によって切刃を形成してナイフとしている。
【0007】
縫合針や外科用ナイフの場合は刺通抵抗や切れ味が問題となるので、刺通抵抗の低減や切れ味の向上のため、種々の対策がなされている。
【0008】
この対策として、シリコーンを塗布することがよく行われている。シリコーン皮膜が摩擦抵抗を低下させることによるものである。
【0009】
また、特許文献1(特許第3140508号)では、縫合針の中心軸に対しほぼ直交する方向の目と、中心軸に沿った目を形成したものを提案している。これは、ファイバー状組織の結晶構造の素材にファイバー状組織の方向と直交する方向に研磨加工を加え、砥粒によりファイバー状組織の方向と直交する方向に筋目を付け、その後、電解研磨や化学研磨等の処理を施すことで、ファイバー状組織の境界をエッチングしてファイバー状の筋目を付けたものである。中心軸に沿った筋目は、ファイバー状組織の模様が電解研磨されてできたものであり、中心軸に対しほぼ直交する方向の筋目は、研磨加工時の砥粒により付けられた筋目である。このように、たてよこに筋目の入った縫合針にシリコーンを塗布して使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3140508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の特許文献1に記載の方法では、エッチングが過剰になり、針先が細くなり過ぎて曲がり易くなったり、エッジが丸まってしまったりして、却って刺通抵抗を上げてしまう可能性があるという問題がある。また、外科用ナイフについても、切刃が薄くなりすぎたり、エッジが丸まってしまったりして、切れ味が低下することが起こるという問題がある。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、安定的に過剰エッチングを防止してさらに刺通抵抗を下げることができ、切れ味の良い縫合針、または外科用ナイフなどの外科用刃物類と、その製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために本発明の外科用刃物類は、長手方向に伸びるファイバー状組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の細長材から形成される外科用刃物類であって、刃物類の生体組織を刺通又は切開する作用部に研磨痕を形成し、該研磨痕上にエッチングによって前記ファイバー状組織に沿った筋目が露出しない状態でかつ、複数のクレータが形成された状態にしたことを特徴としている。前記クレータが形成された状態にした上にシリコーンコーテイングした構成や、前記研磨痕が、前記ファイバー状組織の方向と交差する方向である構成とすることができる。ここで細長材とは、縦横比の比較的大きい素材を指し、たとえば、丸棒材、角棒材、長い板状材をコイル状に巻いたフープ材等のことを言う。
【0014】
上記の目的を達成するために本発明の外科用刃物類の製造方法は、ファイバー状組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の細長材から形成される外科用刃物類の製造方法であって、前記ファイバー状組織が長手方向になるようにして、前記材料に刃物類の生体組織を刺通又は切開する作用部を形成する工程と、前記作用部を研磨して研磨痕を形成する工程と、研磨後の前記作用部にエッチング加工する工程と、を有し、該エッチング加工を、前記作用部に複数のクレータを表出させ、かつ、前記ファイバー状組織に沿った筋目が形成されない程度としたことを特徴としている。前記研磨が、刃物類の中心軸と交差する方向に行われる構成としたり、前記クレータを表出させた上からシリコーンコーテイングする構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の外科用刃物類によれば、研磨痕を付けた後のエッチングでは、ファイバー状組織に沿った筋目が形成されない程度のエッチングにしたので、針先や切刃の先端が細くなり過ぎることがなく、刺通抵抗が低く切れ味のよい縫合針やナイフなどの外科用刃物類を得ることができる。
【0016】
また、作用部の表面に凹状のクレータが点在しているので、作用部にシリコーンを塗布すると、クレータ内にシリコーンが入り込み、シリコーン皮膜を保持する力が大きくなり、シリコーン皮膜が剥がれにくくなって、さらに、縫合針では刺通抵抗が下がり、ナイフでは、切れ味が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)〜(f)は、本発明の外科用刃物類としての丸棒材から形成されたナイフの製造方法を説明する図である。
【図2】(a)〜(e)は、本発明の外科用刃物類としての縫合針の製造方法を説明する図である。
