説明

多孔質フィルムの製造方法、多孔質フィルム、積層多孔質フィルムの製造方法、積層多孔質フィルムおよび電池用セパレータ

【課題】得られる多孔質フィルムに薄肉部を生じさせることのない多孔質フィルムの製造方法と、この製造方法により得られる多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルムと、該多孔質フィルムまたは積層多孔質フィルムを用いた電池用セパレータを提供する。
【解決手段】本発明にかかる多孔質フィルムの製造方法は、ポリオレフィン系樹脂(A)と、微孔形成剤(B)と、前記(B)成分100重量部に対して0.5〜2重量部のステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)とを含む混合物を混練して得た樹脂混練物(D)をシート状に成形して、シート(E)を得るシート成形工程と、前記シート(E)を少なくとも延伸することにより多孔質フィルム(G)を得る多孔質フィルム成形工程と、を有すること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂組成物から膜特性に優れた多孔質フィルムを得ることのできる多孔質フィルムの製造方法、該方法により得られた多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルム、並びにこれら多孔質フィルムを用いて得られた電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、衛生材料、医療用材料、電池用のセパレータなどの多種多様な製品には、多孔質フィルムが使用されている。かかる多様な用途に使用される多孔質フィルムの中でも、リチウムイオン二次電池などの電池のセパレータに用いられるものは、膜厚が薄く、均一であり、サブミクロン・オーダーの微細な空孔を有し、かつ強靱であることが求められている。かかる膜特性に優れた多孔質フィルムを製造する方法としては、従来、例えば、特許文献1に記載のように、高分子ポリエチレン樹脂と該樹脂と同重量程度以上の大量の可塑剤を混練後、シート状に成形し、該シートに含まれる可塑剤を除去し、その後、シートを延伸する方法が用いられていた。しかしながら、この多孔質フィルムの製造方法においては、シートを有機溶媒に浸漬して大量の可塑剤を抽出する工程が必須であり、そのため、工程が多く煩雑であるという問題があった。
【0003】
これに対して、最近では、ポリオレフィン系樹脂組成物に炭酸カルシウム微粒子などの微孔形成剤を均一混合(混練)してシート状に成形することによりポリオレフィン系樹脂シートを形成し、このポリオレフィン系樹脂シートを延伸して多孔質フィルムを得る方法が用いられるようになっている。例えば、特許文献2には、重量平均分子量が5×105以上の高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量が2×104以下の熱可塑性樹脂と、炭酸カルシウムとを混練し、シート状に成形した後、このシートを延伸して多孔質フィルムを得る方法が開示されている。この多孔質フィルムの製造方法は、大変優れた方法であり、電池用セパレータに用いて好適な、シャットダウン性および耐熱性に優れた多孔質フィルムを、少ない工程により得ることができる。
【0004】
この多孔質フィルムの製造方法では、まず、ポリオレフィン系樹脂組成物に微孔形成剤である炭酸カルシウム微粒子を均一混合する。この炭酸カルシウム微粒子は、樹脂組成物への分散性を向上させるために脂肪酸などの表面処理剤により表面処理されている。この表面処理された炭酸カルシウム微粒子の使用については、例えば、特許文献3,4に記載されている。次に、表面処理された炭酸カルシウム微粒子をポリオレフィン系樹脂組成物に混合し、混練して、均一に分散させた樹脂混練物をシート状に成形する。成形されたポリオレフィン系樹脂シートを延伸することにより膜強度の高い多孔質フィルムが得られる。その後、この多孔質フィルムを塩酸エタノール溶液に接触させ、フィルム中の炭酸カルシウム微粒子を溶解、除去し、続いてエタノールにて洗浄し、乾燥することにより製品とされる。なお、特許文献2に開示の製造方法では、上述のように、延伸後にフィルム中の炭酸カルシウム微粒子の溶解、除去が行われるが、延伸前に溶解、除去することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−157423号公報
【特許文献2】特開2002−69221号公報
【特許文献3】特開2001−072890号公報
【特許文献4】特開2000−336197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献2に記載された多孔質フィルムの製造方法は、優れた方法であり、電池用セパレータに用いて好適な優れた膜特性を有する多孔質フィルムを製造することができる。
本発明者らは、上述の微孔形成剤を用いる多孔質フィルムの製造方法および該方法によって得られる多孔質フィルムの性能をさらに向上させるために、種々検討を重ねたところ、次のような改善すべき点があることが判明した。
それは、常にではないが、得られる多孔質フィルムに薄肉部が発生する場合がある点である。該多孔質フィルムをセパレータとして用いて電池を製造する場合、この薄肉部から該多孔質フィルムが破れやすくなる場合がある。かかる薄肉部の発生を防止することができれば、電池の製造により適した多孔質フィルムを提供することができる。
【0007】
したがって、本発明の課題は、得られる多孔質フィルムに薄肉部を生じさせることのない多孔質フィルムの製造方法と、この製造方法により得られる薄肉部がない多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルムと、薄肉部がない多孔質フィルムまたは積層多孔質フィルムを用いた電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意、実験検討を重ねたところ、以下のような知見を得るに到った。
【0009】
微孔形成剤の表面処理剤としては、従来、ステアリン酸、ラウリル酸、オレイン酸などの脂肪酸またはそれらの金属塩を複数種含む混合物が使用されていた。フィルムを多孔質とするために用いられる微孔形成剤として、最も好ましいものは、炭酸カルシウム微粒子であり、市販品の炭酸カルシウムでは、主に牛脂などの天然油脂が使用されており、それらは各種脂肪酸及びそれらの塩により表面処理されている。
【0010】
本発明者らは、従来の多孔質フィルムに薄肉部が発生する原因は、微孔形成剤として使用している炭酸カルシウム微粒子の分散性が不十分である点にあるのではないかと、推測した。すなわち、炭酸カルシウム微粒子を樹脂に均一分散させた際に炭酸カルシウム微粒子の一部に凝集が生じ、二次粒子が形成され、この径の大きな二次粒子がフィルムに点在することにより、その部分が薄肉化されるのではないかと、推測した。
【0011】
そこで、炭酸カルシウム微粒子を樹脂へ分散する時に様々な添加物を加えて、フィルムの薄肉化との関係を検討した。その結果、作用機序は不明であるが、ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウムを、樹脂へ炭酸カルシウム微粒子を分散させる時の添加剤として用いることにより、得られる多孔質フィルムに発生する薄肉部が激減することが、判明した。
この場合の添加剤(ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム)の添加量としては、炭酸カルシウム微粒子100重量部に対し0.5〜2重量部が好ましい範囲であることも判明した。
上記ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウムの添加によって多孔質フィルムに発生する薄肉部が激減するという作用効果は、微孔形成剤が炭酸カルシウム微粒子である場合に限らず、微孔形成剤として、硫酸マグネシウム微粒子、酸化カルシウム微粒子、水酸化カルシウム微粒子などの他の水溶性微粒子を用いた場合でも、さらには一般的な充填剤用の微粒子を用いた場合でも同様である。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明にかかる多孔質フィルムの製造方法は、ポリオレフィン系樹脂(A)と、微孔形成剤(B)と、前記(B)成分100重量部に対して0.5〜2重量部のステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)とを含む混合物を混練して得た樹脂混練物(D)をシート状に成形して、シート(E)を得るシート成形工程と、前記シート(E)を少なくとも延伸することにより多孔質フィルム(G)を得る多孔質フィルム成形工程と、を有すること特徴とする
【0013】
上記構成において、前記ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対する微孔形成剤(B)の配合量が100〜400重量部であることが好ましい。また、前記微孔形成剤(B)としては、微粒子状であり、その平均粒子径が0.03〜0.5μmであることが好ましい。
