説明

多形性化合物

【課題】フルバスタチンナトリウムの、安定性の改善を目的とした、新規高結晶型の提供。
【解決手段】HMG−CoA還元酵素阻害剤フルバスタチン(R,S−(E−(±)−7−〔3−(4−フルオロフエニル)−1−(1−メチルエチル)−1H−インドル−2−イル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸))の新しい型、特にフルバスタチンナトリウムB型と称されるフルバスタチンナトリウムの高結晶型に関する。さらにはまたフルバスタチンナトリウムB型の製造方法、フルバスタチンナトリウムB型を含有する医薬組成物、および医療におけるフルバスタチンナトリウムB型の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明はHMG−CoA還元酵素阻害剤フルバスタチンの新しい型、特にフルバスタチンナトリウムB型と称される、フルバスタチンナトリウムの高結晶型に関する。本発明はまたフルバスタチンナトリウムB型の製造方法、フルバスタチンナトリウムB型を含有する医薬組成物、および医療におけるフルバスタチンナトリウムB型の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
正式な化学名がR,S−(E−(±)−7−〔3−(4−フルオロフエニル)−1−(1−メチルエチル)−1H−インドル−2−イル〕−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸であるフルバスタチン並びにそのナトリウム塩はEP-A-0114027号に開示されている。フルバスタチンは、コレステロール生合成の調節における重要な酵素である3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)還元酵素の阻害剤である。フルバスタチンは特に高コレステロール血症剤、高リポ蛋白血症剤および抗アテローム性動脈硬化症剤として製薬上使用できる。凍結乾燥により回収されるフルバスタチンナトリウムは米国特許4,739,073号に開示されている。
【0003】
EP−A−0547000にはフルバスタチンナトリウムが約8より低いpHで極めて影響を受け易いことが開示されている。記載された溶液は薬剤とアルカリ性溶媒を含有する組成物を与えるものであり、これは組成物の水溶液または分散液を少なくともpH8とすることにより可能となる。
【化1】

【0004】
EP−A−0547000にはpH感受性に加えてフルバスタチンナトリウムの熱および光に対する感受性、並びに吸湿性がフルバスタチンナトリウムの医薬剤形の製造と保存に特に制限を加えていることが指摘されている。化学物質の化学安定性の改善と貯蔵期間の延長のためにはより低い吸湿性が必要であることは当該分野で知られるとおりである。
【発明の概要】
【0005】
従って、改善された化学安定性を有し、安定化剤のあまり必要でない、貯蔵期間の長い、そして複雑なパッケージを要しないで供給できるフルバスタチンナトリウムの製剤の調製を可能にするフルバスタチンナトリウムの新しい型が必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】フルバスタチンナトリウムA型(A)およびB型(B)のFT−IR吸収スペクトル。横軸スケール:4000-450cm-1。縦軸スケール:吸光度最高値はスペクトルAでは1577cm-1で0.66、スペクトルBでは1587cm-1で1.11。
【図2】フルバスタチンナトリウムA型(A)およびB型(B)のFT−IR吸収スペクトル。横軸スケール:1800-450cm-1。縦軸スケール:吸光度最高値はスペクトルAでは1577cm-1で0.66、スペクトルBでは1587cm-1で1.11。
【図3】フルバスタチンナトリウムA型のX線粉末回折図。
【図4】フルバスタチンナトリウムB型のX線粉末回折図。
【図5a】水収着・脱着プロフィール:(a)フルバスタチンナトリウムA型
【図5b】水収着・脱着プロフィール:(b)フルバスタチンナトリウムB型
【発明を実施するための形態】
【0007】
我々はフルバスタチンナトリウムの凍結乾燥により結晶型と不定形の物質の混合物が得られることを発見した。この混合物を構成する結晶型はフルバスタチンナトリウムA型と称される。意外にもフルバスタチンナトリウムは新しい結晶型(以下フルバスタチンナトリウムB型と称する)に結晶化できることが解った。
