説明

多層構造を有する複合化粒子およびその製造方法

【課題】有害な有機溶媒を用いずに、機能性材料(例えば、電子機器、自動車など)、化粧品、医薬品、食品などとして使用可能な多層構造を有する複合化粒子を提供すること。
【解決手段】本発明は、複合化粒子の製造方法を提供し、該方法は、超臨界流体の存在下で、無機粒子と被覆材とを接触させる接触工程;および該接触工程で得られた無機粒子と該被覆材とを含む流体を、膨張させる膨張工程;を包含し、該接触工程は、該無機粒子と該被覆材との接触時の圧力を調整することにより、該無機粒子の密度と該被覆材の密度との差を0.4g/cm以下にして、該無機粒子および該被覆材を高速撹拌することによって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合化粒子およびその製造方法に関する。より詳細には、超臨界流体を用い、被覆材の密度を調整して得られる複合化粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子に表面処理を施す方法(複合化粒子を得る方法)としては、芯材である微粒子とコーティング材である膜材とを機械的に混合する方法(特許文献1)、芯物質を撹拌または流動させながらコーティング剤をスプレーする方法(特許文献2)などが挙げられる。
【0003】
より高度な機能を実現するために、より複雑な多層構造を有する複合化粒子の製造方法の開発が望まれているが、これらの方法では、多層構造を有する複合化(微粒子のマスキング)が不十分であったり、人体に有害な溶媒が用いられているため、生成粒子中に残存する溶媒を煩雑な操作によって除去しなければならない。さらに、これらの方法によって得られた粒子は凝集しやすく、粉砕工程、分級工程などを必要とする場合も多い。
【0004】
これらの問題点を解消するため、機能的な溶媒であり、生成物の分離が容易な超臨界流体を用いて複合化粒子を得る方法が開示されている(特許文献3および4)。
【0005】
特許文献3には、超臨界二酸化炭素の存在下で、微粒子と超臨界二酸化炭素に10%以上溶解するフッ素系またはシリコーン系高分子化合物を超臨界二酸化炭素に溶解して接触させ、複合微粒子を得る方法が開示されている。しかし、この方法では、マスキング剤(コーティング剤)として、超臨界二酸化炭素に対する溶解度の高いフッ素系高分子化合物またはシリコーン系高分子化合物しか利用できない。これらの高分子化合物は、食品に添加できないものであり、食品などの用途には適用できない。
【0006】
特許文献4には、植物抽出エキス粉末を芯材とし、硬化油脂を膜材として利用する食品に利用可能な油脂コーティング複合化粒子の製造方法が記載されている。しかし、この方法では、芯材と膜材との密度差が大きい場合、十分に複合化させることは困難である。
【0007】
さらに、特許文献5および6にも超臨界流体を用いた複合化粒子の製造方法が記載されている。しかし、これらの方法では、より複雑な多層構造を有する複合化粒子の製造は、困難であった。また、超臨界流体と有機溶媒とが併用されており、生成粒子中に残存する溶媒を除去しなければならない。また、有機溶媒を用いるため、環境負荷も大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−17093号公報
【特許文献2】特開2002−53807号公報
【特許文献3】特開2002−206028号公報
【特許文献4】特開2008−206517号公報
【特許文献5】国際公開第2005/73285号
【特許文献6】国際公開第2006/57374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、有害な有機溶媒を用いずに、機能性材料(例えば、電子機器、自動車など)、化粧品、医薬品、食品などとして使用可能な無機粒子の複合化粒子を提供することにある。
【0010】
特に、無機粒子が無数の空洞が内部にある多孔構造を有する多孔体である場合、その空洞内に有用成分を導入して高分子でコーティングすることにより、高分子膜・無機多孔体・無機多孔体空洞内の有用成分の3層またはそれ以上の多層構造の微粒子となる。例えば、薬効成分などの無機粒子から徐放出できる成分を無機粒子内に含んだ無機粒子を、高分子で被覆することで、高分子膜・無機粒子・薬効成分の多層構造を有し、機能性除放能を有する複合化粒子を提供することができる。ここで、機能性除放能とは、通常は被覆高分子で覆われており粒子内部の有用成分を放出しないが、外部の溶液の酸性度などに応じて機能的に、粒子内部の有用成分を徐々に放出する機能のことをいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複合化粒子の製造方法を提供し、該方法は、超臨界流体の存在下で、無機粒子と被覆材とを接触させる接触工程;および該接触工程で得られた該無機粒子と該被覆材とを含む流体を、膨張させる膨張工程;を包含し、該接触工程は、該無機粒子と該被覆材との接触時の圧力を調整することにより、該無機粒子の密度と該被覆材の密度との差を0.4g/cm以下にして、該無機粒子および該被覆材を接触させることによって行われる。
