説明

多孔質成形体、多孔質充填成形体、多孔質成形体の製造方法及び多孔質充填成形体の製造方法

【課題】大きな比表面積を有するばかりでなく、前駆体ポリマーの熱分解中に起こるガス発生と体積収縮に起因して形成される欠陥を大幅に低減して、構造材としても利用することのできる多孔質体を提供する。
【解決手段】流動性のある前駆体ポリマーから得られる多孔質成形体であって、前駆体ポリマー成形体から互いに連通する気孔を有する前駆体硬化成形体を形成し、この前駆体硬化成形体を焼成して多孔質成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、前駆体ポリマーを成形して形成される多孔質成形体、多孔質充填成形体及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機珪素系ポリマーや炭化水素系ポリマーなどの有機物を前駆体として、これらを焼成してセラミックスやカーボン材料を合成する方法は前駆体法もしくはプレカーサ法と呼ばれ、その汎用性や制御性の面から繊維、粒子、薄膜の作製において広く用いられている。前駆体ポリマーを焼成するとその熱分解中にガス発生と体積収縮が起こり、これに起因して熱分解後の成形体に多数の気孔やクラック等の欠陥が形成される。また、ガス発生によって、熱分解物中の内圧が上昇し組織を破壊する。体積収縮は、ポリマーと熱分解成形体との密度の差により不可避であり、ポリマー硬化後の収縮で応力が発生して組織を破壊する。これらを軽減するための方策として、(1)前駆体ポリマーの熱分解後の収率を上げる、(2)前駆体ポリマーに粒子やウィスカなどを混合してスラリーとし見掛けの収率を上げる、(3)数MPa 以上の外部圧力(一軸プレス圧力または静水圧)を成形力として付与するなどが行われている。
【0003】
しかし、(1)および(2)の手法では、依然としてポリマーもしくはそのスラリーのみで成形体を得るまでの欠陥低減は実現できておらず、(3)についても強化材等の骨格構造が無いと圧力により潰れて成形できず、また適用性の面で大きな制約を生じさせる。これらの理由から、現状においては、強化プリフォーム等の骨格材料無しで前駆体ポリマーもしくはそのスラリーを焼成してセラミックスもしくはカーボンの成形体を得る製造方法は存在しない。前駆体ポリマーのみから成形体を得る方法は存在するが、そこでは一旦熱処理を行った中間物を加圧成形している。
【0004】
また、母相の原料として前駆体ポリマーを強化材に含浸、焼成して作製された複合材料においても、焼成プロセス中にガス発生と体積収縮が起こり母相に多数の欠陥が発生し、緻密度の低下と組織の不均質化を招いている。この改善のために前駆体ポリマーの含浸、焼成を繰り返す緻密化処理が行われるが、この後にも成形時の組織構造が残存する。このため、材料の強度、破壊抵抗など力学諸特性の低下とバラツキの増加を招き信頼性の低下につながっている。
【0005】
基材に溶融金属を含浸して互いに反応させてセラミックスを生成する反応焼結は、結晶性の高い強固なセラミックスを合成できる方法として広く用いられている。この方法で得られる材料の特性を向上させるには反応物同士をより効率的に反応させて目的とする成形体の純度を上げることが有効である。このためには基材をミクロンオーダの多孔質構造として比表面積の大きな組織とする必要がある。こうした組織を粉末原料から作製する場合には比較的良質のものができるが、複合材料の母相形成に適用する場合には強化繊維間の微小な隙間に充填することが極めて困難で含浸不良に起因した気孔が形成され特性の低下を招く。原料に液体の前駆体ポリマーを用いることで含浸性は改善されるが、従来の方法で焼成させて得られる熱分解成形体の比表面積は小さいため効率的な反応焼結が行われず特性の低い焼結体しか得られない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−327857
【0007】
