説明

多層容器

【課題】ガスバリア性、および酸素吸収性に優れ、レトルト処理下にあっても、あるいはレトルト処理後に高温・多湿等の悪条件下に長期間保存した後においても内部の酸素濃度を低い水準に保つことができ、内容物の劣化や変質を長期間にわたり抑制することができ、レトルト処理によっても白化や変形が生じにくい多層容器の提供。
【解決手段】炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)および変性EVOH(C)を含む樹脂組成物からなる酸素吸収層と、酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のガスバリア層とを有する積層体から形成される多層容器であって、前記変性EVOH(C)は、EVOH(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、前記樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されており、前記ガスバリア層は前記酸素吸収層の外側に配設されている多層容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極めて優れたガスバリア性、耐レトルト性、および酸素吸収性を有し、レトルト処理条件下にあっても、あるいはレトルト処理後に高温・多湿等の悪条件下に長期間保存した後においても内部の酸素濃度を低い水準に保つことができ、内容物の劣化や変質を長期間にわたり抑制することのできる多層容器、および当該多層容器の製造に好ましく使用することができる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や、医薬品、電子部材等の非食品類を包装するための包装容器に用いられる包装材料は、それにより包装されている内容物の劣化や変質を抑制し、その当初の機能や性質を保持するために、酸素、水蒸気、その他内容物を劣化・変質させる気体の透過を防止する必要がある。さらに廃棄時の環境負荷が大きい金属缶やガラス瓶の代替を目指す包装材料には、レトルト処理中やレトルト処理後の高温・多湿雰囲気下においても、これらの気体(ガス)を長期にわたり遮断するガスバリア性を備えていることが、強く求められている。
【0003】
このようなガスバリア性を備えていることが要求される包装材料には、従来、アルミニウム等の金属からなる金属箔や、金属あるいは金属酸化物を具備する金属蒸着フィルム、さらにはポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等からなるガスバリア性プラスチックのフィルムや、これらのプラスチック類をフィルム基材上にコーティングしてなるガスバリア性フィルムなどのガスバリア材が用いられてきた。
【0004】
これらのガスバリア材のうち、金属箔や金属蒸着フィルムは非常に高いガスバリア性を有するが、屈曲やピンホールへの耐性は用途によっては十分でなく、金属缶やガラス瓶のガスバリア性には至らない。また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体[以下、「EVOH」と略称することがある]などのガスバリア性プラスチックは、通常の用途においては十分なガスバリア性を有するが、なお極微量の酸素を透過させてしまうため、極めて酸素に敏感な物質を長期間保存する場合などにおいては、酸素による内容物の劣化が少しずつ進行する場合があり、同じく金属缶やガラス瓶の代替には至らない。さらに、EVOHを用いた包装材料をレトルト処理(通常、80〜145℃、常圧〜0.2MPa、水分存在下)を行う用途に用いると、EVOHが白化・変形したり、ガスバリア性が低下したりする問題があった。
【0005】
ところで、レトルト処理の際に求められる耐熱水性などを改善するために、EVOHに架橋を施す技術がこれまでいくつか提案されている(例えば、特許文献1〜8等を参照)。EVOHに架橋を導入することにより、レトルト処理時におけるEVOHの白化・変形・バリア性の低下等の、性能や品質の低下を防ぐことができる。
【0006】
また、EVOHのガス透過量はゼロではなく、無視し得ない量の気体を透過する。特にEVOHはレトルト処理の際および処理直後のような条件下ではガスバリア性が低下することが知られている。このような気体の透過、とりわけ、包装体の内容物、特に食品の品質に大きな影響を及ぼす酸素の透過を低減するために、また、内容物の包装時点ですでに包装体内部に存在する酸素を吸収させて除去するために、包装材料に酸素吸収剤を混合させて使用する技術もこれまでいくつか提案されている(例えば、特許文献9〜13等を参照)。包装材料に酸素吸収剤を混合させて使用することによりガスバリア性を向上させることができる。
【0007】
さらに、EVOHに架橋を施す技術と、包装材料に酸素吸収剤を混合させて使用する技術を組み合わせた技術も提案されている(特許文献14参照)。特許文献14の技術によれば、優れた酸素吸収性を有し、かつ有害な架橋剤をほとんど含有せず、耐熱水性、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性およびガスバリア性に優れる成形品を得ることができる。
しかしながら、レトルト処理中、あるいは高温・多湿等の悪条件下においても内容物の劣化や変質を長期間にわたり抑制し、金属缶やガラス瓶の代替として好適に使用することができるようにするためには、さらなる検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−8448号公報
【特許文献2】特開平5−271498号公報
【特許文献3】特開平9−157421号公報
【特許文献4】特開平9−234833号公報
【特許文献5】特開昭62−252409号公報
【特許文献6】特開昭56−49734号公報
【特許文献7】国際公開第02/092643号
【特許文献8】国際公開第03/072653号
【特許文献9】特開平5−115776号公報
【特許文献10】特開2001−106866号公報
【特許文献11】特開2001−106920号公報
【特許文献12】特開2002−146217号公報
【特許文献13】特開2005−187808号公報
【特許文献14】国際公開第2009/051159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガスバリア性、および酸素吸収性に優れ、レトルト処理下にあっても、あるいはレトルト処理後に高温・多湿等の悪条件下に長期間保存した後においても内部の酸素濃度を低い水準に保つことができ、内容物の劣化や変質を長期間にわたり抑制することができ、レトルト処理によっても白化や変形が生じにくい多層容器を提供すること、および当該多層容器を容易に製造することのできる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、酸素吸収性樹脂を特定の変性EVOHに含有させた後に架橋させて得られた酸素吸収性樹脂含有EVOH層の外側に酸素バリア性に優れた特定のフィルムを配置した多層容器が、レトルト処理中および処理直後、さらにはレトルト処理後に高温・多湿の雰囲気下に長期間保存した後においても、多層容器内に侵入する酸素を格段に低減させることができ、金属缶やガラス瓶に匹敵する多層容器となりうることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)および変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を含む樹脂組成物からなる酸素吸収層と、酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のガスバリア層とを有する積層体から形成される多層容器であって、前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、前記樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されており、前記ガスバリア層は前記酸素吸収層の外側に配設されている多層容器、
[2]前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量が、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%である上記[1]の多層容器、
[3]前記ガスバリア層が、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体の当該少なくとも1種の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和された中和物を含む層を有する積層体(F1);蒸着法により形成された無機物からなる層を有する積層体(F2);および、ポリ塩化ビニリデン系高分子またはそれを含む組成物の層(F3);からなる群から選ばれる少なくとも1つである上記[1]または[2]の多層容器、
[4]前記炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)が、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものである上記[1]〜[3]のいずれか1つの多層容器、
[5]前記熱可塑性樹脂(G)がポリオクテニレンである上記[4]の多層容器、
[6]前記樹脂組成物が、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性されていないエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)をさらに含む上記[1]〜[5]のいずれか1つの多層容器、
[7]前記樹脂組成物が遷移金属塩(H)をさらに含む上記[1]〜[6]のいずれか1つの多層容器、
[8]前記遷移金属塩(H)がコバルト塩である上記[7]の多層容器、
[9]前記樹脂組成物が、相容化剤(I)をさらに含む上記[1]〜[8]のいずれか1つの多層容器、
[10]前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)がアリルグリシジルエーテルである上記[1]〜[9]のいずれか1つの多層容器、
[11]前記積層体がシール層をさらに有し、当該シール層が最内層である上記[1]〜[10]のいずれか1つの多層容器、
[12]炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)および変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を含む樹脂組成物からなる酸素吸収層と、酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のガスバリア層と、シール層とを有する積層体であって、前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、前記樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されており、前記酸素吸収層は、前記ガスバリア層および前記シール層の間に配設され、前記シール層が最表面に配設されている積層体、
[13]前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量が、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%である上記[12]の積層体、
[14]前記ガスバリア層が、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体の当該少なくとも1種の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和された中和物を含む層を有する積層体(F1);蒸着法により形成された無機物からなる層を有する積層体(F2);および、ポリ塩化ビニリデン系高分子またはそれを含む組成物の層(F3);からなる群から選ばれる少なくとも1つである上記[12]または[13]の積層体、
[15]前記炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)が、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものである上記[12]〜[14]のいずれか1つの積層体、
[16]前記熱可塑性樹脂(G)がポリオクテニレンである上記[15]の積層体、
[17]前記樹脂組成物が、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性されていないエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)をさらに含む上記[12]〜[16]のいずれか1つの積層体、
[18]前記樹脂組成物が遷移金属塩(H)をさらに含む上記[12]〜[17]のいずれか1つの積層体、
[19]前記遷移金属塩(H)がコバルト塩である上記[18]の積層体、
[20]前記樹脂組成物が、相容化剤(I)をさらに含む上記[12]〜[19]のいずれか1つの積層体、
[21]前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)がアリルグリシジルエーテルである上記[12]〜[20]のいずれか1つの積層体、
[22]前記シール層がポリオレフィン層である上記[12]〜[21]のいずれか1つの積層体、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多層容器は、特定の酸素吸収層とガスバリア層とが特定の位置に配設されており、ガスバリア性、および酸素吸収性に優れ、レトルト処理を行っても酸素の侵入が高度に抑制され、レトルト処理後に高温・多湿等の悪条件下に長期間保存した後においても内部の酸素濃度を低い水準に保つことができ、内容物の酸素等による劣化や変質を長期間にわたり抑制することができる。また、レトルト処理によっても白化や変形が生じにくい。また、本発明の積層体によれば上記多層容器を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料を例示する場合があるが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明の多層容器は、酸素吸収層とガスバリア層とを有する積層体から形成されており、当該ガスバリア層が酸素吸収層の外側に配設されている。そして当該酸素吸収層は炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)と、変性EVOH(C)とを含む樹脂組成物からなる。
【0015】
〔変性EVOH(C)〕
本発明に使用される上記変性EVOH(C)は、EVOH(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、EVOH(A)の水酸基に、当該二重結合を有するエポキシ化合物(B)が反応したものを用いることができる。
上記EVOH(A)としては、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性されていないEVOHを用いることができる。このようなEVOH(A)としては、例えば、エチレンと酢酸ビニル等のビニルエステルのみから形成されるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化したもの;あるいは、エチレンおよび酢酸ビニル等のビニルエステルと、これら以外の他の共重合可能なモノマーとから形成されるエチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化したものなどが挙げられる。エチレン−ビニルエステル系共重合体を構成する全モノマー単位に対する上記他の共重合可能なモノマー単位の占める割合は、30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。EVOH(A)のエチレン含有量は5〜60モル%の範囲内であることが好ましく、20〜55モル%の範囲内であることがより好ましく、25〜50モル%の範囲内であることがさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン含有量が5モル%以上であることにより、耐水性により優れる多層容器が得られる。また、EVOH(A)のエチレン含有量が60モル%以下であることにより、ガスバリア性により優れる多層容器が得られる。なお、このようなエチレン含有量を有するEVOH(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性することにより、当該EVOH(A)のエチレン含有量と同じエチレン含有量を有する変性EVOH(C)を得ることができる。
【0016】
また、EVOH(A)のケン化度は、90モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が90モル%以上であることによりガスバリア性および熱安定性により優れる多層容器が得られる。
【0017】
本発明において使用される変性EVOH(C)は、後述するように、EVOH(A)と二重結合を有するエポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させることによって得ることができるが、その際にEVOH(A)が過剰にアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(C)に着色が生じるおそれがある。また、変性EVOH(C)の粘度低下などが生じ、成形性が低下するおそれがある。また、後述するように、上記の反応を触媒を用いて行う場合には、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩が当該触媒を失活させることがある。そのため、EVOH(A)におけるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の含有率はできるだけ低いことが好ましく、具体的には、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩は、金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましい。同様に、EVOH(A)が含有するアルカリ土類金属塩は、金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましく、EVOH(A)にアルカリ土類金属塩が実質的に含まれていないことが特に好ましい。
【0018】
EVOH(A)の190℃、2160g荷重下におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1〜100g/10分の範囲内であることが好ましく、0.3〜30g/10分の範囲内であることがより好ましく、0.5〜20g/10分の範囲内であることがさらに好ましい。なお、EVOH(A)の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合には、2160g荷重下、融点以上の複数の温度でそれぞれMFRを測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸に、およびMFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿することにより得られる値を190℃、2160g荷重下におけるMFRとして採用することができる。
EVOH(A)としては、MFRが互いに異なる2種以上のEVOH(A)を混合するなどして、全体としてMFRが上記範囲内になるように調整したものを用いることもできる。
【0019】
本発明において使用される二重結合を有するエポキシ化合物(B)としては、分子中にエポキシ基を1個有し、かつ分子内に二重結合1個は複数個有する一価のエポキシ化合物を好ましく使用することができる。また、二重結合を有するエポキシ化合物(B)の分子量は500以下であることが好ましい。分子内にエポキシ基を2個以上有する二価以上のエポキシ化合物は、EVOH(A)の変性の際に架橋を起こす場合がある。上記二重結合の種類としては、反応性の観点から、1置換オレフィンであるビニル基、2置換オレフィンであるビニレン基もしくはビニリデン基、または3置換オレフィンであることが好ましく、ビニル基、ビニレン基、またはビニリデン基であることがより好ましく、ビニル基であることがさらに好ましい。
【0020】
また、二重結合を有するエポキシ化合物(B)は、変性の際に過剰に使用したものを得られた変性EVOH(C)から容易に除去することができるものであることが好ましい。このような除去方法の1つとしては、押出機のベントから揮発させる方法が現実的であり、したがって、二重結合を有するエポキシ化合物(B)としては、沸点が250℃以下であるものが好ましく、200℃以下であるものがより好ましい。また、二重結合を有するエポキシ化合物(B)の炭素数は4〜10の範囲内であることが好ましい。このような二重結合を有するエポキシ化合物(B)の具体例としては、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−4−ペンテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテルなどが挙げられ、アリルグリシジルエーテルが好ましい。また、上記の除去方法の別の1つとしては、押出機のベントから水洗除去する方法が挙げられ、この場合、二重結合を有するエポキシ化合物(B)は水に可溶であることが好ましい。
【0021】
EVOH(A)と二重結合を有するエポキシ化合物(B)との反応の条件は特に制限されないが、特許文献7に記載された方法と同様に、押出機内で行うことが好ましい。このとき、触媒を添加することが好ましく、その場合には、反応後にカルボン酸塩等、後述する触媒失活剤を添加することが好ましい。押出機内で溶融状態にあるEVOH(A)に対して二重結合を有するエポキシ化合物(B)を添加すると、当該二重結合を有するエポキシ化合物(B)の揮散を防止することができるとともに反応量を制御しやすくなることから好ましい。過剰に添加した二重結合を有するエポキシ化合物(B)は押出機のベントから除去することができる。また上記反応後、一旦ペレット化したのち、得られたペレットを温水で洗浄することにより、残存する二重結合を有するエポキシ化合物(B)を除去することができる。この場合、残存する触媒も除去することができる。
