説明

多価イオン伝導性材料、多価イオン伝導性電解質、多価イオン伝導性電解質−電極接合体、及び多価イオン電池

【課題】カルシウム又はマグネシウムを用いた多価電荷輸送ができ、かつイオン伝導性が高く、供給安定性及び安全性に優れた多価イオン伝導性電解質、該多価イオン伝導性電解質の製造に好適な多価イオン伝導性材料、該多価イオン伝導性電解質を使用した多価イオン伝導性電解質−電極接合体、該多価イオン伝導性電解質を使用した多価イオン伝導性電解質膜−電極接合体、及び該多価イオン伝導性電解質−電極接合体を備えた多価イオン電池の提供。
【解決手段】四級アンモニウム塩[R]Z1−及びアンモニウム塩[R]Z1−から選ばれる1種以上(A1)と、多価イオン塩M2+((YSO(B1)と、金属錯体塩[R]2+及び金属錯体塩[R101112]から選ばれる1種以上(B2)とが配合された多価イオン伝導性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価イオン伝導性材料、該多価イオン伝伝導性材料を使用した多価イオン伝導性電解質、該多価イオン伝導性電解質を使用した多価イオン伝導性電解質−電極接合体、及び該多価イオン伝導性電解質−電極接合体を使用した多価イオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
我々は、地球資源を使用して、エネルギーを取り出し、利用することによって物質的に豊かな生活を手に入れている。一方で、エネルギーを利用した際に排出される生成物によって地球規模の環境問題を引き起こしてしまっている。今後の急激な世界人口の増加と、それに伴うエネルギー不足が予想される中、持続可能な成長を実現するためには、安全で、且つ地球環境に優しいクリーンなエネルギーを、安定的に供給する必要がある。また地球に住む我々は、単なる利便性の追及だけでなくクリーンなエネルギーを積極的に使用し、クリーンエネルギーに根ざした社会を構築していかなければならない。
【0003】
近年、クリーンエネルギーとして、高エネルギー密度と高電圧を有する蓄電池としてリチウムイオン二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池は、1991年に初めて量産されて以来、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラなどのデジタル携帯機器に搭載されている。そして、今後はハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)などの車載用途をはじめ、医療、住宅、情報分野などの様々な分野への展開が予想されている。そこで、このような今後の展開に応えるべく、リチウムイオン電池等の二次電池には、性能、製造技術及び管理技術のさらなる向上が求められている。
【0004】
一般に、リチウムイオン二次電池は、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物を活物質とする正極と、コークス、黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料を活物質とする負極と、電極間の絶縁性とリチウムイオンの移動経路を確保するポリエチレン製、ポリプロピレン製のセパレーターと、セパレーターに含浸された非プロトン性溶媒等のリチウムイオン伝導性電解質と、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩と、から構成されている。
【0005】
リチウムイオン伝導性電解質として最も一般的な電解液は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒を主たる構成成分とし、このようなリチウムイオン二次電池は、有機溶媒が漏れて引火する恐れがあり、必ずしも安全であるとは言えない。また、過負荷がかかると電解液が電極と反応して、電池容量が低下してしまうことがある。すなわち、用途が多様化するリチウムイオン二次電池において、電池の安全性と信頼性の向上は急務の課題であり、安全な電池の開発に大きな期待が寄せられている。
【0006】
また、リチウムイオン電池は安全性だけでなく供給安定性に関しても問題がある。というのも、地球上に存在する原子の割合を表す指標となるクラーク数が0.006のリチウムはレアメタルと呼ばれており、クラーク数が4.70の鉄や2.63のナトリウムと比較すると圧倒的に少ない。それ故リチウムイオン電池は、必ずしも安定供給が可能で安心できるエネルギー源であるとは言えないからである。近い将来、価格高騰など「リチウムショック」が起きてもおかしくはない。安定供給が可能で、同じく電池になる可能性が高い元素としては、クラーク数が7.56と大きなアルミニウム、3.39のカルシウム、2.63のナトリウムや1.93のマグネシウムといった元素を使ったものが挙げられる。
【0007】
例えば、カルシウム、マグネシウムは2価であり、リチウムと比較すると、原子1個当たり2倍の電荷を輸送することができる。こうした多価電荷輸送は、高いエネルギー密度の電池や急速充放電に対応できる電池を実現できる可能性があるため、リチウムイオン電池よりも安全で安心できるエネルギーとしてその製品化が期待されている。
【0008】
多価イオン伝導に関しては、今までにさまざまな報告がなされており、特許文献1には、多価イオン伝導性固体電解質コンポジットの報告がある。目的とする可動イオンよりも価数の高い陽イオンを含有する第二成分を固体酸化物中に分散させることで、酸化物イオンを捕捉し、可動イオンの伝導性を上げることができるとされている。
特許文献2には、リチウムイオン電池よりも優れた性能を示すと言われているリチウム空気二次電池に関する具体的な実施例が示されている。また、実施例こそ報告されていないもののマグネシウム空気二次電池の可能性が示唆されている。
【0009】
特許文献3には、多価カチオン化学種を用いた再充電可能な高電圧・大容量の電気化学バッテリセルに関する報告がある。放電時、充電時に、正極と負極それぞれで異なるイオンを同時に酸化還元することによって、平均するとイオン1個当たり1電子以上の多価電荷輸送ができるとされている。
特許文献4には、マグネシウムイオン伝導性電解液の報告がある。マグネシウムイオンの電解液としてグリニャール試薬を使用した場合に電位窓が小さくなり電池として不十分であるという課題を解決し、ドライルーム等の一般的な製造環境で製造できるとされている。
【0010】
特許文献5には、マグネシウム空気二次電池について報告されており、放電時に発生する酸化マグネシウムが充電時に分解しないことが課題となっているのに対し、酸素を活物質とする正極に安定ラジカルを含有することで酸化マグネシウムの分解を促進できるとされている。
特許文献6には、金属マグネシウムやマグネシウムイオンではなく、水素化マグネシウムを水素発生源とし、燃料として利用した燃料電池、及び水素化マグネシウムを負極として利用した二次電池について報告されている。水素化マグネシウムが反応して、水素を発生する際に生じて反応を止める水酸化マグネシウムの皮膜形成という課題を、塩化マグネシウムを利用したり、粒子系を数ナノ〜100μmに微粉化することによって除去し、解決できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−82327号公報
【特許文献2】特許第4015826号公報
【特許文献3】特表2004−513470号公報
【特許文献4】特開2010−15979号公報
【特許文献5】特開2010−86924号公報
【特許文献6】国際公開第2008/15844号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リチウムイオン電池は高い出力密度を有しており、さまざまな電子機器に搭載されている一方で、自動車用途としてはエネルギー密度が小さく、航続距離がガソリンやディーゼルエンジン車と比較して短かった。また充電時間も、ガソリンやディーゼルエンジンの給油時間と比較すると長かった。
今後、自動車用途、住宅用途としてさらなるエネルギー密度の向上が期待されているが、リチウムの反応性は高く、過去には電池が発火したこともあり、安全性に対して不安があった。
また、リチウムイオン電池に使われるリチウムはレアメタルであり、世界情勢によっては供給安定性に不安があった。
【0013】
より安全で安心して使用できるクリーンエネルギーを実現するために、これまで、カルシウム、マグネシウムの多価イオン伝導性電解質としてリチウムイオン伝導性電解質を転用した報告があるが、金属イオンへの配位力が強く、イオン伝導率は低かった。
さらに、多価イオンで金属空気二次電池を作製すると、放電時に正極で生じる金属酸化物や金属水酸化物が充電時に分解しにくいため、放電は容易にできても充電は容易に行えないという課題があった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カルシウム又はマグネシウムを用いた多価電荷輸送ができ、かつイオン伝導性が高く、供給安定性及び安全性に優れた多価イオン伝導性電解質、該多価イオン伝導性電解質の製造に好適な多価イオン伝導性材料、該多価イオン伝導性電解質を使用した多価イオン伝導性電解質−電極接合体、及び該多価イオン伝導性電解質−電極接合体を備えた多価イオン電池を提供することを課題とする。またエネルギー密度が高く、急速充放電の可能な電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に記載の多価イオン伝導性材料は、四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a)及びアンモニウム塩[R]Z1−(A1−b)からなる群から選ばれる1種以上(A1)と、多価イオン塩M2+((YSO(B1)と、金属錯体塩[R]2+(B2−a)及び金属錯体塩[R101112](B2−b)からなる群から選ばれる1種以上(B2)とが配合されてなることを特徴とする。
(但し、四級アンモニウム塩[R] Z1−(A1−a)及びアンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよく、R、R、はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記RとRとが結合して環を形成していてもよく、Xは、メチレン基若しくはメチン基を含む連結基を有していてもよい、ビニル基、アリル基、アクリルアミド、アクリレート、又はメタクリレートでり、Z1−は、アルキルスルホン酸イオン、フルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、酢酸イオン、フルオロアルキルカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオンである。
また、多価イオン塩M2+((YSO(B1)中、Mはカルシウム又はマグネシウムであり、Yはフッ素又はフルオロアルキル基である。
また、金属錯体塩[R]2+(B2−a)、及び金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)中、Mはカルシウム又はマグネシウムであり、R、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよく、R10、R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記R10とR11とが結合して環を形成していてもよく、Qは、(L(Y)C=C(Y)L)、下記一般式(B2−q1)、1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオラートアニオン、又は1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジセレナートアニオンである。(L(Y)C=C(Y)L)中、Yはフルオロアルキル基又はシアノ基であり、Lは酸素、硫黄、又はセレン(Se)である。)
【0016】
【化1】

