説明

多孔質膜、これを用いたガラス及び樹脂

【課題】熱ではなく光の照射により反応させた1層の多孔質膜であり、反射防止機能を損なうことなく、表面の耐傷付性を両立し、人の手や身体が触れたり、他の部材と接触したりするような部位にも適用することができる多孔質膜を提供すること。
【解決手段】無機酸化物あるいは有機修飾無機酸化物、有機ポリマー、反応促進剤から成り、膜厚方向に屈折率の傾斜構造を有した構造をを少なくとも1層積層して成ることを特徴とする多孔質膜である。有機ポリマーは、分子量400以上で、例えばポリプロピレングリコールであり、含有量5質量%以上である。
基板上に、例えばメチルシルセスキオキサンなどの有機修飾無機酸化物から成る多孔質膜が形成され、この多孔質膜を少なくとも1層積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止機能を有し、自動車を始めとする各種車両や船舶、航空機などのメータカバーや窓ガラス、建材用ガラス、眼鏡レンズ、光学機器用のレンズやガラスなどに広く適用される反射防止構造と、このような構造を備えた反射防止構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶パネルなどのディスプレイ装置においては、外光や室内の照明などが画面に映り込むと、表示内容の視認性が著しく損なわれることから、反射防止膜が実用化されており、一般にSi/Ti系の多層膜技術が利用されている。
このような多層膜は膜の層数を増すことによって理論的には反射率を限りなく「0」に近づけることが可能であるが、膜の層数を増すことによって製造コストが嵩むと共に、多層膜は光の入射角依存性が高く、上記した車両や船舶、航空機などのように、光があらゆる角度から入ってくるようなものには効果を示さないという欠点がある。
【0003】
一方、透明アルミナから成る花弁状膜、または膜内に屈折率の傾斜構造を持たせることにより、反射機能を示すことが知られており(特許文献1参照)、このような屈折率の傾斜構造を持つ膜は、上記多層膜に較べて、安価に製造することができると共に、光の入射角依存性が少ないというメリットがある。
【特許文献1】特開平9−202649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した透明アルミナから成る花弁状膜はその表面がナノサイズの凹凸で形成されているため、表面の硬度が低く、傷に対する耐久性に乏しいため、人が触れたり、他の部材と接触したりするような部位への適用は難しく、耐傷付性の向上が必要である。
耐傷付性の向上対策として、樹脂などにおいては、一般にハードコート処理が施される場合があるが、このような処理では反射防止機能が損なわれるため、本来の機能を果さなくなるという問題点がある。
また、屈折率の傾斜構造を持たせる膜は、熱によって反応を促進させ、膜を硬くするために焼成をする必要がある。そのため、反応を制御することが難しく、また熱に弱い樹脂については、成膜することが難しい欠点が有り、使っている薬品が有機溶剤のため、廃棄処理するためには、自然に負荷をかけてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、従来の花弁状膜および屈折率の傾斜構造を持たせる膜における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、反射防止機能を損なうことなく、表面の耐傷付性を向上させることができ、人の手や身体が触れたり、他の部材と接触したりするような部位にも適用することができる反射防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、無機酸化物あるいは有機修飾酸化物、有機ポリマー、反応促進剤によって、多孔質膜を形成することによって上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の多孔質膜は、無機酸化物あるいは有機修飾酸化物から成る多孔質膜が基板上に形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、紫外線を照射させることにより、反応を促進させ、1層で多孔性の傾斜構造を持たせているため、反射率の低下と反射率の角度依存性の低減を両立させ、熱に弱い樹脂などの表面へも備えることができる。また、光エネルギーによる反応により、熱による反応と同等以上の反応促進作用を持つため、熱で焼成した場合と同じように、表面が硬くなり、表面強度を向上させ、多孔性の傾斜膜による反射防止機能を損なうことなく、当該多孔質膜表面の耐傷付性を向上させることができ、人や物と触れ合う部位への適用が可能なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の多孔質膜の構造や、このような構造を適用した多孔質膜について、その製造方法や実施形態などと共に、さらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の多孔質膜は、上記したように、基板上に無機酸化物あるいは有機修飾酸化物から成る多孔質膜が形成されたものである。
【0011】
ここで、多孔質膜とは、例えば、メチルトリエトキシシラン、水、エタノールを含む塗布液によるゾル−ゲル法によって形成される透明なメチルシルセスキオキサンからなり、膜内に微細な空隙が傾斜して存在するという特異な構造を有するものであって、このような空隙によって、膜内に屈折率の傾斜構造が形成されることから、その反射率が大幅に低減されることになる。
【0012】
