説明

多板式クラッチ装置

【課題】クラッチセンタの倒れを防止することができ、クラッチの断接時の精度を向上することができる多板式クラッチ装置を提供する。
【解決手段】クラッチインナ16側に配置されるカム部材41を円環状に形成し、クラッチインナ16側に配置されるカム部材41の外周面を径方向に延出させて、クラッチセンタ19の内周面に形成される平坦面19dに当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材からの駆動力を伝達又は遮断する多板式クラッチ装置に関し、特に、出力軸から入力部材側に逆駆動力が作用することを抑制するカム機構を備える多板式クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多板式クラッチ装置として、入力部材に連結されるクラッチアウタと、出力部材に固定されるクラッチインナと、クラッチアウタに相対回転不能に係合される複数の第1摩擦板と、第1摩擦板と軸方向に交互に配置される複数の第2摩擦板と、第2摩擦板が相対回転不能に係合されるクラッチセンタと、クラッチインナとの間に第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向に挟持するプレッシャプレートと、第1摩擦板及び第2摩擦板を圧接する側にプレッシャプレートを付勢するクラッチばねと、クラッチインナとクラッチセンタとの間に設けられ、入力部材からの駆動力をクラッチセンタからクラッチインナに伝達すると共に、出力部材から逆駆動力が作用した時に、クラッチばねの付勢力に抗してプレッシャプレートをクラッチインナから離間させる側にクラッチセンタを介して押圧するカム機構と、を備え、カム機構が、凸状カム及び凹状カムを有すると共に、周方向に対し同一方向に傾斜する第1傾斜面及び第2傾斜面を有し、凸状カム及び凹状カムが点接触するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2008−106846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の多板式クラッチ装置では、クラッチセンタを軸方向にスムーズに摺動移動させるため、この摺動部にある程度のクリアランスが設けられているが、このクリアランスにより、クラッチインナの回転中心軸に対してクラッチセンタの回転中心軸がずれ、クラッチセンタの倒れ(傾き)が発生してクラッチ断接時のフィーリングに影響を及ぼす可能性があった。そして、上記特許文献1に記載の多板式クラッチ装置では、凸状カム及び凹状カムが点接触するため、上記クラッチセンタの倒れがより発生しやすく、その対策が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたもので、その目的は、クラッチセンタの倒れを防止することができ、クラッチの断接時の精度を向上することができる多板式クラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、入力部材に連結されるクラッチアウタと、出力軸に相対回転不能に固定されるクラッチインナと、クラッチアウタに相対回転不能に係合される複数の第1摩擦板と、第1摩擦板と軸方向に交互に配置される複数の第2摩擦板と、クラッチインナとの間に第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向に挟持するプレッシャプレートと、軸方向においてクラッチインナとプレッシャプレートとの間に設けられ、第2摩擦板が相対回転不能に係合されるクラッチセンタと、第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向において圧接方向又は離間方向に移動可能とするように設けられるカム機構と、を備え、カム機構は、凸状カム又は凹状カムを有する一対のカム部材を備え、一対のカム部材がクラッチインナとクラッチセンタとの間に設けられ、凸状カムと凹状カムの接触面が曲面に形成される多板式クラッチ装置において、クラッチインナ側に配置されるカム部材を円環状に形成し、クラッチインナ側に配置されるカム部材の外周面を径方向に延出させて、クラッチセンタの内周面に形成される平坦面に当接させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、カム機構は、入力部材と出力軸のトルク変動に応じて第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向において圧接方向に移動可能にしてクラッチの結合力を増加するアシスト機構と、第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向において離間方向に移動可能にしてクラッチの結合力を低減するバックトルク低減機構と、を有し、アシスト機構作動時に作用する凸状カム及び凹状カムの接触面の曲率と、バックトルク低減機構作動時に作用する凸状カム及び凹状カムの接触面の曲率と、を異ならせ、クラッチインナ側に配置されるカム部材の外周面の全面をクラッチセンタの平坦面に当接させることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加えて、クラッチインナ側に配置されるカム部材の凸状カム又は凹状カムが、出力軸の軸線と直交する平面上に設けられることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の発明の構成に加えて、凹状カムのバックトルク低減機構作動時に作用するカムの径方向幅を、凹状カムのアシスト機構作動時に作用するカムの径方向幅よりも大きくすることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の発明の構成に加えて、凸状カムの径方向幅を、凸状カムの接触面の径方向幅よりも大きくすることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜5のいずれかに記載の発明の構成に加えて、凹状カムのバックトルク低減機構作動時に作用するカム側の底面に対して、凹状カムのアシスト機構作動時に作用するカム側の底面を深くすることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明の構成に加えて、クラッチセンタに外嵌されるジャダースプリングと、ジャダースプリングの受け座となるスプリングシートと、を備え、スプリングシートは、クラッチセンタの外周面にスプライン嵌合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の多板式クラッチ装置によれば、クラッチインナ側に配置されるカム部材を円環状に形成し、クラッチインナ側に配置されるカム部材の外周面を径方向に延出させて、クラッチセンタの内周面に形成される平坦面に当接させるため、クラッチインナ側に配置されるカム部材の外周面でクラッチセンタの平坦面を案内することにより、クラッチセンタの同心度を向上することができる。これにより、クラッチセンタの倒れを防止することができるので、第1摩擦板及び第2摩擦板の平行を保持することができ、クラッチ断接時の精度を向上することができる。
【0014】
請求項2に記載の多板式クラッチ装置によれば、カム機構は、入力部材と出力軸のトルク変動に応じて第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向において圧接方向に移動可能にしてクラッチの結合力を増加するアシスト機構と、第1摩擦板及び第2摩擦板を軸方向において離間方向に移動可能にしてクラッチの結合力を低減するバックトルク低減機構と、を有し、アシスト機構作動時に作用する凸状カム及び凹状カムの接触面の曲率と、バックトルク低減機構作動時に作用する凸状カム及び凹状カムの接触面の曲率と、を異ならせるため、クラッチに伝達するトルクが各機構作動時ごとで異なるので、この異なるトルクに起因してカム部材に発生する荷重も異なるが、これを凸状カム及び凹状カムの接触面の曲率を各機構ごとで異ならせることにより接触面の面圧を調整しようとする場合には、通常、各機構作動時ごとでクラッチセンタの傾き具合が異なることが考えられるが、クラッチインナ側に配置されるカム部材の外周面の全面をクラッチセンタの平坦面に当接させるため、いずれの機構作動時においてもクラッチセンタの倒れを防止することができる。
【0015】
請求項3に記載の多板式クラッチ装置によれば、クラッチインナ側に配置されるカム部材の凸状カム又は凹状カムが、出力軸の軸線と直交する平面上に設けられるため、構成面ごとにそれぞれ異なる機能を持たせて、単一の部材で複数の機能を分離して機構の確実性を向上することができる。
【0016】
請求項4に記載の多板式クラッチ装置によれば、凹状カムのバックトルク低減機構作動時に作用するカムの径方向幅を、凹状カムのアシスト機構作動時に作用するカムの径方向幅よりも大きくするため、アシスト機構作動時に作用するカムと比較して大きなトルクが作用するバックトルク低減機構作動時に作用するカムの強度を高めることができる。
【0017】
請求項5に記載の多板式クラッチ装置によれば、凸状カムの径方向幅を、凸状カムの接触面の径方向幅よりも大きくするため、凸状カムの強度を高めることができる。
【0018】
請求項6に記載の多板式クラッチ装置によれば、凹状カムのバックトルク低減機構作動時に作用するカム側の底面に対して、凹状カムのアシスト機構作動時に作用するカム側の底面を深くするため、凹状カムのアシスト機構作動時に作用するカムと凸状カムとの密着度を向上することができ、また、必要部分のみ底面を深くするため、密着度が低くてよい凹状カムのバックトルク低減機構作動時に作用するカム側の肉厚を低減する必要がないので、バックトルク低減機構作動時に作用するカムの強度を高めることができる。
