説明

外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】高Si含有鋼板を母材とした場合に不めっきがなく美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.25%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3%を含み、Mn/Si比が2以下である鋼板に、まず、O2≧0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、400〜750℃の温度で加熱(A帯加熱)し、次いで、O2<0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、600〜850℃の温度で加熱(B帯加熱)し、次いで、H2=1〜50%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で、加熱(C帯加熱)を施す。その後、溶融亜鉛めっき処理を施す。従来、C帯加熱内でロールと反応しピックアップの原因となっていた表面酸化物が、本発明では、B帯加熱を行うことで還元され低減しているため、C帯加熱で、ピックアップの発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有高強度鋼板を母材とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関し、特に不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野においては、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも安価に製造できかつ防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、以下の方法にて製造される。まず、スラブを熱延、冷延あるいは熱処理した薄鋼板を用いて、母材鋼板表面を前処理工程にて脱脂および/または酸洗して洗浄するか、あるいは前処理工程を省略して予熱炉内で母材鋼板表面の油分を燃焼除去した後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で加熱することで再結晶焼鈍を行う。その後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で鋼板をめっきに適した温度まで冷却して、大気に触れることなく微量Al(0.1〜0.2%程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬する。
また合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき後、引き続き、鋼板を合金化炉内で熱処理することで製造される。
【0004】
ところで、近年、素材鋼板の高性能化とともに軽量化が推進され、素材鋼板の高強度化が求められてきており、防錆性を兼ね備えた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の使用量が増加している。
鋼板の高強度化にはSi、Mn、P、Al等の固溶強化元素の添加が行われる。中でもSiやAlは鋼の延性を損なわずに高強度化できる利点があり、Si含有鋼板は高強度鋼板として有望である。特に鋼中Mn/Si比が低い方が相対的に良好な機械的特性を確保しやすい。しかし、鋼中Mnが少なく、SiやAlを多量に含有する(すなわち鋼中Mn/Si比が低い)高強度鋼板を母材とし溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造しようとする場合、以下の問題がある。
【0005】
前述のように溶融亜鉛めっき鋼板は還元雰囲気中で600〜900℃程度の温度で加熱焼鈍を行った後に、溶融亜鉛めっき処理を行う。しかし、鋼中のSiやAlは易酸化性元素であり、一般的に用いられる還元雰囲気中でも選択表面酸化されて表面に濃化し、酸化物を形成する。これらの酸化物はめっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせるので、鋼中Si、Al濃度の増加とともに濡れ性が急激に低下し不めっきが多発する。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性に劣るという問題がある。
【0006】
さらに鋼中のSiが選択表面酸化されて表面に濃化すると、溶融亜鉛めっき後の合金化過程において著しい合金化遅延が生じる。その結果、生産性を著しく阻害する。生産性を確保するために過剰に高温で合金化処理しようとすると、耐パウダリング性の劣化を招くという問題もあり、高い生産性と良好な耐パウダリング性を両立させることは困難である。またこのようなSi、Alを添加することで残留γ相が形成しやすくなり機械的特性が良好となるメリットがある反面、合金化遅延を回避するため高温合金化すると残留γ相が不安定になり機械的特性が劣化する場合があり、Si、Al添加によるメリットが享受できなくなる。
【0007】
