説明

多孔質中空粒子及びその製造方法

【課題】微細な細孔を殻に有する多孔質中空粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】複数のメソ細孔を有する殻を備える多孔質中空粒子である。メソ細孔の平均細孔径が2〜30nmであり、メソ細孔の全個数の80%以上が平均細孔径の±1nmの範囲内に含まれる。ケイ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムなどの元素を含む金属酸化物から成る。
上述の多孔質中空粒子の製造方法である。油中水エマルションを用いて合成を行う。油中水エマルション中で有機金属ハロゲン化物を加水分解する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質中空粒子及びその製造方法に係り、更に詳細には、殻に微細な細孔を有する多孔質の中空粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、中空状粒子は、通常の非中空粒子と比べて比表面積が大きいので、触媒担体や吸収剤、マイクロカプセルとしての利用が期待されている。
近年、各種中空粒子に関する特許が公開されており、無機化合物の水溶液に有機溶剤を添加混合してO/W型エマルションとした後、このO/W型エマルションを界面活性剤含有有機溶媒中に添加してO/W/O型エマルションを作製し、このエマルションに水不溶性前駆体の沈殿を形成しうる化合物の水溶液をして中空粒子を合成する技術が公開されている(例えば、特許文献1参照。)。
一方、金属塩を溶解させたり懸濁させたりした水溶液に有機溶剤を添加することにより、適切な水滴径を持つW/Oエマルションを形成し、このエマルションを噴霧、燃焼すれば、皮殻の厚みが20nm以下と薄い中空粒子を形成できることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開昭63−258642号公報
【特許文献2】特開2000−203810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の如き従来技術にあっては、中空粒子の中空部(内部)と外部とを区画する壁、即ち殻に適当な孔が空いていないため、中空部へのガスの拡散が十分でなく、更なる比表面積の向上は難しいことが判明した。
また、かかる中空粒子を触媒担体として利用しようとする場合、反応物が中空部へ侵入しにくいため、実質的な反応部は中空粒子の外表面でしかなく、中空内表面は反応に対して有効に用いられないといった問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、微細な細孔を殻に有する多孔質中空粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、油中水(W/O)エマルションにより中空粒子を合成する際、有機テンプレートの添加や有機金属ハロゲン化物による加水分解を行なうことなどにより、均一な細孔を有する多孔質な中空粒子を合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の多孔質中空粒子は、中空部と外部とを区画する殻を有するものであり、この殻に複数の細孔を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の多孔質中空粒子の製造方法は、上述如き多孔質中空粒子を製造する方法であって、油中水エマルションを用いて合成を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油中水(W/O)エマルションにより中空粒子を合成する際、有機テンプレートの添加や有機金属ハロゲン化物による加水分解を行なうこととしたため、微細な細孔を殻に有する多孔質中空粒子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の多孔質中空粒子につき詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の多孔質中空粒子は、複数の細孔、好ましくはメソ細孔を有する殻を備える。
ここで、「メソ細孔」とは、IUPACが定義している直径2〜50nmの細孔を意味する。
【0010】
図1に、本発明の多孔質中空粒子の構造を概念的に示す。
同図において、この多孔質中空粒子10は12を有しており、この殻12が中空粒子10の内部である中空部12と外部とを区画している。また、殻12はその表面にほぼ均一に分布する複数個の細孔、特にメソ細孔12pを有し、このメソ細孔12pは殻12を貫通しており、中空部12と外部とを連通させている。
【0011】
このような構造を有する本発明の多孔質中空粒子においては、メソ細孔12pを介して外部から中空部14へのガスの移動が可能となり、殻12の内面(内表面)も表面(外表面)と同様に機能できるため、比表面積を大幅に増大することができる。
【0012】
本発明の多孔質中空粒子は、典型的には、上記の図1に示すような構造を有するが、細孔の大きさは、平均細孔径で1〜30nmであることが好ましく、特にメソ細孔12pの大きさは、2〜30nmであることが望ましい。
細孔径が1nm未満では、デカリンなど、大きな分子の出入りが十分ではなく、殻12の内表面を反応場として有効に利用するのが困難であり、30nmを超えると、機械的強度が不十分になり易く、中空部14の破壊を招くことがある。
【0013】
また、本発明の多孔質中空粒子においては、総数の80%以上のメソ細孔が、上述の平均細孔径の±1nmの範囲内に存在していることが好ましい。
このように、本発明の多孔質中空粒子では、メソ細孔径分布が狭い範囲に集中しているため、分子篩効果が期待できる。例えば、サイズが小さい分子のみを中空内部に導入し、大きい分子は導入しない効果、又は直鎖炭化水素は中空内部に導入されるが、側鎖を有する炭化水素は導入されないなどの効果を活用し、触媒反応の選択性の向上や吸着物質の選択性の向上が可能となる。
【0014】
更に、本発明の多孔質中空粒子は、その平均粒子径が0.1〜5μmであることが好ましい。
平均粒子径が0.1μm未満では、機械的強度が不十分になり易く、5μmを超えると、比表面積を有意に向上することが困難になる。
なお、本発明の多孔質中空粒子において、殻12の厚さは10〜1000nmであることが好ましい。
厚さが10nm未満では、機械的強度が不十分になり易く、中空部14の破壊を招き易くなり、1000nmを超えると、メソ細孔が形成できないことがある。
【0015】
本発明の多孔質中空粒子の材質については、上述の構造や特性を満足する限り特に限定されるものではないが、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)又はジルコニウム(Zr)、及びこれらの任意の混合元素を含む金属酸化物を好適に用いることができる。
このように金属酸化物で中空粒子を形成することにより、機械的強度を向上させることができる。また、これら金属酸化物は、それ自体で触媒及び/又は触媒担体としても機能するので、この場合、本発明の多孔質中空粒子は、触媒及び触媒担体の少なくとも一方として使用することができ、また触媒及び触媒担体の少なくとも一方に混入して使用することが可能である。
【0016】
次に、本発明の多孔質中空粒子の製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造法は、上述した多孔質中空粒子を製造する方法であって、油中水エマルション(O/W型エマルション)を利用するものである。
かかるO/W型エマルションは、製造条件を調整することによって、エマルションサイズを制御し易く、従って、これを用いることにより、目的に応じた粒子サイズの多孔質中空粒子を製造することができる。
【0017】
また、本発明の多孔質中空粒子の製造方法においては、油中水エマルション中で有機金属ハロゲン化物を加水分解する工程を実施することが好ましい。