[一般式(B2−q1)中、T、T、T、Tはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜6の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。]
本発明の請求項2に記載の多価イオン伝導性材料は、請求項1において、四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)及びアンモニウム塩[R]Z2−(A2−b)からなる群から選ばれる1種以上(A2)を更に配合してなることを特徴とする。
(但し、四級アンモニウム塩[R] Z2−(A2−a)及びアンモニウム塩[R]Z2−(A2−b)中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよく、R、R、はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記RとRとが結合して環を形成していてもよく、Xはメチレン基を含む連結基を有していてもよい、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、ペンチルエーテル、又はヘキシルエーテルであり、Z2−は、アルキルスルホン酸イオン、フルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、又はフルオロアルキルカルボン酸イオンである。)
本発明の請求項3に記載の多価イオン伝導性電解質は、請求項1又は2に記載の多価イオン伝導性材料中の少なくとも一部の前記Xが重合されたものであることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の多価イオン伝導性電解質は、請求項3において、前記多価イオン伝導性材料が、多孔質基材(C)に含浸されたことを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の多価イオン伝導性電解質−電極接合体は、請求項1又は2に記載の多価イオン伝導性材料を電極上に配し、乾燥、加熱、又は紫外線照射によって仮硬化させ、多価イオン伝導性電解質を形成した後、該多価イオン伝導性電解質上に対電極を配置して、加熱によって本硬化させることにより、該多価イオン伝導性電解質が前記電極及び対電極と接合されたものであることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の多価イオン伝導性電解質−電極接合体は、請求項3又は4に記載の多価イオン伝導性電解質が膜状に成形され、該膜の一方の面に正極が、他方の面に負極がそれぞれ接合されたことを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の多価イオン電池は、請求項5又は6に記載の多価イオン伝導性電解質−電極接合体を備えたことを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の多価イオン電池は、請求項7において、前記多価イオン伝導性電解質−電極接合体をラミネートセルに組んでなる複数の単位セルが、積層及び連結されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カルシウム又はマグネシウムを用いた多価電荷輸送ができ、かつイオン伝導性が高く、供給安定性及び安全性に優れた多価イオン伝導性電解質、該多価イオン伝導性電解質の製造に好適な多価イオン伝導性材料、該多価イオン伝導性電解質を使用した多価イオン伝導性電解質−電極接合体、及び該多価イオン伝導性電解質−電極接合体を備えた多価イオン電池を提供できる。またエネルギー密度が高く、急速充放電の可能な電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の多価イオン伝導性材料は、四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a)及びアンモニウム塩[R]Z1−(A1−b)からなる群から選ばれる1種以上(A1)と、多価イオン塩M2+((YSO(B1)と、金属錯体塩[R]2+(B2−a)及び金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)からなる群から選ばれる1種以上(B2)とが配合されてなる組成物である。
【0019】
<<A1成分>>
本発明の多価イオン伝導性材料におけるA1成分は、四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a)及びアンモニウム塩[R]Z1−(A1−b)からなる群から選ばれる1種以上(A1)である。
【0020】
<A1−a成分>
前記四級アンモニウム塩[R] Z1−(A1−a成分)中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよい。
ここで、「RとRとが結合して環を形成していてもよい」とは、RとRとが結合し、R及びRと結合している窒素原子とともに環を形成していても良いことをいう。
言い換えると、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数1〜10のアルケニレン基であって、RとRとが結合して環を形成していてもよい。
【0021】
前記炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性を高める観点から、直鎖状が好ましい。
直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基が挙げられる。前記炭素数1〜10のアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0022】
前記炭素数4〜7のシクロアルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基が挙げられる。本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性を高める観点から、シクロヘキシル基又はシクロヘプチル基が好ましい。前記炭素数4〜7のシクロアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0023】
前記炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えばメチレン基(−CH−)、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。前記炭素数1〜10のアルキレン基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0024】
前記炭素数1〜10のアルケニレン基とは、鎖中に1〜3個の二重結合を有する炭素数1〜10のアルキレン基を意味し、例えばメチン基(=CH−)、エテニレン基(−CH=CH−)、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基等が挙げられる。前記炭素数1〜10のアルケニレン基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0025】
前記R、R、Rは、前記炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。前記[R]が鎖状のアルキル基を有する四級アンモニウムカチオンであると、環状のアルキル基を有する場合よりも、本発明の多価イオン電池の充放電における電気化学的安定性がより高くなるため、好ましい。また、鎖状のアルキル基の方が環状のアルキル基よりも分子体積が大きくなることがあり、この場合、本発明の多価イオン電解質における、多価イオン伝導性が高くなるため、好ましい。
【0026】
前記R、R、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基であることが好ましく、直鎖状若しくは分岐鎖状の、プロピル基又はブチル基であることがより好ましい。プロピル基又はブチル基であると、A1成分の溶媒に対する溶解性をより適度とすることができ、且つ、本発明の多価イオン伝導性電解質における、多価イオン(Ca2+又はMg2+)のイオン伝導性をより高くすることができる。
【0027】
前記RとRとが結合する場合、Rの末端とRの末端とが結合することが好ましいが、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの鎖中の炭素原子とが結合しても良い。
【0028】
前記RとRとが結合して環を形成する場合、該環は5〜7員環構造であることが好ましい。この場合、該環は、R及びRが結合する窒素原子を含めた含窒素5〜7員環となる。
【0029】
前記含窒素5〜7員環の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。該炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。これらの置換基を有すると、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる場合がある。
【0030】
前記環は、R及びRが結合する窒素原子の他に、該環を構成する炭素原子を置換するヘテロ原子を含んでいても良い。該へテロ原子は、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であり、窒素原子が好ましい。
【0031】
前記四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a)中、カチオン[R]は、ピロリジン環又はピペリジンを骨格構造とするものであってもよい。
より具体的には、前記カチオン[R]は下記一般式(A1−a−01)又は下記一般式(A1−a−02)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0032】
【化2】

【0033】
前記一般式(A1−a−01)中、Wは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0034】
【化3】

【0035】
前記一般式(A1−a−02)中、Wは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0036】
前記四級アンモニウム塩[R] Z1−(A1−a成分)中、Xは、メチレン基(−CH−)若しくはメチン基(=CH−)を含む連結基を有していても良い、ビニル基、アリル基、アクリルアミド、アクリレート、又はメタクリレートである。
ここで、「メチレン基若しくはメチン基を含む連結基を有していても良い」とは、四級アンモニウムの窒素原子と上記ビニル基、アリル基、アクリルアミド、アクリレート、又はメタクリレートとを連結する連結基が単結合、メチン基若しくはメチレン基、又はメチン基若しくはメチレン基を含むものであることを意味する。前記Xは、前記連結基を有していなくてもよい。この場合、前記連結基は単結合である。
【0037】
前記メチレン基を含む連結基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜8の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基であることがより好ましい。該アルキレン基の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。該連結基は酸素原子、硫黄原子、セレン原子を含んでいても良い。
前記連結基が直鎖状のメチレン基、エチレン基、プロピレン基、又は単結合であると、本発明にかかる多価イオン電池の充放電時の電気化学的安定性がより高められ、且つ、本発明にかかる多価イオン伝導性電解質における多価イオンのイオン伝導性がより高められる。前記連結基がブチル基以上の長さだと、分子間の距離が長くなり、多価イオンの伝導パスが縮小されてしまうことがある。
【0038】
前記ビニル基、アリル基、アクリルアミド、アクリレート、及びメタクリレートは、その分子中に反応性二重結合(重合性不飽和二重結合)を有する。このため、適切な反応条件を設定すれば、前記四級アンモニウム塩を構成するカチオン同士を互いに重合させて、ポリマー化することができる。
前記連結基が上記好ましい炭素数を有するものであると、四級アンモニウムの窒素原子と前記ビニル基、アリル基、アクリルアミド、アクリレート、又はメタクリレートとの距離が適当に保たれて、カチオン同士を重合させることがより容易となる。
【0039】
前記四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a成分)中、カチオン[R]の好適な例としては、前記R、R、R、Xの好適な例を組み合わせたものが挙げられる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0040】
前記四級アンモニウム塩(A1−a成分)を構成する好適なカチオンとしては、以下のものが例示できる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいカチオンの具体例としては、トリエチルビニルアンモニウムカチオン、アリルトリエチルアンモニウムカチオン、シクロヘキシルジメチルビニルアンモニウムカチオン、アリルシクロヘキシルジメチルカチオン、トリ−n−オクチルビニルアンモニウムカチオン、アリルトリ−n−オクチルアンモニウムカチオン、トリ−n−ブチルビニルアンモニウムカチオン、アリルトリ−n−ブチルアンモニウムカチオン、ジ−n−ブチルメチルビニルアンモニウムカチオン、アリルジ−n―ブチルメチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアンモニウムカチオン、N‐(2‐アクリロイルオキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムカチオン、N‐(2‐アクリルアミドエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0041】
前記四級アンモニウム塩[R] Z1−(A1成分)中、Z1−は、アルキルスルホン酸イオン(RSO)、フルオロアルキルスルホン酸イオン(R’SO)、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン(( RSO)、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン(( R’SO)、酢酸イオン(CHCOO)、フルオロアルキルカルボン酸イオン(R’COO)、過塩素酸イオン(ClO)、テトラフルオロホウ酸イオン(B F )、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、ヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF)、塩化物イオン(Cl) 、臭化物イオン(B r)、又はヨウ化物イオン(I)である。前記Rはアルキル基であり、前記R’はフルオロアルキル基である。
【0042】
アルキルスルホン酸イオン(RSO)、フルオロアルキルスルホン酸イオン(R’SO)、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン(( RSO)、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン(( R’SO)、及びフルオロアルキルカルボン酸イオン(R’COO)を構成するアルキル基(R)又はフルオロアルキル基(R’)は、それぞれ炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状の、アルキル基又はフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の直鎖状の、アルキル基又はフルオロアルキル基であることがより好ましい。これらのなかでも炭素数1〜4の直鎖状フルオロアルキル基が特に好ましい。フルオロアルキル基であると、アニオンが安定化し、多価イオンへの配位能が弱まり、解離が促進される。その結果、多価イオンの塩交換が頻繁に起こり、拡散速度が一層向上する。またフッ素原子は水素原子よりも原子半径が大きいため、その立体障害によって、解離が一層促進される。炭素数が5以上になると、多価イオン濃度が減ったり、対イオンが占める体積が大きくなりすぎて、伝導パスが減少してしまうことがある。
前記フルオロアルキル基(R’)は、前記アルキル基(R)の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたものであっても良いし、該アルキル基の一部の水素原子が置換されたものであっても良い。
【0043】
前記Z1−としては、アルキルスルホン酸イオン(RSO)、フルオロアルキルスルホン酸イオン(R’SO)、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン(( RSO、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン(( R’SO)、フルオロアルキルカルボン酸イオン(R’COO)、テトラフルオロホウ酸イオン(B F )、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、又はヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF)が好ましい。
これらのアニオンであると、前記好適なカチオンと組み合わせた場合に、前記四級アンモニウム塩がイオン液体(イオン性液体)となり易く、本発明にかかる多価イオン伝導性材料からなる多価イオン伝導性電解質の伝導度をより高めることができる。
【0044】
前記四級アンモニウム塩(A1成分)を構成する好適なアニオンとしては、以下のものが例示できる。これらのアニオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいアニオンの具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンカルボン酸アニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン等が挙げられる。これらは、電気陰性度が最も高いフッ素原子が水素原子の代わりに結合しているため、アニオンが安定化できる。また、アニオンが非局在化しており、さらに安定である。この結果、配位結合性の強い、CaやMgといった原子に対しても、対イオン交換を頻繁に起こすことができ、多価イオンの拡散速度を上げることができる。
【0045】
本発明の多価イオン伝導性材料を構成する好適な四級アンモニウム塩(A1−a成分)としては、以下のものが例示できる。これらのA1−a成分は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。また、これらのA1−a成分を構成するカチオンの一部が互いに重合したオリゴマーとなっていても良い。
好ましい四級アンモニウム塩(A1−a成分)の具体例としては、前述の好ましいカチオンと前述の好ましいアニオンの組み合わせが挙げられる。例えば、トリフルオロメタンスルホン酸(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ペンタフルオロエタンカルボン酸(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、トリフルオロメタンスルホン酸(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアンモニウム)塩、ペンタフルオロエタンカルボン酸(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル‐N‐(2‐メタクリロイルオキシプロピル)−N−メチルアンモニウム)塩等が挙げられる。
【0046】
<A1−b成分>
前記アンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)中、R、R、はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記RとRとが結合して環を形成していても良い。前記R又は前記Rは、窒素原子と二重結合を形成している。
ここで、「前記RとRとが結合して環を形成していてもよい」とは、前記R及びRと結合している窒素原子とともに環を形成していてもよいことをいう。該環は5〜7員環構造であることが好ましい。この場合、該環は、R及びRが結合する窒素原子を含めた含窒素5〜7員環となる。
【0047】
前記含窒素5〜7員環の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。該炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。これらの置換基を有すると、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる場合がある。
【0048】
前記環は、R及びRが結合する窒素原子の他に、該環を構成する炭素原子を置換するヘテロ原子を含んでいても良い。該へテロ原子は、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であり、窒素原子が好ましい。
【0049】
前記炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が例示できる。前記炭素数1〜10のアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
前記炭素数1〜10のアルケニル基とは、鎖中に1〜3個の二重結合を有する炭素数1〜10のアルキル基を意味し、例えばメテニル基(=CH)、エテニル基(−CH=CH)、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が例示できる。前記炭素数1〜10のアルケニル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0050】
前記RとRとが結合する場合、Rの末端とRの末端とが結合することが好ましいが、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子と炭素Rの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの鎖中の炭素原子とが結合しても良い。
【0051】
前記アンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)におけるXの説明及び好適な例は、前述の四級アンモニウム塩[R] Z1−(A1−a成分)におけるXの説明及び好適な例と同じである。
【0052】
前記アンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)中、カチオン [R]の好適な例としては、前記R、R、Xの好適な例を組み合わせたものが挙げられる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0053】
前記アンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)中、カチオン [R]は、イミダゾール環又はピリジン環を骨格構造とするものであってもよい。
より具体的には、前記カチオン[R]は下記一般式(A1−b−01)又は下記一般式(A1−b−02)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0054】
【化4】

