説明

多孔質防音構造体

【課題】吸音構造が過度に大型化することなく広い周波数帯域において十分な吸音性能を発揮することが可能な多孔質防音構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】多孔質防音構造体100は、空気の通過を遮断する遮断面1aを有する面部材1に、多数の貫通孔2aを有する多孔板2が対向して配置された構成であり、面部材1と多孔板2とに挟まれた空間において、当該空間を区画して共鳴室4cを形成する枠体4a、4bと、共鳴室4cと共鳴室4cの外部とを連通する孔部4dとを有する共鳴器4を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道、道路沿道、機械周辺または室内における騒音低減を目的として設置される多孔質防音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音低減を目的として、グラスウール、フェルト、ウレタン等、多孔質型吸音材が用いられている。これらの多孔質型吸音材は、高周波数帯域の吸音に優れたものである。
また、小さな空洞と、その空洞と外部とが連通する小さな開口から構成されており共鳴現象により吸音する機構であるヘルムホルツ共鳴器を用いる吸音機構も用いられている。ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数fは、
“f=(c/2π)×{s/V(l+0.8d)}1/2
で与えられる。ここで、cは空気中の音速、sは開口面積、Vは閉空間容積、lは開口部の板厚、dは開口部の直径である。ヘルムホルツ共鳴器は、開口面積s等をパラメータとして設計することで上式から求められる共鳴周波数の吸音を行うことが可能であり、特定周波数の吸音に優れている。このヘルムホルツ共鳴器の原理を用いた吸音機構としては、以下に示すように、特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示されているものがある。
【0003】
特許文献1に記載の共鳴型吸音・遮音パネルは、複数の異なる断面積の共鳴室が隣接して形成されているものであり、吸音を必要とする複数の周波数帯域に対応させたものである。これより、優れた吸音効率と遮音性能を有するものとなっている。また、特許文献2に記載の吸音構造は、ヘルムホルツ共鳴器を形成する中空の隆起部を多数備えた構造であり、隆起部を取付材に密着させて取り付けることで取付材との間にできる隙間をなくし、当該隙間への強風の回り込みを防ぎ、当該吸音構造が取り付け相手材から剥がれることを抑制している。また、特許文献3に記載の遮音吸音板は、遮音平板と、全面に亘って小孔が形成された多孔平板と、スリットが形成された平板とを平行に配置することで、2自由度の共振系を形成し、2つの共鳴周波数に対して吸音効果を有するものとなっている。この遮音吸音板は、平板にスリット及び孔を形成することで容易に作製可能であるため、安価なものとすることができる。
【0004】
一方、特許文献4、特許文献5に記載の多孔質防音構造体は、多数の貫通孔が板面全体に形成された内装板を面部材に対して空気層を介して対向配置した構成であり、微細多孔板による吸音を行うものである。微細多孔板による吸音は、ヘルムホルツ共鳴器に比べ、微細孔部による空気の粘性減衰により広帯域の吸音が可能である。
【0005】
【特許文献1】特開平6−129029号公報
【特許文献2】特開平10−245823号公報
【特許文献3】特開2003−268728号公報
【特許文献4】特開2002−175083号公報
【特許文献5】特開2003−50586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載された吸音機構は、共鳴周波数が異なる複数の共鳴器を設置したものであり、周波数ごとにみると共鳴器の吸音面積は小さいため、単位面積あたりの吸音性能は小さくなるため、十分な吸音ができなくなる虞がある。また、特許文献3に記載された吸音機構は、開口幅の広いスリットを用いた吸音機構であり開口面積を微細にすることが困難である。そのため、吸音帯域が狭くなる虞がある。
