説明

多官能性金属キレート構造を有するステロイド化合物

【課題】溶解性等に優れ、病巣選択的なリポソーム造影剤の製造に適した化合物及び該化合物と金属イオンとからなるキレート化合物を提供する。
【解決手段】 一般式(I):


[Rは式(II)で表される構造を部分構造として含む炭化水素基を示し;Lは2価の連結基を表し;Chは3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す]


で表される化合物、該化合物と金属イオンとからなるキレート化合物、該キレート化合物を含む膜構成成分として含むリポソーム、及び該リポソームを含むMRI又はシンチグラフィー造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能性金属キレート構造を有するステロイド化合物又はその塩に関する。本発明はさらに該化合物、該化合物を含むキレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソーム及び該リポソームを含む造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲的な動脈硬化の診断法としては、主にX線血管造影法が挙げられる。しかし、この方法は、水溶性のヨード造影剤で血液の流れを造影する方法であるため、病変組織と正常組織との区別がつけにくい。そのため、狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することが困難である。
【0003】
上記以外の診断法として、近年、動脈硬化巣プラーク中に多く動態分布される造影剤を用いて核磁気共鳴トモグラフィー(MRI)により疾患を検出する方法が報告されている。しかし、該造影剤として報告されている化合物はいずれも診断法に用いることには問題がある。例えば、ヘマトポルフィリン誘導体(特許文献1参照)は皮膚への沈着・着色の欠点が指摘されており、また、脂質に富んだプラークに集積するとの報告があるパーフルオロ側鎖を有するガドリニウム錯体(非特許文献1参照)は、脂肪肝・腎臓上皮・筋組織の腱などの、生体における脂質豊富な組織、器官への集積が危惧されている。
【0004】
化合物の観点からは、胆汁酸誘導体とポリアミノカルボキシリガンドからなる化合物が知られている。(例えば、特許文献2及び3参照)しかし、これらの化合物は肝臓、胆管の造影及び血液プール剤としての使用に関するものであり、動脈硬化巣プラークの診断への使用、リポソーム化による動脈硬化巣プラーク中への造影剤の集積については何ら言及されていない。
【0005】
また、リポソーム化の観点からは、フォスファチジルエタノールアミン(PE)とジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)をアミド結合した化合物が知られており(例えば、非特許文献2)、該化合物のガドリニウム錯体のリポソームに関する報告(非特許文献3)もある。しかし、この錯体は難溶解性であるためリポソーム化の際の操作性が悪く、生体内での蓄積性や毒性における懸念もある。
【特許文献1】米国特許第4577636号明細書
【特許文献2】特表2002-533420号公報
【特許文献3】特表2003-525306号公報
【非特許文献1】サーキュレーション(Circulation), 109, 2890 (2004)
【非特許文献2】ポリメリック マテリアルズ サイエンス アンド エンジニアリング(Polymeric Materials Science and Engineering), 89, 148 (2003)
【非特許文献3】インオーガニカ キミカ アクタ(Inorganica Chimica Acta), 331, 151 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、病巣選択的な造影のためのリポソーム造影剤に適した化合物であって、特に溶解性及びリポソーム膜構成成分との相溶性に優れた化合物を提供することである。また、本発明の別の課題は、該化合物を含むMRI造影剤及びシンチグラフィー造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究を行った結果、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)構造を金属キレート部位として有するステロイド化合物が溶解性に富み、また、造影剤としてのリポソームの構成成分として優れた性質を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(I):
【化1】

[式中、Rは下記一般式(II):
【化2】

で表される構造を部分構造として含む炭化水素基を示し;Lは2価の連結基を示し(ただし、Lは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜15個であり、窒素原子は0〜6個であり、硫黄原子は0〜3個であり、及び水素原子を除くLの総原子数は1〜30個である);Chは3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す]で表される化合物又はその塩を提供するものである。
【0009】
上記発明の好ましい態様として、上記一般式(I)において、下記一般式(III):
【化3】

(式中、p1及びp2はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む上記化合物又はその塩が提供される。
【0010】
上記発明のより好ましい態様によれば、下記一般式(IV):
【化4】

(式中、p3及びp4はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0011】
上記発明のさらに好ましい態様によれば、Chが下記一般式(V):
【化5】

で表される基である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0012】
また上記発明の別の好ましい態様によれば、Chが下記一般式(VI):
【化6】

で表される基である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0013】
別の観点から、本発明の好ましい態様として、Rが下記一般式(VII):
【化7】

で表される構造を部分構造として含む炭化水素基である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0014】
上記発明のより好ましい態様によれば、Rが下記一般式(VIII)又は(IX):
【化8】