【0008】
フルバスタチンナトリウムB型はフルバスタチンナトリウムのこれまで知られている型と比較して、以下に示す幾つかの有利な特性を有する多形性フルバスタチンナトリウムの1つの新しい型である。
−フルバスタチンナトリウムA型および不定形フルバスタチンナトリウムよりも吸湿性が低い。
−露光に対する安定性が改善されている。
【0009】
これらの有利な特性は、フルバスタチンナトリウムB型を含有する純物質および医薬剤形の双方に対し、改善された化学安定性およびより長い貯蔵保存性をもたらすことが予測される。従って、医薬製剤形への安定化剤添加の必要性が低減され、特に水分透過性および光透過性に関する包材への要求事項が少なくなる。即ち、複雑性がより低く環境をより重視した材料でパッケージを作成でき、例えば、ブリスタパックを透明材料で作成することにより錠剤が見えるようにでき、アルミブリスタパックの場合よりもパッケージ全休が小さくなる。
【0010】
フルバスタチンナトリウムB型の特性
本発明のフルバスタチンナトリウムの新しい型、即ち、B型は赤外スペクトル分析および粉末X線回折分析のような方法によりA型と判別できる。
【0011】
第1の特徴において本発明はフルバスタチンナトリウムの新しい型、好ましくは実質的に結晶学的に純粋なフルバスタチンナトリウムB型を提供する。結晶学的に純粋な型とはPXRDで測定する限り他の結晶変形体由来のピークを有しない結晶変形体である。即ち「実質的に結晶学的に純粋なフルバスタチンナトリウムB型」という表現は、フルバスタチンナトリウムの何れかの他の結晶型をわずかに少量含有するフルバスタチンナトリウムB型を指すものであり、フルバスタチンナトリウムの何れかの他の結晶型は好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下含有する。「型」という用語は本明細書では「結晶変形体」と同等である。
【0012】
フルバスタチンナトリウムB型はフルバスタチンナトリウムB型に特徴的であってA型ではみとめられない3343、2995、1587、1536、1386、1337、1042および1013cm-1でピークを示す赤外スペクトル(KBr中)を有することを特徴とする。
【0013】
フルバスタチンナトリウムB型はまた後述の実験セクション2.2に記載するX線粉末回折パターンを示す特徴を有する。
【0014】
フルバスタチンナトリウムB型の調製
更にべつの特徴において、本発明はフルバスタチンナトリウムB型の調製方法に関する。フルバスタチンナトリウムB型は有機溶媒1種以上と水との混合物から制御された条件下で調製してよい。水と混和できる有機溶媒の混合物を使用することが好ましい。B型を得るための混合物中の有機溶媒と水との最適な比は、選択された有機溶媒の特性および製造条件、例えば温度、圧力および各溶媒中並びに溶媒混合物中のフルバスタチンナトリウムの溶解性により大きく異なる。
【0015】
特にフルバスタチンナトリウムB型は以下の方法の1つにより調製できる。
(i)スラリー中の多形性の変換。フルバスタチンナトリウムの何れかの非B型、例えば不定形物質またはフルバスタチンナトリウムA型をまず有機溶媒と水との混合物に溶解し、所望のB型が形成されるまで撹拌する。方法には出発物質の完全な溶解を行わないスラリー中の変換も含まれる。このような変換は当該技術者には知られているように一般的条件下でより高い熱力学的安定性を有する形態が存在する場合に起こり得る。(この方法が得られた理由はより安定な形態が通常はより低い溶解度を有するという点である。)
(ii)適当なナトリウム化合物の存在下の有機溶媒系および水、好ましくは水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの水溶液中の反応結晶化。出発物質は例えばフルバスタチンナトリウムの相当する遊離の酸、またはエステルまたは塩である。反応体添加後に得られる混合物の組成はフルバスタチンナトリウムB型の形成に必要な有機溶媒と水との比を有するものである。結晶化は自然に開始されるが、フルバスタチンナトリウムB型の結晶種を添加するのが好ましい。
【0016】