【0022】
上記の反応において使用される触媒は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものであることが好ましい。触媒に含まれる金属のイオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から、触媒は周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものが好ましい。これらの中でも、適度なルイス酸性を有していることから、周期律表第3族または第12族に属する金属のイオンを含むものがより好ましく、亜鉛、イットリウム、またはガドリニウムのイオンを含むものがさらに好ましい。中でも、亜鉛のイオンを含む触媒が、触媒活性が極めて高く、かつ得られる変性EVOH(C)の熱安定性がより優れたものとなることから最適である。
【0023】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒の使用量は、あまりに多いと溶融混練中にEVOH(A)がゲル化し易くなる傾向があり、またあまりに少なすぎると触媒の効果が十分に奏されなくなる傾向があることから、EVOH(A)の質量に対する金属イオンのモル数で0.1〜20μmol/gの範囲内であることが好ましく、0.5〜10μmol/gの範囲内であることがより好ましい。なお、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒の好適な使用量は、それに含まれる金属の種類や後述のアニオンの種類などによっても変動するので、それらの点も考慮した上で、適宜調整することができる。
【0024】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒における、当該金属のイオンのカウンターアニオンは特に限定されないが、その共役酸が硫酸と同等以上の強酸となる1価のアニオンであることが好ましい。これは、共役酸が強酸であるアニオンは、通常、求核性が低いのでエポキシ化合物と反応しにくく、求核反応によってアニオンが消費されて、触媒活性が失われることを防止できるからである。また、そのようなアニオンをカウンターイオンに有することで、触媒のルイス酸性が向上して触媒活性が向上することも上記の理由となる。
【0025】
共役酸が硫酸と同等以上の強酸となる1価のアニオンとしては、例えば、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン(BF)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF)、ヘキサフルオロアルシネートイオン(AsF)、ヘキサフルオロアンチモネートイオン等の4個以上のフッ素原子を持つアニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のテトラフェニルボレート誘導体イオン;テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)コバルト(III)イオン、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)鉄(III)イオン等のカルボラン誘導体イオンなどが例示される。これらの中でも、スルホン酸イオンが好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが最適である。
【0026】
上述のように、使用する触媒はその共役酸が硫酸と同等以上の強酸となる1価のアニオンを含むものであることが好適であるが、触媒中の全てのアニオン種が同一のアニオン種である必要はない。むしろ、その共役酸が弱酸であるアニオンを同時に有するものであることが好ましい。
【0027】
共役酸が弱酸となるアニオンの例としては、例えば、アルキルアニオン、アリールアニオン、アルコキシド、アリールオキシアニオン、カルボキシレート、アセチルアセトナートまたはその誘導体などが例示される。中でもアルコキシド、カルボキシレート、アセチルアセトナートまたはその誘導体が好適に使用される。
【0028】
触媒中の金属イオンのモル数に対する、共役酸が硫酸と同等以上の強酸となるアニオンのモル数は、0.2〜1.5倍であることが好ましい。上記倍率が0.2倍未満である場合には触媒活性が不十分となる傾向があり、そのため、より好適には0.3倍以上であり、さらに好適には0.4倍以上である。一方、上記倍率が1.5倍を超えると変性EVOH(C)がゲル化する傾向があり、そのため、より好適には1.2倍以下である。前記倍率は最適には1倍である。なお、原料のEVOH(A)が酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含む場合には、それと中和されて消費される分だけ、共役酸が硫酸と同等以上の強酸となるアニオンのモル数を増やしておくことができる。
【0029】
触媒の調製方法は特に限定されないが、好適な方法として、周期律表第3〜12族に属する金属を含む化合物を溶媒に溶解または分散させ、得られた溶液または懸濁液に、スルホン酸等、硫酸と同等以上の強酸を添加する方法が挙げられる。原料として用いる周期律表第3〜12族に属する金属を含む化合物としては、アルキル金属、アリール金属、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセトナートなどが挙げられる。ここで、かかる金属化合物の溶液または懸濁液に、強酸を加える際には、少量ずつ添加することが好ましい。こうして得られた触媒を含有する溶液は押出機に直接導入することができる。
【0030】
前記周期律表第3〜12族に属する金属を含む化合物を溶解または分散させる溶媒としては、有機溶媒、特にエーテル系溶媒が好ましい。これは、押出機内の温度でも反応しにくく、金属化合物の溶解性も良好だからである。エーテル系溶媒の例としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどが例示される。使用される溶媒は、周期律表第3〜12族に属する金属を含む化合物の溶解性に優れ、沸点が比較的低くて押出機のベントでほぼ完全に除去可能なものが好ましい。その点において、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンおよびテトラヒドロフランが特に好ましい。
【0031】
また、上述の触媒の調製方法において、添加する強酸の代わりに強酸のエステル、例えば、スルホン酸エステルなどを用いてもよい。強酸のエステルは、通常、強酸そのものより反応性が低いために、常温では金属化合物と反応しないことがあるが、200℃前後に保った高温の押出機内に投入することにより、押出機内において活性を有する触媒を生成することができる。
【0032】
触媒の調製方法としては、以下に説明する方法も採用することができる。まず、水溶性の前記周期律表第3〜12族に属する金属を含む化合物と、スルホン酸等、硫酸と同等以上の強酸とを、水溶液中で混合して触媒水溶液を調製する。なおこのとき、当該水溶液が適量のアルコールを含んでいても構わない。次に、得られた触媒水溶液をEVOH(A)と接触させた後、乾燥することによって目的とする触媒をEVOH(A)に配合された形で得ることができる。上記触媒水溶液をEVOH(A)と接触させる具体的な方法としては、例えば、EVOH(A)のペレット、特に多孔質の含水ペレットを前記触媒水溶液に浸漬する方法が好適なものとして挙げられる。このようにして得られたペレットは乾燥して乾燥ペレットにすることが好ましい。
上記のようにして得られた触媒を含有するEVOH(A)を押出機に導入することにより、続く二重結合を有するエポキシ化合物(B)との反応を行うことができる。
【0033】
触媒を使用した場合には、反応後に触媒失活剤を添加することが好ましい。使用される触媒失活剤としては、触媒のルイス酸としての働きを低下させることができるものを使用することができ、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩が使用される。その共役酸が硫酸と同等以上の強酸となる1価のアニオンを含む触媒を失活させるには、当該アニオンの共役酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが好ましい。こうすることによって、触媒を構成する周期律表第3〜12族に属する金属のイオンのカウンターイオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として触媒のルイス酸性を低下させることができる。触媒失活剤に使用される上記アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩およびリチウム塩を好適なものとして例示することができる。またアニオン種も特に限定されず、アルカリ金属塩としては、カルボン酸塩、リン酸塩およびホスホン酸塩を好適なものとして例示することができる。
【0034】
触媒失活剤として、例えば、酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムなどのような塩を使用しても、得られる変性EVOH(C)の熱安定性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンにルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOH(C)の分解およびゲル化に対して触媒として働くためであると考えられる。この点をさらに改善する方法として、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンに強く配位するキレート化剤を触媒失活剤として添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位することができ、それにより、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、熱安定性に優れた変性EVOH(C)を与えることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒に含まれるアニオンの共役酸である強酸を中和することもできる。
【0035】
触媒失活剤として使用されるキレート化剤として好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウムなどが例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N−(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウムなどが例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウムなどが例示される。中でも、ポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。
【0036】
触媒失活剤の添加量は特に限定されず、触媒に含まれる金属イオンの種類や、キレート剤の配位座の数などにより適宜調整されるが、あまりに少なすぎると触媒が十分に失活されない傾向があり、一方、あまりに多すぎると得られる変性EVOH(C)が着色したり製造コストが上昇したりする傾向があることから、触媒に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤のモル数の割合が0.2〜10となるようにすることが好ましく、0.5〜5となるようにすることがより好ましく、1〜3となるようにすることがさらに好ましい。
【0037】
触媒失活剤を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C)に対して、触媒失活剤を、それを含む溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、触媒失活剤は、水溶液として添加することが好ましい。
【0038】
触媒失活剤の押出機への添加位置は、EVOH(A)と二重結合を有するエポキシ化合物(B)とを、触媒の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、EVOH(A)と二重結合を有するエポキシ化合物(B)とを、触媒の存在下に溶融混練し、未反応の二重結合を有するエポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤を水溶液として添加する場合には、未反応の二重結合を有するエポキシ化合物(B)を除去する前に触媒失活剤を添加したのでは、ベントなどで除去して回収使用する二重結合を有するエポキシ化合物(B)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかる。なお、触媒失活剤の水溶液を添加した後には、ベントなどによって水分を除去することが好ましい。
【0039】
変性EVOH(C)の製造方法において、触媒失活剤を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、例えば、
(1)EVOH(A)の溶融工程;
(2)二重結合を有するエポキシ化合物(B)と触媒の混合物の添加工程;
(3)未反応の二重結合を有するエポキシ化合物(B)の除去工程;
(4)触媒失活剤の水溶液の添加工程;
(5)水分の減圧除去工程;
の各工程を順次経るものが例示される。
【0040】
反応を円滑に行う観点からは、系内から水分および酸素を除去することが好適である。このため、押出機内へ二重結合を有するエポキシ化合物(B)を添加するより前に、ベントなどを用いて水分および酸素を除去してもよい。
【0041】
二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性EVOH(C)の変性量としては、EVOH(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%の範囲内であることが好ましく、0.3〜5モル%の範囲内であることがより好ましく、0.5〜3モル%の範囲内であることがさらに好ましい。当該変性量が0.1モル%以上であることにより変性の効果を十分に発揮させることができる。また、当該変性量が10モル%以下であることにより、本発明の多層容器のガスバリア性および熱安定性をより向上させることができる。
【0042】
二重結合を有するエポキシ化合物(B)をEVOH(A)と反応させる際には、二重結合を有しないエポキシ化合物(E)を添加してもよい。これにより、得られるEVOH(C)のガスバリア性の低下を最小限に抑えながら、結晶性を低下させることができ、延伸性、熱成形性、柔軟性などの性能を改善することができる。このような二重結合を有しないエポキシ化合物(E)の具体例としては特許文献7に記載されているものを使用することができるが、これらの中でも、性能面から、エポキシエタン(エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(プロピレンオキシド)、1,2−エポキシブタン、グリシドールなどの分子量500以下の一価のエポキシ化合物が好ましい。二重結合を有しないエポキシ化合物(E)の炭素数は2〜8であることが好ましい。
【0043】
二重結合を有しないエポキシ化合物(E)を添加する方法は特に限定されない。しかしながら、生産効率の面からは、EVOH(A)、二重結合を有するエポキシ化合物(B)および二重結合を有しないエポキシ化合物(E)を同時に存在させて変性することが好ましい。具体的には、二重結合を有するエポキシ化合物(B)と二重結合を有しないエポキシ化合物(E)の混合物を添加する方法が好適な方法として例示される。このとき、触媒も同時に添加することがより好ましい。
【0044】
このような二重結合を有しないエポキシ化合物(E)による変性EVOH(C)の変性量は、あまりに多すぎるとガスバリア性の低下が大きくなる傾向があり、また、延伸性、熱成形性、柔軟性などの改善効果の面から、EVOH(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜30モル%の範囲内であることが好ましく、0.5〜20モル%の範囲内であることがより好ましく、1〜15モル%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0045】
変性EVOH(C)のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分の範囲内であることが好ましく、0.3〜30g/10分の範囲内であることがより好ましく、0.5〜20g/10分の範囲内であることがさらに好ましい。なお、変性EVOH(C)の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合には、2160g荷重下、融点以上の複数の温度でそれぞれMFRを測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸に、およびMFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿することにより得られる値を190℃、2160g荷重下におけるMFRとして採用することができる。
【0046】
〔炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)〕
本発明において使用される炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)[以下、単に「熱可塑性樹脂(G)」と略称することがある]としては、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものを好ましく使用することができる。ここで、熱可塑性樹脂(G)が「実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する」とは、当該熱可塑性樹脂(G)の主鎖に存在する炭素−炭素二重結合が、熱可塑性樹脂(G)の分子内の全炭素−炭素二重結合の90モル%以上であり、側鎖に存在する炭素−炭素二重結合が、熱可塑性樹脂(G)の分子内の全炭素−炭素二重結合の10モル%以下であることをいう。熱可塑性樹脂(G)の分子内の全炭素−炭素二重結合のモル数に対する、主鎖に存在する炭素−炭素二重結合のモル数の占める割合は、93モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂(G)の分子内の全炭素−炭素二重結合のモル数に対する、側鎖に存在する炭素−炭素二重結合のモル数の占める割合は、7モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0047】
熱可塑性樹脂(G)は、その分子内に炭素−炭素二重結合を有するため、酸素と効率よく反応することが可能であり、その結果、酸素吸収機能を発現する。なお、本明細書では、「炭素−炭素二重結合」には、芳香環中の炭素−炭素二重結合は含まないものとする。
熱可塑性樹脂(G)が有する炭素−炭素二重結合の量は、好適には0.001〜0.020mol/gの範囲内であり、より好適には0.005〜0.018mol/gの範囲内であり、さらに好適には0.007〜0.012mol/gの範囲内である。上記炭素−炭素二重結合の量が0.001mol/g未満である場合、得られる酸素吸収層の酸素吸収機能が不十分となる傾向があり、0.020mol/gを超える場合、熱可塑性樹脂(G)を他の樹脂と共に成形すると着色や異物欠点が生じ易くなる傾向がある。
【0048】
熱可塑性樹脂(G)の例としては、ポリオクテニレン、ポリヘプテニレン、ポリノルボルネン、ポリシクロペンタジエン、イソプレン2量体水添開環重合物などが挙げられる。上記イソプレン2量体水添開環重合物は、次式で示される。
−CX=CX−CH−CH−CY−CY−CH−CH
ここで、2個のXのうち、いずれか一方がメチル基で、もう一方が水素原子であり、そして4個のYのうち、いずれか1個がメチル基で、残る3個が水素原子である。
【0049】
熱可塑性樹脂(G)は、各種親水性基を有していてもよい。ここで親水性基としては、例えば、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エポキシ基、エステル基、カルボン酸無水物基、ホウ素含有極性基(例えば、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ボロン酸無水物基、ボロン酸塩基)などが挙げられる。これらの親水性基は、熱可塑性樹脂(G)のいずれの部位に存在していてもよい。
【0050】
上記熱可塑性樹脂(G)の重量平均分子量は、好適には1,000〜500,000の範囲内であり、より好適には10,000〜250,000の範囲内であり、さらに好適には60,000〜200,000の範囲内である。熱可塑性樹脂(G)の重量平均分子量が1,000未満の場合や500,000を超える場合には、得られる樹脂組成物の成形加工性、ハンドリング性、酸素吸収層とした場合の強度や伸度等の機械的性質が低下する傾向がある。
【0051】
熱可塑性樹脂(G)として、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものを用いる場合には、酸素吸収により炭素−炭素二重結合やそのアリル位が部分酸化され、あるいは切断されても、側鎖中の炭素−炭素二重結合が切断された場合のような低分子量の断片が生じにくく、臭気物質を発生しにくい。
【0052】
上記熱可塑性樹脂(G)は、環状オレフィンを、不活性溶媒中で、重合触媒、および必要に応じて連鎖移動剤の存在下で開環メタセシス重合する方法により製造することができる。この方法では、エチレンの副生がなく製造工程が複雑にならないという利点がある。
【0053】
