説明

多層咬合紙

本発明は、歯科において使用する咬合治療補助具に関する。本発明は、支持体層の少なくとも一方の面に、着色色素を含む異なる色に着色された複数の着色層と、その複数の複数の着色層の少なくとも1つの層の少なくとも1つの着色色素のための少なくとも1つの接着剤とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科の治療補助具の分野に関し、咀嚼部位/咬合部位の歯の接触位置をマークするための咬合治療補助具、特に咬合紙(Artikulationsfolie)に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科学では、「咀嚼部位」とは、噛み合わせたときに互いに噛合する上歯列及び下歯列の歯を指す。これとは区別して、「咬合部位」とは、顎を軽く閉じた場合に互いに咬合する上歯列及び下歯列の歯を指す。いずれの場合も、上歯列及び下歯列の歯は、互いに個々の接触位置でしか接触しない、すなわち、全表面にわたっては接触しない。
【0003】
歯科学では、虫歯により損傷した歯は、通常、金、セラミックス、アマルガム、又は合成材料から成る充填材で埋められる。もはや充填材を用いることができないほど歯が損傷している場合、アンレーと呼ばれるさらに広い補綴具で、部分冠又は全部冠を歯に被せる。
【0004】
かかる歯科修復治療では、治療後に歯が再び適正に咬合することが重要である。すなわち、個々の接触位置が「高すぎる」と、筋緊張やその他の健康に悪影響をもたらす可能性があり、このような接触位置により咬合に悪影響を及ぼさないように、上歯列及び下歯列の歯は、顎を軽く閉じることによって又は筋力によって互いに押し当たる必要がある。換言すれば、咀嚼部位/咬合部位の接触位置は、ほぼ等しい圧力負荷で互いに接するべきである。本発明では、接触位置の「高さ」とは、歯根尖から基底への方向において歯根尖から接触位置までの距離を指す。
【0005】
したがって、歯科医は、歯の修復治療後に一般的に咬合を調整し直す必要があるという問題に直面している。咬合を調整するために、歯科医は、柔軟性のある薄い咬合紙を使用する。この咬合紙は、従来の構成では、着色層が塗布されているプラスチック材料の支持体層から成る。着色層は、通常、例えば、着色色素を含む植物性カルナウバ蝋等のカラーワックスである。
【0006】
実際の使用では、治療した歯を含む咀嚼部位/咬合部位の歯の間に咬合紙を挿入し、患者に咀嚼してもらうようにする。咀嚼している間、咬合紙の着色層の着色色素が接触位置によってこすれ落ち、その結果として歯に着いた色から、歯科医は、咀嚼部位/咬合部位の歯の接触位置がどこであるかを同定することができる。接触位置が高すぎる場合、すなわち咀嚼部位/咬合部位の適正な咬合が妨げられる場合、これらの接触位置は、適正な高さまで、すなわち最終的に患者が咬合は快適であると納得するまで削られる。
【0007】
一つの欠点は、従来の咬合紙を使用する場合、歯科医は、接触位置の場所に関して1つの情報しか得られないことである。複数の接触位置がある場合、歯科医は、接触位置の高さが、どの程度、咬合に適した高さから越えているかに関していかなる情報も得られない。患者が依然として咬合が適正でないと指摘する場合、歯科医は、経験に基づき、着色されている接触位置のうち実際にどれが咬合に適した高さから最も大きく違っているかを推定する必要がある。不確かな場合は、適正な咬合が得られるまで全ての接触位置を削る必要があるが、その結果、最も高い接触位置が、適正な咬合を示す程度にまで削られたとしても、次には、他の接触位置が、最適な咬合にとって低くなりすぎる可能性がある。さらに、患者が咬合を適正だと考えたとしても、実際には接触位置が咬合に適した高さを越えており、したがって、その接触位置は、不都合にも、咬合の際に歯根尖に局部的な圧力負荷を受ける場合がある。咀嚼部位/咬合部位の全ての接触位置がほぼ等しい圧力で互いに接触/負荷するように最適に調整された咬合は、標的を定めて調整する方法では得ることはできず、したがって、一般的に、歯科医の経験に基づいた偶然の結果にすぎない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の根本的な課題は、現行の技術水準で利用可能な咬合紙の上記欠点を回避することができる、改善された咬合治療補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、本発明において、主たる請求項の技術特徴に対応する咬合治療補助具、特に咬合紙によって解決される。本発明の有利な態様は、従たる請求項に示される。
