説明

多心ケーブル

【課題】絶縁体を損傷させることなく端末処理することができ、安定した伝送特性を確保することが可能な多心ケーブルを提供する。
【解決手段】複数本の同軸ケーブル11が束ねられて外被で覆われた多心ケーブル1において、同軸ケーブル11は、中心導体12と、中心導体12の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された絶縁体13と、絶縁体13の周囲の外部導体15と、外部導体15の周囲の被覆層16と、を有し、絶縁体13は、断面円形または楕円形状に形成されて長手方向に連続する6〜9個の空隙部14を有し、6〜9個の空隙部14が絶縁体13の周方向に均等に配置されている。全部の空隙部14を合わせた空隙率が43%以上である。多心ケーブル1の端部では、複数本の同軸ケーブル11が複数の群に分けられて並列され、それぞれコネクタ6またはPWB20の端子に半田付けされて各群ごとに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器、医療機器における信号伝送等に用いられる多心ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や医療機器の信号伝送に、多心ケーブルが用いられており、複数本の同軸ケーブルを束ねた多心ケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
多心ケーブルを構成する同軸ケーブルは、一例として、複数の導電線を撚り合わせた内部導体と、この内部導体の外周に形成された絶縁体と、この絶縁体の外周に配置された外部導体と、この外部導体の外周に形成された外被とを有する。
同軸ケーブルには、内部導体の外周に形成する絶縁体として、多孔質テープ体による低誘電率の発泡絶縁体を有するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−188738号公報
【特許文献2】特開2003−234026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多心ケーブルを構成する同軸ケーブルは、コネクタへ接続するために、その端部を端末処理する。端末処理では、外被、外部導体及び絶縁体を順に切断し、外被から外部導体、絶縁体及び中心導体が段階的に露出した状態とする。
多孔質テープ体を用いた絶縁体の場合、多孔質であることにより、潰れて中心導体と外部導体が近づいて耐電圧が低下する場合があるため、絶縁体の周囲にポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からなる樹脂テープを巻いて耐電圧を確保することが考えられる。しかし、PETの樹脂テープは、段剥き処理で外部導体をYAGレーザによって切断する際に切断されてしまう。また、外部導体をグランドに半田付けするときの熱によっても樹脂テープが損傷してしまう。
PETの樹脂テープが切断されたり損傷したりすることで、中心導体と外部導体との間の耐電圧の確保が不十分となったり、機械的強度が低下して十分な耐屈曲性が確保されなくなるおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、絶縁体を損傷させることなく端末処理することができ、安定した伝送特性を確保することが可能な多心ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明の多心ケーブルは、複数本の同軸ケーブルが束ねられて外被で覆われた多心ケーブルであって、
前記同軸ケーブルは、中心導体と、前記中心導体の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された絶縁体と、前記絶縁体の周囲に設けられた金属線からなる外部導体と、前記外部導体の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された被覆層と、を有し、
前記絶縁体は、断面円形または楕円形状に形成されて長手方向に連続する複数の空隙部を有し、複数の前記空隙部が前記絶縁体の周方向に均等に配置され、
前記空隙部は6〜9個設けられ、前記同軸ケーブルの長さ方向に垂直な断面において、全ての空隙部の面積と絶縁体の面積の和に対する空隙部の割合を空隙率とするときに、全部の空隙部を合わせた空隙率が43%以上であり、
前記多心ケーブルの端部では、複数本の同軸ケーブルが前記外被から露出された状態で複数の群に分けられて、各群ごとに並列され、