環状オレフィンとしては、炭素数7以上の環状オレフィンが好ましく、例えば、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、ノルボルネン等のシクロモノエン;シクロオクタジエン、シクロデカジエン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン等のシクロジエン;シクロドデカトリエン等のシクロトリエンなどが挙げられる。これらは、アルコキシ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。これらの中でも、入手性、経済性を考慮すると、シクロオクテンが好ましい。
【0054】
開環メタセシス重合の重合触媒としては、例えば、遷移金属ハロゲン化物を主成分とする触媒(x−1)、遷移金属カルベン錯体触媒(x−2)などが挙げられる。遷移金属ハロゲン化物を主成分とする触媒(x−1)としては、遷移金属ハロゲン化物を主成分とし、助触媒として遷移金属以外の有機金属化合物を含むものが挙げられる。
【0055】
遷移金属ハロゲン化物としては、周期律表第4〜8族遷移金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、MoBr、MoBr、MoBr、MoCl、MoCl、MoF、MoOCl、MoOF等のモリブデンハロゲン化物;WBr、WCl、WBr、WCl、WCl、WCl、WF、WI、WOBr、WOCl、WOF、WCl(OCCl等のタングステンハロゲン化物;VOCl、VOBr等のバナジウムハロゲン化物;TiCl、TiBr等のチタンハロゲン化物などが挙げられる。
【0056】
上記助触媒として機能する遷移金属以外の有機金属化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリへキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリベンジルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジ−n−ブチルアルミニウムモノクロリド、ジエチルアルミニウムモノアイオダイド、ジエチルアルミニウムモノヒドリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン等の有機アルミニウム化合物;テトラメチルスズ、ジエチルジメチルスズ、テトラエチルスズ、ジブチルジエチルスズ、テトラブチルスズ、テトラオクチルスズ、トリオクチルスズフロリド、トリオクチルスズクロリド、トリオクチルスズブロミド、トリオクチルスズアイオダイド、ジブチルスズジフロリド、ジブチルスズジクロリド、ジブチルスズジブロミド、ジブチルスズジアイオダイド、ブチルスズトリフロリド、ブチルスズトリクロリド、ブチルスズトリブロミド、ジブチルスズトリアイオダイド等の有機スズ化合物;メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、フェニルリチウム等の有機リチウム化合物;n−ペンチルナトリウム等の有機ナトリウム化合物;メチルマグネシウムアイオダイド、エチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムブロミド、n−プロピルマグネシウムブロミド、tert−ブチルマグネシウムクロリド、アリールマグネシウムクロリド等の有機マグネシウム化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルカドミウム等の有機カドミウム化合物;トリメチルホウ素、トリエチルホウ素、トリ−n−ブチルホウ素、トリフェニルホウ素、トリス(パーフルオロフェニル)ホウ素、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(パーフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(パーフルオロフェニル)ボレート等の有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0057】
上記遷移金属カルベン錯体触媒(x−2)としては、周期律表第4〜8族遷移金属のカルベン錯体化合物を用いることができ、例えば、タングステンカルベン錯体触媒、モリブデンカルベン錯体触媒、レニウムカルベン錯体触媒、ルテニウムカルベン錯体触媒などが挙げられる。これらの中でもルテニウムカルベン錯体触媒が好ましい。ルテニウムカルベン錯体触媒の具体例としては、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド等のヘテロ原子含有カルベン化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウムカルベン錯体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
これらの重合触媒は1種を単独で使用しても、または2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、助触媒を必要とせず、しかも高活性であることから、遷移金属カルベン錯体触媒(x−2)を使用するのが好ましい。
【0059】
開環メタセシス重合の重合触媒の使用量は、重合触媒と重合反応に供する環状オレフィンとのモル比で、重合触媒:環状オレフィン=1:100〜1:2,000,000の範囲内であることが好ましく、1:500〜1:1,000,000の範囲内であることがより好ましく、1:1,000〜1:700,000の範囲内であることがさらに好ましい。触媒量が多すぎると反応後の触媒除去が困難となる傾向があり、少なすぎると十分な重合活性が得られにくくなる傾向がある。
【0060】
上記連鎖移動剤としては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等のα−オレフィン;2−ブテン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン等の内部オレフィンなどを好ましく使用することができる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
連鎖移動剤の使用量は、重合反応において充分な分子量のポリマーが生成可能な量であればよく、特に制限されない。例えば、環状オレフィンに対する連鎖移動剤のモル比で、環状オレフィン:連鎖移動剤=1,000:1〜20:1の範囲内であることが好ましく、800:1〜50:1の範囲内であることがより好ましい。
【0062】
上記不活性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の飽和脂肪族炭化水素(飽和脂環式炭化水素を含む);ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテルなどを使用することができる。溶媒除去が容易であること、および操作性を考慮すると、飽和脂肪族炭化水素の使用が好ましい。
【0063】
溶媒の使用量は特に限定されないが、使用される環状オレフィンに対して1〜1,000質量倍の範囲内であることが好ましく、2〜200質量倍の範囲内であることがより好ましく、3〜100質量倍の範囲内であることがさらに好ましい。
【0064】
開環メタセシス重合を実施する温度としては、使用する溶媒種、量などに左右されるため、必ずしも一定ではないが、−78〜200℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。重合は、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0065】
熱可塑性樹脂(G)がポリオクテニレンの場合の製造方法の一例を挙げると次のとおりである。まず、ポリオクテニレンは、シクロオクテンを原料とし、上記した重合触媒を使用して開環メタセシス重合を行うことにより製造することができる。具体的には、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド等の重合触媒を用い、上記した溶媒の存在下に開環メタセシス重合を実施するのが好ましい。重合は使用する溶媒の融点、沸点などによっても異なるが、72時間以内の時間で行うことが好ましい。
【0066】
上記開環メタセシス重合により得られる熱可塑性樹脂(G)中には、原料である環状オレフィンの2〜10量体程度のオリゴマーが生成しやすく、この生成を抑制することは困難であるが、臭気の観点から、熱可塑性重合体(G)における分子量1,000以下のオリゴマーの含有量は6質量%以下であることが好ましい。したがって、かかるオリゴマーを除去することが推奨される。このオリゴマーを除去する方法に特に制限はなく、例えば、重合終了後に重合触媒および溶媒を除去した後、加熱下に窒素等の不活性ガスを導入する方法、高真空下に加熱する方法、水等の共沸溶媒によって共沸除去する方法などが挙げられる。
【0067】
さらに、重合終了後に重合触媒および溶媒を除去し、得られた熱可塑性樹脂(G)を押出成形などの方法でストランド、チップ、またはペレットに加工した後に、分子量1,000を超える熱可塑性樹脂(G)を実質的に溶解しない有機溶媒に接触させて洗浄することでオリゴマーを除去することができる。かかる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテルなどが挙げられる。当該有機溶媒の使用量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂(G)に対して1〜10,000質量倍の範囲内であることが好ましく、10〜1,000質量倍の範囲内であることがより好ましく、操作性の観点からは20〜800質量倍の範囲内であることがさらに好ましい。有機溶媒で洗浄する温度に特に制限はないが、−10〜80℃の範囲内であることが好ましく、操作性を考慮すると0〜60℃の範囲内であることがより好ましい。洗浄の方法も特に限定されず、ストランド、チップ、またはペレットに加工した熱可塑性樹脂(G)を有機溶媒に浸漬する方法;ストランド、チップ、またはペレットに加工した熱可塑性樹脂(G)を有機溶媒に分散させて攪拌する方法;ストランド、チップ、またはペレットに加工した熱可塑性樹脂(G)を固定床方式のように固定し、有機溶媒を循環させる方法などが挙げられる。洗浄後、有機溶媒を分離し、残留した有機溶媒を、減圧下や不活性ガス下に留去するなどの方法により除去することで、オリゴマーの含有量の少ない熱可塑性樹脂(G)を得ることができる。このようにして得られる分子量1,000以下のオリゴマーの含有量が6質量%以下の熱可塑性樹脂(G)は、レトルト処理を行っても、該熱可塑性樹脂(G)からオリゴマーが溶出して他の材料に移行することが極めて少ない。
【0068】
〔遷移金属塩(H)〕
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層を構成する樹脂組成物は、上記した変性EVOH(C)および熱可塑性樹脂(G)の他に遷移金属塩(H)をさらに含むことが好ましい。当該樹脂組成物が遷移金属塩(H)を含むことにより、得られる酸素吸収層の酸素吸収機能をより向上させることができる。当該遷移金属塩(H)に含まれる遷移金属としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム、ルテニウムなどが挙げられる。これらの中でも、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルトが好ましく、マンガン、コバルトがより好ましく、コバルトがさらに好ましい。
【0069】
遷移金属塩(H)に含まれる遷移金属のカウンターイオンとしては、有機酸由来のアニオンが好ましく、かかる有機酸としては、例えば、酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸などが挙げられる。
遷移金属塩(H)としては、2−エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルトが好ましい。
【0070】
遷移金属塩(H)の含有量は、本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層を構成する樹脂組成物の質量に基づいて、遷移金属換算で1〜50,000ppmの範囲内であることが好ましく、5〜10,000ppmの範囲内であることがより好ましく、10〜5,000ppmの範囲内であることがさらに好ましい。当該樹脂組成物における遷移金属塩(H)の含有量が、遷移金属換算で1ppm以上であることにより、得られる酸素吸収層の酸素吸収機能が向上する。一方、当該樹脂組成物における遷移金属塩(H)の含有量が、遷移金属換算で50,000ppm以下であることにより、得られる酸素吸収層の熱安定性がより向上し、またゲル、異物欠点の発生を抑制することができる。
【0071】
〔EVOH(D)〕
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層を構成する樹脂組成物は熱可塑性樹脂(G)および変性EVOH(C)に加えて、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性されていないEVOH(D)[以下、単に「EVOH(D)」と略称することがある]を含むことができる。当該樹脂組成物がEVOH(D)を含むことにより、ガスバリア性により優れる多層容器を得ることができる。当該樹脂組成物が含むことのできるEVOH(D)としては、EVOH(A)として上記したものを用いることができる。
【0072】
〔相容化剤(I)〕
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層を構成する樹脂組成物は相容化剤(I)を含むことができる。樹脂組成物が相容化剤(I)を含むことにより、使用される樹脂間の相容性を向上させ、得られる酸素吸収層に、より安定したモルフォロジーを与えることができる。特に樹脂組成物が上記EVOH(D)を含む場合にこの効果が顕著になる。かかる相容化剤(I)の種類は特に限定されず、使用される熱可塑性樹脂(G)、変性EVOH(C)などの組み合わせにより適宜選択することができる。
【0073】
変性EVOH(C)やEVOH(D)は極性の高い樹脂であるため、相容化剤(I)としては、極性基を有する炭化水素系重合体であることが好ましい。相容化剤(I)が極性基を有する炭化水素系重合体の場合、当該重合体のベースとなる炭化水素重合体部分により、相容化剤(I)と熱可塑性樹脂(G)との親和性が良好になる。また、当該相容化剤(I)の極性基により、相容化剤(I)と変性EVOH(C)やEVOH(D)との親和性が良好になる。その結果、得られる酸素吸収層に安定したモルフォロジーを形成させることができる。
【0074】
上記の極性基を有する炭化水素系重合体のベースとなる炭化水素重合体部分を形成し得る単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、3−メチルペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、tert−ブトキシスチレン等のスチレン系化合物;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン系化合物;ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらは1種が単独で炭化水素重合体部分の形成に寄与していてもよいし、2種以上が炭化水素重合体部分の形成に寄与していてもよい。
【0075】
上記単量体からは、次のような炭化水素系重合体を形成することができる。
ポリエチレン(超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系重合体;ポリスチレン、スチレン−ジエン系ブロック共重合体(スチレン−イソプレンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体等)、その水素添加物等のスチレン系重合体など。
これらの中でも、スチレン−ジエン系ブロック共重合体(スチレン−イソプレンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体等)、その水素添加物等のスチレン系重合体が好ましい。
【0076】
上記極性基を有する炭化水素系重合体における極性基としては、例えば、スルホン酸基、スルフェン酸基、スルフィン酸基等の硫黄含有基;水酸基;エポキシ基;ケトン基、エステル基、アルデヒド基、カルボキシル基、酸無水物基等のカルボニル基含有基;ニトロ基、アミド基、ウレア基、イソシアナート基等の窒素含有基;ホスホン酸エステル基、ホスフィン酸エステル基等のリン含有基;ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ボロン酸無水物基、ボロン酸塩基等のホウ素含有基などが挙げられる。これらの中でも、極性基は、カルボキシル基、ホウ素含有基が特に好ましい。極性基がカルボキシル基である場合、得られる酸素吸収層は高い熱安定性を有する。特に、上記樹脂組成物に遷移金属塩(H)が過剰に含まれる場合、その熱安定性が低下する場合があるが、遷移金属塩(H)と共にカルボキシル基を有する相容化剤(I)が含まれていると、熱安定性が保持される。
【0077】
極性基を有する炭化水素系重合体の製造方法は特に限定されず、例えば、次の方法により製造することができる。
1)上記炭化水素重合体部分を形成し得る単量体と、極性基(または当該極性基を形成し得る基)を有する単量体とを共重合する方法;
2)上記炭化水素重合体部分を形成し得る単量体を重合する際に、極性基(または当該極性基を形成し得る基)を有する開始剤または連鎖移動剤を用いる方法;
3)上記炭化水素重合体部分を形成し得る単量体をリビング重合し、極性基(または当該極性基を形成し得る基)を有する単量体を停止剤(末端処理剤)として用いる方法;および
4)上記炭化水素重合体部分を形成し得る単量体を重合して重合体を得た後、当該重合体中の反応性の部分、例えば、炭素−炭素二重結合部分に、極性基(または当該極性基を形成し得る基)を有する単量体を反応により導入する方法。
上記1)の方法において、共重合を行う際には、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれの重合方法も採用され得る。
【0078】
このような極性基を有する相容化剤(I)の具体例は、例えば、特許文献12に詳細に開示されている。相容化剤(I)の中でも、ボロン酸エステル基を有するスチレン−ジエン系ブロック共重合体の水素添加物が好ましい。相容化剤(I)は1種を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
上記樹脂組成物における熱可塑性樹脂(G)の含有率は1〜30質量%の範囲内であることが好ましく、2〜20質量%の範囲内であることがより好ましく、3〜15質量%の範囲内であることがさらに好ましい。また、上記樹脂組成物における、変性EVOH(C)、EVOH(D)および相容化剤(I)の各含有率の合計は、70〜99質量%の範囲内であることが好ましく、80〜98質量%の範囲内であることがより好ましく、85〜97質量%の範囲内であることがさらに好ましい。上記樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(G)の含有率が30質量%より大きい場合、得られる酸素吸収層の、酸素ガス、二酸化炭素ガス等に対するガスバリア性が低下する傾向がある。一方、熱可塑性樹脂(G)の含有率が1質量%未満の場合、得られる酸素吸収層の酸素吸収機能が低下する傾向がある。
また、変性EVOH(C)、EVOH(D)および相容化剤(I)の各含有率の合計に占める変性EVOH(C)の含有率の割合は、5〜100質量%の範囲内であることが好ましく、10〜80質量%の範囲内であることがより好ましく、20〜60質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
なお、上記樹脂組成物は後述するようにその少なくとも一部が架橋されているが、樹脂組成物における上記各成分の含有率は、架橋による各成分の反応を考慮しない割合であり、通常は、架橋前の樹脂組成物における各成分の含有率に対応する。
【0080】
上記の樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤を配合することもできる。このような添加剤としては、例えば、増感剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、充填材などを挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲で配合することができる。これらの添加剤の具体例としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0081】
増感剤:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジフェニルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントンなど。
【0082】
硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、クメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエートなど。
【0083】
硬化促進剤:メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、メチル−p−トルイジン、ジメチル−p−トルイジン、メチル−2−ヒドロキシエチルアニリン、ジ−2−ヒドロキシエチル−p−トルイジン等のアミン、またはそれと塩酸、酢酸、硫酸、リン酸等との塩など。
【0084】
酸化防止剤:2,5−ジブチル−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピロネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)など。
【0085】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステルなど。