【0014】
上記構成において、前記ポリオレフィン系樹脂(A)が、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(a1)50〜90重量部と、重量平均分子量が700〜6000のオレフィン系ワックス(a2)50〜10重量部とを含む(ただし(a1)と(a2)の合計を100重量部とする)ことが、好ましい。
【0015】
上記構成において、前記多孔質フィルム成形工程が、シート(E)から成分(B)を除去して多孔質シート(F)を得る微孔形成剤除去工程と、前記多孔質シート(F)を延伸して多孔質フィルム(G)を得る延伸工程とからなることが、好ましい。
【0016】
上記構成において、前記微孔形成剤(B)としては、特に、炭酸カルシウム微粒子を用いることが好ましい。
【0017】
また、本発明にかかる多孔質フィルムは、上記多孔質フィルムの製造方法を用いて得られたものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる積層多孔質フィルムの製造方法は、窒素元素を含む耐熱樹脂とセラミックス粉末とを含有する塗工液を、上記本発明の多孔質フィルムの少なくとも片面に塗布し、これを硬化させることにより多孔質フィルムに耐熱樹脂層が積層されてなる積層多孔質フィルムを得ることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる積層多孔質フィルムは、上記積層多孔質フィルムの製造方法を用いて得られたものであることを特徴とする。
【0020】
本発明の電池用セパレータは、上記多孔質フィルムあるいは上記積層多孔質フィルムを用いて得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔質フィルムの製造方法によれば、薄肉部がない多孔質フィルムを得ることができる。また、本発明の多孔質フィルムの製造方法により得られた多孔質フィルム、および該多孔質フィルムを用いて得られた積層多孔質フィルムは、薄肉部がなく、特に電池用のセパレータに用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例及び比較例においてシートから微孔形成剤を除去するために微孔形成剤除去装置の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
前述のように、本発明にかかる多孔質フィルムの製造方法は、ポリオレフィン系樹脂(A)と、微孔形成剤(B)と、前記(B)成分100重量部に対して0.5〜2重量部のステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)とを含む混合物を混練して得た樹脂混練物(D)をシート状に成形して、シート(E)を得るシート成形工程と、前記シート(E)を少なくとも延伸することにより多孔質フィルム(G)を得る多孔質フィルム成形工程と、を有すること特徴とする。
【0024】
かかる構成において、シート(E)から多孔質フィルム(G)を得る方法としては、シート(E)を延伸するだけで多孔質フィルムを得ることができるが、加えて微孔形成剤(B)を除去することが好ましい。微孔形成剤(B)の除去は、延伸の前であっても延伸後であっても良いが、延伸前の方が好ましい。すなわち、本発明においては、好ましくは、前記多孔質フィルム成形工程が、シート(E)から成分(B)を除去して多孔質シート(F)を得る微孔形成剤除去工程と、前記多孔質シート(F)を延伸して多孔質フィルム(G)を得る延伸工程とからなる。
以下、本発明の各構成要素について、詳しく説明する。
【0025】
(成分(A):ポリオレフィン系樹脂)
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(A)としては、ポリオレフィン系樹脂(A1)単独である場合と、ポリオレフィン系樹脂(A1)とポリオレフィン系ワックス(a2)とを有する組成から構成する場合とが可能である。
【0026】
(ポリオレフィン系樹脂(A1))
ポリオレフィン系樹脂(A1)としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどの各オレフィンの単独重合体や、これらモノマー同士あるいはこれらモノマーと非オレフィン系モノマーとの共重合体が挙げられる。
上記ポリオレフィン系樹脂(A1)の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
【0027】
本発明の多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合には、シャットダウン温度を120〜150℃程度とすることができることから、ポリオレフィン系樹脂(A1)としてポリエチレン系樹脂を用いることが好ましい。かかるポリエチレン系樹脂としては、特に、ポリオレフィン系樹脂(A)に対する炭酸カルシウム微粒子などの微孔形成剤(B)の分散性を考慮した場合、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(a1)を用いることが好ましい。
【0028】
(超高分子量ポリエチレン(a1))
ポリオレフィン系樹脂(A)において、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(a1)を用いる場合、超高分子量ポリエチレン(a1)とオレフィン系ワックス(a2)との合計量100重量部に対して、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(a1)が50〜90重量部、重量平均分子量が700〜6000のオレフィン系ワックス(a2)が50〜10重量部の割合で配合することが、好ましい。かかる限定組成は、特に、本発明の多孔質フィルムを優れた機械的特性が必要な電池用セパレータに適用する場合に、好適である。
【0029】
重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(a1)を50〜90重量部用いることで、本発明で用いるポリオレフィン系樹脂(A)に対する微孔形成剤(B)の分散性をさらに向上させることができる。
【0030】
(ポリオレフィン系ワックス(a2))
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂(A)に任意に含有するポリオレフィン系ワックス(a2)は、重量平均分子量700〜6000であることが好ましい。なお、オレフィン系ワックスとは、通常25℃で固体状のものである。ワックスを含むポリオレフィン系樹脂(A)は、延伸性が向上し、かつ得られる多孔質フィルムは強度に優れるものとなる。
前述のように、オレフィン系ワックス(a2)の含有量は、超高分子量ポリエチレン(a1)とオレフィン系ワックス(a2)との合計量100重量部に対して50〜10重量部であり、好ましくは35〜25重量部である。
【0031】
本発明で用いるポリオレフィン系ワックス(a2)の具体例としては、エチレン単独重合体やエチレン−α−オレフィン共重合体のワックスや、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体のワックスを挙げることができる。
【0032】
ポリオレフィン系樹脂(A1)の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定する。また、ポリオレフィン系樹脂(A)が混合物である場合、その混合比率(重量部)はGPC測定により得られる分子量分布曲線の積分により求めることができる。
【0033】
(成分(B):微孔形成剤)
本発明における微孔形成剤(B)としては、水溶性であることが好ましいが、水溶性であることに限定されない。微孔形成剤(B)が水溶性であれば、樹脂混練物(D)から得たシート(E)または該シート(E)を延伸した延伸フィルム(H)から、微孔形成剤を容易に除去することができ、それによりこれらシートを用いて得られる多孔質フィルム(G)の膜厚均一性を向上させることができる。
微孔形成剤(B)としては、具体的には、炭酸カルシウム微粒子が好ましいが、硫酸マグネシウム微粒子、酸化カルシウム微粒子、水酸化カルシウム微粒子などの他の水溶性微粒子を用いることもできるし、さらには一般的な充填剤用の微粒子を用いることもできる。
【0034】
微孔形成剤(B)の含有量は、ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは100〜400重量部であることが好ましく、より好ましくは150〜350重量部である。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して微孔形成剤(B)の量が100重量部以上の場合には、シート(E)または該シート(E)を延伸した延伸フィルム(H)から微孔形成剤(B)を短時間で除去しやすくなる傾向がある。一方、ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して微孔形成剤(B)の量が400重量部を越える場合には、シート(E)や該シート(E)を延伸した延伸フィルム(H)、該シート(E)や延伸フィルム(H)を用いて得られる多孔質フィルム(G)の強度が弱くなり、取扱いが困難になる傾向がある。