一方、特許文献4、特許文献5に記載された吸音構造は、広い周波数帯域において吸音が可能であるが、吸音可能な周波数の下限は吸音構造の総厚で決まるため、より低周波数帯域の吸音をするためには、吸音構造の総厚を大きくする必要がある。また、最も表面側にある微細多孔板の開口率を小さくすることで、より低周波数帯域の吸音をすることも可能であるが、この場合、高周波数帯域の吸音率が低下してしまう問題がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、吸音構造の総厚が過度に厚くなることなく広い周波数帯域において十分な吸音性能を発揮することが可能な多孔質防音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明は、鉄道、道路沿道、機械周辺または室内における騒音低減を目的として設置される多孔質防音構造体に関する。そして、本発明に係る多孔質防音構造体は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の多孔質防音構造体は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る多孔質防音構造体における第1の特徴は、多数の貫通孔を有し、空気の通過を遮断する遮断面を有する面部材に対向して配置される多孔板と、前記面部材と前記多孔板とに挟まれた空間を区画する枠体と当該枠体を貫通する孔部とを有する共鳴器と、を備えることである。
【0010】
この構成によると、多孔板に形成された貫通孔における空気の摩擦等により空気振動のエネルギーが熱エネルギーに変換され、高周波数の広帯域における吸音が可能となる。
また、孔部を有する枠体で面部材と多孔板との間の空間が区画され、孔部により外部と連通する閉空間が形成されている。これにより当該閉空間を共鳴室とする共鳴器が多孔板と面部材との間に構成されている。この共鳴器により、面部材と多孔板との間隔を広げることなく低周波数帯域における吸音が可能である。尚、共鳴器の内部と外部とは枠体を貫通する孔部により連通しているため、当該孔部の開口面積を小さくする、または、形成する孔部の数を減少することで、開口率を小さくすることが容易に可能であり、共鳴器の大きさを増加させることなく、共鳴器で吸音できる周波数帯域を、より低い周波数帯域とすることが容易に可能となる。
したがって、吸音構造の総厚が過度に厚くなることなく広い周波数帯域において十分な吸音性能を発揮することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第2の特徴は、複数の前記多孔板が空気層を介して積層して設けられており、音源からの音波は当該複数の多孔板を全て通過することにより前記遮断面に到達することである。
【0012】
この構成によると、多孔板の枚数に応じた共鳴周波数が現れ、特定の周波数近傍だけでなく、より広い周波数帯域で十分な吸音性能を発揮することができる。
【0013】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第3の特徴は、前記共鳴器は、前記遮断面に対して垂直な方向における寸法よりも、当該遮断面と平行な方向における寸法が大きくなるように形成されていることである。
【0014】
この構成によると、共鳴器を、遮断面に対して垂直な方向、即ち、多孔質防音構造体の厚さ方向に長くすることなく、共鳴器内部の容積を大きくすることができる。共鳴器内部の容積を大きくすることで、当該共鳴器の共鳴周波数を低くすることができるため、より薄い多孔質防音構造体で低周波数帯域の吸音を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第4の特徴は、前記孔部は、前記遮断面と平行な方向における前記共鳴器の端部近傍に形成されていることである。
【0016】
この構成によると、共鳴器の内部空間の端部近傍に位置する孔部から、当該孔部が形成される端部と逆側の端部までの距離を長くすることができる。これにより、2次以上の共鳴周波数をより低くすることが可能なため、低周波数帯域においてより幅広い周波数の範囲での吸音が可能となる。
【0017】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第5の特徴は、前記孔部は、前記枠体における前記遮断面に対して垂直な面に形成されていることである。
【0018】
この構成によると、共鳴器内において孔部の貫通方向における空気層の長さ(背後空気長さ)を大きくすることができる。当該背後空気長さが大きくなると、吸音のピークが現れる周波数間隔が小さくなるため、一定の周波数の範囲において、吸音のピークとなる周波数をより多く含むようにすることができる。したがって、より幅広い周波数の範囲での吸音が可能となる。
【0019】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第6の特徴は、前記面部材と前記多孔板とに挟まれた空間において、多孔質吸音材が配設されていることである。
【0020】
この構成によると、多孔質吸音材により面部材と多孔板とに挟まれた空間における空気抵抗が増加するため、空気振動の減衰を大きくすることが可能となる。したがって、多孔質防音構造体の吸音性能を向上することができる。