で表される炭化水素基である化合物又はその塩が提供される。
【0015】
本発明の別の好ましい態様によれば、Lが主鎖中に炭素数1〜20個のアルキレン基又はアルケニレン基を有する連結基である上記の化合物又はその塩;Lが主鎖中に−(OCH2CH2)n−、−(CH2CH2O)n−、−(OCH2CH2CH2)m−、又は−(CH2CH2CH2O)m−(nは1〜10の整数を示し;mは1〜7の整数を示す)で表される部分構造を有する連結基である上記の化合物又はその塩が提供される。
【0016】
本発明のさらに好ましい態様によれば、上記いずれかの化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩;金属イオンが原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49及び、57-83からなる群から選択される元素の金属イオンである該キレート化合物又はその塩;金属イオンが原子番号21-29、42、44及び、57-71からなる群から選択される常磁性元素の金属イオンである該キレート化合物又はその塩が提供される。
【0017】
別の観点からは、本発明により、上記の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソームが提供され、その好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む上記リポソームが提供される。
また、本発明により、上記のリポソームを含むMRI造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記MRI造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記MRI造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤が提供される。
【0018】
また、本発明により上記のリポソームを含むシンチグラフィー造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記シンチグラフィー造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記シンチグラフィー造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のシンチグラフィー造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のシンチグラフィー造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のシンチグラフィー造影剤が提供される。
【0019】
さらに、上記MRI造影剤又はシンチグラフィー造影剤の製造のための上記の化合物、上記キレート化合物、又はそれらのいずれかの塩の使用;MRI造影又はシンチグラフィー造影法であって、上記の化合物、上記キレート化合物、又はそれらのいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影又はシンチグラフィー造影する工程を含む方法;血管疾患の病巣の造影方法であって、上記の化合物、上記のキレート化合物、又はそれらのいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影又はシンチグラフィー造影する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の化合物、キレート化合物、及びこれらの塩は、MRI造影剤又はシンチグラフィー造影剤であるリポソームの構成脂質として有用である。本発明により提供される上記の物質は高い溶解性を有しており、リポソーム膜構成成分との相溶性にも優れるという特徴があり、これらの物質を含むリポソームを容易に調製することができる。これらの物質を含むリポソームを用いてMRI造影又はシンチグラフィー造影することにより血管の病巣を選択的に造影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本明細書において、ある官能基について「置換又は無置換」又は「置換基を有していてもよい」という場合には、その官能基が1又は2以上の置換基を有する場合があることを示しているが、特に言及しない場合には、結合する置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。ある官能基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。本明細書において、ある官能基が置換基を有する場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(本明細書において「ハロゲン原子」という場合にはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれでもよい)、アルキル基(本明細書において「アルキル基」という場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、環状アルキル基にはビシクロアルキル基などの多環性アルキル基を含む。アルキル部分を含む他の置換基のアルキル部分についても同様である)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が挙げられる。
【0022】
Chはその構造中に3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す。Chは直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる構造のいずれであってもよい。Chが示すキレート形成部としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸〔DTPA〕ユニット、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸〔DOTA〕ユニット、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸〔TETA〕ユニットなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0023】
Chについてより具体的に説明すると、例えば、下記一般式(III):
【化9】

で表される構造をChの部分構造として含む場合がより好ましい。
【0024】
上記一般式(III)で表される部分構造に任意の置換基が付与されてChが形成されるが、置換基の個数、種類、及び置換位置は特に規定されることはない。置換基が付与された後のChは直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる構造のいずれであってもよい。置換基の個数は通常20個以下であり、より好ましくは15個以下であり、10個以下であることが最も好ましい。一般式(III)で表される部分構造は二重結合を含んでいてもよい。例えば、上記一般式(III)で表される化学構造において、炭素−炭素の結合は単結合であっても二重結合であってもよい。二重結合を含む場合、二重結合の位置及び個数は特に規定されないが、通常10個以下であり、5個以下であることがより好ましい。一般式(I)中のLは上記一般式(III)で表される部分構造のいずれかの原子に直接結合する。上記一般式(III)においてp1及びp2はそれぞれ独立に1又は2の整数を示すが、ともに1である場合がより好ましい。
【0025】
また、Chが下記一般式(IV):
【化10】

