説明

多孔質吸着膜、及び当該多孔質吸着膜を用いたたんぱく質の精製方法

【課題】リガンド構造の制御が容易であり、かつHCP、凝集体などの夾雑物を有効にかつ迅速に除去することのできる、混合リガンドを有する吸着体を提供すること。
【解決手段】細孔を有する基材からなる多孔質吸着膜であって、前記基材表面にリガンドとしてアニオン交換基と疎水性基とが、共に固定されている多孔質吸着膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質吸着膜、及び当該多孔質吸着膜を用いたたんぱく質の精製方法に関する。本発明は、具体的には、混合リガンドとしてアニオン交換基と疎水性基とを共に有する多孔質吸着膜、及び当該多孔質吸着膜を用いたたんぱく質の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジー産業において、タンパク質の大量精製が重要な課題となっている。特に医薬の分野において、抗体医薬の需要が急速に拡大しており、効率的に大量のタンパク質を産生可能及び精製可能な技術の確立が強く望まれている。
【0003】
一般的に、タンパク質は、動物由来の細胞株を用いる細胞培養によって産生される。細胞培養液からタンパク質を精製する通常の操作においては、最初に、細胞培養液を遠心分離し、濁質成分を沈降除去する。次いで、遠心分離で除去しきれない約1μm以下の細胞デブリを、精密ろ過膜を用いるサイズろ過により除去する。さらに無菌化するために、最大細孔径が0.22μm以下のろ過膜を用いて無菌化ろ過を施して、目的タンパク質の清澄な溶液を得る(ハーベスト工程)。続いて、プロテインAに代表されるアフィニティークロマトグラフィーを初めとする、複数のクロマトグラフィー技術の組み合わせによる精製プロセスを用いて、Host Cell Protein(HCP)、DNA、目的たんぱく質の凝集物、エンドトキシン、ウィルス、カラムから脱離したプロテインAなどの夾雑物を清澄な溶液から除去し、目的タンパク質を分離・精製する(ダウンストリーム工程)。
【0004】
以上説明した従来のタンパク質の精製方法の対象となる細胞培養液中の目的タンパク質の濃度は、現状では通常1g/L程度である。また、夾雑物の濃度も、目的タンパク質の濃度とほぼ同程度であると考えられ、かかる状況ではハーベスト工程及びダウンストリーム工程を含む従来のタンパク質の精製方法は充分有効である。
【0005】
しかしながら、抗体医薬の需要が急速に拡大し、抗体医薬に用いられるタンパク質の大量生産が指向されたため、近年では細胞培養液中のタンパク質濃度を高める細胞培養技術が急速に発達している。そのため、近年では細胞培養液中の目的タンパク質の濃度が10g/Lあるいはそれ以上にまで到達しようとしている。しかし同時に、細胞培養液中の夾雑物の濃度も同様に増加しており、従来のタンパク質の精製方法では、目的タンパク質の精製が困難になりつつある。
【0006】
抗体医薬品として使われる抗体たんぱく質、すなわちモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体及び免疫グロブリンなどを、精製することを目的としたクロマトグラフィー工程が多数報告されている。
【0007】
近年では効率的に抗体を夾雑物から分離精製するために複数のリガンドを有する混合モードの樹脂を充填したクロマトグラフィーカラムを用いることが、広く検討されている。このようなクロマトグラフィーカラムに用いられるリガンドとしては、ミックスモードリガンドまたはマルチモーダルリガンドと呼ばれるリガンドが用いられている。
このようなモードのリガンドを用いるクロマトグラフィーでは電荷と疎水性の複数の相互作用の差を利用するため、より高精度な分離が可能になるだけでなく、複数の夾雑物を同時にかつ有効に除去できることが期待されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、アニオン交換基と疎水性基よりなるマルチモーダルリガンドのクロマトグラフィーを用いたフロースルーモードにより、夾雑物を吸着して抗体モノマーを回収する方法、特に遊離したプロテインAリガンドと抗体モノマーよりなる凝集体を吸着除去する方法が記載されている。
また、特許文献2には、四級アンモニウム基、水素結合基及び疎水性基を有するマルチモーダルのクロマトグラフィーを用いて、DNA、ウィルス、エンドトキシン、凝集体、HCPなどの殆どの夾雑物を吸着し、抗体モノマーをフロースルーにより回収する方法が記載されており、特にHCPはほぼ完全に除去されることが記載されている。
さらに、特許文献3には、メルカプト基及び芳香族ピリジン環を有するミックスモードのクロマトグラフィーにより、抗体モノマーのみを吸着し、凝集体を非吸着画分として除去することにより、結合モードで抗体モノマーを精製する方法が記載されている。
凝集体を選択的にカラムに吸着させ、より有効に凝集体を除去することを目的としたフロースルーモードで抗体モノマーを精製回収する方法として、特許文献4には、ヒドロキシアパタイトのクロマトグラフィーを適用した例が記載されている。
特許文献1−4に開示されているように、凝集体の除去の重要性は、投与時に、補体の活性またはアナフィラキシーをもたらすことによって、産物である抗体医薬の安全性に有害な影響を及ぼす可能性が指摘されていることによる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2008−505851号公報