さらに、同じ鋼中Si量であっても、鋼中Mn/Si比が低い場合、濡れ性が劣りめっき後の合金化反応性が悪いSiO2が多量に生成し、比較的濡れ性やめっき後の反応性の良いMn2SiO4が生成しにくい。そのため、Mn/Si比が低く機械的特性が良好であっても、めっき特性との両立が困難である。このように、良好な機械的特性とめっき特性を具備する高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができなかった。
【0008】
さらに、近年、このような高強度鋼板が外板や一部の足回り部品のように外見上見えやすい場所に使用される場合があり、上記に加え、表面の外観の美麗さがこと厳しく要求されるようになった。
【0009】
このような問題に対して、いくつかの技術が開示されている。
予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成した後加熱し還元焼鈍を行うことで、溶融亜鉛との濡れ性が改善する技術が特許文献1に開示されている。
【0010】
溶融めっき処理に先立って、硫黄または硫黄化合物を鋼板表面にS量として0.1〜1000mg/m2付着させた後、予熱工程を弱酸化性雰囲気で行い、その後、水素を含む非酸化性雰囲気中で焼鈍する方法が特許文献2に開示されている。
【0011】
また、予熱中の酸素濃度等の雰囲気を制御することで良好なめっき品質を確保する技術が特許文献3に開示されている
しかしながら、鋼中Si量が高く、Mn/Si比が低い鋼板の場合、酸化条件を強化して酸化量を確保すると、めっき密着性は向上し不めっきが改善するが、酸化量が多いため炉内ロールに酸化スケールが付着し、鋼板に押し疵が発生する、いわゆるピックアップ現象が発生する。このような現象が発生すると、めっき外観が劣化し、自動車部品として不適である。
【特許文献1】特許登録第2587724号公報
【特許文献2】特開平11-50223号公報
【特許文献3】特許登録第3415191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、高Si含有鋼板を母材とした場合に不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。特に機械的特性が良好であるにもかかわらずめっき特性の改善が難しい低Mn/Si鋼のめっき特性を改善するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
加熱帯で高Si鋼の酸化強化を図るとめっき密着性は改善するが、還元帯で酸化スケールが剥離して押し疵が発生する。これを解決するため、発明者らは加熱帯の酸化条件を中心に研究を行った。
その結果、加熱帯出側での条件を制御することで、加熱帯出側において、加熱帯前段〜中段で一旦酸化された鋼板表面を還元処理することが可能となり、その結果、加熱帯の後に設置される還元帯炉内におけるピックアップを抑制することが可能となることを見出した。
すなわち、(1)加熱帯前段〜中段において、高Si鋼の酸化強化を図るための酸化加熱(以下、A帯加熱と称す)を行い、次いで、(2)加熱帯出側を、一旦酸化された鋼板表面を還元処理することが可能で、かつ、ピックアップが起こらない条件で、すなわち低O2濃度雰囲気で低温還元の条件で加熱を行う(以下、B帯加熱と称す)ことで、加熱帯前段〜中段において一旦酸化された鋼板表面を還元処理し、さらに、(3)還元帯にて高温還元の加熱(以下、C帯加熱と処す)を行う。この時、従来では、C帯加熱内でロールと反応しピックアップの原因となっていた表面酸化物が、本発明では、すでにB帯加熱により還元され低減しているため、C帯加熱では、ピックアップが起こらず防止されることになる。
【0014】
また、B帯加熱後の、主としてFe系酸化スケールで構成される鋼板最表面において、融点が低くピックアップの原因となりやすいFeOの生成比率を制御することで、C帯加熱中のピックアップの発生をより一層防止できること、また、C帯加熱後の鋼板表層部を未還元のFe系酸化物が残留しない状態とすることで、ピックアップの発生をより一層防止し、かつ、合金化遅延や不めっき欠陥の発生を抑制出来ることを見出した。
以上により、酸化強化によるめっき密着性改善、不めっきが解消すると同時に、押し疵が抑制され、極めて美麗なめっき外観が確保することが出来るようになる。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]mass%で、C:0.25%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3%を含み、Mn/Si比が2以下である鋼板に溶融亜鉛めっきを施すに際し、鋼板をO2≧0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、400〜750℃の温度で加熱(A帯加熱)し、次いで、O2<0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、600〜850℃の温度で加熱(B帯加熱)し、次いで、H2=1〜50%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で、加熱(C帯加熱)した後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記A帯加熱を直火バーナー(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により、空気比≧1の条件で行い、前記B帯加熱を直火バーナー(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により、空気比<1の条件で行うことを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前記[2]において、前記A帯加熱を空気比が下記式(1)で表されるα以上、1.5以下の条件で行い、前記B帯加熱を空気比が下記式(2)で表されるβ以上、1.0未満で行なうことを特徴とする請求項2に記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