で表される構造をChの部分構造として含むことがさらに好ましい。
【0026】
上記一般式(IV)で表される部分構造に任意の置換基が付与されてChが形成されるが、置換基の個数、種類、及び置換位置は特に規定されない。置換基が付与された後のChは直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる構造のいずれであってもよい。置換基の個数は通常20個以下であり、より好ましくは15個以下であり、10個以下であることが最も好ましい。一般式(IV)で表される部分構造は二重結合を含んでいてもよい。例えば、上記一般式(IV)で表される化学構造において、炭素−炭素、又は炭素−酸素間の結合は、単結合であっても二重結合であってもよい。二重結合を含む場合、二重結合の位置及び個数は特に規定されないが、通常10個以下であり、5個以下であることがより好ましい。一般式(I)中のLは上記一般式(IV)で表される部分構造のいずれかの原子に直接結合する。上記一般式(IV)においてp3及びp4はそれぞれ独立に1又は2の整数を示すが、ともに1である場合がより好ましい。
【0027】
最も好ましいChの形態としては、Chが下記一般式(V)又は(VI)で表される基である場合が挙げられる。この場合、下記一般式(V)又は(VI)で表される基は1又は2個以上の置換基を有していてもよいが、無置換であることが好ましい。また下記一般式(V)又は(VI)で表される構造中に不斉炭素が含まれているが、その立体配置はR配置又はS配置のいずれであってもよく、両者の混合物であってもよい。一般式(V)又は(VI)において、C1又はC2はそれぞれ一般式(I)中のLと直接結合する炭素原子を示す。
【化11】

【0028】
Rは下記一般式(II):
【化12】

で表される構造を部分構造として含む炭化水素基を示す。Rは飽和の基であっても不飽和結合を含んでいてもよい。不飽和結合を含む場合、その位置及び個数は特に規定されないが、通常5個以下であり、3個以下であることがより好ましい。また上記一般式(II)で表される部分構造に任意の置換基が付与されてRが形成されるが、置換基の個数、種類、及び置換位置は特に規定されない。置換基の個数は通常30個以下であり、より好ましくは15個以下であり、10個以下であることが最も好ましい。また、Rで表される基が不斉炭素を含む場合、その立体配置はR配置又はS配置のいずれであってもよく、両者の混合物であってもよい。不斉炭素が複数含まれる場合、それぞれの不斉炭素は独立にR配置又はS配置のいずれかの立体配置又は両者の混合物であってもよい。
【0029】
Rで表される炭化水素基の具体的な例として、例えば、コレステロール、コレスタノール、ラノステロール、エストランジオール、エルゴステロール、ジオスゲニン、スチグマステロール、又はシトステロールなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。また、Rで表される基のうち、上記一般式(II)中のC3と上記一般式(I)中のLが炭酸エステル結合を介して直接結合する場合が好ましい。
【0030】
また、Rが下記一般式(VIII)又は(IX) :
【化13】

で表される基である場合が最も好ましい。上記一般式(VIII)又は(IX)で表される基は任意の個数、種類、及び位置に置換基を有していてもよいが、無置換である場合がより好ましい。一般式(VIII)又は(IX)で表される基に含まれる各不斉炭素の立体配置は、それぞれ独立にR配置及びS配置のいずれであってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0031】
Lは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつ水素原子を除くLを構成する原子の総数は1〜30個である2価の連結基を表す。Lが酸素原子を含む場合、15個以下である場合が好ましく、12個以下である場合がより好ましく、10個以下である場合が最も好ましい。Lが窒素原子を含む場合、6個以下である場合が好ましく、3個以下である場合がより好ましく、1個以下である場合が最も好ましい。Lが硫黄原子を含む場合、3個以下である場合が好ましく、2個以下である場合がより好ましく、1個以下である場合が最も好ましい。また、Lは任意の個数の置換基を有していてもよいが、その場合においてもLは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する炭素原子、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数が30個を超えることはない。また、Lは直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなるいずれの構造であってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることが最も好ましい。また、Lは飽和の基であっても、不飽和結合を含む基であってもよい。Lが不飽和結合を含む連結基である場合、不飽和結合の種類、位置、個数は特に規定されない。
【0032】
Lで表される2価の連結基としてより好ましくは、主鎖中にアルキレン基又はアルケニレン基を含む場合が挙げられる。本明細書中においてLの「主鎖」とは一般式(I)におけるCh−で表される基と−O−CO−O−Rで表される基との間を最小個数で結ぶ原子群を意味する。該アルキレン基又はアルケニレン基の炭素数は、通常20個以下であり、好ましくは15個以下であり、最も好ましくは10個以下である。また該アルキレン基又はアルケニレン基は、飽和の基であっても、不飽和結合を含む基であってもよい。不飽和結合を含む基である場合、その種類、位置、個数は特に規定されない。また、該アルキレン基又はアルケニレン基は直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれであってもよいが、直鎖状、又は分岐鎖状が好ましく、直鎖状であることがより好ましい。また、該アルキレン基又はアルケニレン基は置換基を有していてもよい。
【0033】
別の観点からは、Lは主鎖中に−(OCH2CH2)n−、−(CH2CH2O)n−、−(OCH2CH2CH2)m−、又は−(CH2CH2CH2O)m−で表される部分構造を1又は2以上個有することが好ましく、−(OCH2CH2)n−、又は−(CH2CH2O)n−で表される部分構造を1又は2個以上有することがより好ましい。上記の式で表されるいずれかの部分構造を1個有することがさらに好ましい。上記部分構造の表記法において、Chはその左に結合し、−O−CO−O−Rで表される基は右側に適当な原子団又は基を介して、又は直接結合しているものとする。この場合の原子団又は基として、例えば−O−CO−O−、−N−CO−O−、−O−CO−、−N−CO−、−O−、−(CH2)n−などが挙げられるが、これらは一例であり、これらに限定されるものではない。なお、いずれの場合においても上記一般式(I)中に酸素原子同士が直接結合した−O−O−基は含まれない。通常、nは1〜10の整数を表すが、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜5の整数を表す。また通常、mは1〜7の整数を表すが、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4の整数を表す。
【0034】
以下に本発明の化合物の好ましい例を示すが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。
【化14】

