説明

多層多孔膜

【課題】耐熱性に優れた多孔膜の提供。
【解決手段】重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む多孔膜と、該多孔膜の少なくとも片面に積層され、無機フィラーを含む多孔層とを有する多層多孔膜およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物質の分離や浄化等に好適な多層多孔膜に関する。
また、本発明は、電池用セパレータ、すなわち、電池の中で正極と負極の間に配置される膜に特に適した多層多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多孔膜は優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから、電池やコンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。特に近年では、携帯機器の多機能化、軽量化に伴い、その電源として高出力密度、高容量密度のリチウムイオン二次電池が使用されており、このような電池用セパレータにも主としてポリオレフィン多孔膜が用いられている。
リチウムイオン二次電池は高い出力密度、容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために短絡や過充電などの異常事態に伴う発熱によって電解液が分解し、最悪の場合には発火に至ることがある。このような事態を防ぐため、リチウムイオン二次電池にはいくつかの安全機能が組み込まれており、その中の一つに、セパレータのシャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞して電解液内のイオン伝導を抑制し、電気化学反応の進行をストップさせる機能のことである。一般にシャットダウン温度が低いほど安全性が高いとされ、ポリエチレンがセパレータの成分として用いられている理由の一つに適度なシャットダウン温度を持つという点が挙げられる。
【0003】
しかし、高いエネルギー密度を有する電池においては、シャットダウンにより電気化学反応の進行をストップさせても電池内の温度が上昇し続け、その結果、セパレータが熱収縮して破膜し、両極が短絡(ショート)するという問題がある。
このような問題に対して、ポリオレフィン多孔膜からなるセパレータにシャットダウン温度より低い温度で熱処理を施し、熱収縮を低減することが行われている(特許文献1参照)。しかし、このような方法によっても熱収縮の低減は十分ではなく、依然として高エネルギー密度電池の両極の短絡は防止できてはいない。
【特許文献1】特許第3307231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、高エネルギー密度電池の両極の短絡を防止できる優れた耐熱性を有する多孔膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリオレフィン多孔膜に無機フィラー含有層を積層することにより高温における熱収縮を低減できることを見出した。
【0006】
そして、無機フィラー含有層を積層することによる熱収縮の低減効果は、ポリオレフィン多孔膜として、重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む樹脂組成物を用いて製造された多孔膜を用いた場合に特に顕著であることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む多孔膜と、
該多孔膜の少なくとも片面に積層され、無機フィラーを含む多孔層と、
を有する多層多孔膜。
2.上記1.の多層多孔膜からなる電池用セパレータ。
3.上記2.の電池用セパレータを有する非水電解液電池。
4.重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む樹脂組成物を用いて多孔膜を製造する工程と、
該多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーを含む分散液を塗布することにより多孔層を形成する工程と、
を有する多層多孔膜の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温における熱収縮が低減され、破膜の起こりにくい耐熱性に優れた多層多孔膜を提供できる。
また、本発明によれば、良好なシャットダウン機能と耐熱性を兼ね備えた多層多孔膜を提供できるので、これを用いて安全性の高い電池を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の多層多孔膜は、重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む多孔膜と、該多孔膜の少なくとも片面に積層され、無機フィラーを含む多孔層とを有する。
【0010】
本発明において使用する高密度ポリエチレン(A)は、機械的強度の点から重量平均分子量が20万以上であり、好ましくは25万以上、更に好ましくは30万以上である。また、無機フィラー層を塗布する前の多孔膜の表面平滑性の点から、高密度ポリエチレン(A)の重量平均分子量は50万未満、好ましくは45万以下である。なお、本発明において、重量平均分子量はいわゆるGPC法に基づくものであり、ポリスチレン換算のものである。
また、高密度ポリエチレン(A)のメルトフローレート(ASTM−D−1238)は、0.2〜0.5(g/10分)であることが好ましい。高密度ポリエチレン(A)のメルトフローレートは、これを含む樹脂組成物の成形加工性を向上させることができ、その結果得られる膜の表面平滑性等を向上できる点から0.5(g/10分)以下であることが好ましく、これを含む樹脂組成物から製造された多孔膜の機械的強度を高めることができる点から、0.2g/10分以上であることが好ましい。高密度ポリエチレン(A)のメルトフローレートはより好ましくは0.25〜0.45(g/10分)、さらに好ましくは0.3〜0.4(g/10分)である。
【0011】
本発明において使用する高密度ポリエチレン(B)は、機械的強度の点から重量平均分子量が50万以上であり、無機フィラー層を塗布する前の多孔膜の表面平滑性の点から70万以下、好ましくは65万以下である。