α=0.3〔Si〕+〔P〕+0.65 (ただし、α≧1.0) ---(1)
β=0.05〔Si〕+0.25〔P〕+0.675 ---(2)
ただし、〔Si〕、〔P〕はそれぞれ鋼板中のSi、Pのmass%を表す。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、A帯加熱を行う前に、Sを含む溶液を鋼板に塗布し、鋼板表面にSを10〜1000mg/m2付着させることを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理することを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかにおいて、前記B帯加熱後の鋼鈑最表面は、mol%で、FeOが30%以下であり、Fe、Fe2O3、Fe3O4の総和が70%以上であることを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかにおいて、前記C帯加熱後の鋼鈑において、鋼鈑最表面から深さ方向5μmまでの領域には、FeO、Fe2O3、Fe3O4を含有しないことを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼鈑の製造方法。
【0016】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべてmass%である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、不めっきがなく美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。なお、本発明は、高Si含有鋼板を母材とした場合にも有効であり、機械的特性が良好であるにもかかわらずめっき特性の改善が難しい低Mn/Si鋼のめっき特性を改善する方法として有用な発明といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明に使用される鋼板について説明する。本発明の鋼板の成分組成は以下の通りである。
【0019】
C:0.25%以下、
残留γ相を形成しやすくするため、0.05%以上が好ましい。但し、本発明では特に下限を規定する物ではない。一方、上限については、0.25%を越えると溶接性が劣化する。よって、C含有量は0.25%以下とする。
【0020】
Si:0.1〜3.0%
めっき原板である鋼板は、鋼中にSi、Mn、Al等を含有する高強度鋼板である。特にSi、Alは残留γ形成元素であり、鋼板の機械的特性改善に効果的であるため最重要である。そのためにはSi含有量は0.1%以上必要である。但し3.0%を越えると酸化皮膜の生成抑制が困難で密着性改善が困難である。よって、Si含有量は0.1%以上3.0%以下とする。
【0021】
Mn:0.5〜3.0%
高強度化を図るにはMn≧0.5%添加するとより効果的である。一方、Mnは3.0%を越えると溶接性やめっき密着性の確保、強度延性バランス確保が困難になる。よってMn量は0.5%以上3.0%以下とする。
【0022】
Al:0.01〜3%
AlはSiと補完的に添加される元素である。Alを含有せずにSiを充分添加すれば機械的特性の確保は可能であるものの、製鋼工程で不可避的に混入するので、Alは0.01%以上含有することが必要である。一方、Al添加量が3%を越えると酸化皮膜の生成抑制が困難で密着性改善が困難である。よってAl量は0.01%以上3%以下とする。
【0023】
Mn/Si比が2以下
Mn/Si比は低い方が機械的特性が良好であるため、2以下とする。
【0024】
本発明鋼は、上記の必須添加元素で目的とする特性が得られるが、所望の特性に応じて以下の元素を含有することができる。
【0025】
Pは不可避的に含有される物であり、セメンタイトの析出を遅延させ変態の進行を遅らせるため、0.001%以上が好ましい。一方、0.10%を越えると溶接性が劣化するだけでなく、表面品質が劣化するため、非合金化時にはめっき密着性が劣化し、合金化処理時には合金化温度が上昇し、延性が劣化すると同時に合金化めっき皮膜の密着性が劣化する場合がある。よって、含有する場合、P量は0.001%以上0.10%以下とする。
【0026】