【化15】

【化16】

【0035】
以下に、本発明の化合物の一般的な合成法について説明するが、本発明の化合物の合成法はこれらに限定されるものではない。本発明の化合物の部分構造であるステロイド化合物は、通常市販されているものを使用してもよく、あるいは用途に応じて適宜合成してもよい。合成により入手する場合には、例えばRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法により、対応するアルコールやアルキルハライド等を原料として用いることができる。
【0036】
上記のステロイド化合物に適宜必要な連結基を結合した後に、金属配位能を有するポリアミン誘導体などのキレート形成部と連結することにより本発明の化合物を製造することができる。必要な場合には保護基を用いることもできる。保護基としては、例えば、T. W. Green & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & sonc, inc.)に記載のものを適宜選択して用いることができる。キレート形成部であるポリアミン誘導体との連結は、例えば、Bioconjugate Chem., 10, 137 (1999)や Tetrahedron Lett., 37, 4685 (1996) 、J. Chem. Soc., Perkin Trans 2, 348 (2002) 、又は J. Heterocycl. Chem., 37, 387 (2000) に記載された方法に準じて行うことができる。もっとも、これらの方法は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明のキレート化合物は上述の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物である。金属イオンとしては、特に限定されないが、MRI、X線、超音波コントラスト、又はシンチグラフィーなどの造影又は放射線治療の目的に適切な金属イオンとして、常磁性金属、重金属、又は放射性金属同位体の放射性金属の金属イオンを用いることが好ましい。より具体的には、原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49、及び57-83からなる群から選択される元素の金属イオンが好ましい。MRI造影剤として本発明のキレート化合物を使用する場合に適切な金属イオンとしては、原子番号21-29、42、44、及び57-71からなる群から選択される元素の金属イオンが挙げられる。正のMRI剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号24(Cr)、25(Mn)、26(Fe)、63(Eu)、64(Gd)、66(Dy)、又は67(Ho)の各金属であり、原子番号25(Mn)、26(Fe)、又は64(Gd)の各金属がより好ましく、特にMn(I)、Fe(I)、又はGd(I)が好ましい。負のMRI剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号62(Sm)、65(Tb)、又は66(Dy)の各金属である。
【0038】
本発明の化合物又はキレート化号物は1以上の不斉中心を有する場合があるが、この場合、不斉中心に基づく光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する。純粋な形態の任意の立体異性体、任意の立体異性体の混合物、又はラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物はオレフィン性の二重結合を1個又は2個以上有する場合があるが、その配置はE又はZのいずれであってもよく、両者の混合物として存在していてもよい。本発明の化合物は互変異性体として存在する場合もあるが、任意の互変異性体、又はそれらの混合物は本発明の範囲に包含される。さらに、本発明の化合物は塩を形成する場合があり、遊離形態の化合物又は塩の形態の化合物が水和物又は溶媒和物を形成する場合もあるが、このような場合も本発明の範囲に包含される。塩の種類は特に限定されず、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよい。
【0039】
本発明のキレート化合物又はその塩はリポソームの膜構成成分として用いることができる。本発明のキレート化合物又はその塩を用いてリポソームを調製する場合、本発明の化合物又はその塩の使用量は、膜構成成分の全質量に対して10から90質量%程度、好ましくは10から80質量%、さらに好ましくは20から80質量%である。本発明のキレート化合物は膜構成成分として1種類を用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
リポソームの他の膜構成成分としては、リポソームの製造に通常用いられている脂質化合物をいずれも用いてもよい。例えば、Biochim. Biophys. Acta 150(4), 44 (1982)、Adv. In Lipid. Res. 16(1), 1 (1978)、RESEARCH IN LIPOSOMES (P. Machy, L. Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂)等に記載されている。脂質化合物としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチジルコリン(PC)類である。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC、ジミリストイルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
リポソームの膜構成成分として好ましい例としては、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)との組み合わせを挙げることができる。ホスファチジルセリンとしては、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを組み合わせて用いる場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
本発明のリポソームとして好ましい別の例としては、膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これらに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
【0041】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステル及び本発明の化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:本発明の化合物が5〜40質量%:5〜40質量%:1〜10質量%:15〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のリポソームの構成成分は上記4者に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴエミリン、FEBS Lett. 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0042】
