説明

多極磁石エンコーダの出力特性検査方法

【課題】多極磁石エンコーダの出力特性検査を、高精度に行える方法を実現する。
【解決手段】多極磁石エンコーダの磁束密度を検査用センサ10により測定するのに先立って、この検査用センサ10を構成する樹脂12中の磁気検知素子11の位置(寸法L)を、X線CT法により正確に計測する。この様に計測した寸法Lを考慮して、多極磁石エンコーダの被検出面と、上記検査用センサ10の検出部である磁気検知素子11との間のエアギャップを、高精度に設定する。この状態で、多極磁石エンコーダを回転させながら、この多極磁石エンコーダの磁束密度や特性変化のピッチを、上記検査用センサ10により測定する。そして、この測定結果に基づいて多極磁石エンコーダの出力特性を検査する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る多極磁石エンコーダの出力特性検査方法は、例えば各種車両(自動車、鉄道車両)の車輪の回転速度を検出する為に、或いは各種産業機械の回転軸の回転速度を検出する為に利用する多極磁石エンコーダの出力特性(磁束密度の大きさやピッチ)を精度良く検査できる方法を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)を制御する為に、転がり軸受ユニットにより懸架装置に支持された車輪の回転速度を検出する必要がある。又、各種産業機械を適切に運転する為に、当該産業機械の回転軸の回転速度を検出する必要がある。この為に従来から、各種回転速度検出装置が提案され、実際に使用されている。例えば、特許文献1には、図1〜2に示す様な回転速度検出装置が記載されている。
【0003】
この回転速度検出装置は、使用時にも回転しない静止部材であるハウジング1の内径側に、使用時に回転する回転部材である回転軸2を、軸受3により回転自在に支持している。又、この回転軸2の外周面と上記ハウジング1の内周面との間の空間4の端部開口を、組み合わせシールリング5により塞いでいる。そして、この組み合わせシールリング5を構成するスリンガ6の外側面(図1の右側面)に、多極磁石エンコーダである円輪状のエンコーダ7を添着固定している。このエンコーダ7は、ゴム磁石、プラスチック磁石等の永久磁石で、軸方向に着磁されている。着磁の向きは、円周方向に関して交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、上記エンコーダ7の外側面(図1の右側面)にはN極とS極とが交互に、且つ、等間隔で配置されている。
【0004】
一方、上記ハウジング1にはセンサ8を支持し、このセンサ8の検出部を、上記エンコーダ7の被検出面である外側面に近接対向させている。上記センサ8は、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の向きや強さに応じて特性が変化する磁気検知素子(センサエレメント)を備え、この磁気検知素子の特性変化に対応して出力信号を変化させる。上記回転軸2が回転すると、上記センサ8の検知部の端面近傍を、上記エンコーダ7の外側面に配置されたS極とN極とが交互に通過する。この為、上記センサ8に組み込んだ磁気検知素子の特性が変化し、このセンサ8の出力が変化する。この様にして出力が変化する周波数は、上記回転軸2の回転速度に比例する為、この出力を図示しない処理回路に送れば、上記回転軸2の回転速度を求められる。
【0005】
ところで、上述の様な回転速度検出装置の場合、上記エンコーダ7の磁束密度の大きさが必要な値に達していなかったり、ピッチ誤差を生じていたりすると、上記回転軸2の回転速度を正確に求められなくなる。従って、この様な事態が発生するのを回避すべく、従来から、上記エンコーダ7を使用個所に組み付けるのに先立って、このエンコーダ7の磁束密度やピッチ(出力特性)を検査する事が行われている。この検査は、このエンコーダ7の被検出面と検査用センサの検出部との間に、使用時にこの被検出面と上記センサ8の検出部との間に設定するエアギャップ(間隔)と同じ大きさのエアギャップを設定した状態で、上記エンコーダ7を回転させながら、このエンコーダ7の磁束密度を、上記検査用センサにより測定する事に基づいて行う。
【0006】
上記検査用センサとして使用される磁気センサは、通常、検出部である磁気検知素子を、保護用の樹脂中にモールドした構造のものが大半を占める。図3は、この様な構造を有する検査用センサ10の1例を示している。この検査用センサ10は、ホール素子、磁気抵抗素子等の磁気検知素子11と、この磁気検知素子11をモールドした保護用の樹脂12と、この樹脂12から外部に引き出した、それぞれが電力供給用、接地用、信号取り出し用のうちの何れかである、複数本(図示の例では3本)のリード端子13、13とを備える。
【0007】
