説明

多層プリント基板の製造方法、多層プリント基板及び塗布装置

【課題】 樹脂含浸シートにおけるピンホールや気泡の形成を抑制しうる多層プリント基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 キャリアフィルム(30)と重ね合わされて搬送されるガラスクロス(24)に溶液(32)を塗布して溶液層(32a)を形成する第1塗布工程と、前記溶液層に重ねて前記ガラスクロスに樹脂ペースト(22)を塗布し、前記ガラスクロスに前記樹脂ペーストが含浸された樹脂含浸シート(26)を形成する第2塗布工程と、前記樹脂含浸シートを乾燥する乾燥工程と、を有する多層プリント基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロスに樹脂を塗布して製造する多層プリント基板の製造方法、多層プリント基板及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等において、放熱基板または回路基板等として使用される多層プリント基板の製造方法としては、ガラスクロスに樹脂を塗布して乾燥させた樹脂含浸シートを作製した後、当該シートと、金属層とを積層する方法が知られている。また、ガラスクロスを樹脂槽に浸漬させた後、乾燥炉を通過させることによって樹脂含浸シートを作製する方法(特許文献1および特許文献2等参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−307568号公報
【特許文献2】特開平8−150683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術に係る多層プリント基板の製造方法では、樹脂含浸シートに孔(ピンホール)が形成されたり、樹脂含浸シート中に気泡が形成されるという問題が発生している。樹脂含浸シートに形成されたピンホールは、樹脂含浸シート表面の平滑性を低下させる。また、樹脂含浸シート中の気泡は、シートが加熱された際に弾けることによって、樹脂含浸シート表面の平滑性を低下させる場合がある。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、樹脂含浸シートにおけるピンホールや気泡の形成を抑制しうる多層プリント基板の製造方法、当該製造方法によって製造される多層プリント基板、及び当該製造方法に用いられる塗布装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る多層プリント基板の製造方法は、
キャリアフィルムと重ね合わされて搬送されるガラスクロスに溶液を塗布して溶液層を形成する第1塗布工程と、
前記溶液層に重ねて前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布し、前記ガラスクロスに前記樹脂ペーストが含浸された樹脂含浸シートを形成する第2塗布工程と、前記樹脂含浸シートを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る製造方法では、樹脂ペーストを塗布する前に、ガラスクロスに溶液を塗布して溶液層を形成し、溶液層に重ねて樹脂ペーストを塗布する。これにより、本発明に係る製造方法では、ガラスクロスに塗布された樹脂ペーストが、ガラスクロスの表面近傍において、溶液層の溶剤によって希釈されるなどして、ガラスクロスに含浸され易くなる。したがって、本発明に係る製造方法によれば、樹脂ペーストがガラスクロスに容易に浸透し、樹脂含浸シートに孔(ピンホール)が形成されたり、樹脂含浸シート中に気泡が形成されることを防止できる。本発明に係る製造方法によれば、樹脂含浸シート表面の平滑性を向上させることが可能であり、また、ピンホールや気泡の形成による不良率の上昇を抑制し、生産歩留まり向上に寄与する。
【0008】
また、例えば、前記第2塗布工程は、前記第1塗布工程が行われてから1分以内に行われてもよい。
【0009】
第2塗布工程を、第1塗布工程が行われてから1分以内に行うことにより、溶液層形成後から樹脂ペーストを塗布するまでの間に、溶液層に含まれる溶剤が減少若しくは消失してしまうことを防止することができる。したがって、このような製造方法は、ガラスクロス表面近傍において溶液層の溶剤と樹脂ペーストとをより効果的に作用させることができる。また、これにより、樹脂ペーストがガラスクロスに浸透されやすくなる作用を、より効果的に奏することができる。