【0036】
本発明で用いる微孔形成剤(B)の平均粒子径は0.03〜0.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.3μmであり、さらに好ましくは0.05〜0.2μmである。
平均粒子径が0.5μm以下の微孔形成剤を用いることにより、セパレータとして用いた場合に適切なイオン透過性能を有する多孔質フィルムを得ることができる。
一方、平均粒子径が0.03μm以上の微孔形成剤を用いることにより、微孔形成剤が凝集しにくくなり、均一に分散させやすくなるため、ピンホールや薄肉部がより少ない多孔質フィルムを得ることができる。
【0037】
本発明の微孔形成剤(B)として用いる炭酸カルシウム微粒子としては、平均粒子径が0.03〜0.5μmの微細な微粒子が得られることから、沈降炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)微粒子を用いることが好ましく、さらに好ましくは分級された炭酸カルシウム微粒子である。
【0038】
上記炭酸カルシウム微粒子の分級方法としては、特に限定はなく、公知の風力分級機、メッシュ分級機、サイクロン分級機など乾式分級機を用いることができるが、中でも、風力分級機を用いることが好ましい。風力分級とは、無機充填剤を分級ローターに投入し、該分級ローターを回転させて、遠心力と気流による向心力を無機微粒子に与え、これらのバランスによって粒子径の大きい粗粉と粒子径の小さい微粉に分ける方法である。分級点の変更は風量および回転数の変更で容易に行える。分級点を0.5〜50μmとすることが好ましく、1〜20μmとすることがさらに好ましい。分級点は下式(1)によって決定することができる。

D=c/ν√(Q/ρ) (1)

式(1)において、D:分級点(μm)、c:定数、ν:回転数(rpm)、Q:風量(m/h)であり、定数cは装置によって決定される値である。
また、この場合、押出機に添加する炭酸カルシウム微粒子には公知の表面処理がされていることが分散性の観点から好ましい。
【0039】
なお、本発明における、炭酸カルシウム微粒子などの微孔形成剤(B)の平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名「S−4200」)を用いて30000倍の大きさの視野内に認められる粒子の直径の平均値である。
【0040】
(成分(C):ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム)
本発明では、前記したポリオレフィン系樹脂(A)、微孔形成剤(B)とともに、成分(C)としてステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウムを用いる。本発明で使用するステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウムは、微孔形成剤(B)をポリオレフィン系樹脂(A)に分散させるときに、微孔形成剤(B)100重量部に対して、成分(C)の合計として0.5〜2重量部添加されればよい。成分(C)の添加量は、好ましくは0.5〜1重量部である。例えば成分(C)として、ステアリン酸ナトリウムとラウリン酸ナトリウムを併用する場合、これらの合計が0.5〜2重量部であればよい。使用するステアリン酸ナトリウムおよびラウリン酸ナトリウムの純度が100%ではない場合には、実際に添加する量から不純物の量を除いた、ステアリン酸ナトリウムおよびラウリン酸ナトリウムの量が前記範囲となるようにする。例えば、和光純薬(株)製のステアリン酸ナトリウムには、25重量部の水と、30重量部のパルチミン酸が含まれる(純度45%)ため、これを用いる場合には、例えば微孔形成剤(B)100重量部に対し和光純薬(製)ステアリン酸ナトリウム4重量部を添加すれば、実際にはステアリン酸ナトリウムを1.8重量部添加したことになる。
【0041】
成分(C)の添加量が0.5重量部より少ないと、微孔形成剤(B)のポリオレフィン系樹脂(A)への均一分散効果が得られ難く、2重量部より多いと、得られる多孔質フィルムの強度が低下するだけでなく、延伸中のフィルムから飽和脂肪酸がブリードして、テンターのガイドロール等を汚染し易くなるなど取扱いが難しくなるため好ましくない。
【0042】
(樹脂混練物(D))
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(A)に、微孔形成剤(B)と、ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)とを混合し、この混合物を混練して樹脂混練物(D)を得る場合の混練方法は特に限定されない。例えば、ポリオレフィン系樹脂(A)と、微孔形成剤(B)と、ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)と、必要に応じて酸化防止剤や非イオン性界面活性剤等の添加剤を配合し、これらを、混合装置、例えばロール、バンバリーミキサー、一軸押出機、二軸押出機などを用いて混合し、樹脂混練物(D)を得る。ステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)の添加により、得られた樹脂混練物(D)中には、微孔形成剤(B)が均一に分散する。
【0043】
(シート(E))
本発明で用いる樹脂混練物(D)をシート(E)にする製造方法は、特に限定されるものではなく、インフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ押出加工、スカイフ法等のシート成形方法により製造することができる。
中でも、膜厚精度の高いシート(E)が得られることから、下記の方法により製造することが好ましい。下記の方法は、特にポリオレフィン系樹脂(A)がポリオレフィン系樹脂(A1)として超高分子量ポリエチレン(a1)を含む場合におけるシート(E)の製造に用いることが好ましい。
【0044】
樹脂混練物(D)からなるシート(E)の好ましい製造方法とは、樹脂混練物(D)に含有されるポリオレフィン系樹脂(A1)の融点Tmより高い表面温度に調整された一対の回転成形工具を用いて、樹脂混練物(D)を圧延成形する方法である。回転成形工具の表面温度は、{(融点)+5}℃以上であることが好ましい。また表面温度の上限は、{(融点)+20}℃以下であることが好ましく、{(融点)+15}℃以下であることがさらに好ましい。一対の回転成形工具としては、ロールやベルトが挙げられる。両回転成形工具の周速度は必ずしも厳密に同一周速度である必要はなく、それらの差が±5%以内程度であればよい。
【0045】
なお、ポリオレフィン系樹脂(A1)の融点は、DSC(示差走査熱量測定)におけるピーク温度により求めることができ、複数のピークがある場合は、最も融解熱量ΔH(J/g)が大きいピーク温度を融点とする。このような方法により得られるシート(E)を用いて多孔質フィルムを製造することにより、強度やイオン透過性、通気性などに優れる多孔質フィルムを得ることができる。
【0046】
樹脂混練物(D)を一対の回転成形工具により圧延成形する際には、押出機よりストランド状に吐出した樹脂混練物(D)を直接一対の回転成形工具間に導入してもよく、一旦ペレット化した樹脂混練物(D)を用いてもよい。
【0047】
(微孔形成剤(B)の除去)
本発明は、前記した樹脂混練物(D)からシート(E)を得るシート成形工程の後、該シート(E)から多孔質フィルム(G)を得る多孔質フィルム成形工程を有する。該多孔質フィルム成形工程としては、以下の3種類が挙げられる。
(I) シート(E)から成分(B)を除去して多孔質シート(F)を得る微孔形成剤除去工程と、前記多孔質シート(F)を延伸して多孔質フィルム(G)を得る延伸工程とを有する工程
(II) シート(E)を延伸して延伸フィルム(H)を得る延伸工程と、前記延伸フィルム(H)から成分(B)を除去する微孔形成剤除去工程とを有する工程
(III) シート(E)を延伸するだけで多孔質フィルム(G)を得る工程(例えば、非水溶性の微孔形成剤を用いる場合であって、微孔形成剤は、フィルム中に残存。)。
得られる多孔質フィルム(G)の膜厚均一性の観点から、多孔質フィルム成形工程は、前記(I)であることが好ましい。以下、(I)の場合について詳細に述べるが、(II)の場合も同様にして多孔質フィルム(G)を得ることができる。
【0048】
微孔形成剤(B)を除去する方法としては、例えば、炭酸カルシウム微粒子などの水溶性微粒子を用いた場合、水系液体をシャワー状にしてシート(E)に浴びせる方法、水系液体を入れた槽にシート(E)を浸漬する方法等が挙げられる。水系液体により水溶性微粒子を除去する方法は回分式でも連続式でもよいが、生産性の観点から連続式が好ましく、例えば、複数のロールを中に配置した槽に水系液体を入れ、回転する前記ロールによりシート(E)を搬送して水系液体中を通過させる方法が挙げられる。