【0012】
1つの実施態様では、上記超臨界流体は、二酸化炭素、メタン、プロパン、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0013】
ある実施態様では、上記超臨界流体は、二酸化炭素である。
【0014】
1つの実施態様では、上記無機粒子は、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、酸化チタン、アパタイト、カーボンナノチューブ、炭素粒子、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
ある実施態様では、上記無機粒子は、内部に有用成分を含むことのできる多孔性構造の粒子である。
【0016】
1つの実施態様では、上記被覆材は、ポリ乳酸、アクリル系樹脂、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、および天然ワックスからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0017】
さらに、本発明は、上記方法により製造された複合化粒子を提供する。
【0018】
1つの実施態様では、上記複合化粒子の平均粒径が、0.2μm〜500μmの範囲である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有害な有機溶媒を用いずに、機能性材料(例えば、電子機器、自動車など)、化粧品、医薬品、食品などとして使用可能な複合化粒子を提供し得る。さらに、本発明の方法は、有害な有機溶媒を用いず、毒性が極めて小さい超臨界流体を機能性溶媒として用いるので、環境負荷が小さく、超臨界流体を用いることによって生成物と溶媒との分離コストを大幅に削減し得る。また、無機粒子が多孔体である場合、高分子で被覆することで、高分子膜・無機多孔体・無機多孔体空洞内の有用成分の多層構造を有し、機能性除放能を有する複合化粒子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の製造方法で使用される撹拌翼の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られた複合化粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1で得られた粒子の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られた複合化粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の複合化粒子の製造方法は、超臨界流体の存在下で、無機粒子と被覆材とを接触させる接触工程;および接触工程で得られた無機粒子と被覆材とを含む流体を、膨張させる膨張工程;を包含する。接触工程は、無機粒子と被覆材との接触時の圧力を調整することにより、無機粒子の密度と被覆材の密度との差を0.4g/cm以下にして、無機粒子および被覆材を接触させることによって行われる。
【0022】
(複合化粒子の製造方法)
本発明の複合化粒子の製造方法は、上記のように接触工程および膨張工程を包含する。
【0023】
接触工程では、超臨界流体の存在下で、無機粒子と被覆材とを接触させる。被覆材として用いるアクリル系樹脂などの高分子材料の密度は、一般的に0.8g/cm程度であり、リン酸塩などの無機粒子の密度は、一般的に1.3g/cm程度以上である。したがって、これらの密度差が大きく、密度が大きい無機粒子は、粒子が装置底部にたまり、高分子による均一な被覆が困難である。本明細書において、超臨界流体とは、臨界温度および臨界圧力を超えた温度および圧力下の流体のことをいい、亜臨界流体を含む場合もある。超臨界流体に用いるガスは特に限定されず、二酸化炭素、メタン、プロパン、窒素などが挙げられる。これらの中でも、安価でハンドリング条件に優れた二酸化炭素が好ましい。
【0024】
本発明に用いられる無機粒子は、超臨界流体に不溶性であり、後述する被覆材で被覆(コーティング)されて複合化粒子となり得る物質であれば、特に限定されない。無機粒子は、得られる複合化粒子の用途に応じて適宜設定され得、例えば、機能性材料(例えば、電子機器、自動車など)、化粧品、医薬品、食品などとして使用される物質が挙げられる。
【0025】
無機粒子としては、例えば、硫化物(例えば、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化ナトリウムなど);珪素化合物(例えば、二酸化珪素、珪酸塩など);金属(例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ステンレス、銅、亜鉛など);酸化物(例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化マンガン、酸化銅、酸化タルタンなど);金属化合物(例えば、フェライト、MnFe、MnFe、ZnFe、NiFe、CuFeなど);炭化物(Pd−C、白金担持カーボンPt−C);炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど);リン酸塩(例えば、リン酸カルシウムなど);アパタイト;カーボンナノチューブ;炭素粒子(例えば、活性炭など);フラーレンなどが挙げられる。これらの中でも高分子膜・無機粒子・内部薬剤の多層構造を有し、機能性を有する複合微粒子を製造し得る観点から、多孔体微粒子の製造の可能な炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、酸化チタン、アパタイト、カーボンナノチューブ、炭素粒子(活性炭など)、およびフラーレンが好ましい。
