説明

多孔質粒子、多孔質粒子の製造方法及び担体

【課題】直接体液灌流に使用可能で、血液、血漿をはじめとする体液から分子量20万Da未満の悪性物質を高い効率且つ高い選択性で除去できる吸着材の担体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質粒子の製造方法であって、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン及びこれらの良溶媒を含み、且つエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対するポリビニルピロリドンの割合が45質量部以上の原液を調製する原液調製工程と、原液をノズルから吐出して、空走部を通過させた後に、貧溶媒中で粒子状に凝固させる成形工程とを備え、エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度をTgとしたときの貧溶媒の温度が(Tg−2)℃以下であり、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドンからなり、排除限界分子量が20万Da以上60万Da以下である、多孔質粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質粒子、多孔質粒子の製造方法及び担体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医学、特に内科学、血液学、免疫学、臨床検査法の進歩により、疾患の原因あるいは進行と密接な関係を持っていると考えられる血液中の悪性物質が明らかになりつつある。例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症等の自己免疫疾患に対する自己抗体や免疫複合体である。
【0003】
体液中の悪性物質を除去する目的で従来知られている技術としては、(1)活性炭あるいは親水性高分子材料で表面を被覆した活性炭により血液から悪性物質を除去しようというもの、(2)血液を血球部分と血漿部分に分離し、自己免疫疾患における抗原、抗体、免疫複合体等の悪性物質を含む患者血漿を他の新鮮血漿と入れ替える血漿交換療法、(3)(2)と同様にして分離した血漿から、該血漿中に含まれる悪性物質を吸着材により吸着除去しようというもの、(4)(2)と同様にして分離した血漿を濾過器に通して、高分子量の悪性物質を除去しようとするもの等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、(1)の方法は直接血液を処理できるものの、活性炭は吸着選択性が悪く、また、細孔が小さいので高分子量の悪性物質をほとんど吸着できない。数多くの種類の疾患において、疾患の進行あるいは原因と密接な関係にある悪性物質が知られるようになり、この悪性物質を体液中より選択的に除去する要請が高まっているが、活性炭をベースとする吸着材では、この要求を満たすことができない。
【0005】
また、(2)の方法は、(i)多量の新鮮凍結血漿を必要とし、供給面の制約より一般的に普及できるものではない、(ii)他人の血漿を利用するため、ウィルスや未知の病原体、あるいはHb抗原等の感染の危険が高い、といった欠点がある。
【0006】
さらに、(3)の方法は、(2)が孕む欠点を克服するものではあるが、悪性物質の除去に用いる吸着材の存在により、(iii)プライミングボリュームが著しく増加せざるをえず、治療時の患者の生理的負担を増大させる、(iv)血液から血漿を分離する工程と、血漿から悪性物質を除去する工程とを同時に制御するための装置、及び高度に訓練された施術者を要する等の問題を内在している。
【0007】
(4)の方法は高分子量の悪性物質を効果的に除去する目的においては重要な治療方法のひとつではあるが、技術要素の構成としては(3)の吸着除去工程が濾過工程に置き換わっているだけである。原理的には、濾過膜の孔径サイズを利用した分子篩効果で物質を分離しようとするものであり、ある特定の分子量範囲に限定した除去効果しか期待できず、選択的除去はできない。また、(3)が孕む問題を本質的に解決するものではない。
【0008】
これらの問題点を解決する上で、直接血液灌流(Direct Hemoperfusion)により血液から悪性物質を直接除去しうる血液浄化器あるいは血液浄化装置は意義深い。例えば、特許文献1に見られるような中空繊維の内表面や外表面に、抗体、抗原、酵素等を固定して対応する抗原、抗体等の悪性物質を吸着除去する試みにおいては、血漿分離工程と悪性物質の吸着除去工程がひとつのデバイスで同時に行われるため、プライミングボリューム増加や治療技術難易度の増加といった問題が解決しうると期待されるが、中空糸の細孔部分をも含めた多孔体全表面を利用したものは少なく、また、吸着能力が低いために実用化されたものはない。
【0009】
体液中の悪性物質を除去可能な実用的且つ汎用性の高い吸着材を提供するための担体に求められる要素は、(I)直接血液灌流を行うことができる、(II)除去対象となる悪性物質の分子量領域で効果的に分子篩効果を発揮して、悪性物質を担体内部に浸透させうる細孔を有する、(III)除去対象となる悪性物質を十分に吸着するだけの担体全表面積を有する、といった特徴である。
【0010】
元来、上記(II)、(III)のような特徴を有するものとしては、アフィニティクロマトグラフィ用の担体がよく知られるところであり、天然高分子系担体、ポリアクリルアミド系担体、ガラス系担体等がその代表例である。上記自己免疫疾患に深く関与していると考えられているIgG(分子量15万Da)等、分子量20万Da未満の分子を分離する技術としては、バイオプロセスにおける分離・精製工程で上記のごときアフィニティクロマトグラフィ用担体を用いる例が広く知られている。但し、バイオプロセスにおける分離・精製過程では、上記のごときアフィニティクロマトグラフィ用担体からなる分離材に供されるIgG等の分子量20万Da未満の分子を含む試料は、数段階の前処理工程を経て粗精製されており、微粒子等の不溶物並びに不要な分子が除去されていることが一般的である。こうした前処理工程によって、IgG等の分子量20万Da未満の分子を含む試料が上記のごときアフィニティクロマトグラフィ用担体からなる分離材を流れる際の圧力損失等の問題は飛躍的に低減し、分離・精製の選択性は向上する。
【0011】