【0010】
また、例えば、前記溶液の粘度は0.1Pa・s以下であってもよく、前記樹脂ペーストの粘度は、2.0〜5.0Pa・sであってもよい。
【0011】
本発明に係る樹脂ペーストの粘度は、特に限定されないが、2.0〜5.0Pa・sとすることが好ましい。粘度が2.0Pa・s以上の樹脂ペーストは、フィラーの沈降等に伴う溶質と溶剤の分離が抑制されるため、第2塗布工程に用いられる樹脂ペーストとして好適である。また、本発明による製造方法によれば、樹脂粘度が2.0Pa・s以上と高粘度であっても、樹脂含浸シート中に気泡等が形成されることを好適に防止することが可能であり、特に樹脂粘度が、5.0Pa・s以下の範囲では、樹脂含浸シート中に気泡等が形成されることをより好適に防止できる。また、溶液の粘度を0.1Pa・s以下とすることにより、樹脂ペーストがガラスクロスに浸透し易くなる作用を、より効果的に得られる。
【0012】
また、例えば、前記樹脂ペーストには、前記第1塗布工程において前記ガラスクロスに塗布された前記溶液と同じ溶剤成分が含まれても良い。
【0013】
前記樹脂ペーストが、前記第1塗布工程において塗布された溶液と同様の溶剤成分を含む構成とすることによって、溶液層に重ねて塗布された樹脂ペーストが、溶液層に含まれる溶剤によって好適に希釈される。したがって、このような製造方法によれば、樹脂ペーストがガラスクロスに浸透されやすくなる作用を、より効果的に奏することができる。
【0014】
本発明に係る塗布装置は、キャリアフィルムとガラスクロスとを、互いに重ね合わせて搬送する搬送部と、
前記キャリアフィルムと重ね合わされて搬送される前記ガラスクロスに溶液を塗布して溶液層を形成する第1塗布部と、
前記溶液層に重ねて前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布し、前記ガラスクロスに前記樹脂ペーストが含浸された樹脂含浸シートを形成する第2塗布部と、を有する。
【0015】
本発明に係る塗布装置は、樹脂ペーストを塗布する前に、ガラスクロスに溶液を塗布して溶液層を形成する第1塗布部を有する。そのため、第2塗布部で塗布される樹脂ペーストがガラスクロスに容易に浸透し、樹脂含浸シートに孔(ピンホール)が形成されたり、樹脂含浸シート中に気泡が形成されることを防止できる。
【0016】
また、本発明に係る塗布装置は、前記キャリアフィルム及び前記ガラスクロスを、前記第1塗布部を通過してから1分以内に、前記第2塗布部に搬送してもよい。このような塗布装置は、樹脂ペーストがガラスクロスに浸透されやすくなる作用を、より効果的に奏することができる。また、第1塗布部が塗布する溶液及び第2塗布部が塗布する樹脂ペーストを、上述の製造方法と同様の粘度又は成分としてもよく、これにより、上述の製造方法で説明した効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法を説明した概念図である。
【図2】図2は、図1に示すペースト塗布工程および乾燥工程を表すフローチャートである。
【図3】図3は、塗布装置、乾燥装置および巻き取り装置の概略図である。
【図4】図4は、図3に示す塗布装置の一部を拡大した拡大図である。
【図5】図5は、図4に示す塗布装置における樹脂塗布部を通過した後のガラスクロスを模式的に表す拡大断面図である。
【図6】図6は、参考例に係る樹脂含浸シートの顕微鏡写真のスケッチ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法を説明した概念図である。図1に示すように、多層プリント基板20は、樹脂ペースト準備工程S001−1、ペースト塗布工程S002、乾燥工程S003、切断工程S004、積層工程S005およびプレス工程S006等を経て製造される。
【0019】