【0086】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、(2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなど。
【0087】
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化オレイン酸、ポリエチレンオキシド、カーボワックスなど。
【0088】
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、アゾ系顔料、酸化チタン、ベンガラなど。
【0089】
充填剤:グラスファイバー、マイカ、セライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、モンモリロナイトなど。
【0090】
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層を得るための成形方法は特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物、またはそれを構成する各成分を溶融成形することにより行ってもよいし、当該樹脂組成物、またはそれを構成する各成分を含む溶液を乾燥させることによって行ってもよい。溶融成形する場合、各成分を押出機に供給し溶融混練してそのまま成形してもよい。また各成分を溶融混練して一旦ペレット化してから成形してもよく、適宜好適な手段を採用することができる。
【0091】
溶融成形における成形温度は、各成分の融点などにより異なるが、溶融樹脂温度を120〜250℃の範囲内とすることが好ましい。
【0092】
溶融成形法としては、押出成形法、ブロー成形法、射出成形法等、任意の成形法を採用することができる。押出成形法としては、T−ダイ法、中空成形法、インフレーション法などが挙げられる。得られる成形体の形状は層状であることが好ましい。また、上記成形法により得られたフィルム、シート、テープ等の成形体を、一軸もしくは二軸延伸、または熱成形等の二次加工に供することも可能である。
【0093】
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層を構成する樹脂組成物は、その少なくとも一部が架橋されている。当該架橋は、前述のようにして樹脂組成物を成形して得られた成形体に対して行うことができ、具体的には、例えば、前記架橋前の成形体に、電子線、X線、γ線、紫外線および可視光線からなる群から選ばれる少なくとも1種を照射するか、または加熱を行うことによって、架橋を行うことができる。
【0094】
電子線、X線またはγ線を用いる場合、吸収線量が1kGy以上であることが好ましい。吸収線量は、より好適には1〜1,000kGyの範囲内であり、さらに好適には5〜500kGyの範囲内であり、特に好適には10〜200kGyの範囲内である。吸収線量が1kGy以上であることにより、得られる酸素吸収層の耐熱水性などをより向上させることができる。また、吸収線量が1,000kGy以下であることにより、EVOH(C)の分解による酸素吸収層の強度の大幅な低下や、着色等の問題を抑制することができる。
【0095】
上記成形体に電子線等を照射して架橋させると、変性EVOH(C)が有する側鎖の二重結合の寄与により架橋反応を進行させることができる。この際、熱可塑性樹脂(G)が有する二重結合にも架橋反応が生じて二重結合が消失し、酸素吸収層の酸素吸収性能が低下することが懸念される。しかしながら、熱可塑性樹脂(G)として、上記したような実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものを用いた場合、電子線照射後も酸素吸収性能の低下が抑制される。この理由は定かではないが、主鎖に存在する炭素−炭素二重結合は、側鎖に存在する炭素−炭素二重結合に比べて、電子線等を照射することによって生じるラジカルに対する反応性が低く、前述のような吸収線量では、反応に関与していないためと推定される。
【0096】
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層の厚さ(1層の厚さ)は、1〜300μmの範囲内であることが好ましく、3〜150μmの範囲内であることがより好ましく、5〜50μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0097】
本発明の多層容器を形成する積層体が有する酸素吸収層は酸素を吸収する能力を有する限り、その酸素吸収量に特に制限はないが、実施例において後述する方法により測定される酸素吸収量(積算値)が5ml/g以上であることが好ましく、10ml/g以上であることがより好ましく、30ml/g以上であることがさらに好ましく、50ml/g以上であることが特に好ましい。
【0098】
〔ガスバリア層〕
本発明の多層容器を形成する積層体は酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のガスバリア層を有する。
【0099】
ガスバリア層の酸素透過度が10ml/(m・day・atm)を超えると、得られる多層容器によって包装される内容物の劣化や変質を抑制できる期間が短くなる。そのため、ガスバリア層の酸素透過度は10ml/(m・day・atm)以下であることが必要であり、3ml/(m・day・atm)以下であることが好ましく、1ml/(m・day・atm)以下であることがより好ましく、0.8ml/(m・day・atm)以下であることがさらに好ましい。なお、ガスバリア層の酸素透過度(単位:ml/(m・day・atm))は、酸素透過度測定装置(例えば、モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN10/50」など)を用いて、20℃、65%RH条件下で、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で測定した値である。
【0100】
本発明において使用されるガスバリア層としては、上記の酸素透過度を有するものであれば特に制限されないが、レトルト処理後の酸素バリア性により優れることから、
(1)カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体の当該少なくとも1種の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和された中和物を含む層[以下、単に「中和物を含む層」と略称することがある]を有する積層体(F1);
(2)蒸着法により形成された無機物からなる層を有する積層体(F2);および
(3)ポリ塩化ビニリデン系高分子[以下、「PVDC」と略称することがある]またはそれを含む組成物の層(F3);
からなる群から選ばれる少なくとも1つを好ましく使用することができる。なお、上記例示から明らかなように、本発明において使用されるガスバリア層は、単層構造を有していても、2層以上の層構成を有する積層体の構造を有していてもよい。
【0101】
上記した積層体(F1)、積層体(F2)および層(F3)について、積層体(F1)は、積層体(F2)に比べて屈曲後の酸素バリア性に優れ、また層(F3)に比べてレトルト処理前後の酸素バリア性に優れる。そのため、上記ガスバリア層は積層体(F1)であることが好ましい。
【0102】
〔積層体(F1)〕
積層体(F1)は、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体[以下、単に「カルボン酸含有重合体」と略称することがある]の中和物を含む層を有する。そして、当該中和物においては、カルボン酸含有重合体が有するカルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基[以下、「官能基(f)」と略称することがある]に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されている。
【0103】
カルボン酸含有重合体は、重合体1分子中に、1個以上のカルボキシル基または1個以上のカルボン酸無水物基を有する。カルボン酸含有重合体の具体例としては、例えば、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、マレイン酸単位、イタコン酸単位等の、カルボキシル基を1個以上有する構造単位を重合体1分子中に1個以上有するものが挙げられる。また別の具体例としては、例えば、無水マレイン酸単位、無水フタル酸単位等の、カルボン酸無水物の構造を有する構造単位を重合体1分子中に1個以上有するものが挙げられる。カルボキシル基を1個以上有する構造単位および/またはカルボン酸無水物の構造を有する構造単位[以下、両者をまとめて「カルボン酸含有単位」と略称することがある]は、カルボン酸含有重合体中に1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
【0104】
カルボン酸含有重合体の全構造単位に占めるカルボン酸含有単位の含有率を10モル%以上とすると、高湿度下でのガスバリア性がより向上した積層体(F1)が得られるため好ましい。当該含有率は、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましい。なお、カルボン酸含有重合体が、カルボキシル基を1個以上有する構造単位と、カルボン酸無水物の構造を有する構造単位の両方を含む場合、両者の含有率の合計が上記の範囲内であることが好ましい。
【0105】
カルボン酸含有重合体は、カルボン酸含有単位のみからなっていてもよいが、カルボン酸含有単位以外の他の構造単位をさらに有していてもよい。カルボン酸含有重合体が有していてもよい、カルボン酸含有単位以外の他の構造単位は、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル単位、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位、メタクリル酸ブチル単位等の(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構造単位;ギ酸ビニル単位、酢酸ビニル単位等のビニルエステルから誘導される構造単位;スチレン単位、p−スチレンスルホン酸単位等の芳香族ビニルから誘導される構造単位;エチレン単位、プロピレン単位、イソブチレン単位等のオレフィンから誘導される構造単位などが挙げられる。カルボン酸含有重合体は、これらの他の構造単位の1種のみを有していても、2種以上を有していてもよい。
【0106】
カルボン酸含有重合体が、2種以上の構造単位を有する場合、当該カルボン酸含有重合体は、交互共重合体の形態、ランダム共重合体の形態、ブロック共重合体の形態、テーパー型の共重合体の形態のいずれであってもよい。
【0107】
カルボン酸含有重合体の好ましい例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体を挙げることができる。カルボン酸含有重合体は、1種類であってもよいし、2種類以上の重合体の混合物であってもよい。例えば、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種の重合体を用いてもよい。また、上記した他の構造単位を有するカルボン酸含有重合体の具体例としては、例えば、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体のケン化物などが挙げられる。
【0108】
カルボン酸含有重合体の分子量は特に制限されないが、得られる積層体(F1)のガスバリア性が優れる点、および落下衝撃強さ等の力学的物性が優れる点から、数平均分子量が5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。カルボン酸含有重合体の分子量の上限は特に制限がないが、一般的には1,500,000以下である。
【0109】
また、カルボン酸含有重合体の分子量分布も特に制限されるものではないが、積層体(F1)のヘイズ等の表面外観、および後述する溶液(S)の貯蔵安定性などが良好になる観点から、カルボン酸含有重合体の重量平均分子量/数平均分子量の比で表される分子量分布が1〜6の範囲内であることが好ましく、1〜5の範囲内であることがより好ましく、1〜4の範囲内であることがさらに好ましい。
【0110】
上記中和物においては、カルボン酸含有重合体が有するカルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されている。換言すれば、カルボン酸含有重合体の中和物は、2価以上の金属イオンで中和されたカルボキシル基を含む。
【0111】
上記中和物において、中和前のカルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の全モル数に対する、2価以上の金属イオンで中和されたカルボキシル基のモル数の占める割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、60モル%以上であることが特に好ましい。上記割合の上限に特に制限はないが、例えば、99モル%以下とすることができる。なお、カルボン酸無水物基は、−COO−基を2つ含んでいるとみなす。すなわち、カルボン酸含有重合体がaモルのカルボキシル基とbモルのカルボン酸無水物基とを有する場合、カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の全モル数は(a+2b)モルとなる。カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されることによって、積層体(F1)は、乾燥条件下および高湿条件下の双方において、良好なガスバリア性を示すことができる。
【0112】
上記中和物における、カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の中和度(イオン化度)は、上記中和物を含む層の赤外吸収スペクトルをATR(全反射測定)法で測定するか、または、積層体(F1)から上記中和物またはそれを含む組成物をかきとり、その赤外吸収スペクトルをKBr法で測定することによって求めることができる。中和前(イオン化前)のカルボキシル基またはカルボン酸無水物基のC=O伸縮振動に帰属されるピークは1600cm−1〜1850cm−1の範囲に観察され、中和(イオン化)された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動は1500cm−1〜1600cm−1の範囲に観察されるため、赤外吸収スペクトルにおいて両者を分離して評価することができる。具体的には、それぞれの範囲における最大の吸光度からその比を求め、予め作成した検量線を用いて上記中和物における、カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の中和度(イオン化度)を算出することができる。なお、検量線は、中和度が異なる複数の標準サンプルについて赤外吸収スペクトルを測定することによって作成することができる。
【0113】
官能基(f)に含まれる−COO−基を中和する金属イオンは2価以上であることが重要である。官能基(f)が未中和または後述する1価のイオンのみによって中和されている場合には、良好なガスバリア性が得られにくい。但し、2価以上の金属イオンに加えて少量の1価のイオン(陽イオン)で官能基(f)に含まれる−COO−基が中和されている場合には、積層体(F1)のヘイズが低減して表面の外観が良好になる。このように、本発明は、カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)が、2価以上の金属イオンと1価のイオンとの双方で中和される場合を含む。
【0114】
2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、2価の鉄イオン、3価の鉄イオン、亜鉛イオン、2価の銅イオン、鉛イオン、2価の水銀イオン、バリウムイオン、ニッケルイオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン等を挙げることができる。これらの中でも、2価以上の金属イオンは、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよび亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0115】
上記中和物において、中和前のカルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の全モル数に対する、1価のイオンで中和されたカルボキシル基のモル数の占める割合は0.1〜10モル%の範囲内であることが好ましく、0.5〜5モル%の範囲内であることがより好ましく、0.7〜3モル%の範囲内であることがさらに好ましい。但し、1価のイオンによる中和度が高い場合には、積層体(F1)のガスバリア性が低下する傾向がある。
1価のイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられ、アンモニウムイオンが好ましい。
【0116】
上記中和物を含む層は、当該中和物のみからなる層であってもよいが、当該中和物を含む組成物からなる層であってもよい。上記中和物を含む層における当該中和物の含有率は、得られる多層容器のガスバリア性がより良好になることから、25〜100質量%の範囲内であることが好ましく、50〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがさらに好ましく、60〜85質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0117】
上記中和物を含む組成物は、上記カルボン酸含有重合体の中和物に加えて、ハロゲン原子およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの特性基(原子団)が結合した金属原子を含む少なくとも1種の化合物(L)の加水分解縮合物を含むことが好ましい。化合物(L)の加水分解縮合物を含むことで極めて良好なガスバリア性を示すガスバリア層が得られる。当該化合物(L)の加水分解縮合物は、組成物に含まれる他の成分(例えば、上記カルボン酸含有重合体の中和物等)と反応していてもよい。
【0118】
化合物(L)としては、以下の化合物(α)および/または化合物(β)の少なくとも1種を用いることができる。以下、化合物(α)および化合物(β)について説明する。
【0119】
化合物(α)は、次に示す化学式(I)で表される少なくとも1種の化合物である。
m−n−k・・・(I)
化学式(I)中、Mは、Si、Al、Ti、Zr、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Ga、Y、Ge、Pb、P、Sb、V、Ta、W、LaおよびNdから選択される金属原子を表す。Mは、好ましくはSi、Al、TiまたはZrであり、特に好ましくはSiである。
また、化学式(I)中、Xは−ORまたはハロゲン原子を表す。ここで、Rはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基(好ましくは、メチル基またはエチル基)を表す。Xが表すハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
また、化学式(I)中、Yは水素原子またはアルキル基を表す。当該アルキル基としては、Rが表すアルキル基として前記したものを例示することができる。
また、化学式(I)中、Zは、カルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアルキル基、カルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアラルキル基、カルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアリール基、またはカルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアルケニル基(好ましくは、カルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアルキル基)を表す。ここで、カルボキシル基との反応性を有する官能基としては、エポキシ基、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、オキサゾリン基、カルボジイミド基等が挙げられ、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、ハロゲン原子が好ましい。上記官能基で置換されるアルキル基としては、Rが表すアルキル基として前記したものを例示することができる。上記官能基で置換されるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。上記官能基で置換されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。上記官能基で置換されるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。
また、化学式(I)中、mは金属原子Mの原子価と等しい。nは1〜(m−1)の整数を表す。また、kは0〜(m−2)の整数を表す。そして、1≦n+k≦(m−1)である。
【0120】