【0021】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第7の特徴は、前記多孔板の少なくとも1枚は、表面に凹形状または凸形状を有することである。
【0022】
この構成によると、多孔質防音構造体に垂直に入射する音波だけでなく、斜めから入射する音波に対する吸音性能を向上することができる。
【0023】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第8の特徴は、前記多孔板の少なくとも1枚は、断面が波形状となるように形成されていることである。
【0024】
この構成によると、より簡易な構造で、多孔質防音構造体に垂直に入射する音波だけでなく、斜めから入射する音波に対する吸音性能を向上できる。
【0025】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第9の特徴は、前記多孔板の少なくとも1枚は、表面にエンボス加工が施されていることである。
【0026】
この構成によると、平板の表面加工により容易に表面に凹凸を形成することが可能であり、多孔質防音構造体に垂直に入射する音波だけでなく、斜めから入射する音波に対する吸音性能を向上できる。
【0027】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第10の特徴は、前記共鳴器の内部に、多孔質吸音材が配設されていることである。
【0028】
この構成によると、多孔質吸音材により共鳴器の内部における空気抵抗が増加するため、空気振動の減衰を大きくすることが可能となる。したがって、共鳴器により吸音する周波数帯域における吸音性能を向上することができる。また、多孔質吸音材中の音速が遅いためより低域を吸音できる。
【0029】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第11の特徴は、前記孔部の開口径の寸法が3mm以下であることである。
【0030】
この構成によると、共鳴器の孔部における空気の粘性抵抗の増加によって空気振動の減衰を大きくすることができるため、吸音性能を向上することができる。また、孔部における空気の粘性の作用により、吸音可能な周波数帯域の幅を広くすることができる。
【0031】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第12の特徴は、前記孔部は、前記共鳴器の内部と当該共鳴器の外部とを連通する流路を有する筒状部材として形成されており、当該筒状部材は前記枠体から前記共鳴器の外側及び前記共鳴器の内側の少なくともいずれか一方に向かって突出して形成されていることである。
【0032】
この構成によると、孔部における連通流路の長さを大きくすることで、流路の断面積を増加することなく流路容積を増加することができる。流路容積の増加により当該共鳴器の共鳴周波数はより低い周波数となるため、多孔質防音構造体により、より低周波数帯域の吸音が可能になる。
また、孔部が、面部材の遮断面と平行な方向に向かって前記枠体を貫通するように形成されている場合は、突出する孔部により共鳴器が遮断面に対して垂直な方向、即ち、多孔質防音構造体の厚さ方向に長くなることがなく、より薄型の多孔質防音構造体を形成することが可能である。
【0033】
また、本発明に係る多孔質防音構造体における第13の特徴は、前記貫通孔の開口径の寸法が3mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。
【0034】
この構成によると、多孔板に形成された貫通孔おける空気の粘性抵抗の増加によって空気振動の減衰を大きくすることができるため、吸音性能を向上することができる。また、貫通孔における空気の粘性の作用により、吸音可能な周波数帯域の幅を広くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る多孔質防音構造体は、従来の吸音部材が用いられる部位に同様に適用することができるものであり、例えば内側の吸音と外側の遮音とを実現する防音囲の構成パネルとしてモータやギヤ等の多種多様の騒音源に対して使用される。また、ホールや居室等の吸音板としても適用できる。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に係る多孔質防音構造体の概略構成を示す断面斜視図である。本実施形態に係る多孔質防音構造体100は、空気を遮断する遮断面1aを有する外装板1(面部材)と、第1多孔板2(多孔板)と、第2多孔板3(多孔板)と、共鳴器4と、を備えており、内部に閉空間を有した薄板状に形成された構造体である。