前記各群ごとに前記外部導体にグランドバーが半田付けされ、前記中心導体がそれぞれ接続部材の端子に半田付けされ、前記各群ごとに前記接続部材に接続されているものである。
【0008】
本発明の多心ケーブルにおいて、前記複数の群は前記各群ごとに束ねられ、それらの束の周囲にシールド層が形成され、
前記シールド層の周囲に外被が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多心ケーブルによれば、断面円形または楕円形状に形成されて長手方向に連続する複数の空隙部を有する絶縁体を中心導体の周囲に設けることにより、それぞれの同軸ケーブルにおいて、空隙部の絶縁体に対する割合を確保して低誘電率とするとともに外圧や曲げに対して潰れにくく、安定した伝送特性を確保することができる。
また、絶縁体がフッ素樹脂を押出し被覆してなるので、同軸ケーブルを端末処理して接続部材に接続する際のレーザや半田付けの熱による絶縁体の損傷を抑えることができる。これにより、多孔質の絶縁体の周囲にPET樹脂からなる樹脂テープを巻いて補強した同軸ケーブルのように、レーザや半田付けの熱による樹脂テープの損傷によって中心導体と外部導体との間の耐電圧の確保が不十分となったり、機械的強度が低下して十分な耐屈曲性が確保されなくなるような不具合をなくすことができる。
このように、それぞれの同軸ケーブルを接続部材に半田付けする時の不具合なく、安定した伝送特性を確保することができ、例えば、内視鏡等の医療機器におけるプローブと機器本体との間の信号伝送用として好適なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る多心ケーブルを示す斜視図である。
【図2】図1の多心ケーブルの断面図である。
【図3】図1の多心ケーブルに設けられた同軸ケーブルを示す断面図である。
【図4】図1の同軸ケーブルの製造に用いられる押出機の概略斜視図である。
【図5】端末処理を行った同軸ケーブルの斜視図である。
【図6】多心ケーブルの端末部分におけるPWBへの接続構造を示す部分斜視図である。
【図7】多心ケーブルの端末部分におけるコネクタへの接続構造を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る多心ケーブルの実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、多心ケーブル1は、複数本(例えば、192本)の同軸ケーブル11を有しており、これらの同軸ケーブル11は、その中間部分が外被2で覆われて束ねられている。
【0012】
図2に示すように、多心ケーブル1の内部では、例えば16本の同軸ケーブル11を束ねてなるケーブル束11aが、12束配置されている。あるいは全ての同軸ケーブル11が一つに束ねられていてもよい。これらの周囲に、2層の押さえ巻き4,5とシールド層3と外被2が順に形成されている。各ケーブル束11aが、それぞれ束ごとに樹脂テープなどで押さえ巻きされていてもよい。
【0013】
2層の押さえ巻き4,5は、例えば12束のケーブル束11aの周囲に縦添えして巻き付けたPET(ポリエチレンテレフタレート)テープである。外層の押さえ巻き5の内周面には接着剤を有し、その接着剤により2層の押さえ巻き4,5が接着されて一体化されている。押さえ巻き4,5は、設けなくてもよい。
シールド層3は、例えば押さえ巻き5の周囲に複数の銅素線を横巻きまたは編組して形成されている。シールド層3は、二重に横巻きまたは編組されたものでもよい。
外被2は、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)である。
【0014】
この多心ケーブル1の外被2から露出された同軸ケーブル11は、複数本(例えば、2つのケーブル束11aからなる32本)ずつ並列に配置され、複数(例えば、6個)のコネクタ6にそれぞれ接続されている。コネクタ6に接続される箇所で各同軸ケーブル11は並列されている。コネクタ6の代わりに、PWB(Printed Wiring Board)に各同軸ケーブル11を接続してもよい。コネクタやPWBなど、各同軸ケーブルが接続され、さらに別の基板等に接続される部材を接続部材という。
【0015】
図3に示すように、同軸ケーブル11は、中心導体12と、中心導体12の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された絶縁体13と、絶縁体13の周囲に横巻された金属線からなる外部導体15と、外部導体15の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された被覆層16とを有しており、絶縁体13は長手方向に連続する複数個の空隙部14を有している。