【0055】
前記一般式(A1−b−01)中、W、Wはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、炭素数1〜8の、アルキル基又はヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
前記Wは、水素原子又は炭素数1〜8の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0056】
【化5】

【0057】
前記一般式(A1−b−02)中、W、W、Wはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記W、W、Wは、水素原子、又は炭素数1〜8の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0058】
前記アンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)におけるアニオンZ1−の説明及び好適な例は、前述の四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a成分)におけるアニオンZ1−の説明及び好適な例と同じである。
前記アンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)の好適な例は、前述のカチオン[R]の好適な例と、前記アニオンZ1−の好適な例とを組み合わせたものが挙げられる。
前記A1−b成分は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。また、前記A1−b成分を構成するカチオンの一部が互いに重合したオリゴマーとなっていても良い。
【0059】
<<B1成分>>
本発明の多価イオン伝導性材料におけるB1成分は、多価イオン塩M2+((YSO(B1)である。
【0060】
前記多価イオン塩M2+((YSO(B1成分)中、Mはカルシウム(Ca)又はマグネシウム(Mg)である。
前記多価イオン塩のカチオンとしてCa2+又はMg2+が含まれることにより、本発明の多価イオン伝導性材料において、該Ca2+又はMg2+を可動イオンとすることができる。これにより、多価イオン伝導性材料からなる多価イオン伝導性電解質において、高エネルギー密度の電荷移動が実現できる。
【0061】
前記多価イオン塩M2+((YSO(B1)中、Yはフッ素(F)又はフルオロアルキル(R’)である。
前記フルオロアルキル(R’)は、炭素数1〜8の、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基の水素の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものであることが好ましく、炭素数1〜4の、直鎖状アルキル基の水素の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものであることがより好ましい。強力な電気吸引性基であるフッ素又はフルオロアルキル基によってアニオンが安定化し、多価イオンへの配位能が弱まり、解離が促進される。その結果、多価イオンの塩交換が頻繁に起こり、拡散速度が一層向上する。またフッ素原子は水素原子よりも原子半径が大きいため、その立体障害によって、解離が一層促進される。炭素数が5以上になると、多価イオン濃度が減ったり、対イオンが占める体積が大きくなりすぎて、伝導パスが減少してしまうことがある。
【0062】
本発明の多価イオン伝導性材料を構成する好適な多価イオン塩(B1成分)としては、以下のものが例示できる。これらの多価イオン塩は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいB1成分(B1成分)としては、好ましいアニオンのカルシウム塩とマグネシウム塩が挙げられる。例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)カルシウム、ビス(ペンタフルオロエタンカルボン酸)カルシウム、ビス(ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド)カルシウム、ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)カルシウム、ビス(ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)カルシウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)マグネシウム、ビス(ペンタフルオロエタンカルボン酸)マグネシウム、ビス(ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド)マグネシウム、ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)マグネシウム、ビス(ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)マグネシウム等が挙げられる。
【0063】
<<B2成分>>
本発明の多価イオン伝導性材料におけるB2成分は、金属錯体塩[R]2+(B2−a)、及び金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)からなる群から選ばれる1種以上(B2)である。
【0064】
<B2−a成分>
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a成分)中、Mはカルシウム(Ca)又はマグネシウム(Mg)である。
前記金属錯体塩のカチオンとしてCa2+又はMg2+が含まれることにより、本発明の多価イオン伝導性電解質において、高エネルギー密度の電荷移動が実現できる。これにより、本発明の多価イオン電池において、Ca2+又はMg2+を介した充電を行うことができる。すなわち、充電の際、放電で析出した酸化物又は、水酸化物の分解反応を促進できる。
【0065】
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a成分)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよい。
ここで、「RとRとが結合して環を形成していてもよい」とは、RとRとが結合し、R及びRと結合している窒素原子とともに環を形成していても良いことをいう。
言い換えると、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数1〜10のアルケニレン基であって、RとRとが結合して環を形成していてもよい。
【0066】
前記炭素数1〜10のアルキル基の説明、前記炭素数4〜7のシクロアルキル基の説明、前記炭素数1〜10のアルキレン基の説明、及び前記炭素数1〜10のアルケニレン基の説明、並びにこれらの好適な例は、前述のA1−a成分における炭素数1〜10のアルキル基の説明、炭素数4〜7のシクロアルキル基の説明、前記炭素数1〜10のアルキレン基の説明、及び前記炭素数1〜10のアルケニレン基の説明、並びにこれらの好適な例と同じである。
【0067】
前記R、R、R、Rは、前記炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。前記[R]が鎖状のアルキル基を有するアンモニウムカチオンであると、環状のアルキル基を有する場合よりも、本発明の多価イオン電池の充放電における電気化学的安定性がより高くなるため、好ましい。また、鎖状のアルキル基の方が環状のアルキル基よりも分子体積が大きくなることがあり、この場合、本発明の多価イオン電解質における、多価イオン伝導性が高くなるため、好ましい。
【0068】
前記R、R、R、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基であることが好ましく、直鎖状若しくは分岐鎖状の、プロピル基又はブチル基であることがより好ましい。プロピル基又はブチル基であると、B2成分の溶媒に対する溶解性をより適度とすることができ、且つ、本発明の多価イオン伝導性電解質における、多価イオン(Ca2+又はMg2+)のイオン伝導性をより高くすることができる。
【0069】
前記RとRとが結合する場合、Rの末端とRの末端とが結合することが好ましいが、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの鎖中の炭素原子とが結合しても良い。
【0070】
前記RとRとが結合して環を形成する場合、該環は5〜7員環構造であることが好ましい。この場合、該環は、R及びRが結合する窒素原子を含めた含窒素5〜7員環となる。
【0071】
前記含窒素5〜7員環の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。該炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。これらの置換基を有すると、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる場合がある。
【0072】
前記環は、R及びRが結合する窒素原子の他に、該環を構成する炭素原子を置換するヘテロ原子を含んでいても良い。該へテロ原子は、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であり、窒素原子が好ましい。
【0073】
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a成分)中、カチオン[R]の好適な例としては、前記R、R、R、Rの好適な例を組み合わせたものが挙げられる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0074】
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a成分)中、カチオン[R]は、ピロリジン環又はピペリジンを骨格構造とするものであってもよい。
より具体的には、前記カチオン[R]は下記一般式(B2−a−01)又は下記一般式(B2−a−02)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0075】
【化6】

【0076】
前記一般式(B2−a−01)中、W及びWはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
前記Wは、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基が好ましく、プロピル基又はブチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0077】
【化7】

【0078】
前記一般式(B2−a−02)中、W10及びW11はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記W10は、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
前記W11は、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基が好ましく、プロピル基又はブチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0079】
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a)を構成する四級アンモニウム[R]の好適なものとしては、以下のものが例示できる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいカチオンの具体例としては、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムカチオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムカチオン、アミルトリエチルアンモニウムカチオン、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムカチオン、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムカチオン、テトラ−n−ブチルアンモニウムカチオン、トリ−n−ブチルメチルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0080】
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a)中、Qは、(L(Y)C=C(Y)L)、下記一般式(B2−q1)、1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオラートアニオン、又は1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジセレナートアニオンである。
【0081】
前記(L(Y)C=C(Y)L)中、Yはフルオロアルキル基(R’)又はシアノ基(CN)であり、Lは酸素(O)、硫黄(S)、又はセレン(Se)である。
【0082】
前記Yのフルオロアルキル基としては、炭素数1〜8の、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基の水素の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものであることが好ましく、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基の水素の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものであることがより好ましい。
これらのフルオロアルキル基であると、強力な電気吸引性基であるフッ素を有するフルオロアルキル基によってアニオンが安定化し、多価イオンへの配位能が弱まり、解離が促進される。その結果、多価イオンの塩交換が頻繁に起こり、多価イオンもしくは配位子が電子を受け取りやすくなり、放電で生じた多価イオンの酸化物と水酸化物の分解反応を促進する。この結果、本発明の多価イオン電池の充電を高効率で行うことができる。前記フルオロアルキル基の炭素数が5以上になると、多価イオン濃度が減ったり、対イオンが占める体積が大きくなりすぎて、前記分解反応に寄与しない確率が高くなることがある。
【0083】
【化8】

【0084】
前記一般式(B2−q1)中、T、T、T、Tはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜6の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。該アルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
前記炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
【0085】
前記Qで表されるアニオンとしては、配位子の電子吸引性が強く、アニオンそのものが電子アクセプターとなるアニオン分子が好ましい。また該アニオン分子は、多価カチオンに配位した金属錯体の最低非占有軌道(LUMO)が低く、中心金属が電子アクセプター性を有することが好ましい。
【0086】
前記金属錯体塩[R]2+(B2−a)を構成するアニオンQの好適なものとしては、以下のものが例示できる。これらのアニオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいアニオンの具体例としては、例えば1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオラートアニオン(化学式:B2−01)、1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジセレナートアニオン(化学式:B2−02)、マレノニトリルジチオラートアニオン(化学式:B2−03)、マレノニトリルジセレナートアニオン(化学式:B2−04)、トルエン−3,4−ジチオラートアニオン(化学式:B2−05)、ベンゼン−1,2−ジチオラートアニオン(化学式:B2−06)、cis−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン−2,3−ジチオラート(化学式:B2−07)、cis−1,1,1,2,2,5,5,6,6,6−デカフルオロ−3−ヘキセン−3,4−ジチオラート(化学式:B2−08)等が挙げられる。
これらのアニオンは、配位子の電子吸引性が強く、アニオンそのものが電子アクセプターとなるため好ましい。また、これらのアニオンは、多価カチオンに配位した金属錯体の最低非占有軌道(LUMO)が低く、中心金属が電子アクセプター性を有するので好ましい。
【0087】
【化9】

【0088】
【化10】

【0089】
【化11】

【0090】
【化12】

【0091】
本発明の多価イオン伝導性材料を構成する好適な金属錯体塩(B2−a成分)としては、以下のものが例示できる。これらの金属錯体塩は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましい金属錯体塩(B2成分)の具体例としては、好ましいカチオンと好ましいアニオンの組み合わせを挙げることができる。例えば、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオラート)カルシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(マレノニトリルジチオラート)カルシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(トルエン−3,4−ジチオラート)カルシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(ベンゼン−1,2−ジチオラート)カルシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(ジチオベンジラート)カルシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオラート)マグネシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(マレノニトリルジチオラート)マグネシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(トルエン−3,4−ジチオラート)マグネシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(ベンゼン−1,2−ジチオラート)マグネシウム、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)ビス(ジチオベンジラート)マグネシウム等が挙げられる。
【0092】
<B2−b成分>
前記金属錯体塩[R101112]2+(Q(B2−b)中、Mはカルシウム(Ca)又はマグネシウム(Mg)である。
前記金属錯体塩のカチオンとしてCa2+又はMg2+が含まれることにより、本発明の多価イオン伝導性電解質において、高エネルギー密度の電荷移動が実現できる。これにより、本発明の多価イオン電池において、Ca2+又はMg2+を介した充電を行うことができる。すなわち、充電の際、放電で析出した酸化物又は、水酸化物の分解反応を促進できる。
【0093】
前記金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)中、R10、R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記R10とR11とが結合して環を形成していても良い。前記R10、R11又はR12は、窒素原子と二重結合を形成している。
ここで、「前記R10とR11とが結合して環を形成する」とは、前記R10及びR11が結合している窒素原子とともに環を形成することをいう。該環は5〜7員環構造であることが好ましい。この場合、該環は、R10及びR11が結合する窒素原子を含めた含窒素5〜7員環となる。
【0094】
前記含窒素5〜7員環の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。該炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。これらの置換基を有すると、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる場合がある。
【0095】
前記環は、R10及びR11が結合する窒素原子の他に、該環を構成する炭素原子を置換するヘテロ原子を含んでいても良い。該へテロ原子は、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であり、窒素原子が好ましい。
【0096】
前記炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が例示できる。前記炭素数1〜10のアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
前記炭素数1〜10のアルケニル基とは、鎖中に1〜3個の二重結合を有する炭素数1〜10のアルキル基を意味し、例えばメテニル基(=CH)、エテニル基(−CH=CH)、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基が例示できる。前記炭素数1〜10のアルケニレン基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0097】
前記R10とR11とが結合する場合、R10の末端とR11の末端とが結合することが好ましいが、R10の鎖中の炭素原子とR11の末端とが結合しても良く、R11の鎖中の炭素原子と炭素R10の末端とが結合しても良く、R10の鎖中の炭素原子とR11の鎖中の炭素原子とが結合しても良い。
【0098】
前記金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)中、カチオン[R101112]の好適な例としては、前記R10、R11、R12の好適な例を組み合わせたものが挙げられる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0099】
前記金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)中、カチオン [R101112]は、イミダゾール環又はピリジン環を骨格構造とするものであってもよい。
より具体的には、前記カチオン[R101112]は下記一般式(B2−b−01)又は下記一般式(B2−b−02)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0100】
【化13】

