説明

多チャネル音響再生装置及び多チャネル音響再生プログラム

【課題】駆動スピーカー数以下の台数のアンプと、主成分分析による信号処理とを利用して、効率的かつ効果的に多チャネル音響を再生する多チャネル音響再生装置を提供する。
【解決手段】多チャネル音響再生装置1は、主成分分析による信号処理を利用して音響信号の数を減らして主成分信号とし、スピーカーの数より少ない数のアンプで前記主成分信号を増幅して、多チャネル音響を再生するものであって、多チャネル音響信号を、聴感上十分短い時間間隔ごとに、サンプリングする時分割手段10と、サンプルデータに基づいて、主成分分析を行い、主成分信号及び重み付け信号を出力する主成分分析手段12と、主成分信号を配分時間で切り替えて出力する切替手段14Bと、主成分信号を増幅するアンプ16Bと、増幅された主成分信号に、チャネルごとの重み付けをする重み付け手段18と、入力される主成分信号を音に変換して出力するスピーカー20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響信号処理とスピーカーの駆動方式とに係り、特に、スピーカーの台数より少ない数のアンプと、主成分分析による信号処理とを利用して多チャネル音響再生を実現する多チャネル音響再生装置および多チャネル音響再生プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル放送の普及やDVD等の大容量化に伴い、家庭内において多チャネルの音響装置を利用する機会が増えてきている。多チャネル音響とは、5.1chサラウンドなどに代表される高い音響的臨場感を再現するシステムであり、複数の音響信号とスピーカーを利用する音響再生方式である。
【0003】
多チャネル音響において、1つのチャネルに対して1台のスピーカーが要求されるが、一般に、1台のスピーカーには1台のアンプ(増幅装置・駆動装置)が必要となるため、多チャネル音響再生を実現するためには、スピーカーと同数のアンプが要求される。
【0004】
図9は、従来の多チャネル音響再生装置の構成を示すブロック図である。図9において、1台のスピーカーには1台のアンプが接続され、スピーカーの数と同数の音響信号(チャネル)が、アンプを介してスピーカーに出力されている。
【0005】
しかし、多チャネル音響においては、多数のチャネル全てが均等に使用されているわけではなく、コンテンツの種類に依らず、ある程度の偏りがあることが知られている(非特許文献1)。
非特許文献1では、いくつかの音源(コンテンツ)に対して、所定の時間間隔において、複数のチャネルを変量として主成分分析を行っている。そして、平均の寄与率が高い主成分を選び出し、それらについて、重み係数パターンを調べたところ、所定のチャネルは他のチャネルと比べ、特に重要なものとして利用されていることが示されている。
【0006】
また、特許文献1は、この点を踏まえ、1台のアンプによる多チャネル駆動を提案したものである。これは、各チャネルの信号成分を分析して、信号レベルによる重み付けを行った駆動時間をそれぞれのスピーカーに配分する方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−304125号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中山靖茂、濱崎公男、安藤彰男、“22.2マルチチャンネル音響コンテンツのチャネル間統計量の分析”、日本音響学会講演論文集、2-1-6、pp.447-448、2006年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に示されているように、多チャネル音響においては、コンテンツの種類に依らず、チャネル使用に偏りがある。そのため、全てのチャネル(スピーカー)にそれぞれアンプを用意し、動作頻度に関わらず待機させる使用方法は、電力的な観点・部屋の利用率の両面から、非効率的であるという問題がある。
【0010】
また、特許文献1は、この点を踏まえ、1台のアンプによる多チャネル駆動を提案したものであるが、1台のアンプでの駆動方式のため、例えば、本出願人である日本放送協会が開発を進めている22.2ch音響やライブ音場再現手法(濱崎他、「高品質ライブ音場再現方式の概要」、PROSOUND、2009年4月号、pp.49-54)のようにスピーカーの台数が大幅に増えると、あるスピーカーから音の出ていない無音時間が増えてしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、駆動スピーカー台数より少ない台数のアンプと、主成分分析による信号処理とを利用して、効率的かつ効果的に信号・電力を分配し、簡便かつ経済的な多チャネル音響を実現する多チャネル音響再生装置および多チャネル音響再生プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために創案されたものであり、まず、請求項1に記載の多チャネル音響再生装置は、チャネル数と同数のスピーカーと、チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生する多チャネル音響再生装置であって、時分割手段と、主成分分析手段と、切替手段と、重み付け手段と、を備える構成とした。
【0013】
かかる構成において、多チャネル音響再生装置は、時分割手段によって、入力される多チャネルの前記音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする。ここで、所定の時間とは、聴感上十分短い時間であり、例えば、サンプリング周波数が48kHzの場合に、2048サンプル分である。
【0014】
そして、多チャネル音響再生装置は、主成分分析手段によって、時分割手段でチャネルごとにサンプリングされたサンプルデータに対して、主成分分析を行い、分散・共分散行列の固有値から得られる寄与率および当該固有値に対応する固有ベクトルの成分である重み係数と、これらに対応する主成分とを求め、所定の時間間隔ごとに、寄与率の高い主成分から所定数の主成分を主成分信号として出力するとともに、当該所定の時間間隔ごとに、当該出力している主成分信号の寄与率及び重み係数を重み付け信号として出力する。ここで、所定数とは、例えば、累積寄与率が80%とか95%をこえる程度の主成分数をいう。
【0015】
そして、多チャネル音響再生装置は、切替手段によって、主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる寄与率に応じて、主成分分析手段から入力される主成分信号の配分時間を決定し、当該配分時間ごとに切り替えて、主成分信号を予めスピーカーに対して割り当てたアンプへ出力する。
【0016】
さらに、多チャネル音響再生装置は、重み付け手段によって、主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている1つのスピーカーに対応するチャネルの重み係数により、アンプで増幅された主成分信号に重み付けをして、当該スピーカーへ出力する。