一方、上記のようなアフィニティクロマトグラフィ用担体を体液中の悪性物質を吸着除去する体外循環治療に用いる場合には、次のような種々の問題点がある。すなわち、セルロースやデキストラン、あるいはアガロースに代表される天然系高分子担体は、ロイコペニア、スロンボサイトペニアを招来するといった化学的・生理学的な問題点の他、軟質ゲルであるためにゲル充填カラムに体液を高流速で流すことができないといった物理的問題がある。ポリアクリルアミド系担体は、物理的・化学的に比較的安定であるという長所を有するものの、血漿タンパクを非特異的に吸着し、アクリルアミドの残留毒性も無視し得ないという短所を有する。ガラス系担体も物理的・化学的安定性を有するものの、血漿タンパクの非特異吸着が著しく、また血液処理に用いる場合には血栓形成を引き起こすことから好ましくない。以上の問題点により、公知のアフィニティクロマトグラフィ用担体を体外循環治療用、とりわけ直接血液灌流用に使用することは困難であった。
【0012】
他方、エチレン−ビニルアルコール共重合体は凝固・線溶系各因子や血小板に対する影響が軽度であり、優れた血液抗凝固性を有する材料であることが知られている。また補体・免疫系に対する影響も軽度であり、生体適合性の高い人工透析膜として実用化されている。
【0013】
ここで、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる多孔質粒子を提供する方法としては、(A)エチレンと酢酸ビニルを重合させ、エチレン−ビニルアルコール共重合体の多孔質粒子を得た後に、鹸化する方法、(B)エチレン−ビニルアルコール共重合体を直接加工し、多孔質粒子を得る方法、が考えられる。(A)の方法において、多孔質粒子を得る重合方法としては、これまで、マイクロエマルション重合、乳化重合、ミニエマルション重合、分散重合、懸濁重合といった微粒子分散系ラジカル重合が一般的であった。しかし、これらはいずれも液相反応であり、エチレンのような気体を含めた気液二相系で微粒子の構造を制御することは困難であった。(B)の方法において、エチレン−ビニルアルコール共重合体の多孔性のフィルム、繊維又は粒子を得る方法としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体を良溶媒に溶解させた原液を、貧溶媒中で相分離させる方法が知られている。
【0014】
エチレン−ビニルアルコール共重合体以外では、例えばセルロースからなる多孔質球状粒子の作製において、チオシアン酸水溶液にセルロースを溶解させた原液を貧溶媒中で凝固させることで、排除限界分子量50万Da以上500万Da以下の多孔質球状粒子を得る方法が知られている(特許文献2)。
【0015】
また、特許文献3によると、良溶媒にエチレン−ビニルアルコール共重合体を溶解させた溶液に、さらにポリビニルピロリドンと無機イオン吸着体とを混合したスラリーを原液とし、これを貧溶媒中で凝固させることで無機イオン吸着体が担持された多孔性(球状)成形体を得ることが開示されている。
【0016】
さらに、特許文献4には、体外循環に用いることのできるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許2814399号公報
【特許文献2】特願平9−17588号公報
【特許文献3】国際公開第2005/056175号パンフレット
【特許文献4】特開2010−233825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、これまで、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含み、直接体液灌流に使用可能で、分子量20万Da未満の悪性物質を高い効率且つ高い選択性で除去できる、吸着材の担体、並びにその製造方法は実用化されていなかった。
【0019】
特許文献2には、セルロースからなる多孔質球状粒子を得る方法が開示されているものの、この方法を、セルロースとは異なり非水溶性の結晶性高分子であるエチレン−ビニルアルコール共重合体に適用することはできない。さらに、本発明者らの検討によれば、セルロースとは異なり、エチレン−ビニルアルコール共重合体は熱可塑性樹脂であると同時にガラス転移温度が比較的低いため、凝固過程において高分子鎖の収縮が起こりやすいという特徴を有する。エチレン−ビニルアルコール共重合体をフィルムや繊維に加工する際には、上述のような収縮は、外部から張力をかけることで容易に制御可能であるが、粒子を作製する過程では同様の張力を外部より働かせることは困難である。
【0020】
この点に対する本発明者らの検討によると、特許文献3のような無機イオン吸着体が担持される多孔性成形体において、金属酸化物を主成分とする無機イオン吸着体は、排除体積効果を発揮するとともに、凝固により形成されるエチレン−ビニルアルコール共重合体の高分子フィブリル骨格の物理的強度を高めるため、結果的に凝固過程で起こる高分子鎖の収縮が抑制されることがわかった。しかし、特許文献3に記載されているエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む多孔質球状粒子は、水処理に適用されるものに過ぎないため無機イオンを吸着させることには適しているものの、体液から分子量20万Da未満の悪性物質を除去するために必要な排除限界分子量は有しておらず、さらに体液中から生命活動に必須なリン酸イオン等の無機イオンを吸着するおそれがあることから、体外循環用の担体には適さなかった。
【0021】
また、特許文献4には、体外循環に用いることのできるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む粒子が示されており、この粒子は、特許文献3のような無機イオン吸着体を含まず、血液から顆粒球及び単球を選択的に除去することはできるものの、血液から分子量20万Da未満の悪性物質を除去するために必要なほどの排除限界分子量を有するものではなかった。
【0022】