【0101】
前記一般式(B2−b−01)中、W12、W13、W14はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記W12、W14は、炭素数1〜8の、アルキル基又はヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
前記W13は、水素原子又は炭素数1〜8の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0102】
【化14】

【0103】
前記一般式(B2−b−02)中、W15、W16、W17、W18はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記W15、W16、W17は、水素原子、又は炭素数1〜8の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
前記W18は、炭素数1〜8の、アルキル基又はヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0104】
前記金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)を構成するアンモニウム[R101112]の好適なものとしては、以下のものが例示できる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいカチオンの具体例としては、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチルピリジニウムカチオン、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウムカチオン、1−エチル−3−メチルピリジニウムカチオン、1−エチルピリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0105】
前記金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)におけるQの説明及び好適な具体例は、前述のB2−a成分におけるQの説明及び好適な具体例と同じである。
前記金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)の好ましいものとしては、B2−b成分を構成するカチオンの好適なものと、B2−b成分を構成するアニオンの好適なものとを組み合わせたものが挙げられる。
【0106】
<重合について>
本発明の多価イオン伝導性材料は、前記四級アンモニウム塩(A1成分)、前記多価イオン塩(B1成分)、及び前記金属錯体塩(B2成分)を配合してなる硬化性組成物である。A1成分のカチオンは反応性二重結合を有するため、これが互いに重合してポリマー化することにより、硬化させることができる。
【0107】
前記多価イオン伝導性材料(硬化性組成物)を重合させる方法は特に制限されず公知の方法が適用できる。例えば、前記多価イオン伝導性材料に市販の光重合開始剤と熱重合開始剤を添加し、紫外線等を照射することによって、前記多価イオン伝導性材料中のA1成分のXを仮重合させ、続く加熱処理によって本重合させる二段階硬化の方法が好適である。
【0108】
ここで、「仮重合させる」とは、液状の多価イオン伝導性材料中の前記Xの少なくとも一部を重合させて、多価イオン伝導性材料を柔らかいゲル状態(半固体状態)又は高粘度状態にすることを意味し、「本重合させる」とは、多価イオン伝導性材料中の前記Xの大部分を重合させて、多価イオン伝導性材料を固体状態又はゲル状態にすることを意味する。
【0109】
<<A2成分>>
本発明の多価イオン伝導性材料には、四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)及びアンモニウム塩[R]Z2−(A2−b)からなる群から選ばれる1種以上(A2)を更に含むことが好ましい。A2成分は構造的にA1成分と親和性が高いため、本発明の多価イオン伝導性材料の優れた伝導性を損なうことなく混合することができる。A2成分はイオン液体になることが可能であり、重合性不飽和結合を有さないので構造的にA1成分よりも流動性が高い。このため、A2成分を添加することによって、可動イオンであるCa2+又はMg2+の伝導性(移動性)をより高めて、本発明の多価イオン伝導性材料からなる多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる。
【0110】
<A2−a成分>
前記四級アンモニウム塩[R] Z2−(A2−a成分)中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよい。
ここで、「RとRとが結合して環を形成していてもよい」とは、RとRとが結合し、R及びRと結合している窒素原子とともに環を形成していても良いことをいう。
言い換えると、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数1〜10のアルケニレン基であって、RとRとが結合して環を形成していてもよい。
【0111】
前記炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性を高める観点から、直鎖状が好ましい。
直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基が挙げられる。前記炭素数1〜10のアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0112】
前記炭素数4〜7のシクロアルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基が挙げられる。本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性を高める観点から、シクロヘキシル基又はシクロヘプチル基が好ましい。前記炭素数4〜7のシクロアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0113】
前記炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えばメチレン基(−CH−)、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。前記炭素数1〜10のアルキレン基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0114】
前記炭素数1〜10のアルケニレン基とは、鎖中に1〜3個の二重結合を有する炭素数1〜10のアルキレン基を意味し、例えばメチン基(=CH−)、エテニレン基(−CH=CH−)、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基等が挙げられる。前記炭素数1〜10のアルケニレン基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0115】
前記R、R、Rは、前記炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。前記[R]が鎖状のアルキル基を有する四級アンモニウムカチオンであると、環状のアルキル基を有する場合よりも、本発明の多価イオン電池の充放電における電気化学的安定性がより高くなるため、好ましい。また、鎖状のアルキル基の方が環状のアルキル基よりも分子体積が大きくなることがあり、この場合、本発明の多価イオン電解質における、多価イオン伝導性が高くなるため、好ましい。
【0116】
前記R、R、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基であることが好ましく、直鎖状若しくは分岐鎖状の、プロピル基又はブチル基であることがより好ましい。プロピル基又はブチル基であると、A2成分の溶媒に対する溶解性をより適度とすることができ、且つ、本発明の多価イオン伝導性電解質における、多価イオン(Ca2+又はMg2+)のイオン伝導性をより高くすることができる。
【0117】
前記RとRとが結合する場合、Rの末端とRの末端とが結合することが好ましいが、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの鎖中の炭素原子とが結合しても良い。
【0118】
前記RとRとが結合して環を形成する場合、該環は5〜7員環構造であることが好ましい。この場合、該環は、R及びRが結合する窒素原子を含めた含窒素5〜7員環となる。
【0119】
前記含窒素5〜7員環の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。該炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。これらの置換基を有すると、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる場合がある。
【0120】
前記環は、R及びRが結合する窒素原子の他に、該環を構成する炭素原子を置換するヘテロ原子を含んでいても良い。該へテロ原子は、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であり、窒素原子が好ましい。
【0121】
前記四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)中、カチオン[R]は、ピロリジン環又はピペリジンを骨格構造とするものであってもよい。
より具体的には、前記カチオン[R]は下記一般式(A2−a−01)又は下記一般式(A2−a−02)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0122】
【化15】

【0123】
前記一般式(A2−a−01)中、Wは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0124】
【化16】

【0125】
前記一般式(A2−a−02)中、Wは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0126】
前記四級アンモニウム塩[R] Z2−(A2成分)中、Xはメチレン基を含む連結基を有していても良い、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、ペンチルエーテル、又はヘキシルエーテルである。
ここで、「メチレン基を含む連結基を有していても良い」とは、四級アンモニウムの窒素原子と上記各エーテルとを連結する連結基が単結合、メチレン基又はメチレン基を含むものであることを意味する。前記Xは、前記連結基を有していなくてもよい。この場合、前記連結基は単結合である。
【0127】
前記メチレン基を含む連結基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜8の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。該アルキレン基の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。該連結基は酸素原子、セレン原子を含んでいても良い。
前記連結基が直鎖状又は分岐鎖状のメチレン基、エチレン基、プロピレン基、又は単結合であると、本発明にかかる多価イオン電池の充放電時の電気化学的安定性がより高められ、且つ、本発明にかかる多価イオン伝導性電解質における多価イオンのイオン伝導性がより高められる。前記連結基がブチル基以上の長さだと、アルキルエーテルとカチオンの距離が長くなり、回転運動による多価イオンの伝導パスとアニオン交換による多価イオンの伝導パスが縮小されてしまう確率が高くなる。
【0128】
前記四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)を構成する好適なカチオンとしては、以下のものが例示できる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいカチオンの具体例としては、トリエチルメチルエーテルアンモニウムカチオン、シクロヘキシルジメチルメチルエーテルアンモニウムカチオン、メチルエーテルトリ−n−オクチルアンモニウムカチオン、エチルエーテルトリ−n−ブチルアンモニウムカチオン、トリ−n−ブチルブチルエーテルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシプロピル)−N−メチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−(2−エトキシエチル)−N−メチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−(2−エトキシプロピル)−N−メチルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0129】
前記四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)中、Z2−は、アルキルスルホン酸イオン(RSO)、フルオロアルキルスルホン酸イオン(R’SO)、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン(( RSO)、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン(( R’SO)、又はフルオロアルキルカルボン酸イオン(R’COO)である。前記Rはアルキル基であり、前記R’はフルオロアルキル基である。
【0130】
前記A2−a成分のアルキルスルホン酸イオン(RSO)、フルオロアルキルスルホン酸イオン(R’SO)、アルキルスルホニルイミドイオン(( RSO)、フルオロアルキルスルホニルイミドイオン(( R’SO)、及びフルオロアルキルカルボン酸イオン(R’COO)を構成するアルキル基(R)又はフルオロアルキル基(R’)は、それぞれ炭素数1〜8の、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の、直鎖状アルキル基又はフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0131】
前記フルオロアルキル基(R’)は、前記アルキル基(R)の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたものであっても良いし、該アルキル基の一部の水素原子が置換されたものであっても良い。フルオロアルキル基であると、アニオンが安定化し、多価イオンへの配位能が弱まり、解離が促進される。その結果、多価イオンの塩交換が頻繁に起こり、拡散速度が一層向上する。またフッ素原子は水素原子よりも原子半径が大きいため、その立体障害によって、解離が一層促進される。炭素数が5以上になると、多価イオン濃度が減ったり、対イオンが占める体積が大きくなりすぎて、伝導パスが減少してしまうことがある。
前記フルオロアルキル基(R’)は、前記アルキル基(R)の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたものであっても良いし、該アルキル基の一部の水素原子が置換されたものであっても良い。
【0132】
前記四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)を構成する好適なアニオンとしては、以下のものが例示できる。これらのアニオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましいアニオンの具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンカルボン酸アニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン等が挙げられる。これらは、電気陰性度が最も高いフッ素原子が水素原子の代わりに結合しているため、アニオンが安定化できる。また、アニオンが非局在化しており、さらに安定である。この結果、配位結合性の強い、CaやMgといった原子に対しても、対イオン交換を頻繁に起こすことができ、多価イオンの拡散速度を上げることができる。
【0133】
前記四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)としては、以下のものが例示できる。これらのA2−a成分は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
好ましい四級アンモニウム塩(A2−a成分)の具体例としては、好ましいカチオンと好ましいアニオンの組み合わせが挙げられる。例えば、トリフルオロメタンスルホン酸(N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ペンタフルオロエタンカルボン酸(N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、トリフルオロメタンスルホン酸(N,N−ジエチル−N−(2−エトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ペンタフルオロエタンカルボン酸(N,N−ジエチル−N−(2−エトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル−N−(2−エトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル−N−(2−エトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(N,N−ジエチル−N−(2−エトキシエチル)−N−メチルアンモニウム)塩、等が挙げられる。
【0134】
<A2−a成分>
前記アンモニウム塩[R]Z2−(A2−b成分)中、R、R、はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記RとRとが結合して環を形成していても良い。前記R又は前記Rは、窒素原子と二重結合を形成している。
ここで、「前記RとRとが結合して環を形成していてもよい」とは、前記R及びRと結合している窒素原子とともに環を形成していてもよいことをいう。該環は5〜7員環構造であることが好ましい。該環は5〜7員環構造であることが好ましい。この場合、該環は、R及びRが結合する窒素原子を含めた含窒素5〜7員環となる。
【0135】
前記含窒素5〜7員環の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。該炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましい。これらの置換基を有すると、本発明の多価イオン伝導性電解質の伝導性をより高められる場合がある。
【0136】
前記環は、R及びRが結合する窒素原子の他に、該環を構成する炭素原子を置換するヘテロ原子を含んでいても良い。該へテロ原子は、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であり、窒素原子が好ましい。
【0137】
前記炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が例示できる。前記炭素数1〜10のアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
前記炭素数1〜10のアルケニル基とは、鎖中に1〜3個の二重結合を有する炭素数1〜6のアルキル基を意味し、例えばメテニル基(=CH)、エテニル基(−CH=CH)、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が例示できる。前記炭素数1〜10のアルケニル基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0138】
前記RとRとが結合する場合、Rの末端とRの末端とが結合することが好ましいが、Rの鎖中の炭素原子とRの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子と炭素Rの末端とが結合しても良く、Rの鎖中の炭素原子とRの鎖中の炭素原子とが結合しても良い。
【0139】
前記アンモニウム塩[R]Z2−(A2−b成分)におけるXの説明及び好適な例は、前述の四級アンモニウム塩[R] Z2−(A2−a成分)におけるXの説明及び好適な例と同じである。
【0140】
前記アンモニウム塩[R]Z2−(A2−b成分)中、カチオン [R]の好適な例としては、前記R、R、Xの好適な例を組み合わせたものが挙げられる。これらのカチオンは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0141】
前記アンモニウム塩[R]Z2−(A2−b成分)中、カチオン [R]は、イミダゾール環又はピリジン環を骨格構造とするものであってもよい。
より具体的には、前記カチオン[R]は下記一般式(A2−b−01)又は下記一般式(A2−b−02)で表される化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0142】
【化17】