【0019】
請求項7に記載の多板式クラッチ装置によれば、クラッチセンタに外嵌されるジャダースプリングと、ジャダースプリングの受け座となるスプリングシートと、を備え、スプリングシートは、クラッチセンタの外周面にスプライン嵌合されるため、スプリングシートの径方向及び周方向の動きが規制されて、スプリングシートによるクラッチセンタの摩耗を抑制することができる。また、スプリングシートの動きが規制されることによりジャダースプリングの動きが減少されるので、ジャダースプリングによるクラッチセンタの摩耗も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る多板式クラッチ装置の一実施形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0021】
まず、図1に示すように、不図示のクランクシャフトから出力される駆動力は、不図示のクランクシャフトに設けられるドライブギヤ11と、クランクケース12に回転可能に支持される変速機のメインシャフト13に回転可能に支承され、ドライブギヤ11と噛合するドリブンギヤ14と、ドリブンギヤ14とメインシャフト13との間に設けられる本実施形態の多板式クラッチ装置10と、を経てメインシャフト13に伝達される。
【0022】
本実施形態の多板式クラッチ装置10は、図1に示すように、入力部材であるドリブンギヤ14に連結されるクラッチアウタ15と、出力軸であるメインシャフト13に相対回転不能に固定されるクラッチインナ16と、クラッチアウタ15に相対回転不能に係合される複数の第1摩擦板17と、第1摩擦板17と軸方向に交互に配置される複数の第2摩擦板18と、クラッチインナ16との間に第1摩擦板17及び第2摩擦板18を軸方向に挟持するプレッシャプレート20と、第2摩擦板18が相対回転不能に係合されると共に、軸方向においてクラッチインナ16とプレッシャプレート20との間に設けられ、軸方向に移動可能に設けられるクラッチセンタ19と、第1摩擦板17及び第2摩擦板18を軸方向において圧接方向又は離間方向に移動可能とするように設けられるカム機構40と、を備える。また、本実施形態では、プレッシャプレート20はクラッチセンタ19に一体成形されている。
【0023】
メインシャフト13及びクランクケース12の間に介設される玉軸受23の内輪23aと、メインシャフト13にスプライン嵌合されるクラッチインナ16との間には、クラッチインナ16側から順に、スペーサ27と、メインシャフト13に外嵌される円筒状のスリーブ28と、補機を駆動する補機駆動歯車29が挟持される。また、ドリブンギヤ14のボス14aは、スリーブ28の外周面に設けられる針状ころ軸受30を介して回転可能に支持される。
【0024】
クラッチアウタ15は、アルミニウム製で、ドリブンギヤ14との間に環状の滑り板31を介装させる端壁15aをドリブンギヤ14側に有して有底円筒状に形成される。また、クラッチアウタ15の内周面には、複数の第1摩擦板17を係合させるための係合溝15bが周方向に略等間隔に形成される。
【0025】
また、クラッチアウタ15の端壁15aの周方向複数箇所に連結ボス15cが突設される。一方、ドリブンギヤ14には、その周方向に間隔をあけた位置で周方向に延びる複数の長孔14bが設けられ、これら複数の長孔14bに連結ボス15cがそれぞれ挿通される。さらに、クラッチアウタ15の連結ボス15cの端面には、端壁15aの反対側でドリブンギヤ14の側面と対向する保持板32が当接されており、この保持板32は、連結ボス15cを貫通するリベット33により連結ボス15cに固定される。また、保持板32とドリブンギヤ14との間には、ドリブンギヤ14及び端壁15aを滑り板31の両面に接触させるように付勢するダイヤフラムばね34が設けられる。
【0026】
また、ドリブンギヤ14には、複数の長孔14bと周方向の位相が異なる複数箇所に、周方向に延びる保持孔14cが形成されており、この保持孔14cには、ドリブンギヤ14とクラッチアウタ15との間に介設されるダンパスプリング22が収容される。
【0027】
クラッチインナ16は、アルミニウム製で、その外周部に受圧板部16aを有して円環状に形成される。
【0028】
クラッチセンタ19は、アルミニウム製で、円環部19aと、円環部19aの径方向外端部に形成され、クラッチインナ16とプレッシャプレート20との間に配置される外筒部19bと、を有する。また、外筒部19bの外周面には、複数の第2摩擦板18を係合させるための係合溝19cが周方向に略等間隔に形成される。
【0029】