高強度延性バランスを制御するため、必要であれば0.01≦Cr≦1.0%、0.01≦Mo≦1.0%、0.005≦Nb≦0.2%、、0.005≦Ti≦0.2%の少なくとも1種を、また残留γ相形成促進のため、0.01≦Cu≦0.5%、0.01≦Ni≦1.0%、0.0005≦B≦0.01%の少なくとも1種を必要に応じて添加しても良い。なお、これら元素は機械的特性改善のためだけでなく、Cr、Mo、Nb、Cuは単独もしくは2種以上の複合添加することでSi、Alの内部酸化を促進し、表面濃化を抑制する効果を有する。そのため、良好なめっき密着性を得るために添加することもできる。Crは0.01%未満では強度調整や内部酸化促進効果が得られにくく、1.0%越えではかえってCrが表面濃化するため、めっき密着性や溶接性が劣化する場合がある。Moは0.01%未満では強度調整の効果やNb、もしくはNiやCuとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0%越えではコストアップを招く場合がある。Nbは0.005%未満では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、0.2%越えではコストアップを招く場合がある。Tiは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくく、0.2%越えではめっき密着性の劣化を招く場合がある。Cuは0.01%未満では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、0.5%越えではコストアップを招く場合がある。Niは0.01%未満では残留γ相形成促進効果やCuやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0%越えではコストアップを招く場合がある。Bは0.0005%未満では残留γ相形成促進効果が得られにくく、0.01%以上ではめっき密着性が劣化する場合がある。
SはPと同様不可避的に含有される元素であるが、多量に含有されると溶接性が劣化するため0.2%以下が好ましい。
【0027】
次に高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、説明する。
以上からなる組成を有する鋼板に溶融亜鉛めっきを施す。なお、本発明においては鋼板を以下の3工程からなる加熱を行った後にめっき処理を行うものとする。この加熱は本発明において重要な要件であり、特にB帯加熱は最も重要な要件である。B帯加熱を以下の条件にて、A帯加熱とC帯加熱の間に加えて行うことで、C帯加熱における表面酸化物量を、ピックアップの原因とならない量まで低減し、かつ、表面のSi系酸化物の生成を防止するのに十分な量に調整することが可能となる。
A帯加熱:O2≧0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、400〜750℃の温度で加熱
B帯加熱:O2<0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、600〜850℃の温度で加熱
C帯加熱:H2=1〜50%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で、加熱
以下、この3工程からなる加熱について説明する。
【0028】
A帯加熱
A帯での加熱は鋼板を積極的に酸化させるために行うものである。よって、O2は酸化を行うのに十分な量が必要であり0.1%以上とする。上限は定めないが経済的な理由から大気レベルの20%以下が好ましい。H2Oは酸化を促進するために1%以上とする。上限は定めないが、加湿コストを考えて50%以下が好ましい。また、加熱温度は、400℃未満では酸化しにくく、750℃越えでは酸化しすぎて押し疵が発生するので400℃以上750℃以下とする。
【0029】
B帯加熱
B帯での加熱は、押し疵を抑制して美麗な外観を確保するために本発明で最も重要である。そのため、B帯加熱では、一旦酸化された鋼板表面を還元処理することが可能で、かつ、ピックアップが起こらない条件、すなわち低O2濃度雰囲気で低温還元加熱の条件で加熱を行い、加熱帯前段〜中段で一旦酸化された鋼板表面を、次のC帯加熱内でロールと反応しピックアップが起こらない範囲まで還元処理する。O2が0.1%以上では還元出来ないのでO2は0.1%未満とする。H2Oは還元しすぎないようにするために1%以上とする。加熱温度は、600℃未満は還元しにくく、850℃越えは加熱コストかかるため、600℃以上850℃以下とする。
【0030】
以上のように、加熱帯は、上記条件を満たすために少なくてもA帯とB帯の2zone以上に分割されていることが必要である。なお、A帯加熱とB帯加熱は別々の炉内で行うことも可能である。しかし工業的な生産性や現行の製造ラインの改善で実施すること等を考慮すると、同一炉内で、条件設定を変えて2zone以上に分割して行うことが好ましい。
【0031】
また、前記A帯加熱を直火バーナー(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により、空気比≧1の条件で行い、前記B帯加熱を直火バーナー(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により、空気比<1の条件で行うことが好ましい。直火バーナー(DFF)あるいは無酸化炉(NOF)は溶融亜鉛めっき炉(CGL炉)として多くに用いられており、空気比の制御も容易に行えるため、生産効率等を考慮すると、上記直火バーナー(DFF)あるいは無酸化炉(NOF)を用いるのが好ましい。また、空気比が上記条件を外れると、上記酸素濃度を外れる場合があり、本発明の効果が得れない場合があるため、前記A帯加熱では空気比≧1の条件で、B帯加熱では空気比<1の条件で行うこととする。