【0037】
多孔質防音構造体100は、騒音源側から第1多孔板2、第2多孔板3、外装板1の順で空気層を介してこれらの板材が積層された構造であり、第1多孔板2、第2多孔板3、外装板1は、多孔質防音構造体100の両側面(図1中のX軸方向における両端面)を形成する側板5に固定されている。また、多孔質防音構造体100の長手方向(図1のY方向)の両端部は、外装板1と第1多孔板2と側板5とで形成される空間を閉空間とするように図示しない仕切り板により閉塞されている。多孔質防音構造体100の積層方向(図1中のZ軸方向)の厚さは例えば60mmとして形成されている。
【0038】
外装板1は、例えば、騒音を遮ることを要求される壁面に取り付け可能に形成された板材であり、鉄やアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成することができる。尚、当該騒音を遮ることを要求される壁面自体を空気の通過を遮断する遮断面として利用し、外装板1を用いずに、多孔板及び共鳴器を当該壁面に対して配置することで多孔質防音構造体を形成することも可能である。この場合、当該壁面を含む防音構造体として、より薄い構造とすることができる。
【0039】
第1多孔板2は、貫通孔2aを複数有する多孔板であり、例えば、鉄やアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成することができる。第1多孔板2の厚さは、例えば、0.8mmとして形成することができる。また、貫通孔2aは、第1多孔板の全体に一様に分布するように形成されており、例えば直径0.8mmとなるような孔として形成されている。貫通孔2aの径を小さくすることで、貫通孔2aを通る空気の粘性作用が顕著になり、より空気振動が減衰しやすくなるため、吸音性能を向上することができる。尚、貫通孔2aの孔形状は、円状である場合に限られず、矩形等、多角形状に形成することも可能である。
【0040】
第2多孔板3は、貫通孔3aを複数有する多孔板であり、例えば、鉄やアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成することができる。第2多孔板3の厚さは、例えば、0.1mmとして形成することができる。また、貫通孔3aは、第2多孔板3の全体に一様に形成されており、例えば直径0.1mmとなるように形成されている。
第1多孔板2に形成される貫通孔2aの孔径よりも第2多孔板3に形成される貫通孔3aを小さい径とすることで、孔を通過する空気の粘性減衰を大きくすることができ、多孔質防音構造体100で吸音可能な周波数帯域をより広くすることが可能である。
【0041】
第1多孔板2、あるいは、第2多孔板3に形成される貫通孔の開口径の寸法を3mm以下の微細孔とすることで、上述したように空気の粘性減衰を大きくすることができるとともに、吸音対象音源が70dB以上である場合、貫通孔を通過する空気に圧力損失による減衰作用を発生させることができる。尚、当該開口径の下限値は、0.05mmであることが好ましい。この理由は、開口径が0.05mm以下では、空気の流れに対する抵抗が大きくなり、吸音性能が低下するためである。また、多孔板の加工が困難になりコストが増加するとともに、使用環境によってはゴミやほこり等により貫通孔が閉鎖しやすくなるためである。また、多孔板の開口率は例えば3%以下とすることができ、これにより、十分な吸音特性が得られるとともに、貫通孔の数を減らして多孔板の作成時間を短縮可能である。
【0042】
共鳴器4は、外装板1と第2多孔板3とに挟まれた空間を区画して共鳴室4cを形成する枠体4a、4bを備えている。枠体は外装板1と平行に配置される面を有する部分4a(平行部)と、外装板1と垂直に配置される面を有する部分4b(垂直部)とからなり、共鳴室4cにおける、多孔質防音構造体100の厚さ方向(遮断面1aに対して垂直方向、図1のZ軸方向)の寸法よりも、厚さ方向と垂直な方向(遮断面1aと平行な方向、図1のX軸方向及びY軸方向)における寸法の方が大きくなるように形成されている。
また、枠体の垂直部4bにおいて、当該垂直部4bの長手方向(図1のY軸方向)に複数の貫通孔4d(孔部)が並んで開口しており、貫通孔4dは、多孔質防音構造体100の厚さ方向と垂直な方向(遮断面1aと平行な方向、図1のX軸方向)に向かって枠体の垂直部4bを貫通するように形成されている。即ち、扁平な閉空間である共鳴室4cを有する共鳴器4における端部(遮断面1aと平行方向(図1のX軸方向)の端部)に貫通孔4dが形成された構成となっている。貫通孔4dの開口径の寸法は、例えば1mmとして形成することができる。枠体4a、4bは、例えば、鉄やアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成することができる。また、共鳴器4は、多孔質防音構造体100の中央部(図1におけるX軸方向中央部)において貫通孔4dが形成された枠体の垂直部4bが一定の間隔を空けて対面するように、2つ設けられている。共鳴室4cは、多孔質防音構造体100の長手方向(図1のY方向)の両端部において、図示しない仕切り板により閉塞されている。