(iii)有機溶媒と水との混合物中のフルバスタチンナトリウムの溶液からの結晶化。フルバスタチンナトリウムの原料溶液は既に単離されたフルバスタチンナトリウムの溶解により形成するか、または、化学反応によりフルバスタチンナトリウムを形成する前工程において形成することができる。溶液は、B型がより低い溶解度を有するのでB型について過飽和となり、そしてB型の結晶化が自然に起こる。しかしながら、もとの溶液がB型について不十分な飽和状態である場合は、例えば混合物の冷却により、溶媒の一部蒸発により、または、沈殿溶媒を添加して混合するなどして、系内のフルバスタチンナトリウムの溶解度を低下させることにより結晶化を誘発してもよい。沈殿溶媒との混合は、これにより所望のフルバスタチンナトリウムB型を形成する際に必要な溶媒混合物を得ることのできる溶媒の選択肢が広くなる点で、特に有利である。これはまたより早い方法および例えば収率や濾過性をコントロールする、より良好な方法が可能となる。最終混合物中の水含量は重要であるが、必要な溶媒/水の比の調節は、工程の何れの時点で行ってもよく、例えば沈殿溶媒との混合中または混合後に行うことができる。
【0017】
フルバスタチンナトリウムの結晶化のための出発物質が既に単離されたフルバスタチンナトリウムAまたはB型である場合は、方法は以下の通り記述できる。
【0018】
フルバスタチンナトリウムを1種以上の有機溶媒、好ましくは極性有機溶媒、より好ましくはメタノールまたはエタノールに溶解する。出発物質を完全に溶解するためには、溶媒を加湿するか、または少量の水を溶媒系に添加すればよい。溶媒混合物の量はフルバスタチンナトリウムを全て溶解するのに十分な量、使用量が非経済的となるほど大量になってはならない。溶媒混合物の好ましい量は2〜20 m1/g フルバスタチンナトリウム、最も好ましくは3〜10 m1/g である.溶解中は混合物全体をかきまぜ、例えば撹拌するのが好ましい。水の添加は方法の何れの時点で行ってもよく、即ち、沈殿溶媒との混合前、混合中または混合後に行うことができる。沈殿溶媒との混合前に必要な水全てを添加することが好ましく、得られる溶媒系への沈殿溶媒の添加前の水対有機溶媒の比は、有機溶媒により異なり、l : 100〜l:2、好ましくは1 :20〜1:5である。
【0019】
B型の結晶化は特定の溶媒混合物の沸点までの温度で別の有機溶媒または特定の沈殿溶媒と混合することにより行うことができる。沈殿溶媒との混合中の混合物の温度は、好ましくはO〜+50℃、最も好ましくは+30℃〜+40℃であり、沈殿溶媒は混合前は周囲温度であるのが好ましい。沈殿溶媒をフルバスタチンナトリウム溶液に添加することが好ましい。沈殿溶媒は継続的または断続的に、好ましくは断続的に2回または3回に分けて8時間までの問にわたって添加してよい。沈殿溶媒としては、有機溶媒を使用してよく、好ましくは極性溶媒、例えば、エタノール、プロパン−2−オール、アセトニトリル、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルを用いてよく、最も好ましくはアセトニトリル、酢酸エチル、プロパン−2−オールまたはアセトンである。沈殿溶媒の量は得られる混合物中のフルバスタチンナトリウムの濃度が溶解度より高くなるようなものでなければならない。フルバスタチンナトリウム溶液に対する沈殿溶媒の好ましい比は、容量で0.5:1〜10:1の範囲でなければならない。最終混合物中の水含量は好ましくは10容量%未満であり、これが満足されない場合は、収率が許容できないほど低くなるか、または所望の多形体Bが形成されない。
【0020】
結晶化は自然に開始されるが、沈殿溶媒の最初の添加後にフルバスタチンナトリウムB型の結晶種を添加して結晶化を誘発し、結晶化速度を速くすることにより、工程時間をより短くすることが望ましい場合が多い。混合、例えばかきまぜは、好ましくは、沈殿溶媒とフルバスタチンナトリウムの混合中、および、結晶化工程中の両方で行う。結晶化はこれができるだけ完全におこなわれるような時間、例えばl〜15時間、好ましくは3〜8時間、継続しなければならない。
【0021】
フルバスタチンナトリウムの結晶の溶液からの分離は、例えば濾過または遠心分離、次いで、洗浄液、好ましくはフルバスタチンナトリウムB型の溶解度が極めて低い溶媒混合物、最も好ましくは沈殿溶媒による洗浄により行ってよい。洗浄液対生成物量の好ましい比は1:1〜5:1重量%である。スラリーを室温に冷却した後に結晶を分離するのが好ましい。分離したフルバスタチンナトリウム結晶は例えば+30℃〜+50℃で、好ましくは減圧下、例えば10〜48時間乾燥させて恒量としなければならない。沈殿工程で得られる生成物は、針状結晶または凝集塊、または針状結晶と凝集塊の混合物としてフルバスタチンナトリウムB型を含む。