【0143】
前記一般式(A2−b−01)中、W、Wはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記Wは、炭素数1〜8の、アルキル基又はヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
前記Wは、水素原子又は炭素数1〜8の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0144】
【化18】

【0145】
前記一般式(A2−b−02)中、W、W、Wはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数1〜10のアルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。
前記W、W、Wは、水素原子、又は炭素数1〜8の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基が好ましい。これらの好ましい基であると、本発明の多価イオン伝導性電解質のイオン伝導度をより高めることができる。
【0146】
前記アンモニウム塩[R]Z2−(A2−b成分)におけるアニオンZ2−の説明及び好適な例は、前述の四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a成分)におけるアニオンZ2−の説明及び好適な例と同じである。
前記アンモニウム塩[R]Z2−(A2−b成分)の好適な例は、前述のカチオン[R]の好適な例と、前記アニオンZ2−の好適な例とを組み合わせたものが挙げられる。
前記A2−b成分は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。また、前記A2−b成分を構成するカチオンの一部が互いに重合したオリゴマーとなっていても良い。
【0147】
<架橋剤(C)>
本発明の多価イオン伝導性材料には、不飽和結合を有する化合物を少なくとも含む架橋剤(C成分)を配合しても良い。架橋剤を含むことにより、A1成分のカチオン同士が重合してなるポリマー同士を架橋することができる。これにより、多価イオン伝導性材料のA1成分のカチオン同士を重合させてなる多価イオン伝導性電解質の構造的強度(機械的強度)を一層高めることができる。
【0148】
前記架橋剤としては、二つ又は三つ以上の不飽和結合を有する化合物が好ましい。
二つの不飽和結合を有する化合物としては、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、1,6−ヘキサンジイルビス[オキシ(2−ヒドロキシー3,1−プロパンジイル)]ビスアクリレート、3−(アクリロイロキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオネートジアクリレート、ビス[2−(メタクリロイロキシ)エチル]ホスファート、ビスフェノールAプロポキシレートジアクリレート、ジウレタンジメタクリレート、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートビス[6−(アクリロイロキシ)ヘキサノエート]、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、N,N’―エチレンビス(アクリルアミド)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート、ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレート、プロピレングリコールグリセロレートジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)グリセロレートジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートメチルエーテルジアクリレート、2,2’,6,6’−テトラブロモビスフェノールAジアリルエーテル、2,2’−ジアリルビスフェノールA、アリルエーテル、ジアリルカーボネート、マレイン酸ジアリル、ジアリルスクシネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のモノマー;一種以上の前記モノマーが重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
【0149】
また、二つの不飽和結合を有する化合物としては、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(以下、「シラン化合物」と略記することがある)も例示できる。該シラン化合物は、本発明の多価イオン伝導性電解質の機械的強度を向上させることができる点で好ましいものである。
前記シラン化合物としては、例えば、3−(アクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、ジアリルジメチルシラン、2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン等のモノマー;一種以上の前記モノマーが重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
【0150】
二つの不飽和結合を有する化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0151】
三つ以上の不飽和結合を有する化合物としては、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス[2−(アクリロイロキシ)エチル]イソシアヌレート、1,3,5−トリアリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,4,6−トリアリロキシ−1,3,5−トリアジン等のモノマー;一種以上の前記モノマーが重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
三つ以上の不飽和結合を有する化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0152】
<多価イオン伝導性液体(D)>
本発明の多価イオン伝導性材料は、さらに、多価イオン伝導性液体(D成分)を配合することが好ましい。
前記D成分としては、公知のリチウムイオン電池の電解質で使用される可塑剤(溶媒)が挙げられ、好ましいものとして具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、スルホラン、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,2,2,3−プロパンテトラカルボニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、1,3,5−シクロヘキサントリカルボニトリル、炭酸エチルメチル、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が例示できる。
【0153】
また、前記D成分としては、極性部位を有する低分子液体、イオン性液体も好ましいものとして挙げられる。
前記低分子液体としては、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−シアノエチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、グリセロールエトキシレート等が例示できる。
前記イオン性液体としては、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムヘキサフルオロフォスファート、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド等が例示できる。そして、これらのうち、塩は、イオン伝導の対象であるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンに対するカウンターイオン(カウンターカルシウムイオン又はカウンターマグネシウムイオン)を有するものが好ましい。
【0154】
また、前記D成分としては、前記四級アンモニウム塩(A2成分)、前記多価イオン塩(B1成分)、又は前記金属錯体塩(B2成分)を溶解したり、前記四級アンモニウム塩(A1成分)のカチオンの重合体に保持されるものが好ましい。このようなD成分を使用することで、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの伝導をより効率的に行うことができる。このようなD成分としては、双性イオン塩であるPSSハイドレート−オクタキス(テトラメチルアンモニウム)塩、ドデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、(メトキシカルボニルスルファモイル)トリエチルアンモニウムヒドロキシド分子内塩、1−(ジメチルカルバモイル)−4−(2−スルホエチル)ピリジニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラブチルアンモニウムアセタート、1−(3−スルホプロピル)ピリジニウムヒドロキサイド分子内塩、アセチル(キノリン−1−イウム−1−イル)アザニド、(トリメチルアンモニオ)アセタート、3−メチル−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−1,2,3−オキサジアゾール−3−イウム−2−イド−4−カルボン酸、1,2,2−トリメチルジアザン−2−イウム−1−イド、1,2,2,2−テトラメチルジアザン−2−イウム−1−イド、1,1,1−トリメチルジアザン−1−イウム−2−スルホナート等が例示できる。
【0155】
前記D成分は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0156】
<添加剤(E)>
本発明の多価イオン伝導性材料は、さらに、添加剤(E)として、ルイス酸(E1)、リン酸エステル(E2)及び無機粒子(E3)からなる群より選択される少なくとも一種を配合することが好ましい。多価イオン伝導性材料は、添加剤(E)を配合することにより、可動イオンの伝導性が一層向上する。
添加剤(E)は、本発明の多価イオン伝導性電解質に含浸された状態で含まれる。
【0157】
ルイス酸(E1)としては、トリス(トリメチルシリル)ボレート、2,4,6−トリメトキシボロキシン、トリメチルボレート等が例示できる。
リン酸エステル(E2)としては、トリエチルフォスファート、トリプロピルフォスファート、トリブチルフォスファート、リン酸トリス(トリメチルシリル)エステル、トリス(2−ブトキシエチル)フォスファート、トリメチルシリルポリフォスファート等が例示できる。
無機粒子(E3)としては、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉄、チタン酸鉛等が例示できる。
【0158】
<多価イオン伝導性材料の製造方法>
本発明の多価イオン伝導性材料は、四級アンモニウム塩(A1成分)、多価イオン塩(B1成分)、及び金属錯体塩(B2成分)、並びに必要に応じて、四級アンモニウム塩(A2成分)、架橋剤(C成分)、多価イオン伝導性液体(D成分)、添加剤(E成分)等のその他の成分を配合することで製造できる。
【0159】
多価イオン伝導性材料中には、上記の成分以外に、さらに必要に応じて、各種添加剤を配合しても良い。前記添加剤としては、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、濡れ性改良剤等が例示できる。
【0160】
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。また、後述する本発明の電解質を引き続き製造する場合には、この時使用する有機溶媒をさらに添加して、得られた組成物を一括して混合するようにしても良い。
各成分は、これらを順次添加しながら混合しても良いし、全成分を添加してから混合しても良く、配合成分を均一に溶解又は分散させることができれば良い。
前記各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すれば良い。
混合温度、混合時間等の混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すれば良いが、通常は、混合時の温度は10〜50℃であることが好ましく、混合の総時間は30〜90分であることが好ましい。
【0161】
多価イオン伝導性材料における各成分の配合量は、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、以下の通りである。ただし、反応溶媒は各成分には含まれないものとする。本発明においては、多価イオン伝導性電解質として残存する各成分の配合比が重要となり、可動イオンの伝導に寄与しない反応溶媒は、最終的に除去してしまうため、その量は適宜調節すれば良い。
【0162】
多価イオン伝導性材料における四級アンモニウム塩(A1成分)の配合量は、反応希釈溶媒を除く伝導材料の配合総重量に対して、40〜90質量%であることが好ましく、43〜87質量%であることがより好ましく、50〜85質量%であることが特に好ましい。
また、多価イオン伝導性材料における多価イオン塩(B1成分)の配合量は、反応希釈溶媒を除く伝導材料の配合総重量に対して、1〜60質量%であることが好ましく、3〜50質量%であることがより好ましく、5〜40質量%であることが特に好ましい。
また、多価イオン伝導性材料における金属錯体塩(B2成分)の配合量は、反応希釈溶媒を除く伝導材料の配合総重量に対して、1〜40質量%であることが好ましく、3〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることが特に好ましい。
また、多価イオン伝導性材料における四級アンモニウム塩(A2成分)の配合量は、反応希釈溶媒を除く伝導材料の配合総重量に対して、0〜70質量%であることが好ましく、5〜60質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることが特に好ましい。
【0163】
多価イオン伝導性材料における架橋剤(C成分)の配合量は、A1成分、B1成分、B2成分、及びA2成分の総配合量に対して、0.5〜50質量%であることが好ましく、0.7〜40質量%であることがより好ましく、1〜30質量%であることが特に好ましい。
【0164】
多価イオン伝導性材料における多価イオン伝導性液体(D成分)の配合量は、A1成分、B1成分、B2成分、A2成分、及びC成分の総配合量に対して、10〜90質量%であることが好ましく、15〜70質量%であることがより好ましく、20〜50質量%であることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、多価イオン伝導性液体(D成分)が多価イオン伝導性電解質の外部への漏れ出すことを、より一層防止することができ、多価イオン伝導性電解質のイオン伝導性をより高めることができる。
【0165】
多価イオン伝導性材料における添加剤(E)の配合量は、多価イオン伝導性電解質の用途又は形態等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0166】
多価イオン伝導性材料における光重合開始剤の配合量は、多価イオン伝導性材料に含まれる前記重合性不飽和二重結合の種類や量にもよるが、0.5〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましく、0.5〜5質量%であることが特に好ましい。
多価イオン伝導性材料における熱重合開始剤の配合量も、多価イオン伝導性材料に含まれる前記重合性不飽和二重結合の種類や量にもよるが、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、1〜5質量%であることが特に好ましい。
【0167】
以上で説明した本発明の多価イオン伝導性材料は、少なくとも四級アンモニウム塩(A1)、多価イオン塩(B1)、及び金属錯体塩(B2)を配合したものである。A1成分はイオン液体となることが可能であり、かつ反応性二重結合(重合性不飽和二重結合)を有するため、重合してポリマー化することによって、対イオンZ1−の移動や交換が活発に起こり易いという特性を有する。B1成分を構成する目的可動イオン(Ca2+,Mg2+)は立体障害の大きな塩基性の低い(金属カチオンを放出し易い)アニオンに配位されていることによって、移動が容易にできるという特性を有する。B2成分は、電子受容性の高い配位子が中心金属に配位し、最低非占有軌道(LUMO)のエネルギーレベルが下がることによって、M2+の部位が電子受容性を有する。このため、多価イオン二次電池における電気化学反応の律速段階である、充電時における正極での還元反応を促進できるという特性を有する。これらの特性を有する本発明の多価イオン伝導材料は、多価イオンのイオン伝導性が高い、多価イオン伝導性電解質、多価イオン伝導性電解質−電極接合体、及び多価イオン二次電池の材料として優れている。また、充放電を繰り返して使用する多価イオン二次電池の電解質としても優れている。