【特許文献2】特表2008−517906号公報
【特許文献3】特表2008−500972号公報
【特許文献4】特表2007−532477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1−4に開示されているように、細胞培養液中の多種多様な夾雑物から抗体を高精度で分離する方法は、数多く提案、報告されている。
しかしながら、現実には全ての夾雑物を有効にかつ迅速に除去して抗体を精製することは、現状でも困難であり、特にアフィニティークロマトグラフィー後の中間精製において、微量に残存するHCP、凝集体などを医薬品として要求されるレベルにまで除去し、高精度な抗体モノマーを回収することは、細胞培養液中の目的タンパク質濃度が大幅に向上しつつある状況において、さらに困難になることが懸念されている。
【0011】
特許文献1及び2に開示されたマルチモーダルのリガンドについても、クロマトグラフィーカラムに用いるビーズのみを対象としており、高流速で通液することが困難である。
また、特許文献3及び4に開示されたミックスドモードのリガンドについても、クロマトグラフィーカラムに用いるビーズのみを対象としており、高流速で通液することが困難である。
【0012】
さらに、全ての夾雑物を有効にかつ迅速に除去して抗体を精製することの困難さは、フロースルーモード並びに結合モードの両方において、有効に抗体を分離精製するための有効なpH、塩濃度、溶液組成などの条件、すなわちプロセスウィンドウが狭く、安定で汎用的な精製条件を決定することが容易ではないことに基づいている。この状況はより効率的に夾雑物を除去することを目的とした混合モードリガンドのクロマトグラフィーにおいても同様である。
加えて、中間精製において夾雑物を除去する工程は、高精度が要求されるために、高流速処理が可能な吸着膜ではなく、分解能が高いクロマトグラフィーカラムによるプロセスが指向される。特に凝集体、HCPのような、アフィニティーグロマトグラフィーにより低濃度にまで除去された状態から、さらに除去することが必要とされる夾雑物の除去においては、なおさらプロセスウィンドウが狭いために条件の設定がより困難となり、これまで吸着膜などを用いた迅速な精製は不可能であった。
また、特許文献1−4に開示された技術においても、多孔質膜を用いて夾雑物を除去する方法については報告されていない。
【0013】
かかる状況に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、プロセスウィンドウを広くすることを可能にすることを目的として、アニオン交換基と疎水性基によるたんぱく質との相互作用をより広い範囲で得るために、リガンド構造の制御が容易であり、かつHCP、凝集体などの夾雑物を有効にかつ迅速に除去することのできる、混合リガンドを有する吸着体を提供することである。また、本発明の解決しようとする課題は、プロセスウィンドウが広くなることで高速処理が可能となることから、そのような混合リガンドを有する多孔質吸着膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、課題を解決するために鋭意検討した結果、アニオン交換基と疎水性基とが共に固定されている、混合リガンドである多孔質吸着膜を用いることが、抗体医薬品として使われるたんぱく質の精製において、夾雑物を除去することに有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
細孔を有する基材からなる多孔質吸着膜であって、
前記基材表面にリガンドとしてアニオン交換基と疎水性基とが、共に固定されている多孔質吸着膜。
[2]
前記基材表面に、前記アニオン交換基と前記疎水性基とがグラフト鎖を介して共に固定されている、[1]に記載の多孔質吸着膜。
[3]
前記アニオン交換基と前記疎水性基とがグラフト鎖を介して共に固定されている構造が、
(1)前記アニオン交換基とそれに隣接する水酸基よりなる構造、及び
(2)前記疎水性基とそれに隣接する水酸基よりなる構造である、[2]に記載の多孔質吸着膜。
[4]
前記アニオン交換基が、ジエチルアミノ基及びトリメチルアンモニウム基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]から[3]のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
[5]
前記疎水性基がフェニルアミノ基、フェノキシ基、ブチルアミノ基、及びブトキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]から[4]のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
[6]
前記グラフト鎖がメタクリル酸グリシジルの重合体である、[1]から[5]のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
[7]
前記多孔質吸着膜の基材がポリエチレン及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]から[6]のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
[8]