樹脂ペースト準備工程S001−1では、ペースト塗布工程S002においてガラスクロス24に塗布する樹脂ペースト22を準備する。樹脂ペースト準備工程S001−1では、樹脂ペースト22の原材料となる樹脂、溶剤、フィラー等を配合した配合物を、攪拌機10で攪拌したのち、必要に応じてミル分散等を行うことによって、樹脂ペースト22を得る。樹脂ペースト22の原材料となる樹脂としては、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール系エポキシ樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。樹脂ペースト準備工程S001−1において配合される溶剤としては、例えばMEK、トルエン、テトラヒドフラン等が挙げられるが、特に限定されない。また、樹脂ペースト準備工程S001−1においては、配合される樹脂および溶剤に応じて、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素等のフィラーが配合される。樹脂ペースト準備工程S001−1で作製される樹脂ペースト22の粘度としては、特に限定されないが、例えば、室温において2.0〜5.0Pa・sとすることができる。
【0020】
溶液準備工程S001−2では樹脂ペースト22に、溶剤例えばMEK、トルエン、テトラヒドロフラン等を加えて、攪拌を行い0.1Pa・s以下に希釈して溶液を作製しても良く、また単に溶剤のMEK、トルエン、テトラヒドロフランを用いて溶液として使用しても良い。
【0021】
図1に示すペースト塗布工程S002では、塗布装置12を用いて、連続する帯状のガラスクロス24に対して、樹脂ペースト22を塗布する。ペースト塗布工程S002に用いられるガラスクロス24としては、特に限定されないが、例えば厚み25〜150μmのものを用いることができる。ペースト塗布工程S002については、後ほど詳述する。
【0022】
ガラスクロス24に樹脂ペースト22を塗布して形成した樹脂含浸シート26を、乾燥工程S003において乾燥した後、切断工程S004において切断する。樹脂含浸シート26の厚みは、特に限定されないが、例えばガラスクロス24として厚み35〜75μmのものを用いた場合、樹脂含浸シート26の厚みは100〜150μmとすることができる。乾燥工程S003で用いられる乾燥装置14としては、特に限定されないが、横型または縦型の乾燥炉を用いることができる。
【0023】
積層工程S005では、1または複数の樹脂含浸シート26と、導電性の金属材料によって構成される金属層28とを積層する。さらに、プレス工程S006では、積層工程S005で作製した積層体を、プレス装置18において加熱および加圧することによって、多層プリント基板20を得る。
【0024】
図2は、図1に示すペースト塗布工程S002および乾燥工程S003等の詳細工程を表すフローチャートである。また、図3は、図1に示すペースト塗布工程S002および乾燥工程S003が行われる塗布装置12および乾燥装置14と、これに付随する分離巻き取り装置19の概略図である。
【0025】
図3に示すように、塗布装置12、乾燥装置14および分離巻き取り装置19の内部では、連続する帯状のガラスクロス24およびキャリアフィルム30が、複数の回転ロールを用いて構成される搬送部によって搬送される。ガラスクロス24は、塗布装置12におけるガラスクロス繰り出し部40から送り出され、塗布装置12、乾燥装置14、分離巻き取り装置19の順に各装置の内部を通過し、ガラスクロス巻き取り部68で巻き取られる。また、キャリアフィルム30は、塗布装置12におけるキャリアフィルム繰り出し部42から送り出され、ガラスクロス24と同様に、各装置12,14,19の内部を通過したのち、キャリアフィルム巻き取り部70で巻き取られる。なお、ガラスクロス24は、塗布装置12において樹脂ペースト22を含浸されるため、乾燥炉から出てきた際には樹脂含浸シート26(図5参照)となっている。
【0026】
本実施形態に用いられるキャリアフィルム30の材質は、特に限定されないが、例えばPETフィルムのような樹脂製のシートを、キャリアフィルム30として用いることができる。また、キャリアフィルム30におけるガラスクロス24と対向する対向面30a(図5参照)には、ガラスクロス24とキャリアフィルム30の分離を容易にするために、離型剤層が設けられていても良い。
【0027】
キャリアフィルム30及びガラスクロス24は、所定の張力を加えられながら、塗布装置12における第1塗布部46及び第2塗布部58や、乾燥装置14の内部を搬送される。キャリアフィルム30及びガラスクロス24に加えられる張力は、キャリアフィルム繰り出し部42及びガラスクロス繰り出し部40の回転負荷や、ニップロール66等の圧力や、キャリアフィルム巻き取り部70及びガラスクロス巻き取り部68の巻き取り速度等によって調整される。
【0028】