【0168】
<多価イオン伝導性電解質、及びその製造方法>
本発明の多価イオン伝導性電解質は、前述の多価イオン伝導性材料に含まれる四級アンモニウム塩(A1成分)を構成するカチオンのXの少なくとも一部が重合されたものである。
重合方法は特に限定されず、公知の方法が適用できる。例えば、多価イオン伝導性材料に市販の光重合開始剤と熱重合開始剤を添加し、紫外線等を照射することによって、仮重合させ、続く加熱処理によって本重合させる二段階の重合方法が好適である。
ここで、前記Xの少なくとも一部が重合されている状態としては、多価イオン伝導性材料中の前記Xの有する反応性二重結合のうち、0.1〜100%が重合していることが好ましく、10〜100%が重合していることがより好ましく、50〜100%が重合していることがさらに好ましい。なお、仮重合及び本重合の意味は、前述の通りである。
【0169】
<多価イオン伝導性電解質膜、及びその製造方法>
本発明の多価イオン伝導性電解質としては、該多価イオン伝導性電解質を膜状に成形した多価イオン伝導性電解質膜とすることが好ましい。これにより、小型電池の電解質として使用できる。
前記多価イオン伝導性電解質膜は、本発明の多価イオン伝導性電解質を膜状に成形することで製造できる。この時、多価イオン伝導性電解質の製造時に使用した、多価イオン伝導性液体(D成分)に該当しない溶媒は、乾燥により除去することが好ましい。そして、溶媒は減圧乾燥により除去することが好ましい。
多価イオン伝導性電解質を膜状に形成する方法としては、平板基材上に、スピンコーター等を使用して前記多価イオン伝導性材料を均一に塗布し、UV照射や加熱処理等によって硬化させる方法が例示できる。
【0170】
多価イオン伝導性電解質膜の製造には、多孔質基材(G)に含浸されている多価イオン伝導性材料(多価イオン伝導性電解質)を使用することが好ましい。このようにすることで、多孔質基材(G)で強化され、機械的強度が高められた多価イオン伝導性電解質膜が得られる。
【0171】
<多孔質基材(G)>
多孔質基材(G)は、有機材料からなるものでも良いし、無機材料からなるものでも良い。これら材料には、レーヨンや精製セルロースのようなセルロース系繊維、絹のようなフィブリル化を起こし易い繊維も含まれる。
【0172】
有機材料としては、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド、ポリアリレート系液晶ポリマー等の高分子化合物が例示できる。なかでも、フッ素樹脂、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリイミドからなる高分子材料は、膜厚や孔径の異なる様々な種類のものが市販されているので好適である。
【0173】
無機材料としては、ガラス、シリカ、アルミナ、カーボン、炭化ケイ素等が例示できる。
【0174】
多孔質基材(G)は、複数種類の材料からなるものでも良い。また、多孔質基材(G)は、親水化処理されたものが好ましい。
【0175】
多孔質基材(G)の形態(形状)としては、上記各材料からなる繊維をシート状に成形した不織布、織布が例示できる。織布は平織り、斜文織、朱子織、からみ織り等のいずれの織り方で織られていても良い。織布はまた、個々の繊維を直接織ったものでも良く、繊維を束ねて形成させたもの(例えば、ガラス糸等の無機糸)を織ったものでも良い。シート状の多孔質基材は、二種以上の繊維を組み合わせて構成されていても良い。
【0176】
多孔質基材(G)の空孔は、平均孔径が0.01〜10μmであることが好ましい。孔径が小さ過ぎると、リチウムイオン伝導性材料や、これを形成するための前記組成物が充填され難くなり、リチウムイオン伝導性が低下する。また、孔径が大き過ぎると、膜の強度が低下して、破損するおそれがある。
【0177】
多孔質基材(G)の空孔率は、多価イオン伝導性電解質の強度、あるいは多価イオン伝導性電解質の充填率との兼ね合いにより一概には言えないが、通常は10〜98%であることが好ましく、20〜97%であることがより好ましい。
多孔質基材(G)の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は0.3〜100μmであることが好ましく、0.5〜80μmであることがより好ましい。
【0178】
多孔質基材(G)で強化された多価イオン伝導性電解質膜を製造する場合には、多価イオン伝導性電解質を形成するための多価イオン伝導性材料(硬化性組成物)を多孔質基材に含浸させ、次いで、オーブン等を使用して加熱すること、又は該多孔質基材をUV照射することで、前記多価イオン伝導性材料を硬化させれば良い。硬化時の条件は、多孔質基材(G)を使用しない場合と同様で良い。
【0179】
<多価イオン伝導性電解質−電極接合体>
本発明の多価イオン伝導性電解質−電極接合体は、前述の多価イオン伝導性電解質を電極及び対電極に接合させたものである。ここで、「電極及び対電極」は、電池における正極と負極のように、対になる電極の組み合わせをいう。つまり、前記電極が正極である場合は前記対電極が負極であり、前記電極が負極である場合は前記対電極が正極である。また、前記「接合」とは、前記多価イオン伝導性電解質と前記電極とが電気化学的に接続されていることを意味する。例えば、前記多価イオン伝導性電解質と前記電極及び対電極とが物理的に接触することにより、これらを接合できる。
以下では、本発明の多価イオン伝導性電解質−電極接合体を、単に「電解質−電極接合体」と略記することがある。
【0180】
前記電極及び対電極としては、例えば公知のリチウムイオン二次電池又は多価イオン二次電池に使用される正極及び負極が適用できる。
【0181】
本発明の多価イオン伝導性電解質−電極接合体は、前述の多価イオン伝導性材料を電極上に配し、乾燥、加熱、又は紫外線照射によって仮硬化させた多価イオン伝導性電解質を形成した後、該多価イオン伝導性電解質上に対電極を配置して、加熱によって本硬化することにより、該多価イオン伝導性電解質が前記電極及び対電極と接合されたものが好ましい。
【0182】
前記仮硬化された多価イオン伝導性電解質は、完全には硬化しておらず、対電極に対する接着性を有する状態であることが好ましい。後段の加熱による本硬化によって、多価イオン伝導性電解質を電極及び対電極に充分に接合できる。
前記乾燥、加熱、又は紫外線照射の条件は、多価イオン伝導性電解質に含まれる不飽和二重結合や重合開始剤等の含有量に基づいて、適宜設定すればよい。
【0183】
本発明の多価イオン伝導性電解質−電極接合体を構成する多価イオン伝導性電解質は、膜状に形成された多価イオン伝導性電解質膜であることが好ましい。
【0184】
また、本発明の多価イオン伝導性電解質−電極接合体は、前述の多価イオン伝導性電解質が膜状に成形され、該膜の一方の面に正極が、他方の面に負極がそれぞれ接合された、いわゆる「膜−電極接合体」であることが好ましい。
【0185】
前記多価イオン伝導性電解質膜と正極との接合は、これらが電気化学的に接続されていれば、その形態は特に限定されない。具体例としては、前記多価イオン伝導性電解質膜と正極とを物理的に接触させる方法が挙げられる。
前記多価イオン伝導性電解質膜と負極との接合も、正極の場合と同様である。
【0186】
本発明の電解質−電極接合体は、例えば、上記本発明の多価イオン伝導性材料を電極(正極又は負極)上に形成し、乾燥、加熱、又は紫外線照射により仮硬化させて成膜した後、該膜上に対電極(負極又は正極)を配置して加熱することにより本硬化させ、多価イオン伝導性電解質膜を前記電極及び対電極と接合することで製造できる。ここで、多価イオン伝導性材料の乾燥とは、上記の多価イオン伝導性電解質の製造方法の場合と同様に、多価イオン伝導性材料の形成時に使用した、多価イオン伝導性液体(D)に該当しない溶媒を除去することを指す。そして、この製造方法においては、前記多価イオン伝導性材料(硬化性組成物)を電極上に均一に塗布して重合させることで多価イオン伝導性電解質を形成し、対電極を配置して熱硬化することにより、多価イオン伝導性電解質膜を前記電極及び対電極と接合する一貫法が、好ましい製造方法として例示できる。
【0187】
前記電解質−電極接合体における多価イオン伝導性電解質膜の膜厚としては、例えば1μm〜200μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、20μm〜80μmがさらに好ましい。この範囲の膜厚であると、電極−対電極間(正極−負極)のイオン伝導性を向上しつつ、多価イオン伝導性電解質−電極接合体の機械的強度を充分に維持することができる。
【0188】
[多価イオン電池]
本発明の多価イオン電池(多価イオン二次電池)は、前述の「電解質−電極接合体」を備えたものである。
本発明の多価イオン電池としては、電池の外装体として電池缶の代わりにラミネートフィルムを使用し、前記電解質−電極接合体をラミネートセルに組んで構成した薄型電池が好ましく、この薄型電池を単位セルとして、複数の前記単位セルが積層され、連結されたものが好ましい。このような構成とすることにより、前記単位セルが電気的に直列に接続されるので、一層高出力の電池となる。
【0189】
前記ラミネートセルは、樹脂等からなる袋又はケースで、前記電解質−電極接合体を密閉するように包み、封止できるものであれば特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0190】
前記単位セルは、単独で機能する多価イオン電池である。積層する単位セルの数や連結方法は、多価イオン電池の用途や形態に応じて、適宜調整すれば良い。
【0191】
以上で説明した本発明の多価イオン電池(多価イオン金属空気二次電池)において、それを構成する多価イオン伝導性電解質は、立体障害の大きなアニオン及び反応性二重結合を有するカチオンから成る、イオン液体になり得るA1成分、並びに、そのA1成分のアニオンと交換可能なアニオン及びカルシウム若しくはマグネシウムイオンをカチオンとする塩(B1成分及びB2成分)を配合してなる多価イオン性伝導材料を用いて作製されている。このため、本発明の多価イオン伝導性電解質によれば、多価イオンの高いイオン伝導性を実現できる。これは、前記A1成分のカチオンのXの少なくとも一部が結合(重合)しているために部分固定されているため、対イオンであるアニオンの解離ならびに交換が起こりやすくなった結果、特に目的多価イオンの移動を伴う、A1成分とB1成分の間、及びB1成分とB1成分の間における、アニオンの交換が容易に起こるからだと考えられる。したがって、本発明の多価イオン電池によれば、高出力の電力を供給できる。また、本発明の多価イオン電池では、電子受容性を有するアニオンを含む塩(B2成分)を有することによって、容易に充電ができる。電子受容性を有するアニオンは電子を容易に受け入れる性質があるため、放電時に正極近傍で生じる酸化物および水酸化物を、充電することによって分解する反応(酸化反応)が促進されるためであると推測される。リチウムと比較して、原子1個当たり、カルシウム又はマグネシウムは2倍の電荷を有している。このため、高密度電荷輸送によって、高いエネルギー密度の電池や急速充放電に対応できる高機能電池が可能になる。また、ありふれた元素で構成されるため、世界情勢に左右されず安定して材料を提供できる。さらにイオン液体は燃えにくいため、安全で安心して使えるクリーン電池が提供できる。
【実施例】
【0192】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0193】
[実施例1]
<多価イオン伝導性材料の調製>
〔四級アンモニウム塩(A1)の作製〕
500mL−三口フラスコに、メタクリル酸2−(ジエチル)アミノエチル(51.73g)とテトラヒドロフラン(400mL)を入れ、撹拌した。氷冷し、ヨードメタン(22.13mL)をテトラヒドロフラン(500mL)に溶かして、滴下した。24時間かけて滴下を行い、室温でさらに24時間撹拌した。析出した固体を溶解し、テトラヒドロフランで再結晶を行い、ヨウ化N,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム白色の結晶を得た。
得られた白色結晶(62.1g)を精製水(300mL)に溶かし、氷冷下、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(55.49g)を水溶液(300mL)としたものをゆっくり滴下した。24時間かけて、滴下した後、室温で24時間撹拌した。1L-分液ロートを使用し、酢酸エチルで下層黄色液体を抽出した。真空下、減圧乾燥を行い、N,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを得た。
【0194】
〔多価イオン塩(B1)の作製〕
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、−20℃の条件で1,1,1−トリフルオロ−N−[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミド45gとちょうど半分のモル数に相当する水酸化カルシウムを反応させた。48時間かけて、1,1,1−トリフルオロ−N−[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミドの水溶液を滴下し、中和反応を行った。真空下、減圧乾燥を行い、カルシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を得た。
【0195】
〔金属錯体塩(B2)の作製〕
シアン化ナトリウム(58.7 g, 1.20 mol, 白色顆粒状結晶)を乳棒と乳鉢を用いて、細かく砕き500 mL−三口フラスコに入れた。N,N−ジメチルホルムアミド(300 mL)を加えたが、ほとんど溶けなかった。氷冷下、二硫化炭素(76 mL, 1.3 mol, 無色異臭液体)を50 mL-滴下ロートを用いて1時間かけて滴下した。すぐに黄褐色溶液へと変化し、最終的に暗黒黄赤色針状結晶となった。滴下の途中で撹拌子は動かなくなった。蒸留水(2 L)を加えて溶かし、2 L-ナス形フラスコに移した。赤茶色懸濁溶液で、シアン化ナトリウムの溶け残りが見られた。室温で撹拌したところ、撹拌し始めてから1時間後には茶黄色沈殿物が析出し始めた。そのまま終夜、撹拌し続けたところ黄茶色懸濁溶液となっていた。吸引濾過を行い、橙黄褐色溶液を得た。濾紙上には淡黒色粉状物質が見られた。ロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、目的のナトリウムcis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレートを暗黄色粘性物質として得た。精製するために、得られた暗黄色粘性物質をエタノールに溶かし、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して、1-L ナス形フラスコを用いて再結晶を行った。ジエチルエーテル(100 mL)を加えて冷凍庫に終夜静置しておいた。吸引濾取した後、ジエチルエーテルでしっかりと洗浄した。真空下、デシケーターを用いて減圧乾燥を行い、黄色粉状物質を得た。(110 g, 590 mmol)
【0196】
300 mL-ナス形フラスコにナトリウムcis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート(8.18 g, 43.9 mmol, 黄色粉状物質)を入れ、蒸留水(40 mL)とエタノール(20 mL)を加えて暗黄色溶液とした。50 mL-ビーカーに塩化カルシウム(4.78 g)を入れて、蒸留水(10 mL)に溶かした水溶液を加え、室温でそのまま1時間撹拌し続けた後、臭化テトラブチルアンモニウム(7.43 g, 23.1 mmol, 無色板状結晶)を加えた。蒸留水(20 mL)とエタノール(10 mL)を加えて室温でそのまま1時間撹拌し続けた後、冷蔵庫に移して静置しておいた。吸引濾取し、目的のビス(テトラn−ブチルアンモニウム)カルシウム(II)ビス(cis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート)を得た。
濾取し、ごく少量のメタノールとジエチルエーテルで洗った。アセトンに溶かした後、吸引濾過を行い濾液を得た。この時、濾紙上には不溶物が見られた。濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾固した。真空下、デシケーターを用いて減圧乾燥を行った。(10.4 g)
【0197】
N,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(13.1g)、カルシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(1.98g)、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)カルシウム(II)ビス(cis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート)(1.12g)に、N,N−ジメチルホルムアミド(30 mL)を加え、撹拌した。次に、光重合開始剤(KR−02、0.15g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.35g、和光純薬社製)、ジクロロメタン(0.23g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、多価イオン伝導性材料(1)を得た。