本発明においては、上記のような多孔質膜は紫外線を照射させることにより、反応を促進させ、1層で多孔性の傾斜構造を持たせているため、反射率の低下と反射率の角度依存性の低減を両立させ、熱に弱い樹脂などの表面へも備えることができる。また、光エネルギーによる反応により、熱による反応と同等以上の反応促進作用を持つため、熱で焼成した場合と同じように、表面が硬くなり、表面強度を向上させ、多孔性の傾斜膜による反射防止機能を損なうことなく、当該多孔質膜表面の耐傷付性を向上させることができ、人や物と触れ合う部位への適用が可能なものとなる。
【0013】
発明の多孔質膜を形成する無機酸化物としては、とくに限定されず、上記したメチルシルセスキオキサン以外にも様々なRSi(OR’)(R=エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、オクチル、フェニル、ベンジルなど、R’=メチル、エチル)から作製されるオルガノシルセスキオキサン、チタニア、アルミナなどを用いることができる。
【0014】
上記多孔質膜として、例えば透明メチルシルセスキオキサンを形成するには、次の方法がある。すなわち、基板上に、反応促進剤である光塩基発生剤を含むメチルトリエトキシシランである前駆体溶液を塗布液とし、該塗布液を例えばディッピング法によって塗布する。
【0015】
そして、上記塗布液に用いられる触媒として、リン酸を用い、希釈溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、さらには一般的なゾルゲル法において用いられる希釈溶媒などを挙げることができる。
【0016】
上記光塩基発生剤として用いられるものとしては、[Co(NH)5Br](ClO、[Co(NHCH)5Br](ClO、[Co(NHCH)5Cl](ClO、[Co(NH)5Br](BPh、[Co(NH](BPh、[Co(NH]Cl、[Co(en)](BPh、[Co(en)]Clがある(en=エチレンジアミン、HNCHCHNH)。
【0017】
さらに、成膜するため上記塗布液の塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法、ノズルフローコート法、スプレー法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法等と共に、これらの併用など既知の塗布手段を適宜採用することができる。
これらのうち、ディッピング法における塗布液からの引き上げ速度としては、必要な膜厚に応じて適宜選択すべきことではあるが、例えば、浸漬後約0.1〜3.0mm/秒程度の静かな均一速度で引き上げることが好ましい。
【0018】
紫外線の照射強度としては、例えば50mw/cm程度以下(波長254nm)、好ましくは約5mw/cm程度以下(波長254nm)の照射強度で、約5〜30分程度の時間照射する。
【0019】
なお、このような多孔質膜の膜厚としては、100〜2000nm程度が好ましい。
すなわち、この膜厚が50nmに満たない場合には、十分な空隙の傾斜構造が形成されないため、反射防止機能が発現しなくなり、1000nmを超えるとクラックが生じる可能性が高く、また、下地層の厚みが大きくなるために、大きな干渉を生じる可能性がある。
【0020】
上記においては、透明メチルシルセスキオキサンから成る多孔質膜の形成方法について説明したが、他の透明有機修飾金属酸化物、あるいは金属酸化物から成る多孔質膜についても、基本的に同様な方法によって成膜することができる。例えば、エチルシルセスキオキサン、プロピルシルセスキオキサン、フェニルシルセスキオキサンなどのオルガノシルセスキオキサン、アルミナ、チタニア、Al−ZnOやAl−MgO、Al−NiO系などを用いることができる。オルガノシルセスキオキサン系については、対応するアルコキシシラン、アルコール、水を用いて、アルミナについては、酢アルミニウムブトキシド、アセト酢酸エチル、イソプロピルアルコール、水、チタニアについては、チタンブトキシド、アセチルアセトン、エタノール、水、アルミナー酸化物2成分系については、酸亜鉛や酢酸マグネシウムをそれぞれの酸化物の出発原料に用いて、2成分の薄膜を作製することによって膜内に空隙を持たせることができる。
【0021】
本発明において、上記多孔質膜の膜内の空隙率については、10%以上であることが望ましい。
すなわち、多孔質膜の空隙率が10%未満であると、十分な反射防止効果が得られなくなる傾向があることによる。
【0022】
本発明において、上記有機ポリマーとして、ポリプロピレングリコール(分子量300、700、3000など)、PEG(600、1000、3000など)、ポリエチレンオキシド(10,000、50,000、100,000など)などを挙げることができる。
【0023】
本発明の反射防止構造に用いる基板について、特に制限はなく、ガラスやプラスチックなどの透明体のみならず、金属などあらゆるものを使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0025】
(実施例1)
メチルトリエトキシシラン、エタノール、有機ポリマーとして分子量1000のポリプロピレングリコールを混合し10分間攪拌した。この溶液に、リン酸水溶液を混合し、4時間攪拌してメチルシルセスキオキサン前駆体溶液とした。一方、6規定の塩化水素とエチレンジアミンを混合した溶液を塩化コバルト溶液中に入れ、1時間室温で攪拌した。この溶液を加熱により濃縮した後、濃塩化水素とエチルアルコールを加え、コバルト錯体を得た。メチルシルセスキオキサン前駆体溶液に、この錯体を0.1質量%となるように加え、前駆体溶液を得た。
【0026】
この前駆体溶液へガラス基板を浸漬し、3mm/sの速度で引き上げ、当該ガラス基板上にゲル膜を形成させる。
