説明

多分岐構造部位を有する共重合ポリエステル樹脂および塗膜形成用組成物

【課題】 反応性が高く、かつ耐衝撃性や熱機械特性に優れた多分岐構造を有する共重合ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖を有し、前記主鎖の末端基または/および側鎖としてAB型分子が重縮合して形成された多分岐構造部位を有し、数平均分子量が3.0×10以上である共重合ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子内に多分岐構造部位を有する共重合ポリエステル樹脂に関する。更に詳しくは、架橋剤などとの反応性に優れ、さらには強靱性に優れ、単独での使用や他の樹脂に対する改質剤として好適に用いられる共重合ポリエステル樹脂に関する。さらに、前記共重合ポリエステル樹脂を含有する塗膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイパーブランチポリマーという用語はKimとWebsterが、繰り返し単位の規則性を有する多分岐ポリマーに対して名付けた言葉であり(非特許文献1参照)、1分子中に分子内では反応しない互いに反応出来る2種類の置換基を合計3個以上持つ化合物の自己縮合により合成される多分岐高分子と定義される。分子1個1個が互いに等しい空間形状を有し、かつ分子量分布を有さないデンドリマーに対して、ハイパーブランチポリマー分子は決まった空間形状を有さず、また分子量分布も存在する。
【0003】
【非特許文献1】Polym.Prepr.,29(2),310(1988)
【0004】
高価なデンドリマーに比較し、安価で同様の機能が期待できるハイパーブランチポリマーは近年多様な用途分野への応用が検討されている。ハイパーブランチポリマーの多数ある放射状分子末端に多様な官能基を導入することで、種々の機能を同時に発現させる機能性分子を設計することが出来る。しかしながらハイパーブランチポリマーは一般に分子量が低く、ハイパーブランチポリマー単独では強靱なフィルムを形成することは出来ない。また、硬化剤併用系においても、硬化剤とハイパーブランチポリマーの配合比率を最適化しなければ極めて脆い硬化塗膜しか得られないという欠点を有している。
【0005】
この様な課題を解決するための対策も試みられている。例えば特許文献1にはフィルムの強靱性とガスバリヤー性を得る手段としてデンドリックな構造を側鎖に有するビニル系ポリマーが提案されている。また特許文献2の発明が解決しょうとする課題にはハイパーブランチポリマーと反応性を有する第二のポリマーを配合することで高い熱安定性、機械的強度および靭性を示す硬化膜が形成されることを提示している。
【0006】
【特許文献1】特開2000−239413
【特許文献2】特開2003−64270
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のハイパーブランチポリマーは反応性が高い反面、以下のような欠点を有していた。
(a)架橋させても耐衝撃性が低く、脆い。
(b)添加剤として他の樹脂に添加した場合、耐衝撃性を落とす場合がある。
(c)架橋剤との量比幅が狭く狙った物性が得られにくい。
(d)末端の修飾方法によっては大幅にガラス転移温度(以下、Tgと略記する場合がある)が下がり、他の樹脂に添加した場合に熱機械特性を低下させる。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、反応性が高く、かつ耐衝撃性や熱機械特性に優れた多分岐構造を有する共重合ポリエステル樹脂を提供することにある。本発明は、高度に架橋構造を形成する多分岐構造を分子中に有しかつ通常の硬化剤を配合することで強靱な硬化膜を形成できる共重合ポリエステル樹脂に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) 共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖を有し、前記主鎖の末端基または/および側鎖としてAB型分子が重縮合して形成された多分岐構造部位を有し、数平均分子量が3.0×10以上である共重合ポリエステル樹脂。
(2) 前記主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の全酸成分中の50モル%以上が芳香族多価カルボン酸である、(1)記載の共重合ポリエステル樹脂。
(3) 前記多分岐構造部位にポリラクトン構造を有する基が結合している(1)記載の共重合ポリエステル樹脂。
(4) 前記共重合ポリエステル構造部位がスルホン酸塩基を有する(1)記載の共重合ポリエステル樹脂。
(5) (1)〜(4)いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂(X)と前記AB型分子のB部位に含まれる官能基bと反応する官能基を有する硬化剤(Y)を含有し、(X)100質量部あたりの(Y)の含有量が15質量部以上55質量部以下である塗膜形成用組成物。
(6) (1)〜(4)いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂(X)と無機粉体(Z)を含有し、(X)100質量部あたりの(Z)の含有量が10質量部以上900質量部以下である塗膜形成用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、数平均分子量が比較的高く、多分岐構造の末端に起因する官能基を高濃度で含有するので、種々の硬化剤との反応により得られる硬化膜は高度な架橋構造を有する強靱性なものとなる。また、本発明の共重合ポリエステル樹脂の好ましい実施態様においては芳香族ポリエステルで構成されハード部となる主鎖と、多分岐構造とポリラクトンで構成されるソフト部となる側鎖のブロック構造を有していることから種々硬化剤との反応により得られる硬化膜は高度な架橋構造を有する弾性体となり、更に高い強靱性が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖を有し、前記主鎖の側鎖としてAB型分子が重縮合して形成された多分岐構造部位を有し、数平均分子量が3.0×10以上である共重合ポリエステル樹脂である。前記共重合ポリエステル樹脂は、数平均分子量が4.0×10以上であることが好ましく、さらには4.5×10以上であることが好ましい。数平均分子量を3.0×10以上とすることにより、優れた強靱性が得られる。また、前記共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は3.0×10以下であることが好ましく、さらには2.5×10以下、特には2.0×10以下であることが好ましい。数平均分子量が3.0×10を越えると、合成時の粘度が高くなったり、ゲル化し易くなり、製造時の取り扱いがし難くなることがある。