そこで、本発明は、直接体液灌流に使用可能で、血液、血漿をはじめとする体液から分子量20万Da未満の悪性物質を高い効率且つ高い選択性で除去できる吸着材の担体として適用可能な多孔質粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体のごとき熱可塑性樹脂から排除限界分子量20万Da以上60万Da以下の多孔質粒子を得るためには、驚くべきことに、多孔質粒子が有するエチレン−ビニルアルコール共重合体とポリビニルピロリドンの質量比と、エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度と凝固液温度との関係が重要であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0024】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]を提供するものである。
【0025】
[1] エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドンからなる多孔質粒子の製造方法であって、
エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン及びこれらの良溶媒を含み、且つ前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対する前記ポリビニルピロリドンの割合が45質量部以上である原液を調製する原液調製工程と、
前記原液をノズルから吐出して、空走部を通過させた後に、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の貧溶媒中で粒子状に凝固させる成形工程と、
を備え、
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度をTgとしたときの前記貧溶媒の温度が(Tg−2)℃以下であり、
エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドンからなり、排除限界分子量が20万Da以上60万Da以下である多孔質粒子を製造する、多孔質粒子の製造方法。
[2] 前記成形工程で得られた粒子を次亜塩素酸で表面改質する表面改質工程をさらに備える、[1]記載の製造方法。
[3] 前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン含量が20mol%以上50mol%以下である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記良溶媒は、ジメチルスルホキシド及び/又はジメチルアセトアミドである、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記貧溶媒は、水、又は前記良溶媒を含む水である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法で得ることのできる、多孔質粒子。
[7] [6]記載の多孔質粒子からなる、直接体液灌流吸着材用担体。
[8] 前記体液は血液又は血漿である、[7]記載の担体。
[9] 前記吸着材はIgG吸着材である、[7]又は[8]に記載の担体。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、直接体液灌流に使用可能で、血液、血漿などの体液から分子量20万Da未満の悪性物質を高い効率且つ高い選択性で除去できる吸着材を製造するための多孔質粒子及びその製造方法を提供することができる。また、本発明の多孔質粒子を担体として、直接体液灌流に使用可能で、血液、血漿などの体液から分子量20万Da未満の悪性物質を高い効率且つ高い選択性で除去できる吸着材を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例2で製造した多孔質粒子の分画分子量曲線である。
【図2】実施例9で製造した多孔質粒子の分画分子量曲線である。
【図3】比較例1で製造した多孔質粒子の分画分子量曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0029】
本実施形態に係る、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドンからなり、排除限界分子量が20万Da以上60万Da以下である、多孔質粒子の製造方法は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン及び良溶媒の混合物からなる原液を調製する原液調製工程と、上記原液をノズルから吐出し、空走部を経た後(すなわち空走部を通過させた後)、貧溶媒の中に浸漬させ、溶媒交換によりポリマーのゲル化(粒子状の凝固)を行わせて多孔質体を形成する成形工程とを備える方法であり、かかる方法は湿式相分離法を原理とする。これらの過程で良溶媒の比率が減少し、それにつれてミクロ相分離が生じ、ポリマーの小球が形成され、成長し、絡み合い、フィブリルが形成され、フィブリルの隙間が連通孔となり、多孔質粒子が形成される。
【0030】
ここで、多孔質粒子の排除限界分子量とは、多孔質粒子をカラムに充填し、このカラムに所定の物質を含む液体を通したときに、分離(排除)ができなくなる最小の分子量を表す。上記排除限界分子量より大きな分子量を有する物質は、多孔質粒子の微細孔の中に入ることができず、分離(排除)ができなくなるためである。
【0031】
「エチレン−ビニルアルコール共重合体」とはエチレンとビニルアルコールとの共重合体であるが、一般的には酢酸ビニルモノマーとエチレンとを共重合させて得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体を鹸化して製造される。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ランダム、ブロック、グラフト等いずれのタイプの共重合体であってもよい。
【0032】
エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量は、20mol%以上50mol%以下であることが好ましく、24mol%以上48mol%以下がより好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体において、エチレン含量が20mol%未満であると、親水性が高くなるため、後述する貧溶媒への溶解性が増してしまい、多孔質粒子の成形が困難になるおそれがある。また、エチレン含量が50mol%を超えると、球状に造粒するのが困難になる傾向があると同時に、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリビニルピロリドンの後述する良溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