また、高密度ポリエチレン(B)のメルトフローレート(ASTM−D−1238)は、0.02〜0.1(g/10分)であることが好ましい。高密度ポリエチレン(B)のメルトフローレートは、これを含む樹脂組成物の成形加工性を向上させることができ、その結果得られる膜の表面平滑性等を向上できる点から0.1(g/10分)以下であることが好ましく、これを含む樹脂組成物から製造された多孔膜の機械強度を高めることができる点から0.02(g/10分)以上であることが好ましい。高密度ポリエチレン(B)のメルトフローレートはより好ましくは0.02〜0.09(g/10分)、さらに好ましくは0.03〜0.08(g/10分)である。
【0012】
本発明において、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cm3のポリエチレンをいう。高密度ポリエチレン(A)、(B)の密度は、多孔膜の強度の点から、それぞれ、0.960〜0.969(g/cm3)、0.950〜0.958(g/cm3)であることが好ましい。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K 7112に従って測定した値をいう。
【0013】
本発明において使用する多孔膜は、高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部に対して、高密度ポリエチレン(B)を10〜50質量部含有する。高密度ポリエチレン(A)、(B)の含有量をこのような範囲とすることにより、表面平滑性及び機械強度に優れた多孔膜を製造することができる。
【0014】
高密度ポリエチレン(A)の含有量は多孔膜の耐熱性の点から50質量部以上であり、多孔膜の機械強度の点から90質量部以下である。
また、高密度ポリエチレン(B)の含有量は多孔膜の加工性の点から10質量部以上であり、多孔膜の耐熱性の点から50質量部以下である。
【0015】
本発明では多孔膜を構成する樹脂として、高密度ポリエチレン(A)、(B)以外のポリオレフィンを含有することも可能である。そのような高密度ポリエチレン(A)、(B)以外のポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどがある。高密度ポリエチレン(A)、(B)以外のポリオレフィンがポリエチレンである場合、その重量平均分子量は、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、重合体どうしの絡み合いにより高強度となる点から5万以上が好ましい。一方、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れた膜の提供が容易となる点から、その重量平均分子量は200万以下であることが好ましい。特に、重量平均分子量が100万未満であると、特別な混錬装置を使用したり、長時間混錬したりしなくても均一な樹脂組成物を調製でき、これにより平面平滑性の高い多孔膜を製造できると共に、本発明の多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られるため好ましい。多孔膜を構成する樹脂として高密度ポリエチレン(A)、(B)以外のポリオレフィンを含有する場合、高密度ポリエチレン(A)、(B)の合計質量は多孔膜を構成するポリオレフィンの合計質量の50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。
【0016】
本発明の多孔膜には、高密度ポリエチレン(A)、(B)以外に本発明の目的を損なわない範囲で各種目的に応じて、任意の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、高密度ポリエチレン(A)、(B)以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛等の結晶核剤;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。
【0017】
本発明における多孔膜の平均孔径に限定はなく、用途に応じて適宜決定できる。多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、ASTM−F316−86(バブルポイント法)に従って測定される平均孔径は、0.001〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.1μmである。また、本発明における多孔膜の気孔率に限定はなく、用途に応じて適宜決定できる。多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、ASTM−D−1622に従って測定される気孔率は20〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜70%である。
【0018】
多孔膜の膜厚に限定はなく、用途に応じて適宜決定できる。多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、10μm以上30μm以下程度であることが好ましい。
また、多孔膜の物理強度に限定はなく、多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、ASTM−D−882に従って測定される引張強さは、好ましくは1,000〜3000(kg/cm2)、より好ましくは1,000〜1,350(kg/cm2)であり、ASTM−D−3763に従って測定される衝撃強度は、好ましくは500〜700(g/μm)である。
多孔膜のメルトダウン温度は、145〜155℃であることが好ましい。ここで、メルトダウン温度とは、多孔膜の破膜が開始する温度をいう。
【0019】
本発明の多層多孔膜は、重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む樹脂組成物を用いて多孔膜を製造する工程と、
該多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーを含む分散液を塗布することにより多孔層を形成する工程と、
を有する製造方法により好適に製造できる。
