説明

多チャンバインフレータ

車両乗員保護システム用の多チャンバインフレータ(10)。インフレータ(10)は、第1端と第2端を有するハウジング(12)、およびハウジング(12)内であってハウジング端の間に位置し、ハウジング(12)内部に第1の(一次的な)推進剤チャンバ(20)および第2の(二次的な)推進剤チャンバ(22)を形成する仕切り盤(18)を具備する。仕切り(18)は、第1の推進剤チャンバ(20)と連通する第1の表面(59)、第2の推進剤チャンバ(22)と連通する第2の表面(57)、および第1の表面と第2の表面の間に広がり、第1の推進剤チャンバ(20)と第2の推進剤チャンバ(22)の間に流体連通を与える少なくとも1つの開口(60)を有する。融点の低い材料から製造された耐圧性のシム(62)は、少なくとも1つの開口(60)を覆うように仕切りの第1の表面(59)上に固定され、開口をふさぐ。シム(62)は、第1の推進剤チャンバ(20)内の推進剤(48)の燃焼によって生じる所定の温度に暴露されると融解するように構成され、少なくとも1つの開口(60)を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許の相互参照
本出願は、2004年1月16日付出願の米国特許仮出願第60/537,152号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は車両乗員保護システムのエアバッグを膨張させるために使われるガス発生装置に関するものであり、より具体的には、エアバッグの適切な展開を保証するために、多チャンバインフレータの推進剤チャンバを隔離する改良された構造を含む多チャンバガス発生装置に関する。
【0003】
一般的に、自動車両においてエアバッグを展開するための膨張システムは、未膨張のエアバッグと流体連通する単独のガス発生装置を採用する。検出した車両加速度が所定の閾値を超えたとき、発火回路は、通常、加速度に応答する慣性スイッチを通じてガス発生装置を始動させる。しかしながら、単一のガス発生装置を使用するエアバッグ膨張システムは、一般に、乗員位置に関係する特定の膨張時間を達成するために、攻撃的な初期膨張を与えるような開始初期加圧/膨張速度に設定される。攻撃的な加圧の開始速度は、乗員が正規位置にいない状況において問題となる。換言すると、エアバッグの急速な開始加圧によって、エアバッグが乗員に衝撃を与え、乗員の適切な運動に影響を与えることがある。
【0004】
その結果、衝突の深刻さ、乗客の位置の検出、および乗員の体重および/または身長などの要因に応じて、単一のチャンバまたは複数のチャンバのいずれかを選択的に起動することを可能とする多チャンバインフレータが開発されている。単一のチャンバを起動させると、エアバッグはより穏やかに展開するが、同時に複数のチャンバを起動させると、体重の重い車両乗員が損傷を受けるのを防ぐために必要な膨張力を供給することができる。しかしながら、多チャンバのエアバッグインフレータにおいて推進剤チャンバを完全に隔離することはエアバッグの穏やかな展開のために重要である。また、閉じられたチャンバ内にある推進剤はより効率的に高いチャンバ圧で燃焼するので、起動した推進剤チャンバ内の圧力上昇を促進するのにも有効である。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、所望により複数のチャンバを起動させることができる一方で、適切なエアバッグの展開を保証するために多チャンバインフレータの推進剤チャンバを隔離するための改良された構造に関する。車両乗員保護システムのための多チャンバインフレータを提供する。このインフレータは、第1端と第2端を有するハウジング、およびハウジング内部においてハウジング端の間に位置する仕切りであって、ハウジング内部に第1の推進剤チャンバと第2の推進剤チャンバを形成するものを含む。仕切りは、各チャンバの独立した動作を確保するため、第1のチャンバと第2のチャンバを分離する。流体が第1チャンバと第2チャンバの間を連通できるように、少なくとも1つの開口がこの仕切りを通じて広がる。開口をふさぐため、この開口を覆う低融解温度を有する耐圧性のシムを前記仕切りの表面に固定する。シムは、前記仕切りの表面と連通する推進剤チャンバ内に推進剤の燃焼によって生じる175°〜400°Fの範囲の所定の温度に暴露されると融解するように構成する。シムは金属、合金またはポリマーから形成することができる。シムは第2のチャンバと第1のチャンバを分離する。また、シムは、第1のガス発成推進剤の燃焼時に、第1のチャンバ内の圧力上昇を促し、それによって、燃焼反応の効率性を高める。