前記多孔質吸着膜が中空糸多孔膜である、[1]から[7]のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
[9]
目的とするたんぱく質と夾雑物とを含む混合溶液から目的とするたんぱく質を精製する方法であって、
[1]から[8]のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜を用いてろ過し、夾雑物を除去する、たんぱく質の精製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔質吸着膜を用いることにより、細胞培養液に含まれる目的たんぱく質の精製、特にアフィニティークロマトグラフィー工程後の中間精製において、夾雑物を有効にかつ迅速に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】構造(1)と構造(2)のグラフト鎖での配列の模式図を示す。
【図2】構造(1)と構造(2)のグラフト鎖での配列の模式図を示す。
【図3】構造(1)と構造(2)のグラフト鎖での配列の模式図を示す。
【図4】構造(1)と構造(2)のグラフト鎖での配列の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本実施の形態の多孔質吸着膜は、細孔を有する基材からなる多孔質吸着膜であって、前記基材表面に、リガンドとしてアニオン交換基と疎水性基とが、共に固定されている、多孔質吸着膜である。
【0020】
リガンドとしてのアニオン交換基としては、混合液中に溶存する目的たんぱく質及び/又は夾雑物、夾雑物として、特に、不純物たんぱく質、DNA、HCP、ウィルス及びエンドトキシンなどを吸着する能力のあるアニオン交換基であれば特に限定されないが、ジエチルアミノ基(DEA、EtN−)、四級アンモニウム基(Q、R−)、四級アンモニウムエチル基(QAE、R−(CH−)、ジエチルアミノエチル基(DEAE、EtN−(CH−)、ジエチルアミノプロピル(DEAP、EtN−(CH−)基などが挙げられる。
四級アンモニウムにおけるRとしては、特に限定されないが、同一のNに結合するRが同一又は異なっていてもよく、好適には、アルキル基などの炭化水素基が挙げられる。Rとしては、アルキル基中に、エーテル結合またはエステル結合を有する基であってもよい。アルキル基の炭素数については特に限定されない。
四級アンモニウム基としては、例えば、トリメチルアンモニウム基(Me−)などが挙げられる。
アニオン交換基としては、多孔質吸着膜に導入されたグラフト鎖への化学的な固定が容易であり、高い吸着容量が得られることから、DEA及びQが好ましく、DEAがより好ましい。
【0021】
アニオン交換基とそれに隣接する水酸基よりなる構造(1)を、DEA及びQの場合について示すとそれぞれ下記化学式(I)及び(II)のように表される。
水酸基がアニオン交換基に隣接することにより、構造(1)の親水性が増加し、その結果グラフト鎖が対象となる培養液中に広がりやすく、かつグラフト鎖が柔軟に動きやすくなるため、よりたんぱく質を吸着できる。
【化1】

【0022】
リガンドとしての疎水性基としては、混合液中に溶存する目的たんぱく質及び/又は夾雑物、夾雑物として、特に、目的たんぱく質の二量体、三量体などの凝集体、目的たんぱく質の誤って折りたたまれた種、脂質などを吸着する能力ある疎水性基であれば特に限定されないが、フェニル基、オクチル基、ブチル基、イソプロピル基などを含む構造が挙げられる。
疎水性基としては、多孔質吸着膜に導入されたグラフト鎖への化学的な固定が容易であり、高い吸着能が得られることから、フェニルアミノ基(C−NH−)、フェノキシ基(C−O−)、ブチルアミノ基(CH(CH−NH−)、及びブトキシ基(CH(CH−O−)が好ましい。
疎水性基とそれに隣接する水酸基よりなる構造(2)を、フェニルアミノ基、フェノキシ基、ブチルアミノ基、及びブトキシ基の場合について示すとそれぞれ下記化学式(III)から(VI)のように表される。
水酸基が疎水性基に隣接することにより、グラフト鎖が対象となる培養液中に広がりやすく、かつグラフト鎖が柔軟に動きやすくなるため、よりたんぱく質を吸着できる。この水酸基の効果は疎水性基の場合に特に有効である。
化学式(I)から(VI)において、リガンドは1位で結合している場合を例示したが、水酸基とリガンドとの位置は入れ替わってもよい。また、化学式(I)から(VI)においては、構造(1)と構造(2)とが、グラフト鎖の末端に位置する場合を例示したが、グラフト鎖の中間に位置していてもよい。
【化2】


【化3】

【0023】
本実施の形態の多孔質吸着膜においては、アニオン交換基と疎水性基とがグラフト鎖を介して共に固定されていることが好ましく、アニオン交換基と疎水性基とがグラフト鎖を介して共に固定されている構造として、アニオン交換基を含む構造(1)と疎水性基を含む構造(2)であることが好ましい。
構造(1)と構造(2)の多孔質吸着膜における配列に、明確な規則性はなく、ほぼ均一にかつランダムに固定されている場合、グラフト鎖の上下位置によりリガンド密度に偏りがある場合、さらにはグラフト鎖ごとにリガンドが偏っている場合などがありうる。本実施の形態における一態様をDEA基とフェニルアミノ基の場合について模式的に例示すると図1から図4のように示される。