プレッシャプレート20は、アルミニウム製で、クラッチセンタ19の外筒部19bの軸方向外端部に一体成形される。そして、プレッシャプレート20は、不図示のクラッチばねの付勢力によってクラッチセンタ19と共に軸方向内側に押圧されて、交互に配置される第1及び第2摩擦板17,18がクラッチインナ16の受圧板部16a側に付勢される。即ち、本実施形態では、クラッチセンタ19及びプレッシャプレート20は、不図示のクラッチばねによってクラッチ接続状態となるように常時付勢されている。
【0030】
また、プレッシャプレート20には、それぞれ不図示のリフタプレート、クラッチレリーズ軸受、及びリフタピースを介して、メインシャフト13内に挿入され、不図示のクラッチ操作部材の操作に応じて軸方向に進退するリフタ軸38が接続されており、このリフタ軸38が図1の右方向に移動することによって、クラッチセンタ19及びプレッシャプレート20がクラッチばねの付勢力に抗してクラッチインナ16の受圧板部16aから離間する側に移動する。これにより、第1摩擦板17と第2摩擦板18との摩擦係合が解除され、クラッチアウタ15とメインシャフト13との間の駆動力の伝達が遮断される。
【0031】
カム機構40は、ドリブンギヤ14からの駆動力をクラッチセンタ19からクラッチインナ16に伝達すると共に、メインシャフト13から逆駆動力が作用した時に、クラッチばねの付勢力に抗してクラッチセンタ19をクラッチインナ16から離間させる側に押圧するものであり、図1〜図3に示すように、クラッチインナ16とクラッチセンタ19との間に設けられる一対のカム部材である第1カム部材41及び第2カム部材42を備え、本実施形態では、第1カム部材41がクラッチインナ16に装着され、第2カム部材42がクラッチセンタ19に装着される。
【0032】
第1カム部材41は、浸炭鋼製で、図1及び図4に示すように、円環状に形成されるものであり、クラッチインナ16を貫通する複数のリベット91によりクラッチインナ16に固定される。また、第1カム部材41には、リベット91を貫通させるための貫通穴41aが周方向に所定の間隔を存して形成される。そして、第1カム部材41のクラッチセンタ19側の面には、クラッチセンタ19側に突出するように3個の凸状カム43が周方向に略等間隔に形成される。また、凸状カム43は、第1カム部材41におけるメインシャフト13の軸線Xと直交する平面上に一体成形される。
【0033】
第2カム部材42は、浸炭鋼製で、図1及び図5に示すように、円環状に形成されるものであり、クラッチセンタ19を貫通する複数のリベット92によりクラッチセンタ19に固定される。また、第2カム部材42には、リベット92を貫通させるための貫通穴42aが周方向に所定の間隔を存して形成される。そして、第2カム部材42のクラッチインナ16側の面には、クラッチインナ16側に突出するように形成され、凸状カム43がそれぞれ挿入される3個の凹状カム44が周方向に略等間隔に形成される。また、凹状カム44は、第2カム部材42に一体成形される。
【0034】
凸状カム43の周方向外側面には、図3及び図4に示すように、周方向に対し同一方向に傾斜する第1接触面51及び第2接触面52がそれぞれ形成されており、一方の第1接触面51は、ドリブンギヤ14から駆動力が作用した時に、凹状カム44と係合してクラッチセンタ19をクラッチインナ16側に移動させ、クラッチの結合力を増加させるカム面で、他方の第2接触面52は、メインシャフト13から逆駆動力が作用した時に、凹状カム44と当接してクラッチセンタ19をクラッチインナ16から離間する側に移動させ、クラッチの結合力を低減させるカム面である。また、第1接触面51及び第2接触面52は、それぞれ軸方向の曲面に形成される。
【0035】
凹状カム44は、図3及び図5に示すように、ドリブンギヤ14から駆動力が作用した時に、凸状カム43の第1接触面51と係合してクラッチセンタ19をクラッチインナ16側に移動させ、クラッチの結合力を増加させるアシストカム45と、メインシャフト13から逆駆動力が作用した時に、凸状カム43の第2接触面52と当接してクラッチセンタ19をクラッチインナ16から離間する側に移動させ、クラッチの結合力を低減させるバックトルク低減カム46と、を有する。また、凹状カム44の径方向両端部は開放されている。
【0036】
そして、アシストカム45の周方向内側面には、凸状カム43の第1接触面51と係合するカム面である第1接触面61が形成され、バックトルク低減カム46の周方向内側面には、凸状カム43の第2接触面52と当接するカム面である第2接触面62が形成される。また、第1接触面61及び第2接触面62は周方向に対し同一方向に傾斜するように形成される。また、第1接触面61及び第2接触面62は、それぞれ径方向の曲面に形成される。
【0037】