【0012】
AB型分子とは、一分子中に2種の異なる官能基a、bを併せ持った化合物を意味し、1個の官能基aを有するA部位1個と1個の官能基bを有するB部位2個を有するものであり、A部位およびB部位以外の部位が含まれていても良い。本発明に適するAB型分子は、分子内縮合、分子内付加はしないが、官能基aと官能基bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こさせることが可能な官能基である。これら官能基a、官能基bの組み合わせとしては、水酸基とカルボキシル基又はカルボキシレート基、アミノ基とカルボキシル基、ハロゲン化アルキル基とフェノール性水酸基、アセトキシ基とカルボキシル基、アセチル基と水酸基、イソシアネート基と水酸基等が挙げられ、反応工程の簡便さ、反応制御の面からカルボキシル基或いはその誘導体と水酸基或いはその誘導体の組み合わせが好ましい。
【0013】
AB型分子の例としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、ジフェノール酸、5−(2−ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸メチルエステル、4,4−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、5−ヒドロキシシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−ジヒドロキシ−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(ブロモメチル)−1,3−ジヒドロキシベンゼン、N,N−ビス(メチルプロピオネート)モノエタノールアミン、N−(メチルプロピオネート)ジエタノールアミン、N,N−ビス(メチルプロピオネート)−2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアミン等が挙げられる。重合反応工程の簡便さからは、1個のカルボキシル基と2個のメチロール基を有する化合物が好ましく、さらに原料化合物としての汎用性を考慮すると、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が特に好ましい。
【0014】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖を有し、前記主鎖の側鎖としてAB型分子が重縮合して形成された多分岐構造部位を有する。このような構造とすることにより、AB型分子の重縮合だけでは到達困難な範囲まで分子量を上げた樹脂を得ることができ、本樹脂から形成された塗膜等の強度を高める効果を発揮する。
【0015】
本発明のAB型分子が重縮合して形成された多分岐構造部位を、本発明の共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖の側鎖となるように形成するには、例えば、前記AB型分子のA部位に含まれる官能基aがカルボキシル基であり、前記共重合ポリエステル構造部位が水酸基を含む場合、前記AB型分子と前記共重合ポリエステル構造部位を混合し、170〜190℃でトルエンによる環流脱水下に攪拌し、AB型分子が有するカルボキシル基と等量の縮合水が溜去されたのを確認し、反応を終了させる。
【0016】
前記AB型分子の添加量は共重合ポリエステル構造部位に対して質量比で10%〜300%が好ましく、更に好ましくは20〜200%、特に好ましくは30〜150%である。10%未満では十分な多分岐構造が形成されず、300%を越えると、共重合ポリエステル構造部位の影響が薄れ、樹脂が脆くなる。
【0017】
本発明の共重合ポリエステル構造部位とは、本発明の共重合ポリエステル樹脂の主鎖であり、末端基または/および側鎖として多分岐構造部位を有し、多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の重縮合により得られるものである。
【0018】
前記多価カルボン酸成分は主として二塩基酸成分からなることが好ましい。好ましい二塩基酸成分の例としてはナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族二塩基酸や、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族二塩基酸、或いは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸が挙げられる。これらのうち、後付加されるラクトンモノマーにより形成されるソフトセグメント部位とのバランスにより、弾性体としての特性を発現させるためにはナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族系二塩基酸が好ましい。
【0019】
前記多価アルコール成分は主としてグリコール成分からなることが好ましい。好ましいグリコール成分の例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類や1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族グリコール類が挙げられる。
【0020】
上記二塩基酸成分、グリコール成分以外にも本発明のポリエステル樹脂にはトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールや無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の三官能以上の多官能化合物を、生成するポリエステル樹脂がゲル化しない範囲で共重合しても良い。前記三官能以上の多官能化合物を共重合させることで、生成するポリエステル樹脂の分子末端数が増え、上記AB型分子が結合した多分岐構造部位を形成しやすくなる。
【0021】