キャリアフィルム30及びガラスクロス24に加えられる張力は、搬送されるガラスクロス24に過度な緩みが発生することなく、また、ガラスクロス24に皺等が発生しないように調整される。例えば、キャリアフィルム30及びガラスクロス24に加えられる張力は、キャリアフィルム30及びガラスクロス24の幅方向における単位長さ当たりの張力で考えて、0.3〜1.5N/cm程度とすることができるが、特に限定されない。
【0029】
搬送中において、キャリアフィルム30に加えられる張力と、ガラスクロス24に加えられる張力は、同じであっても良いが、ガラスクロス24には、キャリアフィルム30より大きな張力が加えられても良い。これにより、後述の樹脂塗布工程S103において、樹脂ペースト22がガラスクロス24に対してしみ込み易くなる。この場合、ガラスクロス24に皺等を生じさせずに、樹脂ペースト22の浸透性を向上させる効果を得るために、ガラスクロス24に加えられる張力は、キャリアフィルム30に加えられる張力の1.2〜1.5倍であることが好ましい。
【0030】
図2に示すように、図3に示す塗布装置12においては、まず、重ね合わせ工程S101(ステップS101)が行われる。重ね合わせ工程(ステップS101)では、図3に示すように、ガラスクロス繰り出し部40から送り出されたガラスクロス24と、キャリアフィルム繰り出し部42から送り出されたキャリアフィルム30が、重ね合わせロール44において重ね合わせられる。
【0031】
重ね合わせロール44において重ね合わせられたキャリアフィルム30及びガラスクロス24は、次に、塗布装置12における第1塗布部46に搬送される。図4は、図3において点線で囲まれる部分を拡大した拡大図である。図4に示すように、塗布装置12における第1塗布部46は、塗布溶液32で満たされる第1インキパン48と、第1インキパン48の塗布溶液32をガラスクロス24に塗布するための溶液塗布ロール50とを有する。
【0032】
第1塗布部46では、図2においてステップS102で示される第1塗布工程が実施される。第1塗布工程S102では、キャリアフィルム30と重ね合わせて搬送されるガラスクロス24に塗布溶液32を塗布して、溶液層32aを形成する。図4に示す溶液塗布ロール50は、ガラスクロス24の搬送方向とは逆向き(図4では時計回り)に回転し、いわゆるリバースグラビア方式によって、第1インキパン48の塗布溶液32を、ガラスクロス24に塗布する。
【0033】
第1塗布部46において、塗布溶液32は、ガラスクロス24におけるキャリアフィルム30に対向する面とは反対側の面である第1面24aに塗布される。これにより、少なくともガラスクロス24の第1面24aの近傍に、塗布溶液32からなる溶液層32aが形成される。なお、第1塗布部46において塗布された塗布溶液32は、ガラスクロス24の内部まで浸透しても良い。例えば、溶液層32aは、ガラスクロス24の第1面24aの近傍だけでなく、ガラスクロス24におけるキャリアフィルム30に対向する面である第2面24b(図5参照)近傍まで形成されても良い。
【0034】
溶液層32aが形成されたガラスクロス24及びキャリアフィルム30は、次に、塗布装置12における第2塗布部58に搬送される。第2塗布部58は、第2インキパン60と、バックアップロール52に隣接して配置されるコンマロール62とを有する。コンマロール62は、切り欠き部62aを有している。コンマロール62とバックアップロール52の間の間隙は、ガラスクロス24に対する樹脂ペースト22の塗布量を考慮して決定されている。第2インキパン60は、樹脂ペースト準備工程S001−1で製造された樹脂ペースト22で満たされている。樹脂ペースト22は、不図示の搬送ポンプ等により、第2インキパン60に供給される。
【0035】
第2塗布部58では、図2においてステップS103で示される第2塗布工程が実施される。図4に示すように、第2塗布工程S103では、溶液層32aに重ねて、ガラスクロス24に樹脂ペースト22を塗布する。
【0036】
第2塗布部58に搬送されたガラスクロス24は、キャリアフィルム30と共にバックアップロール52に押し付けられた状態で、樹脂ペースト22で満たされた第2インキパン60の中を通過する。さらに、ガラスクロス24は、コンマロール62とバックアップロール52の間を通過する際に、第1面24a側から樹脂ペースト22を押し付けられるとともに、樹脂ペースト22の塗布量を調整される。
【0037】