そして、本実施形態では、ドリブンギヤ14とメインシャフト13のトルク変動に応じて第1摩擦板17及び第2摩擦板18を軸方向において圧接方向に移動可能にしてクラッチの結合力を増加するアシスト機構が、凸状カム43の第1接触面51及び凹状カム44の第1接触面61で構成されると共に、第1摩擦板17及び第2摩擦板18を軸方向において離間方向に移動可能にしてクラッチの結合力を低減するバックトルク低減機構が、凸状カム43の第2接触面52及び凹状カム44の第2接触面62で構成され、アシスト機構作動時に作用する凸状カム43の第1接触面51及び凹状カム44の第1接触面61の曲率と、バックトルク低減機構作動時に作用する凸状カム43の第2接触面52及び凹状カム44の第2接触面62の曲率と、が異なるように設定される。
【0038】
また、本実施形態では、図1に示すように、クラッチインナ16側に配置される第1カム部材41の外周面が径方向に延出されており、この第1カム部材41の外周面の全面が、クラッチセンタ19の外筒部19bの内周面に形成される平坦面19dと当接している。このため、第1カム部材41の外周面によりクラッチセンタ19の平坦面19dが案内されるので、クラッチセンタ19のセンタリングが行われる。
【0039】
また、本実施形態では、図4に示すように、凸状カム43の径方向幅W1が、凸状カム43の第1接触面51の径方向幅W2及び第2接触面52の径方向幅W3よりも大きくなるように設定される。
【0040】
また、本実施形態では、図5に示すように、凹状カム44のバックトルク低減カム46の径方向幅W4が、凹状カム44のアシストカム45の径方向幅W5よりも大きくなるように設定される。
【0041】
また、本実施形態では、図3及び図5に示すように、凹状カム44の底部47のアシストカム45側に凹部48が形成されており、凹状カム44のアシストカム45の軸方向長さL1が、凹状カム44のバックトルク低減カム46の軸方向長さL2よりも大きくなるように設定される。即ち、凹状カム44のバックトルク低減機構作動時に作用するカム(バックトルク低減カム46)側の底面に対して、凹状カム44のアシスト機構作動時に作用するカム(アシストカム45)側の底面が深くなるように設定される。
【0042】
さらに、本実施形態の多板式クラッチ装置10は、図1に示すように、クラッチインナ16の受圧板部16aと最も受圧板部16a側に配置される第2摩擦板18との間に、クラッチセンタ19の外筒部19bに外嵌されるジャダースプリング71と、ジャダースプリング71の受け座となるスプリングシート72と、を備える。
【0043】
ジャダースプリング71は、ダイヤフラムばねであり、最も受圧板部16a側に配置される第2摩擦板18の内側面と、スプリングシート72の外端面との間に両端が係合され、第2摩擦板18をプレッシャプレート20側に常時付勢している。
【0044】
スプリングシート72は、図6に示すように、浸炭鋼製の薄板の円環状部材であって、その内周縁には、クラッチセンタ19の係合溝19cにスプライン嵌合可能な係合突部72aが周方向に略等間隔に形成される。そして、スプリングシート72は、クラッチセンタ19の係合溝19cにスプライン嵌合される。これにより、スプリングシート72の径方向及び周方向の動きが規制される。
【0045】
このように構成された多板式クラッチ装置10では、ドリブンギヤ14から駆動力が伝達され、クラッチセンタ19(第2カム部材42)が矢印C方向(図3参照)に回転した場合、凸状カム43の第1接触面51と凹状カム44の第1接触面61とが点接触で係合して、クラッチセンタ19がクラッチインナ16側(図3の矢印D方向)に移動される。これにより、第1摩擦板17と第2摩擦板18との摩擦係合力が増加されて、クラッチセンタ19に伝達された駆動力がクラッチインナ16に効率よく伝達される。
【0046】
また、メインシャフト13から逆駆動力が作用し、クラッチインナ16(第1クラッチ部材41)が矢印E方向(図3参照)に回転した場合、凸状カム43の第2接触面52と凹状カム44の第2接触面62とが点接触で当接して、クラッチセンタ19がクラッチインナ16から離間する側(図3の矢印F方向)に移動される。これにより、第1摩擦板17と第2摩擦板18との摩擦係合力が低減されて、クラッチセンタ19に作用しようとする逆駆動力が効果的に抑制される。
【0047】
また、本実施形態では、メインシャフト13と同心で設けられた第1カム部材41の外周面によりクラッチセンタ19の平坦面19dが案内されるので、クラッチセンタ19のセンタリングが行われ、クラッチセンタ19の同心度が向上される。これにより、クラッチセンタ19の倒れが防止されるので、第1摩擦板17及び第2摩擦板18の平行が保持されて、クラッチ断接時の精度が向上される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、クラッチインナ16側に配置される第1カム部材41を円環状に形成し、第1カム部材41の外周面を径方向に延出させて、クラッチセンタ19の外筒部19bの内周面に形成される平坦面19dに当接させるため、第1カム部材41の外周面でクラッチセンタ19の平坦面19dを案内することにより、クラッチセンタ19の同心度を向上することができる。これにより、クラッチセンタ19の倒れを防止することができるので、第1摩擦板17及び第2摩擦板18の平行を保持することができ、クラッチ断接時の精度を向上することができる。