ここでグラフト鎖の長さ並びに、基材表面でのグラフト鎖の密度は特に限定されない。また、構造(1)と構造(2)の総数に対する、構造(1)の存在比率は、アニオン交換基と疎水性基の比率を制御することにより、精製の目的に応じて0%から100%まで任意に制御することができるが、本実施の形態においては0.1%から99.9%の範囲で制御する。図1から図4において、リガンドは1位で結合している場合を例示したが、水酸基とリガンドとの位置は入れ替わってもよい。
【0024】
本実施の形態において、多孔質吸着膜の基材としては、特に限定されないが、機械的性質の保持のために、ポリオレフィン系重合体から構成されていることが好ましい。
ポリオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン及びフッ化ビニリデンなどのオレフィンの単独重合体、該オレフィンの2種以上の共重合体、または1種もしくは2種以上のオレフィンとパーハロゲン化オレフィンとの共重合体などが挙げられる。
パーハロゲン化オレフィンとしては、テトラフルオロエチレン及び/又はクロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。
これらの基材の中でも、機械的強度に特に優れ、かつたんぱく質などの夾雑物の高い吸着容量が得られる素材である点で、ポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
ポリオレフィン系重合体を用いて多孔質膜を製造する方法は、当業者にとって公知のものであるが、例えば、特開平3−42025号公報に開示される方法などが挙げられる。
【0025】
多孔質吸着膜は、上記基材中に細孔を有する多孔質膜である。
細孔径は、特に限定されないが、夾雑物である溶存したたんぱく質などの吸着除去が有効になされ、かつ液中に含まれるサイズの大きな夾雑物である濁質成分が有効に除去される範囲であることが好ましい。
細孔径は、0.01μm〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.5μm〜3μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜1μmである。
多孔質吸着膜中の細孔の占める体積である空孔率も、多孔質膜の形状を保持しかつ通液時の圧損が実用上問題のない程度であれば、特に限定されないが、好ましくは5%〜99%であり、より好ましくは10%〜95%であり、さらに好ましくは30%〜90%である。
細孔径及び空孔率の測定は、Marcel Mulder著「膜技術」(株式会社アイピーシー)などに記載されているような、当業者にとって公知の方法により行うことができるが、測定方法としては、例えば、電子顕微鏡による観察、バブルポイント法、水銀圧入法、透過率法などが挙げられる。
【0026】
本実施の形態の多孔質吸着膜は、基材の表面にグラフト鎖が固定されていることが好ましい。
基材の表面にグラフト鎖が固定されているとは、基材からなる多孔質吸着膜の表面及び細孔にグラフト鎖が導入されていることを意味する。
本実施の形態において、グラフト鎖とは、多孔質吸着膜となる基材表面に基材と同種または異種の分子鎖が化学的に結合したものであることを意味する。
多孔質吸着膜にグラフト鎖を結合し、該グラフト鎖にアニオン交換基または疎水性基を結合させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、特開平2−132132号公報に開示される方法などが挙げられる。
本実施の形態において、基材に導入されるグラフト鎖とは、導入反応後にジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶剤で洗浄しても、除去されない化学構造を有する鎖であることが好ましい。
グラフト鎖を構成する重合体としては、例えば、メタクリル酸グリシジル、酢酸ビニル及びヒドロキシプロピルアセテート等の単量体の重合体が挙げられるが、アニオン交換基及び疎水性基を導入しやすいことから、メタクリル酸グリシジルまたは酢酸ビニルの重合体が好ましく、メタクリル酸グリシジルの重合体がより好ましい。
グラフト鎖としては、メタクリル酸グリシジル(グリシジルメタクリレート)が基材表面にグラフト重合により導入された鎖であることが好適である。
【0027】
多孔質吸着膜の形態は、多孔質体であれば特に限定されないが、平膜、不織布、中空糸膜、モノリス、キャピラリー、円板または円筒状などが挙げられる。これらの形態の中でも、製造のし易さ、スケールアップ性、モジュール成型した際の膜のパッキング性などから、多孔質吸着膜は、中空糸多孔膜であることが好ましい。
本実施の形態において、中空糸多孔膜とは、中空部分を有する円筒状または繊維状の多孔膜であり、中空糸の内層と外層が貫通孔である細孔によって連続しており、その細孔によって内層から外層、あるいは外層から内層に液体あるいは気体が透過する性質を有する多孔体を意味する。
中空糸の外径及び内径は、物理的に形状を保持することができ、かつモジュール成型可能であれば、特に限定されない。
【0028】
本実施の形態の目的とするたんぱく質の精製方法は、目的とするたんぱく質と夾雑物とを含む混合溶液から目的とするたんぱく質を精製する方法であって、
前記多孔質吸着膜を用いてろ過し、夾雑物を除去する、たんぱく質の精製方法である。
本実施の形態の多孔質吸着膜は、混合溶液中に含まれる1種類以上の夾雑物から、目的とするたんぱく質である抗体を分離、精製する用途に用いることが有効である。