【0026】
本発明の方法に用いられる無機粒子の平均粒径は、好ましくは0.2μm〜1000μm、より好ましくは1μm〜80μmであり得る。
【0027】
無機粒子が多孔体である場合、その空洞内に含まれる有用成分は、空洞内に導入し得る成分(物質)であれば、特に限定されず、化粧品、医薬品、食品などとして使用される液状、ゲル状、微粉末状などの物質が挙げられる。これらの物質を空洞内へ導入する方法は、特に限定されず、公知の方法が用いられ得る。
【0028】
本発明に用いられる被覆材は、無機粒子を被覆(コーティング)し得る物質であれば、特に限定されず、得られる複合化粒子の用途に応じて適宜設定され得る。
【0029】
被覆材としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6−6など)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、アクリル系樹脂(ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレートなどのポリアクリル酸エステル)、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリシロキサン、デキストラン、ゼラチン、でん粉、セルロース類(酪酸セルロース、ニトロセルロースなど)、糖類、キチン類、ポリペプチド、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリド)、硬化油(マーガリンなど)、天然ワックス、およびそれらを構成成分とする高分子共重合体、ならびにそれらを含む混合物などが挙げられる。これらの中でも機能性を有する複合微粒子を製造する観点から、ポリ乳酸、アクリル系樹脂、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、および天然ワックスが好ましく、超臨界流体存在下において120℃以下で溶融し、超臨界流体を溶解するもの(例えば、脂肪酸がベヘニン酸またはステアリン酸であるトリグリセリド(55℃以下で溶融)など)がより好ましい。
【0030】
無機粒子および被覆材の使用量は、特に限定されず、例えば、無機粒子1質量部に対して、被覆材は、好ましくは0.001質量部〜20質量部、より好ましくは0.05質量部〜1.5質量部の割合で使用され得る。
【0031】
無機粒子および被覆材の密度差は、圧力を調整することにより調節される。フッ素系およびシリコーン系高分子化合物のような超臨界二酸化炭素に多量に溶解する高分子を除いて、通常、アクリル樹脂などの一般的な高分子は、二酸化炭素にほとんど溶解しない。しかし、二酸化炭素は、種々の高分子に多量に溶解する場合がある。このような場合、一般に高分子の融点は低下し、溶融高分子相を形成する。高分子に溶解する二酸化炭素の量は、圧力とともに増加する。この状態で圧力を高めると高分子相の密度は高くなる。このような理論によって、無機粒子の密度と被覆材の密度との差を小さくして、撹拌することによって、各粒子を被覆高分子中に浮遊させる。圧力が低く、密度差が大きい場合、無機微粒子が高分子中に浮遊しない。すなわち、超臨界流体として用いるガスの超臨界状態を保持し得る範囲で、無機粒子と被覆材とが接触する系内(以下、接触系内と記載する)の圧力を調整し、被覆材の密度を調整する。
【0032】
無機粒子と被覆材との密度差を、限りなく0に近づけることが理想的であるが、密度差が0.4g/cm以下であれば、無機粒子と被覆材とが効率よく混合され、無機粒子表面全体が均一に被覆材で被覆され得る。密度差は、好ましくは0.3g/cm以下、より好ましくは0.2g/cm以下であり得る。
【0033】
次の膨張工程での急速膨張を効率よく行うために、無機粒子と被覆材との接触系内の温度および圧力は、超臨界流体として用いるガスによって異なり適宜設定され得る。接触系内の温度は、好ましくは250K〜500K、より好ましくは304K〜430Kであり得る。例えば、超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、接触系内の温度は、好ましくは308K〜410K、より好ましくは313K〜363Kであり得る。
【0034】