本発明の共重合ポリエステル構造部位はスルホン酸塩基を有していることも好ましい。これにより得られたポリエステル樹脂に無機微粒子に対する分散性能を付与させ、無機分散性能を有するバインダーポリマーとして有用な機能を付与させることが出来る。スルホン酸塩としては、アンモニウム塩または金属塩であることが好ましい。金属塩としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。スルホン酸塩基を含有させるには、例えば、共重合ポリエステル構造部位を合成する際に、前記多価カルボン酸成分または/および多価アルコール成分としてスルホン酸塩基を有するものを用いればよく、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸を共重合する方法が好ましい。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル構造部位は、多価カルボン酸成分中、芳香族多価カルボン酸の共重合比率が50モル%以上であることが好ましい。50モル%未満では弾性体としての強靱な特性が発現し難い。好ましくは60モル%、更に好ましくは70モル%、より好ましくは80モル%以上、最も好ましくは95%以上である。多価カルボン酸成分の100%が芳香族多価カルボン酸であっても差し支えない。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル構造部位の分子量は数平均分子量で2.0×10以上であることが好ましく、より好ましくは3.0×10以上であり、さらに好ましくは3.5×10以上である。2.0×10以上とすることにより優れた強靱性を得ることができる。また、上限は1.5×10以下であることが好ましくさらに好ましくは1.2×10以下、特に好ましくは1.0×10以下である。1.5×10を越えると、多分岐構造部位の導入時の粘度が高くなったり、ゲル化し易くなり、製造時の取り扱いがし難くなることがある。
【0024】
本発明の共重合ポリエステル構造部位のガラス転移温度(以下、Tgと略記することがある)は、45℃以上であることが好ましい。Tgはより好ましくは50℃以上、さらに好ましくは55℃以上、特に好ましくは60℃以上である。45℃未満では得られるポリエステル樹脂が柔軟になりすぎ、充分な強靱性や機械的強度が得られない場合がある。ガラス転移温度の上限はポリエステル樹脂に用いられるモノマー類の制限から130℃程度である。
【0025】
本発明の多分岐構造部位は、本発明の共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖の末端部分に結合していても良く、非末端部に結合していても良い。もちろん末端部と非末端部の両方に結合していて良い。
【0026】
前記共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖の非末端部分に結合させる方法としては、例えば、前記共重合ポリエステル構造部位の合成時にトリメチロールプロパンやペンタエリスリトール、グリセリンなどの三官能以上のポリオール、或いは無水トリメリット酸や無水ピロメリット酸を共重合させて共重合ポリエステル構造部位の非末端部にヒドロキシル基またはカルボン酸基を導入し、次いでこの官能基にAB型分子を反応させて多分岐構造部位を導入する方法が挙げられる。分子鎖中に直接水酸基を導入するためにはグリセリンを共重合させる方法が重合反応を制御し易い点で好ましい。一方、分子鎖中に直接カルボン酸基を導入する方法としては、共重合ポリエステルを重合後、窒素気流下、常圧で無水トリメリット酸を添加する方法が反応工程の作業性の点で好ましい。
【0027】
三官能以上のポリオールやカルボン酸化合物の共重合量としては多価カルボン酸成分、多価アルコール成分の合計量を100モル%とした時、15モル%以下が、さらには13モル%以下が好ましい。15モル%を越えると、樹脂が重合行程中にゲル化することがある。なお、側鎖として分岐構造部位を導入した効果を十分発揮させるためには2モル%以上であることが好ましい。
【0028】
本発明の共重合ポリエステル構造部位にはポリラクトン構造部位を有することが好ましい。ラクトンモノマーとしてはβ−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の種々のモノマーが採用出来るが、汎用性からはε−カプロラクトンが好ましい。ポリラクトン部位の導入方法としては、多分岐構造部位を導入する反応の終了後、ラクトンモノマーを反応系内に投入して開環重合させる方法が好ましい。ラクトンは主に多分岐構造部位に付加反応していく。
【0029】
前記ポリラクトン構造部位の結合量は、ポリラクトン構造部位を除くAB型分子が付加したポリエステル樹脂の全質量に対して0.1〜2.0倍質量が好ましく、より好ましくは0.15〜1.0倍質量、更に好ましくは0.2〜0.8倍質量、もっとも好ましくは0.2〜0.4質量である。い。0.1倍質量未満では弾性体としての特性が発揮されず、一方2.0倍質量を越えると、樹脂が柔らかくなりすぎ、硬化膜の強靱性が失われてしまう。
【0030】
本発明における共重合ポリエステル部位の重合触媒としてはチタン系、アルミ系、亜鉛系、アンチモン系、ゲルマニウム系、マグネシウム系等種々の金属触媒を用いることができるが、反応活性の面から、チタン系触媒が好ましい。また重合方法としては減圧下に過剰のグリコールを溜去する方法、あるいは常圧下に縮合脱水反応により生成する水を溜去させる方法など種々の方法を適用することが出来る。
前記共重合ポリエステル部位の重合に引き続き行われるAB化合物の付加反応及びラクトンモノマーの付加反応には前記共重合ポリエステル部位の重合触媒と同じものが用いることが出来、新たに同触媒を追加添加しても良いし、また上記別種の触媒を追加添加しても良い。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂に硬化剤を配合し、塗膜形成用樹脂組成物を形成することができる。前記硬化剤は、前記AB型分子のB部位に含まれる官能基bと反応する官能基を有する必要がある。前記官能基bが水酸基の場合、硬化剤の例としては、種々のポリイソシアネート、メラミン樹脂、多官能エポキシ、多官能オキセタン等を挙げることができ、これらを併用することもできる。好ましくはポリイソシアネートである。
【0032】