【0032】
更に、前記A帯の空気比を下記式で表されるα以上、1.5以下の条件で行い、前記B帯加熱を空気比を下記式で表されるβ以上、1.0未満で行なうことが好ましい。
α=0.3〔Si〕+〔P〕+0.65 (ただし、α≧1.0) ---(1)
β=0.05〔Si〕+0.25〔P〕+0.675 (ただし、β<1.0) ---(2)
ただし、〔Si〕、〔P〕はそれぞれ鋼板中のSi、Pのmass%を表す。
【0033】
A帯では空気比を高めて、Si,Al等合金元素を添加した鋼のFeを酸化させるため、空気比は1以上であることが必要である。更に鋼中Si、Pのmass%が高くなると、Feの酸化をより促進して酸化物中のFe酸化物比を低下させないため、空気比を1を超える条件としなければ外観とめっき密着性が良好とならないことが判った。そこで、鋼中Si、Pのmass%により空気比を制御する技術を考案した。図1、2に鋼中Si、Pのmass%とめっき鋼板の外観およびめっき密着性との関係を示す。なお測定方法および評価(図中の○と△)については後述する実施例と同様であり、個々の評価材のめっき外観と密着性の評価水準(○、△、×)は同一であったので、まとめて一つの評価記号で示した。これらの特性が特に良好となる空気比の下限をαとすると、αと鋼中Si、Pのmass%との関係で上記(1)式が得られた。
【0034】
B帯では空気比を低めて鋼の表面のFe酸化物を還元させるが、還元させるのはC帯でロールに接触する表面のFe酸化物を金属Feとしてロールピックアップを抑制するためであり、Fe還元量が多くなると、結果的にSi等の酸化物が表面濃化してめっき外観とめっき密着性が劣化し、A帯での酸化効果が得られなくなる。図3、4に鋼中Si、Pのmass%とめっき鋼板の外観およびめっき密着性との関係を示す。なお、測定方法および評価(図中の○と△)については上記図1、2と同様である。これらの特性が特に良好となる空気比の下限をβとすると、βと鋼中Si、Pのmass%との関係で上記(2)式が得られた。
【0035】
また、B帯加熱後の鋼鈑最表面は、主としてFe系酸化スケールで構成されている。この最表面において、FeOの生成比率を低く制御することで、C帯加熱におけるピックアップをより確実に防止できる。FeO(ウスタイト:融点1370℃)はFe2O3(ヘマタイト:融点1550℃)、Fe3O4(マグネタイト:融点1538℃)、Fe(鉄:融点1535℃)と比較して、融点が低く、高温でロールと焼結しやすく、他のFe系酸化スケールと比較してピックアップが発生しやすい。そのため、FeOの生成比率を低くすることでピックアップをより一層抑制できることになる。以上の理由により、本発明においては、FeOの生成比率は30%以下とすることが好ましい。なお、酸化スケール組成の分析方法は、C帯加熱およびめっき浴を空通しにしてB帯加熱を出たままの鋼板を採取し、X線回折法で定量する方法が挙げられる。定量に当たり標準サンプルの測定結果を基にすることで各酸化物の組成構成比を求めることができる。また、B帯加熱出側にX線回折装置を設置し、各スケールの特定の面方位のX線強度をオンラインで測定することから酸化スケールの組成を求めることも可能である。
【0036】
C帯加熱
加熱帯の直後に設置され、還元処理を行う。そのため、還元帯における雰囲気はH2は1%以上50%以下とする。また、露点は0℃以下とする。この条件をはずれると加熱帯で生成した酸化スケールが還元しにくいため、めっき密着性を確保するに十分な酸化スケールや、内部酸化、窒化物が生成しても、かえってめっき特性が劣化する傾向が見られる。また、H2が50%超えではコストアップにつながる。また、露点が-60℃未満では工業的に実施が困難であるため、露点は-60℃以上が好ましい。
【0037】
また、B帯で形成された酸化皮膜をC帯で完全に還元するためには、C帯加熱後の鋼板において、最表面から深さ方向5μmまでの領域にFeO、Fe2O3、Fe3O4を含有しないようにすることが重要である。このように制御することで、ピックアップの発生をより一層抑制し、めっき後の合金化反応が促進される。FeO、Fe2O3、Fe3O4のような酸化物が鋼板表層に残存していると、当然ピックアップが発生しやすく、さらに、Fe-Zn拡散反応である合金化の障壁にもなるため、合金化処理を行う場合には問題がある。合金化処理しない場合であっても酸化物が起点となって曲げ加工時におけるめっき密着性が劣化する。なお、酸化スケールの残存の確認は、めっき浴を空通しして採取した鋼板の最表面から5μmまでの領域をXRDで測定することで確認可能である。この方法で上記酸化鉄のピークが検出されなければ問題ない。必要に応じてEPMAを併用しても良い。さらに、めっき後の鋼板断面を分析することでも、酸化鉄残存の有無を確認することも可能である。
【0038】
さらに、上記条件における酸化、特に均一でムラのない酸化を促進するため、本発明においては、A帯加熱を行う前に、Sを含む溶液を鋼板に塗布し、鋼板表面にSを10〜1000mg/m2付着させることが好ましい。Sを事前に鋼板表面に塗布することで鋼板表面の酸化を促進する効果がある。この時、10 mg/m2を下回ると酸化ムラが発生し易い。一方、1000 mg/m2を超えると効果がかえって得られにくくなる。
【0039】
上記3工程(A帯加熱〜C帯加熱)による加熱後、溶融亜鉛めっき処理を施す