【0049】
また、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、アシスト機構作動時に作用する凸状カム43の第1接触面51及び凹状カム44の第1接触面61の曲率と、バックトルク低減機構作動時に作用する凸状カム43の第2接触面52及び凹状カム44の第2接触面62の曲率と、を異ならせるため、クラッチに伝達するトルクが各機構作動時ごとで異なるので、この異なるトルクに起因して第1カム部材41及び第2カム部材42に発生する荷重も異なるが、これを凸状カム43及び凹状カム44の接触面51,52,61,62の曲率を各機構ごとで異ならせることにより接触面51,52,61,62の面圧を調整しようとする場合には、通常、各機構作動時ごとでクラッチセンタ19の傾き具合が異なることが考えられるが、第1カム部材41の外周面の全面をクラッチセンタ19の平坦面19dに当接させるため、いずれの機構作動時においてもクラッチセンタ19の倒れを防止することができる。
【0050】
また、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、凸状カム43は、第1カム部材41におけるメインシャフト13の軸線Xと直交する平面上に設けられるため、構成面ごとにそれぞれ異なる機能を持たせて、単一の部材で複数の機能を分離して機構の確実性を向上することができる。
【0051】
また、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、凸状カム43の径方向幅W1を、凸状カム43の第1接触面51の径方向幅W2及び凸状カム43の第2接触面52の径方向幅W3よりも大きくするため、凸状カム43の強度を高めることができる。
【0052】
また、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、凹状カム44のバックトルク低減カム46の径方向幅W4を、凹状カム44のアシストカム45の径方向幅W5よりも大きくするため、アシストカム45と比較して大きなトルクが作用するバックトルク低減カム46の強度を高めることができる。
【0053】
また、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、凹状カム44のバックトルク低減機構作動時に作用するカム(バックトルク低減カム46)側の底面に対して、凹状カム44のアシスト機構作動時に作用するカム(アシストカム45)側の底面を深くするため、アシストカム45の第1接触面61と凸状カム43の第1接触面51との密着度を向上することができる。また、必要部分のみ底面を深くするため、密着度が低くてよいバックトルク低減カム46側の第2カム部材42の肉厚を低減する必要がないので、バックトルク低減カム46の強度を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態の多板式クラッチ装置10によれば、クラッチセンタ19に外嵌されるジャダースプリング71と、ジャダースプリング71の受け座となるスプリングシート72と、を備え、スプリングシート72は、クラッチセンタ19の外筒部19bの外周面に形成される係合溝19cにスプライン嵌合されるため、スプリングシート72の径方向及び周方向の動きが規制されて、スプリングシート72によるクラッチセンタ19の摩耗を抑制することができる。また、スプリングシート72の動きが規制されることによりジャダースプリング71の動きが減少されるので、ジャダースプリング71によるクラッチセンタ19の摩耗も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る多板式クラッチ装置を説明するための要部断面図である。
【図2】図1のA−A線矢視断面図である。
【図3】図2のB−B線矢視断面図である。
【図4】図1の第1カム部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のC−C線矢視断面図である。
【図5】図1の第2カム部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のD−D線矢視断面図である。
【図6】図1のスプリングシートを説明するための一部切欠平面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 多板式クラッチ装置