【図3】本発明のエッチングを説明する図で、(a)はエッチング前の縫合針の作用部を示す拡大図、(b)はエッチングが適度にされた場合の作用部を示す拡大図、(c)はエッチングが過度にされた場合の作用部を示す拡大図である。
【図4】(a)〜(e)は、本発明の外科用刃物類としてのフープ材から形成されたスリットナイフの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1により、本発明の外科用刃物類としてのナイフの製造方法を説明する。まず、図1(a)に示すように細長材としての丸棒材15を所定の長さに切断する。この丸棒材15としては、主としてSUS304、302、420等のオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、太い丸棒材を複数回の伸線加工を経て、丸棒材15の長手方向、即ち中心軸aの方向に細長いファイバー状の組織にしたものである。
【0020】
なお、ファイバー状の組織は、通常は視認できるものではなく、たとえば、エッチングをした場合のように、浸食によってファイバー状の組織に沿った凹凸の筋目が発生することで、視認可能となるものである。
【0021】
次に図1(b)に示すように、先端をプレス加工で平らにつぶし、点線に示すように余分の部分をカットしてナイフのおおよその形状にする。そして、図1(c)、(d)に示すように、平らに潰した面15を両側から研磨し、平面にするとともに、厚さtを決める。このとき、研磨方向を中心軸aに対して交差させると、エッチング工程において、ファイバー状組織に沿った筋目が発生したか否かの判断が容易にできる。特に研磨方向をファイバー状組織の方向に対して90゜交差させると、その効果が大きい。また、次に、(e)に示すように、周辺に研磨を掛けて粗研削面11を形成する。その後、図1(f)に示すように、粗研削面11の周囲を研磨して仕上面11’を形成し、鋭利な切刃を形成する。
この研磨によりナイフの形状が正確に決められる。また、研磨方向は、切刃に直交する方向で、ファイバー状組織の方向と交差する場合もあるが、切刃の先端部のようにファイバー状組織の方向と平行になる場合もある。
【0022】
上記の構成において、切刃が形成された先端の平らな刃部は、生体組織を切開する部分であり、この部分をここでは作用部16と言うことにする。この後、エッチングを行うが、これについては、後述する。
【0023】
次に、図2により本発明の外科用刃物類としての縫合針の製造方法を説明する。まず、図2(a)に示すように素材の丸棒材21を所定の長さに切断する。この丸棒材21の素材としては、ナイフと同様で、主としてSUS304、302、420等のオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、太い丸棒材を複数回の伸線加工を経て、ファイバー状の組織にしたものである。
【0024】
次に図2(b)に示すように、一端側から点線に示すように軸方向に沿って止まり穴22を形成する。この止まり穴22の形成方法は、ドリルによる方法やレーザ加工による公知の方法であり、特に限定されない。そして、図2(c)に示すように、他端側をテーパー状に形成し、作用部23(針先部)を形成する。縫合針が丸針の場合は、素材としての丸棒材21をその中心軸a回りに回転させて研削する。縫合針が三角針などの角針の場合は、プレスして多角錐にする。縫合針として使用する場合は、上記の作用部23により生体組織を刺通することになる。
【0025】
次に、図2(d)に示すように、研磨することで、中心軸aと直交する方向の研磨痕24を付ける。この研磨は、(c)で説明した作用部23を形成する研削と兼ねてもよい。また、研磨方向は、ファイバー状組織の模様の方向(中心軸aの方向)と同じ方向でもよいが、中心軸aに対して交差させると、後述するエッチング工程において、ファイバー状組織の筋目が露出したか否かの判断が容易にできる。特に研磨方向をファイバー状組織の模様に対して90゜交差させると、その効果が大きい。次に、(e)に示すように、作用部23を湾曲させ、縫合針の形状にする。
【0026】
図1(f)に示すようにナイフが形成され、図2(e)に示すように縫合針が形成されたら、エッチングを行う。この実施例では電解研磨法によるエッチングとしたが、化学研磨法によるエッチングとしてもよい。
【0027】
図3は三角縫合針を例としてエッチングを説明する図で、(a)は図2(e)に示す縫合針で、エッチングされる前の作用部23(針先部)の拡大図、(b)はエッチングが適度になされた作用部23の拡大図、(c)はエッチングが過剰にされた作用部23の拡大図である。
【0028】
電解研磨法は、電解液内に外科用刃物類(ナイフ又は縫合針)を浸漬して一方の電極とし、電解液中の離れた位置に別の電極を浸漬して両電極間に電気を通して電解させ、浸漬された外科用刃物類の表面を溶解させるものである。エッチングにより、砥粒研磨でできたバリを取ることができ、かつ、縫合針の針先や角針のエッジやナイフの切刃等を鋭利にすることができる。