溶融亜鉛めっき鋼板の製造には浴温440〜550℃、浴中Al濃度が0.14〜0.24%の亜鉛めっき浴を、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造には浴温440〜550℃、浴中Al濃度が0.10〜0.20%の亜鉛めっき浴を用いる。浴温が440℃未満では浴内における温度ばらつきが大きい場所ではZnの凝固が起こる可能性があるため不適であり、550℃を越えると浴の蒸発が激しく操業コストや気化したZnが炉内へ付着するため、操業上問題がある。さらにめっき時に合金化が進行するため、過合金になりやすい。
【0040】
合金化処理を伴わない場合の浴中Al濃度は、0.14〜0.24%程度が好ましい。0.14%未満では、めっき時にFe-Zn合金化反応が進行して外観ムラが発生する。0.24%超えでは、めっき時にめっき層中のめっき/地鉄界面に生成するFe-Al合金層が厚く生成するため、溶接性が劣化する。また浴中Alが多いためめっき鋼板表面にAl酸化皮膜が多量に生成し、溶接性だけでなく外観性も大きく劣化する。
【0041】
合金化処理する際の浴中Al濃度は、0.10〜0.20%程度が好ましい。0.10%未満だと、めっき時に、めっき/地鉄界面に固くて脆いFe-Zn合金層が生成するため、めっき密着性が劣化する。0.20%越えだと、めっき直後に、めっき/地鉄界面に生成するFe-Al合金層が厚く成長するため、溶接性が劣化する。
【0042】
まためっき浴には、耐食性を向上させるために浴中にMgを添加させても良い。本技術は溶融亜鉛めっきだけでなく、溶融Al、溶融Zn-5%Al、溶融Zn-55%Alめっき等にも同様に適用可能である。
【0043】
合金化処理は460℃より高く、570℃未満で行うのが最適である。460℃以下では合金化進行が遅く、570℃以上では過合金により地鉄界面に生成する固くて脆いZn-Fe合金層が生成しすぎてめっき密着性が劣化するだけでなく、残留オーステナイト相が分解するため、強度延性バランスも劣化する。めっき付着量は特に定めないが、耐食性及びめっき付着量制御上10g/m2以上が好ましく、加工性の観点から120g/m2以下が好ましい。
【実施例1】
【0044】
以下、本発明を、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0045】
表1に示す鋼組成のスラブを加熱炉にて1260℃、60分加熱し、引き続き2.8mmまで熱間圧延を施して540℃で巻き取った。次いで、酸洗で黒皮スケールを除去して、1.6mmまで冷間圧延した。その後、4zoneに分割された加熱帯を有するDFF型もしくはNOF型CGLを用いて、酸化条件を表2に示す範囲に変更して加熱処理(A帯加熱&B帯加熱)を行った後に、表2に示す条件にて焼鈍(C帯加熱)を行った。引き続き、460℃のAl含有Znにて溶融亜鉛めっきを施し、次いで、合金化処理を行い溶融亜鉛めっき鋼板を得た。なお、浴中Al濃度は、0.08〜0.20%Al含有Zn浴を用いた。付着量はガスワイピングにより片面当たり40g/m2に調節した。合金化処理は500〜580℃で行った。また、C帯加熱およびめっき処理を行わず、C帯加熱およびめっき浴を空通しして鋼板を採取することでB帯加熱後の鋼板を得た。また、めっき処理を行わず、めっき浴のみを空通しして鋼板を採取することでC帯加熱後の鋼板を得た。これらの鋼板をX線回折法で定量し、Fe、FeO、Fe2O3、Fe3O4の有無や生成量を確認した。
【0046】
【表1】

【0047】
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、下記に示す方法にてめっき外観およびまっき密着性を調査した。得られた結果を条件と併せて表2に示す。
<めっき外観>
不めっきや押し疵などの外観不良の有無を目視にて判断し、外観不良がない場合は特に良好(○)、外観不良がわずかにあるがおおむね良好である場合には良好(△)、外観不良がある場合には不良(×)と判定した。
<めっき密着性>
合金化溶融亜鉛めっき鋼板にセロテープ(登録商標)を貼り、テープ面を90℃曲げ曲げ戻しをしたときの単位長さ当たりの剥離量を、蛍光X線によるZnカウント数として測定し、下記基準に照らしてランク1、2のものを特に良好(○)良好(△)、3以上の物を不良(×)として評価した。
蛍光X線カウント数 ランク
0-500 1(良)
500-1000 2
1000-2000 3
2000-3000 4
3000以上 5(劣)
合金化していない溶融亜鉛めっき鋼板については、ボールインパクト試験を行い、加工部をセロテープ(登録商標)剥離し、めっき層剥離の有無を目視判定することでめっき密着性を評価した。
【0048】
○:めっき層の剥離なし
×:めっき層が剥離
【0049】
【表2】

【0050】
表2より、本発明の(合金化)溶融亜鉛めっき鋼板はAl及びSiを含有するにも関わらず、不めっきのなく美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れていることがわかる。特に、めっき特性の改善が難しいとされる低Mn/Si鋼においても、めっき性が改善され、優れためっき外観と密着性を有している。
【実施例2】
【0051】