無機粒子と被覆材との接触系内の圧力は、上記の密度調節も考慮して、好ましくは50kg/cm〜500kg/cm、より好ましくは100kg/cm〜300kg/cmであり得る。例えば、超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、接触系内の圧力は、好ましくは72kg/cm〜400kg/cm、より好ましくは150kg/cm〜300kg/cmであり得る。
【0035】
例えば、超臨界流体として二酸化炭素、無機粒子としてリン酸カルシウム多孔体粒子(平均粒子径数十μm)、および被覆材としてポリ乳酸(重量平均分子量10000)を用いた場合、接触系内の温度を323K、圧力を約200kg/cmで保持すると、リン酸カルシウム多孔体とポリ乳酸との密度差が0.3g/cm以下となり、平板型の撹拌翼にて撹拌速度1000rpmで、リン酸カルシウム粒子をポリ乳酸相に分散できる。また、炭酸カルシウム(平均粒子径数十μm)とマーガリンとの組合せの場合、接触系内の温度を333K、圧力を約200kg/cmで保持すると、炭酸カルシウムとマーガリンとの密度差が0.3g/cm以下となり、平板型の撹拌翼にて撹拌速度1600rpmで、炭酸カルシウム粒子をポリ乳酸相に分散できる。
【0036】
無機粒子と被覆材との接触時間は、好ましくは0.1時間〜48時間、より好ましくは0.5時間〜2時間であり得る。
【0037】
本発明の製造方法では、無機粒子と被覆材との接触は、撹拌翼を有する槽で行われる。例えば、撹拌翼10は、図1に示すように、溶液を撹拌する翼(ブレード)11と電気モーターからの動力を伝達し、高圧セル中央で翼(ブレード)11を支えるシャフト12とからなる。撹拌は、好ましくは平板型またはパドル型の撹拌翼によって行われる。撹拌によって、無機粒子が流体中に均一に分散され、被覆材と効率よく接触され得る。直径50mmの円筒型の内部形状を有する容積500mLの高圧容器に対して、翼径30mmの平板型(長さ10mm、幅5mm)の撹拌翼(4枚)を用いた場合、撹拌は、好ましくは400rpm(2300m/sの翼先端速度)以上、より好ましくは1000rpm(5600m/sの翼先端速度)以上の回転速度で行われ得る。
【0038】
このように無機粒子と被覆材とを接触させた後、無機粒子と被覆材とを含む流体は膨張工程に供され、急速膨張され得る。
【0039】
高圧装置内部の流体の膨張の方法は特に限定されず、例えば、無機粒子と被覆材とを含む高圧流体を、排気用配管から徐々に排出し、もしくはノズルなどを用いて噴出させればよい。
【0040】
本発明の方法は、高圧容器(耐圧容器)、超臨界流体(高圧流体)を高速撹拌する手段(例えば、メカニカルシールを備えた高速撹拌装置)、および高圧流体を急速膨張させる手段(例えば、高圧流体を噴出させるノズル)を備える装置を用いて行われ得る。
【0041】
(複合化粒子)
本発明の複合化粒子は、上述の方法によって得られ、複合化粒子の表面は、被覆材で覆われている。本発明の複合化粒子の平均粒径は、好ましくは0.01μm〜5000μm、より好ましくは0.02μm〜500μmであり得る。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
無機粒子として、花弁状多孔構造を有する平均粒子径10μm、比表面積約320m/gのリン酸カルシウム多孔体粒子(丸尾カルシウム株式会社製;HAP)に、予めトマト由来の色素であるリコピンを液中で約1質量%含浸した無機粒子(リン酸カルシウム多孔体粒子内にリコピンを含む)、および被覆材として重量平均分子量10000のポリ乳酸(和光株式会社製;PLA−0010)を用いて、リン酸カルシウムとポリ乳酸との複合化粒子を調製した。
【0044】
直径50mmの円筒型の内部形状を有する容積500mLの高圧容器に、10gの無機粒子および約1gのポリ乳酸を仕込んだ。次いで、高圧容器内に二酸化炭素を注入し、50℃(323K)で約200kg/cmまで昇圧し、二酸化炭素を超臨界二酸化炭素の状態にした。この時、リン酸カルシウム(無機粒子)とポリ乳酸との密度差は、0.3g/cmであった。撹拌は、平板型の撹拌翼(シャフトと翼の角度は30度)によって行った。撹拌によって、無機粒子は流体中に均一に分散し、被覆材(ポリ乳酸)と効率よく接触した。直径50mmの円筒型の内部形状を有する容積500mLの高圧容器に対して、翼径30mmの平板型(長さ10mm、幅5mm)の撹拌翼(4枚)を用いた。撹拌は、1000rpm(5600m/sの翼先端速度)の回転速度で行った。次いで、高圧容器内を1000rpmの回転速度で撹拌しながら、排気用配管より、0.1MPa/分程度の減圧速度にて、徐々に圧力を大気圧まで下げて、リン酸カルシウムの表面にポリ乳酸の膜を析出させた。
【0045】
高圧装置を大気圧まで減圧後、高圧装置から生成した複合微粒子を取り出した。リコピンを内包する多孔構造のリン炭酸カルシウム粒子を、ポリ乳酸でコーティングした3層構造の複合化粒子を得た。図2に示すように、得られた複合化粒子の平均粒径は約10μmであり、リン酸カルシウムの表面にポリ乳酸が均一に被覆されていた。
【0046】
(比較例1)
実施例1で使用した無機粒子(空洞内にリコピンを含むリン酸カルシウム)およびポリ乳酸(重量平均分子量10000)を用いて、無機粒子とポリ乳酸との密度差が0.6g/cmの状態で複合化粒子の調製を試みた。
