説明

多層プリント配線板

【課題】誘電率や誘電正接が小さく、高周波信号を用いた場合にも、信号遅延や信号エラーが発生しにくく、また、機械的特性にも優れるために導体回路同士の接続の信頼性が高い層間樹脂絶縁層を有する多層プリント配線板を提供すること。
【解決手段】基板上に形成される下層導体回路と、上記基板と上記下層導体回路上に形成される下層の層間樹脂絶縁層と、上記下層の層間樹脂絶縁層上に形成される上層導体回路と、上記下層の層間樹脂絶縁層と上記上層導体回路上に形成される上層の層間樹脂絶縁層とからなり、これらの導体回路がバイアホールを介して接続されてなる多層プリント配線板において、上記上層導体回路は、セミアディティブ法により形成され、上記上層の層間樹脂絶縁層及び上記下層の層間樹脂絶縁層は、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂からなることを特徴とする多層プリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率が低く、剛性等の機械的特性に優れるシクロオレフィン系樹脂からなる層間樹脂絶縁層を有する多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる多層ビルドアップ配線基板と呼ばれる多層プリント配線板は、セミアディティブ法等により製造されており、コアと呼ばれる0.6〜1.5mm程度のガラスクロス等で補強された樹脂基板の上に、銅等による導体回路と層間樹脂絶縁層とを交互に積層することにより作製される。この多層プリント配線板の層間樹脂絶縁層を介した導体回路間の接続は、バイアホールにより行われている。
【0003】
従来、ビルドアップ多層プリント配線板は、例えば、特許文献1等に開示された方法により製造されている。
すなわち、まず、銅箔が貼り付けられた銅貼積層板に貫通孔を形成し、続いて無電解銅めっき処理を施すことによりスルーホールを形成する。続いて、基板の表面を導体パターン状にエッチング処理して導体回路を形成し、この導体回路の表面に無電解めっきやエッチング等により粗化面を形成し、その粗化面を有する導体回路上に層間樹脂絶縁層を形成した後、露光、現像処理を行うか、レーザ処理によりバイアホール用開口を形成し、その後、UV硬化、本硬化を経て層間樹脂絶縁層を形成する。
【0004】
さらに、層間樹脂絶縁層に粗化形成処理を施した後、形成された粗化面に薄い無電解めっき膜を形成し、この無電解めっき膜上にめっきレジストを形成した後、電解めっきにより厚付けを行い、めっきレジスト剥離後にエッチングを行って、下層の導体回路とバイアホールにより接続された導体回路を形成する。
【0005】
これを繰り返した後、最外層として導体回路を保護するためのソルダーレジスト層を形成し、ソルダーレジスト層に開口を形成し、開口部分の導体層にめっき等を施してパッドとした後、半田バンプを形成することにより、ビルドアップ多層プリント配線板を製造する。
【0006】
しかしながら、このようにして製造した多層プリント配線板では、層間樹脂絶縁層にエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の混合物を使用しているため誘電率がGHz領域において、3.5以上と高い。
そのため、GHz帯域の高周波数信号を用いたLSIチップ等を搭載すると、層間樹脂絶縁層が高誘電率であることに起因して、信号遅延や信号エラーが発生しやすくなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−130050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、このような問題を解決するために、線状のポリオレフィン系樹脂を層間樹脂絶縁層として用いたプリント配線板が提案されている。このプリント配線板では、層間樹脂絶縁層の誘電率は低下するものの、層間樹脂絶縁層自体が柔らかすぎるため、形成された導体回路が層間樹脂絶縁層中に沈みやすく、その結果、導体回路同士の接続に問題が発生しやすく、プリント配線板の信頼性が低いという問題があった。
【0009】