本発明において樹脂組成物から多孔膜を製造する方法に制限はなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば、樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法;樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリエチレンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;樹脂組成物を溶解後、ポリエチレンに対する貧溶媒に浸漬させポリエチレンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法等が挙げられる。
【0020】
以下、多孔膜を製造する方法の一例として、樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。
まず、樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混錬方法としては、例えば、高密度ポリエチレン(A)、(B)及び、必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、高密度ポリエチレン(A)、(B)、その他の添加剤及び可塑剤を樹脂混錬装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混錬において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混錬装置サイドフィードしながら混錬することである。このようにすることにより、可塑剤の分散性を高め、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混錬合物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる。
【0021】
可塑剤としては、高密度ポリエチレン(A)、(B)の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
これらの中で、流動パラフィン、フタル酸ジオクチルは、ポリエチレンとの相溶性が高く、溶融混錬物を延伸しても相分離が起こりにくいので、好ましい。
【0022】
樹脂組成物中の可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、樹脂組成物中の可塑剤の総量を30〜76質量%とすることができるが、より好ましくは45〜75質量%である。可塑剤の総量が76質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが不足しにくく成形性が向上する傾向にある。一方、質量分率が30質量%以上であると、樹脂組成物と可塑剤の混合物を高倍率で延伸してもポリエチレン鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し得る。
【0023】
本発明においては、可塑剤として流動パラフィンとフタル酸ジオクチルを併用することが好ましい。
ここで、樹脂組成物の流動パラフィン含有量を増やすと、樹脂組成物から製造される多孔膜の気孔率を高めることができるが、流動パラフィン含有量が多すぎると樹脂組成物の溶融混錬物を押出成形してシート状成形体とする際にネッキング現象が起こることがある。
また、樹脂組成物のフタル酸ジオクタル含有量を増やすと樹脂組成物から製造される多孔膜の孔径を大きくすることができるが、フタル酸ジオクチル含有量が多すぎるとフタル酸ジオクチルが高密度ポリエチレン(A)、(B)と相溶せず、樹脂組成物のシート状成形体の表面平滑性が低下する。
したがって、本発明における樹脂組成物は、可塑剤として流動パラフィン40〜70質量%とフタル酸ジオクチル5〜15質量%を含有することが好ましい。
【0024】
また、流動パラフィンの40℃における動粘度は40〜450(cSt)であることが好ましい。
流動パラフィンの40℃における動粘度を40(cSt)以上とすることにより、樹脂組成物の溶融混錬物を押出成形してシート状成形体とすることが容易となり、450(cSt)以下とすることにより多孔膜製造最終工程におけるシート状成形体からの除去が容易になる。
【0025】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混錬物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高く好ましい。この際、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むと、さらに熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するためより好ましい。Tダイよりシート状に押出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることがさらに好ましい。ダイリップ間隔が400μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程に於いて膜破断などを防ぐことができる。一方、ダイリップ間隔が3000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0026】
このようにして得たシート状成形体を延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂けにくくなり高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができ、延突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
なお、ここで、同時二軸延伸とは、MD方向(機械流れ方向)の延伸とTD方向(MD方向と直交する方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD方向又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることがさらに好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることがさらに好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔膜に十分な強度を付与でき、一方、総面積倍率が100倍以下であると延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる。