この様な検査用センサ10を使用して、上記検査を行う場合には、この検査用センサ10の検出部である磁気検知素子11と、上記エンコーダ7の被検出面との間のエアギャップを正確に設定する為に、予め、上記樹脂12中の上記磁気検知素子11の位置情報(この樹脂12のうちで上記エンコーダ7の被検出面に対向させる面から、上記磁気検知素子11までの寸法L)を把握しておく必要がある。この位置情報(寸法L)は、上記検査用センサ10のメーカーカタログ(製品図面)から知る事ができる。但し、このメーカーカタログに記載された位置情報(寸法L)は、参考値に過ぎず、公差すら入っていない場合が多い。一方、回転速度検出装置に関しては、上記エンコーダ7の被検出面と上記センサ8の検出部との間のエアギャップが、10μmオーダーの精度で設定され、使用される場合がある。この様な場合には、上記検査を行う際に、上記エンコーダ7の被検出面と上記検査用センサ10の検出部である磁気検知素子11との間のエアギャップを、上記10μmオーダーの精度で設定する必要がある。従って、この様な厳しい寸法精度でエアギャップを設定する必要がある場合には、上述の様なメーカーカタログから知得した位置情報(寸法L)は、上記検査の信頼性を確保する上で、必ずしも十分な情報であるとは言えない。
【0008】
この様な事情に鑑みて、従来から、上記検査用センサ10の製造ロットを代表する数個のサンプルを無作為に抜き取り、それらを切断して実測すると言った方法で、上記位置情報(寸法L)を知得する事が行われている。この様な方法で知得した位置情報(寸法L)を使用すれば、上記メーカーカタログから知得した位置情報(寸法L)を使用する場合に比べて、上記検査の信頼性を高める事ができる。但し、上記各サンプルから知得した位置情報(寸法L)は、上記製造ロットの代表値にはなり得るものの、当然の事ながら、実際に使用する検出用センサ10の位置情報(寸法L)から、僅かとは言え、ずれたものになる可能性がある。これに対し、この様なずれが生じなければ、即ち、実際に使用する検査用センサ10の位置情報(寸法L)を正確に知得できれば、上記検査の信頼性をより高める事ができる。
尚、本発明に関連する他の先行技術文献として、以下の特許文献2がある。
【0009】
【特許文献1】特開平8−338435号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、実際に使用する検査用センサに関する、樹脂中の磁気検知素子の位置情報を正確に知得した上で行える、より信頼性の高い多極磁石エンコーダの出力特性検査方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多極磁石エンコーダの出力特性検査方法は、円周方向に関して着磁方向を交互に変化させた多極磁石エンコーダの出力特性を検査する方法である。
特に、本発明の多極磁石エンコーダの出力特性検査方法に於いては、ホール素子、磁気抵抗素子等の磁気検知素子と、この磁気検知素子をモールドした樹脂とを備え、且つ、この樹脂中の上記磁気検知素子の位置をX線CT法(非破壊検査法の一種)によって計測した検査用センサにより、上記多極磁石エンコーダの磁束密度を測定する。
【0012】
尚、上記X線CT法による計測は、例えば東芝ITコントロールシステム株式会社製のマイクロCTスキャナTOSCANER-30000μuhd等、各種のX線CT装置を使用して行える。
又、上述の様な本発明の多極磁石エンコーダの出力特性検査方法を実施する場合に、好ましくは、上記X線CT法による計測を、X線CT装置の管電圧を50kV以下にすると共に、管電流を350μA以下にして行う。
【0013】
尚、本発明の対象となる多極磁石エンコーダの被検出面は、前述の図1〜2に示したエンコーダ7の様に円輪状であっても良いし、或いは、図示は省略するが、円筒状であっても良い。
又、本発明の対象となる多極磁石エンコーダの被検出面に存在するS極とN極との境界は、前述の図1〜2に示したエンコーダ7の様に、被検出面の幅方向に対して平行になっていても良いし、或いは、図示は省略するが、例えば特許文献2に記載された荷重測定装置を構成する特殊なエンコーダの様に、被検出面の幅方向に対して傾斜していても良い。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に、本発明の多極磁石エンコーダの出力特性検査方法の場合には、多極磁石エンコーダの磁束密度を検査用センサにより測定するのに先立って、この実際に検査で使用する検査用センサに関する、樹脂中の磁気検知素子の位置を、X線CT法で正確に計測する。この為、上記多極磁石エンコーダの磁束密度を上記検査用センサにより測定する際に、これら多極磁石エンコーダの被検出面と検査用センサの検出部である磁気検知素子との間のエアギャップを、極めて高精度に設定できる。
【0015】
又、本発明を実施する場合に、X線CT法による計測を、X線CT装置の管電圧を50kV以下にすると共に、管電流を350μA以下にして行えば、X線の照射に伴って検査用センサの性能が劣化し、多極磁石エンコーダの出力特性検査を正確に行えなくなると言った不具合が発生する事を、有効に防止できる。即ち、本発明の開発当初は、この様な不具合が発生する事が懸念されており、実際に実験でも、X線CT装置の管電圧及び管電流を大きくする事によって、検査用センサの性能が劣化するケースが確認された。しかし、その後、実験を繰り返す事によって、X線CT装置の管電圧を50kV以下にすると共に、管電流を350μA以下にすれば、検査用センサの性能が劣化する事を、有効に防止できる事を確認できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