目的とするたんぱく質を分離・精製する方法としては、混合溶液を本実施の形態の多孔質吸着膜を用いてろ過することにより、(a)夾雑物を多孔質吸着膜に吸着させ、精製された抗体を、非吸着のフロースルーモードの画分として回収する、あるいは(b)結合モードで抗体を多孔質吸着膜に吸着した後、選択的に溶出回収する、の2種類の方法が挙げられる。
【0029】
本実施の形態の多孔質吸着膜にろ過させる混合溶液としては、アフィニティークロマトグラフィー工程からの抗体を含有する溶出液を用いることが好適である。アフィニティークロマトグラフィーに用いられるカラムに充填する樹脂のリガンドは、通常プロテインAのような、Fc結合たんぱく質を含む。このようなアフィニティークロマトグラフィーの樹脂は市販されており、容易に入手することが可能である。溶出液中に含まれる、除去すべき夾雑物としては、HCP、DNA、ウィルス、エンドトキシン、遊離プロテインA、プロテインAと抗体との間で形成された複合体、抗体の凝集体などが含まれる。
アフィニティークロマトグラフィー工程前の溶液を、本実施の形態の多孔質吸着膜を用いてろ過してもよい。
【0030】
(a)のろ過形態であるフロースルーモードを実施する場合には、混合溶液を本実施の形態の多孔質吸着膜によりろ過を行うが、素通りした画分を精製された抗体の溶液として回収する。この場合、抗体の大半は、吸着されることなく素通りするが、夾雑物は吸着により除去される。フロースルーを得るための条件は、精製すべき抗体の性質、例えば電荷及び電荷分布に依存するが、本実施の形態の多孔質吸着膜を用いることにより、リガンド比率を任意に制御することができるため、混合溶液のpHや電気伝導度などの調節によって、当業者が容易に条件を設定することができる。
【0031】
(b)のろ過形態である結合モードを実施する場合にも、抗体を含む溶液を本実施の形態の多孔質吸着膜によりろ過を行うが、この場合には、抗体のみあるいは、抗体と一部の夾雑物が吸着される。この場合も、所望の物質を結合させるための条件は、本実施の形態の多孔質吸着膜を用いることにより、リガンド比率を任意に制御することができるため、例えば溶液のpHや電気伝導度などの調節によって、当業者が容易に条件を設定することができる。
抗体のみを吸着した場合には、溶液を通液した後に多孔質吸着膜から吸着物を除去しない緩衝液によって洗浄し、その後に吸着物に対する溶出緩衝液を通液することにより、精製された目的の抗体を溶出画分として得る。
吸着物として、抗体と夾雑物を共に吸着した場合には、それらの溶出条件の違いを利用して、抗体のみを溶出した画分を得ることにより、精製された目的の抗体を得る。
【0032】
本実施の形態の多孔質吸着膜はアニオン交換基と疎水性基を共にグラフト鎖に導入するため、アニオン交換基と疎水性基の比率を任意に制御することができる。従って、既存のマルチモーダルクロマトグラフィー樹脂に比べて、当業者にとっては目的とする用途に応じて、溶液並びに緩衝液のpHや電気伝導度の調整が容易である。また、樹脂を充填するカラムプロセスに比べて、高流速で溶液を通液できるため、精製に要する処理時間を大幅に短縮することが可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例のみに限定されない。
【0034】
フェニルアミノ基とDEA基が固定された多孔質吸着膜
(実施例1)
(i)多孔質中空糸へのグラフト鎖の導入
外径3.0mm、内径2.0mm、最大細孔径が0.3μmのポリエチレン多孔質中空糸を密閉容器に入れて、容器内の空気を窒素で置換した。その後、容器の外側からドライアイスで冷却しながら、γ線200kGyを照射し、ラジカルを発生させた。得られたラジカルを有するポリエチレン多孔質中空糸をガラス反応管に移し、200Pa以下に減圧することにより、反応管内の酸素を除いた。ここに40℃に調整したグリシジルメタクリレート(GMA)3体積部、メタノール97体積部よりなる反応液を多孔質中空糸1質量部に対し20質量部注入した後、12分間密閉状態で静置してグラフト重合反応を施し、多孔質中空糸にグラフト鎖を導入した。
反応液は予め窒素でバブリングして、反応液内の酸素を窒素置換した。
グラフト重合反応後、反応管内の反応液を除去した。次いで、反応管内にジメチルスルホキシドを入れて多孔質中空糸を洗浄することにより、残存したグリシジルメタクリレート、そのオリゴマー及び多孔質中空糸に固定されなかったグラフト鎖を除去した。
洗浄液を除去した後、さらにジメチルスルホキシドを入れて2回洗浄を行った。メタノールを用いて同様にして洗浄を3回行った。洗浄後の多孔質中空糸を乾燥し、重量を測定したところ、グラフト鎖が導入されたポリエチレン多孔質中空糸の重量はグラフト鎖導入前の150%であり、下記式(1)で算出される、基材重量に対するグラフト鎖の重量の比として定義されるグラフト率(dg)は50%であった。
【数1】

ここでwは反応前のポリエチレン多孔質中空糸の重量、wはグラフト鎖が導入されたポリエチレン多孔質中空糸の重量である。
50%のグラフト率は下記式(2)によって算出される、基材ポリエチレンの骨格単位であるCH基(分子量14)のモル数に対する導入されたGMA(分子量142)のモル数が4.92%であることに相当する。
【数2】

固体NMR法により、グラフト反応後の多孔質中空糸中のポリエチレン骨格単位CH基のモル数と、グラフト鎖を構成するGMAに特有なエステル基(COO基)のモル数の比を測定した。