【0017】
また、請求項2に記載の多チャネル音響再生装置は、請求項1に記載の多チャネル音響再生装置において、スピーカーが直流バイアスにより駆動されるスピーカーであって、重み付け手段は、主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている1つのスピーカーに対応するチャネルの重み係数に応じて増幅された交流電流を、アンプで印加された直流バイアス電圧に重畳して当該スピーカーへ出力するバイアス回路であることを特徴とする。
かかる構成により、直流バイアスにより駆動されるスピーカーに対しても、スピーカーの台数より少ないアンプの台数で、多チャネル音響を再生することができる。
【0018】
また、請求項3に記載の多チャネル音響再生装置は、チャネル数と同数のスピーカーと、チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生する多チャネル音響再生装置であって、時分割手段と、主成分分析手段と、切替手段と、第2切替手段と、を備える構成とした。
【0019】
かかる構成において、多チャネル音響再生装置は、時分割手段によって、多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする。また、多チャネル音響再生装置は、主成分分析手段によって、サンプルデータに基づいて、主成分分析を行い、主成分信号及び重み付け信号を出力する。さらに、多チャネル音響再生装置は、切替手段によって、主成分信号を配分時間で切り替えて出力する。
【0020】
さらに、多チャネル音響再生装置は、第2切替手段によって、主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている複数のスピーカーに対応するチャネルごとの重み係数により、当該重み係数に応じた配分時間で切り替えて、アンプで増幅された主成分信号を接続されているスピーカーへ出力する。
【0021】
また、請求項4に記載の多チャネル音響再生装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の多チャネル音響再生装置において、切替手段が、主成分信号をゼロクロス点で切り替えることを特徴とする。
かかる構成により、多チャネル音響再生装置は、スピーカーから異音が発生するのを抑えることができる。
【0022】
また、請求項5に記載の多チャネル音響再生プログラムは、チャネル数と同数のスピーカーと、チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生するために、コンピュータを、時分割手段、主成分分析手段、切替手段、重み付け手段、として機能させることを特徴とした。
【0023】
かかる構成において、多チャネル音響再生プログラムは、時分割手段によって、多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする。また、多チャネル音響再生プログラムは、主成分分析手段によって、サンプルデータに基づいて、主成分分析を行い、主成分信号及び重み付け信号を出力する。さらに、多チャネル音響再生プログラムは、切替手段によって、主成分信号を配分時間で切り替えてアンプへ出力する。また、多チャネル音響再生プログラムは、重み付け手段によって、入力される主成分信号に、チャネルごとの重み付けをしてスピーカーへ出力する。
【0024】
また、請求項6に記載の多チャネル音響再生プログラムは、チャネル数と同数のスピーカーと、チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生するために、コンピュータを、時分割手段、主成分分析手段、切替手段、第2切替手段、として機能させることを特徴とした。
【0025】
かかる構成において、多チャネル音響再生プログラムは、時分割手段によって、多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする。また、多チャネル音響再生プログラムは、主成分分析手段によって、サンプルデータに基づいて、主成分分析を行い、主成分信号及び重み付け信号を出力する。さらに、多チャネル音響再生プログラムは、切替手段によって、主成分信号を配分時間で切り替えてアンプへ出力する。また、多チャネル音響再生プログラムは、第2切替手段によって、主成分信号を、重み係数に応じた時間で切り替えて、各スピーカーに出力する。
【発明の効果】
【0026】
請求項1及び請求項5に記載の発明によれば、多チャネル音響信号に対して主成分分析を行い、音響信号の数を減らして主成分信号とすることによって、スピーカーの数より少ない数のアンプで増幅し、多チャネル音響を再生することができる。このため、アンプによる消費電力を減少させることができ、また、アンプによるスペースを減少させることができる。一方、スピーカーの数が大幅に増えても、アンプの数を極端に減らさないことにより、スピーカーから音が出ていない無音時間を減少させることができる。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、直流バイアスにより駆動されるスピーカーに対しても、スピーカーの台数より少ないアンプの台数で、多チャネル音響を再生することができる。
【0028】
請求項3及び請求項6に記載の発明によれば、多チャネル音響信号に対して主成分分析を行い、音響信号の数を減らして主成分信号とすることによって、スピーカーの数より少ない数のアンプで増幅し、多チャネル音響を再生することができる。このため、アンプによる消費電力を減少させることができ、また、アンプによるスペースを減少させることができる。一方、スピーカーの数が大幅に増えても、アンプの数を極端に減らさないことにより、スピーカーから音が出ていない無音時間を減少させることができる。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、切替手段が、主成分信号をゼロクロス点で切り替えるため、スピーカーから異音が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る多チャネル音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る多チャネル音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る多チャネル音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る多チャネル音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【図5】第1ないし第4の実施形態に係る切替手段による複数の主成分信号の切り替え方法を示す図である。