【0047】
直径50mmの円筒型の内部形状を有する容積500mLの高圧容器に、10gの無機粒子および約1gのポリ乳酸を仕込んだ。次いで、高圧容器内に二酸化炭素を注入し、50℃(323K)で約80kg/cmまで昇圧し、二酸化炭素を超臨界二酸化炭素の状態にした。この時、リン酸カルシウム(無機粒子)とポリ乳酸との密度差は、0.6g/cmであった。撹拌は、平板型の撹拌翼(シャフトと翼の角度は30度)によって行った。撹拌を行ったが、無機粒子は圧力装置底部に留まって流体中に均一に分散されず、被覆材(ポリ乳酸)と十分に接触しなかった。直径50mmの円筒型の内部形状を有する容積500mLの高圧容器に対して、翼径30mmの平板型(長さ10mm、幅5mm)の撹拌翼(4枚)を用いた。撹拌は、1000rpm(5600m/sの翼先端速度)の回転速度で行った。次いで、高圧容器内を1000rpmの回転速度で撹拌しながら、排気用配管より、0.1MPa/分程度の減圧速度にて、徐々に圧力を大気圧まで下げて、ポリ乳酸を析出させた。
【0048】
高圧装置を大気圧まで減圧後、高圧装置から微粒子を取り出した。図3に示すように、リン炭酸カルシウムは、ほとんどがポリ乳酸でコーティングされておらず、複合化粒子を生成しなかった。
【0049】
(実施例2)
無機粒子として、多孔構造を有する平均粒子径5μm、比表面積約360m/gの炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムの複合体である多孔体粒子(丸尾カルシウム株式会社製;ボロネック)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で、3重構造を有する複合化粒子を調製した。
【0050】
図4に示すように、得られた複合化粒子の平均粒径は約5μmであり、炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムの複合体である多孔体粒子の表面に、ポリ乳酸が均一に被覆されていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、有害な有機溶媒を用いずに、機能性材料(例えば、電子機器、自動車など)、化粧品、医薬品、食品材料などとして使用可能な、より複雑な多層構造を有する複合化粒子を提供し得る。したがって、本発明の方法によって得られる複合化粒子は、機能性材料(例えば、電子機器、自動車など)、化粧品、医薬品、食品などの幅広い分野で有用である。
【符号の説明】
【0052】
10 撹拌翼
11 翼(ブレード)
12 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合化粒子の製造方法であって、
超臨界流体の存在下で、無機粒子と被覆材とを接触させる接触工程;および
該接触工程で得られた該無機粒子と該被覆材とを含む流体を、膨張させる膨張工程;
を包含し、
該接触工程が、該無機粒子と該被覆材との接触時の圧力を調整することにより、該無機粒子の密度と該被覆材の密度との差を0.4g/cm以下にして、該無機粒子および該被覆材を接触させることによって行われる、方法。
【請求項2】
前記超臨界流体が、二酸化炭素、メタン、プロパン、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超臨界流体が二酸化炭素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記無機粒子が、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、酸化チタン、アパタイト、カーボンナノチューブ、炭素粒子、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
前記無機粒子が、内部に有用成分を含むことのできる多孔性構造の粒子である、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
前記被覆材が、ポリ乳酸、アクリル系樹脂、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、および天然ワックスからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から5のいずれかの項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの項に記載の方法により製造された、複合化粒子。
【請求項8】
平均粒径が、0.2μm〜500μmの範囲である、請求項7に記載の複合化粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−227848(P2010−227848A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79279(P2009−79279)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】