前述の図1〜3を参照しつつ、本発明の実施の形態の1例に就いて説明する。本例の出力特性検査方法の対象は、図1〜2に示したエンコーダ7である。又、この検査を行う為に、図3に示した検査用センサ10を使用する。
【0017】
本例の場合、上記検査を行う際には、先ず、上記検査用センサ10を構成する樹脂12中の磁気検知素子11の位置(この樹脂12のうちで上記エンコーダ7の被検出面に対向させる面から、上記磁気検知素子11までの寸法L)を、X線CT法により計測する。この為に具体的には、X線CT装置(本例の場合には、東芝ITコントロールシステム株式会社製のマイクロCTスキャナTOSCANER-30000μuhdを使用)の測定テーブルに、上記検査用センサ10を水平に{図3の(B)の左右方向を鉛直方向に向けて}固定する。これと共に、上記X線CT装置の管電圧を50kV以下に、管電流を350μA以下に、それぞれ設定する。そして、この状態で、上記検査用センサ10のX線CT撮影を行い、この検査用センサのCT画像を得る。そして、このCT画像から、上記寸法Lを計測する。
【0018】
尚、ここで参考までに、上述の様にX線CT法で計測した(本発明の方法で計測した)上記寸法Lと、その後、このX線CT法で計測した検査用センサ10を切断して、光学測長器(コンパレータ)により計測した(前述の従来方法で計測した)上記寸法Lとを、それぞれ以下の表1に示す。
【表1】

この表1に示した様に、本発明の方法で計測した上記寸法Lと、従来方法で計測した上記寸法Lとは、非常に高い精度で一致した。即ち、この表1に示した結果からも分かる様に、本発明の方法によれば、非破壊で、上記寸法Lを正確に計測できる。尚、上述の様に検査用センサ10を切断する作業は、上記表1を作成する為に参考として行ったもので、本例を実施する場合には、上記検査用センサ10の寸法LをX線CT法で計測した後に、この検査用センサ10を切断したりはしない。
【0019】
即ち、本例の場合には、上述の様に検査用センサ10の寸法LをX線CT法で計測したならば、次いで、この検査用センサ10を使用して、上記エンコーダ7の出力特性検査を行う。この為に具体的には、このエンコーダ7の被検出面と、上記検査用センサ10の検出部である磁気検知素子11との間に、使用時にこの被検出面とセンサ8(図1〜2)の検出部との間に設定するエアギャップと同じ大きさのエアギャップを設定する。そして、この状態で、上記エンコーダ7を回転させながら、このエンコーダ7の磁束密度を、上記検査用センサ10により測定する。そして、この測定結果に基づいて、上記エンコーダ7の出力特性である、このエンコーダ7の磁束密度の大きさとピッチの精度とが、それぞれ基準値を満たしているか否かを検査する。
【0020】
上述の様に、本例の多極磁石エンコーダの出力特性検査方法の場合には、エンコーダ4の磁束密度を検査用センサ10により測定するのに先立って、この実際に検査で試用する検査用センサ10に関する、樹脂12中の磁気検知素子11の位置(寸法L)を、X線CT法で正確に計測する。この為、上記エンコーダ4の磁束密度を上記検査用センサ10により測定する際に、これらエンコーダ4の被検出面と検査用センサ10の検出部である磁気検知素子11との間のエアギャップを、極めて高精度に設定できる。又、上記寸法Lの計測を、X線CT装置の管電圧を50kV以下にすると共に、管電流を350μA以下にして行う為、X線の照射に伴って上記検査用センサ10の性能が劣化する事を有効に防止できる。従って、上記エンコーダ7の出力特性検査の信頼性を、十分に高める事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の対象となるエンコーダを組み込んだ回転速度検出装置の1例を示す部分断面図。
【図2】図1の右方から見た図。
【図3】検査用センサを示す、(A)は正面図、(B)は(A)の右方から見た図。
【符号の説明】
【0022】
1 ハウジング
2 回転軸
3 軸受
4 空間
5 組み合わせシールリング
6 スリンガ
7 エンコーダ
8 センサ
10 検査用センサ
11 磁気検知素子
12 樹脂
13 リード端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に関して着磁方向を交互に変化させた多極磁石エンコーダの出力特性を検査する方法であって、磁気検知素子と、この磁気検知素子をモールドした樹脂とを備え、且つ、この樹脂中の上記磁気検知素子の位置をX線CT法によって計測した検査用センサにより、上記多極磁石エンコーダの磁束密度を測定する事を特徴とする、多極磁石エンコーダの出力特性検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−257799(P2009−257799A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104203(P2008−104203)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】