【0033】
エチレン−ビニルアルコール共重合体の重量平均分子量(Mw)の範囲は、1万Da以上300万Da以下であることが好ましく、1万5千Da以上150万Da以下であることがより好ましい。Mwが1万Da未満の場合、滅菌処理、特に放射線滅菌処理を実施した際にポリマーの分子量が低下し、水等の貧溶媒に対する溶出量が増加する傾向にある。またMwが300万Daを超えると、溶剤への溶解度が低下する傾向にあり、さらに重合の際、安定して製造できない傾向にある等の懸念がある。なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体のMwは種々の公知の方法により求められるが、本実施形態においては、ポリエチレンオキサイドを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定を採用している。
【0034】
エチレン−ビニルアルコール共重合体と共に多孔質粒子を構成するポリビニルピロリドンの重量平均分子量(Mw)は、2,000Da以上200万Da以下の範囲が好ましく、2,000Da以上100万Da以下の範囲がより好ましく、2,000Da以上10万Da以下の範囲がさらに好ましいほか、より大きい排除限界分子量を得る観点から、2万Da以上200万Da以下の範囲がより好ましく、20万Da以上200万Da以下の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量が2,000Daより小さいと、多孔質粒子がフィブリルを有する場合に、フィブリル内部に空隙を有する構造を発現させる効果が低くなる傾向にあり、200万Daを超えると、成形工程における粘度が上昇して、粒子の形成が難しくなる傾向にある。なお、ポリビニルピロリドンのMwは、エチレン−ビニルアルコール共重合体のMwと同様の方法により測定可能である。
【0035】
水溶性高分子であるポリビニルピロリドンは、上述した相分離の過程においてフィブリルの表面からその分子鎖を一部、あたかもヒゲのように伸ばすため、これによってフィブリルの表面は親水性に保たれることにより、本実施形態の製造方法により得られる多孔質粒子における疎水的吸着の抑制効果が期待できる。
【0036】
原液中のエチレン−ビニルアルコール共重合体とポリビニルピロリドンの比率(質量比)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対してポリビニルピロリドン45質量部以上であり、好ましくは45〜200質量部であり、より好ましくは45〜100質量部である。エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対する上記比率が、ポリビニルピロリドン45質量部以上であることにより、成形工程中の凝固過程において発生するエチレン−ビニルアルコール共重合体高分子鎖の収縮が抑制され、得られる多孔質粒子の細孔サイズの縮小又は空孔率の減少が抑制される傾向がある。
【0037】
原液調製工程で用いる良溶媒は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリビニルピロリドンとを共に溶解するものであればよい。上記良溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等であり、好ましくはジメチルスルホキシド及び/又はジメチルアセトアミドである。これらの良溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。原液中の良溶媒の含有量は、原液の総質量を基準として、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、70質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。良溶媒の温度は、エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg−10)〜(Tg+20)℃であると好ましく、(Tg−5)〜(Tg+10)℃であるとより好ましい。良溶媒がこのような温度であると、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびポリビニルピロリドンが溶液中で十分に相溶した状態となる傾向にある。
【0038】
成形工程で用いる貧溶媒は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を溶解しないがポリビニルピロリドンを溶解するものであればよい。上記貧溶媒は、例えば、水、上記良溶媒を含む水等である。貧溶媒中に良溶媒を含有させることにより、凝固の速度を種々変化させることができ、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドン混合物からのポリビニルピロリドンの溶出の程度を制御することができる。
【0039】
上記多孔質粒子の製造方法における成形工程において、「空走部を通過させる」とは、ノズルから吐出された原液が、すぐに貧溶媒に接触しないように、一旦、空気中(又は不活性ガス等の気体中)を通過させることをいう。原液をノズルから吐出した後、空走部を通過させる距離は、5〜150cmであると好ましく、20〜100cmであるとより好ましい。また、通過時間は、0.1〜5秒であると好ましく、0.14〜2秒であるとより好ましい。このような空走時間とすることで、吐出された原液からなる液滴が表面張力によって球状となる傾向にある。
【0040】
また、多孔質粒子の製造において原液として使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン及び良溶媒の混合物は、50℃における粘度が1000mPa・s以上6500mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以上5300mPa・s以下であることがより好ましい。1000mPa・s未満の場合、吐出される原液中のポリマー濃度が低いために貧溶媒中での凝固の進行が遅く、貧溶媒の中に浸漬される際の気液界面において受ける衝撃により粒子が変形し易くなり、特に600mPa・s以下では液滴の凝固が極めて困難になる。一方、6500mPa・sを超えると、原液のノズルからの吐出が困難となる。なお、原液の粘度は、回転粘度計を用いて、回転数20rpmとしたときの測定値である。