上記特許文献には、メソポーラスシリカの細孔を利用して非常に比表面積の大きい炭化珪素系多孔質体を製造することができることが記載されている。上記比表面積を大きくすることにより、主としてフィルターや触媒担体として用いることができるとしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記特許文献に記載されている炭化珪素系多孔質体は、3次元編目構造を構成するために、メソポーラスシリカの細孔を利用して多孔質体を製造している。このため、前駆体ポリマーは、上記メソポーラスシリカ内で焼成ないし無機化され、その後に上記シリカがエッチングにより除去される。このため、ロケット等の耐熱タイル等として用いることができる構造材として用いることができる強度の高い成形体を得ることは困難である。
【0009】
本願発明は、大きな比表面積を有するばかりでなく、前駆体ポリマーの熱分解中に起こるガス発生と体積収縮に起因して形成される欠陥を大幅に低減して、構造材としても利用することのできる多孔質体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に記載した発明は、流動性のある前駆体ポリマーから得られる多孔質成形体であって、前駆体ポリマー成形体から互いに連通する気孔を有する前駆体硬化成形体を形成し、この前駆体硬化成形体を焼成することにより得られる多孔質成形体に関するものである。
【0011】
すなわち、本願発明に係る多孔質体は、流動性のある前駆体ポリマーを成形して所定形状を付与し、焼成する前に、この前駆体ポリマー成形体を硬化させるとともに多孔質化して前駆体硬化成形体を形成し、この前駆体硬化成形体を焼成して無機化することにより多孔質成形体を得るものである。
【0012】
たとえば、液状の炭化珪素前駆体は、130℃〜200℃程度の温度に達すると、粘度が急激に増加して硬化し、その後の温度上昇範囲において形態変化の少ない状態が続く。上記硬化現象は、焼成による無機化とは異なり、ガスの発生及び体積の減少は少ない。本願発明は、上記硬化現象に着目し、上記硬化現象を生じさせるとともに多孔質化し、その後に焼成して多孔質成形体を得るものである。
【0013】
本願発明では、互いに連通する気孔を備える前駆体硬化成形体を焼成して多孔質体を得るものであるため、焼成時にガスによる欠陥が生じることはない。また、多孔質化した後に焼成できるため、気孔が体積収縮を吸収して、クラック等の欠陥の発生を有効に防止することができる。
【0014】
本願発明は、液状等流動性のある前駆体ポリマーを焼成して形成される種々の多孔質体に適用することができる。流動性のある前駆体ポリマーを用いることにより、種々の形態の成形体を形成することが可能となる。たとえば、請求項4に記載した発明のように、炭化珪素、カーボン、アルミナ、窒化珪素、シリカから選ばれた1以上の材料から形成された多孔質体に適用できる。好ましくは、無機物質から形成される多孔質成形体、あるいは、非酸化物系の多孔質成形体に適用できる。
【0015】
上記前駆体硬化成形体を多孔質化するには、前駆体ポリマーの硬化後であって、熱分解開始前(焼成開始前)に分解して消失する気孔形成材を配合しておき(消失気孔形成材を用いる手法は、粉末焼結の分野において、一般にスペースホルダー法と呼ばれている。)、焼成温度に達するまでに上記気孔形成材を消失させて多孔質の前駆体成形体とし、その後、高温焼成して多孔質の熱分解生成物、すなわち多孔質成形体を得ることができる。この方法は、前駆体ポリマーを用いた成形物、複合材料、反応焼結基材の作製に適用することができる。この方法を用いることにより、使用する前駆体ポリマーの量を低下させて分解ガスの発生量と体積収縮を低減することができる。また、多孔質とすることで発生ガスによる内圧上昇を回避することもできる。さらに、多孔質構造とすることで体積収縮によって発生する応力を低減させることができるとともに、成形体の一部に応力が集中するのを低減させることもできる。
【0016】
上記気孔の形態及び大きさは特に限定されることはないが、本願の請求項2に記載した発明のように、上記各気孔が壁部で互いに連通する略球形状に形成されているのが好ましい。
【0017】
球状の気孔は、上記液状の前駆体ポリマーに球状の気孔形成材を配合して成形し、硬化後に消失させることにより容易に形成することができる。また、気孔形成材の大きさや配合割合を変更することにより、種々の形態の多孔質成形体を形成することができる。また、連通する気孔を形成するには、上記気孔形成材の大きさ、形状、配合割合等を調整すればよい。