このように、第2塗布部58では、ガラスクロス24は、第2インキパン60の中を通過する際、およびコンマロール62とバックアップロール52の間を通過する際に、第1面24aから、樹脂ペースト22を塗布される。これにより、樹脂塗布工程S103では、ガラスクロス24に樹脂ペースト22が含浸された樹脂含浸シート26が形成される。
【0038】
図5は、図4において点線Vで囲まれる部分を拡大した図であり、第2塗布工程S103によって形成された樹脂含浸シート26を表す拡大図である。樹脂塗布部58において第1面24aから塗布された樹脂ペースト22は、ガラスクロス24の間隙24cを埋めて第2面24bまで浸透し、ガラスクロス24に含浸される。
【0039】
本実施形態に係る第1塗布工程S102及び第2塗布工程S103によって形成された樹脂含浸シート26は、ピンホールや気泡が少ない。なぜなら、第2塗布工程S103において、樹脂ペースト22は、第1塗布工程S102で形成された溶液層32aに重ねて塗布されるため、ガラスクロス24に含浸され易いからである。なお、このメカニズムには、樹脂ペースト22が溶液層32aを構成する塗布溶液32によって希釈される作用や、樹脂ペースト22中の溶質が溶液層32aを構成する塗布溶液32へ移動する作用等が関係していると考えられる。
【0040】
本実施形態において、第1塗布工程S102を終えてから第2塗布工程S103を開始するまでの時間は短い方が好ましく、第2塗布工程S103は第1塗布工程S102が行われてから1分以内に行われることが好ましい。第1塗布工程S102を終えてから第2塗布工程S103を開始するまでの時間が長い場合、溶液層32aを構成する塗布溶液32が揮発等により減少もしくは消失し、樹脂ペースト22の含浸を促す効果が弱くなるためである。
【0041】
なお、第1塗布工程S102と第2塗布工程S103とは同時に(塗布装置12におけるほぼ同位置において)行われても良い。また、第1塗布工程S102で塗布される樹脂ペースト22には、溶液層32aを構成する塗布溶液32と同じ溶剤成分が含まれていても良い。例えば、塗布溶液32の主体がMEKであれば、樹脂ペースト22にもMEKが含まれる構成としても良い。このような構成とすることにより、溶液層32aに重ねて塗布された樹脂ペースト22が、溶液層32aを構成する塗布溶液32によって好適に希釈される。
【0042】
図3に示すように、第2塗布部58において形成された樹脂含浸シート26は、次に、乾燥装置14に搬送される。乾燥装置14では、図2においてステップS003で示す乾燥工程が行われる。乾燥工程S003において、樹脂含浸シート26は、乾燥炉内をキャリアフィルム30とともに搬送される。乾燥工程S003における乾燥条件は、特に限定されないが、例えば50℃〜150℃、10〜30分とすることができる。
【0043】
図3に示すように、乾燥装置14において乾燥された樹脂含浸シート26は、分離巻き取り装置19に搬送される。分離巻き取り装置19では、図2においてステップS104で示す分離巻き取り工程が行われる。分離巻き取り工程S104において、樹脂含浸シート26は、ニップロール66を備える分離部64に搬送され、分離部64において、キャリアフィルム30と分離される。
【0044】
分離巻き取り工程S104において、樹脂含浸シート26は、キャリアフィルム30と分離されたのち、ガラスクロス巻き取り部68で巻き取られる。また、樹脂含浸シート26と分離されたキャリアフィルム30は、キャリアフィルム巻き取り部70で巻き取られる。
【0045】
さらに、樹脂含浸シート26は、図1に示すような切断装置16によって切断される。切断された樹脂含浸シート26から多層プリント基板20を得る工程は、先述した通りである。
【0046】
なお、図2および図3に示すように、ペースト塗布工程S002及び乾燥工程S003で形成された樹脂含浸シート26は、分離巻き取り工程S104において一度巻き取られた後に切断されても良いが、乾燥工程S003の直後に切断されてもよい。このような製造方法を行う場合は、図3における分離巻き取り装置19に代えて、切断装置16(図1)を乾燥装置14の後に配置する。
【0047】
本実施形態に係る製造方法では、樹脂ペースト22は、第1塗布工程S102で形成された溶液層32aに重ねて塗布されるため、ガラスクロス24に含浸され易い。したがって、本実施形態に係る製造方法は、樹脂含浸シート26にピンホールや気泡が形成される現象を、効果的に抑制することが可能である。
【0048】