尚、貫通孔4dで形成される孔部は、形状は、円状である場合に限られず、矩形等、多角形状、に形成することも可能である。また、孔部をスリットで構成することも可能である。
【0043】
図2に、本実施形態に係る多孔質防音構造体100の吸音特性(実施例)と、比較例として、多孔質防音構造体100における共鳴器4を取り除いた構成の防音構造体の吸音特性(比較例1)、及び、比較例1の構成において、より低い周波数帯域の吸音を行うために多孔板の開口率を小さくした場合の吸音特性(比較例2)とを示す。
【0044】
図2に示すように、本実施形態(実施例)は、315Hzから4kHzの幅広い周波数帯域において吸音率が0.6以上の吸音特性を有している。一方、比較例1においては、630Hzから4kHzの周波数帯域において吸音率は0.6以上となっているが、500Hz以下の周波数帯域においての吸音率は0.5以下になっている。また、より低い周波数帯域を吸音するために表面多孔板の開口率を小さくした比較例2においては、400Hzから800Hzの周波数帯域において吸音率が0.6以上となっているが、1kHz以上の高周波数帯域においては吸音率の低下が著しく、吸音率は、0.6以下となっている。これは、多孔板の開口率を小さくすることで、防音構造体内部へ音波が透過しにくくなったためと考えられる。
【0045】
このように、本実施形態に係る多孔質防音構造体100は、貫通孔2a及び貫通孔3aにおける空気の摩擦等により空気振動のエネルギーが熱エネルギーに変換され、高周波数帯域における吸音性能を発揮することが可能であるとともに、多孔質防音構造体100の内部に備える共鳴器4により、外装板1、第1多孔板2及び第2多孔板3で形成される構造では吸音が難しい、より低い周波数帯域の吸音が可能である。これより、比較例1において吸音が困難である低周波数帯域における吸音が可能となる(図2参照)。また、第1多孔板2及び第2多孔板3の開口率を変化することなく、構造体内部に共鳴器4を設置することによって低周波数帯域の吸音率を向上させることができるため、比較例2のように高周波数帯域における吸音率を劣化させることはないため有利である(図2参照)。
【0046】
また、共鳴室4と共鳴室4の外部とが貫通孔4dにより連通しているため、貫通孔4dの開口径を小さくする、または、枠体4aに形成する貫通孔4dの数を減少することで、共鳴器4の開口面積を減らし開口率を小さくすることが容易に可能である。これより、共鳴室4aの大きさを変化させることなく、共鳴器4で吸音できる周波数帯域を、外装板1、第1多孔板2及び第2多孔板3で形成される構造によって吸収可能な周波数帯域よりも低周波数帯域とすることが容易に可能となる。したがって、共鳴器4の大きさが変化することで、第1多孔板2及び第2多孔板3の作用により吸音可能な高周波数帯域の吸音性能が低下することを抑制して、より低周波数帯域の吸音を行うことが可能となる。これより、吸音構造を大型化することなく広い周波数帯域において十分な吸音性能を発揮することが可能となる。
【0047】
また、共鳴器4に、所定の開口率となるように開口部を形成する場合において、開口部として貫通孔を用いることで共鳴器4の表面全体に分散して開口部を形成することが可能であり、局所的に開口部が集中することにより、多孔質防音構造体100における音波が入射する位置により吸音特性に偏りが発生することを抑制し、より開口部を形成する面内において均一な吸音特性を発揮することが可能である。
【0048】
また、第1多孔板2と第2多孔板3とが空気層を介して積層して設けられており、音源からの音波が、第1多孔板2と第2多孔板3とを通過することにより外装板1に到達する構成となっているため、多孔質防音構造体100において、少なくとも2つの共鳴周波数が現れる。したがって、一つの周波数近傍だけでなく、より広い周波数帯域で高い吸音性能を発揮することができる。
【0049】
また、共鳴器4における共鳴室4cは、多孔質防音構造体100の厚さ方向に対して垂直な平面(図1のX−Y平面)内に延びた薄く平たい形状(厚さ方向の寸法よりも厚さ方向に対して垂直な平面内の寸法が大きい形状)とすることにより、共鳴器4が厚さ方向に大きくなることを抑制しながら、共鳴室4aの容積を大きくすることができる。共鳴室4aの容積を大きくすることで、ヘルムホルツ共鳴周波数の計算式により求まる共鳴器4の共鳴周波数を低くすることができるため、より薄い多孔質防音構造体で低周波数帯域の吸音を行うことが可能となる。