【0018】
また、上記気孔を略球状に形成することにより、気孔内面からのガスの放出を円滑に行えるとともに、焼成時の収縮を吸収して応力の発生を有効に防止できる。また、各方向へ均等に収縮できるため、成形体の寸法精度が向上する。さらに、均一な力学的特性を有する多孔質成形体を得ることもできる。
【0019】
請求項3に記載した発明は、上記多孔質成形体が、繊維状無機質補強材を含んで形成されたものである。
【0020】
上記補強材を含むことにより、力学的特性を飛躍的に向上させることができる。また、熱膨張を局所的に吸収させることができるため、成形体全体の熱膨張係数を低減させることもできる。
【0021】
上記繊維状無機質補強材を構成する材料も特に限定されることはなく、たとえば、請求項5に記載した発明のように、炭化珪素、カーボン、タングステン、アラミド、ガラスから形成された無機質補強繊維を含む補強材を採用することができる。
【0022】
また、上記補強材の形態も特に限定されることはない。例えば、編み物状、織物状、不織布状の補強材を採用することができる。また、短繊維状の補強繊維を液状前駆体ポリマー段階から配合しておくこともできる。
【0023】
請求項6に記載した発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の多孔質成形体の上記気孔に、前駆体ポリマーを充填するとともに再焼成して得られる多孔質充填成形体に係るものである。
【0024】
請求項1から請求項5に記載された発明によって得られる多孔質成形体自体も種々の用途に用いることができるが、請求項6に記載された発明に係る多孔質充填成形体は、上記多孔質成形体を利用して中実の緻密組織を有する成形体を製造するものである。
【0025】
請求項1から請求項5に記載した発明に係る多孔質成形体においては、焼成時のガス発生や収縮による欠陥を防止するため、互いに連通する気孔を形成した多孔質の前駆体硬化物を焼成して成形体を得た。上記気孔は連通状に形成されているため、前駆体ポリマーを容易に充填することができる。充填手法は特に限定されることはなく、浸漬、真空引き等を利用できる。
【0026】
上記焼成工程は、多孔質成形体を得る手法と同様の手法を用いて行うことができる。焼成時にガスの発生や収縮が生じるが、上記気孔が連通して形成されているため、ガスを円滑に成形体の外部へ放出でき、また、すでに焼成された多孔質体内部で焼成されるため、成形体にクラックやひずみが生じることはない。これにより、緻密構造の成形体を得ることができる。
【0027】
請求項7に記載した発明のように、多孔質成形体を生成した前駆体ポリマーと同一の前駆体ポリマーを上記気孔に充填して多孔質充填成形体を得ることもできるし、異なる前駆体ポリマーを充填して多孔質充填成形体を得ることもできる。
【0028】
請求項8に記載した発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の多孔質成形体の上記気孔に、上記多孔質成形体と反応焼結する材料を充填して得られる、多孔質充填成形体に関するものである。
【0029】
すなわち、本願発明における反応焼結は、多孔質成形体の気孔に反応焼結しうる材料を充填して、上記気孔内で上記多孔質体成形体と反応焼結させるものである。
【0030】
上記充填材料として種々のものを採用できるが、溶融金属等の液相の材料を採用するのが好ましい。この場合、充填するととともに反応焼結が進行して、多孔質充填成形体を容易に形成することができる。
【0031】
たとえば、請求項9に記載した発明のように、上記多孔質成形体をカーボンから形する一方、上記充填材料に溶融珪素を採用できる。溶融珪素をカーボンの気孔に充填すると、反応焼結によって多孔質成形体のほぼ全体が炭化珪素に変化する。これにより、緻密な中実構造の炭化珪素成形体を得ることができる。
【0032】
請求項10に記載した発明は、繊維状無機質補強材を含む多孔質成形体に反応焼結する材料を充填して多孔質充填成形体を得るものである。
【0033】