水系液体により水溶性微粒子が除去された多孔質シート(F)は、さらに水で洗浄することが好ましい。洗浄の程度としては、この多孔質フィルムの用途にもよるが、通常は溶解した塩等が析出してこない程度まで洗浄を行えばよい。
多孔質シート(F)は、通常、該多孔質シート(F)の物性が変化しない時間と温度の範囲内で乾燥される。
微孔形成剤(B)を水系液体によって常温で除去することができることから、微孔形成剤(B)の表面処理剤としてラウリン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0049】
上述のようにして洗浄、乾燥された多孔質シート(F)には、水溶性微粒子が炭酸カルシウム微粒子である場合、炭酸カルシウムの他に、この炭酸カルシウムに予め不純物として含まれているアルミナ、シリカ等の無機物が100〜20000ppm程度残存していることが好ましい。
無機物が少量残存した多孔質シート(F)は、後述する方法で延伸して多孔質フィルムとし、これを電池用セパレータとして用いた場合において、何らかの理由により電池内の温度が上昇し、該多孔質フィルムを構成するポリオレフィン系樹脂(A1)が溶融する温度に達しても、多孔質フィルムの隔膜としての形状を維持することができ、それにより電極間の短絡を防ぐ効果が期待される。
また、無機物が少量残存した多孔質シート(F)を延伸して得られる多孔質フィルムは、無機物を完全に除去した場合よりも透過性に優れることも判明している。この理由は明らかではないが、微量の無機物がフィルム中に残存することによりフィルムが膜厚方向に押し潰され難くなっているためではないかと考えられる。
【0050】
水系液体は、シート(E)中の炭酸カルシウム微粒子などの水溶性微粒子を除去可能な液体であればよく、例えば、酸性の水系液体としては塩酸水溶液が挙げられる。水系液体には有機溶剤が含有されていてもよいが、有機溶剤の含有量が多くなると廃液処理にコストがかかるので、有機溶剤の含有量は10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがさらに好ましい。
【0051】
除去速度を早くするため水系液体には、界面活性剤や、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N−メチルピロリドン等の水溶性の有機溶剤を少量添加することが好ましいが、環境の点から有機溶剤を添加せず、界面活性剤を添加することが好ましい。
【0052】
界面活性剤としては、公知の非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤などがあげられるが、好ましくは非イオン系界面活性剤がよい。非イオン系界面活性剤は、水系液体が強アルカリ性(pH11以上)や強酸性(pH3以下)の場合でも加水分解されにくいという利点がある。
【0053】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド等が挙げられる。水系液体に添加する非イオン系界面活性剤量は、炭酸カルシウムなどの微孔形成剤(B)の除去速度の上昇効果と、微孔形成剤(B)の除去後にフィルムから界面活性剤を除去する際の効率とのバランスから、0.05〜10重量部とすることが好ましい。
【0054】
本発明で用いられる非イオン系界面活性剤の親水性/親油性バランス(HLB)は、3〜18の範囲が好ましく、5〜15の範囲がより好ましい。このHLBとは、親水性と疎水性の強さのバランスを示す値である。HLBが小さすぎると、水に対する溶解性が悪くなる傾向があり、逆にHLBが大き過ぎると、水への溶解性は十分であるものの、疎水性が低いためにシートへの浸透に時間がかかる傾向がある。
【0055】
HLBは、以下に示すグリフィンの式(式(2))により算出することができる。

HLB=((界面活性剤中の親水基部分の分子量)/(界面活性剤全体の分子量))×(100/5) ・・・・・(2)
【0056】
前記のグリフィン式(式(2))でHLBを算出できない界面活性剤のHLBについては、このHLBが未知の界面活性剤で油を乳化させ、同時にHLBが既知の複数の界面活性剤(HLBの値が異なるものを使用)で同じ油を乳化させ、それらの乳化状態を比較する試験を行うことにより決定する。具体的には、油の乳化状態をHLB未知の界面活性剤と同一としたHLB既知の界面活性剤のHLBを、HLB未知の界面活性剤のHLBとする。
【0057】
(多孔質シート(F)の延伸:多孔質フィルム(G)の製造)
前記のような水系液体を用いてシート(E)より水溶性の微孔形成剤を除去した多孔質シート(F)を、テンター、ロール、オートグラフ等により延伸することにより、多孔質フィルム(G)を製造することができる。
得られる多孔質フィルム(G)の通気性を好適な範囲にするためには、延伸倍率は2〜12倍であることが好ましく、4〜10倍であることがより好ましい。
延伸温度は、通常、ポリオレフィン系樹脂(A1)の軟化点以上融点以下の温度、好ましくは{(融点)−50℃}〜{融点}の温度範囲で行う。このような範囲の温度で延伸を行うことにより、通気性やイオン透過性に優れる多孔質フィルム(G)を得ることができる。例えば、使用する樹脂混練物(D)がポリエチレンを主体とするポリオレフィン系樹脂(A1)から構成されている場合、延伸温度は80〜130℃であることが好ましく、90〜115℃であることがさらに好ましい。また、延伸後はヒートセットを行うことが好ましい。ヒートセット温度はポリオレフィン系樹脂(A1)の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0058】
(多孔質フィルム(G))
前記した方法で得られる本発明の多孔質フィルム(G)は、薄肉部などの欠陥がなく、膜厚の均一性に優れるものであり、特に非水系電池用セパレータに好適である。
【0059】
(積層多孔質フィルム(RG))
本発明では、前記した方法で得られる多孔質フィルム(G)の少なくとも片面に、セラミックス粉末と窒素元素を含む耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層(R)を積層し、積層多孔質フィルム(RG)とすることができる。耐熱樹脂層(R)は多孔質フィルム(G)の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。このような積層多孔質フィルム(RG)は、膜厚の均一性や、耐熱性、強度、通気性(イオン透過性)に優れるため、非水電解液電池用セパレータ、特にリチウムイオン2次電池用セパレータとして好適に使用することができる。
【0060】
(耐熱性樹脂層(R))
前記耐熱性樹脂層(R)を構成する耐熱樹脂とは、主鎖に窒素原子を含む重合体であり、特に芳香族環を含むものが耐熱性の観点から好ましい。例えば、芳香族ポリアミド(以下、「アラミド」ということがある)、芳香族ポリイミド(以下、「ポリイミド」ということがある)、芳香族ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0061】
アラミドとしては、例えば、メタ配向芳香族ポリアミド(以下、「メタアラミド」ということがある。)とパラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある)が挙げられる。これらの中でも、膜厚が均一で通気性に優れる多孔質の耐熱樹脂層(R)を形成しやすいことから、パラアラミドが好ましい。
【0062】
(パラアラミド)
上記パラアラミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4、4’−ビフェニレン、1、5−ナフタレン、2、6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド、ポリ(4、4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4、4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2、6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2、6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0063】
本発明では、パラアラミドを極性有機溶媒に溶かして塗工液として用いる。
極性有機溶媒としては、例えば、極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒であり、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチルウレア等があげられるが、これらに限定されるものではない。