また、上記線状ポリオレフィン樹脂を用いて層間樹脂絶縁層を形成する際には、樹脂シートを導体回路上に圧着、ラミネートすることにより層間樹脂絶縁層を形成していたが、フィルムが柔らすぎるため、その取扱いが難しいという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、誘電率や誘電正接が小さく、GHz帯域の高周波信号を用いた場合にも信号遅延や信号エラーが発生しにくく、また、剛性等の機械的特性にも優れるため、導体回路同士の接続の信頼性が高い層間樹脂絶縁層を有する多層プリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意研究した結果、シクロオレフィン系樹脂、なかでも、熱硬化性のシクロオレフィン系樹脂を層間樹脂絶縁層に用いることにより、上記した低誘電率、低誘電正接等の電気的特性や剛性等の機械的特性についても、その要求特性を充分に満足する層間樹脂絶縁層を形成することができることを見いだし、以下に示す内容を要旨構成とする本発明に想到した。
【0012】
即ち、本発明の多層プリント配線板は、基板上に形成される下層導体回路と、
上記基板と上記下層導体回路上に形成される下層の層間樹脂絶縁層と、
上記下層の層間樹脂絶縁層上に形成される上層導体回路と、
上記下層の層間樹脂絶縁層と上記上層導体回路上に形成される上層の層間樹脂絶縁層とからなり、
これらの導体回路がバイアホールを介して接続されてなる多層プリント配線板において、
上記上層の層間樹脂絶縁層及び上記下層の層間樹脂絶縁層は、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂からなることを特徴とする。
【0013】
上記多層プリント配線板において、上記樹脂絶縁層は、上記上層の層間樹脂絶縁層及び上記下層の層間樹脂絶縁層は、上記下層導体回路及び上記上層導体回路上に、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂からなるフィルムを真空圧着ラミネートすることにより形成されていることが望ましい。
【0014】
上記多層プリント配線板において、上記バイアホールは、フィルドビア構造を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多層プリント配線板は、層間樹脂絶縁層として、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂を使用しているので、誘電率や誘電正接が小さく、そのためにGHz帯域の高周波信号を用いた場合にも、信号遅延や信号エラーが発生しにくく、また、剛性等の機械的特性に優れるため、導体回路同士の接続の信頼性が高く、導体回路と層間樹脂絶縁層をとの密着性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の多層プリント配線板の製造工程の一部を示す縦断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明の多層プリント配線板の製造工程の一部を示す縦断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明の多層プリント配線板の製造工程の一部を示す縦断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の多層プリント配線板の製造工程の一部を示す縦断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の多層プリント配線板の製造工程の一部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の多層プリント配線板は、基板上に形成される下層導体回路と、
上記基板と上記下層導体回路上に形成される下層の層間樹脂絶縁層と、
上記下層の層間樹脂絶縁層上に形成される上層導体回路と、
上記下層の層間樹脂絶縁層と上記上層導体回路上に形成される上層の層間樹脂絶縁層とからなり、
これらの導体回路がバイアホールを介して接続されてなる多層プリント配線板において、
上記上層の層間樹脂絶縁層及び上記下層の層間樹脂絶縁層は、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂からなることを特徴とする。
【0018】
このような本発明の多層プリント配線板によれば、上記層間樹脂絶縁層がシクロオレフィン系樹脂により構成されているので、エポキシ樹脂等からなる層間樹脂絶縁層と比べて誘電率や誘電正接が大きく低下し、信号伝搬の遅延や信号の電送損失等に起因する信号エラーを防止することができる。
【0019】
また、上記シクロオレフィン系樹脂は、機械的特性、特に剛性が高いため、しっかりとした層間樹脂絶縁層の上に導体回路を形成することができ、そのため、導体回路同士の接続信頼性を充分に確保することができる。
【0020】
また、上記シクロオレフィン系樹脂は、導体回路との密着性にも優れるため、層間樹脂絶縁層が導体回路から剥離するのを防止することができ、剥離に起因する層間樹脂絶縁層のクラックの発生等も防止することができる。