【0016】
中心導体12は、銀メッキもしくは錫メッキ軟銅線ないしは銅合金線からなる単線または撚り線で形成される。撚り線の場合は、例えば、素線導体径が0.025mmのものを7本撚った外径0.075mm(AWG(American Wire Gauge)#42相当)のものや、素線導体径が0.127mmのものを7本撚った外径0.38mm(AWG#28相当)としたものが用いられる。
【0017】
また、外部導体15は、中心導体12に用いた素線導体と同程度の太さの裸銅線(軟銅線または銅合金線)または銀メッキもしくは錫メッキ軟銅線ないしは銅合金線を、絶縁体13の外周に横巻きまたは編組構造で配して形成される。さらに、シールド機能を向上させるために、外部導体15のすぐ外の層で示すように金属箔テープを併設する構造としてもよい。被覆層16は、フッ素樹脂等の樹脂材を押出成形するか、または、ポリエステルテープなどの樹脂テープを巻き付けて形成される。
【0018】
絶縁体13は、熱可塑性樹脂であるフッ素樹脂を用いて押出し成形で形成される。フッ素樹脂材としては、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)等が用いられる。
【0019】
絶縁体13の外径D1は、中心導体12の導体径をD2としたとき、D2×(2.2〜3.0)程度とするのが望ましい。例えば、上記の中心導体12の導体径が0.38mm(AWG#28)の場合は、絶縁体13の外径を0.84mm〜1.1mmとする。中心導体12の導体径がAWG#42よりも細い線では、用途により絶縁体13の静電容量を低容量(例えば60pF/m以下)とする必要があるが、その場合は、絶縁体13の外径D1をD2×(2.2〜3.6)とするのが望ましい。例えば、中心導体12の導体径が0.075mmの場合は、絶縁体13の外径を0.17mm〜0.27mmとする。
【0020】
この寸法の同軸ケーブル11を備えた多心ケーブル1は、超音波診断装置等の医療機器において、プローブと機器本体とを結んで信号伝送を行うケーブルとして使用されることが多く、機器の小型化により、同軸ケーブル11の細径化および多心ケーブル1の細径化が要求される。同軸ケーブル11は、所定のインピーダンス(50Ω、75Ωあるいは80〜90Ω)とする必要があり、それを実現する限りにおいてできるだけ細径とする。そのためには、中心導体12と外部導体15の間の絶縁層の誘電率を小さくすることが必要である。本実施形態では、絶縁体13に空隙部14を設け、全部の空隙部14を合わせた全体の空隙率を43%以上とすることにより、上記の範囲の寸法において細径化を実現する。もし、全体の空隙率を43%未満としてかつ細径化を満足させようとすると、同軸ケーブルのインピーダンスを所定の値とすることは困難である。
【0021】
本実施形態の同軸ケーブル11の絶縁体13の外径D1がD2×(2.4〜2.7)の場合、細径で絶縁体13の厚さが薄いので、空隙部14が大きすぎると同軸ケーブル11に加えられる外圧や曲げに対して耐えられなくなることがある。したがって、本発明が対象とする細い同軸ケーブル11では、絶縁体13に設けられる空隙部14の1個当たりの大きさが問題となる。これは、それよりも太径の同軸ケーブル11にはない課題である。本実施形態では、空隙部14の1個当たりの空隙率を6.8%以下とすることで、この寸法の同軸ケーブル11で十分な耐久性を実現する。
【0022】
絶縁体13の空隙部14は、断面円形状(真円、楕円)で形成され、中心導体12の周りに6〜9個の空隙部14が均等に配されるように設けられていることが望ましい。この空隙部14を、例えばほぼ真円で形成し、その内径をD3とすると、1つの空隙部14の絶縁体13に対する割合は、
「0.068≧({D3/2}×π)/({D1/2}×π−{D2/2}×π)」
の範囲で形成されていることが好ましい。
【0023】
なお、上記の式の考え方は、楕円の空隙部14に対しても同様に当てはめることができる。すなわち、1つの空隙部14の空隙率を6.8%以下とし、空隙部14自体の強度を満足させることが望ましい。また、1つの空隙部14の空隙率が小さ過ぎると、所定の空隙率が得られず低誘電率を確保することができなくなる。空隙部14全体として43%以上の空隙率となるようにする。空隙部14が7個ある場合は一つ当たりの空隙率が6.1%以上であり、空隙部14が8個ある場合は一つ当たりの空隙率が5.4%以上であり、空隙部14が9個ある場合は一つ当たりの空隙率が4.8%以上である。ところで、ここでいう楕円とは数学的な意味での楕円に限らず、円が歪んだ形状のものが含まれる。