前記硬化剤の配合量は、本発明の共重合ポリエステル樹脂100質量部当り、15質量部以上55質量部以下である必要があり、20質量部以上50質量部以下であることが好ましく、更に好ましくは25質量部以上45質量部以下である。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂を前記硬化剤と共に有機溶剤に溶解し、基材に塗布・乾燥させ塗膜を作製する際、使用できる有機溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等種々の有機溶剤が使用できる。これらの内、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、トルエン等の汎用溶剤が好ましい。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂は単独でまたは他の樹脂と併用してコーティング剤、接着剤、塗料、成形材料、等として用いることができる。併用される他の樹脂としては、本発明のポリエステル樹脂の硬化に用いられる前記硬化剤と反応できる反応性基を持つ樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレートなどが挙げられる。具体的にはポリエステルであると、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂や各種共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。前記共重合ポリエステル樹脂としては、本発明の多分岐構造部位を有するポリエステル樹脂の主鎖となるポリエステル樹脂と同様のポリエステル樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0036】
尚、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
(1)数平均分子量
ウオーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)150Cを用い、テトラヒドロフランをキャリアー溶剤として流速1ml/分で測定した。カラムとして昭和電工(株)製 Shodex KF−802、KF−804、KF−806を3本連結しカラム温度は30℃に設定した。分子量標準サンプルとしてはポリスチレン標準物質を用いた
【0037】
(2)酸価
樹脂0.2gを20mlのテトラヒドロフランに溶解後、0.1N−NaOHエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値を樹脂固形分10g中の当量で示した。
【0038】
(3)ガラス転移温度
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0039】
(4)ポリマー組成
試料をクロロホルム−dに樹脂を溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)“ジェミニ−200”を用い、H−NMRにより樹脂組成比を求めた。
【0040】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。また、単に部と記載した場合は質量部を表す。
NDA:2,6−ナフタル酸
T:テレフタル酸
I:イソフタル酸
SIP:5−スルホイソフタル酸
SA:セバシン酸
TMA:無水トリメリット酸
NPG:ネオペンチルグリコール
EG:エチレングリコール
DMBA:ジメチロールブタン酸
LM:ε−カプロラクトンモノマー
【0041】
合成例−1
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにテレフタル酸ジメチル77.6部、イソフタル酸ジメチル77.6部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル29.6部、無水トリメリット酸19.2部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。230℃でメタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温、減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール溜分を除きつつ、20分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオール(I)の分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :3.8×10
酸価 :3当量/10
ガラス転移温度:56℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
テレフタル酸 :40モル%
イソフタル酸 :40モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸:10モル%
無水トリメリット酸 :10モル%
ネオペンチルグリコール :46モル%
エチレングリコール :54モル%
【0042】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールI100部とジメチロールブタン酸80部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約10部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0043】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂A(以下、ポリマーAと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0044】
合成例−2
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにナフタル酸ジメ
チル232部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル14.8部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。230℃でメタノールの留出終了を確認後、260℃に昇温、減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール留分を除きつつ、20分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールIIの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :4.4×10
酸価 :3当量/10