【0041】
多孔質粒子の製造方法における成形工程において、上記貧溶媒の温度は、エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg−2)℃以下である。貧溶媒の温度は、5℃以上(Tg−2)℃以下であることが好ましく、10℃以上(Tg−2)℃以下であることがより好ましい。5℃未満であると、貧溶媒の凝固点に近づくため粒子の製造が困難になる場合がある。また、(Tg−2)℃よりも高い温度であると、エチレン−ビニルアルコール共重合体の収縮が進行し、排除限界分子量に影響を及ぼす細孔のサイズが縮小する(又は空孔率が減少する)傾向があり、血液、血漿をはじめとする体液から分子量20万Da未満の悪性物質(病因物質)を高い効率、かつ高い選択性で除去できる吸着材に使用できる多孔質粒子を得ることが困難になる。
【0042】
また、成形工程では、原液を貧溶媒中で凝固させて粒子状の成形体を得るが、その方法としては、ノズルからの吐出により形成された原液の液滴を貧溶媒に浸漬させる方法や、原液の液滴に貧溶媒を吹き付ける方法等が挙げられる。良好に粒子を形成する観点からは、原液の液滴を貧溶媒に浸漬させることが好ましく、その場合、浸漬時間は300〜5400秒とすることが好ましく、600〜3600秒とすることがより好ましい。
【0043】
本実施形態に係る製造方法は、必要に応じて、上述した成形工程の後に、エッチング、アニーリング等の処理によって粒子表面を改質する表面改質工程をさらに備えていてもよい。表面改質方法としては、例えば、次亜塩素酸処理やポリマーのガラス転移温度以上結晶化温度未満の温度状況下でのインキュベート等がある。次亜塩素酸を用いる際の濃度は100ppm以上8000ppm以下であることが好ましい。多孔質粒子表面を次亜塩素酸処理にて改質することにより、多孔質粒子の空孔径、空孔率、比表面積を増大させることができる。
【0044】
本実施形態に係る製造方法により得られる多孔質粒子は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とポリビニルピロリドンからなり、排除限界分子量が20万Da以上60万Da以下である。本実施形態に係る製造方法により得られる多孔質粒子を担体として吸着材を製造すれば、血液、血漿をはじめとする体液から分子量20万Da未満の悪性物質(病因物質)を高い効率、かつ高い選択性で除去し得る。この際、粒子を一体型に加工してモノリス状にして用いてもよい。
【0045】
多孔質粒子の「平均粒径」は、真球の場合は、任意に選んだ10個の多孔質粒子の直径の平均値を指し、非真球の場合は、任意に選んだ10個の多孔質粒子について、マイクロスコープで任意の方向の径を2回/個計測したときの平均値を指す。多孔質粒子の平均粒径は、好ましくは90μm以上600μm以下である。平均粒径が90μmより小さいと、粒子間の空隙が狭くなって血液が通りにくくなり、圧力損失が増加する傾向にある。平均粒径が600μmより大きいと、単位体積当たりの粒子表面積が小さくなり、吸着効率が低下しやすくなる傾向にある。
【0046】
多孔質粒子の「比表面積」は、通常10m/g以上65m/g以下であることが好ましく、25m/g以上65m/g以下であることがより好ましく、45m/g以上65m/g以下であることがさらに好ましい。また、空孔率が70%以上の多孔質粒子であることが好ましい。比表面積が10m/g未満になると、血液、血漿をはじめとする体液から分子量20万Da未満の悪性物質(病因物質)を十分に吸着するための表面積を確保できない傾向がある。一方、65m/gよりも大きい場合、上記多孔質粒子の空孔率が増大しすぎて血液、血漿をはじめとする体液を灌流した場合の圧力損失に耐えうるだけの強度を確保できなくなるか、あるいは排除限界分子量が20万Da未満となる傾向がある。
【0047】
比表面積は、乾燥粒子単位重量あたりに吸着した窒素ガスが占有する表面積で表される。つまり比表面積は単位重量の粒子を構成する物質が乾燥状態でいかに有効に表面を形成しているかを示している。多孔質粒子の比表面積は、高分子ゲルの比表面積を求める際に最も一般的な窒素ガスによるBET法で求められる。一般に高分子ゲルは、そのゲルと親和性のある媒体中で膨潤し、乾燥すると収縮する。膨潤時に媒体が満たされているポアが架橋の網目のみで維持されている軟質ゲルの場合は、乾燥すると網目がつぶれてしまい、ポアはほとんど消失する。この場合の比表面積は、ほとんど粒子の外側だけの値になるため、一般に1m/g以下の低い値を示す。従来アフィニティクロマトグラフィ用として知られているアガロースは軟質ゲルであるため、乾燥によってポアが消失してしまう。さらには、つぶれやすい軟質の網目を持っているために、カラムに充填し体外循環に用いる場合にも、体液を長時間、高流速で流すことはできない。一方、ポアがしっかりした構造を持ち、凍結乾燥に耐える硬質ゲルである場合には、乾燥した際にポアは多少収縮するものの膨潤時の状態をほとんど維持する。つまり、硬質ゲルはパーマネントポアを有し、比表面積は一般的に軟質ゲルよりも高い値を示す。
【0048】
上述のように、多孔質粒子は複数のフィブリルから形成されているが、このフィブリルは内部に空隙を有し表面が開口していることが好ましい。フィブリルの平均径は通常0.01μm〜50μmであり、フィブリル表面の開孔径は、通常0.001μm〜5μmである。また、フィブリル間の隙間は通常0.01μm〜5μmである。
【0049】
このような多孔質粒子は、上述した製造方法、すなわち、原液調製工程、成形工程、及び、必要に応じて表面改質工程を経る方法により得ることができる。この方法では、原液調製工程においてエチレン−ビニルアルコール共重合体とポリビニルピロリドンの質量比を上記特定の範囲とし、成形工程において貧溶媒の温度を上記特定の範囲とし、さらに必要に応じて表面改質工程において適切な条件で表面改質することによって、20万Da以上60万Da以下という特定範囲の排除限界分子量を有する多孔質粒子を得ることが可能となる。
【0050】