さらに、上記シクロオレフィン系樹脂は、吸水率も小さいため、導体回路間の電気絶縁性が高くなり、信頼性も向上する。
【0021】
上記シクロオレフィン系樹脂の種類は特に限定されるものではないが、1GHzにおける誘電率は、3.0以下であり、誘電正接は、0.01以下であることが望ましい。上記誘電率は、2.4〜2.7がより好ましい。
このような低誘電率のものを使用することにより、信号伝搬の遅延や信号の電送損失等に起因する信号エラーを防止することができる。
【0022】
また、上記シクロオレフィン系樹脂は、2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネンまたはこれらの誘導体からなる単量体の単独重合体または共重合体であることが望ましい。上記誘導体としては、上記2−ノルボルネン等のシクロオレフィンに、架橋を形成するためのアミノ基や無水マレイン酸残基あるいはマレイン酸変性したもの等が結合したもの等が挙げられる。
上記共重合体を合成する場合の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0023】
上記シクロオレフィン系樹脂は、上記した樹脂の2種以上の混合物であってもよく、シクロオレフィン系樹脂以外の樹脂を含むものであってもよい。
また、上記シクロオレフィン系樹脂が共重合体でなる場合には、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0024】
また、上記シクロオレフィン系樹脂は、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂であることが望ましい。加熱を行って架橋を形成させることにより、より剛性が高くなり、機械的特性が向上するからである。
上記シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、130〜200℃であることが望ましい。
【0025】
上記シクロオレフィン系樹脂は、既に樹脂シート(フィルム)として成形されたものを使用してもよく、単量体もしくは一定の分子量を有する低分子量の重合体が、キシレン、シクロヘキサン等の溶剤に分散した未硬化溶液の状態であってもよい。
また、樹脂シートの場合には、いわゆるRCC(RESIN COATED COPPER:樹脂付銅箔)を用いてもよい。
【0026】
上記シクロオレフィン系樹脂は、フィラー等を含まないものであってもよく、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル等の難燃剤を含むものであってもよい。
【0027】
次に、このようなシクロオレフィン系樹脂を用いた多層プリント配線板の製造方法について説明する。
【0028】
(1)まず、樹脂基板の表面に下層導体回路を有する配線基板を作製する。
樹脂基板としては、無機繊維を有する樹脂基板が望ましく、具体的には、例えば、ガラス布エポキシ基板、ガラス布ポリイミド基板、ガラス布ビスマレイミド−トリアジン樹脂基板、ガラス布フッ素樹脂基板等が挙げられる。
また、上記樹脂基板の両面に銅箔を貼った銅張積層板を用いてもよい。
【0029】
通常、この樹脂基板にドリルで貫通孔を設け、該貫通孔の壁面および銅箔表面に無電解めっきを施してスルーホールを形成する。無電解めっきとしては銅めっきが好ましい。さらに、銅箔の厚付けのために電気めっきを行ってもよい。この電気めっきとしては銅めっきが好ましい。
この後、スルーホール内壁等に粗化処理を施し、スルーホールを樹脂ペースト等で充填し、その表面を覆う導電層を無電解めっきもしくは電気めっきにて形成してもよい。
【0030】
上記粗化処理の方法としては、例えば、黒化(酸化)−還元処理、有機酸と第二銅錯体の混合水溶液によるスプレー処理、Cu−Ni−P針状合金めっきによる処理等が挙げられる。
上記工程を経て、基板上の全面に形成された銅のベタパターン上にフォトリソグラフィーの手法を用いてエッチングレジストを形成し、続いて、エッチングを行うことにより、下層導体回路を形成する。この後、必要により、導体回路の形成により、エッチングされ、凹部となった部分に樹脂等を充填してもよい。
(2)次に、形成された下層導体回路に、必要により粗化処理を施す。粗化処理の方法としては、上記した方法、すなわち、黒化(酸化)−還元処理、有機酸と第二銅錯体の混合水溶液によるスプレー処理、Cu−Ni−P針状合金めっきによる処理等が挙げられる。