【図6】第3の実施形態に係る第2切替手段による主成分信号の各スピーカーへの切り替え方法を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に係る多チャネル音響再生装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態および第4の実施形態に係る多チャネル音響再生装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】従来の多チャネル音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0032】
[多チャネル音響再生装置の構成]
[[多チャネル音響再生装置(第1の実施形態)に係る構成]]
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1(1A)の構成について説明する。
【0033】
第1の実施形態の多チャネル音響再生装置1Aは、多チャネル音響信号を主成分分析し、寄与率の高い主成分のみをアンプで増幅した後、重み付けをしてスピーカーに出力するものである。
具体的には、多チャネル音響再生装置1Aは、複数の音響信号を聴感上十分短い時間間隔ごとにサンプリングし主成分分析を行う。そして、多チャネル音響再生装置1Aは、各主成分のうち、寄与率の高い主成分のみについて、寄与率に応じた時間で切り替えて、1台のアンプへ出力する。さらに、多チャネル音響再生装置1Aは、アンプからの増幅出力に対して、各主成分の重み係数に応じた重み付けをし、スピーカーへ出力する。
【0034】
多チャネル音響再生装置1Aは、時分割手段10と、主成分分析手段12と、切替手段14と、アンプ16と、重み付け手段18と、スピーカー20とを備えている。重み付け手段18、及び、スピーカー20は、時分割手段10に入力されるチャネル数Nに応じて、それぞれ、重み付け手段18、・・・、重み付け手段18、及び、スピーカー20、・・・、スピーカー20から構成される。
【0035】
時分割手段10は、多チャネル音響信号を、聴感上十分短い時間間隔ごとに、サンプリングするものである。
具体的には、時分割手段10は、外部から入力される各チャネルの音響信号(Ch1、・・・、ChN)を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする。そして、時分割手段10は、サンプリングした所定数のサンプルデータを、チャネルごとに、主成分分析手段12に出力する。
例えば、時分割手段10は、サンプリング周波数が48kHzの場合に、2048サンプル分を1つの所定の時間間隔として、2048個のサンプルデータをサンプリングする。
【0036】
主成分分析手段12は、サンプルデータに基づいて、主成分分析を行い、主成分信号を出力するものである。
具体的には、主成分分析手段12は、時分割手段10からN個のチャネルごとにM個のサンプルデータを入力する。そして、主成分分析手段12は、このNxM個のサンプルデータに対して、Nを変量の数とし、Mをサンプルサイズとして、主成分分析を行う。さらに、主成分分析手段12は、時分割手段10がサンプルデータをサンプリングした所定の時間間隔ごとに、寄与率の高い主成分から、所定数の主成分を出力信号(主成分信号)として切替手段14に出力する。
なお、主成分分析法については後述する。
【0037】
主成分分析手段12は、例えば、8つの主成分を出力することが考えられ、この場合の累積寄与率は95%を超えることが知られている(上記非特許文献1)。
【0038】
また、主成分分析手段12は、所定数の主成分信号を出力している所定の時間間隔ごとに、主成分分析で得られた出力している主成分信号の寄与率及び重み係数(主成分分析の計算上得られる固有値、固有ベクトル)を重み付け信号として、切替手段14、及び、重み付け手段18に出力する。
【0039】
切替手段14は、主成分信号を配分時間で切り替えて出力するものである。
具体的には、切替手段14は、主成分分析手段12から入力される重み付け信号に含まれる寄与率に比例して、主成分分析手段12から入力される所定数の主成分信号の配分時間を算出し、その配分時間ごとに切り替えて、対応する主成分信号をアンプ16へ出力するものである。または、切替手段14は、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔で、順次複数周切り替えても構わない。
なお、第1の実施形態では、出力する主成分信号は、1つである。
【0040】
図5を参照して、切替手段14が主成分信号を切り替える方法について説明する。
図5(a)は、第1主成分信号を表し、左の点線で区切られた領域は、切替手段14が、第1主成分信号に配分した配分時間を表す。同様に、図5(b)は、第2主成分信号を表し、真ん中の点線で区切られた領域は、切替手段14が、第2主成分信号に配分した配分時間を表す。図5(c)は、第3主成分信号を表し、右の点線で区切られた領域は、切替手段14が、第3主成分信号に配分した配分時間を表す。
それぞれの主成分信号が時間軸と交差する点をゼロクロス点という。
【0041】
切替手段14は、主成分信号の切り替えをゼロクロス点で行う。このため、まず、切替手段14は、第1主成分信号をその配分時間の最近傍点におけるゼロクロス点Zでリリースする。次に、切替手段14は、第1主成分信号の配分時間を越えた第2主成分信号のゼロクロス点Zで、第2主成分信号に切り替える。同様に、切替手段14は、第2主成分信号をその配分時間の最近傍点におけるゼロクロス点Zでリリースし、第2主成分信号の配分時間を超えた第3主成分信号のゼロクロス点Zで、第3主成分信号に切り替える。
この結果、切替手段14から出力される主成分信号は、図5右の合成出力のようになる。こうすることにより、切替手段14は、スピーカー20から異音が発生するのを抑えることができる。
【0042】
図1に戻って、多チャネル音響再生装置1Aの構成の説明を続ける。
アンプ16は、入力される主成分信号を増幅するものである。
具体的には、アンプ16は、切替手段14から入力される主成分信号を増幅して、重み付け手段18(重み付け手段18、・・・、重み付け手段18)に出力するものである。ここで、各重み付け手段18(1≦i≦N)に出力される主成分信号は、同一のものである。
なお、第1の実施形態では、アンプ16は1つである。
【0043】
重み付け手段18は、入力される主成分信号に、チャネルごとの重み付けをして出力し、各スピーカーに適した音量比を実現するものである。
具体的には、重み付け手段18(1≦i≦N)は、アンプ16から主成分信号が出力されている間、主成分分析手段12から当該主成分信号に係る重み付け信号を入力し、当該重み付け信号に含まれるチャネルiの重み係数により、当該主成分信号を重み付けして、スピーカー20に出力するものである。
【0044】
重み付け手段18は、パッシブな減衰器(例えば可変抵抗器や変圧器)で構成され、「重み係数により、主成分信号を重み付けをする」とは、重み係数に比例して、重み付け手段18の内部に含まれる抵抗値等を変化させることによって、主成分信号の振幅(強度)を変化させるという意味である。