なお、上述の実施形態で使用される樹脂ペースト22の粘度は、0.5〜5.0Pa・sとすることが好ましく、2.0〜3.0Pa・sとすることがさらに好ましい。粘度が所定値以上の樹脂ペースト22は、フィラーの沈降等による分離が抑制されるため、第2塗布工程S103に用いられる樹脂ペースト22として好適である。また、本実施形態に係る製造方法によれば、樹脂ペースト22の粘度を所定値以下とすることによって、樹脂含浸シート26中に気泡等が形成されることをより効果的に防止することが可能である。
【0049】
上述の実施形態は、本発明の一実施形態にすぎず、様々な改変が可能である。例えば、上述の実施形態において、第1塗布工程S102はリバースグラビア方式であり、第2塗布工程S103はコンマロール方式であるが、第1塗布工程S102及び第2塗布工程S103における具体的な塗布方法は、これに限定されるものではなく、他の塗布方法であっても良い。
【0050】
実施例
以下にさらに詳細な実施例に基づき説明を行うが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
試料1
試料1として、図3等に示す塗布装置12及び乾燥装置14を用いて、樹脂含浸シート26を作製した。すなわち、試料1は、ガラスクロス24に塗布溶液32として、溶剤MEKを塗布して溶液層32aを形成した後(第1塗布工程S102)、溶液層32aに重ねて樹脂ペースト22を塗布し(第2塗布工程S103)、その後乾燥する(乾燥工程S003)ことによって作製した。
【0052】
試料1に用いた樹脂ペースト22は、樹脂としてノボラック型エポキシ樹脂を100重量部、溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を450重量部、フィラーとしてシリカを1000重量部加えた配合物を、攪拌およびミル分散することによって得た。試料1に用いた樹脂ペースト22の粘度は、E型粘度計によって測定したところ、室温(20℃)において1.188Pa・sであった。
【0053】
試料1は、ガラスクロス24として厚み50μmのガラスクロスと、キャリアフィルム30として厚み75μmのPETフィルムを用いて作製した。搬送時において、ガラスクロス24とキャリアフィルム30には、略同等の張力を加えた。乾燥工程S003(図2参照)における乾燥条件は、100℃、15分とした。
【0054】
また、上述の条件で得られた試料1を、顕微鏡下(20〜50倍)で観察し、樹脂含浸シート26の単位面積(1cm)当たりに観察される気泡の数を計測した。図6は、参考例に係る樹脂含浸シート126の顕微鏡写真のスケッチ図である。図6において丸印128で示す位置に、気泡の影が見える。試料1について、図6に示すような気泡の影を、樹脂含浸シート26の両面から観察した。試料1の評価条件及び評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
試料2,試料3
試料2及び試料3は、作製に用いる樹脂ペースト22の配合を変更した他は、試料1と同様にして作製した。試料2に用いた樹脂ペースト22の配合は、ノボラック型エポキシ樹脂を100重量部、MEK(メチルエチルケトン)を350重量部、シリカを1000重量部とした。また、試料3に用いた樹脂ペースト22の配合は、ノボラック型エポキシ樹脂を100重量部、MEK(メチルエチルケトン)を300重量部、シリカを1000重量部とした。
【0057】
試料2及び試料3に用いた樹脂ペースト22の粘度は、E型粘度計によって測定したところ、室温(20℃)においてそれぞれ2.010Pa・s及び3.083Pa・sであった。試料2及び試料3に係る樹脂含浸シート26についても、試料1と同様に、単位面積(1cm)当たりに観察される気泡の数を計測した。試料2及び試料3の評価条件及び評価結果を表1に示す。
【0058】
試料4〜試料6
試料4〜試料6は、図3等に示す塗布装置12から第1塗布部46を除いた塗布装置を用いた他は、試料1〜試料3と同様にして作製した。すなわち、試料4〜試料6は、第1塗布工程S102を行わず、第2塗布部58において、溶液層32aが形成されていないガラスクロス24に対して、樹脂ペースト22を塗布し、その後乾燥することによって作製した。
【0059】
試料4〜試料6は、それぞれ試料1〜試料3に用いた樹脂ペースト22と同様の樹脂ペースト22を用いて作製した(表1参照)。また、試料4〜試料6に係る樹脂含浸シートについても、試料1〜試料3と同様に、単位面積(1cm)当たりに観察される気泡の数を計測した。試料4〜試料6の評価条件及び評価結果を表1に示す。