【0027】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延は特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍より大きいと、面配向が増加し最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができるために好ましい。
【0028】
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して多孔膜とする。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔膜中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0029】
抽出溶剤としては、高密度ポリエチレン(A)、(B)に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点が高密度ポリエチレン(A)、(B)の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してもよい。
【0030】
多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、多孔膜形成後に熱固定や熱緩和等の熱処理を行うこともできる。また、多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0031】
次に、多孔層について説明する。
本発明の多層多孔膜は、多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーを含む多孔層を有する。これにより、多孔膜が熱収縮等により破膜した場合でも、短絡を防ぐことができる。このような処理は本発明で用いられる多孔膜にとって、特に効果的である。すなわち、機械的強度を向上するために、多孔膜を高倍率(例えば縦横の延伸倍率の積が30〜80)で延伸する場合には熱固定等により得られる膜の熱収縮率を低減することが好ましいが、本発明の多孔膜は分子量の低いポリエチレンから構成されているため、高温での熱固定を行うことができない。そのため、多孔膜の熱収縮率は一般に高くなる傾向にある。本発明では、このような場合でも、無機フィラーを含む多孔層を塗布しているため、多孔膜が熱収縮等により破膜した場合でも、短絡を効果的に防ぐことができるのである。
無機フィラー含有多孔層は、多孔膜の片面にのみ積層しても、両面に積層してもよい。
【0032】
多孔層に含まれる無機フィラーとしては、多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合には、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつ使用条件下で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機フィラーの具体例としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレイ、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
本発明の多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合には、電気化学的安定性の点と熱収縮抑制の点から、無機フィラーとして、アルミナ、チタニア、カオリンクレイ、軽質炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0033】
無機フィラーの平均粒径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。無機フィラーの平均粒径が0.1μm未満であると、多層多孔膜を電池用セパレータとして使用した場合にショート温度が低くなる傾向にある。また、無機フィラーの平均粒径が2.0μm超であると、層厚の薄い多孔層を形成することが困難となる。
【0034】
本発明の多孔層は、無機フィラーの他に、無機フィラーを多孔膜上に結着するためのバインダを含むことが好ましい。バインダの種類に限定はないが、本発明の多層多孔膜をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合には、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
このようなバインダの具体例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
【0035】
バインダとして、ポリビニルアルコールを使用する場合、そのケン化度は85%以上100%以下であることが好ましい。ケン化度が85%以上であると、多層多孔膜を電池用セパレータとして使用した際に、短絡する温度(ショート温度)が向上し、良好な安全性能が得られため好ましい。ケン化度はより好ましくは90%以上100%以下、さらに好ましくは95%以上100%以下、特に好ましくは99%以上100%以下である。また、ポリビニルアルコールの重合度は、200以上5000以下であることが好ましく、より好ましくは300以上4000以下、特に好ましくは500以上3500以下である。重合度が200以上であると、少量のポリビニルアルコールで無機フィラーを強固に結着でき、多孔層の力学的強度を維持しながら多孔層形成による多層多孔膜の透気度増加を抑えることができるので好ましい。また、重合度5000以下であると、分散液を調製する際のゲル化等を防止できるので好ましい。
【0036】
多孔層中の無機フィラーの質量分率は、無機フィラーの結着性、多層多孔膜の透過性・耐熱性等の観点から適宜決定することができ、50%以上100%未満であることが好ましく、より好ましくは55%以上99.99%以下、さらに好ましくは60%以上99.9%以下、特に好ましくは65%以上99%以下である。
【0037】