また、下層導体回路に粗化処理を施さず、下層導体回路が形成された基板を樹脂成分を溶解した溶液に浸漬することにより、下層導体回路の表面に樹脂からなる層を形成し、その上に形成する層間樹脂絶縁層との密着性を確保してもよい。
【0031】
(3)次に、上記(2)で作製した下層導体回路を有する配線基板の両面に、上記シクロオレフィン系樹脂からなる層間樹脂絶縁層を形成する。
この層間樹脂絶縁層は、シクロオレフィン系樹脂形成用の未硬化液を塗布した後、加熱等により硬化させる方法により、または、樹脂シートを加熱下に真空圧着ラミネートすることにより形成するが、取扱いが簡単なことから、樹脂シートをラミネートする方法が好ましい。この場合の加熱条件としては、100〜180℃、0.5〜20分が好ましい。
【0032】
(4)次に、層間樹脂絶縁層にレーザ光を照射することにより、バイアホール用開口を設ける。このとき、使用されるレーザ光としては、例えば、炭酸ガス(CO)レーザ、紫外線レーザ、エキシマレーザ等が挙げられるが、これらのなかでは、エキシマレーザや短パルスの炭酸ガスレーザが好ましい。
【0033】
エキシマレーザは、バイアホール用開孔を形成する部分に貫通孔が形成されたマスク等を用いることにより、一度に多数のバイアホール用開孔を形成することができ、また、短パルスの炭酸ガスレーザは、開口内の樹脂残りが少なく、開口周縁の樹脂に対するダメージが小さいからである。
マスクの貫通孔は、レーザ光のスポット形状を真円にするために、真円である必要があり、上記貫通孔の径は、0.1〜2mm程度が望ましい。
【0034】
レーザ光にて開口を形成した場合、特に炭酸ガスレーザを用いた場合には、デスミア処理を行うことが望ましい。上記デスミア処理は、クロム酸、過マンガン酸塩等の水溶液からなる酸化剤を使用して行うことができる。また、酸素プラズマ、CFと酸素の混合プラズマやコロナ放電等で処理してもよい。また、低圧水銀ランプを用いて紫外線を照射することにより、表面改質することもできる。
【0035】
(5)層間樹脂絶縁層は、特に粗化処理等を行うことなく、その上に金属層を形成してもよく、プラズマ処理するか、または、酸等で処理することにより、その表面を粗化した後、金属層を形成してもよい。
プラズマ処理を行った場合には、上層として形成する導体回路と層間樹脂絶縁層との密着性を確保するために、層間樹脂絶縁層との密着性に優れたNi、Ti、Pd等の金属を中間層として形成してもよい。上記金属からなる中間層は、スパッタリング等の物理的蒸着法(PVD)により形成することが望ましく、その厚さは、0.1〜2.0μm程度であることが望ましい。
【0036】
(6)上記工程の後、金属からなる薄膜層を形成する。この薄膜層の材質は、銅または銅−ニッケル合金が好ましい。この薄膜層は、物理的蒸着法(PVD法)や化学蒸着法(CVD法)により形成することもでき、無電解めっきを施すことにより形成することもできる。
上記PVD法としては、例えば、スパッタリング、イオンビームスパッタリング等が挙げられ、上記CVD法としては、有機金属を供給材料とするPE−CVD(Plasma Enhanced CVD)法等が挙げられる。
【0037】
この薄膜の膜厚は、0.1〜5μmが好ましい。このような膜厚とするのは、後に行う電気めっきの導電層としての機能を損なうことなく、エッチング除去できるようにするためである。なお、この薄膜の形成工程は必須ではなく、省略することもできる。
【0038】
(7)上記(6)で形成した無電解めっき膜上にめっきレジストを形成する。
このめっきレジストは、感光性ドライフィルムをラミネートした後、露光、現像処理を行うことにより形成される。
【0039】
(8)次に、層間樹脂絶縁層上に形成された金属薄膜をめっきリードとして電気めっきを行い、導体回路を厚付けする。電気めっき膜の膜厚は、5〜30μmが好ましい。
この時、バイアホール用開口を電気めっきで充填してフィルドビア構造としてもよい。
【0040】
(9)電気めっき膜を形成した後、めっきレジストを剥離し、めっきレジストの下に存在していた無電解めっき膜と上記中間層とをエッチングにより除去し、独立した導体回路とする。上記電気めっきとしては、銅めっきを用いることが望ましい。
エッチング液としては、例えば、硫酸−過酸化水素水溶液、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩水溶液、塩化第二鉄、塩化第二銅の水溶液、塩酸、硝酸、熱希硫酸等が挙げられる。また、前述した第二銅錯体と有機酸とを含有するエッチング液を用いて、導体回路間のエッチングと同時に粗化面を形成してもよい。
【0041】