塗工性の観点からパラアラミドは、固有粘度1.0dl/g〜2.8dl/gのパラアラミドであることが好ましく、さらには固有粘度1.7dl/g〜2.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が1.0dl/g未満では、形成される耐熱樹脂層の強度が不十分となることがある。固有粘度が2.8dl/gを越えると、安定なパラアラミド含有塗工液を得ることが困難であることがある。ここでいう固有粘度は、一度析出させたパラアラミドを溶解し、パラアラミド硫酸溶液にして測定された値であり、いわゆる分子量の指標となる値である。
塗工性の観点から、塗工液中のパラアラミド濃度は0.5〜10重量部であることが好ましい。
【0064】
得られるパラアラミドの溶媒への溶解性を改善する目的で、パラアラミド重合時にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を添加することが好ましい。具体例としては、塩化リチウムまたは塩化カルシウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記塩化物の重合系への添加量は、縮合重合で生成するアミド基1.0モル当たり0.5〜6.0モルの範囲が好ましく、1.0〜4.0モルの範囲がさらに好ましい。塩化物が0.5モル以上であれば、生成するパラアラミドが溶解しやすくなり、6.0モル以下であれば、塩化物が溶媒へ溶解しやすい。一般には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が2重量部未満では、パラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、10重量部を越えると、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒等の極性有機溶媒に溶解しない場合がある。
【0065】
(ポリイミド)
本発明の積層多孔質フィルム(RG)の耐熱樹脂層(R)に用いられるポリイミドとしては、芳香族の酸二無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。
前記酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3、3’、4、4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3、3’、4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2’−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3、3’、4、4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
前記ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3、3’−メチレンヂアニリン、3、3’−ジアミノベンソフェノン、3、3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1、5’−ナフタレンジアミンなどが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0066】
前記ポリイミドとしては、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3、3’、4、4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。ポリイミドを溶解させる極性有機溶媒としては、アラミドを溶解させる溶媒として例示したものの他、ジメチルスルホキサイド、クレゾール、およびo−クロロフェノール等が好適に使用できる。
【0067】
(セラミックス粉末(S))
本発明において耐熱樹脂層(R)を形成するために用いる塗工液は、セラミックス粉末(S)を含有することが必要である。任意の耐熱樹脂濃度の溶液にセラミックス粉末(S)が添加された塗工液を用いて耐熱樹脂層を形成することにより、膜厚が均一で、かつ孔が微細な多孔質耐熱樹脂層(R)を得ることができる。
【0068】
上記多孔質耐熱樹脂層(R)の通気度は、セラミックス粉末の添加量によって制御することができる。かかるセラミックス粉末(S)は、積層多孔質フィルム(RG)の強度や耐熱樹脂層(R)表面の平滑性を良好とするために、一次粒子の平均粒子径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。前記一次粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡により得た写真を、粒子径計測器で解析する方法により測定される。
【0069】
セラミックス粉末(S)の含有量は、積層多孔質フィルム(RG)中1重量部以上95重量部以下であることが好ましく、5重量部以上50重量部以下であることがより好ましい。積層多孔質フィルム(RG)中のセラミックス粉末(S)の含有量が前記範囲より少なくなると、電池用セパレータとして用いる場合においては、イオン透過性が不十分となり始め、前記範囲より多くなるとフィルムが脆くなり、取扱いが難しくなる傾向となる。
使用するセラミックス粉末(S)の形状は、特に限定はなく、球状でもランダムな形状でも使用できる。
【0070】
上記セラミックス粉末(S)としては、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等からなるセラミックス粉末が挙げられる。例えば、アルミナ、シリカ、二酸化チタンまたは酸化ジルコニウム等の粉末が好ましく用いられる。上記セラミックス粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合したり、粒径の異なる同種あるいは異種のセラミックス粉末を任意に混合して用いることもできる。
【0071】
耐熱樹脂層(R)の水銀圧入法で測定した平均孔径は、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。平均孔径が3μmを超える場合には、積層多孔質フィルム(RG)を電池用セパレータとして用いた場合、正極や負極の主成分である炭素粉やその小片が脱落したときに、短絡しやすいなどの問題が生じる可能性がある。
また、この耐熱樹脂層(R)の空隙率は、30〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは40〜70体積%である。空隙率が30体積%未満では、積層多孔質フィルム(RG)を電池用セパレータとして用いた場合、電解液の保持量が少なくなる場合があり、80体積%を超えると、耐熱樹脂層(R)の強度が不十分となる場合がある。
また、この耐熱樹脂層(R)の厚みは、1〜15μmが好ましく、さらに好ましくは1〜10μmである。この厚みが1μm未満では、耐熱性についての効果が不十分となる場合があり、15μmを超えると、積層多孔質フィルム(RG)を非水系電池用セパレータとして用いた場合には、電池全体に対する厚みが厚すぎることになり、電池の高電気容量化が達成しにくくなる。なお、上記耐熱樹脂層(R)の厚みの好ましい設定範囲は、耐熱樹脂層(R)を多孔質フィルム(F)の片面に設ける場合では、その片面側の耐熱樹脂層(R)の厚みについてであり、耐熱樹脂層(R)を多孔質フィルム(F)の両面に設ける場合では、各面の耐熱樹脂層(R)の合計厚みについてである。)
【0072】
多孔質フィルム(G)の少なくとも片面に、セラミックス粉末(S)と耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層(R)を形成する方法としては、具体的に以下のような工程を含む方法が挙げられる。
(a)耐熱樹脂100重量部を含む極性有機溶媒溶液に、該耐熱樹脂100重量部に対しセラミックス粉末(S)を1〜1500重量部分散したスラリー状塗工液を調製する。
(b)上記塗工液を多孔質フィルム(G)の少なくとも片面に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)加湿、溶媒除去あるいは耐熱樹脂を溶解しない溶媒への浸漬等の手段で、前記塗工膜から耐熱樹脂を析出させた後、必要に応じて乾燥する。
塗工液は、例えば、特開2001−316006号公報に記載の塗工装置および特開2001−23602号公報に記載の方法により連続的に塗工することが好ましい。
【0073】
本発明の方法により得られる積層多孔質フィルム(RG)は、膜厚の均一性に優れるだけでなく耐熱性、強度、通気性(イオン透過性)にも優れるため、非水系電池用セパレータ、特にリチウムイオン2次電池用セパレータとして好適に使用することができる。
【0074】
多孔質フィルム(G)に耐熱樹脂層(R)を積層する方法としては、上述のように、多孔質フィルム(G)の少なくとも片面に、セラミックス粉末(S)と耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層(R)を形成する方法が、生産性の面から好ましいが、耐熱樹脂層(R)を別に製造して後に多孔質フィルム(G)と積層する方法も可能である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であり、なんら本発明を限定するものではない。