測定はグラフト反応後の多孔質中空糸を凍結粉砕した粉末サンプル0.5gを用いて、Bruker Biospin社製DSX400を使用し、核種を13Cとして、High Power Decoupling法(HPDEC法)の定量モードにより、待ち時間100s、積算1000回の条件で、室温下で測定を行った。
得られたNMRスペクトルのエステル基に対応するピーク面積と、CH基に対応するピーク面積との比が、GMAとCH基のモル数の比に対応することから、測定結果よりCH基のモル数に対する導入されたGMAのモル数を算出したところ、4.9%と得られた。これはグラフト率49.7%に相当し、グラフト反応後のサンプルを固体NMR法で測定することにより、グラフト率が得られることが示された。
【0035】
(ii)疎水性基(フェニルアミノ基)のグラフト鎖への固定
乾燥した、グラフト鎖を導入した多孔質中空糸をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水で置換した。0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液97質量部、アニリン3質量部の混合溶液を調整し、フェニルアミノ基導入の反応原液を作成した。ガラス反応管にグラフト反応後の多孔質中空糸を乾燥重量で1質量部、さらにフェニルアミノ基導入のための反応原液20質量部、純水20質量部を入れ、攪拌後30℃に調整した。ガラス反応管を密閉して25時間静置し、グラフト鎖のエポキシ基を開環し、フェニルアミノ基を導入した。
反応後の多孔質中空糸を純水で十分洗浄し、真空乾燥後の重量を測定することにより、多孔質中空糸においてグラフト鎖の有するエポキシ基の40%が反応し、フェニルアミノ基が導入されていることが示された。
ここで、フェニルアミノ基の置換率Tは導入反応前のエポキシ基のモル数Nのうち、フェニルアミノ基に置換されたモル数Nとして下記式(3)で算出した。
【数3】

はアニリンの分子量(93.13)、wはグラフト重合反応後の多孔質中空糸の重量、wはフェニル基置換反応後の多孔質中空糸の重量、dgはグラフト率、MはGMAの分子量(142)である。
【0036】
(iii)アニオン交換基(DEA基)のグラフト鎖への固定
乾燥した、疎水性基を固定した多孔質中空糸をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換した。ジエチルアミン50体積部、純水50体積部の混合溶液よりなる反応液を調整した。ガラス反応管に(ii)で疎水性基を導入した後水置換した多孔質中空糸、及び疎水性基導入後の多孔質中空糸の乾燥重量に対して40質量部の反応液を入れ、30℃に調整した。ガラス反応管を20時間静置して、多孔質中空糸のグラフト鎖の残存するエポキシ基を開環して、ジエチルアミノ基と水酸基に置換することにより、アニオン交換基としてジエチルアミノ基を有する中空糸多孔膜を得た。
反応後の中空糸多孔膜を純水で十分洗浄し、真空乾燥後の重量を測定することにより、中空糸多孔膜においてグラフト反応直後のグラフト鎖の有するエポキシ基の46%がジエチルアミノ基によって置換されていることが示された。
ここで置換率ジエチルアミノ基の置換率Tはエポキシ基のモル数Nのうち、ジエチルアミノ基に置換されたモル数Nとして下記式(4)で算出した。
【数4】

はジエチルアミンの分子量(73.14)、wはグラフト重合反応後の中空糸多孔膜の重量、wはフェニル基置換反応後の中空糸多孔膜の重量、w2はジエチルアミノ基置換反応後の中空糸多孔膜の重量、dgはグラフト率、MはGMAの分子量(142)である。
【0037】
疎水性基であるフェニルアミノ基とアニオン交換基であるジエチルアミノ基を共に固定したグラフト鎖を有する中空糸多孔膜において、導入されたリガンドの内、ジエチルアミノ基の占める比率Lは、下記式(5)で算出され、53%であった。
【数5】

【0038】
(実施例2)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を40質量部、純水を0質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは76%、Tは12%であり、Lは14%であった。
【0039】
(実施例3)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を28質量部、純水を12質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは59%、Tは29%であり、Lは33%であった。
【0040】
(実施例4)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を16質量部、純水を24質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは32%、Tは55%であり、Lは63%であった。
【0041】
(実施例5)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を12質量部、純水を28質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは21%、Tは67%であり、Lは76%であった。
【0042】