多孔層の層厚は、多層多孔膜の耐熱性の観点から0.5μm以上であることが好ましく、透過度や電池の高容量化の観点から100μm以下であることが好ましい。より好ましくは2μm以上50μm以下、さらに好ましくは3μm以上30μm以下、最も好ましくは4μm以上20μm以下である。
【0038】
多孔層の形成方法に限定はなく、公知の方法によって形成することができる。例えば、多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと必要によりバインダを溶媒に分散又は溶解させた塗布液を、多孔膜に塗布することによって多孔層を形成することができる。
【0039】
塗布液の溶媒としては、無機フィラーとバインダを均一かつ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサン等が挙げられる。
塗布液には、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むPH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば多孔層内に残存してもよい。
【0040】
無機フィラーと樹脂製バインダを溶媒に溶解又は分散させる方法については、塗布工程に必要な溶液又は分散液特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
塗布液を多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
【0041】
さらに、塗布に先立ち、多孔膜表面に表面処理をすると、塗布液を塗布し易くなると共に、塗布後の無機フィラー含有多孔層と多孔膜表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0042】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、バインダに対する貧溶媒に浸漬してバインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0043】
次に、本発明の多層多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合について説明する。
本発明の多層多孔膜は、耐熱性に優れ、シャットダウン機能を有しているので電池の中で正極と負極を隔離する電池用セパレータに適している。
【0044】
本発明の多層多孔膜を正極と負極の間に配置し、非水電解液を保持させることにより、非水電解液電池を製造することができる。
正極、負極、非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。
正極材料としては、例えば、LiCoO2等のリチウム含有複合酸化物等が、負極材料としては、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料等が挙げられる。
また、非水電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等が、電解質としては、例えば、LiClO4、LiPF6等のリチウム塩が挙げられる。
【0045】
本発明の多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、多層多孔膜の透気度は、10秒/100cc以上1000秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは20秒/100cc以上800秒/100cc以下、さらに好ましくは30秒/100cc以上700秒/100cc以下、特に好ましくは50秒/100cc以上600秒/100cc以下である。
透気度が10秒/100cc以上であると電池用セパレータとして使用した際の自己放電が少なく、1000秒/100cc以下であると良好な充放電特性が得られる。
また、多孔層を形成したことによる多層多孔膜の透気度の増加率は0%以上100%以下であることが好ましく、0%以上70%以下であることがより好ましく、0%以上50%以下であることが特に好ましい。
【0046】
多層多孔膜の最終的な膜厚は、2μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上100μm以下、さらに好ましくは7μm以上50μm以下である。
膜厚が2μm以上であると機械強度が十分であり、また、200μm以下であるとセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる。
【0047】
多層多孔膜の150℃での熱収縮率は、MD方向、TD方向ともに0%以上15%以下であることが好ましく、より好ましくは0%以上10%以下、さらに好ましくは0%以上5%以下である。熱収縮率がMD方向、TD方向ともに15%以下であると、電池の異常発熱時の多層多孔膜の破膜が抑制され、短絡が起こりにくくなるので好ましい。
【0048】
多層多孔膜のシャットダウン温度は、120℃以上160℃以下であることが好ましく、より好ましくは130℃以上150℃以下の範囲である。シャットダウン温度が160℃以下であると、電池が発熱した場合等においても、電流遮断を速やかに促進し、より良好な安全性能が得られる傾向にあるので好ましい。一方、シャットダウン温度が120℃以上であると、電池を100℃前後で使用することができるので好ましい。
【0049】
多層多孔膜のショート温度は、180℃以上1000℃以下であることが好ましく、より好ましくは、200℃以上1000℃以下である。ショート温度が180℃以上であると、電池に異常発熱が発生しても、すぐには短絡が起こらないため、その間に放熱することができ、より良好な安全性能が得られる。
本発明において、ショート温度は、高密度ポリエチレン(A)、(B)の含有量や、無機フィラーの種類、無機フィラー含有層の厚さ等を調整することにより所望の値に制御することができる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。実施例における測定・試験方法は次の通りである。
【0051】
(1)多孔膜の膜厚、多孔層の層厚