【0010】
本発明によれば、支持体層を有する咬合治療補助具は、上記目的のため、支持体層の少なくとも一方の面に、例えば2層、3層、又は4層などの、異なる色に着色された複数の着色層と、その複数の着色層の少なくとも1つの層の少なくとも1つの着色色素のための少なくとも1つの接着剤とを含む。
【0011】
接着剤の機能は、特に、接着により、複数の着色層の少なくとも1つの層の1つ以上の着色色素と、治療した歯を含む咀嚼部位/咬合部位の歯との間に、力に基づく表面結合を与えることである。このような接着剤は、特に、咀嚼部位/咬合部位の歯への、着色層の着色色素の接着を高める。このような接着剤は、特に、金、セラミックス、合成材料、又はアマルガムなど、歯科治療に使用される材料への、複数の着色層の少なくとも1つの層の1つ以上の着色色層の接着を高める。換言すれば、歯の治療に使用される材料は、接着剤の使用により本発明の咬合治療補助具を用いて容易に着色することができ、従って、咀嚼部位/咬合部位の接触位置をよりしっかりより確実な方法でマークすることができる。かかる構成の接着剤は、歯科治療に使用される材料への、複数の着色層の個々の着色色素のみ又は全ての着色色素の接着を高めるように選択することができる。異なる咬合治療補助具は、例えば着色される材料に応じて異なる色を有しうる。
【0012】
有利な点として、異なる色に着色された複数の着色層を用いることによって、咬合に適した接触位置の高さに対する接触位置の相対的な高さを簡単に確認することができる。咬合治療補助具が例えば異なる色の2つの着色層、例えば支持体材料上に赤色の第1着色層と、赤色の第1着色層上に緑色の第2着色層とを有する場合、咬合治療補助具の使用後に、緑色に着色した接触位置と赤色に着色した接触位置とがあれば、歯科医は、赤色に着色した接触位置は、緑色に着色した接触位置よりも、咀嚼部位/咬合部位の対応する歯に対してより強く咬合接触していることをただちに認識することができる。換言すれば、いずれの赤色に着色した接触位置も依然として、咬合に適した接触位置の高さに対して高すぎるので、適した咬合を得るために削る必要がある。歯科医はこの手順を繰り返して、赤色に着色した接触位置を連続的に削ることによって、咀嚼部位/咬合部位の接触位置の間にほぼ均一な圧力負荷を得ることができ、このことは、さらに本発明の咬合治療補助具を用いて緑色に着色した接触位置だけが生じる場合に認識される。
【0013】
別の態様として、本発明の咬合治療補助具は、両面に等しい数又は異なる数の着色層を有してもよく、またこの補助具は、少なくとも一方の面に接着剤を有する。例えば、本発明の咬合治療補助具は、一方の面に異なる色の2つの着色層を有してもよく、そのうち1つの着色層が接着剤を含み、他方の面には単に異なる色の2つの着色層を有する。しかしながら、接着剤は、複数の着色層中の1つの層の上に層状で存在させることもできる。
【0014】
本発明の有利な態様では、上記複数の着色層は異なる層厚を有する。したがって、着色層の層厚が、支持体材料から最上部の色層に向かって薄くなっている場合、歯科医は、接触位置の適正な高さを非常に厳密に確定することができる。咬合治療補助具に、例えば異なる色の3つの着色層、例えば、支持体層上に1〜20μmの範囲の大きな層厚を有する赤色層、赤色層上に1〜10μmの範囲の中間の層厚を有する緑色層、及び緑色層上に1〜10μmの範囲の小さな層厚を有する黄色層が設けられている場合、接触位置の着色は、超過した高さが減るほど赤色から緑色、さらに黄色に変化する。
【0015】
本発明に用いられる着色色素は、それ自体が咬合治療補助具に常用されている着色色素である。
【0016】
本発明の有利な態様では、接着剤は、少なくとも1つの着色層に含まれる。接着剤は、例えば、懸濁状態又は溶解状態で着色層中に存在してもよい。かかる構成では、接着剤を、複数の着色層のうち1又は複数の層に導入してもよい。接着剤を複数の着色層に導入する場合、例えば、着色層中の特定の着色色素に対して接着付与性を適合させるために、或る層の接着剤は別の層の接着剤と異なってもよい。
【0017】