【0060】
試料1〜試料6の総合評価
表1に示すように、試料1〜試料3に係る樹脂含浸シート26の評価では、気泡は発見されなかった。試料1〜試料3に係る樹脂含浸シート26は、樹脂ペースト22を溶液層32aに重ねて塗布して作製されたため、樹脂含浸シート26にピンホールや気泡が形成される現象が抑制されたものと考えられる。これに対して、試料4〜試料6に係る樹脂含浸シートの評価では、樹脂含浸シート中に気泡が発見された。特に、樹脂ペースト22の粘度が高い試料5及び試料6では、樹脂ペースト22がガラスクロス24に含浸され難かったため、樹脂含浸シート26に多くの気泡が形成されたものと考えられる。
【0061】
このように、試料1〜試料6の評価結果から、ガラスクロス24に塗布溶液32を塗布して溶液層32aを形成した後に、溶液層32aに重ねて樹脂ペースト22を塗布することによって、樹脂含浸シート26に気泡が形成される現象を効果的に抑制できることが確認された。また、このような効果は、樹脂ペースト22の粘度が高い時に特に顕著であり、樹脂ペースト22を溶液層32aに重ねて塗布する製造方法は、樹脂ペースト22が2.0〜3.0Pa・sの場合に特に顕著な効果を奏することが確認された。
【0062】
試料7〜試料10
試料7〜試料10は、ガラスクロス24に塗布溶液32としてMEKを塗布した後、それと同じ場所に樹脂ペースト22を塗布するまでの時間間隔を変更した以外は、試料2と同様にして作製した。すなわち、試料7〜試料10は、いずれもガラスクロス24に塗布溶液32を塗布して溶液層32aを形成した後(第1塗布工程S102)、溶液層32aに重ねて樹脂ペースト22を塗布し(第2塗布工程S103)、その後乾燥する(乾燥工程S003)ことによって作製した(図2及び図3参照)。
【0063】
ただし、試料7〜試料10は、ガラスクロス24に塗布溶液32を塗布してから樹脂ペースト22を塗布するまでの時間を、それぞれ0.5分、1.0分、1.5分、2.0分とした。なお、ガラスクロス24に塗布溶液32を塗布してから樹脂ペースト22を塗布するまでの時間は、図4に示す塗布装置12の塗布スピードによって調整した。
【0064】
また、試料7〜試料10を顕微鏡下(20〜50倍)で観察し、樹脂含浸シート26の単位面積(1cm)当たりに観察されるピンポールの数と気泡の数を計測した。試料7〜試料10の作製条件および評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
試料7〜試料10の総合評価
表2に示すように、ガラスクロス24に塗布溶液32を塗布してから樹脂ペースト22を塗布するまでの時間が1分以内である試料7及び試料8では、気泡及びピンホールは発見されなかった。試料7及び試料8に係る樹脂含浸シート26は、樹脂ペースト22と溶液層32aを構成する塗布溶液32とが好適に接触・作用し、樹脂含浸シート26にピンホールや気泡が形成される現象を効果的に抑制できたと考えられる。
【0067】
これに対して、ガラスクロス24に塗布溶液32を塗布してから樹脂ペースト22を塗布するまでの時間が1.5分以上である試料9及び試料10では気泡及びピンホールが発見された。また、ガラスクロス24に塗布溶液32を塗布してから樹脂ペースト22を塗布するまでの時間が長くなるほど、樹脂含浸シート26に多くのピンホールや気泡が形成されていた。試料9及び試料10では、第1塗布工程S102を終えてから第2塗布工程S103を開始するまでの時間が長いため、溶液層32aを構成する塗布溶液32が揮発等により減少もしくは消失し、樹脂ペースト22の含浸を促す効果が弱くなったものと考えられる。
【0068】
試料11〜試料12
試料11〜試料12は、ガラスクロス24に塗布する溶液32が試料2とは異なり、樹脂ペースト22をその粘度が0.1Pa・s又は0.15Pa・sに近づくように溶剤MEKを使用して攪拌を行いながら希釈して、塗布溶液32を作製した。また、試料11〜試料12はいずれもガラスクロス24に塗布溶液32を塗布し(第1塗布工程S102)、さらに溶液層32aに重ねて樹脂ペースト22を塗布し(第2塗布工程S103)、その後乾燥する(乾燥工程S003)ことによって作製した(図2及び図3参照)。試料2、試料11及び試料12の作製条件および評価結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