【0006】
詳細な説明
上記のように、本発明は、インフレータのハウジング内の2つの推進剤チャンバを分離する仕切り内の開口を覆うように位置する低融解温度のシムを含むものである。米国特許第6,764,096号には、シムを組み入れることができるインフレータの一例について詳細な説明がされている。‘096特許は2004年7月20日に付与され、参照することにより本明細書にこれを組み込む。
図1、図2に示すように、本発明の一態様にしたがって、インフレータ10は、対向するハウジング第1端と第2端を画定するベース14に溶接その他の方法で固定したキャップ16から形成されるハウジング12を含むものである。仕切り盤18はハウジング12をその内部において第1の推進剤チャンバ20と第2の推進剤チャンバ22に分ける。チャンバ20はキャップ16内に形成し、チャンバ22はベース14内に形成する。
【0007】
ベース14、キャップ16および仕切り盤18は、型取りしたスチール、あるいはその他の適切な既知の方法や材料によって形成する。ベース14は第1の環24と第2の環26を含む。仕切り盤18は第3の環28と第4の環30を含み、これらはそれぞれ第1の環24、第2の環26の対応する軸に整列する。
【0008】
図1および図2に示すように、第1の着火器チャンバ32は、第1の着火器チューブ34が第1の環24と第3の環28それぞれを通じて挿入され、溶接されたときに形成される。チューブ34と環24および28は、円周を実質的に等しくしてなる。同様に、第2の着火器チャンバ36は、第2の着火器チューブ36が第2の環26および第4の環30のそれぞれを通じて挿入され、溶接されたときに形成される。チューブ38と環26と30もまた円周を実質的に等しくしてなる。
【0009】
チャンバ32は近位端40と遠位端42を含む。第1の着火器44は、近位端40を通じて挿入され、着火器チャンバ32内に配される。着火器44は、チューブ34にクリンプ加工その他の方法で固定される。少なくとも1つのガス排出口46は、遠位端42を通じて広がり、それによって第1の推進剤チャンバ20内のチャンバ32と第1のガス発生物48の間における流体連通を促進する。
【0010】
チャンバ36は近位端50と遠位端52を含む。第2の着火器54は近位端50を通じて挿入され、チャンバ36内に配される。着火器54はクリンプ加工その他の方法でチューブ38に固定される。少なくとも1つのガス排出口56は近位端50を通じて広がり、それによって第2の推進剤チャンバ22内のチャンバ36と第2の主要なガス発生推進剤58の間における流体連関を促進する。
【0011】
環状フィルタ64は、チャンバ20と22を通じて伸びる軸の周辺に半径方向に間隔をあけて配される。第2の複数のガス排出口66は、ハウジング12内の円周上同側面に、かつ第1の推進剤チャンバ20の回りに配されて、チャンバ20とエアバッグ(図示せず)の間に流体連通を与える。一態様では、フォイルカバーが第3の複数の開口66の各開口を覆うことによって、チャンバ20をシールする。
【0012】
図1と図2に示すように、仕切り18はチューブ34と38およびキャップ16に溶接される。チューブ34と38もまたキャップ16に溶接され、それによって、インフレータの構造上の一体性を高める。また、図1に示すように、仕切り18は、第1の推進剤チャンバ20と連通する第1の表面59、および第2の推進剤チャンバ22と連通する第2の表面57を有する。
【0013】
第1のイニシエータ組成物68は第1の着火器チャンバ32内に与えられる。第2のイニシエータ組成物70は第2のチャンバ36内に与えられる。第2のイニシエータ組成物70は、第1のイニシエータ68と同じ組成のものか、または、別の組成のものである。
【0014】