【0045】
スピーカー20は、入力される主成分信号を音に変換して出力するものである。
具体的には、スピーカー20(1≦i≦N)は、重み付け手段18から入力される主成分信号を入力して、音に変換して出力するものである。
このスピーカー20は、音響信号の数分備えられている。
【0046】
なお、スピーカー20は、フルレンジスピーカーの他、低音を効果的に付加するためのLFE(Low Frequency Effect)用スピーカーであってもよい。
【0047】
この多チャネル音響再生装置1Aによれば、時分割手段10によって、多チャネルの音響信号がサンプリングされ、主成分分析手段12によって、サンプリングされた多チャネルの音響信号を主成分分析して、所定数の主成分信号を出力し、切替手段14によって、配分時間に応じて主成分信号を切り替え、アンプ16によって、主成分信号を増幅し、重み付け信号18によって、主成分信号に重み付けをし、スピーカー20によって、音を出力する。このため、1台のアンプで、効果的に多チャネル音響を再生することができる。
【0048】
[[多チャネル音響再生装置(第2の実施形態)に係る構成]]
図2を参照して、本発明の第2の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1(1B)の構成について説明する。
【0049】
第2の実施形態の多チャネル音響再生装置1Bは、多チャネル音響信号を主成分分析し、寄与率の高い主成分のみを複数のアンプで増幅した後、重み付けをしてスピーカーに出力するものである。
具体的には、多チャネル音響再生装置1Bは、複数の音響信号を聴感上十分短い時間間隔ごとにサンプリングし主成分分析を行う。そして、多チャネル音響再生装置1Bは、各主成分のうち、寄与率の高い主成分のみについて、寄与率に応じた時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔で、順次複数回切り替えて、複数のアンプへ出力する。さらに、多チャネル音響再生装置1Bは、各アンプからの増幅出力に対して、各主成分の重み係数に応じた重み付けをし、スピーカーへ出力する。
【0050】
多チャネル音響再生装置1Bの多チャネル音響再生装置1Aとの異なる点は、アンプが複数台備えられており、各アンプが、切替手段からの主成分信号を所定数の重み付け手段を介して所定数のスピーカーに出力する点である。
【0051】
多チャネル音響再生装置1Bは、時分割手段10と、主成分分析手段12と、切替手段14Bと、アンプ16Bと、重み付け手段18と、スピーカー20とを備えている。重み付け手段18、及び、スピーカー20は、時分割手段10に入力されるチャネル数Nに応じて、それぞれ、重み付け手段18、・・・、重み付け手段18、及び、スピーカー20、・・・、スピーカー20から構成される。アンプ16Bは、スピーカー数(チャネル数)Nより少ないの複数のアンプ16B、・・・、アンプ16Bで構成される(K<N)。なお、図2において、アンプ数Kは、3の場合を例示している。
また、図1において説明した多チャネル音響再生装置1Aと同様の構成については、同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0052】
切替手段14Bは、主成分信号を配分時間で切り替えて出力するものである。
第2の実施形態において、切替手段14Bは、複数のアンプ16B(アンプ16B、・・・、アンプ16B)に接続している(K<N)。
【0053】
そして、切替手段14Bは、主成分分析手段12から入力される所定数の主成分信号につき、主成分分析手段12から入力される重み付け信号を用いて、各主成分の寄与率を求め、それに比例した配分時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔を算出し、その配分時間ごとに切り替えて、対応する主成分信号を複数のアンプ16B、・・・、アンプ16Bへ出力する。ここで、切替手段14Bは、接続している各アンプ16Bに、切り替えた同一の主成分信号を出力する。
【0054】
アンプ16Bは、入力される主成分信号を増幅するものである。
第2の実施形態において、アンプ16Bは、スピーカー数(チャネル数)Nより少ない複数のアンプ16B、・・・、アンプ16Bから構成される(K<N)。各アンプB(1≦i≦K)は、複数の異なる重み付け手段18(重み付け手段18i1、・・・、重み付け手段18ij(i))に接続している(Σj(i)=N)。
【0055】
そして、アンプ16B(1≦i≦K)は、切替手段14Bから入力される主成分信号を増幅して、重み付け手段18(重み付け手段18i1、・・・、重み付け手段18ij(i))に出力する(Σj(i)=N)。ここで、アンプ16Bは、接続している各重み付け手段18に同一の主成分信号を出力する。
【0056】
この多チャネル音響再生装置1Bによれば、時分割手段10によって、多チャネルの音響信号がサンプリングされ、主成分分析手段12によって、サンプリングされた多チャネルの音響信号を主成分分析して、所定数の主成分信号を出力し、切替手段14Bによって、配分時間に応じて主成分信号を切り替え、複数のアンプ16Bによって、主成分信号を増幅し、重み付け信号18によって、主成分信号に重み付けをし、スピーカー20によって、音を出力する。このため、複数台のアンプで、効果的に多チャネル音響を再生することができる。
【0057】
[[多チャネル音響再生装置(第3の実施形態)に係る構成]]
図3を参照して、本発明の第3の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1(1C)の構成について説明する。
【0058】
第3の実施形態の多チャネル音響再生装置1Cは、多チャネル音響信号を主成分分析し、寄与率の高い主成分のみを1台のアンプで増幅した後時分割で切り替えてスピーカーに出力するものである。
具体的には、多チャネル音響再生装置1Cは、複数の音響信号を聴感上十分短い時間間隔ごとにサンプリングし主成分分析を行う。そして、多チャネル音響再生装置1Cは、各主成分のうち、寄与率の高い主成分のみについて、寄与率に応じた時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔で切り替えて、1台のアンプへ出力する。さらに、多チャネル音響再生装置1Cは、アンプからの増幅出力に対して、各主成分のチャネルごとの重み係数に応じた時間で切り替えて、主成分をスピーカーへ出力する。
【0059】
多チャネル音響再生装置1Cの多チャネル音響再生装置1Aとの異なる点は、重み付け手段18に代えて第2切替手段22が備えられており、第2切替手段22が、アンプからの主成分信号の出力を時分割で切り替えて、スピーカーに出力する点である。
【0060】