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で製造してもよい。製造法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9, 467 (1980)、"Liposomes" (M. J. Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これらに限られるものではない。本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであってもよいが、通常は平均が400 nm以下であり、200 nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
【0043】
本発明のリポソームを造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。本発明のリポソームを造影剤として用いる場合、投与量はリポソーム中の化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
【0044】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化又はPTCA後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖を起こすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑筋細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)を起こすことが報告されている。
【0045】
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋に対して造影剤として作用する本発明のキレート化合物を選択的に取り込ませることができる。その結果、病巣と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患のMRI造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
【0046】
また、例えば J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990)に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームが、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って、本発明のリポソームを使用することにより、本発明の化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。本発明のリポソームを用いると、公知技術であるサスペンジョン又はオイルエマルジョンを用いる場合に比べて、より多くのキレート化合物をマクロファージに集積させることが可能である。
【0047】
マクロファージの局在化が認められ、本発明のリポソームで好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、又は腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、又は感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており〔Am. J. Pathol., 103, 181(1981)、Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)〕、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させてMRI造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
【0048】
本発明のリポソームを用いた造影方法は特に限定されない。例えば、通常のMRI造影剤を用いた造影方法と同様にして水のT1/T2緩和時間の変化を測定することにより造影を行うことができる。また、適宜、適切な金属イオンを選択することにより、シンチグラフィー造影剤、X線造影剤、光像形成剤、又は超音波コントラスト剤としても使用することも可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、下記の実施例中の化合物番号は上記に示した化合物例の番号に対応している。また、実施例中の化合物の構造はNMRスペクトル、及びマススペクトルにより確認した。
【0050】
製造例1:化合物1−2の調製
(1)カルボニルジイミダゾール 3.50gをテトラヒドロフラン(THF) 30 mlに溶解し、0℃でコレステロール6.96 gをTHF 30 mLに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、この溶液を50%水素化ナトリウム1.3 gと1,3-プロパンジオール1.95 mLをTHF 15 mLに溶かした溶液に加えた。1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液100 mLを加え、酢酸エチル200 mLで抽出した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、コレステロール誘導体アルコールを0.40 g(9%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.40(1H, d) 4.54-4.41 (1H, m) 4.29 (2H, t) 4.26-4.08 (1H, m) 3.74 (2H, t) 2.46-2.34 (3H, m) 2.05-0.80 (38H, m) 0.68 (3H,s)
【0051】
(2)上記アルコールをアセトン10 mLに溶解し、溶液の色がオレンジになるまでJones試薬を加えた。室温で4時間攪拌した後に、溶液の色が緑になるまでイソプロパノールを加え、水50 mLを加えた。酢酸エチル100 mLで抽出し、カラムクロマトグラフィーを行うことでコレステロール誘導体カルボン酸を0.15 g(68%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.40(1H, d) 4.54-4.34 (3H, m) 4.26-4.14 (3H, m) 2.80-0.80 (40H, m) 0.68 (3H,s)
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 525 (M+Na)
【0052】
(3)上記カルボン酸146 mgを非特許文献5(シンセティック コミュニケーションズ (SYNTHETIC COMMUNICATIONS), 26(13), 2511 (1996))に記載の方法で合成した1-(R)-ヒドロキシメチル-DTPAペンタ-t-ブチルエステル(DTPA:ジエチレントリアミン5酢酸)211 mgと、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC) 51mg、ピリジン0.05 mL存在下、ジクロロメタン3.0 mL中、室温で5時間攪拌した。反応終了後、除媒することで得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物1-2のtert-ブチルエステル体を103 mg(30%)得た。
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1189 (M+H)