このガラス基板へ強度5mW/cmを持つ紫外線を、30分間照射し、その後120℃で12時間乾燥することによって、透明メチルシルセスキオキサン膜を形成した。
上記コーティング溶液の組成は、モル比でメチルトリエトキシシラン:エタノール:水(リン酸0.4質量%)=1:6:4とした。
【0027】
(実施例2)
多孔質膜の形成に際して、紫外線照射時間を30分行い、400℃で30分間熱処理したこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の試料を作製した。
【0028】
(実施例3)
多孔質膜の作製に際して、分子量3000のポリエチレングリコールを用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の試料を作製した。
【0029】
(比較例1)
多孔質膜の形成に際して、紫外線照射しないこと(照射時間0分)としたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の試料を作製した。
【0030】
(比較例2)
多孔質膜の形成に際して、コバルト錯体を混合しなかったこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の試料を作製した。
【0031】
(比較例3)
多孔質膜の形成に際して、有機ポリマーとして分子量1000のポリプロピレングリコールを混合しなかったこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の試料を作製した。
【0032】
(比較例4)
アルミニウムトリセカンダリーブトキシドをイソプロピルアルコールに溶解し、
20分間攪拌した。この溶液に、アセト酢酸エチルを加え、さらに20分間攪拌した。この溶液に、イソプロピルアルコールで希釈した水を加え、1時間攪拌して、アルミナ膜の前躯体溶液とした。このゾルに、ガラス基板を浸漬し、3mm/sの速度で引き上げ、当該ガラス基板上にゲル膜を形成した後、室温で10分間乾燥し、400℃で1時間熱処理した。この処理によって得られた多孔質アルミナ膜を60℃の熱水に15分間浸漬したのち、400℃で30分間熱処理することによって花弁状透明アルミナ膜を作製し、本例の試料とした。
【0033】
〈評価方法〉
上記によって作製した実施例及び比較例の各試料について、多孔質膜の膜厚及び屈折率をそれぞれ測定した。
なお、屈折率は、透過率測定によって得られたスペクトルから計算によって求めた。
【0034】
また、各試料の反射率を分光光度計によって測定すると共に、反射防止膜としての角度依存性を入射角を変化させて分光光度測定することによって調査し、50°以上のものを「○」、40°〜50°未満のものを「△」、40°未満のものを「×」と評価した。
そして、膜表面の硬度について鉛筆硬度によって調査し、H以上のものを「○」、3B以上のものを「△」、3B未満〜6Bのものを「×」とそれぞれ評価した。
これらの結果を表1に併せて示す。
なお、耐傷付性は、膜の表面硬度に依存する。
【0035】
【表1】

【0036】
その結果、透明メチルシルセスキオキサン膜から成る本発明の実施例の反射防止構造に較べて、屈折率の傾斜構造にならない透明メチルシルセスキオキサン膜である比較例1、比較例2、比較例3については、表面硬度については優れているものの、反射率の角度依存性は劣ることが確認された。
【0037】
一方、実施例の中では、透明メチルシルセスキオキサン膜の屈折率の傾斜が小さい実施例2では、反射防止機能において、透明メチルシルセスキオキサン膜の空隙が大きい実施例3において、最良の性能を示した実施例1に較べて、それぞれ僅かに劣る傾向が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物あるいは有機修飾無機酸化物、有機ポリマー、反応促進剤から成り、膜厚方向に屈折率の傾斜構造を有した構造をを少なくとも1層積層して成ることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
上記記載の有機ポリマーは、分子量400以上で、例えばポリプロピレングリコールであり、含有量5質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
上記記載の光による反応促進剤は例えばコバルト錯体であり、含有量0.1mol%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
上記記載の有機修飾シリケート、アルミナ、チタニアからなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
上記記載の無機酸化物あるいは有機修飾無機酸化物、有機ポリマー、コバルト錯体である光塩基発生剤を混合し、紫外線を照射することにより、相分離させ屈折率の傾斜構造を持つことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の多孔性薄膜構造上を備えたことを特徴とするガラス。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の多孔性薄膜構造上を備えたことを特徴とする樹脂。

【公開番号】特開2009−229483(P2009−229483A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70945(P2008−70945)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】