(実施例6)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を8質量部、純水を32質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは13%、Tは77%であり、Lは86%であった。
【0043】
(実施例7)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を4質量部、純水を36質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは6%、Tは85%であり、Lは94%であった。
【0044】
(実施例8)
実施例1の(ii)において、ガラス反応管に入れるフェニルアミノ基導入の反応原液を2質量部、純水を38質量部とした以外は、実施例1と同じ操作を実施した。得られた中空糸多孔膜のTは3%、Tは86%であり、Lは96%であった。
【0045】
実施例1から8の結果を表1に示す。このように反応条件により、アニオン交換基と疎水性基の比率を任意に制御することができることが示された。
【表1】

【0046】
フェノキシ基とDEA基が固定された多孔質吸着膜
(実施例9)
実施例1の(i)で作成したグラフト鎖を導入した多孔質中空糸をガラス反応管に入れ、ここに実施例1の(iii)で用いたDEA基導入のための反応液を、多孔質中空糸の乾燥重量に対して30質量部入れて密閉し、30℃に保持したままの状態で4時間静置した。その後、多孔質中空糸を純水で十分洗浄したのち、乾燥し重量を測定した。実施例1と同様にして反応前後の多孔質中空糸の重量から算出したところ、グラフト鎖の有するエポキシ基の77%がDEA基に置換されていた。この多孔質中空糸をメタノールを用いて膨潤後に純水で置換した。0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液中90.6質量部、フェノール9.4質量部の混合溶液を調整してフェノキシ基導入反応液とし、ガラス反応管にDEA基を導入した多孔質中空糸と、この反応液を多孔質中空糸の乾燥重量の30質量部入れて、容器を閉じ、80℃にて20時間静置した。反応後中空糸多孔膜を取り出し、純水で十分洗浄した後に乾燥重量を測定し、実施例1と同様にして反応前後の中空糸多孔膜の重量から算出したところ、グラフト反応直後のグラフト鎖の有するエポキシ基の14%が、フェノキシ基に置換されていた。これによりグラフト鎖を有する中空糸多孔膜にDEA基とフェノキシ基の両方を固定した。導入されたリガンドの内、DEA基の占める比率Lは84%であった。
【0047】
ブチルアミノ基とDEA基が固定された多孔質吸着膜
(実施例10)
n−ブチルアミン7.3質量部、純水92.3質量部からなる混合溶液を調整してブチルアミノ基導入反応溶液とした。実施例9において、フェノキシ基導入反応液に替えてこのブチルアミノ基導入反応液を用い、30℃にて20時間静置した以外は、実施例9と同様にして、多孔質中空糸に反応を行った。得られた中空糸多孔膜はグラフト鎖の有するエポキシ基の80%がDEA基に、14%がブチルアミノ基に置換されており、導入されたリガンドの内、DEA基の占める比率Lは85%であった。
【0048】
フロースルーモードによる夾雑物の吸着除去
(実施例11)
(iv)抗体含有細胞培養液の調製
無血清培地にて培養したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培養液(電気伝導度8.7mS/cm、細胞密度1.1×10/mL)196mLに抗体50mg/mLを含むヒトγ−グロブリン溶液(ベネシス社、ヴェノグロブリン)4mLを添加し、0.45μmの精密ろ過膜(ザルトリウス製、ミニザルト16555K)を透過させることにより、pH7.4で抗体1mg/mLを含有する細胞培養液を調製した。
得られた細胞培養液中の代表的な夾雑物であるHCP濃度を、ELISA法を用いて測定した。Cygnus Technologies製、CHO Host Cell Protein ELISA Kitの96ウェルプレートに細胞培養液を滴下し、GEヘルスケアバイオサイエンス製、Ultrospec Visible Plate Reader II96のプレートリーダーを用いてHCP濃度を測定した。その結果、細胞培養液中のHCP濃度は、346μg/mLであった。
他の代表的な夾雑物であるDNAの定量は、invitrogen製、Quant−iT(登録商標)dsDNA HS Assay Kitを用いて評価する細胞培養液を処理した後、Qubit(登録商標)フルオロメーターを用いて行った。その結果、細胞培養液中のDNA濃度は7340ng/mLであった。
【0049】
(v)プロテインAカラムを用いた抗体精製
(iv)で得られた抗体含有細胞培養液25mLを0.2μm除菌膜(ザルトリウス製、Minisart plus)に通液した後、20mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)10mLで平衡化したプロテインAカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス製、HiTrap ProteinA HP 1ml)に10mL添加し、抗体を吸着させた。カラムに上記緩衝液20mLを通液して洗浄した後、0.1mol/Lのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)を10mL通液して、抗体を溶出回収した。得られた溶出回収液に、ほぼ等量の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.2)を添加し中和した後、少量の1.5mol/LのTris−HCl(pH8.0)で溶出回収液をpH8.0に調整し、抗体の精製液20mlを得た。精製液はプロテインAカラムに通液する前に対して2倍希釈されている。