【0053】
(4)上記化合物1-2のtert-ブチルエステル体103 mgを4規定の塩酸ジオキサン溶液2.0 mL中、室温で3時間半攪拌した。除媒した後に、塩化ガドリニウム27 mgとメタノール3.9 mLを加え、室温で攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加え、析出した白色固体をメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥することで1-2のガドリニウム錯体を16 mg(18%)で得た。
【0054】
製造例2:化合物1−3の調製
(1)カルボニルジイミダゾール 1.46 gをTHF 15mlに溶解し、0℃でコレステロール3.48 gをTHF 30 mLに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、この溶液を50%水素化ナトリウム65 mgと1,4-ブタンジオール2.43 gをTHF 45mLに溶かした溶液へと加えた。1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液100 mLを加え、酢酸エチル200 mLで抽出した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、コレステロール誘導体アルコールを1.1 g(24%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.39 (1H, d) 4.53-4.42 (1H, m) 4.26 (2H, t) 3.68 (2H, t) 2.48-2.30 (3H, m) 2.05-0.80 (42H, m) 0.68 (3H,s)
【0055】
(2)上記アルコールをアセトン10 mLに溶解し、溶液の色がオレンジになるまでJones試薬を加えた。室温で4時間攪拌した後に、溶液の色が緑になるまでイソプロパノールを加え、水50 mLを加えた。酢酸エチル100 mLで抽出し、カラムクロマトグラフィーを行うことでコレステロール誘導体カルボン酸を0.15 g(15%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.39 (1H, d) 4.55-4.40 (1H, m) 4.26 (2H, t) 2.70-0.80 (45H, m) 0.68 (3H, s)
【0056】
(3)上記カルボン酸400 mgを非特許文献5(シンセティック コミュニケーションズ (SYNTHETIC COMMUNICATIONS), 26(13),2511 (1996))に記載の方法で合成した1-(R)-ヒドロキシメチル-DTPAペンタ-t-ブチルエステル200 mgと、1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC) 82 mg、ジメチルアミノピリジン1.2 mg存在下、ジクロロメタン1.0 mL中、室温で5時間攪拌した。反応終了後、除媒することで得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物1-3のtert-ブチルエステル体を57 mg(17%)得た。
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1202 (M+H)
【0057】
(4)上記化合物1-3のtert-ブチルエステル体180 mgを4規定の塩酸ジオキサン溶液2.0 mL中、室温で3時間半攪拌した。除媒した後に、塩化ガドリニウム16 mgとメタノール2.0 mLを加え、室温で攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加え、析出した白色固体をメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥することで1-3のガドリニウム錯体を27 mg(54%)で得た。
【0058】
製造例3:化合物1−4の調製
(1)カルボニルジイミダゾール 3.50 gをTHF 30 mlに溶解し、0℃でコレステロール6.96 gをTHF 30 mLに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、この溶液を50%水素化ナトリウム1.3 gと1,5-ペンタンジオール2.85 mLをTHF 15 mLに溶かした溶液へと加えた。1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液100 mLを加え、酢酸エチル200 mLで抽出した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、コレステロール誘導体アルコールを0.30 g(6%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.38(1H, d) 4.54-4.41 (1H, m) 4.13 (2H, t) 4.07 (1H, t) 3.66 (2H, t) 2.56-2.36 (3H, m) 2.05-0.85 (45H, m) 0.68 (3H,s)
【0059】
(2)上記アルコール0.38 gをアセトン7.4 mLに溶解し、溶液の色がオレンジになるまでJones試薬を加えた。室温で4時間攪拌した後に、溶液の色が緑になるまでイソプロパノールを加え、水50 mLを加えた。酢酸エチル100 mLで抽出し、カラムクロマトグラフィーを行うことでコレステロール誘導体カルボン酸を82 mg(21%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.38(1H, d) 4.54-4.41 (1H, m) 4.15 (2H, t) 4.05 (2H, t) 2.56-2.36 (3H, m) 2.10-0.80 (42H, m) 0.68 (3H,s)
【0060】
(3)上記カルボン酸159 mgを非特許文献5(シンセティック コミュニケーションズ (SYNTHETIC COMMUNICATIONS), 26(13), 2511 (1996))に記載の方法で合成した1-(R)-ヒドロキシメチル−DTPAペンタ-t-ブチルエステル211 mgと、DMC 51 mg、ピリジン0.05 mL存在下、ジクロロメタン3.0 mL中、室温で5時間攪拌した。反応終了後、除媒することで得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物1-4のtert-ブチルエステル体を164 mg(45%)得た。
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1216 (M+H)
【0061】
(4)上記化合物1-4のtert-ブチルエステル体164 mgを4規定の塩酸ジオキサン溶液2.0 mL中、室温で3時間半攪拌した。除媒した後に、塩化ガドリニウム38 mgとメタノール5.4 mLを加え、室温で攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加え、析出した白色固体をメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥することで1-4のガドリニウム錯体を66 mg(55%)で得た。
【0062】
製造例4:化合物3−2の調製