(10)この後、上記(2)〜(9)の工程を繰り返して上層の上層導体回路を設け、最上層にソルダーレジスト層を設け、該ソルダーレジスト層を開口してハンダバンプを設けることにより、例えば、片面3層の6層両面多層プリント配線板を得る。
以下、実施例をもとに説明する。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
(1)厚さ1mmのガラスエポキシ樹脂またはBT(ビスマレイミド−トリアジン)樹脂からなる基板1の両面に18μmの銅箔8がラミネートされている銅貼積層板を出発材料とした(図1(a)参照)。まず、この銅貼積層板をドリル削孔し、続いてめっきレジストを形成した後、この基板に無電解銅めっき処理を施してスルーホール9を形成し、さらに、銅箔を常法に従いパターン状にエッチングすることにより、基板の両面に内層銅パターン(下層導体回路)4を形成した。
【0043】
(2)下層導体回路4を形成した基板を水洗いし、乾燥した後、エッチング液を基板の両面にスプレイで吹きつけて、下層導体回路4の表面とスルーホール9のランド表面と内壁とをエッチングすることにより、下層導体回路4の全表面に粗化面4a、9aを形成した(図1(b)参照)。エッチング液として、イミダゾール銅(II)錯体10重量部、グリコール酸7重量部、塩化カリウム5重量部およびイオン交換水78重量部を混合したものを使用した。
【0044】
(3)シクロオレフィン系樹脂を主成分とする樹脂充填剤10を、基板の両面に印刷機を用いて塗布することにより、下層導体回路4間またはスルーホール9内に充填し、加熱乾燥を行った。即ち、この工程により、樹脂充填剤10が下層導体回路4の間あるいはスルーホール9内に充填される(図1(c)参照)。
【0045】
(4)上記(3)の処理を終えた基板の片面を、ベルト研磨紙(三共理化学社製)を用いたベルトサンダー研磨により、下層導体回路4の表面やスルーホール9のランド表面に樹脂充填剤10が残らないように研磨し、ついで、上記ベルトサンダー研磨による傷を取り除くためのバフ研磨を行った。このような一連の研磨を基板の他方の面についても同様に行った。そして、充填した樹脂充填剤10を加熱硬化させた(図1(d)参照)。
【0046】
このようにして、スルーホール9等に充填された樹脂充填剤10の表層部および下層導体回路4上面の粗化層4aを除去して基板両面を平滑化し、樹脂充填剤10と下層導体回路4の側面とが粗化面4aを介して強固に密着し、またスルーホール9の内壁面と樹脂充填剤10とが粗化面9aを介して強固に密着した配線基板を得た。
【0047】
(5)次に、上記(4)の処理を終えた基板の両面に、上記(2)で用いたエッチング液と同じエッチング液をスプレイで吹きつけ、一旦平坦化された下層導体回路4の表面とスルーホール9のランド表面とをエッチングすることにより、下層導体回路4の全表面に粗化面4a、9aを形成した(図2(a)参照)。
【0048】
(6)次に、上記工程を経た基板の両面に、厚さ50μmの熱硬化型シクロオレフィン系樹脂シートを温度50〜150℃まで昇温しながら圧力5kg/cmで真空圧着ラミネートし、シクロオレフィン系樹脂からなる層間樹脂絶縁層2を設けた(図2(b)参照)。真空圧着時の真空度は、10mmHgであった。
【0049】
(7)次に、波長10.4μmのCOガスレーザにて、ビーム径5mm、トップハットモード、パルス幅50μ秒、マスクの穴径0.5mm、3ショットの条件でシクロオレフィン系樹脂からなる層間樹脂絶縁層2に直径80μmのバイアホール用開口6を設けた(図2(c)参照)。この後、酸素プラズマを用いてデスミア処理を行った。
【0050】
(8)次に、日本真空技術株式会社製のSV−4540を用いてプラズマ処理を行い、層間樹脂絶縁層2の表面を粗化した(図2(d)参照)。この際、不活性ガスとしてはアルゴンガスを使用し、電力200W、ガス圧0.6Pa、温度70℃の条件で、2分間プラズマ処理を実施した。
【0051】
(9)次に、同じ装置を用い、内部のアルゴンガスを交換した後、Ni−Cu合金をターゲットにしたスパッタリングを、気圧0.6Pa、温度80℃、電力200W、時間5分間の条件で行い、Ni−Cu合金層12をポリオレフィン系層間樹脂絶縁層2の表面に形成した。このとき、形成されたNi−Cu合金層12の厚さは0.2μmであった(図3(a)参照)。
【0052】
(10)上記処理を終えた基板の両面に、市販の感光性ドライフィルムを貼り付け、フォトマスクフィルムを載置して、100mJ/cmで露光した後、0.8%炭酸ナトリウムで現像処理し、厚さ15μmのめっきレジスト3のパターンを形成した(図3(b)参照)。
【0053】