繊維状無機質補強材を含む多孔質成形体に適用することにより、より強度の高い多孔質充填成形体を得ることができる。
【0034】
請求項11に記載した発明は、液状前駆体ポリマーと、気孔形成材とを含む成形材料を調整する成形材料調整工程と、上記成形材料を所定形状に成形する成形工程と、上記前駆体ポリマーを硬化させて前駆体硬化成形体を得る前駆体硬化工程と、上記気孔形成材を消失させて、隣接する気孔が互いに連通する多孔質の前駆体硬化成形体を形成する気孔形成材消失工程と、上記前駆体硬化成形体を無機化する焼成工程とを含む多孔質成形体の製造方法に係るものである。
【0035】
上記成形材料調整工程は、目的とする多孔質体の特性や、種々の成形手法に応じた成形材料を調整する工程である。すなわち、押し出し成形等に適用する場合には、粘度の高い粘土状の成形材料が調整される。粘度を高く設定するには、気孔形成材料の配合割合を高く設定すればよい。
【0036】
上記成形工程を行う手法も特に限定されることはない。たとえば、射出成形、押し出し成形のみならず、単に型容器に液状の成形材料を充填することにより行われるものも含まれる。また、粘土質の成形材料を造形する手法により行うこともできる。
【0037】
上記前駆体硬化工程は、前駆体ポリマーと気孔形成材とを含む成形体を硬化させるものである。上記工程は、前駆体を無機化する焼成工程とは異なり、前駆体からのガスの発生や収縮はそれほど生じない。また、気孔形成材がそのままの形態で保持された状態で前駆体ポリマーが硬化させられるため、成形体に欠陥等を生じさせることなく前駆体ポリマーを硬化させることができる。なお、前駆体ポリマーは、次に行われる気孔形成材消失工程及び焼成工程における保形性を確保できる程度に硬化させればよい。一般に、前駆体硬化工程は、成形体を所定温度に加熱することにより行われる。上記前駆体硬化工程は、空気中で行うこともできるが、精度を高めるため、不活性雰囲気下又は真空下で行うのが好ましい。
【0038】
上記気孔形成材消失工程は、成形体を上記気孔形成材が消失する温度まで上昇させることにより行われる。上記前駆体を硬化させた後に、気孔形成材を消失させるとともに、少なくとも上記前駆体硬化成形体の無機質化が始まるまでに終了させるのが好ましい。これにより、成形体に欠陥等を生じさせることなく、焼成前の成形体を多孔質化することができる。
【0039】
上記焼成工程は前駆体硬化成形体を焼成して無機化する工程であり、通常、1000℃以上に加熱することにより行われる。上記前駆体硬化成形体は、連通する気孔を有する多孔質体であるため、焼成により生じるガスを、成形体内部から円滑に放出することができる。また、上記気孔が形成されているため、収縮も円滑に進行し、収縮による応力等の発生を防止できる。したがって、均質な多孔質体を形成することができる。
【0040】
本願の請求項12に記載した発明は、上記成形材料に、無機質補強繊維を含ませたものである。無機質補強繊維を含ませることにより、成形体の強度を大幅に向上させることができる。また、気孔形成材消失工程及び焼成工程における保形性が向上し、寸法精度の高い多孔質成形体を得ることもできる。
【0041】
上記無機質補強繊維の材質及び形態は特に限定されることはない。たとえば、成形材料の成形性に悪影響を与えることがない程度の短繊維を補強繊維として含ませることができる。
【0042】
本願の請求項13に記載した発明は、上記成形工程が、無機質繊維から形成された補強材に上記成形材料を充填することにより行われるものである。
【0043】
たとえば、FRP成形体を製造するのと同様に、織物状の補強材に成形材料を含浸充填することにより行うことができる。また、成形型内に補強材を配置して、成形材料を流し込むことにより行うこともできる。
【0044】
本願の請求項14に記載した発明は、上記成形材料に溶剤を添加して粘度及び補強材に対する濡れ性を調整する成形特性調整工程と、成形後に、上記溶剤を除去する溶剤除去工程とを含むものである。
【0045】
溶剤を添加して粘度及び濡れ性を改善することにより、成形性を高めることができる。特に、補強材を構成する織物体等の繊維間へ補強材を容易に充填することができるため、均一な多孔質成形体を得ることができるとともに、均質な機械的強度を備える多孔質体を形成することができる。