化合物(α)の具体例としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ブロモプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルメチルジメトキシシラン、クロロメチルジメチルメトキシシラン、2−クロロエチルメチルジメトキシシラン、2−クロロエチルジメチルメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルジメチルメトキシシラン、2−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトエチルジメチルメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、イソシアナトメチルメチルジメトキシシラン、イソシアナトメチルジメチルメトキシシラン、2−イソシアナトエチルメチルジメトキシシラン、2−イソシアナトエチルジメチルメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルジメチルメトキシシラン、ウレイドメチルメチルジメトキシシラン、ウレイドメチルジメチルメトキシシラン、2−ウレイドエチルメチルジメトキシシラン、2−ウレイドエチルジメチルメトキシシラン、3−ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルジメチルメトキシシラン、ビス(クロロメチル)メチルクロロシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロプロピルトリメトキシシラン、4−クロロブチルトリメトキシシラン、5−クロロペンチルトリメトキシシラン、6−クロロヘキシルトリメトキシシラン、ビス(クロロメチル)ジメトキシシラン、ビス(クロロエチル)ジメトキシシラン、ビス(クロロプロピル)ジメトキシシラン、トリス(クロロメチル)メトキシシラン、トリス(クロロエチル)メトキシシラン、トリス(クロロプロピル)メトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4−メルカプトブチルトリメトキシシラン、5−メルカプトペンチルトリメトキシシラン、6−メルカプトヘキシルトリメトキシシラン、ビス(メルカプトメチル)ジメトキシシラン、ビス(メルカプトエチル)ジメトキシシラン、ビス(メルカプトプロピル)ジメトキシシラン、トリス(メルカプトメチル)メトキシシラン、トリス(メルカプトエチル)メトキシシラン、トリス(メルカプトプロピル)メトキシシラン、フルオロメチルトリメトキシシラン、2−フルオロエチルトリメトキシシラン、3−フルオロプロピルトリメトキシシラン、ブロモメチルトリメトキシシラン、2−ブロモエチルトリメトキシシラン、ヨードメチルトリメトキシシラン、2−ヨードエチルトリメトキシシラン、3−ヨードプロピルトリメトキシシラン、(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、(クロロメチル)フェニルエチルトリメトキシシラン、1−クロロエチルトリメトキシシラン、2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、(3−クロロシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(4−クロロシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(メルカプトメチル)フェニルトリメトキシシラン、(メルカプトメチル)フェニルエチルトリメトキシシラン、1−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−(メルカプトメチル)アリルトリメトキシシラン、(3−メルカプトシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(4−メルカプトシクロヘキシル)トリメトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコンアミド、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4−ヒドロキシブチルアミド、イソシアナトメチルトリメトキシシラン、2−イソシアナトエチルトリメトキシシラン、2−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、4−イソシアナトブチルトリメトキシシラン、5−イソシアナトペンチルトリメトキシシラン、6−イソシアナトヘキシルトリメトキシシラン、ビス(イソシアナトメチル)ジメトキシシラン、ビス(イソシアナトエチル)ジメトキシシラン、ビス(イソシアナトプロピル)ジメトキシシラン、トリス(イソシアナトメチル)メトキシシラン、トリス(イソシアナトエチル)メトキシシラン、トリス(イソシアナトプロピル)メトキシシラン、ウレイドメチルトリメトキシシラン、2−ウレイドエチルトリメトキシシラン、2−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、4−ウレイドブチルトリメトキシシラン、5−ウレイドペンチルトリメトキシシラン、6−ウレイドヘキシルトリメトキシシラン、ビス(ウレイドメチル)ジメトキシシラン、ビス(ウレイドエチル)ジメトキシシラン、ビス(ウレイドプロピル)ジメトキシシラン、トリス(ウレイドメチル)メトキシシラン、トリス(ウレイドエチル)メトキシシラン、トリス(ウレイドプロピル)メトキシシランなどが挙げられ、これらの化合物のメトキシ基の部分を、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基といったアルコキシ基や塩素基に代えた化合物を用いてもよい。
【0121】
これらの中でも、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0122】
また、化合物(β)は、次に示す化学式(II)で表される少なくとも1種の化合物である。
p−q・・・(II)
化学式(II)中、Mは、Si、Al、Ti、Zr、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Ga、Y、Ge、Pb、P、Sb、V、Ta、W、LaおよびNdから選択される金属原子を表す。Mは、好ましくはSi、Al、TiまたはZrであり、特に好ましくはSi、AlまたはTiである。
また、化学式(II)中、Xは−ORまたはハロゲン原子を表す。ここで、Rはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基(好ましくは、メチル基またはエチル基)を表す。Xが表すハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
また、化学式(II)中、Yは、アルキル基、アラルキル基、アリール基またはアルケニル基を表す。Yが表すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−オクチル基等が挙げられる。また、Yが表すアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。また、Yが表すアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。また、Yが表すアルケニル基としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。
また、化学式(II)中、pは金属原子Mの原子価と等しい。qは1〜pの整数を表す。
【0123】
化学式(I)および(II)において、MとMとは同じであってもよいし異なっていてもよい。また、XとXとは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0124】
化合物(β)の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン等のシリコンアルコキシド;ビニルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン等のハロゲン化シラン;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン等のアルコキシチタン化合物;テトラクロロチタン等のハロゲン化チタン;トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、メチルジイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、ジエトキシアルミニウムクロリド等のアルコキシアルミニウム化合物;テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、メチルトリイソプロポキシジルコニウム等のアルコキシジルコニウム化合物などが挙げられる。
【0125】
化合物(L)が加水分解されると、化合物(L)のハロゲンおよびアルコキシ基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属元素が酸素を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物となる。
【0126】
化合物(L)の加水分解縮合物は、縮合度(P)が65〜99%の範囲内であることが好ましく、70〜99%の範囲内であることがより好ましく、75〜99%の範囲内であることがさらに好ましい。化合物(L)の加水分解縮合物の縮合度(P)(%)は、以下のようにして算出することができる。
【0127】
化合物(L)の1分子中のアルコキシ基とハロゲン原子の合計数をaとし、当該化合物(L)の加水分解縮合物中、縮合したアルコキシ基とハロゲン原子の合計がi(個)である化合物(L)の割合が、全化合物(L)中のyi(%)である時、iが1〜aの整数(1とaを含む)のそれぞれの値について{(i/a)×yi}を算出し、それらを加算する。すなわち、縮合度(P)(%)は、以下の数式から求めることができる。
【0128】
【数1】


【0129】
上記中和物を含む層中の化合物(L)の加水分解縮合物における、上記したyiの値は固体のNMR(DD/MAS法)等によって測定することができる。
【0130】
化合物(L)の加水分解縮合物は、化合物(L)、化合物(L)が部分的に加水分解したもの、化合物(L)が完全に加水分解したもの、化合物(L)が部分的に加水分解縮合したもの、化合物(L)が完全に加水分解し、その一部が縮合したもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどを原料として、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法で製造することができる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、例えば、2〜10個程度の分子が加水分解縮合して得られる縮合物を原料として用いることができる。具体的には、例えば、テトラメトキシシランを加水分解縮合させて、2〜10量体の線状縮合物としたものなどを原料として用いることができる。
【0131】
上記中和物を含む層中の化合物(L)の加水分解縮合物において、縮合される分子の数は、加水分解縮合に際して使用される水の量、触媒の種類や濃度、加水分解縮合を行う温度などによって制御することができる。
【0132】
化合物(L)の加水分解縮合物の具体的な製造方法に特に限定はないが、ゾルゲル法の代表的な一例として、上記した原料に水と酸とアルコールとを加えることによって、加水分解および縮合を行う方法が挙げられる。
【0133】
以下では、化合物(L)を金属アルコキシド(アルコキシ基が結合した金属を含む化合物)として説明する場合があるが、金属アルコキシドに代えて、ハロゲンが結合した金属を含む化合物を用いてもよい。
【0134】
化合物(L)は、上述したように、化合物(α)および/または化合物(β)の少なくとも1種とすることができる。化合物(L)が、化合物(α)のみを含むか、または化合物(α)と化合物(β)の両方を含む場合には、積層体(F1)のガスバリア性を向上させることができることから好ましい。そして、化合物(L)が、実質的に、化合物(α)と化合物(β)の両方からなり、さらに化合物(α)/化合物(β)のモル割合が、0.5/99.5〜40/60の範囲内にあることがより好ましい。化合物(α)と化合物(β)とをこの割合で併用すると、積層体(F1)のガスバリア性、引張り強伸度等の力学的物性、外観、取り扱い性などの性能を向上させることができる。化合物(α)/化合物(β)のモル割合は、3/97〜40/60の範囲内であることがより好ましく、5/95〜30/70の範囲内であることがさらに好ましい。
【0135】
上記中和物を含む層における化合物(L)の加水分解縮合物の含有率(但し、他の成分と反応している場合には反応する前の状態として考えるものとする)は、得られる多層容器のガスバリア性がより良好になることから、5〜50質量%の範囲内であることが好ましく、10〜45質量%の範囲内であることがより好ましく、15〜40質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0136】
上記中和物を含む組成物は、2つ以上の水酸基を有する化合物をさらに含んでいてもよく、当該2つ以上の水酸基を有する化合物は、組成物に含まれる他の成分(例えば、上記カルボン酸含有重合体の中和物等)と反応していてもよい。特に2つ以上の水酸基を有する化合物がカルボン酸含有重合体の中和物と反応してエステル結合を形成している場合には、得られるガスバリア層の伸長後のガスバリア性がより向上する。
【0137】
上記2つ以上の水酸基を有する化合物には、低分子量の化合物および高分子量の化合物が含まれる。上記2つ以上の水酸基を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、多糖類(でんぷん等)、多糖類(でんぷん等)から誘導される多糖類誘導体などが挙げられる。
【0138】
上記中和物を含む層における2つ以上の水酸基を有する化合物の含有率(但し、他の成分と反応している場合には反応する前の状態として考えるものとする)は、0.5〜50質量%の範囲内であることが好ましく、1〜45質量%の範囲内であることがより好ましく、2〜40質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0139】
積層体(F1)は、上記中和物を含む層が基材の少なくとも一方の面に積層されたものであることが好ましい。ここで、上記中和物を含む層は、基材の一方の面のみに積層されていてもよいし、基材の両方の面に積層されていてもよい。基材の両方の面に上記中和物を含む層を積層した積層体は、後述する他の樹脂層(フィルム等)などを貼り合わせるなどの後加工がしやすいという利点がある。
【0140】
積層体(F1)において、上記中和物を含む層の厚さは特に制限されないが、0.1〜100μmの範囲内にあることが好ましい。当該厚さが0.1μm以上であることにより、積層体(F1)のガスバリア性を向上させることができる。また、当該厚さが100μm以下であることにより、積層体(F1)の加工時、運搬時、使用時などに上記中和物を含む層にクラックが入りにくくなる。上記中和物を含む層の厚さは、0.1〜50μmの範囲内であることがより好ましく、0.1〜20μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0141】
上記基材としては、透明な熱可塑性樹脂フィルムや熱硬化性樹脂フィルムを用いることができる。中でも熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の多層容器を食品包装用として用いる場合に特に有用である。なお、基材は複数の材料からなる多層構造を有していてもよい。
【0142】
上記熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂などを成形加工したフィルムを挙げることができる。本発明の多層容器を食品包装用として用いる場合には、基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、またはナイロン66からなるフィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、またはナイロン66からなるフィルムであることがより好ましい。熱可塑性樹脂フィルムは、無延伸のフィルム、延伸されたフィルムのいずれでもよいが、成形加工性の観点から延伸されたフィルムが好ましい。
【0143】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さとしては特に限定されるものではないが、機械的強靭性、耐衝撃性、耐突刺し特性の観点から1〜200μmの範囲内にあることが好ましく、5〜100μmの範囲内にあることがより好ましい
【0144】
上記基材は、上記中和物を含む層と積層される側に、接着層(T)を有していてもよい。この構成によれば、基材と上記中和物を含む層との接着性を高めることができる。当該接着層(T)は公知の接着剤から形成することができ、具体的な形成方法としては、例えば、上記した熱可塑性樹脂フィルムや熱硬化性樹脂フィルム等の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理する方法が挙げられる。
【0145】
積層体(F1)の全体の厚さとしては、特に限定されるものではないが、機械的強靭性、耐衝撃性、耐突き刺し特性などの観点から1〜300μmの範囲内にあることが好ましく、5〜150μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0146】
積層体(F1)は、例えば、化合物(L)の加水分解縮合物と、カルボン酸含有重合体とを含む組成物からなる層を基材上に形成し(第1の工程)、次いで、基材上に形成された当該組成物からなる層を、2価以上の金属イオンを含む溶液に接触させる(第2の工程;以下、この工程を「イオン化工程」ということがある)ことにより製造することができる。
【0147】
第1の工程は、例えば、化合物(L)、化合物(L)が部分的に加水分解したもの、化合物(L)が完全に加水分解したもの、化合物(L)が部分的に加水分解縮合したもの、および、化合物(L)が完全に加水分解し、その一部が縮合したものから選ばれる少なくとも1種[以下、「化合物(L)系成分」と略称することがある]とカルボン酸含有重合体とを含む溶液(S)を調製する工程と、溶液(S)を基材の少なくとも一方の面に塗工して乾燥させて化合物(L)系成分を含む層を形成する工程とによって実施することができる。溶液(S)の乾燥は、溶液(S)に含まれる溶媒を除去することによって実施することができる。
【0148】
なお、溶液(S)に含まれるカルボン酸含有重合体においては、上述したように、官能基(f)に含まれる−COO−基の一部(例えば、0.1〜10モル%)が1価のイオンによって中和されていてもよい。
【0149】
次に、第1の工程により基材上に形成された層を、2価以上の金属イオンを含む溶液に接触させる(第2の工程)。第2の工程によって、層中のカルボン酸含有重合体に含まれる官能基(f)に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されて、上記したカルボン酸含有重合体の中和物となる。このとき、2価以上の金属イオンで中和される割合(イオン化度)は、金属イオンを含む溶液の温度、金属イオン濃度、および金属イオンを含む溶液への浸漬時間といった条件を変更することによって調整することができる。
【0150】
第2の工程は、例えば、形成した層に2価以上の金属イオンを含む溶液を吹きつけたり、基材と基材上の層とを共に2価以上の金属イオンを含む溶液に浸漬したりすることによって行うことができる。
【0151】
溶液(S)は、化合物(L)系成分、カルボン酸含有重合体、および溶媒を用いて調製することができ、具体的には、例えば、
(1)カルボン酸含有重合体を溶解させた溶液に、化合物(L)系成分を添加して混合する方法;
(2)カルボン酸含有重合体を溶解させた溶液に、化合物(L)系成分である化合物(α)を加え、その後、化合物(L)系成分を添加して混合する方法;
(3)溶媒存在下または無溶媒下で化合物(L)系成分からオリゴマー(加水分解縮合物の1種)を調製し、このオリゴマーと、カルボン酸含有重合体を溶解させた溶液とを混合する方法;
などが挙げられる。なお、化合物(L)系成分やそれから調製されたオリゴマーは、単独で溶液と混合してもよいし、それらを溶解させた溶液の形態で溶液と混合してもよい。
【0152】
溶液(S)の調製方法として上記(3)の方法を採用することによって、ガスバリア性により優れる積層体(F1)が得られる。以下、(3)の方法について、より具体的に説明する。
【0153】
(3)の方法は、カルボン酸含有重合体を溶媒に溶解して溶液を調製する工程(St1)と、化合物(L)系成分を特定の条件下で加水分解縮合させてオリゴマーを調製する工程(St2)と、工程(St1)で得られる溶液と工程(St2)で得られるオリゴマーとを混合する工程(St3)とにより実施することができる。
【0154】
工程(St1)において、カルボン酸含有重合体を溶解させるために使用される溶媒は、カルボン酸含有重合体の種類に応じて選択すればよい。例えば、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸等の水溶性の重合体である場合には、水が好適である。また、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体やスチレン−無水マレイン酸共重合体等の重合体の場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性物質を含有する水が好適である。また、工程(St1)においては、カルボン酸含有重合体の溶解の妨げにならない限り、メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどを併用することもできる。
【0155】
工程(St2)においては、化合物(L)系成分、酸触媒、水および必要に応じて有機溶媒を含む反応系中において、化合物(L)系成分を加水分解縮合させてオリゴマーを得ることが好ましい。具体的には、公知のゾルゲル法で採用されている手法を適用することができる。化合物(L)系成分として化合物(L)を用いると、ガスバリア性がより高い積層体(F1)が得られる。
【0156】
工程(St2)で用いられる酸触媒としては、公知の酸触媒を用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。その中でも塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が特に好ましい。酸触媒の好ましい使用量は、使用する触媒の種類によって異なるが、化合物(L)系成分の金属原子1モルに対して、1×10−5〜10モルの範囲内となる割合であることが好ましく、1×10−4〜5モルの範囲内となる割合であることがより好ましく、5×10−4〜1モルの範囲内となる割合であることがさらに好ましい。酸触媒の使用量がこの範囲にある場合、ガスバリア性が高い積層体(F1)が得られる。