別な態様では、接着剤を含む層を、複数の着色層の少なくとも1つの層に積層してもよい。かかる構成では、接着剤層を、1つの着色層にのみ積層してもよく、又は複数の着色層のそれぞれに積層してもよい。複数の接着剤層がある場合、或る層の接着剤は、別の層の接着剤と異なってもよい。さらに、接着剤を、異なる色の複数の着色層の1又は複数の層に導入してもよい。接着剤を複数の着色層に導入する場合、例えば、着色層中の特定の着色色素に対して接着付与性を適合させるために、或る層の接着剤は別の層の接着剤と異なってもよい。
【0018】
さらに、最上部の着色層、すなわち支持体材料から最も離れている着色層が、咀嚼部位/咬合部位の接触位置として許される高さに設定される場合が特に有利である。換言すれば、咀嚼部位の接触位置が最上部の着色層のみによって均一に着色される場合、その咀嚼部位/咬合部位の接触位置の高さは、解剖学的に適当な咬合をもたらすために適した接触位置の高さとして許される測定値の範囲内である。例えば、かかる構成の最上部の着色層の層厚は5〜10μm、好ましくは7〜9μm、特に8μmである。
【0019】
本発明の好適な態様では、着色層に導入される、又は接着剤層の形状で着色層に積層される接着剤は、マイクロカプセル中に封入される。マイクロカプセルへの物質の封入は、当業者に周知の技術であり、本明細書に詳細に説明する必要はない。例えば、かかるマイクロカプセルは、エステルワックスを含有し、0.1〜1000μmのサイズを有し、好ましくは2〜30μmのサイズを有する。
【0020】
マイクロカプセルの有利な態様では、マイクロカプセルは、活性因子が作用した結果としてのみ接着剤を放出するように形成される。好ましくは、接着剤は、接着剤を含有しているマイクロカプセルを噛みつぶすことによって放出される。これにより、咬合が生じる咀嚼部位/咬合部位の接触位置でのみ接着剤が放出されることが可能となる。同様に、好適な態様として、マイクロカプセルへのUV照射後でのみ、接着剤がマイクロカプセルから放出されることも可能であり、これによって、接着剤の放出を咀嚼部位/咬合部位の領域に限定することができる。このように、著しい量では患者の健康状態に悪影響を及ぼす可能性のある、患者に投与する接着剤の総量を、最小限に維持することができる。
【0021】
本発明の咬合治療補助具の着色層は、有利には着色ワックス層とすることができる。例として、植物性ワックス(例えばカルナウバ蝋、モンタンワックス)、動物性ワックス(例えば蜜蝋)、ミネラルワックス(例えばセレシン)、石油化学系ワックス(例えばパラフィンワックス、マイクロワックス)、及び化学修飾された硬蝋(例えばモンタン系エステルワックス、ホホバワックス)、合成ワックス(例えばポリエチレングリコールワックス)が挙げられる。
【0022】
着色層の層厚は、例えば、着色層の材料に応じて決まり、層厚は0.1〜30μm、好ましくは1〜20μm、特に1〜8μmである。
【0023】
接着剤は、例えば、天然樹脂(バルサム、ロジン、化石樹脂)、また、炭水化物(でんぷん、デキストリン、糖類)、タンパク質(アルブミン、カゼイン、ゼラチン)、ゴム(ラテックス、乾燥ラテックス、沈降ラテックス)、ワックス、及びその他の天然物質(蜜蝋、シェラック、アラビアガム)、又は合成接着剤(例えば、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルポリエチレン混合物、ニトロセルロース、ポリクロロプレン、ゴム、ポリウレタン、メタクリレート、シアノアクリレート、ジアクリル酸エステル、エポキシ樹脂又はポリエステル)の群からのものでよい。
【0024】
接着剤は、複数の着色層の1つの層の1つ以上の着色色素と、治療した歯を含む咀嚼部位/咬合部位の歯との間に、力に基づく表面結合を与えることができる粘着性を有する。個々の接着剤層の層厚は可変であり、例えば0.1〜5μm、好ましくは2〜4μm、最も好ましくは3μmである。
【0025】
咬合治療補助具の支持体層は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、又はシリコーンから成り、又はそれらを含んでなることができる。支持体層は、紙又は織布、編布、又は不織布から成り、又はそれらを含んで成ることもできる。後者の場合、好ましくは、支持体、特に紙、の細孔は、着色色素を含有する着色剤で含浸される。さらに、ユーザが相互に適合する材料を容易に同定するために、異なる接着剤を含有する咬合治療補助具のコーティングの色の特徴により識別機能(例えば、アマルガムには黄色、複合材には青色、セラミックスには緑色、金には黒色)が与えられる場合が有利である。
【0026】