(1)カルボニルジイミダゾール 1.46 gをTHF 15 mlに溶解し、0℃でコレステロール3.48 gをTHF 30 mLに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、この溶液を50%水素化ナトリウム54 mgとトリエチレングリコール3.6 mLをTHF 45 mLに溶かした溶液へと加えた。1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液100 mLを加え、酢酸エチル200 mLで抽出した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、コレステロール誘導体アルコールを1.3 g(25%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.39 (1H, d) 4.56-4.41 (1H, m) 4.28 (2H, t) 3.80-3.58 (10H, m) 2.50-2.30 (3H, m) 2.10-0.80 (37H, m) 0.68 (3H,s)
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 585 (M+Na)
【0063】
(2)上記アルコール0.80 gをアセトン7.1 mLに溶解し、溶液の色がオレンジになるまでJones試薬を加えた。室温で4時間攪拌した後に、溶液の色が緑になるまでイソプロパノールを加え、水50 mLを加えた。酢酸エチル100 mLで抽出し、カラムクロマトグラフィーを行うことでコレステロール誘導体カルボン酸を0.29 g(35%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.39 (1H, d) 4.56-4.41 (1H, m) 4.34-4.25 (2H, m) 3.85-3.60 (10H, m) 2.45-2.35 (3H, m) 2.10-0.80 (37H, m) 0.68 (3H,s)
【0064】
(3)上記カルボン酸107 mgを非特許文献5(シンセティック コミュニケーションズ (SYNTHETIC COMMUNICATIONS), 26(13), 2511 (1996))に記載の方法で合成した1-(R)-ヒドロキシメチル-DTPAペンタ-t-ブチルエステル127 mgと、DMC 35 mg、ピリジン0.3 mL存在下、ジクロロメタン1.0 mL中、室温で5時間攪拌した。反応終了後、除媒することで得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物3-2のtert-ブチルエステル体を124 mg(55%)得た。
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1263 (M+H)
【0065】
(4)上記化合物3-2のtert-ブチルエステル体124 mgを4規定の塩酸ジオキサン溶液3.0 mL中、室温で3時間半攪拌した。除媒した後に、塩化ガドリニウム56 mgとメタノール3.2 mLを加え、室温で攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加え、析出した白色固体をメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥することで3-2のガドリニウム錯体を54 mg(35%)で得た。
【0066】
製造例5:化合物3−3の調製
(1)カルボニルジイミダゾール 1.46 gをTHF 15 mlに溶解し、0℃でコレステロール3.48 gをTHF 30 mLに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、この溶液を50%水素化ナトリウム54 mgとテトラエチレングリコール4.7 mLをTHF 45 mLに溶かした溶液へと加えた。1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液100 mLを加え、酢酸エチル200 mLで抽出した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、コレステロール誘導体アルコールを4.4 g(81%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.40 (1H, d) 4.55-4.41 (1H, m) 4.28 (2H, t) 3.76-3.59 (14H, m) 2.45-2.15 (3H, m) 2.10-0.80 (37H, m) 0.69 (3H,s)
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 629 (M+Na)
【0067】
(2)上記アルコールをアセトン28 mLに溶解し、溶液の色がオレンジになるまでJones試薬を加えた。室温で4時間攪拌した後に、溶液の色が緑になるまでイソプロパノールを加え、更に水100 mLを加えた。酢酸エチル200 mLで抽出し、カラムクロマトグラフィーを行うことでコレステロール誘導体カルボン酸を2.2 g(62%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.40 (1H, d) 4.55-4.40 (1H, m) 4.28 (2H, t) 4.15(2H,s) 3.80-3.62 (12H, m) 2.80-0.80 (40H, m) 0.68 (3H,s)
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 643 (M+Na)
【0068】
(3)上記カルボン酸400 mgを非特許文献5(シンセティック コミュニケーションズ (SYNTHETIC COMMUNICATIONS), 26(13), 2511 (1996))に記載の方法で合成した1-(R)-ヒドロキシメチル-DTPAペンタ-t-ブチルエステル300 mgと、EDC 123 mg、ジメチルアミノピリジン0.8 mg存在下、ジクロロメタン2.2 mL中、室温で5時間攪拌した。反応終了後、除媒することで得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物3-3のtert-ブチルエステル体を180 mg(32%)得た。
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1329 (M+Na)
【0069】
(4)上記化合物3-3のtert-ブチルエステル体180 mgを4規定の塩酸ジオキサン溶液2.0 mL中、室温で3時間半攪拌した。除媒した後に、塩化ガドリニウム45 mgとメタノール3.0 mLを加え、室温で攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加え、析出した白色固体をメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥することで3-3のガドリニウム錯体を54 mg(35%)で得た。
【0070】
試験例1:溶解性試験
本発明の化合物のガドリニウム錯体、及び既知の比較化合物をそれぞれ1 mMになるように秤量し、それぞれの溶媒を1 mL加えて溶解性(室温25℃)を調べた。その結果、本発明の化合物のGd錯体は、比較化合物に比べて、特にクロロホルムに対する溶解性が向上しており、リポソーム製剤化するための優れた特性を有していることが明らかとなった。
【表1】