【0024】
絶縁体13に設けられる空隙部14の数が7個の場合は、全体の空隙率は43%〜47.6%、8個の場合は43%〜54.4%、9個の場合は43%〜61.2%となる。これにより所定のインピーダンスとする低誘電率を確保することができる。そして、1つの空隙率が6.8%以下となるので、絶縁体13の全体として機械的な強度を高め、外圧や曲げに対して潰れ難くすることができ、伝送特性の安定性確保が可能となる。
【0025】
空隙部14の数が8個の場合は、中心導体12の導体径D2を0.38mm、絶縁体13の外径D1を0.96mm、空隙部14の内径D3を0.225mmとすると、絶縁体13の空隙率が52%となる。なお、これに外部導体15として外径0.127mmのメッキ軟銅線を巻き付け、被覆層16として、厚さ0.04mm程度のフッ素樹脂(例えば、PFA)を押出被覆すると、外径1.3mmの同軸ケーブルを得ることができる。
【0026】
なお、絶縁体13に設けられる空隙部14の数が6個であってD1/D2が3.2〜4.0でかつ絶縁体13の静電容量を60pF/m以下とする場合は、全部の空隙部を合わせた空隙率を54%以上とするのが好ましい。中心導体12に外径0.025mmの銀メッキ銀銅合金線を7本撚り合わせた撚り線を使用(AWG#42に相当)する場合、全部の空隙部14を合わせた空隙率を54%とした場合は、その同軸ケーブル11の静電容量を60pF/mとすることができる。この空隙率を実現するには空隙部14を6個とすればよい。D1/D2が3.2〜4.0と中心導体12の径に対して絶縁体13がやや厚肉であるので、静電容量を60pF/mとするには全部の空隙部14を合わせた空隙率を高めにする必要がある。この場合、空隙部14の数が7個より多いと空隙部14間の絶縁体13が薄くなり、外部からの力が加わった場合に空隙部14間が切れてしまって絶縁体13が潰れてしまうことがある。空隙部14の数が6個であれば、静電容量60pF/m以下を実現できるだけの空隙率としながら、空隙部14間の絶縁体13の厚さを確保することができる。これにより、同軸ケーブル11を巻き取るときなどに同軸ケーブル11に力が加わっても絶縁体13が潰れることがない。
【0027】
本実施形態の同軸ケーブル11は、図4に示すダイス31とポイント41とを組み合わせた押出機30を使用して製造することができる。
ポイント41に外形が円柱状の部材45を空隙部14の数だけ設け、円形の出口33を有するダイス31に組み合わせてポイント41とダイス31の間(流路51,52)から樹脂を押し出す。ポイント41の円筒部43の中心孔44から中心導体12を引き出す。押し出された樹脂が中心導体12に被覆される。ダイス31の出口を出た樹脂を引き伸ばして径を小さくして被覆する引き落とし方法により樹脂を被覆してもよい。円柱状の部材45には樹脂が流れず、この部分が空隙部14となる。この部材45に通気孔46を設けておくとダイス31から押し出された樹脂中に樹脂が流れない空隙部14が確保され、その断面が円または楕円となる。
【0028】
上記の同軸ケーブル11を備えた多心ケーブル1では、コネクタ6やPWB等の接続部材へ接続するために、YAGレーザまたはCOレーザ等のレーザ加工機を用い、被覆層16、外部導体15及び絶縁体13を順に切断し、図5に示すように、被覆層16から外部導体15、絶縁体13及び中心導体12が段階的に露出した状態とする。
【0029】
具体的には、まず、コネクタ6やPWB等の接続部材に接続する数の同軸ケーブル11を並列してその状態を維持するように接着テープなどで固定する。各同軸ケーブル11の間隔は所定の間隔とする。被覆層16が接するように並列してもよい。
並列した同軸ケーブル11にCOレーザを並列方向に走査して照射する。COレーザの波長や強度を調整して被覆層16を端部から所定の距離離れた位置で切断し、端部側を引き抜いて除去する。次に、YAGレーザを同様に走査させて露出した外部導体15に照射する。YAGレーザの波長や強度を調整して外部導体15を被覆層16の切断位置より所定長さ端部に寄った位置で切断し、端部側の外部導体15を引き抜いて除去する。その後、COレーザを同様に走査させて露出した絶縁体13に照射する。の波長や強度を調整して絶縁体13をさらに端部寄りの位置で切断し、端部側の絶縁体13を引き抜いて除去する。
【0030】
上記のように端末処理を行ったら、グランドバー17に外部導体15をパルスヒート等によって半田付けする。コネクタ6やPWB20等の接続部材の端子7,22(図6、図7参照)に中心導体12を半田付けして接続し、グランドバー17をコネクタ6やPWB20のグランドパッド21に半田付けや圧着などで接続する。絶縁体13は、フッ素樹脂を押出し被覆して形成されているので、上記のように、同軸ケーブル11を端末処理してコネクタ6やPWB20等の接続部材に接続する際のレーザや半田付けの熱による損傷が抑えられる。