【0198】
<多価イオン伝導性電解質の作製>
得られた多価イオン伝導性材料(1)の溶液(2.92g)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した多価イオン伝導性材料(1)の厚さを50〜100μmに調整した。そして、UV照射により重合を開始した後、室温で24時間静置することによって、多価イオン伝導性材料(1)を仮硬化したフィルム(膜)を得た。次いで該フィルムを剥がし、再度UV照射した。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記膜に被せ、オーブンを使用して室温から60℃まで段階的に昇温し、24時間加熱して本硬化した。次いで、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去した。
上記のようにして、多価イオン伝導性材料(1)を重合及び硬化させることにより、多価イオン伝導性電解質を得た。
【0199】
[実施例2]
<多価イオン伝導性材料の調製>
〔四級アンモニウム塩(A1)の作製〕
実施例1で作製した同一のN,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用した。
〔多価イオン塩(B1)の作製〕
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、−20℃の条件で1,1,1−トリフルオロ−N−[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミド45gとちょうど半分のモル数に相当する水酸化マグネシウムを反応させた。48時間かけて、1,1,1−トリフルオロ−N−[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミドの水溶液を滴下し、中和反応を行った。真空下、減圧乾燥を行い、マグネシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を得た。
【0200】
〔金属錯体塩(B2)の作製〕
シアン化ナトリウム(58.7 g, 1.20 mol, 白色顆粒状結晶)を乳棒と乳鉢を用いて、細かく砕き500 mL−三口フラスコに入れた。N,N−ジメチルホルムアミド(300 mL)を加えたが、ほとんど溶けなかった。氷冷下、二硫化炭素(76 mL, 1.3 mol, 無色異臭液体)を50 mL-滴下ロートを用いて1時間かけて滴下した。すぐに黄褐色溶液へと変化し、最終的に暗黒黄赤色針状結晶となった。滴下の途中で撹拌子は動かなくなった。蒸留水(2 L)を加えて溶かし、2 L-ナス形フラスコに移した。赤茶色懸濁溶液で、シアン化ナトリウムの溶け残りが見られた。室温で撹拌したところ、撹拌し始めてから1時間後には茶黄色沈殿物が析出し始めた。そのまま終夜、撹拌し続けたところ黄茶色懸濁溶液となっていた。吸引濾過を行い、橙黄褐色溶液を得た。濾紙上には淡黒色粉状物質が見られた。ロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、目的のナトリウムcis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレートを暗黄色粘性物質として得た。精製するために、得られた暗黄色粘性物質をエタノールに溶かし、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して、1-L ナス形フラスコを用いて再結晶を行った。ジエチルエーテル(100 mL)を加えて冷凍庫に終夜静置しておいた。吸引濾取した後、ジエチルエーテルでしっかりと洗浄した。真空下、デシケーターを用いて減圧乾燥を行い、黄色粉状物質を得た。(110 g, 590 mmol)
300 mL-ナス形フラスコにナトリウムcis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート(8.18 g, 43.9 mmol, 黄色粉状物質)を入れ、蒸留水(40 mL)とエタノール(20 mL)を加えて暗黄色溶液とした。50 mL-ビーカーに塩化マグネシウム(4.01 g)を入れて、蒸留水(10 mL)に溶かした水溶液を加え、室温でそのまま1時間撹拌し続けた後、臭化テトラブチルアンモニウム(7.43 g, 23.1 mmol, 無色板状結晶)を加えた。蒸留水(20 mL)とエタノール(10 mL)を加えて室温でそのまま1時間撹拌し続けた後、冷蔵庫に移して静置しておいた。吸引濾取し、目的のビス(テトラn−ブチルアンモニウム)マグネシウム(II)ビス(cis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート)を得た。
濾取し、ごく少量のメタノールとジエチルエーテルで洗った。アセトンに溶かした後、吸引濾過を行い濾液を得た。この時、濾紙上には不溶物が見られた。濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾固した。真空下、デシケーターを用いて減圧乾燥を行った。(12.1 g)
【0201】
N,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(14.3g)、マグネシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(1.77g)、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)マグネシウム(II)ビス(cis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート)(1.04g)に、N,N−ジメチルホルムアミド(30mL)を加え、撹拌した。次に、光重合開始剤(KR−02、0.11g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.33g、和光純薬社製)、ジクロロメタン(0.26g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、多価イオン伝導性材料(2)を得た。
【0202】
<多価イオン伝導性電解質の作製>
得られた多価イオン伝導性材料(2)の溶液(3.26g)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した多価イオン伝導性材料(2)の厚さを50〜100μmに調整した。そして、UV照射により重合を開始した後、室温で24時間静置することによって、多価イオン伝導性材料(2)を仮硬化したフィルム(膜)を得た。した。次いで該フィルムを剥がし、再度UV照射した。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記膜に被せ、オーブンを使用して室温から60℃まで段階的に昇温し、24時間加熱して本硬化した。次いで、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去した。
上記のようにして、多価イオン伝導性材料(2)を重合及び硬化させることにより、多価イオン伝導性電解質を得た。
【0203】
<多価イオン伝導性材料の調製>
[実施例3]
〔四級アンモニウム塩(A1)の作製〕
実施例1で作製した同一のN,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用した。
〔四級アンモニウム塩(A2)の作製〕
500mL−三口フラスコに、ジエチルアミノエチルメチルエーテル(43.36g)とテトラヒドロフラン(400mL)を入れ、撹拌した。氷冷し、ヨードメタン(19.82mL)をテトラヒドロフラン(500mL)に溶かして、滴下した。24時間かけて滴下を行い、室温でさらに24時間撹拌した。析出した固体を溶解し、テトラヒドロフランで再結晶を行い、ヨウ化N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウムを得た。
得られたヨウ化N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム(51.3g)を精製水(300mL)に溶かし、氷冷下、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(51.21g)を水溶液(300mL)としたものをゆっくり滴下した。24時間かけて、滴下した後、室温で24時間撹拌した。1L-分液ロートを使用し、酢酸エチルとジエチルエーテルで下層黄色液体を抽出した。真空下、減圧乾燥を行い、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを得た。
【0204】
〔多価イオン塩(B1)の作製〕
実施例2で作製した同一のマグネシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を使用した。
〔金属錯体塩(B2)の作製〕
実施例2で作製した同一のビス(テトラn−ブチルアンモニウム)マグネシウム(II)ビス(cis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート)を使用した。
【0205】
N,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(13.2g)、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(4.37g)、マグネシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(2.36g)、ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)マグネシウム(II)ビス(cis−1,2−ジシアノ−1,2−エチレンジチオレート)(1.56g)に、N,N−ジメチルホルムアミド(30mL)を加え、撹拌した。次に、光重合開始剤(KR−02、0.13g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.36g、和光純薬社製)、ジクロロメタン(0.25g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、多価イオン伝導性材料(3)を得た。
【0206】
<多価イオン伝導性電解質の作製>
得られた多価イオン伝導性材料(3)の溶液(4.36g)をフッ素樹脂フィルム上でポリエチレン/ポリプロピレン製多孔質膜(厚さ:1〜60μm、空孔率:30〜95%、平均孔径:0.01〜10μm)に含浸させた。含浸後の前記多孔質膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚がおよそ30μmになるようにレベリングし、室温で48時間室温静置した。次いで前記フッ素樹脂フィルムを前記多孔質膜から剥がし、該多孔質膜をUV照射して重合を開始し、該多孔質膜に含浸された多価イオン伝導性材料(3)を仮硬化した。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記多孔質膜に被せ、2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して前記多孔質膜を挟み、室温で24時間静置した。次いで、オーブンを使用して、80℃で24時間加熱して本硬化した後、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去した。
上記のようにして、多孔質材に含浸された多価イオン伝導性材料(3)を重合及び硬化させることにより、半透明の多価イオン伝導性電解質の膜を得た。
【0207】
[比較例1]
〔四級アンモニウム塩(A2)〕
四級アンモニウム塩は、不飽和二重結合を持たない、実施例3で作製したN,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用した。
〔多価イオン塩(B1)〕
実施例2で作製したマグネシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を使用した。
【0208】
<硬化性組成物の調製>
N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−メチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(16.2g)、マグネシウム(II)ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(1.84g)、モノマーとしてメタクリル酸2−(ジエチル)アミノエチル(1.49g)、N,N−ジメチルホルムアミド(30mL)を加え、撹拌した。次に、光重合開始剤(KR−02、0.12g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.30g、和光純薬社製)、ジクロロメタン(0.22g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、多価イオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(4)を得た。
【0209】
<電解質の作製>
得られた硬化性組成物(4)の溶液(3.93g)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(4)の厚さを50〜100μmに調整した。そして、UV照射により重合を開始した後、室温で24時間静置した。次いで得られたフィルム(膜)を剥がし、再度UV照射した。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記膜に被せ、オーブンを使用して室温から60℃まで段階的に昇温し、24時間加熱して、本硬化した。次いで、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去した。
上記のようにして、硬化性組成物(4)を重合及び硬化させることにより、比較例の電解質を得た。
【0210】
(厚み方向における全イオン伝導度比の評価)
実施例1、2、3で作製した多価イオン伝導性電解質、又は比較例1で作製した電解質を電気化学セル(宝泉社製、HSセル又はCR2032型コインセル)にセットし、SUS板で挟みこんで密着させ、対称型セルを作製した。
次いで、前記対称型セルに電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製、12608W型電気化学測定システム)を接続し、周波数0.01Hz〜1MHzの領域でインピーダンスを測定して、サンプルの全イオン伝導度を測定した。
そして、代表的なリチウムイオン伝導性物質であるポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製、体積平均分子量 〜600,000)に、代表的なリチウム塩であるビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(アルドリッチ社製)とリチウム塩含有有機電解液である六フッ化リン酸リチウム溶液(プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート=1:1)(1.0M、1.28g、キシダ化学社製)を加えてリチウムイオン伝導性電解質とし、これについて、同様の条件でインピーダンスを測定した。この測定値を基準として、各多価イオン伝導性電解質膜、及び比較例1の電解質の表面方向におけるインピーダンス測定値を割った比(全リチウムイオン伝導度比)を算出した。
【0211】
(輸率の評価)
多価イオン伝導性電解質膜の輸率(t)は、以下に示すように、直流分極測定と交流インピーダンス測定の併用によって算出した。
すなわち、実施例1、2、3、及び比較例1で作製した電解質を上記の全イオン伝導度測定時と同様の電気化学セルにセットし、実施例1の電解質はカルシウムからなる電極(箔)で、実施例2及び3の電解質はマグネシウムからなる電極(箔)で、比較例1の電解質はマグネシウムからなる電極(箔)で、それぞれで挟みこんで密着させ、対称型セルを作製した。
次いで、このセルを80℃で5時間保持してエージングを行い、交流インピーダンスを測定した(初期、0)。次に直流分極測定を行った(△V)。そして、電流が一定になったことを確認して、再度交流インピーダンスを測定した(定常状態、s)。
次いで、前記直流分極測定値(△V)、初期と定常状態のそれぞれにおける界面抵抗値(Ri、Ri)及び電流値(I、I)を下記式(1)に代入して、輸率(t)を求めた。伝導度及び輸率の評価結果を表1に示す。
【0212】
【数1】