(11)次に、以下の条件で電気めっきを施して、厚さ15μmの電気めっき膜13を形成した(図3(c)参照)。なお、この電気めっき膜13により、後述する工程で導体回路5となる部分の厚付けおよびバイアホール7となる部分のめっき充填等が行われたことになる。なお、電気めっき水溶液中の添加剤は、アトテックジャパン社製のカパラシドHLである。
【0054】
〔電気めっき水溶液〕
硫酸 2.24 mol/l
硫酸銅 0.26 mol/l
添加剤 19.5 ml/l
〔電気めっき条件〕
電流密度 1 A/dm
時間 65 分
温度 22±2 ℃
【0055】
(12)ついで、めっきレジスト3を5%NaOHで剥離除去した後、そのめっきレジスト3の下に存在していたNi−Cu合金層12を硝酸および硫酸と過酸化水素との混合液を用いるエッチングにて溶解除去し、電気銅めっき膜13等からなる厚さ16μmの導体回路5(バイアホール7を含む)を形成した(図3(d)参照)。
【0056】
(13)続いて、上記(5)〜(12)の工程を、繰り返すことにより、さらに上層の導体回路を形成した。(図4(a)〜図5(b)参照)。
【0057】
(14)次に、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)に60重量%の濃度になるように溶解させた、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製)のエポキシ基50%をアクリル化した感光性付与のオリゴマー(分子量:4000)46.67重量部、メチルエチルケトンに溶解させた80重量%のビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル社製、商品名:エピコート1001)15重量部、イミダゾール硬化剤(四国化成社製、商品名:2E4MZ−CN)1.6重量部、感光性モノマーである多官能アクリルモノマー(日本化薬社製、商品名:R604)3重量部、同じく多価アクリルモノマー(共栄化学社製、商品名:DPE6A)1.5重量部、分散系消泡剤(サンノプコ社製、商品名:S−65)0.71重量部を容器にとり、攪拌、混合して混合組成物を調製し、この混合組成物に対して光重合開始剤としてベンゾフェノン(関東化学社製)2.0重量部、光増感剤としてのミヒラーケトン(関東化学社製)0.2重量部を加えて、粘度を25℃で2.0Pa・sに調整したソルダーレジスト組成物(有機樹脂絶縁材料)を得た。
なお、粘度測定は、B型粘度計(東京計器社製、DVL−B型)で60rpmの場合はローターNo.4、6rpmの場合はローターNo.3によった。
【0058】
(15)次に、多層配線基板の両面に、上記ソルダーレジスト組成物を20μmの厚さで塗布し、70℃で20分間、70℃で30分間の条件で乾燥処理を行った後、ソルダーレジスト開口部のパターンが描画された厚さ5mmのフォトマスクをソルダーレジスト層に密着させて1000mJ/cmの紫外線で露光し、DMTG溶液で現像処理し、200μmの直径の開口を形成した。
そして、さらに、80℃で1時間、100℃で1時間、120℃で1時間、150℃で3時間の条件でそれぞれ加熱処理を行ってソルダーレジスト層を硬化させ、はんだパッド部分が開口した、その厚さが20μmのソルダーレジスト層(有機樹脂絶縁層)14を形成した。
【0059】
(16)次に、ソルダーレジスト層(有機樹脂絶縁層)14を形成した基板を、塩化ニッケル(2.3×10−1mol/l)、次亜リン酸ナトリウム(2.8×10−1mol/l)、クエン酸ナトリウム(1.6×10−1mol/l)を含むpH=4.5の無電解ニッケルめっき液に20分間浸漬して、開口部に厚さ5μmのニッケルめっき層15を形成した。さらに、その基板をシアン化金カリウム(7.6×10−3mol/l)、塩化アンモニウム(1.9×10−1mol/l)、クエン酸ナトリウム(1.2×10−1mol/l)、次亜リン酸ナトリウム(1.7×10−1mol/l)を含む無電解めっき液に80℃の条件で7.5分間浸漬して、ニッケルめっき層15上に、厚さ0.03μmの金めっき層16を形成した。
【0060】
(17)この後、ソルダーレジスト層14の開口にはんだペーストを印刷して、200℃でリフローすることによりはんだバンプ(はんだ体)17を形成し、はんだバンプ17を有する多層配線プリント基板を製造した(図5(c)参照)。
【0061】
得られた多層プリント配線板について、誘電率、誘電正接及びピール強度を測定し、128℃で48時間の加熱処理試験、及び、−55℃〜125℃で1000回のヒートサイクル試験を実施した。そして、上記加熱処理試験の後、及び、ヒートサイクル試験の後には、層間樹脂絶縁層と下層導体回路との剥離、バイアホール部分の抵抗変化率を測定した。結果を下記の表1に示した。