多孔膜、多層多孔膜からMD方向10mm×TD方向10mmのサンプルを切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)を選んで、膜厚をダイヤルゲージ(尾崎製作所製PEACOCK No.25(登録商標))を用いて測定し、9箇所の測定値の平均値を多孔膜、多層多孔膜の膜厚(μm)とした。
また、このように測定された多層多孔膜と多孔膜の膜厚の差を多孔層の層厚(μm)とした。
(2)多孔膜透気度(秒/100cc)、多孔層の形成による透気度増加率(%)
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製G−B2(登録商標)、内筒質量:567g)を用い、645mm2の面積(直径28.6mmの円)の多孔膜、多層多孔膜を空気100ccが通過する時間(秒)を測定し、これを多孔膜、多層多孔膜の透気度とした。
多孔層の形成による透気度増加率は、以下の式にて算出した。
透気度増加率(%)={(多層多孔膜の透気度−多孔膜の透気度)/多孔膜の透気度}×100
【0052】
(3)多層多孔膜、多孔膜の熱収縮率の測定
多層多孔膜、多孔膜からMD方向100mm×TD方向100mmのサンプルを切り出し、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルにあたらないよう、サンプルを2枚の紙にはさんだ。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、MD方向、TD方向の長さ(mm)を測定し、以下の式にてMD方向およびTD方向の熱収縮率を算出した。
MD方向熱収縮率(%)={(100―加熱後のMD方向の長さ)/100}×100
TD方向熱収縮率(%)={(100―加熱後のTD方向の長さ)/100}×100
【0053】
(4)無機フィラーの平均粒径(μm)
無機フィラーを蒸留水に加え、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を少量添加してから超音波ホモジナイザで1分間分散させた後、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて粒径分布を測定し、累積頻度が50%となる粒径を平均粒径とした。
(5)電池用セパレータ適性の評価
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を92.2質量部、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を3.2質量部用意し、これらをN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて、正極活物質塗布量が250g/m2となるように塗布した。130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機を用いて、正極活物質かさ密度が3.00g/cm3となるように圧縮成形し、正極とした。
このようにして作製した正極を面積2.00cm2の円形に打ち抜いた。
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイトを96.6質量部、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量部とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量部を用意し、これらを精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターを用いて負極活物質塗布量が106g/m2となるように塗布した。120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機を用いて、負極活物質かさ密度が1.35g/cm3となるように圧縮成形し、負極とした。
このようにして作製した負極を面積2.05cm2の円形に打ち抜いた。
c.非水電解液
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0ml/Lとなるように溶解させて調製した。
d.電池組立
正極と負極の活物質面が対向するように、下から負極、多層多孔膜、正極の順に重ねた。この積層体を、容器本体と蓋が絶縁されている蓋付きステンレス金属製容器に、負極の銅箔、正極のアルミ箔が、それぞれ、容器本体、蓋と接するように収納した。この容器内に、非水電解液を注入して密閉した。
e.評価
(レート特性)
d.で組み立てた簡易電池を、25℃において、電流値3mA(約0.5C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計約6時間、電池作成後の最初の充電を行い、その後電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。
次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、その後電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を1C放電容量(mAh)とした。
次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、その後電流値12mA(約2.0C)で電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を2C放電容量(mAh)とした。
1C放電容量に対する2C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性とした。
レート特性(%)=(2C放電容量/1C放電容量)×100
(サイクル特性)
レート特性を評価した後の簡易電池を、60℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを100回繰り返し、1サイクル目と100サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。
1回目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を算出し、この値をサイクル特性とした。
サイクル特性(%)=(100回目の放電容量/1回目の放電容量)×100
【0054】
[実施例1]
(多孔膜の製造)