【0031】
上記実施形態に係る多心ケーブル1によれば、断面円形または楕円形状に形成されて長手方向に連続する複数の空隙部14を有する絶縁体13を中心導体12の周囲に設けることにより、それぞれの同軸ケーブル11において、空隙部14の絶縁体13に対する割合を確保して低誘電率とすることができる。そして、PETテープなどの保護層がなくても外圧や曲げにより絶縁体が潰れにくく耐電圧性や静電容量の点で安定する。
【0032】
また、同軸ケーブル11を端末処理してコネクタ6やPWB等の接続部材に接続する際のレーザや半田付けの熱による絶縁体の損傷を抑えることができる。これにより、多孔質の絶縁体の周囲にPETの樹脂テープを巻いて補強した同軸ケーブルのように、レーザや半田付けの熱による樹脂テープの損傷によって中心導体と外部導体との間の耐電圧の確保が不十分となったり、機械的強度が低下して十分な耐屈曲性が確保されなくなるような不具合をなくすことができる。
【0033】
なお、多心ケーブル1の同軸ケーブル11は、両端側でコネクタ6やPWB等の接続部材に接続されていても良く、また、一端側だけで接続部材に接続され、他端側が基板等に半田付けされて接続されていても良い。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図6に示すように、多心ケーブルの同軸ケーブル11をPWB20に接続する。
多心ケーブルは、160本の同軸ケーブル11を束ねた超音波プローブ用ケーブルであり、各同軸ケーブル11の中心導体12はAWG42相当である。同軸ケーブル11は、中心導体12と、中心導体12の周囲にPFAが押出し被覆された絶縁体13と、絶縁体13の周囲に横巻された銅合金線からなる外部導体15と、外部導体15の周囲にPFAが押出し被覆された被覆層16とを有しており、絶縁体13は長手方向に連続する6個の空隙部14を有している。各同軸ケーブル11において、絶縁体13の外径は0.29mm、空隙部14一つあたりの空隙率は9.0%、全部の空隙部を合わせた空隙率が54%である。このような同軸ケーブル11を16本まとめて束ねたものを1ユニット(図2のケーブル束11a)とし、これを10ユニットまとめて束ねて周囲に一括してシールド層3を設け、更にその周囲に外被2を形成して(図2参照)多心ケーブルとする。
【0035】
このような多心ケーブルの端部で外被2を除去し、シールド層3はまとめてPWB20の一括シールドグランド端子に接続する。
各ユニットの端では、図6に示すように各同軸ケーブル11を平面状に並列させ、端末処理を行う(図5参照)。そして、各ユニットごとに外部導体15を並列面の上下からグランドバー17で挟んで半田23で固定する。その後、PWB20の各端子(信号パッド)22に各同軸ケーブル11の中心導体12を半田付けする。さらに一方のグランドバー17をPWB20のグランドパッド21に半田付けする。
【0036】
(実施例2)
図7に示すように、多心ケーブルの同軸ケーブル11をコネクタ6に接続する。
多心ケーブルは、120本の同軸ケーブル11を束ねた超音波プローブ用ケーブルであり、各同軸ケーブル11の中心導体12はAWG42相当である。同軸ケーブル11の構造は、上記実施例と同様である。同軸ケーブル11を20本まとめて束ねたものを1ユニット(図2のケーブル束11a)とし、これを6ユニットまとめて束ねて周囲に一括してシールド層3を設け、更にその周囲に外被2を形成して(図2参照)多心ケーブルとする。
【0037】
このような多心ケーブルの端部で外被2を除去し、シールド層3はまとめておく。各ユニットの端では、図7に示すように各同軸ケーブル11を平面状に並列させ、端末処理を行う(図5参照)。そして、各ユニットごとに外部導体15を並列面の上下からグランドバー17で挟んで半田で固定する。その後、コネクタ6の各端子(信号パッド)7に各同軸ケーブル11の中心導体12を半田付けする。さらにグランドバー17の上にコネクタ6のシェル(図示省略)を重ねてグランドバー17とシェルとを半田付けする。
【0038】
これらの実施例1,2では、同軸ケーブル11の端末で外部導体15をYAGレーザで切断するときに絶縁体13が損傷しなかった。また、グランドバー17をパルスヒートで半田付けしても絶縁体13の損傷は生じなかった。