【0046】
請求項15に記載した発明は、上記成形工程が成形型を用いて行われる一方、上記気孔形成材消失工程及び上記焼成工程が、成形体を上記成形型から取り出して行われるものである。
【0047】
型を用いて成形工程を行う場合、型に入れたまま気孔形成材消失工程及び焼成工程を行うと、上記型ガスの放出を阻害する場合が考えられる。成形体を型から取り出して上記工程を行うことにより、ガスの放出が促進されるとともに、収縮を均一に生じさせて精度の高い多孔質成形体を得ることができる。
【0048】
請求項16に記載した発明は、請求項11から請求項15のいずれかに記載された上記気孔形成材消失工程の後に、形成された多孔質前駆体硬化成形体の上記気孔に前駆体ポリマーを充填する前駆体ポリマー充填工程を含むものである。上記前駆体硬化工程において前駆体ポリマーが硬化させられているため、液状の前駆体ポリマーを、上記連通する気孔の毛細管現象を利用して充填することができるため、前駆ポリマーの充填作業を容易に行うこともできる。
【0049】
これにより、中実成形体を形成することができる。また、多孔質成形体と同一の前駆体ポリマーを充填することにより、単一材料から形成された緻密度の高い成形体を形成することも可能となる。
【0050】
請求項17に記載した発明は、請求項11から請求項15に記載の製造方法によって製造された多孔質成形体の気孔に、前駆体ポリマーを充填する前駆体ポリマー充填工程と、上記前駆体ポリマーが充填された多孔質成形体を再焼成する再焼成工程とを含む、多孔質充填成形体の製造方法に係るものである。
【0051】
本願発明は、多孔質成形体を形成した後に、上記気孔に前駆体ポリマーを充填して再焼成させるものである。したがって、再焼成工程において、成形体が変形等する恐れはなく、寸法精度の高い中実成形体を得ることができる。なお、上記前駆体ポリマー充填工程及び再焼成工程は、気孔が完全に充填されるまで複数回行うこともできる。
【0052】
請求項18に記載した発明は、請求項11から請求項15に記載の製造方法によって製造された多孔質成形体の気孔に、上記多孔質成形体と反応焼結する溶融金属を上記気孔に充填して反応焼結生成物を生成させる反応焼結物生成工程を含む、多孔質充填成形体の製造方法に係るものである。
【0053】
たとえば、カーボン前駆体ポリマーから多孔質カーボン成形体を形成し、このカーボン成形体の気孔に溶融珪素を充填すると、気孔内部で反応焼結が生じて炭化珪素が生成される。本願発明では、内部の気孔が連通するとともに、大きな比表面積を有するため、上記反応焼結を多孔質体全体に生じさせて、成形体全体を中実の炭化珪素にすることもできる。
【発明の効果】
【0054】
前駆体ポリマーを原料として、強度の高いセラミックスおよびカーボンの多孔質成形体を得ることができる。また、上記気孔形成材等の配合割合や作業条件を変更することにより、多孔質構造から緻密構造まで種々の形態の成形体を得ることができる。また、比表面積の高い熱分解生成成形体を基材に用いることにより、より純度の高い反応焼結複合材料を得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
(実施例1)
炭化珪素(SiC)の液状前駆体ポリマーとしてアリルハイドライドポリカルボシラン(AHPCS, Starfire Systems Inc.,アメリカ)、気孔形成材としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)の球状粒子を用い、AHPCS にPMMA粒子を添加して数分以上攪拌した後、アルミナ製容器内でアルゴン中、25℃/hr(室温−250℃)、50℃/hr(250℃−500℃)、150℃/hr(500℃−900℃)の条件で900℃まで昇温した後、900℃にて2hr保持することにより、多孔質の炭化珪素成形体を作製した。PMMA粒子の混合条件は以下のとおりである。
【0056】