【0076】
以下に示す実施例及び比較例におけるシート、多孔質シート及び多孔質フィルムは、以下の特性項目およびその測定方法により評価した。
【0077】
(1)ガーレー値(通気抵抗度)
フィルムのガーレー値(秒/100cc)は、JIS P8117に準じて、B型デンソメーター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定した。測定はフィルム1mあたり10箇所について行った。
【0078】
(2)膜厚
JISK7130に準拠して厚み測定装置(株式会社ミツトヨ製、商品名「VL−50A」)にて測定を行った。測定はフィルム1m当たり10箇所について行った。
【0079】
(3)GPCによる重量平均分子量の測定
測定装置として日本ウォーターズ(Waters)株式会社製のゲルクロマトグラフ(商品名「Alliance GPC2000型」)を使用した。その他の条件を以下に示す。
(i)カラム :東ソー株式会社製(商品名「TSKgel GMH HR−H(S)HT 」30cm×2、「TSKgel GMH 6−HTL」30cm×2)
(ii)移動相 :o−ジクロロベンゼン
(iii)検出器 :示差屈折計
(iv)流速 :1.0mL/分
(v)カラム温度 :140℃
(vi)注入量 :500μL
試料30mgをo−ジクロロベンゼン20mLに145℃で完全に溶解した後、その溶液を孔径が0.45μmの焼結フィルターで濾過し、その濾液を供給液とした。なお、較正曲線は、分子量既知の16種の標準ポリスチレンを用いて作製した。
【0080】
(4)微孔形成剤(B)の平均粒子径
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名「S−4200」)により30000倍で観測し、粒子100個について直径を測定し、その平均を平均粒子径(μm)とした。
【0081】
(5)突刺強度
多孔質フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、ピンを200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を該フィルムの突刺強度とした。ピンは、ピン径1mmΦ、先端0.5Rのものを使用した。
【0082】
(6)多孔質フィルムに存在するピンホールおよび薄肉部の評価
得られた多孔質フィルム(G)について、目視によりフィルム1mあたりのピンホールおよび薄肉部の数を測定した。具体的には、多孔質フィルムの一面から蛍光灯の光をあて、他方の面からフィルムを観察し、貫通孔をピンホールとし、貫通はしていないものの、フィルムの他の部分に比べて透過光が多い部分を薄肉部と判断した。
【0083】
(7)表面処理剤の定量
表面処理した微孔形成剤をオーブン中にて窒素気流中で600℃、4時間焼いた前後の重量変化から、下記式(3)により求めた。なお、表面処理剤の種類の同定についてはIR(赤外線分析)および液体クロマトグラフィー、あるいはガスクロマトグラフィーにより標準物質との比較から同定した。

表面処理剤の量(%)=(焼く前の重量−焼いた後の重量)/焼く前の重量×100
・・・・・(3)
【0084】
以下に示す実施例および比較例は、本発明の多孔質フィルムの主要な特徴構成である「微孔形成剤(B)をポリオレフィン系樹脂(A)中に分散する際に成分(C)としてステアリン酸ナトリウム(C)またはラウリン酸ナトリウム(C)を添加すること」による効果を確認するために行ったものであり、各例において使用するポリオレフィン系樹脂(A)は以下に示す組成からなるポリオレフィン系樹脂(A)を共通して用いた。
【0085】
(ポリオレフィン系樹脂(A))
超高分子量ポリエチレン(a1)とオレフィン系ワックス(a2)とから構成した。超高分子量ポリエチレン(a1)として、重量平均分子量300万の超高分子量ポリエチレン(三井化学(株)製、商品名「ハイゼックスミリオン340M」、融点136℃)を用い、オレフィン系ワックス(a2)として、重量平均分子量1000のオレフィン系ワックス粉末(三井化学(株)製、商品名「ハイワックス110P」、融点110℃)を用いた。
配合量は、超高分子量ポリエチレン(a1)とオレフィン系ワックス(a2)との合計量、すなわち、ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、超高分子量ポリエチレン(a1)71重量部、粉末状のオレフィン系ワックス(a2)29重量部とした(超高分子量ポリエチレン(a1)100重量部に対し、粉末状のオレフィン系ワックス(a2)41重量部)。
【0086】
(実施例1)
(成分(B):沈降炭酸カルシウム(B))
市販の沈降炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製 Vigot−10、オレイン酸を主成分とする混合脂肪酸が炭酸カルシウム100重量部に対し2%表面処理されている 平均粒子径0.15μm)を入手し、この沈降炭酸カルシウム(B)を成分(B)、すなわち、微孔形成剤(B)として用いた。
(成分(C):ステアリン酸ナトリウム(C))
市販のステアリン酸ナトリウム(和光純薬製、水25重量%、パルチミン酸30重量%を含む)を150℃で1時間乾燥し、乾燥したステアリン酸ナトリウム(純度60%)を得た。このステアリング酸ナトリウム(C)を成分(C)として用いた。
【0087】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、沈降炭酸カルシウム(B)162重量部、酸化防止剤1.4重量部、ステアリング酸ナトリウム(C)2.4重量部(沈降炭酸カルシウム(B)100重量部に対し1.5重量部)を、ヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にて200℃で混練して樹脂混練物(D)を得た。
【0088】
(シート(E)の調製)
表面温度が150℃で、同周速度で回転する一対のロールで、上記樹脂混練物(D)を圧延し、膜厚約33μmの単層シートを作製した。次に、得られた前記単層シート同士を、表面温度が150℃の一対のロールで圧着して多層のシート(シート(E))を得た。該シート(E)の厚みは60μmであった。
【0089】
次に、図1に示す洗浄装置を用いて、シート(E)中の微孔形成剤(B)を除去した。
図1に示す微孔形成剤除去装置は、浴槽1と、それに続く乾燥機2と、前記浴槽1に微孔形成剤(B1)除去前のシート(E)を供給する引き出しローラ3と、前記乾燥機2から微孔形成剤(B)除去後の多孔質シート(F)をロール状に巻き取る巻き取りローラ4とを有する。上記浴槽1は、通常、3つの浴槽1a、1b、1cから構成され、各浴槽1a、1b、1cには、少なくとも一つのローラが槽内に配置されている(図では、浴槽1aのみ2つのローラが設置されている)。浴槽1aには塩酸水溶液(塩酸2〜4モル/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部)が満たされている。浴槽1bには水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜2モル/L)が満たされている。そして、浴槽1cには洗浄用の水が満たされている。また、上記乾燥機2は、大径の加熱ローラ2aが槽2b内に設置された構成の装置である。上記微孔形成剤除去装置において、ロール状のシート(E)は、連続して、浴槽1a、1b、1c、および乾燥機2を通過し、最後に巻き取りローラ4にロール状に巻き取られる。この間のシート(E)の搬送速度及び負荷張力は、解き出しローラ2の解き出し速度と、巻き取りローラ4の巻き取り速度とを調整することによって、好適な範囲に調整される。
【0090】
上記構成の微孔形成剤除去装置を用いたシート(E)からの微孔形成剤(B)の除去は、前記図1に示す装置を用いて、以下のように行った。
まず、ロール状のシート(E)を解き出しローラ3により送り出し、浴槽1内の塩酸水溶液に浸漬してシート(E)から炭酸カルシウム微粒子を溶出させて除去し、多孔質シート(F)を得た。次に、前記塩酸水溶液を含む多孔質シート(F)を、浴槽1b内の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して中和した。続いて、中和した多孔質シート(F)を浴槽1c内の水に浸漬して洗浄した。さらに続けて、水洗浄が完了した多孔質シート(F)を50℃に加熱した加熱ローラ2aに接触させて乾燥した。最後に、乾燥後の多孔質シート(F)を巻き取りローラ4によりロール状に巻き取った。
【0091】
(多孔質フィルム(G)の調製)
上述のようにして微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥した多孔質シート(F)をテンター(市金工業社製)にて5.8倍に延伸した(延伸温度105℃)。得られた多孔質フィルム(G)の物性を(表1)に示した。