多チャネル音響再生装置1Cは、時分割手段10と、主成分分析手段12と、切替手段14と、アンプ16Cと、第2切替手段22と、スピーカー20とを備えている。スピーカー20は、時分割手段10に入力されるチャネル数Nに応じた台数のスピーカー20、・・・、スピーカー20から構成される。
なお、図1において説明した多チャネル音響再生装置1Aと同様の構成については、同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0061】
アンプ16Cは、入力される主成分信号を増幅するものである。
具体的には、アンプ16Cは、切替手段14から入力される主成分信号を増幅して、第2切替手段22に出力する。
なお、第3の実施形態では、アンプ16Cは1つである。
【0062】
第2切替手段22は、主成分信号を、重み係数に応じた時間で切り替えて、各スピーカーに出力するものである。
具体的には、第2切替手段22は、アンプ16Cから入力される増幅された主成分信号に対し、主成分分析手段12から入力される当該主成分信号に対応する重み付け信号を用いて、チャネル(スピーカー)ごとに重み係数に比例した配分時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔を算出する。そして、第2切替手段22は、主成分信号を、チャネルごとに算出した配分時間で切り替えて、チャネルに対応するスピーカーに出力する。
【0063】
なお、第2切替手段22に入力される重み付け信号は、多チャネル音響再生装置1A(第1の実施形態)において、主成分分析手段12が切替手段14及び重み付け手段18に出力する重み付け信号と、同一のものである。
【0064】
図6を参照して、第2切替手段22による主成分信号の各スピーカーへの切り替え方法を説明する。
図6(a)は、第2切替手段22に入力された第1主成分信号を模式的に表したものである。また、図6(b)は、その次に、第2切替手段22に入力された第2主成分信号を模式的に表したものである。
【0065】
図6(a)の“SP1”は、第2切替手段22が、第1主成分信号において、スピーカー20に対応するチャネルに配分した配分時間の部分信号を表す。同様に、図6(a)の“SPN”は、第2切替手段22が、第1主成分信号において、スピーカー20に対応するチャネルに配分した配分時間の部分信号を表す。図6(b)の“SP1”は、第2切替手段22が、第2主成分信号において、スピーカー20に対応するチャネルに配分した配分時間の部分信号を表す。
【0066】
そして、第2切替手段22は、アンプ16Cから増幅された第1主成分信号が入力されると、各スピーカーに対応するチャネルごとに配分時間を算出した後、図6(a)に示されるように、“SP1”に対応する配分時間の間、当該部分信号を、スピーカー20に出力し、これを繰り返し、“SPN”に対応する配分時間の間、当該部分信号を、スピーカー20に出力する。
次に、第2切替手段22は、アンプ16Cから増幅された第2主成分信号が入力されると、各スピーカーに対応するチャネルごとに配分時間を算出した後、図6(b)に示されるように、“SP1”に対応する配分時間の間、当該部分信号を、スピーカー20に出力し、これを繰り返す。
このように、第2切替手段22は、主成分信号を、算出した配分時間で切り替えて、各スピーカーに出力する。
【0067】
図3に戻って、説明を続ける。
この多チャネル音響再生装置1Cによれば、時分割手段10によって、多チャネルの音響信号がサンプリングされ、主成分分析手段12によって、サンプリングされた多チャネルの音響信号を主成分分析して、所定数の主成分信号を出力し、切替手段14によって、配分時間に応じて主成分信号を切り替え、アンプ16Cによって、主成分信号を増幅し、第2切替手段22によって、主成分信号に時分割し、スピーカー20によって、音を出力する。このため、1台のアンプで、効果的に多チャネル音響を再生することができる。
【0068】
[[多チャネル音響再生装置(第4の実施形態)に係る構成]]
図4を参照して、本発明の第4の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1(1D)の構成について説明する。
【0069】
第4の実施形態の多チャネル音響再生装置1Dは、多チャネル音響信号を主成分分析し、寄与率の高い主成分のみを複数のアンプで増幅した後、時分割で切り替えてスピーカーに出力するものである。
具体的には、多チャネル音響再生装置1Dは、複数の音響信号を聴感上十分短い時間間隔ごとにサンプリングし主成分分析を行う。そして、多チャネル音響再生装置1Dは、各主成分のうち、寄与率の高い主成分のみについて、寄与率に応じた時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔で切り替えて、複数のアンプへ出力する。さらに、多チャネル音響再生装置1Dは、各アンプからの増幅出力に対して、各主成分のチャネルごとの重み係数に応じた時間で切り替えて、主成分をスピーカーへ出力する。
【0070】
多チャネル音響再生装置1Dの多チャネル音響再生装置1Bとの異なる点は、重み付け手段18に代えて、複数のアンプ16Cに対応して複数の第2切替手段22Bが備えられており、複数の第2切替手段22Bが、それぞれアンプ16Cからの主成分信号の出力を時分割で切り替えて、スピーカーに信号を出力する点である。
【0071】
多チャネル音響再生装置1Dは、時分割手段10と、主成分分析手段12と、切替手段14Bと、アンプ16Cと、第2切替手段22Bと、スピーカー20とを備えている。スピーカー20は、時分割手段10に入力されるチャネル数Nに応じて、スピーカー20、・・・、スピーカー20から構成される。アンプ16Cは、スピーカー数(チャネル数)Nより少ないの複数のアンプ16C、・・・、アンプ16Cから構成される(K<N)。第2切替手段22Bは、アンプ16Cの数Kと同数の第2切替手段22B、・・・、第2切替手段22Bから構成される。なお、図4において、アンプ16Cの数、及び、第2切替手段22Bの数は、それぞれ3の場合を例示している。
また、図1、図2及び図3において説明した多チャネル音響再生装置1A、1B及び1Cと同様の構成については、同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0072】
第2切替手段22Bは、主成分信号を、重み係数に応じた時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔で切り替えて、各スピーカーに出力するものである。
第4の実施形態において、第2切替手段22Bは、アンプ16Cの数Kと同数の第2切替手段22B、・・・、第2切替手段22Bから構成される。各第2切替手段22B(1≦i≦K)は、複数の異なるスピーカー20(スピーカー20i1、・・・、スピーカー20ij(i))に接続している(Σj(i)=N)。
【0073】
そして、第2切替手段22B(1≦i≦K)は、アンプ16Cから入力される増幅された主成分信号に対し、主成分分析手段12から入力される当該主成分信号に対応する重み付け信号を用いて、チャネルごとに重み係数に比例した配分時間を算出する。そして、第2切替手段22Bは、主成分信号を、チャネルごとに算出した配分時間で切り替えて、チャネルに対応するスピーカー20ihに出力する(1≦h≦j(i))。