添付の図面を参照して、実施例に従って本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の咬合紙1の実施例の断面図である。咬合紙1は、PVCの支持体2を含み、この支持体2に、赤色に着色されたカルナウバ蝋から成る第1のワックス着色層3が積層されている。第1のワックス着色層3の厚みは5μmである。第1のワックス着色層3には、接着剤を含む、緑色に着色されたカルナウバ蝋から成る第2のワックス着色層4が積層されている。第2のワックス着色層4の厚みは8μmである。ワックス着色層4はさらに接着剤5を含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の咬合紙の実施例の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層の少なくとも一方の面に、着色色素を含む異なる色に着色された複数の着色層と、その複数の着色層の少なくとも1つの層の少なくとも1つの着色色素のための少なくとも1つの接着剤とを有することを特徴とする、歯科において使用する咬合治療補助具。
【請求項2】
少なくとも1つの接着剤は、複数の着色層の少なくとも1つの層に存在することを特徴とする、請求項1に記載の咬合治療補助具。
【請求項3】
接着剤は、複数の着色層に存在することを特徴とする、請求項2に記載の咬合治療補助具。
【請求項4】
接着剤を含む層を、複数の着色層の少なくとも1つの層に積層することを特徴とする、請求項1に記載の咬合治療補助具。
【請求項5】
さらに接着剤が、複数の着色層の少なくとも1つの層に存在することを特徴とする、請求項4に記載の咬合治療補助具。
【請求項6】
複数の着色層は、異なる層厚を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の咬合治療補助具。
【請求項7】
最上部の着色層は、咀嚼部位/咬合部位の接触位置として許される高さに相当するように設定された層厚を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の咬合治療補助具。
【請求項8】
最上部の着色層の層厚は、約8μmであることを特徴とする、請求項7に記載の咬合治療補助具。
【請求項9】
接着剤は、マイクロカプセル中に封入されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の咬合治療補助具。
【請求項10】
マイクロカプセルは、圧力が作用した結果として接着剤を放出するのに適していることを特徴とする、請求項9に記載の咬合治療補助具。
【請求項11】
マイクロカプセルは、活性因子が作用した結果として接着剤を放出するのに適していることを特徴とする、請求項9又は10に記載の咬合治療補助具。
【請求項12】
マイクロカプセルは、該マイクロカプセルのUV照射の結果として接着剤を放出するのに適していることを特徴とする、請求項11に記載の咬合治療補助具。
【請求項13】
マイクロカプセルは、該マイクロカプセルに熱を加えた結果として接着剤を放出するのに適していることを特徴とする、請求項11に記載の咬合治療補助具。
【請求項14】
複数の着色層は、着色されたワックス層であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の咬合治療補助具。


【図1】
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【公表番号】特表2007−519682(P2007−519682A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550126(P2006−550126)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000920
【国際公開番号】WO2005/072682
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(504319862)コルテン/ホルデント ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー (4)
【氏名又は名称原語表記】COLTENE/WHALEDENT GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】