運転中、車両乗員保護システムは、着火器44によって検出された急激な減速または衝突を示す信号を発生し、それによって、第1のイニシエータ推進剤68の点火をトリガする。組成物68が着火すると、熱、炎および生成された燃焼ガスが、第1のガス生成チャンバ20に流入し、それによって、第1のガス生成物48が点火される。そして、その結果発生するガスは、チャンバ20からフィルタ64を通じて流れ、開口66から出て、エアバッグ(図示せず)に流入する。
【0015】
第2のチャンバ22は、例えば衝突の深刻さ、乗員位置の検出、および乗員の体重および/または身長などの要因に基づいて選択的に作動する。仕切り盤18は、チャンバ22からチャンバ20に第2ガスを移動させるための少なくとも一つの開口60を含む。図1〜3に示す態様では、仕切り盤18は複数のガス排出口60を含む。低融解温度を有する耐圧性のシム62は、盤18の表面59上の複数の開口60を覆うことによって、チャンバ20が起動されたとき、チャンバ22から第1のチャンバ20を分離し、第1のチャンバ内の燃焼圧を上昇させる。シム62は、第1の推進剤チャンバ20内で推進剤48の燃焼によって生じる所定の温度に暴露されると融解して、複数の隙間60を開放するように構成される。
【0016】
シム62は金属、合金もしくはポリマーまたは融点が175°〜400°Fの範囲の他の物質から形成される。例えば、シム62は、スズ、ビスマス、鉛、カドミウム、インジウム、金、銀および銅を含む群から選択される2以上の元素の共融混合物を含む金属または合金から形成することができる。シム62は、第1のチャンバ20を第2のチャンバ22から隔離するので、軽い体重の車両乗員に対してエアバッグを起動する必要がある場合、シム62は、チャンバ22と同時に動作させることなく、チャンバ20を単独で動作させることができる。
【0017】
あるいは、重い車両乗員の場合、既知の座席重量センサおよび/または乗員位置検出アルゴリズムに基づいて、チャンバ20とチャンバ22を同時に作動させることを選択することもできる。チャンバ20と22が同時に作動する間、推進剤58の燃焼により生じるガス圧力は、シム62を溶かし、そして、ガスはチャンバ20から開口(単数または複数)60を通じて流れる。こうして、チャンバ20と22の両方で生成されたガスは、ガス排出口から排出されるときに混じり合うことができる。
【0018】
例えば、ワイヤメッシュフィルタ64は、金属製スクリーンの複数の層またはラップから形成され得る。とくに限定されないが、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,032,979号と5,727,813号には、金属製フィルタの一般的な例の説明が記載されている。
【0019】
ここで説明する低融解温度を有する耐圧性のシムは、1または2以上のチャンバを同時または段階的に動作させる多段階インフレータに用いることができる。融点の低いシムを備えたチャンバが起動されるとき、残りのチャンバは、このシムによって隔離されており、不活性状態のままである。起動したチャンバ内で燃焼反応が伝播する際に、シムは融解し、それによって、隣接するチャンバに対する連絡部ができる。すなわち、シムは隣接チャンバにある不活性の推進剤ベッドの燃焼を抑制するように作用する。従来型の破裂性シムとは異なり、本発明のシムは、チャンバ圧力の上昇というよりもむしろ、所定の温度に応じて無効化される。こうして、シムは、起動されたチャンバ内の燃焼圧力の上昇を促し、同チャンバ内の燃焼反応の効率を高める。
【0020】
上記説明は、ある特定の多チャンバインフレータ構造において、低融解温度を有する耐圧性シムの例示的な使用について記載した。しかしながら、本明細書に記載したシムの使用は、上述した特定のインフレータの構造に限定されない。むしろ、本明細書に記載したシムは、有孔の仕切りによって隔離された多チャンバインフレータであって、隣接するチャンバが、この仕切りを通じて広がる通路によって連結されるようないずれのインフレータにおいても使用することができる。
【0021】
上述した本発明の態様に係る記載は、本発明を説明することのみを目的としたものであることを理解されたい。このため、本明細書によって開示された種々の構造上および動作上の特徴は、当業者の能力に応じて多くの改変を受け入れる余地があり、かかる改変のいずれも、添付された特許請求の範囲によって定まる本発明の範囲から逸脱するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にしたがう多チャンバインフレータの部分上面断面図である。