【0074】
なお、第2切替手段22Bに入力される重み付け信号は、多チャネル音響再生装置1A(第1の実施形態)において、主成分分析手段12が切替手段14及び重み付け手段18に出力する重み付け信号と、同一のものである。
【0075】
この多チャネル音響再生装置1Dによれば、時分割手段10によって、多チャネルの音響信号がサンプリングされ、主成分分析手段12によって、サンプリングされた多チャネルの音響信号を主成分分析して、所定数の主成分信号を出力し、切替手段14Bによって、配分時間に応じて主成分信号を切り替え、複数のアンプ16Cによって、主成分信号を増幅し、複数の第2切替手段22Bによって、主成分信号に時分割し、スピーカー20によって、音を出力する。このため、複数台のアンプで、効果的に多チャネル音響を再生することができる。
【0076】
以上、多チャネル音響再生装置1の構成を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、多チャネル音響再生装置1は、コンピュータにおいて各手段を機能プログラムとして実現することも可能であり、各機能プログラムを結合して、多チャネル音響再生プログラムとして動作させることも可能である。
【0077】
[多チャネル音響再生装置の動作]
次に、本発明の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1の動作について説明する。
【0078】
なお、第1の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1Aと、第2の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1Bとは、アンプ16(16B)が1つか、複数個備えられているかの違いのみで、個々のアンプの動作として同一であるため、図7で合わせて説明する。
同様に、第3の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1Cと、第4の実施形態に係る多チャネル音響再生装置1Dとは、アンプ16Cと第2切替手段22(22B)とが1つか、複数個備えられているかの違いのみで、個々のアンプ及び第2切替手段の動作としては同一であるため、図8で合わせて説明する。
【0079】
[[多チャネル音響再生装置(第1の実施形態及び第2の実施形態)の動作]]
まず、図7を参照して(構成については、適宜図1及び図2を参照のこと)本発明の第1の実施形態(第2の実施形態)における多チャネル音響再生装置1A(1B)の動作について説明する。
【0080】
まず、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、時分割手段10によって、多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする(S11)。
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、主成分分析手段12によって、サンプルデータに基づき、主成分分析を行い、所定の時間間隔ごとに、寄与率の高い所定数の主成分を、主成分信号として出力する(S12)。
【0081】
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、切替手段14(14B)によって、各主成分の寄与率に応じた配分時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔を求める(S13)。その後、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、切替手段14によって、第i主成分の配分時間の間、第i主成分信号を出力する(S14)。
【0082】
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、アンプ16(16B)によって、主成分信号を増幅する(S15)。
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、重み付け手段18によって、主成分信号に、チャネルごとの重み付けをする(S16)。
【0083】
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、スピーカー20によって、主成分信号を音に変換して出力する(S17)。
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、切替手段14(14B)によって、所定数の主成分信号を出力したか否かを判定し(S18)、出力していない場合(S18でNo)にはS14へ戻り、出力している場合(S18でYes)にはS19へ進む。
【0084】
そして、多チャネル音響再生装置1A(1B)は、時分割手段10によって、多チャネル音響信号が継続しているか否かを判定し(S19)、継続している場合(S19でYes)にはS11へ戻り、継続していない場合(S19でNo)には、動作を終了する。
【0085】
[[多チャネル音響再生装置(第3の実施形態及び第4の実施形態)の動作]]
次に、図8を参照して(構成については、適宜図3及び図4を参照のこと)本発明の第3の実施形態(第4の実施形態)における多チャネル音響再生装置1C(1D)の動作について説明する。
【0086】
まず、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、時分割手段10によって、多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする(S21)。
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、主成分分析手段12によって、サンプルデータに基づき、主成分分析を行い、所定の時間間隔ごとに、寄与率の高い所定数の主成分を、主成分信号として出力する(S22)。
【0087】
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、切替手段14(14B)によって、各主成分の寄与率に応じた配分時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔を求める(S23)。その後、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、切替手段14(14B)によって、第i主成分の配分時間の間、第i主成分信号を出力する(S24)。
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、アンプ16Cによって、主成分信号を増幅する(S25)。
【0088】