【0022】
上記したフルバスタチンナトリウムB型の調製方法は再現性があり、実質的に純粋で結晶性の物質が得られるものである。これは凍結乾燥に好適である。フルバスタチンナトリウムB型の結晶化方法は薬学的な基準と仕様を満足し、例えば結晶性に関して、薬剤のバッチごとのばらつきを低減することができる。濾過と乾燥の条件はフルバスタチンナトリウムA型よりもフルバスタチンナトリウムB型に対してより適するものである。
【0023】
更に別の特徴において、本発明は上記方法により得られる化合物、あるいはより広い意味において、このような化合物を含有するフルバスタチンナトリウムを提供する。
【0024】
フルバスタチンナトリウムB型の医療上の使用
フルバスタチンナトリウムB型は動物、特に哺乳類、例えばヒトにおいて血中コレステロール値を低下させるのに有利である。従ってこれは心臓血管疾患の治療において、特に、高コレステロール血症剤、高リポ蛋白血症剤および抗アテローム性動脈硬化症剤として有用である。
【0025】
更に別の特徴において、本発明は上記適応症の治療のための医薬の製造におけるフルバスタチンナトリウムB型の使用に関する。本発明はまた、このような適応症の治療方法にも関し、その方法は、フルバスタチンナトリウムB型の医薬上有効量を上記治療の必要なヒトを含む哺乳類に投与することを包含する。
【0026】
製剤
別の特徴において、本発明は活性成分としてフルバスタチンナトリウムB型を含有する医薬組成物に関する。
【0027】
フルバスタチンナトリウムB型は好都合な方法で投与に適する製剤としてよく、本発明はヒトの医療で用いるのに適したこの特定の結晶型を含有する全ての医薬組成物を包含する。経口投与が好ましいが、直腸または非経腸(経皮、鼻内、気管、気管支または吸入による)投与のような他の経路も考えられる。
【0028】
製剤の例は錠剤、カプセル、ペレット、顆粒、懸濁液、溶液および座薬であり、これらの製剤は即時放出性または制御放出性を有することができる。医薬組成物はそれ自体知られた方法で調製する。好ましくは、各投与単位は活性成分を2mg〜200mgの量で含有し、1日l〜4回投与する。
【実施例】
【0029】
1.フルバスタチンナトリウムB型の調製
1.1.スラリー中のA型の変換によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
凍結乾燥したフルバスタチンナトリウムA型(4g)を室温でプロパン−2−オール(80ml)に懸濁し、水(2ml)添加し、まず黄色のスラリーを磁気撹拌機で20時問撹拌した。約10時間の後、スラリーは白色に変った。生成物を濾過し、プロパン−2−オール(8 ml)で洗浄し、減圧下+40℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウムl水和物B型3.6 g を得た。
【0030】
1.2.反応結晶化による(遊離酸からの)フルバスタチンナトリウムB型の結晶化
フルバスタチンナトリウム(4g)を+5℃で水(20ml)中に懸濁した。酢酸エチル(25ml)を添加し、撹拌しながら酢酸の20%水溶液(l当量)を添加することにより生成物を有機層に抽出した。次に水層を分離した。有機層を塩化ナトリウムの飽和水溶液20m1で抽出した。まずメタノール(12ml)を撹拌しながら有機層に添加した。次に炭酸ナトリウムの水溶液(1.9g、30%)を有機層に添加した。溶液を+20℃に加熱し、溶液にB型結晶の結晶種を添加し、生成物を結晶化させた。15分後、酢酸エチル(25ml)を添加した。22時間後生成物を濾過し、酢酸エチル(2×5 ml)で洗浄し、+40℃で減圧下乾燥し、フルバスタチンナトリウムB型2.9 g を得た。
【0031】
1.3.凍結乾燥A型の再結晶によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
凍結乾燥フルバスタチンナトリウムA型(5g)を+40℃でエタノール(20ml)と水(2.5ml)の混合物に溶解し、次に溶液を5分間撹拌した。アセトニトリル(30ml)を沈殿溶媒として添加し、溶液にB型の結晶種を添加して結晶化を誘導した。2時間後、更にアセトニトリル(40ml)を添加した。スラリーを+40℃で4時間撹拌し、次に室温に冷却した。生成物を濾過し、アセトニトリル(2×8 mlで洗浄し、減圧下+40℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウムl水和物B型4.6 g を得た。