【0092】
(実施例2)
前記ステアリン酸ナトリウム(C)の添加量を、3.2重量部(前記沈降炭酸カルシウム(B)100重量部に対して2重量部)としたこと以外、実施例1と同様にして、本実施例2のシート(E)を得た。該シート(E)の厚みは60μmであった。
得られたシート(E)は、実施例1と同様に、図1に示す微孔形成剤除去装置を用いて、微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥して、得られた多孔質シート(F)をローラ4に巻き取った。
【0093】
(多孔質フィルム(G)の調製)
上述のようにして微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥した多孔質シート(F)をテンター(市金工業社製)にて5.8倍に延伸した(延伸温度105℃)。得られた多孔質フィルム(G)の物性を(表1)に示した。
【0094】
(実施例3)
(微孔形成剤(B))
微孔形成剤(B)として、市販の沈降炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製、商品名「MSK−P0」、ステアリン酸を主成分とする混合脂肪酸により表面処理され、表面処理剤の付着量は3重量部であり、平均粒子径は0.17μm)を用いた。
【0095】
(樹脂混練物(C)の調製)
上記ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、上記微孔形成剤(B)162重量部、ステアリン酸ナトリウム(C)0.78重量部(微孔形成剤(B)100重量部に対して0.48重量部)、および酸化防止剤1.42重量部を配合し、これをヘンシェルミキサーで混合し、その後、2軸混練機を用いて200℃で混練し、本実施例3の樹脂混練物(D)を得た。
【0096】
(シート(E)の調製)
樹脂混練物(D)として上記樹脂混練物(D)を用いたこと以外、実施例1のシート(E)の調製と同様にして、本実施例3のシート(E)を得た。該シート(E)の厚みは60μmであった。
得られたシート(E)は、実施例1と同様に、図1に示す微孔形成剤除去装置を用いて、微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥して、得られた多孔質シート(F)をローラ4に巻き取った。
【0097】
(多孔質フィルム(G)の調製)
上述のようにして微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥した多孔質シート(F)をテンター(市金工業社製)にて5.8倍に延伸した(延伸温度105℃)。得られた多孔質フィルム(G3)の物性を(表1)に示した。
【0098】
(実施例4)
(樹脂混練物(D)の調製)
上記ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、実施例1で用いたものと同じ微孔形成剤(B)162重量部、ステアリン酸ナトリウム(C)0.78重量部、および酸化防止剤1.42重量部を配合し、これをヘンシェルミキサーで混合し、その後、2軸混練機を用いて200℃で混練し、本実施例4の樹脂混練物(D)を得た。
【0099】
(シート(E)の調製)
樹脂混練物(D)として上記樹脂混練物(D)を用いたこと以外、実施例1のシート(E)の調製と同様にして、本実施例4のシート(E)を得た。該シート(E)の厚みは60μmであった。
得られたシート(E)は、実施例1と同様に、図1に示す微孔形成剤除去装置を用いて、微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥して、得られた多孔質シート(F)をローラ4に巻き取った。
【0100】
(多孔質フィルム(G)の調製)
上述のようにして微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥した多孔質シート(F)をテンター(市金工業社製)にて5.8倍に延伸した(延伸温度105℃)。得られた多孔質フィルム(G)の物性を(表1)に示した。
【0101】
(実施例5)
(樹脂混練物(C)の調製)
上記ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、実施例3で用いたものと同じ微孔形成剤(B)162重量部と、成分(C)としてラウリン酸ナトリウム(C)0.78重量部、および酸化防止剤1.42重量部を配合し、これをヘンシェルミキサーで混合し、その後、2軸混練機を用いて200℃で混練し、樹脂混練物(D)を得た。
【0102】
(シート(E)の調製)
樹脂混練物(D)として上記樹脂混練物(D)を用いたこと以外、実施例1の多孔質シート(E)の調製と同様にして、シート(E)を得た。該シート(E)の厚みは60μmであった。
得られたシート(E)は、実施例1と同様に、図1に示す微孔形成剤除去装置を用いて、微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥して、得られた多孔質シート(F)をローラ4に巻き取った。
【0103】
(多孔質フィルム(G)の調製)
上述のようにして微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥した多孔質シート(F)をテンター(市金工業社製)にて5.8倍に延伸した(延伸温度105℃)。得られた多孔質フィルム(G)の物性を(表1)に示した。
【0104】
【表1】

【0105】
(比較例1)
(成分(C)対応成分)
ステアリン酸カルシウム(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製)を150℃で1時間乾燥し、乾燥したステアリン酸カルシウムを得た。このステアリン酸カルシウム(Cc)を成分(C)対応成分として用いた。その他の成分として、実施例1で用いた成分(A1)、成分(B1)、および酸化防止剤を用いた。
【0106】
ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、沈降炭酸カルシウム(B)162重量部、酸化防止剤1.4重量部、ステアリング酸カルシウム(Cc)2.4重量部(沈降炭酸カルシウム(B)100重量部に対し1.5重量部)を、ヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にて200℃で混練して樹脂混練物(Dc)を得た。
【0107】
(シート(Ec)の調製)
樹脂混練物(D)として上記樹脂混練物(Dc)を用いたこと以外、実施例1のシート(E)の調製と同様にして、本比較例1のシート(Ec)を得た。該シート(Ec)の厚みは60μmであった。
得られたシート(Ec)は、実施例1と同様に、図1に示す微孔形成剤除去装置を用いて、微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥して、得られた多孔質シート(Fc)をローラ4に巻き取った。
【0108】
(多孔質フィルム(Gc)の調製)
上述のようにして微孔形成剤(B)を除去し、洗浄、乾燥した多孔質シート(Fc)をテンター(市金工業社製)にて5.8倍に延伸した(延伸温度100℃)。得られた多孔質フィルム(Gc)の物性を(表2)に示した。
【0109】
(比較例2)
ステアリン酸ナトリウム(C)の添加量を0.81重量部(微孔形成剤(B)100重量部に対して0.5重量部)にした以外は実施例3と同様の方法にて、樹脂混練物(Dc)、シート(Ec)を順次調製し、多孔質フィルム(Gc)を得た。得られた多孔質フィルム(Gc)の物性を(表2)に示した。
なお、樹脂混練物(Dc)をロールで圧延してシート(Ec)を製造する際、実施例3とは異なり、シートがロールから剥がれ難い状態となった。延伸後の多孔質フィルム(Gc)には縞模様が発生していたが、この縞模様は前記ロールからの剥がし応力によるためである。
【0110】
(比較例3)
ステアリン酸ナトリウム(C)の添加量を微孔形成剤(B)100重量部に対して0重量部した以外、すなわちステアリン酸ナトリウム(C)を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様の方法にて、樹脂混練物(Dc)、シート(Ec)を順次調製し、多孔質フィルム(Gc)を得た。得られた多孔質フィルム(Gc)の物性を(表2)に示した。
なお、樹脂混練物(Dc)をロールで圧延してシート(Ec)を製造する際、実施例3とは異なり、シートがロールから剥がれ難い状態となった。延伸後の多孔質フィルム(Gc)には縞模様が発生していたが、この縞模様は前記ロールからの剥がし応力によるためである。
また、樹脂混練物(Dc)を圧延ロールに押出すTダイには多数のメヤニが発生していた。
【0111】
(比較例4)
ステアリン酸ナトリウム(C)の添加量を9.7重量部(微孔形成剤(B)100重量部に対して6重量部)にした以外は実施例3と同様に混練し、この樹脂混練物をロールにて圧延し、多孔質シートを作製しようとしたが、ロールと樹脂混練物との間に気泡が混入し、そのため、ロールと樹脂混練物との密着度合いが不十分となり、シートを得ることができなかった。