ガラス転移温度:6℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
ナフタル酸 :95モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸: 5モル%
ネオペンチルグリコール :53モル%
エチレングリコール :47モル%
【0045】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールII100部とジメチロールブタン酸40部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約5部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0046】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー20部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂B(以下、ポリマーBと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0047】
比較合成例−1
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコにジメチロールブタン酸200部、パラトルエンスルホン酸0.9部及びトルエン4部を混合し140℃で6時間、生成する縮合水をトルエン環流により留去しつつ攪拌し、ハイパーブランチポリマーCを得た。ハイパーブランチポリマーC(以下、ポリマーCと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0048】
比較合成例−2
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにテレフタル酸ジメ
チル87.3部、イソフタル酸ジメチル87.3部、無水トリメリット酸19.2部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。230℃でメタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温、減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール溜分を除きつつ、15分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールIIIの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :1.2×10
酸価 :4当量/10
ガラス転移温度:41℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
テレフタル酸 :45モル%
イソフタル酸 :45モル%
無水トリメリット酸 :10モル%
ネオペンチルグリコール :46モル%
エチレングリコール :54モル%
【0049】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールIII100部とジメチロールブタン酸80部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約10部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0050】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂D(以下、ポリマーDと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0051】
合成例−3
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにテレフタル酸ジメ
チル38.8部、イソフタル酸ジメチル29.1部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。メタノールの溜出終了を確認後、反応系を180℃まで冷却し、セバシン酸111.1部を加え、留出する縮合水を留去しつつ250℃に昇温。次いで減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール留分を除きつつ、20分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールIVの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :4.2×10
酸価 :4当量/10
ガラス転移温度:−34℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
テレフタル酸 :20モル%
イソフタル酸 :15モル%
セバシン酸 :55モル%
無水トリメリット酸 :10モル%
ネオペンチルグリコール :46モル%
エチレングリコール :54モル%
【0052】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールIV100部とジメチロールブタン酸80部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約10部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0053】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂E(以下、ポリマーEと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0054】
合成例−4
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにテレフタル酸ジメ
チル77.6部、イソフタル酸ジメチル58.2部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。メタノールの溜出終了を確認後、反応系を180℃まで冷却し、セバシン酸60.6部を加え、留出する縮合水を留去しつつ250℃に昇温。次いで減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール留分を除きつつ、20分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールVの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :4.2×10