重量平均分子量が35万(メルトフローレート0.3(g/10分))、密度が0.964(g/cm3)であるポリエチレン−1 36質量部、重量平均分子量が60万(メルトフローレート0.04(g/10分))、密度が0.9564g/cm3であるポリエチレン−2 4質量部、可塑剤として動粘度が40℃において80(cSt)である流動パラフィン(LP)50質量部とフタル酸ジオクチル10質量部、結晶核剤としてステアリン酸カリウム0.2質量部、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製 IRGANOX 1010(登録商標))0.1質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製 IRGANOX 1076(登録商標))0.1質量部を用意し、これらをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物を溶融混錬するために二軸同方向スクリュー式押出機のフィード口へ供給した。
次に、溶融混練物をTダイを用いて表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚さ600μmのシート状成形体を得た。
次に、シート状成形体を連続して同時二軸テンター延伸機へ導き、MD方向に6倍、TD方向に6倍に同時二軸延伸を行い延伸フイルムを得た。この時の同時二軸テンターの設定温度は118℃とした。
次に、得られた延伸フイルムをメチルエチルケトン槽に導き、可塑剤を除去した後、メチルエチルケトンを乾燥除去し、120℃で1分間熱固定して厚さ25μm、気孔率42%、透気度550秒/100ccの多孔膜を得た。
(多孔層の形成)
α−アルミナ粒子(平均粒径0.8μm)98.2質量部とポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度99%以上)1.8質量部とを150質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、上記多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗布した。60℃にて乾燥して水を除去し、ポリオレフィン樹脂多孔膜上に厚さ10μmの多孔層を形成した。
【0055】
[実施例2]
多孔膜のポリエチレン−1、ポリエチレン−2の添加量を、それぞれ、20質量部、20質量部とし、多孔層の無機フィラーをチタニア粒子(平均粒径0.25μm)に替え、多孔層の厚さを12μmとした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
[実施例3]
多孔層のバインダを水素添加スチレンブタジエン共重合体に替えた以外は、実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
[実施例4]
多孔層の無機フィラーをカオリンクレイ(平均粒径0.3μm)に替え、多孔層の厚さを8μmとした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
[実施例5]
多孔層の無機フィラーを紡錘状の軽質炭酸カルシウム(平均粒径1.0μm)に替え、多孔層の厚さを7μmとした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0056】
[比較例1]
多孔層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして多孔膜を得た。
[比較例2]
多孔層を形成しなかった以外は実施例2と同様にして多孔膜を得た。
【0057】
実施例1〜5で製造した多層多孔膜、比較例1、2で製造した多孔膜の透気度、150℃熱収縮率を表1に示す。
実施例1〜5、比較例1、2の多層多孔膜又は多孔膜をセパレータとして用いた簡易電池は、いずれも、90%以上のレート特性、サイクル特性を示した。このことから、実施例1〜5及び比較例1、2で製造した多層多孔膜又は多孔膜は、電池用セパレータとして使用可能なものであることが確認できた。
しかし、無機フィラー含有層を積層していない比較例1、2の多孔膜は、150℃における熱収縮率が60%以上と非常に大きく、耐熱性に劣るものであった。
これに対し、無機フィラー含有層を有する実施例1〜5の多層多孔膜は、150℃における熱収縮率が小さく、耐熱性にも優れていた。また、多孔層を設けたことによる透気度の増加率も10%以下と小さく、多層多孔膜としての透気度も非常に優れていた。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の多層多孔膜は耐熱性に優れているので、高温下での各種物質の分離や浄化等に好適に用いることができる。
また、本発明の多層多孔膜は、シャットダウン機能を有するので、特に、電池用セパレータに好適に用いることができる。とりわけ、リチウムイオン二次電池用の電池用セパレータに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む多孔膜と、
該多孔膜の少なくとも片面に積層され、無機フィラーを含む多孔層と、
を有する多層多孔膜。
【請求項2】
請求項1記載の多層多孔膜からなる電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項2記載の電池用セパレータを有する非水電解液電池。
【請求項4】
重量平均分子量が20万以上50万未満である高密度ポリエチレン(A)50〜90質量部と、重量平均分子量が50万以上70万以下である高密度ポリエチレン(B)50〜10質量部とを含む樹脂組成物を用いて多孔膜を製造する工程と、
該多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーを含む分散液を塗布することにより多孔層を形成する工程と、
を有する多層多孔膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−143060(P2009−143060A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321193(P2007−321193)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】