得られた抗体の精製液中のHCP濃度を(iv)と同様にして測定した結果、2.93μg/mLであった。また、(iv)と同様にしてDNA濃度を測定した結果、63.2ng/mLであった。さらに、得られた溶出回収液を、20mM/LのTris−HCl(pH8.0)により10倍希釈し、波長280nmの吸光度を測定し、抗体の吸光係数1.3を用いてLambert−Beerの法則に従って濃度を求めたところ、0.45g/Lであり、2倍希釈されていることから、得られた抗体のアフィニティークロマトグラフィー後の回収率は90%であった。
【0050】
(vi)DEA基とフェニルアミノ基が固定された多孔質吸着膜による夾雑物除去
実施例1で得られた中空糸多孔膜を用いて、膜体積0.54ml、膜面積6.4cmのモジュールを作成した。このモジュールに20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を20ml通液して平衡化した後、(v)で得られたアフィニティークロマトグラフィー後の抗体の精製液を20ml通液し、フロースルーにて得られる画分を回収した。得られたフロースルー回収液中のHCP濃度を(iv)と同様にして測定した結果、30ng/mLであり、フロースルーによりHCP含有量は約100分の1に低下した。また、(iv)と同様にしてDNA濃度を測定した結果、検出限界(10ng/mL)以下であった。さらに、得られた回収液を20mM/LのTris−HCl(pH8.0)により10倍希釈し、波長280nmの吸光度を測定し、抗体の吸光係数1.3を用いてLambert−Beerの法則に従って濃度を求めたところ、0.89g/Lであり、抗体が中空糸多孔膜には吸着されないことを示していた。
中空糸多孔膜を用いることにより、夾雑物を有効に除去し、速やかに抗体を精製することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、アニオン交換基と疎水性基によるたんぱく質との相互作用をより広い範囲で得るための、リガンド構造の制御が容易な混合リガンドを有する多孔質吸着膜を得ることができる。アフィニティークロマトグラフィー工程後の中間精製において、HCP、凝集体などの夾雑物を有効にかつ迅速に除去することができるので、本発明は、細胞培養液に含まれる目的たんぱく質の精製において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する基材からなる多孔質吸着膜であって、
前記基材表面にリガンドとしてアニオン交換基と疎水性基とが、共に固定されている多孔質吸着膜。
【請求項2】
前記基材表面に、前記アニオン交換基と前記疎水性基とがグラフト鎖を介して共に固定されている、請求項1に記載の多孔質吸着膜。
【請求項3】
前記アニオン交換基と前記疎水性基とがグラフト鎖を介して共に固定されている構造が、
(1)前記アニオン交換基とそれに隣接する水酸基よりなる構造、及び
(2)前記疎水性基とそれに隣接する水酸基よりなる構造である、請求項2に記載の多孔質吸着膜。
【請求項4】
前記アニオン交換基が、ジエチルアミノ基及びトリメチルアンモニウム基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
【請求項5】
前記疎水性基がフェニルアミノ基、フェノキシ基、ブチルアミノ基、及びブトキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から4のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
【請求項6】
前記グラフト鎖がメタクリル酸グリシジルの重合体である、請求項1から5のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
【請求項7】
前記多孔質吸着膜の基材がポリエチレン及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1から6のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
【請求項8】
前記多孔質吸着膜が中空糸多孔膜である、請求項1から7のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜。
【請求項9】
目的とするたんぱく質と夾雑物とを含む混合溶液から目的とするたんぱく質を精製する方法であって、
請求項1から8のいずれか1項に記載の多孔質吸着膜を用いてろ過し、夾雑物を除去する、たんぱく質の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−158624(P2010−158624A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2631(P2009−2631)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】