多孔質粒子には公知の方法を用いて様々なリガンドを結合させて、直接体液灌流吸着材を製造することができる。リガンドとしては、抗体、抗体断片、タンパク質、ペプチド、低分子化合物が使用可能であり、目的に応じて適宜選択すればよい。多孔質粒子にリガンドを結合させることにより、分子量20万Da未満の抗原、抗体等の悪性物質、特にIgGを高い効率且つ高い選択性で除去できる吸着材を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。なお、実施例においては、多孔質粒子の種々の物性を、以下の方法で測定した。
【0052】
(平均粒径)
マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、商品名:VH7000)を用いて、多孔質粒子の粒径を測定した。多孔質粒子が真球の場合は、任意に選んだ10個の多孔質粒子について直径を測定し、その平均値を平均粒径とし、他方、非真球の場合は任意に選んだ10個の多孔質粒子について、マイクロスコープで任意の方向の径を2回/個計測し、その平均値を平均粒径とした。
【0053】
(比表面積)
TriStar3000(株式会社島津製作所製)を用いて、窒素ガス吸着によるBET法により、多孔質粒子の比表面積を求めた。測定に用いるサンプルは乾燥している必要があるため、本発明では水で膨潤させた多孔質粒子を凍結乾燥し、これをサンプルとして測定に用いた。
【0054】
(排除限界分子量)
実施例及び比較例で得られる多孔質粒子を純水で膨潤させ、超音波処理による脱気泡操作の後、内径7.6mmφ、カラム長5cmの高速液体クロマトグラフィー用空カラム(ジーエルサイエンス株式会社製)に充填し、スパナを用いてこれを閉じ、排除限界分子量評価用カラムとした。該カラムを高速液体クロマトグラフィー装置(株式会社島津製作所製、商品名:LC20A)に接続した後、流速0.1mL/分にてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を灌流し、RI検出器によるモニター画面にてベースラインが一定となるまで流し続けた。ベースラインが安定化した後、標準分子量物質としてプルランP800(分子量788KDa)、P400(分子量404KDa)、P200(分子量212KDa)、P100(分子量112KDa)、P50(分子量47.3KDa)、P20(分子量22.8KDa)、P10(分子量11.8KDa)、P5(分子量5.9KDa)(昭和電工株式会社製)、エチレングリコール(和光純薬工業株式会社製)、及びヒトIgG(シグマ・アルドリッチ株式会社製)を溶解させたPBS溶液を各々調製し、これら標準分子量物質溶液を順次注入して保持時間(分)を測定した。さらに、分子量に対し、下記式により算出される溶出容量(mL)を各々プロットして分画分子量曲線を得た。
溶出容量(mL)=流速(mL/分)×保持時間(分)
【0055】
上記分画分子量曲線中、グラフ縦軸に平行で且つプルランP800の点を通る直線Aと、直線Aよりもグラフ右側に位置する点のうち最も溶出容量の小さな点における接線Bとの交点をCとしたとき、交点Cの分子量を排除限界分子量とした。
【0056】
排除限界分子量以上の分子量の物質は多孔質粒子の微細孔に入ることができず、また、分子量の高低によらず微細孔外の同一容積の空間を流れることになるので、同一の溶出容量を与える。一方、排除限界分子量未満の分子量の物質については、分子量の高低によって微細孔内への浸透し易さに差が生じるため、低分子量の物質ほど溶出容量が大きくなる。但し、ある分子量よりも低い分子量の物質になると、微細孔内に完全に浸透しきってしまうために同一の溶出容量を与える。
【0057】
(実施例1)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)(株式会社クラレ製、エバール(登録商標)F101(商品名)、エチレン含量32mol%、Tg57℃)200g、及びポリビニルピロリドン(PVP)(BASFジャパン株式会社製、Luvitec K85(商品名))90g、良溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社製)1710gを、セパラフラスコ中にて、50℃に加温して溶解し、均一な原液(混合液)を得た。
【0058】
得られた原液をノズル(内径0.55mm)から吐出し、生じたポリマー液滴を50cm程度の空走部を通過させた後、55℃の水(貧溶媒)からなる凝固浴槽中に着液、凝固させた。さらに、洗浄を行い、平均粒径410μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。
【0059】
得られた多孔質粒子をカラムに充填し、室温でヘパリン加生理食塩水(ヘパリン濃度5000IU/L)を10mL流し、プライミングを行った。その後、抗凝固剤としてヘパリンを添加したヒト新鮮血液(ヘパリン濃度5000IU/L)10.3mLを、室温下、流速12.3mL/hでシリンジポンプにより流したところ、溶血することなく流れることを確認した。この際、カラムに接続された回路の内圧は2.1KPa以下で推移した。
【0060】
(実施例2)
50℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例1と同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径433μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に、分画分子量曲線を図1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0061】
得られた多孔質粒子10mLを、2.6mLの水酸化ナトリウム水溶液(濃度16.7M)、14mLのDMSO及び12mLのエピクロロヒドリンからなる反応溶液に添加し、30℃で2時間攪拌した。反応後の多孔質粒子をグラスフィルター3Gで濾過回収し、純水で十分に洗浄した後、2−(2−アミノエチル)チオフェンを濃度5.9g/Lで含むpH9.6の炭酸水素ナトリウム緩衝液20mL中、50℃で17時間攪拌し、反応させた。反応後の多孔質粒子をグラスフィルター3Gで濾過回収し、50℃の温水で洗浄した。反応前後の反応溶液の紫外吸光度変化から、1mLの多孔質粒子あたり2−(2−アミノエチル)チオフェンは87μmol固定化されたことがわかった。
【0062】