【0029】
図3(a)に示す作用部23には、縫合針の中心軸aと交差する方向に研磨痕24が付いている。この実施例における研磨痕24は、ファイバー状組織の方向である中心軸aに対して90゜で交差しているが、交差角度は0〜90゜の範囲の任意でよい。0゜は中心軸aと平行ということである。ただし、交差角が0゜の場合は、エッチングにより研磨痕24が消えてファイバー状組織の筋目が露出したのを確認しにくいので、交差角は0゜より大きく、90゜に近い方が望ましい。
【0030】
エッチング前の作用部23には、針先端や稜線などの所々に、前に行われた研削工程で発生したバリ25が残っている。
【0031】
図3(b)はエッチングが適切に行われた場合の図である。電解研磨によって、バリ25は溶解して無くなっている。また、電解研磨の場合、顕微鏡的に視ると、ステンレス鋼に含まれる硫化マンガンなどの微量な不純物が原因となったり、電解時に発生するガスが表面に付着すること等によって浅いクレータ26ができているのが確認できる。化学研磨の場合には、電解研磨と同じガスによるクレータ26の他に、材料の結晶粒ごとの研磨され易い結晶粒と、そうでない結晶粒とによっても針の表面に浅い凹凸のクレータ26が形成される。また、顕微鏡で観察されるクレータ26の形状は、ファイバー状組織の中心軸aに沿った細長形状となっている。この場合、クレータ26が複数個中心軸aの方向に連続したクレータ26aとして形成されていることもある。電解研磨が強いとクレータの連続する長さが長くなるが、本例では小さいクレータが3つ連続する程度で、それ以上長いものは形成されない程度であり、クレータの長さとしては、5μm以下程度であった。
【0032】
図3(c)はエッチングが過度になされた場合を示す。作用部23に発生するクレータ26は、電解研磨時間を長くしたり、電流を大きくすると、1つ1つが26cで示すように大きくなり、通常、ファイバー状組織に沿って長く成長する。これは、図3(b)に示すクレータ26が5個以上連続した状態である。また、研磨痕24を溶解して下のファイバー状組織をエッチングし、ファイバー状組織に沿った筋目27が形成される。エッチングがこのような段階まで進むと、エッチング過剰となり、縫合針の場合には、針先23aが細くなりすぎて弱くなり、使用できなくなってしまう。また、ナイフの場合でも切刃が薄くなり、曲がってしまって切れ味が落ちたり、切れなくなったりすることになる。針先23aだけでなく、三角針などの角針の場合には、切刃となっている稜線も痩せてしまい、曲がり易くなって刺通抵抗が増大することになる。
【0033】
一方、クレータ26が作用部23のあちこちに出来始めた初期の状態では、縫合針の針先23aは鋭く尖り、ナイフの切刃も鋭利なものとなっている。また、ファイバー状組織までエッチングされず、筋目27が形成されていないので、刺通抵抗や切れ味に悪い影響は生じない。また、エッチングされた後、作用部23にシリコーンが塗布されるが、クレータ26が作用部23のあちこちにあると、シリコーンを塗布したとき、シリコーンがクレータ26内に入って固化し、シリコーン皮膜の付着力が上がり、剥がれにくくなる。したがって、クレータ26が出来始めた状態で電解研磨を停止することが望ましい。
【0034】
図4(a)から(e)は、外科用刃物類としてのスリットナイフの製造方法を説明する図である。この実施例におけるスリットナイフ30は、フープ材31から形成されたものである。
【0035】
フープ材31としては、主としてSUS304、302、420等のオーステナイト系ステンレス鋼の棒材ないし厚い板材を、複数回の延伸加工を経て加工硬化させ、所定の硬度にしてコイル巻きにしたもので、ファイバー状組織になっている。
【0036】
図4(a)は、フープ材から所定の長さの素材31を切出した状態である。図の下の矩形断面は、フープ材31の断面形状を示す。ファイバー状組織は、素材31の長手方向に沿って形成されている。
【0037】
上記の素材31をプレス加工により図4(b)に示すように、スリットナイフ30の形状にカットする。すなわち、先端にほぼ菱形の作用部32を形成し、その下方に柄部33を形成している。そして、柄部33に、図4(c)に示すように、両面を研磨し、平面にするとともに、所定の厚さにする。このとき、研磨方向を中心軸aに対して交差させると、エッチング工程において、ファイバー状組織に沿った筋目が発生したか否かの判断が容易にできる。特に研磨方向をファイバー状組織の方向に対して90゜交差させると、その効果が大きい。また、次に、(c)に示すように、周辺に研磨を掛けて粗研削面34を形成する。その後、図4(d)に示すように粗研削面34の先端に仕上面34’を研磨により形成する。この研磨によりナイフの形状が正確に決められる。また、研磨方向は、切刃に直交する方向である。この後、図3で説明したように、エッチングを行う。