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、第2切替手段22(22B)によって、チャネルごとに重み係数に応じた配分時間、または、機械的に例えば1MHz程度の等しい時間間隔を求める(S26)。その後、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、第2切替手段22(22B)によって、チャネルjの配分時間の間、チャネルjに対応するスピーカーに主成分信号を出力する(S27)。
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、スピーカー20によって、主成分信号を音に変換して出力する(S28)。
【0089】
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、第2切替手段22(22B)によって、接続されている全てのチャネルに主成分信号を出力したか否かを判定し(S29)、出力していない場合(S29でNo)には、S27に戻り、出力している場合(S29でYes)にはS30へ進む。
【0090】
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、切替手段14(14B)によって、所定数の主成分信号を出力したか否かを判定し(S30)、出力していない場合(S30でNo)にはS24へ戻り、出力している場合(S30でYes)にはS31へ進む。
そして、多チャネル音響再生装置1C(1D)は、時分割手段10によって、多チャネル音響信号が継続しているか否かを判定し(S31)、継続している場合(S31でYes)にはS21へ戻り、継続していない場合(S31でNo)には、動作を終了する。
【0091】
なお、多チャネル音響再生装置1の動作は、これに限定されるものではなく、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、時分割手段10において、多チャネル音響信号が継続していないと判定された場合には、多チャネル音響再生装置1は、動作を終了するとしたが(S19及びS31)、多チャネル音響再生装置1にスイッチを備えて、スイッチをoffにすることによって、動作を終了してもよい。
【0092】
また、フローチャートの都合上、各手段における動作をシーケンシャルに記載したが、パラレルに動作できる手段については、パラレルに動作してもよい。例えば、切替手段14(14B)が第i主成分の配分時間の間、第i主成分信号を出力している時(S14、S24)に、時分割手段10が、多チャネル音響信号をサンプリングしていてもよい(S11、S21)。
【0093】
[主成分分析法について]
以下では、本実施形態の主成分分析手段12において用いられる、多変量解析における主成分分析法について説明する。
主成分分析とは、相関関係にあるいくつかの変量を合成して、その総合的指標を求める手法である。主成分は、元の変量の合成変量となり、それぞれの主成分は互いに無相関となるように算出される。
【0094】
N個の各変量(x,x,・・・,x)に対して、M個のサンプルデータがあるとする。すなわち、変量x(1≦i≦N)に対して、サンプルデータxi1,xi2,・・・,xiMがあるとする。このようなデータから、総合的指標を示す合成変量を求める。
各変量(x,x,・・・,x)に対して、各係数(α,α,・・・,α)を付与して合成変量を作る((1)式参照 )。
【0095】
【数1】

【0096】
各サンプルの散らばりの最も大きい方向にその総合的指標を見つけるには、合成変量Yの分散を最大化すればよい。そこで、合成変量Yの分散を求める((2)式参照 )。
【0097】
【数2】

【0098】
ここで、上線は、変量の平均値を表す。α=(α,・・・,α)で、αは、αの転置行列である。また、Sは、このデータのN個の変量による分散・共分散行列である。この係数αについて、制約条件(3)式を設ける。
【0099】
【数3】

【0100】
この問題は、(3)式のもとで、(2)式を最大にすることになる。これは、ラグランジュの未定乗数法を用いると、分散・共分散行列Sの固有値問題に帰着する。そして、行列Sは、N個の固有値(λ,・・・,λ)をもつ。その中で、分散を最大化する合成変量Yは、最大固有値λに対する固有ベクトルの要素を係数として、(4)式として表される。この合成変量Yを第1主成分という。
【0101】
【数4】

【0102】
このYの分散はλであり、分散が最も大きい。したがって、このN個の変量データを最も反映している合成変量である。
以下、合成変量Y(2≦i≦N)を、i番目に大きい固有値λに対する固有ベクトルの要素を係数として、(5)式のように表すことができる。この合成変量Yを第i主成分という。
【0103】
【数5】

【0104】
各主成分がもとのデータをどれくらい反映しているかの指標を寄与率という。各主成分の分散は、その固有値λで表されるが、その総和であるΣλはもとの変量の分散の総和に等しい。そこで、第i主成分の寄与率を(6)式で表す。
【0105】
【数6】

【0106】
また、第1主成分から第i主成分までの寄与率の合計を、第i主成分までの累積寄与率という。
【0107】
本実施形態との関係では、時分割手段10が主成分分析手段12へ出力する、チャネルごとのサンプルデータが、変量x(1≦i≦N)に対するサンプルデータxi1,xi2,・・・,xiMとなる。これを用いて、主成分分析手段12が、上記の主成分分析をおこなう。
【0108】
主成分分析手段12は、分散・共分散行列Sの固有値と対応する固有ベクトルを求め、固有値が大きい(すなわち(6)式の寄与率が大きい)所定数のもの対応する固有ベクトルを用いて、所定数の主成分(4)式、(5)式を構成する。そして、主成分分析手段12は、サンプルデータを用いて、所定数の構成した主成分ごとに、サンプルデータM個分のデータを計算し、切替手段14に出力する。
この時に、主成分分析手段12は、出力している主成分の寄与率((6)式)と、対応する固有ベクトルの要素である重み係数とを、重み付け信号として出力する。
【符号の説明】
【0109】
1(1A、1B、1C、1D) 多チャネル音響再生装置
10 時分割手段
12 主成分分析手段
14、14B 切替手段
16、16B、16C アンプ
18 重み付け手段
20 スピーカー
22、22B 第2切替手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル数と同数のスピーカーと、前記チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生する多チャネル音響再生装置であって、
入力される多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする時分割手段と、