【0157】
また、工程(St2)における水の好ましい使用量は、化合物(L)系成分の種類によって異なるが、化合物(L)系成分のアルコキシ基またはハロゲン原子(両者が混在する場合はその合計)1モルに対して、0.05〜10モルの範囲内となる割合であることが好ましく、0.1〜4モルの範囲内となる割合であることがより好ましく、0.2〜3モルの範囲内となる割合であることがさらに好ましい。水の使用量がこの範囲にある場合、得られる積層体(F1)のガスバリア性が特に優れたものとなる。なお、工程(St2)において、塩酸のように水を含有する成分を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
【0158】
さらに、工程(St2)の反応系においては、必要に応じて有機溶媒を使用してもよい。使用される有機溶媒は化合物(L)系成分が溶解する溶媒であれば特に限定されない。例えば、有機溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコールが好適に用いられ、化合物(L)系成分が有するアルコキシ基と同種の分子構造(アルコキシ成分)を有するアルコールがより好適に用いられる。具体的には、テトラメトキシシランに対してはメタノールが好ましく、テトラエトキシシランに対してはエタノールが好ましい。有機溶媒の使用量は特に限定されないが、化合物(L)系成分の濃度が1〜90質量%の範囲内となる量であることが好ましく、10〜80質量%の範囲内となる量であることがより好ましく、10〜60質量%の範囲内となる量であることがさらに好ましい。
【0159】
工程(St2)において、反応系中において化合物(L)系成分の加水分解縮合を行う際に、反応系の温度は必ずしも限定されるものではないが、好ましくは2〜100℃の範囲内であり、より好ましくは4〜60℃の範囲内であり、さらに好ましくは6〜50℃の範囲内である。反応時間は触媒の量、種類等の反応条件に応じて相違するが、好ましくは0.01〜60時間の範囲内であり、より好ましくは0.1〜12時間の範囲内であり、さらに好ましくは0.1〜6時間の範囲内である。また、反応系の雰囲気は必ずしも限定されるものではなく、空気雰囲気、二酸化炭素雰囲気、窒素気流下、アルゴン雰囲気といった雰囲気を採用することができる。
【0160】
工程(St2)において、化合物(L)系成分は、全量を一度に反応系に添加してもよいし、少量ずつ何回かに分けて反応系に添加してもよい。いずれの場合でも、化合物(L)系成分の使用量の合計が、上記の各成分との割合の好適な範囲を満たしていることが好ましい。工程(St2)によって調製されるオリゴマーは、前記した縮合度(P)で表示すると25〜60%程度の縮合度(P)を有していることが好ましい。
【0161】
工程(St3)においては、化合物(L)系成分から誘導されるオリゴマーと、カルボン酸含有重合体を含む溶液とを混合することによって溶液(S)を調製する。溶液(S)の保存安定性、および得られる積層体(F1)のガスバリア性の観点から、溶液(S)のpHは1.0〜7.0の範囲内であることが好ましく、1.0〜6.0の範囲内であることがより好ましく、1.5〜4.0の範囲内であることがさらに好ましい。
【0162】
溶液(S)のpHは、公知の方法で調整することができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、酪酸、硫酸アンモニウム等の酸性化合物や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、ピリジン、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物を添加することによって調整することができる。このとき、溶液中に1価の陽イオンをもたらす塩基性化合物を用いると、カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基の一部を1価のイオンで中和することができる。
【0163】
また、溶液(S)は、所望により、上記2つ以上の水酸基を有する化合物や、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩のような無機酸の金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩のような有機酸の金属塩;アルミニウムアセチルアセトナートのようなアセチルアセトナート金属錯体、チタノセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;上記以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などを含んでいてもよい。また、溶液(S)は、上記金属アルコキシドを湿式で加水分解、重縮合して製造した金属酸化物の微粉末;金属アルコキシドを乾式で加水分解、重縮合または燃焼して調製した金属酸化物の微粉末;水ガラスから調製したシリカ微粉末などを含んでいてもよい。
【0164】
調製された溶液(S)は、基材の少なくとも一方の面に塗工される。溶液(S)を基材に塗工する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
【0165】
溶液(S)を基材上に塗工した後、溶液(S)に含まれる溶媒を除去することによって、イオン化工程前の積層体が得られる。溶媒の除去の方法は特に制限がなく、公知の方法を適用することができる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法などの方法を単独で、または組み合わせて適用することができる。乾燥温度は、基材の流動開始温度よりも15〜20℃以上低く、かつカルボン酸含有重合体の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低い温度であれば特に制限されない。乾燥温度は、40〜200℃の範囲内であることが好ましく、60〜180℃の範囲内であることがより好ましく、80〜140℃の範囲内であることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。
【0166】
上記の工程によって得られるイオン化工程前の積層体を、2価以上の金属イオンを含む溶液[以下、「溶液(MI)」と略称することがある]に接触させること(イオン化工程)によって、積層体(F1)を得ることができる。なお、イオン化工程は、本発明の効果を損なわない限り、どのような段階で行ってもよい。例えば、イオン化工程は、単独の積層体(F1)を製造する際に行ってもよいし、本発明の多層容器を形成する積層体の形態にした後に行ってもよいし、本発明の多層容器の形態にした後に行ってもよいし、多層容器内に内容物を充填して密封した後に行ってもよい。
【0167】
溶液(MI)は、溶解によって2価以上の金属イオンを放出する化合物(多価金属化合物)を溶媒に溶解させることによって調製することができる。溶液(MI)を調製する際に使用される溶媒としては、水が望ましいが、水と混和しうる有機溶媒と水との混合物であってもよい。そのような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどが挙げられる。
【0168】
多価金属化合物としては、カルボン酸含有重合体が有する官能基(f)に含まれる−COO−基を中和する2価以上の金属イオンとして上記した金属イオンを放出する化合物を用いることができる。具体的には、例えば、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシム、酢酸鉄(II)、塩化鉄(II)、酢酸鉄(III)、塩化鉄(III)、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸銅(II)、酢酸銅(III)、酢酸鉛、酢酸水銀(II)、塩化バリウム、硫酸バリウム、硫酸ニッケル、硫酸鉛、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン(KAl(SO)、硫酸チタン(IV)などを用いることができる。多価金属化合物は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。好ましい多価金属化合物としては、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛が挙げられる。
【0169】
溶液(MI)における多価金属化合物の濃度は、特に制限されないが、好ましくは5×10−4〜50質量%の範囲内であり、より好ましくは1×10−2〜30質量%の範囲内であり、さらに好ましくは1〜20質量%の範囲内である。
【0170】
イオン化工程前の積層体を溶液(MI)に接触させる際において、溶液(MI)の温度は特に制限されないが、温度が高いほどカルボン酸含有重合体のイオン化速度が速い。溶液(MI)の温度は、30〜140℃の範囲内であることが好ましく、40〜120℃の範囲内であることがより好ましく、50〜100℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0171】
イオン化工程前の積層体を溶液(MI)に接触させた後、その積層体に残留した溶媒を除去することが望ましい。溶媒の除去の方法は特に制限がなく、公知の方法を適用することができる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法といった乾燥法を単独で、または2種以上を組み合わせて適用することができる。溶媒の除去を行う温度は、基材の流動開始温度よりも15〜20℃以上低く、かつカルボン酸含有重合体の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低い温度であれば特に制限されない。乾燥温度は、好ましくは40〜200℃の範囲内であり、より好ましくは60〜150℃の範囲内であり、さらに好ましくは80〜120℃の範囲内である。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。
【0172】
また、積層体(F1)の表面の外観を損なわないためには、溶媒の除去を行う前または後に、積層体の表面に付着した過剰の多価金属化合物を除去することが好ましい。多価金属化合物を除去する方法としては、多価金属化合物が溶解していく溶剤を用いた洗浄が好ましい。多価金属化合物が溶解していく溶剤としては、溶液(MI)に用いることができる溶媒を用いることができ、溶液(MI)の溶媒と同一のものを用いることが好ましい。
【0173】
積層体(F1)の製造方法においては、第1の工程の後であって第2の工程の前および/または後に、第1の工程で形成された層を120〜240℃の温度で熱処理する工程をさらに含んでもよい。すなわち、イオン化工程前の積層体および/またはイオン化工程後の積層体に対して熱処理を施してもよい。熱処理は、塗工された溶液(S)の溶媒の除去がほぼ終了した後であれば、どの段階で行ってもよいが、イオン化工程前の積層体を熱処理することによって、表面の外観が良好な積層体(F1)が得られる。熱処理の温度は、好ましくは120〜240℃の範囲内であり、より好ましくは130〜230℃の範囲内であり、さらに好ましくは150〜210℃の範囲内である。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下などで実施することができる。
【0174】
〔積層体(F2)〕
ガスバリア層として使用することができる積層体(F2)は、蒸着法により形成された、無機酸化物等の無機物からなる層を有する。
【0175】
当該無機物からなる層を構成する無機物は、酸素に対するガスバリア性を有するものであればよく、好ましくは、透明性を有するものである。具体的には、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、またはそれらの混合物といった無機酸化物が挙げられる。これらの中でも、酸素や水蒸気等のガスに対するバリア性が優れることから、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、または酸化マグネシウムが好ましい。
【0176】
無機物からなる層の好ましい厚さは、当該層を構成する無機酸化物等の無機物の種類によって異なるが、2〜500nmの範囲内であることが好ましい。この範囲内で、積層体(F2)のガスバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機物からなる層の厚さが2nm以上であることにより、再現性よく酸素や水蒸気等のガスに対するバリア性を発現させることができる。一方、無機物からなる層の厚さが500nm以下であることにより、積層体(F2)を延伸、屈曲した後のガスバリア性の低下が抑制される。無機物からなる層の厚さは、5〜200nmの範囲内であることがより好ましく、10〜100nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0177】
無機物からなる層は、基材上に無機酸化物を堆積させることによって形成することができる。形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)等を挙げることができる。これらの中でも、生産性の観点から真空蒸着法が好ましい。真空蒸着を行う際の加熱方法としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式および誘導加熱方式のいずれかが好ましい。また、無機物からなる層と基材との密着性および無機物からなる層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着してもよい。また、無機物からなる層の透明性を向上させるために、蒸着の際、酸素ガスなどを吹き込んで反応を進行させる反応蒸着法を採用してもよい。
【0178】
無機物からなる層を形成させるための上記基材としては、透明な熱可塑性樹脂フィルムや熱硬化性樹脂フィルムを用いることができる。中でも熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の多層容器を食品包装用として用いる場合に特に有用である。なお、基材は複数の材料からなる多層構造を有していてもよい。
【0179】
上記熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂などを成形加工したフィルムを挙げることができる。本発明の多層容器を食品包装用として用いる場合には、基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、またはナイロン66からなるフィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、またはナイロン66からなるフィルムであることがより好ましい。熱可塑性樹脂フィルムは、無延伸のフィルム、延伸されたフィルムのいずれでもよいが、成形加工性の観点から延伸されたフィルムが好ましい。
【0180】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さとしては特に限定されるものではないが、機械的強靭性、耐衝撃性、耐突刺し特性の観点から5〜200μmの範囲内にあることが好ましく、5〜100μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0181】
〔PVDCまたはそれを含む組成物の層(F3)〕
ガスバリア層として使用することができる層(F3)は、PVDCのみからなる層か、またはPVDCを含む組成物からなる層である。層(F3)は、単層構造を有していても、2層以上の層構成を有する積層体の構造を有していてもよい。当該層(F3)としては、PVDC(例えば、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体等)フィルム、PVDCを主成分とするエマルジョンを熱可塑性樹脂フィルムに塗工したフィルムなどが挙げられる。PVDCを主成分とするエマルジョンを熱可塑性樹脂フィルムに塗工したフィルムとしては、塗工面を「K」と表すと、例えば、KNy(Ny:ナイロン)、KPET(PET:ポリエチレンテレフタレート)、KPVA(PVA:ポリビニルアルコール)、KOPP(OPP:二軸延伸ポリプロピレン)、KPT(PT:セロファン)などが挙げられ、これらの中から、酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のものを適宜選択すればよい。
上記の熱可塑性樹脂フィルムとしては、積層体(F1)および(F2)において基材として使用することができる熱可塑性樹脂フィルムとして上記したものを使用することができる。
【0182】
層(F3)がPVDCを含む組成物からなる層である場合、当該層におけるPVDCの占める割合としては、20〜100質量%の範囲内であることが好ましく、50〜100質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0183】
層(F3)の厚さとしては、特に限定されるものではないが、機械的強靭性、耐衝撃性、耐突き刺し特性などの観点から1〜200μmの範囲内にあることが好ましく、5〜100μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0184】
〔積層体〕
本発明の多層容器を形成する積層体は、前記した酸素吸収層とガスバリア層とを有している限り、その層構成に制限はなく、酸素吸収層とガスバリア層のみを有していても、酸素吸収層およびガスバリア層以外の他の層をさらに有していてもよい。このような他の層としては、例えば、上記酸素吸収層およびガスバリア層以外の他の樹脂層(例えば、ポリオレフィン層、ナイロン層、ポリエステル層、ポリスチレン層、ポリウレタン層、ポリ塩化ビニル層、ポリアクリロニトリル層、ポリカーボネート層、アクリル系樹脂層、アイオノマー層、エチレン−アクリル酸共重合体層、エチレン−アクリル酸メチル共重合体層、エチレン−メタクリル酸共重合体層、ポリビニルエステル層、エチレン−酢酸ビニル共重合体層等;なお、これらはエラストマー層であってもよい)、紙層、布帛層などが挙げられる。
本発明の多層容器を形成する上記積層体は、酸素吸収層およびガスバリア層をそれぞれ1層ずつ有していても、これらの層のいずれかまたは両方を2層以上有していてもよい。また、当該積層体が上記他の層を有する場合、当該積層体は1層の他の層を有していても、2層以上の他の層を有していてもよい。上記積層体が2層以上の酸素吸収層を有する場合にはこれらの酸素吸収層は互いに同じ構成であっても異なった構成であってもよい。上記積層体が2層以上のガスバリア層を有する場合にはこれらのガスバリア層は互いに同じ構成であっても異なった構成であってもよい。上記積層体が2層以上の他の層を有する場合にはこれらの他の層は互いに同じ構成であっても異なった構成であってもよい。
【0185】
本発明の多層容器を形成する上記積層体の具体的な層構成は、酸素吸収層を「C」と表し(但し、複数のCを互いに区別する必要があるときはC、C、・・・などと表す)、ガスバリア層を「F」と表す(但し、複数のFを互いに区別する必要があるときはF、F、・・・などと表す)と、例えば、C/F、C/F/C、F/C/F、F/F/C、F/C/F/C、C/C/F/C/C、F/C/C/F、F/C/ポリオレフィン層、F/C/ナイロン層/ポリオレフィン層、F/ナイロン層/C/ポリオレフィン層、ナイロン層/F/C/ポリオレフィン層、紙層/ポリオレフィン層/F/C/ポリオレフィン層、紙層/ポリオレフィン層/F/C/ナイロン層/ポリオレフィン層、紙層/ポリオレフィン層/F/ナイロン層/C/ポリオレフィン層、紙層/ポリオレフィン層/ナイロン層/F/C/ポリオレフィン層、ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/F/C/ポリオレフィン層、ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/F/ナイロン層/C/ポリオレフィン層、ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/ナイロン層/F/C/ポリオレフィン層などが挙げられる。なお各層の間には、適宜接着層を設けることができる。接着層は、接着剤(例えば、アンカーコート剤等)、接着性樹脂などを用いて形成することができる。
以下、ポリオレフィン層、ナイロン層、紙層について詳細に説明する。
【0186】
上記ポリオレフィン層には、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン共重合体(例えば、炭素素4〜20のαオレフィン等との共重合体)、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−αオレフィン(例えば、炭素数3〜20のαオレフィン等)共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンや、これらを不飽和カルボン酸またはその酸無水物もしくはエステルでグラフト変性したものの1種、または2種以上から形成されるフィルムやシートを用いることができる。これらのポリオレフィン層は、延伸されていても、または無延伸のものでもいずれでもよい。これらの中でも、ポリオレフィン層としては、低密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、またはポリプロピレンから形成されるものが好ましく、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、またはポリプロピレンから形成されるものがより好ましい。また、成形加工の容易さ、耐熱性などの観点から、上記積層体を構成するポリオレフィン層のいずれもが、低密度ポリエチレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシート、直鎖状(線状)低密度ポリエチレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシート、またはポリプロピレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシートにより構成されることが好ましく、直鎖状(線状)低密度ポリエチレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシート、またはポリプロピレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシートにより構成されることがより好ましい。