まず作製条件を設定するために、熱重量分析装置にてAHPCSおよびPMMA粒子の熱分解中の重量変化を、粘弾性測定装置にてAHPCSの熱分解中の粘度変化と硬化温度を調査した。それぞれの結果を図1および図2に示す。これらの結果から以下のメカニズムが推定される。AHPCSが130℃付近で硬化した後、PMMAが190℃から420℃の範囲で分解消失し多孔質のAHPCS硬化物となり、同温度の420℃付近からAHPCSの主熱分解が開始して1000℃以上で多孔質の炭化珪素組織となる。
【0057】
図3に推定される組織変化の模式図を示す。図3に示すように、前駆体硬化工程(図3の(2))において、PMMA粒子の周囲のAHPCS(前駆体ポリマー)が硬化させられる。次に(図3の(3))に示されるように、上記PMMA粒子が消失させられる。上記PMMA粒子は、消失後に隣接する気孔が連通するほど近接して配置されるように配合されているため、消失ガスの通り道が確保される。
【0058】
上記焼成工程(図3の(4))においては、気孔及び連通孔を介してガスが円滑に外部に放出されるため、機械的特性及び寸法精度の高い多孔質成形体が形成される。
【0059】
以上の熱分解に関する情報を基に、AHPCSに添加するPMMA粒子の粒径と配合割合を変化させてサンプルを作製し、欠陥の少ない多孔質組織が得られる条件を検討した。この結果、以下のことが判明した。
【0060】
PMMA粒子の粒径と配合割合が、得られる組織に大きな影響を及ぼすとともに、
(a)気孔形成材の分解ガスの排気のための通路としての連続気孔が形成される必要がある。
(b)AHPCSの主熱分解に欠陥形成を抑制するに有効な微細多孔構造が必要である。
(c)熱分解後に生成物の連続構造が形成されている必要がある。
(d)気孔形成材がスラリー全体に均一分布していることが必要である。
【0061】
以上の検討を経て、AHPCSに平均粒径90μmのPMMA粒子を68vol.%を混合して図4及び図5に示す直径73mm、厚さ11mmの炭化珪素のの多孔質成形体(PMMA粒径90μm)を得た。図5に示されているように、略球状の気孔が形成されているとともに、隣接する気孔間に連通孔が形成されている。図6に示す組織分析結果によると、従来法で生成される熱分解物と異なり、比表面積が非常に大きく均質な連続気孔を有した多孔質材料である。
【0062】
(実施例2)
カーボン(C)の液状前駆体ポリマーとしてフェノール樹脂のフェノライト(商品名,大日本インキ化学工業(株))に気孔形成材としての平均粒径10μmのPMMA粒子を添加し、数分以上攪拌後、アルミナ製容器内でアルゴン中、25℃/hr(室温−250℃)、50℃/hr(250℃−500℃)、150℃/hr(500℃−900℃)の条件で900℃まで昇温した後、900℃にて2hr保持することにより、多孔質カーボン成形体を作製した。
【0063】
作製条件は実施例1と同様の手順で、フェノライトとPMMA粒子の熱重量分析を実施して、フェノライトの熱分解挙動(図7)が実施例1の図1において示したAHPCSのそれと同様であることを確認した上で、実施例1と同様の工程でフェノライトに平均粒径90μmのPMMA粒子を68vol.%を混合して図8に示す直径18mm、厚さ3mmの多孔質カーボン成形体を得た。
【0064】
図9に示すように、隣接する気孔との間に連通孔を有する球状の気孔が形成されていることが判る。
【0065】
(実施例3)
実施例1で多孔質炭化珪素成形体を作製した条件を適用し、AHPCSに平均粒径10μmのPMMA粒子を68vol.%混合したスラリーに、炭化珪素長繊維(チラノZMI,宇部興産(株))を一方向に配向させたものに化学気相蒸着法(CVI法)により100nmおよび300nm厚さのカーボン層を形成した一方向炭化珪素繊維プリフォームを浸積した後、含浸を促進する目的で周囲をシートとシーリングテープで密閉し、シート内を真空引きしながら130℃まで加熱してAHPCSを硬化させて成形し(バンキング成形)、これをアルゴン中、25℃/hr(室温−250℃)、50℃/hr(250℃−500℃)、150℃/hr(500℃−900℃)の条件で900℃まで昇温した後、900℃にて2hr保持することにより成形体を得、それにAHPCSのみを真空含浸させ、同様の条件での焼成を7回繰り返すことにより、一方向炭化珪素繊維強化炭化珪素基複合材料を得た。