実施例1と同様に、表3に示す鋼組成のスラブを加熱炉にて1260℃、60分加熱し、引き続き2.8mmまで熱間圧延を施して540℃で巻き取った。次いで、酸洗で黒皮スケールを除去して、1.6mmまで冷間圧延した。その後、4zoneに分割された加熱帯を有するDFF型もしくはNOF型CGLを用いて、酸化条件を表3に示す範囲に変更して加熱処理(A帯加熱&B帯加熱)を行った後に、表3に示す条件にて焼鈍(C帯加熱)を行った。引き続き、460℃のAl含有Znにて溶融亜鉛めっきを施し、次いで、合金化処理を行い溶融亜鉛めっき鋼板を得た。なお、浴中Al濃度は、0.08〜0.20%Al含有Zn浴を用いた。付着量はガスワイピングにより片面当たり40g/m2に調節した。合金化処理は500〜580℃で行った。以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、実施例1と同様の方法にてめっき外観およびめっき密着性を調査した。得られた結果を条件と併せて表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3より、A帯、B帯の空気比を最適に調整することにより、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板ではAl及びSiを含有するにも関わらず、特に美麗な表面外観とめっき密着性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
機械的特性が良好であり、かつ、めっき外観、めっき密着性にも優れているため、自動車、家電、建材等の分野を中心に、幅広い用途での使用が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】鋼中Si、P含有率とA帯加熱での適正空気比下限αとの関係を示す図である。
【図2】鋼中Si、P含有率とA帯加熱での適正空気比下限αとの関係を示す図である。
【図3】鋼中Si、P含有率とB帯加熱での適正空気比下限βとの関係を示す図である。
【図4】鋼中Si、P含有率とB帯加熱での適正空気比下限βとの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
mass%で、C:0.25%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3%を含み、Mn/Si比が2以下である鋼板に溶融亜鉛めっきを施すに際し、
鋼板を
O2≧0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、400〜750℃の温度で加熱(A帯加熱)し、
次いで、O2<0.1%、H2O≧1%を含有する雰囲気中で、600〜850℃の温度で加熱(B帯加熱)し、
次いで、H2=1〜50%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で、加熱(C帯加熱)した後、
溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記A帯加熱を直火バーナー(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により、空気比≧1の条件で行い、前記B帯加熱を直火バーナー(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により、空気比<1の条件で行うことを特徴とする請求項1に記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記A帯加熱を空気比が下記式(1)で表されるα以上、1.5以下の条件で行い、前記B帯加熱を空気比が下記式(2)で表されるβ以上、1.0未満で行なうことを特徴とする請求項2に記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
α=0.3〔Si〕+〔P〕+0.65 (ただし、α≧1.0) ---(1)
β=0.05〔Si〕+0.25〔P〕+0.675 ---(2)
ただし、〔Si〕、〔P〕はそれぞれ鋼板中のSi、Pのmass%を表す。
【請求項4】
A帯加熱を行う前に、Sを含む溶液を鋼板に塗布し、鋼板表面にSを10〜1000mg/m2付着させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記B帯加熱後の鋼鈑最表面は、mol%で、FeOが30%以下であり、Fe0、Fe2O3、Fe3O4の総和が70%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記C帯加熱後の鋼鈑において、鋼鈑最表面から深さ方向5μmまでの領域には、FeO、Fe2O3、Fe3O4を含有しないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の外観性とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼鈑の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−291498(P2007−291498A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46792(P2007−46792)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】