有機金属ハロゲン化物を油中水エマルション中で加水分解することにより、安定した球状の多孔質中空粒子を合成することが可能となる。
【0018】
なお、本発明の製造方法においては、油中水エマルションを生成する過程で有機テンプレートを添加することが望ましい。
かかる有機テンプレートを添加することにより、均一な径のメソ細孔を殻に有する中空粒子を合成することが可能になる。また、有機テンプレートの種類を変えることにより、細孔径を制御することも可能である。
【0019】
このような有機テンプレートとしては、一般的なメソ細孔材料で使用するテンプレート剤でさえあれば特に限定されるものではないが、非イオン系界面活性剤のソルビタン酸モノステアレート及びアルキルトリメチルアンモニウムなどを挙げることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を若干の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、オクチルトリクロロシラン24mmol、ソリビタン酸モノステアレート0.24mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルションを調製した。
次いで、生成したエマルションにメチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより、本例の多孔質中空粒子を得た。
【0022】
図2に、得られた粒子のSEM写真を示す。球状粒子が観察され、粒径は数μmで、平均粒径は1μmであった。また、図3は、本例の多孔質中空粒子を粉砕した後のSEM写真である。中空粒子であることが確認された。
更に、図4に、本例で得られた中空粒子の細孔径分布(メソ細孔径の分布)を示す。平均径が約4nmのシャープなピークが観察され、均一なメソ細孔が存在していることが確認された。
【0023】
(実施例2)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、オクチルトリクロロシラン24mmol、ソリビタン酸モノステアレート0.24mmol、アルミニウムトリイソプロポキシド1mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルションを調製した。
次いで、生成したエマルションにメチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより、本例の多孔質中空粒子を得た。
【0024】
(実施例3)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、オクチルトリクロロシラン24mmol、ソリビタン酸モノステアレート0.24mmol、チタンテトライソプロポキシド1mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルションを調製した。
生成したエマルションにメチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより、本例の多孔質中空粒子を得た。
【0025】
(実施例4)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、オクチルトリクロロシラン24mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルション調製した。
生成したエマルションに、メチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより本例の多孔質中空粒子を得た。
【0026】
図5に本例で得られた中空粒子のSEM写真を示す。球状粒子が観察され、粒径は数μmであった。
図6に本例で得られた粒子を粉砕した後のSEM写真を示す。中空粒子であることが確認された。
また、図7に本例で得られた中空粒子の細孔径分布を示す。細孔径が5nm以下に複数存在し、大部分が1nm以下の細孔で、細孔の均一性が未だ十分とはいえないことがわかった。
【0027】
[比表面積の測定]
BET法にて、実施例1〜4の中空粒子の比表面積を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、実施例1〜3は細孔の均一性が十分ではない実施例4と比べて比表面積が大幅に増加していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の多孔質中空粒子の構造を概念的に示す斜視図である。
【図2】実施例1で得られた多孔質中空粒子のSEM写真である。
【図3】実施例1で得られた多孔質中空粒子を粉砕した後のSEM写真である。
【図4】実施例1で得られた多孔質中空粒子の細孔径分布を示すグラフである。
【図5】実施例4で得られた中空粒子のSEM写真である。
【図6】実施例4で得られた中空粒子を粉砕した後のSEM写真である。
【図7】実施例4で得られた中空粒子の細孔径分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
10 多孔質中空粒子
12 殻
12p メソ細孔
14 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔を有する殻を備えることを特徴とする多孔質中空粒子。
【請求項2】
上記細孔は、平均細孔径が2〜30nmのメソ細孔であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項3】
上記メソ細孔の全個数の80%以上が、上記平均細孔径の±1nmの範囲内に包含されることを特徴とする請求項2に記載の多孔質中空粒子。
【請求項4】
平均粒子径が0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の多孔質中空粒子。
【請求項5】
上記殻の厚さが10〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の多孔質中空粒子。
【請求項6】
ケイ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属酸化物から成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の多孔質中空粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の多孔質中空粒子を含有して成ることを特徴とする触媒担体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の多孔質中空粒子を含有して成ることを特徴とする触媒。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の多孔質中空粒子を製造するに当たり、油中水エマルションを用いて合成を行うことを特徴とする多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項10】
上記油中水エマルション中で有機金属ハロゲン化物を加水分解する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項11】
上記油中水エマルションを生成する過程で有機テンプレートを添加することを特徴とする請求項9又は10に記載の多孔質中空粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−44610(P2007−44610A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230736(P2005−230736)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】