【0187】
ポリオレフィン層を有する上記積層体が多層容器として使用される際に、ポリオレフィン層が最内層であることが好ましい。最内層となるポリオレフィン層は、低密度ポリエチレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシート、直鎖状(線状)低密度ポリエチレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシート、またはポリプロピレンから形成される無延伸のフィルムもしくはシートにより構成されることが好ましい。
【0188】
上記最内層となるポリオレフィン層は、本発明の多層容器を製造する際にシール層として機能することができる。シール層を有する積層体を用いることにより、ヒートシール等の手法によって本発明の多層容器を容易に製造することができる。したがって、本発明は、上記酸素吸収層と、上記ガスバリア層と、シール層とを有する積層体であって、当該酸素吸収層が、当該ガスバリア層およびシール層の間に配設され、当該シール層が最表面に配設されている積層体を包含する。このような積層体からは、シール層が最内層である本発明の多層容器を得ることができる。
【0189】
ポリオレフィン層の厚さとしては特に制限されるものではないが、機械的強靱性、耐衝撃性、耐突き刺し性などの観点から、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、20〜150μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0190】
上記ナイロン層には、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロンMXD6等の1種、または2種以上から形成されるフィルムやシートを用いることができる。これらのナイロン層は、延伸されていても、または無延伸のものでもいずれでもよい。これらの中でも、ナイロン層としては、ナイロン6、またはナイロン66から形成されるものが好ましい。ナイロン層としては、延伸されたフィルムやシートが好ましい。
【0191】
ナイロン層の厚さとしては特に制限されるものではないが、機械的強靱性、耐衝撃性、耐突き刺し性などの観点から、1〜200μmの範囲内にあることが好ましく、5〜100μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0192】
上記紙層に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙などが挙げられる。
【0193】
本発明の多層容器を形成する積層体の製造方法は特に限定されず、溶融成形してもよいし、接着剤などを用いて各層を、例えば、ドライラミネーション法、ウエットラミネーション法、ホットメルトラミネーション法等によってラミネートしてもよいし、溶液をコーティングしてもよい。溶融成形する場合には、共押出成形法、共射出成形法、Tダイ等を用いた押出コーティング法などを採用することができる。
なお、当該積層体を製造するにあたっては、ガスバリア層を予め製造し、これを前記酸素吸収層や、他の樹脂層などと積層することによって製造することが実用上有利な場合がある。
【0194】
〔多層容器〕
本発明の多層容器は上記の積層体から形成されている。そして、当該積層体が有するガスバリア層が酸素吸収層の外側に配設されている。本発明の多層容器において、積層体が有するガスバリア層のうちの少なくとも1つが酸素吸収層のうちの少なくとも1つよりも外側に配設されていればよく、したがって、積層体が2層以上のガスバリア層を有する場合にはそのうちの一部の層が酸素吸収層よりも内側に配設されていてもよい。しかしながら、多層容器内の酸素を酸素吸収層が効率的に吸収できるようにするためには、多層容器が有する酸素吸収層の少なくとも1層について、その内側にはガスバリア層が配設されていないことが好ましい。
【0195】
本発明の多層容器は、その全てが上記積層体によって形成されていてもよいが、多層容器の一部分のみが上記積層体によって形成されていてもよい。具体的には、多層容器がカップと蓋とからなる場合には、カップのみが上記積層体で形成されていても、蓋のみが上記積層体で形成されていても、その両方が上記積層体で形成されていてもよい。しかしながら、長期間にわたり内部の酸素濃度を低い水準に保つなどの観点からは、本発明の多層容器は上記積層体のみによって密封される形態であることが好ましい。
【0196】
本発明の多層容器の形状に特に制限はなく、用途に応じて適宜設計することができるが、例えば、袋、パウチ(スパウト付きパウチ、スタンディングパウチ等)、カップ、トレー型容器、ボトル、チューブ、紙容器、窓付き紙容器などが挙げられる。
【0197】
本発明の多層容器を製造する方法としては、特に制限はないが、例えば、上記積層体を予め製造しておき、これをヒートシールすることによって製造することができ、より具体的には、複数の積層体同士をヒートシールする、あるいは1つの積層体を所望の形状になるように折り曲げてヒートシールすることにより製造することができる。また、熱成形によって製造することもできる。
【0198】
本発明の多層容器は、レトルト処理を行っても酸素の浸入が高度に抑制され、またレトルト処理後に高温・多湿の悪条件下に長期間保存した後においても、内部の酸素濃度を低い水準に保つことができる。そのため、本発明の多層容器は、米飯、カップラーメン、ヨーグルト、フルーツゼリー、プリン、味噌、宇宙食、軍事携行食等を内容物とする食品包装用に好ましく用いることができる。当該食品包装用の多層容器は、少なくとも蓋材が上記積層体によって形成されているものであることが好ましい。また本発明の多層容器は、例えば、真空断熱板の外被材、医療用輸液バッグ、電子部材包装用容器など、食品包装用以外の用途にも好ましく使用することができる。
【0199】
本発明の多層容器によって内容物を包装する方法に特に制限はないが、例えば、真空包装、スキンパック、深絞り包装、ロケット包装等の方法を採用することができる。
【0200】
内容物を本発明の多層容器に充填後、加熱滅菌処理、特にレトルト処理をすることにより、長期保存性の優れた包装体を得ることができる。レトルト処理は、回収式、置換式、蒸気式、シャワー式、スプレー式等、各種の方法を採用することができる。レトルト処理を実施した後には、より透明な多層容器とするために、40〜150℃の範囲内で1〜120分間乾燥することが好ましい。
また、レトルト処理以外にも、熱間充填法等、他の加熱殺菌法を採用することもできる。
【実施例】
【0201】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、熱可塑性樹脂(G)の分子構造、数平均分子量および重量平均分子量;EVOH(A)および(D)のエチレン含有量およびケン化度;変性EVOH(C)の変性度;EVOH(A)および(D)ならびに変性EVOH(C)のメルトフローレート(MFR);単層フィルムのレトルト適性および酸素吸収量(積算値);多層容器のレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)の各測定または評価方法を以下に示す。
【0202】
熱可塑性樹脂(G)の分子構造
CDClを溶媒としたH−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」を使用)により決定した。
【0203】
熱可塑性樹脂(G)の数平均分子量および重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定を行い、ポリスチレン換算値として表記した。測定の詳細条件は以下のとおりである。
<測定条件>
装置:昭和電工株式会社製、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー「SYSTEM−11」
カラム:KF−806L(Shodex)、カラム温度:40℃
移動相:テトラヒドロフラン、流速:1.0ml/分
検出器:RI、濾過:0.45μmフィルター、濃度:0.1質量%
【0204】
EVOH(A)および(D)のエチレン含有量およびケン化度
DMSO−dを溶媒としたH−NMR測定(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」を使用)により求めた。
【0205】
変性EVOH(C)の変性度
測定に用いる試料を粉砕し、アセトンにより低分子量成分を抽出した後、120℃で、12時間乾燥させた。乾燥後の試料をDMSO−dを溶媒として、H−NMR測定(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」を使用)を行い、得られたスペクトルの内、変性EVOH(C)が有する、二重結合を有するエポキシ化合物(B)に由来する二重結合のメチンプロトンのピーク(5.9ppm)または二重結合のメチレンプロトンのピーク(5.2ppm)と、EVOHの骨格(主鎖)を形成するメチレン部位に由来するピーク(1.4ppm)との面積比、および使用したEVOH(A)のエチレン含有量から、使用したEVOH(A)のモノマー単位のモル数に対する変性に使用された二重結合を有するエポキシ化合物(B)のモル数として変性度を算出した。
【0206】
EVOH(A)および(D)ならびに変性EVOH(C)のメルトフローレート(MFR)
メルトインデクサ(株式会社テクノ・セブン社製「L260」)を用い、荷重2.16kg、温度190℃の条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定し求めた。
【0207】
レトルト適性(単層フィルムでの評価)
以下の実施例または比較例で得られた、電子線を照射後の単層フィルム(比較例1、4および5については電子線を照射していない単層フィルム)を、レトルト装置(株式会社日阪製作所製、高温高圧調理殺菌試験機「RCS−60/10RSPXG−FAM」)を用いて、120℃で30分間レトルト処理し、その直後のフィルムの様子を目視により観察して次のように評価した。
○・・・・フィルムの溶解がなく、形態が良好。
△・・・・わずかにフィルムが溶解する。
×・・・・フィルムが溶解し、形状を残さない。
【0208】
酸素吸収量(積算量)
以下の実施例または比較例で得られた電子線を照射後の単層フィルム(比較例1、4および5については電子線を照射していない単層フィルム)約0.2gを精秤し、23℃、50%RHの空気を満たしておいた内部容量85mlの規格瓶に入れた。規格瓶中の空気は、体積比で21:79の酸素および窒素を含有していた。内部の相対湿度を100%RHとするため、水を含ませたろ紙を同封し、規格瓶の口をアルミニウム層を含む多層シートを用いてエポキシ樹脂で封じてから、60℃で静置した。封入後、経時的に内部の空気をシリンジでサンプリングし、この空気の酸素濃度をガスクロマトグラフィーを用いて測定した。サンプリング時に多層シートに空いた孔は、エポキシ樹脂を用いてその都度封じた。測定によって得られた酸素と窒素の体積比から酸素の減少量を計算することによって、フィルムの60℃、100%RH雰囲気下における30日後の酸素吸収量(積算量)を求めた。
【0209】
レトルト処理直後の累積溶存酸素濃度
以下の実施例または比較例で得られた多層フィルムから12cm×12cmの大きさのフィルムを2枚切り出し、これらをCPP層が対向するように重ねた後、その3辺をヒートシールして袋を作製した。次に累積溶存酸素濃度の測定を目的として、当該袋の内側の面(CPP層の面)に光学式酸素濃度計(PreSens社製「Fibox3」(製品名))用のガラス基盤タイプの5mmφ酸素センサースポット(PreSens社製「SP−PSt3−GSUP−YOP−D5」(製品名))をエポキシ系接着剤で貼り付けた。そして、イオン交換水を窒素バブリングして得た溶存酸素濃度1.6〜1.8ppm(23℃)の脱気水50mlを上記袋に入れた後、残りの1辺をヒートシールして密閉し、脱気水が封入された多層容器を作製した。
この多層容器をレトルト装置(株式会社日阪製作所製、高温高圧調理殺菌試験機「RCS−60/10RSPXG−FAM」)を用いて、120℃、30分間の条件でレトルト処理し、光学式酸素濃度計(PreSens社製「Fibox3」(製品名))により、レトルト処理直後の多層容器内の累積溶存酸素濃度を測定した。
【0210】
レトルト適性(多層容器での評価)
上記のレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度の測定において得られたレトルト処理直後の多層容器(多層フィルム)の様子を目視により観察して次のように評価した。
○・・・・中間層と内外層の剥離が確認されず、中間層の透明性が保たれている。
×・・・・層間剥離または中間層の白化が見られる。
【0211】
1年経過後の累積溶存酸素濃度
上記のレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度の測定と同様の方法によってレトルト処理された多層容器を複数個準備した。次に、これらを20℃、90%RH、または、40℃、90%RHの恒温恒湿器内に1年間保管した。1年間保管した後の多層容器内の累積溶存酸素濃度を測定し、以下の基準に従って評価した。
○・・・・累積溶存酸素濃度が0.5ppm以下。
×・・・・累積溶存酸素濃度が0.5ppmを超える。
【0212】
1年経過後の酸素透過度(OTR)
上記の1年経過後の累積溶存酸素濃度の評価において得られた1年間保管した後の多層容器を解体して多層フィルムを取り出し、酸素透過度(OTR)を測定した。酸素透過度(OTR)(単位:ml/(m・day・atm))の測定は、酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN10/50」)を用いて、20℃、65/100%RH条件下で、多層フィルムの最外層側が65%RHかつ酸素ガス雰囲気下、最内層(CPP)側が100%RHかつ窒素雰囲気下となるようにサンプルを装着して、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で行った。
【0213】
[製造例1]
熱可塑性樹脂(G)(ポリオクテニレン(G−1))の製造
攪拌機および温度計を装着した容量5リットルの3つ口フラスコを窒素置換した後、これにシクロオクテン110g(1.0mol)およびシス−4−オクテン187mg(1.7mmol)を溶解させたヘプタン溶液624gを仕込んだ。次いでベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド8.48mg(10μmol)をトルエン1gに溶解させた触媒液を調製し、これを上記のヘプタン溶液に加えて、70℃で開環メタセシス重合を行った。5分後、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製「GC−14B」、カラム:化学品検査協会製「G−100」)により分析したところ、シクロオクテンの消失を確認した。得られた反応液にメタノール600gを添加し、40℃で30分間攪拌した後、40℃で1時間静置して分液し、下層を除去した。上層に再びメタノール600gを添加し、40℃で30分間攪拌した後、40℃で1時間静置して分液し、下層を除去した。上層からヘプタンなどの低沸成分を減圧下で留去し、さらに、真空乾燥機を用いて50Pa、40℃で24時間乾燥し、重量平均分子量が158,000、分子量1,000以下のオリゴマー含有率が8.5質量%のポリオクテニレン101.2g(収率90%)を得た。
得られたポリオクテニレンの、側鎖中の炭素−炭素二重結合の全炭素−炭素二重結合に対する比率は0%であった。なお、この全炭素−炭素二重結合に対する比率は、主鎖中の炭素−炭素二重結合の量をa(mol/g)、側鎖中の炭素−炭素二重結合の量をb(mol/g)とすると、100×b/(a+b)で示される。
【0214】
得られたポリオクテニレンの全量を1mm角程度に破砕し、攪拌機、還流管、温度計を装着した500mlセパラブルフラスコに入れ、アセトン300gを加えて40℃で3時間攪拌した。アセトンをデカンテーションで除去した後、再度アセトン300gを加え、40℃で3時間攪拌した。デカンテーションでアセトンを除去し、次いで真空乾燥機を用いて、50Pa、100℃で6時間乾燥し、重量平均分子量が163,000、分子量1,000以下のオリゴマー含有率が3.1質量%のポリオクテニレン(G−1)96.1gを得た。
【0215】
[製造例2]
相容化剤(I−1)の製造
重量平均分子量100,400、スチレン/ブタジエン=18/82(質量比)、ブタジエン単位の1,2−結合/1,4−結合=47/53(モル比)、水素添加率97モル%、炭素−炭素二重結合量430μmol/g、メルトフローレート5g/10分(230℃、2160g荷重)、密度0.89g/cmであるスチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物を、投入口を1リットル/分の窒素で置換しながら7kg/hrの速度で同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35B」)に供給した。なお、反応に使用した二軸押出機の構成、運転条件は次のとおりである。
スクリュー径:37mmφ、L/D:52(15ブロック)
液体フィーダー:C3(液体フィーダー1)およびC11(液体フィーダー2)
ベント位置:C6(ベント1)およびC14(ベント2)
スクリュー構成:C5−C6間、C10−C11間およびC12の位置にシールリングを使用
温度設定:C1(水冷)、C2〜C3(200℃)、C4〜C15(250℃)、ダイ(250℃)
スクリュー回転数:400rpm
次に、液体フィーダー1よりボラン−トリエチルアミン錯体(TEAB)とホウ酸1,3−ブタンジオールエステル(BBD)の混合液(TEAB/BBD=29/71、質量比)を0.6kg/hrの速度で、そして液体フィーダー2より1,3−ブタンジオールを0.4kg/hrの速度で供給し、連続的に混練した。混練の間、ベント1およびベント2のゲージが約2.7kPaを示すように圧力を調節した。その結果、吐出口から7kg/hrの速度で、ボロン酸1,3−ブタンジオールエステル基(BBDE)を含有する変性スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物(相容化剤(I−1))が得られた。相容化剤(I−1)中のボロン酸1,3−ブタンジオールエステル基の量は210μmol/gであった。
【0216】
[製造例3]
変性EVOH(C−1)の製造
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。この混合液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
また、押出機(東芝機械株式会社製「TEM−35BS」、37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベントおよび3つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、MFR6.0g/10分、カリウム含有量8ppm、リン酸根含有量20ppm、ケン化度99モル%以上)を20.0kg/hrで入れ、第1圧入口からアリルグリシジルエーテル(AGE)を1.76kg/hrの割合で、および上記触媒溶液を0.2kg/hrの割合で添加した。また、第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82質量%水溶液を0.3kg/hrの割合で添加した。第1ベントから減圧で過剰のAGEを除去し、第3圧入口から水を1kg/hrの割合で添加し、第2および第3のベントから減圧で水およびAGEを除去した。これによりAGE変性量1.0モル%、MFR2.0g/10分、融点171℃の変性EVOH[以下、これを変性EVOH(C−1)と称する]を得た。変性EVOHの各物性を表1にまとめて示した。
【0217】
[製造例4]
変性EVOH(C−2)の製造
製造例3において、第1圧入口からのアリルグリシジルエーテル(AGE)の添加速度および触媒溶液の添加速度をそれぞれ2.93kg/hrおよび0.5kg/hrとし、第2圧入口からの酢酸ナトリウム0.82質量%水溶液の添加速度を0.6kg/hrとしたこと以外は製造例3と同様にしてAGE変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分、融点166℃の変性EVOH[以下、これを変性EVOH(C−2)と称する]を得た。変性EVOH(C−2)の各物性を表1にまとめて示した。
【0218】
【表1】


【0219】
[製造例5]
ガスバリア性積層体(積層体(F−1))の製造
数平均分子量150,000のポリアクリル酸(PAA)を蒸留水で溶解し、その後、アンモニア水を加えてPAAのカルボキシル基の1.5モル%を中和し、水溶液中の固形分濃度が10質量%のPAA水溶液を得た。
【0220】
次に、テトラメトキシシラン(TMOS)68.4質量部をメタノール82.0質量部に溶解し、続いてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン13.6質量部を溶解した後、蒸留水5.13質量部と0.1規定の塩酸12.7質量部とを加えてゾルを調製し、これを攪拌しながら10℃で1時間、加水分解および縮合反応を行った。得られたゾルを蒸留水185質量部で希釈した後、攪拌下の上記10質量%のPAA水溶液634質量部に速やかに添加し、溶液(S1)を得た。
【0221】