【0032】
1.4.凍結乾燥A型の再結晶によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
凍結乾燥フルバスタチンナトリウムA型(5g)を+30℃でメタノール(20ml)に溶解し、少量の水(2.5ml)を添加し、次に溶液を5分間撹拌した。プロパン−2−オール(30ml)を沈殿溶媒として添加し、溶液にB型の結晶種を添加して結晶化を誘導した。2時間後、更にプロパン−2−オ−ル(40ml)を添加した。スラリーを+30℃で4時間撹拌し、次に更にプロパン−2−オール(20ml)を添加し、スラリーを室温に戻した。2時間後、生成物を濾過し、プロパン−2−オール(2×8 ml)で洗浄し、減圧下+40℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウム1水和物B型4.5 g を得た。
【0033】
1.5.結晶種を添加しない凍結乾燥A型の再結晶によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
凍結乾燥フルバスタチンナトリウムA型(2g)を+30℃でメタノール(8ml)に溶解し、溶液を5分問撹拌した。溶液をガラスフィルターで濾過した。水(1 ml)およびプロパン−2−オール(12ml)を添加した。溶液を磁気撹拌機を用いて21時間撹拌した。生成物を濾過し、エタノール(2m1)とプロパン−2−オール(3ml)との混合物で洗浄し、減圧下+35℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウム1水和物B型1.4 g を得た。
【0034】
1.6.フルバスタチンナトリウムB型の再結晶によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
フルバスタチンナトリウムB型(5g)を+30℃でメタノール(20ml)に溶解し、少量の水(2.0ml)を添加し、次に溶液を5分問撹拌した。酢酸エチル(40m1)を沈殿溶媒として添加し、溶液にB型の結晶種を添加して結晶化を誘導した。2時間後、更に酢酸エチル(50ml)を添加し、スラリーを+30℃で4時問撹拌した。次にスラリーを1時間20℃に冷却した。2時間後、生成物を濾過し、プロパン−2−オール(2×8 ml)で洗浄し、減圧下+40℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウム1水和物B型3.9 g を得た。
【0035】
1.7.フルバスタチンナトリウムB型の再結晶によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
フルバスタチンナトリウムB型(5g)を+30℃でメタノール(20ml)に溶解し、少量の水(2.5ml)を添加し、次に溶液を5分間撹拌した。アセトン(40ml)を沈殿溶媒として添加し、溶液にB型の結晶種を添加して結晶化を誘導した。1時間後、更にアセトン(50ml)を添加し、スラリーを+30℃で3時問撹拌した。スラリーを0.5時間20℃に冷却した。2時間後、生成物を濾過し、アセトン(2×8 ml)で洗浄し、減圧下+35℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウム1水和物B型3.5 gを得た。
【0036】
1.8.自然結晶化によるフルバスタチンナトリウムB型の調製
凍結乾燥フルバスタチンナトリウムA型(2g)を+20℃でアセトン(20ml)に溶解し、少量の水(8ml)を添加し、次に溶液を6時間撹拌した。濃厚な白色のスラリーが得られ、更にアセトン(20ml)を添加して系を希釈した。4時間後、生成物を濾過し、アセトン(5ml)で洗浄し、減圧下+30℃で乾燥し、フルバスタチンナトリウムl水和物B型1.85 g を得た。
【0037】
1.9.フルバスタチンナトリウムA型の結晶化(比較例)
凍結乾燥フルバスタチンナトリウムA型(3g)を+40℃で水(15ml)とアセトン(1ml)の混合物に溶解した。溶液を+10℃に冷却した。得られたスラリーは濃厚であり、軟質で針様の結晶を含有していた。スラリーが適当な濾過特性を有していないため生成物を単離できなかった。