また、実施例1,2に使用した同軸ケーブル11について、絶縁体の外径変動と静電容量の変動を調べた。一方、実施例に対する比較例として、同軸ケーブルの絶縁体に多孔質テープ体を用いたもの(発泡絶縁テープ巻き:静電容量は実施例と同じ)を用意し、同様に絶縁体の外径変動と静電容量の変動を調べた。なお、比較例の同軸ケーブルを使用した多心ケーブルの端末処理時に、YAGレーザで絶縁体が損傷することがあった。
【0039】
同軸ケーブル11の絶縁体13がPFAが押出し被覆されたものである実施例1,2では、絶縁体13の外径変動は設計値に対して±1.5%以内であった。絶縁体に多孔質テープ体を用いた比較例1,2では、絶縁体の外径変動は設計値に対して±5.2%であった。また、実施例1,2の静電容量の変動は設計値に対して±1.7%以内であったのに対して、比較例1,2では、設計値に対して±3.3%であった。このように、中心導体の周囲の絶縁体を発泡絶縁テープ巻きのもの(比較例1,2)からフッ素樹脂の押出し被覆のもの(実施例1,2)に変更することで、同軸ケーブルの静電容量を安定化させ、絶縁体の径のばらつきや絶縁体の潰れを抑制することができる。また、各同軸ケーブルの静電容量のばらつきが小さいので、これらを束ねて多心ケーブルとしたときに、各同軸ケーブル間の静電容量のばらつきが小さい。この多心ケーブルを超音波診断装置の用途に使用すると、画像がより明瞭になった。
【0040】
耐屈曲性については、実施例1,2に使用した同軸ケーブルを40本、PTFEテープで巻いた束を屈曲させ、そのうちの何れか1本が断線するまでの屈曲回数を調べた。屈曲条件は、前記束の端に500gの錘を付けて束を吊り下げ、直径4mmのマンドレル2本で束を挟み、±90°の角度の屈曲を30回/分の頻度で与えるものとした。
サンプル数3つの平均値で、実施例の同軸ケーブルを使用した束は26000回、比較例の同軸ケーブルを使用した束は23000回の屈曲に耐え、実施例の方が耐屈曲性に優れることが確認された。
同様の束について、捻り試験を実施した。試験条件は、10mmの間隔で束の2箇所を保持し、束の軸方向の周りに±180°の角度の捻りを60回/分の頻度で与えるものとした。
実施例の同軸ケーブルを使用した束は、15万回捻っても同軸ケーブルが断線することはなかった。比較例の同軸ケーブルを使用した束は、8万回捻ると最初の断線(40本の同軸ケーブルのうち1本が断線)があった。実施例の方が耐捻回性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1:多心ケーブル、2:外被、3:シールド層、4,5:押さえ巻き、6:コネクタ、11:同軸ケーブル、12:中心導体、13:絶縁体、14:空隙部、15:外部導体、16:被覆層、20:PWB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の同軸ケーブルが束ねられて外被で覆われた多心ケーブルであって、
前記同軸ケーブルは、中心導体と、前記中心導体の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された絶縁体と、前記絶縁体の周囲に設けられた金属線からなる外部導体と、前記外部導体の周囲にフッ素樹脂が押出し被覆された被覆層と、を有し、
前記絶縁体は、断面円形または楕円形状に形成されて長手方向に連続する複数の空隙部を有し、複数の前記空隙部が前記絶縁体の周方向に均等に配置され、
前記空隙部は6〜9個設けられ、前記同軸ケーブルの長さ方向に垂直な断面において、全ての空隙部の面積と絶縁体の面積の和に対する空隙部の割合を空隙率とするときに、全部の空隙部を合わせた空隙率が43%以上であり、
前記多心ケーブルの端部では、複数本の同軸ケーブルが前記外被から露出された状態で複数の群に分けられて、各群ごとに並列され、
前記各群ごとに前記外部導体にグランドバーが半田付けされ、前記中心導体がそれぞれ接続部材の端子に半田付けされ、前記各群ごとに前記接続部材に接続されている多心ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の多心ケーブルであって、
前記複数の群は前記各群ごとに束ねられ、それらの束の周囲にシールド層が形成され、
前記シールド層の周囲に外被が形成されている多心ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−228298(P2011−228298A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79517(P2011−79517)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】