【0038】
エッチングが完了したあと、(e)に示すように、作用部32と柄部33との間に所定の傾斜を与え、シリコーンコーティングを施して完了する。
【0039】
なお、図4の実施例では、作用部32の厚さは素材31の厚さのままで研磨加工により若干薄くなる程度としているが、作用部32をプレス加工によって押しつぶし、厚さを薄くしてもよい。その場合、作用部32は加工硬化を受けて素材31の硬度より高くなる。また、当然であるが、素材31の幅より作用部32の幅は広くなるので、幅の狭い素材を使用することになる。また、この実施例のスリットナイフ30は、図1の方法のように丸棒材から形成しても良いことは勿論である。
【実施例1】
【0040】
外科用刃物類として三角縫合針を、図2(a)から(e)に示すように成形し、電解研磨を行った。電解液としては、リン酸を用いた。
以下の例では、電解時間70秒、電解温度30℃、とし、電解液は条件を変える度に新しい液に交換した。
【0041】
〔電流 0.1A〕の場合
バリも取れず、クレータも生じず、エッチング前後で、殆ど変化がなかった。
【0042】
〔電流 0.2A〕の場合
僅かにバリは取れたが、殆ど変化がなかった。
【0043】
〔電流 0.4A〕の場合
バリはかなり取れた、また、若干のクレータの発生が認められた。
【0044】
〔電流 0.6A〕の場合
殆どのバリがなくなった。クレータは多数生じたが、ファイバー状組織に沿った筋目の形成は認められなかった。
【0045】
〔電流 0.8A〕の場合
殆どのバリがなくなった。クレータは0.6Aの場合より多数生じ、長さ方向に連続するものも増えたが、ファイバー状組織に沿った筋目の形成は認められなかった。
【0046】
〔電流 1.0A〕の場合
バリはなくなったが、クレータは中心軸と平行な方向に多数つながったものが発生し、ファイバー状組織に沿った筋目が形成され始めた。また、針先が細くなり、刺通力に耐えられないものとなった。
【0047】
〔電流 1.2A〕の場合
バリはなくなったが、クレータは大きなものや、中心軸と平行な方向に多数つながったものが発生し、ファイバー状組織に沿った筋目が目立つようになった。電流値が上がったため、先端に集中してエッチングが進み、針先が細くなり、刺通力に耐えられないものとなった。
【0048】
上記の結果から、電流値は0.4〜0.8Aが良く、特に、0.6Aの場合の結果が良好であった。
【0049】
また、上記の試験に合わせて行われた試験によれば、電流値は縫合針の太さにはほぼ無関係で、縫合針の太さの相違がある場合は、通電時間を変えることで対応することが望ましいことが分かった。また、電解液はリン酸の原液(50〜60%)であるが、硫酸と混ぜたりして薄めても良い。
上記は縫合針について説明したが、外科用ナイフや眼科ナイフなどの他の外科用刃物類であっても同様のことがいえる。
【符号の説明】
【0050】
11 粗研削面
15 丸棒材
16 作用部
21 丸棒材
22 止まり穴
23 作用部
24 研磨痕
25 バリ
26 クレータ
27 ファイバー状組織
a 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸びるファイバー状組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の細長材から形成される外科用刃物類であって、刃物類の生体組織を刺通又は切開する作用部に研磨痕を形成し、該研磨痕上にエッチングによって前記ファイバー状組織に沿った筋目が露出しない状態でかつ、複数のクレータが形成された状態にしたことを特徴とする外科用刃物類。
【請求項2】
前記クレータが形成された状態にした上に、シリコーンコーテイングをしたことを特徴とする請求項1に記載の外科用刃物類。
【請求項3】
前記研磨痕が、前記ファイバー状組織の方向と交差する方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の外科用刃物類。
【請求項4】
ファイバー状組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼の細長材から形成される外科用刃物類の製造方法であって、前記ファイバー状組織が長手方向になるようにして、前記材料に刃物類の生体組織を刺通又は切開する作用部を形成する工程と、前記作用部を研磨して研磨痕を形成する工程と、研磨後の前記作用部にエッチング加工する工程と、を有し、該エッチング加工を、前記作用部に複数のクレータを表出させ、かつ、前記ファイバー状組織に沿った筋目が形成されない程度としたことを特徴とする外科用刃物類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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