【0038】
2.フルバスタチンナトリウムB型の特性
2.1. 赤外スペクトル
〜250mgのKBr中に〜1mgのA型またはB型を含有するように、乳鉢ですり潰し、圧縮して錠剤としたものを用いて、フルバスタチンナトリウムのフーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトルを測定した。スペクトルは吸光度表示に変換し、図1および2に示した。
【0039】
フルバスタチンナトリウムB型の赤外スペクトルは表lに示す主要ピークを示した。
【表1】

3343、2995、1587、1536、1386、1337、1042および1013cm-1のピークはB型に
特徴的なものであり、A型には認められなかった。
【0040】
2.2. X線粉末回折(XRPD)
X線回折は、例えばKitaigorodsky, A. I. (1973), Molecular Crystals and Molecules, Academic Press, New York; Bunn, C.W. (1948), Chemical Crystallography, Clarendon Press, London; またはKlug, H.P. & Alexander, I.E. (1974), X-Ray Diffraction Procedures, John Wiley & Sons, New Yorkに記載されている定法に従って実施した。
【0041】
Bragg-Brentano多面形態において得たフルバスタチンナトリウムA型およびB型のX線粉末回折(XRPD)パターンを図3および4に示す。回折角、d−値および相対強度は表2に示す。
【0042】
フルバスタチンナトリウムA型は4°、12°および19°においてのみ強いピークを示しているのに対し、B型は多くの比較的強いピークを示している。この差はA型の2次元構造の規則性がより低く、B型の構造の規則性がより高いことを示している。これはB型の非吸湿性を示すものである。
【0043】
A型およびB型のXRPD回折図は共に、ブロードなバックグラウンドとして観察される不定形物質による寄与を受けているが、これらは結晶化度が異なっている。回折図における全強度に対する回折図の結晶性部分の強度から2種の型の結晶化度を推定したところ、A型は〜50%結晶性であり、B型は〜80%であった。即ち、フルバスタチンナトリウムB型はA型と比較して結晶化度が明らかに高い値であった。
【表2】

【0044】
A型およびB型の単位格子を各XRPD回折図の結晶性部分から推定した。これにより表3に示す三斜晶単位格子に相当する以下の単位格子パラメーターが得られた。モル質量Mは両方の型ともl水和物について計算し、計算された密度はZの値を2としたものである。
【表3】

A型のXRPDパターンは、3.965°、11.931°、12.215°、17.769°、18.640°、19.856°および20.518°に強いピークを示しており、残りのピークはむしろ弱い。
【0045】
A型の試料の湿潤後、XRPDパターンは、3.965°、7.936°、11.931°、15.916°および19.856°にのみピークを示すパターンに変化することが解った。これらのピーク値は〜4°の倍数である列となっている。このような強いピークがほとんどないピークの列となっているパターンは層状結晶構造に特徴的なものである。
【0046】
即ち、フルバスタチンナトリウムA型は層状結晶構造を有すると考えられる。この層状結晶構造中では、層は恐らくは極性と非極性が交互になっている。Na+カチオンと結晶水が極性を有する親水性の層を形成し、これに対し有機性のフルバスタチンアニオンがその親水性COO-末端を向けている。フルバスタチンアニオンの芳香族の疎水性末端はファンデルワールス距離で疎水性の層内部で相互に向き合って充填されている。
【0047】
層間の距離は23.0Åである。層に相当するピークを除いてXRPDパターンに強いバンドがほとんどないという事実は層内の規則性が低いことを示す。
【0048】
B型のXRPDパターンには比較的強いピークの数が遙かに多い。A型(湿潤前)とB型との間のXRPDパターンの相違はA型よりもB型の結晶構造の規則性が高いことを示している。B型もまた層状結晶構造を有すると考えられるが、B型で比較的強いピークが多数みられることからも解るとおり、層内部の規則性はA型よりも高い。