前記時分割手段でチャネルごとにサンプリングされたサンプルデータに対して、主成分分析を行い、分散・共分散行列の固有値から得られる寄与率および当該固有値に対応する固有ベクトルの成分である重み係数と、これらに対応する主成分とを求め、前記所定の時間間隔ごとに、前記寄与率の高い前記主成分から所定数の主成分を主成分信号として出力するとともに、当該所定の時間間隔ごとに、当該出力している主成分信号の前記寄与率及び前記重み係数を重み付け信号として出力する主成分分析手段と、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる寄与率に応じて、前記主成分分析手段から入力される主成分信号の配分時間を決定し、当該配分時間ごとに切り替えて、前記主成分信号を予め前記スピーカーに対して割り当てた前記アンプへ出力する切替手段と、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている1つの前記スピーカーに対応する前記チャネルの重み係数により、前記アンプで増幅された主成分信号に重み付けをして、当該スピーカーへ出力する重み付け手段と、
を備えることを特徴とする多チャネル音響再生装置。
【請求項2】
前記スピーカーが直流バイアスにより駆動されるスピーカーであって、
前記重み付け手段は、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている1つの前記スピーカーに対応する前記チャネルの重み係数に応じて増幅された交流電流を、前記アンプで印加された直流バイアス電圧に重畳して当該スピーカーへ出力するバイアス回路であることを特徴とする請求項1に記載の多チャネル音響再生装置。
【請求項3】
チャネル数と同数のスピーカーと、前記チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生する多チャネル音響再生装置であって、
入力される多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする時分割手段と、
前記時分割手段でチャネルごとにサンプリングされたサンプルデータに対して、主成分分析を行い、分散・共分散行列の固有値から得られる寄与率および当該固有値に対応する固有ベクトルの成分である重み係数と、これらに対応する主成分とを求め、前記所定の時間間隔ごとに、前記寄与率の高い前記主成分から所定数の主成分を主成分信号として出力するとともに、当該所定の時間間隔ごとに、当該出力している主成分信号の前記寄与率及び前記重み係数を重み付け信号として出力する主成分分析手段と、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる寄与率に応じて、前記主成分分析手段から入力される主成分信号の配分時間を決定し、当該配分時間ごとに切り替えて、前記主成分信号を予め前記スピーカーに対して割り当てた前記アンプへ出力する切替手段と、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている複数の前記スピーカーに対応する前記チャネルごとの重み係数により、当該重み係数に応じた配分時間で切り替えて、前記アンプで増幅された主成分信号を前記接続されているスピーカーへ出力する第2切替手段と、
を備えることを特徴とする多チャネル音響再生装置。
【請求項4】
前記切替手段は、
前記主成分信号をゼロクロス点で切り替えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の多チャネル音響再生装置。
【請求項5】
チャネル数と同数のスピーカーと、前記チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生するために、コンピュータを、
入力される多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする時分割手段、
前記時分割手段でチャネルごとにサンプリングされたサンプルデータに対して、主成分分析を行い、分散・共分散行列の固有値から得られる寄与率および当該固有値に対応する固有ベクトルの成分である重み係数と、これらに対応する主成分とを求め、前記所定の時間間隔ごとに、前記寄与率の高い前記主成分から所定数の主成分を主成分信号として出力するとともに、当該所定の時間間隔ごとに、当該出力している主成分信号の前記寄与率及び前記重み係数を重み付け信号として出力する主成分分析手段、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる寄与率に応じて、前記主成分分析手段から入力される主成分信号の配分時間を決定し、当該配分時間ごとに切り替えて、前記主成分信号を予め前記スピーカーに対して割り当てた前記アンプへ出力する切替手段、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている1つの前記スピーカーに対応する前記チャネルの重み係数により、前記アンプで増幅された主成分信号に重み付けをして、当該スピーカーへ出力する重み付け手段、
として機能させることを特徴とする多チャネル音響再生プログラム。
【請求項6】
チャネル数と同数のスピーカーと、前記チャネル数より少ない数のアンプとで、多チャネル音響を再生するために、コンピュータを、
入力される多チャネル音響信号を、所定の時間間隔ごとに、所定回数サンプリングする時分割手段、
前記時分割手段でチャネルごとにサンプリングされたサンプルデータに対して、主成分分析を行い、分散・共分散行列の固有値から得られる寄与率および当該固有値に対応する固有ベクトルの成分である重み係数と、これらに対応する主成分とを求め、前記所定の時間間隔ごとに、前記寄与率の高い前記主成分から所定数の主成分を主成分信号として出力するとともに、当該所定の時間間隔ごとに、当該出力している主成分信号の前記寄与率及び前記重み係数を重み付け信号として出力する主成分分析手段、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる寄与率に応じて、前記主成分分析手段から入力される主成分信号の配分時間を決定し、当該配分時間ごとに切り替えて、前記主成分信号を予め前記スピーカーに対して割り当てた前記アンプへ出力する切替手段、
前記主成分分析手段から入力される重み付け信号に含まれる重み係数のうち、接続されている複数の前記スピーカーに対応する前記チャネルごとの重み係数により、当該重み係数に応じた配分時間で切り替えて、前記アンプで増幅された主成分信号を前記接続されているスピーカーへ出力する第2切替手段と、
として機能させることを特徴とする多チャネル音響再生プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−44884(P2011−44884A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191346(P2009−191346)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】