【0050】
また、共鳴器4の貫通孔4dは、遮断面1aと平行な方向に向かって枠体の垂直部4bを貫通するように形成されている。共鳴室4cの厚さ方向(図1のZ軸方向)の寸法よりも貫通孔4dの貫通方向(図1のX軸方向)における共鳴室4cの寸法の方が大きいため、枠体の平行部4aにおいて厚さ方向に貫通するように貫通孔4dを形成した場合よりも、共鳴室4cにおける貫通孔4dの貫通方向に存在する空気層の長さ(背後空気長さ)を大きくすることができる。ここで、吸音のピークが現れる周波数の間隔Δfは、Δf=c/(2L)(L:背後空気長さ、c:音速)の式で求められ、背後空気長さLを大きくすることで、周波数間隔Δfを小さくすることができる。すなわち、一定の周波数の範囲において、共鳴器4による吸音のピークとなる周波数をより多く含むようにすることができる。したがって、共鳴器4により、幅広い周波数の範囲での吸音が可能となり、多孔質防音構造体100の吸音性能を向上させることができる。
【0051】
また、図3に示すように、外装板1と第1多孔板2と共鳴器4とからなる多孔質防音構造体であって、外装板1と第1多孔板2とに挟まれた空間において、例えば、板状に形成された多孔質吸音材6が配設されている多孔質防音構造体101とすることもできる。これは、多孔質防音構造体100(図1参照)における第2多孔板3を多孔質吸音材6に置き換えた構成であり、同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0052】
多孔質吸音材6は、アルミニウムやステンレス等の金属繊維または短冊状金属を圧縮して形成されていてもよいし、不織布で形成されていてもよい。また、金属や樹脂材料の発泡体でも良い。さらに、多孔質吸音材6は、外装板1、第1多孔板2、及び共鳴器4が金属製であれば、良好なリサイクル性が得られるように、同一の金属で形成されていることが望ましい。尚、当該多孔質吸音材6は板状に形成されている場合に限らず、例えば、金属繊維、不織布等を多孔質防音構造内の空間に充填した構成とすることもできる。
【0053】
このように設置された多孔質吸音材6により、広い周波数帯域の音波に減衰を付与でき、多孔質防音構造体の吸音帯域を広くすることができる。
尚、当該多孔質防音構造体101は、多孔質防音構造体100(図1参照)における第2多孔板3を多孔質吸音材6に置き換えた構成であるが、第2多孔板3を取り除いた構成に限らず、多孔質防音構造体100等、複数の多孔板を備えた構成の多孔質防音構造体において内部空間に多孔質吸音材を設置することも可能である。
【0054】
また、表面に凹凸形状を有するような多孔板を用いて多孔質防音構造体を形成することもできる。例えば、図4に示すように、第1多孔板2と、多数の貫通孔7aが形成された板材であって断面が波形状となるような波状多孔板7と、外装板1とがこの順で空気層を介して積層した状態となるように配置されており、波状多孔板7と外装板1との間に共鳴器4を備えた構成の多孔質防音構造体102とすることもできる。尚、多孔質防音構造体100(図1参照)と同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0055】
このように、表面に凹凸形状を有するような多孔板を用いることにより、多孔質防音構造体102の表面に対して垂直に入射する音波に対する吸音率(垂直入射吸音率)だけでなく、斜めから入射する音波に対する吸音率(斜入射吸音率)及びランダム方向から入射する音波に対する吸音率(ランダム入射吸音率)も増加させることができる。また、波状多孔板7を用ることで、簡易な構造で凹凸形状を形成することができる。また、平板状の多孔板の表面にエンボス加工を施すことにより表面に凹凸形状を形成することもできる。これより、表面に凹凸のある多孔板をより薄く形成することができる。
【0056】
尚、多孔質防音構造体102のように複数の多孔板を備える多孔質防音構造体において、1枚の多孔板のみに凹凸形状を形成する場合に限らず、複数の多孔板に凹凸形状を形成してもよい。また、多孔質防音構造体の表面となる多孔板(例えば、多孔質防音構造体102における第1多孔板2)に凹凸形状を形成することも可能である。また、上述した方法で凹凸を形成する場合に限らず、多孔板の表面に凹凸形状を形成することにより、斜入射吸音率又はランダム入射吸音率を増加させることが可能である。
【0057】