【図2】図1の線2−2に沿う断面図である。
【図3】図1の線3−3に沿う断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両乗員保護システム用の多チャンバインフレータであって、
第一端と第二端を有するハウジング;
前記ハウジングにおいて、動作可能に互いに分離された第1の推進剤チャンバと第2の推進剤チャンバを形成するため、前記ハウジング端の間に位置する仕切りであって、第1の推進剤チャンバと連通する第1の表面と、第2の推進剤チャンバと連通する第2の表面を有し、第1の表面と第2の表面の間に広がり、第1の推進剤チャンバと第2の推進剤チャンバの間を流体連通可能にする少なくとも1つの開口を有する、前記仕切り;
前記第1のチャンバに含まれ、前記インフレータの起動すると燃焼する第1のガス発生推進剤;
前記第2のチャンバに含まれ、前記インフレータが起動すると燃焼する第2のガス発生推進剤であって、任意に前記第1の推進剤と同時に燃焼可能な前記第2のガス発生推進剤;および
前記仕切りの第1の表面に固定され、前記開口をふさぐために前記少なくとも1つの開口を覆うシムであって、衝突の際に第1のチャンバのみが起動するとき、両チャンバが同時に作動することを防止し、また、第1の推進剤チャンバ内において推進剤の燃焼によって生じた所定の温度に暴露されると融解し得る材料から製造された、前記シム
を具備する、前記インフレータ。
【請求項2】
シムが、スズ、ビスマス、鉛、カドミウム、インジウム、金、銀および銅からなる群から選択される2以上の元素の共融混合物を含む合金から形成される、請求項1に記載のインフレータ。
【請求項3】
シムがポリマーから形成される、請求項1に記載のインフレータ。
【請求項4】
シムが、融点が175°〜400°Fの範囲の材料から形成される、請求項1に記載のインフレータ。
【請求項5】
車両乗員保護システム用の多チャンバインフレータであって、
第一端と第二端を有するハウジング;
前記ハウジング内部において、動作可能に互いに分離された第1の推進剤チャンバと第2の推進剤チャンバを形成するため、前記にハウジング端の間に位置する仕切りであって、第1の推進剤チャンバと連通する第1の表面と、第2の推進剤チャンバと連通する第2の表面を有し、第1の表面と第2の表面の間に広がり、第1の推進剤チャンバと第2の推進剤チャンバの間に流体連通を与える少なくとも1つの開口を有する、前記仕切り;
前記第1のチャンバに含まれ、前記インフレータが起動すると燃焼する第1のガス発生推進剤;
前記第2のチャンバに含まれ、前記インフレータが起動すると燃焼する第2のガス発生推進剤であって、任意に前記第1の推進剤と同時に燃焼可能な前記第2のガス発生推進剤;および
前記仕切りの第1の表面に固定され、前記開口をふさぐために前記少なくとも1つの開口を覆う耐圧性のシムであって、第1のガス発成推進剤の燃焼中に第1のチャンバ内の圧力上昇を促し、それによって燃焼反応の効率性を高める前記シムを具備する、前記インフレータ。
【請求項6】
シムがスズ、ビスマス、鉛、カドミウム、インジウム、金、銀および銅からなる群から選択される2以上の元素の共融混合物を含む低融解温度合金から形成される、請求項5に記載のインフレータ。
【請求項7】
シムがポリマーから形成される、請求項5に記載のインフレータ。
【請求項8】
シムが175°〜400°Fの範囲の融点を有する材料から形成される、請求項5に記載のインフレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−525358(P2007−525358A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549674(P2006−549674)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/001456
【国際公開番号】WO2005/069899
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506091492)オートモーティブ システムズ ラボラトリー インコーポレーテッド (11)
【Fターム(参考)】