【0049】
湿潤によるA型の回折図の変化は恐らく層間の距離はほぼ一定であるが、層、特に親水性の層の規則性が水の取り込みにより低下すると解釈できる。
【0050】
A型の吸湿性はフルバスタチンナトリウム分子の親水性部分の比較的高いエネルギーとその低いエネルギーヘの競合の結果と思われる。大量の水を取り込んだ後、層内の規則性は、主に親水性層で消失する。これにより層間距離に相当するピーク以外にピークを有さないXRPDパターンが得られる。
【0051】
B型では親水性の層は規則性を有し、安定である。水を取り込む必要はない。即ちB型は非吸湿性である。
【0052】
2.3.水の収着/脱着特性
フルバスタチンナトリウムの吸湿性をDVS自動水収着分析器を用いて25℃で測定した。物質の収着/脱着は湿度を段階的に変化(40、60、80、95およびO%RH)させることにより、種々の相対湿度%で試験した。結果を図5に示す。
【0053】
フルバスタチンナトリウムA型は直線的な水の取込みを示した。相対湿度95%では重量増加は約35%であった。不定形のフルバスタチンナトリウムはフルバスタチンナトリウムA型と同様の水収着を示した。
【0054】
フルバスタチンナトリウムB型は非吸湿性であった。相対湿度80%までの重量増加はl%未満であり、相対湿度95%では水の収着は約4%であった。
【0055】
3.安定性
3.1.分解生成物の測定
以下の実験ではフルバスタチンナトリウムの分解生成物をHypersil 0DSカラム(5μm、50*4.6mm)を有する逆相系を用いて高速液体クロマトグラフィーにより定量した。化合物を水酸化テトラメチルアンモニウム0.5〜0.2% ;アセトニトリル19〜30% ;およびメタノール28〜45%の勾配溶離に付した。生成物は305および365nmで検出した。
【0056】
3.2.光安定性
フルバスタチンナトリウムA型およびB型の薄層を、蓋をしないペトリ皿上に広げた。物質を24時間露光(キセノンランプ、150klux、280-830nm)した。24時間の露光後の未分解フルバスタチンナトリウムの量を表4に示す。フルバスタチンナトリウムA型は24時間の露光後に暗黄色に変色していた。B型は24時間の曝露後にも変色しなかった。
【表4】

【0057】
3.3.制御された温度および相対湿度における促進安定性試験
極端な保存条件を用いて被験物質の化学分解または物理的変化を検討するために加速安定性試験を行った。これらの結果は非加速条件でのより長期の化学的作用の評価にも適すると考えられる。
【0058】
フルバスタチンナトリウムA型およびB型の薄層を、蓋をしないプラスチックビーカー上に広げ、温度および相対湿度(RH)が制御された棚の上に置いた。表5は+40℃(75%RH)および+50℃(周囲RH)6ケ月後の未分解フルバスタチンナトリウムの量を示している。
【表5】

【0059】
3.4.結論
セクション3.2および3.3に記載した実験の結果によれば、検査したストレス条件下(光、高濃度および高温)において、フルバスタチンナトリウムB型は凍結乾燥物質A型と比較して安定性の改善を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルバスタチンナトリウムB型に特徴的な、3343、2995、1587、1536、1386、1337、1042および1013cm-1でピークを示す赤外スペクトルを有するフルバスタチンナトリウム。
【請求項2】
好ましくはフルバスタチンナトリウムの何れかの他の結晶型5%以下を含有する実質的に結晶学的に純粋なフルバスタチンナトリウムB型である請求項1記載のフルバスタチンナトリウム。
【請求項3】
以下のd値および相対強度を実質的に示すX線粉末回折パターンを呈する請求項1または2記載のフルバスタチンナトリウム。
【表1】

【表2】

【請求項4】
フルバスタチンナトリウムを有機溶媒1種以上と水との混合物から沈殿させ、これより単離する請求項1〜3の何れか1項に記載のフルバスタチンナトリウムの調製方法。
【請求項5】
(a)非B型フルバスタチンナトリウムを有機溶媒/水混合物に部分的に溶解し:そして
(b)フルバスタチンナトリウムB型が得られるまで撹拌する
工程からなる請求項4記載の方法。
【請求項6】
フルバスタチンナトリウムB型を、フルバスタチンまたはその誘導体と反応するナトリウム化合物を用いる反応結晶化により、有機溶媒/水混合物中に形成させる請求項4記載の方法。