得られた2−(2−アミノエチル)チオフェン固定化多孔質粒子1mLを、室温でヘパリン加生理食塩水(ヘパリン濃度5000IU/L)10mLで洗浄した後、ポリプロピレンチューブ中で抗凝固剤としてヘパリンを添加したヒト新鮮血液(ヘパリン濃度5000IU/L)2mLと混合し、ミックスローターを用いて室温下2時間攪拌した。攪拌終了後、多孔質粒子をコマフィルターで濾過して除き、回収された血液から3500rpm、10分間の遠心処理で血漿を分離した。得られた血漿に対して、アルブミン、IgG、フィブリノーゲンの濃度測定を実施した。下記の式により定義される除去率は各々34%、82%、5%であった。
除去率(%)={1−(処理後の濃度/処理前の濃度)}×100
【0063】
(実施例3)
30℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例1同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径596μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0064】
(実施例4)
10℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例1同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径550μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0065】
(実施例5)
5℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例1同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径562μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0066】
(実施例6)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)(クラレ株式会社製、エバール(登録商標)F101(商品名)、エチレン含量32mol%、Tg57℃)40g、及びポリビニルピロリドン(PVP)(BASFジャパン株式会社製、Luvitec K85(商品名))18g、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社製)442gを、セパラフラスコ中にて、50℃に加温して溶解し、均一な原液(混合液)を得た。
得られた原液をノズルから吐出し、生じたポリマー液滴を50cm程度の空走部を通過させた後、40℃の水からなる凝固浴槽中に着液、凝固させた。さらに、洗浄を行い、平均粒径532μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0067】
(実施例7)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)(クラレ株式会社製、エバール(登録商標)M100B(商品名)、エチレン含量24mol%、Tg60℃)38.5g、及びポリビニルピロリドン(PVP)(BASFジャパン株式会社製 Luvitec、K85(商品名))38.5g、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社製)423gを、セパラフラスコ中にて、50℃に加温して溶解し、均一な原液(混合液)を得た。
得られた原液をノズルから吐出し、生じたポリマー液滴を50cm程度の空走部を通過させた後、40℃の水からなる凝固浴槽中に着液、凝固させた。さらに、洗浄を行い、平均粒径460μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0068】
(実施例8)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)(クラレ株式会社製、エバール(登録商標)G156B(商品名)、エチレン含量48mol%、Tg50℃)28.5g、及びポリビニルピロリドン(PVP)(BASFジャパン株式会社製、Luvitec K85(商品名))28.5g、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬株式会社製)443gを、セパラフラスコ中にて、50℃に加温して溶解し、均一な原液(混合液)を得た。
得られた原液をノズルから吐出し、生じたポリマー液滴を50cm程度の空走部を通過させた後、40℃の水からなる凝固浴槽中に着液、凝固させた。さらに、洗浄を行い、平均粒径495μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0069】
(実施例9)
実施例2と同様の工程を経て得られた多孔質粒子10mLをファルコンチューブに移し入れ、5000ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液5mLを添加した後、50℃で2時間振盪した。振盪後の多孔質粒子を回収し、純水にて洗浄を行い、平均粒径433μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に、分画分子量曲線を図2に各々示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
上記で得られた多孔質粒子を用いて、実施例2と同様の方法にて2−(2−アミノエチル)チオフェン固定化多孔質粒子を作製し、血液中のアルブミン、IgG、フィブリノーゲンの除去率を求めたところ、各々40%、90%、10%であった。
【0070】
(実施例10)
20℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例1同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径549μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0071】
(実施例11)
内径0.15mmのノズルを用いて吐出した以外は実施例10と同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径101μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。また、実施例1と同様の方法にて血液が流れることを確認した。
【0072】
(比較例1)
60℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例1同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径400μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に、分画分子量曲線を図3に各々示す。
上記で得られた多孔質粒子を用いて、実施例2と同様の方法により、2−(2−アミノエチル)チオフェン固定化多孔質粒子を得、同様の洗浄操作を行った。粒子1mL当たり、80μmolの2−(2−アミノエチル)チオフェンが固定化された。この粒子を用いて、実施例2と同様の方法で血液中のアルブミン、IgG、フィブリノーゲンの除去率を求めたところ、各々10%、7%、5%であった。
【0073】
(比較例2)
60℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例7同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径359μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
60℃の水からなる凝固浴槽中で凝固させること以外は、実施例8同様の方法にて原液を凝固させ、洗浄を行って平均粒径393μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。
【0075】
(比較例4)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)(クラレ株式会社製、エバール(登録商標)F101(商品名)、エチレン含量32mol%、Tg57℃)50g、及びポリビニルピロリドン(PVP)(BASFジャパン株式会社製、Luvitec K85(商品名))13.5g、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社製)436.5gを、セパラフラスコ中にて、50℃に加温して溶解し、均一な原液(混合液)を得た。
得られた原液をノズルから吐出し、生じたポリマー液滴を50cm程度の空走部を通過させた後、60℃の水からなる凝固浴槽中に着液、凝固させた。さらに、洗浄を行い、平均粒径399μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。
【0076】
(比較例5)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)(クラレ株式会社製、エバール(登録商標)F101(商品名)、エチレン含量32mol%、Tg57℃)50g、及びポリビニルピロリドン(PVP)(BASFジャパン株式会社製、Luvitec K85(商品名))6g、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社製)444gを、セパラフラスコ中にて、50℃に加温して溶解し、均一な原液(混合液)を得た。
得られた原液をノズルから吐出し、生じたポリマー液滴を50cm程度の空走部を通過させた後、60℃の水からなる凝固浴槽中に着液、凝固させた。さらに、洗浄を行い、平均粒径398μmの多孔質粒子を得た。物性を表1に示す。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の多孔質粒子の製造方法は、血液、血漿などの体液から分子量20万Da未満の悪性物質を高い効率且つ高い選択性で除去する直接体液灌流吸着材の担体の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドンからなる多孔質粒子の製造方法であって、
エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン及びこれらの良溶媒を含み、且つ前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対する前記ポリビニルピロリドンの割合が45質量部以上である原液を調製する原液調製工程と、
前記原液をノズルから吐出して、空走部を通過させた後に、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の貧溶媒中で粒子状に凝固させる成形工程と、
を備え、
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度をTgとしたときの前記貧溶媒の温度が(Tg−2)℃以下であり、
エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルピロリドンからなり、排除限界分子量が20万Da以上60万Da以下である多孔質粒子を製造する、多孔質粒子の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程で得られた粒子を次亜塩素酸で表面改質する表面改質工程をさらに備える、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン含量が20mol%以上50mol%以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記良溶媒は、ジメチルスルホキシド及び/又はジメチルアセトアミドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記貧溶媒は、水、又は前記良溶媒を含む水である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法で得ることのできる、多孔質粒子。
【請求項7】
請求項6記載の多孔質粒子からなる、直接体液灌流吸着材用担体。
【請求項8】
前記体液は血液又は血漿である、請求項7記載の担体。
【請求項9】
前記吸着材はIgG吸着材である、請求項7又は8に記載の担体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214550(P2012−214550A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79146(P2011−79146)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】