酸価 :3当量/10
ガラス転移温度:4℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
テレフタル酸 :40モル%
イソフタル酸 :30モル%
セバシン酸 :30モル%
ネオペンチルグリコール :45モル%
エチレングリコール :55モル%
【0055】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールV100部とジメチロールブタン酸80部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約10部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0056】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂F(以下、ポリマーFと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0057】
合成例−5
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにテレフタル酸ジメ
チル87.3部、イソフタル酸ジメチル87.3部、無水トリメリット酸19.2部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。メタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温。次いで減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール留分を除きつつ、15分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールVIの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :2.0×10
酸価 :5当量/10
ガラス転移温度:56℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
テレフタル酸 :45モル%
イソフタル酸 :45モル%
トリメリット酸 :10モル%
ネオペンチルグリコール :43モル%
エチレングリコール :57モル%
【0058】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールVI100部とジメチロールブタン酸80部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約10部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0059】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂G(以下、ポリマーGと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0060】
合成例−6
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにテレフタル酸ジメ
チル87.3部、イソフタル酸ジメチル87.3部、無水トリメリット酸19.2部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。メタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温。次いで減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール留分を除きつつ、20分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールVIIの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :4.0×10
酸価 :4当量/10
ガラス転移温度:56℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
テレフタル酸 :45モル%
イソフタル酸 :45モル%
トリメリット酸 :10モル%
ネオペンチルグリコール :43モル%
エチレングリコール :57モル%
【0061】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールVII100部とジメチロールブタン酸80部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約10部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0062】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂H(以下、ポリマーHと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0063】
合成例−7
1)主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにナフタル酸ジメ
チル219.6部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル14.8部、無水トリメリット酸9.6部、ネオペンチルグリコール72.8部、エチレングリコール80.6部、及びテトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。メタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温。次いで減圧下に攪拌し、縮合脱グリコール留分を除きつつ、20分で重合反応を終了した。得られた共重合ポリエステルポリオールVIIIの分子量、酸価、ガラス転移温度は以下のとおりであった。
数平均分子量 :4.7×10
酸価 :2当量/10
ガラス転移温度:76℃
また、酸成分、グリコール成分は、各々のトータル量を100モル%として、以下のとおりであった。
ナフタル酸 :90モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸: 5モル%