【0066】
図10に、上記一方向炭化珪素繊維強化炭化珪素基複合材料の破断面顕微鏡写真を示す。また、図11に模式構造を示す。これらの図から明らかなように、多孔質成形体が強化繊維によって強化されている状態が判る。
【0067】
得られた複合材の強化繊維の配向方向に対して実施した引張試験と破壊靭性試験の結果を図12及び図13に示す。PSH−PIP法−1は強化材表面に厚み300nmのカーボン層が形成されたプリフォームに対しPMMA粒子を配合した原料で作製したもので、同じプリフォームに対して気孔形成材を混合しない従来PIP法にて作製したものと比較して、引張強度が約1 割上昇し、破壊靭性値が約1.5倍上昇すると共に、誤差棒の長さで表されるバラつきが減少した。PSH−PIP法−2は繊維上へのカーボン層厚みを100nmに低減させたプリフォームに対しPMMA粒子を配合した原料で作製したもので、こちらも同様に引張強度が向上しバラつきが低減した。
【0068】
なお、上記実施例では、多孔質硬化体ないし多孔質成形体の気孔に、前駆体ポリマーあるいは反応焼結しうる材料を充填したが、上記多孔質成形体の気孔内に種々の材料を充填して、複合材料を形成することができる。たとえば、カーボン多孔質成形体の気孔に溶融アルミを充填した複合材料を構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本願発明に係る多孔質成形体は、航空宇宙輸送機の機体、エンジン、ガスタービン、ディーゼル排ガスフィルタ、燃料電池電極、熱交換器等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】AHPCSとPMMAの熱重量分析結果を示す図である。
【図2】AHPCSの粘弾性測定結果を表す図である。
【図3】AHPCSとPMMA粒子から多孔質炭化珪素組織を得る形成メカニズムの模式図である。
【図4】AHPCSとPMMA粒子から得られた多孔質炭化珪素成形体の外観写真である。
【図5】図4に示す多孔質炭化珪素成形体の気孔の形態を示す顕微鏡写真である。
【図6】多孔質炭化珪素成形体の気孔径の径分を示す図である。
【図7】第2の実施例に係るフェノライトとPMMAの熱重量分析結果を示す図である。
【図8】第2の実施例に係るフェノライトとPMMA粒子から得られた多孔質カーボン成形体の外観写真である。
【図9】図8に示す多孔質カーボン成形体の気孔の形態を示す顕微鏡写真である。
【図10】第3の実施形態に係る炭化珪素繊維強化炭化珪素マトリックス複合材料の破断面顕微鏡写真である。
【図11】図10に示す炭化珪素繊維強化炭化珪素マトリックス複合材料の構造を模式的に示す図である。
【図12】図10に示す炭化珪素繊維強化炭化珪素マトリックス複合材料の室温での力学特性評価結果を示す図である。
【図13】図10に示す炭化珪素繊維強化炭化珪素マトリックス複合材料の室温での力学特性評価結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性のある前駆体ポリマーから得られる多孔質成形体であって、
前駆体ポリマー成形体から互いに連通する気孔を有する前駆体硬化成形体を形成し、この前駆体硬化成形体を焼成することにより得られる、多孔質成形体。
【請求項2】
上記各気孔が壁部で互いに連通する略球形状に形成されている、請求項1に記載の多孔質成形体。
【請求項3】
繊維状無機質補強材を含む、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の多孔質成形体。
【請求項4】
上記多孔質成形体が、炭化珪素、カーボン、アルミナ、窒化珪素、シリカから選ばれた1以上の材料から形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載の多孔質成形体。
【請求項5】
上記繊維状無機質補強材が、炭化珪素、カーボン、タングステン、アラミド、ガラスから形成された補強繊維を含む、請求項3又は請求項4のいずれかに記載の多孔質成形体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の多孔質成形体の上記気孔に、前駆体ポリマーを充填するとともに再焼成して得られた、多孔質充填成形体。