【0213】
【表1】

【0214】
なお、表1に示した、対称型セルに設置した実施例1〜3及び比較例1の電解質の厚さは各々異なるが、全イオン伝導度比及び輸率(t)は、これらの電解質の厚さの違いによらず比較できる値である。
【0215】
<電極の作製>
以下に示す各種電極を作製(準備)した。
〔負極〕
負極は目的可動イオンの金属電極を使用した。すなわち実施例1ではカルシウム電極を、実施例2、3及び比較例1ではマグネシウム電極をそれぞれ使用した。
【0216】
〔コーティング正極の作製〕
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、実施例1、2、3及び比較例1で得られた多価イオン伝導性材料(1)〜(3)又は硬化性組成物(4)、をそれぞれ正極(Electro Chem社製、白金担持カーボン付GDE)上にパスツールピペットを使用して滴下した。そして、アプリケーターで多価イオン伝導性材料(1)〜(3)又は硬化性組成物(4)の厚さをおよそ50μmになるように調整した。
次いで、前記アプリケーターで配した多価イオン伝導性材料(1)〜(3)又は硬化性組成物(4)にUV照射を行い仮硬化させた。その後、全ての電極を室温から80℃まで徐々に昇温し、24時間加熱して、本硬化させた。そして、加熱後、減圧下で真空乾燥させることにより溶媒を留去した後、電極を直径16mmの大きさとなるように切り出し、コーティング正極をそれぞれ得た。
【0217】
〔スラリー電極の作製〕
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、白金担持カーボンブラック(0.21g、ケッチェン)、実施例1、2、3及び比較例1で得られた多価イオン伝導性材料(1)(0.354g)、多価イオン伝導性材料(2)(0.237g)、多価イオン伝導性材料(3)(0.276g)、及び硬化性組成物(4)(0.219g)をそれぞれ異なるサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(6.11g、アルドリッチ社製、無水)とクロロホルム(1.62g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で6時間撹拌し、正極電極スラリーを得た。
前記正極電極スラリーをGDL(東レ社製、厚さ100μm)上に塗布した。そして、アプリケーターで前記電極スラリーの厚さをおよそ50μmになるように調整した後、UV照射を行い仮硬化させた。その後、全ての電極を110℃で12時間乾燥させ、本硬化させた。そして、加熱後、減圧下で真空乾燥させることにより溶媒を留去し、電極を直径16mmの大きさとなるように切り出し、スラリー正極を得た。
【0218】
<電解質−電極接合体の作製及び評価>
〔接合体の作製〕
実施例1、2、3及び比較例1で作製した多価イオン伝導性電解質を、金属電極(負極)と前記コーティング電極(正極)、又は金属電極(負極)と前記スラリー電極(正極)で挟みこんで密着させ、非対称型ラミネートセルを作製した。
〔充放電特性の評価〕
次いで、電池充放電装置(HJ−SM8システム、北斗電工社製)を使用し、前記非対称型ラミネートセルについて、電流密度0.1mA/cmで定電流測定を行い、初期容量(a)と、100サイクル後の容量(b)を測定し、これら測定値を下記式(2)に代入して容量維持率(m)(%)を求め、前記非対称型ラミネートセルの充放電特性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0219】
【数2】

【0220】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明の多価イオン導電性材料は、多価イオン電池を作製するために広く利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四級アンモニウム塩[R]Z1−(A1−a)及びアンモニウム塩[R]Z1−(A1−b)からなる群から選ばれる1種以上(A1)と、多価イオン塩M2+((YSO(B1)と、金属錯体塩[R]2+(B2−a)及び金属錯体塩[R101112](B2−b)からなる群から選ばれる1種以上(B2)とが配合されてなることを特徴とする多価イオン伝導性材料。
(但し、四級アンモニウム塩[R] Z1−(A1−a)及びアンモニウム塩[R]Z1−(A1−b成分)中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよく、R、R、はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記RとRとが結合して環を形成していてもよく、Xは、メチレン基若しくはメチン基を含む連結基を有していてもよい、ビニル基、アリル基、アクリルアミド、アクリレート、又はメタクリレートでり、Z1−は、アルキルスルホン酸イオン、フルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、酢酸イオン、フルオロアルキルカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオンである。また、多価イオン塩M2+((YSO(B1)中、Mはカルシウム又はマグネシウムであり、Yはフッ素又はフルオロアルキル基である。また、金属錯体塩[R]2+(B2−a)、及び金属錯体塩[R101112]2+(B2−b)中、Mはカルシウム又はマグネシウムであり、R、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよく、R10、R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記R10とR11とが結合して環を形成していてもよく、Qは、(L(Y)C=C(Y)L)、下記一般式(B2−q1)、1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオラートアニオン、又は1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジセレナートアニオンである。(L(Y)C=C(Y)L)中、Yはフルオロアルキル基又はシアノ基であり、Lは酸素、硫黄、又はセレン(Se)である。)
【化1】

[一般式(B2−q1)中、T、T、T、Tはそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜6の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。]
【請求項2】
四級アンモニウム塩[R]Z2−(A2−a)及びアンモニウム塩[R]Z2−(A2−b)からなる群から選ばれる1種以上(A2)を更に配合してなることを特徴とする請求項1に記載の多価イオン伝導性材料。
(但し、四級アンモニウム塩[R] Z2−(A2−a)及びアンモニウム塩[R]Z2−(A2−b)中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数4〜7のシクロアルキル基であり、RとRとが結合して環を形成していてもよく、R、R、はそれぞれ独立に炭素数1〜10の、アルキル基又はアルケニル基であり、前記RとRとが結合して環を形成していてもよく、Xはメチレン基を含む連結基を有していてもよい、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、ペンチルエーテル、又はヘキシルエーテルであり、
2−は、アルキルスルホン酸イオン、フルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(アルキルスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、又はフルオロアルキルカルボン酸イオンである。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多価イオン伝導性材料中の少なくとも一部の前記Xが重合されたものであることを特徴とする多価イオン伝導性電解質。
【請求項4】
前記多価イオン伝導性材料が、多孔質基材(G)に含浸されたことを特徴とする請求項3に記載の多価イオン伝導性電解質。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の多価イオン伝導性材料を電極上に配し、乾燥、加熱、又は紫外線照射によって仮硬化させ、多価イオン伝導性電解質を形成した後、該多価イオン伝導性電解質上に対電極を配置して、加熱によって本硬化させることにより、該多価イオン伝導性電解質が前記電極及び対電極と接合されたものであることを特徴とする多価イオン伝導性電解質−電極接合体。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の多価イオン伝導性電解質が膜状に成形され、該膜の一方の面に正極が、他方の面に負極がそれぞれ接合されたことを特徴とする多価イオン伝導性電解質−電極接合体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の多価イオン伝導性電解質−電極接合体を備えたことを特徴とする多価イオン電池。
【請求項8】
前記多価イオン伝導性電解質−電極接合体をラミネートセルに組んでなる複数の単位セルが、積層及び連結されたことを特徴とする請求項7に記載の多価イオン電池。

【公開番号】特開2012−142196(P2012−142196A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294287(P2010−294287)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】