一方、2液型のアンカーコート剤(AC;三井武田ケミカル株式会社製「タケラックA626」(商品名)および「タケネートA50」(商品名))を、延伸PETフィルム(OPET;東レ株式会社製「ルミラー」(商品名)、厚さ12μm)の一方の面上にバーコーターを用いてコートし、80℃で5分間乾燥させることによってAC層を有する基材(AC層/OPET層)を作製した。この基材のAC層上に、乾燥後の厚さが1μmになるようにバーコーターを用いて上記溶液(S1)をコートしたのち、80℃で5分間乾燥させた。続いて、OPETの他方の面上にも上記と同様の操作を行った。その後、乾燥空気中、200℃で5分間熱処理を施すことにより、溶液(S1)から形成された層(1μm)/AC層/OPET層(12μm)/AC層/溶液(S1)から形成された層(1μm)という層構成を有する積層体を得た[以下、この積層体を積層体(1)という場合がある]。この積層体(1)が有する溶液(S1)から形成された層は無色透明で表面の外観が良好であった。
【0222】
次に、濃度が5質量%となるように酢酸カルシウムを蒸留水に溶解し、この水溶液を85℃に保温した。そして、この水溶液(85℃;MI−1)に、上記で得られた積層体(1)を約300秒浸漬した。浸漬後、該積層体を取り出して、蒸留水でその表面を洗浄し、その後、80℃で5分間乾燥して、ガスバリア性積層体[以下、積層体(F−1)ということがある]を得た。該積層体(F−1)について、ガスバリア性を示す層(中和物を含む層)中のポリアクリル酸のカルボキシル基の中和度(カルボキシル基に含まれる−COO−基の中和度)を下記の方法によって測定した。その結果、カルボキシル基の97モル%がカルシウムイオンで中和されていることが分かった。
【0223】
<イオンによるカルボキシル基の中和度(イオン化度)>
積層体(F−1)について、フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製「8200PC」)を用いて、ATR(全反射測定)のモードで、ガスバリア性を示す層に含まれるC=O伸縮振動のピークを観察した。イオン化前のPAAのカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークは1600cm−1〜1850cm−1の範囲に観察され、イオン化された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動は1500cm−1〜1600cm−1の範囲に観察された。そして、それぞれの範囲における最大の吸光度からその比を算出し、その比と予め下記の方法で作成した検量線とを用いてイオン化度を求めた。
【0224】
検量線の作成
数平均分子量150,000のポリアクリル酸を蒸留水に溶解し、所定量の水酸化ナトリウムでカルボキシル基を中和した。得られたポリアクリル酸の中和物の水溶液を、イオン化度の測定の対象となるガスバリア性積層体のガスバリア性を示す層と同じ厚さになるように基材上にコートし、乾燥させた。基材には、2液型のアンカーコート剤(AC;三井武田ケミカル株式会社製「タケラックA626」(商品名)および「タケネートA50」(商品名))を表面にコートした延伸PETフィルム(OPET;東レ株式会社製「ルミラー」(商品名)、厚さ12μm)を用いた。このようにして、カルボキシル基の中和度が0〜100モル%間で10モル%ずつ異なる11種類の標準サンプル(積層体;ポリアクリル酸の中和物からなる層/AC層/PET層)を作製した。これらのサンプルについて、フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製「8200PC」)を用いて、ATR(全反射測定)のモードで、赤外吸収スペクトルを測定した。そして、ポリアクリル酸の中和物からなる層に含まれるC=O伸縮振動に対応する2つのピーク、すなわち、1600cm−1〜1850cm−1の範囲に観察されるピークと1500cm−1〜1600cm−1の範囲に観察されるピークとについて、吸光度の最大値の比を算出した。そして、算出した比と、各標準サンプルのイオン化度とを用いて検量線を作成した。
【0225】
[実施例1]
(1)製造例1で得られたポリオクテニレン(G−1)8質量部、製造例3で得られた変性EVOH(C−1)91質量部、製造例2で得られた相容化剤(I−1)1質量部およびステアリン酸コバルト(II)0.42質量部(コバルト原子として400ppm)をドライブレンドし、30mmφ二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−30SS−30CRW−2V」)を用い、シリンダー内を窒素パージしながら溶融混練し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0226】
(2)上記(1)で得られたペレットを20mmφ一軸押出機を用いて220℃にてシリンダー内を窒素パージしながらコートハンガーダイより溶融押出を行い、厚さ20μmの単層フィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルム中の変性EVOH(C−1)を架橋させた。
電子線を照射後の単層フィルムの酸素吸収量およびレトルト適性を上記した方法により測定または評価した。結果を表2に示した。
【0227】
(3)上記(2)で得られた電子線を照射後の単層フィルム[以下、このような単層フィルムをCと称することがある]の一方の面にドライラミネート用接着剤(大日本インキ化学工業株式会社製「LX−500」(商品名):大日本インキ化学工業株式会社製「KR−90S」(商品名):酢酸エチル=18:1.2:28.3(質量比)で混合したもの;以下、単に「Ad」と略称することがある)を塗布した製造例5で得られた積層体(F−1)をドライラミネートした。続いて、Cの他方の面に、上記したのと同じドライラミネート用接着剤(Ad)を塗布した無延伸ポリプロピレン(東セロ株式会社製「RXC−18#60」(商品名)、厚さ60μm;単に「CPP」と略称することがある)をドライラミネートした。その後、23℃で5日間エージングを行って、F−1/Ad/C/Ad/CPPの層構成を有する多層フィルムを得た。
得られた多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表2に示した。
【0228】
[実施例2]
(1)製造例1で得られたポリオクテニレン(G−1)8質量部、製造例4で得られた変性EVOH(C−2)45.5質量部、未変性のEVOH(D−1)(エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン含有量32モル%、MFR1.6g/10分(190℃、2160g荷重)、ケン化度99モル%以上)45.5質量部、製造例2で得られた相容化剤(I−1)1質量部およびステアリン酸コバルト(II)0.42質量部(コバルト原子として400ppm)をドライブレンドし、30mmφ二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−30SS−30CRW−2V」)を用い、シリンダー内を窒素パージしながら溶融混練し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0229】
(2)上記(1)で得られたペレットを20mmφ一軸押出機を用いて220℃にてシリンダー内を窒素パージしながらコートハンガーダイより溶融押出を行い、厚さ20μmの単層フィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルム中の変性EVOH(C−2)を架橋させた。
電子線を照射後の単層フィルムの酸素吸収量およびレトルト適性を上記した方法により測定または評価した。結果を表2に示した。
【0230】
(3)実施例1の(3)におけるCとして、上記(2)で得られた電子線を照射後の単層フィルムを用いたこと以外は、実施例1の(3)と同様にして、F−1/Ad/C/Ad/CPPの層構成を有する多層フィルムを得た。
得られた多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表2に示した。
【0231】
[実施例3〜11]
実施例2の(1)において、未変性のEVOH(D−1)の代わりに未変性のEVOH(D−2)(エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン含有量27モル%、MFR4.1g/10分(210℃、2160g荷重)、ケン化度99モル%以上)を用いるとともに、表2に記載した割合で各成分を配合したこと以外は実施例2の(1)と同様にしてペレットを作製した。
得られたペレットを用いるとともに実施例2の(2)における電子線の照射量を表2に示した値としたこと以外は実施例2の(2)と同様にして、電子線を照射後の単層フィルムを得た。その酸素吸収量およびレトルト適性を上記した方法により測定または評価した。
また、得られた電子線を照射後の各単層フィルムを用いて、実施例2の(3)と同様にして、F−1/Ad/C/Ad/CPPの層構成を有する多層フィルムをそれぞれ得た。
得られた各多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表2に示した。
【0232】
[実施例12および13]
実施例3において、積層体(F−1)を用いる代わりに、アルミナ蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工株式会社製「BARRIALOX」(商品名)、厚さ12μm)、またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルム(旭化成株式会社製「サランUB」(商品名)、厚さ15μm)を使用したこと以外は実施例3と同様にして、アルミナ蒸着PET(但し、アルミナ蒸着層がPET層に対して内側)/Ad/C/Ad/CPPの層構成(実施例12)、またはPVDC/Ad/C/Ad/CPPの層構成(実施例13)を有する多層フィルムをそれぞれ得た。
得られた各多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表2に示した。
【0233】
[比較例1〜5]
実施例2の(1)において、未変性のEVOH(D−1)の代わりに未変性のEVOH(D−2)(エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン含有量27モル%、MFR4.1g/10分(210℃、2160g荷重)、ケン化度99モル%以上)を用いるとともに、表3に記載した割合で各成分を配合したこと以外は実施例2の(1)と同様にしてペレットを作製した。
得られたペレットを用いるとともに実施例2の(2)における電子線の照射量を表3に示した値としたこと(なお、比較例1、4および5は電子線を照射しなかった)以外は実施例2の(2)と同様にして、電子線を照射後の単層フィルム(比較例1、4および5は電子線を照射していない単層フィルム)を得た。その酸素吸収量およびレトルト適性を上記した方法により測定または評価した。
また、得られた電子線を照射後の各単層フィルム(比較例1、4および5については電子線を照射していない単層フィルム)を用いて、実施例2の(3)と同様にして、F−1/Ad/C/Ad/CPPの層構成を有する多層フィルムをそれぞれ得た。
得られた各多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表3に示した。
【0234】
[比較例6〜8]
実施例3において、積層体(F−1)を用いる代わりに、延伸PETフィルム(東レ株式会社製「ルミラー」(商品名)、厚さ12μm;以下、単に「OPET」と略称することがある)、延伸ポリアミドフィルム(ユニチカ株式会社製「エムブレムON−BC」(商品名)、厚さ15μm;以下、単に「ON」と略称することがある)、または延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績株式会社製「パイレンP2161」(商品名)、厚さ20μm;以下、単に「OPP」と略称することがある)を使用したこと以外は実施例3と同様にして、OPET/Ad/C/Ad/CPPの層構成(比較例6)、ON/Ad/C/Ad/CPPの層構成(比較例7)、またはOPP/Ad/C/Ad/CPPの層構成(比較例8)を有する多層フィルムをそれぞれ得た。
得られた各多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表3に示した。
【0235】
[比較例9]
実施例3において、Cとして用いた単層フィルムと外層として用いた積層体(F−1)の位置を入れ替えたこと以外は、実施例3と同様にして、C/Ad/F−1/Ad/CPPの層構成を有する多層フィルムを得た。
得られた多層フィルムを用いて、上記した方法により、当該多層フィルムから作製された多層容器におけるレトルト処理直後の累積溶存酸素濃度、レトルト適性、1年経過後の累積溶存酸素濃度および1年経過後の酸素透過度(OTR)を測定または評価した。結果を表3に示した。
【0236】
【表2】


【0237】
【表3】


【0238】
なお、上記各実施例または比較例で使用した積層体(F−1)、アルミナ蒸着PETフィルム、PVDCフィルム、延伸PETフィルム、延伸ポリアミドフィルム、および延伸ポリプロピレンフィルムのそれぞれについて、20℃、65%RHの条件における酸素透過度(OTR)を、以下の方法によって測定し、結果を以下の表4に示した。
酸素透過度(OTR)
酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN10/50」)を用いて、20℃、65%RH条件下で、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で測定した。
【0239】
【表4】


【0240】
以上の結果から、本発明の構成を満たす多層容器は、レトルト処理直後から高い酸素バリア性を有するのみならず、1年以上にわたって、高い酸素バリア性を維持することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明の多層容器は、ガスバリア性、および酸素吸収性に優れ、レトルト処理を行っても酸素の浸入が高度に抑制され、レトルト処理後に高温・多湿等の悪条件下に保存した後においても内部の酸素濃度を低い水準に保つことができ、内容物の酸素等による劣化や変質を長期間にわたり抑制することができ、しかもレトルト処理によって白化や変形が生じにくいことから、例えば、廃棄時の環境負荷が大きい金属缶やガラス瓶の代替として、米飯、カップラーメン、ヨーグルト、フルーツゼリー、プリン、味噌、宇宙食、軍事携行食等を内容物とする食品包装の用途や、真空断熱板の外被材、医療用輸液バッグ、電子部材包装用容器等の食品包装用以外の用途に好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)および変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を含む樹脂組成物からなる酸素吸収層と、酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のガスバリア層とを有する積層体から形成される多層容器であって、前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、前記樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されており、前記ガスバリア層は前記酸素吸収層の外側に配設されている多層容器。
【請求項2】
前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量が、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%である請求項1に記載の多層容器。
【請求項3】
前記ガスバリア層が、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体の当該少なくとも1種の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和された中和物を含む層を有する積層体(F1);蒸着法により形成された無機物からなる層を有する積層体(F2);および、ポリ塩化ビニリデン系高分子またはそれを含む組成物の層(F3);からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1または2に記載の多層容器。
【請求項4】
前記炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)が、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層容器。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(G)がポリオクテニレンである請求項4に記載の多層容器。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性されていないエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)をさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層容器。
【請求項7】
前記樹脂組成物が遷移金属塩(H)をさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層容器。
【請求項8】
前記遷移金属塩(H)がコバルト塩である請求項7に記載の多層容器。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、相容化剤(I)をさらに含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の多層容器。
【請求項10】
前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)がアリルグリシジルエーテルである請求項1〜9のいずれか1項に記載の多層容器。
【請求項11】
前記積層体がシール層をさらに有し、当該シール層が最内層である請求項1〜10のいずれか1項に記載の多層容器。
【請求項12】
炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)および変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を含む樹脂組成物からなる酸素吸収層と、酸素透過度が10ml/(m・day・atm)以下のガスバリア層と、シール層とを有する積層体であって、前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、前記樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されており、前記酸素吸収層は、前記ガスバリア層および前記シール層の間に配設され、前記シール層が最表面に配設されている積層体。
【請求項13】
前記変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量が、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位の全モル数に対して0.1〜10モル%である請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
前記ガスバリア層が、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体の当該少なくとも1種の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和された中和物を含む層を有する積層体(F1);蒸着法により形成された無機物からなる層を有する積層体(F2);および、ポリ塩化ビニリデン系高分子またはそれを含む組成物の層(F3);からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項12または13に記載の積層体。
【請求項15】
前記炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(G)が、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するものである請求項12〜14のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂(G)がポリオクテニレンである請求項15に記載の積層体。
【請求項17】
前記樹脂組成物が、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性されていないエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)をさらに含む請求項12〜16のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項18】
前記樹脂組成物が遷移金属塩(H)をさらに含む請求項12〜17のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項19】
前記遷移金属塩(H)がコバルト塩である請求項18に記載の積層体。
【請求項20】
前記樹脂組成物が、相容化剤(I)をさらに含む請求項12〜19のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項21】
前記二重結合を有するエポキシ化合物(B)がアリルグリシジルエーテルである請求項12〜20のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項22】
前記シール層がポリオレフィン層である請求項12〜21のいずれか1項に記載の積層体。

【公開番号】特開2011−162255(P2011−162255A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30067(P2010−30067)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】