また、図5に示すように、多孔質防音構造体100(図1参照)における共鳴室4cに多孔質吸音材6を配設した構成の多孔質防音構造体103とすることもできる。この構成では、多孔質吸音材6により共鳴室4cにおいて空気が流動する際の抵抗が増加するため、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され易くなり、空気振動の減衰を大きくすることが可能となる。したがって、共鳴器4により吸音する周波数帯域における吸音率を増加することができる。また、多孔質吸音材中を伝搬する音波は空気中よりも遅くなるため波長が短くなり、より低域を吸音することができる。
【0058】
また、図6に示すように、共鳴器4の貫通孔4e(孔部)の開口径の寸法が3mm以下になるような微細な貫通孔4eを枠体の垂直部4bに形成された多孔質防音構造体104とすることもできる。尚、多孔質防音構造体100(図1参照)と同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0059】
この場合、要求される低周波数帯域の吸音が可能な開口率となるように、貫通孔4eの数が設定される。貫通孔4eの開口径を3mm以下に小さくすることにより、要求される低周波数帯域に吸音のピークを有するとともに、貫通孔4eにおける空気抵抗を増加させることができ、空気振動の減衰を大きくすることができる。また、貫通孔4eを通過する空気の粘性の影響が顕著になるため、吸音可能な周波数帯域の幅を広げることができる。また、開口径を小さくすることで開口率を一定に維持しながら貫通孔の数を増加させ、図6に示すように、共鳴器4の厚さ方向(図6のZ軸方向)において、貫通孔4eが上下2列並んだ構成にすることが可能となる。また、貫通孔4eの開口径が0.05mm以上であれば、貫通孔の加工が容易になるとともに、大気中のほこり等により開口が閉塞しにくくなり、吸音性能が劣化することを抑制できる。
【0060】
また、図7に示すように、共鳴室4cと共鳴室4cの外部とを連通する流路として、貫通孔8aを有する筒状部材8を用い、枠体の垂直部4bを貫通するように取り付けることにより多孔質防音構造体105を形成することもできる。尚、多孔質防音構造体100(図1参照)と同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0061】
このように、貫通孔8aを有する筒状部材8が枠体4bから共鳴室4cの外側及び共鳴室4cの内側の両方に突出している構成とすることで、共鳴室4cと共鳴室4cの外部とを連通する流路の長さを大きくすることができる。これより、流路部分の容積の増加により、流路部分に収容されて振動する空気の質量が増加し、結果として共鳴器4の共鳴周波数はより低い周波数となる。これより、多孔質防音構造体105により、より低い周波数帯域の吸音が可能になる。
【0062】
また、筒状部材8が、多孔質防音構造体105の厚さ方向と垂直に枠体の垂直部4bを貫通するように配置されているため、突出する筒状部材8により共鳴器4の寸法が多孔質防音構造体105の厚さ方向に長くなることがなく、より薄型の多孔質防音構造体105を形成することが可能である。
【0063】
尚、図7に示す実施例においては、筒状部材8が枠体の垂直部4bから共鳴室4cの外側及び共鳴室4cの内側の両方に突出して形成されているが、この形態に限らず、筒状部材8が枠体の垂直部4bから共鳴室4cの外側または共鳴室4cの内側の少なくともいずれか一方に突出して形成されていても良い。特に、共鳴室4c内のみに突出するように形成することで、共鳴器4の外側表面からの突出部をなくし、共鳴器4の設置に要するスペースを削減することができる。これより、多孔質防音構造体105内のスペースを有効に利用して共鳴器4を効率よく配置することができ、吸音性能を向上させることが可能である。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【0065】
例えば、本実施形態で示したように、共鳴器4に形成する貫通孔を多孔質防音構造体の厚さ方向と垂直方向に向かって枠体の垂直部4bを貫通するように形成する場合に限らず、図8に変形例に係る多孔質防音構造体106を示すように、共鳴室4cの上面を形成する平行部4aにおける、遮断面1aと平行方向の端部近傍(垂直部4bに近い位置)に貫通孔4fを形成することもできる。この場合、共鳴室4cにおいて、貫通孔4fの位置から、共鳴室4cの端部(側板5)までの距離を長くすることができ、2次以上の共鳴周波数をより低くすることが可能なため、より幅広い周波数の範囲での吸音が可能となる。また、共鳴器4が厚さ方向の寸法よりも厚さ方向に対して垂直な平面内の寸法が大きい形状である場合は、貫通孔4fを形成する面の面積を広くでき、貫通孔4fを広い範囲に分散可能な点で有効である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態に係る多孔質防音構造体の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す多孔質防音構造体の吸音特性を示すグラフである。