【0112】
【表2】

【0113】
(表1)に見るように、微孔形成剤をポリオレフィン系樹脂組成物中に分散させるための添加剤として、「ステアリン酸ナトリウム」を用いた実施例1〜4、および「ラウリン酸ナトリウム」を用いた実施例5は、均一な膜厚を有し、突刺強度も高く、外観性も良好であり、ピンホールの発生がなく、薄肉部の発生もほとんどない。
これに対して、(表2)に見るように、「ステアリン酸ナトリウム」の代わりにステアリン酸カルシウムを用いた比較例1では、少数ながらピンホールが生じ、多くの薄肉部が発生した。また、ステアリン酸ナトリウムの添加量が微孔形成剤100重量部に対して0.5重量部以下とした比較例2と、ステアリン酸ナトリウムやステアリン酸カルシウムなどの添加物を使用しなかった比較例3とでは、少数ながらピンホールが生じ、薄肉部が少なからず発生した。
【0114】
(実施例6)
本実施例では、前記実施例1にて作成した多孔質フィルム(G)の片面に耐熱性樹脂層(R1)を積層して積層多孔質フィルム(RG1)を得た。
【0115】
(パラアラミド(ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド))の合成)
撹拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを使用して、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。
十分乾燥したフラスコに,N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを仕込み、次に、200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末151.07gを添加した。これを100℃に昇温して塩化カルシウムをNMPに完全に溶解した。
この塩化カルシウム溶解液を室温に戻して、パラフェニレンジアミン68.23gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド、124.97gを10分割して約5分おきに添加した。その後も撹拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成した。熟成後の溶液を1500メッシュのステンレス金網で濾過した。
得られた溶液は、パラアラミド濃度6%の液晶相で、光学的異方性を示した。このパラアラミド溶液の一部をサンプリングし、パラアラミドを水で再沈し、パラアラミドの固有粘度を測定したところ、2.01dl/gであった。
【0116】
(塗工液の調製)
先に重合したパラアラミド溶液100gをフラスコに秤取し、243gのNMPを添加し、最終的に、パラアラミド濃度が1.75重量部の等方相の溶液に調製して60分間攪拌した。
一方、日本アエロジル社製のアルミナ粉末(商品名「アルミナC」)を6g(対パラアラミド100重量部)と、住友化学(株)製のアルミナ粉末(商品名「アドバンスドアルミナAA−03」)を6g(対パラアラミド100重量部)とを混合してセラミック粉末(S1)12gを得た。
上記のパラアラミド濃度が1.75重量部の溶液に、上記セラミック粉末(S1)12gを混合し、240分間攪拌した。アルミナ粉末を十分分散させた塗工ドープを1000メッシュの金網で濾過した。その後、濾液に酸化カルシウム0.73gを添加して240分攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡しスラリー状の塗工液(M)を得た。
【0117】
(積層多孔質フィルム(RG1)の作製(連続法))
上記実施例1で作製した多孔質フィルム(G1)のロール(幅300mm、長さ300m)を巻き出し機に取り付け、張力2kg/300mm、ライン速度4m/分で引き出しながら、多孔質フィルム(G1)の片面に上記塗工液(M)を塗布し、連続的に積層多孔質フィルム(RG1)を作製した。
【0118】
詳しくは、まず、引き出した多孔質フィルム(G1)の下面にNMPをマイクログラビアコーターで塗布し、上面に塗工液(M)をバーコーターで100μm厚みに塗布した。次に、塗工後の多孔質フィルム(G1)を長さ1.5mの恒温恒湿槽内(温度50℃、相対湿度70%)を通し、塗工膜からパラアラミドを析出させた。
続いて、このフィルムを、ライン長4mの水洗装置(イオン交換水が10リットル/分で注入され、内部に満たされたイオン交換水が、前記注入速度と同一速度でイオン交換水が排出される槽内にガイドロールをセットした構造の装置)に通して、フィルムの塗工膜からNMP及び塩化カルシウムを除去した。
その後、洗浄された塗工膜を有するフィルムにヤンキードライヤーで熱風を送りつつ、熱ロール(直径1m、表面温度70℃、メタアラミド布のキャンバスで覆われている)を通して水分を乾燥除去した。これにより多孔質フィルム(G)の片面に耐熱樹脂層(R1)が積層されてなる積層多孔質フィルム(RG1)を得た。
【0119】
該積層多孔質フィルム(RG1)の厚み、透気度、および突刺強度を測定したところ、厚みは16.5μm(標準偏差0.32)、透気度は270秒/100cc(標準偏差10)、突刺強度は360gfであり、例えば、電池用セパレータに好適な特性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上のように、本発明にかかる多孔質フィルムの製造方法は、薄肉部が極めて少ない多孔質フィルムを得ることができる。本発明の製造方法により得られた多孔質フィルムは、特に電池用のセパレータに用いて好適である。
【符号の説明】
【0121】
1,1a,1b,1c 浴槽
2 乾燥機
2a 加熱ローラ
2b 槽
3 引き出しローラ
4 巻き取りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂(A)と、微孔形成剤(B)と、前記(B)成分100重量部に対して0.5〜2重量部のステアリン酸ナトリウムおよび/またはラウリン酸ナトリウム(C)とを含む混合物を混練して得た樹脂混練物(D)をシート状に成形して、シート(E)を得るシート成形工程と、
前記シート(E)を少なくとも延伸することにより多孔質フィルム(G)を得る多孔質フィルム成形工程と、
を有すること特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記混合物における成分(B)の含有量が、成分(A)100重量部あたり100〜400重量部であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記成分(B)が微粒子状であり、その平均粒子径が0.03〜0.5μmである請求項1または2に記載の多孔質フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記成分(A)が、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(a1)50〜90重量部と、重量平均分子量が700〜6000のオレフィン系ワックス(a2)50〜10重量部とを含む(ただし(a1)と(a2)の合計を100重量部とする)ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記多孔質フィルム成形工程が、シート(E)から成分(B)を除去して多孔質シート(F)を得る微孔形成剤除去工程と、前記多孔質シート(F)を延伸して多孔質フィルム(G)を得る延伸工程とからなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記成分(B)が炭酸カルシウム微粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法を用いて得られた多孔質フィルム。
【請求項8】
窒素元素を含む耐熱樹脂とセラミックス粉末とを含有する塗工液を、請求項7に記載の多孔質フィルムの少なくとも片面に塗布し、これを硬化させることにより多孔質フィルムに耐熱樹脂層が積層されてなる積層多孔質フィルムを得ることを特徴とする積層多孔質フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の積層多孔質フィルムの製造方法を用いて得られた積層多孔質フィルム。
【請求項10】
請求項7に記載の多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。
【請求項11】
請求項9に記載の積層多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−195899(P2010−195899A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41354(P2009−41354)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】