13 メインシャフト(出力軸)
14 ドリブンギヤ(入力部材)
15 クラッチアウタ
16 クラッチインナ
17 第1摩擦板
18 第2摩擦板
19 クラッチセンタ
19d 平坦面
20 プレッシャプレート
40 カム機構
41 第1カム部材
42 第2カム部材
43 凸状カム
44 凹状カム
45 アシストカム
46 バックトルク低減カム
51 第1接触面
52 第2接触面
61 第1接触面
62 第2接触面
71 ジャダースプリング
72 スプリングシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材に連結されるクラッチアウタと、出力軸に相対回転不能に固定されるクラッチインナと、前記クラッチアウタに相対回転不能に係合される複数の第1摩擦板と、前記第1摩擦板と軸方向に交互に配置される複数の第2摩擦板と、前記クラッチインナとの間に前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を軸方向に挟持するプレッシャプレートと、軸方向において前記クラッチインナと前記プレッシャプレートとの間に設けられ、前記第2摩擦板が相対回転不能に係合されるクラッチセンタと、前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を軸方向において圧接方向又は離間方向に移動可能とするように設けられるカム機構と、を備え、
前記カム機構は、凸状カム又は凹状カムを有する一対のカム部材を備え、
前記一対のカム部材が前記クラッチインナと前記クラッチセンタとの間に設けられ、
前記凸状カムと前記凹状カムの接触面が曲面に形成される多板式クラッチ装置において、
前記クラッチインナ側に配置される前記カム部材を円環状に形成し、前記クラッチインナ側に配置される前記カム部材の外周面を径方向に延出させて、前記クラッチセンタの内周面に形成される平坦面に当接させることを特徴とする多板式クラッチ装置。
【請求項2】
前記カム機構は、前記入力部材と前記出力軸のトルク変動に応じて前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を軸方向において圧接方向に移動可能にしてクラッチの結合力を増加するアシスト機構と、前記第1摩擦板及び前記第2摩擦板を軸方向において離間方向に移動可能にしてクラッチの結合力を低減するバックトルク低減機構と、を有し、
前記アシスト機構作動時に作用する前記凸状カム及び前記凹状カムの前記接触面の曲率と、前記バックトルク低減機構作動時に作用する前記凸状カム及び前記凹状カムの前記接触面の曲率と、を異ならせ、
前記クラッチインナ側に配置される前記カム部材の外周面の全面を前記クラッチセンタの前記平坦面に当接させることを特徴とする請求項1に記載の多板式クラッチ装置。
【請求項3】
前記クラッチインナ側に配置される前記カム部材の前記凸状カム又は前記凹状カムが、前記出力軸の軸線と直交する平面上に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の多板式クラッチ装置。
【請求項4】
前記凹状カムの前記バックトルク低減機構作動時に作用するカムの径方向幅を、前記凹状カムの前記アシスト機構作動時に作用するカムの径方向幅よりも大きくすることを特徴とする請求項2又は3に記載の多板式クラッチ装置。
【請求項5】
前記凸状カムの径方向幅を、前記凸状カムの前記接触面の径方向幅よりも大きくすることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の多板式クラッチ装置。
【請求項6】
前記凹状カムの前記バックトルク低減機構作動時に作用するカム側の底面に対して、前記凹状カムの前記アシスト機構作動時に作用するカム側の底面を深くすることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の多板式クラッチ装置。
【請求項7】
前記クラッチセンタに外嵌されるジャダースプリングと、
前記ジャダースプリングの受け座となるスプリングシートと、を備え、
前記スプリングシートは、前記クラッチセンタの外周面にスプライン嵌合されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多板式クラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151232(P2010−151232A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330045(P2008−330045)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】