【0071】
【化17】

【0072】
試験例2:リポソーム形成試験
J. Med. Chem., 25(12), 1500 (1982) に記載の方法に従い、下記に示した割合のジパルミトイルPC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)、ジパルミトイルPS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)を、本発明の化合物とともにナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9%生理食塩水(光製薬社製、No512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下5分実施した後に、リポソーム調製器(セントラル科学社製)を用いて粒子径85から120 nmのリポソーム分散液を調製した。
【0073】
上記方法に従い、ジパルミトイルPC、ジパルミトイルPS、及び化合物1-4若しくは化合物3-2のGd錯体の混合比率を変えてリポソーム形成を行った結果、化合物1-4、化合物3-2いずれのGd錯体も比較化合物に比べてジパルミトイルPSの含量が高い時でも安定してリポソームの形成が確認され、リポソーム製剤化するための優れた特性を有していることが明らかになった。
【表2】

【0074】
試験例3:マウス3日間連続投与毒性試験
化合物1-2のGd錯体、化合物1-3のGd錯体、化合物1-4のGd錯体、化合物3-2のGd錯体、及び化合物3-3のGd錯体につきそれぞれ下記の手順で毒性試験を行った。
ICRマウス雄6週齢(日本チャールスリバー)を購入し、1週間の検疫期間の後、クリーン動物舎内(空調:へパフィルター クラス1000、室温:20〜24℃ 湿度:35〜60%)で1週間馴化した。その後、最大耐用量(Maximum tolerance dose: MTD)を求めるため、尾静脈よりマウス血清懸濁液を投与した。マウス血清懸濁液は、生理食塩水(光製薬社製)又はグルコース溶液(大塚製薬社製)のいずれかを溶媒として投与した。次に求められたMTD値をもとに、その1/2量の各錯体を3日間、尾静脈より3日間連続で投与した(n=3匹とする)。症状観察は各投与後6時間までとし、神経毒性を観察後、剖検を行ない、主要臓器について所見を取った。結果を下記に示す。本発明の化合物は低毒性であり、MRI造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

[式中、Rは下記一般式(II):
【化2】

で表される構造を部分構造として含む炭化水素基を示し;Lは2価の連結基を示し(ただし、Lは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する酸素原子は0〜15個であり、窒素原子は0〜6個であり、硫黄原子は0〜3個であり、及び水素原子を除くLの総原子数は1〜30個である);Chは3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す]で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
下記一般式(III):
【化3】

(式中、p1及びp2はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
下記一般式(IV):
【化4】

(式中、p3及びp4はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
Chが下記一般式(V):
【化5】

で表される基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
Chが下記一般式(VI):
【化6】

で表される基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
Rが下記一般式(VII):
【化7】

で表される構造を部分構造として含む炭化水素基である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
Rが下記一般式(VIII)又は(IX):
【化8】

で表される炭化水素基である請求項6に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
Lが主鎖中に炭素数1〜20個のアルキレン基又はアルケニレン基を有する連結基である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項9】
Lが主鎖中に−(OCH2CH2)n−、−(CH2CH2O)n−、−(OCH2CH2CH2)m−、又は−(CH2CH2CH2O)m−(nは1〜10の整数を示し;mは1〜7の整数を示す)で表される部分構造を有する連結基である請求項8に記載の化合物又はその塩。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩。
【請求項11】
金属イオンが原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49及び、57-83からなる群から選択される元素の金属イオンである請求項10に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項12】
金属イオンが原子番号21-29、42、44及び、57-71からなる群から選択される常磁性元素の金属イオンである請求項10に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれか1項に記載のキレート化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソーム。
【請求項14】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求項13に記載のリポソーム。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のリポソームを含むMRI造影剤。
【請求項16】
血管疾患の造影に用いるための請求項15に記載のMRI造影剤。
【請求項17】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項15に記載のMRI造影剤。
【請求項18】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項15に記載のMRI造影剤。
【請求項19】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項18に記載のMRI造影剤。
【請求項20】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項18に記載のMRI造影剤。
【請求項21】
請求項13又は14に記載のリポソームを含むシンチグラフィー造影剤。
【請求項22】
血管疾患の造影に用いるための請求項21に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項23】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項21に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項24】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項21に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項25】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項24に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項26】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項24に記載のシンチグラフィー造影剤。

【公開番号】特開2007−210973(P2007−210973A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34895(P2006−34895)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】