トリメリット酸 : 5モル%
ネオペンチルグリコール :44モル%
エチレングリコール :56モル%
【0064】
2)AB型分子の付加工程
温度計、攪拌棒、窒素注入口、及びパーシャルコンデンサーを具備した4つ口フラスコに共重合ポリエステルポリオールVIII100部とジメチロールブタン酸50部及びトルエン4部を窒素気流下に加熱し、180℃でトルエン環留により縮合水を留去しつつ5時間攪拌し、約6部の縮合水が留去されたことを確認し、反応を終了させた。
【0065】
3)ラクトンモノマー付加工程
上記4つ口フラスコからトルエンを留去し、ε−カプロラクトンモノマー40部を添加し、190℃で30分窒素気流下に攪拌し、反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂I(以下、ポリマーIと略記することがある)の分子量、組成を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
硬化塗膜の強靱性比較
上記、合成例、比較合成例にて得られたポリマーA,B,C,D,E,F,G,H,Iを各々メチルエチルケトン/トルエン=50/50(質量比)の混合溶媒に溶解し、固形分濃度30質量%溶液とした。これに日本ポリウレタン(株)製ポリイソシアネート硬化剤:コロネート−LをポリマーA,B,C,D,E,F,G,H,I各々固形分に対し、10,20,30,40,50質量%配合し、離型フィルム(50μm厚の延伸ポリプロピレンフィルム)に乾燥厚みが10μm厚になる様に塗布し、100℃で10分間乾燥後、60℃で24時間エージングした。エージング後の塗膜の状態を以下の基準で評価した。
◎・・・・・・離型フィルムから剥がれ、単独のフィルムになり強く鋭角に折り曲げても強靱で割れない。
◎’・・・・・離型フィルムから剥がれ、単独のフィルムになり、折り曲げても簡単には割れないが、強く鋭角に折り曲げると裂け目が入る。
○・・・・・・離型フィルムから剥がれ、単独のフィルムになるが柔軟なため強靱性には劣る。
△・・・・・・離型フィルムから剥がれ、単独のフィルムになるが折り曲げると容易に割れる。
×・・・・・・離型フィルムから剥がすと脆くてフィルム形状を保持できない。
もしくは、柔らかくフィルム形状を保持できない。
評価結果を表2にまとめた。
【0068】
【表2】

【0069】
硬化性の評価
前記「硬化塗膜の強靭性比較」で調製したのと同様の方法で調製した60℃で24時間エージング後の硬化フィルムの表面をメチルエチルケトンを染み込ませた綿棒で擦り、離型フィルム表面が現れるまでの擦り回数で比較した。硬化性の評価結果を表3に示した。
【0070】
【表3】

【0071】
無機顔料分散性の評価
前記「硬化塗膜の強靭性比較」の固形分濃度30質量%のポリマー溶液(メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒系、イソシアネート未添加)10質量部にメチルエチルケトン及びトルエンを各々5質量部、平均粒子径20μmの酸化チタン粒子を7質量部又は20質量部を各々配合し、粒子径1mmのガラスビーズを用いペイントシェーカーで6時間分散させた。得られた分散塗料を50μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムと略記することがある)上に乾燥膜厚が2μmとなるように塗布乾燥し、PETフィルムに塗工された乾燥塗膜の透明性をHazeメーターで測定し、以下の様に3段階で評価した。用いたHazeメーターは日本電色(株)製 Haze Meter NDH2000を使用した。
・ ・・・・・・・Haze<2.0
△・・・・・・・・2.0≦Haze<4.0
×・・・・・・・・Haze≧4.0
無機顔料分散性の評価結果を表4に示した。
【0072】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、数平均分子量が比較的高く、多分岐構造の末端に起因する官能基を高濃度で含有するので、種々の硬化剤との反応により得られる硬化膜は高度な架橋構造を有する強靱性なものとなる。また、本発明の共重合ポリエステル樹脂の好ましい実施態様においては芳香族ポリエステルで構成されハード部となる主鎖と、多分岐構造とポリラクトンで構成されるソフト部となる側鎖のブロック構造を有していることから種々硬化剤との反応により得られる硬化膜は高度な架橋構造を有する弾性体となり、更に高い強靱性が発揮される。さらには、無機粉体等の分散性を高めることもできる。このような特性から、接着剤、塗料、コーティング剤、成形材料として好適に用いることができ、産業界に大きく寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリエステル構造部位からなる主鎖を有し、前記主鎖の末端基または/および側鎖としてAB型分子が重縮合して形成された多分岐構造部位を有し、数平均分子量が3.0×10以上である共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記主鎖を構成する共重合ポリエステル構造部位の全酸成分中の50モル%以上が芳香族多価カルボン酸である、請求項1記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記多分岐構造部位にポリラクトン構造を有する基が結合している請求項1記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記共重合ポリエステル構造部位がスルホン酸塩基を有する請求項1記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂(X)と前記AB型分子のB部位に含まれる官能基bと反応する官能基を有する硬化剤(Y)を含有し、(X)100質量部あたりの(Y)の含有量が15質量部以上55質量部以下である塗膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂(X)と無機粉体(Z)を含有し、(X)100質量部あたりの(Z)の含有量が10質量部以上900質量部以下である塗膜形成用組成物。

【公開番号】特開2010−53284(P2010−53284A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221284(P2008−221284)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】