試料11〜試料12の総合評価
表3に示すように、第1塗布工程でMEKを塗布した試料2、及び第1塗布工程の溶液粘度が0.095Pa・sである試料11では、いずれも気泡はなかったが、第1塗布工程の溶液粘度が0.152Pa・sである試料12では、試料2や試料11と比較して多くの気泡が形成された。試料12では、第1塗布工程の溶液粘度が高いために、樹脂ペースト22の含浸を促す効果が弱くなったものと考えられる。
【符号の説明】
【0071】
12… 塗布装置
14… 乾燥装置
19… 分離巻き取り装置
20… 多層プリント基板
22… 樹脂ペースト
24… ガラスクロス
24a… 第1面
24b… 第2面
24c… 間隙
26… 樹脂含浸シート
28… 金属層
30… キャリアフィルム
30a… 対向面
32… 塗布溶液
32a… 溶液層
40… ガラスクロス繰り出し部
42… キャリアフィルム繰り出し部
44… 重ね合わせロール
46… 第1塗布部
48,60… インキパン
50… 溶液塗布ロール
52… バックアップロール
58… 第2塗布部
62… コンマロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアフィルムと重ね合わされて搬送されるガラスクロスに溶液を塗布して溶液層を形成する第1塗布工程と、
前記溶液層に重ねて前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布し、前記ガラスクロスに前記樹脂ペーストが含浸された樹脂含浸シートを形成する第2塗布工程と、
前記樹脂含浸シートを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする多層プリント基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2塗布工程は、前記第1塗布工程が行われてから1分以内に行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶液の粘度は0.1Pa・s以下で、前記樹脂ペーストの粘度は、2.0〜5.0Pa・sであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂ペーストには、前記第1塗布工程において前記ガラスクロスに塗布された前記溶液と同じ溶剤成分が含まれることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の多層プリント基板の製造方法によって製造された多層プリント基板。
【請求項6】
キャリアフィルムとガラスクロスとを、互いに重ね合わせて搬送する搬送部と、
前記キャリアフィルムと重ね合わされて搬送される前記ガラスクロスに溶液を塗布して溶液層を形成する第1塗布部と、
前記溶液層に重ねて前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布し、前記ガラスクロスに前記樹脂ペーストが含浸された樹脂含浸シートを形成する第2塗布部と、を有する塗布装置。
【請求項7】
前記搬送部は、前記キャリアフィルム及び前記ガラスクロスを、前記第1塗布部を通過してから1分以内に、前記第2塗布部に搬送することを特徴とする請求項6に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記第1塗布部が塗布する前記溶液の粘度は、0.1Pa・s以下であり、前記第2塗布部が塗布する前記樹脂ペーストの粘度は2.0〜5.0Pa・sであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記第2塗布部が塗布する前記樹脂ペーストには、前記第1塗布部が塗布する前記溶液と同様の溶液成分が含まれることを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれかに記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−174772(P2012−174772A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33199(P2011−33199)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】