【請求項7】
多孔質成形体を生成した前駆体ポリマーと同一の前駆体ポリマーを上記気孔に充填して得られる、請求項6に記載の多孔質充填成形体。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の多孔質成形体の上記気孔に、上記多孔質成形体と反応焼結する材料を充填して得られる、多孔質充填成形体。
【請求項9】
上記多孔質成形体がカーボンから形成されている一方、
上記充填材料が溶融珪素である、請求項8に記載の多孔質充填成形体。
【請求項10】
繊維状無機質補強材を含む、請求項6から請求項9のいずれかに記載の多孔質充填成形体。
【請求項11】
液状前駆体ポリマーと、気孔形成材とを含む成形材料を調整する成形材料調整工程と、
上記成形材料を所定形状に成形する成形工程と、
上記前駆体ポリマーを硬化させて前駆体硬化成形体を得る前駆体硬化工程と、
上記気孔形成材を消失させて、隣接する気孔が互いに連通する多孔質の前駆体硬化成形体を形成する気孔形成材消失工程と、
上記前駆体硬化成形体を無機化する焼成工程とを含む、多孔質成形体の製造方法。
【請求項12】
上記成形材料は、無機質補強繊維を含む、請求項11に記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項13】
上記成形工程は、無機質繊維から形成された補強材に上記成形材料を充填することにより行われる、請求項11又は請求項12のいずれかに記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項14】
上記成形材料に溶剤を添加して粘度及び補強材に対する濡れ性を調整する成形特性調整工程と、
成形後に、上記溶剤を除去する溶剤除去工程とを含む、請求項11から請求項13のいずれかに記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項15】
上記成形工程が成形型を用いて行われる一方、
上記気孔形成材消失工程及び上記焼成工程は、成形体を上記成形型から取り出して行われる、請求項11から請求項14のいずれかに記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項16】
請求項11から請求項15のいずれかに記載された上記気孔形成材消失工程の後に、形成された多孔質前駆体硬化成形体の上記気孔に前駆体ポリマーを充填する前駆体ポリマー充填工程を含む、多孔質充填成形体の製造方法。
【請求項17】
請求項11から請求項15に記載の製造方法によって製造された多孔質成形体の気孔に、前駆体ポリマーを充填する前駆体ポリマー充填工程と、
上記前駆体ポリマーが充填された多孔質成形体を再焼成する再焼成工程とを含む、多孔質充填成形体の製造方法。
【請求項18】
請求項11から請求項15に記載の製造方法によって製造された多孔質成形体の気孔に、上記多孔質成形体と反応焼結する溶融金属を上記気孔に充填して反応焼結成形体を生成させる反応焼結物生成工程を含む、多孔質充填成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−222500(P2008−222500A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64088(P2007−64088)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物1.社団法人日本機械学会 2006年度年次大会講演論文集Vol.1 2006年9月18日 刊行物2.社団法人日本機械学会 第14回機械材料・材料加工技術講演会講演論 2006年11月25日 刊行物3.社団法人日本材料学会 JCOM−36講演論文集−材料・構造の複合化と機能化− 2007年03月08日
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(390010593)太盛工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】