【請求項7】
ナトリウム化合物が水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムである請求項6記載の方法。
【請求項8】
フルバスタチンナトリウムB型を、別の沈殿溶媒の存在下、有機溶媒/水混合物中から結晶化する請求項4記載の方法。
【請求項9】
(a)第1の有機溶媒または第1の有機溶媒と水との混合物中にフルバスタチンナトリウムを溶解し:
(b)フルバスタチンナトリウムB型を結晶化させるために必要な場合には水および極性沈殿有機溶媒を添加し、場合により次いで結晶性フルバスタチンナトリウムB型の結晶種を添加し;そして
(c)このようにして得られた結晶性フルバスタチンナトリウムを単離乾燥する
各工程からなる請求項8記載の方法。
【請求項10】
フルバスタチンナトリウムをまず、メタノール、エタノールまたはこれらと水との混合物から選択される有機溶媒中に溶解する請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
フルバスタチンナトリウムを、2〜20ml/gの量の有機溶媒または有機溶媒/水混合物中に溶解する請求項8〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記沈殿溶媒の添加前に溶媒系にすべての水を含有させ、そして水対沈殿溶媒の添加前の有機溶媒の比が1:100〜1:2である請求項8〜11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
フルバスタチンナトリウムの結晶化が生じる最終混合物中の水含量が10容量%未満である請求項8〜12の何れかに記載の方法。
【請求項14】
沈殿溶媒がアセトニトリル、プロパン−2−オール、酢酸エチルまたはアセトンである請求項8〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
沈殿溶媒を0.5:1〜10:1容量フルバスタチンナトリウム溶液の範囲で添加する請求項8〜14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項4〜15の何れか1項に記載の方法で得られるフルバスタチンナトリウム。
【請求項17】
治療に用いるための請求項1〜3または16の何れか1項に記載のフルバスタチンナトリウム。
【請求項18】
活性成分として請求項1〜3または16の何れか1項に記載のフルバスタチンナトリウムを、製薬上許容しうる希釈剤または担体と組合わせて含有する医薬組成物。
【請求項19】
心臓血管疾患、例えば高コレステロール血症、高リポ蛋白血症および/またはアテローム性動脈硬化症の治療または予防における使用のための医薬の製造における請求項1〜3または16の何れか1項に記載のフルバスタチンナトリウムの使用。
【請求項20】
医薬が高コレステロール血症剤、高リポ蛋白血症剤または抗アテローム性動脈硬化症剤である請求項19記載の使用。
【請求項21】
心臓血管疾患、例えば高コレステロール血症、高リポ蛋白血症および/またはアテローム性動脈硬化症の治療が必要なヒトを含む哺乳類に請求項1〜3または16の何れか1項に記載のフルバスタチンナトリウムの医薬上有効量を投与することからなる上記疾患の治療または予防のための方法。
【請求項22】
活性成分として請求項1〜3または16の何れか1項に記載のフルバスタチンナトリウムを製薬上許容しうる希釈剤または担体と組合わせて含有する、心臓血管疾患、例えば高コレステロール血症、高リポ蛋白血症および/またはアテローム性動脈硬化症の治療または予防のための製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公開番号】特開2009−149654(P2009−149654A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3704(P2009−3704)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【分割の表示】特願平10−502821の分割
【原出願日】平成9年6月18日(1997.6.18)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】