【0062】
(実施例2)
(5)の工程における導体回路のエッチングを行わず、(8)の工程における層間樹脂絶縁層の粗化処理も行わなかった以外は、上記実施例1と同様にして、多層プリント配線板を製造した。そして、得られた多層プリント配線板について、実施例1と同様の試験及び評価を行った。結果を下記の表1に示した。
【0063】
(比較例1)
層間樹脂絶縁層を形成するための樹脂として、熱硬化型線状ポリオレフィン系樹脂(住友3M社製、商品名:1592)を用いた以外は、実施例1と同様にして多層プリント配線板を製造した。そして、得られた多層プリント配線板について、実施例1と同様の試験及び評価を行った。結果を下記の表1に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
上記表1の結果より明らかなように、実施例の多層プリント配線板は、加熱試験やヒートサイクル試験を行った後も、導体回路とバイアホールとの間の抵抗変化率は小さく、導体回路と層間樹脂絶縁層との剥離は見られなかったのに対し、比較例の多層プリント配線板は、抵抗変化率が大きいか、または、試験後に剥離が発生していた。
【符号の説明】
【0066】
1 基板
2 層間樹脂絶縁層
3 めっきレジスト
4 下層導体回路
4a 粗化面
5 上層導体回路
6 バイアホール用開口
7 バイアホール
8 銅箔
9 スルーホール
9a 粗化面
10 樹脂充填剤
12 Ni−Cu合金層
13 電気めっき膜
14 ソルダーレジスト層
15 ニッケルめっき膜
16 金めっき膜
17 はんだバンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される下層導体回路と、
前記基板と前記下層導体回路上に形成される下層の層間樹脂絶縁層と、
前記下層の層間樹脂絶縁層上に形成される上層導体回路と、
前記下層の層間樹脂絶縁層と前記上層導体回路上に形成される上層の層間樹脂絶縁層とからなり、
これらの導体回路がバイアホールを介して接続されてなる多層プリント配線板において、
前記上層導体回路は、セミアディティブ法により形成され、
前記上層の層間樹脂絶縁層及び前記下層の層間樹脂絶縁層は、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂からなることを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
前記上層の層間樹脂絶縁層及び前記下層の層間樹脂絶縁層は、前記下層導体回路及び前記上層導体回路上に、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂からなるフィルムを真空圧着ラミネートすることにより形成されている請求項1に記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記バイアホールは、フィルドビア構造を有する請求項1又は2に記載の多層プリント配線板。
【請求項4】
基板上に形成される下層導体回路と、
前記基板と前記下層導体回路上に形成される下層の層間樹脂絶縁層と、
前記下層の層間樹脂絶縁層上に形成される上層導体回路と、
前記下層の層間樹脂絶縁層と前記上層導体回路上に形成される上層の層間樹脂絶縁層とからなり、
これらの導体回路がバイアホールを介して接続されてなる多層プリント配線板の製造方法において、
前記上層導体回路を、
前記下層の層間樹脂絶縁層上に無電解めっき膜を形成し、
前記無電解めっき膜上の一部にめっきレジストを形成し、
前記めっきレジストの未形成部分に電解めっき膜を形成し、
前記めっきレジストを除去するとともに前記めっきレジスト下に存在した前記無電解めっき膜をエッチングして除去することにより形成し、
前記上層の層間樹脂絶縁層及び前記下層の層間樹脂絶縁層の材料として、熱硬化性シクロオレフィン系樹脂を用いることを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−71557(P2011−71557A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2434(P2011−2434)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【分割の表示】特願2008−181170(P2008−181170)の分割
【原出願日】平成11年7月1日(1999.7.1)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】