【図3】図1に示す多孔質防音構造体の変形例の概略構成を示す図である。
【図4】図1に示す多孔質防音構造体の変形例の概略構成を示す図である。
【図5】図1に示す多孔質防音構造体の変形例の概略構成を示す図である。
【図6】図1に示す多孔質防音構造体の変形例の概略構成を示す図である。
【図7】図1に示す多孔質防音構造体の変形例の概略構成を示す図である。
【図8】図1に示す多孔質防音構造体の変形例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 外装板(面部材)
2 第1多孔板(多孔板)
3 第2多孔板(多孔板)
4 共鳴器
4a、4b 枠体
4c 共鳴室
4d、4e、4f 貫通孔(孔部)
6、9 多孔質吸音材
7 波状多孔板(多孔板)
8 筒状部材
100〜106 多孔質防音構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の貫通孔を有し、空気の通過を遮断する遮断面を有する面部材に対向して配置される多孔板と、
前記面部材と前記多孔板とに挟まれた空間を区画する枠体と、当該枠体を貫通する孔部と、を有する共鳴器と、
を備えることを特徴とする多孔質防音構造体。
【請求項2】
複数の前記多孔板が空気層を介して積層して設けられており、音源からの音波は当該複数の多孔板を全て通過することにより前記遮断面に到達することを特徴とする請求項1に記載の多孔質防音構造体。
【請求項3】
前記共鳴器は、前記遮断面に対して垂直な方向における寸法よりも、当該遮断面と平行な方向における寸法が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔質防音構造体。
【請求項4】
前記孔部は、前記遮断面と平行な方向における前記共鳴器の端部近傍に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多孔質防音構造体。
【請求項5】
前記孔部は、前記枠体における前記遮断面に対して垂直な面に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の多孔質防音構造体。
【請求項6】
前記面部材と前記多孔板とに挟まれた空間において、多孔質吸音材が配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。
【請求項7】
前記多孔板の少なくとも1枚は、表面に凹形状または凸形状を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。
【請求項8】
前記多孔板の少なくとも1枚は、断面が波形状となるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載の多孔質防音構造体。
【請求項9】
前記多孔板の少なくとも1枚は、表面にエンボス加工が施されていることを特徴する請求項8に記載の多孔質防音構造体。
【請求項10】
前記共鳴器の内部に、多孔質吸音材が配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。
【請求項11】
前記孔部の開口径の寸法が3mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。
【請求項12】
前記孔部は、前記共鳴器の内部と当該共鳴器の外部とを連通する流路を有する筒状部材として形成されており、当該筒状部材は前記枠体から前記共鳴器の外側及び前記共鳴器の内側の少なくともいずれか一方に向かって突出して形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。
【請求項13】
前記貫通孔の開口径の寸法が3mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の多孔質防音構造体。































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−9014(P2008−9014A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177597(P2006−177597)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】